特許異議申立
2018-700109
調理済食品封入体
- 審判番号
- 2018-700109
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-261712
- 登録番号
- 特許第6181543号(P6181543)
- 請求日
- 2018年02月13日
- 審決日
- 2019年02月28日
- 公報発行日
- 2019年05月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社日清製粉グループ本社
- 【権利者代理人】特許業務法人翔和国際特許事務所
- 【異議申立人】白澤 榮樹
- 【異議申立人】猪瀬 則之
- 審判長/審判官
- 審判長 紀本 孝
- 審判官 田村 嘉章
- 審判官 井上 哲男
- 分類
- P1651.113-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L) / P1651.536-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第120条の5第7項、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6181543号発明「調理済食品封入体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6181543号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-8〕について訂正することを認める。
特許第6181543号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第6181543号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成25年12月18日に出願されたものであって、平成29年7月28日にその特許権の設定登録がされ、平成29年8月16日にその特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1ないし8に係る発明の特許について、平成30年2月13日に特許異議申立人 白澤 榮樹(以下「特許異議申立人1」という。) により特許異議の申立てがされ、平成30年2月16日に特許異議申立人 猪瀬 則之(以下「特許異議申立人2」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年5月24日付けで取消理由が通知され、その指定期間内の平成30年7月23日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成30年9月4日付けで特許異議申立人1より意見書の提出があり、平成30年9月5日付けで特許異議申立人2より意見書の提出があり、平成30年11月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内の平成30年12月26日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成31年2月14日付けで特許異議申立人1及び特許異議申立人2よりそれぞれ意見書の提出があったものである。
なお、平成30年7月23日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 平成30年12月26日の訂正の請求の訂正の内容
平成30年12月26日の訂正の請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記収容空間の容積に占める前記加熱調理済食品の体積の割合が20~80%である」と記載されているのを「前記収容空間の容積に占める前記加熱調理済食品の体積の割合が20~70%(ただし、70%を除く)である」と訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、1容量%を除く)、」と記載されているのを「且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、」と訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7に「となるように、該収容空間のガスを置換するガス置換工程と、」と記載されているのを「、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下となるように、また、該収容空間の容積に占める該加熱調理済食品の体積の割合が20~70%(ただし、70%を除く)となるように、該収容空間のガスを置換するガス置換工程と、」と訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に「且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、1容量%を除く)」と記載されているのを「且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)」と訂正する。
(5) 訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0044】に「尚、実施例1及び5は参考例である。」と記載されているのを「尚、実施例1、2、5、6及び13は参考例である。」と訂正する。
(6) 訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0047】に「表3」と記載されているのを「表2」と訂正する。
(7) したがって、特許権者は、特許請求の範囲を、次の訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを請求する(下線は訂正箇所を示す。)。
「【請求項1】
密封された包装容器と該包装容器内の収容空間に封入されている加熱調理済食品とを含んで構成される調理済食品封入体であって、
前記収容空間に酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ、且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下であり、
前記加熱調理済食品は静菌剤を含み、
前記収容空間の容積に占める前記加熱調理済食品の体積の割合が20~70%(ただし、70%を除く)である調理済食品封入体。
【請求項2】
前記静菌剤は有機酸塩である請求項1記載の調理済食品封入体。
【請求項3】
前記加熱調理済食品における前記有機酸塩の含有量が0.1~1.0質量%である請求項2記載の調理済食品封入体。
【請求項4】
前記有機酸塩は酢酸ナトリウムである請求項2又は3記載の調理済食品封入体。
【請求項5】
前記加熱調理済食品は、中心温度が75~90℃となるような条件で1分間以上加熱された食品である請求項1~4の何れか一項に記載の調理済食品封入体。
【請求項6】
前記収容空間が複数の小空間に区分けされており、1種又は2種以上の前記加熱調理済食品が各該小空間に配されている請求項1~5の何れか一項に記載の調理済食品封入体。
【請求項7】
密封可能な包装容器の収容空間に、静菌剤を含む加熱調理済食品を封入し、該収容空間に酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下となるように、また、該収容空間の容積に占める該加熱調理済食品の体積の割合が20~70%(ただし、70%を除く)となるように、該収容空間のガスを置換するガス置換工程と、
前記ガス置換工程後に、前記包装容器に封入された前記加熱調理済食品を該包装容器ごとチルド状態で保存する工程とを含む、調理済食品の保存方法。
【請求項8】
前記ガス置換工程において、酸素、二酸化炭素及び窒素を含み且つこれら3成分の混合容積比が酸素:二酸化炭素:窒素=1~10(ただし、1を除く):20~50:40~79の範囲にある、混合ガスを、前記収容空間のガス置換率95%以上となるように充填する請求項7記載の調理済食品の保存方法。」
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否並びに一群の請求項
(1) 訂正事項1は、請求項1の「収容空間の容積に占める前記加熱調理済食品の体積の割合」について、「20~80%」を「20~70%(ただし、70%を除く)」にすることで、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合するものであり、また、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0027】に「包装容器の収容空間の容積(複数の小空間に区分けされている場合はそれらの容積の合計)に占める、加熱調理済食品の体積(2種以上の加熱調理済食品が収容されている場合はそれらの体積の合計)の割合(食品の収容空間占有率)は、好ましくは20~80%、更に好ましくは20~70%である。」と記載され、いわゆる除くクレームの記載と合わせて、単純に割合の範囲を減縮するのであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合するものである。
(2) 訂正事項2は、請求項1の「且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、1容量%を除く)」を「且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)」にすることで、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合するものであり、また、本件特許明細書の段落【0050】の【表1】及び段落【0052】の【表2】に実施例3、7及び9~12として収容空間の酸素濃度が7容量%のものと実施例4及び8として収容空間の酸素濃度が10容量%のものとが記載され、いわゆる除くクレームの記載と合わせて、単純に酸素濃度の範囲を減縮するのであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合するものである。
(3) 訂正事項3は、請求項7の「収容空間のガスを置換するガス置換工程」について、「二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下となるように、また、該収容空間の容積に占める該加熱調理済食品の体積の割合が20~70%(ただし、70%を除く)となるように」という条件により、より具体的に特定して、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合するものであり、また、本件特許明細書の段落【0018】に「収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下であり」と記載され、また、同段落【0027】に「包装容器の収容空間の容積(複数の小空間に区分けされている場合はそれらの容積の合計)に占める、加熱調理済食品の体積(2種以上の加熱調理済食品が収容されている場合はそれらの体積の合計)の割合(食品の収容空間占有率)は、好ましくは20~80%、更に好ましくは20~70%である」と記載され、いわゆる除くクレームの記載と合わせて割合の範囲を減縮するのであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合するものである。
(4) 訂正事項4は、請求項7の「且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、1容量%を除く)」を「且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)」にすることで、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合するものであり、また、本件特許明細書の段落【0050】の【表1】及び段落【0052】の【表2】に実施例3、7及び9~12として収容空間の酸素濃度が7容量%のものと実施例4及び8として収容空間の酸素濃度が10容量%のものとが記載され、いわゆる除くクレームの記載と合わせて、単純に酸素濃度の範囲を減縮するのであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合するものである。
(5) 訂正事項5は、訂正事項1ないし4に係る訂正に伴い、本件特許明細書において実施例とされていたものを参考例とするものであって、特許請求の範囲の記載と本件特許明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合するものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合するものである。
(6) 訂正事項6は、本件特許明細書に記載されている食品の品質を評価した結果に係る表が表1及び表2のみであって、表3が記載されていないことからすると、本件特許明細書の段落【0047】におけるその結果を示す「表1~表3」との記載が「表1~表2」の誤記であることが明らかであるし、同段落【0048】ないし【0053】の記載とも整合しているから、特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる誤記の訂正を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合するものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合するものである。
(7) 本件訂正前の請求項2ないし6は請求項1の記載を引用する関係にあり、本件訂正前の請求項8は請求項7の記載を引用する関係にあるから、請求項1ないし6に係る訂正は一群の請求項ごとに請求された訂正であり、請求項7及び8に係る訂正は一群の請求項ごとに請求された訂正である。また、本件特許明細書の段落【0044】及び【0047】に係る訂正は、すべての請求項に関係するものであるから、一群の請求項ごとに請求された訂正であるといえる。
3 むすび
よって、本件訂正に係る訂正事項1ないし6は、特許法120条の5第2項ただし書1ないし3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条4項、並びに、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-8〕について、訂正することを認める。
第3 取消理由についての判断
1 本件特許に係る発明
本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明8」といい、それらを総合して「本件発明」ともいう。)は、本件訂正により訂正された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものである(「第2 1 (7)」参照。)。
2 平成30年5月24付けの取消理由通知に記載した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(取消理由1) 本件特許の請求項7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内において、頒布された刊行物(甲1)に記載された発明発明であって、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(取消理由2) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内において、頒布された刊行物(甲1)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(取消理由3) 本件特許は、特許請求の範囲の請求項7及び8の記載が(1)二酸化炭素の濃度、及び(2)食品の体積の割合が特定されていない点で不備のため、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである。
甲1:特公平3-61417号公報(特許異議申立人1が提出した甲第1号証。特許異議申立人2が提出した甲第1号証(公開特許公報)に係る特許出願に係る公告特許公報に当たる。)
甲2:特開平11-342918号公報(特許異議申立人1が提出した甲第2号証)
甲3:特開2013-233144号公報(特許異議申立人1が提出した甲第3号証)
<特許異議申立人による証拠方法>
(1-1) 特許異議申立人1は、特許異議申立書に添付して、次の甲第1ないし3号証を提出する。
甲第1号証:特公平3-61417号公報
甲第2号証:特開平11-342918号公報
甲第3号証:特開2013-233144号公報
(1-2) 特許異議申立人1は、平成30年9月4日付け意見書に添付して、次の甲第4ないし6号証を提出する。
甲第4号証:国際公開第2009/022596号
甲第5号証:特開2011-184071号公報
甲第6号証:特開2013-17447号公報
(1-3) 特許異議申立人1は、平成31年2月14日付け意見書に添付して、次の甲第7及び8号証を提出する。
甲第7号証:特開昭58-141780号
甲第8号証:伊藤武,「毒性が強いボツリヌス菌食中毒について~レトルト類似の真空パック食品に注意~」,一般財団法人東京顕微鏡院HP,[2019年1月30日検索・印刷],インターネット<URL:http://www.kenko-kenbi.or.jp/science-center/foods/topics-foods/6664.html>
(2-1) 特許異議申立人2は、特許異議申立書に添付して、次の甲第1ないし10号証を提出する。
甲第1号証:特開昭60-164468号公報
甲第2号証:R. C. WHITING and K. A. NAFTULIN, "Effect of Headspace Oxygen Concentration on Growth and Toxin Production by Proteolytic Strains of Clostridium botulinum", JOURNAL OF FOOD PROTECTION, VOL.55, JANUARY 1992, p23-27
甲第3号証-1:「容器包装詰食品に関するボツリヌス食中毒対策について」,平成15年6月30日付け文書番号”食基発第0630002号”及び”食監発第0630004号”
甲第3号証-2:「容器包装詰低酸性食品に関するボツリヌス食中毒対策について」,平成20年6月17日付け文書番号”食安基発第0617003号”及び”食安監発第0617003号”
甲第4号証:安田武夫,「連載 プラスチック材料の各動特性の試験法と評価結果<5>」,プラスチックス,Vol.51,No.6,P119-127
甲第5号証:内藤茂三,「食品工場の微生物制御への有機酸の利用技術」,一般財団法人 食品分析開発センターHP,[2018年2月12日検索・印刷],インターネット<URL:http://www.mac.or.jp/mail/120401/03.shtml>
甲第6号証:「ガスバリア入門講座 基礎編2」,[2018年2月15日検索・印刷],インターネット<URL:http://www.soarnol.com/jpn/solution/solution031001.html>
甲第7号証:「ガス混合器」,八重洲貿易株式会社HP,[2018年2月15日検索・印刷],インターネット<URL:http://www.ybk.co.jp/general/1083-10_pbi.html>
甲第8号証:特開平9-322745号公報
甲第9号証:実用新案登録第3125656号公報
甲第10号証:実用新案登録第3171979号公報
(2-2) 特許異議申立人2は、平成30年9月5日付け意見書に添付して、次の甲第11及び12号証を提出する。
甲第11号証:特許異議申立人2が作成した平成30年9月5日付けの計算結果報告書
甲第12号証:特開2008-212035号公報
3 特許異議申立人1が提出した甲第1ないし6号証及び特許異議申立人2が提出した甲第12号証の記載事項
(1) 特許異議申立人1が提出した甲第1号証の記載事項
特許異議申立人1が提出した甲第1号証には次の事項が記載されている。
ア 「1 100℃以下で加熱処理した後10℃以下の温度で保存するPH6.0~7.0のチルド流通密封食品の製造において、(1) 有機酸塩を1/100モル~1/10モル濃度添加することにより食品のPHを6.0~7.0に保持するとともに(2) 炭酸ガス濃度が5%以上の容器内に食品を密封することを特徴とする保存性の良好なチルド流通密封食品の製造法。」(1頁1欄2~8行)
イ 「容器の形状は問うところではなく、袋、箱、缶、瓶などに任意に選択して用いることができる。
本発明においては、その次には食品が密封されている容器内の炭酸ガス濃度を5%以上(そして好ましくは酸素濃度を5%以下)にする必要がある。これは容器内を静菌状態に保つて腐敗を防止するとともに食品の香り、味、風味等を保持するためであり、特に炭酸ガス濃度10~80%程度、そして酸素濃度を1%以下にするのが好ましい。ギヨウザ、シユマイなどの形状がしつかりしているものは炭酸ガスが100%であつてもよいが、一般には炭酸ガスがあまりに多いと炭酸ガスが食品中の水分に吸収されて減圧状態になり、包装が変形しそれにつれて食品の形状も変化してしまうので好ましくない。ガスの充填方法は特に限定されるものではなく、チヤンバー式のガス置換包装機、ガスフラツシユ式のガス充填包装機のいずれを用いてもよい。通気するガスは炭酸ガスのみでもよいことはいうまでもないが、使いやすさの点で窒素との混合ガスを用いるのがよい。好適な残存酸素濃度が5%以下であるから、空気との置換率が75%以上であればよいことになる。しかしながらこのような置換率にせずとも、例えば鉄粉などの酸素吸収剤を包装容器内に入れて酸素濃度を下げてもよく、あるいは充填をせずに炭酸ガスを発生するような脱酸素剤を空気とともに封入して所定のガス組成にしてもよい。」(3頁6欄18行~40行/4頁7欄1行)
ウ 「実施例 1
提示した製造フローにより本発明の酢酸ナトリウム4.6g添加のPH6.6の中華風煮込み1850gを調製した。これを100gずつポリプロピレンアルミ、ポリエチレン三層パウチに詰め、日本ポリプロ工業(株)製チヤンバー式置換包装機を用いて炭酸ガス50%および窒素50%の混合ガスを充填して密封した。次にこれを滅菌機(ストツク社製、ロートマツト)を用い、圧力2.5気圧、90℃20分間の条件下で殺菌を行なつた。冷却后10℃に保存し、経時的に味覚検査と菌数測定を行ない、結果を第2表に示した。」(4頁8欄9~20行)
(2) 特許異議申立人1が提出した甲第2号証の記載事項
特許異議申立人1が提出した甲第2号証には、次の事項が記載されている。
エ 「【請求項1】ヘッドスペースを残して容器に内容物を充填し、上記ヘッドスペースを炭酸ガスでガス置換して密封した後、100℃以下の温度で連続殺菌を行うことを特徴とする容器詰め食品の製造方法。」
オ 「【0009】そして、ヘッドスペースのガス置換を窒素ガスのみで行うと、殺菌中に上記ヘッドスペースの窒素ガスが膨張して、容器の永久変形やシール漏れを生じ、一方、炭酸ガスのみでは殺菌中の容器の膨張は抑制できるが、保存中に炭酸ガスが内容物に溶解し過ぎて減圧変形し、容器が潰れてしまう。」
カ 「【0035】そして、本発明の容器詰め食品の製造方法においては、ヘッドスペース量及び炭酸ガス濃度は、図3に示す容器1の容器本体2の材質、上記容器本体2の形状、シール材3の材質により左右されるが、上記ヘッドスペースは、容器容積の10~30%、特に15~25%が好ましく、また、炭酸ガス濃度は、70~80%の範囲が好ましい。」
(3) 特許異議申立人1が提出した甲第3号証の記載事項
特許異議申立人1が提出した甲第3号証には、次の事項が記載されている。
キ 「【請求項1】
1種または2種以上の加熱調理された食品が容器にガス置換包装されているチルド保存用調理済食品封入体であって、該ガス置換包装用のガスはO2濃度1容量%以下且つCO2濃度5容量%超のガスであり、該加熱調理された食品は有機酸塩、グリシンおよびビタミンB1を含む、チルド保存用調理済食品封入体。」
ク 「【請求項7】
前記1種または2種以上の加熱調理された食品が前記容器中で区分けされて配置されている、請求項1~6のいずれか1項記載の封入体。」
ケ 「【0017】
次いで、上記加熱調理された食品をガス置換包装に供する。当該食品は、ガス置換包装用の容器に直接導入され得る。必要に応じて、当該ガス置換包装用の容器は、内部がいくつかの区画に仕切られていて、その各区画に加熱調理された食品が区分けされて配置されていてもよい。このような仕切りは、2種類以上の加熱調理された食品を分けて包装する場合や、1種類の加熱調理された食品を人数分小分けして包装する場合等に有利である。
あるいは、上記加熱調理された食品は、別の容器に収めた状態で、当該別の容器ごとガス置換包装用の容器に導入され、包装されてもよい。当該別の容器は、密封されていない容器であればその種類は特に限定されないが、トレー、カップなど開放された容器であるほうが、ガス置換しやすいため好ましい。当該別の容器もまた、必要に応じて内部がいくつかの区画に仕切られていて、その各区画に加熱調理された食品が区分けされて配置されてもよい。」
(4) 特許異議申立人1が提出した甲第4号証の記載事項
特許異議申立人1が提出した甲第4号証には、次の事項が記載されている。
コ 「[3] 該流動性食品の充填量を、可撓性パウチの満注内容積を100容量%としたとき、流動性食品の充填量が30~70容量%に調整することを特徴とする請求項1または2記載のパウチ詰め流動性食品の殺菌方法。」(特許請求の範囲)
サ 「[0007] 発明の開示
本発明は上記従来のパウチ詰め食品の殺菌方法における問題点にかんがみなされたものであって、パウチ詰め食品を積載した殺菌棚を前後または左右に往復運動させるパウチ食品の摺動式殺菌(特開2008-17726号公報参照)において、パウチ内への内容物充填時および充填後におけるヘッドスペースガス量の厳密な管理を行うことなく、また、このための既存の充填装置のみを使用して殺菌時間の短縮ができ、かつパウチ内における内容物の温度履歴の差を小さく抑え、品質低下を防止できる新規な殺菌方法を提供するものである。」
シ 「[0028] 本発明の第3の構成によれば、該流動性食品の充填量を、可撓性パウチの満注内容積を100容量%としたとき、流動性食品の充填量を30~70容量%に調整することにより、摺動殺菌中にパウチの可撓性に起因してパウチ内の流動性食品が移動してパウチの波打ちが起こり、流動性食品の攪拌が十分に行われるため、ヘッドスペースガス量にほとんど依存することなく必要な殺菌時間が短縮されてほぼ一定となり、パウチ内のどの箇所においても内容物温度がほぼ一定となるので、パウチによってヘッドスペースガス量にばらつきがあっても殺菌時間が不足する危険性がなくなる。またその他の効果においても第1の構成と同様の効果を奏することができる。」
(5) 特許異議申立人1が提出した甲第5号証の記載事項
特許異議申立人1が提出した甲第5号証には、次の事項が記載されている。
ス 「【請求項8】
前記封入工程が、容器の内容積の50%~98%の容積の内容物を封入する工程である、請求項5~7のいずれか1項記載のレトルト製品の製造方法。」
セ 「【0008】
本発明により、たんぱく質、糖質、脂質を配合した各種流動食や栄養剤などの液状の総合栄養組成物などを内容物とするレトルト製品に対して、高温加熱を伴うレトルト殺菌処理を行っても、レトルト用容器内にある含気部における、凝集物の発生が抑制される。特に、容器内面から剥がれ落ちやすい塊状の凝集物の発生を顕著に抑制することができる。塊状の凝集物の発生が抑制されることにより、レトルト製品の外観不良の発生が防止され、剥がれ落ちた凝集物が内容液に混入することによる経管流動食用チューブの詰りなどの不具合発生を防止できる。」
ソ 「【0012】
液状物質を含む内容物12の容積は、ヒートシールされたレトルトパウチ11の内容積の50%以上、98%以下であることが好ましい。内容物12の容積をレトルトパウチ11の内容積の50%以上にすることで、コロナ放電処理された第1包材11aの内面20が、含気部13全体を覆うことができる。また、98%以下とすることで、内容物の充填が容易となる。」
(6) 特許異議申立人1が提出した甲第6号証の記載事項
特許異議申立人1が提出した甲第6号証には、次の事項が記載されている。
タ 「【請求項1】
食品対象物であるエビの水分を減少させる水分減少工程と、
水分を減少させた前記エビを収容容器に充填し、前記収容容器内に、前記エビの体積1mLあたり0.4~8.3mLのヘッドスペースを有するように気体を充填した後、前記収容容器を密封する密封工程と、
密封した前記収容容器を加熱および加圧することで殺菌処理を行うレトルト殺菌工程と、を有するレトルト殺菌エビの製造方法。」
チ 「【請求項4】
前記ヘッドスペースが20~300mLである請求項3に記載の収容容器入りエビ。」
ツ 「【0045】
ヘッドスペースは、収容容器の大きさに応じて容量を設定するとよい。例えば550mLの容積を有する収容容器であれば、20~300mL、好ましくは35~75mL程度のヘッドスペースを確保してレトルト殺菌したエビは良好な食感を有する。ヘッドスペースの容量を20mL未満としてレトルト殺菌したエビは、食感が劣る。一方、ヘッドスペースの容量が300mL以上であれば、収容容器が膨満な状態に近づくため、例えば輸送中に収容容器に衝撃などが与えられると、収容容器が破損する虞がある。」
(7) 特許異議申立人2が提出した甲第12号証の記載事項
特許異議申立人2が提出した甲第12号証には、次の事項が記載されている。
テ 「【0012】
次に、容器入り炊飯米の製造方法について説明する。
前記の精白米と、水と、具材とを、ヘッドスペースを有して成形容器に充填密封し、加熱殺菌処理して容器内炊飯を行う。
精白米と、水と、具材との充填順序は任意であり、例えば精白米と水と具材を一緒に充填した場合でも、容器内炊飯が可能であり、炊飯米の上に具材が載った状態等に炊飯調理することができる。
原料を成形容器に充填密封する場合の手段は任意である。この場合に、容器のヘッドスペースを7~60%、好ましくは10~50%残して容器を密封するのがよい。上記ヘッドスペースの範囲は例示に過ぎず、ヘッドスペースは容器内炊飯が可能であり、炊飯米の上部にヘッドスペースが残る大きさであればよい。また、ヘッドスペースにおいて炊飯米の上に具材が載った形態等の容器入り炊飯米を提供できる。なお、ヘッドスペースの割合は、容器の内容積に占める、原料が存在しない通常原料の上部に位置する空間部分の割合を指す。」
ト 「【0016】
2)炊飯米の上に具材が載った状態のものである。両者をセパレートすることで、保存の間における炊飯米から具材への水分移行を低減して、両者の保存時の食味・食感品質を安定させることが可能となる。なお、炊飯米と具材が混在したものも排除されない。具材の大きさは、外径が8~50mm程度のものが量感があり望ましい。
3)炊飯米の露出した上部表面部における20%以上、好ましくは30%以上の米粒が立った状態である。望ましくは、上記の米粒の立った状態が、水平面に対する米粒の長径方向の傾きが45度以上である。
これらの状態は、精白米を成形容器内でヘッドスペースを有して容器内炊飯した場合に達成できるもので、炊飯米の食味・食感品質が高品質であることを示すものである。同時に具材を含んで、炊飯米の上に具材が載った状態のものである場合は、炊飯米の上部表面部における立った状態の米粒が具材を持上げる作用をもつことになり、これによっても保存時の炊飯米から具材への水分移行が抑えられる効能が得られる。炊飯米の上に具材が載っている場合は、炊飯米の露出した上部表面部とは具材が載っていない部分を指す。
4)また、容器の容積中容積比率において、炊飯米が40~90%、具材が7~40%、容器のヘッドスペースが7~60%とすることが挙げられる。これらにより、保存時における原料の水分移行が低減され品質が安定で、炊飯米の上に具材が載った形態を採る場合は見栄えがよいものとなり(容器乃至蓋材を透明材で形成するとよい)、容器入り炊飯米を電子レンジでそのまま加熱した場合に、炊飯米と具材が良好に加熱される。
5)炊飯米のpHが5.5~8.0、好ましくは6.0~7.5である。これにより食味の良好な炊飯米が得られる。
6)容器のヘッドスペースの酸素濃度が5%以下、好ましくは2%以下である。加熱殺菌処理することで、ヘッドスペースの酸素濃度が低濃度となり、チルド保存時の保存性が向上する。本発明により上記の酸素濃度が達成され、脱酸素剤の使用は不要となる。」
4 取消理由2(29条2項)について
(1) 本件発明1について
特許異議申立人1が提出した甲第1号証には、上記記載事項(上記「ア」及び「ウ」参照。)を総合すると、次の「甲1発明」が記載されていると認めることができる。
「密封された包装した容器と該包装した容器内に封入されている中華風煮込み等の食品とを含んで構成されるpH6.0~7.0のチルド流通密封食品であって、
前記包装した容器内に炭酸ガス50%及び窒素50%との混合ガスを用いて空気と置換するガス充填を行い容器内の炭酸ガス濃度を5%以上にし、
前記中華風煮込み等の食品は酢酸ナトリウムを添加し、
前記包装した容器内に混合ガスを充填して密封した保存性の良好なpH6.0~7.0のチルド流通密封食品。」
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「密封された包装した容器」は本件発明1の「包装容器」に相当する。
以下同様に、「包装した容器内」は「包装容器内の収容空間」及び「収容空間」に、「中華風煮込み等の食品」は「加熱調理済食品」に、「pH6.0~7.0のチルド流通密封食品」及び「包装した容器内に混合ガスを充填して密封した保存性の良好なpH6.0~7.0のチルド流通密封食品」は「調理済食品封入体」に、「炭酸ガス」は「二酸化炭素」に、「酢酸ナトリウム」は静菌剤に係る技術常識からして「静菌剤」に、「添加し」た態様は「含(み)」んだ態様に、それぞれ相当している。
また、本件発明1の「前記収容空間に酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ、且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下であ(り)」る態様と、甲1発明の「前記包装した容器内に炭酸ガス50%及び窒素50%との混合ガスを用いて空気と置換するガス充填を行い容器内の炭酸ガス濃度を5%以上にし」た態様とは、「前記収容空間に所定のガスが含まれ、且つ該収容空間の所定のガスが所定の容量であ(り)」る態様の限りで一致している。
したがって、両者は
「密封された包装容器と該包装容器内の収容空間に封入されている加熱調理済食品とを含んで構成される調理済食品封入体であって、
前記収容空間に所定のガスが含まれ、且つ該収容空間の所定のガスが所定の容量であり、
前記加熱調理済食品は静菌剤を含む、
調理済食品封入体。」
の点で一致し、次の点で相違している。
[相違点1] 「所定のガス」及び「所定の容量」に関し、本件発明1では、「酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ」「酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下であ」るのに対し、甲1発明では、「炭酸ガス50%及び窒素50%との混合ガスを用いて空気と置換するガス充填を行い容器内の炭酸ガス濃度を5%以上にし」た点。
[相違点2] 本件発明1では、「収容空間の容積に占める前記加熱調理済食品の体積の割合が20~70%(ただし、70%を除く)である」のに対し、甲1発明では、「包装した容器内に混合ガスを充填して密封した」ものであって、その包装した容器内の容積に占める中華風煮込み等の食品の体積の割合が不明である点。
上記相違点1について検討すると、特許異議申立人1が提出した甲第1号証には、甲1発明の「炭酸ガス50%及び窒素50%との混合ガスを用いて空気と置換するガス充填を行い容器内の炭酸ガス濃度を5%以上に(し)」するために、「好適な残存酸素濃度が5%以下であるから、空気との置換率が75%以上であればよい」(当審注:概略で空気の20%が酸素と考えた場合の置換率と解せる。)ことが記載されている(上記「イ」参照。)ことからすると、当業者にとって酸素濃度を5%以下とする動機付けがあるといえるところ、その反対を志向する「酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)」とすること、すなわち「酸素濃度が5%超」となるように「空気との置換」を行うことについて、阻害する事情があるとはいえないまでも、甲1発明をして「酸素濃度が5%超」とする動機付けが当業者にあるとはいえない。
また、特許異議申立人1の提出した甲第2ないし8号証及び特許異議申立人2の提出した甲第1ないし12号証にもこの相違点1に係る本件発明1の構成が記載されておらず、これらの証拠に記載された事項を考慮しても、特許異議申立人1が提出した甲第1号証に記載された発明(甲1発明)をして、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たということはできない。
なお、特許異議申立人2の提出した甲第2号証に、酸素濃度0%ないし1%の環境下では十分なボツリヌス菌の増殖及び毒素酸性抑制効果が得られず、2%でボツリヌス菌の増殖及び毒素産生抑制効果が認められる旨の実験結果が記載されており、特許異議申立人1の提出した甲第7号証に、ボツリヌス菌等の嫌気性細菌の培養方法として、酸素濃度1%以下とすることが記載されているとしても、これらのことから酸素濃度を5%超にすることが記載されているとはいえない。また、そもそも、特許異議申立人1が提出した甲第1号証には「ボツリヌス菌」に係る記載がないし、特許異議申立人1が提出した甲第1号証の「酸素濃度を1%以下にするのが好ましい」(上記「イ」参照。)との記載を含め、その記載全体からして甲1発明は、本件発明のような「ボツリヌス菌」を想定したものではないというべきであるから、ボツリヌス菌に対する酸素濃度に係る上記知見があったとしても、甲1発明に適用する動機付けになるとはいえない。仮に適用したとしても、酸素濃度2%でボツリヌス菌の増殖及び毒素産生抑制効果が認められるのであれば、特許異議申立人1が提出した甲第1号証に示唆されたそれは5%以下であるからボツリヌス菌の増殖及び毒素産生抑制効果を十分有すると解せるので、甲1発明のそれを5%超とする動機付けになるとはいえない。
よって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、特許異議申立人1が提出した甲第1号証に記載された発明(甲1発明)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(2) 本件発明2ないし6について
請求項2ないし6の記載はそれぞれ請求項1の記載を引用する形式のものであり、本件発明2ないし6は本件発明1の発明特定事項をすべて含むところ、上述のとおり本件発明1は上記取消理由2について理由がないから、同様の理由により、本件発明2ないし6は、上記取消理由2について理由がない。
(3) 本件発明7について
特許異議申立人1が提出した甲第1号証には、上記記載事項(上記「ア」及び「ウ」参照。)を総合すると、次の「甲1方法発明」が記載されていると認めることができる。
「密封する包装した容器内に、酢酸ナトリウムを添加した中華風煮込み等の食品を密封し、該包装した容器内に炭酸ガス50%及び窒素50%との混合ガスを用いて空気と置換するガス充填を行い容器内の炭酸ガス濃度を5%以上にする、該包装した容器内のガスを置換するガス置換工程と、
前記ガス置換工程後に、前記包装した容器に密封された前記中華風煮込み等の食品を保存性の良好なpH6.0~7.0のチルド流通密封食品として10℃以下の温度で保存する工程とを含む、中華風煮込み等の食品を保存する方法。」
本件発明7と甲1方法発明とを対比すると、甲1方法発明の「密封する」態様は本件発明7の「密封可能な」態様に相当する。
以下同様に、「包装した容器内」は「包装容器の収容空間」及び「収容空間」に、「酢酸ナトリウム」は静菌剤に係る技術常識からして「静菌剤」に、「添加した」態様は「含む」態様に、「中華風煮込み等の食品」は「加熱調理済食品」に、「密封し」た態様は「封入し」た態様に、「炭酸ガス」は「二酸化炭素」に、「包装した容器に密封された」態様は「包装容器に封入された」態様に、「保存性の良好なpH6.0~7.0のチルド流通密封食品として10℃以下の温度で保存する」態様は「該包装容器ごとチルド状態で保存する」態様に、「中華風煮込み等の食品を保存する方法」は「調理済食品の保存方法」に、それぞれ相当している。
また、本件発明7の「該収容空間に酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下となるように」する態様と、甲1方法発明の「該包装した容器内に炭酸ガス50%及び窒素50%との混合ガスを用いて空気と置換するガス充填を行い容器内の炭酸ガス濃度を5%以上にする」態様とは、「該収容空間に所定のガスが含まれ且つ該収容空間の所定のガスが所定の容量となるように」する態様の限りで一致している。
したがって、両者は
「密封可能な包装容器の収容空間に、静菌剤を含む加熱調理済食品を封入し、該収容空間に所定のガスが含まれ且つ該収容空間の所定のガスが所定の容量となるように、該収容空間のガスを置換するガス置換工程と、
前記ガス置換工程後に、前記包装容器に封入された前記加熱調理済食品を該包装容器ごとチルド状態で保存する工程とを含む、調理済食品の保存方法。」
の点で一致し、次の点で相違している。
[相違点3] 「所定のガス」及び「所定の容量」に関し、本件発明7では、「酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ」「酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下」であるのに対し、甲1方法発明では、「炭酸ガス50%及び窒素50%との混合ガスを用いて空気と置換するガス充填を行い容器内の炭酸ガス濃度を5%以上にする」点。
[相違点4] 本件発明7では、「該収容空間の容積に占める該加熱調理済食品の体積の割合が20~70%(ただし、70%を除く)となるように」するのに対し、甲1方法発明では、「容器内に」「中華風煮込み等の食品を密封し」「包装した容器内のガスを置換する」ものの、その包装した容器内の容積に占める中華風煮込み等の食品の体積の割合が不明である点。
上記相違点3について検討すると、特許異議申立人1が提出した甲第1号証には、甲1方法発明の「炭酸ガス50%及び窒素50%との混合ガスを用いて空気と置換するガス充填を行い容器内の炭酸ガス濃度を5%以上にする」ために、「好適な残存酸素濃度が5%以下であるから、空気との置換率が75%以上であればよい」ことが記載されている(上記「イ」参照。)こと等について、既に本件発明1に係る相違点1について検討したのと同様に、甲1方法発明をして、本件発明7の上記相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たということはできない。
よって、上記相違点4について検討するまでもなく、本件発明7は、特許異議申立人1が提出した甲第1号証に記載された発明(甲1方法発明)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(4) 本件発明8について
請求項8の記載は請求項7の記載を引用する形式のものであり、本件発明8は本件発明7の発明特定事項をすべて含むところ、上述のとおり本件発明7は上記取消理由2について理由がないから、同様の理由により、本件発明8は、上記取消理由2について理由がない。
5 取消理由1(29条1項3号)について
(1) 本件発明7について
既に「4(3)」で述べたとおり、本件発明7と甲1方法発明とを対比すると、両者は少なくとも上記相違点3及び4で実質的に相違しているから、本件発明7は、特許異議申立人1が提出した甲第1号証に記載された発明(甲1方法発明)ではない。
したがって、取消理由1は理由がない。
6 取消理由3(36条6項1号)について
本件訂正により、本件発明7は、(1)二酸化炭素の濃度、及び、(2)食品の体積の割合について特定されているし、請求項8は請求項7の記載を引用する記載である。そうすると、請求項7及び8には、(1)二酸化炭素の濃度、及び、(2)食品の体積の割合について特定されておらず、発明の課題を解決するための手段が反映されていないから、本件発明7及び8は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる旨の取消理由3は、理由がない。
第4 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載された申立て理由について
上記申立て理由の概要は、特許異議申立人2が申立てた(1)申立理由1(明確性要件違反)の「測定時期」に係る主張、(2)申立理由2(実施可能要件違反)の「測定時期」に係る主張及び(3)申立理由3(サポート要件違反)の(い)「静菌剤」、(ろ)「pH値」、(は)「加熱条件」及び(に)「測定時期」に係る主張である。
(1)、(2)及び(3)の(に)についてより詳しく述べると、請求項1に記載された「収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下であり」及び 請求項7に記載された「収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下となるように」に関し、「収容空間の酸素濃度」及び「二酸化炭素濃度」が、どの時点において測定したものであるかが不明確である、そして、本件特許明細書に記載された実施例の容器でさえ、容器内部の気体濃度は経時変化するから、それを一定に維持することができる具体的容器を当業者が理解できず、本件発明を実施できない。また、本件発明の課題を解決できる範囲とはいえないというものであるが、本件発明は、いつの時点において酸素及び二酸化炭素の濃度を測定したかに依るものや、それを一定に維持することができる具体的容器を特定するものでなく、密封可能な包装容器のうち具体的容器に関わらず、測定した際の濃度が特定された範囲を満たすものが該当するといえる。そうすると、上記主張は失当であり、理由がない。
(3)の(い)ないし(は)についてより詳しく述べる。(い)「静菌剤」については、本件特許明細書において本件発明の効果を具体的に確認した「静菌剤」がその生理活性が格段に強い「酢酸ナトリウム」であって、他には具体的に確認していないので、課題を解決できるとは認識ができない、というものであるが、本件特許明細書全体の記載及び抗菌・殺菌に係る技術常識からすると、本件発明において「静菌剤」は所定の用法において所定の静菌機能を発揮すれば足りると解せることからして、特定のものに限定されるものではなく、「有機塩」やその含有量、さらには「酢酸ナトリウム」に限定する必要があるとまではいえず、理由がない。(ろ)「pH値」については、静菌活性がpH・解離度に大きく依存することから「pH値」を特定することが本件発明の課題解決手段として必須である、というものであるが、(い)と同様に、本件発明において「静菌剤」は所定の用法において所定の静菌機能を発揮すれば足りると解せるし、抗菌機能はpHに依存する静菌活性のみによるのではないから、必ずしも「pH値」を特定しなければならないとはいえず、理由がない。(は)「加熱条件」については、殺菌のための具体的加熱条件を特定することが本件発明の課題解決手段として必須である、というものであるが、どのような程度の殺菌を行うかといった、殺菌に係る技術常識から選択し得る範囲において設定すればよいことと解せるから、それを特定することが本件発明の課題解決手段として必須であるとはいえず、理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由通知に記載した上記取消理由1ないし3及び特許異議申立書に記載された申立て理由によっては、本件発明1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700109