特許異議申立
2017-701244
3Dプリンタ用造形材料、その製造方法、および三次元造形物
- 審判番号
- 2017-701244
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-002588
- 登録番号
- 特許第6153680号(P6153680)
- 請求日
- 2017年12月27日
- 審決日
- 2019年06月05日
- 公報発行日
- 2019年08月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】スターライト工業株式会社
- 【権利者代理人】白井 重隆
- 【異議申立人】野口 操
- 【異議申立人】橋詰 隆
- 審判長/審判官
- 審判長 冨士 良宏
- 審判官 川端 修
- 審判官 日比野 隆治
- 分類
- P1651.113-YAA(B29C) / P1651.121-YAA(B29C) / P1651.536-YAA(B29C) / P1651.537-YAA(B29C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6153680号発明「3Dプリンタ用造形材料、その製造方法、および三次元造形物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6153680号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。
特許第6153680号の請求項1、3ないし5、7ないし9に係る特許を維持する。
特許第6153680号の請求項2及び6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6153680号の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成29年6月9日付けでその特許権の設定登録がされ、同年6月28日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月27日に、特許異議申立人野口操(以下、「申立人A」という。)及び橋詰隆(以下、「申立人B」という。)より、それぞれ特許異議の申立てがされた。平成30年3月9日付けで取消理由が通知され、同年5月14日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年7月20日に申立人Aから、同年同月19日に申立人Bから、それぞれ意見書が提出され、同年8月23日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年10月29日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年10月29日の訂正請求に対して、平成31年1月7日に申立人Bから意見書が提出され、申立人Aからは意見書が提出されなかった。そして、同年2月26日付けで審尋がなされ、同日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年4月4日付けで回答書及び意見書が提出されるとともに、平成30年10月29日付け訂正請求書について手続補正がなされた。平成31年4月4日付けの回答書、意見書及び手続補正書に対して、申立人A及びBから意見書は提出されなかった。
なお、平成30年5月14日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。
第2 訂正の適否
1.平成31年4月4日付けの手続補正(以下「手続補正」という。)の適否
手続補正は、平成30年10月29日付け訂正請求書の請求項1の「(メタ)アクリロイルオキシホスホリルコリン(共)重合体」という記載を、明細書の他の記載と整合するように、正しい表記の「(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体」に補正するものである。
当該補正は、軽微な瑕疵を補正するものであって、訂正請求書の請求の趣旨の要旨を変更するものではないので、当該補正を認める。
2.訂正の内容
上記1のとおりであるので、本件訂正請求の趣旨は、特許第6153680号の明細書及び特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した全文訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを求める、というものであり、一群の請求項である特許請求の範囲の請求項1~9について下記訂正事項1~8のとおりに訂正し、明細書について下記訂正事項9~11のとおりに訂正することを求めるというものである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「3Dプリンタ用造形材料であって、(A)ナノファイバー、(B)分散剤、および(C)熱可塑性樹脂または光硬化性樹脂からなる樹脂成分を主成分とする造形材料。」と記載されているのを、
「3Dプリンタ用造形材料であって、(A)セルロースナノファイバー、(B)P-OH基、または-SO3H基の金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤、あるいは(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を含む分散剤を含む(A)+(B)の分散体の乾燥体、ならびに(C)ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である熱可塑性樹脂からなる樹脂成分を主成分とする造形材料。」に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項3~5、7~9についても、同様に訂正する)。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、「請求項2に記載の造形材料。」と記載されているのを、「請求項1に記載の造形材料。」に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、「請求項1~3いずれかに記載の造形材料。」と記載されているのを、「請求項1または3に記載の造形材料。」に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に、「固形分換算で、固形換算で、(A)ナノファイバーが0.5~20重量%、(B)分散剤が0.0005~10重量%、(C)樹脂成分が70~99.4995重量%[ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%]である、請求項1~6いずれかに記載の造形材料。」と記載されているのを、「固形換算で、(A)ナノファイバーが0.5~20重量%、(B)分散剤が0.0005~10重量%、(C)樹脂成分が70~99.4995重量%[ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%]である、請求項1、3、4、または5に記載の造形材料。」に訂正する。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に、「請求項1~7いずれかに記載の造形材料を溶融押し出ししたのち、液体浴中で冷却・固化し、モノフィラメント糸となすことを特徴とする、3Dプリンタ用造形材料の製造方法。」と記載されているのを、「上記(A)セルロースナノファイバーと(B)分散剤および分散媒を機械的解繊手段に供給して、機械的解繊した分散体から分散媒を除去した固形物(乾燥体)、ならびに(C)樹脂成分からなる請求項1、3、4、5または7のいずれかに記載の造形材料を、溶融押し出ししたのち、液体浴中で冷却・固化し、モノフィラメント糸となすことを特徴とする、3Dプリンタ用造形材料の製造方法。」に訂正する。
(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に、「請求項1~7いずれかに記載の造形材料」と記載されているのを、「請求項1、3、4、5、または7に記載の造形材料」に訂正する。
(9) 訂正事項9
明細書中、
「【0005】
本発明は、以下の(1)~(9)により構成される。
(1)3Dプリンタ用造形材料であって、(A)ナノファイバー、(B)分散剤、および(C)熱可塑性樹脂または光硬化性樹脂からなる樹脂成分を主成分とする造形材料。
(2)(A)ナノファイバーが、セルロースナノファイバーである、(1)記載の造形材料。
(3)(A)セルロースナノファイバーの平均繊維径が10~100nmである請求項2記載の造形材料。
(4)(B)分散剤が(メク)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を主成分とする、(1)~(3)いずれかに記載の造形材料。
(5)(B)分散剤を構成する(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体が、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ポリメタクリル酸ブチル・メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン及びポリメタクリル酸ステアリル・メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの群から選ばれた少なくとも1種である(4)記載の造形材料。
(6)(C)樹脂成分が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である、(1)~(5)いずれかに記載の造形材料。
(7)固形換算で、(A)ナノファイバーが0.5~20重量%、(B)分散剤が0.0005~10重量%、(C)樹脂が70~99.4995重量%[ただし、(A)+(B+(C)=100重量%]である、(1)~(6)いずれかに記載の造形材料。
(8)上記(1)~(7)いずれかに記載の造形材料を溶融押し出ししたのち、液体浴中で冷却・固化し、モノフィラメント糸となすことを特徴とする、3Dプリンタ用造形本料の製造方法。
(9)上記(1)~(7)いずれかに記載の造形材料を用いて、3Dプリンタを適用して得られる三次元造形物。」と記載されているのを、
「【0005】
本発明は、以下の(1)、(3)~(5)、(7)~(9)により構成される。
(1)3Dプリンタ用造形材料であって、(A)セルロースナノファイバー、(B)P-OH基、または-SO3H基の金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤、あるいは(メタ)アクリロイルオキシホスホリルコリン(共)重合体を含む分散剤を含む(A)+(B)の分散体の乾燥体、ならびに(C)ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である熱可塑性樹脂からなる樹脂成分を主成分とする造形材料。
(2)(削除)
(3)(A)セルロースナノファイバーの平均繊維径が10~100nmである請求項2記載の造形材料。
(4)(B)分散剤が(メク)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を主成分とする、(1)または(3)に記載の造形材料。
(5)(B)分散剤を構成する(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体が、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ポリメタクリル酸ブチル・メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン及びポリメタクリル酸ステアリル・メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの群から選ばれた少なくとも1種である(4)記載の造形材料。
(6)(削除)
(7)固形換算で、(A)ナノファイバーが0.5~20重量%、(B)分散剤が0.0005~10重量%、(C)樹脂が70~99.4995重量%[ただし、(A)+(B+(C)=100重量%]である、(1)、(3)、(4)、または(5)に記載の造形材料。
(8)上記(A)セルロースナノファイバーと(B)分散剤および分散媒を機械的解繊手段に供給して、機械的解繊した分散体から分散媒を除去した固形物(乾燥体)、ならびに(C)樹脂成分からなる(1)、(3)、(4)、(5)または(7)のいずれかに記載の造形材料を溶融押し出ししたのち、液体浴中で冷却・固化し、モノフィラメント糸となすことを特徴とする、3Dプリンタ用造形本料の製造方法。
(9)上記(1)、(3)、(4)、(5)、または(7)に記載の造形材料を用いて、3Dプリンタを適用して得られる三次元造形物。」と訂正する。
(10) 訂正事項10
明細書中、
「【0027】
<(C)樹脂成分>
(C)樹脂成分としては、熱可塑性樹脂または光硬化性樹脂である。
このうち、熱可塑性樹脂とは、加熱により溶融成形を行う樹脂を言う。その具体例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
なお、本発明の造形材料においては、(A)ナノファイバーとしてセルロースナノファイバーを用いる場合、耐熱性が充分ではない場合があるので、(C)樹脂成分としては、融点の比較的低い、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂のうち、ナイロン6などが特に好適に用いられる。
なお、本発明において、(B)分散剤として、「(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体」を用いる場合には、(A)セルロースナノファイバーと(C)樹脂成分との親和性が一段と向上するので、(A)成分と(C)成分の両者が均一に分散した状態の造形材料を得ることができる。」と記載されているのを、
「【0027】
<(C)樹脂成分>
(C)樹脂成分としては、熱可塑性樹脂である。
熱可塑性樹脂とは、加熱により溶融成形を行う樹脂を言う。その具体例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
なお、本発明の造形材料においては、(A)ナノファイバーとしてセルロースナノファイバーを用いる場合、耐熱性が充分ではない場合があるので、(C)樹脂成分としては、融点の比較的低い、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂のうち、ナイロン6などが特に好適に用いられる。
なお、本発明において、(B)分散剤として、「(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体」を用いる場合には、(A)セルロースナノファイバーと(C)樹脂成分との親和性が一段と向上するので、(A)成分と(C)成分の両者が均一に分散した状態の造形材料を得ることができる。」に訂正する。
(11) 訂正事項11
明細書中、段落【0028】の全文を削除する。
3.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
上記訂正事項1は、請求項1において、
(a)「(A)ナノファイバー」について、訂正前の請求項2等に基づき、「(A)セルロースナノファイバー」と特定し、
(b)「(B)分散剤」について、明細書【0005】、【0011】等に基づき、特定の分散剤であることを特定し、さらに、明細書【0017】~【0019】、【0031】~【0034】等に基づき、「(B)分散剤」が、「分散剤を含む(A)+(B)の分散体の乾燥体」である点を特定し、
(c)「(C)熱可塑性樹脂または光硬化性樹脂からなる樹脂成分」について、訂正前の請求項6、明細書【0005】、【0027】の記載に基づき、「(C)ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である熱可塑性樹脂からなる樹脂成分」である点を特定しようとするものである。
したがって、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
上記訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
上記訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項2を引用していたところ、請求項1を引用する請求項2の削除に伴って、請求項3の引用先を請求項2から請求項1とする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
上記訂正事項4は、請求項2の削除に伴い、多数項を引用している請求項4において、引用先の請求項2を削除し、引用請求項数を減少する訂正であるから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項5について
上記訂正事項5は、請求項6を削除するものであるから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)訂正事項6について
上記訂正事項6は、請求項7において、「固形換算で、固形換算で、」という同じ用語が繰り返されていた誤記を訂正し、さらに、多数項を引用している請求項7において、請求項2及び6の削除に伴って、引用先の請求項2及び6を削除し、引用請求項数を減少する訂正であるから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号の「誤記又は誤訳の訂正」及び同第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に(最初に)添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(7)訂正事項7について
上記訂正事項7は、請求項8の「造形材料」について、請求項1に関する上記訂正事項1の(a)「(A)ナノファイバー」及び(b)「(B)分散剤」と同様な特定を行い、さらに、多数項を引用している請求項8において、引用先の請求項2及び6を削除し、引用請求項数を減少する訂正であるから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(8)訂正事項8について
上記訂正事項8は、請求項2及び6の削除に伴い、多数項を引用している請求項9において、引用先の請求項2及び6を削除し、引用請求項数を減少する訂正であるから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(9)訂正事項9~11について
上記訂正事項9~11は、上記訂正事項1~8に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものである。
したがって、当該訂正事項9~11は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
4.まとめ
上記「2.(1)~(11)」より、上記訂正請求による訂正事項1~8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、訂正事項9~11は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、いずれも、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件特許の明細書の特許請求の範囲は、上記のとおり訂正が認められるから、本件特許の請求項1、3~5、7~9に係る発明(以下、項番に応じて、「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3~5、7~9に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
3Dプリンタ用造形材料であって、(A)セルロースナノファイバー、(B)P-OH基、または-SO3H基の金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤、あるいは(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を含む分散剤を含む(A)+(B)の分散体の乾燥体、ならびに(C)ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である熱可塑性樹脂からなる樹脂成分を主成分とする造形材料。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
(A)セルロースナノファイバーの平均繊維径が10~100nmである請求項1に記載の造形材料。
【請求項4】
(B)分散剤が(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を主成分とする、請求項1または3に記載の造形材料。
【請求項5】
(B)分散剤を構成する(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体が、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ポリメタクリル酸ブチル・メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン及びポリメタクリル酸ステアリル・メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの群から選ばれた少なくとも1種である請求項4記載の造形材料。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
固形換算で、(A)ナノファイバーが0.5~20重量%、(B)分散剤が0.0005~10重量%、(C)樹脂成分が70~99.4995重量%[ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%]である、請求項1、3、4、または5に記載の造形材料。
【請求項8】
上記(A)セルロースナノファイバーと(B)分散剤および分散媒を機械的解繊手段に供給して、機械的解繊した分散体から分散媒を除去した固形物(乾燥体)、ならびに(C)樹脂成分からなる請求項1、3、4、5または7のいずれかに記載の造形材料を溶融押し出ししたのち、液体浴中で冷却・固化し、モノフィラメント糸となすことを特徴とする、3Dプリンタ用造形材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1、3、4、5、または7に記載の造形材料を用いて、3Dプリンタを適用して得られる三次元造形物。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
訂正前の請求項2~9に係る特許に対して、当審が平成30年8月23日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)理由1:(新規性)本件の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、該請求項に係る特許は取り消すべきものである。
記
ア 引用例A-1に記載された発明(以下、「引用発明A-1」という。)を主引用発明とした場合:請求項 2、3、6、7、9
イ 引用例B-1に記載された発明(以下、「引用発明B-1」という。)を主引用発明とした場合:請求項 2、3、6、7、9
ウ 引用例B-2に記載された発明(以下、「引用発明B-2」という。)を主引用発明とした場合:請求項 2、3、6、7、9
(2)理由2:(進歩性)本件の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、該請求項に係る特許は取り消すべきものである。
記
ア 引用発明A-1を主引用発明とした場合:請求項 2~9
イ 引用発明B-1を主引用発明とした場合:請求項 2、3、6~9
ウ 引用発明B-2を主引用発明とした場合:請求項 2、3、6~9
エ 引用発明B-3を主引用発明とした場合:請求項 2、3、6~9
ただし、引用例は次のとおり。
引用例A-1:国際公開第2015/178483号(申立人Aの甲第1号証(以下、甲号証は、単に「甲1」などという。))
引用例A-2(「引用例B-5」ということもある。):特開2012-51991号公報(申立人Aの甲2、申立人Bの甲5)
引用例B-1:国際公開第2015/200780号(申立人Bの甲1)
引用例B-2:国際公開第2015/009972号(同甲2)
引用例B-3:特開2016-28887号公報(同甲3)
引用例B-4:特開2014-162880号公報(同甲4)
引用例B-6:特開2011-132327号公報(同甲6)
引用例B-7:特開2014-105217号公報(同甲7)
引用例B-8:国際公開第2011/126038号(同甲8)
引用例B-9:特開2015-143337号公報(同甲9)
(3)理由3:(サポート要件)本件は、発明の詳細な説明において本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえず、出願時の技術常識に照らしても、本件発明2~9の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではなく、本件発明2~9は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えることとなるから、請求項2~9の記載は、特許法第36条第6項第1項に規定する要件を満たしておらず、本件発明2~9に係る特許は取り消すべきものである。
(4)理由4:(実施可能要件)本件は、特定のナノファイバー(セルロースナノファイバー)、特定の分散剤(メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体)及び特定の樹脂(ポリ乳酸樹脂)を組み合わせた場合以外に、本件発明の効果を奏する造形材料を得ることができるのかが、理解できないのであるから、本件発明2~9について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、本件発明2~9に係る特許を取り消すべきものである。
2.取消理由についての検討
(1)理由1、2(新規性・進歩性)についての検討
ア 引用例の記載(当審注:下線は当審が付与した。)
(ア)引用例A-1
引用例A-1には、次の記載がある。
「[0001]本発明は、バイオマス資源を利用したバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体及びバイオマスナノ繊維の製造方法並びに同高分子樹脂複合体の製造方法に関する。」
「[0005]その中でも、竹、木材パルプ、ケナフなど植物系繊維材料からのセルロース単体とリグノセルロースについてのナノ繊維の製造及び有機高分子との複合材料化については、各種の技術が公表されている。」
「発明が解決しようとする課題
[0011]しかしながら、特許文献3記載の技術においては、ナノオーダーの寸法のバイオマス粉末を得るまでには至っていない。本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、バイオマス原料からナノオーダーのバイオマスナノ繊維を製造する方法、これを用いた高分子樹脂複合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0012]前記目的に沿う第1の発明に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体は、1)バイオマスを過熱水蒸気で加熱処理して形成されたバイオマス繊維と、ポリビニルアルコール水溶液、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、又は低分子量ポリカプロラクトンからなる分散剤とを多軸押出機に入れて混練して形成された数十~数百nmのバイオマスナノ繊維と、2)高分子樹脂とを混合している。ここで、数十~数百nmとは、例えば50~500nmの範囲をいう。」
「発明の効果
[0027]第1の発明に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体は、バイオマスナノ繊維と高分子樹脂とを混合して形成されているので、圧縮成形や射出成形によって強度を有する複雑な成形品を得ることができる。ここで、ポリビニルアルコール水溶液、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、又は低分子量ポリカプロラクトンは相溶性を高める物質として作用する。即ち、バイオマス繊維がいかに強度が高くても、高分子樹脂(例えば、PP)とバイオマス繊維は性質が全く異なるので、その界面には接着性はなく、接着性がないとバイオマス繊維による繊維強化は発揮しない。そこで、適切に界面に相溶性(接着性)を高める相溶化剤は不可欠である。従って、第1の発明においては、通常の高分子樹脂の物性にバイオマス繊維の繊維強化を発現させるために、以上の相溶化剤(即ち、分散剤)が添加されている。」
「[0040]次に、本発明の第1の実施例に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法について説明する。
本実施例に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法は、上記のバイオマスナノ繊維の製造方法により得られるバイオマスナノ繊維に高分子樹脂を配合して多軸押出成形機で押出成形し、バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体を得る工程を有する。多軸押出成形機は、基本的に多軸押出機と同様の構成であるが、目的とする形状に成形するための金型(別置きでも可)をさらに備える。多軸押出成形機(一例として二軸押出成形機)はその処理温度が、80~220℃、処理圧力が50MPa以下、軸回転速度が15~50rpmであるのが好ましい。
[0041]高分子樹脂の種類は特に限定するものではないが、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂であるのが好ましい。バイオマスナノ繊維100質量部に対して高分子樹脂を400~3500質量部配合するのが好ましい。これにより、高分子樹脂中にバイオマスナノ繊維が高均一に分散され、高い力学的特性を備えるバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体が得られる。」
「[0044]第1、第2の実施例に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法により得られるバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体は、家電製品、携帯電話等の筐体、自動車の内装、建築資材、梱包資材、3Dプリンターの樹脂補強材など幅広い分野への応用が期待される。なお、多軸押出整形機で得られた例えばペレット形状の高分子樹脂複合体を原料として、圧縮成形や射出成形によって所望の複雑な形状の成形品を得ることは、好ましい実施態様である。」
「[0050](実験例1)竹を処理し易い寸法に裁断して、反応器(直本工業株式会社製 過熱水蒸気処理装置NHL-1型)に投入し、210℃の過熱水蒸気で3h処理した。これにより予備解繊されたバイオマスを更に破砕機(株式会社フジテックス製 木材粉砕機)を用いて粉砕し、粉砕竹粉(幅1~3mm、長さ1~5cm)を得た。以下の他の実験例における粉砕竹粉もこの方法で得たものである。
[0051]ポリビニルアルコール(PVA 東京化成株式会社、けん化度80moL%:重合度2000)の9質量%濃度の水溶液(粘度:1800cp)を撹拌機(アズワン、撹拌棒径状:錨型)を用いて、80℃で1時間、500rpmで撹拌して調製した。なお、デジタル粘度計(ブルックフィールド社、DV-I prime)を用いて、温度:22℃、回転速度:10rpmで90秒後の値を水溶液の粘度とした。
[0052]粉砕竹粉10gに対し、ポリビニルアルコール水溶液を10gの割合でプリブレンドし、二軸押出成形機の供給口から投入し、解繊部において、常温、スクリュー回転速度95rpmで1hかけて解繊した。さらに、溶融混練部において、スクリュー回転速度15rpm、シリンダー温度を200℃とし、上流部のベント口からポリプロプレン(当審注:「ポリプロプレン」は、「ポリプロピレン」の誤記と認める。)(PP 日本ポリプロピレン株式会社、FY6 MFR=2.5)を180g投入し、下流部のベント口から水分を50KPaで脱気し、5分かけて押出成形し、バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体サンプルを得た。」
「請求の範囲
[請求項1]1)バイオマスを過熱水蒸気で加熱処理して形成されたバイオマス繊維と、ポリビニルアルコール水溶液、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、又は低分子量ポリカプロラクトンからなる分散剤とを多軸押出機に入れて混練して形成された数十~数百nmのバイオマスナノ繊維と、2)高分子樹脂とを混合したことを特徴とするバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体。」
(イ)引用例A-2(「引用例B-5」)
引用例A-2には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーの分散体であって、該分散体中に陰イオン性分散剤を含むことを特徴とするセルロースナノファイバーの分散体。
【請求項2】
前記陰イオン性分散剤が、P-OH基、-COOH基、-SO3H基、及び/または、それらの金属塩基が少なくとも1種結合した分散剤であることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項3】
前記陰イオン性分散剤が、リン酸またはポリリン酸、リン酸またはポリリン酸の塩、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリル酸の塩、ポリアクリル酸共重合体の塩、からなる群から少なくとも1種含むことを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項4】
セルロースナノファイバーの平均繊維径が10~100nmである、請求項1~3のいずれかに記載の分散体。」
「【請求項6】
セルロースファイバーと陰イオン性分散剤を含む分散体を高圧噴射処理することを特徴とするセルロースナノファイバーの分散体の製造方法。」
「【背景技術】
【0002】
天然に多量に存在するバイオマスであるセルロースは、ナノファイバーが集束化して繊維構造をとり、主に植物の強靭な構造材として機能している。このようなセルロース繊維の構造材中では、ナノファイバー表面間での主に水素結合を介した結合力によって強く集束しているため、元のナノファイバーの状態に分散させることは難しい。
【0003】
特許文献1に記載されているように、唯一バクテリアセルロース(以下、BCと呼ぶ)と呼ばれる原始的な菌の生成するセルロースは、比較的低次元に集積した集合体をネバードライの状態で抽出できるため、ナノファイバーとして扱うことができる。特許文献2および特許文献3には、典型的なセルロースナノファイバーであるBCを樹脂材料とハイブリッド化させることにより、透明であり、しかも力学強度にも優れ、熱膨張率の低いフィルム材料として提供できることが開示されている。しかしながら、BCに関しては、通常1重量%以下のセルロース濃度のゲルの状態で生産され、生産速度も極めて遅いため、工業的な生産性という観点では必ずしも有利ではない。」
「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み検討を重ねた結果、特定の分散剤を使用することで、セルロースナノファイバーが良好に分散した分散体が得られることを見出した。」
「【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、セルロースナノファイバーが良好に分散した分散体を得ることができる。」
(ウ)引用例B-1
引用例B-1には、次の記載がある(原文は省略。訳は、特許異議申立人橋詰隆の作製したもの。「【】」の段落番号は原文の「[]」の段落番号に対応している。)
「【0034】
本明細書で意図される場合、「ナノセルロース」は、限定されないが、ミクロフィブリル化セルロース、ナノフィブリル化セルロース、微結晶性セルロース、ナノ結晶性セルロース、および微粒子化またはフィブリル化溶解パルプを含めて、様々なセルロース系材料を含むように広く定義される。典型的には、本明細書で提供されるナノセルロースは、ナノメートルスケールで少なくとも1つの長さ寸法(例えば、直径)を有する粒子を含む。
【0035】
「ナノフィブリル化セルロース」または等価的に「セルロースナノフィブリル」は、ナノメートルサイズの粒子もしくは繊維、またはミクロンサイズとナノメートルサイズの両方の粒子もしくは繊維を有するセルロース繊維または領域を意味する。「ナノ結晶性セルロース」または等価的に「セルロースナノ結晶」は、ナノメートルサイズのドメイン、またはミクロンサイズとナノメートルサイズの両方のドメインを有するセルロース粒子、領域、または結晶を意味する。「ミクロンサイズの」には、1μm~100μmが含まれ、「ナノメートルサイズの」には、0.01nm~1000nm(1μm)が含まれる。より大きいドメイン(長い繊維を含む)もまた、これらの材料中に存在していてもよい。」
「【0053】
本明細書でのポリマーは、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリ(アミドーエナミン)、ポリ無水物、ポリアクリレート、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリ(アルケンジカルボキシレート)、シリコーン、およびそれらの組み合わせまたはコポリマー(例えば、脂肪族一芳香族コポリエステル)から選択されてもよい。
【0054】
様々な実施形態において、ポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(エチレン-co-アクリル酸)、ポリ(乳酸)(またはポリラクチド)、ポリ(グリコール酸)(またはポリグリコリド)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ブチレンアジペート-co-テレフタレート)、ポリ(ブチレンスクシネート)、ポリ(ヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシバレレート)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリ(ブチルアクリレート)、ポリ(tert-ブチルアクリレート-co-エチルアクリレート-co-メタクリル酸)、ポリ(エチルアクリレート)、ポリ(2-エチルヘキシルアクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリアクリロニトリル、ポリ(アクリロニトリル-co-メチルアクリレート)、ポリ(スチレン-co-無水マレイン酸)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(アルキルメタクリレート)、ポリビニルシクロヘキサン、ポリ(ビスフェノールAカーボネート)、ポリ(プロピレンカーボネート)、ポリ(1,4-ブチレンアジペート)、ポリ(1,4-ブチレンスクシネート)、ポリ(1,4-ブチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンスクシネート)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(テトラヒドロフラン)、ポリ(エチルビニルエーテル)、ポリジメチルシロキサン、ナイロン(脂肪族ポリアミド)、およびそれらの組み合わせまたはコポリマーからなる群から選択される。炭素質ポリマーがまた、複合体に組み込まれてもよい。炭素質ポリマーの例には、ポリアセナフチレン、グラファイト、グラフェン、および炭素繊維が含まれる。」
「【0064】
様々な実施形態において、ポリラクチド-ナノセルロース-リグニン複合体は、ブレンド、マスターバッチ、ペレット、押出原料、成形原料、押出部品、射出成形部品、ブロー成形部品、スパン繊維、層状シート、フィルム、フォーム、容器、袋、工学的部品、3D印刷基材、3D印刷部品、またはそれらの組み合わせの形態である。
【0065】
ポリラクチドとナノセルロースとの間の界面における、複合体中のリグニンの存在は、ポリラクチドーナノセルロース複合体(リグニンをまったく有しない)と比較して、またはポリラクチドのみと比較して、改善された特性(強さおよびバリア特性を含む)を有するよく分散された材料を可能にする。」
「【請求項1】
疎水性ポリマー、約0.05重量%~約50重量%のナノセルロース、および約0.01重量%~約20重量%のリグニンを含むポリマー-ナノセルロース-リグニン複合体であって、前記リグニンの少なくとも一部は、前記疎水性ポリマーと前記ナノセルロースとの間の界面を形成する、ポリマー-ナノセルロース-リグニン複合体。」
(エ)引用例B-2
引用例B-2には、次の記載がある(原文は省略。訳は、特許異議申立人橋詰隆の作製したもの。「【】」の段落番号は原文の「[]」の段落番号に対応している。)
「【0012】
当業者は、複合材料を形成するための様々な仕方があることを認識する。様々な実施形態によれば、提供される複合体は、様々な方法のいずれによって形成されてもよい。一部の実施形態において、複合体は、押出し、圧縮成形、射出成形、および/または熱溶解積層モデリングプロセス(fused layer modeling process)(例えば、3D印刷)によって形成される。」
「【0038】
一般に、ナノセルロースとも称されるセルロースナノフィブリルは、高アスペクト比を有するナノサイズ微細繊維を含む材料である。セルロースナノフィブリル(CNF)は、いくつかの異なる仕方で調製されてもよく、(1)バクテリアセルロースナノファイバ、(2)電界紡糸によるセルロースナノファイバ、(3)ナノフィブリル化セルロース(NFC)、および(4)ナノロッド、セルロースウィスカ、またはセルロースナノ結晶(CNC)を含めて、いくつかの異なる形態で存在してもよい。一部の実施形態において、セルロースナノフィブリルは、少なくとも1つの寸法(例えば、直径、幅、厚さ、および/または長さ)が約100ナノメートル以下である任意の形状を有する、繊維または粒子であってもよい。一部の実施形態において、セルロースナノフィブリルは、5~20(例えば、約5~15、約5~10)ナノメートル(両端を含む)の直径を有してもよい。一部の実施形態において、セルロースナノフィブリルは、約10~5,000(例えば、約10~4,000、約10~3,000、約10~2,000、約10~1,000、または約10~500)ナノメートル(両端を含む)の長さを有してもよい。」
「【0043】
汎用プラスチックの中でも、ポリプロピレン(PP)は、その低価格、軽量、良好な耐候能力、設計柔軟性、再利用性、ならびにその良好な加工性、機械的特性、および耐化学薬品性の魅力的な組み合わせのために、広範に使用されてきた。商業的に入手可能なPPは、0.3~1000超g/10分の範囲のメルトフローインデックス(MFI)を有する多種多様なタイプで製造される。PPの大量生産は、十分に確立され、かつ信頼できる技術を使用して容易かつ経済的に達成され得る。一部の用途について、充填剤または繊維で強化されて、PPは、他の汎用熱可塑性樹脂およびさらにはエンジニアリング熱可塑性樹脂、例えばポリカーボネート(PC)およびアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)の代わりに使用され得る。強化PP複合体は、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、押出し、および熱成形を含む、様々な加工技術を使用して多くの異なるタイプの充填剤を用いて製造され得る。充填PP複合体における最近の開発は、高性能材料が、環境的に優しい強化材(天然木材繊維/セルロース繊維)を使用してppを強化することによって得ることができることを示した。さらに、セルロースナノフィブリルは、PPを強化する際にも使用されてきた。PPにおけるCNFの添加は、ポリプロピレンの機械的特性および熱安定性を改善することが認められた(Ljungbergら、New nanocomposite materia1s reinforced with cellulose whiskers in atactic polypropylene:effect of surface and dispersion characteristics、2005年、Biomacromolecule1s、6:2732~2739頁を参照;Yangら、Mechanical properties of cellulose nanofibril-filled Polypropyrene composites、2011年、Wood Fiber Sci.、43(2):143~152頁;Baharら、Thermal and mechanical properties of polypropylene nanocomposite materials reinforced with nano whiskers、2012年、J Appl Polym Sci、125(4):2882~2889頁も参照)。したがって、様々な実施形態において、MA-コポリマーは、MA-ポロプロピレンである(一部のこのような例示的実施形態については以下の実施例を参照されたい)。」
「【0046】
一部の実施形態において、本発明は、セルロースナノフィブリルおよびMA-コポリマーを非乾燥条件下で会合させる方法を提供する。一部の実施形態において、セルロースナノフィブリルおよびMA-コポリマーの少なくとも一方は、会合ステップが開始される時点で溶液中にある。一部の実施形態において、セルロ一スナノフィブリルおよびMA-コポリマーの少なくとも一方は、会合ステップが開始される時点でエマルションの一部を含む(例えば、MA-コポリマーは、エマルションの分散相であるか、またはそれを含む)。」
「【0050】
一部の実施形態において、会合ステップは、噴霧乾燥プロセスの間に、懸濁液中のセルロースナノフィブリルを、エマルジョン中のMA-コポリマー(たとえばMAPP)と合わせることを含む。一部の実施形態において、会合ステップは、押出しプロセスの間に、乾燥させたセルロースナノフィブリルを、MA-コポリマ-ペレットおよびマトリックスポリマーと混合することを含む。
【0051】
以下の実施例におけるものも含んで、ここに記載されるとおり、ナノフィブリルーMAコポリマーブレンドをマトリックスポリマーへの添加のために用意する様々な方法が、本発明の範囲内として考案されている。一部の実施形態において、ナノフィブリル MA-コポリマーブレンドを用意することは、ナノフィブリル MA-コポリマーブレンドを乾燥させることを含む。典型的には、セルロースナノフィブリルを乾燥させる非限定的な方法は、2013年2月12日に発行された米国特許第8,372,320号に記載されたものを含み、その開示は本明細書に参照としてその全体が組み込まれる。」
「実施例1
【0066】
この実施例は、中でも、提供された方法および組成物が、驚くほど有利な特性を有する強化ポリプロピレンナノ複合材料を達成することができることを示す。
【0067】
他に特定されない限り、この実施例で使用されたプロセスは、以下のとおりであった:
材料
【0068】
この実施例において熱可塑性マトリックスポリマーとして使用されたポリプロピレン(PP)は、イネオス オレフィンズ アンド ポリマーズ USA(リーグ・シティ、テキサス州)より供給されたものであり、H05A-00ポリプロピレンホモポリマーの販売名で販売されている。PPマトリックスの密度は、0.89~0.93g/cm3であった。 この材料についてのメルトフローインデックスは、230℃の温度下で、2.16kgの負荷において、4.70g/10分であった。
【0069】
メーン大学の化学工学科によって提供された3重量%のセルロースナノフィブリル懸濁液を原材料として使用した。CNF懸濁液は、乾燥前、室温においてプラスチック容器中で貯蔵した。
【0070】
非イオン性ポリプロピレンエマルジョン(FGLASS(商標)X35のMAPPエマルジョン)および無水マレイン酸修飾ホモポリマーポリプロピレン(MAPP)ペレット(ポリボンド(Polybond)3200)の結合剤は、マイケルマン社(シンシナティ、オハイオ州)およびケムチュラ社(ローレンスビル、ジョージア州)によって提供された。ポリプロピレンエマルジョン(FGLASS(商標)X35)中、主要な非揮発性物質は、34~36重量%の固形分を有するマレイン化ポリプロピレンであった。このエマルジョンの比重は、0.96~0.98g/cm3であった。22℃において、60RPMにおける軸番号2の回転による、このエマルジョンのブルックフィールド粘度は、約200cpsであった。ポリボンド3200ペレットの無水マレイン酸レベルは、約1.0重量%であった。ポリボンド3200の融点および密度は、157℃および0.91g/cm3であった。2.16kgの負荷による190℃におけるメルトフローは、115g/10分であった。
実験デザインおよびサンプルの調製
【0071】
熱コンパウンディングプロセスを使用して、CNF強化PPナノ複合体を製造した。複合体の配合を表1に示す。まず噴霧乾燥プロセスを通じて、乾燥形態のCNFを得た。次いで、「マスターバッチング」のコンセプトを使用して、CNFをポリマーマトリックス(PPまたはMAPP)中に分散した。「マスターバッチング」は、典型的に、プラスチックコンパウンディングの分野において、プラスチックの着色またはプラスチックに対する他の特性の付与のために使用される。この実施例では、まず、CNF、MAPPおよび/またはPPを含むマスターバッチを製造し、次いで、マスターバッチからの粉砕ペレットを、押出しプロセスを使用してPPマトリックス中に再分散して、複合体を製造した。
表1.複合体の配合(重量%)
------------------------------------------------------------------
複合体 pp CNF(乾燥) ペレット中の エマルション中の
MAPP MAPP
------------------------------------------------------------------
pp 100 0 0 0
PP十MAPP 98 0 2 0
0PP十CNF 94 6 0 0
PP十MAPP十CNF 92 6 2 0
PP十MAPP_CNF 92 6 0 2
【0072】
表1に示す各サンプルのマスターバッチを生成するために、CNFとポリマー(PPまたはPP十MAPP)の重量比を81~200に維持した。2種の異なる結合剤処理に基づいて、2種の異なるプロセスをデザインして、マスターバッチおよび複合体を生成した(図1)。プロセスIでは、まずCNF懸濁液を乾燥させ、次いで、乾燥させたCNFをPPペレットまたはPP十MAPPペレットと混合して、PP十CNFおよびPP十MAPP十CNFのマスターバッチを製造した。最終的な対応する複合体は、押出しプロセスを使用して、表1に示される配合で製造された。MAPPエマルジョン処理されたCNFのためには、図1のプロセスIIを使用した。MAPPエマルジョン処理されたCNFの懸濁液を乾燥させ、次いで、乾燥させたCNFおよびMAPPの混合物をPPと共にコンパウンディングして、PP十CNF_MAPPのマスターバッチを生成した。最終複合体は、同じ押出しプロセスを使用して製造した。純粋なPP、ならびにPPおよび2重量%のMAPPペレットのブレンドもまた、同じ押出し手順を使用して処理した。
【0073】
CNF懸濁液(未処理およびMAPPエマルジョンによって処理されたもの)の乾燥は、ビュツヒ(Buchi)B-290(ビュツヒ、スイス)の研究室規模噴霧乾燥機を通じて行った。噴霧乾燥プロセスは、以前記載したとおりに実施した(上記で参照したPengら、2012年の両方を参照)。」
「【請求項1】
セルロースナノフィブリルを提供するステップと;
前記セルロースナノフィブリルを無水マレイン酸(MA)コポリマーと会合させて、ナノフィブリル-MAコポリマーブレンドを形成するステップと;
前記ナノフィブリル-MAコポリマーブレンドをマトリックスポリマーへの添加のために用意するステップと;
前記ナノフィブリル-MAコポリマーブレンドを前記マトリックスポリマーと会合させることによって複合体を形成するステップとを含み、
前記複合体中のセルロースナノフィブリルの量は、前記複合体の3重量%~50重量%である、方法。
【請求項2】
前記用意するステップが、ナノフィブリル-MA コポリマーブレンドの乾燥を含む、請求項1に記載の方法。」
(オ)引用例B-3
引用例B-3には、次の記載がある。
「【請求項1】
熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメントであって、熱可塑性を有するマトリックス樹脂と、この熱可塑性を有するマトリックス樹脂中に分散された機能性ナノフィラーを含む機能性樹脂組成物によって形成されていることを特徴とする熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメント。
【請求項2】
熱可塑性を有するマトリックス樹脂が、アクリロニトリル-ブチレン-スチレン共重合体樹脂,ポリ乳酸樹脂,ポリアミド樹脂,ポリプロピレン樹脂,ポリエチレン樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリ塩化ビニル樹脂,アクリル樹脂,ポリスチレン樹脂,ポリエステル樹脂,ポリウレタン樹脂,ポリフェニレンエーテル樹脂,ポリアセタール樹脂,ポリフェニレンサルファイド樹脂,フッ素樹脂,ポリアミドイミド樹脂,ポリエーテルスルホン樹脂,ポリスルホン樹脂,液晶ポリマー,ポリアリレート樹脂,ポリエーテルイミド樹脂,芳香族ポリエーテルケトン樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメント。
【請求項3】
機能性ナノフィラーが、導電性ナノ粒子またはナノファイバーである請求項1または請求項2に記載の熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメント。」
「【請求項5】
混練によって熱可塑性を有するマトリックス樹脂中に機能性ナノフィラーが分散状態にされたフィラメント形成用機能性樹脂組成物を押出機でフィラメント形状に連続的に押し出すことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメントの製造方法。」
「【0008】
機能性ナノフィラーとしては、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンブラック(CB)、グラフェン、銀や銅などの金属ナノ粒子、ナノクレイ、セルロースナノファイバー、シリカナノ粒子などが挙げられる。」
「【0010】
金属ナノ粒子は、配合によって造形物の導電性を高めたり、衝撃強度を高めたりすることができる。
セルロースナノファイバーは、添加によって造形物の引張強さや弾性率を高めたり、ガス透過性を減少させたりすることができる。」
「【0013】
熱可塑性を有する樹脂と機能性ナノフィラーの配合割合は、機能性ナノフィラーが配合されていない従来のフィラメントの可撓性などの取り扱い性を損なうことなく所望の機能を発現できれば、特に限定されないが、熱可塑性を有する樹脂100重量部に対して機能性ナノフィラーが5重量部以下とすることが好ましく、0.5重量部以下とすることがより好ましい。」
「【0078】
本発明のフィラメントは、熱溶解積層方式の3Dプリンタを用いて、高機能性を備えた造形物を作製するのに好適である。」
(カ)引用例B-4
引用例B-4には、次の記載がある。
「【請求項7】
セルロースと、樹脂と、分散剤とを含む樹脂複合組成物であって、
該分散剤が樹脂親和性セグメントAとセルロース親和性セグメントBとを有し、ブロック共重合体構造又はグラジエント共重合体構造を有するものであることを特徴とする、樹脂複合組成物。」
「【請求項15】
樹脂複合組成物の製造方法であって、
(1)セルロースと、分散剤とを混合し、セルロース及び分散剤を含む組成物を得る工程、及び、
(2)樹脂と、工程(1)で得られた組成物とを混合する工程、
を含み、
該分散剤が樹脂親和性セグメントAとセルロース親和性セグメントBとを有し、ブロック共重合体構造又はグラジエント共重合体構造を有するものであることを特徴とする、樹脂複合組成物の製造方法。」
「【0002】
セルロース繊維は、全ての植物の基本骨格物質であり、地球上に一兆トンを超える蓄積がある。また、セルロース繊維は、鋼鉄の1/5の軽さであるにも関わらず、鋼鉄の5倍以上の強度、ガラスの1/50の低線熱膨張係数を有する繊維である。そこで、セルロース繊維を、樹脂等のマトリックス中にフィラーとして含有させ、機械的強度を付与させる技術がある(特許文献1)。また、セルロース繊維が有する機械的強度を更に向上させる目的で、セルロース繊維を解繊して、セルロースナノファイバー(CNF、ミクロフィブリル化植物繊維)が製造されている(特許文献2)。」
「【0003】
・・・ナノセルロースは、水酸基を豊富に有するので、親水性で極性が強く、疎水性で極性の無い汎用性樹脂との相溶性に劣る側面がある。」
「【0004】
また、セルロース繊維及び汎用性樹脂を含む組成物に、分散剤を添加して、セルロース繊維と汎用性樹脂との相溶性を向上させることが検討されている。特許文献3では、セルロース繊維及び熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物に、カーボンブラック、酸化亜鉛等の無機物、ポリオール、ヒマシ油水添物、リシノール酸誘導体等の分散剤等を配合して、熱可塑性樹脂中でセルロース繊維を分散させている。」
「【0041】
本発明の組成物を用いると、特定の分散剤により、樹脂に対するセルロースの分散性を向上させることができる。また、本発明の組成物を用いると、分散剤がセルロース(好ましくはセルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノクリスタル(CNC))を被覆することで、セルロースと樹脂との界面の強度を高めることができる。その結果、本発明の組成物を用いて製造した、セルロース、樹脂、分散剤を含む樹脂複合組成物は、強度及び弾性率に優れる。」
「【0054】
本発明では、セルロース繊維として、ナノセルロースを用いることが好ましい。本発明において、「ナノセルロース」とは、セルロース繊維を含む材料(例えば、木材パルプ等)を、その繊維をナノサイズレベルまで解きほぐした(解繊処理した)セルロースナノファイバー(CNF)及びセルロースナノクリスタル(CNC)である。」
「【0055】
CNFは、セルロース繊維を機械的解繊等の処理を施すことで得られる繊維であり、・・・CNFの繊維径は、平均値が通常4~200nm程度、好ましくは4~150nm程度、特に好ましくは4~100nm程度である。」
「【0162】
樹脂組成物中の分散剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、分散剤を5質量部程度に設定することによって、セルロースによる補強効果を得ることができる。セルロースの含有量を5質量部以上に設定することにより、更に高い分散効果を得ることができる。組成物中の分散剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、1~20質量部程度であることがより好ましく、2~10質量部程度であることが更に好ましく、5~10質量部程度であることが特に好ましい。
【0163】
本発明の樹脂組成物はマトリックスとして樹脂が含まれる。樹脂組成物では、分散剤を含み、セルロースと混合した際に、樹脂との界面の親和性を向上させることができる。」
(キ)引用例B-6
引用例B-6には、次の記載がある。
「【請求項1】
1個当たりの平均直径が0.01mm以上、0.5mm以下であるビーズを用いて、表面修飾されたセルロース繊維を有機溶剤中で平均繊維径として、2nm以上、1.0μm以下にミクロフィブリル化させることを特徴とする湿式分散方法。
【請求項2】
湿式分散を行う前に、前記有機溶剤中に分散剤を添加することを特徴とする請求項1記載の湿式分散方法。」
「【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の湿式分散方法で分散した分散液に、樹脂を添加、混合して樹脂成形体を製造することを特徴とする樹脂成形体の製造方法。」
(ク)引用例B-7
引用例B-7には、次の記載がある。
「【請求項1】
重合性化合物とセルロースナノファイバーとを溶媒に分散させた分散液中で、前記重合性化合物を重合させることにより得られる、複合樹脂組成物。
【請求項2】
前記重合性化合物の重合物が、熱可塑性樹脂である、請求項1に記載の複合樹脂組成物。」
「【0030】
上記分散液は、分散剤を含むことが好ましい。該分散剤は、上記分散液中で上記重合性化合物の液滴を懸濁及び分散させて、分散を安定化させる役割を有する。上記分散剤は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。」
(ケ)引用例B-8
引用例B-8には、次の記載がある。
「[請求項1]ポリアミド樹脂100質量部に対して、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維0.01~50質量部を含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。」
「[0019]したがって、本発明においては、セルロース繊維として、平均繊維径が10μm以下のものを用いることが必要であり、中でも平均繊維径は500nm以下であることが好ましく、さらには、300nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下である。」
「[0086]表1から明らかなように、実施例1~17で得られたポリアミド樹脂組成物は、繊維径が10μm以下のセルロース繊維の水分散液とポリアミド樹脂を構成するモノマーを混合し、重合反応を行うことにより得られたものであったため、ポリアミド樹脂中に微細なセルロース繊維が凝集することなく均一に分散されたものであった。このような分散状態は図1よりも明らかである。すなわち、図1は、実施例9で得られたポリアミド樹脂組成物の断面を撮影した電子顕微鏡写真であり、その楕円で囲まれた領域に示されているように、セルロース繊維同士は凝集することなく分散している。このため、実施例1~17で得られたポリアミド樹脂組成物は、いずれも曲げ弾性率、引張り弾性率、曲げ強度、引張降伏強度ともに高く、さらに、MD方向の線膨張係数は低く、機械的特性に優れたものであった。さらには、熱変形温度が高く耐熱性にも優れていた。」
(コ)引用例B-9
引用例B-9には、次の記載がある。
「【請求項1】
微細セルロース繊維にエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド(EO/PO)共重合部又はプロピレンオキサイド(PO)重合部を有する重合体がアミド結合を介して連結してなる、微細セルロース繊維複合体。」
「【請求項3】
微細セルロース繊維の平均繊維径が0.1~200nmである、請求項1又は2記載の複合体。」
「【請求項9】
熱可塑性樹脂又は硬化性樹脂と請求項1~7いずれか記載の微細セルロース繊維複合体とを含有する、樹脂組成物。」
「【0139】
また、本発明では、熱硬化性樹脂として、ゴム系樹脂を用いることができる。ゴム系樹脂は、強度を高めるために、補強材としてカーボンブラック配合品が汎用されているが、その補強効果にも限界があると考えられる。しかしながら、本発明では、ゴム系樹脂に本発明の微細セルロース繊維複合体を配合することで前記エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド(EO/PO)共重合部又はプロピレンオキサイド(PO)重合部を有する微細セルロース繊維複合体同士が、立体斥力による反発により樹脂中への分散性を高めると共に、セルロース繊維複合体自身の樹脂への親和性が高められたため、樹脂と配合した際に該樹脂中での分散に優れるものとなり、結果として得られる樹脂組成物が機械的強度に優れ、更に耐熱性や寸法安定性を向上させることが可能となると考えられる。」
イ 引用発明の認定
(ア)引用例A-1に記載された発明(引用発明A-1)
引用例A-1には、請求項1から、「バイオマスを過熱水蒸気で加熱処理して形成されたバイオマス繊維と、ポリビニルアルコール水溶液、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、又は低分子量ポリカプロラクトンからなる分散剤とを多軸押出機に入れて混練して形成された数十~数百nmのバイオマスナノ繊維と、高分子樹脂とを混合したバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体」が記載されているといえる。
そして、[0040]から、該高分子樹脂複合体は、3Dプリンターの樹脂補強材に用いられるものである。
また、[0005]から、該バイオマスはセルロースであり、[0051]~[0052]から、該分散剤はポリビニルアルコール水溶液であり、該高分子樹脂はポリプロピレンである態様が認められる。
そして、[0051]~[0052]から、粉砕竹粉10gに対して、9質量%濃度のポリビニルアルコール水溶液を10g(ポリビニルアルコールの質量は0.9g)と、ポリプロピレン180gとを使用していることから、総量190.9gに対し、バイオマスナノ繊維は5.2重量%、ポリビニルアルコールは0.47重量%、ポリプロピレンは94.2重量%と算出できる。
また、[0052]から、該高分子樹脂複合体は、押出成形されるものである。
そうすると、引用例A-1には、
「セルロースであるバイオマスを過熱水蒸気で加熱処理して形成されたバイオマス繊維と、ポリビニルアルコール水溶液からなる分散剤とを多軸押出機に入れて混練して形成された、数十~数百nmのバイオマスナノ繊維と、ポリプロピレンとを混合したバイオマスナノ繊維を含む、押出成形される高分子樹脂複合体であって、
バイオマスナノ繊維は5.2重量%、ポリビニルアルコールは0.47重量%、ポリプロピレンは94.2重量%含まれる、3Dプリンターの樹脂補強材に用いられる高分子樹脂複合体。」(以下、「引用発明A-1」という。)が記載されていると認められる。
(イ)引用例B-1に記載された発明(引用発明B-1)
引用例B-1には、【請求項1】から、「疎水性ポリマー、約0.05重量%~約50重量%のナノセルロース、および約0.01重量%~約20重量%のリグニンを含むポリマー-ナノセルロース-リグニン複合体であって、前記リグニンの少なくとも一部は、前記疎水性ポリマーと前記ナノセルロースとの間の界面を形成する、ポリマー-ナノセルロース-リグニン複合体。」が記載されているといえる。
そして、【0035】から、該ナノセルロースは、0.01nm~1000nm(1μm)のナノサイズのナノフィブリル化セルロースであり、【0053】~【0054】から、該疎水性ポリマーは、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(乳酸)(またはポリラクチド)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ(メチルメタクリレート)等であり、【0064】から、該ポリマー-ナノセルロース-リグニン複合体は、3D印刷基材、3D印刷部品等に用いられるものである。
そうすると、引用例B-1には、
「ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(乳酸)(またはポリラクチド)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ(メチルメタクリレート)等の疎水性ポリマー、約0.05重量%~約50重量%の0.01nm~1000nm(1μm)のナノサイズのナノフィブリル化セルロースであるナノセルロース、および約0.01重量%~約20重量%のリグニンを含むポリマー-ナノセルロース-リグニン複合体であって、前記リグニンの少なくとも一部は、前記疎水性ポリマーと前記ナノセルロースとの間の界面を形成する、3D印刷基材、3D印刷部品等に用いられるポリマー-ナノセルロース-リグニン複合体。」(以下、「引用発明B-1」という。)が記載されていると認められる。
(ウ)引用例B-2に記載された発明(引用発明B-2)
引用例B-2には、請求項1から、「セルロースと、無水マレイン酸(MA)コポリマーと、マトリックスポリマーとを含み、セルロースナノフィブリルの量は、前記複合体の3重量%~50重量%である複合体。」が記載されているといえる。
そして、【0012】から、該複合体は、3D印刷によって形成されるものであり、【0038】から、該セルロースは、約100ナノメートル以下である任意の形状を有する、セルロースナノフィブリルであり、【0043】から、該マトリックスポリマーは、ポリプロピレン(PP)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)等である。
また、請求項2には、上記請求項1の「ナノフィブリル」は、「ナノフィブリル-MA コポリマーブレンド」を「乾燥」したものであることが記載されている。
そして、【0071】~【0072】には、CNF強化PPナノ複合体について、「MAPPエマルジョン処理されたCNFの懸濁液を乾燥させ、次いで、乾燥させたCNFおよびMAPPの混合物をPPと共にコンパウンディングして、PP十CNF_MAPPのマスターバッチを生成」(【0072】)することが記載されている。
ここで、CNFとは、「セルロースナノフィブリル」(【0038】)であり、PPとは、「ポリプロピレン」(【0043】)であり、MAとは、「無水マレイン酸」(【請求項1】)、MAPPとは、マレイン化ポリプロピレンであり、エマルジョンは分散体を表すから、引用例B-2には、セルロースナノフィブリル(CNF)とマレイン化ポリプロピレン(MAPP)との分散体を乾燥させたものと、ポリプロピレンとを混合させて複合体を得ることが記載されているといえる。
そうすると、引用例B-2には、
「約100ナノメートル以下である任意の形状を有する、セルロースナノフィブリルであるセルロースと、マレイン化ポリプロピレンと、ポリプロピレンのマトリックスポリマーとを含み、セルロースナノフィブリルの量は、前記複合体の3重量%~50重量%であって、セルロースナノフィブリルとマレイン化ポリプロピレンとの分散体を乾燥させたものと、ポリプロピレンのマトリックスポリマーとを混合させて得られた、3D印刷によって形成される複合体。」(以下、「引用発明B-2」という。)が記載されていると認められる。
(エ)引用例B-3に記載された発明(引用発明B-3)
引用例B-3には、【請求項1】から、熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメントであって、熱可塑性を有するマトリックス樹脂と、この熱可塑性を有するマトリックス樹脂中に分散された機能性ナノフィラーを含む機能性樹脂組成物によって形成されている熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメントが記載されているといえる。
そして、【請求項2】から、該熱可塑性を有するマトリックス樹脂が、アクリロニトリル-ブチレン-スチレン共重合体樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアセタール樹脂等であり、【0008】から、機能性ナノフィラーはセルロースナノファイバーであり、【請求項5】から、該熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメントは、混練によって熱可塑性を有するマトリックス樹脂中に機能性ナノフィラーが分散状態にされたフィラメント形成用機能性樹脂組成物を押出機でフィラメント形状に連続的に押し出すことによって製造されるものであり、【0078】から、熱溶解積層方式の3Dプリンタを用いて、高機能性を備えた造形物を作製するために用いられる熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメントである。
そうすると、引用例B-3には、
「熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメントであって、アクリロニトリル-ブチレン-スチレン共重合体樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアセタール樹脂等の熱可塑性を有するマトリックス樹脂と、この熱可塑性を有するマトリックス樹脂中に分散されたセルロースナノファイバーの機能性ナノフィラーを含む機能性樹脂組成物によって形成されている熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメントであって、
該熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメントは、混練によって熱可塑性を有するマトリックス樹脂中に機能性ナノフィラーが分散状態にされたフィラメント形成用機能性樹脂組成物を押出機でフィラメント形状に連続的に押し出すことによって製造されるものであり、
熱溶解積層方式の3Dプリンタを用いて、高機能性を備えた造形物を作製するために用いられる熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメント。」(以下、「引用発明B-3」という。)が記載されていると認められる。
ウ 対比・判断
(ア)引用発明A-1を主引用発明とした場合
a 本件発明1について
引用発明A-1の「3Dプリンターの樹脂補強材に用いられる高分子樹脂複合体」、「セルロースであるバイオマスを過熱水蒸気で加熱処理して形成されたバイオマス繊維と、ポリビニルアルコール水溶液からなる分散剤とを多軸押出機に入れて混練して形成された、数十~数百nmのバイオマスナノ繊維」及び「ポリプロピレン」は、本件発明1の「3Dプリンタ用造形材料」、「(A)セルロースナノファイバー」及び「(C)ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である熱可塑性樹脂からなる樹脂成分」にそれぞれ相当する。
また、本件発明1の「(B)P-OH基、または-SO3H基の金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤、あるいは(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を含む分散剤」と、引用発明A-1の「ポリビニルアルコール水溶液からなる分散剤」とは、分散剤である点で共通する。
そうすると、本件発明1と引用発明A-1とは、
「3Dプリンタ用造形材料であって、(A)セルロースナノファイバー、(B)分散剤及び(C)ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である熱可塑性樹脂からなる樹脂成分を主成分とする造形材料。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点A-1-1)
(B)分散剤について、本件発明1は、「(B)P-OH基、または-SO3H基の金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤、あるいは(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を含む分散剤」であるのに対し、引用発明A-1の「ポリビニルアルコール水溶液からなる分散剤」は、このような分散剤ではない点。
(相違点A-1-2)
本件発明1は、「(A)+(B)の分散体の乾燥体」を含むのに対し、引用発明A-1は、「セルロースであるバイオマスを過熱水蒸気で加熱処理して形成されたバイオマス繊維と、ポリビニルアルコール水溶液からなる分散剤とを多軸押出機に入れて混練して形成された、数十~数百nmのバイオマスナノ繊維」が、分散体の乾燥体であるかどうか不明な点。
ここで、相違点について検討する。
(相違点A-1-1について)
引用例A-1には、次のような記載が認められる。
「[0027]第1の発明に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体は、バイオマスナノ繊維と高分子樹脂とを混合して形成されているので、圧縮成形や射出成形によって強度を有する複雑な成形品を得ることができる。ここで、ポリビニルアルコール水溶液、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、又は低分子量ポリカプロラクトンは相溶性を高める物質として作用する。即ち、バイオマス繊維がいかに強度が高くても、高分子樹脂(例えば、PP)とバイオマス繊維は性質が全く異なるので、その界面には接着性はなく、接着性がないとバイオマス繊維による繊維強化は発揮しない。そこで、適切に界面に相溶性(接着性)を高める相溶化剤は不可欠である。従って、第1の発明においては、通常の高分子樹脂の物性にバイオマス繊維の繊維強化を発現させるために、以上の相溶化剤(即ち、分散剤)が添加されている。」
この記載によれば、引用発明A-1において、「ポリビニルアルコール(水溶液)」は、バイオマス繊維の分散剤として用いられるとともに、バイオマス繊維と高分子樹脂(ポリプロピレン)との界面に相溶性(接着性)を高める相溶化剤として用いられるものであるといえる。
しかしながら、バイオマス繊維と高分子樹脂(ポリプロピレン)との界面に相溶性(接着性)を高める相溶化剤として、「P-OH基、または-SO3H基の金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤、あるいは(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体」を用いることができることは、引用例A-1のみならず、上記1.(2)で示したいずれの引用例にも記載も示唆もされていない。
また、引用発明A-1において、バイオマス繊維の分散剤として、「ポリビニルアルコール水溶液からなる分散剤」に替えて、「P-OH基、または-SO3H基の金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤、あるいは(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体」を用いる動機付けを、上記1.(2)で示したいずれの引用例からも見出すことはできない。
そうすると、引用発明A-1において、「ポリビニルアルコール水溶液からなる分散剤」に替えて、「(B)P-OH基、または-SO3H基の金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤、あるいは(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を含む」ものを用いることは、当業者が容易に想到し得ることである、とすることはできない。
そして、本件発明1は、「本発明の造形材料は、セルロースナノファイバーなどの(A)ナノファイバーが(B)分散剤の働きにより、ナノオーダーでナノファイバーの絡み合いがほどけ、さらにセルロース水酸基の水素結合による凝集がブロックされて、均一に(C)樹脂成分中に分散しているので、強度、弾性率が向上し、しかもナノファイバーが分散しているので、設計上の形状を造形物としてより正確に再現でき、表面平滑性に優れ、さらにナノファイバーとしてセルロースナノファイバーを用いた場合には、透明性、染色性にも優れ、光の波長によりセルロースナノファイバーの分散径が小さく、セルロースに起因した染色性も高い、三次元造形物が得られ、3Dプリンタ用造形材料として好適である。」(本件明細書【0006】)という、格別顕著な作用効果を奏するものである。
(まとめ)
したがって、上記相違点A-1-2について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明A-1であるとすることはできないし、引用発明A-1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることもできない。
b 本件発明3~5、7~9について
本件発明3~5、7~9は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、引用発明A-1であるとすることはできないし、引用発明A-1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることもできない。
(イ)引用発明B-1を主引用発明とした場合
a 本件発明1について
引用発明B-1の「3D印刷基材、3D印刷部品等に用いられるポリマー-ナノセルロース-リグニン複合体」、「約0.05重量%~約50重量%の0.01nm~1000nm(1μm)のナノサイズのナノフィブリル化セルロースであるナノセルロース」及び「ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(乳酸)(またはポリラクチド)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ(メチルメタクリレート)等の疎水性ポリマー」は、本件発明1の「3Dプリンタ用造形材料」、「(A)ナノファイバー」及び「(C)ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である熱可塑性樹脂からなる樹脂成分」にそれぞれ相当する。
本件発明1の「(B)P-OH基、または-SO3H基の金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤、あるいは(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を含む分散剤」と引用発明B-1の「約0.01重量%~約20重量%のリグニン」とは、分散剤である点で共通する。
そうすると、本件発明1と引用発明A-1とは、
「3Dプリンタ用造形材料であって、(A)セルロースナノファイバー、(B)分散剤、及び(C)ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である熱可塑性樹脂を主成分とする造形材料。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点B-1-1)
(B)分散剤について、本件発明1は、「(B)P-OH基、または-SO3H基の金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤、あるいは(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を含む分散剤を含む分散剤」であるのに対し、引用発明B-1の「約0.01重量%~約20重量%のリグニン」は、このような分散剤かどうか不明な点。
(相違点B-1-2)
本件発明1は、「(A)+(B)の分散体の乾燥体」を含むのに対し、引用発明B-1の「約0.01重量%~約20重量%のリグニンを含むポリマー-ナノセルロース-リグニン複合体」が、分散体の乾燥体であるかどうか不明な点。
ここで、相違点について検討する。
(相違点B-1-1について)
「リグニン」が、その末端にP-OH基、又は-SO3H基を有することは、上記1.(2)で示したいずれの引用例にも記載も示唆もされてない。
また、引用発明B-1において、「リグニン」に替えて、「P-OH基、または-SO3H基の金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤、あるいは(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を含む分散剤」を採用する動機付けを、上記1.(2)で示したいずれの引用例からも見出すことはできない。
そうすると、上記相違点B-1-1に係る本件発明1の発明特定事項について、当業者が容易に想到し得たものである、とすることはできない。
そして、本件発明1は、上述のような格別顕著な作用効果を奏するものである。
(まとめ)
したがって、本件発明1は、上記相違点B-1-2について検討するまでもなく、引用発明B-1と同一とはいえないし、引用発明B-1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
b 本件発明3~5、7~9について
本件発明3~5、7~9は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、引用発明B-1と同一とはいえないし、引用発明B-1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(ウ)引用発明B-2を主引用発明とした場合
a 本件発明1について
引用発明B-2の「3D印刷によって形成される複合体」、「約100ナノメートル以下である任意の形状を有する、セルロースナノフィブリルであるセルロース」及び「ポリプロピレン」は、本件発明1の「3Dプリンタ用造形材料」、「(A)ナノファイバー」及び「(C)ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である熱可塑性樹脂からなる樹脂成分」にそれぞれ相当する。
また、本件発明1の「(B)P-OH基、または-SO3H基の金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤、あるいは(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を含む分散剤」と引用発明B-2の「マレイン化ポリプロピレン」とは、分散剤である点で共通する。
そして、本件発明1の「(A)+(B)の分散体の乾燥体」と、引用発明B-2の「セルロースナノフィブリルとマレイン化ポリプロピレンとの分散体を乾燥させたもの」とは、「(A)+(B)の分散体の乾燥体」である点で共通する。
そうすると、本件発明1と引用発明B-2とは、
「3Dプリンタ用造形材料であって、(A)セルロースナノファイバー、(B)分散剤、及び(C)熱可塑性樹脂または光硬化性樹脂からなる樹脂成分を主成分とする造形材料。」「3Dプリンタ用造形材料であって、(A)セルロースナノファイバー、(B)分散剤を含む(A)+(B)の分散体の乾燥体、及び(C)ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である熱可塑性樹脂からなる樹脂成分を主成分とする造形材料。」である点で一致し、次の点で相違が認めら
(相違点B-2)
(B)分散剤について、本件発明1では、「P-OH基、または-SO3H基の金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤、あるいは(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を含む分散剤」であるのに対し、引用発明B-2の「マレイン化ポリプロピレン」は、このような分散剤かどうか不明な点。
ここで、相違点B-2について検討する。
マレイン化ポリプロピレンは、ポリプロピレンに「-COOH基」が結合したものであるところ、ポリプロピレンに、P-OH基、又は-SO3H基を結合させたものについては、上記1.(2)で示したいずれの引用例にも、記載も示唆もされていない。
また、引用発明B-2において、マレイン化ポリプロピレンに替えて、「P-OH基、または-SO3H基の金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤、あるいは(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を含む分散剤」を採用する動機付けを、上記1.(2)で示したいずれの引用例からも見出すことはできない。
そうすると、上記相違点B-2に係る本件発明1の発明特定事項について、当業者が容易に想到し得たものである、とすることはできない。
そして、本件発明1は、上述のような格別顕著な作用効果を奏するものである。
(まとめ)
したがって、本件発明1は、引用発明B-2と同一とはいえないし、引用発明B-2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
b 本件発明3~5、7~9について
本件発明3~5、7~9は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、引用発明B-2と同一とはいえないし、引用発明B-2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(エ)引用発明B-3を主引用発明とした場合
a 本件発明1について
引用発明B-3の「熱溶解積層方式の3Dプリンタを用いて、高機能性を備えた造形物を作製するために用いられる熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメント」、「セルロースナノファイバーの機能性ナノフィラー」及び「アクリロニトリル-ブチレン-スチレン共重合体樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアセタール樹脂等の熱可塑性を有するマトリックス樹脂」は、本件発明1の「3Dプリンタ用造形材料」、「(A)ナノファイバー」及び「(C)ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である熱可塑性樹脂からなる樹脂成分」にそれぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明B-3とは、
「3Dプリンタ用造形材料であって、(A)ナノファイバー及び(C)ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である熱可塑性樹脂からなる樹脂成分を主成分とする造形材料。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点B-3-1)
本件発明1は、「(B)P-OH基、または-SO3H基の金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤、あるいは(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を含む分散剤」であるのに対し、引用発明B-3には、分散剤は含まれない点。
(相違点B-3-2)
本件発明1は、「(A)+(B)の分散体の乾燥体」を含むのに対し、引用発明B-3は、このような分散体の乾燥体は含まない点。
ここで、上記相違点B-3-1及びB-3-2についてまとめて検討する。
引用発明B-3において、上記相違点B-3-1に係る本件発明1の分散剤を用いた上で、さらに、「セルロースナノファイバーの機能性ナノフィラー」に替えて、「セルロースナノファイバーの機能性ナノフィラー」と該分散剤との分散体の乾燥体を採用する動機付けを、上記1.(2)で示したいずれの引用例からも見出すことはできない。
そうすると、上記相違点B-3-1及びB-3-2に係る本件発明1の発明特定事項について、当業者が容易に想到し得たものである、とすることはできない。
そして、本件発明1は、上述のような格別顕著な作用効果を奏するものである。
(まとめ)
したがって、本件発明1は、引用発明B-3と同一とはいえないし、引用発明B-3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
b 本件発明3~5、7~9について
本件発明3~5、7~9は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、引用発明B-3と同一とはいえないし、引用発明B-3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(2)理由3(サポート要件)、理由4(実施可能要件)についての検討
取消理由通知に記載した取消理由3、4は、具体的には、次のとおりのものである。
「1.理由3(サポート要件)
本件発明の課題は、「セルロースナノファイバーなどのナノファイバーを樹脂中に均一に分散させることにより、強度、弾性率が向上し、強度、弾性率が向上し、設計上の形状を造形物としてより正確に再現でき、表面平滑性に優れ、さらに透明性や染色性にも優れる三次元造形物が得られる3Dプリンタ用の造形材料を提供すること」(【0004】)と解せられるところ、下記の(1)及び(2)の点について、発明の詳細な説明において本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえない。
(1)分散剤について
本件明細書には、「(B)分散剤としては、(A)セルロースナノファイバーを分散できるものであれば、いかなるものでもよい。例えば、「P-OH基、-COOH基、-SO3H基、および/またはそれらの金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤」(特開2012-51991号公報)、樹脂親和性セグメントAとセルロース親和性セグメントBとを有し、ブロック共重合体構造またはグラジエント共重合体構造を有する分散剤」(特開2014-162880号公報)などが挙げられるが、なかでも、マトリックス成分となる樹脂成分との親和性が良好な、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を含む分散剤が好ましい。」(本件明細書【0011】)と記載されている。
しかしながら、本件明細書の実施例は、いずれも、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体が使用されているのみである(本件明細書【0042】)。
そして、本件特許の出願時の技術常識を参酌しても、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体以外の分散剤が、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体と同じ性質を有するとは考えられない。
したがって、分散剤がメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体以外である場合、本件発明が解決しようとする課題を解決し、本件発明の効果を奏し得るとは、本件明細書の記載から推認できない。
また、同様の理由により、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体以外の分散剤を含み、且つ、本件発明の効果を奏する造形材料を得ることができるのか、理解することができない。
したがって、分散剤に、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体以外の分散剤を含む、請求項2、3、請求項4又は5を引用しない請求項6~9の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、仮に、特許権者が、「メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体」以外のいかなる分散剤を使用しても、(A)成分と(B)成分との「分散体の乾燥体」を使用すれば、本件発明の効果を奏すると主張したとしても、このようなことは、以下の理由から、本件発明の出願時の技術常識を参酌しても、本件発明の明細書の記載から推認できない。
本件明細書において、実施例は、(A)成分と(B)成分との分散体を乾燥体として使用することによる効果を確認したものではない。具体的に、本件明細書において、実施例1乃至3は、濃度を変化させたセルロースナノファイバーに対して、分散剤としてメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を使用した例である(本件明細書【0042】~【0044】)。
一方、比較例1は、分散対象であるセルロースナノファイバーを未添加とした例であり、比較例2は、分散剤メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を未添加とした例である。これらの実施例と比較例とからわかる事実は、セルロースナノファイバーに対する、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体の性質のみである。
このため、本件の出願時の技術常識を参酌しても、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体以外のいかなる分散剤であっても、「(A)成分と(B)成分との分散体を乾燥体」とすることのみによって、分散剤としてメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を使用した場合と同様に、本件発明が解決しようとする課題を解決し、本件発明の効果を奏し得るとは、本件明細書の記載から推認できない。
また、同様の理由により、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体以外の分散剤を含み、且つ、本件発明の効果を奏する造形材料を得ることができるのか、理解することもできない。
(2)請求項2の「(A)+(B)の分散体の乾燥体」について
平成30年10月29日付けの意見書において、特許権者は、以下のように述べている。
「本件特許発明の特徴としては、以下の通りである。
すなわち、流通段階では非常に粘度の高い(A)セルロースナノファイバーに大量の溶媒を加えて粘度を低下させた分散溶液を用いて、(A)セルロースナノファイバーの絡み合いを解きながら(B)分散剤を加えると、(A)セルロースナノファイバーに(B)分散剤が満遍なく(イオン的に)吸着した、均一、安定なセルロースナノファイバー分散体を作製することができる。次いで、この分散体から例えば凍結乾燥といった乾燥プロセスにより溶媒を除去すると、分散剤が均一に吸着したセルロースナノファイバー乾燥体とすることができる。この乾燥体を用いると、熱可塑性樹脂、あるいは熱硬化性樹脂と容易に複合化することが可能となり、3Dプリンタ用造形材料とすることができる。」(3頁6~14行)
しかしながら、分散剤として「P-OH基、-COOH基、-SO3H基、および/またはそれらの金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤」を用いた場合に、「(A)セルロースナノファイバーに大量の溶媒を加えて粘度を低下させた分散溶液を用いて、(A)セルロースナノファイバーの絡み合いを解きながら(B)分散剤を加える」ことを行えば、「メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体」を用いなくても、「(A)セルロースナノファイバーに(B)分散剤が満遍なく(イオン的に)吸着した、均一、安定なセルロースナノファイバー分散体を作製することができる」ようになるという技術常識は見出せない。
そうすると、「メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体」以外の「(B)分散剤」による「セルロースナノファイバー分散体」について、「(A)十(B)の分散体の乾燥体」を用いたからといって、「熱可塑性樹脂、あるいは熱硬化性樹脂と容易に複合化することが可能となり、3Dプリンタ用造形材料とすることができる」ようになるとは認められない。
よって、本件発明2が本件発明が解決しようとする課題を解決し、本件発明の効果を奏し得るとは、本件明細書の記載から推認できない。
したがって、請求項2、3、請求項4又は5を引用しない請求項6~9の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(3)まとめ
以上のことから、発明の詳細な説明において本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえず、出願時の技術常識に照らしても、本件発明2、3及び6~9の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではなく、本件発明2、3及び6~9は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えることとなる。
よって、請求項2、3及び6~9の記載は、特許法第36条第6項第1項に規定する要件を満たしていない。
2.理由4(実施可能要件)
上記1.で述べたように、本件発明2、3及び本件発明4又は5を引用しない本件発明6~9は、発明の詳細な説明の記載に基いても、セルロースナノファイバー及びメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体)を組み合わせた場合以外に、本件発明の効果を奏する造形材料を得ることができるのか、理解できないのであるから、本件発明2、3及び本件発明4又は5を引用しない本件発明6~9について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。」
ここで、まず、上記理由3について検討する。
特許権者は、分散剤について、本件訂正により、「P-OH基、または-SO3H基の金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤、あるいは(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を含む分散剤」であることを特定し、しかも、平成30年10月29日付けの意見書に添付された平成30年10月17日付けの「実験成績証明書」の「実験例2」において、分散剤が「スルホン酸系共重合体(アロン A-6012、東亞合成(株)製、-SO3H基含有ナトリウム塩)」である造形材料によって、そして、平成31年4月4日付けの回答書に添付された平成31年3月15日付けの「実験成績証明書」の「実験例3」において、分散剤が「リン酸系分散剤(商品名:ライトエステル P-1M、共栄社化学(株)製、P-OH基含有、リン酸2-(メタクロイルオキシ)エチル)」である造形材料によって、いずれも、「熱溶解積層方式3Dプリンタ(Leapfrog社製、Creatr dual)」を用いて、「M16六角ボルト」を作製したことを示した。
そうすると、上記実験例2及び3を参酌すれば、「メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体」以外の「P-OH基、または-SO3H基の金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤、による「セルロースナノファイバー分散体」について、「(A)+(B)の分散体の乾燥体」を用いることで、「熱可塑性樹脂、あるいは熱硬化性樹脂と容易に複合化することが可能となり、3Dプリンタ用造形材料とすることができる」ようになることを認識できるといえ、請求項1の記載及び請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項3~5、7~9の記載は、特許法第36条第6項第1項に規定する要件を満たしていないとはいえない。
次に、上記理由4について検討する。
上述したように、上記実験例2及び3を参酌すれば、発明の詳細な説明の記載に基いて、本件発明の効果を奏する造形材料を得ることができることが理解できるから、本件発明1及び本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明3~5、7~9について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。
したがって、上記理由3、4には、理由がない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3~5、7~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、3~5、7~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2及び6に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人A及びBによる特許異議の申立てについて、請求項2及び6に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-701244