特許異議申立
2017-701131
ポリカーボネート樹脂組成物および光学用成形品
- 審判番号
- 2017-701131
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-233009外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年11月30日
- 審決日
- 2018年07月23日
- 公報発行日
- 2018年10月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住化ポリカーボネート株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人 小笠原特許事務所
- 【異議申立人】出光興産 株式会社
- 【異議申立人代理人】平澤 賢一
- 分類
- P1651.161-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第4項、特許法第184条の13、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6137516号発明「ポリカーボネート樹脂組成物および光学用成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6137516号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第6137516号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6137516号(以下、「本件特許」という。)に係る出願(特願2016-233009号。以下、「本願」という。)は、平成27年3月26日出願の特願2015-64120号、平成27年9月15日出願の特願2015-181805号を優先基礎出願とする優先権主張を伴って、出願人住化ポリカーボネート株式会社(合議体注;出願時の名称は、住化スタイロンポリカーボネート株式会社)によりなされた、平成28年3月24日を国際出願日とする特許出願(特願2016-547118号)の一部を、平成28年11月30日に新たな特許出願としたものであって、平成29年5月12日に特許権の設定登録がされ、同年5月31日に特許掲載公報が発行された。
その後、特許異議申立人出光興産株式会社(以下、「申立人」という。)により、請求項1~7に係る本件特許について、特許異議の申立てがされ、平成30年2月5日付けで取消理由が通知され、特許権者より同年4月10日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年6月5日に申立人から意見書が提出された。
第2 訂正の適否についての判断
1.請求の趣旨
平成30年4月10日に特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、「特許第6137516号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲の通り、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。
2.訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1に、
「ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005~3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005~1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、」と記載されているのを、
「ポリカーボネート樹脂(A)と、溶融粘度調整剤(B)と、亜リン酸エステル系化合物(C)とからなり、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005~3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005~1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、」に訂正する。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5~7も同様に訂正されることになる。)
(2)訂正事項2
請求項1に、
「前記一般式(1)で表される溶融粘度調整剤(B)」と記載されているのを、
「前記溶融粘度調整剤(B)」に訂正する。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5~7も同様に訂正されることになる。)
(3)訂正事項3
請求項2に、
「前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、下記一般式(5)、(6)及び(7)で表される化合物から選択された1種以上の化合物である、請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物。」と記載されているのを、
「ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005~3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005~1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
測定温度220℃、せん断速度10sec-1における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.78を満たし、
前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000~4000であり、
一般式(4):
HO-(CH2CH2O)m(CH2CH(CH3)O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3~60の整数を示し、m+nは、8~90の整数を示す。)
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、下記一般式(5)及び(6)で表される化合物から選択された1種以上の化合物である、ポリカーボネート樹脂組成物。」に訂正する。
また、請求項2の一般式(7)についての記載を削除する。
(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6及び7も同様に訂正されることになる。)
(4)訂正事項4
請求項2に、
「一般式(6):
【化2】
」
と記載されているのを、
「一般式(6):
【化2】
」
に訂正する。
(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6及び7も同様に訂正されることになる。)
(5)訂正事項5
請求項3に、
「前記一般式(5)で表される化合物が、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトである、請求項2記載のポリカーボネート樹脂組成物。」と記載されているのを、
「ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005~3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005~1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
測定温度220℃、せん断速度10sec-1における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たし、
前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエ-テル誘導体の重量平均分子量が1000~4000であり、
一般式(4):
HO-(CH2CH2O)m(CH2CH(CH3)O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3~60の整数を示し、m+nは、8~90の整数を示す。)
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトである、ポリカーボネート樹脂組成物。」に訂正する。
(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6及び7も同様に訂正されることになる。)
(6)訂正事項6
請求項4に、
「前記一般式(6)で表される化合物が、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピンである、請求項2記載のポリカーボネート樹脂組成物。」と記載されているのを、
「ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005~3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005~1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
測定温度220℃、せん断速度10sec-1における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たし、
前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000~4000であり、
一般式(4):
HO-(CH2CH2O)m(CH2CH(CH3)O)n-H (4)(式中、m及びnは、それぞれ独立に、3~60の整数を示し、m+nは、8~90の整数を示す。)
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピンである、ポリカーボネート樹脂組成物。」に訂正する。
(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6及び7も同様に訂正されることになる。)
(7)訂正事項7
請求項5に、
「前記一般式(7)で表される化合物が、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカンであることを特徴とする、請求項2記載のポリカーボネート樹脂組成物。」と記載されているのを、
「前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカンであることを特徴とする、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。」に訂正する。
(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6及び7も同様に訂正されることになる。)
(8)訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0010】に、
「すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005~3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005~1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、」と記載されているのを、「すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)と、溶融粘度調整剤(B)と、亜リン酸エステル系化合物(C)とからなり、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005~3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005~1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、」に訂正する。
(9)訂正事項9
願書に添付した明細書の段落【0010】に、「一般式(1)で表される溶融粘度調整剤(B)」と記載されているのを、「溶融粘度調整剤(B)」に訂正する。
3.一群の請求項、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)一群の請求項について
訂正事項1~7による本件訂正は、訂正前の請求項1~7を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2~7は、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1~7は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項であって、訂正事項1~7による本件訂正は、同規定による一群の請求項ごとにされたものである。
(2)訂正事項1による訂正について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明において、ポリカーボネート樹脂組成物が、「ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005~3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005~1.0重量部を配合してなる」と特定されており、該組成物中に(A)~(C)以外の成分を含有し得るものであったのを、「ポリカーボネート樹脂(A)と、溶融粘度調整剤(B)と、亜リン酸エステル系化合物(C)とからなり、」との特定を付加して、組成物が、(A)~(C)からなるもの(つまり、他の成分を含有しないもの)に限定するものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1に関し、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「本件特許明細書」という。)の【0087】及び表2の実施例17、18には、(A)~(C)からなるポリカーボネート樹脂組成物が記載されていたから、訂正事項1は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項5~7についての訂正も同様である。)
(3)訂正事項2による訂正について
訂正事項2は、訂正前の請求項1に、「前記一般式(1)で表される溶融粘度調整剤(B)」と記載されている一方で、請求項1には一般式(1)が記載されていない点で、請求項1の記載に不整合があったのを、「前記一般式(1)で表される」を削除して、不整合を是正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正前の請求項1には、「前記一般式(1)で表される溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり」と記載され、溶融粘度調整剤(B)は、請求項1に記載の式(4)で表されるポリエーテル誘導体を意味するものであったところ、訂正事項2による訂正によりその点は何ら変わっていない。
よって、訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(訂正前の請求項2を引用する請求項5~7についての訂正も同様である。)
(4)訂正事項3による訂正について
訂正事項3は、(i)訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であったのを、引用関係を解消して独立形式に改めると共に、(ii)訂正前の請求項2が引用する請求項1では、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2の範囲が「0.45≦η1/η2≦0.95」とされていたのを、本件特許明細書の表2の実施例17におけるη1/η2の値0.78に基づいて上限を縮小して、「0.45≦η1/η2≦0.78」に限定すると共に、(iii)訂正前の請求項2に択一的に記載されていた一般式(7)で表される化合物を削除し、(vi)請求項1について訂正事項2でしたと同様の訂正をするものであるから、訂正事項3は、請求項間の引用関係の解消、及び、特許請求の範囲の減縮、及び、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項3は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(訂正前の請求項2を引用する請求項6~7についての訂正も同様である。)
(5)訂正事項4による訂正について
訂正事項4は、訂正前の請求項2に記載された一般式(6)と、同式(6)の定義の説明の記載とが不整合であったのを、一般式(6)を、本件特許明細書の【0039】に、訂正前の請求項2に対応する式(6)の定義の説明と共に記載されていた一般式(6))に変更することで、記載を一致させるものであるから、訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(訂正前の請求項2を引用する請求項6~7についての訂正も同様である。)
(6)訂正事項5による訂正について
訂正事項5は、(i)訂正前の請求項3が、訂正前の請求項1を引用する請求項2を更に引用する記載であったのを、引用関係を解消して独立形式に改めると共に、(ii)訂正前の請求項3が引用する訂正前の請求項2に択一的に記載されていた一般式(5)及び(6)に相当する部分の選択肢を削除し、訂正前の請求項3に一般式(5)で表される化合物として特定されていた具体的な化合物に限定し、(iii)請求項1について訂正事項2でしたのと同様の訂正をするものであるから、訂正事項5は、請求項間の引用関係の解消、特許請求の範囲の減縮、及び、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項5は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(訂正前の請求項3を引用する請求項6~7についての訂正も同様である。)
(7)訂正事項6による訂正について
訂正事項6は、(i)訂正前の請求項4が訂正前の請求項1を引用する請求項2を更に引用する記載であったのを、引用関係を解消して独立形式に改めると共に、(ii)訂正前の請求項4が引用する訂正前の請求項2に択一的に記載されていた一般式(5)及び(7)に相当する部分の選択肢を削除し、訂正前の請求項4に一般式(6)で表される化合物として特定されていた具体的な化合物に限定し、(iii)請求項1について訂正事項2でしたのと同様の訂正をするものであるから、訂正事項6は、請求項間の引用関係の解消、特許請求の範囲の減縮、及び、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項6は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(訂正前の請求項4を引用する請求項6~7についての訂正も同様である。)
(8)訂正事項7による訂正について
訂正事項7は、訂正前の請求項5の記載が訂正前の請求項1及び2の記載を引用する記載であったものを、請求項1のみを引用するものとする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、訂正事項7は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(訂正前の請求項5を引用する請求項6~7についての訂正も同様である。)
(9)訂正事項8及び9による訂正について
訂正事項8及び9は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い訂正される特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、上記(2)において、訂正事項1について記載したと同様に、訂正事項8及び9は新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(10)まとめ
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項ごとにされたものであるし、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項ないし第6項に適合するものであるから、本件訂正を認める。
第3 本件発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1~7に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。)。
「【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)と、溶融粘度調整剤(B)と、亜リン酸エステル系化合物(C)とからなり、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005~3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005~1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
測定温度220℃、せん断速度10sec-1における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たし、
前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000~4000であることを特徴とする、ポリカーボネート樹脂組成物。
一般式(4):
HO-(CH2CH2O)m(CH2CH(CH3)O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3~60の整数を示し、m+nは、8~90の整数を示す。)
【請求項2】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005~3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005~1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
測定温度220℃、せん断速度10sec-1における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.78を満たし、
前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000~4000であり、
一般式(4):
HO-(CH2CH2O)m(CH2CH(CH3)O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3~60の整数を示し、m+nは、8~90の整数を示す。)
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、下記一般式(5)及び(6)で表される化合物から選択された1種以上の化合物である、ポリカーボネート樹脂組成物。
一般式(5):
【化1】
(式中、R1は、炭素数1~20のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基を示し、aは、0~3の整数を示す。)
一般式(6):
【化2】
(式中、R2、R3、R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。R4は、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR7-(ここで、R7は、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す)で表される基を示す。Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR8-(ここで、R8は、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示し、*は、酸素側の結合手であることを示す)で表される基を示す。Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。)
【請求項3】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005~3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005~1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
測定温度220℃、せん断速度10sec-1における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たし、
前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000~4000であり、
一般式(4):
HO-(CH2CH2O)m(CH2CH(CH3)O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3~60の整数を示し、m+nは、8~90の整数を示す。)
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトである、ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、溶融粘度調整剤(B)0.005~3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005~1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
測定温度220℃、せん断速度10sec-1における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たし、
前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000~4000であり、
一般式(4):
HO-(CH2CH2O)m(CH2CH(CH3)O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3~60の整数を示し、m+nは、8~90の整数を示す。)
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピンである、ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカンであることを特徴とする、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を含む、光学用成形品。
【請求項7】
前記成形品が導光板である、請求項6に記載の光学用成形品。」
第4 特許異議の申立て及び取消理由通知の概要
1.特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
訂正前の請求項1~7に係る特許に対し、申立人が特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において申立てていた特許異議の申立ての理由は、概略、本件訂正前の請求項1~7に係る発明についての優先権主張の効果は認められず、これらの請求項に係る発明についての本件特許は、次の(1)~(2)のとおりの取消理由により、取り消されるべきものであるというものである。また、申立人は、証拠方法として、下記(3)の甲第1号証~甲第7号証を提出した。(以下、それぞれ「甲1」~「甲7」ともいう。)
(1)取消理由1(先願明細書に記載された発明(拡大先願))
本件特許の請求項1、2、5~7に係る発明は、本件特許の原出願の出願前の特許出願であって、本件特許の原出願の出願後に国際公開された下記の甲第1号証に係る国際出願の国際出願日における明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、その出願人又は発明者が同一ではないから、特許法第184条の13で読み替える同法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
よって、請求項1、2、5~7に係る本件特許は、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
(2)取消理由2(甲第3号証を主たる引用文献とする進歩性)
請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載の技術的事項に基いて、また、請求項2~7に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証~甲第5号証に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、請求項1~7に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)証拠方法
甲1:PCT/JP2015/079239号の国際出願日における明細書、請求の範囲及び図面(国際出願日は、2015年10月15日、優先権主張 2014年10月17日(特願2014-212778号)、国際公開第2016/060220号参照。)
以下、甲1に係る国際出願の国際出願日における明細書、特許請求の範囲又は図面を、「先願明細書」という。
甲2:出光興産株式会社の社員である鳥居孝洋及び山崎康宣が作成した平成29年11月29日付の「実験成績証明書」
甲3:特開2015-93913号公報
甲4:特開2013-231899号公報
甲5:国際公開第2015/087526号
甲6:特願2015-64120号の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲
甲7:特願2015-181805号の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲
2.当審合議体が通知した取消理由
本件訂正前の請求項1~7に係る発明に対して、当審合議体は、平成30年2月5日付け取消理由通知書において、本件訂正前の請求項1~7に係る発明についての優先権主張の効果は認められないとした上で、概略以下の取消理由を通知した。
<取消理由A(明確性):当審合議体が職権で通知したもの>
請求項1~7に係る本件特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるために特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
<取消理由B(先願明細書に記載された発明(拡大先願)):申立人の主張する取消理由1と同旨>
本件特許の請求項1、2、5~7に係る発明は、本件特許の原出願の出願前の特許出願であって、本件特許の原出願の出願後に国際公開された甲1に係る先願明細書に記載された発明と同一であり、その出願人又は発明者が同一ではないから、特許法第184条の13で読み替える同法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
よって、請求項1、2、5~7に係る本件特許は、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
以下に述べるように、平成30年2月5日付け取消理由通知書に記載した取消理由及び申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、訂正後の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
以下、事案に鑑み、まず、本件特許の優先権主張の効果の有効性について検討した後、取消理由については、取消理由通知書に採用した取消理由(取消理由A及びB)、取消理由通知書において採用しなかった特許異議の申立ての理由(取消理由2)の順で検討する。
1.本件特許の優先権主張の効果の有効性について
本件発明1~7に関し、請求項1に記載の溶融粘度調整剤である一般式(4)の化合物は、本件特許に係る出願の優先権の基礎となる出願(特願2015-064120号(申立人の提出した甲6である。)及び特願2015-181805号(申立人の提出した甲7である。)、以下、これらをまとめて「優先権基礎出願」という。)の出願書類には記載されていない事項である。
優先権基礎出願には、溶融粘度調整剤として、本件特許明細書の【0022】に記載の一般式(1)の化合物は記載されていたが、当該一般式を満たす具体的な化合物である本件請求項1に記載される一般式(4)、一般式(4)に該当する具体的化合物である化合物B5、及び、化合物B5を使用した実施例17、18及び比較例5、6は記載されておらず、かかる技術的事項は、本件特許に係る原出願の現実の出願日である平成28年3月24日出願の国際出願(PCT/JP2016/001711号)の明細書等において初めて記載されたものである。
したがって、本件発明1~7については、優先基礎出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものであるとはいえないから、本件発明1~7についての、優先権の主張の効果は認められない。
2.取消理由A(明確性)について
当審合議体が取消理由Aに関して、具体的に指摘した記載不備は以下のとおりである。
(1)請求項1には、「前記一般式(1)」と記載されているが、請求項1には一般式(1)が記載されていないから、本件発明1は不明確である。請求項1を引用する本件発明2~7も不明確である。
(2)請求項2に記載される一般式(6)は、式(6)自体と、同式(6)の定義の説明の記載とが整合していないから本件発明2は不明確である。請求項2を引用する本件発明3~7も同様である。
(3)請求項2において、一般式(7)の定義として記載される「a、b」は、「b、c」の誤記と認める。
そこで、検討すると、まず(1)の記載不備については、本件訂正により、訂正前の請求項1に記載されていた「一般式(1)で表される」との記載は削除されたから、本件発明1では、上記の記載不備は解消している。また、本件訂正により、請求項1を引用しない形式に訂正された本件発明2~4についても同様の訂正がされ、(1)の記載不備は解消している。訂正後の請求項1を引用する請求項5、及び、訂正後の請求項1~5を直接的あるいは間接的に引用する請求項6~7についても同様である。
次に、(2)の記載不備については、本件訂正により、訂正前の請求項2に記載されていた一般式(6)が、願書に添付した明細書の【0039】に記載の一般式(6)に訂正され、訂正後の請求項2の一般式(6)と同式の定義の説明の記載に不整合があった点の記載不備は解消した。(訂正後の請求項2を引用する訂正後の請求項6及び7に係る発明についての記載不備も同様に解消した。)また、訂正後の請求項3~5から記載不備のあった一般式(6)は削除されたから、この点の記載不備はもはや存在しない。
(3)の記載不備については、本件訂正により、訂正前の請求項2に記載されていた一般式(7)及びその定義の記載は削除されたから、(3)の記載不備はもはや存在しない。
以上のとおり、本件訂正後の本件発明1~7では、上記(1)~(3)の記載不備は解消しており、本件発明1~7は明確である。
よって、取消理由Aによって、本件発明1~7についての特許を取り消すことはできない。
3.取消理由B(先願明細書に記載された発明)について
1.で記載したとおり、本件発明1~7については優先権主張の効果が及ばないから、取消理由Bについての検討における、本件発明1、2、5~7についての判断の基準日は、本件特許に係る原出願の現実の出願日である平成28年3月24日となる。
(1)先願明細書に記載の発明
先願明細書の請求項1及び実施例5、6、8及び12によれば、先願明細書には、次の発明(以下、「先願実施例発明」という。)が記載されていると認められる。
「芳香族ポリカーボネート樹脂である、(A1)「タフロンFN1500」(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量(Mv)=14500)あるいは(A2)「タフロンFN1200」(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量(Mv)=11500) 100質量部に対して、
アリール基を有するリン系化合物である(B1)「Doverphos S-9228PC」(Dover Chemical社製、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト) 0.05~0.1質量部、
ポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテル化合物である、(C4)「ユニルーブ 50DE-25」(日油(株)製、ポリオキシエチレングリコール-ポリオキシプロピレングリコール) 0.2~0.6質量部、
「KR-511」(信越化学工業(株)製、ポリオルガノシロキサン化合物) 0.05質量部、及び、
「セロキサイド 2021P」(ダイセル化学工業(株)製、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート) 0.02質量部
からなるポリカーボネート樹脂組成物。」
また、先願明細書の比較例5~8によれば、先願明細書には、次の発明(以下、「先願比較例発明」という。)が記載されていると認められる。
「芳香族ポリカーボネート樹脂である(A1)「タフロンFN1500」(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量(Mv)=14500)、あるいは、(A2)「タフロンFN1200」(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量(Mv)=11500) 100質量部に対して、
リン系化合物である(B3)「アデカスタブPEP-36」((株)ADEKA製、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト) 0.05~0.1質量部、
ポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテル化合物(C)である、(C4)「ユニルーブ 50DE-25」(日油(株)製、ポリオキシエチレングリコール-ポリオキシプロピレングリコール) 0.2~0.4質量部、
「KR-511」(信越化学工業(株)製、ポリオルガノシロキサン化合物) 0.05質量部、及び、
「セロキサイド 2021P」(ダイセル化学工業(株)製、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート) 0.02質量部
からなるポリカーボネート樹脂組成物。」
(2)本件発明1について
本件発明1は、第3で記載したとおりのものである。
本件発明1と、先願実施例発明あるいは先願比較例発明(以下、これらの発明をまとめて、「先願発明」ともいう。)を対比すると、先願発明の「芳香族ポリカーボネート樹脂である、(A1)『タフロンFN1500』(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量(Mv)=14500)、及び、(A2)『タフロンFN1200』(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量(Mv)=11500)」は、いずれも、本件発明1の、「ポリカーボネート樹脂(A)」に相当する。
また、先願発明の「ポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテル化合物である、(C4)「ユニルーブ 50DE-25」(日油(株)製、ポリオキシエチレングリコール-ポリオキシプロピレングリコール)」は、本件発明1の「(B)」成分である、「一般式(4)(当審合議体注;一般式(4)の記載は省略する。)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000~4000」であるものに相当するし、先願発明の「アリール基を有するリン系化合物である(B1)『Doverphos S-9228PC』(Dover Chemical社製、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)」、及び、「リン系化合物である(B3)「アデカスタブPEP-36」((株)ADEKA製、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト」は、いずれも、本件発明1の「亜リン酸エステル系化合物(C)」に相当する。
さらに、先願発明における、(A1)あるいは(A2)100質量部に対する、(B1)あるいは(B3)、及び、(C4)の配合量範囲は、本件発明1の配合量範囲に含まれる。
そうすると、本件発明1と先願発明は、
<一致点>
「ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、(B)0.005~3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005~1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000~4000であるポリカーボネート樹脂組成物。
一般式(4):
HO-(CH2CH2O)m(CH2CH(CH3)O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3~60の整数を示し、m+nは、8~90の整数を示す。)」
で一致する。
そして、本件発明1と先願発明とは、少なくとも、以下の点で相違する。
<相違点1>
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、(B)0.005~3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005~1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物について、本件発明1では、「ポリカーボネート樹脂(A)と、・・・(B)と、亜リン酸エステル系化合物(C)とからなり」と、(A)~(C)の成分からなり、他の成分は含まれないものとして特定されているのに対して、先願発明では、(A)~(C)の他に、「「KR-511」(信越化学工業(株)製、ポリオルガノシロキサン化合物) 0.05質量部」、(以下、「ポリオルガノシロキサン(D)」という。)及び、「「セロキサイド 2021P」(ダイセル化学工業(株)製、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート) 0.02質量部」(以下、「脂環式エポキシ(E)」という。)を含有するものとして特定されている点。
そうすると、本件発明1と先願発明1とは、少なくとも相違点1で相違するのであるから、本件発明1について先願発明と同一であるということはできない。
これに関し、申立人は、平成30年6月5日提出の意見書の4-1.(2)において、上記の相違点は、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)にすぎないから、本件発明1と先願発明は、実質同一である旨主張している。
そこで、まず、先願発明が先願比較例発明である場合について検討すると、当業者は、比較例発明に更なる変更を加える動機付けがあるとはいえないから、本件発明1は先願発明と実質同一にはなりえない。
次に、先願発明が先願実施例発明である場合について検討する。
先願明細書の[0007]の記載によれば、近年、導光板の更なる薄肉化が進んでおり、340℃を超える温度、特に360℃を超える温度で成形を行う場合があり、更なる改良が求められている一方、薄肉化が不要な一部の小型導光板は、280℃前後の低温で成形されているため、より幅広い温度域で黄変することなく成形可能な芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が求められている。
そして、従来技術である特許文献3(国際公開第2013/088796号)の方法(これは、[0005]によれば、高温成形での熱安定性に優れ、また、光線透過率及び輝度に優れ、耐湿熱試験後に変色や内部クラックが発生しない成形品を得ることができる樹脂組成物を提供することを目的として、芳香族ポリカーボネート樹脂に特定のジフォスファイト化合物及び脂環式エポキシ化合物を含有させた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関するものであり、340℃を超える温度にて黄変せずに成形可能である。)では、高温成形での熱安定性には優れるものの、300℃未満の成形温度域では十分な性能を発現できないという問題があった。
そして、先願明細書の[0007]によれば、先願明細書の請求項1に係る発明が解決しようとする課題は、「幅広い温度域で成形しても成形時の劣化による光学特性の低下のないポリカーボネート樹脂組成物を提供すること」であるところ、先願明細書の請求項1に係る発明(これは、先願実施例発明をその具体的態様として含む。)は、この問題を解決するものであって、[0008]によれば、「芳香族ポリカーボネート樹脂に、耐熱性と耐加水分解性に優れた特定のリン系化合物とポリエーテル化合物とを特定量配合することで、幅広い温度域で成形しても成形時の劣化による光学特性の低下のないポリカーボネート樹脂組成物を得ることができることを見出し」て、先願明細書の請求項1に係る発明を完成したとされている。
また、先願明細書の[0023]には、「国際公開第2013/088796号には、耐熱性及び耐加水分解性の両要求特性を満足できる酸化防止剤として、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトに代表される特定のジフォスファイト系酸化防止剤が有効であることが開示されている。しかし、国際公開第2013/088796号の方法では、耐湿熱性の観点から脂環式エポキシ化合物を必要とする。また、この方法では、高温成形での熱安定性には優れるものの、300℃未満の成形温度域では十分な性能を発現できない。」と記載されており、先願実施例発明の「脂環式エポキシ(E)」は、耐湿熱性の観点から必要とされている。
ここで、先願明細書の実施例においては、光学特性の色調を、280℃の低温成形条件及び360℃の高温成形条件で製造した試験片のYI値、及び、高温成形で色調を低下させる黄変原因物とされる、ポリカーボネート樹脂由来のo-ヒドロキシアセトフェノンの生成量で評価し([0037])、また、360℃の高温成形条件で製造した試験片の、温度85℃、相対湿度95%環境下での500時間暴露による耐湿熱試験におけるYI値で評価されている([0057]及び[0059]の表1)。
すなわち、先願明細書の実施例においては、先願明細書に従来技術として記載されていた特許文献3(国際公開第2013/088796号)において、耐湿熱性の観点から必要とされていた「脂環式エポキシ(E)」が配合され、耐湿熱試験におけるYI値の評価もされている。
そうすると、耐湿熱性の観点から「脂環式エポキシ(E)」が配合され、耐湿熱性が評価されている先願実施例発明において、組成物中の成分から、「脂環式エポキシ(E)」を除外することが、先願実施例発明における課題解決のための具体化手段における微差にすぎないとすることはできない。
よって、本件発明1は先願実施例発明と実質同一であるとはいえず、申立人の主張は採用できない。
以上のとおり、本件発明1は先願発明と実質同一であるとはいえない。
(3)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1の亜リン酸エステル系化合物(C)を、「3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン」に限定するものである。
そして、この化合物は、先願比較例発明のリン系化合物(B3)(「アデカスタブPEP-36」((株)ADEKA製、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)と同じ化合物である。
そうすると、本件発明5と先願比較例発明とに新たな相違点はなく、両発明の一致点は、(2)で記載した一致点であるし、両発明は、少なくとも(2)で記載した相違点1で相違している。
そして、相違点1についての判断は、(2)で本件発明1について説示したと同様であり、本件発明5は、先願明細書に記載された発明であるとはいえない。
(4)本件発明2について
(2)における本件発明1と先願比較例発明との対比を踏まえて、本件発明2と先願比較例発明を対比すると、訂正前の請求項2に係る発明においては、亜リン酸エステル系化合物(C)として、先願比較例発明のリン系化合物(B3)(「アデカスタブPEP-36」((株)ADEKA製、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)に相当する化合物が、「一般式(7)」として包含されていたが、訂正により、本件発明2は「一般式(7)」の化合物を含まなくなった。そうすると、本件発明2と先願比較例発明は、以下の点で一致し、少なくとも以下の相違点2で相違する。
<一致点>
「ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、(B)0.005~3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005~1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000~4000であるポリカーボネート樹脂組成物。
一般式(4):
HO-(CH2CH2O)m(CH2CH(CH3)O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3~60の整数を示し、m+nは、8~90の整数を示す。)」
<相違点2>
ポリカーボネート樹脂組成物に含まれる亜リン酸エステル系化合物(C)について、本件発明1では、「下記一般式(5)及び(6)で表される化合物から選択された1種以上の化合物」(合議体注:一般式(5)及び(6)の記載は省略する。)と特定されているのに対して、先願比較例発明では、(一般式(7)の化合物に相当する)「(B3)「アデカスタブPEP-36」((株)ADEKA製、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)と特定されている点。
そうすると、本件発明2と先願比較例発明とは、相違点2で相違するのであるから、本件発明2が先願比較例発明と同一であるということはできない。
(5)本件発明6及び7について
取消理由通知の対象となっている本件発明6は、請求項1、2または5に記載のポリカーボネート樹脂組成物を含む光学用成形品の発明であり、また、取消理由通知の対象となっている本件発明7は、本件発明6を更に限定した発明であって、いずれも、本件発明1、2又は5の発明特定事項を発明特定事項として包含している。
そうすると、本件発明6及び7と先願発明とは、少なくとも、(2)で記載した相違点1で相違しており、上記(2)~(4)で記載したと同様の理由によって、本件発明6及び7は、先願発明と同一とはいえない。
なお、本件発明2、4、5について、申立人は、意見書の4-2.~4-4.において、新たに特許法第36条第6項第1号に基づく取消理由を主張しているが、この取消理由は、申立書には記載されていなかった理由であり、採用できない。
(6)まとめ
以上のとおり、本件発明1、2、5~7はいずれも、先願発明(先願明細書に記載された発明)であるとはいえない。
よって、取消理由Bによって、本件発明1、2、5~7についての特許を取り消すことはできない。
4.取消理由2(甲第3号証を主たる引用文献とする進歩性)について
1.で記載したとおり、本件発明1~7については優先権主張の効果が及ばないから、本件発明1~7についての進歩性の判断の基準日は、本件特許に係る原出願の現実の出願日である平成28年3月24日となり、甲3は、本件特許の原出願の出願時に公知の刊行物となる。
(1)甲3に記載の発明
甲3の実施例1~3及び5によれば、以下の発明が記載されている。
「芳香族ポリカーボネート樹脂である、(A1):「タフロンFN1500」(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量:14,500) 100質量部、
ポリエーテル化合物である、(b1-1):「ポリセリンDC1100」(日油(株)製、ポリオキシテトラメチレングリコール-ポリオキシエチレングリコール) 0.2質量部 、
酸化防止剤である、(C1):「Doverphos S-9228PC」(ドーバーケミカル社製、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト) 0.05質量部、
からなるポリカーボネート樹脂組成物。」(以下、「甲3実施例1発明」という。)
「芳香族ポリカーボネート樹脂である、(A1):「タフロンFN1500」(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量:14,500) 100質量部、
ポリエーテル化合物である、(b1-2):「ポリセリンDC3000E」(日油(株)製、ポリオキシテトラメチレングリコール-ポリオキシエチレングリコール) 0.2質量部 、
酸化防止剤である、(C1):「Doverphos S-9228PC」(ドーバーケミカル社製、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト) 0.05質量部、
からなるポリカーボネート樹脂組成物。」(以下、「甲3実施例2発明」という。)
「芳香族ポリカーボネート樹脂である、(A1):「タフロンFN1500」(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量:14,500) 100質量部、
ポリエーテル化合物である、(b1-1):「ポリセリンDC1100」(日油(株)製、ポリオキシテトラメチレングリコール-ポリオキシエチレングリコール) 0.4質量部 、
酸化防止剤である、(C1):「Doverphos S-9228PC」(ドーバーケミカル社製、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト) 0.05質量部、
からなるポリカーボネート樹脂組成物。」(以下、「甲3実施例3発明」という。)
「芳香族ポリカーボネート樹脂である、(A2):「タフロンFN1200」(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量:11,500) 100質量部、
ポリエーテル化合物である、(b1-4):「ユニルーブ 50DB-22」(日油(株)製、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ビスフェノールAエーテル) 0.2質量部、
酸化防止剤である、(C1):「Doverphos S-9228PC」(ドーバーケミカル社製、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト) 0.05質量部
からなるポリカーボネート樹脂組成物。」(以下、「甲3実施例5発明」という。)」
また、甲3実施例1発明~甲3実施例3発明、甲3実施例5発明をあわせて「甲3発明」ともいう。
(2)本件発明1について
本件発明1と、甲3発明を対比すると、甲3発明の「芳香族ポリカーボネート樹脂である、(A1)『タフロンFN1500』(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量(Mv)=14,500)、及び、(A2)『タフロンFN1200』(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量(Mv)=11,500)」は、いずれも、本件発明1の、「ポリカーボネート樹脂(A)」に相当する。
また、甲3発明の「ポリエーテル化合物である、「(b1-1):『ポリセリンDC1100』(日油(株)製、ポリオキシテトラメチレングリコール-ポリオキシエチレングリコール)」、(b1-2):『ポリセリンDC3000E』(日油(株)製、ポリオキシテトラメチレングリコール-ポリオキシエチレングリコール)」、「(b1-4):『ユニルーブ 50DB-22』(日油(株)製、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ビスフェノールAエーテル)」は、本件発明1の「(B)」成分である、「ポリエーテル誘導体」に相当するし、酸化防止剤である、「(C1):『Doverphos S-9228PC』(ドーバーケミカル社製、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)」は、本件発明1の「亜リン酸エステル系化合物(C)」に相当する。
さらに、甲3発明における、(A1)あるいは(A2)100質量部に対する、(b1-1)、(b1-2)、(b1-4)、及び、(C1)の配合量は、本件発明1の配合量範囲に含まれる。
そうすると、本件発明1と甲3発明は、
<一致点>
「ポリカーボネート樹脂(A)と、(B)と、亜リン酸エステル系化合物(C)とからなり、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、(B)0.005~3.0重量部及び亜リン酸エステル系化合物(C)0.005~1.0重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記(B)が、ポリエーテル誘導体である、ポリカーボネート樹脂組成物。」
で一致する。
そして、本件発明1と甲3発明とは、少なくとも、以下の2つの点で相違する。
<相違点3>
ポリカーボネート樹脂組成物に含まれる(B)のポリエーテル誘導体について、本件発明1では、「一般式(4): HO-(CH2CH2O)m(CH2CH(CH3)O)n-H (4)」、「重量平均分子量が1000~4000」と特定されているのに対して、甲3発明では、「(b1-1):『ポリセリンDC1100』(日油(株)製、ポリオキシテトラメチレングリコール-ポリオキシエチレングリコール)」、「(b1-2):『ポリセリンDC3000E』(日油(株)製、ポリオキシテトラメチレングリコール-ポリオキシエチレングリコール)」、「(b1-4):『ユニルーブ 50DB-22』(日油(株)製、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ビスフェノールAエーテル)」のいずれかであり、その重量平均分子量も不明である点。
<相違点4>
本件発明1では、「測定温度220℃、せん断速度10sec-1における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たす」と特定されているのに対し、甲3発明ではこのような特定はない点。
そこで、まず、相違点3について検討すると、甲3には、本件発明1の(B)のポリエーテル誘導体に相当する「ポリエーテル化合物」に関し、【0031】に、一般式(II)として、本件発明1の一般式(4)の化合物を概念上包含し得る化合物は記載されているが、【0037】に一般式(II)で表される化合物(b1-1)の具体例として多数列記される中にも、実施例にも、本件発明1の化合物に相当するものは記載されていない。
そして、申立人は、相違点3に関連して、甲4を提示し、甲3発明において、ポリエーテル化合物を、甲4の【0033】に記載されるポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合物に変更して、本件発明1に係る発明の構成を備えたものとすることは当業者にとって容易である旨主張する。
しかしながら、甲4において実施例で具体的に使用されているポリエーテル化合物は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールの両末端ステアレートであって、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合物は使用されておらず、【0033】に一般記載として記載されているのみであるし、甲4には、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合物の重量平均分子量を1000~4000とすることも、本件発明1で特定される一般式(4)を満足する化学構造のものとすることも具体的には記載されていない。
そうすると、甲4の記載に接した当業者が、甲3のポリエーテル化合物を変更する際に、甲3に多数列記される例にも記載されておらず、甲4の実施例においても使用されていない、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合物であって、重量平均分子量が1000~4000で、かつ、一般式(4)を満足する化学構造であるものを採用する動機付けはない。申立人が提示した他の証拠を参酌しても同様である。
ところで、本件発明1(~7)の課題は、本件特許明細書の【0008】によれば、「ポリカーボネート樹脂が本来有する耐熱性、機械的強度等の特性が損なわれることがなく、熱安定性に優れ、光線透過率が高く、しかも高温で成形加工した場合でも光線透過率に優れるポリカーボネート樹脂組成物を提供する」ことであるところ、本件特許明細書の【0009】には、当該課題の解決手段に関し、「ポリカーボネート樹脂(A)に溶融粘度調整剤(B)及び亜リン酸エステル系化合物(C)を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物において、当該ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度とそれに含まれるポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度の比が特定範囲の値を満たすようにすることにより高温で成形した場合でも光線透過率の低下が無く色相ならびに輝度の良好なポリカーボネート樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。」と記載されており、本件発明1(~7)の課題解決に、上記相違点4に係る本件発明1の構成とすること(溶融粘度η2の比η1/η2を特定の範囲とすること)が重要な意義を有する。
そして、この相違点4に係る本件発明1の構成(溶融粘度η2の比η1/η2を特定の範囲とすること)に寄与するために、本件発明1では、ポリエーテル誘導体の粘度調整剤としての機能に着目して、特定のポリエーテル誘導体を特定量配合するものとしている。
一方、甲3や甲4をはじめ申立人が提示した他の証拠にも、測定温度220℃、せん断速度10sec-1における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たすものとすることにより、「ポリカーボネート樹脂が本来有する耐熱性、機械的強度等の特性が損なわれることがなく、熱安定性に優れ、光線透過率が高く、しかも高温で成形加工した場合でも光線透過率に優れるポリカーボネート樹脂組成物を提供する」という本件発明1の課題が解決できることは記載も示唆もされていないし、そのような特定の範囲の溶融粘度η2の比η1/η2のポリカーボネート樹脂組成物とするために、一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体を採用することを示唆する記載もない。
そうすると、甲4に記載の技術的事項(、及び、申立人が提示した他の証拠)を参酌しても、甲3発明について、相違点3及び相違点4に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明1は、甲3に記載された発明(甲3発明)に甲4(さらには申立人が提示した他の証拠)に記載の技術的事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明3~7について
本件発明3~5及び請求項1、3~5を引用する本件発明6、7は、いずれも、本件発明1と同様に、
「測定温度220℃、せん断速度10sec-1における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.95を満たし」(上記相違点4に係る本件発明1の構成と同じ。)、
「前記溶融粘度調整剤(B)が、下記一般式(4)で表されるポリエーテル誘導体であり、該ポリエーテル誘導体の重量平均分子量が1000~4000」で、
「一般式(4)が、「HO-(CH2CH2O)m(CH2CH(CH3)O)n-H (4)
(式中、m及びnは、それぞれ独立して、3~60の整数を示し、m+nは、8~90の整数を示す。)」
(上記相違点3に係る本件発明1の構成と同じ。)との発明特定事項を含んでおり、これらの本件発明は、甲3発明と、少なくとも上記相違点3及び4の点で相違している。
そして、相違点3及び4についての判断は、本件発明1について上記(2)で記載したとおりであるから、本件発明3~7についても、本件発明1について検討したと同様の理由によって、甲3に記載された発明(甲3発明)に甲4(さらには申立人が提示した他の証拠)に記載の技術的事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明2及び請求項2を引用する本件発明6、7について
(2)での本件発明1と甲3発明との対比を踏まえて本件発明2と甲3発明を対比すると、両者は、(2)で記載した一致点で一致し、少なくとも、以下の相違点3’及び相違点5で相違する。
<相違点3’>
ポリカーボネート樹脂組成物に含まれる(B)のポリエーテル誘導体について、本件発明2では、「一般式(4): HO-(CH2CH2O)m(CH2CH(CH3)O)n-H (4)」、「重量平均分子量が1000~4000」と特定されているのに対して、甲3発明では、「(b1-1):『ポリセリンDC1100』(日油(株)製、ポリオキシテトラメチレングリコール-ポリオキシエチレングリコール)」、「(b1-2):『ポリセリンDC3000E』(日油(株)製、ポリオキシテトラメチレングリコール-ポリオキシエチレングリコール)」、「(b1-4):『ユニルーブ 50DB-22』(日油(株)製、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ビスフェノールAエーテル)」のいずれかであり、その重量平均分子量も不明である点。
<相違点5>
本件発明2では、「測定温度220℃、せん断速度10sec-1における溶融粘度をηとしたとき、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1とポリカーボネート樹脂の溶融粘度η2の比η1/η2が、0.45≦η1/η2≦0.78を満たす」と特定されているのに対し、甲3発明ではこのような特定はない点。
そして、相違点3’は、本件発明1について上記(2)で記載した相違点3に対応するものであり、相違点3’についての判断は、上記(2)で相違点3についてした判断と同様であるし、また、相違点5についての判断も、η1/η2の範囲の上限が「0.95」ではなく、「0.78」と、よりη1/η2の範囲が狭くなっている点の違いに関わらず、上記(2)で記載したのと同様であるから、甲4に記載の技術的事項(、及び、申立人が提示した他の証拠)を参酌しても、甲3発明を、相違点3’及び相違点5に係る本件発明2の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明2及び請求項2を引用する本件発明6、7は、甲3に記載された発明(甲3発明)に甲4(さらには申立人が提示した他の証拠)に記載の技術的事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)まとめ
以上のとおり、申立人の取消理由2の主張には理由がなく、取消理由2によっては、本件発明1~7についての特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-701131