特許異議申立
2017-700963
タイヤ用ゴム組成物
- 審判番号
- 2017-700963
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-511440外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年10月10日
- 審決日
- 2018年05月21日
- 公報発行日
- 2018年08月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】宇部興産株式会社
- 【権利者代理人】赤塚 正樹
- 【権利者代理人】中 敦士
- 【権利者】住友ゴム工業株式会社
- 【権利者代理人】赤塚 正樹
- 【権利者代理人】中 敦士
- 【異議申立人】日本ゼオン 株式会社
- 【異議申立人代理人】前田・鈴木国際特許業務法人
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6114467号発明「タイヤ用ゴム組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6114467号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし5〕について、訂正することを認める。
特許第6114467号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6114467号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、2015年2月19日(優先権主張 2014年3月31日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、平成29年3月24日に特許の設定登録がされ、同年4月12日にその特許公報が発行され、その後同年10月10日に、その請求項1ないし5に係る発明の特許に対し、特許異議申立人 日本ゼオン株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において同年12月20日付けで取消理由(以下、「取消理由」という。)が通知され、平成30年2月19日付けで特許権者 宇部興産株式会社及び住友ゴム工業株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)がされ、同年2月28日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、それに対し、特許異議申立人から何の応答もされなかったものである。
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
本件訂正の請求による訂正の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「(A)ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が43~70、
(B)5重量%トルエン溶液粘度(Tcp)とムーニー粘度(ML1+4,100℃)の比(Tcp/ML1+4,100℃)が0.9~1.7、
(C)ML1+4,100℃測定終了時のトルクを100%としたとき、その値が80%減衰するまでの応力緩和時間(T80)が10.0~40.0秒、
(D)分子量分布(Mw/Mn)が2.50~4.00、及び
(F)ミクロ構造分析におけるシス構造の割合が98モル%以下
の条件を満たす、コバルト触媒を用いて製造されたポリブタジエン(イ)と、
その他のゴム(ロ)と、
ゴム補強材(ハ)と
を含むタイヤ用ゴム組成物。」
を
「(A)ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が43~70、
(B)5重量%トルエン溶液粘度(Tcp)とムーニー粘度(ML1+4,100℃)の比(Tcp/ML1+4,100℃)が0.9~1.7、
(C)ML1+4,100℃測定終了時のトルクを100%としたとき、その値が80%減衰するまでの応力緩和時間(T80)が10.0~40.0秒、
(D)分子量分布(Mw/Mn)が2.97~4.00、及び
(F)ミクロ構造分析におけるシス構造の割合が98モル%以下
の条件を満たす、コバルト触媒を用いて製造されたポリブタジエン(イ)と、
その他のゴム(ロ)と、
ゴム補強材(ハ)と
を含むタイヤ用ゴム組成物。」
に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし5についても同様の訂正をする。
2 訂正の目的の適否、一群の請求項、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1において、「分子量分布(Mw/Mn)」を「2.50~4.00」から「2.97~4.00」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)一群の請求項
本件訂正の請求は、特許請求の範囲の請求項1ないし5についての訂正である。
そして、訂正前の請求項1ないし5は、訂正前の請求項2ないし4が訂正前の請求項1を引用するものであるので、一群の請求項である。
したがって、本件訂正の請求は、一群の請求項ごとに対してされたものである。
3 小括
以上のとおり、本件訂正の請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正の請求は適法なものであるので、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし5〕について、訂正することを認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
上記第2の3のとおり、訂正後の請求項〔1ないし5〕について、訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、平成30年2月19日付けで提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(A)ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が43~70、
(B)5重量%トルエン溶液粘度(Tcp)とムーニー粘度(ML1+4,100℃)の比(Tcp/ML1+4,100℃)が0.9~1.7、
(C)ML1+4,100℃測定終了時のトルクを100%としたとき、その値が80%減衰するまでの応力緩和時間(T80)が10.0~40.0秒、
(D)分子量分布(Mw/Mn)が2.97~4.00、及び
(F)ミクロ構造分析におけるシス構造の割合が98モル%以下
の条件を満たす、コバルト触媒を用いて製造されたポリブタジエン(イ)と、
その他のゴム(ロ)と、
ゴム補強材(ハ)と
を含むタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ポリブタジエン(イ)5~90重量部と、前記その他のゴム(ロ)95~10重量部とからなるゴム成分(イ)+(ロ)100重量部に対し、前記ゴム補強材(ハ)が1~100重量部が配合されてなる請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ポリブタジエン(イ)が、さらに、
(E)重量平均分子量(Mw)が40.0×104~75.0×104、
の条件を満たす請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記その他のゴム(ロ)として、スチレンブタジエンゴムを含む請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
前記その他のゴム(ロ)として、天然ゴム又はイソプレンゴムを含む請求項1~4のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物。」
2 取消理由について
取消理由の概要は次のとおりである。
「本件特許発明1~5は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。」
3 取消理由における証拠方法
甲第1号証:国際公開第2012/144200号
甲第2号証:国際公開第2012/073841号
甲第3号証:国際公開第2008/041631号
甲第4号証:特許異議申立人の従業員倉本直明が平成28年11月4日付けで作成した「実験成績証明書」
甲第5号証:日本ゼオン株式会社ゴム事業部製品技術部長高橋和弘が作成した2017年10月3日付けの宣誓書
甲第6号証:特開2006-63287号公報
甲第7号証:特開2015-154754号公報
甲第8号証:宇部興産株式会社ホームページの印刷物(2017年9月16日印刷)
4 取消理由についての判断
(1)甲第1号証を主引用文献とした場合
甲第1号証は、「タイヤサイドウォール用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ」に関するものであって、甲第1号証の記載(段落[0010]ないし[0011]、段落[0013]ないし[0015]、段落[0025]ないし[0029]、特に、表1の比較例2、6の記載を参照。)を整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「100℃でのムーニー粘度(ML1+4)=43、
ムーニー粘度に対する25℃での5質量%トルエン溶液粘度(T-cp)の比である(T-cp)/(ML1+4)=1.4、
シス-1,4結合含有量=98%の特性を満たす日本ゼオン(株)製Nipol BR-1220 ブタジエンゴム50質量部と
天然ゴム50質量部と、
カーボンブラック40質量部と、
を配合したタイヤサイドウォール用ゴム組成物。」
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「日本ゼオン(株)製Nipol BR-1220 ブタジエンゴム」、「天然ゴム」、「カーボンブラック」、「タイヤサイドウォール用ゴム組成物」は、それぞれ、本件特許発明1の「ポリブタジエン(イ)」、「その他のゴム(ロ)」、「ゴム補強材(ハ)」、「タイヤ用ゴム組成物」に相当する。
そして、甲1発明のブタジエンゴムにおける「100℃でのムーニー粘度(ML1+4)=43」、「ムーニー粘度に対する25℃での5質量%トルエン溶液粘度(T-cp)の比である(T-cp)/(ML1+4)=1.4」、「シス-1,4結合含有量=98%」は、それぞれ、本件特許発明1のポリブタジエンにおける「(A)ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が43~70」、「(B)5重量%トルエン溶液粘度(Tcp)とムーニー粘度(ML1+4,100℃)の比(Tcp/ML1+4,100℃)が0.9~1.7」、「(F)ミクロ構造分析におけるシス構造の割合が98モル%以下」と重複一致する。
したがって、両者は、次の点で一致する。
<一致点>
「ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が43、
5重量%トルエン溶液粘度(Tcp)とムーニー粘度(ML1+4,100℃)の比(Tcp/ML1+4,100℃)が1.4、
ミクロ構造分析におけるシス構造の割合が98%の条件を満たすポリブタジエン(イ)と、
その他のゴム(ロ)と、
ゴム補強材(ハ)と
を含むタイヤ用ゴム組成物。」
そして、少なくとも次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は、ポリブタジエンを、「ML1+4,100℃測定終了時のトルクを100%としたとき、その値が80%減衰するまでの応力緩和時間(T80)が10.0~40.0秒」と特定するのに対し、甲1発明においては、応力緩和時間については不明な点。
<相違点2>
本件特許発明1は、ポリブタジエンを、「分子量分布(Mw/Mn)が2.97~4.00」と特定するのに対し、甲1発明においては、分子量分布について特定はない点。
<相違点3>
本件特許発明1は、ポリブタジエンを、「コバルト触媒を用いて製造された」と特定するのに対し、甲1発明においては、そのような特定はない点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点2について、まず検討する。
相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項については、甲第1号証には記載も示唆もなく、甲第2ないし5号証にも記載も示唆もない。
また、甲第6号証には、「宇部興産製「BR150B」(シス-1、4結合含有量=96%、ムーニー粘度(ML1+4)=40、(T-cp)/(ML1+4)=1.3)ブタジエンゴム」(段落【0032】)、甲第7号証には、「BR150」宇部興産社製 ハイシスポリブタジエンゴム(段落【0053】)が記載されているが、これらの記載を参照しても、相違点2の分子量分布「2.97~4.00」を導くことはできない。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいうことはできない。
(ウ)小括
したがって、相違点1及び3について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明でない。
イ 本件特許発明2、3、5について
本件特許発明2、3、5は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有しているものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明でない。
(2)甲第2号証を主引用文献とした場合
ア 甲第2号証は、「タイヤトレッド用ゴム組成物」に関するものであって、甲第2号証の記載(特許請求の範囲[0042]段落[0001]、段落[0083]、段落[0107]ないし[0112]、段落[0116]、段落[0119]、段落[0138]、特に、実施例18の記載を参照。)を整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「分子量分布(Mw/Mn)が2.7である日本ゼオン社製Nipol BR1220 ブタジエンゴム 25.0重量部と
天然ゴム10.0重量部および変性S-SBR65.0重量部と、
シリカ40重量部およびカーボンブラック5重量部と
を含んだタイヤトレッド用ゴム組成物。」
イ 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の「日本ゼオン社製Nipol BR1220 ブタジエンゴム」は、本件特許発明1の「ポリブタジエン(イ)」に相当し、甲2発明の「天然ゴム」及び「変性S-SBR」は、本件特許発明1の「その他のゴム(ロ)」に相当し、甲2発明の「シリカ」及び「カーボンブラック」は、本件特許発明1の「ゴム補強材(ハ)」に相当し、甲2発明の「タイヤトレッド用ゴム組成物」は、本件特許発明1の「タイヤ用ゴム組成物」に相当する。
したがって、両者は、次の点で一致する。
<一致点>
「ポリブタジエン(イ)と、
その他のゴム(ロ)
ゴム補強材(ハ)と、
を含むタイヤ用ゴム組成物。」
そして、少なくとも次の点で相違する。
<相違点4>
本件特許発明1は、ポリブタジエンを、「分子量分布(Mw/Mn)が2.97~4.00」と特定するのに対し、甲2発明においては、日本ゼオン社製Nipol BR1220 ブタジエンゴムを、「分子量分布(Mw/Mn)が2.7」と特定する点。
<相違点5>
本件特許発明1は、ポリブタジエンを、「(C)ML1+4,100℃測定終了時のトルクを100%としたとき、その値が80%減衰するまでの応力緩和時間(T80)が10.0~40.0秒」と特定するのに対し、甲2発明においては、日本ゼオン社製Nipol BR1220 ブタジエンゴムの応力緩和時間(T80)については不明な点。
<相違点6>
本件特許発明1は、ポリブタジエンを、「(F)ミクロ構造分析におけるシス構造の割合が98モル%以下」と特定するのに対し、甲2発明においては、日本ゼオン社製Nipol BR1220 ブタジエンゴムのミクロ構造分析におけるシス構造の割合については不明な点。
<相違点7>
本件特許発明1は、ポリブタジエンを、「コバルト触媒を用いて製造された」と特定するのに対し、甲2発明においては、そのような特定はない点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点4について、まず検討する。
相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項については、甲第2号証には記載も示唆もなく、甲第1、3ないし8号証にも記載も示唆もない。
したがって、本件特許発明1は、甲2発明であるとはいうことはできない。
(ウ)小括
したがって、相違点5ないし7について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明でない。
ウ 本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有しているものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第2号証に記載された発明でない。
5 取消理由で採用しなかった特許異議申立ての理由について
(1)取消理由で採用しなかった特許異議申立ての理由は、概ね次のとおりである。
進歩性の欠如(特許法第29条第2項)について
「訂正前の本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、甲第2号証又は甲第6号証のいずれかに記載された発明と甲第1号証及び甲第7号証に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法113条第2号に該当し、取り消すべきものである。」
(2)取消理由で採用しなかった特許異議申立ての理由についての判断
ア 甲第2号証を主引用文献とした場合
(ア)甲第2号証に記載された発明は、上記4(2)アの<甲2発明>のとおりである。
(イ)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明との対比は、上記4(2)イの<一致点>のとおりであり、<相違点4>ないし<相違点7>のとおり相違する。
事案に鑑み、相違点4について、まず検討する。
相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項については、甲第2号証には記載も示唆もなく、甲第1、3ないし8号証にも記載も示唆もない。
そして、当該事項により、本件特許発明1は、「加工性及び耐摩耗性が改良された」するという格別顕著な効果を奏するものであり、その効果は、甲第1ないし8号証の記載から、当業者が予測出来るものということはできない。
したがって、甲第2号証に記載された発明において、相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、相違点5ないし7について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3ないし8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有しているものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3ないし8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 甲第6号証を主引用文献とした場合
(ア)甲第6号証に記載された事項および甲第6号証に記載された発明
甲第6号証は、「タイヤサイドウォール用ゴム組成物および空気入りタイヤ」に関するものであって、甲第6号証の記載(段落[0007]、[0018]、[0032]、[0038]、特に、表1の比較例1の記載を参照。)を整理すると、甲第6号証には、次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認める。
<甲6発明>
「天然ゴム45重量部と
宇部興産製「BR150B」(シス-1、4結合含有量=96%、ムーニー粘度(ML1+4)=40、(T-cp)/(ML1+4)=1.3)ブタジエンゴム55重量部と
カーボンブラック45重量部と
を配合したタイヤサイドウォール用ゴム組成物。」
(イ)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲6発明と対比すると、
甲6発明の「宇部興産製「BR150B」(シス-1、4結合含有量=96%、ムーニー粘度(ML1+4)=40、(T-cp)/(ML1+4)=1.3)ブタジエンゴム」は、本件特許発明1の「ポリブタジエン(イ)」に相当し、甲6発明の「(T-cp)/(ML1+4)=1.3」は、本件特許発明1の「(B)5重量%トルエン溶液粘度(Tcp)とムーニー粘度(ML1+4,100℃)の比(Tcp/ML1+4,100℃)が0.9~1.7」と重複一致し、甲6発明の「シス-1、4結合含有量=96%」は、本件特許発明1の「(F)ミクロ構造分析におけるシス構造の割合が98モル%以下」と重複一致する。
そして、甲6発明の「天然ゴム」は、本件特許発明1の「その他のゴム(ロ)」に相当し、甲6発明の「カーボンブラック」は、本件特許発明1の「ゴム補強材(ハ)」に相当し、甲6発明の「タイヤサイドウォール用ゴム組成物」は、本件特許発明1の「タイヤ用ゴム組成物」に相当する。
したがって、両者は、次の点で一致する。
<一致点>
「5重量%トルエン溶液粘度(Tcp)とムーニー粘度(ML1+4,100℃)の比(Tcp/ML1+4,100℃)が1.3、
ミクロ構造分析におけるシス構造の割合が96%の条件を満たすポリブタジエン(イ)と、
その他のゴム(ロ)と、
ゴム補強材(ハ)と
を含むタイヤ用ゴム組成物。」
そして、少なくとも次の点で相違する。
<相違点8>
本件特許発明1は、ポリブタジエンを、「(A)ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が43~70」と特定するのに対し、甲6発明においては、「ムーニー粘度(ML1+4)=40」と特定する点。
<相違点9>
本件特許発明1は、ポリブタジエンを、「分子量分布(Mw/Mn)が2.97~4.00」と特定するのに対し、甲6発明においては、宇部興産製「BR150B」ブタジエンゴムの分子量分布については不明である点。
<相違点10>
本件特許発明1は、ポリブタジエンを、「(C)ML1+4,100℃測定終了時のトルクを100%としたとき、その値が80%減衰するまでの応力緩和時間(T80)が10.0~40.0秒」と特定するのに対し、甲6発明は、宇部興産製「BR150B」の応力緩和時間(T80)については不明である点。
<相違点11>
本件特許発明1は、ポリブタジエンを、「コバルト触媒を用いて製造された」と特定するのに対し、甲6発明においては、そのような特定はない点。
事案に鑑み、まず相違点9について、検討する。
相違点9に係る本件特許発明1の発明特定事項については、甲第6号証には記載も示唆もなく、甲第1ないし5、7ないし8号証にも記載も示唆もない。
また、特許異議申立人は、本件特許明細書には、宇部興産社製「BR150B」の性状について分子量分布が2.91であると記載されていると主張するが、当該主張を参酌しても、甲6発明から本件特許発明1の分子量分布「2.97~4.00」にはならない。
そして、当該事項により、本件特許発明1は、「加工性及び耐摩耗性が改良された」するという格別顕著な効果を奏するものであり、その効果は、甲第1ないし8号証の記載から、当業者が予測出来るものということはできない。
したがって、甲第6号証に記載された発明において、相違点9に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
次に、相違点8について検討する。
甲第6号証の記載の比較例1および実施例の記載に従えば、少なくとも、比較例1のブタジエンゴムであるBR3(ムーニー粘度(ML1+4)=40、(T-cp)/(ML1+4)=1.3)を、実施例のBR1(ムーニー粘度(ML1+4)=451、(T-cp)/(ML1+4)=3.3)に変更することになる。
そうすると、(T-cp)/(ML1+4)の値を1.3から3.3に変更することになり、本件特許発明1の「(B)5重量%トルエン溶液粘度(Tcp)とムーニー粘度(ML1+4,100℃)の比(Tcp/ML1+4,100℃)が0.9~1.7」の数値範囲から外れることになる。
してみれば、本件特許発明1のムーニー粘度のみを、本件特許発明1の数値範囲にする動機付けが存在しないといえる。
また、特許異議申立人が主張する甲第1号証および甲第7号証に記載の周知技術を適用しても、本件特許発明1のムーニー粘度のみを、本件特許発明1の数値範囲にする動機付けが存在しないといえる。
したがって、甲第6号証に記載された発明において、相違点8に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、相違点10ないし11について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲第6号証に記載された発明及び甲第1ないし5、7ないし8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ) 本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有しているものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第6号証に記載された発明及び甲第1ないし5、7ないし8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 小括
したがって、本件特許発明1ないし5について進歩性が欠如するとの理由は理由がない。
第4 結語
上記第3のとおりであるから、取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700963