特許異議申立
2017-700761
焼入装置の冷却ジャケット
- 審判番号
- 2017-700761
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-055298外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年08月02日
- 審決日
- 2018年03月05日
- 公報発行日
- 2018年09月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】富士電子工業株式会社
- 【権利者代理人】藤田 隆
- 【異議申立人】吉村 光顕
- 分類
- P1651.113-ZC (C21D) / P1651.121-ZC (C21D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6076157号発明「焼入装置の冷却ジャケット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6076157号の請求項1、2、4に係る特許を取り消す。
同請求項3、5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6076157号の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成25年 3月18日に特許出願され、平成29年 1月20日にその特許権の設定登録がされ、同年 2月 8日に特許掲載公報が発行され、同年 8月 3日受付で特許異議申立人 吉村 光顕(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたので、これを検討した結果として同年10月17日付けで当審から取消理由を通知したところ、特許権者からは指定期間内に意見書の提出及び訂正の請求はなされなかったものである。
第2 本件特許発明
特許第6076157号の請求項1~5に係る発明(以下、「本件特許発明1」~「本件特許発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
誘導電流が励起されて加熱された被加熱物に、冷却液を噴射供給する焼入装置の冷却ジャケットであって、
被加熱物に対向する部位に複数の噴射孔を有するジャケット本体と、ジャケット本体に冷却液を供給する供給管とを有し、
前記供給管の一部がジャケット本体内に配置されており、
ジャケット本体内の供給管の少なくとも側面に孔が設けてあり、
ジャケット本体内に冷却液が満たされて、各噴射孔から冷却液が噴射されることを特徴とする焼入装置の冷却ジャケット。
【請求項2】
供給管の側面に複数の孔を設けたことを特徴とする請求項1に記載の焼入装置の冷却ジャケット。
【請求項3】
ジャケット本体内の供給管の向きが、ジャケット本体の噴射孔の向きと一致していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の焼入装置の冷却ジャケット。
【請求項4】
ジャケット本体における供給管の接続部を、噴射孔を設けた部位と交差する部位に設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の焼入装置の冷却ジャケット。
【請求項5】
前記供給管の端面に孔を設け、
前記端面の孔の総面積は、端面の面積の50%以下であり、
前記端面の孔の総面積は、側面の孔の総面積よりも小さいことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の焼入装置の冷却ジャケット。」
第3 異議申立理由の概要
申立人は、証拠として、下記甲第1号証~甲第3号証を提出し、以下の異議申立理由1~2によって請求項1~5に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。
甲第1号証:特開2011-194417号公報
甲第2号証:実願昭58-120197号(実開昭60-28051号公報)のマイクロフィルム
甲第3号証:特開平9-111333号公報
1 異議申立理由1
本件特許発明1、2、4は、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明であり、本件特許発明5は、甲第2号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号に規定する要件を満足するものではない。
2 異議申立理由2
本件特許発明1、2、4は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明3は、甲第3号証に記載された発明に、甲第1号証の記載事項又は甲第2号証の記載事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、あるいは、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に、甲第3号証に記載された「ジャケット本体に接続される供給管の向きを、ジャケット本体の噴射孔と一致させる」ことを適用することは、容易に想到し得るものである。
本件特許発明5は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか、甲第2号証に記載された発明に、甲第1号証の記載事項を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、その特許は、特許法第29条第2項に規定する要件を満足するものではない。
第4 取消理由の概要
本件特許の請求項1、2、4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるので、取り消されるべきものである。
第5 判断
1 各甲号証の記載事項
(1)甲第1号証について
(1-1)甲第1号証の記載事項
本件特許に係る出願日前に公知となった甲第1号証である特開2011-194417号公報には以下の事項が記載されている。
(1-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水供給源に冷却水供給管を介して接続されたノズルヘッダと、冷却水供給管に設けられた冷却水供給制御手段と、前記ノズルヘッダに取り付けられた冷却ノズル群とを備えて、鋼材上面に冷却水を供給する鋼材の冷却装置において、
鋼材上面への冷却水の供給を停止する際に、待機位置から旋回して、前記冷却ノズル群から流出する残留冷却水を受け止める位置に移動し、受け止めた残留冷却水を鋼材の通過領域外に排出する樋状の旋回式シャッターを備えていることを特徴とする鋼材の冷却装置。」
(1-イ)「【0001】
本発明は、厚鋼板、薄鋼板、形鋼等の鋼材の冷却装置および冷却方法に関し、特に鋼材の制御圧延に用いるのに好適な鋼材の冷却装置および冷却方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延工程において制御圧延を行う場合、必要に応じて、圧延途中の段階で水冷の冷却装置で所定温度まで圧延材を冷却することが行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
その際に、冷却装置で所定温度まで圧延材を冷却したら、ノズルヘッダに冷却水を供給する冷却水供給管に設けられている遮断弁を閉鎖して、ノズルヘッダへの冷却水の供給を停止するが、遮断弁以降の配管およびノズルヘッダ内に残存している冷却水(残存冷却水)が冷却ノズルから流出するため、残存冷却水が冷却ノズルから流出し終わるまで圧延を続行することができない。例えば、次材として水冷しない圧延材が冷却装置を通過する場合、残存冷却水が冷却ノズルから流出し終わるまで、冷却装置の前で待機することになる。その結果、圧延ラインにアイドルタイムが発生してしまう。」
(1-ウ)「【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、鋼材の制御圧延等に用いる冷却装置および冷却方法として、良好な水切り性能を有する冷却装置および冷却方法を提供することを目的とするものである。」
(1-エ)「【0015】
本発明においては、鋼材の制御圧延等に用いる冷却装置として、良好な水切り性能を備えた冷却装置および冷却方法を提供することができる。その結果、例えば、次材として水冷しない圧延材が冷却装置を通過する場合でも、冷却装置の前で待機する必要がなくなり、操業を継続することができる。」
(1-オ)「【0019】
図1、図2に示すように、本発明の一実施形態における冷却装置10は、搬送テーブル5上の鋼板1の上面に冷却水を噴射するようになっており、冷却水供給源に冷却水供給管11を介して接続されたノズルヘッダ12と、冷却水供給管11に設けられた冷却水供給制御手段(電気信号によって開閉動作を行う開閉弁)16と、ノズルヘッダ12に取り付けられた冷却ノズル群(例えば、数百本の棒状冷却水噴射ノズル)13とからなる基本的構成になっている。
【0020】
そして、ノズルヘッダ12は、内管12aと外管12bからなる2重管構造になっており、内管12aに冷却水供給管11が接続している。
【0021】
これによって、電気信号を送って、冷却水供給用開閉弁16を開放すれば、冷却水供給源からの冷却水が冷却水供給管11を通ってノズルヘッダ12の内管12aに供給される。内管12a内に供給された冷却水は、その上方部分に形成された貫通孔12cを通って、ノズルヘッダ12の外管12b内に供給され、均一な圧力でノズル群13から噴出し、鋼板1の上面に冷却水が供給される。そして、冷却水供給用開閉弁16を閉鎖すれば、ノズルヘッダ12内への冷却水の供給は遮断される。
【0022】
しかし、上記の基本的構成だけの場合には、鋼板1上面への冷却水の供給を停止する際に、冷却水供給用開閉弁16を閉じて、冷却水供給源からノズルヘッダ12への冷却水の供給を停止しても、冷却水供給用開閉弁16以降の冷却水供給管11内やノズルヘッダ12内に残留している冷却水(残留冷却水)が重力によって下方に移動し、冷却ノズル13を通って鋼板1上面に流出してしまう。
【0023】
そこで、この実施形態における冷却装置10では、上記のような冷却ノズル13から流出する残留冷却水を鋼板1の通過領域外(鋼板1が通過する板道の外側)に排出できるようにした樋状の旋回式シャッターを備えている。」
(1-カ)「
」
(1-2)甲第1号証に記載された発明
ア 上記(1-ア)によれば、甲第1号証には鋼材の冷却装置に係る発明が記載されており、該鋼材の冷却装置は、冷却水供給源に冷却水供給管を介して接続されたノズルヘッダと、冷却水供給管に設けられた冷却水供給制御手段と、前記ノズルヘッダに取り付けられた冷却ノズル群とを備えて、鋼材上面に冷却水を供給する鋼材の冷却装置において、鋼材上面への冷却水の供給を停止する際に、待機位置から旋回して、前記冷却ノズル群から流出する残留冷却水を受け止める位置に移動し、受け止めた残留冷却水を鋼材の通過領域外に排出する樋状の旋回式シャッターを備えているものである。
イ すなわち、上記(1-イ)、(1-ウ)によれば、上記鋼材の冷却装置は、特に鋼材の制御圧延に用いるのに好適なものであって、熱間圧延工程において制御圧延を行う場合、必要に応じて、圧延途中の段階で水冷の冷却装置で所定温度まで圧延材を冷却することが行われるが、冷却装置で所定温度まで圧延材を冷却したら、ノズルヘッダに冷却水を供給する冷却水供給管に設けられている遮断弁を閉鎖して、ノズルヘッダへの冷却水の供給を停止しても、遮断弁以降の配管およびノズルヘッダ内に残存している冷却水(残存冷却水)が冷却ノズルから流出するため、残存冷却水が冷却ノズルから流出し終わるまで圧延を続行することができないことから、鋼材の制御圧延等に用いる冷却装置として、良好な水切り性能を有する冷却装置を提供することを目的とするものである。
ウ そして、上記(1-オ)、(1-カ)の記載事項および上記ア~イの検討によれば、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「鋼材に冷却水を供給する鋼材の冷却装置のノズルヘッダであって、
鋼材に対向する部位に複数の冷却ノズル群を有するノズルヘッダ外管と、ノズルヘッダ外管に冷却水を供給する冷却水供給管及び内管とを有し、
前記内管がノズルヘッダ外管内に配置されており、
ノズルヘッダ外管内の内管の少なくとも側面に貫通孔が設けてあり、
ノズルヘッダ外管内に冷却水が満たされて、各冷却ノズル群から冷却水が噴射されることを特徴とする鋼材の冷却装置のノズルヘッダ。」
(2)甲第2号証について
(2-1)甲第2号証の記載事項
本件特許に係る出願日前に公知となった甲第2号証である実願昭58-120197号(実開昭60-28051号公報)のマイクロフィルムには以下の事項が記載されている。
(2-ア)「〔実用新案登録請求の範囲〕
冷却あるいは加熱用の液体を被処理体上に振りかける液体散布装置において、前記被処理体の上側に臨ませて二重管を配設し、前記二重管の外管の所定長にわたつてかつ前記被処理体に指向された散布孔を配設するとともに前記二重管の内管に前記散布孔設置位置に対し異方向に指向された複数のノズルを設けて、前記内管を液体供給源に接続したことを特徴とする液体供給装置。」
(2-イ)「本考案は、食品化工機等の一般化学プラント、その各種装置の部材に冷却あるいは加熱用の液体を散布して熱交換するための液体散布装置に関するものである。」(1頁14行~17行)
(2-ウ)「しかして、従来の前記液体散布装置においては、被処理体上への液体散布状態を均一にするために散布管(2)内の液圧を高め、各噴出ノズル(2a)における噴出直前の液圧を均一にして、全ての噴出ノズルの液体噴出量を均等にすることが必要があり、そのため各ノズル(2a)による液体噴出速度が著しく増加されその運動エネルギーによつて、第1図(B)に示すように噴出液体の飛散(イ)が著しくなり、被処理体(a)表面の液量が著しく低減され被処理体(a)上への液体の有効散布率の低減により熱交換性能が低下され、さらには集水器(3)外へ液体が散逸して冠水を生じたり液体の循環比率が低下するなどの欠点がある。また、前記運動エネルギーを小さくするために各噴出ノズルの径を大きくしかつ散布管内の圧力を低くして所定の液体散布量を確保し噴出速度を低下することが考えられるが、散布管内の液圧を低下させると同散布管内の前後で大きい液圧のバラツキが生じ、各噴出ノズルの液体流出量が不均一になつて被処理体(a)上に液体を均一に散布できなくなる欠点が生ずる。」(2頁15行~3頁14行)
(2-エ)「本案は、従来の液体散布装置における前記のような欠点を解消する考案に係り、冷却あるいは加熱用の液体を被処理体上に振りかける液体散布装置において、前記被処理体の上側に臨ませて二重管を配設し、前記二重管の外管の所定長にわたつてかつ前記被処理体に指向された散布孔を配設するとともに前記二重管の内管に前記散布孔設置位置に対し異方向に指向された複数のノズルを設けて、前記内管を液体供給源に接続した点に特徴を有するものであつて、被処理体の上側に臨ませて配設する散布管を二重管構造にすることにより、被処理体上への液体の散布速度を低減しかつ均等化して前記のような欠点を解消した液体散布装置を供する点にある。
本考案は、前記の構成になつており、被処理体の上側に臨ませて二重管を配設し、前記二重管の外管の所定長にわたつてかつ前記被処理体上に指向された散布孔を配設するとともに前記二重管の内管に前記散布孔設置位置に対し異方向に指向された複数のノズルを設けて、前記内管を液体供給源に接続しているので、二重管内に圧送された冷却あるいは加熱用の液体が、同内管の各ノズルから外管の内壁に向つて噴出され、外管内に噴出された液体は、同外管内において低圧となりかつ全域にわたつて均等に分配されたのち同外管に設けた散布孔から被処理体上に散布されて、前記散布孔から前記液体が低圧でかつ均等量にて被処理体に向つて散布され、被処理体上への液体散布が均一化され散布効率が著しく高められ、冷却あるいは加熱性能が著しく向上される。」(3頁15行~5頁4行)
(2-オ)「第2図(A)(B)に本考案の一実施例が示されており、図中(a)は冷却あるいは加熱用の液体が散布され熱交換によつて冷却あるいは加熱される被処理体、(3)は被処理体(a)を冷却あるいは加熱したのちの液体を集水する集水器、(3a)は集水器(3)のドレン孔であつて、本実施例においては、被処理体(a)の上側に臨ませて二重管(10)を配設し、前記二重管(10)の外管(10a)の下側にその略全長にわたり散布孔(11)を前記被処理体(a)上に指向させて配設するとともに、前記二重管(10)における外管(10a)の内部全長にわたつて配置されている小径の内管(10b)に、液体噴出用の複数のノズル(12)を軸方向に適宜間隔を存して配設し、かつ、前記各ノズル(12)を前記散布孔(11)の設置位置に対し異方向に指向させるために図示上側へ指向させて設けた構成とし、さらに、前記内管(10b)を図示省略した液体供給源に接続して、図示省略した液体供給源からポンプによつて液体供給管を介し冷却あるいは加熱用の液体を前記内管(10b)内に所望時間にわたつて連続的に圧入、供給する構成になっている。また、前記外管(10a)に対し内管(10b)は相対的に大きな径差な有し内、外管(10a)(10b)間に十分な液体保有空間が確保されている。」(5頁6行~6頁8行)
(2-カ)「また、前記散布孔(11)は、・・・さらに、第3図(D)に示すように外管(10a)の下部に軸方向の切欠部を設け、該切欠部に適宜孔径の金網(l1d)を取付けて、前記金網(l1d)によつて前記散布孔(11)の構成にすることもできる。
なお、前記第3図(A)~(D)に示した散布孔(ll)の各種具体例は、内管(10b)に設けた前記複数のノズル(12)にも適用可能であるが、該ノズル(12)から出る液体は外管(10a)内において均等配分されるように所定の噴出速度を有するようにすることが望ましく、第3図(A)~(D)の具体例をノズル(12)に適用するためには少し小幅あるいは小径にて形成された構成となり、また、その噴出方向は第2図(B)に示す斜方向(12’)にすることもできる。」(6頁9行~7頁12行)(当審注:「・・・」は省略を表す。)
(2-キ)「図示した実施例は、前記のような構成になつているので、液体供給源からポンプによって液体供給管(図示省略)を介し二重管(10)の内管(10b)内に冷却あるいは加熱用の液体を圧入すると、内管(10b)内の前記液体は内管(10b)の複数のノズル(12)(12’)から外管(10a)の内壁全域にわたつて噴出され、外管(10a)内に噴出された前記液体は外管(10a)の内壁に当つて全長にわたつて分散され著しく低圧になつて外管(10a)の全域にわたつて分配されるため、二重管(10)の外管(10a)に配設された散布孔から散布される前記液体は、前記散布孔から低圧にてかつ均等量流出され、散布孔から出る液体の運動エネルギーが著しく低減され従来のような液体の飛散が大幅に少なくなり被処理体上への液体の有効散布率が著しく高められかつ散布量が均一となり、被処理体を冷却あるいは加熱する熱交換性能が著しく向上される。」(7頁17行~8頁13行)
(2-ク)「
」
(2-2)甲第2号証に記載された発明
ア 上記(2-ア)によれば、甲第2号証には液体散布装置に係る発明が記載されており(当審注:上記(2-ア)の最終行には「液体供給装置」と記載されているが、ほかの記載からみて、上記記載は「液体散布装置」の誤記と認められる。)、該液体散布装置は、冷却あるいは加熱用の液体を被処理体上に振りかける液体散布装置において、前記被処理体の上側に臨ませて二重管を配設し、前記二重管の外管の所定長にわたってかつ前記被処理体に指向された散布孔を配設するとともに前記二重管の内管に前記散布孔設置位置に対し異方向に指向された複数のノズルを設けて、前記内管を液体供給源に接続したものである。
イ すなわち、上記(2-イ)~(2-エ)によれば、上記液体散布装置は、食品化工機等の一般化学プラント、その各種装置の部材に冷却あるいは加熱用の液体を散布して熱交換するための液体散布装置に関するものであって、従来の前記液体散布装置においては、被処理体上への液体散布状態を均一にするために散布管内の液圧を高め、各噴出ノズルにおける噴出直前の液圧を均一にして、全ての噴出ノズルの液体噴出量を均等にすることが必要があり、そのため各ノズルによる液体噴出速度が著しく増加され、その運動エネルギーによって噴出液体の飛散が著しくなり、被処理体表面の液量が著しく低減され被処理体上への液体の有効散布率の低減により熱交換性能が低下され、さらには集水器外へ液体が散逸して冠水を生じたり液体の循環比率が低下するなどの欠点があり、また、前記運動エネルギーを小さくするために各噴出ノズルの径を大きくしかつ散布管内の圧力を低くして所定の液体散布量を確保し噴出速度を低下すると、同散布管内の前後で大きい液圧のバラツキが生じ、各噴出ノズルの液体流出量が不均一になつて被処理体上に液体を均一に散布できなくなる欠点が生ずるものである。
ウ そこで、上記液体散布装置は、冷却あるいは加熱用の液体を被処理体上に振りかける液体散布装置において、前記被処理体の上側に臨ませて二重管を配設し、前記二重管の外管の所定長にわたってかつ前記被処理体に指向された散布孔を配設するとともに前記二重管の内管に前記散布孔設置位置に対し異方向に指向された複数のノズルを設けて、前記内管を液体供給源に接続した点に特徴を有するものであって、被処理体の上側に臨ませて配設する散布管を二重管構造にすることにより、被処理体上への液体の散布速度を低減しかつ均等化して前記のような欠点を解消した液体散布装置を供するものである。
エ そして、上記(2-オ)~(2-ク)の記載事項および上記ア~ウの検討によれば、甲第2号証には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「被処理体に冷却あるいは加熱用の液体を供給する液体散布装置の二重管であって、
被処理体に対向する部位に複数の散布孔を有する外管と、外管に冷却あるいは加熱用の液体を供給する内管とを有し、
前記内管の一部が外管内に配置されており、
外管内の内管の少なくとも側面にノズルが設けてあり、
外管内に冷却あるいは加熱用の液体が満たされて、各散布孔から冷却あるいは加熱用の液体が散布されることを特徴とする液体散布装置。」(以下、「甲2-1発明」という。)
「内管の側面に複数のノズルが設けられたことを特徴とする甲2-1発明の液体散布装置。」(以下、「甲2-2発明」という。)
「外管における内管の接続部を、散布孔を設けた部位と交差する部位に設けたことを特徴とする甲2-1発明又は甲2-2発明の液体散布装置。」(以下、「甲2-3発明」という。)
(3)甲第3号証について
(3-1)甲第3号証の記載事項
本件特許に係る出願日前に公知となった甲第3号証である特開平9-111333号公報には次の事項が記載されている。
(3-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 位置エネルギーを利用して冷却液をワークに噴射する冷却ジャケットにおいて、ワークに向かって開設された噴射孔を有するジャケット本体と、このジャケット本体の内側又は外側に移動可能に設けられた遮液板と、この遮液板を噴射位置と遮液位置とにわたって移動させる移動部とを具備しており、前記遮液板には貫通孔が設けられており、遮液板が噴射位置にある場合には噴射孔と貫通孔とが一致し、遮液位置にある場合には噴射孔が遮液板によって閉塞されることを特徴とする冷却ジャケット。」
(3-イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高周波焼入装置に用いられる冷却ジャケットに関する。
【0002】
【従来の技術】図4に示すように、冷却液Lを貯溜する冷却液貯溜タンク700を冷却ジャケット710より高い位置に設置し、位置エネルギーを利用して冷却液LをワークWに噴射するようにした高周波焼入装置がある。かかる高周波焼入装置では、ワークWに対する冷却液Lの噴射を停止するため、冷却液貯溜タンク700と冷却ジャケット710とを接続する供給管720の途中にバルブ730を設けている。供給管720には、冷却ジャケット710より低い位置にまで迂回した迂回部721が設けられており、この迂回部721に前記バルブ730が設けられている。」
(3-ウ)「【0006】本発明は上記事情に鑑みて創案されたもので、冷却遅れや泡を含む冷却液の噴射が生じることなく、小さな容量の回収ポンプが使用でき、しかもワークの交換時の作業が行いやすい冷却ジャケットを提供することを目的としている。」
(3-エ)「【0010】本発明の第1の実施の形態に係る冷却ジャケット100は、位置エネルギーを利用して冷却液LをワークWに噴射する冷却ジャケットであって、ワークWに向かって開設された噴射孔111を有するジャケット本体110と、このジャケット本体110の内側に移動可能に設けられた遮液板120と、この遮液板120を噴射位置と遮液位置とにわたって移動させる移動部130とを備えており、前記遮液板120には貫通孔121が設けられており、遮液板120が噴射位置にある場合には噴射孔111と貫通孔121とが一致し、遮液位置にある場合には噴射孔111が遮液板120によって閉塞されるように構成されている。
【0011】前記ジャケット本体110は、背面に供給管410が接続された中空の箱体である。このジャケット本体110の前面、すなわちワークWに向かう面には複数の噴射孔111が所定のパターンで開設されている。
【0012】また、このジャケット本体110の内部には、図1に示すように、供給管410から供給された冷却液Lが噴射孔111から均一の圧力で噴射するようにするための均圧板150が設けられている。この均圧板150は、複数の小孔151が開設された板材であり、噴射孔111が開設された前面と向かい合うように支柱152で固定されている。」
(3-オ)「【0027】まず、焼入ステーションAでのワークWに対する高周波焼入における動作について説明する。加熱前のワークWを加熱位置に搬入する際には、冷却ジャケット100Aの噴射孔111は遮液板120で閉塞して、噴射孔111から冷却液Lが噴射しないようにしておく。この時、冷却液貯溜タンク400は、冷却ジャケット100Aより高い位置にあるので、冷却液貯溜タンク400と冷却ジャケット100Aとを接続する供給管410及び冷却ジャケット100Aには冷却液Lが詰まっている。
【0028】図外のワーク保持装置によってワークWを加熱位置で保持したならば、高周波加熱コイル200Aへの高周波電流の供給を開始してワークWを加熱する。この際、ワークWを均一に加熱するため、ワークWを回転駆動することも行われる。
【0029】ワークWに対する所定の加熱が完了したならば、冷却ジャケット100Aの移動部130により遮液板120を遮液位置から噴射位置に移動させる。すなわち、遮液板120の貫通孔121とジャケット本体110の噴射孔111とを一致させるのである。これにより、冷却ジャケット100Aから冷却液LがワークWに向かってた噴射され、ワークWに対する高周波焼入が施されるのである。
【0030】ワークWに対する所定の冷却が完了したならば、冷却ジャケット100Aの移動部130により遮液板120を噴射位置から遮液位置に移動させる。これにより、噴射孔111は遮液板120によって閉塞され、噴射孔111からの冷却液Lの噴射は停止される。
【0031】そして、高周波焼入が施されたワークWを焼入ステーションAから搬出入装置で搬出し、次の新たなワークWを加熱位置にセットする。」
(3-カ)「
」
(3-2)甲第3号証に記載された発明
ア 上記(3-ア)によれば、甲第3号証には冷却ジャケットに係る発明が記載されており、該冷却ジャケットは、位置エネルギーを利用して冷却液をワークに噴射する冷却ジャケットにおいて、ワークに向かって開設された噴射孔を有するジャケット本体と、このジャケット本体の内側又は外側に移動可能に設けられた遮液板と、この遮液板を噴射位置と遮液位置とにわたって移動させる移動部とを具備しており、前記遮液板には貫通孔が設けられており、遮液板が噴射位置にある場合には噴射孔と貫通孔とが一致し、遮液位置にある場合には噴射孔が遮液板によって閉塞されるものである。
イ すなわち、上記(3-イ)~(3-ウ)によれば、上記冷却ジャケットは、高周波焼入装置に用いられる冷却ジャケットであって、冷却遅れや泡を含む冷却液の噴射が生じることなく、小さな容量の回収ポンプが使用でき、しかもワークの交換時の作業が行いやすい冷却ジャケットを提供するものである。
エ そして、上記(3-エ)~(3-カ)の記載事項および上記ア~イの検討によれば、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ワークに冷却液を噴射供給する焼入装置の冷却ジャケットであって、
ワークに対向する部位に複数の噴射孔を有するジャケット本体と、ジャケット本体に冷却液を供給する供給管とを有し、
ジャケット本体内に冷却液が満たされて、各散布孔から冷却液が噴射されることを特徴とする焼入装置の冷却ジャケット。」
2 取消理由についての判断
(1)本件特許発明1について
(1-1)本件特許発明1と甲2-1発明との対比
ア 本件特許発明1と甲2-1発明とを対比すると、本件特許発明1の「誘導電流が励起されて加熱された被加熱物」は「被処理体」といえるものである。
イ 上記(2-イ)によれば、甲2-1発明は、食品化工機等の一般化学プラント、その各種装置の部材に冷却あるいは加熱用の液体を散布して熱交換するための液体散布装置に関するものであって、上記(2-キ)によれば、液体供給源からポンプによって液体供給管を介し二重管(10)の内管(10b)内に冷却あるいは加熱用の液体を圧入すると、内管(10b)内の前記液体は内管(10b)の複数のノズル(12)(12’)から外管(10a)の内壁全域にわたって噴出され、外管(10a)内に噴出された前記液体は外管(10a)の内壁に当って全長にわたって分散され著しく低圧になって外管(10a)の全域にわたって分配されるため、二重管(10)の外管(10a)に配設された散布孔から散布される前記液体は、前記散布孔から低圧にてかつ均等量流出され、散布孔からのような液体の飛散が大幅に少なくなり被処理体上への液体の有効散布率が著しく高められかつ散布量が均一となり、被処理体を冷却あるいは加熱する熱交換性能が著しく向上されるものである。
そして、そのような甲2-1発明の作用からみれば、甲2-1発明の「冷却あるいは加熱用の液体」及び「二重管」は、それぞれ本件特許発明1の「冷却液」及び「冷却ジャケット」に相当し、甲2-1発明は、「被処理体」に「冷却液を噴射供給する」ものといえるから、甲2-1発明の「被処理体に冷却あるいは加熱用の液体を供給する液体散布装置の二重管」は、本件特許発明1の「被処理体に、冷却液を噴射供給する装置の冷却ジャケット」に相当する。
ウ 上記甲2-1発明の作用からみれば、甲2-1発明の「外管」の「散布孔」は、本件特許発明1の「噴射孔」に相当し、甲2-1発明の「外管」は、本件特許発明1の「被処理体に対向する部位に複数の噴射孔を有するジャケット本体」に相当し、甲2-1発明の「内管」は、本件特許発明1の「ジャケット本体に冷却液を供給する供給管」に相当し、甲2-1発明の「内管」の「ノズル」は、本件特許発明1の「供給管」の少なくとも側面に設けた「孔」に相当するから、甲2-1発明は、「前記供給管の一部がジャケット本体内に配置されており、ジャケット本体内の供給管の少なくとも側面に孔が設けてあり、ジャケット本体内に冷却液が満たされて、各噴射孔から冷却液が噴射される」ものといえる。
エ そして、上記ア~ウの検討によれば、本件特許発明1と甲2-1発明の一致点と相違点は次のとおりである。
<一致点>
被処理体に、冷却液を噴射供給する装置の冷却ジャケットであって、
被処理体に対向する部位に複数の噴射孔を有するジャケット本体と、ジャケット本体に冷却液を供給する供給管とを有し、
前記供給管の一部がジャケット本体内に配置されており、
ジャケット本体内の供給管の少なくとも側面に孔が設けてあり、
ジャケット本体内に冷却液が満たされて、各噴射孔から冷却液が噴射されることを特徴とする、装置の冷却ジャケット。
<相違点>
相違点1:本件特許発明1においては、装置が焼入装置であるのに対して,甲2-1発明は装置が焼入装置であるとの特定事項を有しない点。
相違点2:本件特許発明1においては、被処理体が、誘導電流が励起されて加熱された被加熱物であるのに対して、甲2-1発明は、被処理体が、誘導電流が励起されて加熱された被加熱物であるとの特定事項を有しない点。
(1-2)判断
(1-2-1)相違点1について
ア 上記(3-ア)、(3-イ)のとおり、高周波焼入装置に冷却ジャケットが用いられることは、本件特許出願当時当業者にとって周知の技術事項といえ、上記(3-エ)(【0012】)によれば、そのような冷却ジャケットにおいては、供給管から供給された冷却液が噴射孔から均一の圧力で噴射されるようにするものである。
イ 一方、上記(2-キ)によれば、甲2-1発明は、液体供給源からポンプによって液体供給管を介し二重管の内管内に冷却あるいは加熱用の液体を圧入すると、内管内の前記液体は内管の複数のノズルから外管の内壁全域にわたって噴出され、外管内に噴出された前記液体は外管の内壁に当って全長にわたって分散され著しく低圧になって外管の全域にわたって分配されるため、二重管の外管に配設された散布孔から散布される前記液体は、前記散布孔から低圧にてかつ均等量流出され、散布孔からのような液体の飛散が大幅に少なくなり被処理体上への液体の有効散布率が著しく高められかつ散布量が均一となり、被処理体を冷却あるいは加熱する熱交換性能が著しく向上されるものであるから、供給管から供給された冷却液が噴射孔から均一の圧力で噴射されるようにするものといえる。
ウ そして、このことと、上記アの検討事項に基づいてみれば、冷却液が噴射孔から均一の圧力で噴射される、という作用、効果を奏する甲2-1発明を、高周波焼入装置のような焼入装置の冷却ジャケットに適用することは、甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
(1-2-2)相違点2について
ア 甲2-1発明を高周波焼入装置のような焼入装置の冷却ジャケットに適用することが、甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであることは、上記(1-2-1)ウに記載のとおりである。
イ 一方、高周波焼入装置において誘導電流が励起されて被加熱物が加熱されることは、上記(3-オ)の記載事項から明らかであるから、甲2-1発明を高周波焼入装置のような焼入装置の冷却ジャケットに適用するに際して、被処理体を誘導電流が励起されて加熱された被加熱物とすることも、甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
(1-2-3)作用効果について
ア 甲2-1発明によって、簡素な構成で各噴射孔から略均等に冷却液を噴射することができることは当業者にとって明らかであり、本件特許発明1により、甲第2号証及び甲第3号証に記載される以上の格別な作用、効果を奏するものでもないので、本件特許発明1は、甲2-1発明及び甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件特許発明2について
(2-1)本件特許発明2と甲2-2発明との対比・判断
ア 上記(2-キ)によれば、甲2-2発明の「内管」の「複数のノズル」は本件特許発明2の「供給管」の側面に設けた「複数の孔」に相当するから、甲2-2発明は、供給管の側面に複数の孔を設けたものといえる。
イ このことと、上記(1)(1-1)ア~エの検討事項に基づいてみれば、本件特許発明2と甲2-2発明の相違点は、上記相違点1及び相違点2のみである。
そして、上記(1)(1-2)の検討事項に基づいてみれば、上記相違点1及び相違点2は、いずれも、甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
ウ してみれば、本件特許発明2もまた、甲2-2発明及び甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件特許発明3について
(3-1)本件特許発明3と甲2-1発明との対比
ア 本件特許発明3と甲2-1発明とを対比すると、上記相違点1及び相違点2に加えて、以下の相違点3を有するものである。
<相違点>
相違点3:本件特許発明3においては、ジャケット本体内の供給管の向きが、ジャケット本体の噴射孔の向きと一致しているのに対して、甲2-1発明は、ジャケット本体内の供給管の向きが、ジャケット本体の噴射孔の向きと一致しているとの特定事項を有しない点。
(3-2)判断
ア 甲第3号証に記載される発明は、そもそも、供給管の一部がジャケット本体内に配置されるものではないから、甲第3号証に、ジャケット本体内の供給管の向きをジャケット本体の噴射孔の向きと一致させることは記載も示唆もされるものではない。
そして、本件特許発明3は、上記相違点3に係る発明特定事項により、冷却液の進行方向は、噴射孔の向きと直交しており、噴射孔から直に排出されることがないから、冷却液は、空間内に蓄積され、空間内の液位が上昇し充満すると、加圧された冷却液が、複数の噴射孔から略一様に噴射される、という作用、効果を奏するものである(本件特許明細書【0033】~【0034】)。
イ そうすると、甲2-1発明において、ジャケット本体内の供給管の向きをジャケット本体の噴射孔の向きと一致させることを、甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないので、甲2-1発明において上記相違点3に係る本件特許発明3の発明特定事項とすることを、甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。
したがって、本件特許発明3を、甲2-1発明及び甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(4)本件特許発明4について
(4-1)本件特許発明4と甲2-3発明との対比・判断
ア 上記(2-オ)~(2-ク)の記載事項によれば、甲2-3発明の「外管」及び「内管」は、それぞれ、本件特許発明4の「ジャケット本体」及び「供給管」に相当し、甲2-3発明の「外管」の「散布孔」は本件特許発明4の「噴射孔」に相当し、甲2-3発明は、「ジャケット本体における供給管の接続部を、噴射孔を設けた部位と交差する部位に設けた」ものといえる。
イ このことと、上記(1)(1-1)ア~エの検討事項に基づいてみれば、本件特許発明4と甲2-3発明の相違点は、上記相違点1及び相違点2のみである。
そして、上記(1)(1-2)の検討事項に基づいてみれば、上記相違点1及び相違点2は、いずれも甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
ウ してみれば、本件特許発明4もまた、甲2-3発明及び甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)本件特許発明5について
(5-1)本件特許発明5と甲2-1発明との対比
ア 本件特許発明5と甲2-1発明とを対比すると、上記相違点1及び相違点2に加えて、以下の相違点4を有するものである。
<相違点>
相違点4:本件特許発明5では、前記供給管の端面に孔を設け、前記端面の孔の総面積は、端面の面積の50%以下であり、前記端面の孔の総面積は、側面の孔の総面積よりも小さいのに対して、甲2-1発明は、前記供給管の端面に孔を設け、前記端面の孔の総面積は、端面の面積の50%以下であり、前記端面の孔の総面積は、側面の孔の総面積よりも小さいとの特定事項を有しない点。
(5-2)判断
ア 甲第3号証に記載される発明は、そもそも、供給管の一部がジャケット本体内に配置されるものではなく、ジャケット本体内の供給管の少なくとも側面に孔が設けられるものでもないから、甲第3号証に、供給管の端面に孔を設け、前記端面の孔の総面積は、端面の面積の50%以下であり、前記端面の孔の総面積は、側面の孔の総面積よりも小さいことは記載も示唆もされるものではない。
そして、本件特許発明5は、上記相違点4の特定事項により、底壁8の他の噴射孔と同様に、冷却液20が噴射孔9a、9bからも被加熱物30に向けて良好に噴射される、という作用、効果を奏するものである(本件特許明細書【0041】~【0046】)。
イ そうすると、甲2-1発明において、供給管の端面に孔を設け、前記端面の孔の総面積は、端面の面積の50%以下であり、前記端面の孔の総面積は、側面の孔の総面積よりも小さいものとすることを、甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないので、甲2-1発明において上記相違点4に係る本件特許発明5の発明特定事項とすることを、甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。
したがって、本件特許発明5を、甲2-1発明及び甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(6)取消理由についてのむすび
ア 以上のとおりであるので、本件特許発明1、2、4は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ また、本件特許発明3、5は、甲第2号証に記載される発明であるとはいえないし、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 異議申立理由についての判断
(1)甲第1号証を主引用例とする場合
(1-1)本件特許発明1と甲1発明との対比
ア 上記(1-イ)によれば、甲1発明は、熱間圧延工程において圧延材を冷却するものであって、上記(1-オ)(【0021】)によれば、冷却水供給源からの冷却水が冷却水供給管11を通ってノズルヘッダ12の内管12aに供給され、内管12a内に供給された冷却水は、その上方部分に形成された貫通孔12cを通って、ノズルヘッダ12の外管12b内に供給され、均一な圧力でノズル群13から噴出し、鋼板1の上面に冷却水が供給されるものである。
そして、甲1発明の「鋼材」、「冷却水」及び「ノズルヘッダ」は、それぞれ本件特許発明1の「加熱された被加熱物」、「冷却液」及び「冷却ジャケット」に対応し、甲1発明は、「加熱された被加熱物」に「冷却液を噴射供給する」ものといえるから、甲1発明の「鋼材に冷却水を供給する鋼材の冷却装置のノズルヘッダ」は、本件特許発明1の「加熱された被加熱物に、冷却液を噴射供給する装置の冷却ジャケット」に相当する。
イ 上記(1-オ)、(1-カ)によれば、甲1発明の「ノズルヘッダ外管」及び「冷却水供給管及び内管」は、それぞれ、本件特許発明1の「被加熱物に対向する部位に複数の噴射孔を有するジャケット本体」及び「ジャケット本体に冷却液を供給する供給管」に相当し、甲1発明は、「前記供給管の一部がジャケット本体内に配置されており、ジャケット本体内の供給管の少なくとも側面に孔が設けてあり、ジャケット本体内に冷却液が満たされて、各噴射孔から冷却液が噴射される」ものといえる。
ウ そして、上記ア、イの検討によれば、本件特許発明1と甲1発明の一致点と相違点は次のとおりである。
<一致点>
加熱された被加熱物に、冷却液を噴射供給する装置の冷却ジャケットであって、
被加熱物に対向する部位に複数の噴射孔を有するジャケット本体と、ジャケット本体に冷却液を供給する供給管とを有し、
前記供給管の一部がジャケット本体内に配置されており、
ジャケット本体内の供給管の少なくとも側面に孔が設けてあり、
ジャケット本体内に冷却液が満たされて、各噴射孔から冷却液が噴射されることを特徴とする、装置の冷却ジャケット。
<相違点>
相違点I:本件特許発明1においては、装置が焼入装置であるのに対して、甲1発明は装置が焼入装置であるとの特定事項を有しない点。
相違点II:本件特許発明1においては、被加熱物が、誘導電流が励起されて加熱された被加熱物であるのに対して、甲1発明は、被加熱物が、誘導電流が励起されて加熱された被加熱物であるとの特定事項を有しない点。
(1-2)判断
ア 上記相違点Iによれば、本件特許発明1と甲1発明とでは装置が焼入装置であるか否かで相違するものであって、上記(1-イ)によれば、甲1発明は、熱間圧延工程において制御圧延を行う場合、圧延途中の段階で水冷の冷却装置で所定温度まで圧延材を冷却する装置に係るものであるが、熱間圧延工程における冷却装置が焼入装置であるとは直ちにはいえないことは明らかである。
このため、少なくとも上記相違点Iは実質的な相違点であるので、本件特許発明1と甲1発明とは実質的な相違点を有するから、本件特許発明1が甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
イ そして、甲第1号証には、鋼材の冷却装置を焼入装置に適用することは記載も示唆もされておらず、甲第2号証には、液体散布装置を焼入装置に適用することは記載も示唆もされていないから、甲1発明において上記相違点Iに係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを、甲第1号証、甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。
したがって、本件特許発明1を、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(1-3)本件特許発明2、4と甲1発明との対比・判断
ア 本件特許発明2、4は、いずれも請求項1を引用するものであって、本件特許発明1が甲1発明であるとはいえないこと、及び、本件特許発明1を、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(1-2)に記載のとおりである。
イ してみれば、上記(1-2)に記載したのと同様の理由により、本件特許発明2、4も、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明及び甲第1号証、甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。
(2)甲第2号証を主引用例とする場合
(2-1)本件特許発明1と甲2-1発明との対比・判断
ア 本件特許発明1と甲2-1発明とを対比した場合の一致点と相違点は上記2(1)(1-1)エに記載のとおりであり、本件特許発明1と甲2-1発明は、上記相違点1、2の点で相違している。
イ そして、上記相違点1によれば、本件特許発明1と甲2-1発明とでは装置が焼入装置であるか否かで相違するものであって、上記(2-イ)によれば、甲2-1発明は、食品化工機等の一般化学プラント、その各種装置の部材に冷却あるいは加熱用の液体を散布して熱交換するための液体散布装置に関するものであるが、食品化工機等の一般化学プラント等の液体散布装置が焼入装置であるとは直ちにはいえないことは明らかである。
このため、少なくとも上記相違点1は実質的な相違点であるので、本件特許発明1と甲2-1発明とは実質的な相違点を有するから、本件特許発明1が甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。
ウ そして、甲第1号証には、鋼材の冷却装置を焼入装置に適用することは記載も示唆もされておらず、甲第2号証には、液体散布装置を焼入装置に適用することは記載も示唆もされていないから、甲2-1発明において上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを、甲第1号証、甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。
したがって、本件特許発明1を、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(2-2)本件特許発明2、4、5と甲2-1発明との対比・判断
ア 本件特許発明2、4、5は、いずれも請求項1を引用するものであって、本件特許発明1が甲第2号証に記載された発明であるとはいえないこと、及び、本件特許発明1を、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(2-1)に記載のとおりである。
イ してみれば、上記(2-1)に記載したのと同様の理由により、本件特許発明2、4、5も、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。
(3)本件特許発明3について
異議申立書(3頁「理由の要点2」(当審注:「理由の要点2」の「2」は「○に2」と表記されている。)、18頁5行~19頁下から6行、22頁7行~9行)によれば、申立人は、本件特許発明3について、甲第3号証を主引用例として、これに甲第1号証又は甲第2号証の記載事項を適用することは容易である旨と、甲第1号証又は甲第2号証を主引用例として、これらに甲第3号証の記載事項を適用することは容易に想到し得る旨を主張していると認められる。
このうち、甲第2号証を主引用例とする場合は、上記2(3)で検討したので、以下、甲第3号証を主引用例とする場合と、甲第1号証を主引用例とする場合について検討しておく。
(3-1)本件特許発明3と甲3発明との対比
ア 上記(3-イ)によれば、甲3発明は、高周波焼入装置に用いられる冷却ジャケットに関するものであって、上記(3-オ)によれば、ワーク保持装置によってワークWを加熱位置で保持したならば、高周波加熱コイル200Aへの高周波電流の供給を開始してワークWを加熱するものであり、ワークWに対する所定の加熱が完了したならば、冷却ジャケット100Aの移動部130により遮液板120を遮液位置から噴射位置に移動させ、これにより、冷却ジャケット100Aから冷却液LがワークWに向かってた噴射され、ワークWに対する高周波焼入が施されるものである。
イ そして、甲3発明の「ワーク」は、本件特許発明3の「誘導電流で励起されて加熱された被加熱物」に対応するから、本件特許発明3と甲3発明の一致点は次のとおりである。
<一致点>
誘導電流で励起されて加熱された被加熱物に、冷却液を噴射供給する焼入装置の冷却ジャケットであって、
被加熱物に対向する部位に複数の噴射孔を有するジャケット本体と、ジャケット本体に冷却液を供給する供給管とを有し、
ジャケット本体内に冷却液が満たされて、各散布孔から冷却液が噴射されることを特徴とする焼入装置の冷却ジャケット。
ウ また、本件特許発明3と甲3発明は、少なくとも次の相違点を有している。
<相違点>
相違点III:本件特許発明3においては、ジャケット本体内の供給管の向きが、ジャケット本体の噴射孔の向きと一致しているのに対して、甲3発明は、ジャケット本体内の供給管の向きが、ジャケット本体の噴射孔の向きと一致しているとの特定事項を有しない点。
(3-2)判断
ア 上記2(1)(1-1)エ及び3(1)(1-1)ウの検討によれば、甲第1号証及び甲第2号証には、供給管の一部がジャケット本体内に配置されていることは記載されているといえるものの、上記相違点IIIに係る特定事項である、ジャケット本体内の供給管の向きをジャケット本体の噴射孔の向きと一致させることは記載も示唆もされていない。
イ そして、本件特許発明3は、上記相違点IIIの特定事項により、冷却液の進行方向は、噴射孔の向きと直交しており、噴射孔から直に排出されることがないから、冷却液は、空間内に蓄積され、空間内の液位が上昇し充満すると、加圧された冷却液が、複数の噴射孔から略一様に噴射される、という作用、効果を奏するものである(本件特許明細書【0033】~【0034】)。
してみれば、甲3発明において、ジャケット本体内の供給管の向きをジャケット本体の噴射孔の向きと一致させることを、甲第1号証及び甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないので、甲3発明において上記相違点IIIに係る本件特許発明3の発明特定事項とすることを、甲第1号証及び甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。
したがって、本件特許発明3は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証及び甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(3-3)本件特許発明3と甲1発明との対比・判断
ア 本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点は、上記3(1)(1-1)ウに記載のとおりであり、これに基づいて本件特許発明3と甲1発明とを対比すると、本件特許発明3と甲1発明は、上記相違点I及び相違点IIに加えて、少なくとも以下の相違点III’を有するものである。
相違点III’:本件特許発明3においては、ジャケット本体内の供給管の向きが、ジャケット本体の噴射孔の向きと一致しているのに対して、甲1発明は、ジャケット本体内の供給管の向きが、ジャケット本体の噴射孔の向きと一致しているとの特定事項を有しない点。
イ 甲第3号証に記載される発明は、そもそも、供給管の一部がジャケット本体内に配置されるものではないから、甲第3号証に、ジャケット本体内の供給管の向きをジャケット本体の噴射孔の向きと一致させることは記載も示唆もされるものではない。
そうすると、甲1発明において、ジャケット本体内の供給管の向きをジャケット本体の噴射孔の向きと一致させることを、甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないので、甲1発明において上記相違点III’に係る本件特許発明3の発明特定事項とすることを、甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。
したがって、本件特許発明3を、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(4)異議申立理由についてのむすび
ア 以上のとおりであるので、本件特許発明1、2、4は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
イ 本件特許発明1、2、4、5は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ 本件特許発明3は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
第6 むすび
本件特許の請求項1、2、4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反する特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件特許の請求項3、5に係る発明については、平成29年10月17日付け取消理由通知に記載した取消理由及び異議申立書に記載した異議申立理由によっては、それらの特許を取り消すことはできない。
さらに、他に本件請求項3、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700761