特許異議申立
2023-701288
浸炭用温間鍛造部品及びその製造方法
- 審判番号
- 2023-701288
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-209480
- 登録番号
- 7287448
- 請求日
- 2023年12月05日
- 審決日
- 2025年03月28日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】愛知製鋼株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人あいち国際特許事務所
- 【異議申立人】谷口 充弘
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 佐藤 陽一
- 審判官 土屋 知久
- 分類
- P1651.113-YAA(C21D) / P1651.121-YAA(C21D) / P1651.536-YAA(C21D) / P1651.537-YAA(C21D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第126条第7項、特許法第126条第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7287448号発明「浸炭用温間鍛造部品及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7287448号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1,2について訂正することを認める。
特許第7287448号の請求項1、2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7287488号の請求項1、2に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和3年12月23日の出願であって、令和5年5月29日にその特許権の設定登録がなされ、同年6月6日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、同年12月5日に特許異議申立人谷口充弘(以下、「申立人」という。)より請求項1、2(全請求項)に係る特許に対してなされた特許異議申立事件であって、令和6年3月15日に申立人から上申書が提出され、同年3月29日付けで取消理由が通知され、これに対し、同年6月3日に意見書が提出されるとともに訂正請求がなされ、その後、同年10月11日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対し、同年12月2日に意見書が提出されるとともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。
なお、本件訂正請求後、申立人に対し期間を指定して意見を求めたが、申立人から意見書の提出はなかった。
第2 訂正請求について
1 請求の趣旨、及び、訂正の内容
本件訂正請求は、特許第7287488号の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審で下線を付した。また、令和6年6月3日になされた訂正請求は、本件訂正請求がなされたため、取り下げられたものとみなす。
1-1 訂正事項1
本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)前の特許請求の範囲の請求項1に「金属組織が、フェライト及びパーライト以外の組織の面積率が5.0%以下であり、パーライト粒の平均粒子径が式2から算出されるY(μm)以上であり、未再結晶粒の面積率が3.0%以下であり、円相当径100nm以上のAlN及びNbCNの合計個数が、5個/100μm2以下である鍛造部品を得る、浸炭用温間鍛造部品の製造方法」と記載されているのを、「軸方向中心線を含む断面における金属組織が、フェライト及びパーライト以外の組織の面積率が5.0%以下であり、パーライト粒の平均粒子径が式2から算出されるY(μm)以上であり、アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であり、円相当径100nm以上のAlN及びNbCNの合計個数が、5個/100μm2以下である鍛造部品を得る、軸方向中心線を特定可能な浸炭用温間鍛造部品の製造方法」に訂正する。
1-2 訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に「金属組織が、フェライト及びパーライト以外の組織の面積率が5.0%以下であり、パーライト粒の平均粒子径が式2から算出されるY(μm)以上であり、未再結晶粒の面積率が3.0%以下であり、円相当径100nm以上のAlN及びNbCNの合計個数が、5個/100μm2以下である、浸炭用温間鍛造部品」と記載されているのを、「軸方向中心線を含む断面における金属組織が、フェライト及びパーライト以外の組織の面積率が5.0%以下であり、パーライト粒の平均粒子径が式2から算出されるY(μm)以上であり、アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であり、円相当径100nm以上のAlN及びNbCNの合計個数が、5個/100μm2以下である、軸方向中心線を特定可能な浸炭用温間鍛造部品」に訂正する。
1-3 訂正事項3
本件訂正前の明細書【0009】に「金属組織が、フェライト及びパーライト以外の組織の面積率が5.0%以下であり、パーライト粒の平均粒子径が式2から算出されるY(μm)以上であり、未再結晶粒の面積率が3.0%以下であり、円相当径100nm以上のAlN及びNbCNの合計個数が、5個/100μm2以下である鍛造部品を得る、浸炭用温間鍛造部品の製造方法にある」と記載されているのを「軸方向中心線を含む断面における金属組織が、フェライト及びパーライト以外の組織の面積率が5.0%以下であり、パーライト粒の平均粒子径が式2から算出されるY(μm)以上であり、アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であり、円相当径100nm以上のAlN及びNbCNの合計個数が、5個/100μm2以下である鍛造部品を得る、軸方向中心線を特定可能な浸炭用温間鍛造部品の製造方法にある」に訂正する。
1-4 訂正事項4
本件訂正前の明細書【0010】に「金属組織が、フェライト及びパーライト以外の組織の面積率が5.0%以下であり、パーライト粒の平均粒子径が式2から算出されるY(μm)以上であり、未再結晶粒の面積率が3.0%以下であり、円相当径100nm以上のAlN及びNbCNの合計個数が、5個/100μm2以下である、浸炭用温間鍛造部品にある」と記載されているのを「軸方向中心線を含む断面における金属組織が、フェライト及びパーライト以外の組織の面積率が5.0%以下であり、パーライト粒の平均粒子径が式2から算出されるY(μm)以上であり、アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であり、円相当径100nm以上のAlN及びNbCNの合計個数が、5個/100μm2以下である、軸方向中心線を特定可能な浸炭用温間鍛造部品にある」に訂正する。
2 訂正の適否についての当審における判断
2-1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
(1)訂正事項1
訂正事項1は、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)【0044】の記載を根拠として、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「金属組織」を「軸方向中心線を含む断面における金属組織」に訂正して、金属組織を観察する断面を明らかにするとともに、本件明細書【0039】、【0044】を根拠として、同じく「未再結晶粒」を「アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒」に訂正して、「未再結晶粒」の定義を明らかにするものであり、また、本件明細書【0044】の記載を根拠として、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「浸炭用温間鍛造部品」が「軸方向中心線を特定可能な」ものに特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえず、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正事項1と同様の訂正であるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえず、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正事項1で請求項1を訂正したことに伴い、本件明細書の記載について訂正事項1と同様の訂正を行うものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえず、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、訂正事項2で請求項2を訂正したことに伴い、本件明細書の記載について訂正事項2と同様の訂正を行うものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえず、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
2-2 独立特許要件について
本件は、本件訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~4について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
2-3 明細書の訂正について
明細書の訂正である訂正事項3、4は、それぞれ本件訂正前の請求項1、2に対応する明細書の記載を訂正するものであるところ、本件訂正請求に係る明細書の各訂正の請求は、請求項の全てについて行うものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものである。
2-4 訂正請求のむすび
以上のとおりであるから、令和6年12月2日に特許権者が行った本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1、2についての訂正を認める。
第3 本件発明
令和6年12月2日に特許権者が行った請求項1、2についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明(以下、これらをそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
質量%において、C:0.12~0.28%、Si:0.01~0.90%、Mn:0.30~1.00%、P:0.035%以下、S:0.010~0.040%、Cr:0.40~2.00%、Al:0.020~0.060%、N:0.0100~0.0200%、Nb:0.004~0.060%、任意元素として、Mo:0~0.60%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学成分組成を有する鋼素材を準備し、
該鋼素材を、1150~1350℃の圧延温度に加熱してから圧延を行って圧延材を作製し、
1100℃以下であるとともに、下記式1から算出されるX(℃)以上で温間鍛造を行ない、その後、少なくとも700℃までは、冷却速度3.0℃/秒以下の条件で冷却し、
軸方向中心線を含む断面における金属組織が、フェライト及びパーライト以外の組織の面積率が5.0%以下であり、パーライト粒の平均粒子径が式2から算出されるY(μm)以上であり、アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であり、円相当径100nm以上のAlN及びNbCNの合計個数が、5個/100μm2以下である鍛造部品を得る、軸方向中心線を特定可能な浸炭用温間鍛造部品の製造方法。
(式1):X=1303×[Nb]+857.91、
(式2):Y=0.43/(0.94×[AlN]+0.92×[NbCN])、
(ここで、[AlN]は、[Al]×41/27の値と[N]×41/14の値のうち小さい方の値であり、[NbCN]は、[Nb]×104.9/92.9の値と([C]+([N]×12/14))×104.9/12の値のうち小さい方の値であり、上記式1、式2及びこれらの関係式において、[Nb]、[Al]、[N]及び[C]は、それぞれ、Nb、Al、N及びCの含有率(%)の値を意味する。)
【請求項2】
質量%において、C:0.12~0.28%、Si:0.01~0.90%、Mn:0.30~1.00%、P:0.035%以下、S:0.010~0.040%、Cr:0.40~2.00%、Al:0.020~0.060%、N:0.0100~0.0200%、Nb:0.004~0.060%、任意元素として、Mo:0~0.60%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学成分組成を有し、
軸方向中心線を含む断面における金属組織が、フェライト及びパーライト以外の組織の面積率が5.0%以下であり、パーライト粒の平均粒子径が式2から算出されるY(μm)以上であり、アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であり、円相当径100nm以上のAlN及びNbCNの合計個数が、5個/100μm2以下である、軸方向中心線を特定可能な浸炭用温間鍛造部品。
(式2):Y=0.43/(0.94×[AlN]+0.92×[NbCN])、
(ここで、[AlN]は、[Al]×41/27の値と[N]×41/14の値のうち小さい方の値であり、[NbCN]は、[Nb]×104.9/92.9の値と([C]+([N]×12/14))×104.9/12の値のうち小さい方の値であり、上記式1、式2及びこれらの関係式において、[Nb]、[Al]、[N]及び[C]は、それぞれ、Nb、Al、N及びCの含有率(%)の値を意味する。)」
第4 特許異議申立理由及び取消理由
1 特許異議申立理由
申立人は、証拠方法として次の甲第1~8号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲8」という。)を提出し、以下の申立理由1~4により、請求項1、2に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:国際公開第2011/055651号
甲第2号証:特開2021-154387号公報
甲第3号証:特開2007-321211号公報
甲第4号証:特開2006-257482号公報
甲第5号証:「大学演習 伝熱工学」,株式会社 裳華房,昭和56年12月15日,第13版,第370,371,382,383頁
甲第6号証:「伝熱工学資料改訂第4版」,社団法人日本機械学会,1989年7月20日,改訂第4版3刷,第38~41頁
甲第7号証:高陽他3名,「炭素鋼の過冷および凝固中の密度変化」,北海道大學工學部研究報告,第149号,1990年2月28日,第61~69頁
甲第8号証:「鉄鋼熱計算用数値」,日刊工業株式会社,昭和41年4月10日,初版,第14,15,47頁
なお、甲第8号証は、令和6年3月15日提出の上申書に添付されたものである。
1-1 申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである(取消理由に不採用)。
1-2 申立理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、取り消されるべきものである(取消理由に不採用)。
1-3 申立理由3(明確性要件)
本件特許は、次の(1)~(4)の理由により、本件訂正前の請求項1、2の記載は特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(1)本件訂正前の請求項1、2の「未再結晶粒」の判別方法が不明である(取消理由に不採用)。
(2)本件訂正前の請求項1、2の「未再結晶粒の面積率」の測定方法について、その測定位置が不明である(取消理由に不採用)。
(3)本件訂正前の請求項1、2の「未再結晶粒の面積率」の測定方法について、本件明細書【0044】記載の「最も歪みが高くなる試験片の断面中心付近」とはどの位置であるかが不明である(取消理由に不採用)。
(4)本件訂正前の請求項1、2の「未再結晶粒の面積率」の測定方法について、観察視野のサイズが不明である(取消理由に採用)。
1-4 申立理由4(実施可能要件)
本件特許は、次の(1)~(5)の理由により、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(1)本件訂正前の請求項1、2の「未再結晶粒」の判別方法が不明である(取消理由に不採用)。
(2)本件訂正前の請求項1、2の「未再結晶粒の面積率」の測定方法について、その測定位置が不明である(取消理由に不採用)。
(3)本件訂正前の請求項1、2の「未再結晶粒の面積率」の測定方法について、本件明細書【0044】記載の「最も歪みが高くなる試験片の断面中心付近」とはどの位置であるかが不明である(取消理由に不採用)。
(4)本件訂正前の請求項1、2の「未再結晶粒の面積率」の測定方法について、観察視野のサイズが不明である(取消理由に採用)。
(5)本件訂正前の請求項1、2に係る発明の「パーライトの平均粒子径」を、「式2から算出されるY(μm)以上」とする製造条件が不明である(取消理由に不採用)。
2 令和6年3月29日付けで通知した取消理由
当合議体では、令和6年3月29日付けで次の取消理由1、2を通知した。
なお、取消理由1、2は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項に係る発明に対して通知された。
2-1 取消理由1(明確性要件:申立理由3の(4))
上記申立理由3の(4)と同じ。
2-2 取消理由2(実施可能要件:申立理由4の(4))
上記申立理由4の(4)と同じ。
3 令和6年10月11日付けで通知した取消理由(決定の予告)
当合議体では、令和6年10月11日付けで次の取消理由3を通知した。
なお、取消理由3は、令和6年6月3日になされた訂正請求に係る訂正後の特許請求の範囲の請求項に係る発明に対して通知された。
3-1 取消理由3(明確性要件:職権で通知)
令和6年6月3日になされた訂正請求に係る訂正後の請求項1、2に係る発明の「軸方向中心線を含む断面における金属組織」との記載は、不明瞭であるため、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
第5 当合議体における判断
当合議体は、以下に示すとおり、上記第4の特許異議申立理由及び取消理由によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由3(明確性要件)
(1)「軸方向中心線を含む断面」について
ア 本件訂正後の請求項1、2には、「軸方向中心線を含む断面における金属組織が、フェライト及びパーライト以外の組織の面積率が5.0%以下であり、パーライト粒の平均粒子径が式2から算出されるY(μm)以上であり、アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であり、円相当径100nm以上のAlN及びNbCNの合計個数が、5個/100μm2以下である鍛造部品を得る、軸方向中心線を特定可能な浸炭用温間鍛造部品」と記載されている。
イ そうすると、如何なる「軸方向中心線を特定可能な浸炭用温間鍛造部品」であっても、上記アの「軸方向中心線を含む断面」を特定できるから、上記アの記載は明確となった。
ウ よって、請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
2 取消理由1、申立理由3(明確性要件)
(1)観察視野のサイズについて(取消理由1、申立理由3の(4))
ア 請求項1、2には、「アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であり、」と記載されている。
イ そして、上記アの「未再結晶粒」の判別方法について、本件明細書には、次の記載がある。
「【0039】
上記未再結晶粒の面積率はより好ましくは1.5%以下がよい。また、未再結晶粒は、温間鍛造時に与える歪の大きさにもよるが、再結晶していなければ、温間鍛造時に行う圧縮方向の加工によりつぶれた形状となっており、アスペクト比が一定値以上の圧縮方向につぶれた形状となっているかどうかで未再結晶粒であるかどうかを判断することができる。」
ウ 上記イの記載によれば、「未再結晶粒は、」「温間鍛造時に行う圧縮方向の加工によりつぶれた形状となっており、アスペクト比が一定値以上の圧縮方向につぶれた形状となっているかどうかで未再結晶粒であるかどうかを判断することができる」とのことである。
エ また、上記アの「未再結晶粒の面積率」について、本件明細書の実施例において、次の記載がある。
「【0042】
<試験片の作製>
各鋼材を電気炉にて溶解・鋳造を行って鋼塊を得て、当該鋼塊に鍛伸加工を加えてΦ32mmの丸棒を得た。この丸棒を、表2に示す圧延温度まで加熱して1時間保持した後放冷するという、模擬圧延工程を施した。その後、模擬圧延工程終了後の丸棒から、外径Dに対して外表面から1/4D深さの位置から、試験片用母材を採取し、Φ8mm×12mm高さの圧縮試験片を機械加工により準備した。
【0043】
<模擬鍛造試験>
上記圧縮試験片を用い、表2に示す鍛造温度まで昇温速度2℃/秒で加熱して、高さが3mmになる加工率75%の条件で圧縮し、その後、700℃まで1℃/秒の冷却速度で冷却した後、0.5℃/秒の冷却速度で室温まで冷却する模擬鍛造試験を行った。
【0044】
<ミクロ組織観察>
模擬鍛造試験を施した試験片の軸方向中心線を含む断面を、光学顕微鏡を用いて観察してミクロ組織写真を撮影した。そして、この撮影画像を用いて、画像解析により、パーライト粒子径及び未再結晶粒の面積率を測定した。圧縮後の歪は、試験片の部位より異なるが、試験片の断面中心付近が最も歪が高くなるので、この部位における歪の大きさを考慮して、アスペクト比が3以上となる扁平状のパーライト粒を未再結晶粒と判断し、その面積率を画像解析により測定した。未再結晶粒を除いたパーライト粒径を画像解析にて測定し、その平均値をパーライト平均粒子径とした。表2において、ミクロ組織については、フェライトをα、パーライトをPで示した。α+Pはフェライト・パーライト組織を意味する。」
「【0049】
表2からわかるように、実施例1~14は、化学成分組成が適切であるとともに、鍛造温度として、1100℃以下の範囲で、X℃以上の温度を選択したことにより、ミクロ組織がフェライト・パーライト組織であるとともに、パーライト平均粒子径がYμm以上で十分に大きく、未再結晶粒の面積率は3.0%以下となり、これにより、その後の浸炭処理において、問題となる結晶粒の粗大化(10%以上の混粒の発生)が生じないことがわかった。」
オ 上記エの記載によれば、「Φ8mm×12mm高さの圧縮試験片」(【0042】)を「高さが3mmになる加工率75%の条件で圧縮し、」(【0043】)「試験片の軸方向中心線を含む断面を、光学顕微鏡を用いて観察してミクロ組織写真を撮影し」、「試験片の断面中心付近が最も歪が高くなるので、この部位における歪の大きさを考慮して、アスペクト比が3以上となる扁平状のパーライト粒を未再結晶粒と判断し、その面積率を画像解析により測定した」(【0044】)とのことである。
カ また、上記エの記載によれば、上記オの方法で測定した面積率について、「未再結晶粒の面積率は3.0%以下となり、これにより、その後の浸炭処理において、問題となる結晶粒の粗大化(10%以上の混粒の発生)が生じないことがわかった」(【0049】)としている。
キ そうすると、上記カの記載は、上記アの記載の発明特定事項を充足するか否かを判断するものであるから、上記アの記載の「未再結晶粒の面積率」は、上記オの方法で測定したものであると解される。
ク しかしながら、上記オの方法において、「試験片の軸方向中心線を含む断面を、光学顕微鏡を用いて観察して」、「アスペクト比が3以上となる扁平状のパーライト粒を未再結晶粒と判断」するための観察視野が、どの程度の大きさであるかが本件明細書には明記されていない。
ケ 一方、特許権者は、令和6年6月3日提出の意見書において、次の釈明をしている。
「本件の未再結晶粒の面積率に関しては、断面の中の特定の一部の範囲だけで面積率を求める意図はありません。そのような意図がないため、明細書中に観察視野等についての説明もありません。本件における未再結晶粒の面積率3%は、あくまでも、軸方向中心線を含む断面の断面全体を100%とした場合の未再結晶粒が占める面積の面積率を意図するものです。」(第2頁最終行~第3頁第4行)
コ そして、上記ケの釈明は、本件明細書の記載と整合するものであるから、上記クの観察視野は、上記ケのとおり、「断面の中の特定の一部の範囲だけで面積率を求める」ものではなく、「軸方向中心線を含む断面の断面全体を100%とした」ものであるといえる。
サ よって、請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
(2)未結晶粒の判別方法について(申立理由3の(1))
ア 請求項1、2には、「アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であり、」との記載がある。
イ そして、上記アの記載から明らかなように、上記アの「未再結晶粒」は、「アスペクト比3以上で定義される」ものであって、特定することが可能であるから、上記アの「未再結晶粒の面積率」が測定可能である。
ウ よって、請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
(3)未結晶粒の測定位置について(申立理由3の(2))
ア 請求項1、2には、「アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であ」る「軸方向中心線を特定可能な浸炭用温間鍛造部品」と記載されている。
イ そして、本件明細書には上記(1)のエの記載がある。
ウ 上記(1)のエの記載から、上記アの「未再結晶粒の面積率」は、「試験片の軸方向中心線を含む断面を、光学顕微鏡を用いて観察して」行うことが理解できる。
エ そして、上記アでは、請求項1、2に係る「浸炭用温間鍛造部品」が「軸方向中心線を特定可能な」ものに特定されていることから、如何なる「軸方向中心線を特定可能な浸炭用温間鍛造部品」であっても、上記ウの「試験片の軸方向中心線を含む断面」を特定でき、上記ウのとおり、「試験片の軸方向中心線を含む断面を、光学顕微鏡を用いて観察」することが可能である。
オ よって、請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
(4)最も歪みが高くなる試験片の断面中心付近について(申立理由3の(3))
ア 請求項1、2には、上記(1)のアの記載が、本件明細書には上記(1)のエの記載がある。
イ そして、上記(1)のエの記載によれば、「Φ8mm×12mm高さの圧縮試験片」(【0042】)を「高さが3mmになる加工率75%の条件で圧縮し、」(【0043】)「試験片の軸方向中心線を含む断面を、光学顕微鏡を用いて観察してミクロ組織写真を撮影し」、「試験片の断面中心付近が最も歪が高くなるので、この部位における歪の大きさを考慮して、アスペクト比が3以上となる扁平状のパーライト粒を未再結晶粒と判断し、その面積率を画像解析により測定した」(【0044】)とのことである。
ウ ここで、上記イの測定は、請求項1、2の「アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率」を測定するものであるから、上記イの「最も歪が高くなる」「試験片の断面中心付近」の「断面」とは、圧縮した未再結晶粒の最も歪みが判別できる、高さ方向と平行な断面であると解される。
エ よって、請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
3 取消理由2、申立理由4(実施可能要件)
(1)観察視野のサイズについて(取消理由2、申立理由4の(4))
ア 上記2の(1)で検討したとおり、請求項1、2の「アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であり、」との記載は明確である。
イ したがって、当業者であれば、「アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であ」るか否かを特定できる。
ウ よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1、2について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(2)未結晶粒の判別方法について(申立理由4の(1))
ア 上記2の(2)で検討したとおり、請求項1、2の「アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であり、」との記載は明確である。
イ したがって、当業者であれば、金属組織を観察する際に、「アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であ」るか否かを特定できる。
ウ よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1、2について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(3)未結晶粒の測定位置について(申立理由4の(2))
ア 上記2の(3)で検討したとおり、請求項1、2の「アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であ」る「軸方向中心線を特定可能な浸炭用温間鍛造部品」との記載は明確である。
イ したがって、当業者であれば、金属組織を観察する際に、「アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であ」るか否かを特定できる。
ウ よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1、2について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(4)最も歪みが高くなる試験片の断面中心付近について(申立理由4の(3))
ア 上記2の(4)で検討したとおり、請求項1、2の「アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であり、」との記載は明確である。
イ したがって、当業者であれば、金属組織を観察する際に、「アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であ」るか否かを特定できる。
ウ よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1、2について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(5)パーライトの平均粒子径について(申立理由4の(5))
ア 本件発明1、2は、「パーライト粒の平均粒子径が式2から算出されるY(μm)以上であ」るとの発明特定事項を含むものである。
イ そして、本件明細書には、次の記載がある。
「【0038】
以上の説明に基づき得られる鍛造品は、上記した化学成分組成の範囲内に調整し、前記の鍛造温度、冷却速度に調整することによって、・・・(略)・・・パーライト粒の平均粒子径がYμm以上であり、・・・(略)・・・鍛造品を得ることができる。・・・(略)・・・なお、パーライト粒子径は、温間鍛造温度が最も大きく影響し、その温度が高いほど粒子径を大きくすることができる。鍛造温度を高くすることで、満足する粒子径に制御することができる。」
ウ そうすると、鍛造部品を製造するに当たり、本件発明1、2で特定された範囲の化学組成成分に調整し、本件発明1、2で特定された範囲の鍛造温度、冷却速度に調整することによって、鍛造部品を製造し、製造した当該鍛造部品の「パーライト粒の平均粒子径がYμm以上」でなかった場合、上記イの記載に基づき、鍛造温度を高くすることにより、「パーライト粒の平均粒子径」を「Yμm以上」とできる。
エ そして、この際に、「パーライト粒の平均粒子径がYμm以上」とならなくても、鍛造温度をさらに高くすることにより、「パーライト粒の平均粒子径がYμm以上」とできるは明らかである。
オ また、本件明細書に記載された実施例1~14の「鍛造部品」は、その製造方法が本件明細書【0040】~【0042】及び表2に記載されているところ、全て「パーライト粒の平均粒子径がYμm以上」となっており、当該製造方法によれば、「パーライト粒の平均粒子径がYμm以上」の「鍛造部品」を製造可能である。
カ したがって、本件発明1、2は、当業者が過度の試行錯誤を要することなく実施可能なものである。
キ よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1、2について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
4 申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)
4-1 本件発明1について
(1)甲1に記載された発明
ア 甲1の表5には、鋼hの成分について、質量%で、C:0.21%、Si:0.42%、Mn:0.51%、P:0.011%、S:0.015%、Cr:1.51%、Al:0.024%、Nb:0.035%、Ti:0.001%、N:0.0156%、O:0.0009%であり、残部はFe及び不純物であることが記載されている。
イ 甲1の[0076]及び表2を参酌すると、甲1には、製造条件番号<2>の製造条件について、鋳片を1280℃、360分加熱した後、分塊圧延して鋼片を作製し、室温まで冷却し、さらに、鋼片を1250℃で90分加熱した後、熱間圧延を行って圧延仕上げ温度1000℃として棒鋼を得たことが記載されている。
ウ 甲1の表7には、鋼hが製造条件記号<2>の条件で作製され、鍛造時に加熱した温度が1000℃であるものが記載されている。
エ 上記ア~ウを踏まえると、甲1の実施例2において、製造条件記号<2>の条件(表2参照。)で処理をした棒鋼から試験片を取り出し、1000℃で熱間鍛造を行った直後の試験片hに注目すると、甲1(特に、[0090]、[0092]、[0093]、[0098]、表2、表5、表7参照。)には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「質量%で、C:0.21%、Si:0.42%、Mn:0.51%、P:0.011%、S:0.015%、Cr:1.51%、Al:0.024%、Nb:0.035%、Ti:0.001%、N:0.0156%、O:0.0009%であり、残部はFe及び不純物である鋼を成分調整した後、連続鋳造を行って、鋳片を作製し、600℃まで冷却し、
この鋳片を1280℃、360分加熱した後、分塊圧延して鋼片を作製し、室温まで冷却し、さらに、鋼片を1250℃で90分加熱した後、熱間圧延を行って圧延仕上げ温度1000℃として、直径40mmの棒鋼を得て、
この棒鋼から、長さ60mmの試験片を切り出し、熱間鍛造を模擬するために、1000℃で30分加熱した後、炉から取り出して10秒後に、円柱形状の高さ方向で60%の圧縮加工を行い、その後、放冷にて室温まで冷却して得た試験片を、さらに930℃で1時間加熱し、その後、室温まで放冷した試験片の製造方法。」
オ また、同様に、甲1には、次の発明(以下、「甲1部品発明」という。)が記載されていると認められる。
「甲1発明の製造方法で製造した試験片。」
(2)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「試験片」は、「Ti:0.001%」を含むところ、本件明細書には、「上記化学成分組成においては、Tiの積極添加は行わず(0.01%程度以下の不可避的不純物としての含有は許容する。)」(【0023】)と記載されており、また、その含有量も不可避的不純物レベルである。
また、甲1発明の「試験片」は、「O:0.0009%」を含むところ、その含有量は不可避的不純物レベルである。
そうすると、甲1発明の「Ti:0.001%」及び「O:0.0009%」は、本件発明1の「不可避的不純物」に含まれるものである。
したがって、甲1発明の「質量%で、C:0.21%、Si:0.42%、Mn:0.51%、P:0.011%、S:0.015%、Cr:1.51%、Al:0.024%、Nb:0.035%、Ti:0.001%、N:0.0156%、O:0.0009%であり、残部はFe及び不純物である鋼を成分調整した後、連続鋳造を行って、鋳片を作製し、600℃まで冷却」した事項は、本件発明1の「質量%において、C:0.12~0.28%、Si:0.01~0.90%、Mn:0.30~1.00%、P:0.035%以下、S:0.010~0.040%、Cr:0.40~2.00%、Al:0.020~0.060%、N:0.0100~0.0200%、Nb:0.004~0.060%、任意元素として、Mo:0~0.60%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学成分組成を有する鋼素材を準備」する事項に相当する。
イ 甲1発明の「鋳片を1280℃、360分加熱した後、分塊圧延して鋼片を作製し、室温まで冷却し、さらに、鋼片を1250℃で90分加熱した後、熱間圧延を行って圧延仕上げ温度1000℃として、直径40mmの棒鋼を得」た事項は、本件発明1の「鋼素材を、1150~1350℃の圧延温度に加熱してから圧延を行って圧延材を作製」する事項に相当する。
ウ 甲1発明は、「Nb:0.035%」を含有するものであるから、本件発明1のXを算出すると、X=1303×0.035+857.91=903.5となる。
また、甲1発明は「直径40mmの」「棒鋼から、長さ60mmの試験片を切り出し、熱間鍛造を模擬するために、1000℃で30分加熱」するのに対し、本件発明1は、「1100℃以下であるとともに、下記式1から算出されるX(℃)以上で温間鍛造を行な」うものであって、甲1発明の「下記式1から算出されるX(℃)」は、上記のとおり、903.5℃であるから、甲1発明の「熱間鍛造」の温度である「1000℃」は、本件発明1の「温間鍛造」の温度である「1100℃以下であるとともに、下記式1から算出されるX(℃)以上」の範囲内である。
そうすると、甲1発明1の「熱間鍛造」は、本件発明1の「温間鍛造」に相当する。
したがって、甲1発明の「直径40mmの」「棒鋼から、長さ60mmの試験片を切り出し、熱間鍛造を模擬するために、1000℃で30分加熱した後、炉から取り出して10秒後に、円柱形状の高さ方向で60%の圧縮加工を行」った事項は、本件発明1の「1100℃以下であるとともに、下記式1から算出されるX(℃)以上で温間鍛造を行な」う事項に相当する(当審注:式1の記載は省略した。)。
エ 甲1発明の「試験片」は、「直径40mmの」「棒鋼から、長さ60mmの試験片を切り出し、熱間鍛造を模擬するために、1000℃で30分加熱した後、炉から取り出して10秒後に、円柱形状の高さ方向で60%の圧縮加工を行い、その後、放冷にて室温まで冷却して得た試験片を、さらに930℃で1時間加熱し、その後、室温まで放冷し」て得たものであるから、1000℃で「熱間鍛造」されたものであり、このことは、上記ウを踏まえると、本件発明1の「温間鍛造」されたことに相当するといえる。
また、甲1の[0099]には、甲1発明の「試験片」に対し、「浸炭での加熱を模擬」したことが記載されている。
さらに、甲1発明の「試験片」は、「直径40mmの」「棒鋼から、長さ60mmの試験片を切り出し、熱間鍛造を模擬するために、1000℃で30分加熱した後、炉から取り出して10秒後に、円柱形状の高さ方向で60%の圧縮加工を行い、その後、放冷にて室温まで冷却して得た試験片を、さらに930℃で1時間加熱し、その後、室温まで放冷した」ものであり、概ね「円柱形状」であると考えられるから、本件発明1の「軸方向中心線を特定可能な」ものに相当する。
そうすると、甲1発明の「試験片」は、本件発明1の「軸方向中心線を特定可能な浸炭用温間鍛造部品」に相当する。
オ 上記ア~エより、本件発明1と甲1発明とは、
「質量%において、C:0.12~0.28%、Si:0.01~0.90%、Mn:0.30~1.00%、P:0.035%以下、S:0.010~0.040%、Cr:0.40~2.00%、Al:0.020~0.060%、N:0.0100~0.0200%、Nb:0.004~0.060%、任意元素として、Mo:0~0.60%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学成分組成を有する鋼素材を準備し、
該鋼素材を、1150~1350℃の圧延温度に加熱してから圧延を行って圧延材を作製し、
1100℃以下であるとともに、下記式1から算出されるX(℃)以上で温間鍛造を行なった、軸方向中心線を特定可能な浸炭用温間鍛造部品の製造方法。
(式1):X=1303×[Nb]+857.91
(ここで、上記式1において、[Nb]は、Nbの含有率(%)の値を意味する。)」で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点1)
鍛造後の冷却について、本件発明1は、「少なくとも700℃までは、冷却速度3.0℃/秒以下の条件で冷却」するのに対し、甲1発明は、「放冷にて室温まで冷却し」た点。
(相違点2)
本件発明1は、「鍛造部品」における「軸方向中心線を含む断面における金属組織が、フェライト及びパーライト以外の組織の面積率が5.0%以下であり、パーライト粒の平均粒子径が式2から算出されるY(μm)以上であり、アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であり、円相当径100nm以上のAlN及びNbCNの合計個数が、5個/100μm2以下である」(以下、これら全てをまとめて「本件金属組織」という。)のに対し、甲1発明は、「試験片」の「軸方向中心線を含む断面における金属組織」における「フェライト及びパーライト以外の組織の面積率」、「パーライト粒の平均粒子径」、「アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率」及び「円相当径100nm以上のAlN及びNbCNの合計個数」がいずれも不明である点(当審注:式2の記載は省略した。)。
(3)相違点の検討
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
ア 相違点2について、申立人は概ね次の主張をしている。
本件明細書の【0038】の記載によれば、本件発明1の化学成分組成、圧延条件、温間鍛造の条件、冷却速度の条件を満たせば、本件金属組織が得られると主張している。
イ ここで、本件明細書の【0038】には、次の記載がある。
「上記した化学成分組成の範囲内に調整し、前記の鍛造温度、冷却速度に調整することによって、フェライト及びパーライト主体の組織(他の組織の面積率が5.0%以下)とすることができる。また、パーライト粒の平均粒子径がYμm以上であり、未再結晶粒の面積率が3.0%以下である金属組織からなる鍛造品を得ることができる。」
なお、この記載中、「上記した化学成分組成」、「前記の鍛造温度、冷却速度」とは、本件発明1において特定されたものを意味すると認められる。
ウ 上記イの記載は、「上記した化学成分組成の範囲内に調整し、前記の鍛造温度、冷却速度に調整する」と記載されているだけであり、これらの組成や条件の全ての範囲で「フェライト及びパーライト主体の組織(他の組織の面積率が5.0%以下)とすることができる。また、パーライト粒の平均粒子径がYμm以上であり、未再結晶粒の面積率が3.0%以下である金属組織からなる鍛造品を得ることができる」とまでいうものではないと解される。
エ また、上記イでは、本件発明1の「円相当径100nm以上のAlN及びNbCNの合計個数が、5個/100μm2以下である」事項となる製造条件について何ら記載されていないし、また、申立人も何ら言及していない。
オ そうすると、甲1発明が、本件発明1の化学成分組成、圧延条件、温間鍛造の条件、冷却速度の条件を満たすからといって、本件金属組織となっているとまではいえない。
カ したがって、相違点2は実質的な相違点である。
キ また、甲1発明において、本件金属組織を得る動機も見当たらない。
ク よって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明に基いて当業者が容易になし得たものともいえない。
4-2 本件発明2について
(1)対比
ア 上記4-1の(2)と同様に、本件発明2と甲1部品発明とを対比すると、本件発明2と甲1部品発明とは、
「質量%において、C:0.12~0.28%、Si:0.01~0.90%、Mn:0.30~1.00%、P:0.035%以下、S:0.010~0.040%、Cr:0.40~2.00%、Al:0.020~0.060%、N:0.0100~0.0200%、Nb:0.004~0.060%、任意元素として、Mo:0~0.60%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学成分組成を有する、軸方向中心線を特定可能な浸炭用温間鍛造部品。」で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点3)
本件発明2は、「鍛造部品」における「軸方向中心線を含む断面における金属組織が、フェライト及びパーライト以外の組織の面積率が5.0%以下であり、パーライト粒の平均粒子径が式2から算出されるY(μm)以上であり、アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率が3.0%以下であり、円相当径100nm以上のAlN及びNbCNの合計個数が、5個/100μm2以下である」のに対し、甲1部品発明は、「試験片」の「軸方向中心線を含む断面における金属組織」における「フェライト及びパーライト以外の組織の面積率」、「パーライト粒の平均粒子径」、「アスペクト比3以上で定義される未再結晶粒の面積率」及び「円相当径100nm以上のAlN及びNbCNの合計個数」がいずれも不明である点(当審注:式2の記載は省略した。)。
(3)相違点の検討
ア 相違点3は相違点2と同様の相違点であるから、上記4-1の(3)で検討した理由と同様の理由により、本件発明2は、甲1部品発明であるとはいえないし、甲1部品発明に基いて当業者が容易になし得たものともいえない。
第6 むすび
以上のとおり、本件の請求項1、2に係る特許は、令和6年10月11日付けで通知した取消理由(決定の予告)、同年3月29日付けで通知した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701288