特許異議申立
2024-700335
方向性電磁鋼板の製造方法
- 審判番号
- 2024-700335
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-532517
- 登録番号
- 7364966
- 請求日
- 2024年04月11日
- 審決日
- 2024年08月13日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本製鉄株式会社
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】福地 律生
- 【権利者代理人】齋藤 学
- 【権利者代理人】木村 健治
- 【権利者代理人】齋藤 都子
- 【異議申立人】前田 洋志
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 池渕 立
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1651.113-Y (C21D) / P1651.121-Y (C21D) / P1651.536-Y (C21D) / P1651.537-Y (C21D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第2条第3項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7364966号発明「方向性電磁鋼板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7364966号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7364966号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願(特願2022-532517号。以下、「本願」という。)は、2021年(令和 3年) 6月23日(優先権主張 令和 2年 6月24日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和 5年10月11日に特許権の設定登録がされ、同年同月19日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、令和 6年 4月12日受付で、請求項1~11(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である前田洋志(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~11に係る発明(以下、「本件特許発明1」等という。)は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~11(以下、「本件請求項1」等という。)に記載された事項により特定される次に記載されるとおりのものである。
「【請求項1】
質量%で、C:0.02%以上0.10%以下、Si:2.5%以上4.5%以下、Mn:0.01%以上0.30%以下、S及びSeのうち1種又は2種の合計:0.001%以上0.050%以下、酸可溶性Al:0.01%以上0.05%以下、N:0.002%以上0.020%以下、P:0.0400%以下、Cu:0.05%以上0.50%以下を含有し、残部Fe及び不純物からなるスラブ組成を有するスラブを加熱し、熱間圧延を施すことで熱延鋼板を得る熱間圧延工程と、
前記熱延鋼板を酸洗溶液に浸漬することで、又は前記熱延鋼板に熱延板焼鈍を施して熱延焼鈍板を得た後に前記熱延焼鈍板を酸洗溶液に浸漬することで、酸洗板を得る酸洗工程と、
前記酸洗板に冷間圧延を施すことで冷延鋼板を得る冷間圧延工程と、
前記冷延鋼板に一次再結晶焼鈍を施して一次再結晶焼鈍板を得る一次再結晶焼鈍工程と、
前記一次再結晶焼鈍板の表面に、MgOを含む焼鈍分離剤を塗布した後、仕上焼鈍を施して仕上焼鈍板を得る仕上焼鈍工程と、
前記仕上焼鈍板に絶縁被膜を塗布した後、平坦化焼鈍を施す平坦化焼鈍工程と、を含み、
前記酸洗溶液が、Cuを0.0001g/L以上5.00g/L以下含み、
前記冷延鋼板の板厚が0.15mm以上0.23mm以下であり、
前記一次再結晶焼鈍工程が昇温工程と脱炭焼鈍工程とを含み、前記昇温工程における30℃~400℃の温度域の平均昇温速度が50℃/秒超、1000℃/秒以下である、方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記酸洗溶液中のCu及びMnの合計含有量が0.01g/L以上5.00g/L以下である、請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記酸洗工程において、前記酸洗溶液のpHが-1.5以上7.0未満、液温が15℃以上100℃以下であり、前記浸漬を5秒以上200秒以下行う、請求項1又は2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記酸洗溶液が、Ni:0.01g/L以上、5.00g/L以下を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記一次再結晶焼鈍工程の昇温工程において、30℃~800℃の温度域の露点が-50℃~0℃である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記昇温工程における550℃~700℃の温度域の平均昇温速度が100℃/秒以上、3000℃/秒以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記昇温工程における700℃~800℃の温度域の平均昇温速度が400℃/秒以上、2500℃/秒以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記脱炭焼鈍工程が、温度750℃~900℃、酸素ポテンシャル(P H2O/P H2)0.2~0.6の雰囲気中で実施される均熱処理を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記脱炭焼鈍工程が、温度750℃~900℃、酸素ポテンシャル(P H2O/P H2)0.2~0.6の雰囲気中で実施される第一均熱処理と、前記第一均熱処理の後に、温度900℃~1000℃、酸素ポテンシャル(P H2O/P H2)0.2未満の雰囲気中で実施される第二均熱処理とを含む、請求項8に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記冷間圧延工程の後かつ前記仕上焼鈍工程の前に窒化処理を実施する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記スラブ組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、
Sn:0.50%以下、
Cr:0.500%以下、
Bi:0.0200%以下、
Sb:0.500%以下、
Mo:0.500%以下、及び
Ni:0.500%以下
からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法としていずれも本願の優先日前に日本国内において公知となった、下記甲第1~18号証を提出して、以下の申立理由1~3により、本件特許の請求項1~11に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由1(新規性、進歩性)
(1)本件特許発明1~8、11は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)本件特許発明1~8、10は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2~15、18号証に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)本件特許発明9は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2~16、18号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)本件特許発明11は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2~18号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(実施可能要件)
本願の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明には、「酸洗溶液中の3d遷移金属は、その由来を問わない。すなわち鋼中成分が酸洗溶液に溶け出したものでも良いし、酸洗溶液に意図的に3d遷移金属を含有させてもよい。」(段落【0014】)と記載され、「熱延板焼鈍鋼帯を、表2に示す酸洗条件にて酸洗した」(段落【0064】)と記載されているが、酸洗溶液中の金属元素(Cu、Mn、Ni)の含有量を、どのようにして本件特許発明1、2、4に特定されている特定の濃度範囲内に収めたのかについては記載がなく不明である。
したがって、本件特許発明1、2、4及びこれら発明を引用する本件特許発明3、5~11について、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、上記本件特許発明を実施するにあたって当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤が必要となることは明らかである。
よって、本件特許発明1~11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(明確性)
本件請求項1には「前記酸洗溶液が、Cuを0.0001g/L以上5.00g/L以下含み」と記載され、本件請求項2には「前記酸洗溶液中のCu及びMnの合計含有量が0.01g/L以上5.00g/L以下である」と記載され、本件請求項4には「前記酸洗溶液が、Ni:0.01g/L以上、5.00g/L以下を含む」と記載されているが、鋼中成分から溶出した金属元素(Cu、Mn、Ni)が酸洗溶液中に蓄積されることにより、当該金属元素の濃度は意図せずに、上記請求項1、2、4に記載された範囲内となっていたり、範囲外となっていたりする蓋然性が高く、その場合、上記請求項1、2、4に記載された濃度の規定については、その技術的意味が不明であり、当業者が理解できないものとなる。
したがって、本件請求項1、2、4の記載は上記金属元素の濃度に関して明確であるとはいえず、また、本件請求項1、2、4を引用する請求項3、5~11についても同様であるから、本件請求項1~11の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。
よって、本件特許発明1~11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 証拠方法
甲第1号証:特開平7-113120号公報
甲第2号証:特開2020-59050号公報
甲第3号証:特開2000-282271号公報
甲第4号証:特開平11-106827号公報
甲第5号証:特開平7-76729号公報
甲第6号証:特開2004-204337号公報
甲第7号証:特表2014-503685号公報
甲第8号証:特開2018-12854号公報
甲第9号証:特開2009-7642号公報
甲第10号証:特表2015-508454号公報
甲第11号証:特表2020-504783号公報
甲第12号証:特開昭63-315521号公報
甲第13号証:特開昭59-159989号公報
甲第14号証:特開平3-6389号公報
甲第15号証:特開2014-196559号公報
甲第16号証:特公昭54-24686号公報
甲第17号証:特開2019-167568号公報
甲第18号証:特開2008-261022号公報
(以下、甲第1~18号証をそれぞれ「甲1」~「甲18」という。)
第4 当審の判断
上記申立理由1~3はいずれも採用できない。その理由は以下に記載のとおりである。
1 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
(1)甲1の記載及び甲1に記載された発明
ア 甲1には、「鉄損の低い高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある(なお、下線と表中の網掛けは当審が付したものであり、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。
(1ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は磁気特性の優れた一方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。」
(1イ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は脱炭焼鈍の昇温時の加熱速度と到達温度を一定の条件下に設定することにより、磁束密度の低下を招くことなく二次再結晶粒を小粒化し低鉄損材を得る方法を提案するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨とするところは重量%で、C:0.10%以下、Si:2.5~4.5%、Mn:0.03~0.20%、S或いはSeを単独または複合で:0.010~0.050%、酸可溶性Al:0.010~0.050%、N:0.0045~0.012%、必要に応じてSb:0.005~0.10%、Cu:0.03~0.30%を添加し残部Fe及び不可避的不純物からなる珪素鋼スラブを1280℃超で加熱熱延し、熱延板焼鈍、脱炭焼鈍をし、仕上げ焼鈍を施す一方向性電磁鋼板の製造において、脱炭焼鈍昇温時の室温から700~850℃に到る昇温速度を50℃/sec以上とし、脱炭焼鈍温度を800~900℃の温度範囲で行いかつ、昇温時の室温からT℃までの昇温速度をR℃/secとした場合、780-2/5・R≦T≦888-1/4・Rの関係を満たしめるものである。」
(1ウ)「【0009】酸可溶性AlはAlNを形成しインヒビターとして働くが、その含有量が0.010%未満では高磁束密度が得られず、一方0.050%を超すと二次再結晶粒の発達が不安定となる。好ましい範囲は0.020~0.030%である。NはAlと結合してAlNを形成するが、その量が0.0045%より少ないと二次再結晶不良となり、一方0.012%を超すと高磁束密度鋼板が得られ難くなる。好ましい範囲は0.006~0.0090%である。
【0010】Sbは粒界偏析元素としてインヒビターの役割を果たす他、Mn化合物、AlNの微細分散析出にも役立っている。特に製品板厚0.25mm以下において効果を発揮する。その量は0.005%より少ないと効果がなく、一方0.10%を超えても磁気特性、被膜特性上好ましい結果は得られない。適量は0.01~0.04%である。
【0011】CuはSbを添加することによって生じるフォルステライト被膜形成不良を改善する効果を持つ元素であるが、その添加量は0.03%より少ないと効果がなく、一方0.30%を超えてると磁気特性、酸洗性等が劣ってくる。好ましい範囲は0.05~0.15%である。」
(1エ)「【0012】次に、本発明の特徴である脱炭焼鈍条件について実験結果に基づいて説明する。C:0.080%、Si:3.25%、Mn:0.075%、S:0.025%、酸可溶性Al:0.027%、N:0.0082%、Sb:0.020%、Cu:0.10%を含有した板厚0.23mmの冷間圧延した鋼板を脱炭焼鈍炉前段に設置した直接通電加熱装置により、昇温速度とその到達温度を種々変えて脱炭焼鈍を行った。脱炭焼鈍の均熱部の雰囲気ガスはN2:25%、H2:75%、Wet65℃で行った。この後MgOとTiO2を主成分とする焼鈍分離剤を塗布して1200℃×20hrs の仕上げ焼鈍を行った。昇温条件と鉄損特性の関係を図1に示す。」
(1オ)「【0015】本発明は、この昇温速度と急速加熱の到達温度の適当な組み合わせにより、(110)面と(111)面の強度バランスをとり、適正な二次再結晶組織を得ているものと考えられる。なお急速加熱温度域の雰囲気ガスは特にこだわらないが直接通電方式或いは誘導加熱方式をとる場合は装置上の点からDry雰囲気が好ましい。急速加熱の方式に特にこだわるものではない。脱炭焼鈍は800~900℃温度域で湿水素、窒素ガスの混合ガス中で行う。脱炭焼鈍後はMgO,TiO2 を主成分とした焼鈍分離剤を塗布した後、1100℃以上の温度で仕上げ焼鈍を行う。」
(1カ)「【0018】実施例2
C:0.078%、Si:3.4%、Mn:0.075%、Se:0.023%、酸可溶性Al:0.028%、Cu:0.08%、Sb:0.025%、N:0.0080%を含み、残部Fe:及び不可避的不純物からなる電磁鋼スラブを1350℃に加熱熱延して2.3mmの熱延板とした。次いで1000℃で短時間焼鈍した後急冷却し、酸洗し、1.35mmに冷延した。次いで1120℃+900℃で焼鈍した後100℃の熱湯に急冷却した後、酸洗冷延して0.17mmの冷延板とした。次いで脱炭焼鈍炉前段に設置した直接通電加熱装置を使用して750℃までの昇温速度を300℃/secとし、その後850℃×70sec の脱炭焼鈍をN2:25%、H2:75%、Wet65℃の雰囲気中で行った試料Aと直接通電加熱を行わず25℃/secで昇温し、試料Aと同じ条件で脱炭焼鈍した試料BをMgOとTiO2 を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し1200℃×20hrsの仕上げ焼鈍を行った。磁気特性を表2に示す。急速加熱を行うことによって二次再結晶粒が小粒化し、しかもB8低下がないため鉄損特性が大幅に改善される。」
(1キ)「【0020】実施例3
C:0.080%、Si:3.25%、Mn:0.073%以下、S:0.015%、Se:0.010%、酸可溶性Al:0.026%、Cu:0.10%、Sb:0.015%、N:0.0082%を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなる電磁鋼スラブを1350℃に加熱熱延し2.3mmの熱延板とした。次いで酸洗し1.60mmに冷間圧延した。次いで1120℃+900℃で焼鈍した後100℃の熱湯に急冷した後、酸洗冷間圧延して0.225mmの冷間圧延板とした。次いで脱炭焼鈍炉前段に設置した直接通電加熱装置を使用して780℃迄の加熱速度を400℃/secとし、その後850℃×90sec の脱炭焼鈍をN2:25%、H2:75%、Wet65℃の雰囲気中で行った試料Aと直接通電加熱を行わず25℃/secで昇温し、試料Aと同じ条件で脱炭焼鈍した試料BをMgOとTiO2を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し1200℃×20hrs の仕上げ焼鈍を行った。磁気特性を表3に示す。急速加熱を行った試料Aは二次再結晶粒が小粒化し、低鉄損が得られた。」
イ 甲1に記載された発明
(ア)上記ア(1ア)、(1イ)によれば、甲1に記載された発明が解決しようとする課題(以下、「甲1課題」という。)は、磁束密度の低下を招くことなく二次再結晶粒を小粒化し低鉄損材を得る一方向性電磁鋼板の製造方法を提供することであると認められる。
(イ)上記ア(1カ)、(1キ)に記載された実施例2、3は、上記甲1課題を解決することのできる一方向性電磁鋼板の製造方法である。なお、実施例2、3において電磁鋼スラブの組成に使用されている「%」は、上記ア(1イ)の段落【0006】に「重量%で」と記載されていることから、重量%を表すものと認められる。
(ウ)上記甲1課題を解決し得る発明の実施例として、上記ア(1カ)、(1キ)記載された実施例2、3のうち、脱炭焼鈍によって試料Aを得る製造方法に注目すると、甲1には次の2つの発明が記載されているものと認められる。
「重量%で、C:0.078%、Si:3.4%、Mn:0.075%、Se:0.023%、酸可溶性Al:0.028%、Cu:0.08%、Sb:0.025%、N:0.0080%を含み、残部Fe:及び不可避的不純物からなる電磁鋼スラブを1350℃に加熱熱延して2.3mmの熱延板とする第1の工程と、
熱延板を1000℃で短時間焼鈍した後急冷却し、酸洗する第2の工程と、
酸洗した熱延板を1.35mmに冷延し、次いで1120℃+900℃で焼鈍した後100℃の熱湯に急冷却した後、酸洗冷延して0.17mmの冷延板とする第3の工程と、
脱炭焼鈍炉前段に設置した直接通電加熱装置を使用して750℃までの昇温速度を300℃/secとし、その後850℃×70sec の脱炭焼鈍をN2:25%、H2:75%、Wet65℃の雰囲気中で行った試料Aを得る第4の工程と、
脱炭焼鈍した試料AにMgOとTiO2を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し1200℃×20hrsの仕上げ焼鈍を行う第5の工程とを含む、
一方向性電磁鋼板の製造方法。」(以下「甲1発明1」という。)
「重量%で、C:0.080%、Si:3.25%、Mn:0.073%以下、S:0.015%、Se:0.010%、酸可溶性Al:0.026%、Cu:0.10%、Sb:0.015%、N:0.0082%を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなる電磁鋼スラブを1350℃に加熱熱延して2.3mmの熱延板とする第1の工程と、
熱延板を酸洗する第2の工程と、
酸洗した熱延板を1.60mmに冷間圧延し、次いで1120℃+900℃で焼鈍した後100℃の熱湯に急冷した後、酸洗冷間圧延して0.225mmの冷間圧延板とする第3の工程と、
脱炭焼鈍炉前段に設置した直接通電加熱装置を使用して780℃迄の加熱速度を400℃/secとし、その後850℃×90sec の脱炭焼鈍をN2:25%、H2:75%、Wet65℃の雰囲気中で行った試料Aを得る第4の工程と、
脱炭焼鈍した試料AにMgOとTiO2を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し1200℃×20hrs の仕上げ焼鈍を行う第5の工程とを含む、
一方向性電磁鋼板の製造方法。」(以下「甲1発明2」という。)
(2)甲2の記載
ア 甲2には、「圧延設備及び鋼板の圧延方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(2ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延設備及び鋼板の圧延方法に関する。」
(2イ)「【0029】
<2.第1の実施形態>
(2.1.圧延設備全体の構成順序)
まず、図1を参照して、ハイテン鋼を圧延する圧延設備1000の各装置配置順序の一例を説明する。圧延設備1000は、前処理装置100と、酸洗装置40と、冷間圧延機50と、連続焼鈍装置60と、を有する。なお、本実施形態では、便宜上、前処理装置100の上流にて鋼板を処理する熱間圧延装置20を、圧延設備1000に包含して説明する。
…
【0033】
酸洗装置40は、鋼板Sに形成されたスケールを溶削除去する。酸洗装置40の酸洗槽41には酸洗液が収容されている。酸洗液は、例えば塩酸または硫酸等の水溶液であり、スケールを溶削可能な酸洗液である。酸洗工程では、鋼板Sを酸洗槽41にて酸洗液に浸漬しながら搬送することにより、鋼板Sの表面に形成されたスケールを溶削する。また、場合によっては酸洗液に酸洗促進剤が混入されることもある。」
(2ウ)「【図1】
[図:0001414211000001.jpg]
」
(3)甲3の記載
ア 甲3には、「金属材料の連続酸洗設備におけるスケール付着抑制方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(3ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鋼板など金属材料の連続酸洗設備におけるスケール付着抑制方法に関する。」
(3イ)「【0003】図2に示す連続酸洗設備においては、酸洗槽1内の酸洗液の液温、酸濃度の均一化を計るために、酸洗液循環配管5、酸洗液循環ポンプ6によって酸洗液を循環する。また、酸洗液加温用の間接熱交換器4として、テフロンチューブ式熱交換器など、蒸気などの加熱媒体を流通する耐酸性の樹脂チューブを用いた間接熱交換器が使用される。」
(3ウ)「【0020】本発明における酸洗液の組成は、酸洗対象となる金属材料の組成によって異なるが、塩酸水溶液、硫酸水溶液、硝酸水溶液、塩酸および硫酸を含む水溶液、硝酸および弗酸を含む水溶液、硝酸および塩酸を含む水溶液が例示される。また、本発明は、好ましくは、酸洗液中のSi(金属シリコン)およびSi化合物のSiの合計Si量(:合計Si濃度)がSiO2換算で50mg/l以上、より好ましくは、酸洗液中のSiおよびSi化合物のSiの合計Si量(:合計Si濃度)がSiO2換算で100mg/l 以上である金属材料の連続酸洗設備におけるスケール付着抑制方法として適用される。」
(3エ)「【図2】
[図:0001414211000002.jpg]
」
(4)甲4の記載
ア 甲4には、「磁気特性が優れた鏡面一方向性電磁鋼板の製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(4ア)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は主として変圧器その他の電気機器等の鉄心として利用される一方向性電磁鋼板製造に関するものである。特に、鋼板表面の鏡面化と磁区細分化手段を効果的に導入することにより良好な鉄損特性を低コストで達成する鏡面一方向性電磁鋼板製造に関し、脱炭性が良好な冷間圧延鋼板およびその製造方法について開示するものである。」
(4イ)「【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。脱炭性を良好にする冷延鋼板表面のSi欠乏層は、冷延前の熱処理および酸洗工程で形成されるものと考えられる。そこで、Si欠乏層に及ぼす熱延板焼鈍の雰囲気ガス酸化度、及び酸洗条件の影響を調査した。Si:2.8~3.4%、C:0.05~0.07%、その他Al、N等のインヒビター成分を含む板厚2.3mmの熱延鋼板を表面スケールの付いた状態で1120℃で30秒続いて900℃で2分焼鈍した。焼鈍雰囲気はN2 :90%+H2 :10%の雰囲気とし、ドライガス(露点-20℃、酸化度=0.01)、及び露点55℃(酸化度=1.84)に加湿した2水準とした。焼鈍後、硫酸20%の液温80℃の酸洗液で0~300秒の範囲で酸洗し、板厚をマイクロメータで測定した結果と酸洗前板厚との差を酸洗板厚減量とした。その後、90%の圧下率で板厚0.23mmまで冷延し、鋼板最表面のSi濃度を螢光X線分析にて測定した。また、冷延板は840℃で90秒の脱炭焼鈍を施し、焼鈍前後のC、O量を分析した。脱炭焼鈍の酸化度(PH2 O/PH2 )は0.105とした。図6に鋼中Si含有量が3.2%の場合の酸洗板厚減量と冷延板最表面のSi濃度(螢光X線Si強度)との関係を示す。熱延板焼鈍の雰囲気酸化度が1.84の材料はSi濃度が低く、酸洗板厚の減少に伴い高くなった。一方、酸化度が0.01の材料はSi濃度の変化が小さかった。また図7に示すように、脱炭焼鈍後のC量は、雰囲気酸化度が1.84の材料が最もC量が低く、酸洗後板厚の減少に伴い高くなった。一方、酸化度が0.01の材料はC量が高く、酸洗板厚が減少しても変化が小さかった。即ち、熱延板焼鈍中にSiが選択酸化されるため、鋼板表面のSiが欠乏し、Siの表面への拡散により濃度勾配(脱Si層)が形成されるものと考えられる。さらに、熱延板焼鈍後の酸洗により地鉄も溶解されるので、脱Si層が消失するものと考えられる。従って、熱延板焼鈍および酸洗条件により脱Si層が変動し、鋼板表面のSi濃度が変動するものと考えられる。また、鋼板表面のSi濃度が低いと、脱炭焼鈍初期のSiO2 皮膜の形成が抑制され、鋼板へのO2の供給または脱炭生成物のCOガスの放出がスムーズに行われ、脱炭性が改善されたものと考えられる。このような方法により、例えば特開平8-269560号公報に示されるような特殊な鋳造設備を用いて複層化しなくとも、通常の電磁鋼板製造設備により、僅かな脱Si層を活用することで鏡面化が可能である。」
(5)甲5の記載
ア 甲5には、「Goss方位に集積した結晶方位を有する方向性珪素鋼板の製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(5ア)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、Goss 方位に集積した結晶方位を有する方向性珪素鋼板の製造方法に関する。」
(5イ)「【0015】以下、本発明について詳細に説明する。まず、化学成分の限定理由について説明する。Cは製鋼段階でできるだけ低減しておくことが磁気特性上好ましい。Cが0.01wt%を超えると磁気特性が著しく劣化する。このためCの上限を0.01wt%に規定する。
…
【0019】Cuはα鉄への固溶度が小さな元素であり、最終的な熱処理によりGoss組織を形成する際の結晶粒成長を著しく阻害する元素である。また、Cuは製鋼段階で0.05wt%程度含有される。従って、その含有量を上述のような不都合が生じない0.01wt%以下に減じることが好ましく、0.005wt%以下にすることが一層好ましい。ただし、Cuは融点が1083℃であり、1000℃程度以上の熱処理により揮発する成分であるため、0.01wt%よりも多く含有されていても比較的長時間の熱処理により0.01wt%以下にすることが可能である。しかし、工程の効率化の観点からは熱処理時間の延長は好ましくない。」
(6)甲6の記載
ア 甲6には、「高い磁束密度を有する一方向性電磁鋼板の製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(6ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、結晶粒がミラー指数で{110}<001>方位に集積した、いわゆる方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。この鋼板は、軟磁性材料として変圧器等の電気機器の鉄芯として用いられる。」
(6イ)「【0014】
【発明が解決しようとする課題】
前記特許文献4、特許文献8等に開示された低温スラブ加熱により方向性電磁鋼板を製造する方法においては、インヒビターを脱炭焼鈍後に窒化処理により形成させるので、その前の段階で一次再結晶組織を制御することが重要である。本発明者らは、例えば下記特許文献14、特許文献15にその重要性を指摘している。
本発明の目的は、一次再結晶の粒組織制御を行い、工業的に安定して磁気特性の優れた方向性電磁鋼板の製造技術を提供することである。」
(6ウ)「【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、低温スラブ加熱により方向性電磁鋼板を製造する方法において、製品特性の変動要因の調査を行った。その結果、不純物元素のなかでスクラップのリサイクルにより、近年増加する傾向にあるCuが大きな変動要因となっていることを見いだした。成分中の不純物のなかでCuが一定量以上存在すると、一次再結晶の粒組織に影響を及ぼし二次再結晶を不安定化する。従って、製品の磁気特性:磁束密度(B8 値)を安定化させるためには、不純物中のCu量を一定量以下に制御することが重要である。」
(6エ)「【0028】
不純物元素のなかで、Cuはスクラップのリサイクルにより、近年増加する傾向にある。このCu量を規定することが本発明のポイントである。Cuは硫化銅として熱延及び熱延板焼鈍後に微細析出し、脱炭焼鈍時にその一部が分解して一次再結晶組織を混粒化して、二次再結晶を不安定にしてしまう。鋼中のCu量を0.04%以下、好ましくは0.02%以下に規制する必要がある。」
(6オ)「【0030】
その後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布した後、仕上げ焼鈍を行う。その際、二次再結晶を行う上で必要なインヒビター量を確保するために、二次再結晶が発現する前に窒化処理を行う必要がある。この窒化処理の方法は特に限定するものではなく、アンモニア等の窒化能のある雰囲気ガス中で行う方法、焼鈍分離剤中に窒化物添加物を入れ仕上げ焼鈍時窒化する方法等がある。量的には0.005%以上、望ましくはN/酸可溶性Alの比率が2/3以上となるように窒化すれば良い。」
(7)甲7の記載
ア 甲7には、「低鉄損高強度無方向性電気鋼板およびその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(7ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.005%以下、Si:4.0%以下、P:0.1%以下、S:0.03%以下、Mn:0.1~2.0%、Al:0.3~2.0%、N:0.003%以下、Ti:0.005%以下を含有し、残部がFeおよびその他の不可避不純物からなるスラブを、熱間圧延し、冷間圧延した後、鋼板の断面における未再結晶組織の面積分率が50%以下(0%を含まない)となるように最終焼鈍を行う、低鉄損高強度無方向性電気鋼板の製造方法。
…
【請求項4】
前記不純物はCu、NbおよびVよりなる群から選ばれた少なくとも一つを含み、前記Cuの含量は0.02%以下、前記Nbの含量は0.003%以下、前記Vの含量は0.003%以下にそれぞれ制御される、請求項1に記載の低鉄損高強度無方向性電気鋼板の製造方法。」
(7イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器、例えば発電機や自動車モーターなどの部品として用いられる無方向性電気鋼板の製造方法に関し、より詳しくは、高い応力が作用する高速回転機器に耐えうる高強度特性と、エネルギー効率化のための低鉄損の磁気的特性とを両立させるようにする、無方向性電気鋼板の製造方法およびこれにより製造された無方向性電気鋼板に関する。」
(8)甲8の記載
ア 甲8には、「無方向性電磁鋼板及びその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(8ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁鋼板及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、無方向性電磁鋼板及びその製造方法に関する。」
(8イ)「【0059】
[化学組成]
本発明による無方向性電磁鋼板の化学組成は、次の元素を含有する。
…
【0065】
Cu:0.12%以下
銅(Cu)は不純物である。Cuは無方向性電磁鋼板の表面性状を低下する。本発明の無方向性電磁鋼板は上述のとおり、P及びSnを含有する。この場合、鋼板の表面性状は、冷間加工性に顕著な影響を与える。Cu含有量が0.12%を超えれば、表面性状が低下し、冷間圧延時に割れが発生しやすくなり、本発明のP,Snによる磁束密度向上の効果がを得られない。したがって、Cu含有量は0.12%以下である。Cu含有量の好ましい上限は0.11%であり、さらに好ましくは0.10%である。Cu含有量は低い方が好ましい。」
(9)甲9の記載
ア 甲9には、「{100}集合組織珪素鋼板の製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(9ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、{100}集合組織を備える珪素鋼板の製造方法に関する。」
(9イ)「【0025】
(1)冷間圧延鋼板の鋼組成
本発明に用いられる冷間圧延鋼板は、質量%でC:0.02%以上0.15%以下を含有し、さらにSiおよびMnを下記(1)式および(2)式を満足する範囲で含有するものである。
なお、各元素の含有量を示す「%」は、特に断りのない限り「質量%」を意味する。
…
【0033】
(vi)Ni
一般に、Niは、製鋼段階で0.02%程度混入する不純物である。Niはα-フェライト中に固溶して、電気抵抗を高めるので含有させてもよい。しかしながら、Niを多量に含有すると{100}集合組織の形成を妨げるおそれがある。このため、Ni含有量は、好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.1%以下とする。」
(10)甲10の記載
ア 甲10には、「無方向性電気鋼板およびその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(10ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電気鋼板に関し、より詳しくは、Mn、S、Al、Pの含量を適正にして磁性を向上させた無方向性電気鋼板に関する。」
(10イ)「【0042】
本発明による無方向性電気鋼板の成分の含量を制限した理由は次のとおりである。
…
【0059】
上記不可避的不純物は、Cu、Ni、Cr、Zr、Mo、Vを含み、上記Cu、Ni、Crの含量は、それぞれ0.05重量%以下で添加され、上記Zr、Mo、Vの含量は、それぞれ0.01重量%以下で添加される。」
(11)甲11の記載
ア 甲11には、「方向性電磁鋼板の磁区の微細化方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(11ア)「【技術分野】
【0001】
方向性電磁鋼板の磁区の微細化方法に関する。」
(11イ)「【0022】
方向性電磁鋼板は、全体組成100重量%を基準にO:0.0020~0.0080%、Si:2.5~4.0%、C:0.02~0.10%、Al:0.02~0.04%、Mn:0.05~0.20%、N:0.002~0.012%、S:0.001%~0.010%、およびP:0.01~0.08%で、残部がFeとその他不可避不純物からなっている。不可避不純物としては、Ni、Cr、Sbおよび希土類などがあり、不純物の総重量は0.1重量%以内である。」
(12)甲12の記載
ア 甲12には、「塩酸酸洗廃液の精製方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(12ア)「[産業上の利用分野]
本発明は、鉄鋼の塩酸酸洗廃液に含まれる不純物である少量のAl、Cr、Cu、P等を除去する、塩酸酸洗廃液の精製方法である。これらの不純物を除去した後の塩酸酸洗廃液(以後これを精製廃液という)を、例えば焙焼又は脱珪後焙焼すると、不純物の少ない酸化鉄粉が得られるが、この酸化鉄粉は、ソフトフェライトの性能面で、その望ましい原料となる。また、この精製廃液あるいはさらに脱珪処理を行った溶液から晶出工程を経て、高純度の塩化鉄結晶を製造することができる。さらにまた、上述の不純物の少ない酸化鉄粉は、これを高温還元雰囲気中で還元する等の方法によって、高純度鉄粉の製造にも用いられる。」(第1頁左下欄10行~右下欄3行)
(12イ)「次に本発明では、この塩酸酸洗廃液に鉄を添加する。添加する鉄は、純度のよい鋼細線や薄鋼板や鉄粉等が適当である。
第1表は、FeCl2の濃度が26.5%の塩酸酸洗廃液に鉄を溶解してPHを調整し、不溶化物を分析用No.5Cの濾紙で分別除去した後の、精製廃液中のAl、Cr、Cu、P、Siの濃度である。」(第2頁左上欄7~13行)
(12ウ)「
[図:0001414211000003.jpg]
」(第2頁左下欄)
(13)甲13の記載
ア 甲13には、「酸洗液の調製方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(13ア)「 本発明は鉄鋼の酸洗液の調製方法に関する。
従来、鉄材又は鉄合金よりなる板、鋼板などの金属にメッキや塗装、その他の表面処理を施す場合、これらの処理に先立って錆除去などの目的で酸洗が行われることは周知である。一般に酸洗に用いられる溶液は、塩酸、硫酸などの鉱酸水溶液であり、金属の酸洗によって生じた廃液は、なお多量の酸を含有している。これを廃棄すれば、資源の損失であるばかりか、環境を破壊するおそれがあるので、中和を行う必要があり、費用が嵩む。そこで近年、これらの廃液から酸を回収し、再使用する試みがなされ特に陰イオン交換膜を用いた拡散透析を組合せた金属酸洗システムが提案されている。かかるシステムによれば、酸洗槽内液の一部を槽外に取り出し、これを拡散透析に付し、酸を回収再使用すると同時に被処理液は場合によって更に別工程において鉄化合物などを回収した後、廃棄される。このようなシステムを初め、酸の有効利用を図るその他の方法にあっても、酸の消費量は従来の方法に比べ著しく減少する。このため酸の有効利用率は著しく高くなった反面、別の問題として酸洗に伴い金属や、使用薬剤から不可避的に持ち込まれる種々の不純物が酸洗液中に蓄積されることが判った。なかでも銅成分の蓄積は種々の問題を生ずる。即ち、銅イオンがある濃度以上に蓄積すると、これが鉄などの金属表面に析出付着し、次工程での表面処理に悪影響を及ぼす。」
(第1頁左下欄下から5行~右下欄下から2行)
(13イ)「実施例1
第1表に示す組成を有する塩酸系酸洗液を工程より抜きとり、窒素シールして室温まで冷却した。
その内の100mlを100mlビーカーに移し、マグネチックスターラーにて緩速撹拌しながら、4.8%チオ尿素水溶液0.5mlを添加した。
10分後に撹拌を停止し、No.5C定量濾紙にて濾過し、濾液を分析し第1表の如き結果を得た。
[図:0001414211000004.jpg]
」(第3頁右下欄1~8行)
(13ウ)「比較例1
第2表に示す組成を有する塩酸系酸洗液を工程より抜きとり窒素シールして室温まで冷却した。
その内の100mlを100mlビーカーに移し、マグネチックスターラーにて緩速撹拌しながら、4.8%チオ尿素水溶液1mlを添加した。
10分後に撹拌を停止し、No.5C定量濾紙にて濾過し、濾液を分析し第2表に示す如き結果を得た。
[図:0001414211000005.jpg]
」(第4頁左上欄3~10行)
(13エ)「比較例2
塩酸系酸洗液を工程より抜きとり大気開放して室温まで冷却した。この時の酸洗液組成を第3表に示した。
その内の100mlを100mlビーカーに移し、マグネチックスターラーにて撹拌しながら、4.8%チオ尿素水溶液0.5mlを添加した。
10分後に撹拌を停止し、No.5C定量濾紙にて濾過し、濾液を分析し第3表に示す如ぎ結果を得た。
[図:0001414211000006.jpg]
」(第4頁右上欄1~8行)
(14)甲14の記載
ア 甲14には、「第一鉄イオンを含有する酸溶液から不純物を除去する方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(14ア)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、鉄イオンまたは鉄塩を含有する酸溶液から高純度の酸化鉄を回収するために、硅素成分およびニッケルイオン等の鉄以外の不純物を除去する方法に関する。本発明の適用対象である鉄含有酸溶液の例としては、例えば鉄鋼鋼材を塩酸酸洗したときの廃液が挙げられる。」
(第2頁左上欄8~14行)
(14イ)「〔従来の技術〕
鉄鋼鋼材からスケールを除去するための洗浄工程において、近年では塩酸を用いた酸洗が主流となっている。この鋼材酸洗廃液は高温で焙焼され、これにより回収された塩酸は酸洗液として再使用される。また、その際に副生される粉状の酸化鉄(α-Fe203)は主としてフェライト用原料または顔料として使用される。
ところで、例えば下記第1表に示したように、鋼材酸洗廃液中には鉄分以外の不純物、特に硅素分およびNi分等の不純物が含まれている。このため副生酸化鉄中にはこれら不純物が混入し、例えばSiO2分の含量は0.045~0.06%、Ni分の含量は0.008~0.025%になる。」
(第2頁左上欄15行~右上欄8行)
(14ウ)「
[図:0001414211000007.jpg]
」(第2頁左下欄)
(15)甲15の記載
ア 甲15には、「方向性電磁鋼板およびその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(15ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器およびその他の電気機器の鉄心などに用いて好適な、被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板およびその製造方法に関するものである。」
(15イ)「【0044】
さらに、本発明では、上記した成分以外に、磁気特性改善成分として、次に述べる元素を適宜含有させることができる。
Ni:0.02~0.50%、Sn:0.01~0.50%、Sb:0.005~0.20%、Cr:0.005~1.5%およびP:0.005~0.20%のうちから選んだ少なくとも一種
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させる有用元素である。しかしながら、含有量が0.02%未満では磁気特性の改善効果が小さく、一方0.50%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化するので、Ni量は0.02~0.50%とした。
また、Sn,Sb,CrおよびPはそれぞれ、鉄損の向上に有用な元素であるが、いずれも上記範囲の下限値に満たないと鉄損の向上効果が小さく、一方上限量を超えると二次再結晶粒の発達が阻害されるので、それぞれSn:0.01~0.50%、Sb:0.005~0.20%、Cr:0.005~1.5%、P:0.005~0.20%の範囲で含有させるものとした。」
(15ウ)「【実施例】
【0061】
(実施例1)
表3に示す種々の成分組成からなる連鋳スラブを、1230℃に加熱後、熱間圧延により板厚:2.2mmの熱延板としたのち、1050℃で30秒の熱延板焼鈍を施した。この時、熱延板焼鈍後の鋼板表面をショットブラスト処理したのちに、80℃の5%塩酸水溶液を用い80秒間の酸洗を行って表面スケールを除去した。ついで、冷間圧延により板厚:0.23mmとしたのち、850℃、180sの脱炭・一次再結晶焼鈍を施した。ついで、MgO:87%、MgSO4:10%、TiO2:3%の組成からなる焼鈍分離剤を、一次再結晶板の表面に12.5g/m2塗布し、乾燥したのち、昇温速度:10℃/h、雰囲気ガス:950℃まではArガス、950℃以上はH2ガス、均熱処理:1100℃、10hの条件で二次再結晶焼鈍を施した。その際の最高到達温度は1150℃とした。
その後、リン酸塩とコロイダルシリカを主成分とする張力被膜処理液を塗布し、800℃で焼き付けて、張力被膜を被成したのち、平坦化焼鈍を施した。」
(16)甲16の記載
ア 甲16には、「磁気特性の優れた一方向性ケイ素鋼板(帯)の製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(16ア)「特許請求の範囲
1 基本成分としてケイ素2.5~4.0%を含有するケイ素鋼を、最終製品板厚に減厚後、脱炭焼鈍ならびに最終焼鈍する一方向性ケイ素鋼板の製造方法において、上記脱炭焼鈍を750~870℃の温度領域で行なった後、上記最終焼鈍前に890~1050℃の温度で10分以下の時間、非酸化性雰囲気中で加熱焼鈍処理を施こすことを特徴とする磁気特性の優れた一方向性ケイ素鋼板(帯)の製造方法。」(第1頁左欄1~10行)
(16イ)「 本発明者らは、力ゝる750~870℃での脱炭焼鈍を完遂させる脱炭雰囲気を有する炉に隣接させた非酸化性雰囲気加熱炉を用い、あるいは脱炭焼鈍後鍋板温度をいったん低下させたのちに非酸化性雰囲ネの加熱炉を通板させて、鋼板を所定温度に所定時間滞在せしめることにより、磁気特性を向上せしめ得ることを見出した。この非酸化性雰囲気中での加熱温度は、890~1050℃と規定し、かゝる温度における保定時間としては実質1秒以上10分間以下と規定した。10分間以下に限定した理由は、それより長時間の場合には磁性が劣化することがあるほか生産性が低下するため実用的でない。
第1図には、この加熱焼鈍方法について各種の実施形態の例を掲げる。図中のイは弱酸化性雰囲気中における750~870°Cでの通常の脱炭焼鈍熱サイクルを現わす。後続の加熱焼鈍は、通常の脱炭焼鈍イが完了後連続的にあるいはいったん鋼板温度を低下させた後に、非酸化性雰囲気中でハ,二,ホなどで代表される各種の熱サイクルを採用し得る。」
(第2頁右欄13~33行)
(17)甲17の記載
ア 甲17には、「方向性電磁鋼板の製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(17ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板の製造方法に関する。」
(17イ)「【0039】
本実施形態に係る方向性電磁鋼板10が有する母材鋼板11の化学成分は、質量%で、質量%で、C:0.01~0.20%、Si:2.5~4.0%、Sol.Al:0.01~0.07%、Mn:0.01~0.50%、N:0.02%以下、S:0.005~0.080%、Se:0~0.080%、Sb:0~0.50%、Bi:0~0.02%、Sn:0~0.50%、Cu:0~1.0%を含有し、残部がFe及び不純物からなる。
…
【0052】
本実施形態に係る母材鋼板11の化学成分の残部は、Fe及び不純物である。しかしながら、磁気特性の向上、強度、耐食性、疲労特性等といった構造部材に求められる特性の向上、鋳造性や通板性の向上、スクラップ等使用による生産性の向上を目的として、母材鋼板11は、残部のFeの一部に換えて、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、In(インジウム)、B(ホウ素)、Au(金)、Ag(銀)、Te(テルル)、Ce(セリウム)、V(バナジウム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Ca(カルシウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Nb(ニオブ)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Cd(カドミウム)、Pb(鉛)、As(ヒ素)等から選択される1種又は2種以上を含有しても本発明の効果は失われるものではない。なお、これらの元素は、任意に含まれ得る元素であるため、これらの元素の合計含有量の下限値は、0%である。」
(18)甲18の記載
ア 甲18には、「方向性電磁鋼板脱炭焼鈍板及びその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(18ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器鉄心材料として使用される方向性電磁鋼板の製造方法に関し、工業的規模にて安定的に良好な製品板の製造を可能ならしめる脱炭焼鈍板およびその製造方法に関するものである。」
(18イ)「【0025】
AlN,MnSあるいはMnSe以外のインヒビター構成元素として、Sn、Sb、Bi、B、Pb、Mo、Cr、Te、V等が存在するが、これらを添加しても構わない。特にSn、Sbは結晶粒界や界面へ濃化するため利用価値が高く、0.02~0.15%程度添加すると特性が安定することが多い。」
(18ウ)「【0032】
仕上焼鈍を終了したコイルは巻き解いてパウダーを除去した後、絶縁コーティング形成と鋼板フラットニングのための焼鈍を実施し、所定の幅、重量のコイルに剪断した後、製品として出荷される。」
2 申立理由1(甲1を主引例とする新規性、進歩性)について
(1)本件特許発明1と甲1発明1、2との対比
ア 甲1発明1、2の「電磁鋼スラブ」の組成において「P」の含有について明示的に特定されていないことは、技術常識から「P」の含有量が0%でないことは明らかであることを勘案すると、「P」が不可避不純物に該当しており、その含有量が微量であると考えられることから、本件特許発明1の「スラブ組成」において「P:0.0400%以下」を「含有」していることと、甲1発明1、2において「P」の含有が明示的に特定されていないことは、いずれも「P」を微量含有する限りにおいて共通する。また、「重量%」と「質量%」は実質的に同じ単位である。
また、甲1発明1、2の「電磁鋼スラブ」は必須成分として「Sb」を含有しているが、本件特許発明1の「スラブ」は「Sb」を不純物として含有することまで排除するものでないが、必須成分として「Sb」を含有するものではない。
イ したがって、甲1発明1の「電磁鋼スラブ」の組成が、「重量%で、C:0.078%、Si:3.4%、Mn:0.075%、Se:0.023%、酸可溶性Al:0.028%、Cu:0.08%、Sb:0.025%、N:0.0080%を含み、残部Fe:及び不可避的不純物からなる」ことと、
本件特許発明1の「スラブ」が「質量%で、C:0.02%以上0.10%以下、Si:2.5%以上4.5%以下、Mn:0.01%以上0.30%以下、S及びSeのうち1種又は2種の合計:0.001%以上0.050%以下、酸可溶性Al:0.01%以上0.05%以下、N:0.002%以上0.020%以下、P:0.0400%以下、Cu:0.05%以上0.50%以下を含有し、残部Fe及び不純物からなるスラブ組成を有する」こととは、
「スラブ」が「質量%で、C:0.02%以上0.10%以下、Si:2.5%以上4.5%以下、Mn:0.01%以上0.30%以下、S及びSeのうち1種又は2種の合計:0.001%以上0.050%以下、酸可溶性Al:0.01%以上0.05%以下、N:0.002%以上0.020%以下、P:微量、Cu:0.05%以上0.50%以下を含有し、残部Fe及び不純物を含むスラブ組成を有する」限りにおいて共通する。
ウ また、甲1発明2の「電磁鋼スラブ」が「重量%で、C:0.080%、Si:3.25%、Mn:0.073%以下、S:0.015%、Se:0.010%、酸可溶性Al:0.026%、Cu:0.10%、Sb:0.015%、N:0.0082%を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなる」ことと、
本件特許発明1の「スラブ」が「質量%で、C:0.02%以上0.10%以下、Si:2.5%以上4.5%以下、Mn:0.01%以上0.30%以下、S及びSeのうち1種又は2種の合計:0.001%以上0.050%以下、酸可溶性Al:0.01%以上0.05%以下、N:0.002%以上0.020%以下、P:0.0400%以下、Cu:0.05%以上0.50%以下を含有し、残部Fe及び不純物からなるスラブ組成を有する」こととは、
「スラブ」が「質量%で、C:0.02%以上0.10%以下、Si:2.5%以上4.5%以下、Mn:0.01%以上0.30%以下、S及びSeのうち1種又は2種の合計:0.001%以上0.050%以下、酸可溶性Al:0.01%以上0.05%以下、N:0.002%以上0.020%以下、P:微量、Cu:0.05%以上0.50%以下を含有し、残部Fe及び不純物を含むスラブ組成を有する」限りにおいて共通する。
エ 甲1発明1、2の「電磁鋼スラブを1350℃に加熱熱延して2.3mmの熱延板とする第1の工程」は、いずれも、本件特許発明1の「スラブを加熱し、熱間圧延を施すことで熱延鋼板を得る熱間圧延工程」に相当する。
オ 甲1発明1の「熱延板を1000℃で短時間焼鈍した後急冷却し、酸洗する第2の工程」及び甲1発明2の「熱延板を酸洗する第2の工程」と、本件特許発明1の「前記熱延鋼板を酸洗溶液に浸漬することで、又は前記熱延鋼板に熱延板焼鈍を施して熱延焼鈍板を得た後に前記熱延焼鈍板を酸洗溶液に浸漬することで、酸洗板を得る酸洗工程」は、「前記熱延鋼板を酸洗溶液」で酸洗することで「酸洗板を得る酸洗工程」である限りにおいて共通する。
カ 甲1発明1の「酸洗した熱延板を1.35mmに冷延し、次いで1120℃+900℃で焼鈍した後100℃の熱湯に急冷却した後、酸洗冷延して0.17mmの冷延板とする第3の工程」及び甲1発明2の「酸洗した熱延板を1.60mmに冷間圧延し、次いで1120℃+900℃で焼鈍した後100℃の熱湯に急冷した後、酸洗冷間圧延して0.225mmの冷間圧延板とする第3の工程」は、いずれも、本件特許発明1の「前記酸洗板に冷間圧延を施すことで冷延鋼板を得る冷間圧延工程」に相当する。
キ 甲1発明1の「脱炭焼鈍炉前段に設置した直接通電加熱装置を使用して750℃までの昇温速度を300℃/secとし、その後850℃×70secの脱炭焼鈍をN2:25%、H2:75%、Wet65℃の雰囲気中で行った試料Aを得る第4の工程」及び甲1発明2の「脱炭焼鈍炉前段に設置した直接通電加熱装置を使用して780℃迄の加熱速度を400℃/secとし、その後850℃×90secの脱炭焼鈍をN2:25%、H2:75%、Wet65℃の雰囲気中で行った試料Aを得る第4の工程」は、いずれも、本件特許発明1の「前記冷延鋼板に一次再結晶焼鈍を施して一次再結晶焼鈍板を得る一次再結晶焼鈍工程」に相当し、また、「一次再結晶焼鈍工程が昇温工程と脱炭焼鈍工程とを含み、前記昇温工程における30℃~400℃の温度域の平均昇温速度が50℃/秒超、1000℃/秒以下である」ことに相当する。
ク 甲1発明1、2の「脱炭焼鈍した試料AにMgOとTiO2を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し1200℃×20hrsの仕上げ焼鈍を行う第5の工程」は、いずれも、本件特許発明1の「前記一次再結晶焼鈍板の表面に、MgOを含む焼鈍分離剤を塗布した後、仕上焼鈍を施して仕上焼鈍板を得る仕上焼鈍工程」に相当する。
ケ 甲1発明1の「冷延板」が「0.17mm」であり、甲1発明2の「冷延板」が「0.225mm」であることは、いずれも、本件特許発明1の「前記冷延鋼板の板厚が0.15mm以上0.23mm以下であ」ることに相当する。
コ 甲1発明1、2の「一方向性電磁鋼板」は、いずれも、本件特許発明1の「方向性電磁鋼板」に相当する。
サ 以上の検討によれば、本件特許発明1と甲1発明1、2の一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「 質量%で、C:0.02%以上0.10%以下、Si:2.5%以上4.5%以下、Mn:0.01%以上0.30%以下、S及びSeのうち1種又は2種の合計:0.001%以上0.050%以下、酸可溶性Al:0.01%以上0.05%以下、N:0.002%以上0.020%以下、P:微量、Cu:0.05%以上0.50%以下を含有し、残部Fe及び不純物を含むスラブ組成を有するスラブを加熱し、熱間圧延を施すことで熱延鋼板を得る熱間圧延工程と、
前記熱延鋼板を酸洗溶液で酸洗することで、酸洗板を得る酸洗工程と、
前記酸洗板に冷間圧延を施すことで冷延鋼板を得る冷間圧延工程と、
前記冷延鋼板に一次再結晶焼鈍を施して一次再結晶焼鈍板を得る一次再結晶焼鈍工程と、
前記一次再結晶焼鈍板の表面に、MgOを含む焼鈍分離剤を塗布した後、仕上焼鈍を施して仕上焼鈍板を得る仕上焼鈍工程と、
を含み、
前記冷延鋼板の板厚が0.15mm以上0.23mm以下であり、
前記一次再結晶焼鈍工程が昇温工程と脱炭焼鈍工程とを含み、前記昇温工程における30℃~400℃の温度域の平均昇温速度が50℃/秒超、1000℃/秒以下である、方向性電磁鋼板の製造方法。」の点。
(相違点1)
本件特許発明1では「スラブ」には必須成分として「Sb」が含まれず、せいぜい不純物としてしか含まないのに対して、甲1発明1、2では「電磁鋼スラブ」に必須成分として「Sb」がそれぞれ「0.025%」、「0.015%」含まれる点。
(相違点2)
「スラブ」に含有される微量の「P」の含有量が、本件特許発明1では「0.0400%以下」であるのに対して、甲1発明1、2では、不可避不純物として「P」が含まれていると推定されるもののその含有量は不明である点。
(相違点3)
「酸洗工程」において、本件特許発明1では「熱延鋼板を酸洗溶液に浸漬」しているのに対して、甲1発明1、2では酸洗溶液をどのような状態で熱延鋼板に供給しているのか不明である点。
(相違点4)
「酸洗工程」において、本件特許発明1では「酸洗溶液が、Cuを0.0001g/L以上5.00g/L以下含」むのに対して、甲1発明1、2では酸洗溶液の組成が特定されておらず、当該酸洗溶液中のCu含有の有無及びCuを含有していた場合の含有量が不明である点。
(相違点5)
本件特許発明1では「仕上焼鈍板に絶縁被膜を塗布した後、平坦化焼鈍を施す平坦化焼鈍工程」を含むのに対して、甲1発明1、2ではそのような工程を含むことは特定されていない点。
(2)相違点についての検討
事案に鑑み、上記相違点4について検討する。
ア 甲1には、酸洗に使用される酸洗溶液の組成について何ら記載も示唆もされておらず、本願の優先日当時の技術常識を考慮しても、甲1発明1、2における酸洗溶液中のCuの含有の有無、特にCuの含有量については不明であるから、相違点4は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
イ そこで、甲1発明1、2において、酸洗溶液がCuを0.0001g/L以上5.00g/L以下含むようにすること、すなわち、相違点4に係る本件特許発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるかについて検討する。
ウ 甲1には、酸洗に使用される酸洗溶液の組成について記載されていないが、鋼板に使用する酸洗溶液として、塩酸、硫酸、硝酸等の水溶液を使用することは周知の技術と認められ(甲2~4、12~14参照)、これら酸洗溶液によって鋼板が溶解するので(甲4の【0018】参照)、甲1発明1、2の酸洗工程においても、熱延板が溶解され、その結果、酸性溶液中に当該熱延板に含有されていたCuが溶出するものと推認される。
エ そして、甲1発明1、2の酸洗工程において、酸洗溶液の供給形態がどのようなものであるか不明であるが、甲2や甲3に記載された酸洗槽を用いる方法が酸洗の標準的な方法であり、甲1発明1、2の酸洗工程においても酸洗槽が採用されている蓋然性が高いとすると、熱延板に含有されていたCuが酸洗溶液中に溶出することにより、酸洗溶液におけるCu濃度は徐々に増加するといえる。ここで、酸洗溶液中に溶出したCu等の金属元素がある濃度以上に蓄積すると、鉄等の金属表面に付着し次工程での表面処理に悪影響を及ぼすから(甲13の(13ア)参照)、酸洗工程における酸洗によって劣化した酸洗溶液は排液として廃棄されるか再生処理して再使用される(以下、「廃棄等」という。)こととなる。このとき、排液としての酸洗溶液中に含まれるCuの濃度は、例えば281ppm、333ppmであるから(甲13の第1~3表参照)、他の蓄積元素の濃度との兼ね合いもあり一概には言えないものの、酸洗溶液中のCuの濃度が281~333ppm程度の濃度に達したときに、当該酸洗溶液は劣化したとみなされ、廃棄等される必要があると考えられる。なお、甲12の表1においては、塩酸酸洗廃液原液中のCu濃度が8ppmであるが、AlやCrなど他の金属元素の濃度が高いため、Cu濃度のみにより廃棄等の決定がなされているとは言い難い。
オ そうすると、甲1発明1、2の熱延板を酸洗する第2の工程において酸洗槽が採用されている蓋然性が高いとすると、熱延板に含有されていたCuが酸洗溶液中に溶出することにより、酸洗溶液におけるCu濃度は徐々に増加するが、蓄積したCuにより以降の工程に悪影響を及ぼさないように、Cuの濃度が281~333ppm程度(0.281~0.333g/L程度。1g/L=1000ppmで換算。)に達したとき、又は達する前に、当該酸洗溶液は廃棄等されると考えられる。
つまり、甲13等の記載を参照すれば、甲1発明1、2において、酸洗溶液中に蓄積したCuが悪影響を及ぼさないように、酸洗溶液中のCuの濃度を0.281~0.333g/L程度以下、すなわち、本件特許発明1における酸洗溶液中のCuの濃度である「0.0001g/L以上5.00g/L以下」の範囲内に維持する動機があるといえる。
カ しかしながら、本件特許発明1の製造方法は、薄手材の方向性電磁鋼板の製造過程において、スラブにCuを0.05%以上0.50%以下含有させ、かつ、Cu濃度を「0.0001g/L以上5.00g/L以下」とした酸洗溶液で鋼板を酸洗することにより、鋼板表面にCuが付着(Cuの表面偏析層を形成)すると、インヒビター(MnSなど)の分解反応を抑制してインヒビターの熱的安定性が高まり、その結果、薄手材であるにもかかわらず、二次再結晶において結晶粒の方位が適切に制御されるので、ヒステリシス損失が低減して磁気特性が改善されるという優れた効果を奏するものであるところ(本件明細書の段落【0012】、【0013】参照)、Cuを所定量含有する酸洗溶液による酸洗によってもたらされる上記の優れた効果については甲1~甲18のいずれにも記載も示唆もされておらず、また、周知の技術事項であるともいえないから、当業者が予測可能な効果であるとはいえない。
キ そうすると、甲1発明1、2において、甲1~甲18のいずれの記載を参照したとしても、相違点4に係る本件特許発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるとはいえない。
(3)小括
以上のとおりであるから、相違点4は実質的な相違点であり、また、甲1発明1、2において、甲2~甲18の記載事項に基いて、相違点4に係る本件特許発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるとはいえない。
そうすると、相違点1、2、3、5について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。本件特許発明1を引用する本件特許発明2~8、11についても同様である。
また、相違点1、2、3、5について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明と、甲2~15、18に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
本件特許発明1を引用することにより本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明2~8、10についても、同様の理由によって、甲1に記載された発明と、甲2~15、18に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
本件特許発明1を引用することにより本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明9についても、同様の理由によって、甲1に記載された発明と、甲2~16、18に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
本件特許発明1を引用することにより本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明11についても、同様の理由によって、甲1に記載された発明と、甲2~18に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、申立理由1によっては、本件特許発明1~11に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由2(実施可能要件)について
(1)本件特許発明1は「方向性電磁鋼板の製造方法」という物を生産する方法の発明である。物を生産する方法の発明における発明の実施とは、その方法の使用をする行為を含むから(特許法第2条第3項第2号、第3号)、物を生産する方法の発明について、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、その方法を使用することができる程度に、すなわち、その方法により物を生産することができる程度に発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきであるところ、以下、上記観点に立って検討する。
(2)本件明細書の段落【0064】~【0067】には、本件特許発明1又は本件特許発明11で特定されているスラブ組成の条件を満たす、表1記載のスラブを準備し、本件特許発明1~11で特定された各工程の条件を満たす一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法であって、酸洗工程が表2に示す酸洗条件で示されている製造方法を用いることにより、最終板厚が0.19~0.22mmである、実施例1~14の方向性電磁鋼板が得られたこと、そして、これら実施例1~14の方向性電磁鋼板は、表2に示されるように、いずれも磁束密度(B8)が1.88Tよりも大きくなり、鉄損(W17/50)が0.890W/kg未満となることが確認されており、「薄手でありながら磁気特性に優れる方向性電磁鋼板の製造方法を提供する」との課題(【0006】)が解決されているといえるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件特許発明1~11の製造方法により物(方向性電磁鋼板)を生産することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているということができる。
(3)一方、申立人は申立理由2において、表2に示す酸洗条件について、酸洗溶液中の金属元素(Cu、Mn、Ni)の含有量を、どのようにして本件特許発明1、2、4に特定されている特定の濃度範囲内に収めたのかについて、発明の詳細な説明には記載がなく不明であると主張しているので、この主張について検討する。
(4)表2には、実施例1~14における酸洗溶液の条件として、Cu濃度、Mn濃度、Cu及びMn濃度合計、及びNi合計が記載されているが、本件明細書にはこれら金属の濃度をどのような方法で指定された濃度範囲になるように調整するかについて記載されていない。
しかしながら、水溶液中の金属濃度を所定の範囲に維持するために、当該水溶液中の金属濃度を測定すること、また、上記測定の結果、金属濃度が上記範囲よりも小さくなる場合には例えば当該金属のイオン源となる適量の試薬を直接または溶液状態で加えることにより濃度を増加させること、もしくは、金属濃度が上記範囲よりも大きくなる場合には適量の水を加えて濃度を減少させる程度のことは、当業者が試行錯誤を重ねるまでもなく、通常の溶液操作の方法によって実施可能であるといえる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(5)以上の検討から、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件特許発明1~11の製造方法が使用可能な程度に、すなわち、その製造方法により物を生産することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載したものであるといえる。
したがって、申立理由2によっては、本件特許発明1~11に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由3(明確性)について
本件特許の請求項1、2、4の記載は、酸洗溶液中のCu、Mn、及びNiの許容濃度について明確であり、何ら不明確な点は認められない。
また、本件特許発明1、2、4において、酸性溶液中のCu、Mn、及びNiの濃度を所定の範囲に調整する技術的意味は、上記2(2)カにおいて検討したとおりであり、薄手材であるにもかかわらず、二次再結晶において結晶粒の方位が適切に制御されるので、ヒステリシス損失が低減して磁気特性が改善されるという優れた効果を奏するというものであるから、明らかである。
一方、申立人は、鋼中成分から溶出した金属元素(Cu、Mn、Ni)が酸洗溶液中に蓄積されることにより、当該金属元素の濃度は意図せずに、上記請求項1、2、4に記載された範囲内となっていたり、範囲外となっていたりする蓋然性が高い、と主張しているが、上記3の(4)で検討したように、溶液中の金属濃度を所望の濃度範囲に維持することは、当業者が何らの困難なくなし得ることであるから、金属元素の濃度が意図せずに範囲外となるような事態が発生することはないといえる。
以上の検討から、本件特許の請求項1、2、4の記載は、酸洗溶液中の金属元素の濃度に関して明確であるし、上記請求項を引用する請求項3、5~11についても同様である。
したがって、申立理由3によっては、本件特許発明1~11に係る特許を取り消すことはできない。
第5 結び
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700335