特許異議申立
2017-700675
パワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュール、パワーモジュール用基板の製造方法
- 審判番号
- 2017-700675
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-267300外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年07月11日
- 審決日
- 2018年04月06日
- 公報発行日
- 2018年07月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱マテリアル株式会社
- 【権利者代理人】志賀 正武
- 【権利者代理人】高橋 詔男
- 【権利者代理人】細川 文広
- 【異議申立人】飯田 進
- 分類
- P1651.121-YAA(H01L) / P1651.537-YAA(H01L) / P1651.113-YAA(H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第126条第4項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6056432号発明「パワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュール、パワーモジュール用基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6056432号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、〔5-9〕について訂正することを認める。
特許第6056432号の請求項1ないし7及び9に係る特許を維持する。
特許第6056432号の請求項8に係る特許についての本件特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6056432号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成24年12月6日に特許出願され、平成28年12月16日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年7月11日に特許異議申立人 飯田進により特許異議の申立てがされ、平成29年10月5日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年12月8日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成30年2月13日付けで意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下(1)及び(2)のとおりである。
(1)請求項1ないし4からなる一群の請求項に係る訂正
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「Al2O3からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板であって、
前記銅板と前記セラミックス基板との間において、前記セラミックス基板の表面に酸化物層が形成されているとともに、Ag-Cu共晶組織層の厚さが15μm以下とされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。」とあるのを、
「Al2O3からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板であって、
前記パワーモジュール用基板の製造工程は、
前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程と、
このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm2以上35kgf/cm2以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とすることにより、
前記銅板と前記セラミックス基板との間において、前記セラミックス基板の表面に酸化物層が形成されているとともに、Ag-Cu共晶組織層の厚さが15μm以下とされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。」に訂正する。
イ.訂正事項2
明細書の段落【0009】に
「このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のパワーモジュール用基板は、Al2O3からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板であって、前記銅板と前記セラミックス基板との間において、前記セラミックス基板の表面に酸化物層が形成されているとともに、Ag-Cu共晶組織層の厚さが15μm以下とされていることを特徴としている。」とあるのを、
「このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のパワーモジュール用基板は、Al2O3からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板であって、前記パワーモジュール用基板の製造工程は、前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程と、このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm2以上35kgf/cm2以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とすることにより、前記銅板と前記セラミックス基板との間において、前記セラミックス基板の表面に酸化物層が形成されているとともに、Ag-Cu共晶組織層の厚さが15μm以下とされていることを特徴としている。」に訂正する。
(2)請求項5ないし9からなる一群の請求項に係る訂正
ア.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に
「Al2O3からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成するAg及び酸化物形成元素層形成工程と、
このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成するとともに、前記セラミックス基板の表面に酸化物層を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。」とあるのを、
「Al2O3からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程と、
このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm2以上35kgf/cm2以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とするとともに、前記セラミックス基板の表面に酸化物層を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。」に訂正する。
イ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
ウ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9に
「前記Ag及び酸化物形成元素層含有ペーストは、前記酸化物形成元素の水素化物を含有していることを特徴とする請求項8に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。」とあるのを、
「前記Ag及び酸化物形成元素層含有ペーストは、前記酸化物形成元素の水素化物を含有していることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。」に訂正する。
エ.訂正事項6
明細書の段落【0014】に
「本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、Al2O3からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成するAg及び酸化物形成元素層形成工程と、このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成するとともに、前記セラミックス基板の表面に酸化物層を形成することを特徴としている。」とあるのを、
「本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、Al2O3からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程と、このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm2以上35kgf/cm2以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とするとともに、前記セラミックス基板の表面に酸化物層を形成することを特徴としている。」に訂正する。
オ.訂正事項7
明細書の段落【0018】を削除する。
2.訂正の適否についての判断
(1)請求項1ないし4からなる一群の請求項に係る訂正について
ア.一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし4において、請求項2ないし4は、訂正する請求項1を直接又は間接的に引用しているものであるから、請求項1ないし4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
イ.訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において銅板とセラミックス基板との間に「形成されている」ものとして記載されている「酸化物層」及び「Ag-Cu共晶組織層」に関して、それらの形成工程を特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項1のうち、
「前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程」については、願書に添付した特許請求の範囲の【請求項5】及び明細書の段落【0043】等に記載されており、
「このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程」については、願書に添付した特許請求の範囲の【請求項5】及び明細書の段落【0044】等に記載されており、
「積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm2以上35kgf/cm2以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程」については、願書に添付した特許請求の範囲の【請求項5】及び明細書の段落【0045】、【0100】~【0102】(【表4】~【表6】)等に記載されており、
「この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程」については、願書に添付した特許請求の範囲の【請求項5】及び明細書の段落【0046】等に記載されており、
「前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とすること」については、願書に添付した特許請求の範囲の【請求項5】及び明細書の段落【0045】、【0051】等に記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり、訂正事項1は特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ.訂正事項2について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)関係する請求項について
明細書の訂正である訂正事項2に関係する一群の請求項の全て(請求項1ないし4)が訂正請求の対象とされているから、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項1について上記イ(イ)で示したのと同様の理由で、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(エ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)で示したとおり、訂正事項2は上記訂正事項1と整合をとるためのものであるから、上記訂正事項1と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2)請求項5ないし9からなる一群の請求項に係る訂正について
ア.一群の請求項について
訂正前の請求項5ないし9において、請求項6ないし9は、訂正する請求項5を直接又は間接的に引用しているものであるから、請求項5ないし9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
イ.訂正事項3について
(ア)訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項5における「Ag及び酸化物形成元素層形成工程」における当該層の具体的形成手法及び厚さについて特定し、また、「加熱工程」における圧力の数値範囲を特定し、「凝固工程」の後のAg-Cu共晶組織層の厚さの数値範囲を特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項3のうち、
「前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程」については、願書に添付した明細書の段落【0043】等に記載されており、
「積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm2以上35kgf/cm2以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程」については、願書に添付した明細書の段落【0045】、【0100】~【0102】(【表4】~【表6】)等に記載されており、
「前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とするとともに、前記セラミックス基板の表面に酸化物層を形成すること」については、願書に添付した明細書の段落【0045】、【0051】等に記載されている。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり、訂正事項3は特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ.訂正事項4について
(ア)訂正の目的について
訂正事項4は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり、訂正事項4は、請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり、訂正事項4は、請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
エ.訂正事項5について
(ア)訂正の目的について
訂正事項5は、訂正事項4によって請求項8を削除するのにともない、請求項9の引用請求項数を減少するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり、訂正事項5は、引用請求項数を減少するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり、訂正事項5は、引用請求項数を減少するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
オ.訂正事項6について
(ア)訂正の目的について
訂正事項6は、上記訂正事項3に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)関係する請求項について
明細書の訂正である訂正事項6に関係する一群の請求項の全て(請求項5ないし9)が訂正請求の対象とされているから、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項3について上記イ(イ)で示したのと同様の理由で、訂正事項6は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(エ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)で示したとおり、訂正事項6は訂正事項3と整合をとるためのものであるから、当該訂正事項3と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
カ.訂正事項7について
(ア)訂正の目的について
訂正事項7は、上記訂正事項4に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)関係する請求項について
明細書の訂正である訂正事項7に関係する一群の請求項の全て(請求項5ないし9)が訂正請求の対象とされているから、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項7は、上記訂正事項4によって削除される請求項8の記載と対応する明細書の記載を削除するものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(エ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)で示したとおり、訂正事項7は上記訂正事項4と整合をとるためのものであるから、上記訂正事項4と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
3.まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合する。
また、本件特許異議の申立ては、本件訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正事項1及び3ないし5に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正請求は適法なものであり、訂正後の請求項〔1ないし4〕、〔5ないし9〕について訂正することを認める。
第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし9に係る発明(以下「本件発明1ないし9」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(下線は訂正された箇所を示す。)
「【請求項1】
Al2O3からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板であって、
前記パワーモジュール用基板の製造工程は、
前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程と、
このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm2以上35kgf/cm2以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とすることにより、
前記銅板と前記セラミックス基板との間において、前記セラミックス基板の表面に酸化物層が形成されているとともに、Ag-Cu共晶組織層の厚さが15μm以下とされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項2】
前記酸化物層は、Ti、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素の酸化物を含有していることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクと、を備えたことを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のパワーモジュール用基板と、該パワーモジュール用基板上に搭載される電子部品と、を備えたことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項5】
Al2O3からなるセラミックス基板の表面に銅または銅合金からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程と、
このAg及び酸化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm2以上35kgf/cm2以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成して、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とするとともに、前記セラミックス基板の表面に酸化物層を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項6】
前記酸化物形成元素は、Ti、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素であることを特徴とする請求項5に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項7】
前記Ag及び酸化物形成元素層形成工程では、Ag及び酸化物形成元素以外に、In、Sn、Al、Mn及びZnから選択される1種又は2種以上の添加元素を配設させることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記Ag及び酸化物形成元素層含有ペーストは、前記酸化物形成元素の水素化物を含有していることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。」
2.取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし9に係る特許に対して平成29年10月5日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)請求項1ないし6に係る発明は、引用文献1(甲第3号証)及び引用文献2(甲第1号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項7及び8に係る発明は、引用文献1ないし引用文献3(甲第4号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項9に係る発明は、引用文献1ないし引用文献4(甲第5号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
<引用文献一覧>
1.特開2012-64801号公報(甲第3号証)
2.特開昭60-239373号公報(甲第1号証)
3.特開平11-12051号公報(甲第4号証)
4.特開2005-112677号公報(甲第5号証)
(2)請求項5ないし9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
3.引用文献1の記載
引用文献1(甲第3号証:特開2012-64801号公報)には、「ヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュール及びヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)
(1)「【技術分野】
【0001】
この発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュール及びヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法に関するものである。」
(2)「【0002】
半導体素子の中でも電力供給のためのパワーモジュールは、発熱量が比較的高いため、これを搭載する基板としては、例えば、AlN(窒化アルミ)、Al2O3(アルミナ)、Si3N4(窒化ケイ素)などからなるセラミックス基板の一方の面側に第一の金属板が接合されるとともに、セラミックス基板の他方の面側に第二の金属板を介してヒートシンクが接続されたヒートシンク付パワーモジュール用基板が用いられる。
このようなヒートシンク付パワーモジュール基板では、第一の金属板に回路パターンが形成され、この第一の金属板の上に、はんだ材を介してパワー素子の半導体チップが搭載される。」
(3)「【0090】
次に、本発明の第3の実施形態について、図16から図18を参照して説明する。
図16に示すパワーモジュール201は、ヒートシンク付パワーモジュール用基板210と、このヒートシンク付パワーモジュール用基板210の搭載面222A上にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3(電子部品)と、を備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、搭載面222Aとはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0091】
ヒートシンク付パワーモジュール用基板210は、セラミックス基板221と、このセラミックス基板221の一方の面(図16において上面)に接合された第一の金属板222と、セラミックス基板221の他方の面(図16において下面)に接合された第二の金属板223とを備えたパワーモジュール用基板220と、ヒートシンク211と、を備えている。
【0092】
セラミックス基板221は、第一の金属板222と第二の金属板223との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いSi3N4(窒化ケイ素)で構成されている。また、セラミックス基板221の厚さは、0.2~1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0093】
第一の金属板222は、銅又は銅合金で構成されており、本実施形態では、タフピッチ銅の圧延板とされている。また、その板厚は0.1~1.0mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
この第一の金属板222には、回路パターンが形成されており、その一方の面(図16において上面)が、半導体チップ3が搭載される搭載面222Aとされている。
(中略)
【0101】
以下に、前述の構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板210の製造方法について説明する。
【0102】
まず、図20及び図21に示すように、銅からなる第一の金属板222と、セラミックス基板221とを接合する(銅板接合工程S201)。ここで、Si3N4からなるセラミックス基板221と第一の金属板222とは、いわゆる活性金属法によって接合されている。この活性金属法では、図21に示すように、セラミックス基板221と第一の金属板222との間に、Ag-Cu-Tiからなるろう材225を配設して、セラミックス基板221と第一の金属板222とを接合するものである。
なお、本実施形態では、Ag-27.4質量%Cu-2.0質量%Tiからなるろう材225を用いて、10-3Paの真空中にて、850℃で10分加熱することによって、セラミックス基板221と第一の金属板222とを接合している。
(中略)
【0109】
以上のような構成とされた本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板210によれば、上述の第1、第2の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板と同様の作用効果を奏することになり、第一の金属板222の上に搭載された半導体チップ3等の発熱体からの熱を効率良く促進することができ、かつ、熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板221の割れの発生を抑制し、信頼性の高いヒートシンク付パワーモジュール用基板210を提供することが可能となる。
【0110】
また、Ag-Cu-Tiのろう材225を用いた活性金属法によって、第一の金属板222とセラミックス基板221とを接合しているので、第一の金属板222及びセラミックス基板221に酸素を介在させることなく、パワーモジュール用基板220を構成することができる。」
したがって、第3の実施形態に着目して、上記(1)及び(3)並びに図面の記載を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「Si3N4で構成されたセラミックス基板221と銅又は銅合金からなる第一の金属板222を、Ag-Cu-Tiからなるろう材225を用いた活性金属法によって接合する、パワーモジュール用基板の製造方法。」
4.当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア.特許法第29条第2項について
(ア)本件発明5について
まず、本件発明5について検討する。
本件発明5と引用発明とを対比すると、引用発明の「パワーモジュール用基板」「セラミックス基板221」「銅又は銅合金からなる第一の金属板222」は、本件発明5の「パワーモジュール用基板」「セラミックス基板」「銅または銅合金からなる銅板」にそれぞれ相当するから、本件発明5と引用発明は以下の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点1>
セラミックス基板が、本件発明5においては「Al2O3」からなるのに対して、引用発明においては「Si3N4」で構成されている点。
<相違点2>
セラミックス基板と銅板の接合に関して、本件発明5においては、(a)「前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布することにより、Agと酸化物形成元素とを含有するAg及び酸化物形成元素層を形成し、乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とするAg及び酸化物形成元素層形成工程」及び(b)「積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に6kgf/cm2以上35kgf/cm2以下の圧力で加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程」を有するとともに、(c)「凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とする」のに対して、引用発明においては、「Ag-Cu-Tiからなるろう材225を用いた活性金属法によって接合する」ことが特定されているだけである点。
特に、引用発明においては、上記(a)のように「Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布すること」及び「乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とする」こと、上記(b)のように加熱時に「6kgf/cm2以上35kgf/cm2以下の圧力で加圧する」こと、上記(c)のように「凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とする」ことは特定されていない点。
そこで、上記各相違点について検討すると、まず相違点1については、アルミナ(Al2O3)からなるセラミックス基板は、パワーモジュール用基板としてごく普通に用いられている(例えば、引用文献1の上記3.(2)で摘示した記載を参照。)から、引用発明の上記セラミックス基板221として、アルミナ(Al2O3)からなるセラミックス基板を用いることは、当業者にとって格別の創意工夫を要することではない。
次に、相違点2について検討する。
引用文献2(甲第1号証:特開昭60-239373号公報)には、アルミナ部材と銅板(金属部材)とを接合する方法について記載されており([発明の概要]及び[発明の実施例]の欄を参照。)、具体的には、
前記アルミナ部材又は前記銅板に、Ag-Ti又はAg-Ti-Cuからなる厚さ0.5~10μmの層を堆積することにより、前記アルミナ部材と前記銅板の接合部に前記層を介在させ(第3頁右上欄第11行~同頁右下欄第5行)、
次いで、前記アルミナ部材と前記銅板を接合面で重ね合わせ(第3頁右下欄第6行~第7行)、
低圧(0~1kg/mm2)を加えて加熱し、この熱処理により、前記アルミナ部材と前記銅板の間に、Ag-Cu-Tiの合金融液が生成され(第3頁右下欄第7行~第14行)、
この後冷却することにより前記アルミナ部材と前記銅板とが強固に接合され(第3頁右下欄第14行~第16行)、
上記加熱工程において、前記合金融液を前記銅板に拡散させる(第4頁左上欄第1行~第2行)
ことが記載されている。
そして、引用文献2には、前記加熱(熱処理)の工程において、前記アルミナ部材の表面に酸化物層が形成されることは明記されていないが、本件発明5と同様に、前記合金融液に含まれる活性金属であるTiが前記アルミナ部材と反応して酸化物層を形成することは、当業者にとって自明のことであり、そうすると、前記Tiは、酸化物形成元素であるということができる。
しかしながら、引用文献2には、Ag-Ti又はAg-Ti-Cuからなる層を介在させる手法として「Ag,Ti,Cuの金属箔を用いて介在させる方法、或はAg,Ti,Cuをスパッタリング法,蒸着法,めっき法等によりアルミナ部材又は金属部材に堆積して介在させる方法」が記載されているだけで、本件発明5の上記(a)のように「Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペーストを塗布すること」は記載されておらず、したがって、「乾燥後のAg及び酸化物形成元素層の厚さを60μm以上300μm以下とする」ことも記載されていない。また、引用文献2には、上記(a)のようにして形成したAg及び酸化物形成元素層を介して、上記(b)のように「6kgf/cm2以上35kgf/cm2以下の圧力」で加圧することも記載されていない。さらに、上記(a)及び(b)の工程を経た上で、上記(c)のように「凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とする」ことも記載されていない。
そして、相違点2に係る上記(a)ないし(c)の事項により、本件発明5は、「冷熱サイクル負荷時にAl2O3からなるセラミックス基板と銅板との熱膨張係数の差に起因するせん断応力が作用した場合であっても、銅板側が適度に変形することになり、Al2O3からなるセラミックス基板の割れを抑制することができる。」(本件の特許明細書の【0010】)という顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明5は、引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また、取消理由通知で引用した引用文献3(甲第4号証:特開平11-12051号公報)及び引用文献4(甲第5号証:特開2005-112677号公報)、並びに、特許異議申立人が提出した甲第2号証(化学大辞典)にも、上記(a)ないし(c)の事項は記載されていないから、引用文献3及び引用文献4並びに甲第2号証の記載を参酌しても、本件発明5は、引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(イ)本件発明6、7及び9について
本件発明6、7及び9は本件発明5の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(ア)で述べたのと同様の理由で、本件発明6、7及び9は、引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(ウ)本件発明1ないし5について
本件発明1も、上記(ア)で挙げた相違点2に係る上記(a)ないし(c)の事項を含む「パワーモジュール用基板の製造工程」を発明特定事項として備えているから、上記(ア)で述べたのと同様の理由で、本件発明1は、引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また、本件発明2ないし4は本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2ないし4も、引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(エ)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1ないし7及び9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
イ.特許法第36条第6項第1号について
本件特許明細書に「比較例1、2、51、52においては、共晶組織厚さが15μmを超えており、少ないサイクル数でAl2O3からなるセラミックス基板にクラックが発生した。」(【0113】)と記載されているように、比較例1、2、51、52は、共晶組織厚さが15μmを超えているため、セラミック基板の割れの発生を抑制するという課題(【0008】)を解決することはできていない。
これに対して、本件訂正請求による訂正前の請求項5に記載の製造方法においては、共晶組織厚さについて特定されていないので、前記比較例1、2、51、及び52も含み得るものであったが、本件訂正請求による訂正後の請求項5(本件発明5)の製造方法においては、「凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さを15μm以下とする」という発明特定事項を有しているから、凝固後のAg-Cu共晶組織層の厚さがいずれも15μmを超える比較例1、2、51、及び52は、本件発明5の製造方法には含まれない。
したがって、上記比較例1、2、51、及び52の評価結果を根拠にして、訂正後の請求項5及びその従属請求項である訂正後の請求項6、7及び9の記載に課題解決手段が反映されていないということはできない。
よって、請求項5ないし7及び9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるということはできない。
(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、請求項1、2、5、及び6に記載された発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1、2、5、及び6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、請求項3、4、7ないし9に記載された発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3ないし5号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3、4、7ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであると主張している。
しかしながら、甲第1号証(引用文献2)には、「アルミナと金属との接合方法」について記載されてはいるが、「パワーモジュール用基板」及び「パワーモジュール用基板の製造方法」については記載されておらず、さらに、上記(1)ア(ア)で説示したように上記(a)ないし(c)の事項も記載されていない。
したがって、請求項1、2、5、及び6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。
また、上記(1)ア.(ア)で説示したとおり、特許異議申立人が提出した他のいずれの文献にも、上記(a)ないし(c)の事項は記載されていないから、請求項3、4、7及び9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3ないし5号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
よって、特許異議申立人の上記主張は理由がない。
(3)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、平成30年2月13日付け意見書において、訂正後の請求項1及び5に記載の「Ag及び酸化物形成元素を含有するAg及び酸化物形成元素層含有ペースト」はCuを含み得るものであるため、「冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板の割れの発生を抑制できる」という課題を解決できるかが不明であるから、請求項1ないし7及び9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである旨を主張している。
しかしながら、訂正後の請求項1及び5に係る発明は、いずれも「Ag-Cu共晶組織層の厚さが15μm以下とする」という発明特定事項を有しており、本件特許明細書全体の記載からみて、そのような厚みとすることによって、「冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板の割れの発生を抑制できる」という課題を解決できることは明らかであるから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
なお、特許異議申立人は、上記意見書において、本件特許明細書に記載の比較例51の評価結果を用いて特許法第36条第4項第1号に規定する要件についても意見を述べている。しかしながら、特許法第36条第4項第1号に規定する要件は、特許異議申立書に記載の申立て理由に含まれておらず、かつ、上記(1)イで説示したように、訂正前の請求項5に記載の製造方法は上記比較例51も含み得るものであったことを勘案すれば、訂正請求の内容に付随して生じた理由であるともいえないから、上記意見は実質的に新たな理由を提示するものである。
よって、特許異議申立人の上記意見を採用することはできない。仮に、上記意見が訂正請求の内容に付随して生じたものであったとしても、上述したとおり、訂正後の請求項1及び5に係る発明は、いずれも「Ag-Cu共晶組織層の厚さが15μm以下とする」という発明特定事項を有しており、上記比較例51が含まれないことは明らかであるから、特許異議申立人の上記意見を採用することはできない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし7及び9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし7及び9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件訂正によって本件請求項8は削除されたため、本件請求項8に係る特許についての本件特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないから却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-700675