特許異議申立
2017-700614
液晶配向剤、位相差フィルムおよび位相差フィルムの製造方法
- 審判番号
- 2017-700614
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-058181
- 登録番号
- 特許第6048250号(P6048250)
- 請求日
- 2017年06月16日
- 審決日
- 2018年05月29日
- 公報発行日
- 2018年07月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】JSR株式会社
- 【権利者代理人】山田 強
- 【権利者代理人】廣田 美穂
- 【権利者代理人】日野 京子
- 【異議申立人】張 迪
- 審判長/審判官
- 審判長 恩田 春香
- 審判官 森 竜介
- 審判官 宮澤 浩
- 分類
- P1651.121-Y (G02F) / P1651.536-Y (G02F) / P1651.537-Y (G02F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6048250号発明「液晶配向剤、位相差フィルムおよび位相差フィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6048250号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第6048250号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成25年3月21日(優先権主張平成24年11月20日)に特許出願され、平成28年12月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年6月16日に張迪(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年8月21日付けで当審より特許異議申立人に対し審尋がされ、それに対し平成29年10月18日に回答書が提出され、当審において平成29年12月22日付けで取消理由を通知し、平成30年2月23日付けで意見書が提出されたものである。
2.本件発明
特許第6048250号の請求項1ないし7の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりものである。
【請求項1】
(メタ)アクリル系重合体およびポリオルガノシロキサンよりなる群から選ばれる少なくとも一種であって、光配向性基と(メタ)アクリロキシ基とを有する重合体(A)と、
(メタ)アクリロキシ基、ビニル基、イソシアネート基、アミノ基、チオール基およびエポキシ基よりなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有するシラン化合物(B)と、を含有する、液晶配向剤。
【請求項2】
前記シラン化合物(B)の含有量が、前記重合体(A)100重量部に対して10~300重量部である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記重合体(A)は水酸基を更に有する、請求項1または2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
位相差フィルムの製造用である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
請求項4に記載の液晶配向剤を基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜に光照射する工程と、
前記光照射した後の塗膜上に重合性液晶を塗布して硬化させる工程と、を含む位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記基板は、前記塗膜を形成する面にプライマー処理が施された基板である、請求項5に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を有する位相差フィルム。
3.取消理由の概要
当審において、請求項1ないし7に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりであり、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由と同じである。
(1)【理由1】(進歩性)
本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
・請求項 1、2、3
・引用文献等 甲第1号証、甲第2号証
・請求項 4-7
・引用文献等 甲第1号証-甲第3号証
<引用文献等一覧>
甲第1号証 特開2009-282341号公報
甲第2号証 特表2006-511686号公報
甲第3号証 特開2012-37868号公報
(2)【理由2】(実施可能要件)
本件特許は、その発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
特許異議申立書第13ページ第25行から第14ページ第7行までの
「(メタ)アクリル系重合体であって光配向性基及び(メタ)アクリロキシ基を有する重合体(A)と、シラン化合物(B)とを含有する液晶配向剤や、その製造例については本件特許明細書に記載がない。
なお、本件特許明細書の実施例3(段落0097の表1、段落100)の製造例は、(メタ)アクリル系重合体であって光配光性基を有する重合体(A)と、シラン化合物(B)とを含有する液晶配向剤であるが、当該重合体(A)が(メタ)アクリロキシ基を有さないものである。
以上のことから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明について、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。」との理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
よって、請求項1ないし7に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)【理由3】(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、下記の請求項に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
請求項1ないし7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。その理由は、特許異議申立書第14ページ第11行から第24行までの
「(メタ)アクリル系重合体であって光配向性基及び(メタ)アクリロキシ基を有する重合体(A)と、シラン化合物(B)とを含有する液晶配向剤や、その製造例については本件特許明細書に記載がなく、また、そのような液晶配向剤の配光性及び接着性についても実証されていない。
なお、上述した通り、本件特許明細書の実施例3(段落0097の表1、段落100)の製造例は、(メタ)アクリル系重合体であって光配光性基を有する重合体(A)と、シラン化合物(B)とを含有する液晶配向剤であるが、当該重合体(A)が(メタ)アクリロキシ基を有さないものである。
以上のことから、本件特許発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると判断される。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」との記載のとおりである。
よって、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
4.甲各号証の記載
(1)甲第1号証
ア 甲1号証には、以下の記載がある。なお、下線は当審において付与した。以下同様。
「【0040】
<その他の成分>
本発明の液晶配向剤は、上記の如き桂皮酸骨格を有する重合体を含有する。
本発明の液晶配向剤は、上記の如き桂皮酸骨格を有する重合体のほかに、本発明の効果を損なわない限り、さらに他の成分を含有していてもよい。このような他の成分としては、例えば桂皮酸骨格を有する重合体以外の重合体(以下、「他の重合体」という。)、分子内に少なくとも一つのエポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ化合物」という。)、官能性シラン化合物、界面活性剤等を挙げることができる。」
「【0066】
上記官能性シラン化合物は、形成される液晶配向膜の基板との接着性をより向上する目的で使用することができる。官能性シラン化合物としては、例えば3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-アミノプロピルトリメトキシシラン、2-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N-エトキシカルボニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-エトキシカルボニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N-トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10-トリメトキシシリル-1,4,7-トリアザデカン、10-トリエトキシシリル-1,4,7-トリアザデカン、9-トリメトキシシリル-3,6-ジアザノニルアセテート、9-トリエトキシシリル-3,6-ジアザノニルアセテート、N-ベンジル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ベンジル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-ビス(オキシエチレン)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ビス(オキシエチレン)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を挙げることができ、さらに特許文献17(特開昭63-291922号公報)に記載されている、テトラカルボン酸二無水物とアミノ基を有するシラン化合物との反応物等を挙げることができる。
本発明の液晶配向剤が官能性シラン化合物を含有する場合、その含有割合としては、重合体の合計100重量部に対して、好ましくは50重量部以下であり、より好ましくは20重量部以下である。」
「【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
以下の実施例において重量平均分子量(Mw)は、以下の条件におけるゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算値である。
カラム:東ソー(株)製、TSKgelGRCXLII
溶剤:テトラヒドロフラン
温度:40℃
圧力:68kgf/cm2
エポキシ当量は、JIS C2105の“塩酸-メチルエチルケトン法”に準じて測定した。
溶液粘度は、各合成例で指摘した重合体溶液につき、E型粘度計を用いて25℃において測地した値である。
<カルボキシル基を有する桂皮酸誘導体の合成>
合成例1(化合物(2-1-1)の合成)
下記スキーム1
【0075】
【化17】 (省略)
【0076】
に従って化合物(2-1-1)を合成した。
1Lのナス型フラスコに、p-ヒドロキシ桂皮酸82g、炭酸カリウム304gおよびN-メチル-2-ピロリドン400mLを仕込み、室温で1時間撹拌を行った後、1-ブロモペンタン166gを加えて100℃で5時間撹拌した。その後、減圧にて溶剤を留去した。ここに、水酸化ナトリウム48gおよび水400mLを加えて3時間還流して加水分解反応を行った。反応終了後、反応系を塩酸で中和し、生じた沈殿を回収してエタノールで再結晶することにより、上記式(2-1-1)で表される化合物の白色結晶を80g得た。
合成例2(化合物(2-4-1)の合成)
下記スキーム2
【0077】
【化18】
【0078】
に従って、化合物(2-4-1)を合成した。
化合物(2-4-1a)の合成
1Lのナス型フラスコに、4-ヒドロキシ安息香酸メチル91.3g、炭酸カリウム182.4gおよびN-メチル-2-ピロリドン320mLを仕込み、室温で1時間撹拌を行った後、1-ブロモペンタン99.7gを加え100℃で5時間撹拌した。反応終了後、水で再沈殿を行った。次に、この沈殿に水酸化ナトリウム48gおよび水400mLを加えて3時間還流して加水分解反応を行った。反応終了後、塩酸で中和し、生じた沈殿をエタノールで再結晶することにより化合物(2-4-1a)の白色結晶を102g得た。
化合物(2-4-1)の合成
この化合物(2-4-1a)のうちの10.41gを反応容器中にとり、これに塩化チオニル100mLおよびN,N-ジメチルホルムアミド77μLを加えて80℃で1時間撹拌した。次に、減圧下で塩化チオニルを留去し、塩化メチレンを加えて炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮を行った後、テトラヒドロフランを加えて溶液とした。
次に、上記とは別の500mL三口フラスコに、4-ヒドロキシ桂皮酸7.39g、炭酸カリウム13.82g、テトラブチルアンモニウム0.48g、テトラヒドロフラン50mLおよび水100mLを仕込んだ。この水溶液を氷冷し、上記テトラヒドロフラン溶液をゆっくり滴下し、さらに2時間撹拌を行った。反応終了後、塩酸を加えて中和し、酢酸エチルで抽出した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮を行った後、エタノールで再結晶することにより、化合物(2-4-1)の白色結晶を9.0g得た。」
「【0089】
<エポキシ基を有する重合体の合成>
合成例8
撹拌機、窒素導入管および温度計を備えた500mLのセパラブルフラスコに、グリシジルメタクリレート80g、スチレン20g、アゾビスイソブチロニトリル6g、スチレンダイマー6gおよびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート200gを仕込み、窒素で系内を十分に置換した後、95℃で4時間反応を行うことにより、エポキシ基を有する重合体(PA-1)を34重量%含有する溶液を得た。重合体(PA-1)の重量平均分子量は4,000、エポキシ当量は170g/モルであった。
<桂皮酸骨格を有する重合体の合成>
実施例1
200mLの三口フラスコに、エポキシ基を有する重合体として、上記合成例8で得た重合体(PA-1)を含有する溶液を、該溶液中の重合体(PA-1)の量に換算して7.35gに相当する量だけ仕込み、これにカルボキシル基を有する桂皮酸誘導体として上記合成例1で得た化合物(2-1-1)1.72g(エポキシ当量の測定値から求めた重合体(PA-1)のエポキシ基の数に対して50モル%に相当する。)、テトラブチルアンモニウムブロミド0.25gおよびN,N-ジメチルアセトアミドを加え、反応液の固形分濃度を20重量%として、120℃で2時間反応を行った。反応終了後、反応混合物に酢酸エチルを100mL加え、水で3回洗浄を行った後、濃縮し、さらに溶媒を除去して乾固することにより、重合体(CPA-1)を淡褐色の粉末として得た。重合体(CPA-1)の重量平均分子量(Mw)は、11,000であった。
実施例2~8
使用したカルボキシル基を有する桂皮酸誘導体の種類および量を、それぞれ表1に記載のとおりとしたほかは上記実施例1と同様にして実施し、重合体(CPA-2)~(CPA-8)を得た。各重合体の重慮平均分子量(Mw)を表1に示した。
なお、表1におけるカルボキシル基を有する桂皮酸誘導体の量は、エポキシ当量の測定値から求めた重合体(PA-1)のエポキシ基の数に対するモル%である。
【0090】
【表1】
」
「【0092】
合成例11
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物17.3g(0.077モル)ならびにジアミンとしてp-フェニレンジアミン5.9g(0.054モル)、上記式(D-6)で表される化合物4.1g(0.008モル)および上記式(D-7)で表される化合物7.7g(0.016モル)をN-メチル-2-ピロリドン140gに溶解し、60℃で4時間反応を行うことにより、ポリアミック酸を含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、N-メチル-2-ピロリドンを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は117mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液にN-メチル-2-ピロリドン325gを追加し、ピリジン6.1gおよび無水酢酸7.9gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなN-メチル-2-ピロリドンで溶媒置換することにより、イミド化率約55%のポリイミド(PI-2)を15.4重量%含有する溶液約210gを得た。このポリイミド溶液を少量分取し、N-メチル-2-ピロリドンを加えてポリイミド濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は109mPa・sであった。
<ポリシロキサンの調製>
合成例12
冷却管を備えた200mLの三口フラスコに、テトラエトキシシラン20.8gおよび1-エトキシ-2-プロパノール28.2gを仕込み、60℃に加熱し攪拌した。ここに、容量20mLの別のフラスコに調製した、無水マレイン酸0.26gを水10.8gに溶解した無水マレイン酸水溶液を加え、60℃でさらに4時間加熱、攪拌して反応を行った。得られた反応混合物から溶剤を留去し、1-エトキシ-2-プロパノールを加えて、再度濃縮することにより、ポリシロキサン(PS-1)を10重量%含有する重合体溶液を得た。PS-1の重量平均分子量Mwは5,100であった。
【0093】
<液晶配向剤の調製>
実施例9
上記実施例1で得た桂皮酸骨格を有する重合体(CPA-1)の100重量部と、他の重合体として上記合成例9で得たポリアミック酸(PAA-1)を含有する溶液のポリアミック酸(PAA-1)に換算して1,000重量部に相当する量とを合わせ、これにN-メチル-2-ピロリドンおよびブチルセロソルブを加え、溶媒組成がN-メチル-2-ピロリドン:ブチルセロソルブ=50:50(重量比)、固形分濃度が3.0重量%の溶液とした。
この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過することにより、液晶配向剤A-1を調製した。
実施例10~19および21
桂皮酸骨格を有する重合体の種類ならびに他の重合体の種類および量を、それぞれ表2に記載の通りとしたほかは実施例9と同様に実施し、液晶配向剤A-2~A-11およびA-13を、それぞれ調製した。
実施例20
上記実施例2で得た桂皮酸骨格を有する重合体(CPA-2)の100重量部と、他の重合体として上記合成例12で得たポリシロキサン(PS-1)を含有する溶液のポリシロキサン(PS-1)に換算して1,000重量部に相当する量とを合わせ、これに1-エトキシ-2-プロパノールを加え、固形分濃度が3.0重量%の溶液とした。
この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過することにより、液晶配向剤A-12を調製した。
【0094】
【表2】
」
イ 甲1発明(実施例20)、甲1技術事項
段落【0089】には、エポキシ基を有する(メタ)アクリル系重合体(PA-1)が記載され、段落【0093】には、段落【0089】及び【0090】の表1を参照すると、実施例20として、「『式(2-4-1)で表されるカルボキシル基を有する桂皮酸誘導体及びエポキシ基を有する重合体PA-1とを用いて合成した』桂皮酸骨格を有する重合体CPA-2と、ポリシロキサンPS-1とを用いて液晶配向剤A-12を調整した」ことが記載されていることから、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明(実施例20)」という。)が開示されている。
「式(2-4-1)で表されるカルボキシル基を有する桂皮酸誘導体及びエポキシ基を有する(メタ)アクリル系重合体PA-1とを用いて合成した桂皮酸骨格を有する重合体CPA-2と、ポリシロキサンPS-1とを用いて調整した液晶配向剤A-12。」
また、段落【0040】には、「本発明の液晶配向剤は、」「桂皮酸骨格を有する重合体を含有する。」こと、及び「他の成分」として、「官能性シラン化合物」等を含有することが記載され、段落【0066】には、「官能性シラン化合物は、形成される液晶配向膜の基板との接着性をより向上する目的で使用することができる。」こと、及び官能性シラン化合物としてアミノ基やエポキシ基等を含有するシラン化合物が列挙され、「その含有割合としては、重合体の合計100重量部に対して、好ましくは50重量部以下であり、より好ましくは20重量部以下である。」ことが記載されていることから、甲第1号証には、以下の技術事項(以下「甲1技術事項」という。)が記載されている。
「桂皮酸骨格を有する重合体を含有する液晶配向剤において、
形成される液晶配向膜の基板との接着性をより向上する目的で、
アミノ基やエポキシ基等を含有するシラン化合物を、
重合体の合計100重量部に対して、好ましくは50重量部以下であり、より好ましくは20重量部以下含有させること。」
(2)甲第2号証
ア 甲第2号証には、以下の記載がある。
「【0007】
配向層を製造するための既存のポリマーは、液晶のポリマー性層が、ポリマー性配向層に不十分にしか接着しないという欠点を有する。それに加えて、このようなポリマーは、しばしば、光感受性が不十分であり、それ自身が過剰に長い照射時間において顕在化する。既存の配向層のさらなる欠点はさらに、一般的にさらに小さな又はさらに大きな傾斜角を達成するために光活性モノマーを有するポリマーの混合物を使用しなければならないことである。配向層はしばしば、全体的に、コントラストを減少させる傾き角を有する領域(ドメイン)を形成する。
【0008】
驚くべきことに、その接着性及び光安定性、及び寿命だけではなく、光感受性、同時に、傾斜角の安定性がかなり改良され、顕著かつ均一なコントラスト挙動を達成することができ、光活性モノマーから出発して、光活性基を有するモノマーに加えて、コポリマーが(メタ)アクリレートに基づく配向層を製造するために使用される場合、液晶層との傾斜角がないか、又は小さい傾斜角から大きな傾斜角までの安定な傾斜角がない標的の様式で、ポリオキシアルキレン基を有するコモノマーを含有することがわかった。このようなコポリマーはさらに、低いガラス転移温度、例えば最大で70℃、好ましくは最大で60℃を有する場合、基材に対する驚くべき高い接着性を有することがわかった。
【0009】
第1に、本発明は、
(a)各々が共有結合、直接結合、又は架橋基、光化学的に異性化可能な分子若しくは二量化可能な分子を介して結合する、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド及びメタクリルアミドの群からの少なくとも1つのモノマー、
(b)ヒドロキシル基を含有する少なくとも1つのコモノマー、並びに
(c)場合により、他のエチレン性の不飽和コモノマーよりなり、
前記コモノマー(b)が、エチレン性の不飽和モノカルボン酸若しくはジカルボン酸のポリオキシアルキルエステル若しくはポリオキシアルキルアミド、又はエチレン性の不飽和アルコールのポリオキシアルキルエーテルであり、前記ポリオキシアルキレン基のヒドロキシル基がエーテル化又はエステル化されていてもよいことを特徴とする、コポリマーを提供する。」
「【0068】
本発明で製造される複合材料は、配向層に対して液晶層を顕著に接着させるために注目に値し、さらに、配列層の高い光安定性のために注目に値する。コポリマーの高い光感受性の結果として、短い照射時間でさえ、優れた均一なコントラスト性能が達成される。
【0069】
以下の実施例は、さらに本発明を説明する。PEGは、ポリエチレングリコールを表す。使用されるモノマーA、2-メトキシ-4-(3-メトキシ-3-オキソ-1-プロペニル)フェニル4-[[8-[(2-メチル-1-オキソ-2-プロペニル)オキシ]オクチル]オキシ]ベンゾエートは、以下の構造式を有する:
【0070】
【化12】
」
「【0072】
実施例A2:ポリエチレングリコールメタクリレート及びモノマーAのコポリマー(w=0.20g/g)
モノマーA32.4g(61.8mmol)、ポリエチレングリコールメタクリレート (MW360g/mol;Aldrich40,952-7)14.7g(40.8mmol)及び2,2’-アゾビスイソブチロニトリル166mg(1mmol)を、攪拌しつつ、750mLスルホン化フラスコ中の1-メトキシ-2-プロピルアセテート(MPA)387gに溶解した。反応容器を気密様式で密閉し、混合物を脱気し、攪拌し、透明で無色の溶液を130mbarまで減圧し、窒素で再び通気した。この手順を全部で5回繰り返した。次いで、反応混合物を攪拌しつつ65℃まで加熱した。8時間後、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル166mg(1mmol)を1回以上添加し、反応をさらに20時間続けた。全部で 28時間後、反応容器を開け、-15~0℃で激しく攪拌しつつ、粘稠溶液をメタノール1.2Lに滴下した。析出した白色ポリマー粉末を迅速に吸引ろ過し、冷メタノールで数回洗浄した。粗ポリマーはすぐに互いにまとまり、フィルター上で粘着性の塊を形成した。得られた白色のゴム状固体をすぐにMPA400mLに再び溶解し、-15℃でメタノール/水(1:1)1.2Lで再沈殿させた。析出したモノマーを含まない白色ポリマーは粉状であり、迅速に吸引ろ過し、冷水で数回洗浄した。室温/20mbarで乾燥した後、以下の性質を有する白色粉末35.6gを得た:
1H NMR:PEGメタクリレートの27mol%フラクション;Tg=25℃;GPC:Mn=35400g/mol、Mw=217000g/mol;D=6.11。」
「【0078】
実施例A8:メタクリレート化コポリマー(実施例A2から)
10mL丸底フラスコ中で、実施例2からのコポリマー800mg及びトリエチルアミン50.7mg(0.453mmol)を秤量し、テトラヒドロフラン(THF)4gに溶解した。フラスコをゴムセプタムで密閉し、透明無色の溶液をカニューレにより排気し、窒素で再び通気した。透明無色の溶液を、その周囲をアルミニウムホイルで包むことによって光から保護し、氷浴を用いて0℃に冷却した。次いで、塩化メタクリロイル51mg(0.499mmol)を、この不活性化して光保護した混合物に気密250μLシリンジを用いて添加し、次いで、シリンジをTHF0.33gで流した。反応混合物がわずかに曇り、15分間攪拌後、氷浴をはずし、反応物を室温まで加温した。2時間攪拌した後、反応容器を開け、無色の微細な懸濁物をTHF3gで希釈し、0.2μmPTFE膜を介してろ過した。激しく攪拌しながら、-10~0℃で、ろ液をメタノール79.1gに滴下した。一方、攪拌を止めると、沈殿した白色ポリマーは、ビーカーの底に迅速に沈降し、粘着層を形成した。室温で60分放置した後、メタノールを単にデカンテーションすることによって粗コポリマーを得た。得られた白色のゴム状固体を室温/10mbarで乾燥させた。これにより、以下の性質を有する、無色粉末状の物質0.56gを生じた:
1H NMR:ヒドロキシ官能化PEG18mol%フラクション、 メタクリル官能化PEG9mol%フラクション及びモノマーA73mol%;Tg=26℃;GPC:Mn=18500g/mol、Mw=55900g/mol;D=3.03。」
「【0080】
(B)コポリマー層を用いたバッキングの製造
実施例B1:
シクロペンタノン7mL中の実施例A1のコポリマー2質量%溶液を調製した。50nmの均一層が形成される様式で、この溶液を、スピンコーティング装置中でスピニングによって、60秒及び3000rpm(加速度=500rps)でITOコーティングしたガラスプレートに塗布した。その後で、層を180℃で10分間乾燥させ、280~320nmの波長で20mJ/cm2の直線偏光で照射した。
【0081】
実施例B2~B9:
実施例A2~A9のコポリマーを使用して、実施例B1の手順を繰り返した。
【0082】
(C)コポリマー層及び液晶性層を用いたバッキングの製造
【0083】
実施例C1:
シクロペンタノン中の市販の光架橋可能な液晶配合物の15質量%溶液(OPALVATM 2130,Vantico AG)を使用し、700~800nmの厚さを有する均一層が形成される様式で、スピンコーティング装置を用いて、実施例B1のコーティングされたガラスプレートのコポリマー層の上にスピンコーティングした(1000rpmで120秒、加速度500rps)。塗布層を50℃(1分)及び40℃(1分)で加熱することによって配向させた。その後で、280~400nmの範囲のUV光で800mJ/cm2の直線偏光で照射することによって、配向層を窒素下で架橋させた。
【0084】
実施例C2~C9
実施例B2~B9のコーティングされたガラスプレートを使用し、実施例C1の手順を繰り返した。
【0085】
(D)適用例
実施例D1:接着性の試験
実施例C1~C9のコーティングされたプレートの層を、マルチブレードカッターを用いてガラスプレートに切断し、100個の部分に分けた。次いで、接着剤テープ(3M Magic Scotch Tape)を切断層に取り付け、このテープにさらなる接着剤テープ(Sekisui Tape)を取り付けた(この試験は日本産業界の標準的な試験である)。その後で、接着剤テープをすばやく剥がし、損傷を受けた部分を決定した。結果を表1に示す。比較のために、モノマーAのホモポリマー(ガラス転移温度62℃、比較例1)及びモノマーAとヒドロキシエチルメタクリレートのコポリマー(20質量%、ガラス転移温度62℃、比較例2)も試験した。
【0086】
【表1】
」
イ 甲第2号証に記載された技術事項のまとめ
実施例A1~A7は、ポリエチレングリコールメタクリレート(PEG)及びモノマーAのコポリマーであり、実施例A8は、メタクリレート化コポリマーであり、実施例A9は、ポリプロピレングリコールメタクリレート(PPG)及びモノマーAのコポリマーであるところ、実施例A1~A9をITOコーティングしたガラスプレートに塗布し配向層を形成し(実施例B1~B9)、その上に液晶配合物の層を形成し(実施例C1~C9)、実施例C1~C9を切断し、それぞれ100個の部分に分け、接着剤テープをすばやく剥がし、損傷を受けた部分を決定する接着性の試験を行い、また、比較のために、比較例1及び2として、モノマーAのホモポリマー及びモノマーAとヒドロキシエチルメタクリレートのコポリマーも試験した(実施例D1)ことが記載されている。
そして、本発明の実施例において、実施例A1~A7がポリエチレングリコールメタクリレート(PEG)及びモノマーAのコポリマーであるのに対し、実施例A8がメタクリレート化コポリマーであり、実施例A9がポリプロピレングリコールメタクリレート(PPG)及びモノマーAのコポリマーであることからすると、実施例A8(C8)は、側鎖のポリオキシアルキレン基のヒドロキシル基がエステル化されてもよいことを、実施例A9(C9)はPEGをPPGにしてもよいことを示しているといえる。
表1は、損傷した部分が、比較例1、2が90/100、95/100であるのに対し、実施例C1~C9が0/100~40/100であることを示すための試験結果であり、その試験結果は、配向層と液晶層との接着箇所に損傷があったのか、配向層と基材との接着箇所に損傷があったのかを区別したものではない。
(3)甲第3号証
ア 甲第3号証には、以下の記載がある。
「【請求項1】
[A]光配向性基を有するポリオルガノシロキサンを含有する位相差フィルム用液晶配向剤。
【請求項2】
上記光配向性基が、桂皮酸構造を有する基である請求項1に記載の位相差フィルム用液晶配向剤。
【請求項3】
上記桂皮酸構造を有する基が、下記式(1)で表される化合物に由来する基及び式(2)で表される化合物に由来する基からなる群より選択される少なくとも1種である請求項2に記載の位相差フィルム用液晶配向剤。
【化1】
(省略)
(式(1)中、R1はフェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基又はシクロヘキシレン基である。このフェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基又はシクロヘキシレン基の水素原子の一部又は全部は、炭素数1~10のアルキル基、フッ素原子を有していてもよい炭素数1~10のアルコキシ基、フッ素原子又はシアノ基で置換されていてもよい。R2は単結合、炭素数1~3のアルカンジイル基、酸素原子、硫黄原子、-CH=CH-、-NH-、-COO-又は-OCO-である。aは0~3の整数である。但し、aが2以上の場合、それぞれのR1及びR2は同一であっても異なっていてもよい。R3はフッ素原子又はシアノ基である。bは0~4の整数である。
式(2)中、R4はフェニレン基又はシクロヘキシレン基である。このフェニレン基又はシクロヘキシレン基の水素原子の一部又は全部は、炭素数1~10の鎖状若しくは環状のアルキル基、炭素数1~10の鎖状若しくは環状のアルコキシ基、フッ素原子又はシアノ基で置換されていてもよい。R5は単結合、炭素数1~3のアルカンジイル基、酸素原子、硫黄原子又は-NH-である。cは1~3の整数である。但し、cが2以上の場合、R4及びR5はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R6はフッ素原子又はシアノ基である。dは0~4の整数である。R7は酸素原子、-COO-*又は-OCO-*である。但し、*を付した結合手がR8と結合する。R8は2価の芳香族基、2価の脂環式基、2価の複素環式基又は2価の縮合環式基である。R9は単結合、-OCO-(CH2)f-*又は-O(CH2)g-*である。但し、*を付した結合手がカルボキシル基と結合する。f及びgはそれぞれ1~10の整数である。eは0~3の整数である。但し、eが2以上の場合、R7及びR8はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項4】
[A]光配向性基を有するポリオルガノシロキサンが、
エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン、その加水分解物及びその加水分解物の縮合物からなる群より選択される少なくとも1種と、
上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種との反応生成物である請求項3に記載の位相差フィルム用液晶配向剤。」
「【請求項9】
[F]重合性炭素-炭素二重結合を有する基を含む化合物をさらに含有する請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の位相差フィルム用液晶配向剤。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の位相差フィルム用液晶配向剤により形成される位相差フィルム用液晶配向膜。
【請求項11】
液晶配向方向が異なる領域を2種以上含む請求項10に記載の位相差フィルム用液晶配向膜。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の位相差フィルム用液晶配向膜を備える位相差フィルム。
【請求項13】
(1)基板上に請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の位相差フィルム用液晶配向剤を塗布し塗膜を形成する工程、
(2)塗膜に放射線を照射し液晶配向能を付与し、位相差フィルム用液晶配向膜を形成する工程、
(3)位相差フィルム用液晶配向膜の少なくとも一部に重合性液晶を塗布する工程、及び
(4)重合性液晶を塗布した塗膜を硬化させる工程
を有する位相差フィルムの製造方法。」
「【0193】
<[F]化合物>
当該液晶配向剤は、好適成分として、重合性炭素-炭素二重結合を有する基を含む[F]化合物を含有することができる。当該液晶配向剤は、[F]化合物を含有することで、位相差フィルム用基板又は液晶層との密着性をさらに向上できる。
【0194】
ここで、重合性炭素-炭素二重結合を有する基とは、上記二重結合を形成する炭素原子が、付加重合によって、新たな炭素-炭素結合を生じ得る基である。上記重合性炭素-炭素二重結合を有する基としては、例えば、ビニル基、アリル基、スチリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、クロトノイル基、イソクロトノイル基、シンナモイル基等が挙げられる。
【0195】
[F]化合物としては、例えば(メタ)アクリレートモノマー等の単量体化合物、(メタ)アクリロイル基等を有するアクリル系、シロキサン系等の重合体等が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリロイル基等を有するアクリル系、シロキサン系の重合体等が好ましく、(メタ)アクリロイル基を有するアクリル系、シロキサン系の重合体等がより好ましく、(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン系の重合体等がさらに好ましい。」
「【0234】
当該液晶配向剤の塗布に際しては、基板と塗膜との接着性をさらに良好にするために、基板上に予め官能性シラン化合物、チタネート等を塗布しておいてもよい。」
イ 甲第3号証に記載された技術事項のまとめ
(ア)液晶配向剤が位相差フィルムの製造に用いられ、
その製造工程は、以下の(a)~(d)の工程を有すること。
(a)位相差フィルム用液晶配向剤を塗布し塗膜を形成する工程、
(b)塗膜に放射線を照射し液晶配向能を付与し、位相差フィルム用液晶配向膜を形成する工程、
(c)位相差フィルム用液晶配向膜の少なくとも一部に重合性液晶を塗布する工程、及び
(d)重合性液晶を塗布した塗膜を硬化させる工程
(イ)さらに、液晶配向剤の塗布に際しては、基板と塗膜との接着性をさらに良好にするために、基板上に予め官能性シラン化合物、チタネート等を塗布しておいてもよいこと。
(ウ)甲第3号証に記載の液晶配向剤は、(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン系の重合体等を含有することで、位相差フィルム用基板又は液晶層との密着性をさらに向上できること。
5.判断
(1)特許法第29条第2項(進歩性)について
ア 請求項1に係る発明について
(ア)請求項1に係る発明と甲1発明(実施例20)とを対比する。
(a)桂皮酸骨格を有することは光配向性基を有することに相当することを踏まえると、
請求項1に係る発明と甲1発明(実施例20)とは、
「(メタ)アクリル系重合体であって、光配向性基を有する重合体を含有する、液晶配向剤。」で一致し、少なくとも以下の点で相違する。
(b)相違点1
請求項1に係る発明は、 (メタ)アクリロキシ基、ビニル基、イソシアネート基、アミノ基、チオール基およびエポキシ基よりなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有するシラン化合物(B)を含有するのに対し、甲1発明(実施例20)は、含有していない点。
(c)相違点2
光配向性基を有する重合体について、請求項1に係る発明は、(メタ)アクリロキシ基とを有するのに対し、甲1発明(実施例20)は、(メタ)アクリロキシ基を有していない点。
(イ)判断
(a)相違点1について
甲第1号証には、「桂皮酸骨格を有する重合体を含有する液晶配向剤において、
形成される液晶配向膜の基板との接着性をより向上する目的で、
アミノ基やエポキシ基等を含有するシラン化合物を、
重合体の合計100重量部に対して、好ましくは50重量部以下であり、より好ましくは20重量部以下含有させること。」(甲1技術事項)が記載されている。
そして、甲1技術事項に鑑み、甲1発明(実施例20)において、形成される液晶配向膜の基板との接着性をより向上する目的で、液晶配向剤A-12に、アミノ基やエポキシ基等を含有するシラン化合物を含有させ、相違点1に係る構成を得ることは、当業者が容易に想到し得ることである。
(b)相違点2について
甲第2号証に、試験結果として、シンナメート基を有するポリエチレングリコールメタクリレート及びモノマーAのコポリマーC2は損傷した部分が10/100であり、シンナメート基及びメタクリロイル基を有するメタクリレート化コポリマーC8は損傷した部分が3/100であることが示されているとしても、比較例の試験結果(90/100、95/100)と実施例の試験結果(0/100~40/100)の差異よりも小さな差異(10/100と3/100との差異)に着目し(ただし、メタクリロイル基を有さず試験結果が0/100と良好な実施例C3及びC6に着目することなく)、実施例1~9の試験結果の中から実施例C2と実施例C8の試験結果を抽出し、その比較からメタクリロイル基の有無が実施例C2と実施例C8の配向層と基材との接着性の差を生じる原因であると特定し、シンナメート基を有する(メタ)アクリル系重合体にメタクリロイル基を有するようにすると、配向層と基材との接着性を良好にするとの技術思想を直ちに導くことができるとまではいえない。
また、異議申立人は回答書「(2-2)不明点2について」において、「形成された液晶配向膜について、基板に対する密着性をより良好にするために(メタ)アクリロキシ基を有する重合体(A)を用いること」は、既に知られた技術であり、例えば、国際公開第2012/014814号パンフレットや国際公開第2012/033119号パンフレットにも記載されていると主張している。
しかしながら、前者に記載されているのは、透明導電性フィルム等に用いられるシランカップリング剤の官能基として(メタ)アクリロキシ基が選択肢として挙げられているものであって、液晶配向膜に用いられることまで記載されていない。また、後者に記載されているのは、シランカップリング剤を用いて重合体とガラス等の無機材料との接着性を向上させる技術において、電子線処理によって重合体とカップリング剤間の相互作用を強化することである。
よって、異議申立人の「形成された液晶配向膜について、基板に対する密着性をより良好にするために(メタ)アクリロキシ基を有する重合体(A)を用いること」が既に知られた技術であるとの主張は、採用できない。
以上のとおり、甲第2号証には、「形成された液晶配向膜について、基板に対する密着性をより良好にするために(メタ)アクリロキシ基を有する重合体(A)を用いること」が記載されているとはいえないから、相違点2に係る構成は、甲1発明(実施例20)、甲1技術事項及び甲第2号証に記載された技術的事項から容易に想到し得るとはいえない。
(c)小括
したがって、上記相違点2に係る構成を有する請求項1に係る発明は、甲1発明(実施例20)、甲1技術事項及び甲第2号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。
イ 請求項2及び3に係る発明について
請求項2及び3に係る発明は、請求項1に係る発明を減縮したものであり、上記相違点2に係る構成を有するから、請求項1に係る発明と同様に、甲1発明(実施例20)、甲1技術事項及び甲第2号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。
ウ 請求項4ないし7に係る発明について
請求項4は、請求項1ないし3に係る液晶配向剤を位相差フィルムの製造用とした発明であり、請求項5に係る発明は、請求項4に記載の液晶配向剤を用いた位相差フィルムの製造方法の発明であり、請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明を減縮したものであり、請求項7に係る発明は、請求項4に記載の液晶配向剤を用いた位相差フィルムの発明である。
してみると、請求項4ないし7に係る発明は、請求項1に記載の全ての構成を備える液晶配向剤、その液晶配向剤を用いた位相差フィルム及びその製造方法であり、上記相違点2に係る構成を有する。
そして、甲第3号証には、上記相違点2に係る構成について記載も示唆もない。
よって、上記相違点2に係る構成を有する請求項4ないし7に係る発明は、上記甲1発明(実施例20)、甲1技術事項及び甲第2、3号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。
(2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0011】
本発明の液晶配向剤によれば、上記重合体(A)と上記シラン化合物(B)とを含むことにより、基板との密着性が良好な液晶配向膜を形成することができる。また、当該液晶配向剤により形成された液晶配向膜は液晶配向性についても良好であり、例えば位相差フィルム用の液晶配向剤として好適に用いることができる。また、本発明の位相差フィルムは、上記液晶配向剤からなる液晶配向膜を有することから、液晶配向膜と基板との密着性が良好である。したがって、これを巻回体として保管等した場合にも液晶配向膜と基板とが剥離しにくく、よって製品歩留まりの低下を抑制することができる。」
「【0016】 本発明における重合体(A)は、官能基として更に(メタ)アクリロキシ基を有していることが好ましい。重合体(A)が(メタ)アクリロキシ基を有することにより、重合体(A)の溶剤に対する溶解性を高めることができる。また、形成された液晶配向膜について、基板に対する密着性をより良好にすることができる。・・・・・・
【0017】 本発明における重合体(A)は、(メタ)アクリル系重合体またはポリオルガノシロキサンにより形成される骨格を有する。このような重合体(A)を合成する方法は特に限定せず、有機化学の定法を適宜組み合わせることにより行うことができる。以下、光配向性基を有するポリオルガノシロキサンおよび光配向性基を有する(メタ)アクリル系重合体のそれぞれについて説明する。」
「【0032】 上記反応に使用するその他のカルボン酸としては、光配向性基を有さないカルボン酸である限りその構造は特に限定せず、目的とする重合体(A)に応じて適宜選択することができる。例えば、その他のカルボン酸として(メタ)アクリロキシ基を有するカルボン酸(mc-2)を用いることにより、(メタ)アクリロキシ基を側鎖に有する光配向性ポリオルガノシロキサン(A)を合成することができる。」
「【0088】
[合成例2-2:光配向性ポリオルガノシロキサン(A-1)の合成]
100mLの三口フラスコに、合成例2-1で得たエポキシ含有ポリオルガノシロキサン10.1g、アクリル基含有カルボン酸(東亜合成株式会社、商品名「アロニックスM-5300」、アクリル酸ω-カルボキシポリカプロラクトン(重合度n≒2))0.5g、酢酸ブチル20g、合成例1で得た桂皮酸誘導体(mc-1-1)1.5g、およびテトラブチルアンモニウムブロミド0.3gを仕込み、90℃で12時間撹拌した。反応終了後、酢酸ブチル100質量部で希釈し、3回水洗した。この溶液を濃縮し、酢酸ブチルで希釈する操作を2回繰り返し、最終的に光配向性基を有するポリオルガノシロキサン(A-1)を含む溶液を得た。この光配向性ポリオルガノシロキサン(A-1)の重量平均分子量Mwは9,000であった。」
「【0090】
[合成例2-4:光配向性メタクリル系重合体(A-3)の合成]
冷却管と攪拌機を備えたフラスコに、重合開始剤として2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)1重量部、および溶媒としてジエチレングリコールメチルエチルエーテル180重量部を仕込んだ。ここに、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート70重量部および3-メチル-3-オキセタニルメチルメタクリレート30重量部を加え、フラスコ内を窒素置換した後、緩やかに攪拌を始めた。溶液温度を80℃に上昇させ、この温度を5時間維持することにより、エポキシ基を有するポリメタクリレートを32.8重量%含有する重合体溶液を得た。得られたエポキシ基含有のポリメタクリレートのMnは16,000であった。
別の反応容器中に、上記で得たエポキシ基含有ポリメタクリレートを含む溶液305重量部(ポリメタクリレートに換算して100重量部)、合成例1で得た桂皮酸誘導体(mc-1-1)60重量部、触媒としてテトラブチルアンモニウムブロミド10重量部、および希釈溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート150重量部を仕込み、窒素雰囲気下、90℃において12時間撹拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート100重量部を加えて希釈し、これを3回水洗した。水洗後の有機層を大過剰のメタノール中に投入して重合体を沈殿させ、回収した沈殿物を40℃において12時間乾燥することにより、光配向性ポリメタクリレート(A-3)を得た。」
上記の記載から、「本発明における重合体(A)は、(メタ)アクリル系重合体またはポリオルガノシロキサンにより形成される骨格を有し」、また、「本発明における重合体(A)は、官能基として更に(メタ)アクリロキシ基を有していることが好まし」く、「重合体(A)が(メタ)アクリロキシ基を有することにより、重合体(A)の溶剤に対する溶解性を高めることができる。また、形成された液晶配向膜について、基板に対する密着性をより良好にすることができる。」ことが読み取れる。
してみると、発明の詳細な説明の記載から、光配向性基の他に、官能基として更に(メタ)アクリロキシ基を有している(メタ)アクリル系重合体である重合体(A)が読み取れないとはいえない。また、エポキシ含有ポリオルガノシロキサンのエポキシ基に、アクリル酸ω-カルボキシポリカプロラクトンと桂皮酸誘導体とを反応させてポリオルガノシロキサンが光配向性基とともにアクリロキシ基を有するようにする製造例が段落【0088】に記載されている。エポキシ基含有ポリメタクリレートのエポキシ基に、桂皮酸誘導体を反応させて製造される光配向性メタクリル系重合体において(段落【0090】参照。)、同様に(メタ)アクリロキシ基を導入できることは、当業者にとって自明である。よって、(メタ)アクリロキシ基を有する重合体を製造する知見を有する当業者にとって、(メタ)アクリロキシ基を有する(メタ)アクリル系重合体重合体を製造することができないとまではいえない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明が、当業者が請求項1ないし7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとはいえないから、請求項1ないし7に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
(3)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のロール・トゥー・ロール方式によれば、位相差フィルムを工業的規模で簡便に生産できる反面、液晶配向膜と基材フィルムとの密着性が不十分であると、工程終了後においてフィルムを巻回体とした際などに液晶配向膜が基板フィルムから剥離することがある。かかる場合、製品歩留まりが低下するといった問題が生じる。このような問題を解消するべく、液晶配向剤としては更なる改善が求められている。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、基板との密着性が良好な液晶配向膜を形成することができる液晶配向剤、特に位相差フィルム用として好適な液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。」
してみると、本件特許発明は、基板との密着性が良好な液晶配向膜を形成することを課題とするものである。
一方、本件特許明細書の段落【0011】に、「本発明の液晶配向剤によれば、上記重合体(A)と上記シラン化合物(B)とを含むことにより、基板との密着性が良好な液晶配向膜を形成することができる」と記載され、段落【0013】に、「本発明における重合体(A)は、光配向性基を有する重合体である。」と記載され、段落【0016】、【0017】に、「本発明における重合体(A)は、(メタ)アクリル系重合体またはポリオルガノシロキサンにより形成される骨格を有し」、また、「本発明における重合体(A)は、官能基として更に(メタ)アクリロキシ基を有していることが好まし」く、「重合体(A)が(メタ)アクリロキシ基を有することにより、重合体(A)の溶剤に対する溶解性を高めることができる。また、形成された液晶配向膜について、基板に対する密着性をより良好にすることができる。」と記載されている。
してみると、本発明は、基板との密着性が良好な液晶配向膜を形成することを課題とし、液晶配向剤が、本件特許明細書に記載された重合体(A)とシラン化合物(B)とを含むことにより、上記課題を解決するものである。
そして、「重合体(A)が(メタ)アクリロキシ基を有することにより、・・・形成された液晶配向膜について、基板に対する密着性をより良好にすることができる。」ことから、密着性の効果は、「重合体(A)が(メタ)アクリロキシ基を有すること」にも起因しており、その効果が生じることは、光配向性基と(メタ)アクリロキシ基とを有するポリオルガノシロキサンを用いた場合で確認されている(段落【0097】表1の実施例1参照。)。
また、段落【0016】、【0017】の記載から、(メタ)アクリル系重合体またはポリオルガノシロキサンにより形成される骨格を有する重合体(A)は、(メタ)アクリロキシ基を有することにより基板に対する密着性をより良好にすることができると読み取れることから、本件特許明細書の記載を見た当業者であれば、ポリオルガノシロキサンであって、光配光性基と(メタ)アクリロキシ基を有する重合体(A)のみならず、(メタ)アクリル系重合体であって、光配光性基と(メタ)アクリロキシ基とを有する重合体(A)を用いた場合であっても本発明の課題を解決できることを認識できるものといえる。
以上のことから、(メタ)アクリル系重合体であって、光配光性基と(メタ)アクリロキシ基とを有する重合体(A)の場合を含む請求項1ないし7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものといえるから、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
6.むすび
したがって、請求項1ないし7に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2017-700614