特許異議申立
2021-700294
調光シート、調光装置、および、調光シートの管理方法
- 審判番号
- 2021-700294
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-051307
- 登録番号
- 6760427
- 請求日
- 2021年03月19日
- 審決日
- 2022年09月26日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】凸版印刷株式会社
- 【権利者代理人】恩田 誠
- 【権利者代理人】恩田 博宣
- 【異議申立人】株式会社 アイピージェイ
- 審判長/審判官
- 審判長 加々美 一恵
- 審判官 瀬川 勝久
- 審判官 金高 敏康
- 分類
- P1652.112-YAA(G02F) / P1652.121-YAA(G02F) / P1652.536-YAA(G02F) / P1652.537-YAA(G02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第29条第1項第2号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6760427号発明「調光シート、調光装置、および、調光シートの管理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6760427号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第6760427号の請求項3~7に係る特許を維持する。
特許第6760427号の請求項1、2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第6760427号の請求項1~8に係る特許についての出願(特願2019-51307号)は、平成31年3月19日の出願であって、令和2年9月7日付けで設定登録がされ、その後、その特許に対し、令和3年3月19日付けで特許異議申立人 株式会社 アイピージェイにより請求項1~7に対して特許異議の申立てがされたものである。以後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 7月26日付け:取消理由通知
令和3年10月 4日 :訂正請求書・意見書(特許権者)提出
令和3年11月25日 :意見書(特許異議申立人)提出
令和4年 1月14日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和4年 3月22日 :訂正請求書・意見書(特許権者)提出
令和4年 7月 1日 :意見書(特許異議申立人)提出
令和4年3月22日になされた訂正請求によって、令和3年10月4日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされることとなった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和4年3月22日にされた訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は、特許請求の範囲を訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求めるものであって、以下の訂正事項1~7からなる(当審注:下線は、特許権者が付したものである。)。
なお、本件訂正請求は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1~7〕について請求されたものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「前記透明電極層への電圧の印加によって前記遮光率を50%以上変化させることが可能に構成されている請求項1または2に記載の調光シート。」と記載されているのを、
「調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層とを備える調光シートであって、前記透明電極層への印加電圧を変えて前記調光シートの遮光率、JIS L 1055:2009に定められる遮光率をいう、を変えた場合において、前記遮光率が10%変化する前記印加電圧の範囲を対象範囲と定義し、前記対象範囲での前記印加電圧[V]に対する前記遮光率[%]の変化率を対象変化率と定義すると、前記対象変化率の絶対値の最大値が3.0以上6.0以下であり、 前記遮光率の最大値が30%以上であり、前記透明電極層への電圧の印加によって前記遮光率を50%以上変化させることが可能に構成されている調光シート。」に訂正する。
請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4~7も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1~3のいずれか一項に記載の調光シート。」と記載されているのを、「請求項3に記載の調光シート。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1~4のいずれか一項に記載の調光シート」と記載されているのを、「請求項3または4に記載の調光シート」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「前記制御部は、前記電圧の切り替えによって、前記調光シートを前記遮光率が互いに異なる複数の状態に切り替える」と記載されているのを、「前記制御部は、前記電圧の切り替えにおいて、前記調光シートの前記遮光率が互いに異なる3つ以上の段階のそれぞれに対応づけられた電圧に切り替える」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「前記制御部は、前記電圧の切り替えによって、前記調光シートを前記遮光率が互いに10%以上異なる前記複数の状態に切り替える」と記載されているのを、 「前記制御部は、前記電圧の切り替えにおいて、前記調光シートの前記遮光率が互いに10%以上異なる前記3つ以上の段階のそれぞれに対応づけられた電圧に切り替える」に訂正する。
2 当審の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
請求項の削除により、新たな技術的事項が導入されることはないから、訂正事項1は、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張・変更の有無
上記ア及びイに照らせば、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
請求項の削除により、新たな技術的事項が導入されることはないから、訂正事項2は、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張・変更の有無
上記ア及びイに照らせば、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
訂正事項3は、本件訂正前の請求項3につき、請求項1または2の記載を引用する形式であったのを、請求項1または2との引用関係を解消し、独立形式に改めるとともに、「対象変化率の絶対値の最大値」について、「0.7以上6.0以下」を「3.0以上6.0以下」と限定するものであり、請求項3を引用する請求項4~7についても同様に限定するものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするとともに、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
訂正事項3に関し、本件特許に係る明細書、特許請求の範囲または図面(以下、「本件明細書等」という。)には、以下の記載がある。
「【0064】
したがって、対象変化率RCの絶対値の最大値が0.7以上であれば、遮光率の変化の速さが良好となることが確認された。また、対象変化率RCの絶対値の最大値が3.0以上であれば、遮光率の変化の速さが特に高められることが確認された。
【0065】
なお、対象変化率RCの絶対値の最大値は、6.0以下であることが好ましい。調光シート10において、調光層11にかかる実効電圧は、端子部15A,15Bから離れるほど低下する。したがって、狭い電圧範囲で遮光率が大きく変化すると、調光シート10の面内で遮光率に差が生じ、ムラのように視認される場合がある。特に、調光シート10の面積が大きいほど、こうした問題が顕著になる。対象変化率RCの絶対値の最大値が6.0以下であれば、各対象範囲VRにおいて遮光率の変化が急激すぎない程度に抑えられ、すなわち、各対象範囲VRの電圧範囲が狭くなりすぎることが抑えられる。それゆえ、最大の対象変化率RCを有する対象範囲VRの付近の電圧を用いて調光シート10を駆動する場合にも、遮光率の差に起因したムラの発生が抑えられる。」
上記記載のとおり、願書に添付した明細書には、訂正事項3に係る「前記対象変化率の絶対値の最大値が3.0以上6.0以下」であることが記載されている。
また、独立形式に改めることにより新たな技術的事項が導入されることはない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項4、5
訂正事項4、5は、訂正事項1、2による請求項の削除に伴い、請求項4、5において選択的に引用する請求項のうち一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項6、7
ア 訂正の目的
訂正事項6、7は、「制御部」が「調光シート」を「複数の状態に切り替える」点につき、「複数の状態」への「切り替え」が、「3つ以上の段階のそれぞれに対応づけられた電圧」への「切り替え」であると限定するものである。
したがって、訂正事項6、7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
訂正事項6、7に関し、本件明細書等には、以下の記載がある。
「【0082】
[変形例]
上記実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。
・上述のように調光装置100の制御部20は、調光シート10の状態を、第1状態と第2状態との2つの状態に切り替えてもよいし、第1状態と第2状態との間の遮光率を有する状態も含めて、3以上の状態に切り替えてもよい。制御部20が、対象変化率RCの絶対値が最大となる対象範囲VRの上限値以上の駆動電圧を印加することで、空間内の明るさの調整機能を有するとともに、明るさの切り替わりのタイミングが観察者に認識されやすい調光シート10を備える調光装置100が実現される。
【0083】
調光シート10の状態を3以上の状態に切り替える場合、制御部20は、例えば、相互に異なる遮光率を駆動電圧に変換するためのテーブル等の情報を備え、外部の操作機器などから指定される遮光率に対応づけられた駆動電圧を調光シート10に印加する。
【0084】
ここで、制御部20が切り換える調光シート10の複数の状態において、各状態の遮光率は、他の状態の遮光率と10%以上異なっていることが好ましい。こうした構成によれば、調光シート10の状態の切り替えの度に、明るさの変化が観察者に認識可能となる。したがって、調光装置100によって、空間内の明るさを複数の段階に切り替えることが可能であり、明るさの調整機能が高められる。」
上記記載のとおり、願書に添付した明細書には、訂正事項6に係る「前記制御部は、前記電圧の切り替えにおいて、前記調光シートの前記遮光率が互いに異なる3つ以上の段階のそれぞれに対応づけられた電圧に切り替える」こと、及び、訂正事項7に係る「前記制御部は、前記電圧の切り替えにおいて、前記調光シートの前記遮光率が互いに10%以上異なる3つ以上の段階のそれぞれに対応づけられた電圧に切り替える」ことが記載されている。
したがって、訂正事項6、7は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項6、7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項6、7は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。
(6)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正を認める。
第3 本件発明の認定
上記のとおり、本件訂正請求による訂正が認められたので、本件特許の訂正後の請求項1~7に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明7」という。)は、請求項1~7に記載された次の事項により特定される次のとおりのものである。
「[本件発明1](削除)
[本件発明2](削除)
[本件発明3]
調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層とを備える調光シートであって、
前記透明電極層への印加電圧を変えて前記調光シートの遮光率、JIS L 1055:2009に定められる遮光率をいう、を変えた場合において、前記遮光率が10%変化する前記印加電圧の範囲を対象範囲と定義し、前記対象範囲での前記印加電圧[V]に対する前記遮光率[%]の変化率を対象変化率と定義すると、前記対象変化率の絶対値の最大値が3.0以上6.0以下であり、
前記遮光率の最大値が30%以上であり、
前記透明電極層への電圧の印加によって前記遮光率を50%以上変化させることが可能に構成されている
調光シート。
[本件発明4]
前記調光シートは、曲面状を有する
請求項3に記載の調光シート。
[本件発明5]
請求項3または4に記載の調光シートと、
前記透明電極層への電圧の印加を制御する制御部と、
を備える調光装置。
[本件発明6]
前記調光シートの総厚は、270μm以上400μm以下であり、
前記制御部は、前記電圧の切り替えにおいて、前記調光シートの前記遮光率が互いに異なる3つ以上の段階のそれぞれに対応づけられた電圧に切り替える
請求項5に記載の調光装置。
[本件発明7]
前記制御部は、前記電圧の切り替えにおいて、前記調光シートの前記遮光率が互いに10%以上異なる前記3つ以上の段階のそれぞれに対応づけられた電圧に切り替える
請求項6に記載の調光装置。」
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
令和3年10月4日付け訂正請求書による訂正(以下「第1次訂正」という。)後の請求項2~7に係る特許に対して、当審が令和4年1月14日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は以下のとおりである。なお、第1次訂正後の請求項1は削除されている。
ここで、第1次訂正後の請求項は、次のとおりであった。
【請求項1】(削除)
【請求項2】
調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層とを備える調光シートであって、
前記透明電極層への印加電圧を変えて前記調光シートの遮光率、JIS L 1055:2009に定められる遮光率をいう、を変えた場合において、前記遮光率が10%変化する前記印加電圧の範囲を対象範囲と定義し、前記対象範囲での前記印加電圧[V]に対する前記遮光率[%]の変化率を対象変化率と定義すると、前記対象変化率の絶対値の最大値が0.7以上6.0以下であり、
前記遮光率の最大値が30%以上であり、
前記遮光率が最大値であるときの前記調光シートのクラリティが46以下である
調光シート。
【請求項3】
前記対象変化率の絶対値の最大値が3.0以上6.0以下であり、
前記透明電極層への電圧の印加によって前記遮光率を50%以上変化させることが可能に構成されている
請求項2に記載の調光シート。
【請求項4】
前記調光シートは、曲面状を有する
請求項2または3に記載の調光シート。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか一項に記載の調光シートと、
前記透明電極層への電圧の印加を制御する制御部と、
を備える調光装置。
【請求項6】
前記調光シートの総厚は、270μm以上400μm以下であり、
前記制御部は、前記電圧の切り替えにおいて、前記調光シートの前記遮光率が互いに異なる3つ以上の段階のそれぞれに対応づけられた電圧に切り替える
請求項5に記載の調光装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記電圧の切り替えにおいて、前記調光シートの前記遮光率が互いに10%以上異なる前記3つ以上の段階のそれぞれに対応づけられた電圧に切り替える
請求項6に記載の調光装置。
請求項2~7に係る発明は、調光シートのクラリティが46以下であることを特定するが、調光シートをどのように構成すれば調光シートのクラリティが46以下になるのかが、発明の詳細な説明に記載されているとはいえず、発明の詳細な説明は、当業者が請求項2~7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
(2)当審の判断
本件訂正により、調光シートのクラリティに関する特定は存在しないこととなった。
よって、上記の取消理由は解消した。
第5 令和3年7月26日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要
設定登録時の請求項1~7に係る発明についての特許に対して、当審が令和3年7月26日付けの取消理由通知書において特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
1 (新規性)本件特許の請求項1、2、4に係る発明は、甲第1~5、12号証又は甲第9~12号証に示される、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であり、本件特許の請求項1~3に係る発明は、甲第6~8、12号証に示される、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であって、特許法第29条第1項第2号に該当するから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2 (進歩性)本件特許の請求項1~7に係る発明は、甲第1~5、12号証、甲第6~8、12号証又は甲第9~12号証に示される、本件特許の出願前に日本国内または外国において公然実施をされた発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:「ウムフィルムの構造と原理」に関する日本板硝子ウムプロダクツ株式会社のウェブページ(http://umu.jp/product/film/f_kozo.html)の出力物
甲第2号証:「技術開発のあゆみ」に関する日本板硝子ウムプロダクツ株式会社のウェブページ(http://umu.jp/product/film/f_ayumi.html)の出力物
甲第3号証:特開2016-109994号公報
甲第4号証:「瞬間調光シート「ウムフィルム」」に関する日本板硝子ウムプロダクツ株式会社のウェブページ(http://umu.jp/hanbai/list1.html)の出力物
甲第5号証:「ウムフィルムの機能」に関する日本板硝子ウムプロダクツ株式会社のウェブページ(http://umu.jp/product/film/f_kinou.html)の出力物
甲第6号証:「Kasmy技術情報」に関する株式会社ビーキャットのウェブページ(http://kasmy-film.jp/application/technical/)の出力物
甲第7号証:株式会社ビーキャットの「会社概要」に関するウェブページ(http://kasmy-film.jp/company/)の出力物
甲第8号証:特開2020-93714号公報
甲第9号証:「高機能性フィルムシートの構造・原理」に関する九州ナノテック光学株式会社のウェブページ(http://www.kyunano.jp/structure.php)の出力物
甲第10号証:「製品紹介」に関する九州ナノテック光学株式会社のウェブページ(http://www.kyunano.jp/navi.php)の出力物
甲第11号証:「高機能性フィルムシートの特徴とその優位性」に関する九州ナノテック光学株式会社のウェブページ(http://www.kyunano.jp/character.php)の出力物
甲第12号証:株式会社アイピージェイの代表者・仲野克美(本件特許異議申立人)による実験報告書(作成日:令和3年3月19日)
第6 当審の判断
1 各甲号証に示された事項
(1)甲第1号証
甲第1号証には、図とともに以下の記載がある。
ア 「ウムフィルムの構造と原理
・・・
UMU FILMは、ネマティック液晶の小滴(カプセルと呼びます)が分散した透明なポリマー・フィルム(NCAP層と呼びます)を2枚の透明導電膜付きポリエステル・フィルムに挟んだものです。」(「商品紹介」の本文第1行~第5行)
イ 「電圧が印加されていない状態では(図1a)、棒状の分子として表される液晶はカプセルの内壁に沿って並びます。この状態で、UMU FILMに入射した光は、ポリマーと液晶の屈折率の違いおよび液晶の複屈折性によって、カプセルの表面や内部で屈折します。その結果、光は直進できず散乱し、UMU FILMは不透明に見えます。電圧が印加されると(図1b)、液晶分子が 電圧を印加した方向と平行に並ぼうとするため、電極に対して垂直に配列します。このように並んだ状態で、屈折率がポリマーのそれと一致する液晶であれば、カプセルの界面がないのに等しい状態となり、光は散乱せず直進します。その結果、UMU FILMは透明に見えることになります。」(「商品紹介」の本文第6行~第16行)
ウ 図1a及び図1bは次のとおりである。
[図:0001391985000001.jpg]
エ 上記図1a及び図1bから、2枚の透明導電膜を電極として、両者間に電圧が印加されることが看て取れる。
(2)甲第2号証
甲第2号証には以下の事項が記載されている。
「1997年4月には、日本板硝子ウムプロダクツ株式会社ウムプロダクツ株式会社が設立され、ウムフィルムおよび調光ガラス「ウム」の製造および技術開発を一貫して行う体制が確立されました。」(「商品紹介」の本文第20行~第22行)
(3)甲第3号証
甲第3号証には以下の事項が記載されている。
「【0057】
[実施例1]
視認側から順に、液晶パネル(ソニー社製の商品名VAIO S シリーズに搭載の液晶パネル、構成:視認側偏光板/TNモードの液晶セル/背面側偏光板)と、視野角制御手段と、プリズムシートと、バックライトユニットとを備える液晶表示装置を準備した。
上記視野角制御手段としては、日本板硝子ウムプロダクツ株式会社製「ウムフィルムFUM1CRL」を用いた。」
(4)甲第4号証
甲第4号証には以下の表が示されている。
[図:0001391985000002.jpg]
(5)甲第5号証
甲第5号証には以下の事項が記載されている。
「UMU FILM の特徴
・・・
フィルム状であるため大きさ、形状が自由に選べます。
可とう性のあるフィルムであるため、曲面にも対応します。」(「商品紹介」の本文第7行~第15行)
(6)甲第6号証
甲第6号証には、図とともに以下の記載がある。
ア 「調光フィルムKasmy」(第1頁左上部見出し)
イ 「”カスミィ”機能性液晶ブラインドフィルムの構造
●PDLCフィルムの構造
高分子分散型液晶(PDLC)は、ネマティック液晶のドロップレットが透明なポリマーマトリックス中に分散した構造をしています。
ネマティック液晶は、電気的光学特性を持つ棒状の液晶分子をドロップレットの中の界面に沿って配向されています。」(「Kasmy技術情報」の本文第1頁第1行~第8行)
ウ 「●PDLCフィルムの透過散乱
外部から電界が印加されない場合(電源OFF時:上記左の図の状態)
入射光はポリマーと液晶の屈折率差や液晶の複屈折によってドロップレット表面や内部で屈折し、光が散乱します。これにより液晶は乳白色になります。
電極間に電界が印加されると(電源ON時:上記右の図の状態)
液晶は長軸方向を電界と平行にして並ぶため液晶とポリマーの屈折率差はなくなり、入射光は直進し液晶が透明になります。」(「Kasmy技術情報」の本文第1頁第10行~第2頁第4行)
エ 上記ウに関する図は以下のとおりである。
[図:0001391985000003.jpg]
オ 上記エの図から、PDLCと、前記PDLCを挟む一対のITOとを備え、一対のITOを電極として、両者間に電圧が印加されることが看て取れる。
(7)甲第7号証
甲第7号証には以下の事項が記載されている。
ア 「”カスミィ”瞬時に切り替え可能な調光フィルムKasmy(カスミィ)販売の株式会社ビーキャットです。」(第1頁上段「COMPANY 会社概要」の見出し部分)
イ 「2010.09.01 新製品調光フィルム(カスミィ)をデジタルサイネージ・建材向けに製造出荷開始」(第2頁「COMPANY HISTORY/会社沿革」の本文第8行)
(8)甲第8号証
甲第8号証には以下の事項が記載されている。
「【0016】
・・・
透過率可変層30としては、例えば、機能性液晶ブラインドフィルムkasmy(株式会社ビーキャット製)が使用される。このフィルムは、通電と非通電とにより透過率を可変できるものであり、通電時の透過率が約80%であり、非通電時は白濁して、白やライドグレーなどに色付けされる。」
(9)甲第9号証
甲第9号証には、図表とともに以下の記載がある。
ア 「新型高機能性液晶フィルムの基本原理」(第1頁上段見出し)
イ 上記アに関する図は以下のとおりである。
[図:0001391985000004.jpg]
ウ 「高機能性フィルムシートの構造」(第1頁下段見出し)
エ 上記ウに関する図表は以下のとおりである。
[図:0001391985000005.jpg]
オ 上記イ、エから、高機能性フィルムシートは、液晶を含む層と、前記液晶を含む層を挟む一対の透明電極とを備え、前記一対の透明電極間に電圧が印加されるものである点が、看て取れる。
(10)甲第10号証
甲第10号証には以下の事項が記載されている。
ア 「高機能性液晶フィルムタイプ4
スイッチを入れると透けたり曇る。そんな画期的なシステム「液晶フィルム」。それが“リバース・タイプ4”。
今までの既成概念を根本から覆したこのフィルムは、通常が透明で、通電させると不透明に。
そんな、当たり前のことが実現できなかった
フィルムが、ついに誕生しました。」(第2頁本文第1行~第7行)
イ 上記アに関する表は以下のとおりである。
[図:0001391985000006.jpg]
(11)甲第11号証
甲第11号証には以下の事項が記載されている。
「高機能性フィルムシートの特徴とその優位性
・・・
超薄型化 : 0.1mmの薄さを実現し、薄くて貼れる物は世界で唯一です。
既設ガラスへも容易に貼ることができます。
約0.1mm:世界最大幅である幅1.0mと長さ50m
(最大200m)のロール生産も可能です。
・・・
大型化 : 約0.4mm:世界最大幅である幅1.2mと長さ50m
(最大200m)のロール生産が可能です。」(「高機能性フィルムシートの特徴」の本文第1行~第5行)
(12)甲第12号証
甲第12号証には以下の事項が記載されている。
ア 「(2)実験条件
(2)-1 測定する既存品サンプル数: 3種類」(第2頁本文第4行~第5行)
イ 上記アの既存品サンプルに関して、表1は次のとおりである。
[図:0001391985000007.jpg]
ウ 「(2)-2 測定条件
・電圧-遮光率
遮光率測定方法:JIS L 1055:2009に定めた方法にて測定
電圧無印加の状態で測定後、印加電圧を段階的に上げ、上げた3秒後に測定
・・・
・調光シート厚み
測定方法:接触式段差計により測定
(対象品の面内位置を無作為に変え、測定回数3回の結果を平均)」(第4頁本文第1行~第9行)
エ 「(3)結果
(3)-1 調光シート厚み
保護フィルムをはがし調光シート厚みを測定した。・・・結果を表2に記す。」(第5頁本文第1行~第5行)
オ 表2は、次のとおりである。
[図:0001391985000008.jpg]
カ 「(3)-2 電圧-遮光率
・・・
ウムフィルム スマートスクリーン
電圧とともに遮光率は低下し、遮光率の最大値は71.8%、最小値は23.0%であった。
特許第6760427号の請求項1に基づき、遮光率が10%変化する印加電圧の範囲を対象範囲とし、この対象範囲での印加電圧変化に対する遮光率の変化率を対象変化率と定義したとき、この対象変化率の絶対値が最も大きくなるのは、電圧が25V付近(遮光率53%付近)であり、この対象変化率の絶対値の最大値は1.8であった。」(第6頁本文第1行~第5行)
キ 「Kasmy ホワイト
電圧とともに遮光率は低下し、遮光率の最大値は75.9%、最小値は15.5%であった。
特許第6760427号の請求項1に基づき定義する対象変化率の絶対値が最も大きくなるのは、電圧が25V付近(遮光率35%付近)であり、この対象変化率の絶対値の最大値は2.1であった。」(第7頁本文第1行~第3行)
ク 「 MIYO-フィルム TYPE4
電圧とともに遮光率は上昇し、遮光率の最大値は49.7%、最小値は7.4%であった。
特許第6760427号の請求項1に基づき定義する対象変化率の絶対値が最も大きくなるのは、電圧が12V付近(遮光率23%付近)であり、この対象変化率の絶対値の最大値は4.6であった。」(第7頁本文第4行~第6行)
2 公然実施をされた発明
(1)甲第2号証から、1997年4月には、日本板硝子ウムプロダクツ株式会社において「ウムフィルム」を製造する体制が確立されていたことが把握され、甲第3号証から、2014年12月10日(甲第3号証に係る特許出願の出願日)時点で日本板硝子ウムプロダクツ株式会社製「ウムフィルムFUM1CRL」が一般に利用可能であったことが把握され、甲第4号証から、「ウムフィルム」(商品番号:FUM1CRL)が日本板硝子ウムプロダクツ株式会社により販売されている製品であることが把握されるから、これらを総合すると、本件特許の出願前に、「ウムフィルム」(商品番号:FUM1CRL)が日本板硝子ウムプロダクツ株式会社の製品として販売されていたといえる。
そして、甲第1~5号証においては、実質的に、同じ製品である日本板硝子ウムプロダクツ株式会社製「ウムフィルム(UMU FILM)」の構成について、それぞれ記載されているから、これらの証拠と、当該「ウムフィルム(UMU FILM)」(商品番号:FUM1CRL)に関して甲第12号証に示された事項を踏まえると、日本板硝子ウムプロダクツ株式会社製「ウムフィルム(UMU FILM)」に係る下記の発明(以下「実施発明1」という。)が、本件特許の出願前に公然実施をされていたものと認められる。
実施発明1
「ウムフィルム(UMU FILM)は、
ネマティック液晶の小滴(カプセル)が分散した透明なポリマー・フィルム(NCAP層)を2枚の透明導電膜付きポリエステル・フィルムに挟んだものであり、
前記2枚の透明導電膜を電極として、両者間に電圧が印加されるものであり、
電圧が印加されていない状態では、棒状の分子として表される液晶はカプセルの内壁に沿って並び、この状態で、UMU FILMに入射した光は直進できず散乱し、UMU FILMは不透明に見え、
電圧が印加されると、液晶分子が 電圧を印加した方向と平行に並ぼうとするため、電極に対して垂直に配列し、屈折率がポリマーのそれと一致する液晶であれば、カプセルの界面がないのに等しい状態となり、光は散乱せず直進し、UMU FILMは透明に見える、UMU FILMであって(上記1(1)ア及びイ)、
遮光率測定方法は、JIS L 1055:2009に定めた方法にて測定し、
電圧無印加の状態で測定後、印加電圧を段階的に上げると、
電圧とともに遮光率は低下し、遮光率の最大値は71.8%、最小値は23.0%であり、
遮光率が10%変化する印加電圧の範囲を対象範囲とし、この対象範囲での印加電圧変化に対する遮光率の変化率を対象変化率と定義したとき、この対象変化率の絶対値が最も大きくなるのは、電圧が25V付近(遮光率53%付近)であり、この対象変化率の絶対値の最大値は1.8であり(上記1(12)ウ及びカ)、
調光シート厚みは394μmであり(上記1(12)オ)、
フィルム状であるため大きさ、形状が自由に選べ、
可とう性のあるフィルムであるため、曲面にも対応する(上記1(5))、
ウムフィルム(UMU FILM)。」
(2)甲第7号証から、2010年9月1日には、株式会社ビーキャットにおいて「調光フィルムKasmy(カスミィ)」の製造出荷を開始していたことが把握され、甲第8号証から、2018年12月13日(甲第8号証に係る特許出願の出願日)時点で「機能性液晶ブラインドフィルムkasmy」が株式会社ビーキャットの製品として一般に利用可能であったことが把握されるから、これらを総合すると、本件特許の出願前に、「調光フィルムKasmy(カスミィ)」が株式会社ビーキャットの製品として販売されていたといえる。
そして、甲第6~8号証においては、実質的に、同じ製品である株式会社ビーキャット製「調光フィルムKasmy(カスミィ)」の構成について、それぞれ記載されているから、これらの証拠と、当該「調光フィルムKasmy(カスミィ)」に関して甲第12号証に示された事項を踏まえると、株式会社ビーキャット製「調光フィルムKasmy(カスミィ)」に係る下記の発明(以下「実施発明2」という。)が、本件特許の出願前に公然実施をされていたものと認められる。
実施発明2
「調光フィルムKasmyは、
高分子分散型液晶(PDLC)と、
前記PDLCを挟む一対のITOとを備え、
前記PDLCは、ネマティック液晶のドロップレットが透明なポリマーマトリックス中に分散した構造をしており、
前記一対のITOを電極として、両者間に電圧が印加されるものであり、
外部から電界が印加されない場合、入射光はポリマーと液晶の屈折率差や液晶の複屈折によってドロップレット表面や内部で屈折し、光が散乱し、
電極間に電界が印加されると、液晶は長軸方向を電界と平行にして並ぶため液晶とポリマーの屈折率差はなくなり、入射光は直進し液晶が透明になり(上記1(6)ア~ウ及びオ)、
遮光率測定方法は、JIS L 1055:2009に定めた方法にて測定し、
電圧無印加の状態で測定後、印加電圧を段階的に上げると、
電圧とともに遮光率は低下し、遮光率の最大値は75.9%、最小値は15.5%であり、
遮光率が10%変化する印加電圧の範囲を対象範囲とし、この対象範囲での印加電圧変化に対する遮光率の変化率を対象変化率と定義したとき、この対象変化率の絶対値が最も大きくなるのは、電圧が25V付近(遮光率35%付近)であり、この対象変化率の絶対値の最大値は2.1であり(上記1(12)ウ及びキ)、
調光シート厚みは392μmである(上記1(12)オ)、
調光フィルムKasmy。」
(3)甲第10号証から、2017年10月時点で、九州ナノテック光学株式会社製「高機能性フィルムシート」(リバース・タイプ4)が製品として販売されていたことが把握されるから、本件特許の出願前に、「高機能性フィルムシート」(リバース・タイプ4)が九州ナノテック光学株式会社の製品として販売されていたといえる。
そして、甲第9~11号証においては、実質的に、同じ製品である九州ナノテック光学株式会社製「高機能性フィルムシート」の構成について、それぞれ記載されているから、これらの証拠と、当該「高機能性フィルムシート」(リバース・タイプ4)に関して甲第12号証に示された事項を踏まえると、九州ナノテック光学株式会社製「高機能性フィルムシート」に係る下記の発明(以下「実施発明3」という。)が、本件特許の出願前に公然実施をされていたものと認められる。
実施発明3
「高機能性フィルムシートは、液晶を含む層と、前記液晶を含む層を挟む一対の透明電極とを備え、
前記一対の透明電極間に電圧が印加されるものであり(上記1(9)オ)、
遮光率測定方法は、JIS L 1055:2009に定めた方法にて測定し、
電圧無印加の状態で測定後、印加電圧を段階的に上げると、
電圧とともに遮光率は上昇し、遮光率の最大値は49.7%、最小値は7.4%であり、
遮光率が10%変化する印加電圧の範囲を対象範囲とし、この対象範囲での印加電圧変化に対する遮光率の変化率を対象変化率と定義したとき、この対象変化率の絶対値が最も大きくなるのは、電圧が12V付近(遮光率23%付近)であり、この対象変化率の絶対値の最大値は4.6であり(上記1(12)ウ及びク)、
調光シート厚みは270μmであり(上記1(12)オ)、
ロール生産も可能である(上記1(11))、
高機能性フィルムシート。」
3 対比・判断
(1)実施発明1が主引用発明の場合
ア 本件発明3について
(ア)対比
a 実施発明1の「ウムフィルム(UMU FILM)」は、「電圧が印加されていない状態では、棒状の分子として表される液晶はカプセルの内壁に沿って並び、この状態で、UMU FILMに入射した光は直進できず散乱し、UMU FILMは不透明に見え、電圧が印加されると、液晶分子が 電圧を印加した方向と平行に並ぼうとするため、電極に対して垂直に配列し、屈折率がポリマーのそれと一致する液晶であれば、カプセルの界面がないのに等しい状態となり、光は散乱せず直進し、UMU FILMは透明に見える」ものであり、調光機能を有しているといえるから、本件発明3の「調光シート」に相当する。
b 実施発明1において、「ウムフィルム(UMU FILM)は、ネマティック液晶の小滴(カプセル)が分散した透明なポリマー・フィルム(NCAP層)を2枚の透明導電膜付きポリエステル・フィルムに挟んだもの」であるから、実施発明1の「ネマティック液晶の小滴(カプセル)が分散した透明なポリマー・フィルム(NCAP層)」、「2枚の透明導電膜」は、それぞれ本件発明3の「調光層」、「一対の透明電極層」に相当し、実施発明1は、本件発明3の「調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層とを備える」との構成を有する。
c 実施発明1において、「遮光率の最大値は71.8%」であるから、実施発明1は、本件発明3の「前記遮光率の最大値が30%以上である」との構成を備える。
d 実施発明1において、「遮光率の最大値は71.8%、最小値は23.0%」であるから、実施発明1の透明電極層への電圧の印加による遮光率の変化は、最大48.8%である。
e そうすると、本件発明3と実施発明1との一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層とを備える調光シートであって、
前記遮光率の最大値が30%以上である、調光シート。
[相違点1]
透明電極層への印加電圧を変えて調光シートの遮光率、JIS L 1055:2009に定められる遮光率をいう、を変えた場合において、前記遮光率が10%変化する前記印加電圧の範囲を対象範囲と定義し、前記対象範囲での前記印加電圧[V]に対する前記遮光率[%]の変化率を対象変化率と定義したときの、前記対象変化率の絶対値の最大値(以下「本件対象変化率の最大値」ということがある。)が、本件発明3は、3.0以上6.0以下であるのに対し、実施発明1では1.8である点。
[相違点2]
透明電極層への電圧の印加による遮光率の変化につき、本件発明3が50%以上可能に構成されているのに対し、実施発明1では、最大48.8%である点。
(イ)判断
相違点1について検討する。
まず、本件発明3において、本件対象変化率の最大値を所定の値以上とすることの技術的意義は、本件明細書の【0008】によると、「印加電圧の切り替えが指示されてから、遮光率の変化が完了するまでのいずれかの時点での遮光率の変化の速さが良好となり、明るさの切り替わりのタイミングが観察者に視認されやすくなる」ということであると認められる。
一方、一般に、調光装置の技術分野において、本件の出願前に遮光率の変化がより速いほうが好ましいという技術的課題(以下「本件技術的課題」という。)が存在していたとしても、実施発明1は、製品として販売されており(上記2(1))、当該製品の遮光率の変化が遅いということを示唆する証拠はなく、また、本件対象変化率の最大値が1.8であることが、遮光率の変化が遅いということを示唆する証拠もないといった事情を考慮すると、実施発明1において、本件技術的課題が存在すると当業者が認識するとはいえない。
そうすると、実施発明1において本件対象変化率の最大値を変更する動機は見当たらず、実施発明1において、本件対象変化率の最大値を3.0以上6.0以下にすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そうすると、相違点2について検討するまでもなく、本件発明3は、実施発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明4~7について
請求項4~7は、請求項3を直接的または間接的に引用するものであり、本件発明4~7は、本件発明3の内容をすべて含み、さらに構成を限定したものである。
そして、本件発明3は、上記ア(イ)のとおり、実施発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、同様の理由により、本件発明4~7は、実施発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)実施発明2が主引用発明の場合
ア 本件発明3について
(ア)対比
a 実施発明2の「調光フィルムKasmy」は、「外部から電界が印加されない場合、入射光はポリマーと液晶の屈折率差や液晶の複屈折によってドロップレット表面や内部で屈折し、光が散乱し、電極間に電界が印加されると、液晶は長軸方向を電界と平行にして並ぶため液晶とポリマーの屈折率差はなくなり、入射光は直進し液晶が透明にな」るものであり、調光機能を有しているといえるから、本件発明3の「調光シート」に相当する。
b 実施発明2において、「調光フィルムKasmyは、高分子分散型液晶(PDLC)と、前記PDLCを挟む一対のITOとを備え、前記PDLCは、ネマティック液晶のドロップレットが透明なポリマーマトリックス中に分散した構造をして」いるから、実施発明2の「高分子分散型液晶(PDLC)」、「一対のITO」は、それぞれ本件発明3の「調光層」、「一対の透明電極層」に相当し、実施発明2は、本件発明3の「調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層とを備える」との構成を有する。
c 実施発明2において、「遮光率の最大値は75.9%」であるから、実施発明2は、本件発明3の「前記遮光率の最大値が30%以上である」との構成を備える。
d 実施発明2において、「遮光率の最大値は75.9%、最小値は15.5%」であるから、実施発明2の透明電極層への電圧の印加による遮光率の変化は、最大60.4%であり、本件発明3の「透明電極層への電圧の印加によって遮光率を50%以上変化させることが可能に構成されている 」といえる。
e そうすると、本件発明3と実施発明2との一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層とを備える調光シートであって、
前記遮光率の最大値が30%以上であり、
前記透明電極層への電圧の印加によって前記遮光率を50%以上変化させることが可能に構成されている、調光シート。
[相違点3]
本件対象変化率の絶対値の最大値が、本件発明3は、3.0以上6.0以下であるのに対し、実施発明2では、2.1である点。
(イ)判断
相違点3について検討する。
まず、本件発明3において、本件対象変化率の最大値を所定の値以上とすることの技術的意義は、本件明細書の【0008】によると、「印加電圧の切り替えが指示されてから、遮光率の変化が完了するまでのいずれかの時点での遮光率の変化の速さが良好となり、明るさの切り替わりのタイミングが観察者に視認されやすくなる」ということであると認められる。
一方、一般に、調光装置の技術分野において、本件の出願前に本件技術的課題が存在していたとしても、実施発明2は、製品として販売されており(上記2(2))、当該製品の遮光率の変化が遅いということを示唆する証拠はなく、また、本件対象変化率の最大値が2.1であることが、遮光率の変化が遅いということを示唆する証拠もないといった事情を考慮すると、実施発明2において、本件技術的課題が存在すると当業者が認識するとはいえない。
そうすると、実施発明2において本件対象変化率の最大値を変更する動機は見当たらず、実施発明2において、本件対象変化率の最大値を3.0以上6.0以下にすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
イ 本件発明4~7について
請求項4~7は、請求項3を直接的または間接的に引用するものであり、本件発明4~7は、本件発明3の内容をすべて含み、さらに構成を限定したものである。
そして、本件発明3は、上記ア(イ)のとおり、実施発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、同様の理由により、本件発明4~7は、実施発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)実施発明3が主引用発明の場合
ア 本件発明3について
(ア)対比
a 実施発明3の「高機能性フィルムシート」は、「交流電圧を加えると液晶粒子の向きが同一方向に整列し、入射光が液晶粒子により散乱されないため透明に見え、非通電時には液晶粒子の向きがバラバラなため入射光が液晶粒子により散乱され白く濁ったように見え」るものであり、調光機能を有しているといえるから、本件発明3の「調光シート」に相当する。
b 実施発明3において、「高機能性フィルムシートは、液晶を含む層と、前記液晶を含む層を挟む一対の透明電極とを備え」ているから、実施発明3の「液晶を含む層」、「一対の透明電極」は、それぞれ本件発明1の「調光層」、「一対の透明電極層」に相当し、実施発明3は、本件発明3の「調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層とを備える」との構成を有する。
c 実施発明3は、「前記一対の透明電極間に電圧が印加されるものであり、・・・遮光率測定方法は、JIS L 1055:2009に定めた方法にて測定し、電圧無印加の状態で測定後、印加電圧を段階的に上げると、電圧とともに遮光率は上昇し、・・・遮光率が10%変化する印加電圧の範囲を対象範囲とし、この対象範囲での印加電圧変化に対する遮光率の変化率を対象変化率と定義したとき、・・・この対象変化率の絶対値の最大値は4.6であ」るから、本件発明3の「本件対象変化率の最大値が3.0以上6.0以下である」との構成を備える。
d 実施発明3において、「遮光率の最大値は49.7%」であるから、実施発明3は、本件発明3の「前記遮光率の最大値が30%以上である」との構成を備える。
e 実施発明3において、「遮光率の最大値は49.7%、最小値は7.4%」であるから、実施発明2の透明電極層への電圧の印加による遮光率の変化は、最大42.3%である。
f そうすると、本件発明3と実施発明3との一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層とを備える調光シートであって、
前記透明電極層への印加電圧を変えて前記調光シートの遮光率、JIS L 1055:2009に定められる遮光率をいう、を変えた場合において、前記遮光率が10%変化する前記印加電圧の範囲を対象範囲と定義し、前記対象範囲での前記印加電圧[V]に対する前記遮光率[%]の変化率を対象変化率と定義すると、前記対象変化率の絶対値の最大値が3.0以上6.0以下であり、
前記遮光率の最大値が30%以上である調光シート。
[相違点4]
透明電極層への電圧の印加によって、本件発明3が、遮光率を50%以上変化させることが可能に構成されているのに対し、実施発明3は、遮光率の変化は最大42.3%である点。
(イ)判断
調光装置において、電圧の印加による遮光率の変化率を大きくすることは、自明の技術的課題であると認められるところ、実施発明3は、目的や用途等に応じて、材料、構造等を最適化・好適化した上で、可能な限り遮光率の変化を大きくした結果として、42.3%になっているものと認められる。
実施発明3は、製品として販売されているものであって(2(3))、既に製品として最適化・好適化がなされているものであると認められるところ、このようなものにおいて、遮光率の変化をさらに大きくしようとすれば、例えば、総厚等を変更することになり、製品として必ずしも、最適化・好適化がなされたものではなくなってしまうと考えられ、当業者が、このような変更を加える動機はない。
そうすると、実施発明3において、遮光率を50%以上変化させることが可能に構成することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
イ 本件発明4~7について
請求項4~7は、請求項3を直接的または間接的に引用するものであり、本件発明4~7は、本件発明3の内容をすべて含み、さらに構成を限定したものである。
そして、本件発明3は、上記ア(イ)のとおり、実施発明3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、同様の理由により、本件発明4~7は、実施発明3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 実施可能要件
特許異議申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、試験例1~5が記載されており、これらから、本件対象変化率の最大値は調光層の構成に大きく依存することが理解できるものの、本件対象変化率の最大値を制御するための方法や手段に関する開示が一切なく、試験例1~5の調光シートにおける調光層の具体的構成も不明であるから、当業者が、本件明細書等の記載に基づいて、本件対象変化率の最大値が3.0~6.0である調光シートを得る手段が理解できず、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない旨主張する。(特許異議申立書20ページ下から5行~21ページ下から6行、令和4年7月1日付け意見書2ページ8行~4ページ下から2行)
本件明細書等の【0023】には、調光層として、高分子ネットワーク型液晶、高分子分散型液晶、カプセル型ネマティック液晶等が例示され、また、調光装置に用いる調光層の材料としてはこれら以外のものも、この出願の出願前知られている。そして、当業者であれば、調光装置に用いる様々な調光層の材料を、総厚等構成を変更しつつ試すことが可能であるものと認められ、調光装置の技術分野において、材料や層厚等の構成を変更すれば、本件対象変化率の最大値も変化するという技術常識も考慮すれば、そのような様々なものの中から、本件対象変化率の最大値が3.0~6.0である調光シートを得ることができると認められる。
2 サポート要件
特許異議申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、試験例として実際に示されているのは、高分子ネットワーク型液晶(PNLC)のみであり、調光層を他の構成とした場合の光学特性は不明であって、PNLC以外の構成の調光層を用いた場合にも発明の課題が解決できるか否かは不明であり、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張する。(特許異議申立書21ページ下から5行~22ページ8行)
本件明細書等においては、試験例1の調光層としては高分子ネットワーク型液晶(PNLC)が示されているものの、試験例2~5の調光層は試験例1とは構成が異なっており、当業者であれば、調光装置の技術分野において、用いることができる材料は様々であり、そのような様々な材料の層厚等の構成を変更することにより調光装置の特性を変化さえることができるという技術常識も踏まえれば、調光層としては高分子ネットワーク型液晶(PNLC)以外であっても発明の課題が解決できることは理解できるといえる。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明3~7に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明3~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項1、2に係る特許は、本件訂正により削除されたので、請求項1、2に係る特許についての特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700294