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特許異議申立

2017-700568

積層体及び、その製造方法

審判番号
2017-700568
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2016-508828外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2017年06月06日
審決日
2018年01月31日
公報発行日
2018年04月27日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6038389号発明「積層体及び、その製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6038389号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~12〕、〔13~15〕について訂正することを認める。 特許第6038389号の請求項1~15に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1.手続の経緯 特許第6038389号の請求項1~15に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成27年3月20日(優先権主張 平成26年3月20日 日本)を国際出願日とする出願であって、平成28年11月11日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1~15に係る特許について、特許異議申立人畠明(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成29年7月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年9月29日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)がなされ、平成29年11月9日付けで申立人から意見書が提出されたものである。 第2.訂正の適否について 1.訂正の内容 本件訂正は、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付の訂正特許請求の範囲のとおり訂正するもので、その内容は以下のとおりである(下線部は訂正個所を示す。)。 (1)訂正事項1 請求項1に 「該窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に接合されて積層された導体層としての銅合金層」とあるのを、 「該窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、直接的に接合され、又は、粗化処理層、耐熱層、防錆層、クロメート処理層およびシランカップリング処理層からなる群から選択される一つ以上の層だけを介して間接的に接合されて積層された導体層としての銅合金層」に訂正する。 請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~12も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 請求項2に 「Mnを含有する場合はMn濃度が0.0001~95質量%あり、Niを含有する場合はNi濃度が0.0001~95質量%であり、」とあるのを、 「Mnを含有する場合はMn濃度が0.0001~3.0質量%であり、Niを含有する場合はNi濃度が0.0001~18質量%であり、」に訂正する。 請求項2を直接的又は間接的に引用する請求項3~12も同様に訂正する。 (3)訂正事項3 請求項13に 「熱圧着により接合させて積層させる、」とあるのを、 「熱圧着により接合させて積層させ、窒化物セラミックス基板と、その窒化物セラミックス基板の表面に積層された銅合金層とが、直接的に接合され、又は、粗化処理層、耐熱層、防錆層、クロメート処理層およびシランカップリング処理層からなる群から選択される一つ以上の層だけを介して間接的に接合される、」に訂正する。 請求項13を直接的又は間接的に引用する請求項14、15も同様に訂正する。 (4)訂正事項4 請求項14に 「Mnを含有する場合はMn濃度が0.0001~95質量%あり、Niを含有する場合はNi濃度が0.0001~95質量%であり、」とあるのを、 「Mnを含有する場合はMn濃度が0.0001~3.0質量%であり、Niを含有する場合はNi濃度が0.0001~18質量%であり、」に訂正する。 請求項14を直接的に引用する請求項15も同様に訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項 (1)訂正事項1、3 訂正事項1、3は、訂正前の請求項1、13の窒化物セラミックス基板と銅合金層との接合態様を、直接的、又は、特定の層だけを介した間接的な接合態様のみに限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 また、訂正事項1、3に関連して、本件特許の明細書の段落【0021】には「なおこの発明では、積層体の窒化物セラミックス基板と、その窒化物セラミックス基板の表面に積層された銅合金層とが、直接的に接合され、又は、粗化処理層、耐熱層、防錆層、クロメート処理層、シランカップリング処理層の群から選択される一つ以上の層だけを介して間接的に接合されることになる。」と記載されている。よって、訂正事項1、3は、明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項の規定に適合するものである。 (2)訂正事項2、4 訂正事項2、4は、訂正前の請求項2、14のMn濃度、Ni濃度のそれぞれの範囲をより狭い範囲に限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 また、訂正事項2、4に関連して、本件特許の明細書の段落【0075】の【表1】には、実施例におけるMnの最大濃度として3.0質量%(実施例17)、Niの最大濃度として18質量%(実施例16)が記載されている。よって、訂正事項2、4は、明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項の規定に適合するものである。 (3)一群の請求項 本件訂正前の請求項2~12は請求項1を引用しており、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。また、本件訂正前の請求項14、15は請求項13を引用しており、訂正事項3によって訂正される請求項13に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~12と請求項13~15とは、それぞれ、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。そして、本件訂正請求は、当該一群の請求項ごとに対して請求されたものである。 3.小括 したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、同条第4項並びに同条第9項の規定によって準用する第126条第5項及び第6項に適合するので、訂正後の請求項〔1~12〕、〔13~15〕について訂正を認める。 第3.本件発明 上記第2.のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1~15に係る発明(以下「本件発明1~15」という。また、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、本件訂正請求書に添付の訂正特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 【請求項1】 窒化物セラミックス基板と、該窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、直接的に接合され、又は、粗化処理層、耐熱層、防錆層、クロメート処理層およびシランカップリング処理層からなる群から選択される一つ以上の層だけを介して間接的に接合されて積層された導体層としての銅合金層とを有し、前記銅合金層が、Si、Mn、Ni、Ti、Al、Ce、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Fe、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Co、Mo、B、C、Sn、Y、Pr、Nd、Sm、Zr、Bi、V、W、Tl、Ca、Sr、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有し、前記銅合金層が銅合金板または銅合金箔からなり、前記銅合金層と前記窒化物セラミックス基板との剥離強度が15kN/m以上である、積層体。 【請求項2】 前記銅合金層が、Si、Mn、Ni、Ti、Zr、Ce、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有し、該銅合金層が、Siを含有する場合はSi濃度が0.0001~3.0質量%であり、Mnを含有する場合はMn濃度が0.0001~3.0質量%であり、Niを含有する場合はNi濃度が0.0001~18質量%であり、Tiを含有する場合はTi濃度が0.0001~8.5質量%であり、Zrを含有する場合はZr濃度が0.0001~8.0 質量%であり、Ceを含有する場合はCe濃度が0.0001~60質量%であり、Hfを含有する場合はHf濃度が0.0001~20質量%である、請求項1に記載の積層体。 【請求項3】 前記窒化物セラミックス基板が、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化チタン、窒化ホウ素、窒化インジウム又は窒化ガリウムを主成分とし、あるいは、炭化チタンと窒化チタンとの複合材料、又は、窒化ホウ素と炭化ケイ素との複合材料を主成分としてなる、請求項1又は2に記載の積層体。 【請求項4】 窒化アルミニウムを主成分とする前記窒化物セラミックス基板が、Ca、Y、Oからなる群から選択される一種以上の元素を含有し、Caを含む場合には、Ca濃度は0.0001~3質量%であり、Yを含む場合にはY濃度は0.0001~10質量%であり、Oを含む場合には、O濃度は0.0001~20質量%である、請求項3に記載の積層体。 【請求項5】 前記窒化物セラミックス基板のO含有濃度が0.0001~20質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層体。 【請求項6】 前記銅合金層の厚みを、1μm~7000μmとし、前記窒化物セラミックス基板の厚みを、1μm~7000μmとしてなる、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層体。 【請求項7】 請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体を有する放熱体。 【請求項8】 請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体を有するパワーデバイス。 【請求項9】 請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体を有する素子。 【請求項10】 請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体を有する電子部品。 【請求項11】 請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体を有する電子機器。 【請求項12】 請求項8に記載のパワーデバイスまたは請求項9に記載の素子または請求項10に記載の電子部品を有する車両。 【請求項13】 導体層としての銅合金層と窒化物セラミックス基板との積層体を製造するに当り、前記銅合金層が、Si、Mn、Ni、Ti、Al、Ce、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Fe、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Co、Mo、B、C、Sn、Y、Pr、Nd、Sm、Zr、Bi、V、W、Tl、Ca、Sr、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有する銅合金板または銅合金箔からなるものとし、窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、前記銅合金層を、800~1000℃の温度の下、0.6N/mm2~1.5N/mm2の圧力を作用させて、熱圧着により接合させて積層させ、窒化物セラミックス基板と、その窒化物セラミックス基板の表面に積層された銅合金層とが、直接的に接合され、又は、粗化処理層、耐熱層、防錆層、クロメート処理層およびシランカップリング処理層からなる群から選択される一つ以上の層だけを介して間接的に接合される、積層体の製造方法。 【請求項14】 前記銅合金層が、Si、Mn、Ni、Ti、Zr、Ce、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有し、該銅合金層が、Siを含有する場合はSi濃度が0.0001~3.0質量%であり、Mnを含有する場合はMn濃度が0.0001~3.0質量%であり、Niを含有する場合はNi濃度が0.0001~18質量%であり、Tiを含有する場合はTi濃度が0.0001~8.5質量%であり、Zrを含有する場合はZr濃度が0.0001~8.0質量%であり、Ceを含有する場合はCe濃度が0.0001~60質量%であり、Hfを含有する場合はHf濃度が0.0001~20質量%である、請求項13に記載の積層体の製造方法。 【請求項15】 前記銅合金層と前記窒化物セラミックス基板とを接合するに際し、窒素もしくはアルゴン雰囲気中または真空中で、前記銅合金層と前記窒化物セラミックス基板とを接合する、請求項13又は14に記載の積層体の製造方法。 第4.当審の判断 1.平成29年7月27日付け取消理由通知の概要 理由1)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。 理由2)本件発明1~15は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <刊行物> 1.特開2011-124585号公報 2.特開平2-175674号公報 3.特開昭63-310934号公報 4.特開平4-48041号公報 5.特開2003-63879号公報 6.特開2007-297225号公報 (刊行物1~6は、特許異議申立書添付の甲第1~6号証と同じ。) 理由1-1.本件発明1~15が解決しようとする課題は、明細書の段落【0006】~【0007】の記載を踏まえれば、導体層としての銅合金層と窒化物セラミックス基板との接合に先立って、それらの間にTi等の接合層を形成するために、蒸着、スパッタリングないしめっきを施す必要があり、製造工数の増大を余儀なくされて、積層体を安価かつ簡易に製造することができないことと認められる。 ところで、請求項1の「窒化物セラミックス基板と、該窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に接合されて積層された導体層としての銅合金層とを有し」との記載は、銅合金層と窒化物セラミックス基板との間に接合層等を形成することを排除するものではない。さらに、明細書の段落【0044】の記載を踏まえれば、銅合金層の元素としてのCuを含むろう材や、Tiを含むスパッタリング層等が存在してもよいとされているが、このようなものは、上記課題を解決しない。請求項13の「窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、前記銅合金層を、…接合させて積層させる」との記載についても同様である。 理由1-2.請求項1、13に記載された「接合」の定義が必ずしも明確でなく、例えば、ろう材を用いた接合を含むか否かが不明確である。また、請求項1、13に記載された「銅金属層」の定義も必ずしも明確でなく、例えば、銅を含むろう材の固化物を含むか否かが不明確である。 理由1-3.請求項2、14に記載された「Mn濃度が0.0001~95質量%」、「Ni濃度が0.0001~95質量%」に関し、実施例におけるMnの最大濃度は3.0質量%(実施例17)、Niの最大濃度は18質量%(実施例16)にとどまる。そして、合金の特性は、その主成分に大きく依存することが技術常識であるから、主成分をCuではなくMnやNiとした場合にも、15kN/m以上の剥離強度が得られるのか、導体層として機能し得るのか(Cuに比べてMnなどの電気伝導率は低い)は明らかでなく、またそのような技術常識もない。 そうすると、本件出願時の技術常識に照らしても、上述の数値範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとすることはできない。 理由2.本件発明1~15は、刊行物1記載の発明及び刊行物2~6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお、上記取消理由通知は、本件特許異議の申立てにおいて申立てられた全ての申立理由を採用した。 2.本件発明について 本件発明は、「銅を含む金属層とセラミックス基板とを積層してなる積層体及び、その製造方法に関するものであり、特には、金属層とセラミックス基板との所要の接合強度を確保するもの」(本件特許の明細書の段落【0001】)であって、従来は「積層体を製造するに当り、Cu導体層と窒化アルミニウム基板との接合に先立って、それらの間にTi等の接合層を形成するため、Cu導体層もしくは窒化アルミニウム基板に、蒸着、スパッタリングないしめっきを施す必要がある。それに起因して、製造工数の増大を余儀なくされて、積層体を安価かつ簡易に製造することができないという問題があった」(【0006】)ところ、銅合金層に「Si、Mn、Ni、Ti、Al、Ce、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Fe、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Co、Mo、B、C、Sn、Y、Pr、Nd、Sm、Zr、Bi、V、W、Tl、Ca、Sr、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有」(【0009】)させ「銅合金層に含まれる当該元素が、窒化物セラミックス基板との化合物を形成して、銅合金層と窒化物セラミックス基板との接合を実現できる」(【0035】)ようにすることで、「従来技術のような接合層を形成する工程を要しないので、製造工数を削減することができる」(【0023】)ようにしたものである。 3.上記取消理由についての判断 (1)理由1-1 ア.上記第2.のとおり本件訂正が認められることにより、本件発明は上記第3.のとおりであって、銅合金層と窒化物セラミックス基板との間に介在し得るのは、粗化処理層、耐熱層、防錆層、クロメート処理層およびシランカップリング処理層からなる群から選択される一つ以上の層に限られ、接合を目的とした層は含まれないから、本件発明が、製造工数の増大という課題を解決し得ない、接合層が介在したものを含むということはできない。 イ.申立人は、『「粗化処理層」、「耐熱層」、「防錆層」、「クロメート処理層」、または「シランカップリング処理層」を形成する場合、製造工数が増加するため、特許権者が主張する「製造工数の増大を余儀なくされて、積層体を安価かつ簡易に接合することができない」という課題を解決することができません。よって、訂正特許発明1および13は、上記課題を解決しない範囲の発明についても含んでおります。』(意見書4頁6~11行)と主張する。しかし、本件発明の課題は、従来は銅合金層と窒化物セラミックス基板とを有効に接合させるために接合層を形成しており(【0004】)、製造工数の増大を余儀なくされていた(【0006】)ことと解される。 そうすると、解決しようとする課題はあくまで、接合のために接合層を形成したことによる製造工数の増大なのであって、他の目的で粗化処理層等を形成したことによる製造工数の増大までも課題としていたものではないから、本件発明において粗化処理層等を形成し得るからといって、上記課題を解決しないとすることはできない。 ウ.よって、理由1-1によって、本件発明1~15は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできず、本件発明1~15に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消されるべきものではない。 (2)理由1-2 ア.上記2.のとおり、本件発明は、銅合金層に含まれるSi等が、窒化物セラミックス基板との化合物を形成することにより、銅合金層と窒化物セラミックス基板とを接合するものであって、本件発明の「接合」は、銅合金層に含まれるSi等が、窒化物セラミックス基板との化合物を形成することによる接合を意味することは明らかである。 その意味からすれば、ろう材による接合は、銅合金層に含まれるSi等が、窒化物セラミックス基板との化合物を形成することにより接合するものとはいえないから、本件発明の「接合」に含まれるということはできない。 さらに、上記第2.のとおり本件訂正が認められることにより、本件発明は上記第3.のとおりであって、銅合金層と窒化物セラミックス基板との間に介在し得るのは、粗化処理層、耐熱層、防錆層、クロメート処理層およびシランカップリング処理層からなる群から選択される一つ以上の層に限られており、ろう材は、介在し得る層とはされていない。したがって、ろう材を用いた接合が、本件発明の「接合」に含まれないことは明らかである。 イ.本件発明では、「銅合金層」は、「窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に…接合されて積層された導体層」であって「Si、Mn、Ni、Ti、Al、Ce、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Fe、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Co、Mo、B、C、Sn、Y、Pr、Nd、Sm、Zr、Bi、V、W、Tl、Ca、Sr、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有」する「銅合金板または銅合金箔」からなることが特定されており、その定義が明確でないということはできない。 また、ろう材の固化物というのは通常、単体として存在し得る「板」や「箔」ではなく、接合部材同士の間に「層」として介在するものだから、本件発明の「銅合金板または銅合金箔」からなる「銅合金層」に含まれるということはできない。 ウ.申立人は、『訂正請求項1および訂正請求項13における「粗化処理層」、「耐熱層」、「防錆層」、「クロメート処理層」、および「シランカップリング処理層」のそれぞれの定義が不明であり、訂正特許発明1および13において窒化物セラミック基板と銅合金層との間に接合層等が形成されたものが除外されていると認めることはできません。「粗化処理層」、「耐熱層」、および「シランカップリング処理層」については発明の詳細な説明に具体的な説明が何らありません。このため、例えば「耐熱層」が「ろう材等の接合層」も含むか否かが不明であります。…また、「防錆層」については、段落[0066]にZn、Niを用いたメッキにより防錆層を形成することが記載されています。Niを用いたメッキは、例えば刊行物1の段落[0003]や段落[0043]等の記載からもわかるとおり、接合層としても用いられる材料でありますが、発明の詳細な説明にはNiを用いたメッキが接合層と異なる層であるかをどのように判断するのか何ら記載されておりません。』(意見書3頁14行~4頁5行)、『訂正請求項1では「銅合金層と窒化物セラミック基板との剥離強度が15kN/m以上である」と限定されているように、接合強度の向上が示されています。よって、仮に「粗化処理層、耐熱層、防錆層、クロメート処理層、およびシランカップリング処理層」が接合層とは異なるものであれば、その違いを明確にすべきであります。』(意見書4頁12~16行)と主張する。 しかし、「粗化処理層」、「クロメート処理層」、「シランカップリング処理層」が、その表記のとおり、粗化処理等をされた層であり、また、「耐熱層」、「防錆層」が、耐熱性等の機能を有する層であることは明らかであって、これらの層の意味するものが当業者にとって明確でないとはいえない。一方、「積層体」または「積層体の製造方法」における「接合層」は、その表記のとおり、例えば単にNiを用いた層というだけではなく、その層に適した条件により加熱、加圧等の処理がなされ、窒化物セラミック基板と銅合金層との接合という機能を発揮する状態とされる層をいうことが明らかである(【0004】、【0034】)。そうすると、粗化処理層等と、接合層とでは、その機能や状態が異なるものであり、使用できる材料が部分的に類似しているからといって、粗化処理層等は接合層に相当するものではない。 エ.よって、理由1-2によって、本件発明1~15は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできず、本件発明1~15に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消されるべきものではない。 (3)理由1-3 上記第2.のとおり本件訂正が認められることにより、本件発明2、14は上記第3.のとおりであって、銅合金層のMnの最大濃度は本件特許の発明の詳細な説明に記載された3.0質量%(実施例17)、同じくNiの最大濃度は18質量%(実施例16)となったから、本件発明2、14が、発明の詳細な説明に記載したものでないということはできない。 よって、理由1-3によって、本件発明2~12、14、15は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできず、本件発明2~12、14、15に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消されるべきものではない。 (4)理由2 ア.引用発明 刊行物1には、以下の引用発明1、2が記載されている。 「窒化珪素基板からなるセラミックス基板11と、窒化珪素基板からなるセラミックス基板11の上面にろう材層を介してろう付けされた金属回路板12とを有し、金属回路板12が、銅と、少なくともニッケル、亜鉛、ジルコニウム又はスズの何れかを含む銅合金からなる、セラミックス配線基板1。」(【請求項1】、【請求項2】、【0043】~【0047】)(引用発明1) 「金属回路板12と窒化珪素基板からなるセラミックス基板11との積層体を製造するに当り、金属回路板12が、銅と、少なくともニッケル、亜鉛、ジルコニウム又はスズの何れかを含む銅合金からなるものとし、窒化珪素基板からなるセラミックス基板11の上面に、金属回路板12を、500~1000℃の温度で、20~150g/cm2の荷重をかけて、ろう材層を介してろう付けさせて積層させ、窒化珪素基板からなるセラミックス基板11と、その窒化珪素基板からなるセラミックス基板11の表面に積層された金属回路板12とが、ろう材層を介してろう付けされる、セラミックス配線基板1の製造方法。」(【請求項6】、【請求項7】、【0043】~【0047】)(引用発明2) イ.本件発明1について (ア)相違点 本件発明1と引用発明1とを比較すると、少なくとも以下の点で相違する。 相違点1.本件発明1は、銅合金層と窒化物セラミックス基板との剥離強度が15kN/m以上であるのに対して、引用発明1は、金属回路板12と窒化珪素基板からなるセラミックス基板11との剥離強度が不明である点。 相違点2.本件発明1は、銅合金層が、窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、直接的に接合され、又は、粗化処理層、耐熱層、防錆層、クロメート処理層およびシランカップリング処理層からなる群から選択される一つ以上の層だけを介して間接的に接合されるのに対して、引用発明1は、金属回路板12が、窒化珪素基板からなるセラミックス基板11の上面に、ろう材層を介してろう付けされる点。 (イ)相違点1について 銅合金層と窒化物セラミックス基板との剥離強度を15kN/m以上とすることは、刊行物2~6にも記載されておらず、相違点1に係る本件発明1の構成は、引用発明1及び刊行物2~6の記載事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 申立人は、『本件特許明細書の段落[0052]-[0057]には本件特許発明1の積層体の製造方法について記載され、…「窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に銅合金層を窒素もしくはアルゴン雰囲気中または真空中で、800~1000℃の温度、0.6N/mm2~1.5N/mm2の圧力で熱接合する」ことが記載されています。…「窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に銅合金層を800~1000℃の温度で熱接合する」ことは、例えば甲第1号証の[請求項8]等に記載されています。…「0.6N/mm2~1.5N/mm2の圧力で接合する」ことは、甲第5号証の[請求項1]等に記載されている周知技術であります。よって、本件特許明細書の段落[0052]-[0057]の記載のとおりに積層体を製造することは、甲第1号証、第2号証、および甲第5号証に実質的に記載されております。このとき、積層体は「銅合金層と窒化物セラミックス基板との剥離強度が15kN/m以上である」構成を具備していると認められます。』(特許異議申立書18頁下から2行~19頁下から6行)と主張する。 しかし、引用発明1の接合方法はろう接であるに対して、刊行物5の接合方法は振動圧接であって、両者の接合方法は全く異なっている。そうすると、引用発明1において、ろう接の温度条件は維持しつつ、刊行物5に記載された振動圧接の加圧条件のみを採用することに、動機を見いだすことができない。 (ウ)相違点2について 引用発明1において、ろう材層を介したろう付けは、金属回路板12と窒化珪素基板からなるセラミックス基板11とを積層体とする上で不可欠なところ、これを相違点2に係る本件発明1の構成のように直接的な接合、又は、粗化処理層等だけを介した間接的な接合に置換することは、刊行物2~6にも記載されていない。したがって、相違点2に係る本件発明1の構成は、引用発明1及び刊行物2~6の記載事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 申立人は、『相違点2について検討すると、前述のとおり、訂正請求項1における「耐熱層」が「ろう材層」に相当する場合、刊行物1の段落[0032]に「活性金属ろう付け方等を用いて、セラミックス基板と銅板とを600~900℃の温度で加熱しつつ接合することにより金属回路板及び金属放熱板を作製する」ことが記載されていることからもわかるとおり、耐熱層を介して窒化物セラミック基板の表面に銅合金層を接合することは刊行物1等に記載された周知技術であります。また、訂正請求項1における「防錆層」が「Niめっき層」に相当する場合、…防錆層を介して窒化物セラミック基板の表面に銅合金層を接合することは刊行物1等に記載された周知技術であります。』(意見書6頁5~21行)と主張する。 しかし、上記(2)のとおり、 耐熱層や防錆層は接合層としてのろう材層に相当するものではないから、申立人の主張は採用できない。 (エ)本件発明の効果について 引用発明1は、金属回路板12と窒化珪素基板からなるセラミックス基板11とのろう付けのためにろう材層を形成する必要があるのに対して、本件発明1は、上記2.に示したとおり、銅合金層に「Si、Mn、Ni、Ti、Al、Ce、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Fe、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Co、Mo、B、C、Sn、Y、Pr、Nd、Sm、Zr、Bi、V、W、Tl、Ca、Sr、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有」させ「銅合金層に含まれる当該元素が、窒化物セラミックス基板との化合物を形成して、銅合金層と窒化物セラミックス基板との接合を実現できる」ようにすることで、「従来技術のような接合層を形成する工程を要しないので、製造工数を削減することができる」という格別な効果を奏するものである。 (オ)小括 したがって、本件発明1は、引用発明1及び刊行物2~6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ.本件発明2~12について 本件発明2~12は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記イ.に示した理由と同様の理由により、引用発明1及び刊行物2~6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ.本件発明13について (ア)相違点 本件発明13と引用発明2とを比較すると、少なくとも以下の点で相違する。 相違点3.本件発明13は、窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、銅合金層を、800~1000℃の温度の下、0.6N/mm2~1.5N/mm2の圧力を作用させて、熱圧着により接合させて積層させるのに対して、引用発明2は、窒化珪素基板からなるセラミックス基板11の上面に、金属回路板12を、500~1000℃の温度で、20~150g/cm2の荷重をかけて、ろう材層を介してろう付けさせて積層させる点。 相違点4.本件発明13では、窒化物セラミックス基板と、その窒化物セラミックス基板の表面に積層された銅合金層とが、直接的に接合され、又は、粗化処理層、耐熱層、防錆層、クロメート処理層およびシランカップリング処理層からなる群から選択される一つ以上の層だけを介して間接的に接合されるのに対して、引用発明2では、窒化珪素基板からなるセラミックス基板11と、その窒化珪素基板からなるセラミックス基板11の表面に積層された金属回路板12とが、ろう材層を介してろう付けされる点。 (イ)相違点3について 窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、銅合金層を、800~1000℃の温度の下、0.6N/mm2~1.5N/mm2の圧力を作用させて、熱圧着により接合させて積層させることは、刊行物2~6にも記載されていないから、相違点3に係る本件発明13の構成は、引用発明2及び刊行物2~6の記載事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 申立人は、『「0.6N/mm2~1.5N/mm2の圧力で接合する」ことは、甲第5号証の[請求項1]等に記載されている周知技術であります。従って、甲第1号証および甲第5号証に基づいて本件特許発明13の構成を想起することは当業者が容易に想到し得ることであります。』(特許異議申立書28頁下から8行~下から5行)と主張する。 しかし、引用発明2の接合方法はろう接であるに対して、刊行物5の接合方法は振動圧接であって、両者の接合方法は全く異なっている。そうすると、引用発明2において、ろう接の温度条件は維持しつつ、刊行物5に記載された振動圧接の加圧条件のみを採用することに、動機を見いだすことができない。 (ウ)相違点4について 相違点4は、上記イ.に示した相違点2と実質的に同じ相違点であるから、同様の理由により、相違点4に係る本件発明13の構成は、引用発明2及び刊行物2~6の記載事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 (エ)本件発明の効果について 引用発明2は、金属回路板12と窒化珪素基板からなるセラミックス基板11とのろう付けのためにろう材層を形成する必要があるのに対して、本件発明13は、上記2.に示したとおり、銅合金層に「Si、Mn、Ni、Ti、Al、Ce、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Fe、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Co、Mo、B、C、Sn、Y、Pr、Nd、Sm、Zr、Bi、V、W、Tl、Ca、Sr、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有」させ「銅合金層に含まれる当該元素が、窒化物セラミックス基板との化合物を形成して、銅合金層と窒化物セラミックス基板との接合を実現できる」ようにすることで、「従来技術のような接合層を形成する工程を要しないので、製造工数を削減することができる」という格別な効果を奏するものである。 (オ)小括 したがって、本件発明13は、引用発明2及び刊行物2~6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 オ.本件発明14~15について 本件発明14~15は、本件発明13の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記エ.に示した理由と同様の理由により、引用発明2及び刊行物2~6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 カ.以上のとおり、本件発明1~15に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。 第5.むすび 以上のとおりであるから、上記取消理由によっては、本件発明1~15に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2017-700568

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