特許異議申立
2017-700527
ゴム混合物
- 審判番号
- 2017-700527
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-000570外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年05月29日
- 審決日
- 2018年03月14日
- 公報発行日
- 2018年06月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
- 【権利者代理人】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
- 【権利者代理人】久野 琢也
- 【異議申立人】星 正美
- 分類
- P1651.121-YAA(C08L) / P1651.113-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6045350号発明「ゴム混合物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6045350号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1ないし9]について、訂正することを認める。
特許第6045350号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6045350号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、2013年1月7日(パリ条約による優先権主張2012年1月6日、独国(DE))の特許出願であって、平成28年11月25日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成29年5月29日に特許異議申立人、星正美(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年9月11日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年12月12日(受理日:12月13日)に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成30年1月18日付け(受理日:同月同日)で特許異議申立人により意見書の提出がされたものである。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成29年12月12日付けでされた訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)による訂正の内容は、次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「(A)少なくとも1のポリアクリレートゴム、(B)少なくとも1のカーボンブラック、」とあるのを「(A)少なくとも1のポリアクリレートゴム、(A1)前記ポリアクリレートゴムに対して0.1~5質量%の硫黄、(B)少なくとも1のカーボンブラック、」に訂正する。請求項1の記載を引用する請求項2ないし9も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7に「少なくとも1のポリアクリレートゴムと、少なくとも1のカーボンブラックと、」とあるのを「少なくとも1のポリアクリレートゴムと、前記ポリアクリレートゴムに対して0.1~5質量%の硫黄と、少なくとも1のカーボンブラックと、」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項及び独立特許要件
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1における、「(A)少なくとも1のポリアクリレートゴム、(B)少なくとも1のカーボンブラック、及び、(C)少なくとも1のエポキシシランを含有し、・・・ゴム混合物」とあるのを、「(A)少なくとも1のポリアクリレートゴム、(A1)前記ポリアクリレートゴムに対して0.1~5質量%の硫黄、(B)少なくとも1のカーボンブラック、及び、(C)少なくとも1のエポキシシランを含有し、・・・ゴム混合物」と訂正することで、ゴム混合物をより具体的に特定し、更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書の段落【0069】、段落【0093】の【表1】の第2段階欄および段落【0107】の【表5】の第2段階欄の記載に基づくものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項7における、「少なくとも1のポリアクリレートゴムと、少なくとも1のカーボンブラックと、少なくとも1のエポキシシランとを混合し・・・方法」とあるのを、「少なくとも1のポリアクリレートゴムと、前記ポリアクリレートゴムに対して0.1~5質量%の硫黄と、少なくとも1のカーボンブラックと、少なくとも1のエポキシシランとを混合し・・・方法」と訂正することで、混合する成分をより具体的に特定し、更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正事項2は、願書に添付した明細書の段落【0069】、段落【0093】の【表1】の第2段階欄、段落【0098】および段落【0110】の段階2ならびに段落【0107】の【表5】の第2段階欄の記載に基づくものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし9について、訂正前の請求項2ないし9は訂正前の請求項1を引用しているから、訂正前において一群の請求項である。
したがって、本件訂正の請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。
(5)独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ない9に対してされているので、訂正後の請求項1ないし9に係る発明については、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正の請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項および第6項の規定に適合するから、本件訂正の請求による訂正を認める。
第3 本件特許に係る発明
上記第2 3のとおり、本件訂正の請求による訂正は認容されるので、本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明9」という。)は、平成29年12月12日付けの訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ゴム混合物であって、以下:
(A)少なくとも1のポリアクリレートゴム、
(A1)前記ポリアクリレートゴムに対して0.1~5質量%の硫黄、
(B)少なくとも1のカーボンブラック、及び、
(C)少なくとも1のエポキシシラン
を含有し、
その際、
該ポリアクリレートゴムが、ACMポリアクリレートゴムであり、
該エポキシシランが、一般式I
【化1】
[式中、
Xは、-OCH2-CH3であり、
RIは、分枝鎖状又は非分枝鎖状の、飽和の、脂肪族の、適宜、置換基を有する二価のC1~C30炭化水素基であるか、又は、二価のアルキルエーテル基である]
のエポキシシランであり、かつゴム100質量部に対して、1~20質量部で存在しており、かつ
該カーボンブラックが、ゴム100質量部に対して、5~150質量部で存在していることを特徴とするゴム混合物。
【請求項2】
エポキシシランが、以下:
【化2】
の一般式Iを有している、請求項1記載のゴム混合物。
【請求項3】
エポキシシランが、一般式Iのエポキシシランの混合物である、請求項1又は2記載のゴム混合物。
【請求項4】
エポキシシランが、有機若しくは無機の不活性担体上に吸収されているか、又は有機若しくは無機の担体と予備反応されている、請求項1記載のゴム混合物。
【請求項5】
さらなるシランを含有している、請求項1記載のゴム混合物。
【請求項6】
以下:
(D)チウラムスルフィド促進剤、及び/又はカルバメート促進剤、及び/又は相応する亜鉛塩、
(E)適宜、窒素含有の補助活性化剤、
(F)適宜、さらなるゴム助剤、及び、
(G)適宜、さらなる促進剤
を含有している、請求項1記載のゴム混合物。
【請求項7】
請求項1から5までのいずれか1項記載のゴム混合物の製造法において、少なくとも1のポリアクリレートゴムと、前記ポリアクリレートゴムに対して0.1~5質量%の硫黄と、少なくとも1のカーボンブラックと、少なくとも1のエポキシシランとを混合し、
その際、
該ポリアクリレートゴムが、ACMポリアクリレートゴムであり、
該エポキシシランが、式I
【化3】
[式中、
Xは、-OCH2-CH3であり、
RIは、分枝鎖状又は非分枝鎖状の、飽和の、脂肪族の、適宜、置換基を有する二価のC1~C30炭化水素基であるか、又は、二価のアルキルエーテル基である]のエポキシシランであり、かつゴム100質量部に対して、1~20質量部で存在しており、かつ
該カーボンブラックが、ゴム100質量部に対して、5~150質量部で存在していることを特徴とする方法。
【請求項8】
成形品を製造するための、請求項1から6までのいずれか1項記載のゴム混合物の使用。
【請求項9】
空気ばね、空気入りタイヤ又は他のタイヤ、タイヤトレッド、ケーブル外装、ホース、伝動ベルト、コンベヤベルト、ロール被覆、靴底、シールリング及び制動要素における、請求項1から6までのいずれか1項記載のゴム混合物の使用。」
第4 平成29年9月11日付けの取消理由通知について
1 取消理由の概要
当審において平成29年9月11日付けで通知した取消理由の概要は、 以下のとおりである。
「1.(進歩性) 特許第6045350号の請求項1ないし9に係る発明は、甲第1号証及び甲第4号証のいずれかに記載された発明、甲第2号証及び甲第3号証並びに甲第5号証ないし甲第7号証に記載の技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・・・
甲第1号証:特開2006-249238号公報
甲第2号証:日本工業規格JIS K6397(2005年発行)
甲第3号証:J.A.Brydson著 「RUBBERY MATERIALS AND THEIR COMPOUNDS」、ELSEVIER APPLIED SCIENCE、1988、第221~237頁
甲第4号証:国際公開第2007/26596号
甲第5号証:特表2009-543829号公報
甲第6号証:特表2008-537971号公報
甲第7号証:特表2008-537973号公報」
甲第1号証ないし甲第7号証は、平成29年5月29日に、特許異議申立人が提出した特許異議申立書に甲第1号証ないし甲第7号証として添付されたものである。以下、それぞれ「甲1」ないし「甲7」と略していう。
2 当合議体の判断
(1)甲1を主引用文献とした場合の取消理由について
ア 甲1に記載された発明
甲1には、特許請求の範囲の請求項1及び2、段落【0007】、【0015】、【0016】、【0090】、【0091】、【0093】、【0095】並びに【0102】の記載、特に、特許請求の範囲の請求項1及び2の記載によれば、下記のゴム組成物の発明が記載されている。
「カルボキシル基含有アクリルゴムと、グリシドキシ基含有シランカップリング剤および/またはエポキシ基含有シランカップリング剤と、カーボンブラックと、を含有するアクリルゴム組成物であって、
前記カルボキシル基含有アクリルゴムを構成する全単量体単位100重量%に対する、カルボキシ基含有単量体単位の含有量が0.5重量%以上であり、塩素基含有単量体単位の含有量が0.1重量%未満であり、
前記グリシドキシ基含有シランカップリング剤および/またはエポキシ基含有シランカップリング剤の含有量が、前記アクリルゴム組成物全体100重量部に対して、0.2~5重量部であるアクリルゴム組成物。」(以下、「甲1発明」という。)
イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明を比較する。
甲1発明の「カルボキシル基含有アクリルゴム」、「カーボンブラック」、「グリシドキシ基含有シランカップリング剤および/またはエポキシ基含有シランカップリング剤」、「アクリルゴム組成物」は、それぞれ本件発明1の「少なくとも1のポリアクリレートゴム」、「少なくとも1のカーボンブラック」、「少なくとも1のエポキシシラン」、「ゴム混合物」に相当し、また、含有量について、甲1発明の「グリシドキシ基含有シランカップリング剤および/またはエポキシ基含有シランカップリング剤」の含有量は、本件特許発明1の「エポキシシラン」の含有量と重複するものであるから、両発明は、
「ゴム混合物であって、以下:
(A)少なくとも1のポリアクリレートゴム、
(B)少なくとも1のカーボンブラック、及び、
(C)少なくとも1のエポキシシラン
を含有し、
エポキシシランがゴム100質量部に対して、1~20質量部で存在している、ゴム混合物。」
の点で一致し、
アクリレートゴムについて、本件特許発明1では、「ACMポリアクリレートゴム」であるのに対し、甲1発明では「カルボキシル基含有アクリルゴム」である点(相違点1)、
カーボンブラックについて、本件特許発明1では、「ゴム100質量部に対して、5~150質量部で存在している」との含有量の特定があるのに対し、甲1発明ではこのような特定がない点(相違点2)
の2点で一応相違し、
また、本件特許発明1では、「ポリアクリレートゴムに対して0.1~5質量%の硫黄」を含有するのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点(相違点3)、
エポキシシランについて、本件特許発明1では、「該エポキシシランが、一般式I
【化1】
[式中、
Xは、-OCH2-CH3であり、
RIは、分枝鎖状又は非分枝鎖状の、飽和の、脂肪族の、適宜、置換基を有する二価のC1~C30炭化水素基であるか、又は、二価のアルキルエーテル基である]のエポキシシラン」と特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点(相違点4)、
において、両発明は相違している。
(イ)判断
事案に鑑みて相違点3から検討する。
本件特許掲載公報の段落【0067】及び段落【0069】の記載より、本件特許発明1において硫黄は架橋剤として配合されるものであると認められる。
そして、アクリルゴムについて、架橋点タイプと加硫剤(架橋剤)系との間には代表的な組み合わせが存在していることが技術常識であったと認められる。例えば、ゴム工業便覧<第四版> 社団法人日本ゴム協会 平成6年1月20日発行 第311~324頁(特許異議申立人が平成30年1月18日付けで提出した意見書に添付された参考資料1)の特に表15-2、技術資料「Nipol(登録商標) AR」 日本ゼオン株式会社 1998年1月発行(特許異議申立人が平成30年1月18日付けで提出した意見書に添付された参考資料2)には、架橋点タイプが活性塩素基タイプであれば、石けん/硫黄等が用いられ、エポキシ基タイプであれば、ジチオカルバミン酸塩等が用いられることが記載されている。
ここで、甲1には、段落【0016】に、「カルボキシル基含有アクリルゴムは、カルボキシル基を架橋点に持つアクリルゴムである。」と記載され、段落【0056】に、「架橋剤としては、カルボキシル基含有アクリルゴムのカルボキシル基と架橋可能な化合物であれば特に限定されないが、たとえば、多価アミン化合物、多価ヒドラジド化合物、多価エポキシ化合物、多価イソシアナート化合物、アジリジン化合物、塩基性金属酸化物、有機金属ハロゲン化物などが挙げられる。」と記載されるものの、甲1には、カルボキシル基を架橋点とするアクリルゴムの架橋剤として硫黄は記載されていない。
そして、甲2、3、5ないし7、上記参考資料1、2のいずれにも、カルボキシル基を架橋点とするアクリルゴムの架橋剤として硫黄を用いることは記載されていない。
よって、甲1発明において、ゴム組成物に架橋剤として硫黄を配合することの動機付けは見いだせない。
以上より、その他の相違点について詳細に検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明、すなわち、甲1に記載された発明並びに甲2、甲3及び甲5ないし甲7に記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明2ないし9について
本件特許発明2ないし6は、いずれも請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲1に記載された発明並びに甲2、甲3及び甲5ないし甲7に記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件特許発明7ないし9は、請求項1を引用した方法に係る発明であって、ゴム混合物の配合は本件特許発明1と同様であるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲1に記載された発明並びに甲2、甲3及び甲5ないし甲7に記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)甲4を主引用文献とした場合の取消理由について
ア 本件特許発明1について
(ア)甲4に記載された発明
甲4には、請求の範囲 請求項1、10、14~17、段落[0002]~[0004]、[0006]、[0052]、[0094]、[0095]、[0097]、[0098]及び[0104]の記載、特に請求の範囲 請求項1、10、14~17の記載によれば、下記のゴム組成物の発明が記載されている。
「カルボキシル基およびエポキシ基の中から選ばれた少なくとも一種の基を含有するアクリルゴム、ケチミン構造含有化合物、カーボンブラックおよび架橋剤を含有してなるゴム組成物であり、
カーボンブラックの含有量が、カルボキシル基およびエポキシ基の中から選ばれた少なくとも一種の基を含有するアクリルゴム100重量部に対して、20~200重量部であり、
架橋剤の含有量が、カルボキシル基およびエポキシ基の中から選ばれた少なくとも一種の基を含有するアクリルゴム100重量部に対して、0.05~20重量部であり
さらに、エポキシ基含有シランカップリング剤を含有し、エポキシ基含有シランカップリング剤が、一般式
X-Si(OR)3 または X― SiR'(OR)2
(式中、Rおよび R'はアルキル基であり、Xはエポキシ基を含有する原子団である)で表される化合物であって、その含有量が、カルボキシル基およびエポキシ基の中から選ばれた少なくとも一種の基を含有するアクリルゴム100重量部に対して、0.2~5重量部であるゴム組成物」(以下、「甲4発明」という。)
(イ)対比
本件特許発明1と、甲4発明を比較する。
甲4発明の「アクリルゴム」、「カーボンブラック」、「エポキシ基含有シランカップリング剤」、「ゴム組成物」は、本件特許発明1の「少なくとも1のポリアクリレートゴム」、「少なくとも1のカーボンブラック」、「少なくとも1のエポキシシラン」、「ゴム混合物」に相当し、また、ゴム100重量部に対するカーボンブラック、エポキシシラン(エポキシ基含有シランカップリング剤)の含有量も重複する。
また、本件特許掲載公報の段落【0067】および段落【0069】の記載より、本件特許発明1の「硫黄」は架橋剤として配合されるものであるから、甲4発明の「架橋剤」は、本件特許発明1の「硫黄」と、「架橋剤」である限りにおいて一致し、その含有量も重複する。
そうすると、両発明は、
「ゴム混合物であって、以下:
(A)少なくとも1のポリアクリレートゴム、
(A1)前記ポリアクリレートゴムに対して0.1~5質量%の架橋剤、
(B)少なくとも1のカーボンブラック、及び、
(C)少なくとも1のエポキシシラン
を含有し、
該エポキシシランがゴム100質量部に対して、1~20質量部で存在しており、
該カーボンブラックが、ゴム100質量部に対して、5~150質量部で存在しているゴム混合物。」
の点で一致し、
アクリレートゴムについて、本件特許発明1では、「ACMポリアクリレートゴム」であるのに対し、甲4発明では「カルボキシル基およびエポキシ基の中から選ばれた少なくとも1種の基を含有するアクリルゴム」である点(相違点A)、
甲4発明では、「ケチミン化合物」を含むのに対し、本件特許発明1では、これの含有についての特定はない点(相違点B)、
の2点で一応相違し、
また、架橋剤について、本件特許発明1では、「硫黄」であるのに対し、甲4発明では特定はない点(相違点C)、
エポキシシランについて、本件特許発明1では、「該エポキシシランが、一般式I
【化1】
[式中、
Xは、-OCH2-CH3であり、
RIは、分枝鎖状又は非分枝鎖状の、飽和の、脂肪族の、適宜、置換基を有する二価のC1~C30炭化水素基であるか、又は、二価のアルキルエーテル基である]のエポキシシラン」であるのに対し、甲4発明ではこのような特定はされてない点(相違点D)、
において、両発明は相違している。
(ウ)判断
事案に鑑みて相違点Cから検討する。
アクリルゴムについて、架橋点タイプと加硫剤(架橋剤)系との間には代表的な組み合わせが存在していることが技術常識であったと認められる。例えば、ゴム工業便覧<第四版> 社団法人日本ゴム協会 平成6年1月20日発行 第311~324頁(特許異議申立人が平成30年1月18日付けで提出した意見書に添付された参考資料1)の特に表15-2、技術資料「Nipol(登録商標) AR」 日本ゼオン株式会社 1998年1月発行(特許異議申立人が平成30年1月18日付けで提出した意見書に添付された参考資料2)には、架橋点タイプが活性塩素基タイプであれば、石けん/硫黄等が用いられ、エポキシ基タイプであれば、ジチオカルバミン酸塩等が用いられることが記載されている。
ここで、甲4には、段落[0012]に、「本発明に用いるカルボキシル基およびエポキシ基の中から選ばれた少なくとも一種の基を含有するアクリルゴム(以下、『カルボキシル基またはエポキシ基含有アクリルゴム』ということがある)とは、(メタ)アクリル酸エステル単量体・・・単位を主構成成分とし、架橋点となるカルボキシル基および/またはエポキシ基を含有する重合体である。」と記載され、段落[0053]及び[0054]に、「本発明のゴム組成物に使用される架橋剤は、カルボキシル基またはエポキシ基含有アクリルゴムのカルボキシル基および/またはエポキシ基と架橋可能な化合物であれば限定されない。カルボキシル基用架橋剤としては、多価アミン化合物、多価ヒドラジド化合物、多価エポキシ化合物、多価イソシアナート化合物、アジリジン化合物、塩基性金属酸化物、有機金属ハロゲン化物などが挙げられる。また、エポキシ基用架橋剤としては、多価アミン化合物、イミダゾール化合物、多価カルボン酸化合物、カルボン酸アンモニウム塩、酸無水物、活性水素化合物、イソシアヌル酸化合物などが挙げられる。」と記載されるものの、甲4には、カルボキシル基および/またはエポキシ基を架橋点とするアクリルゴムの架橋剤として硫黄は記載されていない。
そして、甲2、3、5ないし7、上記参考資料1、2のいずれにも、カルボキシル基および/またはエポキシ基を架橋点とするアクリルゴムの架橋剤として硫黄を用いることは記載されていない。
よって、甲4発明において、ゴム組成物に架橋剤として硫黄を配合することの動機付けは見いだせない。
以上より、その他の相違点について詳細に検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4発明、すなわち、甲4に記載された発明並びに甲2、甲3及び甲5ないし甲7に記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明2ないし9について
本件特許発明2ないし6は、いずれも請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲4に記載された発明並びに甲2、甲3及び甲5ないし甲7に記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件特許発明7ないし9は、請求項1を引用した方法に係る発明であって、ゴム混合物の配合は本件特許発明1と同様であるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲4に記載された発明並びに甲2、甲3及び甲5ないし甲7に記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)小括
したがって、本件特許発明1ないし9は、甲1及び甲4のいずれかに記載された発明並びに甲2、甲3及び甲5ないし甲7に記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
特許異議申立人は、特許異議の申立ての理由として、概略、以下のとおり主張している。
・理由A
本件特許の請求項3に係る特許発明は、「一般式Iのエポキシシラン」を含んでいるが、「一般式I」は引用する請求項1、2の双方に記載され、それぞれ別の意味を有しており、そのため「一般式I」がどの式を示すのかが不明瞭であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。
・理由B
本件特許の請求項1に係る特許発明は、「ACMポリアクリレートゴム」が何を意味するかが不明瞭であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。
2 当審の判断
(1)理由Aについて
請求項1を引用する請求項3において、請求項3に記載される「一般式Iのエポキシシラン」は、請求項1に記載される、
「(C)少なくとも1のエポキシシラン
・・・該エポキシシランが、一般式I
【化1】
[式中、
Xは、-OCH2-CH3であり、
RIは、分枝鎖状又は非分枝鎖状の、飽和の、脂肪族の、適宜、置換基を有する二価のC1~C30炭化水素基であるか、又は、二価のアルキルエーテル基である]
のエポキシシラン」である。
請求項2を引用する請求項3において、請求項3に記載される「一般式Iのエポキシシラン」は、請求項2に記載される、
「エポキシシランが、以下:
【化2】
の一般式Iを有している」ものである。
そして、請求項2は請求項1を引用するものであるところ、請求項2に記載される一般式Iのエポキシシランは、請求項1に記載される一般式Iのエポキシシランに含まれるものである。
よって、請求項3に記載される「一般式Iのエポキシシラン」は不明瞭とはいえない。
(2)理由Bについて
請求項1の「ACMポリアクリレートゴム」について、本件の特許掲載公報の詳細な説明に特定の定義の記載はなく、甲2及び甲3に示されているような、当業者の技術常識であるACMを指すと解される。
よって、請求項1に記載される「ACMポリアクリレートゴム」は不明瞭とはいえない。
3 小括
上記2のとおりであるから、本件特許の請求項1及び3に係る各特許発明は、明確である。
第6 むすび
したがって、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立ての理由並びに証拠によっては、請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2017-700527