特許異議申立
2017-700046
車両用ウインド材
- 審判番号
- 2017-700046
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-109133外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年01月19日
- 審決日
- 2018年05月17日
- 公報発行日
- 2018年08月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 分類
- P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5954257号発明「車両用ウインド材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5954257号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第5954257号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第5954257号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成28年6月24日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議の申立て期間内である平成29年1月19日に特許異議申立人宮本邦彦(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年3月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年5月29日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成29年6月27日に申立人より意見書の提出がされ、平成29年9月27日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成29年12月1日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成30年1月10日に申立人より意見書が提出されたものである。その後、平成30年3月2日付け審尋に対し、平成30年4月4日に特許権者より審尋回答書が提出された。
なお、平成29年5月29日付け訂正請求書による訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の請求
1 訂正の内容
平成29年12月1日付け訂正請求書による訂正の請求は、「特許第5954257号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を、次のように訂正するものである(下線は、訂正箇所を示す)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記透明樹脂基材は、70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、及び室温下で1GPa以上の弾性率を有し」と記載しているのを、
「前記透明樹脂基材は、単一の樹脂材料から成り、かつ、70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、及び室温下で1GPa以上の弾性率を有し」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~4についても同様に訂正する。)。
(2) 訂正事項2
明細書の段落【0010】に
「前記透明樹脂基材は、70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、及び室温下で1GPa以上の弾性率を有し」と記載しているのを、
「前記透明樹脂基材は、単一の樹脂材料から成り、かつ、70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、及び室温下で1GPa以上の弾性率を有し」に訂正する。
2 訂正の適否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「透明樹脂基材」について、訂正後の請求項1の「単一の樹脂材料から成り、かつ、」との記載を加入することにより、透明樹脂基材の構成を具体的に特定し、更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正事項1は、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2~4についても上記のとおり減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項1は「透明樹脂基材」の構成を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2~4に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。
よって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、願書に添付した明細書の
「基材2は、主成分としてポリカーボネート樹脂又はアクリル樹脂を含む。図2,3を用いて説明する実験では、基材2として、ポリカーボネート(帝人化成(株)製:L-1250)を用いた。」(【0030】)という記載、
「(光硬化により製造した透明積層体)
[実施例1~15、比較例1~4]
基材2として、ポリカーボネート(帝人化成(株)製:L-1250)又はポリメチルメタクリレート((株)カネカ製)を用いた。まず、厚さ3mmの基材2上に、保護膜3が所定の厚みになるようスペーサを接着した。続いて、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.5部を混合した、保護膜3を構成する塗料組成物を流延し、80℃で3分間加熱を行った。続いてPETフィルムで押さえつけ余分な塗料組成物を除去した。その後、PETフィルムでカバーした状態で、200nm以上400nm以下の波長域の光を、照度が505mW/cm2の条件で、水銀ランプを用いて照射し、8400mJ/cm2の積算露光量で塗料組成物を硬化させた。これにより、透明積層体1を得た。」(【0062】)、及び、
「(熱硬化により製造した透明積層体)
[実施例16,17]
基材2として、ポリカーボネート(帝人化成(株)製:L-1250)を用いた。まず、厚さ3mmの基材2上に、保護膜3が所定の厚みになるようスペーサを接着した。続いて、硬化触媒としてフタルイミドDBU2.5部を混合した、保護膜3を構成する塗料組成物を流延し、80℃で3分間加熱を行った。続いてコーターブレードで余分な塗料組成物を除去した。その後、120℃で11時間加熱を行い、塗料組成物を硬化させた。これにより、透明積層体1を得た。」(【0063】)
のそれぞれに記載された、基材2が「ポリカーボネート(帝人化成(株)製:L-1250)」という単一の樹脂材料から構成されることを示す記載に基づくものである。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項に適合する。
(2) 訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合性を図るための訂正事項であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合性を図るための訂正事項であるところ、訂正前の請求項1~4に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項2は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合性を図るための訂正であり、上記訂正事項1において示したとおり、明細書の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
(3) 一群の請求項、及び、願書に添付した明細書の訂正に係る請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正事項2は、当該一群の請求項を対象とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項に適合する。
3 まとめ
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とし、同条第4項並びに同条第9項の規定によって準用する第126条第4項ないし第6項に適合するので、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正を認める。
第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1~4に係る発明(以下「本件発明1~4」という。また、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
【請求項1】
透明樹脂基材と、該透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に設けられた透明保護膜とを備えた車両用ウインド材であって、
前記透明樹脂基材は、単一の樹脂材料から成り、かつ、70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、及び室温下で1GPa以上の弾性率を有し、
前記透明保護膜は、アクリロイル基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂が15重量%以上50重量%以下、重合性不飽和化合物が50重量%以上75重量%以下含まれるシリコーン樹脂組成物を含み、
前記透明保護膜は、10μm以上80μm以下の厚さを有することを特徴とする車両用ウインド材。
【請求項2】
前記透明樹脂基材は、室温下で10kgf/mm2以上のビッカース硬度を有し、かつ、ポリカーボネート樹脂又はアクリル樹脂を主成分とすることを特徴とする、請求項1記載の車両用ウインド材。
【請求項3】
前記透明保護膜は、前記シリコーン樹脂組成物が、かご型シルセスキオキサン樹脂以外の材料を含む場合に、はしご型シルセスキオキサン樹脂及びランダム型シルセスキオキサン樹脂の少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の車両用ウインド材。
【請求項4】
前記透明保護膜は、紫外線吸収剤を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の車両用ウインド材。
第4 取消理由の概要
当審で通知した取消理由の概要は以下のとおりである。なお、本件特許異議の申立てにおいて申立てられた全ての申立理由が通知された。
[理由1] 本件発明1は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物(甲1)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
[理由2] 本件発明1~4は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(理由2-1) 本件発明1~4は、甲1に記載された発明及び甲3~6、8~10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(理由2-2) 本件発明1~4は、甲5に記載された発明及び甲1、3、4、6、8~10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
<刊行物>
甲1.国際公開第2012/063637号
甲2.出光興産株式会社のウェブサイトの「タフロン物性一覧表」、「タフロン主要グレード」
甲3.特開2005-314586号公報
甲4.特開2003-137944号公報
甲5.特開平4-33936号公報
甲6.国際公開第2009/104407号
甲7.国際公開第2012/133079号
甲8.特開2011-34841号公報
甲9.特開2004-123936号公報
甲10.国際公開第2004/085501号の再公表特許
(なお、甲2及び甲7は、本件優先日後に頒布されたものであるが、技術常識を示すものとして示したものである。)
[理由3] 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
記
請求項1の「保護膜は、・・・シリコーン樹脂組成物を含み」との記載による特定について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、保護膜3にシリコーン樹脂組成物が含まれることについての記載や示唆はないから、本件発明1~4は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
第5 取消理由についての判断
1 理由1について
(1) 甲1に記載された発明
甲1には、その実施例1に着目しつつ甲1の記載全体を総合すると、
「 透明性を有する30~300μmのポリカーボネートフィルムからなる基材層4の片面に透明樹脂層であるハードコート層2が積層一体化されたハードコートフィルム積層体1と、
前記ハードコートフィルム積層体1の基材層4に射出成形で溶融一体化させた、透明性を有する厚み3mmのポリカーボネート樹脂からなる樹脂成形体7と、
からなる自動車の窓ガラス用射出成形体であって、
前記ハードコート層2はアクリロイル基を有する籠型シルセスキオキサン樹脂を25部、ジペンタエリスリトール65部、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート10部、及びヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.5部を混合した光硬化性樹脂組成物を前記基材層4に硬化後の厚みが0.05mmとなるように塗布したものである、
自動車の窓ガラス用射出成形体。」の発明(以下「甲1発明」という。)
が記載されている([0001]、[0006]、[0025]、[0027]~[0034]、[0037]、[0040]~[0041]、[0045]~[0046]、[0048]、[0052]~[0054]、[請求項8]~[請求項11]、[図3]等参照)。
(2) 本件発明1と甲1発明の対比、判断
甲1発明の「透明樹脂層であるハードコート層2」は、本件発明1の「透明保護膜」に相当し、また、甲1発明の「透明性を有する30~300μmのポリカーボネートフィルムからなる基材層4」と当該「基材層4に射出成形で溶融一体化させた、透明性を有する厚み3mmのポリカーボネート樹脂からなる樹脂成形体7」とからなる構造体は、本件発明1の「透明樹脂基材」に相当する。そうすると、甲1発明の「基材層4の片面に」「積層一体化された」「ハードコート層2」は、本件発明1の「透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に設けられた透明保護膜」に相当する。
また、甲1発明の「自動車の窓ガラス用射出成形体」は、本件発明1の「車両用ウインド材」に相当する。
また、甲1発明の「アクリロイル基を有する籠型シルセスキオキサン樹脂を25部、ジペンタエリスリトール65部、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート10部、及びヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.5部を混合した光硬化性樹脂組成物」は、光硬化性樹脂組成物中に籠型シルセスキオキサン樹脂を24質量%[=25/(25+65+10+2.5)]、重合性不飽和化合物を73質量%[=(65+10)/(25+65+10+2.5)]含むといえることから、本件発明1の「アクリロイル基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂が15重量%以上50重量%以下、重合性不飽和化合物が50重量%以上75重量%以下含まれるシリコーン樹脂組成物」に相当する。
また、甲1発明の「ハードコート層2」の「硬化後の厚みが0.05mm」であることは、本件発明1の「透明保護膜は、10μm以上80μm以下の厚さを有する」ことに相当する。
よって、本件発明1と甲1発明とは、
「 透明樹脂基材と、該透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に設けられた透明保護膜とを備えた車両用ウインド材であって、
前記透明保護膜は、アクリロイル基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂が15重量%以上50重量%以下、重合性不飽和化合物が50重量%以上75重量%以下含まれるシリコーン樹脂組成物を含み、
前記透明保護膜は、10μm以上80μm以下の厚さを有する、車両用ウインド材。」
である点で一致し、以下の点において相違する。
(相違点1)
透明樹脂基材に関して、本件発明1は、単一の樹脂材料から成るのに対して、甲1発明は、ポリカーボネートフィルムからなる基材層4と当該基材層4に射出成形で溶融一体化させたポリカーボネート樹脂からなる樹脂成形体7とからなる点。
(相違点2)
透明樹脂基材の物性について、本件発明1は、70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、及び室温下で1GPa以上の弾性率を有しているのに対して、甲1発明は、30~300μmのポリカーボネートフィルムからなる基材層4と当該基材層4に射出成形で溶融一体化させた厚み3mmのポリカーボネート樹脂からなる樹脂成形体7とからなるものであるが、その物性については明らかにされてない点。
そこでまず、上記相違点1について検討する。
甲1発明の「ポリカーボネートフィルム」と「射出成形したポリカーボネート樹脂」とは、共に「ポリカーボネート」を原料とするものの、一方は「フィルム」として加工されたものであり、他方は「射出成形」されたものであり、それにより異なる物性も生じ得ることを考慮すれば、両者を一体化させたものが「単一の樹脂材料」であるとすることはできない。
そうすると、上記相違点1は、実質的な相違点であるということができる。
よって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、その特許は、特許法第113条第2号に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。
2 理由2について
2-1 理由2-1について
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点
本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は、上記1(2)に示したとおりである。
イ 相違点についての判断
まず、上記相違点1について検討する。
甲1発明は、甲1の発明の詳細な説明中の「背景技術」([0002])及び「発明が解決しようする課題」([0006])の記載を参照すると、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂の射出成形品の表面を保護するために用いられる硬化性フィルムについて、非常に表面硬度が高く、樹脂成形品に対する密着性や金型への追従性に優れた射出成形用ハードコートフィルム積層体を提供することを目的とするものであるところ、甲1発明は、ハードコートフィルムに相当する基材層4と当該基材層4に射出成形で溶融一体化させる樹脂成形体の2つの樹脂材料で構成することが、その課題解決のための前提構成であることが理解される。
よって、甲1に接した当業者にとって、甲3~6、8~10に「単一の樹脂材料」の成形体が示されていたとしても、甲1発明について、ハードコートフィルムに相当する基材層4と当該基材層4に射出成形で溶融一体化させる樹脂成形体の2つの樹脂材料で構成することを変更する動機は生じ得えないし、変更することには阻害要因があるといえる。
よって、上記相違点1は、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
したがって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲3~6、8~10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2) 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記(1)のとおり、本件発明1は、甲1発明及び甲3~6、8~10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明2~4についても同様に、甲1発明及び 甲3~6、8~10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
2-2 理由2-2について
(1) 甲5に記載された発明
甲5には、
「 ポリカーボネート成形品の表面に、少なくとも(A)(メタ)アクリル官能性ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサン20~90重量部、(B)ポリアクリレートまたはポリメタクリレート80~10重量部及び(c)光重合開始剤からなる紫外線硬化性組成物を塗布し、紫外線を照射して硬化させて、厚さ0.5~20μmの硬化被膜を形成した、自動車用窓ガラス。」の発明(以下「甲5発明」という。)
が記載されている(特許請求の範囲、発明の詳細な説明中の[産業上の利用分野]の欄、[発明が解決しようとする課題]の欄、第3頁右上欄下から3行~左下欄6行、第7頁左下欄下から2行~左下欄下から5行の記載等参照)。
(2) 本件発明1~4と甲5発明の対比、判断
本件発明1~4と甲5発明とを対比し、本件発明1~4の「透明保護膜」が甲5発明の「硬化被膜」に相当し、甲5発明の「(メタ)アクリル官能性ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサン」は、アクリロイル基を有するラダー型シルセスキオキサン樹脂といえることを踏まえると、両者は少なくとも以下の点において相違する。
(相違点3)
透明保護膜について、本件発明1~4は、アクリロイル基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂が15重量%以上50重量%以下含まれるシリコーン樹脂組成物を含むものであるのに対して、甲5発明は、アクリロイル基を有するラダー型シルセスキオキサン樹脂を含むものの、アクリロイル基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂が15重量%以上50重量%以下含まれるものではない点。
上記相違点3について検討すると、甲5発明は、「硬化の際の収縮が少なく、ポリカーボネート成形品の表面と硬化被膜との密着性に優れ、かつ硬化被膜の硬度、体表面損傷性、脆さ、耐熱性、耐水性及び耐候性等に優れた被覆ポリカーボネート成形品の製造方法を提供することを目的とする」([発明が解決しようとする課題]の欄)という課題解決のために、ポリカーボネート成形品の被覆に特定の「アクリロイル基を有するラダー型シルセスキオキサン樹脂」を含ませるようにし、少なくとも(A)(メタ)アクリル官能性ラダー型ポリオルガノシルセスキオキサン20~90重量部、(B)ポリアクリレートまたはポリメタクリレート80~10重量部及び(c)光重合開始剤という組成としたものである。
そうすると、甲5発明において上記特定の「アクリロイル基を有するラダー型シルセスキオキサン樹脂」を用いること及び上記(A)~(C)という組成とすることは、甲5における課題解決のために必要な成分の選択及び成分組成であるから、甲5に接した当業者にとって、当該必要な成分や成分組成を変更しようとする動機は生じ得ない。
そのため、甲1などにみられるような「アクリロイル基を有するかご型シルセスキオキサン樹脂」が知られていたとしても、甲5発明について、上記相違点3に係る本件発明1~4の構成を得ることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。
よって、本件発明1~4は、甲5発明及び甲1、3、4、6、8~10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
2-3 まとめ
以上のとおり、本件発明1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。
3 理由3について
請求項1の「保護膜は、・・・シリコーン樹脂組成物を含み」という記載による特定は、最終的に保護膜となった際の硬化されたシリコーン樹脂組成物の構造を特定しようとするものではなく、本件特許明細書の「保護膜3は、シリコーン樹脂組成物を主成分とする」(【0036】)などの記載を参酌すれば、当該保護膜の形成材料として「シリコーン樹脂を含」むと表現したものであると、当業者であれば理解することができる。
そうすると、本件発明1~4の「保護膜は、・・・シリコーン樹脂組成物を含み」という構成は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないということはできないから、請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
よって、本件発明1~4に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700046