特許異議申立
2017-700034
発光装置および画像表示装置
- 審判番号
- 2017-700034
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-087081
- 登録番号
- 特許第5952938号(P5952938)
- 請求日
- 2017年01月13日
- 審決日
- 2017年06月22日
- 公報発行日
- 2017年08月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】シャープ株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
- 【異議申立人】本庄 武男
- 審判長/審判官
- 審判長 河原 英雄
- 審判官 森 竜介
- 審判官 星野 浩一
- 分類
- P1651.121-Y (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5952938号発明「発光装置および画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5952938号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5952938号の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、平成27年4月21日に特許出願され、平成28年6月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人本庄武男により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年3月22日付けで取消理由を通知し、同年5月23日付けで意見書が提出されたものである。
第2 本件特許発明
特許第5952938号の請求項1ないし13に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項の項番に従い「本件特許発明1」などという。)。
「【請求項1】
青色光を発する発光素子と、
上記青色光により励起されて緑色光を発する量子ドット蛍光体と、
上記青色光により励起されて赤色光を発するMn4+賦活フッ素錯体蛍光体とを備え、
上記量子ドット蛍光体が発する緑色光の発光スペクトルのピーク波長は520nm以上かつ540nm以下であることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
上記緑色光の発光スペクトルの半値幅は、25nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
上記赤色光の発光スペクトルの半値幅は、10nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
上記発光素子を封止する分散材をさらに備え、
上記量子ドット蛍光体および上記Mn4+賦活フッ素錯体蛍光体は、上記分散材に分散されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項5】
上記分散材は、透明な樹脂材料で構成されていることを特徴とする請求項4に記載の発光装置。
【請求項6】
上記量子ドット蛍光体は、CdSe、CdS、CdTe、InP、InN、AlInN、InGaN、AlGaInN、CuInGaSeのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項7】
上記Mn4+賦活フッ素錯体蛍光体は、一般式MI2(MII1-hMnh)F6で表され、
上記一般式において、MIは、Li、Na、K、RbおよびCsのうち少なくとも1種のアルカリ金属元素を含み、
MIIは、Ge、Si、Sn、TiおよびZrのうち少なくとも1種の4価の金属元素を含み、
hは、0.001以上かつ0.1以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項8】
上記Mn4+賦活フッ素錯体蛍光体は、K2(Si1-hMnh)F6であることを特徴とする請求項7に記載の発光装置。
【請求項9】
上記Mn4+賦活フッ素錯体蛍光体は、一般式MIII(MII1-hMnh)F6で表され、
上記一般式において、MIIIは、Mg、Ca、SrおよびBaのうち少なくとも1種のアルカリ土類金属元素を含み、
MIIは、Ge、Si、Sn、TiおよびZrのうち少なくとも1種の4価の金属元素を含み、
hは、0.001以上かつ0.1以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項10】
上記Mn4+賦活フッ素錯体蛍光体は、Ba(Si1-hMnh)F6であることを特徴とする請求項9に記載の発光装置。
【請求項11】
上記青色光のピーク波長は、420nm以上かつ480nm以下であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項12】
上記青色光のピーク波長は、440nm以上かつ460nm以下であることを特徴とする請求項11に記載の発光装置。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の発光装置を備えることを特徴とする画像表示装置。」
第3 取消理由の概要
当審において、本件特許発明1ないし13に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。なお、前記取消理由と特許異議申立理由は同じである。
1 甲第1号証に記載された発明を主引用発明とする取消理由
本件特許発明1ないし7、9ないし13は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件特許発明8は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術的事項及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件特許発明1ないし13は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 甲第2号証に記載された発明を主引用発明とする取消理由
本件特許発明1ないし7、9ないし13は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件特許発明8は、甲第2号証に記載された発明、甲第1号証に記載された技術的事項及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件特許発明1ないし13は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<刊行物等一覧>
甲第1号証:国際公開第2009/110285号
甲第2号証:国際公開第2014/123724号(パテントファミリー 特表2016-507165号公報)
甲第3号証:特開2012-163936号公報
甲第4号証:日本色彩学会編著、「新編 色彩科学ハンドブック」、第2版、財団法人東京大学出版会、1998年6月10日、p.986-p.989及び奥付、写し
甲第5号証:特開2004-78102号公報
甲第6号証:特開2010-93132号公報
甲第7号証:特表2013-534042号公報
甲第8号証:国際公開第2014/021006号
甲第9号証:特開2012-216717号公報
第4 甲各号証の記載
1 甲第1号証
甲第1号証には、以下の記載がある。なお、下線は、当審で付与した。以下、同様。
「[0008]本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、発光素子からの430~480nmの範囲の光によって高効率に発光する特定の蛍光体を用いることにより、色再現性(NTSC比)の優れた発光装置を提供することである。
課題を解決するための手段
[0009]本発明の発光装置は、一次光を発する発光素子と、発光素子から発せられた一次光の一部を吸収して、一次光の波長よりも長い波長を有する二次光を発する波長変換部とを備える発光装置であって、上記波長変換部は、緑色系発光蛍光体および赤色発光蛍光体を含み、上記緑色系発光蛍光体が、
一般式(A):Eua Sib Alc Od Ne
(上記一般式(A)中、0.005≦a≦0.4、b+c=12、d+e=16である。) で実質的に表されるβ型SiAlONである2価のユーロピウム付活酸窒化物蛍光体、ならびに、
一般式(B):2(Ba1-f-g MIf Eug )O・SiO2
(上記一般式(B)中、MIはMg、CaおよびSrから選らばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素を示し、0<f≦0.55、0.03≦g≦0.10である。) で実質的に表される2価のユーロピウム付活珪酸塩蛍光体から選ばれる少なくとも1種からなり、
上記赤色系発光蛍光体(5)が、
一般式(C):MII2 (MIII1-h Mnh )F6
(上記一般式(C)中、MIIはLi、Na、K、RbおよびCsから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素、MIIIはGe、Si、Sn、TiおよびZrから選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素を示し、0.001≦h≦0.1である。)
で実質的に表される4価のマンガン付活フッ化4価金属塩蛍光体、ならびに、
一般式(D):MIV(MIII1-h Mnh )F6
(上記一般式(D)中、MIVはMg、Ca、Sr、BaおよびZnから選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素、MIIIはGe、Si、Sn、TiおよびZrから選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素を示し、0.001≦h≦0.1である。)
で実質的に表される4価のマンガン付活フッ化4価金属塩蛍光体から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする。」(段落0008~0009)
「上述した本発明の発光装置に用いる発光素子としては特に制限されるものではないが、ピーク波長が430~480nm(より好適には440~480nm)の青色領域の一次光を発する窒化ガリウム(GaN)系半導体を発光素子として好適に用いることができる。」(段落0027第1文)
これらの記載によれば、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「青色領域の一次光を発する発光素子と、発光素子から発せられた一次光の一部を吸収して、一次光の波長よりも長い波長を有する二次光を発する波長変換部とを備える発光装置であって、上記波長変換部は、緑色系発光蛍光体および赤色発光蛍光体を含み、
上記緑色系発光蛍光体が、2価のユーロピウム付活蛍光体からなり、
上記赤色系発光蛍光体が、4価のマンガン付活フッ化4価金属塩蛍光体からなることを特徴とする、
発光装置。」
また、甲第1号証には、「青色領域の一次光」「の波長よりも長い波長を有する二次光を発する波長変換部」に含まれる「赤色系発光蛍光体が、4価のマンガン付活フッ化4価金属塩蛍光体からなること」の技術事項が記載されている。
2 甲第2号証
甲第2号証には、以下の記載がある。なお、原文の後に日本語訳(当審訳)を付す。
「1. An optical construction comprising:
a blue light source emitting blue light having a wavelength in a range from 440 to 460 nm and an FWHM of less than 25 nm;
a liquid crystal display (LCD) panel comprising a set of red, blue and green color filters; and
a quantum dot film element comprising a plurality of quantum dots emitting a peak red wavelength in a range from 600 to 640 nm and an FWHM of less than 50 nm and a peak green wavelength in a range from 515 to 555 nm and an FWHM of less than 40 nm and being optically between the blue light source and the LCD panel. 」(請求項1)
(1.440~460nmの波長範囲を有し、かつFWHMが25nm未満である青色光を発する青色光源と、
赤色、青色及び緑色のカラーフィルタのセットを含む液晶ディスプレイ(LCD)パネルと、
600~640nmの範囲でFWHMが50nm未満のピーク赤色波長と、515~555nmの範囲でFWHMが40nm未満のピーク緑色波長とを発する、複数の量子ドットを含み、かつ前記青色光源と前記LCDパネルとの間に光学的に配置された量子ドットフィルムエレメントと、
を含む、光学的構造物。)
「The disclosure relates to the design of LCD displays that deliver an improved color gamut area (measured as %NTSC) using a quantum dot element. 」(第1頁第4行~同頁第5行)
(本開示は、量子ドットエレメントを用いた、改善された色域領域(%NTSCとして測定される)を提供するLCDディスプレイの設計に関する。)
「The quantum dot film element can include one or more populations of quantum dot material. Exemplary quantum dots or quantum dot material emit green light and red light upon down-conversion of blue primary light from the blue LED to secondary light emitted by the quantum dots. The respective portions of red, green, and blue light can be controlled to achieve a desired white point for the white light emitted by the display device incorporating the quantum dot film element.」(第6頁第30行~同頁第34行)
(量子ドットフィルムエレメントは、1つ又は複数の量子ドット材料集合を含み得る。例示的な量子ドット又は量子ドット材料は、青色LEDからの青色一次光を、量子ドットにより発光される二次光にダウンコンバートすることにより、緑色光と赤色光を発する。赤色光、緑色光、及び青色光のそれぞれの部分が制御されて、望ましい白色点を達成し、これにより、量子ドットフィルムエレメントを組み込んだディスプレイ装置が白色光を発することができる。)
「In one or more embodiments, the LCD panel has a native color gamut in a range from 75% to 85% NTSC, and the quantum dot film element includes a plurality of quantum dots emitting a peak red wavelength of in a range from 610 to 630 nm and an FWHM of less than 45 nm and a peak green wavelength in a range from 520 to 540 nm and an FWHM of less than 35 nm. The optical construction then achieves a color gamut of at least 90% NTSC. 」(第8頁第6行~同頁第9行)
(1つ又は複数の実施形態において、LCDパネルは、75%~85% NTSCの範囲のネイティブ色域を有し、量子ドットフィルムエレメントには、610~630nmの範囲でFWHMが45nm未満のピーク赤色波長と、520~540nmの範囲でFWHMが35nm未満のピーク緑色波長とを発する、複数の量子ドットが含まれる。これにより光学的構造物は、少なくとも90% NTSCの色域を達成する。)
これらの記載によれば、甲第2号証には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「青色光を発する青色光源と、
液晶ディスプレイ(LCD)パネルと、
赤色波長と、520nm~540nmの範囲でFWHMが35nm未満のピーク緑色波長とを発する、複数の量子ドットを含み、かつ前記青色光源と前記LCDパネルとの間に光学的に配置された量子ドットフィルムエレメントと、
を含む、光学的構造物。」
の発明が記載されている。
また、甲第2号証には、「520nm~540nmの範囲でFWHMが35nm未満のピーク緑色波長を発する」「量子ドット(蛍光体)」の技術事項が記載されている。
3 甲第3号証
甲第3号証には、以下の記載がある。
「波長440~480nmの青色の励起光を照射すると赤色の可視光(波長が600nm~700nmの蛍光)を発する無機蛍光体の具体例としては、Mg2TiO4:Mn4+、K2SiF6:Mn4+などが挙げられる。」(段落0028第7文)
「波長300~440nmの紫外~近紫外の励起光や波長440~480nmの青色の励起光を照射すると緑色の可視光(波長が500nm~540nmの蛍光)を発する量子ドットの具体例としては、粒子径が3.0nm~3.3nm程度のCdSeの微結晶などが挙げられる。」(段落0030第3文)
4 甲第4号証
甲第4号証には、NTSC規格における緑色の色度座標が(x,y)=(0.21,0.71)であることが記載されている(表25.1及び図25.6)。
5 甲第5号証
甲第5号証には、以下の記載がある。
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記のことから、NTSC規格の色特性を有するような高いNTSC比を有し、優れた色再現性を有するカラー液晶表示装置の提供が望まれている。」(段落0008)
「【0020】
1.緑色(G)LED
本発明における緑色(G)LEDは、ピーク波長が530±10nmの緑色(G)LEDであれば、その種類等は特に限定されるものではない。図2のCIExy座標に示すように、NTSC規格(破線)の緑色(G)は、530nm近傍である。本発明によれば、カラー液晶表示装置用LEDバックライトの、緑色(G)のLEDのピーク波長を530±10nmとすることにより、カラー液晶表示装置に用いた場合に、緑色の再現領域が広くなり、NTSC比を高くすることが可能となる。」(段落0020)
6 甲第6号証
甲第6号証には、以下の記載がある。
「【0006】
青色LEDと赤色蛍光体、緑色蛍光体とを用いた白色発光デバイスを液晶表示装置のバックライト光源として用いるなどして、画像表示装置として用いた際、蛍光体としての発光スペクトル線幅がより狭いものを用いると、ディスプレイの色再現域が広くなる傾向がある。青色LEDと特許文献2、3に示される蛍光体とを用いた場合、赤色蛍光体の発光スペクトルのスペクトル幅が80nm以上であるため、赤色の色再現域が充分でない。よって、より広い赤色を表示可能なディスプレイを実現可能な白色発光する半導体発光装置、および当該白色発光する半導体発光装置を用いた画像表示装置が求められている。」(段落0006)
「【0009】
本発明におけるMn4+賦活蛍光体は、発光のピーク波長が625nm以上であり、発光スペクトルの半値幅が30nm以下であるものを好適に用いることができる。」(段落0009)
「【0010】
上記Mn4+賦活蛍光体は、Mn4+賦活Mgフルオロジャーマネート、もしくはMn4+賦活K2MF6(M=Si、Ge、Ti)であることが好ましい。」(段落0010)
「【0017】
<赤色蛍光体>
本発明の半導体発光装置において、赤色蛍光体として用いられるMn4+賦活蛍光体は、その発光のピーク波長が625nm以上であり、発光スペクトルの半値幅は30nm以下であることが好ましい。・・・ここで、Mn4+賦活蛍光体とは、発光のピーク波長が625nm以上であり、発光スペクトルの半値幅が30nm以下であるものが好適に用いられる。」(段落0017第1文及び最終文)
「図8に示す発光スペクトルの色度座標は(u’,v’)=(0.535,0.520)、ピーク波長は631nm、半値幅は8nmであった。なお、本製造例では、青色カラーフィルタとの波長整合性が良いことから、450nmの光で励起を行った。」(段落0038第7文及び第8文)
7 甲第7号証
甲第7号証には、以下の記載がある。
「【0035】
QD中に組み込むことのできる適切な半導体材料は、CdSe、CdS、CdTe、ZnSe、ZnO、ZnS、ZnTe、HgS、HgSe、HgTeなどのII-VI群の元素、およびCdZnSeなどのその合金、InAs、InP、GaAs、GaP、InN、GaN、InSb、GaSb、AlP、AlAs、AlSbなどのIII-V群、およびInAsP、CdSeTe、ZnCdSe、InGaAsなどの合金、PbSe、PbTe、PbSなどのIV-VI群、およびその合金、InSe、InTe、InS、GaSeなどのIII-VI群およびInGaSe、InSeSなどのその合金、SiなどのIV半導体群およびそのGe合金、および複合体構造のその組み合わせから選択される。」(段落0035)
「・・・K2SiF6:Mn4+・・・Mg8Ge2O11F2:Mn4+・・・Mg2TiO4:Mn4+・・・Y3Al5O12:Mn4+・・・」(段落0157)
8 甲第8号証
甲第8号証には、以下の記載がある。
「また、これらの窒化物蛍光体、硫化物蛍光体の励起スペクトルは、長波長側まで延びており、黄色#緑色蛍光体と混ぜて白色LEDを作製したときには、緑色~黄色蛍光体から発光した光を再吸収して発光する、いわゆる多段励起が発生し易いという問題もある。」(段落0006)
「また、このアルカリ土類金属シリケート蛍光体では、最大励起強度が得られる波長で励起したときの発光ピーク強度をI max とし、励起波長550nmにおける発光ピーク強度をI ex550nm としたとき、(I ex550nm )/(I max )<0.25の関係を満たす。」(段落0033)
「例えば550nm励起での発光強度(I ex550nm )は、400nm励起(最大励起強度が得られる波長)での発光強度(I max )の50%より大きくなっている((I ex550nm )/(I max )>0.5)。このことは、例えば緑色から黄色蛍光体と混ぜて白色LEDを製造したとき、これらの赤色蛍光体は、その緑色~黄色蛍光体が発光した光を再吸収することで励起して赤色発光することを示している。すなわち、多段励起が発生し易いことを示している。このような赤色蛍光体を用いて白色LEDを作成すると、色味にバラつきが生じたり、発光効率の低下が生じやすくなる。」(段落0034)
「これに対して、本実施の形態に係るアルカリ土類金属シリケート蛍光体では、上述のように、(I ex550nm )/(I max )<0.25の関係を満たす。このアルカリ土類金属シリケート蛍光体では、このような励起スペクトル形状を有していることで、緑色や黄色の蛍光体と混合して使用した場合においても多段励起が抑制され、例えば白色LEDの色味のズレやバラつき、多段励起による効率低下や色ずれを抑制することができ、極めて色純度が高く演色性に優れた蛍光体となる。」(段落0035)
9 甲第9号証
甲第9号証には、以下の記載がある。
「【0002】
この種のLEDとしては、紫外光を射出するLED素子と、その紫外光によって励起されて光(以下、蛍光ともいう)を発する赤色蛍光体、緑色蛍光体及び青色蛍光体とを具備するものがある(特許文献1)。各蛍光体は、紫外光だけでなく、他の蛍光体からの蛍光によって励起されることがあり、このようないわば多段励起が起きると、励起に伴うエネルギーロスが増大して、発光効率が低下してしまう。従って、通常は多段励起を可及的に防止して、各蛍光体からの蛍光がそのまま外部に射出されるようにしてある。従って、これら蛍光を混合して白色光を導出すると、その白色光のスペクトルにおいて、各蛍光体が有するピーク波長に複数の局所的なピーク(以下、局所ピークともいう)が形成される。」(段落0002)
第5 判断
1 甲1発明を主引用発明とする取消理由についての判断
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「青色領域の一次光を発する発光素子」は、本件特許発明1の「青色光を発する発光素子」に相当する。
甲1発明の「発光素子から発せられた一次光の一部を吸収して、一次光の波長よりも長い波長を有する二次光を発する波長変換部」に含まれる「赤色系発光蛍光体」は、「4価のマンガン付活フッ化4価金属塩蛍光体からなる」から、甲1発明の「赤色系発光蛍光体」は、本件特許発明1の「上記青色光により励起されて赤色光を発するMn4+賦活フッ素錯体蛍光体」に相当する。
甲1発明の「発光素子から発せられた一次光の一部を吸収して、一次光の波長よりも長い波長を有する二次光を発する波長変換部」に含まれる「緑色系発光蛍光体」は、「2価のユーロピウム付活蛍光体からな」るから、甲1発明の「緑色系発光蛍光体」と、本件特許発明1の「上記青色光により励起されて緑色光を発する量子ドット蛍光体」とは、「上記青色光により励起されて緑色光を発する蛍光体」の点で共通する。
よって、本件特許発明1と甲1発明は、
「青色光を発する発光素子と、
上記青色光により励起されて緑色光を発する蛍光体と、
上記青色光により励起されて赤色光を発するMn4+賦活フッ素錯体蛍光体とを備える
発光装置。」で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
緑色光を発する蛍光体について、本件特許発明1は、「発光スペクトルのピーク波長は520nm以上かつ540nm以下である」「量子ドット蛍光体」であるのに対し、甲1発明は、「2価のユーロピウム付活蛍光体」である点。
イ 相違点1についての判断
甲第4号証に、NTSC規格における緑色の色度座標が(x,y)=(0.21,0.71)であることが記載され、甲第5号証に、NTSC規格の緑色(G)は、530nm近傍(530±10nm)であることが記載され、緑色のピーク波長が530nm近傍(530±10nm)であれば、緑色の再現領域が広くなりNTSC比を高くすることが可能となることは技術常識(以下、「技術常識1」という。)であるといえる。
そして、甲第2号証には、「520nm~540nmの範囲でFWHMが35nm未満のピーク緑色波長を発する量子ドット(蛍光体)」の技術事項が記載されているが、甲1発明は、「上記緑色系発光蛍光体が、2価のユーロピウム付活蛍光体からなり、上記赤色系発光蛍光体が、4価のマンガン付活フッ化4価金属塩蛍光体からなることを特徴とする、発光装置」の発明であることから、甲1発明の特徴の一つでである「上記緑色系発光蛍光体が、2価のユーロピウム付活蛍光体からな」ることに代えて、緑色系発光蛍光体として、2価のユーロピウム付活蛍光体とは異なる甲第2号証に記載された「520nm~540nmの範囲でFWHMが35nm未満のピーク緑色波長を発する量子ドット(蛍光体)」を採用する動機(以下、「動機1」という。)はない。
したがって、「緑色系発光蛍光体として」、甲1発明の「2価のユーロピウム付活蛍光体」に代えて、甲第2号証に記載された「520nm~540nmの範囲でFWHMが35nm未満のピーク緑色波長を発する量子ドット(蛍光体)」を採用することは、前記技術常識1を考慮しても当業者が容易になし得るものではない。
(2)本件特許発明2ないし7、9ないし13について
本件特許発明2ないし7、9ないし13は本件特許発明1を減縮したものであり、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明2ないし7、9ないし13は、上記甲1発明及び甲第2号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。
(3)本件特許発明8について
甲第3号証、甲第6号証及び甲第7号証の記載から、Mn4+賦活フッ素錯体蛍光体として、K2(Si1-hMnh)F6を採用することは周知技術であるとしても、前記動機1がないことに変わりはないから、本件特許発明1を減縮した本件特許発明8は、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明8は、上記甲1発明、甲第2号証に記載された技術的事項及び周知の事項から当業者が容易になし得るものではない。
2 甲2発明を主引用発明とする取消理由についての判断
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「青色光を発する青色光源」は、本件特許発明1の「青色光を発する発光素子」に相当する。
甲2発明の「520nm~540nmの範囲でFWHMが35nm未満のピーク緑色波長とを発する」「量子ドット」は、青色光源により励起されて緑色光を発する蛍光体であることは明らかであるから、甲2発明の「520nm~540nmの範囲でFWHMが35nm未満のピーク緑色波長とを発する」「量子ドット(蛍光体)」は、本件特許発明1の「上記青色光により励起されて緑色光を発する量子ドット蛍光体」、「上記量子ドット蛍光体が発する緑色光の発光スペクトルのピーク波長は520nm以上かつ540nm以下であること」に相当する。
甲2発明の「赤色波長」の「量子ドット」は、青色光源により励起されて赤色光を発する蛍光体であることは明らかであるから、甲2発明の「赤色波長」の「量子ドット(蛍光体)」と本件特許発明1の「上記青色光により励起されて赤色光を発するMn4+賦活フッ素錯体蛍光体」とは、ともに「上記青色光により励起されて赤色光を発する蛍光体」の点で共通する。
甲2発明は、「青色光源」を含み、青色光源により励起されて赤色波長及び緑色波長を発するものであるから、甲2発明の「光学的構造物」は、本件特許発明1の「発光装置」に相当する。
よって、本件特許発明1と甲2発明は、
「青色光を発する発光素子と、
上記青色光により励起されて緑色光を発する量子ドット蛍光体と、
上記青色光により励起されて赤色光を発する蛍光体とを備え、
上記量子ドット蛍光体が発する緑色光の発光スペクトルのピーク波長は520nm以上かつ540nm以下であることを特徴とする発光装置。」
で一致し、以下の点で相違する。
(相違点2)
赤色光を発する蛍光体について、本件特許発明1は、「Mn4+賦活フッ素錯体蛍光体」であるのに対し、甲2発明は、「量子ドット(蛍光体)」である点。
イ 相違点2についての判断
甲第8号証及び甲第9号証の記載から、青色発光素子と緑色蛍光体と、赤色蛍光体を用いた発光装置において、赤色蛍光体を緑色蛍光体からの蛍光によって励起されないもの(緑色蛍光体からの蛍光を吸収しないもの)とすることにより、多段励起による発光効率の低下を抑制することが可能であることが、本件特許出願時における技術常識(以下、「技術常識2」という。)であるといえる。
また、甲第1号証には、「青色領域の一次光の波長よりも長い波長を有する二次光を発する波長変換部に含まれる赤色系発光蛍光体が、4価のマンガン付活フッ化4価金属塩蛍光体からなること」の技術事項が記載されている。
しかしながら、甲第2号証に「本開示は、量子ドットエレメントを用いた、改善された色域領域(%NTSCとして測定される)を提供するLCDディスプレイの設計に関する。」(上記「第4」「2」参照。)と記載されているように、甲2発明は、量子ドットエレメントを用いることに特徴を有する発明であるから、甲2発明の「量子ドットフィルムエレメント」に含まれる「赤色波長」「を発する」「量子ドット(蛍光体)」を、量子ドット蛍光体ではない甲1号証に記載された「4価のマンガン付活フッ化4価金属塩蛍光体」に代える動機(以下、「動機2」という。)はない。
したがって、甲2発明の「赤色波長」の「量子ドット(蛍光体)」に代えて、甲第1号証に記載された「4価のマンガン付活フッ化4価金属塩蛍光体」を採用することは、前記技術常識2を考慮しても当業者が容易になし得るものではない。
(2)本件特許発明2ないし7、9ないし13について
本件特許発明2ないし7、9ないし13は本件特許発明1を減縮したものであり、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明2ないし7、9ないし13は、上記甲2発明及び甲第1号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。
(3)本件特許発明8について
甲第3号証、甲第6号証及び甲第7号証の記載から、Mn4+賦活フッ素錯体蛍光体として、K2(Si1-hMnh)F6を採用することは周知技術であるとしても、前記動機2がないことに変わりはないから、本件特許発明1を減縮した本件特許発明8は、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明8は、上記甲2発明、甲第1号証に記載された技術的事項及び周知の事項から当業者が容易になし得るものではない。
第6 むすび
したがって、本件特許発明1ないし13に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許発明1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700034