特許異議申立
2016-701104
窒化珪素焼結体およびそれを用いた窒化珪素基板並びにその製造方法
- 審判番号
- 2016-701104
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-222253外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年11月25日
- 審決日
- 2017年05月24日
- 公報発行日
- 2017年08月25日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1652.113-YAA(C04B) / P1652.121-YAA(C04B) / P1652.537-YAA(C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5928896号発明「窒化珪素焼結体およびそれを用いた窒化珪素基板並びにその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5928896号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第5928896号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第5928896号の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成24年10月4日の出願であって、平成28年 5月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人「青木眞理」により特許異議の申立てがされ、平成29年 1月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年 3月13日に意見書の提出及び訂正の請求があり、訂正の請求に対して特許異議申立人から平成29年 4月19日付けで意見書が提出されたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のア~オのとおりである。
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「前記窒化珪素基板の厚さが0.1~0.4mmであり」と記載されているのを「前記窒化珪素基板の厚さが0.15~0.4mmであり」に訂正する。
イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、「前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群を含む直径8~27μmの最小内接円として規定される空孔集合体を含み」と記載されているのを「前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群からなる空孔集合体を有し、前記空孔集合体の最小内接円の直径が8~27μmであり[なお前記空孔率および前記空孔集合体の最小内接円の直径は、前記断面研磨面の組織写真の視野250×250μmの画像(ただし、視野250×250μmが得られないときは合計視野面積62500(μm)2となる1又は2以上の視野の画像)を解析して求めたものである。]」に訂正する。
ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、「絶縁破壊の強さが31kV/mm以上である」と記載されているのを「絶縁破壊の強さが32kV/mm以上である」に訂正する。
エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に、「前記絶縁破壊の強さが35kV/mm以上である」と記載されているのを「前記窒化珪素基板の厚さが0.2~0.4mmであり、前記絶縁破壊の強さが35kV/mm以上である」に訂正する。
オ.訂正事項5
明細書の段落【0034】に、「(実施例1~11)」と記載されているのを「(参考例1及び実施例2~11)」に訂正し、明細書の【表1】~【表3】にそれぞれ「実施例1」と記載されているのを「参考例1」に訂正する。
(2)訂正の目的の適否
ア.訂正事項1は、窒化珪素基板の厚さの範囲を縮小するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ.訂正事項2は、空孔率等の測定条件を特定する訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
ウ.訂正事項3は、絶縁破壊の強さの範囲を「31kV/mm以上」から「32kV/mm以上」に変更するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
エ.訂正事項4は、窒化珪素基板の厚さをさらに特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
オ.訂正事項5は、特許請求の範囲に整合していない実施例1を参考例1に変更するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(3)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、窒化珪素基板の厚さの範囲を縮小するものであるから、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」といい、それぞれ「本件明細書」などという。)に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
イ.訂正事項2について
訂正事項2は、空孔集合体の定義を明確にするための訂正であって、本件明細書の【0019】の記載に基づくものであり、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ.訂正事項3について
訂正事項3は、絶縁破壊の強さの範囲を「31kV/mm以上」から「32kV/mm以上」に変更するものであるから、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
エ.訂正事項4について
訂正事項4は、絶縁破壊の強さに加えて窒化珪素基板の厚さを特定するものであって、当該窒化珪素基板の厚さは本件明細書の実施例9に記載されたものであるから、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項4は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
オ.訂正事項5について
訂正事項5は、実施例1を参考例1に変更するものであるから、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項5は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(4)一群の請求項について
訂正事項1~4は、それぞれ訂正前の請求項1~4を訂正するものであり、訂正前の請求項2~4は請求項1を直接的又は間接的に引用するため、請求項1~4は一群の請求項である。
また、訂正事項5は、この一群の請求項の全てについて明細書を訂正するものである。
よって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~4〕について請求するものと認められる。
(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正を認める。
3.本件発明
上記2.のとおり訂正を認めたので、訂正後の請求項1~4に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明4」という。)は、次の事項により特定されるとおりのものである(下線は訂正箇所である。)。
【請求項1】
窒化珪素結晶粒子、粒界相および空孔を有する窒化珪素基板であって、
前記窒化珪素基板の厚さが0.15~0.4mmであり、
前記粒界相が酸化物からなる焼結助剤で形成されており、
前記窒化珪素基板の断面研磨面において、円相当径0.5μm以上の空孔の空孔率が0.1~4%であり、前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群からなる空孔集合体を有し、前記空孔集合体の最小内接円の直径が8~27μmであり[なお前記空孔率および前記空孔集合体の最小内接円の直径は、前記断面研磨面の組織写真の視野250×250μmの画像(ただし、視野250×250μmが得られないときは合計視野面積62500(μm)2となる1又は2以上の視野の画像)を解析して求めたものである。]、
絶縁破壊の強さが32kV/mm以上であることを特徴とする窒化珪素基板。
【請求項2】
前記酸化物からなる焼結助剤がMgO及び希土類酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の窒化珪素基板。
【請求項3】
前記窒化珪素基板の厚さが0.2~0.4mmであり、前記絶縁破壊の強さが35kV/mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化珪素基板。
【請求項4】
前記窒化珪素基板が回路基板用であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の窒化珪素基板。
4.当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由の概要
平成29年1月18日付けで当審が通知した取消理由において、訂正前の請求項1~2、4に係る発明が、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許を取り消すべきものであることの通知、及び、請求項1~4に係る発明が、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許を取り消すべきものであることの通知を行った。
・特許異議申立書で提示された刊行物(以下、それぞれ「甲1」~「甲4」という。)
甲第1号証:菊池広実、今村寿之、加賀洋一郎、手島博幸、渡辺純一、厚銅貼り窒化珪素回路基板の開発、日立金属技報、2007.発行、Vol.23、pp.65-68
甲第2号証:特開2002-171037号公報
甲第3号証:特開2009-117614号公報
甲第4号証:特開2009-218322号公報
(2)特許法第29条第1項第3号について
ア.本件発明1
取消理由通知において引用した甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付加したものである。)。
摘記1:「2.3 信頼性評価
厚銅貼り窒化珪素基板,・・・・試験には,寸法35×30×0.32mmの窒化珪素基板に・・・銅配線を接合した厚銅貼り窒化珪素回路基板を用いた。・・・室温の絶縁油中で絶縁耐圧試験を行った。
図5によれば,熱サイクル試験をしていない窒化珪素白基板の絶縁破壊電圧は,熱サイクル試験前に9~10kVあった・・・」(第67頁左欄第5行~第18行)
摘記2:「3.1 窒化珪素材の高熱伝導化
・・・材料特性改善の方法としては,窒化珪素結晶のミクロ組織制御とその高純度化,ならびに粒界相量制御の3点に着目した。高熱伝導と高強度とを両立させる窒化珪素のミクロ組織として,熱伝導率の高いC軸方向に結晶成長させた柱状結晶と,強度を維持する微細結晶とからなる複合組織の実現を試みた。」(第67頁左欄下から第7行~第67頁右欄第3行)
摘記3:「一方,図6(b)に示す熱伝導率が90W/m・Kの窒化珪素基板は,大きさが5μm以下の比較的均一な粒状の結晶で構成されている。
・・・
」(第67頁右欄第12行~第14行、図6)
よって、摘記1、2より、甲1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「窒化珪素の柱状結晶及び微細結晶を有する窒化珪素基板であって、
窒化珪素基板の厚さが0.32mmであり、
絶縁破壊電圧が9~10kVである窒化珪素基板」
次に、本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明は、窒化珪素基板の厚さが0.32mm、絶縁破壊電圧が9~10kVであるから、絶縁破壊の強さが28.1kV/mm~31.2kV/mmである。
また、甲1には、引用発明において、粒界相量制御を行うこと(摘記2)が記載されており、さらに、図6に記載の窒化珪素基板のミクロ組織において、黒色が空孔であること(摘記3)から、引用発明は、窒化珪素結晶粒子、粒界相および空孔を有する窒化珪素基板であり、図6(b)から、「空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群からなる空孔集合体」が少なくとも1つは存在していることは見て取れる。
よって、本件発明1のうち、
「窒化珪素結晶粒子、粒界相および空孔を有する窒化珪素基板であって、
前記窒化珪素基板の厚さが0.32mmであり、
前記窒化珪素基板の断面研磨面において空孔が存在し、前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群からなる空孔集合体を有する窒化珪素基板」の点は引用発明と一致し、以下の4点で両者は相違する。
相違点A:本件発明1は粒界相が酸化物からなる焼結助剤で形成されているのに対し、引用発明は、粒界相が酸化物からなる焼結助剤で形成されているかどうか不明な点。
相違点B:本件発明1は、窒化珪素基板の断面研磨面において、円相当径0.5μm以上の空孔の空孔率が0.1~4%であるのに対し、引用発明には、窒化珪素基板の断面研磨面において、円相当径0.5μm以上の空孔の空孔率が0.1~4%であるかどうか不明な点。
相違点C:本件発明1は、空孔集合体の最小内接円の直径が8~27μmである[なお前記空孔率および前記空孔集合体の最小内接円の直径は、前記断面研磨面の組織写真の視野250×250μmの画像(ただし、視野250×250μmが得られないときは合計視野面積62500(μm)2となる1又は2以上の視野の画像)を解析して求めたものである。]のに対し、引用発明は、断面の組織写真の視野が250×250μmの画像、もしくは、合計視野面積62500(μm)2となる1又は2以上の視野の画像を解析して求めたものではなく、空孔集合体の最小内接円の直径が8~27μmであるか否かが不明である点。
相違点D:本件発明1は、絶縁破壊の強さが32kV/mm以上であるのに対し、引用発明は、絶縁破壊の強さが28.1kV/mm~31.2kV/mmである点。
上記相違点のうち、相違点Dについて検討する。
引用発明には、絶縁破壊の強さが28.1kV/mm~31.2kV/mmであることしか記載されておらず、相違点Dは実質的な相違点である。
よって、相違点A~Cについて検討するまでもなく、本件発明1と引用発明との間には実質的な相違点Dが存在するため、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。
イ.本件発明2、4
本件発明2、4は本件発明1の構成をさらに限定したものであるから、本件発明2、4と引用発明との間にも実質的な相違点が存在するため、本件発明2、4は甲1に記載された発明ではない。
(3)特許法第36条第6項第2号について
平成29年1月18日付けの取消理由通知において、以下の2点の記載不備を通知した。
ア.訂正前の請求項1について、「前記窒化珪素基板の断面研磨面において、円相当径0.5μm以上の空孔の空孔率が0.1~4%であり、前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群を含む直径8~27μmの最小内接円として規定される空孔集合体を含み」と特定されているが、「直径8~27μmの最小内接円として規定される空孔集合体」が窒化珪素基板内のどこかに1つでも存在すればよいことを意味しているのか、【0019】に記載された解析を前提にして、視野250μm×250μm(視野250×250μmが得られないときは合計視野面積62500(μm)2となる1又は2以上の視野の画像)内に必ず「直径8~27μmの最小内接円として規定される空孔集合体」が存在していることを意味しているのか不明確である。
訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2~4についても同様の点で不明確である。
イ.訂正前の請求項1は、「前記窒化珪素基板の断面研磨面において、円相当径0.5μm以上の空孔の空孔率が0.1~4%であり、前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群を含む直径8~27μmの最小内接円として規定される空孔集合体を含み」と特定されている。
これに対し、【0040】に記載の実施例1は、空孔集合体の直径が12~30μmであることが記載されており、実施例1が、訂正前の請求項1の特定に含まれるのか否かが不明確である。
訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2~4についても同様の点で不明確である。
ウ.請求項1は、訂正事項2によって、「前記窒化珪素基板の断面研磨面において、円相当径0.5μm以上の空孔の空孔率が0.1~4%であり、前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群からなる空孔集合体を有し、前記空孔集合体の最小内接円の直径が8~27μmであり[なお前記空孔率および前記空孔集合体の最小内接円の直径は、前記断面研磨面の組織写真の視野250×250μmの画像(ただし、視野250×250μmが得られないときは合計視野面積62500(μm)2となる1又は2以上の視野の画像)を解析して求めたものである。]、」と訂正され、当該訂正によって、窒化珪素基板の任意の視野250×250μmの画像(ただし、視野250×250μmが得られないときは合計視野面積62500(μm)2となる1又は2以上の視野の画像)を解析したこと、及び、空孔集合体の最小内接円の直径が8~27μmであることが明確となったため、上記アの理由は解消した。
また、訂正事項5によって、実施例1は参考例1に訂正されたため、上記イの理由も解消された。
よって、特許法第36条第6項第2号についての取消理由は解消した。
(4)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
・本件発明1~4に対する特許法第29条第2項について
特許異議申立人は、甲2に記載された「実施例9」の窒化珪素回路基板の絶縁耐圧が38kVと高いことから、空孔の存在状態についても本件発明1に係る窒化珪素基板と同様の組織構造(同様の空孔集合体が存在する構造)となっている旨を主張している。
ここで、甲2に記載の事項について検討すると、甲2には、以下の点が記載されている。
摘記A:「【0025】さらに上記高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法は、酸素を1.7質量%以下、不純物陽イオン元素としてのAl,Li,Na,K,Fe,Ba,Mn,Bを合計で0.3質量%以下、α相型窒化けい素を90質量%以上含有し、平均粒径1.0μm以下の窒化けい素粉末に、希土類元素を酸化物に換算して2.0~17.5質量%,Mgを酸化物に換算して0.3~3.0質量%と、必要に応じてCaおよびSrの少なくとも一方を酸化物に換算して1.5質量%以下添加した原料混合体を成形して成形体を調製し、得られた成形体を脱脂後、温度1700~1900℃で常圧焼結または雰囲気加圧焼結し、上記焼結温度から、上記希土類元素により焼結時に形成された液相が凝固する温度までに至る焼結体の冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷することを特徴とする。」
摘記B:「【0079】実施例1~6
・・・【0080】次にドクターブレード法を用い、ブレードの開口幅および原料スラリーのブレードからの押出し速度を調整しながら上記原料スラリーをシート成形し、多数のシート状成形体を製作した。次に得られた成形体を700℃のN2雰囲気ガス中において2時間脱脂した後に、この脱脂体を窒素ガス雰囲気中で常圧~7気圧にて1800~1900℃で3~6時間保持し、緻密化焼結を実施した後に、焼結炉に付設した加熱装置への通電量を制御して焼結炉内温度が1500℃まで降下するまでの間における焼結体の冷却速度が100℃/hr(実施例1~3,5),50℃/hr(実施例4)および600℃/hr(自然冷却)(実施例6)となるように調整して焼結体を冷却し、長辺長さ60mm×短辺長さ40mmであり、表1に示す厚さを有する各実施例用の窒化けい素基板を多数調製した。」
摘記C:「【0090】【表1】
」
摘記D:「【0107】実施例7~12
熱伝導率が90W/m・Kであり、縦40mm×横60mm×厚さ0.32mmの窒化けい素焼結体に対して、表3に示す条件で表面処理としてのホーニング処理と超音波洗浄処理とを実施して各実施例用のSi3N4基板を調製した。なお、研磨加工は実施していない。
・・・
【0111】
【表3】
【0112】上記表3に示す結果から明らかなように、適正な粒径の砥粒を使用し、適正なホーニング圧力でホーニング処理した窒化けい素基板を使用した実施例7~10に係る回路基板においては、絶縁耐圧が25~38kV/mmと優れているとともに、窒化けい素基板の反り量は、いずれも0.5mm以下であった。」
摘記Dに記載の絶縁耐圧の強さが38kV/mmとなる実施例9は、その製造方法が明記されていないものの、甲2には、摘記A~Bに記載されているような原料混合体を成形して成形体を調製し、得られた成形体を脱脂後、温度1700~1900℃で常圧焼結または雰囲気加圧焼結し、上記焼結温度から、希土類元素により焼結時に形成された液相が凝固する温度までに至る焼結体の冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷する製造方法で行うことしか記載されていないため、実施例9も同様の方法で行っているものと認められる。
(例えば、摘記C~Dから、実施例9の熱伝導率は実施例4と同じであるから、実施例4と同じ方法で作成できると推測できる。)
してみると、甲2に記載の製造方法は、本件明細書に記載の製造方法と異なることは明らかであり、さらに、絶縁耐圧の強さが同程度であれば同様の組織構造(同様の空孔集合体)となるという技術常識もない。
したがって、甲1に記載の引用発明に甲2に記載の発明を適用して絶縁耐圧の強さが38kV/mmとなる窒化珪素基板を作成しても本件発明1が特定する空孔集合体を有する窒化珪素基板になるとはいえない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。
甲3~甲4についても、本件発明1で特定されている空孔集合体について何等記載されていない。
よって、本件発明1は、甲1~甲4に記載の発明から当業者が容易に発明することができたものではない。
本件発明1を引用する本件発明2~4についても同様である。
したがって、本件発明1~4に対する特許法第29条第2項に関する特許異議申立理由は採用できない。
(5)特許異議申立人の意見書の主張について
ア.本件発明1~4の不明確性(特許法第36条第6項第2号)について
特許異議申立人は意見書において、「また、本件特許明細書の[0035]段落に記載された「比較例1」の窒化珪素基板に関しては、前記の通り、「空孔集合体を作らず粗大な空孔が焼結体内に均一に分散されている」とだけ記載されており、この「粗大な空孔」と記載されているが、その具体的な空孔のサイズに関する記載は全く無い。
ここで、窒化珪素基板の空孔割合が同一であっても、その空孔の直径(円相当径)が異なれば、窒化珪素基板の絶縁強度は大きく影響され、空孔の直径が所定値以上になると、絶縁強度が大幅に低下することは周知の技術的知見である。
・・・
しかしながら、本件特許明細書において、上記「空孔の直径の上限」を示す記載が全く無いことから、本発明は依然として技術的な矛盾を内包し請求項1に係る発明は不明確である。同様に、請求項1に従属する請求項2~4に係る発明も不明確である。」と主張しており、空孔自体の直径(円相当径)の上限値が特定されていないため、本件発明1の窒化珪素基板の構成が不明確である旨主張している。
しかしながら、本件発明1は、「前記空孔が実際の空孔形状における外周間の最短距離3μm以下で隣接してなる空孔群からなる空孔集合体を有し、前記空孔集合体の最小内接円の直径が8~27μmであり」及び「絶縁破壊の強さが32kV/mm以上であること」が特定されており、特許異議申立人が主張する技術常識によれば、少なくとも、全体の絶縁破壊の強さが32kV/mm未満になるような粗大な空孔が存在しないこと、及び、空孔集合体の最小内接円の直径が8~27μmの範囲外になるような空孔が存在しないことが特定されていると認められる。
したがって、空孔の直径の上限値が明示的に特定されていないことによって、本件発明1の窒化珪素基板の組織が不明確であるとまではいえない。
よって、上記主張は採用できない。
本件発明1を引用する本件発明2~4についても同様である。
5.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2016-701104