特許異議申立
2016-701033
アルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法
- 審判番号
- 2016-701033
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-233540外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年11月04日
- 審決日
- 2017年04月25日
- 公報発行日
- 2017年07月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社神戸製鋼所
- 【権利者代理人】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
- 【異議申立人】葛西 文枝
- 分類
- P1651.537-YAA(C22C) / P1651.121-YAA(C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5920723号「アルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法」の請求項1~4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5920723号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1~2〕、〔3~4〕について訂正することを認める。
特許第5920723号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5920723号の請求項1~4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成24年10月23日(優先権主張:平成23年11月21日)に特許出願され、平成28年4月22日に特許の設定登録がされ、その後、請求項1~4の特許に対し、特許異議申立人葛西文枝(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年1月12日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年3月6日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、これに対して申立人から平成29年4月7日に意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)~(20)のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1に「0.20~0.3質量%のCrおよび0.002~0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種類以上を添加したものであること」とあるのを、「0.20~0.3質量%のCrおよび0.002~0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種類以上を、前記アルミニウム-マグネシウム合金を鋳型に注入するまでにおいて、添加すること」に訂正する(当審注:下線は訂正箇所を示すために合議体が付与した。以下、同様。)。
(2)訂正事項2
請求項1に「アルミニウム-マグネシウム合金。」とあるのを、「アルミニウム-マグネシウム合金の製造方法。」に訂正する。
(3)訂正事項3
請求項2に「請求項1に記載の前記合金からなるアルミニウム-マグネシウム合金板であって、」とあるのを、「請求項1に記載の厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法を含むアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法であって、」に訂正する。
(4)訂正事項4
請求項2に「アルミニウム-マグネシウム合金板。」とあるのを、「アルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法。」に訂正する。
(5)訂正事項5
請求項3に「0.20~0.3質量%のCrおよび0.002~0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を添加したものであること」とあるのを、「0.20~0.3質量%のCrおよび0.002~0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を、前記アルミニウム-マグネシウム合金を鋳型に注入するまでにおいて、添加すること」に訂正する。
(6)訂正事項6
請求項3に「アルミニウム-マグネシウム合金。」とあるのを、「アルミニウム-マグネシウム合金の製造方法。」に訂正する。
(7)訂正事項7
請求項4に「請求項3に記載の前記合金からなる成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金板。」とあるのを、「請求項3に記載の成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法を含む成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法。」に訂正する。
(8)訂正事項8
願書に添付した明細書の【発明の名称】に「アルミニウム-マグネシウム合金およびその合金板」とあるのを、「アルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法」に訂正する。
(9)訂正事項9
願書に添付した明細書の段落【0001】に「本発明は、アルミニウム-マグネシウム合金およびその合金板に係り、特に、Pを不可避的不純物として含有する原料から製造されたアルミニウム-マグネシウム合金およびその合金板に関する。」とあるのを、「本発明は、アルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法に係り、特に、Pを不可避的不純物として含有する原料から製造するアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法に関する。」に訂正する。
(10)訂正事項10
願書に添付した明細書の段落【0012】に「その課題は、Beを添加しなくても溶湯酸化を抑制することが可能なアルミニウム-マグネシウム合金およびその合金板を提供することにある。」とあるのを、「その課題は、Beを添加しなくても溶湯酸化を抑制することが可能なアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法を提供することにある。」に訂正する。
(11)訂正事項11
願書に添付した明細書の段落【0015】に「すなわち、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金(厚板用)は、・・・アルミニウム-マグネシウム合金に、0.20~0.3質量%のCrおよび0.002~0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を添加したものであることを特徴とする。」とあるのを、「すなわち、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金(厚板用)の製造方法は、・・・アルミニウム-マグネシウム合金に、0.20~0.3質量%のCrおよび0.002~0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を、前記アルミニウム-マグネシウム合金を鋳型に注入するまでにおいて、添加することを特徴とする。」に訂正する。
(12)訂正事項12
願書に添付した明細書の段落【0015】に「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金(成形加工用)は、・・・アルミニウム-マグネシウム合金に、0.20~0.3質量%のCrおよび0.002~0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を添加したものであることを特徴とする。」とあるのを、「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金(成形加工用)の製造方法は、・・・アルミニウム-マグネシウム合金に、0.20~0.3質量%のCrおよび0.002~0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を、前記アルミニウム-マグネシウム合金を鋳型に注入するまでにおいて、添加することを特徴とする。」に訂正する。
(13)訂正事項13
願書に添付した明細書の段落【0016】に「このように、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金は、」とあるのを、「このように、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法は、」に訂正する。
(14)訂正事項14
願書に添付した明細書の段落【0016】に「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金は、」とあるのを、「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法は、」に訂正する。
(15)訂正事項15
願書に添付した明細書の段落【0017】に「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(厚板用)は、前記合金からなるアルミニウム-マグネシウム合金板であって、前記Mgの含有量が1.0~2.5質量%であることを特徴とする。」とあるのを、「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(厚板用)の製造方法は、前記の厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法を含むアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法であって、前記Mgの含有量が1.0~2.5質量%であることを特徴とする。」に訂正する。
(16)訂正事項16
願書に添付した明細書の段落【0018】に「このように、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(厚板用)は、Pを含有していても、前記合金からなることにより、Pは優先的にCr、Caと結合し、Mg-P酸化物(介在物)の発生を抑制することができる。」とあるのを、「このように、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(厚板用)の製造方法は、Pを含有していても、前記合金からなることにより、Pは優先的にCr、Caと結合し、Mg-P酸化物(介在物)の発生を抑制することができる。」に訂正する。
(17)訂正事項17
願書に添付した明細書の段落【0020】に「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(厚板用)は、Mg含有量をさらに所定値以下に規定することにより、耐食性を向上させることができる。」とあるのを、「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(厚板用)の製造方法は、Mg含有量をさらに所定値以下に規定することにより、耐食性を向上させることができる。」に訂正する。
(18)訂正事項18
願書に添付した明細書の段落【0021】に「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(成形加工用)は、前記合金からなるアルミニウム-マグネシウム合金板であることを特徴とする。」とあるのを、「また、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(成形加工用)の製造方法は、前記の成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法を含むアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法であることを特徴とする。」に訂正する。
(19)訂正事項19
願書に添付した明細書の段落【0022】に「このように、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(成形加工用)は、Pを含有していても、前記合金からなることにより、Pは優先的にCr、Caと結合し、Mg-P酸化物(介在物)の発生を抑制することができる。」とあるのを、「このように、本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金板(成形加工用)の製造方法は、Pを含有していても、前記合金からなることにより、Pは優先的にCr、Caと結合し、Mg-P酸化物(介在物)の発生を抑制することができる。」に訂正する。
(20)訂正事項20
願書に添付した明細書の段落【0023】に「本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金およびその合金板によれば、溶湯においてMg-P酸化物がほとんど形成されず、溶湯酸化を抑制することができる。その結果、介在物がほとんど形成しない高品質のアルミニウム-マグネシウム合金およびその合金板を提供することができる。」とあるのを、「本発明に係るアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法によれば、溶湯においてMg-P酸化物がほとんど形成されず、溶湯酸化を抑制することができる。その結果、介在物がほとんど形成しない高品質のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法およびアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法を提供することができる。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1、2について
訂正事項1、2は、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている、本件訂正請求による訂正前(以下、単に「訂正前」ということがある。)の請求項1に係る発明を、物を生産する方法の発明に訂正することによって明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書の段落【0037】には、「Cr、Caは、前記合金(原材料)を鋳型に注入するまでの、どの工程において添加されてもよい。」と記載されているから、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正前の請求項1に係る発明と本件訂正請求による訂正後(以下、単に「訂正後」ということがある。)の請求項1に係る発明の課題及び課題解決手段に変更はなく、訂正後の請求項1に係る発明の実施に該当する行為は、訂正前の請求項1に係る発明の実施に該当する行為に全て含まれるため、第三者にとって不足の不利益が生じるおそれのないことに照らせば、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項3~7について
訂正事項1,2と同様の理由により、訂正事項3~7は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項8~20について
訂正事項8~20は、訂正事項1~7の訂正に伴って、特許請求の範囲と明細書の記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)そして、訂正事項1~20の訂正は、一群の請求項に対して請求されたものである。
(5)小括
以上によれば、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第3号を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するから、訂正後の請求項〔1~2〕、〔3~4〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立について
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~4に係る発明(以下、「本件発明1~本件発明4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
Mgを1.0~5.5質量%含有するとともに、Pを不可避的不純物の1つとして0.001質量%以上含有し、
Si:0.25質量%以下、Fe:0.4質量%以下、Cu:0.1質量%以下、Mn:0.5質量%以下、Zn:0.3質量%以下、Ti:0.1質量%以下であり、残部がAlおよび不可避的不純物であるアルミニウム-マグネシウム合金に、
0.20~0.3質量%のCrおよび0.002~0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を、前記アルミニウム-マグネシウム合金を鋳型に注入するまでにおいて、添加することを特徴とする厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法を含むアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法であって、
前記Mgの含有量が1.0~2.5質量%であることを特徴とする厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法。
【請求項3】
Mgを6.0~15.0質量%含有するとともに、Pを不可避的不純物の1つとして0.001質量%以上含有し、
Fe:1.0質量%以下、Si:0.5質量%以下、Ti:0.1質量%以下、B:0.05質量%以下、Mn:0.3質量%以下、Zr:0.3質量%以下、V:0.3質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Zn:1.0%質量以下であり、残部がAlおよび不可避的不純物であるアルミニウム-マグネシウム合金に、
0.20~0.3質量%のCrおよび0.002~0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を、前記アルミニウム-マグネシウム合金を鋳型に注入するまでにおいて、添加することを特徴とする成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金の製造方法を含む成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金板の製造方法。」
2 取消理由の概要
訂正前の請求項1~4に係る特許に対して平成29年1月12日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
訂正前の請求項1~4に係る発明は「・・・残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム-マグネシウム合金に、0.20~0.3質量%のCrおよび0.002質量%以上0.1質量%以下のCaのうち、少なくとも一種以上を添加したものである・・・アルミニウム-マグネシウム合金」という発明特定事項を有しているが、この発明特定事項は、特許異議申立書の「エ.発明の明確性について」の(ア)欄(第20頁第3行~第23頁第2行)及び(イ)欄(第23頁第3行~第24頁末行)に記載の理由により明確ではないから、訂正前の請求項1~4に係る発明は明確ではない。
したがって、訂正前の請求項1~4に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由(特許法第36条第6項第2号)について
ア 特許異議申立書の「エ.発明の明確性について」の(ア)欄(第20頁第3行~第23頁第2行)に記載の理由について
(ア)訂正前の請求項1の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】
Mgを1.0~5.5質量%含有するとともに、Pを不可避的不純物の1つとして0.001質量%以上含有し、
Si:0.25質量%以下、Fe:0.4質量%以下、Cu:0.1質量%以下、Mn:0.5質量%以下、Zn:0.3質量%以下、Ti:0.1質量%以下であり、残部がAlおよび不可避的不純物であるアルミニウム-マグネシウム合金に、
0.20~0.3質量%のCrおよび0.002~0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を添加したものであることを特徴とする厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金。」
(イ)上記記載によれば、訂正前の請求項1に係る発明は、物の発明である一方、「Mgを1.0~5.5質量%含有するとともに・・・残部がAlおよび不可避的不純物であるアルミニウム-マグネシウム合金」という記載によって、不可避的不純物も含めて原材料となる「アルミニウム-マグネシウム合金」を確定した上で、「0.20~0.3質量%のCrおよび0.002~0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を添加した」ものであるから、訂正前の請求項1の記載は、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に該当する。
(ウ)ここで、「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である」(最高裁第二小法廷判決平成27年6月5日(平成24年(受)第1204号))と判示されているところ、訂正前の明細書の記載を参酌しても、訂正前の請求項1に係る発明に、かかる事情が存在する理由は見いだせないから、訂正前の請求項1の記載は、発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているとはいえない。
(エ)これに対し、訂正後の請求項1に係る発明は、上記「1 本件発明」にあるとおり、本件訂正請求による訂正によって物を生産する方法の発明となったから、上記の記載不備は解消した。
(オ)また、訂正前の請求項1を引用し、末尾の記載が「厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金板。」である訂正前の請求項2、独立形式で記載され、末尾の記載が「成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金。」である訂正前の請求項3、及び、訂正前の請求項3を引用し、末尾の記載が「成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金板。」である訂正前の請求項4についても、訂正前の請求項1と同様の理由によって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているとはいえないものの、いずれの請求項も、上記「1 本件発明」にあるとおり、本件訂正請求による訂正によって物を生産する方法の発明となったから、上記の記載不備は解消した。
イ 特許異議申立書の「エ.発明の明確性について」の(イ)欄(第23頁第3行~第24頁末行)に記載の理由について
(ア)上記ア(ア)にあるとおり、訂正前の請求項1に係る発明は、物の発明である一方、「Mgを1.0~5.5質量%含有するとともに・・・残部がAlおよび不可避的不純物であるアルミニウム-マグネシウム合金」という記載によって、不可避的不純物も含めて原材料となる「アルミニウム-マグネシウム合金」を確定した上で、「0.20~0.3質量%のCrおよび0.002~0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を添加した」ものであるところ、例えば、下記(2)ア(ア)で摘記した甲1号証(以下、「甲1」ということがある。他の甲号証についても同様。)の記載cには、「合金番号」5052のアルミニウム合金の成分のうち、不可避的不純物に相当する「その他」の成分が「0.05以下(個々)、0.15以下(合計)」と記載されているとおり、アルミニウム合金においては、個々の含有量が0.05質量%以下の成分元素は不可避的不純物となり得ることが技術常識であると解されるから、添加量が「0.002~0.1質量%」であるCaについても、上記の原材料における不可避的不純物になり得るということができる。
(イ)そうすると、「厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金」という物の発明である訂正前の請求項1に係る発明において、当該合金中に含まれるCaが、上記原材料中に不可避的不純物として含まれるCaに由来するのか、又は、これとは別に「0.002~0.1質量%のCa・・・を添加した」ことに由来するのかを区別して特定することはできないから、訂正前の請求項1の記載は不明確であって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているとはいえないことになる。
(エ)これに対し、訂正後の請求項1に係る発明は、上記「1 本件発明」にあるとおり、本件訂正請求による訂正によって物を生産する方法の発明となり、Caは上記原材料中に含まれるCaに由来するものではなく、別途、上記原材料に添加したものであることが明らかとなったから、上記の記載不備は解消した。
(オ)また、訂正前の請求項1を引用し、末尾の記載が「厚板用のアルミニウム-マグネシウム合金板。」である訂正前の請求項2、独立形式で記載され、末尾の記載が「成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金。」である訂正前の請求項3、及び、訂正前の請求項3を引用し、末尾の記載が「成形加工用のアルミニウム-マグネシウム合金板。」である訂正前の請求項4についても、訂正前の請求項1と同様の理由によって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているとはいえないものの、いずれの請求項も、上記「1 本件発明」にあるとおり、本件訂正請求による訂正によって物を生産する方法の発明となったから、上記の記載不備は解消した。
(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第29条第2項)について
ア 甲1号証~甲6号証の記載事項
(ア)「JISハンドブック 3 非鉄 2008」,日本規格協会,2008年1月30日,613~615頁,617~618頁,628~629頁(甲1)
甲1は、「アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条」と題する日本工業規格の「JIS H 4000(2006)」が記載された文書であり、以下の事項が記載されている。
a 「5.2 化学成分 板,合せ板(心材・皮材),条及び円板の化学成分は,表2による。」(614頁第31行)
b 「表1 種類,等級及び記号(続き)」(615頁)には、「種類」の欄の「合金番号」5052に対応する「記号」がA5052Pであり、「特性及び用途例」が記載された「参考」の欄には、「中程度の強度をもった代表的な合金で,耐食性,成形性及び溶接性がよい。船舶・車両・建築用材,飲料缶など。」と記載されている。
c 「表2 化学成分(続き)」(617頁)の第2行に、「合金番号」5052の「化学成分」が、「%(質量分率)」を単位として、Si:0.25以下、Fe:0.40以下、Cu:0.10以下、Mn:0.10以下、Mg:2.2~2.8、Cr:0.15~0.35、Zn:0.10以下、Ga,V,Ni,B,Zr等:-、Ti:-、その他:0.05以下(個々)、0.15以下(合計)、Al:残部であることが記載され、注(1)には、「その他の化学成分は,表中で“-”で示し成分値を規定していない化学成分も含み,存在が予知される場合又は通常の分析において,その他の既定値を超える兆候がみられる場合にだけ分析を行う。」と記載されている。
d 「5.3 機械的性質」、「5.3.1 板,条及び円板の機械的性質 板,条及び円板の機械的性質(引張強さ・耐力・伸び・曲げ)は,表3による。ただし,耐力及び曲げの適用は,次による。」(618頁第1行~第3行)
e 「表3 板・条及び円板の機械的性質(引張強さ・耐力・伸び・曲げ)(続き)」(628~629頁)の「記号」A5052P及びA5652Pの欄には、それぞれの「質別(2)」ごとに、「引張試験」及び「曲げ試験」の値が記載されている。
(イ)特開2000-8133号公報(甲2)
甲2には、以下の事項が記載されている。
a 「【請求項1】Mg1.7~5.0wt%、Mn0.8wt%以下、Cr0.35wt%以下、Cu0.3wt%以下、Fe0.3wt%以下、Si0.3wt%以下を含有し、不純物としてのアルカリ金属を1ppm以下に規制し、残部がAlとその他の不可避不純物からなり、耐力が210~340N/mm2であることを特徴とする、耐落下強度に優れる缶蓋用アルミニウム合金焼付塗装板。」
b 「【0015】Feは通常アルミニウム地金や原料スクラップに含まれる不純物であるが、その範囲を0.3wt%以下としたのは、0.3wt%を超えると金属間化合物が増加し、耐落下強度が低下したりリベット成形性が低下してしまうためである。」
c 「【0016】Siも通常アルミニウム地金や原料スクラップに含まれる不純物であるが、その範囲を0.3wt%以下としたのは、0.3wt%を超えると金属間化合物が増加し、耐落下強度が低下したりリベット成形性が低下してしまうためである。」
d 段落【0029】の表1には、「本発明例」の「No.」が2で「合金記号」Bの「合金組成」が、Mg:2.4wt%、Mn:0.02wt%、Cr:0.24wt%、Cu:0.08wt%、Fe:0.24wt%、Si:0.26wt%、アルカリ金属:1ppm、Al及び不可避不純物:残部と記載されている。
(ウ)室町繁雄,峯岸知弘,「Al-Mg合金におよぼすCaの影響」,軽金属,Vol.10,No.6(No.45),軽金属研究会,1960年11月31日,26~28頁(甲3)
甲3には、以下の事項が記載されている。
a 「Oxidation of Mg in molten Al-Mg Alloys is prevented by the addition of 0.5~0.05% Ca. This effect is most remarkable when the Mg content in the alloy is as high as 5~10%」(26頁第6~7行)
(当審訳:Al-Mg合金の溶解中Mgの酸化は、0.5~0.05%のCaを添加することで防止される。この効果は合金中のMg含有量が5~10%である場合に最も顕著となる。)
b 「1. 緒 言
Al-Mg合金は,適度な強度を有し,しかも耐食性に富んでいるため近年その需要が著しく伸びてきた.一方本系合金は,溶解中Mgが燃焼し,酸化減少するためその防止策として少量のBeを添加する方法が一般に採用されているが,Beは高価であるばかりでなく,その燃焼ガスは有毒とされているので,これに代る酸化防止剤が要求されている。
筆者の一人は,かつてマグネシウム合金に少量のCaを添加する1)とその燃焼を防止するばかりでなく,鋳造性を改善し,更に腐食性を著しく向上させること,また一方少量のCaの添加は,アルミニウム合金中の含有ガスを低下し,添加後のガスの収集をしがたくなる2)ことを知つたので,Mgを含むアルミニウム合金にもCaの効果が期待できるものと考え,本研究を実施した次第である。」(26頁左欄第1行~第16行)
c 「Fig.3に,溶解減量におよぼすCaの影響を示した。Mg2.5%を含む合金では,Caの著しい効果は認められないが,Mg5%となるとその効果が現れ,Mg10%になると溶解減量が著しく低下し,Caの効果の著しいことが判る。」(27頁左欄第2行~第8行)
d 「以上の結果からCa0.05%程度添加すれば,Beに代り酸化防止剤としての効果のあることが判明したので」(27頁右欄最下行~28頁左欄第1行)
(エ)「JISハンドブック 3 非鉄 2015」,日本規格協会,2015年1月30日,717~726頁,737~738頁(甲4)
甲4は、その発行日が2015年1月30日であって、本件特許についての出願の優先日である平成23年11月21日、及び、出願日である平成24年10月23日の後に公知となった文献であるから、特許法第29条第2項についての判断において、これを参酌することはできない。
(オ)特開2006-249481号公報(甲5)
甲5には、以下の事項が記載されている。
a 「【請求項1】
質量%で、Mg:8%を超え14%以下、Fe:1.0%以下、Si:0.5%以下を含み、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl-Mg系アルミニウム合金板素材を冷間圧延して、成形用アルミニウム合金板を製造するに際し、冷間圧延を複数の圧延パスで行うとともに、各冷間圧延時に前記アルミニウム板素材を冷却し、更に、前記各圧延パスの圧下率を30%以下にするとともに、前記各圧延パス間における前記アルミニウム板素材の温度を150℃以下にすることを特徴とする成形用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項2】
前記Al-Mg 系アルミニウム合金板素材が、DC鋳造による鋳塊を均熱、熱延されたか、または、双ロール式連続鋳造法により鋳造された、板厚が1~13mmのアルミニウム合金板状素材であり、この素材の平均導電率が20IACS%以上、26IACS%未満であり、平均結晶粒径が100μm以下である請求項1に記載の成形用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム合金板が、更に、質量%で、Mn:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下、Ti:0.1%以下、Cu:1.0%以下、Zn:1.0%以下、の一種または二種以上を含む、請求項1または2に記載の成形用アルミニウム合金板の製造方法。」
b 「【0017】
また、近年では、溶解原料として、純度の高いAl地金だけの使用ではなく、資源のリサイクルでの活用のために、Al-Mg系合金材や他のAl合金材などのスクラップを使用するなどした場合には、不純物であるFeやSiの含有量が必然的に多くなる。そして、この高MgのAl-Mg系合金板の不純物であるFeやSiの含有量が多くなるほど晶出物が増大し、冷間圧延工程での晶出物へのひずみ集中によって、クラックが発生しやすくなり、冷間圧延時の板の幅方向の両端部での割れが顕著になる。更に、冷間圧延工程におけるβ相発生の傾向は強くなり、脆くて硬いβ相へのひずみ集中によるせん断帯発生、あるいはβ相でのクラック発生によって冷間圧延時の板の幅方向の両端部での割れが顕著になる。」
c 「【0029】
この他、Mn、Cu、Cr、Zr、Zn、V、Ti、Bなども不純物元素であり・・・これらの許容量は、各々、質量%で、Mn:0.3%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下、Ti:0.1%以下、B:0.05%以下、Cu:1.0%以下、Zn:1.0%以下、である。」
d 「【0038】
・・・DC鋳造法においては、本発明範囲の成分組成を有する合金を常法に従って溶解し、鋳造する。・・・」
e 「【0041】
この双ロール式連続鋳造は・・・回転する一対の水冷銅鋳型などの双ロール間に、耐火物製の給湯ノズルから、上記成分組成のAl合金溶湯を注湯して凝固させ、かつ、この双ロール間において、上記凝固直後に圧下し、かつ急冷して、Al合金薄板とする。」
f 段落【0090】の表1には、「*含有量の記載において、-の記号は0.002%未満(検出限界以下)であることを表す。」という記載とともに、「発明例」の「略号」がIの「Al合金板状鋳塊の化学成分組成(質量%、残部Al)」が、Mg:10.5、Fe:0.25、Si:0.21、Ti:0.01、B:0.002、Mn:-、Cr:0.20、Zr:-、V:-、Cu:-、Zn:-と記載されている。
(カ)特開2012-197510号公報(甲6)
甲6は、平成29年4月7日に意見書とともに提出されたもので、本件特許についての出願の優先日である平成23年11月21日の後で、本件特許についての出願の出願日である平成24年10月23日の前に公開されており、以下の事項が記載されている。
a 「【0001】
本発明は、アルミニウム-マグネシウム合金に係り、特に、アルミニウムスクラップを含有した原料から製造された溶湯酸化抑制アルミニウム-マグネシウム合金に関する。」
b 「【0007】
また、近年の省エネルギー化・環境負荷軽減の観点から、リサイクルへの意識が高まっており、アルミニウムスクラップを含有した原料から製造されたAl-Mg合金が使用されている。したがって、このようなアルミニウムスクラップを原料として用いた場合であっても、溶湯酸化を抑制できる技術の創出が望まれている。」
c 「【0015】
・・・本発明に係る溶湯酸化抑制アルミニウム-マグネシウム合金は、他の成分と併せてMgを0.8~15質量%含有していても、Pの含有量を0.001質量%以下に規制していることから、溶湯においてMg-P酸化物がほとんど形成されず、溶湯酸化を抑制することができる。・・・」
d 「【0023】
[P低減方法]
工業的によく使用される純度99.7%以上のアルミニウム新塊や合金の製造時に添加されるMgに含まれているPは0.001質量%(10ppm)以下である。一方、市中屑や返り材などのアルミニウムスクラップには、通常、Pが0.0005~0.01質量%(5~100ppm)、またはそれ以上含有されている。
従って、前記アルミニウムスクラップの添加量が多いと必然的にP含有量が0.001質量%(10ppm)以上となる。」
e 「【0025】
従って、Al-Mg溶湯中のPの含有量を0.001質量%(10ppm)以下とするには、P含有量が少ないアルミニウム新塊や製造時に添加されるMgの使用量と、アルミニウムスクラップの使用量を調整すればよい。・・・」
f 「【0027】
[アルミニウムスクラップ]
アルミニウムスクラップとは、使用済みのアルミニウム製品であれば、限定されないが、例えば、使用済みのアルミニウム包装容器(飲料缶等)や、自動車部品アルミ鋳物、アルミ板にNi-Pメッキされたスクラップ材、Pが添加された過共晶Al-Si系合金等である。そして、これらのアルミニウムスクラップは、通常、Pを含有している。」
イ 申立人は、平成29年4月7日に提出された意見書において、リサイクル意識の高まりから、アルミニウム-マグネシウム合金の原料としてアルミニウムスクラップを用いること、及び、アルミニウムスクラップに所定量のPが含まれることが、いずれも技術常識であることを示す補強資料として甲6を提出し、訂正後の請求項1、2に係る発明は、甲1に記載された発明、及び、甲2~6に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正後の請求項3、4に係る発明は、甲5に記載された発明、及び、甲1~3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨、主張する。
しかし、上記「ア 甲1号証~甲6号証の記載事項」にあるとおり、甲4は、これを参酌することはできず、また、甲1~3、5、6のいずれにも、訂正後の請求項1~4に係る発明における、不可避的不純物も含めて原材料となる「アルミニウム-マグネシウム合金」を確定した上で、これとは別に「0.20~0.3質量%のCrおよび0.002~0.1質量%のCaのうち、少なくとも1種以上を、前記アルミニウム-マグネシウム合金を鋳型に注入するまでにおいて、添加する」という製造工程に相当する事項は記載も示唆もされていない。
また、甲1~3、5、6には、Al-Mg合金溶湯中に所定量を超えるPが存在すると、当該PはMgと化合してP化Mgを形成し、P化Mgは、さらに大気雰囲気で酸化されて、MgとPの複合酸化物であるMg-P酸化物となるという、訂正明細書の段落【0013】に記載の溶湯酸化のメカニズム、及び、これを前提として、Cr、Caを外的に添加すると、Pが優先的にCr、Caと結合してP化Cr、P化Caを形成するため、P化Mgの発生が抑制され、最終的にMg-P酸化物の発生の抑制に繋がるという訂正明細書の段落【0016】に記載された課題解決の機序についても、何らの記載も示唆もされていない。
以上から、訂正後の請求項1~4に係る発明は、甲1~3、5、6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
第4 結論
以上によれば、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正請求により訂正された請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正請求により訂正された請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-701033