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特許異議申立

2016-700992

研磨用クッション材

審判番号
2016-700992
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2011-223146外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2016年10月17日
審決日
2020年03月18日
公報発行日
2020年06月26日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-YAA(B24B) / P1651.161-YAA(B24B) / P1651.536-YAA(B24B) / P1651.537-YAA(B24B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第29条の2、特許法第181条、特許法第36条、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5905698号「研磨用クッション材」に関する特許異議の申立てについてされた平成29年12月26日付け決定に対し,知的財産高等裁判所において請求項3及び4に係る発明に対する部分の決定取消しの判決(平成30年(行ケ)第10023号,平成31年3月14日)があったので,決定が取り消された部分の請求項に係る発明についてさらに審理のうえ,次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5905698号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔3,4〕について訂正することを認める。 特許第5905698号の請求項3及び4に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 本件特許異議申立事件の主な経緯と,本件1次決定及び本件取消判決 本件特許異議申立事件の主な経緯は,以下のとおりである。 平成23年10月 7日   特許第5905698号 (以下「本件特許」という。)に係る出願 (特願2011-223146号) 平成28年 3月25日   本件特許の設定登録 同 年 4月20日   本件特許に係る特許公報の発行 同 年10月17日   特許異議申立書の提出 (異議2016-700992号, 特許異議申立人・伊達俊二) 平成29年 1月18日付け 取消理由通知 同 年 3月10日   意見書の提出 同 年 6月23日付け 取消理由通知(決定の予告) 同 年 8月 9日   審判合議体と特許権者との面接 同 年 8月28日   訂正請求書及び意見書の提出 同 年 9月19日付け 訂正拒絶理由通知 同 年10月20日   意見書の提出 同 年12月26日付け 異議の決定(以下「本件1次決定」 という。) 平成30年 2月10日   本件1次決定取消訴訟の提起 (平成30年(行ケ)第10023号) 平成31年 3月14日   本件1次決定取消訴訟の判決 (以下「本件取消判決」という。)言渡 令和 元年 6月 7日付け 取消理由通知 同 年 8月 7日   意見書の提出 同 年 9月24日付け 取消理由通知(決定の予告) 同 年11月25日   訂正請求書及び意見書の提出 なお,令和元年12月17日付けで,特許法120条の5第5項の規定に基づき,特許異議申立人・伊達俊二に対し意見書を提出する機会を与える旨の通知を行ったが,特許異議申立人からは意見書の提出はなされなかった。 本件1次決定に対し,知的財産高等裁判所において,「特許庁が異議2016-700992号事件について平成29年12月26日にした決定のうち,特許第5905698号の請求項3及び4に係る部分を取り消す。」との本件取消判決があったので,特許法181条2項の規定により,さらに審理を行う。 第2 本件取消判決の拘束力及び本件取消判決の内容 1.本件取消判決の拘束力 特許異議申立事件についての決定の取消訴訟において,決定取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い,当該異議申立事件について更に審理を行い,決定をしなければならないが,再度の審理ないし決定には,行政事件訴訟法33条1項の規定により,上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,当合議体の事実認定及び法律判断は,本件取消判決の事実認定及び法律判断に拘束される。 2.本件取消判決の内容 (1)請求項3及び4に係る発明の特許法29条2項の判断について 本件1次決定は,日本発条株式会社製 高機能薄物ポリウレタンシート 商品名「ニッパレイ EXT」に係る発明(以下「公知発明」という。)の構造が「非発泡のポリエチレンテレフタレート(PET)シート(厚さ50μm)上にポリウレタン系樹脂発泡シートが積層一体化されてなる積層シート」であること,及び,公知発明の物性値が「引張強さが1.5MPa,伸びが150%,ショアA硬度が32」であることを認定し,当該認定を前提に,本件特許の請求項3及び4に係る発明が公知発明及び引用文献1(甲第7号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断したところ,本件取消判決において,以下のとおりの事実認定及び法律判断がなされた。 ア.「本件においては,ニッパレイEXTが『非発泡のポリエチレンテレフタレート(PET)シート(厚さ50μm)上にポリウレタン系樹脂発泡シートが積層一体化されてなる積層シート』という構造を有していることが本件出願前に公然知られ得る状態にあったことを認めるに足りる証拠はない。」(判決書の53ページ下から6ないし2行) イ.「甲5のカタログに接した当業者においては,ニッパレイEXGについては6項目の物性値の全てについて記載があるのに,ニッパレイEXTについては,6項目のうち,『引張強さ』,『伸び』及び『A硬度 Shore-A』が空欄となっているのは,これらの物性値は測定できないか,あるいはニッパレイEXGの物性値とは異なるものであると認識するというべきである。また,ニッパレイEXGのようなポリウレタン系樹脂発泡シートはスポンジ状で柔軟な性質を有するのに対し,PETフィルムは結晶性樹脂であるため強靭性を有し,各種ベースフィルムとして用いられること,異なる物性の材料を積層した積層体は,その構成部材の性質や状態によって全体としての物性が変化し得るものであることは,本件出願当時の技術常識であったものと認められる(甲26)。かかる技術常識を踏まえると,甲5のカタログに接した当業者においては,ニッパレイEXTの『引張強さ』,『伸び』及び『ショアA硬度』については,ポリウレタン系樹脂発泡シートであるニッパレイEXGの各数値と同じ値であることを理解するものとはいえない。 以上によれば,本件決定におけるニッパレイEXTの物性値の『引張強さ』,『伸び』及び『ショアA硬度』の各数値の上記認定手法は相当とはいえず,これらの各数値が,甲5のカタログ記載のニッパレイEXGの値と同じ値であることが,本件出願時に公然知られ得る事項であったと認めることはできない。」(判決書の54ページ下から8行ないし55ページ12行) ウ.「甲5のカタログに貼付されたサンプルをJIS規格等に従って測定した場合に,ニッパレイEXTとニッパレイEXGの『引張強さ』,『伸び』及び『ショアA硬度』が同じ値となることを認めるに足りる証拠はない。同様に,日本発条が顧客に製品の納品の際に提供する『製品検査成績表』(ニッパレイEXGについては,甲38の別紙○4)を同社から取得できたとしても,ニッパレイEXTの物性値の『引張強さ』,『伸び』及び『ショアA硬度』が,甲5のカタログ記載のニッパレイEXGの値と同じ値であることが本件出願時に公然知られ得る事項であったことを認めることはできない。」(判決書の56ページ10ないし18行,なお,「○4」は,丸付き数字の4を代替表記したものである。) エ.「本件決定認定の本件公知発明のうち,少なくとも『引張強さ』,『伸び』及び『ショアA硬度』の認定に誤りがあるというべきであるから,本件決定における本件公知発明の認定は誤りである。 ・・・ 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件決定は,公知発明の認定を誤り,その結果本件発明3と本件公知発明との一致点の認定を誤り,相違点を看過したことが認められる。 したがって,本件発明3は,本件公知発明及び甲7(本件決定・引用文献1)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとした本件決定の進歩性の判断は誤りである。同様に,本件決定における本件発明3の特定事項を全て含む本件発明4の進歩性の判断も誤りである。」(判決書の57ページ4ないし14行) (2)請求項3に係る発明の特許法29条の2の判断について 本件1次決定は,特願2012-67537号(甲第3号証に係る出願,以下「先願」という。)に記載された発明について,「発泡ウレタンからなる支持層がニッパレイEXTである」こと,並びに,ニッパレイEXTの「厚み,密度,引張強さ,伸び,ショアA硬度,及び25%圧縮応力の各物性値は,請求項3に係る発明の積層シートの各物性値の数値範囲内のものである」ことを認定し,本件特許の請求項3に係る発明は先願に記載された発明と同一であると判断したところ,本件取消判決において,以下のとおりの事実認定及び法律判断がなされた。 ア.「先願明細書には,実施例1として,『発泡ウレタンからなる支持層』として『ニッパレイEXT』を用いることが記載されているが(【0093】),同支持層又はニッパレイEXTの『引張強さ』,『伸び』及び『ショアA硬度』についての記載はない。 また,ニッパレイEXTの物性値のうち,『引張強さ』,『伸び』及び『ショアA硬度』が,甲5のカタログ記載のニッパレイEXGの値と同じ値であることが,本件出願前に公然知られ得る状態にあったものと認めることができない」(判決書の59ページ12ないし19行) イ.「本件発明3は本件先願発明と同一の発明であるとした本件決定の判断は誤りである」(判決書の59ページ下から5ないし4行) 第3 本件訂正請求に係る訂正の適否 (1)本件訂正請求前の特許請求の範囲の請求項3及び4 本件1次決定の結論は,「平成29年8月28日付け訂正請求において,特許第5905698号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。特許第5905698号の請求項3及び4に係る特許を取り消す。特許第5905698号の請求項1及び2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。」というものであるが,上記のとおり,本件取消判決により,請求項3及び4に係る部分が取り消される一方で,本件1次決定のうちの残余の部分は確定した。 また,本件特許について,令和元年11月25日に訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)がなされたことから,平成29年8月28日になされた訂正請求のうち,請求項3及び4についての訂正請求は取り下げられたものとみなす(特許法120条の5第7項)。 したがって,本件訂正請求前の本件特許の特許請求の範囲の請求項3及び4は,以下のとおりのものである。 「【請求項3】 発泡シートと合成樹脂非発泡シートとが積層一体化されてなる積層シートと,前記積層シートの一方の面に積層一体化されてなる粘着剤層とを有する研磨用クッション材であって, 前記積層シート(中央部を含む領域に貫通孔を有する積層シートを除く)は,厚みが0.3~3.0mmであり,密度が450~600kg/m3であり,引張強さが1.0~2.0MPaであり,伸びが140~160%であり,ショアA硬度が25~40であり,及び25%圧縮応力が0.30~0.50MPaであることを特徴とする研磨用クッション材。 【請求項4】 積層シートの他方の面に粘着剤層がさらに積層一体化されてなることを特徴とする請求項3に記載の研磨用クッション材。」 (2)訂正の内容 本件訂正請求に係る訂正の内容は,本件訂正請求前の請求項3に 「前記積層シート(中央部を含む領域に貫通孔を有する積層シートを除く)は,厚みが0.3~3.0mmであり,密度が450~600kg/m3であり,引張強さが1.0~2.0MPaであり,伸びが140~160%であり,ショアA硬度が25~40であり,及び25%圧縮応力が0.30~0.50MPaである」 と記載されているのを, 「前記積層シート(中央部を含む領域に貫通孔を有する積層シートを除く)は,変位計を用いて測定荷重80gにて測定した厚みが0.3~3.0mmであり,重量を体積で除して算出した密度が450~600kg/m3であり,JIS K6400に準拠して測定した引張強さが1.0~2.0MPaであり,JIS K6400に準拠して測定した伸びが140~160%であり,JIS K6253で規定されたデューロメータを用いて測定した,発泡シートが配置されている面におけるショアA硬度が25~40であり,及び1mm/分の圧縮速度にて,圧縮前の厚みの25%の厚みとなるまで発泡シートが配置されている面から厚み方向に圧縮した時の応力である25%圧縮応力が0.30~0.50MPaである」 に訂正し,請求項3を引用する請求項4も同様に訂正する,というものである。また,本件訂正請求は,一群の請求項〔3,4〕に対して請求されたものである。 (3)訂正の目的の適否 本件訂正請求前の請求項3の「厚み」,「密度」,「引張強さ」,「伸び」,「ショアA硬度」及び「25%圧縮応力」について,どのように測定した値であるのか,請求項3の記載のみからは必ずしも明確でなかったところ,上記(2)の訂正により,「厚み」については「変位計を用いて測定荷重80gにて測定した」ことを明確にし,「密度」については「重量を体積で除して算出した」ことを明確にし,「引張強さ」及び「伸び」については「JIS K6400に準拠して測定した」ことを明確にし,「ショアA硬度」については「JIS K6253で規定されたデューロメータを用いて測定した,発泡シートが配置されている面における」ものであることを明確にし,「25%圧縮応力」については「1mm/分の圧縮速度にて,圧縮前の厚みの25%の厚みとなるまで発泡シートが配置されている面から厚み方向に圧縮した時の応力である」ことを明確にしているから,上記(2)の訂正は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (4)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記(2)の訂正のうち,「厚み」が「変位計を用いて測定荷重80gにて測定した」ものであることは,本件特許に係る明細書の段落【0108】に記載されており,「密度」が「重量を体積で除して算出した」ものであることは,段落【0109】に記載されており,「引張強さ」及び「伸び」が「JIS K6400に準拠して測定した」ものであることは,段落【0110】及び【0111】に記載されており,「ショアA硬度」が「JIS K6253で規定されたデューロメータを用いて測定した,発泡シートが配置されている面における」ものであることは,段落【0112】に記載されており,「25%圧縮応力」が「1mm/分の圧縮速度にて,圧縮前の厚みの25%の厚みとなるまで発泡シートが配置されている面から厚み方向に圧縮した時の応力である」ことは,段落【0113】に記載されているから,上記(2)の訂正の内容は,本件特許に係る明細書に記載された事項である。 また,上記(2)の訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。 (5)小括 以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。 したがって,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔3,4〕について訂正することを認める。 第4 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項3及び4に係る発明(以下「本件発明3及び4」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項3及び4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項3】 発泡シートと合成樹脂非発泡シートとが積層一体化されてなる積層シートと,前記積層シートの一方の面に積層一体化されてなる粘着剤層とを有する研磨用クッション材であって, 前記積層シート(中央部を含む領域に貫通孔を有する積層シートを除く)は,変位計を用いて測定荷重80gにて測定した厚みが0.3~3.0mmであり,重量を体積で除して算出した密度が450~600kg/m3であり,JIS K6400に準拠して測定した引張強さが1.0~2.0MPaであり,JIS K6400に準拠して測定した伸びが140~160%であり,JIS K6253で規定されたデューロメータを用いて測定した,発泡シートが配置されている面におけるショアA硬度が25~40であり,及び1mm/分の圧縮速度にて,圧縮前の厚みの25%の厚みとなるまで発泡シートが配置されている面から厚み方向に圧縮した時の応力である25%圧縮応力が0.30~0.50MPaであることを特徴とする研磨用クッション材。 【請求項4】 積層シートの他方の面に粘着剤層がさらに積層一体化されてなることを特徴とする請求項3に記載の研磨用クッション材。」 第5 取消理由(決定の予告)の概要 本件発明3及び4に係る特許に対して,当審が令和元年9月24日付けで特許権者に通知した取消理由通知(決定の予告)(以下,単に「決定の予告」という。)において,取消理由があるとしたものの概要は,次のとおりである。 1.取消理由1(決定の予告の第6の3.の取消理由1(1)) 本件特許の発明の詳細な説明は,表1の記載に誤りがあり,当業者が本件発明3及び4を実施できる程度の記載があるとはいえないから,本件発明3及び4に係る特許は,特許法36条4項1号に規定する要件(以下「実施可能要件」ということがある。)を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2.取消理由2(決定の予告の第9の新たな取消理由) 本件特許の発明の詳細な説明には,本件発明3及び4で特定する引張強さ,伸び及びショアA硬度の数値範囲を満たす発明が実質的に記載されているとはいえないから,本件発明3及び4に係る特許は,特許法36条6項1号に規定する要件(以下「サポート要件」ということがある。)を満たしていない特許出願に対してされたものである。 なお,令和元年6月7日付け取消理由通知における取消理由1(2)及び取消理由2について,理由がないことは,決定の予告において判断したとおりである。 第6 本件特許に係る明細書及び甲第5号証の記載 1.本件特許に係る明細書の記載 「【技術分野】 【0001】 本発明は,被研磨物を研磨して平坦性を高める際に,被研磨物や研磨材を研磨機に固定するために用いられる研磨用クッション材に関する。 【背景技術】 【0002】 半導体デバイスに用いられるシリコンウェーハや液晶ディスプレイなどに用いられるガラス基板などの基板の表面には,その平坦性を高めるために化学機械研磨(以下,「CMP」とも記載する)が行われる。CMPでは,研磨布又は研磨パッドと呼ばれる研磨材が両面粘着性テープなどにより研磨機の定盤に貼着され,シリコンウェーハ又はガラス基板などの被研磨物が回転プレートに固定され,そして,被研磨物と研磨材を加圧した状態で相対的に摺動させることによって被研磨物の研磨が行われる。 【0003】 また,従来のCMPでは,回転プレートと被研磨物との間又は定盤と研磨材との間に研磨用クッション材を介在させて,被研磨物の表面に加わる押圧力を均一にすることにより被研磨物の平坦性を向上させている。例えば,特許文献1では,回転プレートの定盤と対向する面に発泡ポリウレタン樹脂からなる研磨用クッション材を粘着剤により貼着し,この研磨用クッション材に水を含ませて被研磨物を吸着保持させている。 ・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 半導体デバイスの配線がますます微細化しており,半導体デバイスの表面の平坦性をさらに向上させることが望まれている。また,半導体デバイスなどの被研磨物への研磨負荷を小さくするために低い押圧力でより均一に研磨加工することが求められている。したがって研磨用クッション材にも被研磨物の被研磨面に加わる押圧力をさらに均一にするために,クッション性の向上が求められている。しかしながら,従来の研磨用クッション材では,単にクッション性を向上させようとすると剛性が低下して柔らかくなり過ぎ,被研磨物や研磨材を平坦に保持できなくなる問題があった。 【0006】 したがって,本発明の目的は,低い押圧力での研磨加工時にも優れたクッション性を発揮すると共に,被研磨物や研磨材を平坦に保持することができる研磨用クッション材を提供することである。」 「【0102】 (実施例1) ・・・ 【0104】 そして,ポリウレタン系樹脂発泡シート(日本発条株式会社製 商品名:ニッパレイEXG)の一方の面に上記の通りに作製したアクリル系粘着剤層を積層し,このポリウレタン系樹脂発泡シートの他方の面に上記の通りに作製したゴム系粘着剤層を積層し,これにより得られた積層体の両面上のそれぞれに40℃に加熱設定したゴムロールを転動することにより,ポリウレタン系樹脂発泡シートとアクリル系粘着剤層及びゴム系粘着剤層とを積層一体化させた。これにより,ポリウレタン系樹脂発泡シート11の一方の面にアクリル系粘着剤層12aが積層一体化され,ポリウレタン系樹脂発泡シート11の他方の面にゴム系粘着剤層12bが積層一体化された図2に示す研磨用クッション材を得た。 【0105】 (実施例2) 離型フィルム上に実施例1と同様にしてアクリル系粘着剤層(厚み50μm)を作製した。また,他の離型フィルム上に実施例1と同様にしてゴム系粘着剤層(厚み80μm)を作製した。 【0106】 次に,非発泡のポリエチレンテレフタレート(PET)シート(厚さ50μm)上にポリウレタン系樹脂発泡シートが積層一体化されてなる積層シート(日本発条株式会社製 商品名:ニッパレイEXT)のPETシート上に上記で作製したアクリル系粘着剤層を積層し,積層シートのポリウレタン系樹脂発泡シート上に上記で作製したゴム系粘着剤層を積層した。これにより得られた積層体の両面上のそれぞれに40℃に加熱設定したゴムロールを転動することにより,積層シートとアクリル系粘着剤層及びゴム系粘着剤層とを積層一体化させた。これにより,積層シート21のPETシート21b上にアクリル系粘着剤層22aが積層一体化され,積層シート21のポリウレタン系樹脂発泡シート22a上にゴム系粘着剤層22bが積層一体化された図4に示す研磨用クッション材を得た。 ・・・ 【0109】 (密度) ポリウレタン系樹脂発泡シート又は積層シートを縦10cm×横10cmの縦横寸法に切り出した試験片の重量を測定し,測定した重量(W[kg])を試験片の縦横寸法及び厚さから算出した体積(V[m3])で除した値(W/V)を算出することにより密度[kg/m3]を算出した。 【0110】 (引張強さ) 引張強さ[MPa]の測定は,JIS K6400で規定された方法に準拠して行った 。 【0111】 (伸び) 伸び[%]の測定は,JIS K6400で規定された方法に準拠して行った。 【0112】 (ショアA硬度) ショアA硬度の測定は,JIS K6253で規定されたデューロメータを用いて測定した。なお,積層シートについては,積層シートのポリウレタン系樹脂発泡シートが配置された面についてショアA硬度の測定を行った。 【0113】 (25%圧縮応力) 25%圧縮応力の測定は,ポリウレタン系樹脂発泡シート及び積層シートをそれぞれ30mm×30mmの平面正方形状に切断することにより試験片を作製し,この試験片を1mm/分の圧縮速度にて,圧縮前の試験片の厚みの25%の厚みとなるまで試験片をその厚み方向に圧縮した時の応力を測定することにより行った。なお,積層シートを用いてなる試験片については,試験片のポリウレタン系樹脂発泡シートが配置された面について25%圧縮応力の測定を行った。」 「表1 」 2.甲第5号証の記載 甲第5号証(以下「甲5」という。)は,日本発条株式会社が平成20年5月に発行した「高密度薄物シート状ウレタンニッパレイ NIPPALAY」と題するカタログであり,「2-1.物性値」欄には,「EXG」について,「厚み」が「1.25」mm,「密度」が「550」kg/m3,「引張強さ」が「1.5」MPa,「伸び」が「150」%,「A硬度Shore-A」が「32」,「25%圧縮応力」が「0.4」MPaとの記載がある。 また,「EXT」について,」「厚み」が「0.8/1.0」mm,「密度」が「550」kg/m3,「25%圧縮応力」が「0.4」MPaとの記載があるが,「引張強さ」,「伸び」,「A硬度Shore-A」の項目は空欄となっている。 第7 取消理由1の判断 1.表1の記載を誤記と判断した根拠 当審は,決定の予告において,主に以下の2つを根拠として,本件特許の発明の詳細な説明における表1の実施例2の引張り強さ,伸び及びショアA硬度の各数値の記載が誤記であると判断し,当業者は,仮に,本件発明3及び4を実施すべくニッパレイEXTという積層シートを入手しても,本件発明3及び4に係る数値範囲を満たすことはできず,本件発明3及び4を実施することができないと判断した。 (1)誤記の根拠1 表1の実施例1は,ポリウレタン系樹脂発泡シートであるニッパレイEXGを用いており(【0104】),実施例2は,非発泡のPETシート上にポリウレタン系樹脂発泡シートが積層一体化されたニッパレイEXTを用いている(【0106】)。 そして,実施例1及び実施例2の引張強さ及び伸びが一致し,ショアA硬度はほぼ一致し,密度及び25%圧縮応力は一致している(【表1】)。 ニッパレイEXGのようなポリウレタン系樹脂発泡シートはスポンジ状で柔軟な性質を有するのに対し,PETフィルムは結晶性樹脂であるため強靭性を有し,各種ベースフィルムとして用いられること,異なる物性の材料を積層した積層体は,その構成部材の性質や状態によって全体としての物性が変化し得るものであることは,本件出願当時の技術常識であったものと認めることができる(上記第2の2.(1)イ.)から,当該技術常識を有する当業者は,ニッパレイEXGの物性値とニッパレイEXTの物性値が同じ値であると理解するとはいえず,いずれかの数値が誤りであると理解するところ,ニッパレイEXGの物性値は,本願の出願前に公知(上記第7の2.)であって,表1の実施例1の各数値と一致するから,実施例2の数値が誤りである蓋然性が高い。 (2)誤記の根拠2 特許権者は,本件取消判決に係る訴訟の原告第2準備書面(平成30年6月28日)の12ないし14ページにおいて,特許権者がニッパレイEXTの物性を測定したところ(同訴訟の甲38),密度,引張強さ,伸び及びショアA硬度の数値が,いずれも本件発明3で特定する数値範囲から外れることを自認している。当該測定されたニッパレイEXTの密度,引張強さ,伸び及びショアA硬度の数値は,表1の実施例2の物性値と異なる。 2.表1の記載を誤記と判断した根拠の検討 (1)誤記の根拠1について ア.表1の実施例1及び実施例2は,いずれもポリウレタン系樹脂発泡シート(以下,単に「発泡シート」という。)を含んでいるが,厚みについては,実施例1が1.25mmであるのに対して,実施例2が0.8mmであり,実施例2は非発泡のPETシート(以下,単に「PETシート」という。)をさらに含むことから,発泡シート自体の厚みは,実施例1に対して実施例2は薄いことが明らかである。 実施例1は,発泡シートが厚いのに対して,実施例2は,発泡シートが薄いことに加えてPETシートが積層されているものであることを前提に,各数値を検討する。 イ.引張強さについては,実施例2の発泡シートは実施例1よりも薄いから,発泡シート自体の強度は小さくなるといえるが,非発泡のPETシートが積層されていることにより強度が大きくなる可能性があるから,発泡シートとPETシートを積層した全体としての引張強さが,実施例1と一致することがないとまではいえない。したがって,実施例1及び実施例2の引張強さが一致することを根拠として,表1の記載が誤りであると断定することはできない。 ウ.伸びについては,実施例2の発泡シートは実施例1よりも薄いから,発泡シート自体の伸びは大きくなるといえるが,非発泡のPETシートが積層されていることにより伸びが小さくなる可能性があるから,発泡シートとPETシートを積層した全体としての伸びが,実施例1と一致することがないとまではいえない。したがって,実施例1及び実施例2の伸びが一致することを根拠として,表1の記載が誤りであると断定することはできない。 エ.ショアA硬度は,実施例2については,発泡シートが配置された面について測定を行う(【0112】)から,実施例2のショアA硬度が,発泡シートからなる実施例1とほぼ一致することはあり得るといえる。したがって,実施例1及び実施例2のショアA硬度がほぼ一致することを根拠として,表1の記載が誤りであると断定することはできない。。 オ.25%圧縮応力は,実施例2については,発泡シートが配置された面について測定を行う(【0113】)から,実施例2の25%圧縮応力が,発泡シートからなる実施例1と一致することはあり得るといえる。したがって,実施例1及び実施例2の25%圧縮応力が一致することを根拠として,表1の記載が誤りであると断定することはできない。 カ.密度については,実施例2のPETシートの体積や重量が,発泡シートのそれに比べて僅かであれば,実施例1及び実施例2の密度が一致することがないとまではいえない。したがって,実施例1及び実施例2の密度が一致することを根拠として,表1の記載が誤りであると断定することはできない。 キ.以上のとおり,誤記の根拠1によっては,表1の記載が誤りであるとまではいえない。 (2)誤記の根拠2について 特許権者は,本件取消判決に係る訴訟の原告第2準備書面において,ニッパレイEXTの物性の測定値が,本件発明3で特定する数値範囲から外れることを説明しているものの,その説明の趣旨は,ニッパレイEXTの物性は,大きなばらつきを有しており,ニッパレイEXTの製品全ての物性値が,本件発明3で特定する数値範囲に収まるとは限らないことをいうものである。 すなわち,ニッパレイEXTの製品には,上記測定値のように,その物性値が本件発明3で特定する数値範囲から外れるものがある一方,数値範囲内に収まる製品が存在する可能性を否定できないから,上記測定値が本件発明3で特定する数値範囲を外れていることを根拠に,表1の記載が誤りであると断定することはできない。 (3)小括 上記(1)及び(2)に説示するとおり,誤記の根拠1及び誤記の根拠2によって,本件特許の発明の詳細な説明における表1の記載が誤記であるとまではいえない。 そして,ニッパレイEXTの製品には,その物性値が本件発明3で特定する数値範囲に収まるものが存在する可能性を否定できないから,当業者は,本件発明3で特定する数値範囲に収まるものを研磨用クッション材として採用することにより,本件発明3及び4を実施することができるというべきである。 したがって,決定の予告における取消理由1によって,本件発明3及び4に係る特許を取り消すことはできない。 第8 取消理由2の判断 取消理由2は,本件特許の発明の詳細な説明には,本件発明3及び4で特定する引張強さ,伸び及びショアA硬度の数値範囲を満たす発明が実質的に記載されているとはいえないことを前提に,本件発明3及び4がサポート要件を満たしていない,というものであるが,上記第7で検討したように,本件特許の発明の詳細な説明の表1の記載には誤記があるとまではいえず,本件発明3及び4で特定する引張強さ,伸び及びショアA硬度の数値範囲を満たす発明が,発明の詳細な説明に記載されていることを否定できないから,決定の予告における取消理由2によって,本件発明3及び4に係る特許を取り消すことはできない。 第9 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1.特許法29条2項に係る特許異議申立理由 特許法29条2項に係る特許異議申立理由は,公知発明(上記第2の2.(1))について,以下の2点を前提として,本件発明3及び4は公知発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものである,というものである(本件異議申立書の25ページ下から7行ないし27ページ1行)。 (前提1)公知発明の構造が「発泡シートと合成樹脂製非発泡シートとが積層一体化されてなる積層シート」であること。 (前提2)公知発明は,本件発明3及び4に係る,厚み,密度,引張強さ,伸びショアA硬度及び圧縮応力の数値範囲を満たすこと。 しかし,本件取消判決において,上記の前提1を否定する事実認定(上記第2の2.(1)ア.)及び上記の前提2を否定する事実認定(上記第2の2.(1)イ.ないしエ.)がなされ,当該事実認定は当審を拘束するから,特許法29条2項に係る特許異議申立理由は前提を欠くことになり,当該特許異議申立理由により,本件発明3及び4に係る特許を取り消すことはできない。 2.特許法29条の2に係る特許異議申立理由 特許法29条の2に係る特許異議申立理由は,先願(上記第2の2.(2))に記載された「日本発条社製ニッパレイEXT」について,以下の2点を前提として,本件発明3が,先願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一である,というものである(本件異議申立書の18ページ6行ないし19ページ3行)。 (前提3)先願に記載された「日本発条社製ニッパレイEXT」の構造が「発泡シートと合成樹脂製非発泡シートとが積層一体化されてなる積層シート」であること。 (前提4)先願に記載された「日本発条社製ニッパレイEXT」は,本件発明3に係る,厚み,密度,引張強さ,伸びショアA硬度及び圧縮応力の数値範囲を満たすこと。 しかし,本件取消判決において,上記の前提4を否定する事実認定(上記第2の2.(2)ア.)がなされ,当該事実認定は当審を拘束するから,特許法29条の2に係る特許異議申立理由は前提を欠くことになり,当該特許異議申立理由により,本件発明3に係る特許を取り消すことはできない。 第10 むすび 以上のとおりであるから,決定の予告における取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件発明3及び4に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に本件発明3及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。

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2016-700992

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