特許異議申立
2023-701381
保持パッド及びその製造方法
- 審判番号
- 2023-701381
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-062181
- 登録番号
- 7304186
- 請求日
- 2023年12月27日
- 審決日
- 2025年09月17日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】富士紡ホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】赤堀 龍吾
- 【権利者代理人】井澤 哲舜
- 【異議申立人】芳野 理之
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 山田 康孝
- 審判官 田々井 正吾
- 分類
- P1651.537-YAA(B24B) / P1651.536-YAA(B24B) / P1651.113-YAA(B24B) / P1651.121-YAA(B24B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第126条第7項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7304186号発明「保持パッド及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7304186号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。
特許第7304186号の請求項1、4~11に係る特許を維持する。
特許第7304186号の請求項2~3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7304186号(以下「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願は、平成31年3月28日に出願され、令和5年6月28日にその特許権の設定登録がされ、同年7月6日に特許掲載公報が発行された。
本件特許に対する特許異議の申立ての経緯は次のとおりである。
1 令和5年12月27日
特許異議申立人芳野理之(以下「申立人」という。)による本件特許の請求項1~11に係る特許に対する特許異議の申立て
2 令和6年 5月22日付け
特許権者富士紡ホールディングス株式会社(以下「特許権者」という。)に対して取消しの理由(以下「取消理由」という。)を通知(以下、この通知を「初回取消理由通知」という。)
3 令和6年 7月22日
特許権者による訂正の請求(以下、この請求を「前回訂正請求」という。)と意見書の提出
4 令和6年 9月11日
特許権者による上記3の訂正の請求に係る訂正請求書を補正対象とする手続補正書(方式)の提出
5 令和6年10月22日
申立人による意見書の提出
6 令和7年 1月14日付け
特許権者に対して特許を取り消すべき旨の決定の予告をする取消理由を通知(以下、この通知を「決定の予告」という。)
7 令和7年 3月12日
特許権者による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)と意見書の提出
8 令和7年 4月25日
特許権者による上記7の訂正の請求に係る訂正請求書を補正対象とする手続補正書(方式)の提出
この8の手続補正書(方式)による補正で、訂正請求書に添付した訂正した特許請求の範囲に付した下線部の補正をしたが、次の第2で本件の特許請求の範囲に付した下線部は、この補正後の下線部に基づくものである。
なお、特許権者が上記7の訂正の請求をしたことに伴い、令和7年5月15日付けで、申立人に対して期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人は意見書を提出しなかった。
第2 本件訂正請求による訂正の適否
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の適否について検討する。
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~11について訂正することを求めるものである。
2 一群の請求項についての説明
訂正前の請求項1~11について、請求項2~11は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、本件訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~11に対応する訂正後の請求項1~11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 独立特許要件
本件特許異議申立ては、本件訂正前の全ての請求項1~11が対象とされているので、本件訂正に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 訂正事項(下線は訂正箇所に付した。以下第2において同じ。)
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「被研磨物を保持するための保持面を有する樹脂シートを備え、
前記樹脂シートにおいて、下記式(1)から算出される前記保持面の明度指数の変動係数が0.835以下である、
保持パッド。
CV(ΔL*)=SD(ΔL*)/AVE(ΔL*)・・・(1)
(式中、ΔL*はJIS Z 8722:2000に準拠し、L*a*b*色空間において、前記樹脂シートが有する前記保持面における任意の基準点と、該基準点に対して前記保持面の縦方向及び横方向にそれぞれ等間隔の20cmずつ移動した各10箇所の点とにおける各明度指数であり、CV(ΔL*)はΔL*の変動係数を示し、SD(ΔL*)はΔL*の標準偏差を示し、AVE(ΔL*)はΔL*の相加平均を示す。)」
と記載されているのを、
「被研磨物を保持するための保持面を有する樹脂シートを備え、
前記樹脂シートにおいて、下記式(1)から算出される前記保持面の明度指数の変動係数が0.269以上0.835以下であり、
前記樹脂シートがポリウレタン樹脂を含み、
CV(△L*)=SD(△L*)/AVE(△L*)・・・(1)
(式中、△L*はJIS Z 8722:2000に準拠し、L*a*b*色空間において、前記樹脂シートが有する前記保持面における任意の基準点と、該基準点に対して前記保持面の縦方向及び横方向にそれぞれ等間隔の20cmずつ移動した各10箇所の点とにおける各明度指数であり、CV(△L*)は△L*の変動係数を示し、SD(△L*)は△L*の標準偏差を示し、AVE(△L*)は△L*の相加平均を示す。)
前記標準偏差が0.019以上0.030以下であり、
前記相加平均が0.036以上0.072以下である、
保持パッド。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項4~11も同様に訂正をする。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「請求項1~3のいずれか一項に記載の保持パッド」
と記載されているのを、
「請求項1に記載の保持パッド」
に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5~11も同様に訂正をする。)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、
「請求項1~4のいずれか一項に記載の保持パッド」
と記載されているのを、
「請求項1又は4に記載の保持パッド」
に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6~11も同様に訂正をする。)。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に、
「請求項1~5のいずれか一項に記載の保持パッド」
と記載されているのを、
「請求項1、4及び5のいずれか一項に記載の保持パッド」
に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7~11も同様に訂正をする。)。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に、
「請求項1~6のいずれか一項に記載の保持パッド」
と記載されているのを、
「請求項1及び4~6のいずれか一項に記載の保持パッド」
に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8~11も同様に訂正をする。)。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に、
「請求項1~7のいずれか一項に記載の保持パッド」
と記載されているのを、
「請求項1及び4~7のいずれか一項に記載の保持パッド」
に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9~11も同様に訂正をする。)。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に、
「請求項1~8のいずれか一項に記載の保持パッド」
と記載されているのを、
「請求項1及び4~8のいずれか一項に記載の保持パッド」
に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10~11も同様に訂正をする。)。
5 一群の請求項の訂正
訂正事項1~9は、上記2の特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である請求項1~11を訂正するものである。
6 訂正要件の検討
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に対し、以下の訂正を行うものである。
(ア)保持面の明度指数の変動係数の数値範囲が0.835以下であったものを、0.269以上0.835以下に減縮する。
(イ)樹脂シートがポリウレタン樹脂を含むことを限定する。
(ウ)明度指数△L*の標準偏差の数値範囲について、訂正前の請求項2の内容(0.10以下)を繰り上げた上で、さらに0.019以上0.030以下に限定する。
(エ)明度指数△L*の相加平均の数値範囲について、訂正前の請求項3の内容(0.20以下)を繰り上げた上で、さらに0.036以上0.072以下に限定する。
(オ)上記(ア)~(エ)の訂正に伴い、訂正前の請求項1では式(1)の直前に記載した「研磨パッド。」の用語を、請求項の末尾に移動する。
そうすると、上記(ア)~(エ)は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、上記(オ)は、訂正前に記載された事項について、記載の順序を変更することによる、同第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 本件の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
(ア)上記ア(ア)の訂正について
上記ア(ア)で、保持面の明度指数の変動係数の数値範囲について、新たに下限値を定めて0.269以上とすることは、本件明細書等の段落【0058】の表1における実施例2の値に基づくものであって、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(イ)上記ア(イ)の訂正について
上記ア(イ)で、樹脂シートがポリウレタン樹脂を含むことは、本件明細書等の段落【0023】の「樹脂シート2を構成するマトリックス材料は、例えばポリウレタン樹脂を最も多く含む組成であり」の記載に基づくものであって、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)上記ア(ウ)の訂正について
上記ア(ウ)で、請求項2の内容を繰り上げて、さらに明度指数△L*の標準偏差の数値範囲を0.019以上0.030以下に限定することは、本件明細書等の請求項2、及び段落【0058】の表1の実施例1及び実施例2の標準偏差の値の記載に基づくものであって、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(エ)上記ア(エ)の訂正について
上記ア(エ)で、請求項3の内容を繰り上げて、さらに明度指数△L*の相加平均の数値範囲を0.036以上0.072以下に限定することは、本件明細書等の請求項3、及び段落【0058】の記載に基づくものであって、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(オ)上記ア(オ)の訂正について
上記ア(オ)で、訂正前の請求項1では式(1)の直前に記載した「研磨パッド。」の用語を、請求項の末尾に移動することは、これにより、請求項1の研磨パッドにおける樹脂シート及び式(1)の内容に新たな技術的事項を導入するものでないことは明らかであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記(ア)~(エ)の特許請求の範囲の減縮と上記(オ)の明瞭でない記載の釈明をするものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2~3の訂正要件の検討
ア 訂正の目的
訂正事項2及び3は、それぞれ特許請求の範囲の請求項2及び3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2及び3は、上記アのとおり、特許請求の範囲の請求項2及び3を削除するものであって、新規事項を追加するものでないことは明らかであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2及び3は、上記アのとおり、特許請求の範囲の請求項2及び3を削除するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項4~9の訂正要件の検討
ア 訂正の目的
訂正事項4~9は、訂正前の特許請求の範囲の請求項4~9が、それぞれ請求項2及び請求項3を引用していたのを、訂正事項2~3により請求項2及び請求項3が削除されたことに伴い、請求項2及び請求項3を引用しないように訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮又は同第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2及び3は、上記アのとおり、請求項4~9について、請求項2及び3を引用しないように訂正するものであって、新規事項を追加するものでないことは明らかであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2及び3は、上記アのとおり、請求項4~9について、請求項2及び3を引用しないように訂正するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
7 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり本件訂正を認めたから、本件請求項1~11に係る特許発明(以下、各請求項に係る発明を「本件特許発明1」などといい、「本件特許発明1」~「本件特許発明11」をまとめて「本件特許発明」ということがある。)は、本件訂正により訂正をした特許請求の範囲の請求項1~11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
被研磨物を保持するための保持面を有する樹脂シートを備え、
前記樹脂シートにおいて、下記式(1)から算出される前記保持面の明度指数の変動係数が0.269以上0.835以下であり、
前記樹脂シートがポリウレタン樹脂を含み、
CV(△L*)=SD(△L*)/AVE(△L*)・・・(1)
(式中、△L*はJIS Z 8722:2000に準拠し、L*a*b*色空間において、前記樹脂シートが有する前記保持面における任意の基準点と、該基準点に対して前記保持面の縦方向及び横方向にそれぞれ等間隔の20cmずつ移動した各10箇所の点とにおける各明度指数であり、CV(△L*)は△L*の変動係数を示し、SD(△L*)は△L*の標準偏差を示し、AVE(△L*)は△L*の相加平均を示す。)
前記標準偏差が0.019以上0.030以下であり、
前記相加平均が0.036以上0.072以下である、
保持パッド。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記樹脂シートにおいて、JIS B 0601:1994に準拠して測定される前記保持面の表面粗さが1.0μm以下である、
請求項1に記載の保持パッド。
【請求項5】
前記樹脂シートが顔料を含む、
請求項1又は4に記載の保持パッド。
【請求項6】
前記樹脂シートがポリエステル系ポリウレタン樹脂を含む、
請求項1、4及び5のいずれか一項に記載の保持パッド。
【請求項7】
前記樹脂シートが疎水性添加剤を含む、
請求項1及び4~6のいずれか一項に記載の保持パッド。
【請求項8】
前記樹脂シートの前記保持面とは反対側に、基材をさらに備える、
請求項1及び4~7のいずれか一項に記載の保持パッド。
【請求項9】
請求項1及び4~8のいずれか一項に記載の保持パッドを製造する方法であって、
樹脂を含む樹脂溶液を、撹拌翼を配した撹拌装置を用いて調製する工程と、
前記樹脂溶液から樹脂シートを成形する工程と、を有する、保持パッドの製造方法。
【請求項10】
前記撹拌翼による前記樹脂溶液に対する剪断速度が10~100/秒である、請求項9に記載の保持パッドの製造方法。
【請求項11】
前記撹拌翼による前記樹脂溶液に対する撹拌時間が900秒以上である、請求項9又は10に記載の保持パッドの製造方法。」
第4 決定の予告で通知した取消理由
1 理由の概要
当審が決定の予告で通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
A.(明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
B.(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 理由A(明確性)について
(1)理由A(明確性)の説明
決定の予告で取消理由を通知した、前回訂正請求により訂正をした本件の特許請求の範囲について、請求項2及び請求項3が削除されて存在しないにも関わらず、請求項4~9は請求項2又は請求項3を引用しており、引用している部分について内容が明確でない。
したがって、請求項4~9、及び請求項9を引用する請求項10~11は明確でない。
(2)理由A(明確性)に対する当審の判断
上記第2のとおり、本件訂正の訂正事項4~9により、特許請求の範囲の請求項4~9が請求項2及び請求項3を引用しないように訂正をし、本件特許発明4~9、及び本件特許発明9を引用する本件特許発明10~11は明確となったから、本件訂正後の請求項4~9、10~11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。
3 理由B(サポート要件)について
(1)理由B(サポート要件)の説明
ア 発明の詳細な説明に記載した課題を解決する発明(実施例1~2)
決定の予告で取消理由を通知した、前回訂正請求により訂正をした特許請求の範囲に対して、本件の発明の詳細な説明には、実施例1及び実施例2の研磨パッドが課題を解決しており、比較例1及び比較例2の研磨パッドが課題を解決していないことが記載されている一方で、課題を解決したと評価できる平坦度aの数値範囲について実施例1の0.004、実施例2の0.003以外には具体的な数値の開示がされていないことから、平坦度aが0.004以下の範囲で課題を解決したと判断せざるを得ない。(下の表1及び表2を参照。)
【表1】(本件の発明の詳細な説明の段落【0058】)
[図:0001431093000001.jpg]
【表2】(本件の発明の詳細な説明の段落【0063】)
[図:0001431093000002.jpg]
イ 明度指数の変動係数と標準偏差及び相加平均の課題解決に対する寄与について
実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2からみて、明度指数ΔL*の標準偏差SD(ΔL*)「以下「SD」という。)及び相加平均AVE(ΔL*)(以下「AVE」という。)と平坦度aとの相関係数はいずれも、明度指数ΔL*の変動係数CV(ΔL*)(以下「CV」という。)と平坦度aとの相関係数より高いことから、SD及びAVEが上記課題解決に対する寄与は、CVに劣らないと推定される。(下のグラフ1~3を参照。)
【グラフ1】(当審で作成したCVと平坦度aの関係を表すグラフ)
[図:0001431093000003.jpg]
【グラフ2】(申立人が作成したSDと平坦度aの関係を表すグラフ)
[図:0001431093000004.jpg]
【グラフ3】(申立人が作成したAVEと平坦度aの関係を表すグラフ)
[図:0001431093000005.jpg]
ウ サポート要件違反について
そうすると、本願の発明の詳細な説明には、CVが0.269~0.835の範囲にあるのみならず、SDが0.019~0.030、及びAVEが0.036~0.072の範囲にある研磨パッドのみが、平坦度aが上記の0.004以下の範囲にあり、課題を解決していることが把握されるのに対して、請求項1及びこれを引用する請求項4~11に係る発明は、SD及びAVEの数値範囲が反映されていないから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えたものとなっている。
(すなわち、CV=SD/AVEという関係にあるため、CVが0.269~0.835の範囲であるとしても、SDが0.019~0.030の範囲で、かつ、AVEが0.036~0.072の範囲に限定されるわけではなく、例えば、SDが19~30の範囲で、かつ、AVEが36~72の範囲なども含まれるが、このような数値範囲では課題を解決できないことは明らかである。)
したがって、本件特許発明1、及びこれを引用する本件特許発明4~11は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(2)理由B(サポート要件)に対する当審の判断
上記第2のとおり、本件訂正の訂正事項1により、本件の特許請求の範囲の請求項1に、標準偏差が0.019以上0.030以下であること及び相加平均が0.036以上0.072以下であることが記載され、本件特許発明1には、課題を解決する発明としての実施例1及び実施例2の明度指数の標準偏差と相加平均が反映されて、本件特許発明1、及びこれを引用する本件特許発明4~11は、本件の発明の詳細な説明に記載した範囲内のものとなったから、本件訂正後の請求項1、4~11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。
4 小括
上記2~3より、本件の請求項1、及び請求項4~11に係る特許を、決定の予告で通知した取消理由である理由A(明確性)及び理由B(サポート要件)によっては取り消すことができない。
第5 決定の予告で採用しなかった特許異議申立理由
特許異議申立書において申立てられ、当審が決定の予告で採用しなかった特許異議申立理由(以下「申立理由」という。)の概要は以下のとおりである。
1 理由の概要
C.(実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
D.(新規性)本件特許の請求項1~3、5~9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~3、5~9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
E.(進歩性)本件特許の請求項1~11に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(各甲号証に係る発明)に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 理由C(実施可能要件)について
理由C(実施可能要件)は、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明に関し、初回取消理由通知で通知したが、決定の予告では理由がないとして採用しなかった理由であって、次の(1)及び(2)の実施可能要件に関するものである。
(1)保持パッドの製造における樹脂溶液の成分に関する実施可能要件
ア 申立理由の説明
保持パッドの製造における樹脂溶液の成分についての実施可能要件に関する申立理由は、樹脂溶液の成分に関し、当業者が発明の詳細な説明及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項1に記載した保持面の明度指数の変動係数(CV)が0.835以下の範囲にある樹脂シートを、実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2等の記載からではどのように作るか理解できず、そのような物を作るために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要があるというものであり、次の(ア)~(ウ)を根拠とする。
(ア)実施例1~2では、段落【0037】に特定の樹脂溶液を用いたもののみが開示される一方で、樹脂溶液の成分やその含有量によって変動すると考えられる変動係数(CV)を、これ以外の樹脂溶液を用いた場合にどのように0.835以下に調整できるかが十分に開示されていない。
(イ)樹脂溶液の成分やその含有量が全く同じ実施例1~2、比較例1~2のうち、実施例1~2は変動係数(CV)を0.835以下に調整でき、比較例1~2は調整できないことから、成分やその含有量によってどのように変動係数(CV)を調整するかを理解できない。
(ウ)樹脂シートに含有される成分やその含有量について限定されないあらゆる保持パットを含む請求項1に係る発明について、「変動係数が0.835以下である」保持パッドをどのように製造するのかについて、当業者に理解できる程度に発明の詳細な説明に記載されていない。
イ (1)の実施可能要件に対する当審の判断
初回取消理由通知に対して、特許権者が令和6年7月22日に提出した意見書(以下「特許権者意見書」という。)の第5の2(1)によれば、本件の発明の詳細な説明の段落【0041】、【0028】、及び【0017】の記載から、剪断速度、剪断回数、及び撹拌時間を調整することによって、発泡形状の均一性が向上し、CVが一定以下になり、保持面の色ムラがより小さくなって、被研磨面の平坦性をより向上できることが理解できる。
この知見に基づけば、上記ア(ア)の段落【0037】の特定の樹脂溶液に限らず、段落【0022】~【0030】の記載に基づいた成分やその含有量の樹脂溶液であれば、剪断速度、剪断回数、及び撹拌時間を調整することによって、変動係数(CV)を0.835以下に調整できることが認められる。
また、上記ア(イ)の樹脂溶液の成分やその含有量が全く同じ実施例1~2、比較例1~2について、剪断速度、剪断回数、及び撹拌時間を調整することにより、実施例1~2が変動係数(CV)を0.835以下に調整できることが認められる。
そして、上記ア(ウ)について、上記段落【0037】記載の特定の樹脂溶液に限定されないあらゆる保持パットについて、「変動係数が0.835以下」に調整できるかどうかはともかくとして、少なくとも、段落【0022】~【0030】の記載に基づいた成分やその含有量の樹脂溶液を用いれば、剪断速度、剪断回数、及び撹拌時間を調整することで変動係数(CV)を0.835以下に調整できることが認められるから、本件の発明の詳細な説明の記載により、本件特許発明をどのように作るかは理解できるし、このような剪断速度、剪断回数、及び撹拌時間の調整は、攪拌機の通常の機能により設定を調整すれば可能なものであるから、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要があるとはいえない。
なお、付言すれば、本件訂正により、樹脂シートがポリウレタン樹脂を含むものに限定されたことで、上記段落【0022】~【0030】の記載内容は、樹脂シートの成分の具体例としてポリウレタン樹脂を含んでいることから、本件の発明の詳細な説明により本件特許発明が実施できることがさらに明確になったといえる。
したがって、本件の発明の詳細な説明は、保持パッドの製造における樹脂溶液の成分について、当業者が本件特許発明を実施できる程度に記載されているといえる。
(2)保持パッドの製造における樹脂溶液を撹拌する工程に関する実施可能要件
ア 申立理由の説明
保持パッドの製造における樹脂溶液を撹拌する工程に関する実施可能要件に関する申立理由は、樹脂溶液を撹拌する工程に関し、当業者が発明の詳細な説明及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項1に記載した保持面の明度指数の変動係数(CV)が0.835以下の範囲にある樹脂シートを、その変動係数の全ての範囲に亘って、実施例1~2、比較例1~2等の記載からではどのように作るか理解できず、そのような物を作るために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要があるというものである。
そして、申立人は、当該申立理由の根拠として、明度指数の変動係数が0.835以下である樹脂シートが得られるか否かの要因として関与することが理解される剪断速度に関し、変動係数(CV)との相関関係が低い(下のグラフAを参照。)ことを説明した。
【グラフA】申立人が作成した変動係数CVと剪断速度の関係
[図:0001431093000006.jpg]
イ 特許権者の意見書における主張
これに対して、特許権者は、特許権者意見書の第5の2(2)において、発泡の直径が小さくなるほど、全体の発泡形状は均一になり、変動係数(CV)が小さくなるという関係に言及した上で、乙第1号証(谷本至 外2名、“通気撹拌における平均気泡径に及ぼす操作条件の影響”、化学工学会第42回秋季大会研究発表講演要旨集、公益社団法人化学工学会、2010年、S217、第947ページ、https://doi.org/10.11491/scej.2010f.0.781.0:以下「乙1」という。)を引用し、特に下のグラフBにより、変動係数(CV)に関連する発泡の直径と、剪断速度に対応する回転(撹拌)速度との関係について、発泡の直径が最小になる最適な撹拌速度が存在し、当該速度から撹拌速度が増加又は減少するにつれて、発泡の直径が単調増加する傾向にあること、及びこの関係を敷衍すると本件特許発明における変動係数(CV)と剪断速度には、取消理由で説示したような直線的な相関関係はないことを説明する。
【グラフB】(乙1の図3:発泡の直径と回転(撹拌)速度の関係を表すグラフ)
[図:0001431093000007.jpg]
ウ (2)の実施可能要件に対する当審の判断
上記イの知見に基づけば、本件特許発明において変動係数(CV)を最小にする最適な剪断速度が存在し、上記グラフAを参照すれば、概ね実施例2の剪断速度(23/秒)が最適な剪断速度であって、実施例1(60/秒)と実施例2(23/秒)との間では、変動係数が0.269~0.835、平坦度aが0.002~0.003となることが把握され、さらに、本件訂正により、本件特許発明における変動係数が訂正前の0.835以下から0.269以上0.835以下に訂正されているのであるから、本件の発明の詳細な説明は、保持パッドの製造における樹脂溶液を撹拌する工程について、当業者が本件特許発明を実施できる程度に記載されているといえる。
(3)実施可能要件の取消理由のまとめ
上記(1)~(2)より、本件特許の請求項1、4~11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。
3 理由D(新規性)及び理由E(進歩性)について
理由D(新規性)は願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~3、5~9に対して、理由E(進歩性)は、同請求項1~11に対して申立てられたが、初回取消理由通知、及び決定の予告のいずれにおいても採用されなかったものである。
(1)申立人が提出した証拠方法
ア 甲第1号証:特開2015-66627号公報
イ 甲第2号証:特開2011-148067号公報
以下、甲第1号証及び甲第2号証を、それぞれ「甲1」及び「甲2」という。
(2)甲1について
ア 甲1の記載事項(下線は当審で付与。)
(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
被研磨物を保持するための保持面を有するシートを備える保持パッドであって、
前記シートは樹脂を含み、前記シートの剪断剥離力が1.1~3.0MPaである、
保持パッド。」
(イ)発明の詳細な説明
「【技術分野】
【0001】
本発明は、保持パッド及び保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウエハ、シリコンウエハ、ハードディスク用基板やガラス基板などの各種材料(被研磨物)の表面(片面)では、平坦性を向上するために、対向配置された2つの定盤を備えた研磨機を用いた研磨加工が行われている。特にシリコンウエハ及びガラス基板では、欠陥のない積層配線の高集積化や高画質画像を演出するため、それらの基礎となる基板に対する高精度な平坦性の要求がますます高まっている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のものを始めとする従来の技術では、保持パッドが備える樹脂シートが、研磨加工時の押圧力や研磨スラリに含まれる化学成分による浸食によって劣化し、研磨加工の際に受ける剪断方向への力により、樹脂シート内の機械的強度の弱い部分から、その平面方向(面内方向)にずれるように剥離(破断)する場合があった。一方で、そのような剥離を防止するために単に保持パッドを硬くしても、被研磨物が損傷してしまうという欠点があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、研磨加工の際に、平面方向にずれるような剥離を抑制すると共に被研磨物の損傷をも抑制する、保持パッド及びその保持パッドを備える保持具を提供することを目的とする。
・・・
【0015】
図1は、本実施形態に係る保持具の一例を示す模式断面図である。保持具100は、保持パッド110と、その保持パッド110上に設けられた枠材120とを備える。保持パッド110は、枠材120側から、樹脂シート112と基材114とをこの順に積層している。枠材120と樹脂シート112、及び樹脂シート112と基材114は、それぞれ接合されており、この例では、枠材120と樹脂シート112との接合は接着層122を介し、樹脂シート112と基材114との接合は接着層116を介している。保持パッド110に含まれる樹脂シート112は、樹脂を含み、保持具100における枠材120側に、被研磨物を保持するための保持面Pを有する。
・・・
【0024】
樹脂シート112が湿式成膜法により形成されたものである場合、保持面P側に図示しない緻密な微多孔が形成されたスキン層を有している。スキン層の表面はミクロな平坦性を有している。一方、スキン層のより内側(樹脂シート112の内部)には、スキン層の微多孔より大きい孔径で樹脂シート112の厚さ方向に沿って丸みを帯びた断面三角状の空孔が形成されている。その空孔は、保持面P側の大きさが、保持面Pと反対の面側よりも小さく形成されている。樹脂シート112には、スキン層の微多孔よりも大きく空孔よりも小さいサイズの孔が形成されていてもよい。スキン層の微多孔、空孔及び小さいサイズの孔は互いに連通孔で網目状につながっていてもよい。最大空隙率は、上記の空孔、小さいサイズの孔の存在比率によって決まる。
・・・
【0025】
樹脂シート112のマトリックスを構成する材料は、樹脂(以下、「マトリックス樹脂」ともいう。)を最も多く含む組成であれば特に限定されず、例えば、樹脂シート112は、その全体量に対して、マトリックス樹脂を80~100質量%含むものであってもよい。樹脂シート112は、その全体量に対して、マトリックス樹脂をより好ましくは85~100質量%含み、更に好ましくは90~100質量%含み、特に好ましくは90~95質量%含む。
【0026】
マトリックス樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリサルホン樹脂及びポリイミド樹脂が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられ、従来の研磨パッドの研磨層に用いられるものであってもよい。これらの中では、本発明の目的を一層有効且つ確実に奏する観点から、ポリウレタン樹脂が好ましく、樹脂シート112がポリウレタン樹脂を主成分、すなわち樹脂の中で最も多く含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことが更に好ましく、90質量%以上含むことが特に好ましく、95質量%以上含むことが極めて好ましい。
・・・
【0030】
樹脂シート112は、マトリックス樹脂以外に、保持パッドの樹脂シートに通常用いられる材料、例えば、カーボンブラックなどの顔料、親水性添加剤及び疎水性添加剤の1種又は2種以上を含んでもよい。親水性添加剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、燐酸エステル塩等のアニオン界面活性剤、親水性のエステル系、エーテル系、エステル・エーテル系、アミド系等のノニオン界面活性剤が挙げられる。また、疎水性添加剤としては、例えば、炭素数3以上のアルキル鎖が付加したノニオン系界面活性剤、より具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが挙げられる。これらの任意に用いられる材料は、剪断剥離力及び最大空隙率が上記範囲になるよう、適宜選択され、また、適宜その添加量を調整されてもよい。例えば、親水性添加剤の含有量は、樹脂シート112の全量に対して、0質量%を超え6質量%以下であると好ましく、0質量%を超え4質量%以下であるとより好ましい。また、疎水性添加剤の含有量は、樹脂シート112の全量に対して、3~22質量%であると好ましく、4~15質量%であるとより好ましい。さらには、樹脂シート112には、樹脂シート112の製造過程において用いられた溶媒などの各種の材料が、本発明の課題解決を阻害しない範囲で残存していてもよい。
・・・
【0043】
次いで、研削工程では、樹脂シート112の好ましくはスキン層側の主面と、その反対側である裏面とのうちの少なくとも一方を、バフ処理で研削又はスライス処理で除去する。バフ処理やスライス処理により樹脂シート112の厚さの均一化を図ることができるため、被研磨物に対する押圧力を一層均等化し、被研磨物の損傷を更に抑制すると共に被研磨物の平坦性を向上させることができる。また、スキン層側の主面は樹脂シート112において保持面Pとなる面であり、バフ処理又はスライス処理により開気孔が形成されると、被研磨物の研磨均一性が向上するので好ましい。
・・・
【0049】
図3は、本実施形態の保持具100を用いた研磨加工の様子を説明するための模式断面図である。保持具100は、保持用定盤(図示せず。)と研磨用定盤(図示せず。)とに、被研磨物500及び研磨パッド510と共に挟まれて、その厚み方向に押圧力が加えられる。それと共に、研磨加工の際、保持用定盤及び研磨用定盤は、例えば、互いに異なる回転速度で同方向に回転する結果、図3に示すように、研磨パッド510は、被研磨物500を研磨するように、保持具100及び保持具100により保持された被研磨物500に対して、平面方向(図3中の矢印)に移動する。その際、保持具100の樹脂シート112には、平面方向への力が加わる。上記厚み方向の押圧力及び平面方向への力の合算により、樹脂シート112には剪断方向への力が加わることになる。また、被研磨物500は、研磨加工中に、枠材120の内側で移動(自転)しながら研磨加工される。
・・・
【0056】
(実施例1)
まず、マトリックス樹脂となる原料樹脂である100%モジュラスが7.0MPaであるポリエステル系ポリウレタン樹脂の35%DMF溶液100質量部に対して、粘度調整用のDMF50質量部、水8質量部、顔料であるカーボンブラックを6.7質量%含むDMF分散液を44質量部、疎水性添加剤(ポリプロピレングリコール)2.5質量部、親水性添加剤(ラウリル硫酸ナトリウム)1.0質量部を添加して、混合撹拌し、樹脂溶液を調製した。次に、成膜用基材として、PETフィルムを用意し、そこに、上記樹脂溶液を、ナイフコータを用いて塗布し、厚さ0.6mmの塗膜を得た。
【0057】
次いで、得られた塗膜を成膜用基材と共に、凝固液である水からなる18℃の凝固浴に浸漬し、樹脂を凝固再生して前駆体シートを得た。前駆体シートを凝固浴から取り出し、PETフィルムを前駆体シートから剥離した後、前駆体シートを水からなる室温の洗浄液(脱溶剤浴)に浸漬し、溶媒であるDMFを除去して樹脂シートを得た。その後、樹脂シートを乾燥しつつ巻き取った。次に、樹脂シートの表面(成膜用基材に接触していなかった面)に対してバフ処理を施して、0.4mmの厚さとした。
【0058】
次に、樹脂シートのバフ処理を施した面とは反対側の面に、接着剤を介してPET基材を貼り合せた。続いて、PET基材の接着剤とは反対側の面に、芯材の両面に接着層(材質:アクリル系樹脂)を有し、更に接着層の片面に剥離紙を有する両面テープを、貼り合わせた後、外径33.5cmの円形に裁断し保持パッドを得た。次いで、保持パッドにおける樹脂シートのバフ処理を施した面に、樹脂シートと同じ外径を有する円環状の枠材(材質:ガラスエポキシ樹脂、厚さ:0.6mm、内径:30.1cm)を、アクリル系接着剤を介して貼り合わせ、保持具を得た。」
(ウ)図面
「【図1】
[図:0001431093000008.jpg]
・・・
【図3】
[図:0001431093000009.jpg]
」
イ 甲1の記載事項の整理
(ア)甲1には、上記ア(ア)の【請求項1】、同ア(イ)の段落【0001】~【0002】、【0007】~【0008】、【0049】、図1、3の記載からみて、半導体ウエハなどの各種材料である被研磨物500を保持する保持パッド110について記載されている。
(イ)段落【0015】、【0025】~【0026】、図1、3の記載からみて、上記(ア)の保持パッド110は、被研磨物500を保持するための保持面Pを有するポリウレタン樹脂を含む樹脂シート112を備える。
ウ 甲1に記載された発明
上記イより、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「被研磨物500を保持するための保持面Pを有するポリウレタン樹脂を含む樹脂シート112を備える保持パッド110。」
(3)甲2について
ア 甲2の記載事項
「【0054】
(研磨性能評価)
各実施例および比較例の保持パッドを用い、以下に示す研磨条件にて液晶ディスプレイ用ガラス基板(470mm×370mm×0.7mm)の研磨加工を行い、研磨性能を評価した。この評価では、日本工業規格(JIS B0601:’82)に準じた方法で、ろ波中心うねりから平坦度aを測定した。平坦度aの測定では、表面粗さ形状測定機(株式会社東京精密製、サーフコム480A)を使用し、以下に示す測定条件に設定した。研磨加工後のガラス基板表面の凹凸に起因して得られる測定曲線から、隣り合う凸部(山部)と凸部との間の幅W、および、凸部と凹部(谷部)との高さSを算出した後、幅Wを横軸、高さSを縦軸とした散布図を作成した。得られた散布図から、一次式S=aWの近似直線を求め、傾きaを研磨加工後の最終の平坦度aとした。一般に、平坦性が高くなるほど幅Wが大きくなり高さSが小さくなるため、傾きaが小さいほど平坦性に優れることを示すこととなる。平坦度aの測定結果を下表2に示す。
・・・
【0055】
【表2】
[図:0001431093000010.jpg]
」
イ 甲2に記載された技術的事項
上記アの段落【0054】~【0055】の記載からみて、甲2には次の技術的事項(以下「甲2記載の技術的事項」という。)が、記載されている。
「液晶ディスプレイ用ガラス基板を平坦度aが0.004あるいは0.003に研磨加工することができる保持パッド。」
(4)本件特許発明1と甲1発明の対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「被研磨物500」は本件特許発明1の「被研磨物」に相当し、以下同様に「保持面P」は「保持面」に、「樹脂シート112」は「樹脂シート」に、「ポリウレタン樹脂を含む樹脂シート112」が、「前記樹脂シートがポリウレタン樹脂を含」むことに、「保持パッド110」は「保持パッド」にそれぞれ相当する。
(5)本件特許発明1と甲1発明の一致点及び相違点
上記(4)より、本件特許発明1と甲1発明は、次のアの点で一致し、イの点で相違する。
ア 一致点
被研磨物を保持するための保持面を有する樹脂シートを備え、
前記樹脂シートがポリウレタン樹脂を含む、
保持パッド。
イ 相違点
保持パッドが備える樹脂シートが有する保持面の明度指数に関し、本件特許発明1が、
「下記式(1)から算出される前記保持面の明度指数の変動係数が0.269以上0.835 以下であり、
CV(ΔL*)=SD(ΔL*)/AVE(ΔL*)・・・(1)
(式中、ΔL*はJIS Z 8722:2000に準拠し、L*a*b*色空間において、前記樹脂シートが有する前記保持面における任意の基準点と、該基準点に対して前記保持面の縦方向及び横方向にそれぞれ等間隔の20cmずつ移動した各10箇所の点とにおける各明度指数であり、CV(ΔL*)はΔL*の変動係数を示し、SD(ΔL*)はΔL*の標準偏差を示し、AVE(ΔL*)はΔL*の相加平均を示す。)
前記標準偏差が0.019以上0.030以下であり、
前記相加平均が0.036以上0.072以下である、」
のに対して、甲1発明は、樹脂シートが有する保持面の明度指数の変動係数CV(ΔL*)、標準偏差SD(ΔL*)、及び相加平均AVE(ΔL*)の値が不明である点。
(6)本件特許発明1、及び本件特許発明4~11の理由D(新規性)についての結論
上記(5)のとおり、本件特許発明1と甲1発明には相違点が存在するから、本件特許発明1は甲1発明と同一ではなく、甲1に記載された発明ではない。したがって、本件特許発明1、及び本件特許発明1を引用する本件特許発明4~11は特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件の請求項1、4~11に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。そして、本件特許発明1、4~11が甲2記載の技術的事項と同一でないことも明らかである。
なお、申立人は、上記相違点が実質的な相違点でない旨を説明している(以下の(7)ア)が、当該主張は、以下の(7)ウのとおり、採用できない。
(7)相違点の検討
ア 申立人の特許異議申立書における説明
申立人は、相違点に関し、特許異議申立書の3(4)エ.(ア)b.「事項B」(特許異議申立書第21ページ)において、概ね、次の(ア)~(ウ)の説明をする。
(ア)本件特許発明1の実施例1と甲1の実施例1とは、ポリエステル系ポリウレタン樹脂の含有量が異なっているが、保持面の色ムラを小さくできる成分の含有量が一致しているため、相違点に係る本件特許発明1の得られる樹脂シートの「保持面の明度指数」が略同一となる蓋然性が高い。
(イ)当業者であれば、技術常識に基づいて甲1の実施例1の樹脂溶液を成分が均一になるように十分に混合撹拌するといえる。樹脂溶液の成分が均一になるように十分に混合撹拌した場合、相違点に係る本件特許発明1の「保持面の明度指数の変動係数」を満たす保持パッドが得られる蓋然性が高い。
(ウ)甲1発明が、本件特許発明1と同様にバフ処理をするか否かを問わず、相違点1に係る本件特許発明1の「保持面の明度指数の変動係数」となる蓋然性が高い。
イ 本件特許発明について、撹拌条件によって保持パッドが備える樹脂シートが有する保持面の明度指数の変動係数、標準偏差、及び相加平均が変わることについて
本件の明細書記載の実施例(段落【0048】~【0064】)においては、実施例1~2,比較例1~2の研磨パッドを作製している。
ここで、本件の明細書の段落【0049】~【0053】には、以下の記載がある。(下線は当審で付与。)
「【0049】
(実施例1)
マトリックス樹脂となる原料樹脂のポリエステル系ポリウレタン樹脂をDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)に溶解させた30質量%の溶液100質量部に対して、粘度調整用のDMF50質量部、水8質量部、顔料のカーボンブラック6.7質量%を含むDMF分散液44質量部、疎水性添加剤のポリプロピレングリコール2.5質量部、親水性添加剤のラウリル硫酸ナトリウム1.0質量部を、撹拌翼を配した撹拌装置内に供給し、撹拌翼の剪断速度を60/秒で、1時間撹拌した後、所定時間撹拌装置内で滞留させて調製した。
【0050】
次に、成膜用基材として市販のPETフィルムを用意し、そこへ調製した樹脂溶液をナイフコーターを用いて塗布し、厚さ1.0mmの塗膜を得た。次いで得られた塗膜を成膜用基材と共に、凝固液である水からなる18℃の凝固浴に浸漬し、樹脂を凝固再生して前駆体樹脂シートを得た。前駆体樹脂シートを凝固浴から取り出し、成膜用基材を前駆体樹脂シートから剥離した後、前駆体樹脂シートを水からなる室温の洗浄液(脱溶媒浴)に浸漬し、乾燥しつつ巻き取った。次に、樹脂シートの裏面(成膜用基材を剥離した側の面であって、成膜用基材に接触していた面)に対してバフ処理を施して、0.8mmの厚さとした。
次に、樹脂シートのバフ処理を施した面に市販のPET基材と市販の離型シートからなる両面テープを貼り合わせ、保持パッドを得た。
【0051】
(実施例2)
撹拌翼の剪断速度を23/秒に変更した以外は、実施例1と同様にして保持パッドを作製した。
【0052】
(比較例1)
撹拌翼の剪断速度を8.5/秒に変更した以外は、実施例1と同様にして保持パッドを作製した。
【0053】
(比較例2)
撹拌した時間を1時間から5分に変更した以外は、実施例1と同様にして保持パッドを作製した。
・・・
【0058】
【表1】
[図:0001431093000011.jpg]
【0059】
実施例1及び2では、比較例1及び2に比べて、保持パッドの保持面における色ムラの指標として算出した変動係数:CVの値が小さく、色ムラが抑制されていることが分かった。
・・・
【0063】
【表2】
[図:0001431093000012.jpg]
【0064】
実施例1及び2では、比較例1及び2に比べて、被研磨物の被研磨面における平坦度aを向上できることが分かった。」
上記の記載からみて、実施例1における撹拌速度や撹拌時間の撹拌に関する条件を変えた実施例2及び比較例1~2は、他の条件、例えば、保持パッドの原料樹脂や添加剤に係る条件が実施例1と同じであっても、保持パッドが備える樹脂シートが有する保持面の明度指数の変動係数、標準偏差、及び相加平均が実施例1とは異なることが把握される。
ウ 本件特許発明1と甲1発明の明度指数の数値が一致することの蓋然性について
そうすると、上記ア(ア)及び(ウ)で申立人が説明するように、甲1発明と本件特許発明1との間で、保持面の色ムラを小さくできる成分の含有量が一致し、あるいは同じバフ処理を施すことで、これらの条件が同じになるとしても、それだけでは、相違点に係る明度指数の変動係数、標準偏差、及び相加平均について、甲1発明が本件特許発明1の数値と一致する蓋然性が高いという推定をすることはできない。
また、上記ア(イ)で申立人は、技術常識に基づいて、甲1発明の成分が均一になるように十分に混合撹拌すれば、相違点に係る本件特許発明1の「保持面の明度指数の変動係数」を満たす蓋然性が高い旨を主張するが、上記2(2)ウで説示するとおり、保持面の明度指数の変動係数を最小にする最適な剪断速度(発泡の直径が最小になる最適な剪断速度)が存在し、当該最適な剪断速度から増加又は減少すれば、保持面の明度指数の変動係数が増加するといえるところ、単に、成分が均一になるように十分に混合撹拌するだけでは、その攪拌の剪断速度が、上記最適な剪断速度に一致するとまではいえないから、申立人の主張は採用できない。
そして、甲1発明、及び甲2記載の技術的事項のいずれも、樹脂シートが有する保持面の明度指数に対して何ら関連するところはないし、また、甲1及び甲2において、甲1発明、及び甲2記載の技術的事項に関する、上記(2)イ、及び上記(3)イの根拠箇所以外の記載(例えば、甲1の段落【0024】、【0030】、【0043】等の樹脂シートの構成、成分、あるいは製造方法に関する記載)をみても、当該明度指数について、その変動係数、標準偏差、及び相加平均も含めて記載や示唆はされていない。
したがって、相違点に係る本件特許発明1の明度指数の変動係数、標準偏差、及び相加平均について、甲1発明、あるいは甲1発明及び甲2記載の技術的事項から容易に想到し得たとする根拠を見いだすことができないし、他にそのような根拠を示す証拠が提示されているものでもない。
(8)本件特許発明1、及び本件特許発明4~11の理由E(進歩性)についての結論
上記(7)のとおりであるから、本件特許の請求項1、4~11に係る発明は、甲1発明、及び甲2記載の技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではなく、請求項1、4~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
4 小括
上記2~3より、本件の請求項1、及び請求項4~11に係る特許を、決定の予告で採用しなかった申立理由である理由C(実施可能要件)、理由D(新規性)、及び理由E(進歩性)によっては取り消すことができない。
第6 むすび
以上のとおり、本件の請求項1、及び請求項4~11に係る特許を、決定の予告で通知した取消理由、及び決定の予告で採用しなかった申立理由によっては取り消すことができない。
また、他に本件の請求項1、及び請求項4~11に係る特許を、取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項2~3に係る特許は、上記第2のとおり、本件訂正により削除された。これにより、本件特許に対する異議の申立てについて、請求項2~3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701381