特許異議申立
2025-700131
研磨パッド、その製造方法、及び研磨加工物の製造方法
- 審判番号
- 2025-700131
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-058412
- 登録番号
- 7539240
- 請求日
- 2025年01月30日
- 審決日
- 2025年11月18日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】富士紡ホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】赤堀 龍吾
- 【権利者代理人】三宅 晃史
- 【異議申立人】芳野 理之
- 審判長/審判官
- 審判長 本庄 亮太郎
- 審判官 山田 康孝
- 審判官 鈴木 貴雄
- 分類
- P1651.537-YAA(B24B) / P1651.121-YAA(B24B) / P1651.536-YAA(B24B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7539240号発明「研磨パッド、その製造方法、及び研磨加工物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7539240号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
特許第7539240号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 特許掲載公報の発行までの経緯
特許第7539240号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和2年3月27日にされた特許出願であって、令和6年8月15日にその特許権の設定登録がされ、同月23日に特許掲載公報が発行された。
2 特許異議の申立て以降の経緯
本件特許に対する特許異議の申立て以降の主な経緯は、次のとおりである。
(1)令和7年1月30日
特許異議申立人 芳野 理之(以下「申立人」という。)による、本件特許の請求項1~10に係る特許に対する特許異議の申立て(申立てのために提出された特許異議申立書を以下単に「申立書」という。)
(2)同年5月7日付け(発送日:同月12日)
取消理由の通知 (以下「取消理由通知」という。)
(3)同年7月11日
特許権者 富士紡ホールディングス株式会社(以下「特許権者」という。)による、訂正の請求(請求された訂正を以下「本件訂正」といい、本件訂正のために提出された訂正請求書を以下「訂正請求書」という。)、及び意見書の提出
(4)同年8月19日
申立人による、意見書(以下「申立人意見書」という。)の提出
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容について
特許権者は、本件訂正により、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求めるところ、本件訂正の内容は、以下のとおりである(訂正箇所に下線を付して示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「差(V2-V1)が、2.0%以上15.0%以下である」
と記載されているのを、
「差(V2-V1)が、5.0%以上12.0%以下である」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~10も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記空隙率V2が、7.0%以上75.0%以下である」
と記載されているのを、
「前記空隙率V2が、10.0%以上72.0%以下である」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~10も同様に訂正する。)。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~10については、請求項2~10がそれぞれ請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である請求項〔1~10〕について請求をするものである。
3 独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、全ての請求項を対象としているので、訂正事項1~10に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1における「研磨領域の空隙率V1」と「定盤領域の空隙率V2」との「差(V2-V1)」について、「2.0%以上15.0%以下」であるとの数値範囲を、「5.0%以上12.0%以下」であると訂正するものであって、数値範囲の上限値と下限値とをそれぞれ狭める方向に変更するものである。
したがって、訂正事項1は、訂正前の請求項1において特定されていた数値範囲を減縮するように訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無について
訂正事項1による本件訂正後の請求項1の「差(V2-V1)」の数値範囲の上限値及び下限値に関して、本件特許の明細書の段落【0018】には、「研磨領域の空隙率V1と、定盤領域の空隙率V2との差(V2-V1)は、好ましくは3.0%以上12.0%以下であり、より好ましくは4.0%以上10.0%以下であり、更に好ましくは5.0%以上9.0%以下である。」(下線は当審にて付した。以下同様。)と、数値範囲の上限値の好ましい例、及び、下限値の更に好ましい例として記載される。
したがって、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてする訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、上記アのとおり、本件訂正前の請求項1において特定されていた数値範囲を減縮するように訂正するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項2における「空隙率V2」について、「7.0%以上75.0%以下」であるとの数値範囲を、「10.0%以上72.0%以下」であると訂正するものであって、数値範囲の上限値と下限値とをそれぞれ狭める方向に変更するものである。
また、訂正事項1により「研磨領域の空隙率V1」と「定盤領域の空隙率V2」との「差(V2-V1)」が「5.0%以上12.0%以下」と訂正されることに伴い、当該「差(V2-V1)」の数値範囲と、請求項2において特定される研磨領域の「空隙率V1」の数値範囲(5.0%以上60.0%以下)及び定盤領域の「空隙率V2」の数値範囲との関係が整合するように、訂正事項2における「空隙率V2」の数値範囲の上限値及び下限値を訂正するものである。
したがって、訂正事項2は、訂正前の請求項2において特定されていた数値範囲を減縮するとともに、その上限値及び下限値を、訂正事項1により訂正される数値範囲に整合するように訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無について
訂正事項2による本件訂正後の請求項2の定盤領域の「空隙率V2」の数値範囲の下限値に関して、本件特許の明細書の段落【0020】には、「定盤領域の空隙率V2は、特に限定されないが、好ましくは7.0%以上75.0%以下であり、より好ましくは10.0%以上65.0%以下であり、更に好ましくは15.0%以上50.0%以下であり、更により好ましくは22.0%以上35.0%以下であり、特に好ましくは23.0%以上35.0%以下である。」と、数値範囲の下限値のより好ましい例として記載される。
また、定盤領域の「空隙率V2」の数値範囲の上限値に関しては、本件明細書等に「72.0%」とすることの明示はないものの、段落【0018】には、研磨領域の空隙率V1と定盤領域の空隙率V2との差(V2-V1)の上限値の好ましい例として「12.0%以下」であること、及び、段落【0019】には、研磨領域の空隙率V1の上限値の好ましい例として「60.0%以下」であることがそれぞれ開示されることから、定盤領域の「空隙率V2」の数値範囲の上限値を「72.0%」とすることは、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるといえる。
したがって、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、上記アのとおり、本件訂正前の請求項2において特定されていた数値範囲を減縮し、整合するように訂正するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
5 小括
上記4(1)~(2)のとおり、訂正事項1~2に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められることから、本件特許の請求項1~10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明10」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された、以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
不織布と、該不織布に含浸した樹脂と、を有する研磨層を備え、
該研磨層は、被研磨物を研磨する研磨面と、定盤に直接又は間接的に固定される定盤面と、を有し、
前記研磨層の平均厚さをTとしたとき、前記研磨面から前記定盤面に向かって0.05T以上0.35T以下である研磨領域の空隙率V1と、前記定盤面から前記研磨面に向かって0.05T以上0.35T以下である定盤領域の空隙率V2と、の差(V2-V1)が、5.0%以上12.0%以下である、
研磨パッド。
【請求項2】
前記空隙率V1が、5.0%以上60.0%以下であり、
前記空隙率V2が、10.0%以上72.0%以下である、請求項1記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記研磨領域と、前記定盤領域と、の間の領域を、中間領域としたとき、
前記中間領域の空隙率V3は、前記空隙率V1より大きく、かつ、前記空隙率V2未満である、請求項1又は2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記研磨層の平均厚さTは、0.5mm以上4.0mm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記樹脂は、ポリウレタンである、請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨パッドの製造方法であって、
不織布に対して樹脂を含浸させることにより、厚さ方向に表面から中心に向かって空隙率が増加する空隙率勾配を有する樹脂含浸不織布を得る、樹脂含浸工程と、
前記樹脂含浸不織布の表面のいずれか一方又は両方を除去する、表面除去工程と、
を有する、研磨パッドの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂含浸工程は、前記不織布に対して第1の樹脂を含む樹脂溶液を含浸させ、該樹脂溶液が含浸した前記不織布を凝固液に浸漬して、前記第1の樹脂を凝固させる湿式凝固工程を含む、請求項6記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂含浸工程は、前記不織布に対して、プレポリマーと、硬化剤と、を含む溶液を含浸させ、前記プレポリマーと前記硬化剤とを反応させて第2の樹脂を形成する乾式凝固工程を含む、請求項6又は7に記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項9】
前記樹脂含浸工程において、前記湿式凝固工程後に前記乾式凝固工程を行う、請求項8に記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項10】
研磨スラリーの存在下、請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨パッドを用いて、被研磨物を研磨する研磨工程を有する、研磨加工物の製造方法。」
第4 申立人が主張する申立ての理由の概要
1 申立書における申立ての理由について
申立人による申立ての理由は、以下のとおり整理することができる。
(1)申立ての理由1:請求項1~10
甲第1号証に記載された発明を主引用発明とした、進歩性欠如(特許法第29条第2項、同法第113条第2号、申立書第2~7、16~26ページ)
(2)申立ての理由2:請求項1~10
サポート要件違反(特許法第36条第6項第1号、同法第113条第4号、申立書第2、7、26~34ページ)
(3)申立ての理由3:請求項1~10
実施可能要件違反(特許法第36条第4項第1号、同法第113条第4号、申立書第2、7、34ページ)
2 証拠方法
申立人による証拠方法は、書証として申立書に添付して提出された、甲第1号証~甲第3号証である。
(1)甲第1号証:特開昭62-140769号公報
(2)甲第2号証:特開2019-25549号公報
(3)甲第3号証:特開2021-154451号公報
(「甲第1号証」~「甲第3号証」を、以下それぞれ「甲1」等という。)
第5 当審より通知した取消理由の概要
取消理由通知に示した、本件訂正前の請求項1~10に係る特許に対する取消理由は、申立ての理由2(上記第4の1(2))のサポート要件に関するもののうち、申立書26~30ページの「a.実施例の内容を発明の範囲まで拡張ないし一般化できない」に関連するものであり、概要、次のとおりである。
<取消理由通知書の取消理由の概要>
(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が次の1~2の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
1 (本件訂正前の)請求項1について
(1)特許請求の範囲の請求項1においては、「差(V2-V1)」が「2.0%以上15.0%以下」であることが特定される。
(2)発明の詳細な説明においては、実施例と比較例との比較が記載された段落【0099】の表1によれば、「差(V2-V1)」が「6.9%」の実施例1では、研磨後の被研磨物に良好な平坦性及び端部形状(段落【0095】~【0096】に示される評価基準において、いずれも評価:A)を付与することができ、他方、「1.7%」の比較例1では、当該性能を得られない(同評価基準において、いずれも評価:C)ことが理解できる。また、「差(V2-V1)」が「6.9%」の実施例1の方が「1.7%」の比較例1よりも、研磨レートが高い(それぞれの研磨レートは、「0.46(μm/min)」及び「0.43(μm/min)」である。)ことが示されている。
(3)しかしながら、請求項1で特定される「2.0%以上15.0%以下」の数値範囲の全てにおいて、「研磨後の被研磨物に良好な平坦性及び端部形状を付与する」こと、及び、例えば比較例1に比して「より高い研磨レートを有する」ことにつき、発明の詳細な説明には、その実験結果が示されていない。
また、技術常識をふまえた当業者が、実験結果が示されていなくても、特許請求の範囲において特定される「差(V2-V1)」の数値範囲の全てにわたって、研磨後の被研磨物に良好な平坦性及び端部形状を付与すること、及び、例えば比較例1に比して「より高い研磨レートを有する」ことができるとまで、認識することができない。
(4)特に、「差(V2-V1)」の数値範囲の下限値である「2.0%」は、実施例1の性能より明らかに劣る比較例1の数値(1.7%)に近いところ、空隙率の差が、1.7%の場合と2.0%の場合との間で、平坦性及び端部形状がC評価からA評価に急激に変化する技術的な原理や、研磨レートが高まる原理を、発明の詳細な説明の記載のみならず、本件出願時の技術常識に照らしても、十分に理解することができない(さらに、研磨レートに関しては、「差(V2-V1)」に基づく作用機序の説明はなく、段落【0015】には、研磨領域の空隙率「V1」が低いことに起因するように説明されている。)。
また、「差(V2-V1)」の数値範囲の上限値である「15.0%」においても、当該数値範囲を境として、被研磨物の平坦性及び端部形状並びに研磨レートに、臨界的な変化が生じることを理解することができない。
(5)したがって、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容(「差(V2-V1)=6.9%」の実施例)を、拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
2 (本件訂正前の)請求項2~10について
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~10に係る発明についても、上記1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載したものでない。
第6 本件発明1~10における、取消理由通知に示した取消理由について
本件発明1~10について、取消理由通知にて示した上記第5の取消理由について、以下判断する。
1 請求項1について
(1)特許請求の範囲の記載
本件訂正により、本件発明1における「研磨領域の空隙率V1」と「定盤領域の空隙率V2」との「差(V2-V1)」は、「5.0%以上12.0%以下」であると特定される。
(2)発明の詳細な説明の記載
一方、発明の詳細な説明には、次の事項が記載される。
ア 発明が解決しようとする課題
「【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、研磨後の被研磨物に良好な平坦性及び端部形状を付与することができる研磨パッド、その製造方法、及び研磨加工物の製造方法を提供することを目的とする。」
イ 発明を実施するための形態
「【0013】
[研磨パッド]
本実施形態の研磨パッドは、不織布と、該不織布に含浸した樹脂と、を有する研磨層を備え、該研磨層の研磨面側の空隙率が、定盤面側の空隙率よりも所定の範囲内で低いものである。以下、各構成についてより詳細に説明する。
【0014】
(空隙率)
上記構成を有するために、本実施形態の研磨層における、研磨領域の空隙率V1と、定盤領域の空隙率V2との差(V2-V1)は、2.0%以上15.0%以下である。・・・」
「【0015】
このように、研磨層における研磨領域の空隙率を定盤領域の空隙率よりも所定の範囲内で低くすることにより、研磨面がより変形しにくくなる。そのため、得られる被研磨物の全体的な平坦性がより向上し、また、被研磨物の端部形状もより良化する。また、研磨領域の空隙率を所定の範囲内で低くすることにより、被研磨物に適度な研磨応力を与えることができるため、本実施形態の研磨パッドはより高い研磨レートを有するものとなる。そのため、例えば、SiC及びGaN等の半導体のような難削材の研磨にも好適に用いることができる。
【0016】
また、定盤領域の空隙率を研磨領域の空隙率よりも所定の範囲内で高くすることにより、研磨層に対してクッション性を付与することができ、研磨パッドの被研磨物への追従性がより向上する。そのため、得られる被研磨物の平坦性がより向上し、端部形状がより良化する。」
「【0018】
上記のような観点から、研磨領域の空隙率V1と、定盤領域の空隙率V2との差(V2-V1)は、好ましくは3.0%以上12.0%以下であり、より好ましくは4.0%以上10.0%以下であり、更に好ましくは5.0%以上9.0%以下である。上記空隙率の差(V2-V1)が上記の範囲にあることにより、研磨領域の剛性と定盤領域のクッション性とのバランスに一層優れ、得られる被研磨物の平坦性がより向上し、及び端部形状がより良化する。」
「【0029】
本実施形態の研磨層は、研磨領域、定盤領域、及び中間領域が一体となった1つの研磨層であり、例えば、空隙率が異なる2以上の層を接着部により接着して積層型の研磨層としたものは含まれない。積層型の研磨層としては、具体的には、空隙率が相対的に低い研磨層と、空隙率が相対的に高いクッション層とを、接着剤又は接着シートにより接着したものが挙げられる。このような場合、そのような接着部が存在することに起因して、研磨面内の荷重にばらつきが生じ、得られる被研磨物の平坦性が悪化する傾向にある。また、接着部が存在する部分と存在しない部分ではスラリーの透過性が異なるため、接着部を有する研磨層ではスラリーの目詰まりも生じやすくなる傾向にある。その結果、研磨パッドの寿命が短くなる。
【0030】
これに対して、本実施形態の研磨層は、1つの層が空隙率の異なる研磨領域と定盤領域とを有し、その間に接着部を有する必要がないため、得られる被研磨物の平坦性がより向上し、端部形状がより良化する。また、本実施形態の研磨層は、1つの層が空隙率の異なる研磨領域と定盤領域とを有し、その間に接着部を有する必要がないため、スラリーの透過性が均一で、目詰まりも生じにくい。その結果、本実施形態の研磨パッドの寿命は長くなる傾向にある。」
「【0048】
上記の構成を有することにより、研磨領域の空隙率V1と、定盤領域の空隙率V2との差(V2-V1)が、2.0%以上15.0%以下である研磨層をより容易に得ることができる。更に、SiC及びGaN等の半導体のような難削材の研磨についての研磨レートが高い研磨パッドを得ることができる。・・・」
ウ 実施例
「【0095】
(平坦性)
・・・
(評価基準)
A:比(ΔGBIR/GBIR0)が10%以下である。
B:比(ΔGBIR/GBIR0)が10%を超え15%以下である。
C:比(ΔGBIR/GBIR0)が15%を超える。
【0096】
(端部形状)
・・・
(評価基準)
A:比(ΔESFQR/ESFQR0)が20%以下である。
B:比(ΔESFQR/ESFQR0)が20%を超え25%以下である。
C:比(ΔESFQR/ESFQR0)が25%を超える。
【0097】
[研磨レート]
上記研磨加工の研磨レートを以下のようにして測定した。すなわち、研磨レートは、研磨加工前後の被研磨物の厚さの差である研磨量を、研磨時間で除したものであり、研磨加工前後の被研磨物について、厚み測定結果の平均値から求めた。・・・
【0098】
[製品寿命確認試験]
(研磨パッドの目詰まり)
上記研磨加工後の研磨パッドについて、以下のようにして研磨パッドの目詰まりを評価することで、研磨パッドの製品寿命を評価した。すなわち、上記研磨加工後の研磨パッドを目視により確認し、スラリーの目詰まりに起因する研磨パッドの硬化の発生を下記の基準で評価した。ほとんど研磨パッドの硬化が発生していなかった場合を「A」、やや研磨パッドの硬化が発生していた場合を「B」、かなり研磨パッドの硬化が発生していた場合を「C」と判定した。結果を表1に示す。
【0099】
【表1】
[図:0001432069000001.jpg]
【0100】
なお、実施例1で得られた研磨層を、研磨面から定盤面に向かって0.5Tの厚さで面方向に切断し、さらにそれを、接着剤を用いて再度接着させることで、研磨領域と定盤領域が接着剤で接着された研磨パッドについても試験を行った。その結果、研磨領域と定盤領域とが一体となっておらず、接着剤により接着された研磨パッドは、その接着剤の影響により、得られる被研磨物の平坦性及び端部形状が劣るほか、目詰まりも生じやすいことが分かった。」
(3)当審の判断
ア 発明の詳細な説明においては、上記第5の1(2)にも説示したように、段落【0099】の表1によれば、「差(V2-V1)」が「6.9%」の実施例1では、研磨後の被研磨物に良好な平坦性及び端部形状(段落【0095】~【0096】に示される評価基準において、いずれも評価:A)を付与することができるのに対して、「1.7%」の比較例1では、当該性能を得られない(同評価基準において、いずれも評価:C)ことが理解され、また実施例1の方が比較例1よりも、研磨レートが高い(それぞれの研磨レートは、「0.46(μm/min)」及び「0.43(μm/min)」である。)ことが示されている。
他方、発明の詳細な説明においては、本件発明1に特定される「5.0%以上12.0%以下」の数値範囲の全てにおいて、「高い研磨レートを有」しつつ、「研磨後の被研磨物に良好な平坦性及び端部形状を付与する」ことを裏付ける実験結果等は、明示的に開示されていない。
イ しかし、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである(参考判例:知財高裁令和6年1月23日判決言渡、令和5年(行ケ)第10020号)。
ウ そこでまず、数値範囲の下限値の「5.0%」についてみると、上記表1の実施例1では、平坦性の評価及び端部形状の評価がそれぞれAであること、及び、比較例1では、平坦性の評価及び端部形状の評価がそれぞれCであることが、それぞれ示される。そして、段落【0015】~【0016】には、研磨領域の空隙率V2を定盤領域の空隙率V1よりも所定の範囲内で低くすることにより、研磨面が変形しにくくなり、得られる被研磨物の全体的な平坦性がより向上し、端部形状もより良化するとともに、被研磨物に適度な研磨応力を与えることができることにより、高い研磨レートを有すること、さらには、定盤領域の空隙率V1を研磨領域の空隙率V2よりも所定の範囲内で高くすることにより、研磨層に対してクッション性を付与し、研磨パッドの被研磨物への追従性がより向上して、得られる被研磨物の全体的な平坦性がより向上し、端部形状もより良化することが記載されている。当該記載の作用機序を考慮すれば、空隙率V1を空隙率V2よりも低くすること、すなわち、差(V2-V1)が大きくなる変化に対して、平坦性を評価する比(ΔGBIR/GBIR0)(以下「比A」という。)、及び、端部形状を評価する比(ΔESFQR/ESFQR0)(以下「比B」という。)がともに、小さくなるように、1次関数的に変化すると仮定することができる(当審作成の下記の参考図1、2を参照。)。そのように仮定した場合、本件訂正前の差(V2-V1)の下限値である「2.0%」では、比較例1の「1.7%」の場合と大差がなく、平坦性の評価及び端部形状の評価がそれぞれCとなる蓋然性が高いと解される一方、本件訂正後の差(V2-V1)の下限値である「5.0%」では、実施例1の「6.9%」に近寄った傾向となり、平坦性の評価及び端部形状の評価が少なくともB(他のパラメータ次第では、評価A)に改善すると推察される。
(参考図1:平坦性) ※比A:比(ΔGBIR/GBIR0)
[図:0001432069000002.jpg]
(参考図2:端部形状) ※比B:比(ΔESFQR/ESFQR0)
[図:0001432069000003.jpg]
してみると、本件発明1の差(V2-V1)の下限値である「5.0%」の研磨パッドは、従前の「空隙率が全体として均―な研磨パッド」(段落【0003】)に比して、高い研磨レートを維持しつつ、「研磨後の被研磨物に良好な平坦性及び端部形状を付与することができる」との効果を奏すると認識することができる。
エ また、数値範囲の上限値の「12.0%」についてみると、差(V2-V1)の値が実施例1の「6.9%」よりも大きな値となったときに、平坦性の評価及び端部形状の評価がそれぞれAのまま維持されるのかまでは実験結果が示されていないものの、上記ウに示した段落【0015】~【0016】の記載に加え、段落【0018】の記載から、空隙率の差(V2-V1)が所定の範囲にあることにより、研磨領域の剛性と定盤領域のクッション性とのバランスに一層優れ、得られる被研磨物の平坦性がより向上し、及び被研磨物の端部形状がより良化するとの作用機序を認識することができる。そして、例えば、研磨層に空隙率の差を生じさせるように製造する際に、極端に大きな差を有する研磨層を形成することは困難であることが推察されるところ、本件発明1では、本件の発明の詳細な説明に記載された内容から製造することが可能な程度の差(V2-V1)を想定し、差(V2-V1)が極端に大きな場合を除くことを意図して上限値を設定したものと理解することができ、当該上限値以下の数値範囲であれば、上記の性能は発揮されると推認される。してみると、本件発明1における差(V2-V1)の上限値である12.0%は、発明の詳細な説明に記載された内容から当業者が実施することが可能な程度の差(V2-V1)を上限値に設定したと解することができるから、当該上限値自体が発明の詳細な説明に記載された事項の範囲を超えたものであるとまでいうことはできない。また、差(V2-V1)が、本件発明1にて特定される上限値の近傍である11~12%程度の場合に、「高い研磨レートを有」しつつ「研磨後の被研磨物に良好な平坦性及び端部形状を付与する」ことに否定的な現象が起こり得ることを合理的に説明できる理由も特段見受けられない。
(4)申立人意見書における主張について
ア 申立人は、申立人意見書において、概略、次の点を指摘する(申立人意見書の3(1)イ(エ))。
(ア)実施例1と比較例1とは、差(V2-V1)以外に、空隙率V1、空隙率V3、空隙率V2、差(V3-V1)及び差(V2-V3)においても相違しており、これら相違点の何れが、被研磨物の平坦性及び端部形状に影響を及ぼしたのかが明らかでなく、当業者は、差(V2-V1)を6.9%とすることによって、研磨後の被研磨物の平坦性及び端部形状が良好になると認識できるとはいえない。
(イ)本件明細書等に具体的に記載されているのは実施例1(平坦性A、端部形状A)と比較例1(平坦性C、端部形状C)のみであるため、V2-V1が6.9%から変化した場合に、同様の被研磨物(平坦性A、端部形状A)が得られるかは不明である。
(ウ)発明の詳細な説明には、空隙率V1、空隙率V2及び空隙率V3の値を問わず、差(V2-V1)を6.9%とすれば、同被研磨物の平坦性及び端部形状が実施例1と同様になることが開示されているとはいえない。例えば、請求項1に係る発明は、(V1=1.0%、V3=5.0%、V2=6.0%)のような空隙率が低い研磨パッド、(V1=50.0%、V3=54.0%、V2=55.0%)のような空隙率が高い研磨パッド、及び(V1=19.0%、V3=5.0%、V2=25.9%)のような空隙率が低く硬い中間領域を有する研磨パッドなどを含むが、これらの研磨パッドが、実施例1の研磨パッド(V1=19.0%、V3=24.8%、V2=25.9%)の良好な被研磨物の平坦性及び端部形状を実現できないことは明らかである。
イ 上記アの主張に対する当審の判断
(ア)上記ア(ア)についてみると、差(V2-V1)を6.9%とすることのみによって、研磨後の被研磨物の平坦性及び端部形状が最もよい状態になるとまでは、確かにいえず、そのことは、本件の発明の詳細な説明においても、段落【0019】には、空隙率V1が所定の数値範囲にあると、研磨領域の剛性が一層向上するため、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、端部形状が一層良化する傾向にあると記載され、段落【0020】には、空隙率V2が所定の数値範囲にあると、定盤領域のクッション性が一層向上するため、得られる被研磨物の平坦性が一層向上し、端部形状が一層良化する傾向にあると記載されるように、説明される。
しかしながら、上記(3)のとおり、段落【0015】~【0016】、【0018】に記載される作用機序を踏まえれば、少なくとも、差(V2-V1)の数値を最適化すれば、研磨後の被研磨物の平坦性及び端部形状が良好になるといえる。すなわち、例えば、実施例1及び比較例1のように、空隙率V1がほぼ等しい研磨層を備える2つの研磨パッドにおいて、本件発明1にて特定される数値範囲内の差(V2-V1)を有する研磨パッドの方が、比較例1と同程度の差(V2-V1)を有する研磨パッドに比して、研磨後の被研磨物の平坦性及び端部形状が良好になることが理解できるし、また仮に、空隙率V2が等しく差(V2-V1)が上述と同様に異なる値の2つの研磨パッドを比較した場合においても、上記の作用機序を踏まえれば、同様の傾向となることが理解できる。
(イ)上記ア(イ)については、上記(3)にて検討したとおりである。
(ウ)上記ア(ウ)についてみると、上記ア(ウ)では3種の研磨パッドを例示し、実施例1と比較して同程度の効果を奏することはないとして反論しているものの、上記(ア)で述べたように、空隙率V1や空隙率V2が同じ研磨パッド同士で比較すれば、差(V2-V1)が本件発明1で特定される数値範囲の研磨パッドの方が、差(V2-V1)が1.7%の研磨パッドよりも、研磨後の被研磨物の平坦性及び端部形状が良好になることが推察される。
(エ)したがって、申立人の主張を採用することはできない。
(5)小括
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載した事項の範囲内のものである。
2 請求項2~10について
本件発明2~10は、請求項1の記載を引用するものであるから、上記1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載した事項の範囲内のものである。
3 取消理由通知に示した取消理由の有無についてのまとめ
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記1~2のとおり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
第7 申立人が主張するその他の申立ての理由について
申立人による申立ての理由(上記第4の1)のうち、上記第6にて検討した以外の(すなわち、取消理由通知にて採用しなかった)その他の申立ての理由(上記第4の1(1)及び(3)、並びに、同(2)のうち申立書30~33ページの「b.請求項に課題解決手段が反映されていない」の点)について、以下検討する。
1 本件発明1の進歩性について(上記第4の1(1))
(1)本件発明1の認定について
本件発明1は、上記第3の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
(2)甲1に記載された発明の認定
ア 甲1に記載された事項
甲1には、次の事項が記載されている。
(ア)特許請求の範囲の請求項1(第1ページ左下欄第5~11行)
「〔1〕ポリウレタンより高い融点の合成繊維からなる不織布に含浸されたポリウレタンを主体とする溶液を湿式凝固させて得られた多孔質複合シートを、無加圧下又は軽度の加圧下でポリウレタンの軟化温度以上で2~45分間加熱して、硬度が80度以上、通気度が25cc/cm2/秒以上の研磨布を得ることを特徴とする研磨布の製造法。」
(イ)発明の詳細な説明
A 産業上の利用分野(第1ページ右下欄第6~13行)
「この発明は合成繊維からなる不織布を基材とし、この基材にポリウレタンを主体とする溶液を含浸したのち湿式凝固させて得られた多孔質複合シートを加熱して、通気度および硬度が向上された研磨布の製造法に関し、得られた研磨布は特に集積回路素子用半導体基板、例えば高純度シリコンおよび化合物半導体からなるウエハーの鏡面加工に好適である。」
B 発明が解決しようとする問題点(第2ページ左上欄第16行~同ページ右上欄第4行)
「上記提案の研磨布は、研磨に必要な硬度80度以上にすることはできても、加熱圧縮されたものであるため、気泡が小さくなり通気度が低下する。従つて研磨中に研磨布の目づまりが生じ、短時間に研磨性能が低下しかつ加工傷を発生させる。特に最近のように、高圧、高速度で研磨する場合には、研磨布が軟いと研磨物の表面に面ダレ現象が生じて面精度を低下させ、被研磨面が半導体基板の場合にフラツトネスが不十分となる。」
C 問題点を解決するための手段(第2ページ左下欄第11~15行)
「このポリウレタン濃度を変更することによつて、不織布に付着される固形分付量が決定され、固形分付量は不織布に対して40~260重量%が好ましい。固形分付量は研磨布の使用目的に応じて適宜に決定される。」
D 実施例(第3ページ右上欄第16行~同ページ左下欄第15行)
「実施例1
ポリエステル短繊維からなる厚さ5mm、目付量700g/m2の不織布に、ジメチルホルムアミドを溶媒とする各種濃度のポリウレタン溶液(ポリウレタン商品名TC-66、大日本インキ化学工業社製)6.1kg/m2を含浸させ、この含浸シートをジメチルホルムアミドの水希釈液(濃度7重量%)に浸漬してポリウレタンを湿式凝固させ、次いで水洗によつて溶媒を完全に除いたのち乾燥して多孔質複合シートを製造する。次いでこの多孔質複合シートの表面層および厚み中央部をスライス機で切り剥がして、厚さ2mmの2枚にスライスされたスライスシートを得た。このスライスシートを、230℃の加熱空気で4分間加熱処理して多孔質複合板とし、次いでその表面をバフ掛けして表面を平滑とした(実験No.1~3)。なお、上記ポリウレタン溶液の代わりに、ポリウレタンとポリ塩化ビニルとの混合樹脂(混合比8:2)の樹脂溶液濃度18%をもつて含浸し上記と同様にして研磨布を得た(実験No.4)。」
E 第1表(第3ページ右下欄)
「
[図:0001432069000004.jpg]
」
F 研磨試験(第5ページ右上欄第5行~同ページ左下欄7行)
「実施例1(実験No.3)および比較例1(実験No.7)で得られた樹脂溶液濃度18%の研磨布を用いて、集積回路素子製造用の高品度シリコンウエハーの研磨試験を行なつた。研磨機は、テクノ製LM-600型を使用し、その研磨条件は以下に示すものである。
研磨材…コロイダルシリカ
研磨濃度…研磨材:水=1:19
研磨液PH…10.3
研磨液温度…23℃
研磨液流量…2.3l/min
冷却水流量…1l/min
定盤回転数…100rpm
押付圧力…400g/cm2
ドレツシング…研磨30分毎に実施
研磨した結果の研磨時間と研磨速度との関係を図面のグラフに示す。
図面のグラフから判るように、実施例1は研磨時間が5時間を経過しても研磨速度が低下せず、また精度の高い加工傷の全くないシリコンウエハーが得られた。一方比較例1は研磨時間が1時間を経過した後は多孔質板に目づまりが生じて研磨速度が低下し、かつ研磨面に加工傷を発生した。」
(ウ)図面
「
[図:0001432069000005.jpg]
」
イ 甲1に記載されているといえる事項
上記アから、甲1には次の事項が記載されているといえる。
(ア)上記ア(ア)及び(イ)Aから、甲1には、研磨布に関する発明が記載されている。上記ア(ア)及び(イ)Dから、当該研磨布は、ポリエステル短繊維からなる不織布と、当該不織布に含浸させ湿式凝固させたポリウレタンとから多孔質複合シートを製造し、当該多孔質複合シートの表面層および厚み中央部をスライス機で切り剥がして2枚にスライスされた厚さ2mmのスライスシートを加熱処理して多孔質複合板とし、当該多孔質複合板の表面をバフ掛けして表面を平滑としたものであることがわかる。
(イ)上記(ア)の研磨布は、当然に上記不織布と上記ポリウレタンとを有する研磨層を備えているといえる。そして、当該研磨布は、上記ア(イ)Fから、研磨機の定盤に固定され、シリコンウエハーを研磨するために用いられるといえるから、当該研磨布の研磨層は、シリコンウエハーを研磨する研磨面と、定盤に直接又は間接的に固定される定盤面と、を有するといえる。
ウ 甲1発明
上記ア~イの事項を、本件特許の請求項1の記載(上記第3)に合わせて整理すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる(括弧内に、対応する本件発明1の発明特定事項を示す。以下同様。)。
「ポリエステル短繊維からなる不織布(不織布)と、該不織布に含浸させ湿式凝固させたポリウレタン(含浸した樹脂)と、を有する研磨層を備え、
該研磨層は、シリコンウエハー(被研磨物)を研磨する研磨面と、定盤に直接又は間接的に固定される定盤面と、を有する、
研磨布(研磨パッド)。」
(3)他の証拠(甲2~甲3)に記載された技術的事項、発明
ア 甲2に記載された技術的事項
(ア)甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【0027】
以下、本実施形態に係る研磨布の製造方法について、ウレタン樹脂を不織布に湿式含浸し、更に、ウレタン樹脂を不織布に乾式含浸するといった二段階含浸処理を行う方法を例に挙げて説明する。
【0028】
湿式含浸では、ウレタン樹脂を水溶性有機溶媒に溶解させて第1の含浸液を得る。
水溶性有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
なお、第1の含浸液は、充填剤を含有してもよい。該充填剤としてはカーボンブラック等が挙げられる。また、第1の含浸液は、分散安定剤を含有してもよい。該分散安定剤としては、界面活性剤等が挙げられる。
次に、第1の含浸液に不織布を漬け、第1の含浸液に漬けた不織布を水に漬ける。これにより、不織布に付着した第1の含浸液のうち水溶性有機溶媒が水に置換されて、ウレタン樹脂が凝固し、不織布の表面でウレタン樹脂が付着する。
【0029】
乾式含浸では、末端基としてイソシアネート基を有するプレポリマーと、活性水素を有する有機化合物たる硬化剤と、有機溶媒とを混合して、第2の含浸液を得る。
前記有機溶媒としては、メチルエチルケトン、アセトン、アルコール、酢酸エチルなどが挙げられる。
そして、湿式含浸した不織布を第2の含浸液に漬け、第2の含浸液に漬けた不織布を乾燥炉で加熱する。これにより、有機溶媒が蒸発され、プレポリマーと硬化剤とが硬化反応してウレタン樹脂が形成され、その結果、不織布の表面にさらなるウレタン樹脂が付着する。」
(イ)甲2記載の技術的事項
上記(ア)から、甲2には、次の周知の技術的事項(以下「甲2に例示される周知の技術的事項」という。段落【0028】)が例示されるとともに、次の技術的事項(以下「甲2記載の技術的事項」という。段落【0027】~【0029】)が記載されているといえる。
A 甲2に例示される周知の技術的事項
「ポリウレタンを湿式凝固させる場合に、凝固液として水を用いること。」
B 甲2記載の技術的事項
「研磨布の製造方法について、ウレタン樹脂を不織布に湿式含浸し、更に、ウレタン樹脂を不織布に乾式含浸するといった二段階含浸処理を行うこと。」
イ 甲3発明
甲3には、請求項1として、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。ただし、甲3は、本件特許の特許権者により、本件特許に係る出願と同日にされた特許出願の公開特許公報であって、本件特許の出願後に出願公開がされたものである。
「【請求項1】
不織布と、該不織布に含浸した樹脂と、を有する研磨層を備え、
該研磨層は、被研磨物を研磨する研磨面と、定盤に直接又は間接的に固定される定盤面と、を有し、
前記研磨層の平均厚さをTとしたとき、前記研磨面から前記定盤面に向かって0.05T以上0.35T以下である研磨領域の空隙率V1と、前記定盤面から前記研磨面に向かって0.05T以上0.35T以下である定盤領域の空隙率V2と、の差(V1-V2)が、2.0%以上15.0%以下である、
研磨パッド。」
(4)本件発明1と甲1発明との対比
ア 相当関係
本件発明1と甲1発明とを対比すると、次の相当関係があるといえる。
甲1発明における「ポリエステル短繊維からなる不織布」は、その作用・機能からみて、本件発明1における「不織布」に相当し、以下同様に、「該不織布に含浸させ湿式凝固させたポリウレタン」は「該不織布に含浸した樹脂」に、「シリコンウエハー」は「被研磨物」に、「研磨布」は「研磨パッド」に、それぞれ相当する。
イ 一致点
上記アを踏まえると、本件発明1と甲1発明とは以下の点で一致する。
「不織布と、該不織布に含浸した樹脂と、を有する研磨層を備え、
該研磨層は、被研磨物を研磨する研磨面と、定盤に直接又は間接的に固定される定盤面と、を有する、
研磨パッド。」
ウ 相違点
一方、本件発明1と甲1発明とは次の点で相違する(以下「相違点」という。)。
「研磨層」に関して、
本件発明1においては、「前記研磨層の平均厚さをTとしたとき、前記研磨面から前記定盤面に向かって0.05T以上0.35T以下である研磨領域の空隙率V1と、前記定盤面から前記研磨面に向かって0.05T以上0.35T以下である定盤領域の空隙率V2と、の差(V2-V1)が、5.0%以上12.0%以下である」のに対し、
甲1発明においては、「研磨領域の空隙率V1」と「定盤領域の空隙率V2」との「差(V2-V1)」がどの程度の値であるか不明である点。
(5)相違点に対する当審の判断
甲1には、実施例1として、研磨布の製造方法が記載され(上記(2)ア(イ)D)、その製造工程には、不織布にポリウレタン溶液を含浸させた含浸シートをジメチルホルムアミドの水希釈液(濃度7重量%)に浸漬してポリウレタンを湿式凝固させる工程、多孔質複合シートの表面層および厚み中央部をスライス機で切り剥がして、厚さ2mmの2枚にスライスされたスライスシートを得る工程、及び、当該スライスシートを、230℃の加熱空気で4分間加熱処理して多孔質複合板を得る工程、が含まれる。
そして、上記(2)ア(イ)Eの第1表には、実施例と比較例の空隙率が示されており、例えば、上記(2)ア(イ)Fで検討される実施例1(実験No.3)のものにおいては、加熱後の空隙率が75.0%のものが示される。
しかしながら、甲1には、「研磨領域の空隙率V1」と「定盤領域の空隙率V2」との間に、そもそも「差(V2-V1)」を有するように研磨布(研磨パッド)を製造することの技術的思想が開示されているとはいえない。
さらに、甲1の記載を総合してみても、甲1発明に係る研磨布(研磨パッド)における当該「差(V2-V1)」が、5.0%以上12.0%以下であるとの心証を抱く合理的な根拠を見出せない。
また、甲2に例示される周知の技術的事項や甲2記載の技術的事項を参考としても、甲1発明に係る研磨布(研磨パッド)における当該「差(V2-V1)」を、上記相違点に係る本件発明1のようにすることを容易に想到し得たということはできない。
(6)申立書における主張について
ア 申立人の申立書における主張
申立人は、申立書において、上記相違点に関して概略、次の点を主張する。
(ア)本件明細書等には、実施の形態として、空隙率およびその差を制御する方法の例として「研磨層の樹脂含浸量が厚さ方向で異なる」ように、「不織布に含浸させた樹脂を凝固する際に、不織布の中央部において凝固する樹脂の量と比較して、不織布の表面において凝固する樹脂の量が多くなる(以下、「マイグレーション」ともいう。)ような条件下で樹脂を凝固」し、「不織布の中央部を露出させるように、不織布を上下にスライスすること」が記載されている(段落【0025】~【0026】)。
また、「マイグレーションの生じた樹脂含浸不織布を容易に得ることができる観点から、凝固液中の水の含有量は、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上である。同様の観点から、凝固液は、特に好ましくは、水である。」と記載されている(段落【0054】)。
実施例の項には、凝固液として水を用いた実施例1の研磨パッドの差(V2-V1)が6.9%であり、水に代えて、DMFを20質量%含む水を用いた比較例1の研磨パッドの差(V2-V1)が1.7%であったことが記載されている(段落【0099】、表1)。
上記のとおり本件明細書には、凝固液中の水の含有量を85質量%以上として湿式凝固を行い、不織布の中央部を露出させるように、不織布を上下にスライスすることによって、「差(V2-V1)が、2.0%以上15.0%以下」である研磨パッドが得られることが記載されている。
(イ)対して、甲1発明の研磨布は、ジメチルホルムアミドの水希釈液(濃度7重量%)を用いてポリウレタンを湿式凝固させた後、厚み中央部をスライス機で切り剥がして、厚さ2mmの2枚にスライスされたものである。凝固液として用いたジメチルホルムアミドの水希釈液(濃度7重量%)中の水の含有量は93重量%であって、本件明細書に記載された85質量%以上であるから、本件発明1の事項Cにおける「差(V2-V1)が、2.0%以上15.0%以下」を満たす蓋然性が高い。
(ウ)甲1には、スライスによって形成したスライス面を研磨布における研磨面または定盤面の二つのうちのいずれに用いるかについて明確に記載されていないが、甲3発明は、本件発明1の研磨パッドの研磨面と定盤面とを反対にして、スライス面を研磨面としたものであって、甲3発明に係る研磨パッドでも、本件発明1と同様、被研磨物の平坦性と端部形状が良好になることが記載されている。すなわち、甲1発明において、スライス面を研磨面または定盤面のいずれに用いても得られる効果が同じといえるから、甲1発明において、スライス面を定盤面とすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。
イ 申立書における主張に対する当審の判断
上記主張について検討する。
本件明細書等においては、上記ア(ア)のとおり、「マイグレーションの生じた樹脂含浸不織布を容易に得ることができる観点から、凝固液中の水の含有量は、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上である。同様の観点から、凝固液は、特に好ましくは、水である。」(段落【0054】)と記載される一方、「凝固液中の水の含有量」のみではなく、「第1の樹脂を凝固再生させる工程において、凝固再生の条件を調整することにより、不織布の内部において凝固する樹脂の量と比較して、不織布の表面において凝固する樹脂の量を多くする」(段落【0055】)ために、段落【0056】~【0057】に示される複数の反応を考慮し、「凝固液浸入及び樹脂凝固の速度に比べて、樹脂溶液の拡散速度が速く、かつ、凝固液の拡散速度が遅くなる条件においては、不織布の中心部に比べて、不織布の表面において、優先的に樹脂凝固が生じる」(段落【0058】)ように、「樹脂溶液の粘度を小さくする」ことで樹脂溶液の拡散速度を速くする、「凝固液の粘度を大きくする」ことで凝固液の拡散速度を遅くする、「凝固再生の反応温度を高くする」ことで凝固液浸入、樹脂凝固、樹脂溶液拡散、及び凝固液拡散の速度を速くする、「樹脂溶液における第1の樹脂の濃度を大きくする」ことで樹脂凝固の速度を速くすることが示され(段落【0059】)、具体的に、「樹脂溶液の粘度」(段落【0060】)、「凝固再生における反応温度、すなわち凝固液の温度」(段落【0061】)、「樹脂溶液における第1の樹脂の濃度」(段落【0062】)を最適化することが示される。
本件明細書等の実施例1(段落【0087】~【0091】)は、湿式凝固と乾式凝固を組み合わせたものであるが、それを置くとしても、湿式凝固におけるポリウレタン樹脂の濃度は55%程度である(段落【0088】)のに対して、甲1の実施例1のポリウレタン樹脂溶液の濃度は10~18%である(上記(2)ア(イ)E)から、本件明細書等の実施例1では、樹脂溶液における第1の樹脂の濃度を大きくすることで樹脂凝固の速度が速くなる作用機序が生じるのに対して、甲1の実施例1では、本件明細書等の実施例1と同等程度の作用機序は生じないことが明らかである。
してみると、甲1発明における「凝固液として用いたジメチルホルムアミドの水希釈液(濃度7重量%)中の水の含有量」が「93重量%」であったとしても、それだけをもって、多孔質複合シートの表面層および厚み中央部をスライス機で切り剥がして、厚さ2mmの2枚にスライスされたスライスシートを得た際に、「研磨領域の空隙率V1」と「定盤領域の空隙率V2」との「差(V2-V1)」が、「5.0%以上12.0%以下」となる、マイグレーションの生じたスライスシートになっているとまで認定することができない。
したがって、申立人の上記アの主張は採用することができない。
(7)小括
したがって、本件発明1は、上記相違点に関して、甲1発明、甲2に例示される周知の技術的事項、及び、甲2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
2 本件発明2~10の進歩性について(上記第4の1(1))
本件発明2~10は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであるところ、本件発明1が上記1のとおり、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことから、本件発明2~10についても同様に、甲1発明、甲2に例示される周知の技術的事項、及び、甲2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項2~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
3 サポート要件(上記第4の1(2))のうち、「b.請求項に課題解決手段が反映されていない」(申立書30~34ページ)との点について
(1)申立人の申立書における主張の概要
ア 本件明細書等に記載された実施例1と比較例1との面品位確認試験結果の違いは、相違点に係る本件発明1の構成である「研磨領域の空隙率V1」と「定盤領域の空隙率V2」との「差(V2-V1)」というパラメータではなく、第1の樹脂により形成された微細発泡構造および第1の樹脂と第2の樹脂の比率の相違によるものである。
イ 甲3発明においては、「研磨領域の空隙率V1」と「定盤領域の空隙率V2」との「差(V1-V2)」が「2.0%以上15.0%以下」である(上記1(3)イ)と特定され、当該数値範囲により、「研磨領域の剛性と定盤領域のクッション性とのバランスに一層優れ、得られる被研磨物の平坦性がより向上し、及び端部形状がより良化する」(甲3の段落【0018】)ことが記載される。当該数値範囲は、本件発明1における「差(V2-V1)」から逸脱するものであるから、「差(V2-V1)」は、平坦性と端部形状に全く影響を与えていない、無関係の因子である。
(2)申立書における主張に対する当審の判断
ア 上記(1)アについて検討する。本件明細書等における発明の詳細な説明においては、本件発明が解決しようとする課題として、「研磨後の被研磨物に良好な平坦性及び端部形状を付与することができる研磨パッド、その製造方法、及び研磨加工物の製造方法を提供すること」(段落【0008】)を挙げ、その課題の解決手段として、段落【0015】~【0016】、【0018】、【0087】~【0099】には、作用機序とともに、空隙率の差(V2-V1)が、本件発明1で特定されるような数値範囲にあることにより、研磨領域の剛性と定盤領域のクッション性とのバランスに一層優れ、得られる被研磨物の平坦性がより向上し、及び端部形状がより良化することが、実施例1に基づいて推認されることから、特許請求の範囲に課題解決手段が反映されていないとまでいうことはできない。
仮に、被研磨物の平坦性及び端部形状の良化が、微細発泡構造および第1の樹脂と第2の樹脂の比率の相違にも起因するものであったとしても、本件発明1は、空隙率が全体として均一な従来の研磨パッドを、空隙率の差(V2-V1)が有意な差となるように改良することにより、課題解決を図ったものであって、第1の樹脂と第2の樹脂の比率は、空隙率の差(V2-V1)を5.0%以上12.0%以下にするための具体的手段の一つにすぎず、また結果として実施例1と比較例1とは微細発泡構造が異なるとしても、特許出願人(特許権者)が必要と認める事項のすべてを記載していれば、特許を受けようとする発明をどのように特定するかは、特許法第36条第6項各号の要件を満たしていれば、それで足り、本件においては、本件発明1が、課題解決手段として発明の詳細な説明に記載された事項の範囲内のものである以上、同項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。
イ 上記(1)イについて検討する。本件発明1では、「研磨領域の空隙率V1」と「定盤領域の空隙率V2」との「差(V2-V1)」が「5.0%以上12.0%以下」であるときに、また、甲3発明では、「差(V1-V2)」が「2.0%以上15.0%以下」であるとき、言い換えれば、「差(V2-V1)」が「-15.0%以上-2.0%以下」であるときに、「研磨領域の剛性と定盤領域のクッション性とのバランスに一層優れ、得られる被研磨物の平坦性がより向上し、及び端部形状がより良化する」ことが、それぞれ特定される。そして、その評価の際の比較例は、本件明細書等における比較例1では、「差(V2-V1)」が「1.7%」(段落【0099】、表1)、甲3における比較例1では「差(V1-V2)」が「1.7%」(段落【0103】、表1)、言い換えれば「差(V2-V1)」が「-1.7%」のものであるところ、本件発明1の当該数値範囲を有する研磨パッドは、「差(V2-V1)」が、「-1.7%」又は「1.7%」のものに比して、効果を奏するのだから、甲3の存在をもって、「差(V2-V1)」は、平坦性と端部形状に全く影響を与えていない、無関係の因子であるとまでいうことはできない。
(3)サポート要件についてのまとめ
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記(1)を理由として、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた、ということはできない。
4 実施可能要件について(上記第4の1(3))
(1)申立人の申立書における主張の概要
本件明細書等には、「[実施例1]2.2dtexのポリエチレンテレフタレート繊維と、3.3dtexのポリエチレンテレフタレート繊維とを、その配合比が上記の順に2:1になるように配合して、厚さ3.5mmの不織布を得た。」と記載されている(段落【0087】)。
しかし、不織布の製造においては、交絡、目付、密度などの要素が重要であり、これらの違いが得られる不織布の性質に効いてくることが技術常識であるため、上記本件明細書等の記載に基づいて、当業者が実施例1と同じ規格の不織布を製造することができない。
(2)申立書における主張に対する当審の判断
不織布の製造において、交絡、目付、密度などの要素が重要であるとしても、本件特許の発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、本件発明1~10に用いる不織布を、当該要素を考慮しつつ、過度の試行錯誤を要することなく得ることができると解されるため、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1~10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。
5 申立人が主張するその他の申立ての理由についてのまとめ
したがって、申立人による申立ての理由(上記第4の1)のうち、取消理由通知にて採用しなかったその他の申立ての理由についても、採用することができない。
第8 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1~10に係る特許は、取消理由通知に示した取消理由(上記第6を参照。)、又は、申立書に記載された申立ての理由(上記第7を参照。)によっては、取り消すことはできない。また、本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すべき他の理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700131