特許異議申立
2023-700640
保持パッド及びその搬送又は保管方法
- 審判番号
- 2023-700640
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-183829
- 登録番号
- 7193287
- 請求日
- 2023年06月19日
- 審決日
- 2024年05月14日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】富士紡ホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】赤堀 龍吾
- 【権利者代理人】井澤 哲舜
- 【異議申立人】芳野 理之
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 大山 健
- 審判官 菊地 牧子
- 分類
- P1651.113-YAA(B24B) / P1651.121-YAA(B24B) / P1651.536-YAA(B24B) / P1651.537-YAA(B24B) / P1651.573-YAA(B24B) / P1651.574-YAA(B24B) / P1651.572-YAA(B24B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第4項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7193287号発明「保持パッド及びその搬送又は保管方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7193287号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7193287号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7193287号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成30年9月28日に出願され、令和4年12月12日にその特許権の設定登録がされ、令和4年12月20日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許について、令和5年6月19日に特許異議申立人 芳野 理之(以下「申立人」という。)により特許異議の申立て(以下「申立」という。)がされ、当審は、令和5年10月4日付けで取消理由を通知した。
特許権者は、その指定期間内である令和5年12月1日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、令和6年1月10日に当該訂正の請求の方式上の不備を補正する手続補正書(以下、この手続補正書により補正された訂正請求を「本件訂正請求」という。)を提出し、さらに令和6年1月29日に当該手続補正書による補正の内容を説明する上申書を提出した。そして、本件訂正請求に対して、申立人は、令和6年3月7日に意見書(以下「申立人意見書」という。)を提出した。
第2 本件訂正の適否について
1 本件訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(なお、下線部は、訂正箇所について特許権者が付したものである。)
(1)訂正事項1
本件特許の明細書の段落【0066】に、
「次に、樹脂シートのバフ処理を施した面に厚さ188μmの市販のPET基材と厚さ150μmの市販の離型シートからなる両面テープを貼り合わせ、」と記載されているのを、
「次に、樹脂シートのバフ処理を施した面に厚さ75μmの市販のPET基材と厚さ150μmの市販の離型シートからなる両面テープを貼り合わせ、」に訂正する。
(2)訂正事項2
本件特許の明細書の段落【0067】に、
「厚さ188μmの市販のPET基材を厚さ75μmの市販のPET基材に替えたこと以外は、」と記載されているのを、
「厚さ75μmの市販のPET基材を厚さ188μmの市販のPET基材に替えたこと以外は、」に訂正する。
(3)訂正事項3
本件特許の明細書の段落【0068】に、
「厚さ188μmの市販のPET基材を厚さ23μmの市販のPET基材に替えたこと以外は、」と記載されているのを、
「厚さ75μmの市販のPET基材を厚さ23μmの市販のPET基材に替えたこと以外は、」に訂正する。
(4)訂正事項4
本件特許の明細書の段落【0069】に、
「及び厚さ188μmの市販のPET基材を厚さ200μmの市販のPET基材に替えたこと以外は、」と記載されているのを、
「及び厚さ75μmの市販のPET基材を厚さ200μmの市販のPET基材に替えたこと以外は、」に訂正する。
(5)訂正事項5
請求項1に、
「10 ≦ σ×μ ≦ 100 ・・・(1)」と記載されているのを、
「16 ≦ σ×μ ≦ 84 ・・・(1)」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する。)。
(6)訂正事項6
請求項6に、
「0.1 ≦ σ/R ≦ 0.5 ・・・(2)」と記載されているのを、
「0.13 ≦ σ/R ≦ 0.26 ・・・(2)」に訂正する。
(7)一群の請求項についての説明
請求項1~6について、請求項2~6はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項5によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正前の請求項1~6に対応する本件訂正後の請求項〔1~6〕は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の適否
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 明細書の訂正
(ア)訂正事項1~2
a 訂正の目的について
(a)訂正事項1~2は、下記のとおり、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものである。
(b)本件特許に係る出願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)の下記段落【0074】の表1には、実施例1、2及び比較例1、2の4つの保持パッドの「曲げ弾性率σ(MPa)」の測定結果について、小さい順から、「15.7」(比較例1)、「20.2」(実施例1)、「52.4」(実施例2)、「60.8」(比較例2)、の4つの値が記載されている。
[図:0001413309000001.jpg]
(c)また、本件特許の当初明細書の段落【0066】~【0069】には、実施例1、2及び比較例1、2の4つの保持パッドの作製方法が記載されている。
そして、上記段落【0066】~【0069】には、上記4つの保持パッドを作製するにあたり、厚さが薄い順に、23μm、75μm、188μm、200μm、の4つの市販のPET基材を用意し、0.8mmの樹脂シートに、上記市販のPET基材と、厚さ150μmの市販の離型シートからなる両面テープを貼り合わせて、4つの保持パッドを作製することが記載されている。
(d)他方、本件特許の当初明細書の段落【0014】には、「上記値(σ×μ)が上記範囲内にある保持パッドを得るためには、後述する基材の厚さや材質によって保持パッドの曲げ弾性率(MPa)を調整したり、樹脂シートに撥水剤を含ませることや離型シートの表面処理によって静摩擦係数を調整すればよい。」(なお、下線部は、当審が付した。以下同様。)と記載されており、PET基材の厚さを厚くするほど曲げ弾性率σの値を大きくできることが示唆されている。
また、上記記載により、樹脂シートに撥水剤を添加することで、静摩擦係数を調整できることが理解できる。
(e)上記(b)~(d)から、本件特許の当初明細書の段落【0066】~【0069】に記載された作製方法により作製される4つの保持パッドにおいて、それぞれの曲げ弾性率の大きさに影響を及ぼすのは、それぞれのPET基材の厚さであるところ、当該4つの保持パッドにおいて、樹脂シートの厚さ及び離型シートの厚さはそれぞれ同じであり、PET基材の厚さのみがそれぞれ相違するから、下記表Aのとおり、23μm、75μm、188μm、200μmの市販のPET基材を用いた保持パッドが、それぞれ「15.7」(比較例1)、「20.2」(実施例1)、「52.4」(実施例2)、「60.8」(比較例2)の曲げ弾性率となることは、明らかである。
[図:0001413309000002.jpg]
(f)しかしながら、本件特許の当初明細書の段落【0066】には、実施例1について、「次に、樹脂シートのバフ処理を施した面に厚さ188μmの市販のPET基材と厚さ150μmの市販の離型シートからなる両面テープを貼り合わせ、」と記載されているところ、実施例1では、厚さ75μmの市販のPET基材を用いたことは明らかであるから、「次に、樹脂シートのバフ処理を施した面に厚さ75μmの市販のPET基材と厚さ150μmの市販の離型シートからなる両面テープを貼り合わせ、」に訂正すること(訂正事項1)は、誤記の訂正と認めることができる。
(g)さらに、本件特許の当初明細書の段落【0067】には、実施例2について「厚さ188μmの市販のPET基材を厚さ75μmの市販のPET基材に替えたこと以外は、」と記載されているところ、実施例2では、実施例1で厚さ75μmの市販のPET基材を用いたことに替えて、厚さ188μmの市販のPET基材を用いたことが明らかであるから、「厚さ75μmの市販のPET基材を厚さ188μmの市販のPET基材に替えたこと以外は、」に訂正すること(訂正事項2)は、誤記の訂正と認めることができる。
(h)以上から、訂正事項1~2は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものと認められる。
b 実質上特許請求の範囲を拡張又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1~2は、誤記の訂正を目的とするものであり、特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
c 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1~2は、誤記の訂正を目的とするものであり、上記aで説示したとおり、本件当初明細書等に記載されていたと認められる事項である。
したがって、訂正事項1~2は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(イ)訂正事項3~4
a 訂正の目的について
訂正事項3~4は、本件当初明細書等の段落【0068】及び【0069】の記載を、段落【0066】の実施例1における市販のPET基材の厚さが75μmに誤記訂正されたことに伴う訂正、又は訂正事項1と整合させることを目的とする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号又は第3号に掲げる「誤記の訂正」又は「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
b 実質上特許請求の範囲を拡張又は変更する訂正ではないこと、及び本件当初明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3~4は、誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものには該当せず、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(ウ)明細書の訂正と関係する請求項についての説明
訂正事項1~4は、一群の請求項〔1~6〕に関係する訂正である。
したがって、訂正事項1~4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものである。
イ 特許請求の範囲の訂正
(ア)訂正事項5
a 訂正の目的について
訂正事項5は、本件訂正前の請求項1における「σ×μ」の数値範囲を限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
b 実質上特許請求の範囲を拡張又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
c 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件の願書に添付した明細書の段落【0014】に「上記値(σ×μ)は、・・・より好ましくは16~84である。」と記載されているから、訂正事項5は、本件の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(イ)訂正事項6
a 訂正の目的について
訂正事項6は、本件訂正前の請求項6における「σ/R」の数値範囲を限定したものであるから、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
b 実質上特許請求の範囲を拡張又は変更する訂正ではないこと
訂正事項6は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
c 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件明細書等の段落【0081】の表2において、「評価」が「○」とされている、「実施例3」及び「実施例4」における「σ/r」の値が、それぞれ「0.13」及び「0.26」であることが記載されているから、訂正事項6の数値範囲は実質的に本件明細書等に記載されているといえる。
したがって、訂正事項6は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
3 独立特許要件
本件特許の全請求項(請求項1~6)について申立がされているので、訂正事項1~6について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 本件訂正についての申立人の主張
申立人は、申立人意見書の4~5ページにおいて、市販のPET基材には、12、16、19、25、38、50、75、100、125、188、250、350、500μm等の様々な厚みが存在しており、段落【0066】の「厚さ188μmの市販のPET基材」が、本来「厚さ75μmの市販のPET基材」であることを示す本件当初明細書等の記載は存在しない旨を主張している。
しかしながら、上記2(1)ア(ア)aに説示したとおり、本件当初明細書等の段落【0066】~【0069】には、4つの保持パッドを作製するにあたり、厚さが23μm、75μm、188μm、200μmの4つの市販のPET基材を用意したことは記載されているといえるものであり、本件当初明細書等の段落【0074】の表1の、実施例1、2及び比較例1、2の4つの保持パッドの「曲げ弾性率σ(MPa)」の測定結果は、これら4つの市販のPET基材を用いた保持パッドの曲げ弾性率を測定したものであるとみて差し支えない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
5 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号又は第3号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、「誤記の訂正」又は「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるところ、本件訂正により訂正された請求項1~6に係る発明(以下「本件発明1」などという。また、請求項1~6に係る発明を総合して「本件発明」という場合がある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】
被研磨物を保持するための保持面を有する樹脂シートと、前記樹脂シートの前記保持面とは反対側に少なくとも一部の露出面を有する離型シートと、を備え、捲回して搬送又は保管される保持パッドであり、
JIS K7171:2016に準拠して測定される前記保持パッドの曲げ弾性率(MPa)と、JIS K7125:1999に準拠して測定される前記樹脂シートが有する前記保持面に対する前記離型シートが有する前記露出面の静摩擦係数とが下記式(1)で表される条件を満たす、
保持パッド。
16 ≦ σ×μ ≦ 84 ・・・(1)
(式中、σは前記曲げ弾性率(MPa)を示し、μは前記静摩擦係数を示す。)
【請求項2】
前記樹脂シートと前記離型シートとの間に、基材を更に備える、
請求項1に記載の保持パッド。
【請求項3】
前記基材の厚さが、50~250μmである、
請求項2に記載の保持パッド。
【請求項4】
前記樹脂シートが撥水剤を含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の保持パッド。
【請求項5】
前記保持パッドが帯状である場合に、その幅が2000mm超であり、
前記保持パッドが矩形である場合に、少なくともその1辺が2000mm超であり、
前記保持パッドが円形又は略円形である場合に、その直径が2000mm超である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の保持パッド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の保持パッドを捲回して搬送又は保管する工程を含み、
JIS K7171:2016に準拠して測定される前記保持パッドの曲げ弾性率(MPa)と、捲回された前記保持パッドの捲回形状における最小内径(mm)とが下記式(2)で表される条件を満たす、
搬送又は保管方法。
0.13 ≦ σ/R ≦ 0.26 ・・・(2)
(式中、σは前記曲げ弾性率(MPa)を示し、Rは前記最小内径(mm)を示す。)」
(なお、以下、請求項1に記載された式(1)を「式1」といい、請求項6に記載された式(2)を「式2」という場合がある。また、「曲げ弾性率(MPa)」を「σ」、「静摩擦係数」を「μ」という場合がある。)
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~6に係る特許に対して、当審が令和5年10月4日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)取消理由1:(実施可能要件)本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)取消理由2:(サポート要件)本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由1(実施可能要件)について
(1)取消理由1の具体的な内容
ア 本件訂正前の明細書等の実施例2では、樹脂溶液に撥水剤を添加しないことと、PET基材の厚さを薄くした(厚さ188μmを厚さ75μmにした)こと以外では、実施例1と同じであることが理解できるところ、段落【0074】の結果において、実施例2の方が、曲げ弾性率が高くなっていることは理解できない。
イ 本件訂正前の明細書等の比較例2についても、樹脂溶液に撥水剤を添加しないことと、PET基材の厚さを多少厚くした(厚さ188μmを厚さ200μmにした)程度で、実施例1と、比較例2の「曲げ弾性率」の値が大きく異なることは理解できない。
(2)検討
本件訂正により、本件明細書等の段落【0066】~【0069】が訂正され、実施例1と、実施例2における、PET基材の厚さについての誤記が訂正されたところ、本件明細書等の段落【0066】~【0069】に記載された実施例1、2及び比較例1、2と、段落【0074】の表1の結果とは整合するから、本件明細書等の記載が、本件発明を実施できないほど不明確であるとはいえない。
3 取消理由2(サポート要件)について
(1)取消理由2の具体的な内容
ア 実施例1、実施例2及び比較例2に基づいて計算された表1の「σ×μ(MPa)」(式1)の値(「18.6」、「82.8」及び「109.4」)がそれぞれ正しい値であるのか判断することができず、結果として、これら正否の不明な値が式1を満たすことにより、本件特許の解決しようとする課題(段落【0006】、【0007】等を参照。)が解決できるとはいえない。
イ 本件訂正前の請求項1の式1は、「σ×μ(MPa)」の値が、「10」以上「100」以下を特定するものであるところ、請求項1~6に係る特許は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて請求するものである。
ウ 本件訂正前の請求項6の式2について、本件明細書等には実施例3及び実施例4の「σ/R(MPa/mm)」の値(「0.13」及び「0.26」)の実施形態のみが課題を解決できるとして示されているところ、請求項6に係る特許は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて請求するものである。
(2)検討
ア 上記(1)アの点について、上記2(2)で説示したとおり、本件訂正により、本件明細書等の段落【0066】~【0069】が訂正され、実施例1と、実施例2における、PET基材の厚さについての誤記が訂正されたところ、本件明細書等の段落【0066】~【0069】に記載された実施例1、2及び比較例1、2と、段落【0074】の表1の結果とが整合し、表1の「σ×μ(MPa)」の値が正しい値であると認めて差し支えないから、請求項1により、本件特許の解決しようとする課題(段落【0006】、【0007】等を参照。)は解決できると認められる。
イ 上記(1)イの点について、本件明細書等の段落【0074】の表1には、実施例1及び実施例2において、「σ×μ(MPa)」の値が、「18.6」と「82.8」の場合に、「外観」が「○」となる結果が示されており、これらの値と十分に近い値である「16」と「84」の範囲内では、同様に「外観」が「○」となることが推認できる。
したがって、請求項1に記載された「16 ≦ σ×μ ≦ 84」(式1)の構成により、本件特許の課題は解決できると認められる。
ウ 上記(1)ウの点について、本件明細書等の段落【0081】の表2には、実施例3及び実施例4において、「σ/r(MPa/mm)」の値が、「0.13」と「0.26」の場合に、「評価」が「○」となる結果が示されており、これらの値の範囲内である「0.13~0.26」では、同様に「評価」が「○」となることが推認できる。
したがって、請求項6に記載された「0.13 ≦ σ/R ≦ 0.26」(式2)の構成により、本件特許の課題は解決できると認められる。
第5 取消理由通知において採用しなかった申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった申立人の申立理由
(1)申立理由の概要
取消理由通知において採用しなかった申立理由として、申立人は、特許異議申立書において、以下の申立理由1~2を主張した。また証拠方法として、以下の甲第1号証~甲第5号証(以下「甲1」などという。)を提出した。
ア 申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
イ 申立理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1~6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1~甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)証拠方法
申立人は、証拠方法として、以下の甲号証を提出した。
甲1:特開2011-5562号公報
甲2:再公表特許2015/046203号
甲3:特開2009-137644号公報
甲4:特開2008-238323号公報
甲5:特開2013-193181号公報
(なお、甲4~甲5は、厚さ188μmの市販のPET基材が周知であったことを示す文献として提出されたものである。)
2 甲号証について
(1)甲1
ア 甲1の記載事項
「【請求項1】
被研磨物を保持するための保持面を有する樹脂製のシート材と、
前記シート材の保持面の背面側に貼り合わされた一面を有しており、粘着性を有する複数の第1の粘着部材が隣接するように配された第1の粘着層と、
定盤に装着するための一面を有しており、粘着性を有する複数の第2の粘着部材が隣接するように配された第2の粘着層と、
前記第1の粘着層と第2の粘着層との間に介在し、一面が前記第1の粘着層の他面に貼り合わされ、他面が前記第2の粘着層の他面に貼り合わされた樹脂基材と、
を備え、
前記樹脂基材は、前記一面および他面がそれぞれ連続した面であることを特徴とする保持パッド。
・・・
【請求項4】
前記第2の粘着層の一面側は、前記複数の第2の粘着部材の表面が、それぞれ剥離可能なセパレータで覆われていることを特徴とする請求項3に記載の保持パッド。
【請求項5】
前記シート材および前記樹脂基材は合同な形状であり、対向する2辺の長さが2000mm以上の矩形状または直径が2000mm以上の円形状であることを特徴とする請求項4に記載の保持パッド。」
「【0001】
本発明は保持パッドに係り、特に、被研磨物を保持するための樹脂製のシート材を備えた保持パッドに関する。
・・・
【0003】
被研磨物、特に液晶ディスプレイ用ガラス基板では、液晶ディスプレイの大型化に伴い、ガラス基板が大型化する傾向にある。例えば、板厚1mm、外寸1.5m×1.8mのガラス基板が研磨加工されるため、ガラス基板等の被研磨物を型枠に挿入することが難しい。そのため、型枠を用いることなく被研磨物を保持することができ平坦性の高い大型の保持パッドが求められている。また、シリコンウェハでは、研磨加工の効率向上を目的として、複数の材料を同時に研磨加工する技術が進められている。この場合でも、研磨加工に使用する保持パッドを大型化することが必要とされている。例えば、1辺の長さが2000mmを超える矩形状や直径2000mmを超える円形状の保持パッドが開発されている。
・・・
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、大型化しても平坦性を確保しつつ全面を保持定盤に装着することができる保持パッドを提供することを課題とする。
・・・
【0015】
(構成)
図1に示すように、本実施形態の保持パッド10は、略平坦な保持面Pを有するシート材としてのウレタンシート2と、ウレタンシート2を研磨機の保持定盤に装着するための装着シート7と、を備えている。
・・・
【0017】
装着シート7は、一面側がウレタンシート2と貼り合わされる第1の粘着層としての粘着シート4と、保持定盤に装着するための一面を有する第2の粘着層としての粘着シート6とを有している。粘着シート4と粘着シート6との間には樹脂基材5が介在している。樹脂基材5は、一面側が粘着シート4の他面側と貼り合わされ、他面側が粘着シート6の他面側と貼り合わされている。粘着シート4は、2つのノンサポテープ41、42(第1の粘着部材)が境界D1で隣接するように配されている。一方、粘着シート6は、2つのノンサポテープ61、62(第2の粘着部材)が境界D2で隣接するように配されている。すなわち、境界D1および境界D2は、樹脂基材5を介して厚さ方向と交差する方向で同じ位置に配されている。換言すれば、保持面P側から見たときに、境界D1および境界D2が重なるように配されている。ノンサポテープ41、42の間に形成される間隙(境界D1の幅)およびノンサポテープ61、62の間に形成される間隙(境界D2の幅)は、2mm以内に設定されている。ノンサポテープ61、62の一面側は、それぞれセパレータ61a、62aで覆われている。
・・・
【0019】
粘着シート6を構成するノンサポテープ61は、ノンサポテープ41と同様に、粘着剤のみでシート状に形成された、基材を有していないテープである。ノンサポテープ61の一面側、すなわち、定盤に装着するための一面側は、保持パッド10の保管時や搬送時にノンサポテープ61を保護するために、セパレータ61aで覆われている。ノンサポテープ62は、ノンサポテープ61と同じ構成で形成されている。すなわち、ノンサポテープ62は一面側がセパレータ62aで覆われている。ノンサポテープ61、62には、いずれも、同質のゴム系粘着剤が用いられている。粘着シート6は、保持パッドを定盤に固定する役割を果たし、研磨による負荷が大きいため、粘着シート4で用いたアクリル系粘着剤より強力なゴム系粘着剤が用いられる。ノンサポテープ61、62は、厚さおよび幅が同じに形成されており、同一面を形成している。粘着シート6では、一面側がそれぞれセパレータ61a、62aで覆われており、他面側が樹脂基材5の他面側と貼り合わされている。セパレータ61a、62aの境界部分は、ノンサポテープ61、62の境界部分と厚さ方向と交差する方向で同じ位置に配されている。
・・・
【0021】
(製造)
保持パッド10は、ウレタンシート2および装着シート7をそれぞれ作製し、貼り合わせることで製造される。以下、ウレタンシート2の作製、装着シート7の作製、貼り合わせの順に説明する。
【0022】
〈ウレタンシートの作製〉
ウレタンシート2は、樹脂溶液を調製する準備ステップ、樹脂溶液を成膜基材に連続的に塗布し、水系凝固液中でポリウレタン樹脂をフィルム状に凝固再生させる凝固再生ステップ、凝固再生したポリウレタン樹脂を洗浄し乾燥させてウレタンシート2を得る洗浄・乾燥ステップ、乾燥後のウレタンシート2の保持面Pの反対面側に厚みを均一化させるようにバフ処理を施す平滑化処理ステップを経て作製される。
【0023】
準備ステップでは、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒のN、N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)および添加剤を混合してポリウレタン樹脂を溶解させる。ポリウレタン樹脂には、100%モジュラスが20MPa以下のポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から選択して用い、例えば、ポリウレタン樹脂が30%となるようにDMFに溶解させる。添加剤としては、大気孔3の大きさや量(個数)を制御するカーボンブラック等の顔料、発泡を促進させる親水性活性剤およびポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。得られた溶液を減圧下で脱泡して樹脂溶液を調製する。
【0024】
凝固再生ステップでは、準備ステップで調製した樹脂溶液を成膜基材に連続的に塗布し、水系凝固液中でポリウレタン樹脂をフィルム状に凝固再生させる。樹脂溶液は、塗布装置により常温下で帯状の成膜基材に略均一に塗布される。塗布装置には、本例では、ナイフコータが用いられる。このとき、ナイフコータと成膜基材との間隙(クリアランス)を調整することで、樹脂溶液の塗布厚さ(塗布量)が調整される。成膜基材には、可撓性フィルム、不織布、織布等を用いることができる。本例では、成膜基材としてPET製フィルムが用いられる。
【0025】
成膜基材に塗布された樹脂溶液は、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液に浸漬される。凝固液中では、まず、塗布された樹脂溶液の表面にスキン層8を構成する微多孔が厚さ数μm程度にわたって形成される。その後、樹脂溶液中のDMFと凝固液との置換の進行によりポリウレタン樹脂が成膜基材の片面にフィルム状に凝固再生する。DMFが樹脂溶液から脱溶媒し、DMFと凝固液とが置換することにより、スキン層8より内側のポリウレタン樹脂中には、大気孔3および小気孔が形成され、大気孔3および小気孔が網目状に連通する連通孔が形成される。このとき、成膜基材のPET製フィルムが水を浸透させないため、樹脂溶液の表面側(スキン層8側)で脱溶媒が生じて成膜基材側が表面側より大きな大気孔3が形成される。
【0026】
洗浄・乾燥ステップでは、凝固再生した帯状(長尺状)のポリウレタン樹脂を洗浄した後乾燥させる。すなわち、ポリウレタン樹脂は、成膜基材から剥離され、水等の洗浄液中で洗浄されてポリウレタン樹脂中に残留するDMFが除去される。洗浄後、ポリウレタン樹脂を乾燥機等で乾燥させる。本例では、乾燥機として、内部に熱源を有するシリンダを備えたシリンダ乾燥機が用いられる。ポリウレタン樹脂がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。平滑化処理ステップでは、乾燥後のポリウレタン樹脂の厚みが均一となるように、スキン層の反対面側にバフ処理が施される。本例では、平滑化処理後、ポリウレタン樹脂が幅2000mmに裁断され、ローラで巻き取られ、ウレタンシート2が得られる。
【0027】
〈装着シートの作製〉
装着シート7の作製では、まず、粘着シート4を構成する粘着テープ41、42と、粘着シート6を構成する粘着テープ61、62と、樹脂基材5とをそれぞれ準備する。ラミネート機(詳細後述)を用いて樹脂基材5に粘着シート6および粘着シート4を貼り合わせて作製する。
【0028】
粘着シート4のノンサポテープ41、42、および、粘着シート6のノンサポテープ61、62は、いずれもテープ幅1000mm、厚さ55μmに設定されている。ノンサポテープ41、42には、粘着剤の両表面側がそれぞれセパレータで覆われたものが用いられる。ノンサポテープ61、62には、保持定盤に装着するための一面側がセパレータ61a、62aで、他面側がセパレータでそれぞれ覆われたものが用いられる。樹脂基材5は、幅2000mm、厚さ75μmに設定されている。すなわち、樹脂基材5は、ウレタンシート2と同じ幅のものが用いられる。樹脂基材5は、一面および他面が連続した平坦面のPET基材である。セパレータには、PET製樹脂シートや紙等を用いることができる。なお、セパレータに剥離しやすいように離型処理を施してもよい。
・・・
【0031】
〈貼り合わせ〉
作製したウレタンシート2と装着シート7とを一対の加圧ローラを備えたラミネート機を用いて貼り合わせる。すなわち、ウレタンシート2と装着シート7とがそれぞれ加圧ローラに向けて供給される。このとき装着シート7のセパレータが剥離される。加圧ローラ間を通過させることでウレタンシート2と装着シート7とを加圧して貼り合わせる。装着シート7が貼着されたウレタンシート2がロール状に巻き取られる。その後、長さ2000mmに裁断し、汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、長さ2000mm、幅2000mmの大型の保持パッド10を完成させる。
・・・
【0035】
また、本実施形態の保持パッド10では、粘着シート4と粘着シート6との間に、樹脂基材5が介在している。樹脂基材5は、ウレタンシート2と同じ大きさで、一面および他面がそれぞれ連続した略平坦面であるため、樹脂基材5が、ウレタンシート2を全面で支持する機能を果たす。そのため、保持パッド10の搬送時や定盤への装着時に、ウレタンシート2の保持面P側のしわ等の形成が抑制される。従って、保持面Pの平坦性が確保されるので、被研磨物を平坦に保持することができ、被研磨物の平坦性向上を図ることができる。
【0036】
更に、本実施形態の保持パッド10では、粘着シート4と粘着シート6との間に、一面および他面がそれぞれ連続した略平坦面である樹脂基材5が介在している。すなわち、樹脂基材5は、ウレタンシート2に対して合同な形状である。樹脂基材5は、弾性を有する柔軟なウレタンシート2を支持するため、搬送時や保持定盤への装着時の折れ曲がり等を抑制することができる。また、保持パッド10を大型化しても、保持定盤への貼着作業や保持パッドの交換時の剥離作業を容易にすることができる。
・・・
【0044】
また、本実施形態の保持パッド10では、長さ2000mm、幅2000mmの矩形状とする例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、対向する2辺の長さが2000mm以上の矩形状、直径2000mm以上の円形状の保持パッドに対応することが可能である。」
図1
「
[図:0001413309000003.jpg]
」
イ 甲1の記載から理解できる事項
図1から、ノンサポテープ61、62のセパレータ61a、62aは、ウレタンシート2の保持面Pとは反対側に少なくとも一部の露出面を有することが看取できる。
ウ 甲1発明
上記ア、イから、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲1発明>
「被研磨物を保持するための保持面Pを有するウレタンシート2と、前記ウレタンシート2の前記保持面Pとは反対側に少なくとも一部の露出面を有するノンサポテープ61、62のセパレータ61a、62aと、を備える保持パッド10。」
(2)甲2
ア 甲2の記載事項
「【0001】
本発明は、保持パッドに関する。
【0002】
従来、半導体ウエハ、半導体デバイス用シリコンウエハ、各種記録用ディスクの基板及び液晶ディスプレイ用ガラス基板など、特にガラス基板の精密平面研磨を行う場合、研磨ヘッドに貼り付けられた保持パッドを、被研磨物に対して水により吸着させることで被研磨物を保持させた上で、研磨パッドを用いて研磨加工する。保持パッドは、連続気泡を有するポリウレタン樹脂などの弾性材料からなるシートを備え、そのシートの表面(保持面)の微細な気泡が吸盤のような役目をして被研磨物を保持することができる。すなわち、そのシートは保持層として機能するものである。
・・・
【0055】
(実施例1)
原料の樹脂である100%モジュラス(25℃におけるもの。以下同様。)が6.0MPaであるポリエステル系ポリウレタン樹脂の30%DMF溶液100質量部に対して、DMF50質量部、水8質量部、撥水剤として、パーフルオロヘキシル化合物を含むDIC株式会社製の「クリスボンアシスター SD-38」(商品名)3質量部を添加して、混合撹拌し、樹脂溶液を調製した。次に、成膜用基材として、PETフィルムを用意し、そこに、上記樹脂溶液を、ナイフコータを用いて塗布し、厚さ1.0mmの塗膜を得た。ポリエステル系ポリウレタン樹脂としては、エチレングリコール及びプロピレングリコールとアジピン酸とを脱水縮合して得られたポリエステルポリオールと、メチレンビス(4,1-フェニレン)=ジイソシアネート(MDI)と、低分子ジオールとを縮合して得られたものを用いた(以下の実施例及び比較例においても同様。)。
【0056】
次いで、得られた塗膜を成膜用基材と共に、凝固液である水からなる18℃の凝固浴に浸漬し、樹脂を凝固再生して前駆体シートを得た。前駆体シートを凝固浴から取り出し、成膜用基材を前駆体シートから剥離した後、前駆体シートを水からなる室温の洗浄液(脱溶剤浴)に浸漬し、溶媒であるDMFを除去して樹脂シートを得た。その後、樹脂シートを乾燥しつつ巻き取った。次に、樹脂シートの裏面(成膜用基材を剥離した側の面であって、成膜基材に接触していた面)に対してバフ処理を施して、0.8mmの厚さとした。
【0057】
次に、樹脂シートのバフ処理を施した面に、PET製の基材の両面に接着層(材質:アクリル系樹脂)を有し、更に片面に剥離紙を有する両面テープを、その剥離紙とは反対側の接着層で貼り合わせた後、外径33.5cmの円形に裁断し保持パッドを得た。」
イ 甲2に記載の技術的事項
上記アから、甲2には、以下の技術的事項(以下「甲2に記載の技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。
<甲2に記載の技術的事項>
「100%モジュラスが6.0MPaであるポリエステル系ポリウレタン樹脂を樹脂シートの原料として用い、樹脂シートに対してバフ処理を施して0.8mmの厚さとし、樹脂シートのバフ処理を施した面に、剥離紙を有する両面テープを貼り合わせて、保持パッドを得ること。」
(3)甲3
ア 甲3の記載事項
「【請求項9】
前記被運搬物は、研磨加工に用いられる研磨布または保持布であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の運搬用具。
【請求項10】
前記被運搬物は、樹脂製のフィルムまたは不織布を有することを特徴とする請求項9に記載の運搬用具。」
「【0001】
本発明は運搬用具に係り、特に、凹陥性を有する捲回状の被運搬物を運搬するための容器を備えた運搬用具に関する。
・・・
【0003】
被運搬物がシート状のフィルムや紙等の場合、ある程度までの大きさであれば積層状態で梱包することができるが、長尺状や大型のものになるとロール状に捲回され容器に収容されるのが一般的である。捲回状のフィルム等が容器内面に接触するように収容された場合は、運搬中の揺れ等により容器内面に接触したフィルム等の表面が損傷することとなり、外圧等を受けると被運搬物自体を変形させる可能性がある。これらを避けるために緩衝材等を使用すると、緩衝材等との接触でフィルム等の表面を損傷する可能性もある。
・・・
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、捲回時に捲き芯の使用が必要であり、容器にホルダを保持させる等の手間を要し、梱包用の部品点数を増加させることとなる。また、捲き芯を使用しない場合には適用することができなくなる。液晶ディスプレイ用のガラス基板や半導体デバイス用のシリコンウエハ等の被研磨物の表面を平坦化するための研磨加工で使用される研磨布や保持布では、外力によって変形を受けやすい柔らかな材質が用いられている。被研磨物の平坦性を向上させるため、研磨布や保持布は表面の平坦性が重要となる。このため、研磨布や保持布、とりわけ、大型や長尺の研磨布等では、運搬時に捲回状にされるが、捲き癖を嫌うことから、捲き芯が使用されないのが通常である。また、捲き芯がない状態で捲回された研磨布等では、外力を受けたときや自重によって凹陥(へこみ)を生じやすく、捲回された形状が崩れやすい、という問題がある。捲回形状が崩れた場合は、研磨布等の平坦性が損なわれ、捲回跡が残されるため、研磨加工される被研磨物の平坦化が不十分となるおそれがある。
【0007】
本発明は上記事案に鑑み、捲回状の被運搬物に凹陥を生じさせることなく運搬することができる運搬用具を提供することを課題とする。
・・・
【0017】
保持パッド20は、半導体デバイス用シリコンウエハや液晶ディスプレイ用ガラス基板等の被研磨物の表面に研磨加工を施す際に、当該被研磨物を研磨装置の定盤に保持させるために使用されるものである。図2に示すように、保持パッド20は、100%モジュラス(2倍長に引っ張る時の張力)が20MPa以下のポリウレタン樹脂で形成されたポリウレタンシート22を有している。ポリウレタンシート22は、被研磨物を定盤に保持させるときに被研磨物に当接する保持面Pを有している。ポリウレタンシート22の保持面Pと反対の面(図2の下面)側には、ポリウレタンシート22の厚さ(図2の縦方向の長さ)が一様となるようにバフ処理が施されている。このため、ポリウレタンシート22の保持面Pが略平坦となる。
【0018】
ポリウレタンシート22には、湿式成膜法により、保持面P側に、図示を省略した緻密な微多孔が形成され平坦性を有するスキン層(表面層)24が形成されている。スキン層24の下層(ポリウレタンシート22のスキン層24より内部側)には、ポリウレタンシート22の厚さ方向に沿って丸みを帯びた断面略三角状の発泡23が形成されている。発泡23は、保持面P側の大きさが、保持面Pと反対の面側より小さく形成されている。発泡23同士の間のポリウレタン樹脂中には、スキン層24に形成された微多孔より大きく発泡23より小さい図示しない発泡が形成されている。発泡23及び図示しない発泡は、不図示の連通孔で立体網目状につながっている。保持面Pと反対の面側がバフ処理されているため、発泡23及び図示しない発泡の一部が保持面Pと反対の面側の表面で開孔している。また、保持パッド20は、保持面Pと反対の面側(バフ処理された面側)に、一面側(図2の最下面側)に剥離紙27を有し研磨装置に保持パッド20を装着するための両面テープ26の他面側が貼り合わされている。両面テープ26は、PETフィルム製の基材26aを有しており、基材26aの両面に接着剤層26bが形成されている。
・・・
【0023】
得られた保持パッド20を運搬するときは、形状やサイズにもよるが、3~20回、好ましくは5~10回捲回した筒状、すなわち、捲回状に形成される。このとき、保持面Pを損傷させないため、捲き芯を使用せずに保持面Pを内側とし内径がおよそ100~200mm、好ましくは120~180mmとなるように捲回される。内径が100mmより小さいと捲回跡ができて保持パッドの性能を損なうため、好ましくない。反対に、200mmを超えると容積が大きくなるので、運搬効率が低下する。捲回終端部には、捲き戻りや捲きずれが生じないようにテープ等が貼付されてもよい。保持パッド20がポリウレタンシート22を有して形成されるため、捲き芯を使用せずに捲回された状態では、外圧が掛けられたときや自重でも凹陥(へこみ)が生じやすい凹陥性を有している。保持パッド20が運搬用具10に収容され運搬される。このとき、保持パッド20は、フィルム3の弛み部分4に載置される。」
図1
「
[図:0001413309000004.jpg]
」
図2
「
[図:0001413309000005.jpg]
」
イ 甲3に記載の技術的事項
上記アから、甲3には、以下の技術的事項(以下「甲3に記載の技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。
<甲3に記載の技術的事項>
「ポリウレタンシート22の保持面Pと反対の面側に、剥離紙27を有する両面テープ26を貼り合わせた保持パッド20を捲回状に形成し、運搬用具10に収容して運搬することで、捲回状の被運搬物に凹陥を生じさせることなく運搬することができること。」
3 各申立理由についての判断
ア 申立理由1(新規性)について
(ア)対比
甲1に基づく申立理由1について検討する。
本件発明1と、甲1発明(上記2(1)ウ)とを対比する。
甲1発明の「被研磨物」は本件発明1の「被研磨物」に相当し、以下同様に、「保持面P」は「保持面」に、「ウレタンシート2」は「樹脂シート」に、「ノンサポテープ61、62のセパレータ61a、62a」は「離型シート」に、「保持パッド10」は「保持パッド」に、それぞれ相当する。
以上から、本件発明1と、甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
被研磨物を保持するための保持面を有する樹脂シートと、前記樹脂シートの前記保持面とは反対側に少なくとも一部の露出面を有する離型シートと、を備える保持パッド。
<相違点>
本件発明1は、「捲回して搬送又は保管される」保持パッドであり、「JIS K7171:2016に準拠して測定される前記保持パッドの曲げ弾性率(MPa)と、JIS K7125:1999に準拠して測定される前記樹脂シートが有する前記保持面に対する前記離型シートが有する前記露出面の静摩擦係数とが下記式(1)で表される条件を満たす、
保持パッド。
16 ≦ σ×μ ≦ 84 ・・・(1)
(式中、σは前記曲げ弾性率(MPa)を示し、μは前記静摩擦係数を示す。)」であるのに対し、甲1発明の保持パッド10は、捲回して搬送又は保管されるものであるか不明であり、また、保持パッド10の曲げ弾性率と、ウレタンシート2の保持面Pに対するセパレータ61a、62aの露出面の静摩擦係数が、式1を満たすか否かが不明である点。
(イ)判断
相違点について検討する。
甲1には、保持パッドの保管や搬送に関して、
段落【0019】に「粘着シート6を構成するノンサポテープ61は、ノンサポテープ41と同様に、粘着剤のみでシート状に形成された、基材を有していないテープである。ノンサポテープ61の一面側、すなわち、定盤に装着するための一面側は、保持パッド10の保管時や搬送時にノンサポテープ61を保護するために、セパレータ61aで覆われている。」、
段落【0035】に「本実施形態の保持パッド10では、粘着シート4と粘着シート6との間に、樹脂基材5が介在している。樹脂基材5は、ウレタンシート2と同じ大きさで、一面および他面がそれぞれ連続した略平坦面であるため、樹脂基材5が、ウレタンシート2を全面で支持する機能を果たす。そのため、保持パッド10の搬送時や定盤への装着時に、ウレタンシート2の保持面P側のしわ等の形成が抑制される。従って、保持面Pの平坦性が確保されるので、被研磨物を平坦に保持することができ、被研磨物の平坦性向上を図ることができる。」、
及び段落【0036】に「更に、本実施形態の保持パッド10では、粘着シート4と粘着シート6との間に、一面および他面がそれぞれ連続した略平坦面である樹脂基材5が介在している。すなわち、樹脂基材5は、ウレタンシート2に対して合同な形状である。樹脂基材5は、弾性を有する柔軟なウレタンシート2を支持するため、搬送時や保持定盤への装着時の折れ曲がり等を抑制することができる。また、保持パッド10を大型化しても、保持定盤への貼着作業や保持パッドの交換時の剥離作業を容易にすることができる。」との記載がある。
これらの記載から、甲1においては、保持パッド10は略平坦な樹脂基材5を備え、当該樹脂基材5が、ウレタンシート2を全面で支持する機能を果たして、保持パッド10の搬送時に、ウレタンシート2の保持面P側のしわ等の形成が抑制されるというものであって、甲1発明の保持パッドについて、「捲回して搬送又は保管される」ことの記載や示唆はないから、上記相違点は実質的な相違点であり、本件発明1は甲1発明ではない。
また、本件発明2~3は、請求項1を引用する発明であるから、甲1発明と対比すると、少なくとも上記相違点で相違するから、同様の理由により、甲1発明ではない。
したがって、申立理由1(新規性)により、請求項1~3に係る本件特許を取り消すことはできない。
イ 申立理由2(進歩性)について
(ア)対比
本件発明1と、甲1発明(上記2(1)ウ)との一致点、相違点については、上記ア(ア)に示したとおりである。
(イ)判断
相違点について検討すると、甲1には、保持パッドを「捲回して搬送又は保管」することの記載や示唆はないが、甲3には、「ポリウレタンシート22の保持面Pと反対の面側に、剥離紙27を有する両面テープ26を貼り合わせた保持パッド20を捲回状に形成し、運搬用具10に収容して運搬することで、捲回状の被運搬物に凹陥を生じさせることなく運搬することができること。」との技術的事項(上記2(3)イ)が記載されているから、甲1発明に甲3に記載の技術的事項を適用して、本件発明1とすることが、当業者にとって容易になし得るか検討する。
甲1の保持パッド10は、略平坦な樹脂基材5を備え、当該樹脂基材5がウレタンシート2を全面で支持する機能を果たすことで、保持パッド10の搬送時に、ウレタンシート2の保持面P側のしわ等の形成が抑制される、というものであるから、仮に、甲1の保持パッド10を、甲3に記載の技術的事項のように、ウレタンシート2の保持面P側が内側になるように捲回状に形成すれば、内側になる保持面Pにしわ等が形成される恐れがあり、当業者にとって、甲1発明の保持パッドに甲3に記載の技術的事項を適用する動機があるとはいえない。
さらに、仮に、甲1発明の保持パッドに甲3に記載の技術的事項を適用して、保持パッドを捲回して搬送又は保管するように構成したとしても、甲1及び甲3のいずれにも、保持パッドの曲げ弾性率(σ)と、樹脂シートの保持面に対する離型シートが有する露出面の静摩擦係数(μ)とをどのように設計するかについて記載も示唆もないから、相違点に係る式1の数値範囲を満たすように「σ×μ」を設計することが、当業者にとって容易になし得ることとはいえない。
したがって、仮に、甲1発明に甲3に記載の技術的事項を適用しても、本件発明1の構成には至らない。
そして、「捲回して搬送又は保管される」保持パッドに対して、相違点に係る式1を満たすように設計することが、甲2に記載の技術的事項(上記2(2)イ)にも、甲4、甲5にも記載されていないから、甲1発明に甲2、4、5に記載の技術的事項を適用しても、本件発明1の構成には至らない。
したがって、甲1発明に甲2~甲5に記載の技術的事項を適用しても、本件発明1とすることが、当業者にとって容易になし得たものであるとはいえない。
また、本件発明2~6は、請求項1を引用する発明であるから、甲1発明と少なくとも上記相違点で相違し、同様の理由により、甲1発明及び甲2~甲5に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
ウ 相違点に係る申立人の主張について
申立人は、申立書の28~34ページにおいて、甲1発明と、本件発明1の実施例2(段落【0066】、【0067】)とを対比して、甲1発明の保持パッドの曲げ弾性率(σ)及び静摩擦係数(μ)が、本件発明1の実施例2と同程度である蓋然性が高い旨を主張している。
しかしながら、甲1には、保持パッドの曲げ弾性率(σ)、及び樹脂シートの保持面に対する離型シートが有する露出面の静摩擦係数(μ)をどのように設計するかについて記載も示唆もなく、さらに、本件発明1は、保持パッドが「捲回して搬送又は保管」された場合でも、樹脂シートの保持面に傷が生じることを抑制できるようにσとμが調整されたものであるところ、甲1発明の保持パッドの曲げ弾性率(σ)及び静摩擦係数(μ)が、そのような本件発明1の実施例2と同程度である蓋然性が高いとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
エ 小括
以上から、申立人が主張する申立理由1~2によっては、請求項1~6に係る本件特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人が特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700640