特許異議申立
2016-700792
円筒型スパッタリングターゲット及びその製造方法
- 審判番号
- 2016-700792
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-060110外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年08月31日
- 審決日
- 2017年08月31日
- 公報発行日
- 2017年11月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JX金属株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
- 【異議申立人】歌代 豊
- 分類
- P1651.16 -YAA(C23C) / P1651.537-YAA(C23C) / P1651.851-YAA(C23C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条の2、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第184条の15第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5909006号発明「円筒型スパッタリングターゲット及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5909006号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第5909006号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5909006号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成27年3月23日に特許出願され、平成28年4月1日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人歌代豊により特許異議の申立てがなされ、平成28年12月21日付けで取消理由が通知され、平成29年3月3日に意見書の提出及び訂正の請求がなされ、この訂正の請求に対して特許異議申立人から平成29年4月13日付けで意見書が提出され、平成29年4月26日付けで取消理由が通知され、平成29年6月26日に意見書の提出及び訂正の請求がなされ、この訂正の請求に対して特許異議申立人に意見を求めたところ、意見書の提出はなされなかったものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成29年6月26日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のとおりである。なお、本件訂正請求により、平成29年3月3日付けの訂正の請求は取り下げられたものとみなす。
[訂正事項1]
特許請求の範囲の請求項1に
「円筒形基材と円筒形スパッタリングターゲット材との接合体からなる円筒形スパッタリングターゲットにおいて、
前記円筒形スパッタリングターゲット材の内径と前記円筒形基材の外径との差から見積もられる、前記円筒形基材と前記円筒形スパッタリングターゲット材とを接合させる接合材の厚みをdμm、接合剤の線膨張係数をα1(μm/μmK)、接合剤の融点と室温との差をΔT(K)とした場合に、
前記円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面の十点平均粗さ(Rz)が
d(μm)×α1(μm/μmK)×ΔT(K)≦Rz(μm)
を満たすことを特徴とする円筒形スパッタリングターゲット。」
とあるのを
「円筒形基材と円筒形スパッタリングターゲット材との接合体からなる円筒形スパッタリングターゲットにおいて、
前記円筒形スパッタリングターゲット材の内径と前記円筒形基材の外径との差から見積もられる、前記円筒形基材と前記円筒形スパッタリングターゲット材とを接合させる接合材の厚みをdμm、接合剤の線膨張係数をα1(μm/μmK)、接合剤の融点と室温との差をΔT(K)とした場合に、
前記円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面の十点平均粗さ(Rz)が
d(μm)×α1(μm/μmK)×ΔT(K)≦Rz(μm)
を満たすこと(ただし、前記円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面全体に円周方向にのみ複数のライン状の研削スジのあるものは除く。)
を特徴とする円筒形スパッタリングターゲット。」
と訂正する。
2 訂正要件の判断
訂正事項1は、請求項1において、「(ただし、前記円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面全体に円周方向にのみ複数のライン状の研削スジのあるものは除く。)」との特定を付加し、「円筒形スパッタリングターゲット材」から「円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面全体に円周方向にのみ複数のライン状の研削スジのあるもの」を除外する、いわゆる「除くクレーム」という記載様式に基づく訂正であって、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1を訂正するものであり、訂正前の請求項2~5は請求項1を引用するため、請求項1~5は一群の請求項あるから、本件訂正請求は、一群の請求項1~5について請求するものである。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1~5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
円筒形基材と円筒形スパッタリングターゲット材との接合体からなる円筒形スパッタリングターゲットにおいて、
前記円筒形スパッタリングターゲット材の内径と前記円筒形基材の外径との差から見積もられる、前記円筒形基材と前記円筒形スパッタリングターゲット材とを接合させる接合材の厚みをdμm、接合剤の線膨張係数をα1(μm/μmK)、接合剤の融点と室温との差をΔT(K)とした場合に、
前記円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面の十点平均粗さ(Rz)が
d(μm)×α1(μm/μmK)×ΔT(K)≦Rz(μm)
を満たすこと(ただし、前記円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面全体に円周方向にのみ複数のライン状の研削スジのあるものは除く。)
を特徴とする円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面は、さらに、算術平均粗さ(Ra)が
d(μm)×α1(μm/μmK)×ΔT(K)×0.1≦Ra(μm)
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記円筒形スパッタリングターゲット材は、ITO、IZO、IGZO、またはITZOからなることを特徴とする請求項1または2に記載の円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記接合材は、InまたはInSnを含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記接合材の厚みは、0.5mm≦d≦2.0mmであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の円筒形スパッタリングターゲット。
2 取消理由の概要
訂正前の請求項1~5に係る特許に対して平成28年12月21日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、「請求項1~5に係る発明は、特許法第184条の15第2項の規定により読み替えた同法第41条第3項の規定により、国際公開第2016/027599号(甲第1号証)によって出願公開されたものとみなされる特願2014-169808号(以下、「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書(以下、「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者が先願明細書に記載された発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が先願の出願人と同一でもないので、請求項1~5に係る特許は特許法第29条の2の規定を違反してなされたものである。」というものである。
なお、平成29年4月26日付けの取消理由は、平成29年3月3日付けの訂正の請求によって生じた記載不備を指摘するものであり、当該訂正の請求の取り下げによって、この拒絶理由は解消している。
3 取消理由に対する当審の判断
(1)先願明細書の記載事項
先願明細書には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。
ア 「【0036】
図2Bに戻り、内周面研削工程について説明する。内周面研削工程は、焼成体12の内周面12bを研削する工程である。図2Bに示すように、焼成体12の内周面12b側には、内周面12bを研削するための砥石6aが配置されている。
【0037】
砥石6aは、焼成体12の円筒軸と平行となるように配置されたシャフト6bを回転軸として回転しつつ、このシャフト6bに対して垂直、すなわち、焼成体12の円筒軸に平行な方向への進退移動が可能となるように構成される。
・・・
【0039】
このような構成を有する砥石6aによって研削された焼成体12の内周面12bには、砥石6aによる研削方向に対応して、砥石5aにより焼成体12の外周面12aに形成されるものと同様の研削スジdが形成される。すなわち、砥石6aの切り込み量を一定にして焼成体12の円筒軸に平行な方向へ進退移動させると、焼成体12の内周面12bは、焼成体12の回転および砥石6aの進退移動に対応してトラバース研削され、内周面12bに研削スジdが形成される。」
イ 「【0045】
次に、仕上研削工程について説明する。仕上研削工程とは、焼成体12の外周面12aおよび内周面12bの各研削工程の最後に行われる、焼成体12の外周面12aおよび内周面12bを研削する工程をいう。実施形態に係る研削処理工程では、焼成体12の外周面12aおよび内周面12bは、2以上の研削方向で研削される。この点について、図5を用いて以下に説明する。
【0046】
図5は、実施形態1に係る円筒形スパッタリングターゲット用ターゲット材の製造方法の概要を示す説明図であり、図3A、図4Aに示す領域6で示される焼成体12の外周面12aを拡大視したものに相当する。図5中、ラインd2は、仕上研削工程における最後の研削で焼成体12の外周面12aに形成された研削スジdを示している。また、ラインd1は、ラインd2の研削スジdが形成される研削の直前の仕上研削で焼成体12の外周面12aに形成された研削スジdを示している。」
ウ 「【0053】
・・・ここで、表面粗度Raとは、JIS B0601:2013の「算術平均粗さRa」に相当する値である。なお、表面粗度Raは、仕上研削に用いる砥石5aの番手を変更することにより制御することができる。」
エ 「【0068】
[実施例1]
(ITO円筒形ターゲット。内周面、外周面ともに往復トラバース仕上研削)
・・・
【0073】
続いて、トラバース研削により焼成体12の内周面12bの仕上研削を行った。砥石6aには、ビトリファイドを結合剤とする、砥粒粒度が#170のものを使用した。砥石6aを端部e1から端部e2まで前進方向に移動させる1パスを、砥石6aの切り込み量0.01mm、砥石6aの円筒軸方向(前進方向)への移動速度300mm/min、焼成体12の回転速度70rpmとして仕上研削を行った。
・・・
【0078】
砥石5aを前進方向および後退方向に移動させるトラバース研削を、焼成体12の外径が153mmとなるまで1パスずつ繰り返し行った後、切り込み量0で砥石5aを円筒軸方向に移動させるスパークアウトを2パス行った。最後に、焼成体12の両端を切断して長さを300mmに加工し、外径153mm、内径135mm、長さ300mmの円筒形ターゲット材2を製造した。
【0079】
上記した円筒形ターゲット材2を9本用意し、外径133mm、内径123mm、長さ3200mmのチタン製のバッキングチューブ3に、接合材4としてIn半田を用いて9本の円筒形ターゲット材2をそれぞれ接合し、円筒形ターゲット1を作製した。各ターゲット材2間の間隔(分割部の長さ)は、0.5mmとした。
【0080】
・・・また、9本の円筒形ターゲット材2において、内周面12bおよび外周面12aにおける、・・・と表面粗度Raとを測定し、その平均をそれぞれ算出した。また、接合した9本の円筒形ターゲット材2を目視にて評価したところ、いずれも割れは認められなかった。結果を表1に示す。」
オ 「【0142】
[実施例16]
(実施例1の表面粗度Ra変更)
焼成体12(ITO)の内周面12bを研削する砥石6aの砥粒粒度を#80とし、外周面12aを研削する砥石5aの砥粒粒度を#140としたことを除き、実施例1と同様にして円筒形ターゲット材2および円筒形ターゲット1を作製した。
【0143】
・・・9本の円筒形ターゲット材2において、内周面12bおよび外周面12aにおける、・・・と表面粗度Raとを測定し、その平均をそれぞれ算出した。また、接合した9本の円筒形ターゲット材2を目視にて評価したところ、1本に割れが認められた。結果を表1に示す。」
カ 「【0197】
【表1】
」
(2)先願発明
先願明細書には、上記(1)エによれば、外径153mm、内径135mmの円筒形ITOターゲット材と、外径133mm、内径123mmのチタン製のバッキングチューブとを、In半田の接合材を用いて接合した円筒形ターゲットが記載され、上記(1)オ及びカによれば、実施例16の円筒形ターゲットとして、円筒形ターゲット材の内周面の表面粗度Raが1.8μmとなるように往復トラバース研削により仕上研削した円筒形ターゲットが記載されている。そして、上記(1)ウによれば、前記表面度粗度Raは算術平均粗さRaに相当することが記載されている。
これら記載を整理すると、先願明細書には、「外径153mm、内径135mmの円筒形ITOターゲット材と、外径133mm、内径123mmのチタン製のバッキングチューブとを、In半田の接合材を用いて接合した円筒形ターゲットであって、円筒形ターゲット材の内周面は往復トラバース研削により仕上研削された面であって、その算術平均粗さRaが1.8μmである円筒形ターゲット」の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
(3)本件発明1について
本件発明1と先願発明を対比すると、先願発明の「円筒形ITOターゲット材」、「円筒形ターゲット材の内周面」、「チタン製のバッキングチューブ」、「円筒形ターゲット」は、本件発明1の「円筒形スパッタリングターゲット材」、「円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面」、「円筒形基材」、「円筒形スパッタリングターゲット」にそれぞれ相当する。また、先願発明の「円筒形ターゲット材の内周面」と、本件発明1の「円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面」とは、特定の表面粗さを有する点で共通している。
したがって、本件発明1と先願発明は、「円筒形基材と円筒形スパッタリングターゲット材との接合体からなる円筒形スパッタリングターゲットにおいて、円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面が特定の表面粗さを有している円筒形スパッタリングターゲット」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面に関して、本件発明1は、「表面全体に円周方向にのみ複数のライン状の研削スジのあるもの」を除く表面であるのに対して、先願発明は、「往復トラバース研削により仕上研削された面」である点。
(相違点2)
円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面の粗さに関して、本件発明1では、該表面の「十点平均粗さ(Rz)」が、「前記円筒形スパッタリングターゲット材の内径と前記円筒形基材の外径との差から見積もられる、前記円筒形基材と前記円筒形スパッタリングターゲット材とを接合させる接合材の厚みをdμm、接合剤の線膨張係数をα1(μm/μmK)、接合剤の融点と室温との差をΔT(K)とした場合に」、「d(μm)×α1(μm/μmK)×ΔT(K)≦Rz(μm)」を満たすことを特定しているのに対して、先願発明では、該表面の「算術平均粗さRa」が「1.8μm」であることを特定している点。
上記相違点1について検討すると、先願発明の「往復トラバース研削により仕上研削された面」は、上記(1)イによれば、ライン状の研削スジを有しているといえ、また、上記(1)アによれば、前記往復トラバース研削は、円筒形ターゲット材となる焼成体を回転し、砥石を進退移動して行うものといえるから、前記ライン状の研削スジは、円筒形ターゲット材の内周面の円周方向のみに存在するものといえる。
これに対して、本件発明1の円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面は、表面全体に円周方向にのみ複数のライン状の研削スジのあるものを除く表面である。
そうしてみると、本件発明1の「表面全体に円周方向にのみ複数のライン状の研削スジのあるもの」を除く表面は、先願発明の「往復トラバース研削により仕上研削された面」を含まないから、上記相違点1は実質的な相違点といえる。
以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、先願明細書に記載された発明と同一であるといえない。
(4)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1を引用し、上記相違点1及び2を有するものであるから、上記(3)で検討したとおり、先願明細書に記載された発明と同一であるといえない。
4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条の2について
特許異議申立人は、訂正前の請求項1~5に係る発明は、特開2015-59269号公報(甲第2号証)によって出願公開された特願2013-195904号(以下、「先願2」という。)の願書に最初に添付された明細書(以下、「先願明細書2」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者が先願明細書2に記載された発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が先願2の出願人と同一でもないので、請求項1~5に係る特許は特許法第29条の2の規定を違反してなされたものである旨を主張している。
上記主張について検討すると、先願明細書2の段落【0022】、【0023】、【0034】、【0043】~【0047】、【表1】の記載によれば、先願明細書2には、「研削加工された内径135mmの円筒形IGZO焼結体とチタン製のバッキングチューブとを、インジウムからなる厚み1.5mmの裏面用ハンダ材で接合した円筒形IGZOスパッタリングターゲットであって、円筒形IGZO焼結体の裏面の粗さ(Ra)が1.0μmである円筒形IGZOスパッタリングターゲット」の発明(以下、「先願2発明」という。)が記載されていると認められる。
そして、本件発明1と先願2発明を対比すると、先願2発明の「円筒形IGZO焼結体」、「円筒形IGZO焼結材の裏面」、「チタン製のバッキングチューブ」、「円筒形IGZOスパッタリングターゲット」、「裏面用ハンダ材」は、本件発明1の「円筒形スパッタリングターゲット材」、「円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面」、「円筒形基材」、「円筒形スパッタリングターゲット」、「接合体」にそれぞれ相当する。また、先願2発明の「円筒形IGZO焼結材の裏面」と、本件発明1の「円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面」とは、特定の表面粗さを有する点で共通している。
したがって、本件発明1と先願2発明は、「円筒形基材と円筒形スパッタリングターゲット材との接合体からなる円筒形スパッタリングターゲットにおいて、円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面が特定の表面粗さを有している円筒形スパッタリングターゲット」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点A)
円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面に関して、本件発明1は、「表面全体に円周方向にのみ複数のライン状の研削スジのあるもの」を除く表面であるに対して、先願2発明は、「研削加工」された「面」である点。
(相違点B)
円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面の粗さに関して、本件発明1では、該表面の「十点平均粗さ(Rz)」が、「前記円筒形スパッタリングターゲット材の内径と前記円筒形基材の外径との差から見積もられる、前記円筒形基材と前記円筒形スパッタリングターゲット材とを接合させる接合材の厚みをdμm、接合剤の線膨張係数をα1(μm/μmK)、接合剤の融点と室温との差をΔT(K)とした場合に」、「d(μm)×α1(μm/μmK)×ΔT(K)≦Rz(μm)」を満たすことを特定しているのに対して、先願2発明では、該表面の「Ra」が「1.0μm」であることを特定している点。
上記相違点Bについて検討すると、参考文献(化学大辞典1、共立出版株式会社、1997年9月20日、縮刷版第36刷、第715頁)によれば、インジウムの融点は156.6℃、線膨張率は3.3×10-5deg-1であるといえるから、先願2発明の「インジウムからなる厚み1.5mmの裏面用ハンダ材」も、融点が156.6℃、線膨張率が3.3×10-5deg-1であるといえる。
また、特開2009-256719号公報(甲第3号証)の「・・・スパッタリングターゲットの表面粗さは、Rzjis(10点平均粗さ)・・・。一般的なスパッタリングターゲットの表面粗さはRa(算術平均粗さ)で評価しているが、・・・。Rzjisの値は、粗さ曲線が三角波形状の表面であればRaの値の4倍、サンドブラストなどで研磨した表面ではRaの値の6~10倍になる。・・・」(【0083】)との記載によれば、十点平均粗さは、算術平均粗さの4~10倍の値であることが技術常識といえるから、先願2発明の円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面の粗さは、十点表面粗さRzで示すと、4.0μm(=1.0μm×4)~10μm(=1.0μm×10)であるといえる。
そこで、先願2発明の接合材(裏面用ハンダ材)の厚さと円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面の十点平均粗さが、本件発明1の「d(μm)×α1(μm/μmK)×ΔT(K)≦Rz(μm)」の関係式を満足するかを検討すると、先願2発明の裏面用ハンダ材は、厚みが1.5mm(1500μm)、融点が156.6℃(429.75K)、線膨張率が3.3×10-5K-1であり、室温は293.15Kであるから、前記関係式の左辺は6.7μm(=1500μm×3.3×10-5K-1×(429.75K-293.15K))となる。そして、前述したとおり、先願2発明の円筒形IGZO焼結材の裏面の十点平均粗さRzは4.0~10μmであるから、上記関係式を必ずしも満足しているとはいえない。
ここで、特許異議申立人は、十点平均粗さと算術平均粗さの関係は、特開2009-242915号公報(甲第4号証)及び特開2009-221589号公報(甲第5号証)に記載されたターゲット材の算術平均粗さ(Ra)と最大高さ粗さ(Rz)の実測値により裏付けられている旨を主張している(特許異議申立書第15頁第8~11行)が、甲第4号証及び甲第5号証に記載された最大高さ粗さ(Rz)は、十点平均粗さと異なる表面粗さであるから、相違点Bの検討にあたって、甲第4号証及び甲第5号証の記載は参酌できない。
したがって、上記相違点Bを実質的な相違点でないとはいえないから、上記相違点Aを検討するまでもなく、本件発明1は、先願明細書2に記載された発明と同一であるといえない。
また、本件発明2~5は、本件発明1を引用し、上記相違点A及びBを有するものであるから、同様の理由により、先願明細書2に記載された発明と同一であるといえない。
よって、特許異議申立人の主張は理由がない。
(2)特許法第36条第6項第2号について
特許異議申立人は、訂正前の請求項1~5に係る発明は、「円筒形スパッタリングターゲット材の接合材側の表面」の「十点平均粗さ(Rz)」の上限値の規定がなされていないため、発明の範囲が不明確である旨を主張している。
上記主張について検討すると、本件発明1~5の「十点平均粗さ(Rz)」は、円筒形基材とのはめ合いが可能な値に制限されるから、その上限値が特定されていなくても、発明の範囲が不明確であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の主張は理由がない。
5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2016-700792