特許異議申立
2016-700758
高甘味度甘味料含有飲料およびその製造方法
- 審判番号
- 2016-700758
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-114210
- 登録番号
- 特許第5887004号(P5887004)
- 請求日
- 2016年08月22日
- 審決日
- 2017年03月30日
- 公報発行日
- 2017年05月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】キリンビバレッジ株式会社
- 【権利者代理人】横田 修孝
- 【権利者代理人】榎 保孝
- 【権利者代理人】大森 未知子
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 中村 則夫
- 審判官 千壽 哲郎
- 審判官 山崎 勝司
- 分類
- P1651.121-Y (A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5887004号発明「高甘味度甘味料含有飲料およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5887004号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5887004号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成28年2月19日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人中川賢治より特許異議の申立てがされ、平成28年12月8日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成29年2月9日に意見書が提出されたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~8に係る発明(以下「本件発明1~8」という。これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
【請求項1】
酸味付与物質とイソα酸とを含んでなる、原料として麦芽を使用しない高甘味度甘味料含有非アルコール低カロリー炭酸飲料であって、高甘味度甘味料の味質が改善され、高甘味度甘味料としてアセスルファムカリウムおよび/またはスクラロースを含んでなり、酸味付与物質が酸度0.01~0.4%で存在し、かつ、イソα酸が0.25~45ppmで存在する、炭酸飲料。
【請求項2】
イソα酸と、アセスルファムカリウム、スクラロースまたはこれらの組み合わせとの重量比が、1:0.26~1:2400である、請求項1に記載の炭酸飲料。
【請求項3】
酸味付与物質が、クエン酸および/またはリン酸を含むものである、請求項1または2に記載の炭酸飲料。
【請求項4】
飲料が容器詰め飲料である、請求項1~3のいずれか一項に記載の炭酸飲料。
【請求項5】
飲料中のイソα酸濃度を0.25~45ppmに調整し、かつ、飲料中の酸味付与物質濃度を酸度0.01~0.4%に調整することを特徴とする、高甘味度甘味料の味質が改善された、原料として麦芽を使用しない高甘味度甘味料含有非アルコール低カロリー炭酸飲料の製造方法。
【請求項6】
イソα酸と、アセスルファムカリウム、スクラロースまたはこれらの組み合わせとの重量比が、1:0.26~1:2400である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
酸味付与物質がクエン酸および/またはリン酸を含むものである、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
飲料が容器詰め飲料である、請求項5~7のいずれか一項に記載の製造方法。
第3 取消理由の概要
平成28年12月8日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである。
1 理由1
本件発明1~8は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2 理由2
本件発明1~8は、引用文献3に記載された発明、引用文献4に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
[引用文献]
1.中国特許出願公開第1568829号明細書(甲第1号証)
2.宮地秀夫著、「ビール醸造技術」、株式会社食品産業新聞社、1999年12月28日、p.49~59、351~353(甲第2号証)
3.特開2006-55074号公報(甲第3号証)
4.特開2003-210147号公報(甲第4号証)
5.特開2010-98985号公報(甲第5号証)
6.特開昭59-66857号公報(甲第6号証)
7.特開平7-170951号公報(甲第7号証)
第4 取消理由についての判断
1 理由1について
(1) 本件発明1に対して
ア 引用発明
引用文献1には、
「酸味剤と、イソα-酸を含む苦味剤と、甘味料とを含んでなる、原料として麦芽を使用しない非アルコール炭酸飲料であって、
酸味剤の配合量が0.4~1.6kg/1000kgであり、
酸味剤として、ビール酸、クエン酸、インクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、酢酸、ヘキサン酸、オクタン酸、乳酸、リン酸、デカン酸、タンニン酸、アスコルビン酸のうちの1種または複数種を配合した、炭酸飲料。」(以下「引用発明1」という。)
が記載されている(特許請求の範囲、明細書の記載参照)。
イ 本件発明1と引用発明1との対比、判断
本件発明1と引用発明1とを対比すると、両者は「酸味付与物質、イソα酸及び甘味料を含む、原料として麦芽を使用しない、非アルコール炭酸飲料」である点で一致し、以下の点で相違するものと認める。
[相違点A]
原料として麦芽を使用しない、非アルコール炭酸飲料について、本件発明1は、高甘味度甘味料を含有する低カロリーのものであって、高甘味度甘味料としてアセスルファムカリウムおよび/またはスクラロースを含んでなり、酸味付与物質が酸度0.01~0.4%で存在し、かつ、イソα酸が0.25~45ppmで存在し、高甘味度甘味料の味質が改善されたものであるのに対して、引用発明1は、甘味料は特定されておらず、クエン酸等の有機酸を0.4~1.6kg/1000kg含有するが、イソα酸の含有量は特定されておらず、高甘味度甘味料の味質が改善されたものであるか、低カロリーのものであるかは、明らかでない点。
上記相違点Aについて検討する。
飲料の分野において、健康への関心から、飲料を低カロリー化することは当該分野における一般的な課題であり、その課題解決のために、甘味料として一般的なショ糖に代えて高甘味度甘味料を用いることは周知である(引用文献4【0005】、引用文献5【0002】等参照)。また、高甘味度甘味料としてアセスルファムカリウム及びスクラロースは広く知られたものである。
一方で、飲料の甘味料として高甘味度甘味料を添加した場合には、当該高甘味度甘味料により異質な味質が奏されることも技術常識である(引用文献4【0006】、引用文献5【0002】等参照)。
そうすると、当業者は、引用発明1について、飲料の低カロリー化という一般的な課題の下、甘味料として高甘味度甘味料を用い、当該高甘味度甘味料としてアセスルファムカリウム及び/又はスクラロースを選択する程度のことは容易になし得ることといえ、また、高甘味度甘味料を選択した際に生じる異質な味質を改善しようとする動機づけはあるといえる。
しかしながら、「原料として麦芽を使用しない、非アルコール炭酸飲料」について、高甘味度甘味料としてアセスルファムカリウム及び/又はスクラロースを選択した際に生じる異質な味質を改善する手段として、具体的に、酸味付与物質を酸度0.01~0.4%で存在させ、かつ、イソα酸を0.25~45ppmで存在させるようにすることは、引用文献2~7には記載されておらず、また、周知技術又は技術常識であったともいえない。
引用文献2には、ビールの苦味の主成分はイソα酸であって、英国ビールには、イソフムロン(イソα酸の一種)の濃度が14~62mg/L(14~62ppm)であること、ビールの苦味質は一般的に12~50mg/Lであり、イソ化されていないα-酸が0.5~1.5mg/L、Huluponeが1~3mg/Lであり、残りがイソ-化合物であることが記載されている。しかし、ビールは、麦汁を用いたアルコール飲料であるところ、原料として麦芽を使用しない、非アルコール炭酸飲料である引用発明1について、高甘味度甘味料の味質を改善するためのイソα酸の含有量を示唆するものとはいえない。
また、引用文献4には、高甘味度甘味料含有飲料において、有機酸を添加することにより高甘味度甘味料に起因する甘味の残存性を改善することが記載されている(【0010】)。しかし、引用文献4には、有機酸をイソα酸とともに含有させることやその際の含有量についての記載はないし、示唆もない。
また、引用文献5には、高甘味度甘味料を選択し得る甘味料含有飲料において、ホップ苞ポリフェノールを添加することにより高甘味度甘味料などの不快な後味を改善することが記載されている(【0005】)。しかし、ホップ苞ポリフェノールは、イソα酸とは異なる物質であるところ、引用文献5には、高甘味度甘味料の味質を改善する手段として、酸味付与物質を酸度0.01~0.4%で存在させ、かつ、イソα酸を0.25~45ppmで存在させるようにすることについての記載はないし、示唆もない。
その余の引用文献にも、上記相違点Aに係る本件発明1の構成についての記載はないし、示唆する記載も見当たらない。
そして、本件発明1は、上記相違点Aに係る構成により、原料として麦芽を使用しない高甘味度甘味料含有非アルコール低カロリー炭酸飲料について、アセスルファムカリウム及び/又はスクラロースを含む高甘味度甘味料の味質が改善されるという効果を奏するものである。
したがって、引用発明1において上記相違点Aに係る本件発明1の構成となすことは当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
よって、本件発明1は、引用発明1、引用文献2~7に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2) 本件発明2~4に対して
本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、本件発明2~4と引用発明とは、上記(1)に示したとおり、少なくとも上記相違点Aにおいて相違する。
そして、上記相違点Aについての判断は上記(1)に示したとおりであるから、本件発明2~4は、引用発明1、引用文献2~7に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3) 本件発明5に対して
ア 引用発明
引用文献1には、
「イソα-酸を含む苦味剤を配合し、
飲料中の酸味剤の濃度を0.4~1.6kg/1000kgに調整し、
酸味剤として、ビール酸、クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、酢酸、ヘキサン酸、オクタン酸、乳酸、リン酸、デカン酸、タンニン酸、アスコルビン酸のうちの1種または複数種を配合し、
原料として麦芽を使用しない、甘味料を含有する、非アルコール炭酸飲料の製造方法。」(以下「引用発明1’」という。)
が記載されている(特許請求の範囲、明細書の記載参照)。
イ 本件発明5と引用発明1’との対比、判断
本件発明5と引用発明1’とを対比すると、両者は、「酸味剤と、イソα酸と、甘味料とを配合し、原料として麦芽を使用しない、非アルコール炭酸飲料の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点B]
原料として麦芽を使用しない、非アルコール炭酸飲料の製造方法について、本件発明5は、高甘味度甘味料を含有する低カロリー飲料の製造方法であって、飲料中のイソα酸濃度を0.25~45ppmに調整し、かつ、飲料中の酸味付与物質濃度を酸度0.01~0.4%に調整し、高甘味度甘味料の味質が改善されたものであるのに対して、引用発明1’は、用いる甘味料や低カロリーであるかは特定されない飲料の製造方法であって、飲料中のクエン酸等の有機酸は0.4~1.6kg/1000kgに調整されるが、飲料中のイソα酸の配合量は特定されておらず、高甘味度甘味料の味質が改善されたものであるかは明らかでない点。
上記相違点Bについて検討する。
上記(1)で述べたとおり、飲料の分野における周知技術や技術常識を踏まえると、当業者は、引用発明1’について、飲料の低カロリー化という一般的な課題の下、甘味料として高甘味度甘味料を用いる程度のことは容易になし得ることといえ、また、高甘味度甘味料を選択した際に生じる異質な味質を改善しようとする動機づけはあるといえる。
しかしながら、「原料として麦芽を使用しない、非アルコール炭酸飲料の製造方法」について、高甘味度甘味料用いた際に生じる異質な味質を改善する手段として、具体的に、飲料中のイソα酸濃度を0.25~45ppmに調整し、かつ、飲料中の酸味付与物質濃度を酸度0.01~0.4%に調整することは、上記(1)に示したとおり、引用文献2~7には記載されておらず、また、周知技術又は技術常識であったともいえない。
そして、本件発明5は、上記相違点Bに係る構成により、原料として麦芽を使用しない高甘味度甘味料含有非アルコール低カロリー炭酸飲料の製造方法について、高甘味度甘味料の味質が改善されるという効果を奏するものである。
したがって、引用発明1’において上記相違点Bに係る本件発明5の構成となすことは当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
よって、本件発明5は、引用発明1’、引用文献2~7に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 本件発明6~8に対して
本件発明6~8は、本件発明5の発明特定事項をすべて含むものであるところ、本件発明6~8と引用発明1’とは、上記(3)に示したとおり、少なくとも上記相違点Bにおいて相違する。
そして、上記相違点Bについての判断は上記(3)に示したとおりであるから、本件発明6~8は、引用発明1’、引用文献2~7に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5) 小括
以上のとおり、本件発明1~8は、引用発明1又は引用発明1’、引用文献2~7に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。
2 理由2について
(1) 本件発明1に対して
ア 引用発明
引用文献3には、
「イソフムロンを苦み成分とするホップ抽出物並びにアセスルファムカリウム及びスクラロースを含有する苦みが低減されたホップ抽出物含有組成物を食品用保存剤として使用した、茶、コーヒー、スポーツ飲料等の飲料。」(以下「引用発明3」という。)
が記載されている(【請求項1】、【請求項2】、【0009】~【0011】、【0016】~【0017】参照)。
イ 本件発明1と引用発明3との対比、判断
本件発明1と引用発明3とを対比するに、引用発明3のイソフムロンは、イソα酸の一種であること、また、茶、コーヒー、スポーツ飲料は、通常、非アルコール飲料であって、麦芽を原料とするものではないことを踏まえると、両者は「イソα酸並びにアセスルファムカリウム及びスクラロースを含有する、原料として麦芽を使用しない、非アルコール飲料」である点で一致し、以下の点で相違するものと認める。
[相違点C]
原料として麦芽を使用しない、非アルコール飲料について、本件発明1は、高甘味度甘味料を含有する低カロリーの炭酸飲料であって、酸味付与物質が酸度0.01~0.4%で存在し、かつ、イソα酸が0.25~45ppmで存在し、高甘味度甘味料の味質が改善されたものであるのに対して、引用発明3は、甘味料及び酸味付与物質が配合されていることの特定、炭酸飲料であることの特定、イソα酸の含有量の特定、高甘味度甘味料の味質が改善されたものであることの特定、並びに、低カロリーのものであるかの特定は、いずれもされていない点。
上記相違点Cについて検討する。
上記1(1)で述べたとおり、飲料の分野における周知技術や技術常識を踏まえると、当業者は、引用発明3について、飲料の低カロリー化という一般的な課題の下、甘味料として高甘味度甘味料を用いる程度のことは容易になし得ることといえ、また、高甘味度甘味料を選択した際に生じる異質な味質を改善しようとする動機づけはあるといえる。
しかしながら、高甘味度甘味料用いた際に生じる異質な味質を改善する手段として、具体的に、飲料中のイソα酸濃度を0.25~45ppmに調整し、かつ、飲料中の酸味付与物質濃度を酸度0.01~0.4%に調整することは、引用文献1、2、4~7には記載されておらず、また、周知技術又は技術常識であったともいえない。
引用文献4には、高甘味度甘味料含有飲料において、有機酸を添加することにより高甘味度甘味料に起因する甘味の残存性を改善することが記載されている(【0010】)。しかし、引用文献4には、有機酸をイソα酸とともに含有させることやその際の含有量についての記載はないし、示唆もない。
また、引用発明3は、イソフムロン(イソα酸)並びにアセスルファムカリウム及びスクラロースを含有する飲料ではあるが、当該アセスルファムカリウム及びスクラロースは、食品用保存剤として添加されるイソフムロン(イソα酸)の苦みを低減するために用いられるものであって、飲料の甘味料として配合されたものではないから、引用発明3に甘味料を配合することとして、当該甘味料として別途アセスルファムカリウム及びスクラロースを用いることができたとしても、当該アセスルファムカリウム及びスクラロースによる異質な味質を改善するために、酸味付与物質の含有量とともにイソα酸の含有量を調整しようとする動機づけを見出すことはできない。
そして、本件発明1は、上記相違点Cに係る構成により、原料として麦芽を使用しない高甘味度甘味料含有非アルコール低カロリー炭酸飲料について、高甘味度甘味料の味質が改善されるという効果を奏するものである。
したがって、引用発明3において上記相違点Cに係る本件発明1の構成となすことは当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
よって、本件発明1は、引用発明3、引用文献4に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2) 本件発明2~4に対して
本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、本件発明2~4と引用発明とは、上記(1)に示したとおり、少なくとも上記相違点Cにおいて相違する。
そして、上記相違点Cについての判断は上記(1)に示したとおりであるから、本件発明2~4は、引用発明3、引用文献4に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3) 本件発明5に対して
ア 引用発明
引用文献3には、
「イソフムロンを苦み成分とするホップ抽出物並びにアセスルファムカリウム及びスクラロースを含有する苦みが低減されたホップ抽出物含有組成物を食品用保存剤として使用して、茶、コーヒー、スポーツ飲料等の飲料を製造する方法。」(以下「引用発明3’」という。)
が記載されている(【請求項1】、【請求項2】、【0009】~【0011】、【0016】~【0017】参照)。
イ 本件発明5と引用発明3’との対比、判断
上記(1)を踏まえて、本件発明5と引用発明3’とを対比すると、両者は「イソα酸並びにアセスルファムカリウム及びスクラロースを含有する、原料として麦芽を使用しない、非アルコール飲料の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違するものと認める。
[相違点D]
原料として麦芽を使用しない、非アルコール飲料の製造方法について、本件発明5は、高甘味度甘味料を含有する低カロリーの炭酸飲料の製造方法であって、飲料中のイソα酸濃度を0.25~45ppmに調整し、かつ、飲料中の酸味付与物質濃度を酸度0.01~0.4%に調整し、高甘味度甘味料の味質が改善されたものであるのに対して、引用発明3’は、甘味料及び酸味付与物質を配合することの特定、炭酸飲料とすることの特定、飲料中のイソα酸や酸味付与物質の調整量の特定、高甘味度甘味料の味質が改善されたものであるかの特定、並びに、低カロリーのものであるかの特定は、いずれもされていない点。
上記相違点Dについて検討する。
上記1(1)で述べたとおり、飲料の分野における周知技術や技術常識を踏まえると、当業者は、引用発明3’について、飲料の低カロリー化という一般的な課題の下、甘味料として高甘味度甘味料を用いる程度のことは容易になし得ることといえ、また、高甘味度甘味料を選択した際に生じる異質な味質を改善しようとする動機づけはあるといえる。
しかしながら、高甘味度甘味料用いた際に生じる異質な味質を改善する手段として、具体的に、飲料中のイソα酸濃度を0.25~45ppmに調整し、かつ、飲料中の酸味付与物質濃度を酸度0.01~0.4%に調整することは、引用文献1、2、4~7には記載されておらず、また、周知技術又は技術常識であったともいえない。
引用文献4には、高甘味度甘味料含有飲料において、有機酸を添加することにより高甘味度甘味料に起因する甘味の残存性を改善することが記載されている(【0010】)。しかし、引用文献4には、有機酸をイソα酸とともに含有させることやその際の含有量についての記載はないし、示唆もない。
また、上記(1)に示したとおり、引用発明3’に甘味料を配合する工程を付加して、当該甘味料として別途アセスルファムカリウム及びスクラロースを配合することができたとしても、当該アセスルファムカリウム及びスクラロースによる異質な味質を改善するために、酸味付与物質の含有量とともにイソα酸の含有量を調整しようとする動機づけを見出すことはできない。
そして、本件発明5は、上記相違点Dに係る構成により、原料として麦芽を使用しない高甘味度甘味料含有非アルコール低カロリー炭酸飲料について、高甘味度甘味料の味質が改善されるという効果を奏するものである。
したがって、引用発明3’において上記相違点Dに係る本件発明5の構成となすことは当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
よって、本件発明5は、引用発明3’、引用文献4に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 本件発明6~8に対して
本件発明6~8は、本件発明5の発明特定事項をすべて含むものであるところ、本件発明6~8と引用発明3’とは、上記(3)に示したとおり、少なくとも上記相違点Dにおいて相違する。
そして、上記相違点Dについての判断は上記(3)に示したとおりであるから、本件発明6~8は、引用発明3’、引用文献4に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5) 小括
以上のとおり、本件発明1~8は、引用発明3又は引用発明3’、引用文献4に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
(理由3)
本件発明1~8は、引用文献4に記載された発明、引用文献5に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(引用文献については、上記「第3 2」参照。)
2 上記特許異議申立理由(理由3)についての判断
(1) 本件発明1に対して
ア 引用発明
引用文献4には、
「高甘味度甘味料を使用した低カロリー飲料であって、当該高甘味度甘味料はスクラロース又はアセスルファムカリウムであり、当該高甘味度甘味料に起因する甘味の残存性を改善するのに有効な量の有機酸を含有する、飲料。」(以下「引用発明4」という。)
が記載されている(【請求項1】~【請求項6】、【0006】~【0014】、【0017】~【0019】、【0022】~【0023】、【0045】~【0046】参照)。
イ 本件発明1と引用発明4との対比、判断
本件発明1と引用発明4とを対比するに、引用発明4の「甘味度甘味料に起因する甘味の残存性を改善する」ことは、高甘味度甘味料の味質が改善されることにほかならないから、両者は「酸味付与物質を含んでなる、高甘味度甘味料としてアセスルファムカリウム又はスクラロースを含有する低カロリー飲料であって、高甘味度甘味料の味質が改善された、飲料」である点で一致し、以下の点で相違するものと認める。
[相違点E]
本件発明1は、酸味付与物質のほかにイソα酸を含んでなる、原料として麦芽を使用しない、非アルコール炭酸飲料であって、酸味付与物質が酸度0.01~0.4%で存在し、かつ、イソα酸が0.25~45ppmで存在するのに対して、引用発明4は、飲料の原料についての特定、アルコール及び炭酸を含有するかの特定、酸味付与物質のほかにイソα酸を含むことの特定、並びに、酸味付与物質及びイソα酸の含有量についての特定が、いずれもされていない点。
上記相違点Eについて検討する。
引用発明4は、高甘味度甘味料を使用した低カロリー飲料について、当該高甘味度甘味料に起因する甘味の残存性を改善するという課題を、有機酸を含有させることにより解決したものであるところ、味質の改善のためにさらに他の成分を添加しようとする動機づけはない。
また、味質が改善されたものとなっている引用発明4に対して、さらに、苦み成分として周知のイソα酸を選択してさらに添加しようとすることは、改善された味質のバランスを却って損なうことにもなることを考慮すれば、引用発明4についてイソα酸を添加することについては阻害要因があるといえる。
そして、原料として麦芽を使用しない、非アルコール炭酸飲料について、高甘味度甘味料用いた際に生じる異質な味質を改善する手段として、具体的に、飲料中のイソα酸濃度を0.25~45ppmに調整し、かつ、飲料中の酸味付与物質濃度を酸度0.01~0.4%に調整することは、引用文献1~3、5~7には記載されておらず、また、周知技術又は技術常識であったともいえない。
引用文献5には、高甘味度甘味料を選択し得る甘味料含有飲料において、ホップ苞ポリフェノールを添加することにより高甘味度甘味料などの不快な後味を改善することが記載されている(【0005】)。しかし、ホップ苞ポリフェノールは、イソα酸とは異なる物質であるところ、引用文献5には、高甘味度甘味料の味質を改善する手段として、酸味付与物質を酸度0.01~0.4%で存在させ、かつ、イソα酸を0.25~45ppmで存在させるようにすることについての記載はないし、示唆もない。
その余の引用文献にも、上記相違点Eに係る本件発明1の構成についての記載はないし、示唆する記載も見当たらない。
そして、本件発明1は、上記相違点Eに係る構成により、原料として麦芽を使用しない高甘味度甘味料含有非アルコール低カロリー炭酸飲料について、高甘味度甘味料の味質が改善されるという効果を奏するものである。
したがって、引用発明4において上記相違点Eに係る本件発明1の構成となすことは当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
よって、本件発明1は、引用発明4、引用文献5に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2) 本件発明2~4に対して
本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、本件発明2~4と引用発明とは、上記(1)に示したとおり、少なくとも上記相違点Eにおいて相違する。
そして、上記相違点Eについての判断は上記(1)に示したとおりであるから、本件発明2~4は、引用発明4、引用文献5に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3) 本件発明5に対して
ア 引用発明
引用文献4には、
「高甘味度甘味料を使用した低カロリー飲料の製造方法であって、当該高甘味度甘味料としてスクラロース又はアセスルファムカリウムを使用し、当該高甘味度甘味料に起因する甘味の残存性を改善するのに有効な量の有機酸を含有させる、飲料の製造方法。」(以下「引用発明4’」という。)
が記載されている(【請求項1】~【請求項6】、【0006】~【0014】、【0017】~【0019】、【0022】~【0023】、【0045】~【0046】参照)。
イ 本件発明5と引用発明4’との対比、判断
上記(1)を踏まえて、本件発明5と引用発明4’とを対比すると、両者は「酸味付与物質を含んでなる、高甘味度甘味料の味質が改善された、高甘味度甘味料含有低カロリー飲料」である点で一致し、以下の点で相違するものと認める。
[相違点F]
本件発明5は、酸味付与物質のほかにイソα酸を含んでなる、原料として麦芽を使用しない、非アルコール炭酸飲料の製造法であって、飲料中のイソα酸濃度を0.25~45ppmに調整し、かつ、飲料中の酸味付与物質濃度を酸度0.01~0.4%に調整するのに対して、引用発明4’は、飲料の原料についての特定、アルコール及び炭酸を含有するかの特定、酸味付与物質のほかにイソα酸を含むことの特定、並びに、酸味付与物質及びイソα酸の含有量についての特定が、いずれもされていない点。
上記相違点Fについて検討すると、上記相違点Fは、上記(1)に示した相違点Eとは、対比した発明のカテゴリーの差異を除けば、実質的に同じであるといえるところ、その判断については、上記(1)に示したのと同様である。
したがって、引用発明4’において上記相違点Fに係る本件発明5の構成となすことは当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
よって、本件発明5は、引用発明4’、引用文献5に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 本件発明6~8に対して
本件発明6~8は、本件発明5の発明特定事項をすべて含むものであるところ、本件発明6~8と引用発明4’とは、上記(3)に示したとおり、少なくとも上記相違点Fにおいて相違する。
そして、上記相違点Fについての判断は上記(3)に示したとおりであるから、本件発明6~8は、引用発明4’、引用文献5に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5) 小括
以上のとおり、本件発明1~8は、引用発明4又は引用発明4’、引用文献5に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。
第6 むすび
以上のとおり、上記取消理由1及び2によっては、本件発明1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-700758