特許異議申立
2016-700706
太陽電池封止材および太陽電池モジュール
- 審判番号
- 2016-700706
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-500094外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年08月09日
- 審決日
- 2017年06月06日
- 公報発行日
- 2017年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三井化学東セロ株式会社
- 【権利者代理人】速水 進治
- 【異議申立人】合同会社 SAS
- 分類
- P1651.113-YAA(H01L) / P1651.121-YAA(H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5859633号発明「太陽電池封止材および太陽電池モジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5859633号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について」)訂正することを認める。
特許第5859633号の請求項1-4、6-9、11及び12に係る特許を維持する。
特許第5859633号の請求項5及び10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5859633号の請求項1~12に係る特許についての出願は、平成25年2月7日(パリ条約による優先権主張日本国特許庁受理2012年2月14日)を国際出願日とする出願であって、平成27年12月25日にその特許権の設定登録がされ、平成28年8月9日に、その特許について、特許異議申立人合同会社SAS(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年10月13日付けで取消理由が通知され、平成28年12月8日付けで意見書が提出され、平成28年12月22日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、平成29年3月1日付けで意見書の提出及び訂正請求がされ、平成29年4月13日付けで特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
(1)請求項1に係る訂正事項1
特許権者は、特許請求の範囲の請求項1に記載の「当該太陽電池封止材中の前記ヒンダードフェノール系安定剤の含有量が、前記エチレン・α-オレフィン共重合体100重量部に対して0.005~0.1重量部であり、」と記載されているのを、「当該太陽電池封止材中の前記ヒンダードフェノール系安定剤の含有量が、前記エチレン・α-オレフィン共重合体100重量部に対して0.005~0.06重量部であり、」に訂正する。(以下、「訂正事項1-1」という。なお、下線は、特許権者が訂正箇所を表すために付与したものである。以下、同様。)
また、「である太陽電池封止材。」と記載されているのを
「であり、
前記エチレン・α-オレフィン共重合体が、以下の要件a1)~a4)を満たす太陽電池封止材。
a1)エチレンに由来する構成単位の含有割合が80~90mol%であり、炭素数3~20のα-オレフィンに由来する構成単位の含有割合が10~20mol%である。
a2)ASTM D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるMFRが0.1~50g/10分である。
a3)ASTM D1505に準拠して測定される密度が0.865~0.884g/cm3である。
a4)ASTM D2240に準拠して測定されるショアA硬度が60~85である。」に訂正する。(以下、「訂正事項1-2」という。)
(2)請求項5に係る訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(3)請求項6に係る訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に「請求項5に記載の太陽電池封止材。」と記載されているのを、「請求項1乃至4いずれか一項に記載の太陽電池封止材。」に訂正する。
(4)請求項7に係る訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1乃至6いずれか一項に記載の太陽電池封止材。」と記載されているのを、「請求項1乃至4および6いずれか一項に記載の太陽電池封止材。」に訂正する。
(5)請求項8に係る訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1乃至7いずれか一項に記載の太陽電池封止材。」と記載されているのを、「請求項1乃至4、6および7いずれか一項に記載の太陽電池封止材。」に訂正する。
(6)請求項9に係る訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1乃至8いずれか一項に記載の太陽電池封止材。」と記載されているのを、「請求項1乃至4および6乃至8いずれか一項に記載の太陽電池封止材。」に訂正する。
(7)請求項10に係る訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
(8)請求項11に係る訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1乃至10いずれか一項に記載の太陽電池封止材。」と記載されているのを、「請求項1乃至4および6乃至9いずれか一項に記載の太陽電池封止材。」に訂正する。
(9)請求項12に係る訂正事項9
特許請求の範囲の請求項12に「請求項1乃至11いずれか一項に記載の太陽電池封止材。」と記載されているのを、「請求項1乃至4、6乃至9および11いずれか一項に記載の太陽電池封止材。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無及び一群の請求項
(1)訂正事項1-1
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1-1は、請求項1に記載の「当該太陽電池封止材中の前記ヒンダードフェノール系安定剤の含有量」について、「0.005~0.1重量部」であったのを「0.005~0.06重量部」と特定する訂正であって、「当該太陽電池封止材中の前記ヒンダードフェノール系安定剤の含有量」を減縮するものであるから、訂正事項1-1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1-1は、発明特定事項である「当該太陽電池封止材中の前記ヒンダードフェノール系安定剤の含有量」を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
ウ 新規事項の有無
訂正事項1は、明細書の段落【0080】に「本実施形態の太陽電池封止材中のヒンダードフェノール系安定剤の含有量は、エチレン・α-オレフィン共重合体100重量部に対して、好ましくは0.005~0.1重量部であり、より好ましくは0.01~0.1重量部、とくに好ましくは0.01~0.06重量部である。」(なお、下線は当審で付与した。)と記載されているから、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本願明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
(2)訂正事項1-2
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1-2は、請求項1に記載の「エチレン・α-オレフィン共重合体」について、「エチレン・α-オレフィン共重合体が、以下の要件a1)~a4)を満たす」と特定する訂正であって、「エチレン・α-オレフィン共重合体」を減縮するものであるから、訂正事項1-1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1-2は、発明特定事項である「エチレン・α-オレフィン共重合体」を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
ウ 新規事項の有無
訂正事項1-2は、明細書の段落【0016】及び【0034】ないし【0046】の記載、特に訂正前の特許請求の範囲の請求項5に
「前記エチレン・α-オレフィン共重合体が、以下の要件a1)~a4)を満たす請求項1乃至4いずれか一項に記載の太陽電池封止材。
a1)エチレンに由来する構成単位の含有割合が80~90mol%であり、炭素数3~20のα-オレフィンに由来する構成単位の含有割合が10~20mol%である。
a2)ASTM D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるMFRが0.1~50g/10分である。
a3)ASTM D1505に準拠して測定される密度が0.865~0.884g/cm3である。
a4)ASTM D2240に準拠して測定されるショアA硬度が60~85である。」
と記載されているから、当該訂正事項1-2は、本願明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
(3)訂正事項2及び訂正事項7
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2及び訂正事項7は、特許請求の範囲の請求項5及び10をそれぞれ削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2及び訂正事項7は、特許請求の範囲の請求項5及び10をそれぞれ削除するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
ウ 新規事項の有無
訂正事項2及び訂正事項7は、特許請求の範囲の請求項5及び10をそれぞれ削除するものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
(4)訂正事項3~6、8及び9
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3~6、8及び9は、削除した請求項を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係をそれぞれ解消し、削除した請求項を引用しないものとするための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3~6、8及び9は、削除した請求項を引用しないものとするための訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
ウ 新規事項の有無
訂正事項2及び訂正事項7は、削除した請求項を引用しないものとするための訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
(5)一群の請求項
訂正事項1ないし9に係る訂正前の請求項1ないし12は、当該訂正事項1-1、1-2を含む請求項1の記載を訂正前の請求項2ないし12がそれぞれ引用しているものであるから、これらに対応する訂正後の請求項〔1ないし12〕は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 小括
したがって、特許第5859633号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし12〕について訂正することを認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし12に係る発明(以下、それぞれを「本件特許発明1」ないし「本件特許発明12」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
表面側透明保護部材と、
裏面側保護部材と、
太陽電池素子と、
前記太陽電池素子を前記表面側透明保護部材と前記裏面側保護部材との間に封止し、かつ、前記太陽電池素子の少なくとも片面に接する封止層と、
を備えた太陽電池モジュールを構成する前記封止層の形成に用いられる太陽電池封止材であって、
エチレン・α-オレフィン共重合体と、ヒンダードアミン系光安定剤と、ヒンダードフェノール系安定剤と、リン系安定剤とを含み、
当該太陽電池封止材中の前記ヒンダードフェノール系安定剤の含有量が、前記エチレン・α-オレフィン共重合体100重量部に対して0.005~0.06重量部であり、
当該太陽電池封止材中の前記リン系安定剤の含有量が、前記エチレン・α-オレフィン共重合体100重量部に対して0.005~0.5重量部であり、
前記エチレン・α-オレフィン共重合体が、以下の要件a1)~a4)を満たす太陽電池封止材。
a1)エチレンに由来する構成単位の含有割合が80~90mol%であり、炭素数3~20のα-オレフィンに由来する構成単位の含有割合が10~20mol%である。
a2)ASTM D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるMFRが0.1~50g/10分である。
a3)ASTM D1505に準拠して測定される密度が0.865~0.884g/cm3である。
a4)ASTM D2240に準拠して測定されるショアA硬度が60~85である。
【請求項2】
当該太陽電池封止材中の前記ヒンダードアミン系光安定剤の含有量が、前記エチレン・α-オレフィン共重合体100重量部に対して0.01~2.0重量部である、請求項1に記載の太陽電池封止材。
【請求項3】
有機過酸化物をさらに含む、請求項1または2に記載の太陽電池封止材。
【請求項4】
前記有機過酸化物の1分間半減期温度が100~170℃であり、
当該太陽電池封止材中の前記有機過酸化物の含有量が、前記エチレン・α-オレフィン共重合体100重量部に対して0.1~3重量部である、請求項3に記載の太陽電池封止材。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
ASTM D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件で測定される前記エチレン・α-オレフィン共重合体のMFRが、10~50g/10分である、請求項1乃至4いずれか一項に記載の太陽電池封止材。
【請求項7】
シランカップリング剤をさらに含み、
当該太陽電池封止材中の前記シランカップリング剤の含有量が、前記エチレン・α-オレフィン共重合体100重量部に対して0.1~5重量部である、請求項1乃至4および6いずれか一項に記載の太陽電池封止材。
【請求項8】
紫外線吸収剤をさらに含み、
当該太陽電池封止材中の前記紫外線吸収剤の含有量が、前記エチレン・α-オレフィン共重合体100重量部に対して0.005~5重量部である、請求項1乃至4、6および7いずれか一項に記載の太陽電池封止材。
【請求項9】
架橋助剤をさらに含み、
当該太陽電池封止材中の前記架橋助剤の含有量が、前記エチレン・α-オレフィン共重合体100重量部に対して0.05~5重量部である、請求項1乃至4および6乃至8いずれか一項に記載の太陽電池封止材。
【請求項10】(削除)
【請求項11】
シート状である、請求項1乃至10いずれか一項に記載の太陽電池封止材。
【請求項12】
表面側透明保護部材と、
裏面側保護部材と、
太陽電池素子と、
請求項1乃至4、6乃至9および11いずれか一項に記載の太陽電池封止材を架橋させて形成された、前記太陽電池素子を前記表面側透明保護部材と前記裏面側保護部材との間に封止する封止層と、
を備えた太陽電池モジュール。」
2 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし12に係る特許に対して平成28年12月22日付けで通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
なお、以下では、訂正前の請求項1ないし12に係る発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明12」という。また、異議申立人の提出した甲第1号証(特開平11-26791号公報)を「甲1」といい、甲1に記載された発明を「甲1発明」といい、異議申立人の提出した甲第2号証(国際公開第2006/057361号)を「甲2」という。
本件発明1ないし4、及び7ないし12は、甲1発明及び甲1記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件発明1ないし4、及び7ないし12は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明5、6は、甲1発明及び甲1記載の技術事項並びに甲2記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件発明5、6は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 甲各号証の記載
(1)甲1の記載事項、及び、甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項
取消理由で通知した特開平11-26791号公報(甲1)には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、太陽電池モジュール用保護シートに関する。さらに詳しくは、太陽電池の封止加工の際に高速架橋することができ、また黄変や膨れ現象などのトラブルを生じない太陽電池モジュール用保護シートに関する。」
b 「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、有機過酸化物を含有するエチレン共重合体からなる太陽電池モジュール用保護シートにおいて、有機過酸化物として、ジアルキルパーオキサイド(A)と、アルキルパーオキシエステル及びパーオキシケタールからなる群より選ばれる少なくとも1種の過酸化物(B)を、(A)/(B)の重量比が10/90~90/10の割合で配合したものを用いることを特徴とする太陽電池モジュール用保護シートに関する。
【0006】
【発明の実施の形態】本発明で用いられるエチレン共重合体は、光線透過率が70%以上、とくに80%以上で、弾性モデュラスが1~30MPa、とくに3~12MPaのものが好適である。具体的には、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸nブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸ジメチルのような不飽和カルボン酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸のような不飽和カルボン酸またはこれらの金属塩、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランのような不飽和珪素化合物、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、4-メチル-1-ペンテンのようなα-オレフィンなどの1種又は2種以上の共重合成分とエチレンの共重合体を挙げることができる。このような共重合体はまた、不飽和カルボン酸や不飽和珪素化合物などでグラフト変性されたものであってもよい。
【0007】これらエチレン共重合体としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体やエチレン・不飽和カルボン酸エスエル共重合体の使用が好ましく、とくにエチレン・酢酸ビニル共重合体の使用がもっとも好ましい。透明性、接着性、柔軟性、熱収縮特性、強度等を勘案すると、エチレン・酢酸ビニル共重合体やエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体としてはエチレン含量が55~85重量%、とくに60~80重量%程度のものを使用するのが好ましい。もっとも受光側でない裏面保護シートには、透明性は要求されないのでエチレン含量のさらに高い共重合体も好ましく使用できる。エチレン共重合体としてはまた、加工性、強度等を勘案すると、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが1~100g/10分、とくに2~60g/10分程度のものを使用するのが好ましい。
【0008】本発明の保護シートに用いられるエチレン共重合体には、2種のタイプの有機過酸化物が配合される。その一つはジアルキルパーオキサイド(A)であり、とくに1時間半減期温度が130~160℃、とりわけ135~150℃のものが好ましい。なお本発明の過酸化物における「アルキル」は、脂環族炭化水素や芳香族炭化水素で置換されたアルキルも含むものである。より具体的には、ジクミルパーオキサイド(135℃)、1,3-ビス(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(137℃)2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(138℃)、t-ブチルクミルパーオキサイド(142℃)、ジ-t-ブチルパーオキサイド(149℃)、あるいはこれらの2種以上の任意割合の混合物などを例示することができる。
【0009】他のタイプの過酸化物(B)は、アルキルパーオキシエステル(B1)またはパーオキシケタール(B2)から選ばれるものであり、とくに1時間半減期温度が100~135℃、とりわけ105~130℃のものが好ましい。より具体的には、t-ブチルパーオキシイソブチレート(102℃)、t-ブチルパーオキシマレイン酸(110℃)、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(119℃)、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート(121℃)、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン(118℃)、t-ブチルパーオキシアセテート(123℃)、t-ブチルパーオキシイソノナノエート(123℃)、t-ブチルパーオキシベンゾエート(125℃)などのアルキルパーオキシエステル、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(112℃)、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(112℃)、1,1-ビス(t-アミルパーオキシ)シクロヘキサン(112℃)、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン(119℃)、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート(129℃)、エチル-3,3-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブチレート(135℃)などのパーオキシケタール、あるいはこれら2種以上の任意割合の混合物などを例示することができる(括弧内はいずれも1時間半減期温度)。これら過酸化物は無機物粉末や溶媒により希釈したものを使用することができる。
【0010】過酸化物(A)と(B)の使用比率は、重量比で(A)/(B)が10/90~90/10、好ましくは30/70~70/30の範囲である。また過酸化物(A)及び(B)の合計使用量は、エチレン共重合体100重量部に対し0.2~4重量部、好ましくは0.5~3重量部である。合計使用量が上記範囲より少ないと、エチレン共重合体を充分架橋することが難しく、耐熱性や接着性が不足する虞がある。また過度に使用すると、保護シートの着色や膨れの原因となるので好ましくない。また(A)と(B)の使用割合は、架橋速度を高め、変色や膨れを防止するために上記のような範囲とされる。(B)の使用割合が少なすぎると、架橋速度が不充分であったり、着色が完全に防止することが難しくなるので好ましくなく、また(B)の使用割合が多くなりすぎると膨れ現象が生じる虞があるので好ましくない。
【0011】本発明の保護シートは、上記エチレン共重合体と過酸化物(A)(B)とからなる組成物とから形成されるが、必要に応じ種々の添加剤を配合することができる。例えば接着性を高めるためにカップリング剤を配合することができる。このようなカップリング剤として、有機珪素化合物や有機チタン化合物を例示することができる。有機珪素化合物の例として、ビニル基、アミノアルキル基、メタクリロキシアルキル基、アクリロキシアルキル基、メルカプトアルキル基、エポキシ基のような反応性有機基と、ハロゲン、アルコキシ基、アセトキシ基のような加水分解性基とを有する化合物であって、より具体的にはビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのような不飽和基又はエポキシ基を有する化合物が好ましい。このようなカップリング剤は、エチレン共重合体100重量部に対し、0.1~10重量部、とくに0.5~5重量部程度配合すると効果的である。
【0012】また架橋速度や架橋効率を高めるために、架橋助剤を配合することができる。このような架橋助剤の例として、ポリアリル化合物やポリ(メタ)アクリロキシ化合物のような多不飽和化合物を例示することができる。より具体的にはトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアレート、ジアリルフタレート、ジアリルフマレート、ジアリルマレエートのようなポリアリル化合物、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレートのようなポリ(メタ)アクリロキシ化合物をあげることができる。
【0013】さらに各種酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤などを配合することができる。例えば酸化防止剤として、フェノール系安定剤、硫黄系安定剤、燐酸系安定剤など、また光安定剤としてはヒンダードアミン系光安定剤を、また紫外線吸収剤としてはベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸系、シアノアクリレート系などの紫外線吸収剤、酸化チタンのような着色剤を適宜配合することができる。このような安定剤類を配合する場合には、太陽電池モジュールの使用環境を考慮すると、低揮発性の比較的分子量の大きいものを使用することが望ましい。
【0014】保護シートの成形は、エチレン共重合体、有機過酸化物、適宜配合される添加剤からなる組成物を、通常のエチレン共重合体の成形と同様にして、有機過酸化物が実質的に分解しない温度、例えば80~130℃のような温度で行うことができる。シート厚みは0.1~1.0mm程度が適当である。
【0015】かくして得られる保護シートを用いて太陽電池素子を封止するには、すでに知られている方法を準用すればよく、例えば次のようにして行うことができる。太陽電池素子がシリコンやセレンの半導体ウエハーからなる場合には、これら太陽電池素子を少なくとも2枚の本発明の保護シートで挟み、さらに必要な場合にはその両側に予めプライマー処理した保護材、すなわち上部透明保護材と下部基板保護材とを重ね合わせ、真空にすることにより脱気操作したのち、またはこれと同時に加熱し、次いで加圧することにより接着させて貼り合わせる。この際、太陽電池素子を本発明の保護シートで予めラミネート化し、次いで上部透明保護材および下部基板保護材と貼り合わせてもよい。また、適宜プライマー処理された下部基板保護材、本発明の保護シート、太陽電池素子、本発明の保護シートおよび上部透明保護材を、順次重ね合わせまたは配列して貼り合わせてもよい。
【0016】加熱は、最終的に保護シート中に添加されている有機過酸化物がほぼ完全に分解するまで行うのが好ましい。この加熱処理により、保護シートは架橋され保護シートと各保護材とは強固に接着され、太陽電池素子が2枚の保護シートでラミネート化され、かつそれがその上部透明保護材と下部基板保護材とに強固に貼り合わされた太陽電池モジュールが形成される。」
c 「【0021】
【発明の効果】本発明によれば、黄変や膨れ現象がみられない保護シートが提供できる。このような保護シートを用いて太陽電池モジュールを製造する場合、低温で短時間で架橋を行うことができるので、太陽電池モジュールの生産性を高めることができる。また得られる太陽電池モジュールは、外観、品質に優れ、かつ経時的な光線透過率の低下が少ないため、長期にわたって高い発電効率を維持することができる。」
d 「【0022】
【実施例】
[実施例1]エチレン-酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含量33重量%、MFR30g/10min)100重量部に対してジアルキルパーオキサイド(A)として2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン0.75部、パーオキシケタール(B2)として1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン0.75部、その他の添加剤として、γ-メタクリロキシプロピルメトキシシラン1.0重量部、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン0.3重量部、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート0.1重量部、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート0.1重量部、及びトリス(ノニルフェニル)ホスファイト0.2重量部を配合した混合物をT-ダイ押出成形機を用いて、成形温度90℃にて0.6mm厚みのシートに押出した。」
イ 甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1に「【0015】かくして得られる保護シートを用いて太陽電池素子を封止するには、すでに知られている方法を準用すればよく、例えば次のようにして行うことができる。太陽電池素子がシリコンやセレンの半導体ウエハーからなる場合には、これら太陽電池素子を少なくとも2枚の本発明の保護シートで挟み、さらに必要な場合にはその両側に予めプライマー処理した保護材、すなわち上部透明保護材と下部基板保護材とを重ね合わせ、真空にすることにより脱気操作したのち、またはこれと同時に加熱し、次いで加圧することにより接着させて貼り合わせる。この際、太陽電池素子を本発明の保護シートで予めラミネート化し、次いで上部透明保護材および下部基板保護材と貼り合わせてもよい。また、適宜プライマー処理された下部基板保護材、本発明の保護シート、太陽電池素子、本発明の保護シートおよび上部透明保護材を、順次重ね合わせまたは配列して貼り合わせてもよい。」、「【0016】・・・加熱処理により、保護シートは架橋され保護シートと各保護材とは強固に接着され、太陽電池素子が2枚の保護シートでラミネート化され、かつそれがその上部透明保護材と下部基板保護材とに強固に貼り合わされた太陽電池モジュールが形成される」と記載されているから、太陽電池モジュールとしての構成は、「太陽電池素子は2枚の保護シートで挟まれて封止され、さらにその両側に上部透明保護材と下部基板保護材が重ね合わされた太陽電池モジュール」であるといえる。この点を踏まえると、上記「ア 甲1の記載事項」のa~dの記載から、甲1には、
「太陽電池素子は2枚の保護シートで挟まれて封止され、さらにその両側に上部透明保護材と下部基板保護材とが重ね合わされた太陽電池モジュールの
有機過酸化物を含有するエチレン共重合体からなる太陽電池モジュール用保護シートにおいて、
前記エチレン共重合体は、α-オレフィン共重合成分とエチレンの共重合体であり、
前記有機過酸化物の合計使用量は、エチレン共重合体100重量部に対し0.5~3重量部であり、
前記保護シートは、カップリング剤が、エチレン共重合体100重量部に対し、0.5~5重量部程度配合され、
架橋助剤が配合され、
酸化防止剤として、フェノール系安定剤、燐酸系安定剤などが配合され、
また光安定剤としてはヒンダードアミン系光安定剤が配合され、
また紫外線吸収剤が配合された
太陽電池モジュール用保護シート。」
の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
(2)甲2の記載事項、及び、甲2に記載された技術事項
ア 甲2の記載事項
取消理由で通知した国際公開第2006/057361号(甲2)には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
「[0453]上記表面保護層と第九の発明の太陽電池封止用シート層との間、または複数の上記表面保護層間との接着力を向上させるために、公知の接着剤および接着性#脂層を設けることも可能である。また、太陽電池を実施する形態により、上記表面保護層の片面が遮光性・光反射性を有していてもよい。
また第9の発明の応用として、第9の発明の太陽電池封止シートを用いて作製された太陽電池モジュール、該太陽電池モジュールを有する発電設備が挙げられる。太陽電池モジュールの構成、発電設備の構成については、後述する第10の発明における太陽電池モジュールの構成、および発電設備の構成において第10の発明における太陽電池封止シートを、第9の発明の太陽電池封止シートに置き換えた構成を挙げることができる。太陽電池モジュールに用いられる太陽電池封止シート以外の構成要素、例えば太陽電池モジュール用表面保護シート、太陽電池モジュール用裏面保護シート、太陽電池素子としても後述する第10の発明におけるものと同様のものを用いることができる。
10.第十の発明
以下、第十の発明について詳細に説明する。
[0454]第十の発明は、ショアーA硬度が50~90であり、エチレン含量が60~95mol%であるエチレン系共重合体からなる層(I-10)、および、示差走査熱量計で観測した融点が100℃以上であるプロピレン系重合体(A10)0~90重量部と、プロピレンと、エチレンおよび炭素数4~20のα-オレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種のオレフインとの共重合体であって、ショアーΑ硬度が30~80であり、示差走査熱量計で観測した融点が100℃未満であるか、または融点が観測されないプロピレン系共重合体(B10)10~100重量部((A10)と(B10)との合計は100重量部)とからなる熱可塑性樹脂組成物(X10)からなる層(II-10)を有する、電気電子素子用封止シ-トである。
[0455]以下、第十の発明について詳細に説明する。
<エチレン系共重合体からなる層(I-10)>
[エチレン系共重合体]
第十の発明に用いられる層(I-10)に用いられるエチレン系共重合体は、エチレンと少なくとも1種のエチレン以外のモノマーとを共重合して得られる共重合体であって、ショアーA硬度が50~90であり、エチレン由来の構成単位を60~95mol%含む。
[0456]ショアーA硬度が上記範囲にあると、太陽電池セルを封入する際にセルの割れを防止できるため好ましい。ショアーA硬度は、好ましくは55~88、より好ましくは60~85である。ショアーA硬度は、JISK6301の規定に従い測定することができる。エチレン含有量が上記範囲にあると、ショアーA硬度を上記範囲とすることが容易なため好ましい。エチレン含有量は、好ましくは65~92mol%、より好ましくは70~90mol%である。エチレン含有量は、13C-NMRのスペクトルの解析により各モノマーの量比を定量化することで求められる。
[0457]層(I-10)に用いられるエチレン系共重合体は、上記の硬度およびエチレン含量の条件を満たしていればよぐエチレン以外のモノマーの種類には特に制限はない。従って、エチレンと共重合が可能である各種のモノマーを適宜使用することができる力酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、プロピレン、ブテン-1、 へキセン-1、4-メチルペンテン-1、およびオタテン-1からなる少なくとも1種類のモノマーを用いることが望ましい。これらのモノマーは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。2種類以上を用いる場合の組合せについても、特に制限はない。
・・・(途中省略)・・・
[エチレン-プロピレン共重合体またはエチレン-ブテン共重合体]
第十の発明において好ましく用いられるエチレン-プロピレン共重合体またはエチレン-ブテン共重合体は、エチレンとプロピレンおよび/またはブテンとの共重合体であり、通常、非結晶性ないし低結晶性のランダム共重合体である。
[0460]このエチレン-プロピレン共重合体またはエチレン-ブテン共重合体のメルトフローレ一卜(MFR2.16)(ASTM D1238に従い、190℃、荷重2.161kgで測定)は0.lg/10分~50g/10分、好ましくはlg/10分~30g/10分、より好ましくは5g/10分~25g/10分であることが望ましい。メルトフローレートがこの範囲内であれば、柔軟性およびシート生産性に優れた電気電子素子用封止シートが得られる。
[0461]このエチレン-プロピレン共重合体またはエチレン-ブテン共重合体の密度(ASTMD1505に準拠して測定)は、通常855~905kg/m3、好ましくは857~895kg/m3より好ましくは858~890kg/m3である。この密度範囲は、上述の好ましい諸特性が得られるエチレン含有量にほぼ対応している。
このエチレン-プロピレン共重合体またはエチレン-ブテン共重合体は、温度190℃、荷重10kgで測定されたメルトフローレート(MFR10)(ASTM D1238に従い測定)と、MFR2.16との比(MFR10/MFR2.16)が5~12であることが好ましい。」
「[0497]上述のように、ポリエステル樹脂およびガラスは、表面保護シートとして優れた特性を有しているが、その一方で接着が比較的困難なことで知られている。第十の発明の太陽電池用封止シートの層(I-10)は、接着性に優れた特定のエチレン系共重合体からなり、かつ、好ましくはシランカップリング剤を含有しているため、ポリエステル樹脂およびガラスとの接着性に優れている。従って、第十の発明の太陽電池モジュールにおいては、上記太陽電池用封止シートが、その層(I-10)において表面保護シートと接合されていることが望ましい。
[太陽電池モジュール用裏面保護シート]
上記太陽電池モジュールに用いられる太陽電池モジュール用裏面保護シートには特に制限はないが、太陽電池モジュールの最表層に位置するため、上述の表面保 護シートと同様に、耐候性、機械強度などの諸特性が求められる。従って、表面保護シートと同様の材質で太陽電池モジュール用裏面保護シートを構成してもよい。すなわち、ポリエステル樹脂およびガラスを好ましく用いることができる。
[0498]第十の発明の太陽電池用封止シートの層(I-10)は、接着性に優れた特定のエチレン系共重合体からなり、かつ、好ましくはシランカップリング剤を含有しているため、ポリエステル樹脂およびガラスとの接着性に優れている。従って、第十の発明太陽電池モジュールにおいては、上記太陽電池用封止シートが、その層(I-10)において裏面保護シートと接合されていることが望ましい。」
「[0500]シリコンおよび化合物半導体ともに、太陽素子として優れた特性を有しているが、外部からの応力、衝撃などにより破損しやすいことで知られている。第十の発明の太陽電池用封止シートの層(II-10)は、柔軟性に優れた特定の熱可塑性樹脂組成物(X10)からなるため、太陽電池素子への応力および衝撃などを吸収して、太陽電池素子の破損を防ぐ効果が大きい。従って、上記太陽電池モジュールにおいては、第十の発明の太陽電池用封止シートが、その層(II-10)において太陽電池素子と接合されていることが望ましい。」
イ 甲2に記載された技術事項
以上の記載から、甲2には、第10の発明として太陽電池封止シートの技術事項が以下のとおり記載されていると認められる。
「エチレン系共重合体からなる層(I-10)および熱可塑性樹脂組成物(X10)からなる層(II-10)を有する太陽電池封止シートにおいて、
層(I-10)において表面保護シートと接合され、
層(I-10)において裏面保護シートと接合され、
層(II-10)において太陽電池素子と接合され、
層(I-10)に用いられるエチレン系共重合体は、ショアーA硬度が50~90であり、エチレン由来の構成単位を60~95mol%含み、
好ましく用いられるエチレン-プロピレン共重合体またはエチレン-ブテン共重合体のメルトフローレ一卜(MFR2.16)(ASTM D1238に従い、190℃、荷重2.161kgで測定)は0.lg/10分~50g/10分で、密度(ASTMD1505に準拠して測定)は、通常855~905kg/m3である。」
4 取消理由(決定の予告)に記載した取消理由についての当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「上部透明保護材」、「下部基板保護材」は、それぞれ本件特許発明1の「表面側透明保護部材」、「裏面側保護部材」に相当する。そして、甲1発明の「太陽電池素子は2枚の保護シートで挟まれて封止され、さらにその両側に上部透明保護材と下部基板保護材とが重ね合わされた太陽電池モジュール」において、甲1発明の「保護シート」は、本件特許発明1の「前記太陽電池素子を前記表面側透明保護部材と前記裏面側保護部材との間に封止し、かつ、前記太陽電池素子の少なくとも片面に接する封止層」に相当する。
甲1発明の「有機過酸化物を含有するエチレン共重合体からなる太陽電池モジュール用保護シート」において、「有機過酸化物を含有するエチレン共重合体からなる」材料は、「α-オレフィン共重合成分とエチレンの共重合体」と「ヒンダードアミン系光安定剤」と「フェノール系安定剤」と「燐酸系安定剤」とを含むものであり、本件特許発明1の「前記封止層の形成に用いられる太陽電池封止材」に相当する。
そして、甲1発明の「α-オレフィン共重合成分とエチレンの共重合体」と「ヒンダードアミン系光安定剤」は、それぞれ本件発明1の「エチレン・α-オレフィン共重合体」と「ヒンダードアミン系光安定剤」に相当する。
また、甲1発明の「フェノール系安定剤」と本件特許発明1の「ヒンダードフェノール系安定剤」とは、共に「フェノール系安定剤」である点で共通する。
さらに、甲1発明の「燐酸系安定剤」は、リン系安定剤に属するものであるといえるから、本件特許発明1の「リン系安定剤」に相当する。
イ 一致点
よって、本件特許発明1と甲1発明とは、
「表面側透明保護部材と、
裏面側保護部材と、
太陽電池素子と、
前記太陽電池素子を前記表面側透明保護部材と前記裏面側保護部材との間に封止し、かつ、前記太陽電池素子の少なくとも片面に接する封止層と、
を備えた太陽電池モジュールを構成する前記封止層の形成に用いられる太陽電池封止材であって、
エチレン・α-オレフィン共重合体と、ヒンダードアミン系光安定剤と、フェノール系安定剤と、リン系安定剤とを含む、
太陽電池封止材。」
において一致し、次の点で相違する。
ウ 相違点
(ア)相違点1
フェノール系安定剤について、本件特許発明1は、「ヒンダードフェノール系安定剤」であり、「当該太陽電池封止材中の前記ヒンダードフェノール系安定剤の含有量が、前記エチレン・α-オレフィン共重合体100重量部に対して0.005~0.06重量部であ」るのに対し、甲1発明は、どのようなフェノール系安定剤で、どのような配合割合か不明である点。
(イ)相違点2
リン系安定剤について、本件特許発明1は、「含有量が、前記エチレン・α-オレフィン共重合体100重量部に対して0.005~0.5重量部である」のに対し、甲1発明は、どのような配合割合か不明である点。
(ウ)相違点3
本件特許発明1は、「前記エチレン・α-オレフィン共重合体が、以下の要件a1)~a4)を満たす」のに対し、甲1発明は、そのような要件を満たすか否か不明である点。
「a1)エチレンに由来する構成単位の含有割合が80~90mol%であり、炭素数3~20のα-オレフィンに由来する構成単位の含有割合が10~20mol%である。
a2)ASTM D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるMFRが0.1~50g/10分である。
a3)ASTM D1505に準拠して測定される密度が0.865~0.884g/cm3である。
a4)ASTM D2240に準拠して測定されるショアA硬度が60~85である。」
エ 事案に鑑み、相違点3について先に検討する。
甲2には、第10の発明として太陽電池封止シートの技術事項が以下のとおり記載されている。
「エチレン系共重合体からなる層(I-10)および熱可塑性樹脂組成物(X10)からなる層(II-10)を有する太陽電池封止シートにおいて、
層(I-10)において表面保護シートと接合され、
層(I-10)において裏面保護シートと接合され、
層(II-10)において太陽電池素子と接合され、
層(I-10)に用いられるエチレン系共重合体は、ショアーA硬度が50~90であり、エチレン由来の構成単位を60~95mol%含み、
好ましく用いられるエチレン-プロピレン共重合体またはエチレン-ブテン共重合体のメルトフローレ一卜(MFR2.16)(ASTM D1238に従い、190℃、荷重2.161kgで測定)は0.lg/10分~50g/10分で、密度(ASTMD1505に準拠して測定)は、通常855~905kg/m3である。」
ここで、太陽電池封止シートの層(I-10)に用いられるエチレン系共重合体として、エチレン由来の構成単位(60~95mol%)、MFR(0.lg/10分~50g/10分)、密度(855~905kg/m3)及びショアーA硬度(50~90)のそれぞれの要件は、本件特許発明の要件a1)~a4)に対応し、数値範囲についても重複している。
ところで、甲2の「層(I-10)において表面保護シートと接合され、層(I-10)において裏面保護シートと接合され、」る構成について、特許異議申立人は意見書第7頁第24行ないし第27行に「甲第2号証の発明では、層(I-10)において、「裏面保護シート等と接合されていることが望ましい。」と、単に好ましいと記載しているのみであるから、「接合されていない」態様も当然に開示されている。」と主張している。
しかしながら、甲2に記載された太陽電池封止シートにおいて、ポリエステル樹脂およびガラスからなる表面保護シート及び裏面保護シートの接着が比較的困難なことに鑑み、太陽電池用封止シートの層(I-10)に接着性に優れた特定のエチレン系共重合体を用いるものであり(段落[0497]、[0498]参照。)、層(I-10)は、表面保護シート及び裏面保護シートと接着するためのものといえる。
また、甲2には、層(I-10)を太陽電池素子と接合する部位に用いた実施例は示されておらず、甲2の太陽電池用封止シートは、シリコンおよび化合物半導体からなる太陽素子は外部からの応力、衝撃などにより破損しやすいことに鑑み、太陽電池用封止シートの層(II-10)に柔軟性に優れた特定の熱可塑性樹脂組成物(X10)を用い、層(II-10)において太陽電池素子と接合されているようにしたものである(段落[0500]参照。)。
よって、甲2に記載されている技術事項において、エチレン系共重合体からなる層(I-10)は表面保護シート及び裏面保護シートと接合される層であり、太陽電池素子と接合される層ではなく、太陽電池素子と接合される層は、熱可塑性樹脂組成物(X10)からなる層(II-10)である。
したがって、甲第2号証に層(I-10)が「接合されていない」態様が開示されているとする特許異議申立人の主張は採用できない。
甲1発明のエチレン共重合体からなる太陽電池モジュール用保護シートは、上部透明保護材、下部基板保護材及び太陽電池素子に接するものであるところ、配設される部位によって求められる特性が違うことに鑑みれば、甲1発明の上部透明保護材、下部基板保護材及び太陽電池素子に接するエチレン共重合体からなる太陽電池モジュール用保護シートとして、表面保護シート及び裏面保護シートと接合し、太陽電池素子に接しない甲2のエチレン系共重合体からなる層(I-10)が適しているかは、不明であり、甲2のエチレン系共重合体からなる層を太陽電池素子に接するように配設する動機付けはあるとはいえない。
してみると、甲1発明に甲2に記載された技術事項を適用することに動機付けがあるといえないから、相違点3に係る構成は、甲1発明及び甲2に記載された技術事項から当業者が容易に想到し得るものではない。
したがって、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(2)本件特許発明2~4、6~9、11及び12について
本件特許発明1の構成を全て含む本件特許発明2~4、6~9、11及び12は、本件特許発明1の相違点3に係る構成を含むものであるから、本件特許発明1と同じ理由により、甲1発明及び甲2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条第1項第3号
特許異議申立人は、特許異議申立書において、請求項1~4、7~12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であると主張しているが、上記4で検討したとおり、本件特許発明1~4、7~9、11及び12は、甲1発明と対比し少なくとも相違点3を有するから、前記主張は採用できない。
(2)特許法第29条第2項
特許異議申立人は、甲第3号証として特開2012-9761号公報を提示している。 しかしながら、甲第3号証は、エチレン-α-オレフィン共重合体が、α-オレフィンの含有量(5~40重量%)(【0026】参照)、密度(0.86~0.92g/cm3)、MFR(0.05~50g/10分)(【0029】参照)の要件を有することを開示するものの、ショアA硬度を開示するものではないことから、甲第3号証の記載を考慮したとしても、上記相違点3の構成について、当業者が容易に想到し得たものということはできない。
6 小括
したがって、本件特許発明1~4、7~9、11及び12は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、本件特許発明1~4、6~9、11及び12は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~4、6~9、11及び12に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1~4、6~9、11及び12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項5及び10に係る特許は、訂正により削除されたため、本件請求項5及び10に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-700706