特許異議申立
2016-700494
反射防止体、静電容量式タッチパネルおよび静電容量式タッチパネル付き表示装置
- 審判番号
- 2016-700494
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2011-243797
- 登録番号
- 特許第5825055号(P5825055)
- 請求日
- 2016年06月01日
- 審決日
- 2017年10月27日
- 公報発行日
- 2018年01月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】王子ホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】志賀 正武
- 【権利者代理人】高橋 詔男
- 【権利者代理人】鈴木 三義
- 【権利者代理人】柳井 則子
- 【異議申立人】加藤 隆登
- 【異議申立人代理人】鈴木 敏弘
- 審判長/審判官
- 審判長 中田 誠
- 審判官 樋口 信宏
- 審判官 河原 正
- 分類
- P1651.121-YAA(G02B) / P1651.537-YAA(G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第29条、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5825055号発明「反射防止体,静電容量式タッチパネルおよび静電容量式タッチパネル付き表示装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5825055号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
特許第5825055号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5825055号の請求項1-請求項6に係る特許(以下「本件特許」という。)についての特許出願は,特願2011-243797号として平成23年11月7日(先の出願に基づく優先権主張 平成23年9月29日)に出願され,平成27年10月23日に特許権の設定登録がされたものである。
本件特許について平成27年12月2日に特許掲載公報が発行されたところ,発行の日から6月以内である平成28年6月1日に,特許異議申立人 加藤隆登から特許異議の申立がされた(異議2016-700494号)。
その後の手続の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成28年 9月14日付け:取消理由通知書
平成28年11月18日差出:訂正請求書
(この訂正請求書による訂正の請求は,特許法120条の5第7項の規定により,取り下げられたものとみなされた。)
平成28年11月18日差出:意見書(特許権者)
平成28年12月26日差出:意見書(特許異議申立人)
平成29年 1月31日付け:取消理由通知書
平成29年 4月 3日差出:訂正請求書
(この訂正請求書による訂正の請求は,特許法120条の5第7項の規定により,取り下げられたものとみなされた。)
平成29年 4月 3日差出:意見書(特許権者)
平成29年 5月10日差出:意見書(特許異議申立人)
平成29年 6月15日付け:取消理由通知書(決定の予告)
平成29年 8月21日差出:訂正請求書
(この訂正請求書による訂正の請求を,以下「本件訂正請求」という。)
平成29年 8月21日差出:意見書(特許権者)
平成29年 9月29日差出:意見書(特許異議申立人)
(この意見書を,以下「特許異議申立人意見書」という。)
第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正事項
(1) 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は,特許第5825055号の明細書,特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正明細書,訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1-請求項6について訂正することを求める,というものである。
(2) 訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正事項は,以下のとおりである。なお,下線は訂正箇所を示す。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記反射防止層における前記表示装置側の表面の水接触角が90°以下であり,かつモノクロメータで単色化されたAlKα線を用いたESCAによって測定される前記表面の元素組成における無機系ケイ素含有化合物由来のSi含有率が3~30atom%であることを特徴とする反射防止体。」と記載されているのを,「前記反射防止層における前記表示装置側の表面の水接触角が90°以下であり,かつモノクロメータで単色化されたAlKα線を用いたESCAによって測定される前記表面の元素組成における無機系ケイ素含有化合物由来のSi含有率が3~30atom%であり,タッチパネルが指で押され,タッチパネルがたわんだ場合に,前記反射防止層の表面が偏光板とブロッキングすることを防止することができる凹凸面を表面に具備することを特徴とする反射防止体。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2-請求項6も同様に訂正する。)。
イ 訂正事項2
明細書の段落【0008】に「前記反射防止層における前記表示装置側の表面の水接触角が90°以下であり,かつモノクロメータで単色化されたAlKα線を用いたESCAによって測定される前記表面の元素組成における無機系ケイ素含有化合物由来のSi含有率が3~30atom%であることを特徴とする。」と記載されているのを,「前記反射防止層における前記表示装置側の表面の水接触角が90°以下であり,かつモノクロメータで単色化されたAlKα線を用いたESCAによって測定される前記表面の元素組成における無機系ケイ素含有化合物由来のSi含有率が3~30atom%であり,タッチパネルが指で押され,タッチパネルがたわんだ場合に,前記反射防止層の表面が偏光板とブロッキングすることを防止することができる凹凸面を表面に具備することを特徴とする。」に訂正する。
2 訂正の適否
以下,本件訂正請求による訂正前の請求項1を「訂正前請求項1」といい,訂正前請求項1に係る発明を「訂正前発明1」という。また,他の請求項及び訂正後についても同様とする。
(1) 120条の5第4項について
本件訂正請求は,特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である,〔請求項1-請求項6〕ごとにされたものである。
(2) 訂正事項1について
訂正事項1による訂正は,願書に添付した明細書の【0037】の記載に基づいて,訂正前発明1の「反射防止層」を,「タッチパネルが指で押され,タッチパネルがたわんだ場合に,前記反射防止層の表面が偏光板とブロッキングすることを防止することができる凹凸面を表面に具備する」ものに限定して訂正後発明1とする訂正である。また,請求項1の記載の訂正にともない連動して訂正されたことになる請求項2~請求項6との関係においても,同様である。
したがって,訂正事項1による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。また,訂正事項1による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
(3) 訂正事項2について
訂正事項2による訂正は,訂正事項1による訂正と整合するように,明細書の【0008】の記載を訂正するものである。
したがって,訂正事項2による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。また,訂正事項2による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
(4) 120条の5第9項で準用する126条4項について
訂正事項2による訂正は,請求項1の訂正と整合するように,明細書の【0008】の記載を訂正するものであるから,訂正事項2による訂正に係る請求項は,請求項1,及び請求項1の記載を引用して記載された請求項2-請求項6である。これに対して,本件訂正請求は,訂正後の請求項1-請求項6について訂正することを求めるものである。
したがって,本件訂正請求は,訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われたものである。
(5) 小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は特許法120条の5第2項ただし書,同条9項において準用する同法126条4項及び5項までの規定に適合する。また,本件訂正請求は同法120条の5第4項,同条9項において準用する同法126条6項の規定にも適合する。
よって,結論のとおり訂正することを認める。
第3 取消理由についての判断
1 本件特許発明について
前記「第2」のとおり,本件訂正請求による訂正は認められた。
したがって,本件特許の特許請求の範囲の請求項1-請求項6に係る発明は,本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1-請求項6に記載された事項により特定されるとおりの,以下のものである。
「【請求項1】
透明基材と,該透明基材上に設けられた反射防止層とを有し,
表示装置の前面側に,前記反射防止層が前記表示装置側となるように前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層を介して前記表示装置に固定される反射防止体であって,
前記反射防止層は,前記透明基材の前記表示装置側に形成された,無機系ケイ素含有化合物とバインダー樹脂を含む成分が混合された反射防止層形成用組成物の硬化層であり,
前記反射防止層における前記表示装置側の表面の水接触角が90°以下であり,かつモノクロメータで単色化されたAlKα線を用いたESCAによって測定される前記表面の元素組成における無機系ケイ素含有化合物由来のSi含有率が3~30atom%であり,タッチパネルが指で押され,タッチパネルがたわんだ場合に,前記反射防止層の表面が偏光板とブロッキングすることを防止することができる凹凸面を表面に具備することを特徴とする反射防止体。
【請求項2】
前記無機系ケイ素含有化合物が中空シリカである,請求項1に記載の反射防止体。
【請求項3】
前記透明基材と前記反射防止層の間にハードコート層が設けられている,請求項1または2に記載の反射防止体。
【請求項4】
前記透明基材における前記反射防止層と反対側に,ハードコート層と導電層が順次積層されている,請求項1~3のいずれか一項に記載の反射防止体。
【請求項5】
ガラス基板と,該ガラス基板上に設けられた導電層と,該導電層上に粘着剤層を介して積層された請求項1~4のいずれか一項に記載の反射防止体とを備え,
前記反射防止体は,前記反射防止層が前記導電層と反対側になるように積層されていることを特徴とする静電容量式タッチパネル。
【請求項6】
表示装置と,該表示装置の前面側に,該表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定された静電容量式タッチパネルとを備える静電容量式タッチパネル付き表示装置であって,
前記静電容量式タッチパネルは,ガラス基板と,該ガラス基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,該導電層上に粘着剤層を介して積層された請求項1~4のいずれか一項に記載の反射防止体とを備え,
前記静電容量式タッチパネルは,前記反射防止体の前記反射防止層が前記表示装置側となるように配置されていることを特徴とする静電容量式タッチパネル付き表示装置。」
以下,本件特許の特許請求の範囲の請求項1-請求項6に係る発明を,それぞれ「本件特許発明1」-「本件特許発明6」といい,総称して「本件特許発明」という。
2 取消理由について
(1) 取消理由の概要
平成29年6月15日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消理由は,概略,訂正前請求項1に記載された「反射防止層の表面が,1.5nm以上400nm以下の表面粗さである」によって特定される表面粗さの種類及び測定方法が不明である,したがって,訂正前発明1は明確であるということができず,訂正前発明2-訂正前発明6についても同様であるから,本件特許は特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである,というものである。
(2) 当合議体の判断
本件訂正請求により,請求項1に「反射防止層の表面が,1.5nm以上400nm以下の表面粗さである」という記載は存在しないものとなった。
したがって,前記(1)の取消理由を理由としては,本件特許はもはや同法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということができない。
第4 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立の理由,及び本件訂正請求にともない主張された特許異議申立の理由について
1 特許法29条2項
(1) 甲1の記載
本件特許の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である,甲1(特開2000-321558号公報)には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,タッチパネルの最下面と空気層との界面での反射が抑えられ,視認性に優れた低反射タッチパネルに関するものである。
【0002】
【従来の技術】ワードプロセッサ,ノート型パソコン,PDA(パーソナル・デジタル・アシスタント)等の製品に広く用いられる液晶ディスプレイについて,その前面にタッチパネルを配置することが従来から行われている。…(省略)…しかし,上記タッチパネルは,入力作業を蛍光灯などのある部屋や屋外において行うとき,透明導電膜面で外部からの光の反射があるため,表示画面が非常に見にくいものであった。
【0003】そこで,このような問題を解消するため,特開平10-48625号公報には,液晶ディスプレイ2側から順に第1の1/4波長板3,スペーサーを介して対向する2層の透明導電膜5,第2の1/4波長板7,偏光板8を少なくとも配置したタッチパネルが提案されている(図5参照)。
…(省略)…
【0004】なお,上記タッチパネルと液晶ディスプレイ2とは,通常,表示領域外において両面粘着テープ等によって接着するなどして両者間に空気層9が形成されている。タッチパネルと液晶ディスプレイ2との密着により液晶ディスプレイ2の液晶の厚みが入力箇所において圧縮され,表示画像に滲みや歪みが発生するのを防ぐためである。」
(当合議体注:図5は以下の図である。)
イ 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし,タッチパネルと液晶ディスプレイ2との間に空気層9が形成されていることにより,タッチパネルの最下面と空気層9との界面において外部からの光の反射が発生するという問題がある。
…(省略)…
【0006】したがって,本発明の目的は,上記の問題を解決することにあって,タッチパネルの最下面と空気層との界面での反射が抑えられ,視認性に優れた低反射タッチパネルを提供することである。」
ウ 「【0007】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために,本発明の低反射タッチパネルは,液晶ディスプレイ側から順に第1の1/4波長板,スペーサーを介して対向する2層の透明導電膜,第2の1/4波長板,偏光板を少なくとも配置してなる,円偏光タイプの反射防止フィルターを有するタッチパネルであって,液晶ディスプレイ表面と空気層を介して対向させる最下面に低反射処理が施されているように構成した。」
エ 「【0008】
【発明の実施の形態】以下,図面を参照しながら本発明について詳細に説明する。図1~4は本発明に係る低反射タッチパネルを液晶ディスプレイ前面に配置した例を示す断面図である。図中,1は低反射タッチパネル,2は液晶ディスプレイ,3は低反射処理層,4は第1の1/4波長板,5は透明導電膜,6はスペーサー,7は第2の1/4波長板,8は偏光板,9は空気層,10は両面粘着テープ,11~13は光学等方性の透明板をそれぞれ示す。」
(当合議体注:図1は以下の図である。)
オ 「【0009】第1の1/4波長板4および第2の1/4波長板7は,直線偏光を分解した互いに直交する2成分の偏光に時間的な位相のズレ(位相差)を与えることにより,直線偏光を円偏光あるいは略円偏光に変える機能を持つものであり,一方の偏光成分を他方の偏光成分より1/4波長だけ位相を遅らせる。
…(省略)…
【0012】第2の1/4波長板7の前面に配置される偏光板8は,第2の1/4波長板7と組み合わせて円偏光タイプの反射防止フィルターを形成するものである。…(省略)…偏光板8上には,低反射処理,防汚処理,梨地処理などを施すことができる。…(省略)…梨地処理としては,サンドブラスト加工,エンボス加工,マットコーティング加工,エッチング加工等が挙げられる。
【0013】2層の透明導電膜5は,スペーサー6を介して対向してタッチパネルの電極となるものである。…(省略)…透明導電膜5の表面の少なくとも一方にニュートンリングの発生を防止する目的で梨地処理を施してもよい。梨地処理により,光を散乱させ,透明電極間の光干渉を抑えることができる。また,低反射処理を施してもよい。
【0014】スペーサー6は,いずれかの透明導電膜5の表面に形成されている。
…(省略)…
【0015】本発明の特徴は,円偏光タイプの反射防止フィルターを有するタッチパネルについて,液晶ディスプレイ2表面と空気層9を介して対向させる最下面に低反射処理が施されていることにある。このような構成にすることにより,タッチパネル最下面と空気層9との界面での外部からの光の反射が抑えられるので,より視認性が良くなることにある。また,タッチパネル最下面での液晶ディスプレイ2からの透過光の反射も抑えられるので,その分タッチパネル前面より出射する液晶ディスプレイ2からの透過光の量が増える。低反射処理としては,フッ素樹脂やシリコン樹脂等を用いた低反射材料を塗布したり,金属の多層膜を真空蒸着法やスパッタリング法等が挙げられる。なお,これらの処理はタッチパネルの最下面に直接施して低反射処理層3としてもよいし,これらの処理を施したフィルムや樹脂板等を低反射処理面が液晶ディスプレイ2側になるように粘着剤等を介してタッチパネルの最下面に全面的に貼りあわせて低反射処理層3としてもよい。」
カ 「【0017】また,以上のような構成の低反射タッチパネルにおいては,第2の1/4波長板7とその前面に配置される偏光板8との間,第1の1/4波長板4とその背後に支持体としてする前記光学等方性の透明板11との間は透明粘着剤又は透明再剥離シートによって全面的に貼り合わせなければならないが,その他の板間は両面粘着テープによって表示領域外のみを貼り合わせるだけでもよい。」
キ 「【0018】
【発明の効果】本発明の低反射タッチパネルは,以上のような構成及び作用からなるので,以下のような効果を奏する。
【0019】すなわち,円偏光タイプの反射防止フィルターを有するタッチパネルの液晶ディスプレイ表面と空気層を介して対向させる最下面に低反射処理が施されているので,この空気層との界面での反射が抑えられ,より視認性が良くなる。」
(2) 甲1発明
甲1の【0015】には,タッチパネルが記載されているところ,このタッチパネルは,円偏光タイプの反射防止フィルターを有し,液晶ディスプレイ表面と空気層を介して対向させるものである。また,【0015】には,低反射処理として,低反射材料を塗布したフィルムが記載されているところ,この低反射材料を塗布したフィルムは,低反射処理面が液晶ディスプレイ側になるように粘着剤を介してタッチパネルの最下面に全面的に貼りあわせられるものである。
そうしてみると,甲1には,次の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。)。
「 低反射処理として,低反射材料を塗布したフィルムであって,
前記低反射材料を塗布したフィルムは,低反射処理面が液晶ディスプレイ側になるように粘着剤を介してタッチパネルの最下面に全面的に貼りあわせられるものであり,
前記タッチパネルは,円偏光タイプの反射防止フィルターを有し,液晶ディスプレイ表面と空気層を介して対向させるものである,
フィルム。」
(3) 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
ア 透明基材
甲1発明の「フィルム」は,「低反射材料を塗布したフィルム」であるから,低反射材料との関係においては「基材」ということができる。また,甲1発明の「フィルム」は,「低反射処理面が液晶ディスプレイ側になるように粘着剤を介してタッチパネルの最下面に全面的に貼りあわせられるもの」であるから,技術的にみて,透明である。
そうしてみると,甲1発明の「フィルム」は,本件特許発明1の「透明基材」に相当する。
イ 反射防止層
甲1発明の「フィルム」は,「低反射材料を塗布したフィルム」であるから,甲1発明の「フィルム」の上には,低反射材料からなる層(以下,「低反射層」という。)が設けられているといえる。また,この「低反射層」は,「低反射処理として」のものであるから,反射防止のためのものといえる。
そうしてみると,甲1発明の「低反射層」は,本件特許発明1の「反射防止層」に相当するとともに,本件特許発明1の「透明基材上に設けられた」という構成を具備するものである。
ウ 反射防止体
まず,以上ア及びイからみて,甲1発明の「低反射材料を塗布したフィルム」は,フィルムと,該フィルム上に設けられた低反射層を有するといえる。
次に,甲1発明の「タッチパネル」は,「液晶ディスプレイ表面と空気層を介して対向させるものである」から,甲1発明の「液晶ディスプレイ表面」は,液晶ディスプレイの前面側(視認側)ということができる。また,甲1発明の「低反射材料を塗布したフィルム」は,「低反射処理面が液晶ディスプレイ側になるように粘着剤を介してタッチパネルの最下面に全面的に貼りあわせられるもの」である。そして,これら位置関係を勘案すると,甲1発明の「低反射材料を塗布したフィルム」は,液晶ディスプレイの前面側に,低反射層が液晶ディスプレイ側となるように液晶ディスプレイとの間に空気層を設けて配置されるものといえる。
そうしてみると,甲1発明の「液晶ディスプレイ」,「空気層」及び「低反射材料を塗布したフィルム」は,それぞれ本件特許発明1の「表示装置」,「隙間」及び「反射防止体」に相当する。また,甲1発明の「低反射材料を塗布したフィルム」は,本件特許発明1の「反射防止体」における「透明基材と,該透明基材上に設けられた反射防止層とを有し,表示装置の前面側に,前記反射防止層が前記表示装置側となるように前記表示装置との間に隙間を設けて配置され」という構成を具備するものである。
(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と甲1発明は,次の構成で一致する。
「 透明基材と,該透明基材上に設けられた反射防止層とを有し,
表示装置の前面側に,前記反射防止層が前記表示装置側となるように前記表示装置との間に隙間を設けて配置された,
反射防止体。」
イ 相違点
本件特許発明1と甲1発明は,以下の点で相違する,又は一応相違する。
(相違点1)
本件特許発明1の「反射防止体」は,「外縁部が粘着剤層を介して前記表示装置に固定される」ものであるのに対して,引用発明は,この構成が,明らかではない点。
(相違点2)
本件特許発明1の「前記反射防止層は,前記透明基材の前記表示装置側に形成された,無機系ケイ素含有化合物とバインダー樹脂を含む成分が混合された反射防止層形成用組成物の硬化層であり」,「前記反射防止層における前記表示装置側の表面の水接触角が90°以下であり,かつモノクロメータで単色化されたAlKα線を用いたESCAによって測定される前記表面の元素組成における無機系ケイ素含有化合物由来のSi含有率が3~30atom%であり,タッチパネルが指で押され,タッチパネルがたわんだ場合に,前記反射防止層の表面が偏光板とブロッキングすることを防止することができる凹凸面を表面に具備する」ものであるのに対して,甲1発明は,この構成を具備するとは特定されていない点。
(5) 判断
事案に鑑みて,相違点2のうち,「タッチパネルが指で押され,タッチパネルがたわんだ場合に,前記反射防止層の表面が偏光板とブロッキングすることを防止することができる凹凸面を表面に具備する」という構成(以下「凹凸面の構成」という。)について判断すると,以下のとおりである。
すなわち,甲1の【0012】及び【0013】には,偏光板8上や透明導電膜5の表面に,梨地処理を施しても良いことが記載されている。しかしながら,甲1には,タッチパネルの最下面の低反射処理面に,梨地処理のような凹凸処理を施しても良いことは記載されておらず,また,示唆するような記載もない。
加えて,甲1発明の「タッチパネルは,円偏光タイプの反射防止フィルターを有し,液晶ディスプレイ表面と空気層を介して対向させるものである」。そして,甲1の【0004】には,甲1発明が前提とする従来の技術として,「上記タッチパネルと液晶ディスプレイ2とは,通常,表示領域外において両面粘着テープ等によって接着するなどして両者間に空気層9が形成されている。タッチパネルと液晶ディスプレイ2との密着により液晶ディスプレイ2の液晶の厚みが入力箇所において圧縮され,表示画像に滲みや歪みが発生するのを防ぐためである。」と記載されている。
そうしてみると,甲1発明の「空気層」は,「タッチパネルと液晶ディスプレイ2との密着」が生じない程度の厚さとされ,この「空気層」により,既にブロッキングが防止できていると解される。
したがって,甲1発明においては,タッチパネルが指で押され,タッチパネルがたわんだ場合に,低反射層の表面が液晶ディスプレイ表面(偏光板)とブロッキングすることを防止することができる凹凸面を低反射層の表面に具備させることについて,動機が存在しない。
したがって,本件特許発明1は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということはできない。
(6) 本件特許発明2-本件特許発明6について
本件特許発明2-本件特許発明4の反射防止体は,いずれも,上記凹凸面の構成を具備するものである。また,本件特許発明5の静電容量式タッチパネルは,「請求項1~4のいずれか一項に記載の反射防止体」を備えるものであるから,やはり,上記凹凸面の構成を具備するものである。そして,本件特許発明6の表示装置もまた,「請求項1~4のいずれか一項に記載の反射防止体」を備えるものであるから,やはり,上記凹凸面の構成を具備するものである。
そうしてみると,本件特許発明1と同様の理由により,本件特許発明2-本件特許発明6についても,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということはできない。
(7) 小括
本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであるということができない。
2 特許法36条6項2号
(1) 特許異議申立人意見書について
特許異議申立人は,概略,本件訂正請求により訂正された構成に関して,反射防止層の表面がブロッキングするかどうかは,反射防止体のみならず表示装置の前面側との関係で定まるから,本件特許発明は明確であるということができないと意見を述べている。
(2) 当合議体の判断
特許請求の範囲(請求項1)には,「表示装置の前面側に,前記反射防止層が前記表示装置側となるように前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層を介して前記表示装置に固定される反射防止体」と記載されている。また,この記載は,本件特許発明1の反射防止体が,「表示装置の前面側に,前記反射防止層が前記表示装置側となるように前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層を介して前記表示装置に固定される」という用途に適した構成を具備することを特定する記載と解するのが相当である。
ところで,本件特許発明1の反射防止体が固定される表示装置には,その前面が,ブロッキングしやすい性質のものもあれば,ブロッキングしがたい性質のものもある。また,本件特許発明1の反射防止体を固定するための粘着剤層にも,厚いものや薄いものがあり,厚さによってブロッキングしたり,しなかったりするといえる。
しかしながら,本件特許発明1の反射防止体は,上記用途に適した構成を具備するものである。したがって,本件特許発明1の反射防止体が,仮に,汎用性の高い製品であるとしたならば,ブロッキングしやすい前面を具備する表示装置に薄い粘着剤層を介して固定された場合においても,「タッチパネルが指で押され,タッチパネルがたわんだ場合に,前記反射防止層の表面が偏光板とブロッキングすることを防止することができる凹凸面を表面に具備する」,そのような仕様の製品であると考えられる。また,本件特許発明1の反射防止体が,特定の表示装置及び特定の厚さの粘着剤層を前提とした製品であるとしたならば,その表示装置にその粘着剤層を介して固定された場合において,「タッチパネルが指で押され,タッチパネルがたわんだ場合に,前記反射防止層の表面が偏光板とブロッキングすることを防止することができる凹凸面を表面に具備する」,そのような仕様の製品であると考えられる。あるいは,反射防止体の仕様として,対応可能な表示装置及び粘着剤層が規定される場合もあると解される。
そうしてみると,本件特許発明1の反射防止体は,製品としての仕様との関係においては,明確であるということができる。また,製品としての仕様が明確であるからには,業として特許発明の実施をする権利の範囲についても明確であるといえるから,請求項1の記載は,特許法36条6項2号に適合するものである。
また,本件特許発明2-本件特許発明6もまた,上記用途に適した構成を具備するから,同様に,請求項2-請求項6の記載は,特許法36条6項2号に適合するものといえる。
(3) 小括
本件特許は,同法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。
3 まとめ
以上のとおりであるから,取消理由通知書に記載した取消の理由,及び特許異議申立書に記載された特許異議申立の理由によっては,本件特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
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2016-700494