特許拒絶査定不服審判
2016-005417
偏光板の製造方法
- 審判番号
- 2016-005417
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2011-168194外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年04月12日
- 審決日
- 2017年02月20日
- 公報発行日
- 2017年05月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】住友化学株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人深見特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (G02B) / P18 .575-Z (G02B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2011-168194「偏光板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月14日出願公開、特開2013- 33084〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成23年8月1日の出願であって、平成27年6月22日付けで拒絶の理由が通知され、同年8月10日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出され、平成28年1月6日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して、同年4月12日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。
第2 平成28年4月12日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成28年4月12日付け手続補正を却下する。
〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成28年4月12日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、平成27年8月10日付け手続補正によって補正された本件補正前の請求項1に、
「基材フィルムの少なくとも一方の表面上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程と、
前記積層フィルムを5倍超えの延伸倍率で延伸して延伸フィルムを得る延伸工程と、
前記延伸フィルムの前記ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性色素で染色して偏光子層を形成し偏光性積層フィルムを得る染色工程と、
前記偏光性積層フィルムの前記偏光子層の基材フィルムと反対側の面に保護フィルムを貼合して多層フィルムを得る貼合工程と、
前記多層フィルムから前記基材フィルムを剥離して偏光板を得る剥離工程と、を有し、
前記剥離工程において、前記基材フィルムの剥離方向と前記偏光子層の配向方向とのなす角度が20度以下である、偏光板の製造方法。」とあったものを、
「厚さが1~200μmの基材フィルムの少なくとも一方の表面上に厚さが3μm超かつ30μm以下のポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程と、
前記積層フィルムを5倍超えの延伸倍率で延伸して延伸フィルムを得る延伸工程と、
前記延伸フィルムの前記ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性色素で染色して偏光子層を形成し偏光性積層フィルムを得る染色工程と、
前記偏光性積層フィルムの前記偏光子層の基材フィルムと反対側の面に保護フィルムを貼合して多層フィルムを得る貼合工程と、
前記多層フィルムから前記基材フィルムを剥離して偏光板を得る剥離工程と、を有し、
前記剥離工程において、前記基材フィルムの剥離方向と前記偏光子層の配向方向とのなす角度が20度以下である、偏光板の製造方法。」とする補正を含むものである(下線は当審で付した。以下同様。)。
(2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、次のア及びイの補正からなるものである。
ア 本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「基材フィルム」は、「厚さが1~200μm」であることを限定する補正。
イ 本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「ポリビニルアルコール系樹脂層」は、「厚さが3μm超かつ30μm以下」であることを限定する補正。
2 本件補正の目的
(1)上記1(2)アの補正は、本件補正前の請求項1において記載されていた「基材フィルム」を、願書に最初に添付された明細書(以下「当初明細書」という。)の【0037】の記載に基づいて、「厚さが1~200μm」であることに限定するものである。
(2)上記1(2)イの補正は、本件補正前の請求項1において記載されていた「ポリビニルアルコール系樹脂層」を、当初明細書の【0064】の記載に基づいて、「厚さが3μm超かつ30μm以下」であることに限定するものである。
(3)上記(1)及び(2)からみて、本件補正後の請求項1は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。また、本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が補正の前後において同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下検討する。
3 引用例
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-343521号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする厚さ10μm 以下の偏光フィルムの少なくとも片面に保護フィルムが貼合されてなることを特徴とする偏光板。
【請求項2】ポリビニルアルコール系樹脂に二色性色素が吸着配向している請求項1記載の偏光板。
【請求項3】保護フィルムが、トリアセチルセルロースフィルムである請求項1又は2記載の偏光板。
【請求項4】保護フィルムが、環状ポリオレフィン樹脂フィルムである請求項1又は2記載の偏光板。
【請求項5】該偏光フィルム、保護フィルム又は両者を接着する接着剤層のいずれかに帯電防止処理が施されている請求項1~4のいずれかに記載の偏光板。
【請求項6】基材樹脂フィルムにポリビニルアルコール系樹脂を塗布する工程、得られる積層フィルムを、ポリビニルアルコール系樹脂層の厚さが10μm 以下となるように一軸延伸する工程、厚さが10μm以下となったポリビニルアルコール系樹脂層の側に接着剤を介して保護フィルムを貼り合わせる工程、及び該保護フィルムが貼り合わされた後に基材樹脂フィルムを剥離除去する工程を包含することを特徴とする偏光板の製造方法。
【請求項7】さらに、ポリビニルアルコール系樹脂に二色性色素を吸着配向させる工程を包含する請求項6記載の方法。
【請求項8】基材樹脂フィルムに帯電防止処理が施されている請求項6又は7記載の方法。」
(2)「【0007】本発明においては、このようなポリビニルアルコール系樹脂を10μm以下の厚さとするために、基材樹脂フィルムにポリビニルアルコール系樹脂を塗布し、得られる積層フィルムを一軸延伸する方法が採用される。ここで用いる基材樹脂フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂以外のものであり、具体的には、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルムなどが挙げられる。ポリエステル系樹脂フィルムとしては、非晶性ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルムなどが、またポリオレフィン系樹脂フィルムとしては、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムなどがそれぞれ挙げられるが、もちろん、これらに限定されるわけではない。基材樹脂フィルムは、後工程で5倍程度に一軸延伸できるものなら特に限定はないが、ガラス転移温度が140℃以下のものが好ましい。基材樹脂フィルムの膜厚は、20~800μm 程度、さらには100~400μm程度であるのが好ましい。
・・・略・・・
【0009】基材樹脂フィルムへのポリビニルアルコール系樹脂溶液の塗布は、一般的に知られている方法によって行うことができる。例えば、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング法などがあり、もちろんこれらに限定されるわけではない。乾燥は、通常100℃以下で行われるが、基材樹脂フィルムが変形しない温度であれば特に限定されない。乾燥後のポリビニルアルコール系樹脂の膜厚は、2~50μm程度、好ましくは3~20μm 程度である。また、基材樹脂フィルムへのポリビニルアルコール系樹脂溶液の塗布に先立って、この基材樹脂フィルムを表面処理してもよい。表面処理の方法としては、コロナ処理、フレーム処理、プラズマ処理、プライマー処理などがある。プライマー処理には、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂など、通常知られたプライマー樹脂を用いることができる。表面処理は、後述する一軸延伸工程や染色工程中に基材樹脂フィルムとポリビニルアルコール系樹脂層とが剥離しない程度に行われればよく、必ずしも強固な接着が得られるまでにする必要はない。
【0010】こうして基材樹脂フィルム上にポリビニルアルコール系樹脂が塗布された積層フィルムは、一軸延伸される。一軸延伸は、周速の異なるロール間で縦一軸に延伸する方法によって行ってもよいし、テンター法で横一軸に延伸する方法によって行ってもよい。また、熱ロールを用いて一軸に延伸してもよいし、熱ロールを用いて圧延を行ってもよいが、最適にはテンター法が用いられる。延伸倍率は、通常4~8倍程度である。延伸工程の前後には、予熱、熱処理、冷却などの工程を適宜設けてもよい。延伸温度は、選定した基材樹脂フィルムの性質により異なるが、例えば、基材樹脂フィルムが非晶性ポリエステル樹脂フィルムの場合は、70~120℃程度、好ましくは85~110℃程度の温度で延伸を行うことができる。一軸延伸の際には、基材樹脂フィルム上のポリビニルアルコール系樹脂の含水率を1~10重量%程度、好ましくは2~8重量%程度に調整することにより、良好な延伸が可能となる。
【0011】基材樹脂フィルムにポリビニルアルコール系樹脂が塗布されたウェブには、二色性色素が吸着配向され、さらに通常はホウ酸処理が施される。二色性色素としては、ヨウ素や二色性有機染料が用いられる。二色性色素の吸着配向は、上記ウェブの一軸延伸と二色性色素を用いた染色により行われる。染色は、一軸延伸の前に行ってもよいし、一軸延伸の後に行ってもよいが、基材樹脂フィルムへのポリビニルアルコール系樹脂の塗布、得られるウェブの一軸延伸、次いで染色の順に行うのが最も好ましい。染色には例えば、二色性色素を含有する水溶液にウェブを浸漬する方法が採用できる。
・・・略・・・
【0017】基材樹脂フィルムとして透明性のある基材を用いた場合には、上記偏光フィルム付きウェブはそのまま偏光板として使用することもできるが、延伸工程や染色工程で基材樹脂フィルムに傷が付いたり、基材樹脂フィルムと偏光フィルムの接着を強固にすることが困難であったり、延伸工程で基材樹脂フィルムの結晶化が進行して透明性が低下することがあるなどの理由から、基材樹脂フィルムをそのまま保護フィルムとして用いることは、一般には難しい。そこで本発明者らは、さらに検討した結果、基材樹脂フィルムをそのまま保護フィルムとするのではなく、偏光フィルムを保護フィルムに転写することで、上記のような問題のない偏光板が製造できることを見出した。
【0018】偏光フィルムの保護フィルムへの転写は、例えば、図1に示すような順序で行うことができる。図1は、本発明による保護フィルム貼合以降の工程を概略的に示す模式図である。基材樹脂フィルム2上にポリビニルアルコール系樹脂層1が積層され、一軸延伸及び染色が施された積層フィルムの、ポリビニルアルコール系樹脂層(偏光フィルム)1側には、塗工装置12で接着剤が塗布される。この接着剤層の上には、保護フィルム供給手段13から送り出される保護フィルム3が、貼合ロール14で貼合され、乾燥炉15を経て接着される。ここで重要なのは、乾燥炉15を出た後の偏光フィルム/保護フィルム間の剥離強度を、基材樹脂フィルム/偏光フィルム間の剥離強度より大きくしておくことである。基材樹脂フィルム/偏光フィルム間の剥離強度の方が偏光フィルム/保護フィルム間の剥離強度よりも大きいと、きれいな転写ができないばかりか、全く転写できないこともある。乾燥後、基材樹脂フィルム2は巻き取りロール16で巻き取ることによって、偏光フィルム1から剥ぎ取られ、偏光フィルム1の片面に保護フィルム3が貼合された偏光板4となる。さらに、偏光フィルムのもう片方の面に保護フィルムを貼合することもできる。
【0019】保護フィルムとしては、例えば、トリアセチルセルロースやジアセチルセルロースのようなセルロースアセテート樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、ポリエステル樹脂フィルム、ポリアリレート樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン樹脂フィルム、ポリノルボルネンフィルムのような環状ポリオレフィン樹脂フィルムなどを使用することができるが、なかでも、トリアセチルセルロースフィルムや環状ポリオレフィン樹脂フィルムが好ましく用いられる。保護フィルムの厚みは、通常30~200μm 程度である。積層には通常、透明で光学的に等方性の接着剤が用いられ、かかる接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール系接着剤が挙げられる。」
(3)「【0022】
【実施例】以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0023】実施例1
帯電防止処理が施された厚さ250μmの非晶性ポリエチレンテレフタレートシートの表面をコロナ処理した。このコロナ処理面に、重合度2400、ケン化度99.9%以上のポリビニルアルコール系樹脂の5重量%水溶液をバーコーターで塗工した後、50℃の熱風乾燥オーブンで5分間乾燥して、厚み5μm のポリビニルアルコール層を設けた。このシートに、テンター延伸機を用いて100℃で横一軸に5倍の延伸を施し、染色用ウェブとした。この染色用ウェブを25℃の純水に1分間浸漬した後、水100重量部あたりヨウ素を0.25重量部及びヨウ化カリウムを5重量部それぞれ含有する水溶液に、温度28℃で180秒間浸漬した。次いで、水100重量部あたりホウ酸を7.5重量部及びヨウ化カリウムを6重量部それぞれ含有するホウ酸水溶液に、温度40℃で300秒間浸漬した。その後、15℃の純水で2秒間洗浄した。水洗したフィルムを50℃で300秒間乾燥し、基材樹脂フィルム付き偏光フィルムを得た。このとき基材樹脂フィルムを除いた偏光フィルムの膜厚は1μm であった。
【0024】上記基材樹脂フィルム付き偏光フィルムの偏光フィルム面に、トリアセチルセルロース製で表面にケン化処理が施された厚み80μmの保護フィルムを、5重量%ポリビニルアルコール水溶液からなる接着剤を介して貼合し、50℃で5分間乾燥させた。乾燥後、基材樹脂フィルムを剥ぎ取り、トリアセチルセルロースフィルム付き偏光板を得た。この偏光板の膜厚は81μmであった。」
(4)「【図1】
」
(5)上記(1)ないし(4)からみて、引用例1には、特に【0007】ないし【0018】に記載された種々の選択肢の範囲内において製造可能な偏光板の製造方法として、次の発明が記載されている。なお、引用した箇所の段落番号を併記した。
「基材樹脂フィルムにポリビニルアルコール系樹脂を塗布する工程、
得られる積層フィルムを、ポリビニルアルコール系樹脂層の厚さが10μm以下となるように一軸延伸する工程、
厚さが10μm以下となったポリビニルアルコール系樹脂層の側に接着剤を介して保護フィルムを貼り合わせる工程、
及び該保護フィルムが貼り合わされた後に基材樹脂フィルムを剥離除去する工程を包含し(【請求項6】)、
さらに、ポリビニルアルコール系樹脂に二色性色素を吸着配向させる工程を包含する、偏光板の製造方法であって(【請求項7】)、
基材樹脂フィルムは、後工程で5倍程度に一軸延伸できるものなら特に限定はなく(【0007】)、
一軸延伸は、周速の異なるロール間で縦一軸に延伸する方法によって行ってもよいし、テンター法で横一軸に延伸する方法によって行ってもよく(【0010】)、
基材樹脂フィルムをそのまま保護フィルムとするのではなく、偏光フィルムを保護フィルムに転写する(【0017】)、
偏光板の製造方法。」(以下「引用発明」という。)
3 対比・判断
(1)対比
ア 引用発明の「基材樹脂フィルム」、「ポリビニルアルコール系樹脂層」、「二色性色素」、「保護フィルム」及び「偏光板の製造方法」は、それぞれ本願補正発明の「基材フィルム」、「ポリビニルアルコール系樹脂層」、「二色性色素」、「保護フィルム」及び「偏光板の製造方法」に相当する。
イ 引用発明は、「基材樹脂フィルム」(本願補正発明の「基材フィルム」に相当。以下、「」に続く()内の用語は、対応する本願補正発明の用語を表す。)にポリビニルアルコール系樹脂を塗布する工程を経ることにより積層フィルムを得ているから、該積層フィルムは、「基材樹脂フィルム」(基材フィルム)の一方の表面上に「ポリビニルアルコール系樹脂層」(ポリビニルアルコール系樹脂層)を形成してなるものといえる。したがって、引用発明は、本願補正発明の樹脂層形成工程のうち、「基材フィルムの少なくとも一方の表面上に」「ポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程」に相当する構成を有する。
ウ 引用発明は、積層フィルムを「ポリビニルアルコール系樹脂層」(ポリビニルアルコール系樹脂層)の厚さが10μm以下となるように一軸延伸する工程を有するのであるから、本願補正発明の延伸工程のうち、「積層フィルムを」「延伸して延伸フィルムを得る延伸工程」に相当する構成を有する。
エ 引用発明は、ポリビニルアルコール系樹脂に「二色性色素」(二色性色素)を吸着配向して染色させる工程を包含するものであり、該工程を経た後、「ポリビニルアルコール系樹脂層」(ポリビニルアルコール系樹脂層)が偏光子層となり、該偏光子層を含む偏光性積層フィルムが得られることは技術常識からみて明らかであるから、引用発明は、本願補正発明の染色工程のうち、「ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性色素で染色して偏光子層を形成し偏光性積層フィルムを得る染色工程」に相当する構成を有する。
オ 引用発明は、厚さが10μm以下となった「ポリビニルアルコール系樹脂層」(ポリビニルアルコール系樹脂層)の側に接着剤を介して「保護フィルム」(保護フィルム)を貼り合わせる工程を包含する。また、引用発明は、「ポリビニルアルコール系樹脂層」からなる偏光フィルムを「保護フィルム」に転写するものであるから、引用発明の「ポリビニルアルコール系樹脂層」の側の面は偏光フィルムの「基材樹脂フィルム」と反対側の面である。したがって、引用発明は、本願補正発明の「偏光性積層フィルムの偏光子層の基材フィルムと反対側の面に保護フィルムを貼合して多層フィルムを得る貼合工程」に相当する構成を有する。
カ 引用発明の「偏光板の製造方法」(偏光板の製造方法)は、「保護フィルム」(保護フィルム)が貼り合わされた後に「基材樹脂フィルム」(基材フィルム)を剥離除去する工程を包含する、偏光板の製造方法であるから、引用発明は、本願補正発明の「多層フィルムから基材フィルムを剥離して偏光板を得る剥離工程」に相当する構成を有する。
キ 上記アないしカからみて、本願補正発明と引用発明とは、
「基材フィルムの少なくとも一方の表面上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程と、
積層フィルムを延伸して延伸フィルムを得る延伸工程と、
ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性色素で染色して偏光子層を形成し偏光性積層フィルムを得る染色工程と、
前記偏光性積層フィルムの前記偏光子層の基材フィルムと反対側の面に保護フィルムを貼合して多層フィルムを得る貼合工程と、
前記多層フィルムから前記基材フィルムを剥離して偏光板を得る剥離工程と、を有する、
偏光板の製造方法。」である点(以下、「一致点」という。)で一致し、次の点で相違する。
・相違点1
本願補正発明では、「基材フィルム」は「厚さが1~200μm」であるのに対し、
引用発明では、基材樹脂フィルムの膜厚が特定されていない点。
・相違点2
本願補正発明では、「ポリビニルアルコール系樹脂層」は「厚さが3μm超かつ30μm以下」であるのに対し、
引用発明では、ポリビニルアルコール系樹脂層は厚さが特定されていない点。
・相違点3
本願補正発明では、「延伸」が「5倍超えの延伸倍率で」行われるのに対し、
引用発明では、延伸倍率が特定されていない点。
・相違点4
本願補正発明では、「前記剥離工程において、前記基材フィルムの剥離方向と前記偏光子層の配向方向とのなす角度が20度以下である」のに対し、
引用発明では、剥離工程において、基材フィルムの剥離方向と偏光子層の配向方向とのなす角度が20度以下であるのかが明らかでない点。
・相違点5
本願補正発明では、染色が「延伸フィルム」になされるのに対し、
引用発明では、染色が「延伸フィルム」になされるかどうかが不明な点。
(2)判断
ア 相違点1について検討する。
(ア)原査定で引用文献2として引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開2011-128486号公報には、以下の記載がある。
「【0025】
基材フィルムの厚さは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性等の作業性の点から1~500μmが好ましく、1~300μmがより好ましく、さらには5~200μmが好ましい。基材フィルムの厚さは、5~150μmが最も好ましい。
・・・略・・・
【0084】
[実施例1]
(基材フィルム)
基材フィルムとして、厚み110μmの未延伸のランダムポリプロピレン(PP)フィルムを用いた。」
(イ)原査定で引用文献3として引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特許第4691205号公報には、以下の記載がある。
「【0054】
図1を参照されたい。図1は、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材の厚みとPVA系樹脂層の塗工厚(偏光膜厚)との間に不具合が生じるかどうかを確認したものである。図1に示したように、5倍程度の厚みでは、搬送性に問題が生じることが懸念される。
・・・略・・・
【0137】
[実施例1]
・・・略・・・
【0138】
200μm厚の非晶性PET基材と、重合度1000以上、ケン化度99%以上のPVA粉末を水に溶解した4~5%濃度のPVA水溶液とを準備した。次に、200μm厚の非晶性PET基材にPVA水溶液を塗布し、50~60℃の温度で乾燥し、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層を製膜した。以下、これを「非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体」または「7μm厚のPVA層を含む積層体」または単に「積層体」という。
・・・略・・・
【図1】
」
(ウ)上記(ア)及び(イ)からみて、基材樹脂フィルムの膜厚を5~200μmとすることは周知(以下「周知技術1」という。)である。
(エ)引用発明において、基材樹脂フィルムの膜厚を具体的に如何なる膜厚となすかは、当業者が適宜決定し得ることであり、上記(ア)ないし(ウ)や引用例の「【0007】・・・基材樹脂フィルムの膜厚は、20~800μm程度、さらには100~400μm程度であるのが好ましい。」との記載事項を考慮すれば、引用発明において、1~200μmとなすこと、すなわち、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは当業者が周知技術1に基づいて適宜なし得たことである。
イ 相違点2について検討する。
(ア)引用例において、その【0009】(上記3(2))には「乾燥後のポリビニルアルコール系樹脂の膜厚は、・・・好ましくは3~20μm程度である」ことが、また、【0023】(上記3(3))には、ポリビニルアルコール層の具体的な厚さが「5μm」であることが記載されている。
(イ)そうすると、引用発明において、ポリビニルアルコール系樹脂層の厚さを3μm超50μm以下となすこと、すなわち、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは当業者が適宜なし得たことである。
ウ 相違点3について検討する。
(ア)上記特開2011-128486号公報には、以下の記載がある。
「【0038】
[偏光フィルム化処理工程]
(一軸延伸工程)
図1に示す一軸延伸工程(S21)では、基材フィルム、第1の樹脂層および第2の樹脂層からなる積層フィルムを一軸延伸する。積層フィルムの元長に対して、好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは5倍超の延伸倍率となるように一軸延伸する。また、上限に関しては、好ましくは17倍以下、さらに好ましくは8倍以下の延伸倍率となるように一軸延伸する。延伸倍率が5倍以下だと、ポリビニルアルコール系樹脂からなる第2の樹脂層が十分に配向しないため、結果として、偏光フィルムの偏光度が十分に高くならない場合がある。延伸倍率が1.5倍よりも低いと、偏光フィルムの偏光度が低く好ましくない。一方、延伸倍率が17倍を超えると延伸時の積層フィルムの破断が生じ易くなると同時に、積層フィルムの厚みが必要以上に薄くなり、後工程での加工性・ハンドリング性が低下するおそれがある。一軸延伸工程(S21)における延伸処理は、一段での延伸に限定されることはなく多段で行うこともできる。多段で行う場合は、延伸処理の全段合計の延伸倍率を一軸延伸の倍率とする。
【0039】
一軸延伸工程(S21)においては、積層フィルムの長手方向に対して行う縦延伸処理が好ましい。縦延伸方式としては、ロール間延伸方法、圧縮延伸方法、テンターを用いた延伸方法などが挙げられる。延伸処理は、縦延伸処理に限定されることはなく、斜め延伸処理等であってもよい。
・・・略・・・
【0087】
(偏光フィルム化処理工程)
上記積層フィルムをテンター装置を用いて加熱温度126℃で縦方向の自由端一軸延伸により5.8倍に延伸し延伸フィルムを得た。・・・」
(イ)上記特許第4691205号公報には、以下の記載がある。
「【0144】
以上のように実施例1は、まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を延伸温度130℃の空中補助延伸によって延伸積層体を生成し、次に、延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し、さらに着色積層体を延伸温度65度のホウ酸水中延伸によって総延伸倍率が5.94倍になるように非晶性PET基材と一体に延伸された3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成した。このような2段延伸によって非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され、染色によって吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された高機能偏光膜を構成する3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成することができた。」
(ウ)上記(ア)及び(イ)からみて、基材フィルムの少なくとも一方の表面上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して得た積層フィルムを5倍超の延伸倍率で延伸することは周知(以下「周知技術2」という。)である。そして、引用発明の延伸倍率を5倍超となすことは、引用例の「【0010】・・・延伸倍率は、通常4~8倍程度である。」(上記3(2))の記載が示唆する範囲内であり、また、引用発明の「基材樹脂フィルムは、後工程で5倍程度に一軸延伸できるものなら特に限定はなく」とも矛盾しないのであるから、周知技術2を考慮すれば、当業者が適宜なし得たことである。してみると、引用発明において、相違点3に係る本願補正発明の構成となすことは当業者が周知技術2に基づいて適宜なし得たことである。
エ 相違点4について検討する。
(ア)上記ウ(ア)及び(イ)の記載事項のように、積層フィルムの長手方向に対して行う縦延伸処理は周知(以下「周知技術3」という。)であり、周知技術3を考慮すれば、引用発明において、一軸延伸として、「周速の異なるロール間で縦一軸に延伸する方法」又は「テンター法で横一軸に延伸する方法」のうち、「周速の異なるロール間で縦一軸に延伸する方法」を採用することは当業者が適宜なし得たことである。
(イ)そこで、上記(ア)のごとく、引用発明の「一軸延伸」が縦延伸であった場合に、剥離工程における基材フィルムの剥離方向と偏光子層の配向方向とのなす角度が20度以下であるのかどうかを検討する。引用例の【0018】(上記3(2))と図1(上記3(4))の記載より、一次延伸が縦延伸だとすると、図1において、左右方向が偏光子層の配向方向であり、乾燥炉15の左方の基材フィルムを剥がす起点となる箇所に一対のローラ(符号が付されていない)が存在し、該一対のローラの配置方向は特段の説明がない以上、該ローラの軸方向がフィルムの流れ方向に対して垂直な方向(図1の紙面に垂直な方向)に配置されていることは技術常識である。そうすると、引用発明の「一軸延伸」が縦延伸であるならば、基材フィルムの剥離方向と偏光子層の配向方向とのなす角度が約0度であり、特段角度についての言及がない限り、前記角度は0度±誤差の範囲にあり、該誤差を考慮したとしても、前記角度が20度以下であることは技術常識からみて明らかである。
(ウ)また、引用例の図1が模式図にすぎないとしても、延伸後の偏光フィルムが延伸方向に裂けやすいことは技術常識(例.特開2008-262104号公報(【0003】、【0004】参照。)、特開2011-53535号公報(【0016】))であり、あえて裂けやすい方向に力が働く角度で剥離するとは考えにくい。そうすると、上記(ア)及び(イ)で検討した事項をも総合すれば、引用発明において、基材フィルムの剥離方向と偏光子層の配向方向とのなす角度を20度以下となすことは、引用例の記載及び周知技術3に接した当業者であれば適宜なし得たことである。
(エ)以上のとおりであるから、引用発明において、相違点4に係る本願補正発明の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
オ 相違点5について検討する。
引用例には「【0011】・・・染色は、一軸延伸の前に行ってもよいし、一軸延伸の後に行ってもよいが、基材樹脂フィルムへのポリビニルアルコール系樹脂の塗布、得られるウェブの一軸延伸、次いで染色の順に行うのが最も好ましい。」(上記3(2))と記載されているところ、引用発明において、最も好ましい、延伸してから染色する態様を採用すること、言い換えれば、「延伸フィルム」のポリビニルアルコール系樹脂層に染色するようになし、相違点5に係る本願補正発明の構成となすことは当業者が適宜なし得たことである。
カ 本願補正発明の奏する効果は、本願の明細書に「【発明の効果】【0011】 本発明によると、基材フィルムと樹脂層からなる積層フィルムに延伸、染色等の処理を施し、その後基材フィルムをきれいに剥離して偏光板を製造することができる。」と記載されているとおりのものである。そして、引用例の「【0018】・・・乾燥炉15を出た後の偏光フィルム/保護フィルム間の剥離強度を、基材樹脂フィルム/偏光フィルム間の剥離強度より大きくしておくことである。基材樹脂フィルム/偏光フィルム間の剥離強度の方が偏光フィルム/保護フィルム間の剥離強度よりも大きいと、きれいな転写ができないばかりか、全く転写できないこともある」の記載を考慮すれば、本願補正発明の奏する効果は、引用発明においても求められている効果であり、引用発明の奏する効果及び周知技術1ないし3の奏する効果から予測することができた程度のものである。
(3)独立特許要件のむすび
以上のとおりであるから、本願補正発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
4 小括
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成27年8月10日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2〔理由〕1(1)に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。
2 原査定の理由の概略
この出願の平成27年8月10日付けで手続補正された請求項1ないし3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。または、この出願の平成27年8月10日付けで手続補正された請求項1ないし3に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1ないし3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.特開2001-343521号公報
引用文献2.特開2011-128486号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3.特許第4691205号公報(周知技術を示す文献)
3 引用例
引用例(引用文献1)の記載事項は、上記第2〔理由〕3(1)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、上記第2〔理由〕1に記載したとおり、「基材フィルム」について、「厚さが1~200μm」であるという事項、及び、「ポリビニルアルコール系樹脂層」について、「厚さが3μm超かつ30μm以下」という事項をそれぞれ削除したものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、上記第2〔理由〕3(2)に記載した相違点3ないし5で相違する。
そして、引用発明において、相違点3ないし5に係る本願補正発明の構成となすことは、上記第2〔理由〕3(2)ウ及びエに記載したとおり、当業者が容易になし得たものであるから、本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び周知技術1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたものである。
5 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び周知技術1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する
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2016-005417