特許拒絶査定不服審判
2016-001630
積層体、及びパワーモジュール
- 審判番号
- 2016-001630
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-118183外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年02月04日
- 審決日
- 2017年04月18日
- 公報発行日
- 2017年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日本発條株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人酒井国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-118183「積層体、及びパワーモジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月21日出願公開、特開2015-231040〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
本願は、平成26年6月6日の出願であって、平成27年6月29日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年9月7日付けで手続補正がなされたが、同年10月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成28年2月4日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
2.本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成27年9月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
基材と、
銅の粉末と、鉄ニッケル合金、タングステン、及びモリブデンのいずれかからなる添加材の粉末とを混合した混合粉末からなり、前記基材の表面との間で塑性変形によるアンカー効果が生じているとともに、前記基材の表面と新生面同士による金属結合が生じており、該表面に密着して積層されてなり、前記添加材の体積含有率が0%より大きく20%未満である複合材と、
を備えることを特徴とする積層体。」
3.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、特許4645464号号(以下、「引用文献1」という。)には、「電子部品の製造方法」に関して図面とともに以下の記載がある。下線は、当審で付与した。
ア.「【特許請求の範囲】【請求項1】
固相状態の金属粉末を圧縮ガスと共に、基材表面に吹き付けて、前記金属粉末から被膜を前記基材表面に形成する電子部材の製造方法であって、
前記圧縮ガスに、少なくとも酸素ガスを含むガスを用い、
前記金属粉末に、該金属粉末よりも硬質の硬質粉末をさらに混合した混合粉末を用い、
該混合粉末は、前記被膜中の硬質粉末からなる粒子の割合が10~50体積%となるように、前記硬質粉末を含むことを特徴とする電子部材の製造方法。」
イ.「【技術分野】【0001】
固相状態の金属粉末をガス圧縮と共に基材表面に吹き付けて、前記金属粉末の組成を含む被膜を形成する電子部材の製造方法であって、特に、部材の熱伝導性及び電気伝導性を向上することができる電子部材の製造方法に関する。
【背景技術】【0002】
従来から、車両のインバータなどに使用されるパワーモジュール90は、図12に示すように、様々な電子部品から構成されており、一般的には、シリコン素子からなるパワー素子91と、ろう付け部92を介してパワー素子91を固定した窒化アルミニウムからなる絶縁基板93と、アルミニウム合金からなるヒートシンク部材94と、を主に備えている。そして、このようなパワーモジュール90には、パワー素子91から発熱した熱を絶縁基板93を介してヒートシンク部材94に伝達し放熱すると共に絶縁基板93とヒートシンク部材94との熱膨張さを緩和するために、銅-モリブデン(Cu-Mo)からなる緩衝部材95がさらに配設されている。また、この緩衝部材95を固定するために、絶縁基板93と緩衝部材95との間には、ろう付け部96が設けられ、緩衝部材95とヒートシンク部材94との間には、シリコングリース97が設けられている。
【0003】
このように構成されたパワーモジュール90は、特に緩衝部材95を固定するシリコングリース97の熱伝導性が高くないため、このシリコングリース97はパワー素子91の熱をヒートシンク部材94に伝える障害となっている。このことを回避するには、ヒートシンク部材94の表面に、直接的に溶射などにより緩衝部材95を被膜として形成した部材(電子部材)を製造することが考えられる。
【0004】
一方、近年コールドスプレー法と呼ばれる被膜形成法が提案されている。このコールドスプレー法は、被膜の材料の融点又は軟化温度よりも低い温度に加熱したガスを、先細末広がり(ラバル)ノズルにより流速を高め、このガス流れの中に被膜の材料となる粉末を投入して加速させ、固相状態のまま基材に高速で衝突させて被膜を形成する方法である。このようなコールドスプレー法の一例として、膨張性の高いヘリウムガス、又は窒素ガスを圧縮し、該圧縮したガスと共に粉末を固相状態のまま、基材の表面に吹き付けて、粉末の組成を含む被膜を形成する方法が提案されている(特許文献1参照)。
(中略)
【0007】
また、特許文献1に記載の如きコールドスプレー法によれば、溶融を伴う溶射で形成された銅系被膜に比べて、酸化が抑制され熱伝導性が高いものである。しかし、このような方法により得られた被膜は、衝突時における粉末の変形により、該変形した粉末を堆積させた被膜であるので、この変形して堆積された粉末(粒子)同士は、完全な金属結合とはならず、粒子同士に粒界が観察される場合があった。このため粒子同士の結合をさらに高めるためには、基材に衝突する粉末の衝突エネルギを増加させる必要があり、結果として、粒子を衝突させるための圧縮ガスのガス圧力を高くする必要があった。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、衝突により変形して堆積された粉末同士の結合を高めると共に、熱膨張性を適度に維持しつつ部材そのものの熱伝導性及び電気伝導性をさらに向上させることができる電子部材の製造方法を提供することにある。」
ウ.「【0013】
また、本発明に係る電子部材の製造方法は、前記基材表面の吹き付けを、前記金属粉末に、該金属粉末よりも硬質の硬質粉末をさらに含めた粉末により行うことがより好ましい。この硬質粉末をさらに含むことにより、すでに衝突して、堆積された粉末(粒子)の表面に形成される酸化膜に研磨作用を与えることができ、被膜中の酸化膜は低減されて金属粒子同士の金属結合の割合も増加し、熱伝導性及び電気伝導性を向上させることができる。また、この硬質粉末の材質及びその量を調整することにより、低熱膨張率の被膜を形成することも可能である。そして、この粉末は、金属粉末と硬質粉末とを予め混合した粉末をホッパーなどの容器に投入し、スプレーガンを用いてこの投入した混合粉末を基材の表面に吹き付けてもよく、より好ましくは、金属粉末と硬質粉末を別個の容器に投入して、それぞれの粉末の送り量を調整し、スプレーガン内でこれらの粉末を混合し、基材表面に吹き付ける。このように容器を別個にして吹きつけることにより、成膜中の被膜に介在する硬質粉末の割合を調整することができるばかりでなく、研磨材として硬質粉末のみを用いて基材表面にブラスト処理を行うことが好適にできる。
【0014】
また、この硬質粉末は、熱伝導率が10W/mK以上、硬度がHv500以上の粉末であることが好ましく、特に金属粉末と硬質粉末との好ましい組み合わせとしては、金属粉末は銅系材料からなる粉末であって、前記硬質粉末は、酸化アルミニウムの粉末、炭化ケイ素の粉末、又は、窒化アルミニウムの粉末、のいずれかの粉末からなることが好ましく、また、これらの組み合わせた硬質粉末であってもよい。
【0015】
このような熱伝導率及び硬度を有した硬質粉末は汎用性があり、銅系の材料を被膜として形成する場合には、このような硬度を有する硬質粉末が、成膜時に生成される酸化銅膜を研磨して成膜中の被膜表面に酸化膜の少ない新生面を形成し、被膜中の酸化物の割合を減少させることができ、被膜中の銅系材料の金属結合の割合を増やすことが可能となる。この結果、たとえ、硬質粉末として酸化アルミニウムの粉末、炭化ケイ素の粉末、窒化アルミニウムの粉末などが、粒子として、被膜中に混在したとしても、これらの硬質粉末を用いないものに比べて、熱伝導率及び電気伝導率を高めることができる。また、この硬質粉末としては、例えば、安価なインバー合金や、モリブデン、タングステン、鋳鉄などの硬質の低熱膨張性の金属であってもよい。
(中略)
【0017】
さらに好ましくは、前記粉末は、前記被膜中の硬質粉末からなる粒子の割合が10~70体積%となるように、前記硬質粉末を含んでいる。硬質粉末からなる粒子(硬質粒子)をこのような割合で被膜中に含むことにより、被膜の低熱膨張性を確保しつつ、熱伝導性及び電気伝導性を確保することができる。この被膜中の硬質粉末からなる粒子が10体積%よりも小さい場合には、硬質粉末により成膜時の堆積された金属粉末表面の酸化膜を効果的に研磨することができず、被膜の熱伝導率及び電気伝導率はあまり向上することはない。さらに70体積%よりも大きい場合には、硬質粒子の割合が大きいため金属粉末の結合を阻害してしまい被膜が形成されない。また、被膜中の硬質粒子を20~50体積%含有していることがさらに望ましい。この範囲の含有量であれば、適度な熱膨張率を確保しつつ、熱伝導性及び電気伝導性を向上させることができる。すなわち、硬質粉末が20体積%よりも小さい場合には、硬質粒子による効果的な研磨作用を得ることができず、被膜の熱伝導率及び電気伝導率は低下してしまい、さらに、硬質粉末が、50体積%より大きい場合には、被膜中に介在する硬質粒子も増加することにより、硬質粒子を構成する材料の熱伝導率の影響を受けるため被膜の熱伝導率及び電気伝導率は低下してしまう。
(中略)
【0023】
このような被膜が形成されたヒートシンク部材は、ヒートシンク部材の表面に直接被膜を形成するので、熱伝導を阻害するシリコングリースを設ける必要がなく、発熱したパワー素子の熱をヒートシンク部材に好適に伝えることができる。
【0024】
さらに、このようなパワーモジュールは、機器に高い信頼性が要求される車両用インバータに用いられることが好ましい。」
エ.「【0027】
本発明を以下の実施例により説明する。
(実施例1)
酸素を含むガスとしてエア(大気)を圧縮し、粉末粒度5~53μmの銅からなる固相状態の金属粉末をこの圧縮したエア(圧縮ガス)と共に、大きさ30mm×20mm×厚さ5mmのアルミニウム合金(JIS規格:A6063S-T1)からなるヒートシンク部材(基材)の表面に吹き付けて、銅粉末からなる被膜がヒートシンク部材の表面に形成された、電子部材を製作した。
【0028】
具体的には、図1(a)に示すように、マスキング用の30mm×20mmの開口部を有した鉄板11を介して、ヒートシンク部材21の上方に30mmの位置に吹き付け用のノズル12を配置し、ホッパー13に粉末粒度5~53μmの銅粉末を投入するとともに、この銅粉末を20g/minでノズル12に供給した。一方、0.7MPaに圧縮したエア(圧縮ガス)をノズル12に導入すると共に、この圧縮ガスをノズル12内のヒータ(図示せず)によって加熱し、この加熱したガスにこの銅粉末を供給し、ヒートシンク部材21の表面において、エア温度450℃、飛行中の銅粉末の温度90℃、ガス流速650m/sec、銅粉末の速度300m/secとなるようにして、ヒートシンク部材に、固相状態の銅粉末を圧縮ガスと共に吹きつけた。そして、図1(b)に示すように、パスピッチ1mmにして、ノズル12を所定速度(3mm/sec)で往復運動させて、ヒートシンク部材21の表面に3.2mmの被膜22を形成し、この被膜表面を研磨し、被膜厚み3.0mmを有する電子部材20を製作した。そして、この電子部材20を被膜22の厚さ方向に切断し、被膜20の断面を、光学顕微鏡観察を用いて観察した。この結果を図2(a)に示す。
【0029】
(実施例2)
実施例1と同じヒートシンク部材21を準備して、このヒートシンク部材21の表面に被膜を形成した。実施例1と異なる点は、ホッパー14に銅材料よりも硬い硬質粉末である炭化ケイ素の粉末(粉末粒度5-53μm)を投入し、この被膜中に含まれる炭化ケイ素の粉末の割合が、20体積%となるように、銅粉末と炭化ケイ素粉末とをノズル12に供給した点である。そして、実施例1と同じ方法で電子部材を切断し被膜の断面を、光学顕微鏡観察を用いて観察した。この結果を図2(b)に示す。
オ.「【0031】
(結果1)
図2(a)~(c)に示すように、実施例1の電子部材の被膜断面から、銅粉末が堆積して得られた粒界が一部確認でき、この被膜は、比較例1よりも粒界の金属結合が多かった。また、実施例2の電子部材の被膜断面には、粒界がほとんど無く、この被膜は実施例1よりも粒界の金属結合がかなり多かった。比較例1の電子部材の被膜断面には、その粒界は鮮明に確認され、その粒界の金属結合はほとんどなかった。
【0032】
(考察1)
結果1の断面組織の観察結果から、実施例1の如くエアを圧縮ガスに用いた場合には、この圧縮ガスと共にヒートシンク部材21の表面に衝突する粉末の衝突エネルギと、この衝突時に酸素ガスと銅粉末22aとの酸化発熱反応により発生する発熱エネルギとにより被膜が形成されたため、図2(d)に示すように、これらの変形した粉末同士の界面には、やや厚い酸化膜22cが形成されるものの、金属結合の割合は、図2(f)に示す如き比較例1のものに比べて多くなったと考えられ、この結果、熱伝導性及び電気伝導性の高い被膜を形成することができると考えられる。
【0033】
さらに実施例2の如く硬質粉末22bを用いた場合には、図2(e)に示すように、硬質粉末22bが、衝突して堆積された粉末(粒子)の表面に形成される酸化膜22cに研磨作用を与えることができるので、被膜中の酸化膜22cは低減して粒子同士の金属結合の割合がさらに増加したと考えられる。」
・上記アの記載事項によれば、引用文献1の請求項1には、金属粉末に、該金属粉末よりも硬質の硬質粉末をさらに混合した混合粉末を圧縮ガスと共に、基材表面に吹き付けて、混合粉末から被膜を基材表面に形成する電子部材の製造方法において、該混合粉末は、被膜中の硬質粉末からなる粒子の割合が10~50体積%となるように、硬質粉末を含むことを特徴とする電子部材の製造方法に係る発明が記載されている。
・上記イの記載事項によれば、引用文献1は、パワー素子と、絶縁基板と、ヒートシンク部材とを主に備え、パワー素子から発熱した熱を絶縁基板を介してヒートシンク部材に伝達し放熱すると共に絶縁基板とヒートシンク部材との熱膨張さを緩和するために緩衝部材がさらに配設された、車両のインバータなどに使用されるパワーモジュールにおいて、緩衝部材とヒートシンク部材との間に設けられているシリコングリースの熱伝導性が高くないため、このシリコングリースがパワー素子の熱をヒートシンク部材に伝える障害となっていることを回避するため、ヒートシンク部材の表面に、直接的に緩衝部材を被膜として形成してなる電子部材の製造方法に関するものである。
・上記イ、ウの記載事項によれば、コールドスプレー法により被膜を形成する際に、衝突により変形して堆積された粉末同士の結合を高めると共に、熱膨張性を適度に維持しつつ部材そのものの熱伝導性及び電気伝導性をさらに向上させることができる電子部材の製造方法を提供することを目的として、基材表面の吹き付けを、金属粉末に、該金属粉末よりも硬質の硬質粉末をさらに含めた粉末により行うことで(この硬質粉末をさらに含むことにより)、すでに衝突して、堆積された粉末(粒子)の表面に形成される酸化膜に研磨作用を与えることができ、被膜中の酸化膜は低減されて金属粒子同士の金属結合の割合も増加し、熱伝導性及び電気伝導性を向上させることができること、また、この硬質粉末の材質及びその量を調整することにより、低熱膨張率の被膜を形成することも可能であることが記載されている。
・上記ウの記載事項によれば、銅系の材料を被膜として形成する場合には、硬質粉末が、成膜時に生成される酸化銅膜を研磨して成膜中の被膜表面に酸化膜の少ない新生面を形成し、被膜中の酸化物の割合を減少させることができ、被膜中の銅系材料の金属結合の割合を増やすことが可能となること、この硬質粉末としては、例えば、安価なインバー合金や、モリブデン、タングステン、鋳鉄などの硬質の低熱膨張性の金属であってもよいこと、さらに粉末は、被膜中の硬質粉末からなる粒子の割合が10体積%以上50体積%以下となるように、硬質粉末を含むことにより、被膜の低熱膨張性を確保しつつ、熱伝導性及び電気伝導性を確保することができることが記載されている。
・上記エ、オの記載事項によれば、引用文献1の実施例として、銅からなる固相状態の金属粉末をこの圧縮したエアと共に、アルミニウム合金からなるヒートシンク部材(基材)の表面に吹き付けて、銅粉末からなる被膜がヒートシンク部材の表面に形成された電子部材(実施例1)と、実施例1と同じヒートシンク部材の表面に被膜を形成された電子部材において、第2のホッパーに銅材料よりも硬い硬質粉末である炭化ケイ素の粉末を投入し、この被膜中に含まれる炭化ケイ素の粉末の割合が、20体積%となるように、第1ホッパーの銅粉末と第2ホッパーの炭化ケイ素粉末とを吹き付け用のノズルに供給してなる電子部材(実施例2)とを、被膜の厚さ方向に切断し、被膜の断面を光学顕微鏡観察を用いて観察すると、実施例2の電子部材の被膜断面には、粒界がほとんど無く、実施例2の被膜は実施例1よりも粒界の金属結合がかなり多いことが記載されている。
上記アないしオの記載事項によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「銅からなる固相状態の金属粉末に、該金属粉末よりも硬質の硬質粉末をさらに混合した混合粉末を圧縮したエアと共に、アルミニウム合金からなるヒートシンク部材(基材)の表面に吹き付けて、混合粉末から被膜をヒートシンク部材の表面に形成された電子部材において、硬質粉末として安価なインバー合金や、モリブデン、タングステンなどの硬質の低熱膨張性金属の粉末を投入し、被膜表面に酸化膜の少ない新生面を形成し、被膜中の銅系材料の金属結合の割合を増やすことが可能となり、この被膜中に含まれる硬質の金属粉末の割合が、10体積%以上50体積%以下である被膜を備えることを特徴とする電子部材。」
(2)原査定の拒絶の理由に引用された、特開2008-300455号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「パワーモジュール」に関して図面とともに以下の記載がある。下線は、当審で付与した。
カ.「【0021】
金属配線23は、第1の材料であるCuによって構成されており、下敷き導電部材28の下地となる配線部材である。そして、下敷き導電部材28は、上記第1の材料(Cu)と、第1の材料よりも熱膨張係数の小さい第2の材料(Si,Al2O3,SiC,Si3N4,SiO2,AlN,W,Mo,Fe32Ni5Co(インバー合金)など)を含んでおり、コールドスプレー法を用いて形成されている。後述するように、コールドスプレー法を用いて形成された下敷き導電部材28は、比較的低温(数百℃)で形成される。また、コールドスプレー法を用いて形成された膜は、緻密であることが確認されている。そして、コールドスプレー法では、膜の堆積能率が大きく、製造コストも安価である。半導体チップ11の厚みは、0.3mm~0.5mmであり、下敷き導電部材の厚みは、約0.5mmであり、半田層14の厚みは約0.1mmであり、金属配線23の厚みは、約0.4mmであり、絶縁樹脂層26の厚みは約0.2mmであり、ヒートシンク21の平板部21aの厚みは約5mmであり、フィン部21bの縦方向の長さは約15mmであり、フィン部21bのピッチは約1.5mmであり、フィン部21bの横方向の厚みは約1.5mmである。
【0022】
図3は、コールドスプレー法の概略を説明する断面図である。コールドスプレー装置60Aは、2つの原料供給管68A,68Bから投入される2種類の材料(粒子)を混合するミキサー(ホッパー)67と、圧縮空気を加熱するヒータ62と、粒子を吹き付けるためのガン63と、圧縮空気を供給する配管64,65とを備えている。そして、ガン63から約5~30mm程度離れた位置に、基板が設置されている。なお、圧縮空気に代えて、ヘリウム,窒素などの圧縮ガスを用いてもよい。
(中略)
【0025】
本実施の形態によると、第1の材料(Cu)および第2の材料を含む下敷き導電部材28の熱膨張係数は、第1の材料からなる金属配線23と、半導体チップ11との熱膨張係数の中間的な値になる。したがって、半導体チップ11と金属配線23との熱膨張係数差に起因する熱応力によって半田層14のクラックの発生を抑制することができる。そして、部材間(金属配線23-下敷き導電部材28間、および、下敷き導電部材28-半導体チップ11間)の接合部の信頼性を高く維持することができる。
【0026】
特に、下敷き導電部材28の形成工程で、コールドスプレー法を採用することにより、比較的低温で下敷き導電部材を形成することができる。コールドスプレー法では、ヒータ62で300~400℃に加熱された圧縮空気を用いるものの、空気の膨張によって急激に冷却されるので、ヒートシンク21に衝突する際には、室温~100℃の低温になっているからである。したがって、加工後に金属配線23と下敷き導電部材28との熱膨張係数差に起因する反りを小さく抑制することができる。そして、コールドスプレー法などの溶射法を用いて形成された膜は、緻密であることが確認されており、特に、コールドスプレー法では、膜の堆積能率が高く、製造コストも安価である。
また、複数の材料を複合化する場合、比重の差、融点の差、などが障害となって、不可能であったり、複合化できる範囲が限られる場合がほとんどである。それに対し、本実施の形態のごとく、溶射法を利用することにより、第1の材料および第2の材料を含む下敷き導電部材28を、ほぼ任意の組成範囲で容易に形成することができる。」
キ.「【0027】
また、本実施の形態では、図3に示すコールドスプレーを行う際に、初回のスイープの際には、原料供給管68Bからの第2の材料の供給は少なく、下敷き導電部材28の下端部における第2の材料の組成率は20Vol%程度である。そして、2回目,3回目,…と、スイープ回数が進むにつれて、原料供給管68Bから供給される第2の材料の割合が増加し、最終のスイープ時には、原料供給管68Aからの第2の材料の供給量が増えて、下敷き導電部材28の上端部における第2の材料の組成率を60Vol%程度にしている。
【0028】
このような溶射方法により、金属配線23に近いほど第1の材料の組成率が大きく、上方部材である半導体チップ11に近いほど第2の材料の組成率が大きい下敷き導電部材28の組成分布が実現する。このように、下敷き導電部材28が、金属配線23に近いほど第1の材料の組成率が大きく、上方部材である半導体チップ11に近いほど第2の材料の組成率が大きい組成分布を有していることにより、下敷き導電部材28と金属配線23との界面における熱膨張係数差と、下敷き導電部材28と半導体チップ11との熱膨張係数差とを共に小さくできるので、より効果的に半田層14に加わる熱応力を低減することができ、半田層14のクラックの発生を確実に抑制することができる。また、金属配線23から半導体チップ11に至る部材間の接合の信頼性を高めることができる。
【0029】
本実施の形態では、下敷き導電部材28における第2の材料の平均組成率は、20~70%である。80%以上の添加の場合、Cu粉末同士のネットワークが弱くなり、結合力が低下し、下敷き導電部材28の強度が確保できなくなるおそれがある。電気的な導通を確保するためには、第2の材料の局部的な最大組成率が70%以下であることが好ましい。なお、初回のスイープの際には、原料供給管68Bからの第2の材料の供給をせずに、下敷き導電部材28の下端部における第2の材料の組成率が0%であってもよい。ただし、下敷き導電部材28全体における第2の材料の平均組成率を20~70%の範囲に収めるようにすることが好ましい。
【0030】
なお、下敷き導電部材28における組成分布が、必ずしも本実施の形態のようになっている必要はない。たとえば、Cuと第2の材料との組成比が1:1の均一組成であっても、第2の材料の熱膨張係数がCuの熱膨張係数(17ppm/K)よりも小さければ、Cuの熱膨張係数と、Si,SiC等の半導体チップ11を構成する各材料の熱膨張係数(3~6ppm/K)の間の値になって、半田層14に加わる熱膨張係数差に起因する熱応力を緩和することができる。
【0031】
第1の材料がCuまたはCu合金で、第2の材料がSi,Al2O3,SiC,Si3N4,SiO2,AlN,W,Mo,Fe32Ni5Co(インバー合金)などであることにより、以下のような顕著な効果を発揮することができる。
【0032】
図7は、Cuに第2の材料(Al2O3,SiC,Si3N4,SiO2,AlN,W,Mo,Fe32Ni5Co(インバー合金))を添加したときの、添加量(Vol%)に対する熱膨張係数の変化を示すグラフである。図7に示すように、第2の材料の添加量が増すほど、下敷き導電部材28の熱膨張係数は小さくなる。そして、第2の材料の添加量が20%以上である場合には、下敷き導電部材28の熱膨張係数は、15ppm/K以下である。
【0033】
図8は、Cuに第2の材料(Al2O3,SiC,Si3N4,SiO2,AlN,W,Mo,Fe32Ni5Co(インバー合金))を添加したときの、添加量(Vol%)に対する熱伝導率の変化を示すグラフである。図8に示すように、第2の材料の添加量が増すほど、熱伝導率は小さくなるが、第2の材料の添加量が70%以下であれば、熱伝導率は100W/m・K以上と、十分大きな値が得られる。
なお、図9は、第1および第2の材料の各種特性を表にして示す図である。」
3.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「銅からなる固相状態の金属粉末」は、本願発明の「銅の粉末」に相当する。
引用発明の「硬質粉末」は、「インバー合金や、モリブデン、タングステンなどの金属粉末」で、銅からなる金属粉末に混合して「混合粉末」となるものであるから、本願発明の「鉄ニッケル合金、タングステン、及びモリブデンのいずれか」からなる「添加材の粉末」に相当し、銅の粉末と混合して「混合粉末」となる点でも共通する。
引用発明の「アルミニウム合金からなるヒートシンク部材(基材)」は、コールドスプレー法により混合粉末を圧縮したエアと共に、表面に吹き付けられるものであるから、本願発明の「基材」に相当する。
引用発明の「被膜」は、コールドスプレー法により混合粉末を圧縮したエアと共に、基材の表面に吹き付けて、基材表面に形成されるものであるから、本願発明の「複合材」に相当する。
引用発明の「被膜表面に酸化膜の少ない新生面を形成し、被膜中の銅系材料の金属結合の割合を増やすことが可能となり」は、本願発明の「基材の表面と新生面同士による金属結合が生じており」に相当する。
引用発明の「電子部材」は、基材と基材表面に形成された金属被膜とを備えるもので、それは本願発明における基材と基材表面に形成された複合材とを備えるものであるから、本願発明の「積層体」に相当する。
なお、引用発明は、被膜中に含まれる硬質粉末の割合が「10体積%以上50体積%以下」であるのに対し、本願発明では、複合材に含まれる添加材の体積含有率は、「0%より大きく20%未満」である。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「基材と、
銅の粉末と、鉄ニッケル合金、タングステン、及びモリブデンのいずれかからなる添加材の粉末とを混合した混合粉末からなり、基材の表面と新生面同士による金属結合が生じており、基材の表面に密着して積層されてなり、添加材の体積含有率が10%以上20%未満である複合材と、
を備える積層体。」
である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明は、複合材について「基材の表面との間で塑性変形によるアンカー効果が生じている」旨、特定するのに対し、引用発明ではそのような特定はなされていない点。
(相違点2)
本願発明は、「添加材の体積含有率が0%より大きく20%未満である」と特定するのに対し、引用発明では「添加材の体積含有率が10体積%以上50体積%以下である」とされている点。
4.判断
上記相違点について検討する。
(相違点1について)
コールドスプレー法は、材料の粉末を、ノズルから噴射し、固相状態のまま基材に衝突させることにより、基材の表面に被膜を形成する方法であり、基材及び被膜となる材料がともに金属である場合、金属材料の粉末が基材に衝突した際に粉末と基材との間で塑性変形が生じてアンカー効果が得られると共に、互いの酸化被膜が破壊されて新生面同士による金属結合が生じることで、密着強度の高い積層体を得ることができる方法である。
引用発明の被膜もコールドスプレー法により形成されているものであるから、引用発明の被膜は、基材の表面との間で塑性変形によるアンカー効果が生じ、基材の表面に金属結合が生じていることは明らかである。
したがって、(相違点1)は明示の記載の有無に過ぎず、引用発明においても同様の効果が生じているものであるから、実質的な相違点ではない。
(相違点2について)
上記カ及びキの記載事項によれば、引用文献2には、
「第1の材料(Cu)と、第1の材料よりも熱膨張係数の小さい第2の材料(W,Mo,Fe32Ni5Co(インバー合金)など)を含んで、コールドスプレー法により、部材間に形成される下敷き導電部材28(引用発明の被膜に相当)において(段落【0021】)」、「コールドスプレーを行う際に、初回のスイープの際には、原料供給管からの第2の材料の供給は少なく、2回目,3回目,…と、スイープ回数が進むにつれて、原料供給管68Bから供給される第2の材料の割合が増加し、最終のスイープ時には、原料供給管68Aからの第2の材料の供給量が増え(段落【0027】)」、「下敷き導電部材28が、金属配線23に近いほど第1の材料の組成率が大きく、上方部材である半導体チップ11に近いほど第2の材料の組成率が大きい組成分布を有していることにより、下敷き導電部材28と金属配線23との界面における熱膨張係数差と、下敷き導電部材28と半導体チップ11との熱膨張係数差とを共に小さくできる(段落【0028】)」、「初回のスイープの際には、原料供給管68Bからの第2の材料の供給をせずに、下敷き導電部材28の下端部における第2の材料の組成率が0%であってもよい。ただし、下敷き導電部材28全体における第2の材料の平均組成率を20~70%の範囲に収めるようにすることが好ましい(段落【0029】)」ことが記載されている。
また、引用文献2の図7には、Cuに第2の材料(W,Mo,Fe32Ni5Co(インバー合金)など)を添加したときの、添加量(0~70体積%)に対する熱膨張係数の変化を示すグラフが、図8には、Cuに第2の材料(W,Mo,Fe32Ni5Co(インバー合金)など)を添加したときの、添加量(0~70体積%)に対する熱伝導率の変化を示すグラフが、それぞれ開示されている。
そうすると、引用文献2には、第1の材料(Cu)と第2の材料(W,Mo,Fe32Ni5Co(インバー合金)など)を含んで、コールドスプレー法により、基材表面に被膜を形成する際に、第2の材料の添加量(体積含有率)を0%から徐々に増加することで、基材と積層する他の材料層とにおいて、被膜と基材、被膜と他の材料層、との熱膨張係数差を共に小さくするという技術思想と、その際の選択すべき第2の材料の添加量(体積含有率)として、図7に添加量(0~70体積%)に対する熱膨張係数の変化を示すグラフと、図8に添加量(0~70体積%)に対する熱伝導率の変化を示すグラフが、ともに開示されている。
したがって、引用発明に、引用文献2の技術思想を適用して、積層される2つの材料層間の接合部の信頼性を向上するために、必要とされる熱膨張係数や熱伝導率に応じて、第2の材料の添加量(体積含有率)を0%より大きく20%未満とすることは、望まれる特性に応じて当業者が適宜選択し得る設計的事項である。
なお、本願発明における「添加材の体積含有率が0%より大きく20%未満である」技術的意義は、本願明細書の段落【0052】ないし【0054】の記載から、「(純銅に対する)導電率比(熱伝導率比)を緩衝層11に好適な50%以上とすること」及び「熱膨張率を緩衝層11に好適な13.0×10-6/K以上16.6×10-6/K未満とすること」を満たすことであるが、引用文献2(図7及び図8参照)においても「添加材の体積含有率が0%より大きく20%未満」の範囲において、「(純銅に対する)導電率比(熱伝導率比)を緩衝層11に好適な50%以上とすること」及び「熱膨張率を緩衝層11に好適な13.0×10-6/K以上16.6×10-6/K未満とすること」を満たすことは明らかであるから、本願発明における添加材の体積含有率の限定に、格別の技術的意義は認められない。
そして、本願発明の作用効果も、引用文献1,2の技術事項から当業者が予測できる範囲のものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。
5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1,2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2016-001630