特許異議申立
2015-700275
皮膚上で視覚的に見えにくい医薬活性剤パッチ
- 審判番号
- 2015-700275
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2006-505058外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年12月07日
- 審決日
- 2017年01月17日
- 公報発行日
- 2017年08月25日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】エルテーエス ローマン テラピー-ジステーメ アーゲー
- 【権利者代理人】葛和 清司
- 【権利者代理人】矢後 知美
- 【異議申立人】土屋 篤志
- 分類
- P1651.536-ZAA(A61K) / P1651.537-ZAA(A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5733875号発明「皮膚上で視覚的に見えにくい医薬活性剤パッチ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5733875号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-16〕について訂正することを認める。
特許第5733875号の請求項1-16に係る特許を取り消す。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
特許第5733875号に係る発明についての出願は、平成16年4月8日(パリ条約による優先権主張 2003年4月17日(ドイツ))を国際出願日として特許出願された特願2006-505058号であって、平成27年4月24日にその特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人 土屋篤志より特許異議の申立てがなされ、平成28年2月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年5月24日に意見書の提出がなされ、平成28年8月9日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成28年11月14日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。
2 訂正請求について
(1)請求の趣旨
特許権者が求める訂正の請求の趣旨は、「特許第5733875号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~16について訂正することを求める。」というものである。
(2)訂正の内容
特許権者が求める訂正の内容(以下、「訂正事項1」という。)は、以下のとおりである。
特許請求の範囲の請求項1、2、4、12、15、及び16における「染料および/または顔料」なる記載、
請求項3における「染料および顔料の群から選択される物質」なる記載、
請求項9における「染料および顔料の群から選択される少なくとも1種の物質」なる記載、並びに
請求項15及び16における「染料および顔料の群から選択される1種または2種以上の物質」なる記載を、それぞれ「顔料」に訂正する。
(3)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項1は、要するに、染料及び顔料を選択肢とするいずれの記載も、顔料に限定するものであるから、その訂正の目的は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮に該当する。
訂正事項1は、請求項1-16からなる一群の請求項について訂正を求めているから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
そして、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(4)小括
したがって、本件訂正請求に係る訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法第120条の5第4項、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項ないし第6項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3 特許異議の申立てについて
(1)本件の請求項1-16に係る発明
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認容されるので、本件の請求項1-16に係る発明(以下、「本件発明1」-「本件発明16」といい、まとめて「本件発明」という。)は、平成28年11月14日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1-16に記載された事項により特定される下記のものである。
【請求項1】
「単層または多層構造マトリックス、ならびに前記マトリックスに連結する支持体層を含む医薬活性物質パッチであって、
-マトリックスの少なくとも1層が活性物質を含み、
-マトリックス層の少なくとも1層が、着色している成分、あるいは初期の状態で無色でありかつ保存中もしくは適用期間中に変色する傾向を有するかまたは変色する成分1種または2種以上を含み、
-パッチが透明または少なくとも半透明であり、
-皮膚から離れた側においてパッチの支持体層が、顔料を含む被覆で覆われ、および/または、支持体層中に顔料が組み込まれており、
-第一の人物に適用された状態で、その適用期間中、パッチで覆われた皮膚部分において、適用されたパッチを囲む同一人物の皮膚の明度色値L2に対し、50%以上かつ200%以下の明度色値L1を有し、
そして
-同じことが任意の第二の人物の皮膚においてもあてはまる、
但し、第一の人物および第二の人物のそれぞれの皮膚の明度色値L2はいずれも5°~100°の範囲内にある、
ことを特徴とする、前記医薬活性物質パッチ。」
【請求項2】
「単層または多層構造マトリックス、ならびに前記マトリックスに連結する支持体層を含む医薬活性物質パッチであって、
-マトリックスの少なくとも1層が活性物質を含み、
-マトリックス層の少なくとも1層が、着色している成分、あるいは初期の状態で無色でありかつ保存中もしくは適用期間中に変色する傾向を有するかまたは変色する成分1種または2種以上を含み、
-パッチが透明または少なくとも半透明であり、
-皮膚から離れた側においてパッチの支持体層が、顔料を含む被覆で覆われ、および/または、支持体層中に顔料が組み込まれており、
-第一の人物に適用された状態で、その適用期間中、パッチで覆われた皮膚部分において、適用されたパッチを囲む同一人物の皮膚の明度色値L2に対し、50%以上かつ200%以下の明度色値L1を有し、
そして
-同じことが任意の第二の人物の皮膚においてもあてはまる、
但し、第一の人物および第二の人物のそれぞれの皮膚の明度色値L2はいずれも20°~90°の範囲内にある、
ことを特徴とする、前記医薬活性物質パッチ。」
【請求項3】
「マトリックス層またはマトリックス層の少なくとも1層中に、顔料を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬活性物質パッチ。」
【請求項4】
「皮膚から離れた側においてパッチの支持体層が、顔料を含む被覆で覆われることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬活性物質パッチ。」
【請求項5】
「被覆がラッカーである、請求項4に記載の医薬活性物質パッチ。」
【請求項6】
「少なくとも皮膚から離れた支持体層の表面が、減少した反射特性を有することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬活性物質パッチ。」
【請求項7】
「反射特性の減少が、物理的方法により達成されることを特徴とする、請求項6に記載の医薬活性物質パッチ。」
【請求項8】
「皮膚から離れた支持体層の側において、光学曇り剤または少なくとも2種の光学曇り剤の組み合わせを含む反射防止層が適用されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬活性物質パッチ。」
【請求項9】
「反射防止層が、顔料をさらに含むことを特徴とする、請求項8に記載の医薬活性物質パッチ。」
【請求項10】
「その初期状態で無色であり、そして保存中もしくは適用期間中に変色する傾向を有するかまたは変色する成分が、医薬活性物質であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬活性物質パッチ。」
【請求項11】
「医薬活性物質がニコチンである、請求項10に記載の医薬活性物質パッチ。」
【請求項12】
「明度色値L1が顔料の濃度により調整される、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬活性物質パッチ。」
【請求項13】
「経皮治療システムであることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬活性物質パッチ。」
【請求項14】
「皮膚から離れた支持体層の表面が減ぜられた反射特性を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬活性物質パッチ。」
【請求項15】
「請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬活性物質パッチを製造し選択する方法であって、前記方法が以下の工程:
a)単層または多層の活性物質含有マトリックスおよびそれに連結する支持体層を含むシートを製造する工程、ここで、前記マトリックスは、1種のマトリックスポリマーまたは複数種のマトリックスポリマー、1種の活性物質または複数種の活性物質および補助剤を使用して製造され、そして、顔料がマトリックスおよび/または支持体層中に組み込まれており;
b)工程(a)の少なくとも1つのさらなるシートを製造する工程であって、前記シートは顔料の濃度において、および/または用いられる顔料の種類において相違する前記工程;
c)工程(a)および(b)で得られたシートから表面部分または打ち出されたピースを製造する工程;
d)5°~100°の範囲の明度色値L2を有する色チャートを製造または提供する工程;
e)(d)で述べた色チャートに工程(c)で得た部分またはシートを適用または貼付する工程;
f)色チャート上に位置するシートの明度L1の色値を測定し、個々のケースにおいて、L2とL1の差違を決定する工程;
g)明度色値L2の50%以上かつ200%以下である明度色値L1を有するシートを選択する工程;
を含むことを特徴とする、前記方法。」
【請求項16】
「請求項2~14のいずれか一項に記載の医薬活性物質パッチを製造し選択する方法であって、前記方法が以下の工程:
a)単層または多層の活性物質含有マトリックスおよびそれに連結する支持体層を含むシートを製造する工程、ここで、前記マトリックスは、1種のマトリックスポリマーまたは複数種のマトリックスポリマー、1種の活性物質または複数種の活性物質および補助剤を使用して製造され、そして、顔料がマトリックスおよび/または支持体層中に組み込まれており;
b)工程(a)の少なくとも1つのさらなるシートを製造する工程であって、前記シートは顔料の濃度において、および/または用いられる顔料の種類において相違する前記工程;
c)工程(a)および(b)で得られたシートから表面部分または打ち出されたピースを製造する工程;
d)20°~90°の範囲の明度色値L2を有する色チャートを製造または提供する工程;
e)(d)で述べた色チャートに工程(c)で得た部分またはシートを適用または貼付する工程;
f)色チャート上に位置するシートの明度L1の色値を測定し、個々のケースにおいて、L2とL1の差違を決定する工程;
g)明度色値L2の50%以上かつ200%以下である明度色値L1を有するシートを選択する工程;
を含むことを特徴とする、前記方法。」
(2)取消理由通知の概要
当審は平成28年8月9日付けで概要以下のとおりの取消理由(決定の予告)を通知した。
「本件発明1-16は、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1-16に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。」
(3)本件明細書の記載
本件の明細書には、以下の事項が記載されている。
a 「したがって、本発明の目的は、既に存在するか、または時間の経過と共に発生する着色にも拘わらず、特にパッチが適用部位に貼付されたときに、パッチの外観が視覚的に目立たないように確保された、活性物質パッチを提供することにあった。ここでの意図は、好ましくは全世界の住民の最も異なる皮膚色調に適する一定の解決策を見いだすことである。
さらに本発明の目的は、そのような活性物質パッチを得ることができる方法を示すことであった。」(【0009】)
b 「例
1.異なる顔料濃度の支持体層の製造
被覆化合物を、エチルセルロースおよび異なる量の顔料混合物(表1参照)から製造し、これらの化合物を、ドクターナイフにより厚さ15μmのPETフィルム(面積当たりの重量、7~10g/m2)に被覆する。
顔料混合物:
Naturell BB Plv Pigmentを50wt%
Naturell Pulver Pigmentを50wt%
(Cosnaderm Chemische Rohstoffe GmbH, D-68526 Ladenburgより)
対照例で使用されたもの:
(6)PETフィルム、アルミニウムメッキおよびニコチン耐性
(不透明)
(7)PETフィルム、15μm、透明
(8)Scotchpak 1006
2.皮膚パッチの製造
1.で製造した支持体層を用いて皮膚パッチを製造した。このために、Durotak(登録商標)2052(National Starch & Chemical B.V.)を単位面積当たりの重量で80g/m2に塗り広げ、それぞれ1.で製造した支持体層の1つで覆った。その後、個別のパッチを1cm2のサイズの個々のパッチとして打ち出した。
3.ヒト皮膚色に対応する色チャートの製造
ソフトウエア「PowerPoint」(Microsoft)およびカラープリンター(HP-C LaserJet 4500; Hewlett-Packard)を用いて、全世界住民の種々の皮膚色調を表す、8色チャートを作成した。
色チャートの色調は、下表に挙げられる6つのパラメータ、色調、赤、緑、青、彩度、強度により「PowerPoint」で特徴づけられ、これらのパラメータで再現しうる。
色チャートNo. A-Hは、Techkon GmbH(DE-61462 Koenigstein)社の「tristimulus colorimeter CP-320」を用いて測定した。明度L、赤-緑軸a、および黄-青軸bの値(度)を測定した。各々の色チャートについて各10回測定し、平均値を決定した。平均値を以下の表3に表す。
*は、8色チャートの値を用いて決定したそれぞれの平均値である。
見てわかるように、a値がわずかに異ならるだけであるのに対し、明度Lの色値は、大きく変化する。
本発明の原理が有利に用いられ得る肌色範囲は、上述の「L、a、b」システムによれば、特に「5、8、60」から「100、4、0」の範囲を含む。
4.明度値の差異の決定
2.で製造した打ち出した皮膚パッチを3.で製造した色チャートに貼り付けた。その後、添付したパッチの明度色値L1を、3.で説明した測定方法を用いて決定する。得られた測定値L1から、それぞれの背景(すなわち色チャート)の明度値L2との差異を各々の場合において決定した。一方で色チャートA~Hに添付されたパッチタイプ(No.1~5および対照No.6~8)の明度色値L1と他方でそれぞれの色チャートA~Hの明度色値L2間のパーセントの差を、表4に表す。
これによると、すべての色チャートにおいて、透明PETフィルム(7)が明度値(正の対照)に関して最も小さい偏差を示す。
反対に、最も大きな偏差は、対照例(6)および(8)で見られた。
5.視覚評価
ヒトの色認識は、比色分析決定データから逸脱しうることが知られているので、色チャートA~Hに添付した対照例6~8を含む試験パッチの視覚評価は、試験対象により行った。
このために、試験パッチ(1~8)毎に特定の数(たとえば、10)の色チャートA~Hに貼り付けた。
これらの色チャートは、標準条件下(照明、距離、観察時間)での試験対象の群を示す。プロバンド(proband)により検知されなかったパッチの数を、-データの統計評価後-、視覚的な目立ち難さおよびそれによるパッチの視覚遮蔽効果の測定に使用した。
図1において、個々の試験パッチNo.1~8を、それらの視覚的な目立ち難さの順で棒グラフの形で表した(縦軸)。パッチNo.1および対照パッチNo.7は、色チャートのほとんどで知覚されないか、または知覚されにくかった。
」(【0026】-【0038】)
(4)当審の判断
a 「パーセントの差」について
本件発明1は、「-第一の人物に適用された状態で、その適用期間中、パッチで覆われた皮膚部分において、適用されたパッチを囲む同一人物の皮膚の明度色値L2に対し、50%以上かつ200%以下の明度色値L1を有し、
そして
-同じことが任意の第二の人物の皮膚においてもあてはまる、
但し、第一の人物および第二の人物のそれぞれの皮膚の明度色値L2はいずれも5°~100°の範囲内にある」、本件発明2は、同様に「…いずれも20°~90°の範囲内にある」との物性値で規定されるものであるところ、係る明度色値に関し、本件発明の実施例(上記(3)b)では、「4.明度値の差異の決定」との項において、「一方で色チャートA~Hに添付されたパッチタイプ(No.1~5および対照No.6~8)の明度色値L1と他方でそれぞれの色チャートA~Hの明度色値L2間のパーセントの差を、表4に表す。」としているが、係る「パーセントの差」に関し、これがどのような値を示すものか、明細書の何れにも定義がなく、如何なる記載を参酌しても判然としない。
職権で調査したところによれば、特許権者は、本件審査段階で提出した平成26年10月22日提出の意見書の「2.表4における「パーセントの差」について」において、以下のとおり主張する。
「L1とL2との「パーセントの差」は…以下に述べるとおり、|L1-L2|/L2で表されるものであります。
…表4中の数値は一定の値を示すL2の値に基づくものでありますから、この本願明細書[0033]の表3において示されている各色チャートのL2値および表4中の数値Lに基づき、L1の値、およびL2に対するL1のパーセンテージ(%)を容易に算出できます。一例として審判官殿ご指摘のパッチNo.4(2.00%顔料)のEについて具体的に説明します。
まず、色チャートEのL2値は、50.596(表3)であります。表4中のパッチNo.4のLは33.528%であり、これは、L1およびL2の差が33.528%であることを示しています。L2は前記のとおり50.596でありますから、L1は次の二通りがあります。すなわち、
『・ L1が33.63(L1=L2-L2のL%、すなわち「50.596-(50.596×0.33528)」)であり、したがって、L1がL2の66.5%、
または、
・ L1が67.57(L1=L2+L2のL%、すなわち「50.596+(50.596×0.33528)」)であり、したがって、L1はL2の133.53%、
であり、このいずれも、請求項における規定(L1がL2の50%~200%)の範囲内であります。』(注:『』は、下記検討の補助として付与したものである。)
これらの説明からも分かるとおり、表4における数値Lは文字通りL1とL2間の「パーセントの差」であり、これを数式で示すと、L=|L1-L2|/L2であります。」
しかし、この主張の根拠となるものは何ら存在しない。また、上記『』部分の数式は、例えば、第一式から導出されるL1はL2の66.5%ではなく66.472%、すなわち、100%-「33.528」%、第二式から導出されるL1はL2の133.53%ではなく133.528%、すなわち、100%+「33.528」%であり、表4中のパッチNo.4のLの「33.528」なる数値を%表記、「パーセントの差」をL=|L1-L2|/L2と仮定したことを単に繰り返しているに過ぎない。このため、『』部分の数式は、上記「パーセントの差」が|L1-L2|/L2を意味していたことの根拠にはならない。
また、特許権者は、平成28年5月24日提出の意見書において、「前掲意見書での説明の有無に拘わらず、そもそも1/2L2≦L1≦2L2で表される、本件特許明細書におけるL1、L2の定義からして、L1とはL2に対して百分率でいえば、50%~200%の明度ということになるところ、L1とL2とのパーセントの差、すなわち、L2を100%とした場合のL1との百分率での絶対値差は単純にL(%)=|L1(%)-L2(%)|となります。L1、L2のそれぞれの実数でこれを表すとL(%)=|L1/L2-1|(×100%)(=|L1-L2|/L2(×100%))ということになるのは明らかであります。」と主張する。
しかし、「本件特許明細書におけるL1、L2の定義からして、L1とはL2に対して百分率でいえば、50%~200%の明度ということになる」としても、それをどのように考慮すれば上記「パーセントの差」を|L1-L2|/L2と解することができるのか、明細書の如何なる記載を参酌しても何ら明らかでない。
さらに、特許権者は、平成28年11月14日提出の意見書において、「色の測定において「パーセントの差」である|L1-L2|/L2(×100%)は、参考資料2…にみられるように、当該技術分野においてしばしば用いられる周知のパラメータであります。また逆に|L1-L2|/L2(×100%)の意味を表現する用語として「パーセントの差」は、その意味を最も端的に表しているといえることから、本件特許明細書ではこの用語を用いているのであります。
例えば、前記参考資料では、ヒトの肌色の測定に関し、3種の測定機械を比較しています。ここで、「パーセントの差」を判断するために、肌の処置前後の差として、In vivo measurementsの項において%の相対差を「(後の値-前の値)/前の値×100」の式を用いて計算すると記載され、また、表4および表8において、%の変動の最大変数が、
(最高値-最低値)/最低値×100の式
を用いて計算されています。この計算からも明らかなとおり、パーセントの差を判断することは当該技術分野において周知のことであるところ、同資料においては「%の変動の最大変数」という用語や、「%の相対差」という用語を用い、「パーセントの差」という用語をあえて用いていません。しかしながらこれらの用語はその意味するところを却って分かり難くする恐れがあることから、本件特許明細書ではより端的な表現である「パーセントの差」の用語を明記したまでであります。」と主張する。
しかし、参考資料2と本件発明とは如何なる関連があるのか何ら明らかでなく、本件発明における「パーセントの差」を参考資料2で示される「%の相対差」、すなわち「(後の値-前の値)/前の値×100」の式を用いて計算するものであると解される根拠を、特許権者は何ら示しておらず、また、明細書の如何なる記載を参酌しても何ら明らかでない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1-16を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
そして、本件特許の発明の詳細な説明により示された事項が、本件発明を実施したものか否かを確定することができないことに鑑みると、本件発明1-16は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
b 「適用されたパッチを囲む同一人物の皮膚の明度色値L2に対し、50%以上かつ200%以下の明度色値L1」について
もし特許権者が主張するとおり、「パーセントの差」が|L1-L2|/L2を意味するものとすれば、例えば表4中のパッチNo.5のBにおいては、21.791-(21.791×0.545)≒9.915、21.791+(21.791×0.545)≒33.607となり、33.607は「50%以上かつ200%以下」の範囲内(すなわち21.791×50%=10.8955~21.791×200%=43.582の範囲内)であるが、9.915はこの範囲外である。そうすると、示されたデータをみるに、パッチNo.5は本件発明の範囲内にあると認識できるものであるのか否か確定することができない。このため、本件発明を追試した際どのような値を示したときが本件発明を実施したもの、あるいはそうでないものかを確定することができない。
そもそも「明度色値L2に対し、50%以上かつ200%以下の明度色値L1」との定義に関し、L1の上限値はL2の2倍、下限値はL2の1/2倍というのは、採りうる数値幅が下方が上方の1/2であることを意味し、単純な差の絶対値(あるいはそれを定数で除したもの)でその数値の実施及びそれを採用したことによる効果の確認がどのようにして可能であるのか、見当が付かない。
また、特許権者は、平成28年5月24日提出の意見書において、「Bの明度値、すなわちL2は21.791とA~Hの中で最も明度の低い色チャートであって、Bに適用されたパッチ上のL1値は、これと比べて高い明度となります。したがって、L2に対するパーセント差である(100±54.5)%という2つの可能性のうち、L1がL2よりも暗い(低い)ことを意味するL2の(100-54.5)%ではなく、L1がL2よりも明るい(高い)ことを意味するL2の(100+54.5)%であることは明らかでありますから、パッチNo.5が適用されたパッチを囲む同一人物の皮膚の明度色値L2に対し、50%以上かつ200%以下の明度色値L1を満たしていることもまた明らかであります。なお、以上のとおりでありますから、L1の実数値は21.791×1.545=33.667ということになります。」と主張する。
しかし、本件発明の実施例(【0026】-【0038】)において用いられた本件発明に係るパッチはどのような色調のものであるのか明らかでなく、また、平成28年5月24日提出の意見書において「仮に例えば緑色系のパッチであったとしても」とあるように、どのような色調のものまでも本件発明に包含されるのか明らかでないことに鑑みると、Bに適用されたパッチは、どのような色調となっているのか予想することは困難であり、必ずしも「L1がL2よりも明るい(高い)ことを意味するL2の(100+54.5)%であることは明らか」ということはできない。このため、この主張を採用することはできない。
さらに、特許権者は、平成28年11月14日提出の意見書において、「No.5のパッチがどのような色調であったとしても、最も暗い肌色であるB…における「パーセントの差」が54.5であるのに対して、これよりも明るい肌色であるF…における「パーセントの差」が28.4であり、さらに明るい(注:実際はBよりも明るく、Fよりも暗い)肌色であるC…における「パーセントの差」が19.2であることに鑑みれば、Bに適用したNo.5のパッチのL1値がBのL2値よりも明るくなることは自明のことであり、これは、パッチの彩度が何であれ、これは明度に影響せず、Bに適用されたパッチが、「L1がL2よりも明るい(高い)ことを意味するL2の(100+54.5)%」となることは何ら疑う余地のないことであるところ、何ら具体的根拠を示すことなく、「『L1がL2よりも明るい(高い)ことを意味するL2の(100+54.5)%であることは明らか』ということはできない」とする審判官殿の認定は当を得ないものと言わざるを得ません。」と主張する。
しかし、本件発明は、請求項1及び2の双方に示される
「-第一の人物に適用された状態で、その適用期間中、パッチで覆われた皮膚部分において、適用されたパッチを囲む同一人物の皮膚の明度色値L2に対し、50%以上かつ200%以下の明度色値L1を有し、
そして
-同じことが任意の第二の人物の皮膚においてもあてはまる」
と規定されるものであり、「Bに適用されたパッチが、「L1がL2よりも明るい(高い)ことを意味するL2の(100+54.5)%」となる」ものには限定されない。このため、この主張を勘案する理由がない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1-16を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
そして、本件特許の発明の詳細な説明により示された事項が、本件発明を実施したものか否かを確定することができないことに鑑みると、本件発明1-16は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
c パッチの光学的特徴について
請求項1には「-皮膚から離れた側においてパッチの支持体層が、顔料を含む被覆で覆われ、および/または、支持体層中に顔料が組み込まれており」と規定されている。しかし、本件発明の実施例では特定の二種類の顔料の当量混合物を使用したもののみである。このような混合物を使用した場合には、請求項1で規定した条件を満たすとしても、他にどのような顔料(混合物)を使用すれば、同条件を満たすものを製造しうるのか、発明の詳細な説明の記載をみても理解することができない。また、顔料の含有量についても、図1の記載からみて、特定の量以下に限られるものと解される。この点からみても、本件発明1はどのようにすれば実施しうるのか、本件発明1の所望の作用効果を奏するように実施しうるのか判然としない。
そして、請求項2においても、「-皮膚から離れた側においてパッチの支持体層が、顔料を含む被覆で覆われ、および/または、支持体層中に顔料が組み込まれており」と規定されており、本件発明2についても、本件発明1と同様の理由で、どのようにすれば実施しうるのか、本件発明2の所望の作用効果を奏するように実施しうるのか判然としない。
特許権者は、平成28年11月14日提出の意見書において、「本件特許発明においては、顔料を用いる目的は、パッチの明度を調整するためのものであって、どのような種類の顔料であろうとその目的を達成するものであれば適宜選択すればよいのでありますから、実施例の記載に準じてその他の顔料の場合も実施できることは明らかというべきであります。」と主張する。
しかし、顔料によるパッチの明度の調整において、係る顔料やその組合せが実施例と異なる物の場合、本件発明1及び2の双方に示される
「-第一の人物に適用された状態で、その適用期間中、パッチで覆われた皮膚部分において、適用されたパッチを囲む同一人物の皮膚の明度色値L2に対し、50%以上かつ200%以下の明度色値L1を有し、
そして
-同じことが任意の第二の人物の皮膚においてもあてはまる」
との規定を満たすようにするにはどのように調整すればよいのか、当業者が過度の試行錯誤を要するものと認められる。この点からみても、本件発明1及び2はどのようにすれば実施しうるのか、本件発明1及び2の所望の作用効果を奏するように実施しうるのか判然としない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2、及びこれに従属する本件発明3-16を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
そして、本件発明1、2、及びこれに従属する本件発明3-16は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
d 「マトリックスの少なくとも1層が活性物質を含み」について
請求項1には「単層または多層構造マトリックス、ならびに前記マトリックスに連結する支持体層を含む医薬活性物質パッチであって、
-マトリックスの少なくとも1層が活性物質を含み」と規定されている。ところで、上記(3)aからみて、本件発明の解決しようとする課題は「既に存在するか、または時間の経過と共に発生する着色にも拘わらず、特にパッチが適用部位に貼付されたときに、パッチの外観が視覚的に目立たないように確保された、活性物質パッチを提供すること」にあるものと認められるところ、本件発明の実施例(上記(3)b)には「活性物質」が含まれたマトリックスを有するものが記載されておらず、「既に存在するか、または時間の経過と共に発生する着色にも拘わらず、特にパッチが適用部位に貼付されたときに、パッチの外観が視覚的に目立たない」ことについては、解決されたことが明確にされていない。このため、本件発明1は所望の作用効果を奏するように実施しうるのか判然としない。
また、特許権者は、平成28年5月24日提出の意見書において、「そもそも活性物質パッチの目立ちやすさは、パッチの透明度、明るさ、すなわち、そこにも用いられる染料および/または顔料(活性物質などの着色または変色成分を含む)の濃度により本質的に決定されるところ、活性物質は、着色または変色に寄与する物質であればパッチの目立ちやすさに影響するだけであって、本件特許発明においてはそれ以上でも以下でもありませんから、活性物質の有無に拘わらず、実施例の記載のとおりの工程により請求項1に記載のパッチが得られることは、すでに明らかなことと思料します。」と主張する。
しかし、本件発明1が「時間の経過と共に発生する着色にも拘わらず、特にパッチが適用部位に貼付されたときに、パッチの外観が視覚的に目立たないように確保された」ことを解決しようとする課題としている以上、これが解決されていることを確認できないからには、本件発明1は何を目的としているものか皆目見当が付かず、本件発明1のパッチを製造してみても、それが本件発明1の目的を達成するように製造できているのか否か、確認することができない。このため、本件発明1は一体どのようにすれば実施しうるのか、依然として皆目見当が付かず、上記主張を採用することはできない。
そして、請求項2においても、「単層または多層構造マトリックス、ならびに前記マトリックスに連結する支持体層を含む医薬活性物質パッチであって、
-マトリックスの少なくとも1層が活性物質を含み」と規定されており、本件発明2についても、本件発明1と同様の理由で、所望の作用効果を奏するように実施しうるのか判然としない。
さらに、特許権者は、平成28年11月14日提出の意見書において、「「最初から存在する着色」については、得られたパッチの明度について、実施例に記載の通りの方法で、本願発明のパッチを製造することができ、「時間の経過とともに発生する着色」、例えばニコチンなどの変色については、当業者であれば経験上、通常の使用期間における変色の程度を理解していますから、候補パッチの作製に際し、使用前と使用後の明度の変化を予め確認しておくことで、L値の異なる複数の候補パッチを適切に作成することができ、結果として本件特許発明を実施することは可能となります」と主張する。
しかし、「時間の経過とともに発生する着色」が存在するのであれば、「使用前と使用後の明度の変化を予め確認しておく」際に、その色の変化が既にパッチに存在する顔料の色と合わさった場合、どのような色の変化やL値の変化をもたらすのか、それは顔料やその組合せが異なる場合ではどのような変化を生じるのか、当業者が過度の試行錯誤を要するものと認められる。この点からみても、本件発明1及び2はどのようにすれば実施しうるのか、本件発明1及び2の所望の作用効果を奏するように実施しうるのか判然としない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2、及びこれに従属する本件発明3-16を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
そして、本件発明1、2、及びこれに従属する本件発明3-16は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
4 むすび
以上のとおり、本件発明1-16に係る特許は、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1-16に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2015-700275