特許異議申立
2015-700019
加工飲食品及び容器詰飲料
- 審判番号
- 2015-700019
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-084039
- 登録番号
- 特許第5694588号(P5694588)
- 請求日
- 2015年09月17日
- 審決日
- 2016年08月03日
- 公報発行日
- 2018年02月23日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】キッコーマン株式会社
- 【権利者代理人】栗原 浩之
- 【権利者代理人】村中 克年
- 【権利者代理人】山▲崎▼ 雄一郎
- 【権利者】日本デルモンテ株式会社
- 【権利者代理人】栗原 浩之
- 【権利者代理人】山▲崎▼ 雄一郎
- 【異議申立人】川田 真衣
- 【異議申立人代理人】桐山 大
- 審判長/審判官
- 審判長 鳥居 稔
- 審判官 千壽 哲郎
- 審判官 紀本 孝
- 分類
- P1651.536-ZAA(A23L) / P1651.537-ZAA(A23L) / P1651.113-ZAA(A23L) / P1651.121-ZAA(A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5694588号「加工飲食品及び容器詰飲料」の請求項1~9に係る特許に対する特許異議の申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5694588号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~9〕について、訂正することを認める。
特許第5694588号の請求項1~9に係る特許を取り消す。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第5694588号(以下「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成27年2月13日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人川田真衣より特許異議の申立てがなされ、平成27年12月8日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年2月9日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がなされた。その後、平成28年3月15日に特許異議申立人より意見書の提出がなされ、平成28年5月6日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成28年6月14日に特許権者より意見書の提出がなされたものである。
第2 訂正の請求
1 訂正の内容
平成28年2月9日付け訂正請求書による訂正の請求は、「特許第5694588号の明細書、特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を、次のように訂正するものである(下線は、訂正箇所を示す)。
(1) 訂正事項1(請求項1~9からなる一群の請求項に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項1に「16メッシュの篩を通過し、かつ35メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が25重量%以下である」とあるのを、「16メッシュの篩を通過し、かつ35メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が5重量%以上25重量%以下である」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2~9についても同様に訂正する。)
(2) 訂正事項2(請求項1~9からなる一群の請求項に係る訂正)
願書に添付した明細書の段落【0008】に記載された「16メッシュの篩を通過し、かつ35メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が25重量%以下である」とあるのを、「16メッシュの篩を通過し、かつ35メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が5重量%以上25重量%以下である」に訂正する。
2 訂正の適否
(1) 訂正事項1
上記訂正事項1は、訂正前の「16メッシュの篩を通過し、かつ35メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が25重量%以下である」という数値範囲の下限を何ら特定しないものを、「16メッシュの篩を通過し、かつ35メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が5重量%以上25重量%以下である」として、下限が5重量%であることを特定し、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
そして、上記訂正事項1において限定した事項は、本件特許明細書の段落【0042】の「・・・16メッシュの篩を通過し、かつ35メッシュの篩を通過しない不溶性固形分(以下、第2不溶性固形分と称する)の割合は、50重量%以下とすることが好ましく、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは25重量%以下である。」との記載、及び【図1】中に記載された実施例のうち、「官能検査総合評価」が「◎(商品としての適性に非常に優れている。具体的には、粗ごし感及び野菜果実感が4以上であり、かつ、飲み易さが5である。)」又は「○(商品としての適性に優れている。具体的には、粗ごし感及び野菜果実感が5であり、かつ、飲み易さが3以上であるか、又は粗ごし感及び野菜果実感が3以上であり、かつ、飲み易さが4以上である。)」とされる実施例A1~A3、B1~B5、C1~C2の第2不溶性固形分の割合についての上限が25重量%で、下限は実施例C2の5重量%であることに基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(2) 訂正事項2
上記訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、願書に添付した明細書の段落【0008】に記載された「16メッシュの篩を通過し、かつ35メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が25重量%以下である」を、「16メッシュの篩を通過し、かつ35メッシュの簡を通過しない前記不溶性固形分の割合が5重量%以上25重量%以下である」と訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
そして、上記訂正事項2の内容が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは、上記(1)に示したとおりであるから、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
3 まとめ
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項又は第6項に適合するので、訂正後の請求項〔1~9〕からなる一群の請求項について訂正を認める。
第3 本件特許発明
上記のとおり訂正が認められるから、本件特許の請求項1~9に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
野菜または果実を破砕して得られた不溶性固形分を含む加工飲食品であって、
6.5メッシュの篩を通過し、かつ16メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が10重量%以上であり、
16メッシュの篩を通過し、かつ35メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が5重量%以上25重量%以下である
ことを特徴とする加工飲食品。
【請求項2】
請求項1に記載する加工飲食品において、
6.5メッシュの篩を通過し、かつ10メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が10重量%以上である
ことを特徴とする加工飲食品。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する加工飲食品において、
ベーダカロテンの含有量は、100グラムあたり100マイクログラム以上20000マイクログラム以下である
ことを特徴とする加工飲食品。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか一項に記載する加工飲食品において、
食物繊維の含有量は、100グラムあたり0.5グラム以上である
ことを特徴とする加工飲食品。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか一項に記載する加工飲食品において、
リコピンの含有量は、100グラムあたり15ミリグラム以下である
ことを特徴とする加工飲食品。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか一項に記載する加工飲食品において、
カリウムの含有量は、100グラムあたり100ミリグラム以上1000ミリグラム以下である
ことを特徴とする加工飲食品。
【請求項7】
請求項1~請求項6の何れか一項に記載する加工飲食品において、
グルタミン酸の含有量は、0.280重量%以下である
ことを特徴とする加工飲食品。
【請求項8】
請求項1~請求項7の何れか一項に記載する加工飲食品において、
野菜搾汁又は/及び果実搾汁とを含む
ことを特徴とする加工飲食品。
【請求項9】
請求項1~請求項8の何れか一項に記載する加工飲食品が容器に封入されたことを特徴とする容器詰飲料。」
第4 取消理由の概要
平成27年12月8日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである。
[理由1]
本件特許の請求項1~9に係る発明の「不溶性固形分の割合」について、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載では、当該「不溶性固形分の割合」の測定方法が不明瞭であるため、上記請求項1~9に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
よって、本件特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
[理由2]
本件特許の請求項1~9に係る発明は、その「不溶性固形分の割合」がどのようなものであるのかが特定できないため、不明確である。
よって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
[理由3]
本件特許の請求項1~9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(下記引用文献)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[理由4]
本件特許の請求項1~9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(下記引用文献)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献:特許第5411996号公報(甲第2号証)
第5 取消理由についての判断
1 理由1について
(1)「不溶性固形分の割合」の測定方法に関して、本件特許明細書には、以下の記載がある(下線は、当審にて付与した。)。
ア 「【0035】
本発明に係る不溶性固形分とは、ニンジンやパイナップル等の野菜または果実の可溶性固形分以外の成分であり、その粒子の分布は次の通りである。
【0036】
本発明に係る加工飲食品全体のうち、6.5メッシュの篩を通過し、かつ16メッシュの篩を通過しない不溶性固形分(以下、第1不溶性固形分と称する)の割合は、10%以上である。メッシュとは、1インチ(2.54cm)の間に目の数が幾つあるかを示す数字であり、針金の太さと目の間隔はJIS規格で規定されている。不溶性固形分は、日本農林規格のえのきたけ缶詰又はえのきたけ瓶詰の固形分の測定方法に準じて測定することができる。すなわち、測定したいサンプル100グラムを水200グラムで希釈し、16メッシュの篩等の各メッシュサイズの篩に均等に広げて、10分間放置後の各篩上の残分重量を重量パーセントで表した値を、本発明の粗ごし感を有する不溶性固形分と定義する。この時、10メッシュの篩も単独でまたは16メッシュの篩等と重ねて使用することができるが、10メッシュの篩上の残分は16メッシュ上の残分よりも不溶性固形分が大きいためにより明確に粗ごし感や野菜感や果実感を実感することができる。ただし、使用する野菜または果実自体の硬度や水分さらには殺菌等の熱処理耐性により実感できる粗ごし感はある程度左右される。しかしながら、20メッシュ以下の細かい網サイズの篩を通過してしまう不溶性固形分は、粗ごし感が十分でなく、逆に粘性やとろみまたはドロドロ感を想起するようになるため、本発明の粗ごし感には定義されない。
【0037】
使用する篩はJIS規格で規定されたメッシュ網が設置されていればよく、例えば直径10センチメートル深さ4.5センチメートルの円筒型篩等が使用できるが、不溶性固形分を測定できれば篩の直径や深さを適宜増減させてもよい。しかし、不溶性固形分がメッシュ上に均一に広がる程度のメッシュ面積が必要で、メッシュ上に不溶性固形分が厚さ5ミリメートル以下にならなければ再現性よく測定することができない。
【0038】
篩上の残存物は、基本的には不溶性固形分であるが、サンプルを上述のように水で3倍希釈してもなお粘度を有している場合は、たとえメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分であっても篩上に残存する場合があり、その場合は適宜水洗しメッシュ目開きに相当する大きさの不溶性固形分を正しく測定する必要がある。」
イ 「【0088】
[試験例1]
各実施例及び比較例について、不溶性固形分の割合を測定した。具体的には、上から順番に6.5メッシュ、10メッシュ、16メッシュ、20メッシュ、35メッシュの各篩を直列に設置し、実施例及び比較例各100gと水200gとを混和したものをこれらの篩にかけ、10分間静置後に(1)6.5メッシュの篩を通過し10メッシュの篩を通過しないもの、(2)10メッシュの篩を通過し16メッシュの篩を通過しないもの、(3)16メッシュの篩を通過し20メッシュの篩を通過しないもの、(4)20メッシュの篩を通過し35メッシュの篩を通過しないものをそれぞれ計量した。そして、試験に用いた実施例及び比較例の総量(ここでは100g)に対する各(1)~(4)の割合を不溶性固形分の割合とした。例えば、実施例A1では、(1)の不溶性固形分の割合が75重量%、同(2)が8重量%、同(3)が4重量%、同(4)が8重量%であった。」
(2) 判断
上記段落【0038】の「サンプルを上述のように水で3倍希釈してもなお粘度を有している場合は、たとえメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分であっても筒上に残存する場合があり、その場合は適宜水洗しメッシュ目開きに相当する大きさの不溶性固形分を正しく測定する必要がある」という記載によれば、不溶性固形分の測定に当たり、「なお粘度を有している」か否かの判断基準が必要となる。また、「適宜水洗」する程度についても何らかの手順等の特定が必要となる。
しかしながら、本件特許明細書においては、何をもって粘度を有していると判断し、水洗が必要であるとするのか、その基準が開示されていない。
本件特許の請求項1~9に係る発明が対象とする加工飲食品は、その組成からみて多少の粘度を有していることは明らかであるところ、「なお粘度を有している」ことについての基準が開示されていなければ、その後の水洗いの要否を当業者は判断することはできない。
そして、水洗が必要であると判断した場合であっても、水洗の手順によって測定結果が大きく変化することは当業者において容易に想像し得るところ、水洗をどのような手順で行うか(例えば、どの程度の水量で、どの程度の水の勢いで水洗するか等)についても何ら開示はされていない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の請求項1~9に係る発明の「不溶性固形分の割合」の測定方法を当業者が適切に再現することができないものとなっている。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の請求項1~9に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(3) 特許権者の主張について
ア 特許権者は、上記(2)に関して、以下のとおり主張する。
「明細書には、「必要に応じて、水洗した上で不溶性固形分の割合を測定する」という趣旨の記載がある(段落0038)。この水洗の必要性を判断する上での基準が不明であるので、実施不可能であるとされている。
しかしながら、段落0037には「メッシュ上に不溶性固形分が厚さ5ミリメートル以下にならなければ再現性よく測定することができない。」と記載されている。つまり、メッシュ上の不溶性固形分が厚さ5ミリメートル以下となっていればよいことが記載されている。
したがって、当該記載からすれば、当業者は、粘度の程度が不明であっても、厚さが5ミリメートル以上であれば相当の粘度があると推定でき、水洗が必要となることが判断できる。また、水洗の程度についても、上記記載によれば、不溶性固形分の厚さが5ミリメートル以下となれば十分であると判断することができる。
このように、本願の発明の詳細な説明には、水洗の必要性を判断する上での基準が明確に記載されている。よって、発明の詳細な説明は、本発明について、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されている。」(平成28年2月9日付け意見書7頁1~15行)
しかしながら、上記「(1)ア」に摘示したとおり、【0037】の「メッシュ上に不溶性固形分が厚さ5ミリメートル以下にならなければ再現性よく測定することができない。」との記載は、同段落の「使用する篩はJIS規格で規定されたメッシュ網が設置されていればよく、例えば直径10センチメートル深さ4.5センチメートルの円筒型篩等が使用できるが、不溶性固形分を測定できれば篩の直径や深さを適宜増減させてもよい。」とする、使用する篩に関わる記載である。同段落は、その記載から理解されるとおり、不溶性固形分を再現性よく測定するためには、不溶性固形分がメッシュ上に均一に広がる程度のメッシュ面積が必要で、当該メッシュ上に不溶性固形分を厚さ5ミリメートル以下にするようにしなければならないので、そのようにできる直径や深さの篩を適宜に選択するということを説明するものであって、篩上の残存物の粘度によっては水洗する必要性があるとすることとは何ら関係のない記載であることは明らかである。
そして、本件特許明細書のその余の記載においても、篩上の残存物について、いかなる基準で「なお粘度を有している」と判断し、水洗が必要であるとするのかは示されていない。
よって、特許権者の上記主張は失当であり、採用することはできない。
イ また、特許権者は、上記(2)に関して、以下のとおり主張する。
「まず、「上記段落0038の記載によれば、不溶性固形分が粘度を有しているか否かの判断基準が必要となる」との認定は誤りである。段落0038の記載は「不溶性固形分が粘度を有していれば、たとえメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分であっても篩上に残存する場合がある」ことを述べている。つまり、当該記載は、「本来であれば通過しなければならないような大きさの不溶性固形分が篩に残る場合」を規定するものであり、粘度を判断する必要はない。
すなわち、当業者は、「水洗を行うか否かについての判断基準は、本来であれば通過しなければならないような大きさの不溶性固形分が篩に残っている場合である」と解するのは明らかである。
また、「その場合は適宜水洗しメッシュ目開きに相当する大きさの不溶性固形分を正しく測定する必要がある。」との記載は、「メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分であっても篩に残存したものを適宜洗い流してメッシュ目開きに相当する大きさの不溶性固形分を正しく測定する」という意味であることは当業者にとって明らかである。したがって、当業者は、そのために適した水量、水勢を設定して水洗を行うことができる。
上述したように、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、水洗を行うか否かについての判断基準が記載されており、かつ、水洗の程度が判断できる程度に記載されているので、不溶性固形分の割合の測定方法が当業者に適切に再現することができるものとなっている。」(平成28年6月14日付け意見書3頁14行~4頁4行)
しかしながら、段落【0038】の「サンプルを上述のように水で3倍希釈してもなお粘度を有している場合は、」との記載は、当該記載のとおりに理解することができるものである。そして、当業者は、当該記載に従って、サンプルが「なお粘度を有している」か否かを判断することが必要となるが、本件特許明細書には、不溶性固形分の測定に当たり、「なお粘度を有している」か否かの判断基準が開示されていないことは、上記(2)に示したとおりである。
よって、上記「なお粘度を有している場合」という記載は、そのとおりに理解できるものである以上、当該記載を「本来であれば通過しなければならないような大きさの不溶性固形分が篩に残る場合」と解釈すべきとする特許権者の上記主張は失当であり、採用することはできない。
なお仮に、上記「なお粘度を有している場合」という記載が、特許権者の主張するとおり、「本来であれば通過しなければならないような大きさの不溶性固形分が篩に残る場合」と解釈すべきものであるとしても、サンプルがそのような場合となっている状態であるか否かを判断するために、本件特許明細書に開示のない判断基準が必要とされることに変わりはない。
また、段落【0038】の「その場合は適宜水洗しメッシュ目開きに相当する大きさの不溶性固形分を正しく測定する必要がある。」との記載について、特許権者の主張するとおり、「メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分であっても篩に残存したものを適宜洗い流してメッシュ目開きに相当する大きさの不溶性固形分を正しく測定する」という意味であり、そのために適した水量、水勢を設定して水洗を行うことができるとするものとしても、当該手順は、段落【0036】記載の日本農林規格のえのきたけ缶詰又はえのきたけ瓶詰の固形分の測定方法に準じた測定、すなわち、測定したいサンプル100グラムを水200グラムで希釈し、16メッシュの篩等の各メッシュサイズの篩に均等に広げて、10分間放置するという測定手順とは相当異なる手順を行うものであって、当該手順を追加的に行うか否かによって測定結果が大きく変化することが当業者において容易に想像し得るところであるから、結局、当該手順を追加的に行うか否かの判断基準が明らかにされなければ、不溶性固形分の割合の測定方法を当業者が適切に再現することはできない。
よって、特許権者の上記主張は失当であり、採用することはできない。
2 理由2について
本件特許の請求項1に記載された「不溶性固形分の割合」は、上記「理由1」で述べたとおり、その測定方法が当業者に適切に再現することができないものとなっているため、結局、「不溶性固形分の割合」としてどのようなものが特定されているのか明らかでなく、特定しようとする発明を不明確にしている。請求項1を引用する請求項2~9についても同様である。
よって、本件特許の請求項1~9の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
3 理由3及び理由4について
(1) 請求項1に対して
ア 引用発明
上記引用文献(特許第5411996号公報)には、
「りんご果肉、なし果肉、桃果肉、キウィ果肉、ブドウ果肉、かんきつ類果肉、かんきつ類さのう、かんきつ類パルプおよびイチゴ果肉等の果実類を擦りおろした果肉等を固形分として1~64質量%含有する固形分含有容器詰飲料であって、前記固形分は6メッシュを通過し、20メッシュを通過しない粒度である、固形分含有容器詰飲料。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている(【0021】、【0027】、【0036】等参照)。
イ 対比
請求項1に係る発明と引用発明とを対比すると、両者は
「野菜または果実を破砕して得られた不溶性固形分を含む加工飲食品。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
不溶性固形分について、請求項1に係る発明は、6.5メッシュの篩を通過し、かつ16メッシュの篩を通過しない不溶性固形分の割合が10重量%以上であり、16メッシュの篩を通過し、かつ35メッシュの篩を通過しない不溶性固形分の割合が5重量%以上25重量%以下であるのに対して、引用発明は、6メッシュを通過し、20メッシュを通過しない粒度のものを1~64質量%含有するものである点。
ウ 判断
上記相違点について検討する。
引用発明は「6メッシュを通過し、20メッシュを通過しない粒度」の不溶性固形分を64重量%まで含み得るものであるところ、当該固形分に対して6.5メッシュ及び16メッシュの篩を適用すると、6.5メッシュの篩を通過し、かつ16メッシュの篩を通過しない粒度の範囲は、6メッシュを通過し、20メッシュを通過しない粒度に含まれる範囲であって、かつ、その相当部分をカバーするものであることを考慮すれば、6.5メッシュの篩を通過し、かつ16メッシュの篩を通過しない不溶性固形分の割合が10重量%以上となる蓋然性は高いといえる。
一方、請求項1に係る発明の「16メッシュの篩を通過し、かつ35メッシュの篩を通過しない不溶性固形分の割合が5重量%以上25重量%以下である」点は、6メッシュを通過し、20メッシュを通過しない粒度の範囲と部分的にしか重複せず、かつ、その重複部分は6メッシュを通過し、20メッシュを通過しない粒度の範囲の一部分しかカバーしないものであることを考慮すれば、引用発明の「6メッシュを通過し、20メッシュを通過しない粒度」の不溶性固形分に対して16メッシュ及び35メッシュの篩を適用すると、16メッシュの篩を通過し、かつ35メッシュの篩を通過しない不溶性固形分の割合が5重量%以上25重量%以下となるとは必ずしもいえない。
よって、請求項1に係る発明は、引用発明であるということはできない。
また、引用発明からは、不溶性固形分の粒度分布について、「6.5メッシュの篩を通過し、かつ16メッシュの篩を通過しない不溶性固形分の割合」を「10重量%以上」とし、「16メッシュの篩を通過し、かつ35メッシュの篩を通過しない不溶性固形分の割合」を「5重量%以上25重量%以下」とするという、2つの粒度分布範囲を特定した上で、さらにその割合を特定するという技術思想を想起することはできない。
そして、請求項1に係る発明は、当該構成により、本件特許明細書の段落【0009】記載の「かかる第1の態様では、野菜または果実を粗ごししたような野菜感、果実感、または濃厚な食感を呈し、粗ごし状の固形分が適度に均質分散する加工飲食品が提供される。すなわち、第2不溶性固形分(16メッシュの篩を通過し、かつ35メッシュの篩を通過しない不溶性固形分)特有のドロドロした喉ごしや食感が軽減されるだけでなく、第1不溶性固形分(6.5メッシュの篩を通過し、かつ16メッシュの篩を通過しない不溶性固形分)特有の固形感が強調されて感じられるようになるため、本発明の加工飲食品は、より一層、粗ごしした野菜感、果実感、または濃厚な食感を呈する。」という効果を奏するものである。
よって、請求項1に係る発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ まとめ
よって、請求項1に係る発明は、引用発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、同条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。
(2) 請求項2~9に対して
請求項2~9に係る発明は、いずれも請求項1に係る発明を引用する発明であるところ、上記(1)のとおり、請求項1に係る発明は、引用発明ではなく、また、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、請求項2~9に係る発明も、同様に、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。
第6 むすび
以上のとおり、
(1)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の請求項1~9に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、
(2)本件特許の請求項1~9の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2015-700019