特許異議申立
2016-700990
ナリンゲニンカルコン高含有トマト
- 審判番号
- 2016-700990
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2009-231558
- 登録番号
- 特許第5905186号(P5905186)
- 請求日
- 2016年10月14日
- 審決日
- 2017年10月03日
- 公報発行日
- 2018年03月30日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】キッコーマン株式会社
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】大貫 敏史
- 【権利者代理人】江口 昭彦
- 【権利者代理人】内藤 和彦
- 【権利者】日本デルモンテ株式会社
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】大貫 敏史
- 【権利者代理人】江口 昭彦
- 【権利者代理人】内藤 和彦
- 【異議申立人】川田 真衣
- 【異議申立人代理人】桐山 大
- 審判長/審判官
- 審判長 小野 忠悦
- 審判官 前川 慎喜
- 審判官 住田 秀弘
- 分類
- P1651.537-ZC (A01G) / P1651.536-ZC (A01G) / P1651.121-ZC (A01G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5905186号発明「ナリンゲニンカルコン高含有トマト」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5905186号の請求項1に係る特許を取り消す。
特許第5905186号の請求項2ないし5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5905186号の請求項1ないし5に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成21年10月5日に特許出願され、平成28年3月25日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人川田真衣(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年1月31日付けで取消理由が通知され、平成29年4月4日に特許権者キッコーマン株式会社外1名(以下「特許権者」という。)より意見書が提出された。そして平成29年6月29日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは応答がなかった。
第2 本件発明
特許第5905186号の請求項1ないし5の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである(以下それぞれ「本件発明1」などという。)。
「【請求項1】
og遺伝子を有する系統に、hp遺伝子を有する系統を交雑し育種選抜する、
完熟期における、トマト乾燥果皮1gあたりナリンゲニンカルコン含量が10mg以上である、トマトの製造方法であって、
前記og遺伝子を有する系統がDR736TM、ベルハーベスト2号、なつのしゅん、およびNT604からなる群から選ばれる少なくとも一種を交雑して得られる系統であり、
前記hp遺伝子を有する系統が盛岡10号、盛岡17号(ふりこま)、Manapal、なつのこま、およびとまと中間母本農10号からなる群から選ばれる少なくとも一種を交雑して得られる系統である、製造方法。
【請求項2】
DR736TMおよび盛岡10号から育種選抜した系統を交雑して得られる系統と、ベルハーベスト2号および盛岡10号から育種選抜した系統を交雑して得られる系統を交雑し育種選抜する、
完熟期における、トマト乾燥果皮1gあたりナリンゲニンカルコン含量が10mg以上である、トマトの製造方法。
【請求項3】
受託番号がFERM P-21851である、トマト。
【請求項4】
受託番号がFERM P-21851として受託されている、トマトの種子。
【請求項5】
受託番号がFERM P-21851として受託されている、トマトの苗木。」
第3 取消理由通知に記載した取消理由
取消理由通知に記載した取消理由の概要は以下のとおりである。
1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)(以下「取消理由1」という。)
本件特許の請求項1の、「前記og遺伝子を有する系統がDR736TM、ベルハーベスト2号、なつのしゅん、およびNT604からなる群から選ばれる少なくとも一種を交雑して得られる系統であり、 前記hp遺伝子を有する系統が盛岡10号、盛岡17号(ふりこま)、Manapal、なつのこま、およびとまと中間母本農10号からなる群から選ばれる少なくとも一種を交雑して得られる系統である」「og遺伝子を有する系統に、hp遺伝子を有する系統を交雑し育種選抜する」という記載について、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は同法第113条第4項に該当し取り消すべきものである。
2 特許法第36条第6項第2号(明確性要件違反)(以下「取消理由2」という。)
本件特許の請求項1、2に記載されている、「トマト乾燥果皮1gあたりナリンゲニンカルコン含量」が10mg以上という事項は、「トマト乾燥果皮1gあたり」の「ナリンゲニンカルコン」の「含量」を測定するにあたり、その乾燥条件が任意に定まるため、「トマト乾燥果皮1gあたりナリンゲニンカルコン含量」の意味が一義に定まらないから、不明確である。
よって、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、その記載において、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、その特許は同法第113条第4項に該当し取り消すべきものである。
3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件違反)(以下「取消理由3」という。)
本件明細書には、「トマト乾燥果皮1gあたり」の「ナリンゲニンカルコン」の「含量」を測定するにあたり、その乾燥条件が任意に定まるから、その「含量」を一義的に測定する方法が理解できるように記載されていないので、すなわち、「トマト乾燥果皮1gあたり」の「ナリンゲニンカルコン」の「含量」に関し当業者が請求項に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度の明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件の請求項1ないし5に係る特許は同法第113条第4項に該当し取り消すべきものである。
4 特許法第29条第2項(進歩性欠如)(以下「取消理由4」という。)
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲第5号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2項に該当し取り消すべきものである。
甲第4号証:吉田隆志・有井雅幸監修、小幡明雄著、「植物ポリフェノール含有素材の開発 -その機能と安全性-」、第1刷、株式会社シーエムシー出版、2007年2月28日、p.89-95
甲第5号証:矢ノロ幸夫、外2名、「加工用トマト新品種「なつのしゅん」の育成とその特性」、長野県中信農業試験場報告、2001年3月、第16号、p.l-15
第4 申立された取消理由
取消理由通知において採用しなかった、特許異議申立書に記載された取消理由の概要は以下のとおりである。
1 特許法第36条第4項第1号(以下「申立理由A」という。)
本件発明が解決しようとする課題「食味に優れる完熟期において高含量のナリンゲニンカルコンを含有するトマトを提供すること」(段落【0006】)とその具体的な解決手段「トマト乾燥果皮1gあたりにナリンゲニンカルコンを10mg含有」(段落【0024】)との実質的関係を当業者が理解することはできない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度の明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は同法第113条第4項に該当し取り消すべきものである。
2 特許法第36条第6項第1号(以下「申立理由B」という。)
本件特許の明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識を踏まえても、本件特許の請求項1及び2に係る発明の発明特定事項の「トマト乾燥果皮1gあたりナリンゲニンカルコン含量が10mg以上」によって、本件課題「食味に優れる完熟期において高含量のナリンゲニンカルコンを含有するトマトを提供すること」(段落【0006】)を解決できることを当業者が認識することはできない。
よって、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は同法第113条第4項に該当し取り消すべきものである。
第5 判断
1 取消理由1(サポート要件違反)
(1) 検討
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
ここで、本件発明1の解決すべき課題は、発明の詳細な説明の段落【0006】の「本発明が解決しようとする課題は、食味に優れる完熟期において高含量のナリンゲニンカルコンを含有するトマトを提供することにある。」という記載、また段落【0012】の「(ナリンゲニンカルコン高含有トマト)本発明のトマトは、完熟期におけるナリンゲニンカルコン含量が、10mg以上であることを特徴とする。」という記載からみて、「完熟期における、トマト乾燥果皮1gあたりナリンゲニンカルコン含量が10mg以上」のトマトの製造方法を提供することにほかならない。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明で「完熟期における、トマト乾燥果皮1gあたりナリンゲニンカルコン含量が10mg以上」のトマトの製造方法を提供できることを当業者が認識できる程度に記載されているのは「DR5600種」に係るトマトの製造方法についてのみであり、本件発明1に包含されるトマトの製造方法について、「完熟期における、トマト乾燥果皮1gあたりナリンゲニンカルコン含量が10mg以上」のトマトの製造方法を提供できることを当業者が認識できるに足る記載がなされているとはいえない。また、本件出願時の技術常識から「完熟期における、トマト乾燥果皮1gあたりナリンゲニンカルコン含量が10mg以上」のトマトの製造方法を提供できることを当業者が認識できるとも認められない。
したがって、本件明細書の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものとはいえない。
(2) 特許権者の主張について
ア 主張の内容
特許権者は、平成29年4月4日付け意見書において、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できる旨主張し、その理由として概ね以下のとおり主張している。
本件明細書の発明の詳細な説明には、以下のとおり記載されている。
「【0015】本発明のトマトは、鮮赤色果色遺伝子(og遺伝子)を有する系統に高色素遺伝子(hp遺伝子)を有する系統を交雑し育種選抜することで得ることができる。具体的には、og遺伝子を有する系統にhp遺伝子を有する系統を交雑し、フラボノイドの蓄積性を中心に、収穫性や耐病性に優れる系統の育種選抜を繰り返し行った系統を用いて育種することで得ることができる。
【0016】og遺伝子を有する系統としては、例えば、DR736TM、ベルハーベスト2号、なつのしゅん、およびNT604からなる群から選ばれる少なくとも一種を交雑して得られる系統が挙げられ、hp遺伝子を有する系統としては、例えば、盛岡10号、盛岡17号(ふりこま)、Manapal、なつのこま、およびとまと中間母本農10号からなる群から選ばれる少なくとも一種を交雑して得られる系統が挙げられる。
ナリンゲニンカルコンの含有量が高い種を育種選抜するために、og遺伝子を有する系統としてDR736TMもしくはベルハーベスト2号またはこれらの群から選ばれる少なくとも一種を交雑して得られる系統を、hp遺伝子を有する系統として盛岡10号またはこれを交雑して得られる系統を用いて育種選抜することが好ましい。
【0017】育種選抜方法として、両親姉妹系統間において、F1組み合わせ能力検定を行うことで、フラボノイド蓄積性、特にナリンゲニンカルコンの蓄積性が高いトマトを作出することができる。
DR5600は、DR736TMから育種選抜した系統に盛岡10号から育種選抜した系統を交雑した系統を片親とし、ベルハーベスト2号から育種選抜した系統に盛岡10号から育種選抜した系統を交雑した系統を片親として交雑し、フラボノイドの蓄積性を中心に、収穫性や耐病性に優れる系統の育種選抜を繰り返すことで作出した。
・・略・・
【0020】トマトの交雑方法としては、異なる遺伝子の間で人工交配をして雑種を作る人工交雑などの方法が挙げられる。
【0021】育種選抜は、雑種の分離世代(F2以降)において、つねに個体選抜と選抜個体ごとの系統栽培をくりかえし、系統間の比較によって優劣を判定しながら、選択、固定をはかり純系をつくっていく、系統育種法などの方法により行うことができる。」
すなわち、発明の詳細な説明には、「og遺伝子を有する系統に、hp遺伝子を有する系統を交雑し育種選抜する」こと、また、「og遺伝子を有する系統」として、「DR736TM、ベルハーベスト2号、なつのしゅん、およびNT604からなる群から選ばれる少なくとも一種を交雑して得られる系統」であること、「hp遺伝子を有する系統」として、「盛岡10号、盛岡17号(ふりこま)、Manapal、なつのこま、およびとまと中間母本農10号からなる群から選ばれる少なくとも一種を交雑して得られる系統」であることが記載されている。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明に接した当業者であれば、「DR736TM、ベルハーベスト2号、なつのしゅん、およびNT604からなる群から選ばれる少なくとも一種を交雑して得られる系統」と、「盛岡10号、盛岡17号(ふりこま)、Manapal、なつのこま、およびとまと中間母本農10号からなる群から選ばれる少なくとも一種を交雑して得られる系統」とを交雑して、フラボノイドの蓄積性、特に、ナリンゲニンカルコンの蓄積性を指標として、育種選抜を繰り返すことで、本件特許発明の完熟期における、トマト乾燥果皮1gあたりナリンゲニンカルコン含量が10mg以上であるトマトを製造することができることが理解できる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明から、DR5600以外に例示がないとしても、「DR736TM、ベルハーベスト2号、なつのしゅん、およびNT604からなる群から選ばれる少なくとも一種を交雑して得られる系統」と特定される系統である「og遺伝子を有する系統」と、「盛岡10号、盛岡17号(ふりこま)、Manapal、なつのこま、およびとまと中間母本農10号からなる群から選ばれる少なくとも一種を交雑して得られる系統」と特定される系統である「hp遺伝子を有する系統」とを用いることが明確に理解でき、また、DR5600は、特定の系統の「og遺伝子を有する系統」と、特定の系統の「hp遺伝子を有する系統」とを交雑して、フラボノイドの蓄積性、特に、ナリンゲニンカルコンの蓄積性を指標として、育種選抜を繰り返すことで得られた本件特許発明におけるトマトの例示であると理解できる。
また、「og遺伝子を有する系統」と「hp遺伝子を有する系統」とを交雑して、フラボノイドの蓄積性、特に、ナリンゲニンカルコンの蓄積性を指標として、育種選抜を繰り返すことで、完熟期における、トマトの乾燥果皮1gあたりナリンゲニンカルコン含量が10mg以上であるトマトを製造することができることまで、本件特許明細書の発明の詳細な説明には記載されているのであるから、「og遺伝子を有する系統」の特定の系統として「DR736TM、ベルハーベスト2号、なつのしゅん、およびNT604からなる群から選ばれる少なくとも一種を交雑して得られる系統」を用い、「hp遺伝子を有する系統」の特定の系統として「盛岡10号、盛岡17号(ふりこま)、Manapal、なつのこま、およびとまと中間母本農10号からなる群から選ばれる少なくとも一種を交雑して得られる系統」を用いることで、DR5600が製造されるとの具体的例示同様に、完熟期における、トマト乾燥果皮1gあたりナリンゲニンカルコン含量が10mg以上であるトマトを製造することができると理解できる。
したがって、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものであると思料する。
(意見書4頁12行から7頁8行)
イ 検討
上記アに記載した特許権者が摘記する発明の詳細な説明の記載を参照しても、「DR5600種」に係るトマトの製造方法について以外、「完熟期における、トマト乾燥果皮1gあたりナリンゲニンカルコン含量が10mg以上」のトマトの製造方法を提供できたことを裏付ける記載がないのであるから、本件発明1に包含されるトマトの製造方法について、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものではない。また、裏付ける記載がなくとも、本件出願時の技術常識から発明の課題を解決できると当業者が認識できるとも認められない。
よって、特許権者の主張は採用できない。
(3) 小括
以上のとおり、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は同法第113条第4項に該当し取り消されるべきものである。
2 取消理由2(明確性要件違反)
果皮における乾燥重量あたりでの成分含量算出は本件出願時において常識的技術であり(乙第1号証ないし第3号証参照。)、つまり測定条件も自明であるから、請求項1、2の「トマト乾燥果皮1gあたりナリンゲニンカルコン含量」という記載の技術的意味は明瞭である。
よって、本件発明1及び2は明確であるから、取消理由2によっては、本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
乙第1号証:鎌田靖弘、外6名、「パッションフルーツ果皮に存在する降圧成分に関する研究」、沖縄県工業技術センター研究報告書、2005年、第7号、p.19-24
果皮の「ルテオリン」の含量について、「果皮凍結乾燥1g当たり」での算出が記載されている(21頁右欄最下行から22頁左欄2行)。
乙第2号証:白石眞一、外1名、「生食用ブドウの果色と果皮アントシアニンとの関係-果色育種への応用-」、九州大学農学部農場報告、平成6年3月、第7号、p.25-34(「第4章 果実の成熟と果皮アントシアニン」)
果皮の「アントシアニン」の含量について、「乾燥果皮1g」当たりでの算出が記載されている(26頁10から13行)。
乙第3号証:坂井祥平、外3名、「県産農産品の機能性成分の調査研究 フクレミカンの機能性成分探索」、茨城県工業技術センター研究報告、平成20年、36号
果皮の「フラボノイド」の組成について、「mg/100g-乾燥重量」での算出が記載されている(表1)。
3 取消理由3(実施可能要件違反)
果皮における乾燥重量あたりでの成分含量算出は本件出願時において常識的技術であり(乙第1号証ないし第3号証参照。)、つまり測定条件も自明であるから、「トマト乾燥果皮1gあたり」の「ナリンゲニンカルコン」の「含量」に関し、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1ないし5を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
よって、取消理由3によっては、本件発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
4 取消理由4(進歩性欠如)
(1) 各甲号証の記載事項
ア 甲第5号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の記載がある。
(ア) 表題として、「加工用トマト新品種「なつのしゅん」の育成とその特性」。
(イ) 2頁の第1図をみると、og遺伝子を有するPLS6-3-3-2-1に、hp遺伝子を有する盛岡20号を交雑し育種選抜し、「なつのしゅん」を製造することがみてとれる。
(ウ) 上記(ア)および(イ)を踏まえると、甲第5号証には、下記発明が記載されているといえる(以下「甲5発明」という。)。
「og遺伝子を有するPLS6-3-3-2-1に、
hp遺伝子を有する盛岡20号を交雑し育種選抜する、
加工用トマト「なつのしゅん」の製造方法。」
イ 甲第4号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の記載がある。
(ア) 表題として、「植物ポリフェノール含有素材の開発 -その機能と安全性-」。
(イ) 89頁18~21行目
「トマトのポリフェノールはほとんどが果皮の部分に存在する。ポリフェノールの1種であるナリンゲニンカルコン(NGC:図1)も果皮に存在するが、加工用トマトに多く、生食用トマトにはほとんど存在しない。加工用トマトに含まれるNGCの含量は果皮新鮮重100g当たり20mg~30mg程度である。」
(ウ) 91頁22~23行
「これらのことから、ナリンゲニンカルコンを含有するトマト抽出物はアトピー性皮膚炎症状を軽減する可能性が示唆された。」
(2) 本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「og遺伝子を有するPLS6-3-3-2-1に、hp遺伝子を有する盛岡20号を交雑し育種選抜する、加工用トマト「なつのしゅん」の製造方法」は、本件発明1の「og遺伝子を有する系統に、hp遺伝子を有する系統を交雑し育種選抜する、」「トマトの製造方法」に相当する。
以上より、本件発明1と甲5発明とは、
「og遺伝子を有する系統に、hp遺伝子を有する系統を交雑し育種選抜する、トマトの製造方法」
の点で一致し、そして以下の点で相違する。
[相違点1] 本件発明1は、「完熟期における、トマト乾燥果皮1gあたりナリンゲニンカルコン含量が10mg以上である、トマト」の製造方法と特定されているのに対し、甲5発明では、その点が特定されていない点。
[相違点2] 本件発明1は、og遺伝子を有する系統が、「DR736TM、ベルハーベスト2号、なつのしゅん、およびNT604からなる群から選ばれる少なぐとも一種を交雑して得られる系統」であり、hp遺伝子を有する系統が「盛岡10号、盛岡17号(ふりこま)、Manapa1、なつのこま、およびとまと中間母本農10号からなる群から選ばれる少なくとも一種を交雑して得られる系統」であるのに対し、甲5発明では、前者が「PLS 6-3-3-2-1」、後者が「盛岡20号」である点。
イ 判断
まず相違点2について検討する。甲5発明から、相違点2に係る本件発明1の、og遺伝子を有する系統として、「DR736TM、ベルハーベスト2号、なつのしゅん、およびNT604からなる群から選ばれる少なくとも一種を交雑して得られる系統」とし、hp遺伝子を有する系統として「盛岡10号、盛岡17号(ふりこま)、Manapa1、なつのこま、およびとまと中間母本農10号からなる群から選ばれる少なくとも一種を交雑して得られる系統」とすることが容易に想到できる理由はなく、また甲第4号証のナリンゲニンカルコンについての記載等を参照しても、相違点2に係る本件発明1の構成の示唆は得られない。さらに、この点が当業者にとり技術常識であるとする理由もない。加えて、甲5発明において、本件発明1のごとく選択することが設計的な事項であるとの根拠もない。
よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲5発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
(3) 本件発明2
ア 対比
本件発明2と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「og遺伝子を有するPLS6-3-3-2-1に、hp遺伝子を有する盛岡20号を交雑し育種選抜する、加工用トマト「なつのしゅん」の製造方法」は、本件発明2の「DR736TMおよび盛岡10号から育種選抜した系統を交雑して得られる系統と、ベルハーベスト2号および盛岡10号から育種選抜した系統を交雑して得られる系統を交雑し育種選抜する、」「トマトの製造方法」とは、2つの「系統を交雑し育種選抜する、」「トマトの製造方法」である点で共通する。
以上より、本件発明2と甲5発明とは、
「2つの系統を交雑し育種選抜する、トマトの製造方法」
の点で一致し、そして以下の点で相違する。
[相違点1] 本件発明2は、「完熟期における、トマト乾燥果皮1gあたりナリンゲニンカルコン含量が10mg以上である、トマト」の製造方法と特定されているのに対し、甲5発明では、その点が特定されていない点。
[相違点2] 本件発明2では、交雑し育種選抜するのは「DR736TMおよび盛岡10号から育種選抜した系統を交雑して得られる系統」と「ベルハーベスト2号および盛岡10号から育種選抜した系統を交雑して得られる系統」であるのに対し、甲5発明では、「og遺伝子を有するPLS6-3-3-2-1」と「hp遺伝子を有する盛岡20号」である点。
イ 判断
まず相違点2について検討する。甲5発明から、相違点2に係る本件発明2の、「DR736TMおよび盛岡10号から育種選抜した系統を交雑して得られる系統」と「ベルハーベスト2号および盛岡10号から育種選抜した系統を交雑して得られる系統」とを交雑し育種選抜することが容易に想到できる理由はなく、また甲第4号証のナリンゲニンカルコンについての記載等を参照しても、相違点2に係る本件発明2の構成の示唆は得られない。さらに、この点が当業者にとり技術常識であるとする理由もない。加えて、甲5発明において、本件発明2のごとく選択することが設計的な事項であるとの根拠もない。
よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明2は、当業者が甲5発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
(4) 小括
以上のとおり、本件発明1、2は、当業者が甲第5号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、取消理由4によっては、本件発明1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。
5 取消理由通知において採用しなかった申立理由について
(1) 申立理由A
「トマト乾燥果皮1gあたりにナリンゲニンカルコンを10mg含有」とは「高含量のナリンゲニンカルコンを含有するトマト」に対応するものであるから、「食味に優れる完熟期において高含量のナリンゲニンカルコンを含有するトマトを提供すること」との課題と、トマト乾燥果皮1gあたりのナリンゲニンカルコンの含量に係る発明特定事項との実質的関係を当業者は理解できる。
以上のように、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号の要件を満たさないとの主張には理由がない。
よって、申立理由Aによっては、本件発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
(2) 申立理由B
上記2、3で検討したように果皮における乾燥重量あたりでの成分含量算出は本件出願時において常識的技術であることを踏まえれば、トマト乾燥果皮1gあたりのナリンゲニンカルコンの含量に関し、当業者が課題を解決することを認識できる。
以上のように、請求項1、2の記載は特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないとの主張は、申立理由Bの限りにおいては理由がない。
よって、申立理由Bによっては、本件発明1、2に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり、本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。したがって、本件発明1に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
本件発明2ないし5に係る特許については、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件発明2ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-700990