特許異議申立
2025-700044
ウイルス不活化製剤
- 審判番号
- 2025-700044
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-561857
- 登録番号
- 7509380
- 請求日
- 2024年12月28日
- 審決日
- 2025年11月28日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ダイイチ
- 【権利者代理人】藤本 英介
- 【権利者代理人】神田 正義
- 【権利者代理人】宮尾 明茂
- 【権利者代理人】馬場 信幸
- 【権利者】西日本長瀬株式会社
- 【権利者代理人】藤本 英介
- 【権利者代理人】神田 正義
- 【権利者代理人】宮尾 明茂
- 【権利者代理人】馬場 信幸
- 【異議申立人】安 銀珍
- 審判長/審判官
- 審判長 齋藤 恵
- 審判官 江間 正起
- 審判官 冨永 保
- 分類
- P1651.161-YAA(A01N) / P1651.851-YAA(A01N) / P1651.857-YAA(A01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条の2、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7509380号発明「ウイルス不活化製剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7509380号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4、6〕、〔5、7-9〕について訂正することを認める。
特許第7509380号の請求項1、2、4-9に係る特許を維持する。
特許第7509380号の請求項3に係る特許についての本件特許異議申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7509380号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)6月17日(優先権主張 2020年(令和2年)6月19日及び2021年(令和3年)2021年3月11日)を国際出願日とする特許出願であって、令和6年6月24日に特許権の設定登録がされ、同年7月2日に特許掲載公報が発行され、その請求項1~6に係る発明の特許に対し、令和6年12月27日付けで安 銀珍(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は次のとおりである。
令和7年2月18日 手続補正指令(方式)
同年3月20日 手続補正書(方式)(申立人)
(特許異議申立書を補正対象書類とするもの)
同年4月25日付け 取消理由通知
同年6月16日 面接(特許権者)
同年6月25日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年8月 1日付け 手続補正指令(方式)
同年8月18日 手続補正書(方式)(特許権者)
(令和7年6月25日提出の意見書を補正対象書
類とするもの)
同年同月 同日 手続補正書(方式)(特許権者)
(令和7年6月25日提出の訂正請求書を補正対
象書類とするもの)
同年9月 2日付け 訂正請求があった旨の通知
なお、令和7年9月2日付けの通知に対して申立人から応答はなかった。
第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨
令和7年8月18日付けの手続補正書によって補正された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は、
「特許第7509380号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを求める。」
というものである。
2 訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正請求書の記載及び訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の記載からみて、次の訂正事項1~6からなるものであると認められる。
なお、訂正前後の請求項の関係は次のとおりである。
[図:0001433075000001.jpg]
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「ウイルス不活化剤」との記載を、「ウイルス不活化剤(但し、エタノールを含有するウイルス不活化剤を除く)」との記載に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項4及び6も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の「ウイルス不活化剤」との記載を、「ウイルス不活化剤(但し、エタノールを10~60質量%を含有する場合を除く)」との記載に訂正する。
請求項2の記載を引用する請求項4及び6も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4の「請求項1~3のいずれか一つ」との記載を、「請求項1又は2」との記載に訂正する。
請求項4の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
ア 訂正事項5-1
特許請求の範囲の請求項5の
「グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キサンタンガム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ポリリジン、デヒドロ酢酸及びデヒドロ酢酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載のウイルス不活化剤。」
との記載における請求項1の記載を引用するものについて、
「ウイルス不活化成分としてフマル酸を0.03~0.6質量%含有すると共に、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キサンタンガム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ポリリジン、デヒドロ酢酸及びデヒドロ酢酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種を含有し、不活化する対象のウイルスが、ネコカリシウイルス及び/又は新型コロナウイルス(SARS-CoV2)であることを特徴とするウイルス不活化剤。」
との記載に訂正する。
イ 訂正事項5-2
特許請求の範囲の請求項5の
「グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キサンタンガム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ポリリジン、デヒドロ酢酸及びデヒドロ酢酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載のウイルス不活化剤。」
との記載における請求項2の記載を引用するものについて、
「ウイルス不活化成分としてフマル酸を0.03~1質量%とエタノールとを含有し、かつ、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キサンタンガム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ポリリジン、デヒドロ酢酸及びデヒドロ酢酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種を含有し、不活化する対象のウイルスが、ネコカリシウイルス及び/又は新型コロナウイルス(SARS-CoV2)であることを特徴とするウイルス不活化剤。」
との記載に訂正し、新たな請求項7とする。
ウ 訂正事項5-3
特許請求の範囲の請求項5の
「グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キサンタンガム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ポリリジン、デヒドロ酢酸及びデヒドロ酢酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載のウイルス不活化剤。」
との記載における、請求項1及び2の記載を引用する請求項4の記載を引用するものについて、
「ウイルス不活化剤のpHが2.0~5.5であることを特徴とする請求項5又は7に記載のウイルス不活化剤。」
との記載に訂正し、新たな請求項8とする。
(6)訂正事項6
ア 訂正事項6-1
特許請求の範囲の請求項6の
「請求項1~5のいずれか一つに記載のウイルス不活化剤を繊維生地に付着又はバインダー成分と共に付着せしめたことを特徴とする繊維生地。」
との記載における、請求項1及び2の記載、並びに請求項1及び2の記載を引用する請求項4の記載を引用するものについて、
「請求項1、2及び4のいずれか一つに記載のウイルス不活化剤を繊維生地に付着又はバインダー成分と共に付着せしめたことを特徴とする繊維生地。」
との記載に訂正する。
イ 訂正事項6-2
特許請求の範囲の請求項6の
「請求項1~5のいずれか一つに記載のウイルス不活化剤を繊維生地に付着又はバインダー成分と共に付着せしめたことを特徴とする繊維生地。」
との記載における、請求項1及び2の記載を引用する請求項5の記載を引用するもの、並びに請求項1及び2の記載を引用する請求項4の記載を引用する請求項5の記載を引用するものについて、
「請求項5、7及び8のいずれか一つに記載のウイルス不活化剤を繊維生地に付着又はバインダー成分と共に付着せしめたことを特徴とする繊維生地。」
との記載に訂正し、新たな請求項9とする。
3 本件訂正による訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「ウイルス不活化剤」から、「エタノールを含有するウイルス不活化剤」を除く訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、この訂正は、ウイルス不活化剤から、エタノールを含有するウイルス不活化剤を除くものであり、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「特許明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
したがって、この訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載された「ウイルス不活化剤」から、「エタノールを10~60質量%を含有する場合」を除く訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、この訂正は、ウイルス不活化剤から、エタノールを10~60質量%を含有する場合を除くものであり、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
したがって、この訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、この訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項4において請求項1~3の記載を引用していたのを、請求項3の記載の引用を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、この訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項5において請求項1~4の記載を引用していたのを、請求項3の記載の引用を削除するものであるから、全体として特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項5-1は、請求項1の記載を引用していた請求項5について請求項1との引用関係を解消して独立形式の請求項の記載に改める訂正であり、訂正事項5-2は、請求項2を引用していた請求項5について請求項2との引用関係を解消して独立形式の請求項の記載に改める訂正であり、訂正事項5-3は、訂正前の請求項5(訂正後の請求項5及び7)を独立請求項としたことに伴って、訂正前の請求項1及び2の記載を引用する請求項4の記載を引用する請求項5について、請求項1及び2との引用関係を解消する訂正である。
したがって、この訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、この訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(6)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項6において請求項1~5の記載を引用していたのを、請求項3の記載の引用を削除するものであるから、全体として特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項6-2は、訂正事項5によって訂正前の請求項5(訂正後の請求項5及び7)を独立請求項としたことに伴って、訂正前の請求項1及び2の記載を引用する請求項5の記載を引用する請求項6、並びに請求項1及び2の記載を引用する請求項4の記載を引用する請求項5の記載を引用する請求項6について、請求項1及び2との引用関係を解消する訂正である。
したがって、この訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、この訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(7)独立特許要件について
本件特許異議申立においては、訂正前の請求項1~6に係る特許に対して特許異議の申立てがされているところ、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~9に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。
(8)一群の請求項について
本件訂正に係る訂正前の請求項1~6について、請求項4~6は請求項1を直接的又は間接的に引用し、請求項3~6は請求項2の記載を直接的又は間接的に引用しているところ、請求項4~6は、訂正事項1により記載が訂正される請求項1及び訂正事項2により記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるから、訂正前の請求項1~6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~9について訂正することを求める本件訂正の請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。
(9)別の訂正単位とする求め
本件訂正の請求において、訂正後の請求項5、7、並びにそれら請求項の記載を引用する請求項8及び9については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することが求められている。
4 まとめ
以上のとおり、訂正事項1~6による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、訂正後の請求項〔1-4、6〕、〔5、7-9〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1、2、4~9に係る発明(以下請求項の番号順に「本件発明1」等といい、併せて「本件発明」ともいうことがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1、2、4~9に記載された事項により特定される次に示すとおりのものである。
「【請求項1】
ウイルス不活化成分としてフマル酸を0.03~0.6質量%含有すると共に、不活化する対象のウイルスが、ネコカリシウイルス及び/又は新型コロナウイルス(SARS-CoV2)であることを特徴とするウイルス不活化剤(但し、エタノールを含有するウイルス不活化剤を除く)。
【請求項2】
ウイルス不活化成分としてフマル酸を0.03~1質量%とエタノールとを含有し、不活化する対象のウイルスが、ネコカリシウイルス及び/又は新型コロナウイルス(SARS-CoV2)であることを特徴とするウイルス不活化剤(但し、エタノールを10~60質量%を含有する場合を除く)。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
ウイルス不活化剤のpHが2.0~5.5であることを特徴とする請求項1又は2に記載のウイルス不活化剤。
【請求項5】
ウイルス不活化成分としてフマル酸を0.03~0.6質量%含有すると共に、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キサンタンガム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ポリリジン、デヒドロ酢酸及びデヒドロ酢酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種を含有し、不活化する対象のウイルスが、ネコカリシウイルス及び/又は新型コロナウイルス(SARS-CoV2)であることを特徴とするウイルス不活化剤。
【請求項6】
請求項1、2及び4のいずれか一つに記載のウイルス不活化剤を繊維生地に付着又はバインダー成分と共に付着せしめたことを特徴とする繊維生地。
【請求項7】
ウイルス不活化成分としてフマル酸を0.03~1質量%とエタノールとを含有し、かつ、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キサンタンガム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ポリリジン、デヒドロ酢酸及びデヒドロ酢酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種を含有し、不活化する対象のウイルスが、ネコカリシウイルス及び/又は新型コロナウイルス(SARS-CoV2)であることを特徴とするウイルス不活化剤。
【請求項8】
ウイルス不活化剤のpHが2.0~5.5であることを特徴とする請求項5又は7に記載のウイルス不活化剤。
【請求項9】
請求項5、7及び8のいずれか一つに記載のウイルス不活化剤を繊維生地に付着又はバインダー成分と共に付着せしめたことを特徴とする繊維生地。」
第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、令和7年3月20日付けの手続補正書により補正された特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付して下記(2)に示す甲第1号証(以下「甲1」ということがある。)を提出しているところ、申立書の全体の記載からみて、申立人が主張する本件訂正前の請求項1~6に係る特許についての特許異議の申立ての理由(以下「申立理由」という。)の概要は、下記(1)に示すとおりと認められる。
(1)申立理由1(甲1に係る出願に基づく拡大先願(特許法第29条の2))
本件特許の請求項1~6に係る発明は、甲第1号証と同じである。
(2)証拠方法
甲第1号証:国際公開第2021/095636号
2 当審合議体が通知した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~4及び6に係る特許について、当審合議体が令和7年4月25日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
[取消理由1](拡大先願)
本件請求項1~4及び6に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされたものとみなされる下記甲1-1の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「甲1-1明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、本件請求項1~4及び6に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
[取消理由2](拡大先願)
本件請求項1~4及び6に係る発明は、その出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた下記甲1-2の日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下「甲1-2明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないから、本件請求項1~4及び6に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである(同法第184条の13参照)。
甲1-1:特願2019-206948号(申立人が提示した甲1である国際公開第2021/095636号に係るPCT/JP2020/041360の優先権主張の基礎とされた出願)
甲1-2:PCT/JP2020/041360(申立人が提示した甲1である国際公開第2021/095636号に係る出願)
甲1-1は、本件特許の出願における優先権主張についての最先の基礎出願である特願2020-105931号(以下「本件基礎出願1」ということがある。)の出願日(出願日:2020(令和2年)年6月19日)前の2019年(令和元年)11月15日の出願であり、甲1-2は、本件基礎出願1の出願日後の、本件特許の出願における優先権主張についての基礎出願である特願2021-39224号(以下「本件基礎出願2」ということがある。)の出願日(2021年(令和3年)3月11日)前の2020(令和2年)年11月5日の出願である。
第5 当審の判断
当審合議体は、本件発明1、2及び4~9に係る特許は、取消理由通知で通知した取消理由及び申立人が申し立てた申立理由によっては、取り消すことはできないものと判断する。その理由は以下のとおりである。
なお、以下の記載事項の摘記において、下線は特に注釈がない限り当審合議体が付したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。
1 本件出願の優先権主張について
本件出願は、特願2020-105931号(本件基礎出願1)及び特願2021-39224号(本件基礎出願2)を基礎とした優先権の主張を伴う出願であり、本件発明は、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)を対象とするウイルス不活化剤に関するものであるところ、本件基礎出願1の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件基礎出願1明細書等」という。)には、ウイルス不活化剤が「新型コロナウイルス(SARS-CoV2)」を対象とするものであることは記載されていない。
本件基礎出願1明細書等には、その【0002】に、
「一般に、ウイルスには、エンベロープを有するエンベロープウイルス(例えば、インフルエンザウイルス、コロナウイルス〔新型コロナウイルス(SARS-CoV2)を含む〕、RSウイルス、SARSウイルス等)や、エンベロープを有さないノンエンベロープウイルス(例えば、アデノウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、エンテロウイルス等)が存在している。」
と記載されているが、当該記載は、ウイルスの種類の一つとして新型コロナウイルス(SARS-CoV2)が存在することを記載したものであり、ウイルス不活化剤の対象が新型コロナウイルス(SARS-CoV2)であることを記載したものではない。
したがって、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)を対象とするウイルス不活化剤についての本件発明については、本願基礎出願1を基礎とする優先権主張の効果を認めることはできない。
一方、本件基礎出願2の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)を対象とするウイルス不活化剤についての記載がある。
よって、本件発明のうち、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)を対象とするウイルス不活化剤に関する発明について、以下の判断の基準日は、本件基礎出願2の出願日である2021年(令和3年)3月11日である。
2 当審合議体が通知した取消理由1及び2について
当審合議体が通知した取消理由1及び2は、訂正前の請求項1~4、6を対象とするものであったところ、訂正前後の請求項の対応関係は、上記第2 2のとおりであるから、本件発明1、2、4及び6について判断する。
(1)引用出願の明細書等に記載された事項
ア 甲1-1
甲1-1明細書等には以下に示す事項が記載されており、甲1-1を優先権主張の基礎として出願されたPCT/JP2020/041360に係る甲1-2明細書等にも同様の事項が記載されている。
甲1-1a)「【請求項1】
(A)ウイルス不活性化成分として10質量%~60質量%のエタノールと、(B)ウイルス不活性化効力増強成分としてフマル酸、リン酸、クエン酸から選ばれた1種又は2種以上と、を(C)水に混合して酸性水溶液としたウイルス不活性化剤組成物。」
甲1-1b)「【実施例1】
【0050】
[試験液の調製]
(A)エタノール(和光純薬工業社製)、(B)フマル酸、リン酸、クエン酸一水和物(以上、和光純薬工業社製)を表1、表3に示す配合割合(質量%)で配合し、精製水を加えて100重量%として試験液(本発明1~12)を得た。
【0051】
(A)エタノール(和光純薬工業社製)(B)フマル酸、リン酸、クエン酸一水和物、乳酸、安息香酸、リン酸三ナトリウム、クエン酸三ナトリウム二水和物(以上、和光純薬工業社製)、フマル酸二ナトリウム(東京化成品工業社製)を表2、表4に示す配合割合(質量%)で配合し、精製水を加えて100重量%として試験液(比較例1~16)を得た。
【実施例2】
【0052】
[ウイルス不活性化効果の確認試験1(Feline calicivirus)]
(試験ウイルス液の調製)
MEM培地(ナカライテスク社製)に牛胎仔血清を10%加えた細胞増殖培地を用いてCRFK細胞(JCRB細胞バンク)を組織培養シャーレ内に単層培養した。単層培養シャーレ内から細胞増殖培地を除去し、ネコカリシウイルス(Feline calicivirus F-9 ATCC VR-782)を接種した。次に、MEM培地に牛胎仔血清を2%加えた細胞維持培地を加えて37±1℃の炭酸ガスインキュベーター(CO2濃度5%)内で1~5日間培養した。ネコカリシウイルスはノンエンベロープウイルスの一種であり、細胞培養できないノロウイルスの代替ウイルスとして広く使用されている。
【0053】
培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態を観察し、細胞に形態変化(細胞変性効果)が起こっていることを確認した。次に、培養液を1000rpmで3分間遠心分離し、得られた上澄み液を限外ろ過して試験ウイルス液とした。
【0054】
実施例1で調製した本発明1~7、比較例1~11の試験液0.9mLに、試験ウイルス液0.1mLを添加混合し、作用液とした。1分後に作用液をMEM培地で100倍希釈し、10倍希釈系列を作製した。なお、精製水に試験ウイルス液を添加したものを対照として同様の操作を行った。
【0055】
(ウイルス感染価の測定)
細胞増殖培地を用い、使用細胞を組織培養用マイクロプレート(96穴)内で単層培養した後、細胞増殖培地を除去して細胞維持培地を0.1mLずつ加えた。次に、作用液の10倍希釈系列0.1mLをそれぞれ4穴ずつに接種し、37±1℃の炭酸ガスインキュベーター(CO2濃度5%)内で4~7日間培養した。培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態変化(細胞変性効果)の有無を観察し、Reed-Muench法により50%細胞培養感染量(TCID50)を算出して作用液1mL当たりの感染価に換算し、対照とした精製水の感染価と比較して、感染価対数減少値を算出した。
【0056】
ウイルス除去効果の評価基準は、感染価対数減少値が1以下の場合を×、1よりも大きく1.5以下の場合を△、1.5よりも大きく3以下の場合を○、3よりも大きい場合を◎とした。ウイルス感染価の評価結果を試験液の配合、pH、感染価対数減少値と併せて表1、表2に示す。
【0057】
【表1】
[図:0001433075000002.jpg]
【0058】
【表2】
[図:0001433075000003.jpg]
【0059】
表1に示すように、(A)10質量%~40質量%のエタノールと、(B)0.05質量%~0.5質量%のフマル酸、リン酸、クエン酸一水和物のいずれかとを配合した本発明1~7では、ネコカリシウイルス(Feline calicivirus)に対して感染価対数減少値が1.5よりも大きくなり、ウイルス不活性化効果を有することが確認された。
【0060】
特に、エタノールの配合量を40質量%、フマル酸の配合量をそれぞれ0.2質量%、0.1質量%とした本発明1、2、およびエタノールの配合量を40質量%、リン酸の配合量を0.05質量%とした本発明5では、感染価対数減少値が3よりも大きくなり、より一層顕著なウイルス不活性化効果が得られることが確認された。また、本発明1~7および比較例1~5の結果より、エタノールを単独で配合した場合、フマル酸、リン酸、クエン酸一水和物をそれぞれ単独で配合した場合は感染価対数減少値が1未満となりウイルス不活性化効果が認められないが、エタノールとフマル酸、リン酸、クエン酸一水和物とを配合することでウイルス不活性化効果が相乗的に高くなることが確認された。
【0061】
また、エタノールの配合量が10質量%、リン酸の配合量が0.5質量%である本発明6、およびエタノールの配合量が5質量%、リン酸の配合量が0.5質量%である比較例8の結果より、エタノールの配合量を10質量%以上とすることで、リン酸の配合によりウイルス不活性化効果が相乗的に高くなることが確認された。
【0062】
また、エタノールの配合量が40質量%、リン酸の配合量が0.05質量%である本発明5、およびエタノールの配合量が40質量%、リン酸の配合量が0.02質量%である比較例7の結果より、リン酸の配合量を0.05質量%以上とすることで、エタノールによるウイルス不活性化効力の増強効果が発現することが確認された。
【0063】
また、フマル酸、リン酸、クエン酸一水和物に代えて、乳酸、安息香酸、フマル酸二ナトリウムを0.2質量%配合した比較例9~11では、感染価対数減少値がそれぞれ1.5、0.7、1.33となり、十分なウイルス不活性化効果が認められなかった。
【実施例3】
【0064】
[ウイルス不活性化効果の確認試験2(Feline calicivirus)]
(試験ウイルス液の調製)
MEM培地(ナカライテスク社製)に牛胎仔血清を10%加えた細胞増殖培地を用いてCRFK細胞(JRBC細胞バンク)を組織培養シャーレ内に単層培養した。単層培養シャーレ内から細胞増殖培地を除去し、ネコカリシウイルス(Feline calicivirus F-9 ATCC VR-782)を接種した。次に、MEM培地に牛胎仔血清を2%加えた細胞維持培地を加えて37±1℃の炭酸ガスインキュベーター(CO2濃度5%)内で1~5日間培養した。
【0065】
培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態を観察し、細胞に形態変化(細胞変性効果)が起こっていることを確認した。次に、培養液を1000rpmで3分間遠心分離し、得られた上澄み液をウイルス浮遊液とした。ウイルス浮遊液と、フィルター滅菌した20%肉エキス水溶液を3:1で混合したものを試験ウイルス液とした。試験ウイルス液には負荷として5%の肉エキスが含まれている。
【0066】
実施例1で調製した本発明8~12、比較例12~16の試験液0.9mLに、試験ウイルス液0.1mLを添加混合し、作用液とした。1分後に作用液をMEM培地で100倍希釈し、10倍希釈系列を作製した。なお、精製水に試験ウイルス液を添加したものを対照として同様の操作を行った。
【0067】
ウイルス感染価の測定方法、評価基準は実施例2と同様とした。ウイルス感染価の評価結果を試験液の配合、pH、感染価対数減少値と併せて表3、表4に示す。
【0068】
【表3】
[図:0001433075000004.jpg]
【0069】
【表4】
[図:0001433075000005.jpg]
【0070】
表3に示すように、(A)40質量%~60質量%のエタノールと、(B)0.05質量%~0.2質量%のフマル酸、リン酸、クエン酸一水和物のいずれかとを配合した本発明8~12では、ネコカリシウイルス(Feline calicivirus)に対して感染価対数減少値が2.5以上となり、肉エキスによる負荷がある場合であっても即効的なウイルス不活性化効果が得られることが確認された。
【0071】
これに対し、表4に示すように、エタノールを単独で60質量%配合した比較例12、エタノールの配合量が60質量%、リン酸の配合量が0.02質量%である比較例13では、感染価対数減少値が1未満となりウイルス不活性化効果が認められなかった。また、フマル酸、リン酸に代えてフマル酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウムを配合した比較例14、15では、感染価対数減少値がそれぞれ1.43、1.24となり、十分なウイルス不活性化効果が認められなかった。さらに、比較例15では試験液のpHが12.51と強アルカリ性になり、アルカリによる腐食性や手荒れの問題が懸念された。
【0072】
また、クエン酸一水和物に代えてクエン酸三ナトリウムを配合した比較例16では、感染価対数減少値が1.93となりウイルス不活性化効果が認められたが、試験液のpHが9.15とアルカリ性になり、アルカリによる腐食性や手荒れの問題が懸念された。
【0073】
以上の結果から、エタノールと、フマル酸、リン酸、クエン酸一水和物から選ばれた1種又は2種以上と、を水に配合して酸性水溶液とすることで、ネコカリシウイルスに対する十分なウイルス不活性化効果を有し、安全性にも優れたウイルス不活性化剤組成物となることが確認された。
【0074】
また、フマル酸、リン酸、クエン酸一水和物は、エタノールと共に配合することで、エタノールのウイルス不活性化効力増強成分として作用することが確認された。
【0075】
なお、ここでは本発明のウイルス不活性化組成物によるエンベロープウイルスに対する不活性化効果は示していないが、エンベロープウイルスはノンエンベロープウイルスに比べて薬剤に対する感受性が高いため、本発明のウイルス不活性化組成物がエンベロープウイルスに対しても即効的な不活性効果を有するのはもちろんである。
・・・
【0076】
本発明は、ウイルス不活性化成分であるエタノール濃度が比較的低く、酸性~弱酸性で安全性にも優れたウイルス不活性化剤組成物およびウイルス不活性化効力増強方法、並びにウイルス不活性化方法であり、特にウイルスで汚染された場所等に直接スプレー等により塗布されるウイルス不活性化剤組成物として好適に用いられる。」
イ 甲1-2
甲1-2明細書等には、上記アで示した事項に加え、以下に示す事項が記載されている。
(なお、甲1-2明細書等における段落番号は、上記アで摘記した段落番号とは異なる。)
甲1-2a)「[0050] 更に、本発明のウイルス不活性化剤組成物には、その他の成分として、必要に応じて、無機抗菌剤、有機抗菌剤、ウイルス不活性化剤、防藻剤、防錆剤、溶剤、キレート剤、香料、消臭成分、pH調整剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で配合することにより、抗菌効果、ウイルス不活性化効果、防藻効果、防錆効果、洗浄効果、芳香性、消臭性等を付与するようにしてもよい。
[0051] 無機抗菌剤、有機抗菌剤、ウイルス不活性化剤の例としては、イソプロピルメチルフェノール(IPMP)、カルバクロール、チモール、トリクロサン、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、4-クロロ-3,5-ジメチルフェノール、オルトフェニルフェノール、о-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、テブコナゾール、エニルコナゾール、グレープフルーツ種子抽出物、カキ種子抽出物、ブドウ種子抽出物、モノラウリン、モノカプリン、モノカプリリン、安息香酸、ソルビン酸、グリシン、アルキルジエチルアミノグリシン、ポリリジン、デヒドロ酢酸、クロラミン、3-ヨード-2-プロピル-N-ブチルカルバメート(IPBC)、フェノキシエタノール、銀ゼオライト、ジンクピリチオン、チアミンラウリル硫酸塩、白子たんぱく質、ヒドロキシアルキルキトサン、キトサン等が挙げられる。
[0052] 防藻剤の例としては、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。防錆剤の例としては、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
・・・
[0053] 溶剤の例としては、・・・等が挙げられる。
[0054] 香料の例としては、・・・等が挙げられる。
[0055] 消臭成分の例としては、・・・等が挙げられるが、・・・。
[0056] pH調整剤の例としては、・・・等が挙げられる。」
甲1-2b)「[0058] また、本発明のウイルス不活性化組成物は、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ヘルペスウイルス等のエンベロープウイルスに加えて、ノロウイルス、ロタウイルス、ライノウイルス、アデノウイルス等のノンエンベロープウイルスに対しても高い不活性化効果を有する。従って、従来のウイルス除去剤では不活性化が困難であったノロウイルスの不活性化に好適に使用することができる。」
(2)引用発明
甲1-1明細書等及び甲1-2明細書等にはウイルス不活性化剤組成物について記載されているところ、その実施例として、本発明1~4及び8とされる試験液が、ウイルス除去効果を有することが記載されている(甲1-1a及び甲1-1b)。
したがって、甲1-1明細書等及び甲1-2明細書等には、請求項1の記載及び実施例において本発明1~4及び8とされる試験液に基づく、以下に示す発明(以下「甲1-1発明」及び「甲1-2発明」という。)が記載されていると認める。
「(A)ウイルス不活性化成分としてエタノールと、(B)ウイルス不活性化効力増強成分としてフマル酸を(C)水に混合して酸性水溶液としたウイルス不活性化剤組成物であって、以下の組成物1~4及び8の組成及びpHを有するウイルス不活性化剤組成物。
組成物1.エタノール40質量%、フマル酸0.2質量%、精製水残部、pH3.17
組成物2.エタノール40質量%、フマル酸0.1質量%、精製水残部、pH3.34
組成物3.エタノール40質量%、フマル酸0.05質量%、精製水残部、pH3.4
組成物4.エタノール20質量%、フマル酸0.5質量%、精製水残部、pH2.5
組成物8.エタノール60質量%、フマル酸0.2質量%、精製水残部、pH3.44」
(3)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)甲1-1発明について
本件発明1と甲1-1発明を対比する。
甲1-1発明の「ウイルス不活性化剤組成物」は、本件発明1の「ウイルス不活化剤」に相当する。
甲1-1発明の組成物1~4及び8がフマル酸を、それぞれ、0.2質量%、0.1質量%、0.05質量%、0.5質量%及び0.2質量%含むことは、本件発明1の「フマル酸を0.03~0.6質量%含有する」ことに相当する。
したがって、本件発明1と甲1-1発明とは、
「フマル酸を0.03~0.6質量%含有するウイルス不活化剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-甲11-1>
フマル酸について、本件発明1は「ウイルス不活化成分」と特定しているのに対し、甲1-1発明は「ウイルス不活性化効力増強成分」としている点。
<相違点1-甲11-2>
本件発明1は「不活化する対象のウイルスが、ネコカリシウイルス及び/又は新型コロナウイルス(SARS-CoV2)である」と特定しているのに対し、甲1-1発明は不活化する対象のウイルスを特定していない点。
<相違点1-甲11-3>
本件発明1は「但し、エタノールを含有するウイルス不活化剤を除く」と特定しているのに対し、甲1-1発明は、エタノールを含有するウイルス不活性化剤組成物である点。
上記各相違点について検討する。
<相違点1-甲11-1>について
甲1-1明細書等には、「ウイルス不活性化効力増強成分」がウイルス不活化成分であるとは記載されておらず、【0060】には、「本発明1~7および比較例1~5の結果より、エタノールを単独で配合した場合、フマル酸、リン酸、クエン酸一水和物をそれぞれ単独で配合した場合は感染価対数減少値が1未満となりウイルス不活性化効果が認められないが、エタノールとフマル酸、リン酸、クエン酸一水和物とを配合することでウイルス不活性化効果が相乗的に高くなることが確認された。」(摘記甲1-1b)と、フマル酸にはウイルス不活性化効果が認められないことが記載されている。
しかし、甲1-1明細書等において、ウイルス不活性化成分とされるエタノールについても【0060】には、単独ではウイルス不活性化効果が認められないと記載されているから、当該【0060】の記載からは、フマル酸がウイルス不活化成分ではないということはできない。
むしろ、エタノール単独では認められないウイルス不活化作用が、エタノールとフマル酸を併用することで認められるようになるのであるから、エタノールを含有する組成物からみれば、フマル酸を追加することでウイルス不活化作用を発現することになる。したがって、フマル酸はウイルス不活化成分であるということができる。
また、甲1-1発明における「ウイルス不活性化効力増強成分」は、ウイルス不活性化の効力を増強させる成分であることを意味するところ、そのような成分が配合されている組成物は、当該成分が配合されていない組成物ではなし得ない程度までウイルスを不活性化するから、ウイルス不活化成分であるということができる。
したがって、この点は実質的な相違点ではない。
<相違点1-甲11-2>について
甲1-1明細書等には、甲1-1発明の組成物1~4及び8は、いずれもネコカリシウイルスに対してウイルス不活性化効果を有することが記載されている(摘記甲1-1b、【0052】、【0057】、【0059】、【0064】、【0068】及び【0070】)から、この点は実質的な相違点ではない。
<相違点1-甲11-3>について
甲1-1明細書等の請求項1に、「(A)ウイルス不活性化成分として10質量%~60質量%のエタノールと、・・・と、を(C)水に混合して酸性水溶液としたウイルス不活性化剤組成物。」と記載されるとおり、甲1-1明細書等に記載されたウイルス不活性化剤組成物は、エタノールを必須の成分とするものであり、同【0060】には、「本発明1~7および比較例1~5の結果より、エタノールを単独で配合した場合、フマル酸、リン酸、クエン酸一水和物をそれぞれ単独で配合した場合は感染価対数減少値が1未満となりウイルス不活性化効果が認められないが、エタノールとフマル酸、リン酸、クエン酸一水和物とを配合することでウイルス不活性化効果が相乗的に高くなることが確認された。」(摘記甲1-1b)と、フマル酸等を単独で配合した場合はウイルス不活性化効果が認められないが、エタノールとフマル酸等とを配合することでウイルス不活性化効果が相乗的に高くなることが記載されている。
してみると、甲1-1明細書等にはエタノールを含有しないウイルス不活性化剤組成物が記載されているとはいえない。
また、この相違点が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、 削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるともいえない。
したがって、この相違点は実質的な相違点である。
以上のとおりであるから、本件発明1は甲1-1明細書等に記載された発明と実質的に同一であるということはできない。
(イ)甲1-2発明について
上記1で述べたとおり、本件発明のうち、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)を対象とするウイルス不活化剤に関する発明について、判断の基準日は、本件基礎出願2の出願日である2021年(令和3年)3月11日であるから、本件発明1のうち、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)を対象とするウイルス不活化剤に関する発明について、甲1-2発明と対比する。
甲1-2発明は、甲1-1発明と同一であるから、本件発明1と甲1-2発明とは、
「フマル酸を0.03~0.6質量%含有するウイルス不活化剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-甲12-1>
フマル酸について、本件発明1は「ウイルス不活化成分」と特定しているのに対し、甲1-2発明は「ウイルス不活性化効力増強成分」としている点。
<相違点1-甲12-2>
本件発明1は「不活化する対象のウイルスが、ネコカリシウイルス及び/又は新型コロナウイルス(SARS-CoV2)である」と特定しているのに対し、甲1-2発明は不活化する対象のウイルスを特定していない点。
<相違点1-甲12-3>
本件発明1は「但し、エタノールを含有するウイルス不活化剤を除く」と特定しているのに対し、甲1-2発明は、エタノールを含有するウイルス不活性化剤組成物である点。
上記各相違点について検討する。
<相違点1-甲12-1>について
上記(ア)で示した甲1-1明細書等の記載は、甲1-2明細書等にも記載されているから、相違点1-甲12-1については、上記(ア)で示した相違点1-甲11-1についての判断と同様であり、実質的な相違点ではない。
<相違点1-甲12-2>について
新型コロナウイルス(SARS-CoV2)を対象とすることに関して、甲1-2明細書等には、ウイルス不活性化組成物がコロナウイルスに対して高い不活性化効果を有することが記載されている(摘記甲1-2b)。
そして、甲1-2の出願(2021年(令和3年)3月11日)当時、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)はコロナウイルスとして周知のウイルスであるから、当業者は、甲1-2明細書等に記載された「コロナウイルス」は、具体的に新型コロナウイルス(SARS-CoV2)をその一つとして含むウイルスであると認識するといえる。
さらに、甲1-2明細書等には、「なお、ここでは本発明のウイルス不活性化組成物によるエンベロープウイルスに対する不活性化効果は示していないが、エンベロープウイルスはノンエンベロープウイルスに比べて薬剤に対する感受性が高いため、本発明のウイルス不活性化組成物がエンベロープウイルスに対しても即効的な不活性効果を有するのはもちろんである。」と記載されている([0086](摘記甲1-1b、【0075】))ところ、コロナウイルスはエンベロープウイルスであるから、当業者は、甲1-2発明のウイルス不活性化剤組成物が新型コロナウイルス(SARS-CoV2)に不活性効果を有すると認識するといえる。
してみると、この点は実質的な相違点ではない。
<相違点1-甲12-3>について
甲1-2明細書等の請求項1に、「(A)ウイルス不活性化成分として10質量%~60質量%のエタノールと、・・・と、を(C)水に混合して酸性水溶液としたウイルス不活性化剤組成物。」と記載されるとおり、甲1-2明細書等に記載されたウイルス不活性化剤組成物は、エタノールを必須の成分とするものであり、同[0071](甲1-1明細書等の【0060】に対応する。)には、「本発明1~7および比較例1~5の結果より、エタノールを単独で配合した場合、フマル酸、リン酸、クエン酸一水和物をそれぞれ単独で配合した場合は感染価対数減少値が1未満となりウイルス不活性化効果が認められないが、エタノールとフマル酸、リン酸、クエン酸一水和物とを配合することでウイルス不活性化効果が相乗的に高くなることが確認された。」(摘記甲1-1b)と、フマル酸等を単独で配合した場合はウイルス不活性化効果が認められないが、エタノールとフマル酸等とを配合することでウイルス不活性化効果が相乗的に高くなることが記載されている。
してみると、甲1-2明細書等にはエタノールを含有しないウイルス不活性化剤組成物が記載されているとはいえない。
また、この相違点が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、 削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるともいえない。
したがって、この相違点は実質的な相違点である。
以上のとおりであるから、本件発明1は甲1-2明細書等に記載された発明と実質的に同一であるということはできない。
イ 本件発明2について
(ア)甲1-1発明について
上記ア(ア)の場合と同様に、本件発明2と甲1-1発明を対比すると、両者は、
「フマル酸を0.03~1質量%とエタノールとを含有するウイルス不活化剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-甲11-1>
フマル酸について、本件発明2は「ウイルス不活化成分」と特定しているのに対し、甲1-1発明は「ウイルス不活性化効力増強成分」としている点。
<相違点2-甲11-2>
本件発明2は「不活化する対象のウイルスが、ネコカリシウイルス及び/又は新型コロナウイルス(SARS-CoV2)である」と特定しているのに対し、甲1-1発明は不活化する対象のウイルスを特定していない点。
<相違点2-甲11-3>
本件発明2は「但し、エタノールを10~60質量%を含有する場合を除く」と特定しているのに対し、甲1-1発明は、エタノールを20、40又は60質量%含有するウイルス不活性化剤組成物である点。
上記各相違点について検討する。
<相違点2-甲11-1>及び<相違点2-甲11-2>は、<相違点1-甲11-1>及び<相違点1-甲11-2>と同様の相違点であるから、その判断についても同じであり、上記ア(ア)で述べたとおりである。
<相違点2-甲11-3>について
甲1-1明細書等の請求項1に、「(A)ウイルス不活性化成分として10質量%~60質量%のエタノールと、・・・と、を(C)水に混合して酸性水溶液としたウイルス不活性化剤組成物。」と記載されるとおり、甲1-1明細書等に記載されたウイルス不活性化剤組成物は、エタノールを必須の成分として10質量%~60質量%含有するものであり、同【0060】には、「本発明1~7および比較例1~5の結果より、エタノールを単独で配合した場合、フマル酸、リン酸、クエン酸一水和物をそれぞれ単独で配合した場合は感染価対数減少値が1未満となりウイルス不活性化効果が認められないが、エタノールとフマル酸、リン酸、クエン酸一水和物とを配合することでウイルス不活性化効果が相乗的に高くなることが確認された。」(摘記甲1-1b)と、フマル酸等を単独で配合した場合はウイルス不活性化効果が認められないが、エタノールとフマル酸等とを配合することでウイルス不活性化効果が相乗的に高くなることが記載されている。
してみると、甲1-1明細書等にはエタノール10~60質量%を含有しないウイルス不活性化剤組成物が記載されているとはいえない。
また、この相違点が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、 削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるともいえない。
したがって、この相違点は実質的な相違点である。
以上のとおりであるから、本件発明2は甲1-1明細書等に記載された発明と実質的に同一であるということはできない。
(イ)甲1-2発明について
上記ア(イ)の場合と同様に、本件発明2と甲1-2発明を対比すると、両者は、
「フマル酸を0.03~1質量%とエタノールとを含有するウイルス不活化剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-甲12-1>
フマル酸について、本件発明2は「ウイルス不活化成分」と特定しているのに対し、甲1-2発明は「ウイルス不活性化効力増強成分」としている点。
<相違点2-甲12-2>
本件発明2は「不活化する対象のウイルスが、ネコカリシウイルス及び/又は新型コロナウイルス(SARS-CoV2)である」と特定しているのに対し、甲1-2発明は不活化する対象のウイルスを特定していない点。
<相違点2-甲12-3>
本件発明2は「但し、エタノールを10~60質量%を含有する場合を除く」と特定しているのに対し、甲1-2発明は、エタノールを20、40又は60質量%含有するウイルス不活性化剤組成物である点。
上記各相違点について検討する。
<相違点2-甲12-1>及び<相違点2-甲12-2>は、<相違点1-甲12-1>及び<相違点1-甲12-2>と同様の相違点であるから、その判断についても同じであり、上記ア(イ)で述べたとおりである。
<相違点2-甲12-3>について
甲1-2明細書等の請求項1に、「(A)ウイルス不活性化成分として10質量%~60質量%のエタノールと、・・・と、を(C)水に混合して酸性水溶液としたウイルス不活性化剤組成物。」と記載されるとおり、甲1-2明細書等に記載されたウイルス不活性化剤組成物は、エタノールを必須の成分として10質量%~60質量%含有するものであり、同[0071](甲1-1明細書等の【0060】に対応する。)には、「本発明1~7および比較例1~5の結果より、エタノールを単独で配合した場合、フマル酸、リン酸、クエン酸一水和物をそれぞれ単独で配合した場合は感染価対数減少値が1未満となりウイルス不活性化効果が認められないが、エタノールとフマル酸、リン酸、クエン酸一水和物とを配合することでウイルス不活性化効果が相乗的に高くなることが確認された。」(摘記甲1-1b)と、フマル酸等を単独で配合した場合はウイルス不活性化効果が認められないが、エタノールとフマル酸等とを配合することでウイルス不活性化効果が相乗的に高くなることが記載されている。
してみると、甲1-2明細書等にはエタノール10~60質量%を含有しないウイルス不活性化剤組成物が記載されているとはいえない。
また、この相違点が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、 削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるともいえない。
したがって、この相違点は実質的な相違点である。
以上のとおりであるから、本件発明2は甲1-2明細書等に記載された発明と実質的に同一であるということはできない。
ウ 本件発明4及び6について
本件発明4は、本件発明1及び2について、さらに「ウイルス不活化剤のpHが2.0~5.5である」ことを特定するものであるから、上記ア及びイで述べたのと同様に、甲1-1明細書等及び甲1-2明細書等に記載された発明と実質的に同一であるということはできない。
本件発明6は、「請求項1、2及び4のいずれか一つに記載のウイルス不活化剤を繊維生地に付着又はバインダー成分と共に付着せしめたことを特徴とする繊維生地。」であるところ、上記ア及びイ並びにこの上で、本件発明1、2及び4について述べたとおりであるから、甲1-1明細書等及び甲1-2明細書等に記載された発明と実質的に同一であるということはできない。
(4)取消理由1及び2のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、2、4及び6に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるとはいえず、取消理由1及び2は理由がない。
3 取消理由で採用しなかった申立理由について
(1)申立理由について
申立理由1のうち、訂正前の請求項1、2、4(請求項1及び2の記載を引用するもの)及び6(請求項1、2及び4の記載を引用するもの)に係る特許についての理由は、上記取消理由2として採用した理由であり、訂正前の請求項5及び6(請求項5の記載を引用するもの)に係る特許についての理由は、取消理由で採用しなかった理由である。
そして、訂正前の請求項5及び6(請求項5の記載を引用するもの)(ただし、請求項3の記載を直接的又は間接的に引用するものを除く。)は、訂正後の請求項5及び7~9に対応するので、以下に検討する。
なお、申立理由1は申立ての根拠の証拠を甲1とするものであるが、甲1は、甲1-1の出願を優先権主張の基礎とする甲1-2の出願が国際公開されたものであるから、以下では、甲1-1及び甲1-2の両出願について検討する。
ア 本件発明5について
(ア)甲1-1発明について
上記2(3)ア(ア)の場合と同様に、本件発明5と甲1-1発明を対比すると、両者は、
「フマル酸を0.03~0.6質量%含有するウイルス不活化剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点5-甲11-1>
フマル酸について、本件発明5は「ウイルス不活化成分」と特定しているのに対し、甲1-1発明は「ウイルス不活性化効力増強成分」としている点。
<相違点5-甲11-2>
本件発明5は「不活化する対象のウイルスが、ネコカリシウイルス及び/又は新型コロナウイルス(SARS-CoV2)である」と特定しているのに対し、甲1-1発明は不活化する対象のウイルスを特定していない点。
<相違点5-甲11-3>
本件発明5は、ウイルス不活性化剤組成物がフマル酸を0.03~0.6質量%含有する「と共に、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キサンタンガム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ポリリジン、デヒドロ酢酸及びデヒドロ酢酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種を含有し」と特定しているのに対し、甲1-1発明は、かかる成分を含有しない点。
上記各相違点について検討する。
<相違点5-甲11-1>及び<相違点5-甲11-2>は、<相違点1-甲11-1>及び<相違点1-甲11-2>と同様の相違点であるから、その判断についても同じであり、上記2(3)ア(ア)で述べたとおりである。
<相違点5-甲11-3>について
甲1-1明細書等には、ウイルス不活性化剤組成物が<相違点5-甲11-3>に係る成分を含有することは記載されていない。
また、この相違点が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、 削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるともいえない。
したがって、この相違点は実質的な相違点である。
以上のとおりであるから、本件発明5は甲1-1明細書等に記載された発明と実質的に同一であるということはできない。
(イ)甲1-2発明について
上記2(3)ア(イ)の場合と同様に、本件発明5と甲1-2発明を対比すると、両者は、
「フマル酸を0.03~0.6質量%含有するウイルス不活化剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点5-甲12-1>
フマル酸について、本件発明1は「ウイルス不活化成分」と特定しているのに対し、甲1-2発明は「ウイルス不活性化効力増強成分」としている点。
<相違点5-甲12-2>
本件発明1は「不活化する対象のウイルスが、ネコカリシウイルス及び/又は新型コロナウイルス(SARS-CoV2)である」と特定しているのに対し、甲1-2発明は不活化する対象のウイルスを特定していない点。
<相違点5-甲12-3>
本件発明5は、ウイルス不活性化剤組成物がフマル酸を0.03~0.6質量%含有する「と共に、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キサンタンガム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ポリリジン、デヒドロ酢酸及びデヒドロ酢酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種を含有し」と特定しているのに対し、甲1-2発明は、かかる成分を含有しない点。
上記各相違点について検討する。
<相違点5-甲12-1>及び<相違点5-甲12-2>は、<相違点1-甲12-1>及び<相違点1-甲12-2>と同様の相違点であるから、その判断についても同じであり、上記2(3)ア(イ)で述べたとおりである。
<相違点5-甲12-3>について
甲1-2明細書等には、ウイルス不活性化剤組成物には、「その他の成分として、必要に応じて、無機抗菌剤、有機抗菌剤、ウイルス不活性化剤、防藻剤、防錆剤、溶剤、キレート剤、香料、消臭成分、pH調整剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で配合することにより、抗菌効果、ウイルス不活性化効果、防藻効果、防錆効果、洗浄効果、芳香性、消臭性等を付与するようにしてもよい」ことが記載され(摘記甲1-2a)、無機抗菌剤、有機抗菌剤、ウイルス不活性化剤の例として、ポリリジン及びデヒドロ酢酸が、防錆剤の例として、安息香酸ナトリウムが記載されている(摘記甲1-2a)。
しかし、甲1-2明細書等には、その他の成分として、必要に応じて配合してよいとされる成分は多種多様な物質が例示されているから、甲1-2発明のウイルス不活性化剤組成物にさらに、ポリリジン、デヒドロ酢酸又は安息香酸ナトリウムが配合されたウイルス不活性化剤組成物が記載されているということはできない。
また、この相違点が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるともいえない。
したがって、この相違点は実質的な相違点である。
以上のとおりであるから、本件発明5は甲1-2明細書等に記載された発明と実質的に同一であるということはできない。
イ 本件発明7について
(ア)甲1-1発明について
上記2(3)イ(ア)の場合と同様に、本件発明7と甲1-1発明を対比すると、両者は、
「フマル酸を0.03~1質量%とエタノールとを含有するウイルス不活化剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点7-甲11-1>
フマル酸について、本件発明7は「ウイルス不活化成分」と特定しているのに対し、甲1-1発明は「ウイルス不活性化効力増強成分」としている点。
<相違点7-甲11-2>
本件発明7は「不活化する対象のウイルスが、ネコカリシウイルス及び/又は新型コロナウイルス(SARS-CoV2)である」と特定しているのに対し、甲1-1発明は不活化する対象のウイルスを特定していない点。
<相違点7-甲11-3>
本件発明7は、ウイルス不活性化剤組成物がフマル酸を0.03~1質量%とエタノールとを含有し、「かつ、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キサンタンガム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ポリリジン、デヒドロ酢酸及びデヒドロ酢酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種を含有し」と特定しているのに対し、甲1-1発明は、かかる成分を含有しない点。
上記各相違点について検討する。
<相違点7-甲11-1>及び<相違点7-甲11-3>は、<相違点1-甲11-1>及び<相違点1-甲11-2>と同様の相違点であるから、その判断についても同じであり、上記2(3)ア(ア)で述べたとおりである。
また、<相違点7-甲11-3>は、<相違点5-甲11-3>と同様の相違点であるから、その判断についても同じであり、上記ア(ア)で述べたとおりである。
以上のとおりであるから、本件発明7は甲1-1明細書等に記載された発明と実質的に同一であるということはできない。
(イ)甲1-2発明について
上記2(3)イ(イ)の場合と同様に、本件発明7と甲1-2発明を対比すると、両者は、
「フマル酸を0.03~1質量%とエタノールとを含有するウイルス不活化剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点7-甲12-1>
フマル酸について、本件発明7は「ウイルス不活化成分」と特定しているのに対し、甲1-2発明は「ウイルス不活性化効力増強成分」としている点。
<相違点7-甲12-2>
本件発明7は「不活化する対象のウイルスが、ネコカリシウイルス及び/又は新型コロナウイルス(SARS-CoV2)である」と特定しているのに対し、甲1-2発明は不活化する対象のウイルスを特定していない点。
<相違点7-甲12-3>
本件発明7は、ウイルス不活性化剤組成物がフマル酸を0.03~1質量%とエタノールとを含有し、「かつ、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キサンタンガム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ポリリジン、デヒドロ酢酸及びデヒドロ酢酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種を含有し」と特定しているのに対し、甲1-2発明は、かかる成分を含有しない点。
上記各相違点について検討する。
<相違点7-甲12-1>及び<相違点7-甲12-3>は、<相違点1-甲12-1>及び<相違点1-甲12-2>と同様の相違点であるから、その判断についても同じであり、上記2(3)ア(イ)で述べたとおりである。
また、<相違点7-甲12-3>は、<相違点5-甲12-3>と同様の相違点であるから、その判断についても同じであり、上記ア(イ)で述べたとおりである。
以上のとおりであるから、本件発明7は甲1-2明細書等に記載された発明と実質的に同一であるということはできない。
ウ 本件発明8及び9について
本件発明8は、本件発明5及び7について、さらに「ウイルス不活化剤のpHが2.0~5.5である」ことを特定するものであるから、上記ア及びイで述べたのと同様に、甲1-1明細書等及び甲1-2明細書等に記載された発明と実質的に同一であるということはできない。
本件発明9は、「請求項5、7及び8のいずれか一つに記載のウイルス不活化剤を繊維生地に付着又はバインダー成分と共に付着せしめたことを特徴とする繊維生地。」であるところ、上記ア及びイ並びにこの上で、本件発明5、7及び8について述べたとおりであるから、甲1-1明細書等及び甲1-2明細書等に記載された発明と実質的に同一であるということはできない。
(2)申立理由1のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明5及び7~9に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるとはいえず、申立理由1は理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由並びに申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、請求項1、2、4~9に係る特許を取り消すことはできず、ほかに請求項1、2、4~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項3は本件訂正により削除され、請求項3に係る申立ては申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700044