特許異議申立
2025-701118
表面処理鋼板
- 審判番号
- 2025-701118
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-557217
- 登録番号
- 7688317
- 請求日
- 2025年12月04日
- 審決日
- 2026年03月06日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本製鉄株式会社
- 【権利者代理人】萩原 康司
- 【権利者代理人】金本 哲男
- 【権利者代理人】扇田 尚紀
- 【権利者代理人】齊藤 隆史
- 【権利者代理人】三根 卓也
- 【異議申立人】小林 喜一
- 審判長/審判官
- 審判長 一ノ瀬 薫
- 審判官 八木 誠
- 審判官 長清 吉範
- 分類
- P1651.536-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B) / P1651.121-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特許第7688317号発明「表面処理鋼板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7688317号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7688317号の請求項1~5に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、2024年(令和6年)4月3日(優先権主張 2023年4月4日)を国際出願日としたものであって、令和7年5月27日に特許権の設定登録がされ、同年6月4日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、令和7年12月4日に、特許異議申立人小林喜一(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
母材となる鋼板の表面に位置する、Zn含有めっき層と、
前記Zn含有めっき層上に位置し、バナジウム化合物を少なくとも含有するプライマー皮膜層と、
前記プライマー皮膜層上に位置する、上層皮膜層と、
を有し、
前記プライマー皮膜層の平均厚みは、3.0~15.0μmの範囲内であり、
前記上層皮膜層の平均厚みは、7.0~25.0μmの範囲内であり、
前記上層皮膜層のビッカース硬さは、25~70Hvの範囲内であり、前記プライマー皮膜層のビッカース硬さは、20Hv以下であり、かつ、前記プライマー皮膜層のビッカース硬さとの差は、5~50Hvの範囲内であり、
前記プライマー皮膜層の造膜成分のガラス転移点Tgは、0~40℃の範囲内であり、
前記上層皮膜層の造膜成分のガラス転移点Tgは、40~70℃の範囲内である、表面処理鋼板。
【請求項2】
前記バナジウム化合物の平均粒径は、0.05~2.00μmの範囲内である、請求項1に記載の表面処理鋼板。
【請求項3】
前記プライマー皮膜層における前記バナジウム化合物の含有量は、前記プライマー皮膜層の全固形分質量に対して、5~50質量%の範囲内であり、
前記プライマー皮膜層における造膜成分の含有量は、前記プライマー皮膜層の全固形分質量に対して、30~80質量%の範囲内であり、かつ、
前記バナジウム化合物と前記造膜成分の合計含有量が、前記プライマー皮膜層の全固形分質量の100質量%以下となるように、前記バナジウム化合物と前記造膜成分とを含有する、請求項1又は2に記載の表面処理鋼板。
【請求項4】
前記上層皮膜層は、アルミ顔料を含有する、請求項1又は2に記載の表面処理鋼板。
【請求項5】
前記Zn含有めっき層と、前記プライマー皮膜層との間に、更に化成処理皮膜層を有する、請求項1又は2に記載の表面処理鋼板。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、以下の甲第1号証~甲第4号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲4」という。)を提出して、以下の特許異議申立理由(申立理由1~4)により請求項1~5に係る特許を取り消すべきである旨主張する。
1 証拠方法
甲1:特開2006-175826号公報
甲2:特開2010-247068号公報
甲3:特開2022-149319号公報
甲4:中道敏彦、「塗膜の形成~橋かけ形塗料の硬化機構」、色材協会誌、1989年、62巻、1号、p.28-35
2 特許異議申立理由
(1)申立理由1(実施可能要件)
本件発明1~5は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の発明の詳細な説明において、当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
(2)申立理由2(明確性要件)
本件発明1~5は、明確ではないから、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件発明1~5は、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載されていないから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
(4)申立理由4(進歩性)
本件発明1~5は、甲1に記載された発明及び甲2、3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 当審の判断
1 甲号証の記載事項等
(1)甲1について
ア 記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与。「・・・」は省略を示す。以下同様。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板と、該金属板上に配置された非クロム系下地塗膜と、該下地塗膜上に配置された非クロム系プライマー層と、該プライマー層上に配置された上層塗膜とを少なくとも含む塗装金属板であって、
前記プライマー層のTgが30℃以下であり、上層塗膜のTgが40℃以上であり、且つ、プライマーと上層塗膜との界面の表面粗さRaが、0.25μm以上であることを特徴とする塗装金属板。」
「【実施例】
【0075】
以下に本発明の実施例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
【0076】
1.試験板の作製
1.1 供試材・電気亜鉛めっき鋼板(EG)
板厚0.6mm、亜鉛付着量片面当たり20g/m2(両面めっき)
・溶融亜鉛めっき鋼板(GI)
板厚0.6mm、亜鉛付着量片面当たり60g/m2(両面めっき)
・冷間圧延鋼板(冷延)
板厚0.6mm
1.2
前処理供試材をアルカリ脱脂剤のCL-N364S(日本パ-カライジング製)を用いて、濃度20g/L、温度60℃の水溶液中に10秒間浸漬し、純水で水洗した後乾燥した。
・・・
【0084】
実施例
表1に示す材料を用いた以外は、比較例2と同様にして、下地処理剤層上に、下層皮膜処理プライマー層および上層塗膜層を形成した(2C1B処理)。
・・・
【0095】
【表1】
[図:0001434199000001.jpg]
」
イ 認定事項
【0075】、【0084】及び【0095】の記載を参照すると、請求項1に記載の「金属板」、「非クロム系下地処理」、「非クロム系プライマー層」、「上層塗膜」は、それぞれ、実施例1(なお、表1で表記が異なるものは()内で対応する語句を記載。)では、「鋼板2」、「下地処理剤層」(下地処理)、「下層皮膜処理プライマー層」(プライマ塗膜)、「上層塗膜層」(トップ塗膜)であること、及び、実施例1において、鋼板2は両面めっきされた溶融亜鉛めっき鋼板であり、下層皮膜処理プライマー層(プライマ塗膜)はポリエステル/メラミン系樹脂、カルシウムシリケートを含み、下層皮膜処理プライマー層(プライマ塗膜)の厚みは5μmであり、下層皮膜処理プライマー層(プライマ塗膜)のTgは20℃であり、上層塗膜層(トップ塗膜)の厚みは15μmであり、トップ塗膜のTgは50℃であることが認められる。
ウ 甲1発明
上記ア(特に、請求項1)及びイを総合すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「両面めっきされた溶融亜鉛めっき鋼板と、
前記めっき鋼板上に配置された下地処理剤層と、該下地処理剤層上に配置された、ポリエステル/メラミン系樹脂、カルシウムシリケートを含む下層皮膜処理プライマー層と、
該プライマー層上に配置された上層塗膜層と、
を含み、
前記下層皮膜処理プライマー層の厚みは5μmであり、
前記上層皮膜層の厚みは15μmであり、
前記下層皮膜処理プライマー層のTgは20℃であり、
前記上層塗膜層のTgは50℃である、塗装金属板。」
(2)甲3について
甲3には、以下の事項が記載されている。
「【0013】
図1Aに模式的に示したように、本実施形態に係るプレコートめっき鋼板1は、基材となる鋼板10と、鋼板10の表面に設けられためっき層20と、めっき層20の面上に位置する着色皮膜層30と、を有している。また、図1Aに示したように、めっき層20と、着色皮膜層30と、の間に、化成処理皮膜層40を更に有していることが好ましい。」
「【0030】
<着色皮膜層30について>
着色皮膜層30は、着色顔料を有することで、所望の色に着色された皮膜層である。かかる着色皮膜層30は、図1A及び図1Bに模式的に示したように、ガラス転移点Tgが30℃以上である造膜成分301と、樹脂粒子303と、を含有する。上記のようなガラス転移点Tgを有する造膜成分301により、着色皮膜層30は適切な硬度を有するようになり、プレコートめっき鋼板1の耐疵つき性(特に、引っ掻き疵への耐性)を向上させることができる。また、着色皮膜層30が樹脂粒子303を含有することで、樹脂粒子303が有する靭性、展延性により、着色皮膜層30に加えられた衝撃を緩和することができ、着色皮膜層30の耐疵付き性(特に、引っ掻き疵への耐性)を向上させることができる。また、仮に着色皮膜層30に疵が付いたとしても、疵がめっき層20に到達することを防止することができ、プレコートめっき鋼板1の耐食性を保持することが可能となる。」
「【0035】
かかる着色皮膜層30は、表層から皮膜の厚みの4分の3の押し込み深さで測定したビッカース硬度(試験荷重は、所望の押し込み深さを実現可能な大きさを、着色皮膜層30の硬さに応じて設定する。)が、10~70Hvとなることが好ましい。かかるビッカース硬度は、ユニバーサル硬度計(株式会社フィッシャー・インストルメンツ製)を用いて測定される。樹脂粒子303が存在している位置、存在していない位置を問わずに、任意の10箇所で、上記のような押し込み深さ条件で皮膜表面から硬度を測定し、得られた10個の測定値の平均を算出する。着色皮膜層30が上記のようなビッカース硬度を有することで、耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。着色皮膜層30が示す上記のビッカース硬度は、より好ましくは15~65Hvである。」
「【0047】
<化成処理皮膜層40について>
本実施形態に係る化成処理皮膜層40は、めっき層20と、着色皮膜層30との間に位置しうる皮膜層であり、めっき層20の表面に付着した油分などの不純物及び表面酸化物を、公知の脱脂工程及び洗浄工程で取り除いた後、化成処理により形成される層である。
【0048】
本実施形態に係る化成処理皮膜層40の詳細な構成については、特に限定されるものではなく、樹脂、シランカップリング剤、ジルコニウム化合物、シリカ、リン酸及びその塩、フッ化物、バナジウム化合物、並びに、タンニン又はタンニン酸からなる群より選択される何れか一つ以上を含有してもよい。これら物質を含有することで、更に、化成処理液塗布後の成膜性、水分や腐食性イオン等の腐食因子に対する皮膜のバリア性(緻密性)、及び、めっき面への皮膜密着性などが向上し、皮膜の耐食性の底上げに寄与する。
【0049】
特に、化成処理皮膜層40が、シランカップリング剤、又は、ジルコニウム化合物の何れか一つ以上を含有すると、皮膜層40内に架橋構造を形成し、めっき表面との結合についても強化するため、皮膜の密着性やバリア性を更に向上させることが可能となる。
【0050】
また、化成処理皮膜層40が、シリカ、リン酸及びその塩、フッ化物、又は、バナジウム化合物の何れか一つ以上を含有すると、インヒビターとして機能し、めっきや鋼表面に沈殿皮膜や不動態皮膜を形成することで、耐食性を更に向上させることが可能となる。」
「【0075】
(3)サンプル作製
上記のようにして調製した着色塗料を、乾燥膜厚が以下の表6に示した膜厚になるように、バーコータを用いてめっき鋼板に塗布し、60秒で最高到達板温度(PMT)が200℃になるように加熱して、着色皮膜層を形成した。
【0076】
【表6】
[図:0001434199000002.jpg]
」
2 申立理由1(実施可能要件)について
(1)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書(6~7ページ)において、本件発明1~5は、上層皮膜層とプライマー皮膜層のビッカース硬さを必須の構成要件としており、本件明細書等の【0070】にはビッカース硬さの測定方法が記載されているが、記載されている測定方法では、参考図Aのように、プライマー皮膜層に対面角が136°であるビッカース圧子を1μmの深さまで挿入すると、プライマー皮膜層だけでなく、Zn含有めっき層も押し込まれることになり、Zn含有めっき層の硬さの影響を受けて、プライマー皮膜層のビッカース硬さが測定できないから、本件明細書等の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~5を実施し得る程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない旨主張する。
[図:0001434199000003.jpg]
(2)判断
申立人の上記主張は、本件明細書等の発明の詳細な説明の【0070】の「プライマー皮膜層30のビッカース硬さは、プライマー皮膜層30の厚み方向の断面において、プライマー皮膜層30の所定の位置を測定することで特定する。」との記載において、プライマー皮膜層のビッカース硬さを測定する位置である上記断面が、表面処理鋼板である本件発明の側面であるとの解釈に基づくものであると認められる。
しかしながら、本件明細書等の発明の詳細な説明の【0070】では、上記記載に続いて、「より詳細には、着目する表面処理鋼板1を、常温乾燥型エポキシ樹脂中に、その断面が観察可能なように埋め込み、その埋め込み面を機械研磨する。得られた断面において、プライマー皮膜層30と、プライマー皮膜層30よりも母材鋼板10側に位置する層との界面の位置を特定する。・・・かかる界面から上層皮膜層40側の方向に向かって1μmの位置に対して、ビッカース圧子(四角錐ダイヤモンド圧子)を、1μmの深さまで10秒間かけて挿入して、ビッカース硬さを測定する。」と記載されており、プライマー皮膜層のビッカース硬さを測定する位置である上記断面は、表面処理鋼板の側面ではなく、プライマー皮膜層と、プライマー皮膜層よりも母材鋼板側に位置する層との界面から上層皮膜層40側の方向に向かって1μmの位置の厚み方向の断面であると認められるから、申立人の上記主張は、前提において根拠を欠くものであり、採用することはできない。
そして、本件発明において、プライマー皮膜層の平均厚みは3.0~15.0μmであるから、ビッカース圧子を1μmの深さまで挿入することができ、プライマー皮膜層のビッカース硬さの測定ができることは、当業者であれば、理解できると認められる。
したがって、本件明細書等の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~5を実施し得る程度に明確かつ十分に記載されているといえるから、申立理由1は成り立たない。
3 申立理由2(明確性要件)について
(1)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書(7~8ページ)において、本件発明1~5は、上層皮膜層とプライマー皮膜層のビッカース硬さを必須の構成要件としており、申立理由1で言及したように、プライマー皮膜層のビッカース硬さを測定できないから、不明確である旨主張する。
(2)判断
上記2(2)で説示したのと同様の理由により、申立人の上記主張は、前提において根拠を欠くものであり、採用することはできない。
そして、上記2(2)で説示したように、プライマー皮膜層のビッカース硬さの測定ができることは、当業者であれば、理解できると認められるから、申立理由2も成り立たない。
4 申立理由3(サポート要件)について
(1)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書(8~9ページ)において、本件発明1~5は、各皮膜層のガラス転移点、ビッカース硬さという皮膜の物性パラメータを限定しただけであり、プライマー皮膜層及び上層皮膜層の構成について、明確性を著しく欠いているため、プライマー皮膜層及び上層皮膜層のそれぞれの造膜成分について非常に広範なものを含有し得るものであり、発明の詳細な説明に記載された範囲を明らかに超えるものであるといえるから、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張する。
(2)判断
発明の明確性はサポート要件には直接は関係ないから、申立人の上記主張は、前提において根拠を欠くものであり、採用することはできない。
そして、本件明細書等の発明の詳細な説明の【0002】~【0006】の記載を参照すると、本件発明が解決しようとする課題は、十分な加工性を有し、耐食性も良好であるということを前提として、バナジウム化合物を含有する皮膜層を有する場合であっても、皮膜層の耐熱黄変性をより向上させることであると認められるところ、本件発明1の構成を満たす実施例1~58(表1-1及び1-2参照)は、表2-1及び2-2で示されるように上記課題を解決できるものであり、本件発明1の構成を満たさない比較例1~9(表1-3参照)は、表2-3で示されるように上記課題を解決できるとはいえないものであることを勘案すると、本件発明1~5は、発明の詳細な説明に記載されたものであると認められる。
よって、申立理由3も成り立たない。
5 申立理由4(進歩性)について
(1) 本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、後者の「溶融亜鉛めっき鋼板」は、前者の「母材となる鋼板」に相当し、以下同様に、「配置された」ことは「位置」することに、「下層皮膜処理プライマー層」は「プライマー皮膜層」に、「上層塗膜層」は「上層皮膜層」に、「含」むことは「有」することに、「厚み」は「平均厚み」に、「下層皮膜処理プライマー層のTg」は「プライマー皮膜層の造膜成分のガラス転移点Tg」に、「上層塗膜層のTg」は「上層皮膜層のガラス転移点Tg」に、「塗装金属板」は「表面処理鋼板」に、それぞれ相当する。
(イ)後者の「両面めっきされた溶融亜鉛めっき鋼板」は、該鋼板の両面に亜鉛めっきされたものであるから、その両面(2つの表面)上に前者の「Zn含有めっき層」に相当する層を有することは明らかである。
(ウ)後者の「下地処理剤層」は、両面めっきされた溶融亜鉛めっき鋼板上に配置されたものであり、上記(イ)を踏まえると、後者の「該下地処理剤層上に配置された」ことは、前者の「前記Zn含有めっき層上に位置」することに相当する。
(エ)上記(ア)を踏まえると、後者の「該プライマー層上に配置された上層塗膜層」は前者の「前記プライマー皮膜層上に位置する、上層皮膜層」に相当し、以下同様に、「前記下層皮膜処理プライマー層の厚みは5μmであ」ることは「前記プライマー皮膜層の平均厚みは、3.0~15.0μmの範囲内であ」ることに、「前記上層皮膜層の厚みは15μmであ」ることは「前記上層皮膜層の平均厚みは、7.0~25.0μmの範囲内であ」ことに、「前記下層皮膜処理プライマー層のTgは20℃であ」ることは「前記プライマー皮膜層の造膜成分のガラス転移点Tgは、0~40℃の範囲内であ」ることに、「前記上層塗膜層のTgは50℃である」ことは「前記上層皮膜層の造膜成分のガラス転移点Tgは、40~70℃の範囲内である」ことに、それぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「母材となる鋼板の表面に位置する、Zn含有めっき層と、
前記Zn含有めっき層上に位置するプライマー皮膜層と、
前記プライマー皮膜層上に位置する、上層皮膜層と、
を有し、
前記プライマー皮膜層の平均厚みは、3.0~15.0μmの範囲内であり、
前記上層皮膜層の平均厚みは、7.0~25.0μmの範囲内であり、
前記プライマー皮膜層の造膜成分のガラス転移点Tgは、0~40℃の範囲内であり、
前記上層皮膜層の造膜成分のガラス転移点Tgは、40~70℃の範囲内である、表面処理鋼板。」
<相違点1>
プライマー皮膜層について、本件発明1では、「バナジウム化合物」を少なくとも含有するのに対し、甲1発明では、ポリエステル/メラミン系樹脂、カルシウムシリケートを含み、バナジウム化合物を含まない点。
<相違点2>
本件発明1では、「前記上層皮膜層のビッカース硬さは、25~70Hvの範囲内であり、前記プライマー皮膜層のビッカース硬さは、20Hv以下であり、かつ、前記プライマー皮膜層のビッカース硬さとの差は、5~50Hvの範囲内である」のに対し、甲1発明では、そのような特定はない点。
イ 相違点についての判断
(ア)相違点2について
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
相違点2に係る本件発明1の構成については、甲1だけでなく、甲2~4にも記載も示唆も見いだせず、周知技術であることを認めるに足る証拠もないことから、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとは認められない。
(イ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書(16~17ページ)において、甲3の表6には、着色皮膜層のTgとビッカース硬度が列記されており、列記された数値から、本件発明1の上層皮膜層やプライマー皮膜層のビッカース硬さ等は通常採用されるものであるから、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである旨主張する。
しかしながら、甲3の【0013】、【0030】、【0035】、【0047】~【0050】の記載を参照すると、甲3において、「着色皮膜層」は本件発明1の「上層皮膜層」に相当するものであり、本件発明1の「プライマー皮膜層」に相当するのは、「化成処理皮膜層」であると認められるところ、表6には、着色皮膜層のビッカース硬度等は記載されているが、化成処理皮膜層のビッカース硬度については、甲3全体をみても、記載も示唆も見いだせないから、申立人の上記主張は、当を得たものとはいえず、採用することはできない。
(ウ)小括
以上によれば、相違点1を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2、3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を付加したものであるから、上記(1)イで説示したのと同様の理由により、甲1発明及び甲2、3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)小括
以上により、申立理由4は成り立たない。
第5 むすび
以上によれば、特許異議の申立理由及び証拠によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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