特許異議申立
2025-700268
積層コア及び積層コアの製造方法
- 審判番号
- 2025-700268
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-519259
- 登録番号
- 7553879
- 請求日
- 2025年03月05日
- 審決日
- 2025年06月23日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本製鉄株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】大浪 一徳
- 【権利者代理人】勝俣 智夫
- 【権利者代理人】山口 洋
- 【権利者代理人】堀田 耕一郎
- 【権利者代理人】山口 健吾
- 【権利者代理人】飯田 恭宏
- 【権利者代理人】井口 翔太
- 【異議申立人】小林 喜一
- 審判長/審判官
- 審判長 篠原 功一
- 審判官 岩間 直純
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P1652.161-Y (H01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条の2、特許法第184条の13
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7553879号発明「積層コア及び積層コアの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7553879号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7553879号の請求項1~6に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、2023年(令和5年)9月8日(優先権主張 2022年(令和4年)9月8日)を国際出願日とする出願であって、令和6年9月10日にその特許権の設定登録がされ、令和6年9月19日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許1に対して、令和7年3月5日に特許異議申立人 小林 喜一(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第3 本件特許発明
本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」などという。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるものであり、このうち、本件特許発明1は、次のとおりのものである。
「【請求項 1】
電磁鋼板と接着性絶縁被膜とが交互に積層され、
前記接着性絶縁被膜の完全反応後において、25℃の条件下で測定した場合における積層方向の引張接着強度は、20MPa以上である
積層コア。」
第4 異議申立理由の概要
1 証拠方法
申立人が提出した証拠は、以下のとおりである。(以下、甲第1号証~甲第2号証をその証拠番号に従い「甲1」などということがある。)
甲第1号証:国際公開第2022/270154号
甲第2号証:特願2023-529667号 国内書面
2 申立人による特許異議申立理由の概要
(1) 特許法第29条の2(同法第113条第2号)(以下、「申立理由」という。)
本件特許発明1は、本件特許の優先日前の特許出願であって、その出願後に出願公開された特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明1は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第5 当審の判断
1 申立理由(拡大先願)について
(1)本件明細書の記載等
本件特許明細書には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア
「【背景技術】
【0002】
近年、世界全体で省CO2化の動きが加速しており、駆動時にCO2を排出しないモータ(回転電機、電動機)の適用が、自動車をはじめ様々な分野で広がっている。その動きの中でモータに対し、従来以上の省電力化、高出力化が求められている。
モータに適用される積層コアの積層体製造技術としては、かしめ固着によるもの、レーザ固着によるものが知られている。これらの積層体製造技術により製造された積層コアは、固着部分からの導通に起因する鉄損があるため、この鉄損が、省電力化、高出力化を阻害する原因の一つとなっている。直近では、鉄損低減を重視した、接着剤による積層コアの積層体製造技術の開発が進んできている。
接着剤による積層コアの積層体製造技術には、電磁鋼板に接着剤を塗布してからその電磁鋼板を打ち抜く方式、電磁鋼板を打ち抜いてからその電磁鋼板に接着剤を塗布する方式がある。そして、接着コートされた電磁鋼板を積層する組み立て工程は、型内、型外いずれかで行われる。これらの技術に関し、以下のような先行文献がある。」
イ
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接着コートされた電磁鋼板を型外で積層する技術(特許文献3又は特許文献4参照)は、複数の電磁鋼板を専用治具の内方に収容した状態で当該複数の電磁鋼板に高圧をかけることにより仮止めされて専用治具から取り出された積層体や、専用治具で固定された積層体を、高温で加熱することにより、隣接する電磁鋼板同士を接着するものである。このように、型外での積層体製造方法は、専用治具での固定や取り出し工程を伴うので、自動化が困難であり、これが生産性低下の要因となっている。
接着コートされた電磁鋼板を型内で積層する技術(特許文献1又は特許文献2参照)は、型外で積層する技術とは異なり、積層体を取り出す工程を含まないため、自動化が比較的容易であり、生産性に優れる。しかしながら、高温加熱による接着で積層体を形成した後に、次工程に搬送する際、急冷gしない場合は、積層体の温度が搬送可能な温度まで低下するのに3乃至4時間程度の長時間を要する。また、次工程に搬送する際、急冷する場合は、積層体のサイズに応じて急冷するための大掛かりな冷却機構が必要となり、冷却機構を含む製造装置全体が大型化する。このように、型内での積層体製造方法は、製造に時間を要するか、製造装置が大型化するので、生産の大規模化が困難であり、これが生産性低下の要因となっている。
本願は上記公知技術の問題点を踏まえた、高生産効率で製造可能な積層コア及び積層コアの製造方法を提供するものである。」
ウ
「【0013】
低Tg化によることなく積層体を低温で製造するために、完成した積層体に対して鋼板積層方向に引張力を与える引張試験を行い、モータに用いられる積層体に要求される、積層体の積層方向の引張接着強度(以下では、積層方向の引張接着強度を積層方向引張強度と呼称することがある。)並びに接着剤の温度と反応進行状況及び強度との関係を調べた。積層方向引張強度は、本願が独自に定める評価指標であり、複数枚の板を接着剤により固着してなる積層体の、積層方向(積層板の接着剤との接着面に対する垂直方向)における積層体全体としての接着強度である。詳細には、積層方向引張強度は、積層体に対し積層方向に引張荷重を与えたときに、積層体が破断したときの荷重を、積層体の積層方向Dに垂直な断面の断面積(積層体を構成する板体の一つの板面における接着面積)で除した値である。一方、従来の方法で測定される強度には、JIS K 6849:1994の引張接着強さや、JIS K 6850:1999の引張せん断接着強さなどがあるが、これらは接着剤単独の接着強度である。また、引張せん断接着強さは、接着面に平行なせん断応力を与える場合の接着強度である。ここで、本開示で規定した積層方向引張強度の必要性及びその従来との相違点について説明する。
まず接着剤として用いられる樹脂には相方向性(方位、異方性)がある。ゆえに必要とされる方向での評価を行う必要がある。しかしながら、接着面に対して平行方向に引張強度を評価するせん断引張強度では、今回のように積層方向の引張が必要な場合は不十分である。また、樹脂を含む試験片の引張では樹脂と鋼板との界面での接合や相性が重要であり、JIS K 6849:1994の引張接着強さでは、界面での強度も含めた評価ができず不十分である。
このように、積層方向引張強度と従来の強度は異なる強度を表している。そして、今回見出した積層方向引張強度により、以下の通り、積層方向における積層体全体としての接着強度を測定することができた。
積層方向引張強度並びに接着剤の温度と反応進行状況及び強度との関係を調べた結果、得られた知見は以下のとおりである。
1)モータに用いられる積層体に要求される積層方向引張強度は、そのモータの用途によって異なる。電気自動車(EV)用、ドローン用又は掃除機用に使われるモータであっても、高回転で使用されるモータに用いられる積層体に要求される積層方向引張強度は高く、かしめ固着による一般的な積層体の接合強度である0.5MPaよりも高く、1MPa程度である。
2)接着剤は、高温となるにつれて、柔軟状態(1)から、反応促進状態(2)を経て、反応終了状態(3)に至る、という流れで進展して硬化する(接着剤の硬化メカニズム)。」
エ
「【0059】
試験体は、積層コアから図1において破線で示すように、立方体形状で切り出したものとした。試験体の寸法は、積層方向Dに沿う長さ45.0mm×横3.6mm×縦12.25mmとした。
90℃積層方向引張強度は、試験体の長手方向における両端を引張試験機のチャックで把持した状態で、90℃に加熱した試験体を長手方向に引っ張る引張荷重を徐々に上げていった際の最大荷重を、試験体の断面積で除した値とした。なお、試験体を構成する各電磁鋼板は、接着性絶縁被膜により全面接着されている。
【0060】
使用した接着性絶縁被膜(接着コート)は、完全反応後の25℃における積層方向引張強度が20MPa以上となる接着性樹脂、又は、同条件で14MPaとなる接着性樹脂、とした。なお、接着性樹脂の完全反応後の25℃における積層方向引張強度は、前記90℃積層方向引張強度の測定と同様の方法で予め測定した。
具体的には、No.1、4、5、8、9、11-18の例では、熱硬化性樹脂として、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製、PPN201)を44質量部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアルズ株式会社製、YDCN-700-10)を12質量部、3官能エポキシ樹脂(株式会社ADEKA製、EP-3950E)を10質量部、4官能エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアルズ株式会社製、YH-404)を30質量部、及び、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、エピコート)を4質量部を用い、熱可塑性樹脂としてのフェノキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアルズ株式会社製、YPS-007A30)を40質量部(熱硬化性樹脂基準)、コアシェルゴム10質量部(熱硬化性樹脂基準)、硬化剤としてのDICY12質量部(熱硬化性樹脂基準)を用いた。完全反応後の25℃におけるこの接着性樹脂の積層方向引張強度は24MPaであった。
No.2の例では、熱硬化性樹脂として、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製、PPN201)を44質量部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアルズ株式会社製、YDCN-700-10)を12質量部、3官能エポキシ樹脂(株式会社ADEKA製、EP-3950E)を10質量部、4官能エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアルズ株式会社製、YH-404)を30質量部、及び、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、エピコート)を4質量部を用い、熱可塑性樹脂としてのフェノキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアルズ株式会社製、YPS-007A30)を40質量部(熱硬化性樹脂基準)、コアシェルゴム10質量部(熱硬化性樹脂基準)、硬化剤としてのDDS41質量部及びDCMU2質量部(熱硬化性樹脂基準)を用いた。完全反応後の25℃におけるこの接着性樹脂の積層方向引張強度は83MPaであった。
No.3、6、10の例では、熱硬化性樹脂として、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製、PPN201)を56質量部、及び、4官能エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアルズ株式会社製、YH-404)を44質量部を用い、熱可塑性樹脂としてのフェノキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアルズ株式会社製、YP-50)を33質量部(熱硬化性樹脂基準)、コアシェルゴム5質量部(熱硬化性樹脂基準)、硬化剤としてのDICY12質量部及びDCMU5質量部(熱硬化性樹脂基準)を用いた。完全反応後の25℃におけるこの接着性樹脂の積層方向引張強度は14MPaであった。」
(2)先願の記載と先願発明
甲1(国際公開第2022/270154号)に対応する国際出願PCT/JP2022/019251は、本件特許優先日(2022年(令和4年)9月8日)後の2022年(令和4年)12月29日の公開であって、本件特許優先日前の2022年(令和4年)4月28日を国際出願日とする日本語特許出願である。
よって、当該国際出願は、特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される同法第29条の2の規定における、国際公開されたものとみなされる。
そして、前記PCT/JP2022/019251(以下「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「先願明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア
「[請求項1] 1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)を含むエポキシ樹脂(AA)、
示差走査熱量測定による、未硬化状態でのガラス転移温度が120℃を超えるフェノキシ樹脂(B)、及び、
アミン系潜在性硬化剤(C)を含有し、
前記エポキシ樹脂(A)は、軟化温度が60℃以上のエポキシ樹脂を含み、
前記フェノキシ樹脂(B)の含有量が、前記エポキシ樹脂(AA)100質量部に対して、20~80質量部であり、
得られる接着剤硬化物の、示差走査熱量測定によるガラス転移温度が160℃を超える、電磁鋼板積層用接着剤組成物。」
イ
「[0008] 積層鉄心が使用条件下で高い性能を発揮するためには、特許文献3に示されているように、積層電磁鋼板用の接着剤組成物から得られる硬化物(接着剤硬化物)が、優れた強靭性を有することが要求される。殊に、近年、接着剤硬化物の強靭性については、高温(例えば120℃以上)を含めた広い温度範囲において高い降伏応力を有することが求められている。具体的には、例えば、25℃の条件下で測定した降伏応力が60MPa以上であり、かつ、140℃の条件下で測定した降伏応力が20MPa以上であるが必要とされる。
しかしながら、従来の接着剤組成物から上記のような優れた強靭性を有する接着剤硬化物を得ることは極めて困難であった。」
ウ
「[0065] 本発明の組成物は、電磁鋼板を積層するために用いられる接着剤組成物として使用することができる。
[0066] 本発明の組成物は、例えば、140~250℃の条件下で硬化することができる。硬化温度は、アミン系潜在性硬化剤(C)が活性化する温度以上であることが好ましい。上記硬化の際、加圧してもよい。
本発明の組成物は、硬化後、上述の「本発明の組成物から得られた接着剤硬化物」、又は、後述する本発明の組成物で形成された鉄心が有する接着剤層となる。
[0067]<接着剤硬化物のガラス転移温度>
本発明において、本発明の組成物から得られた接着剤硬化物(又は接着剤層。以下同様)の、示差走査熱量測定によるガラス転移温度は、160℃を超える。
接着剤硬化物のガラス転移温度が160℃を超えることによって、本発明の組成物は高温下でも強靭性に優れる。
接着剤硬化物のガラス転移温度は、本発明の効果がより優れるという観点から、180℃以上が好ましく、200~280℃がより好ましい。
[0068]・接着剤硬化物のガラス転移温度の測定方法
接着剤硬化物のガラス転移温度は、SHIMADZU社製の示差走査熱量計DSC-50を用いて、昇温速度15℃/minで370℃まで昇温し、50℃~370℃の温度領域のDSC曲線を測定した。
本発明においては、基本的に、上記DSC曲線の最初の変曲点の温度を、接着剤硬化物(接着剤層)のガラス転移温度とした。
また、接着剤硬化物が、例えば海島構造や共連続相構造のような相構造を有し、DSC曲線が上記の相構造を形成する複数の樹脂によるガラス転移温度を示す場合、上記接着剤硬化物に含有される含有量が多いほうの樹脂のガラス転移温度、又は、(ドメインではなく)マトリックス樹脂のガラス転移温度を、接着剤硬化物(接着剤層)のガラス転移温度とした。
なお、本発明では、エポキシ樹脂(AA)の含有量がフェノキシ樹脂(B)よりも多いため、得られる接着剤硬化物においては、エポキシ樹脂(AA)とアミン系潜在性硬化剤(C)との硬化物の含有量がフェノキシ樹脂(B)よりも多く支配的となりうる。
[0069]<25℃での降伏応力≧60MPa>
本発明の組成物を硬化させて得られた接着剤硬化物は、本発明の効果(特に強靭性)がより優れ、鉄心を高速回転させても鉄心が破壊又は変形しにくいという観点から、25℃の条件下で測定した降伏応力が60MPa以上であることが好ましく、80~200MPaがより好ましい。
[0070]<140℃での降伏応力≧20MPa>
本発明の組成物を硬化させて得られた接着剤硬化物は、本発明の効果(特に強靭性)がより優れ、鉄心を高温条件下で高速回転させても鉄心が破壊又は変形しにくいという観点から、140℃の条件下で測定した降伏応力が20MPa以上であることが好ましく、35MPa以上がより好ましい。
[0071] 従来、永久磁石を埋め込んだローターの連続回転時の温度は、エンジンオイルなどでの冷却がない場合、140℃程度まで上昇するといわれている(参考文献:平野覚、”電気自動車用モータ構造を模擬した回転二重円筒内の熱流動特性”、9ページ、2013年、筑波大学大学院学位論文12102甲第6725号)。従って、140℃の条件下で測定した接着剤硬化物の降伏応力が20MPa以上である場合、エンジンオイルなどによる冷却がない場合でも高温条件下において、接着剤硬化物の強度(強靭性)を十分維持でき、本発明の組成物は積層鉄心に適用された場合、上記積層鉄心の高速回転時における変形や破壊を抑止できると考えられる。
[0072] 上記接着剤硬化物は、JIS K7161に準じて、25℃の条件下で測定した降伏応力が60MPa以上であり、かつ、140℃の条件下で測定した降伏応力が20MPa以上であることが好ましく、25℃の条件下で測定した降伏応力が85MPa以上であり、かつ、140℃の条件下で測定した降伏応力が35MPa以上であることがより好ましい。
[0073] 本発明において、本発明の組成物を硬化させて得られた接着剤硬化物の25℃での降伏応力(引張降伏応力)は、JIS K 7161:2014に準じて25℃の条件下で測定される。また、上記接着剤硬化物の140℃で測定する降伏応力は、JIS K 7161:2014に準じて140℃の条件下で測定される。
[0074][鉄心]
本発明の組成物で形成された鉄心は、電磁鋼板と接着剤層が交互に積層され、上記接着剤層が、本発明の電磁鋼板積層用接着剤組成物で形成されたものである。
[0075] この本発明に好適な鉄心は、接着剤層が本発明の組成物で形成されることによって、接着性能が優れ、広い温度範囲において強靭性が優れる。このため、この鉄心は高温を含めた広い温度条件下で高速回転させても破壊又は変形しにくいと考えられる。
[0076] この鉄心に使用される電磁鋼板積層用接着剤組成物は、本発明の電磁鋼板積層用接着剤組成物(本発明の組成物で形成された鉄心においては、単に「組成物」と称する。)であれば特に制限されない。
また、本発明の組成物で形成された鉄心に使用される電磁鋼板は特に制限されない。例えば従来公知のものが挙げられる。
[0077] 上記接着剤層は、JIS K7161に準じて、25℃の条件下で測定した降伏応力が60MPa以上であり、かつ、140℃の条件下で測定した降伏応力が20MPa以上であることが好ましい。
本発明の組成物で形成された鉄心における接着剤層の上記降伏応力は、上述した本発明の組成物を硬化させて得られる接着剤硬化物の降伏応力と同様である。
[0078](電磁鋼板への接着力)
本発明の接着剤の電磁鋼板との接着力は、25℃及び/又は140℃でのJIS K 6850に準じたせん断強度が7.0MPa以上であることが好ましい。
[0079](製造方法)
本発明の組成物で形成された鉄心の製造方法は特に本発明の組成物を使用するものであれば制限されない。上記製造方法としては、例えば、
上記組成物を電磁鋼板に塗布する塗布工程、
塗布工程で得られた電磁鋼板を打ち抜く、打ち抜き工程、
打ち抜き工程後の打ち抜かれた電磁鋼板を積層する積層工程、及び
積層工程で得られた積層体を加熱して、上記積層体を一体化する硬化工程を有する製造方法が挙げられる。」
エ
「[0113]
[表1]
[図:0001424619000001.jpg]
」
オ 先願発明
前記[0074]より、先願明細書等には「電磁鋼板と接着剤層が交互に積層された鉄心」が記載されていると認められる。
[0077]~[0078]の記載とあわせて、[0113]の[表1]の実施例2に着目すると、先願明細書等には、「JIS K 7161:2014に準じて測定した25℃の降伏強度が88MPaである接着剤層」が記載されていると認められる。
よって、先願明細書等には、以下の発明(以下「先願発明」という。)が記載されている。
「電磁鋼板と接着剤層が交互積層された鉄心であって、
前記接着剤層がJIS K 7161:2014に準じて測定した25℃の降伏強度が88MPaである、
鉄心。」
(3) 対比
前記先願発明と本件特許発明1とを対比する。
先願発明の鉄心は、積層されており、「鉄心」は「コア」ともいう。また、先願明細書等に記載される接着剤層は絶縁性であることは技術常識であるから、先願発明の「電磁鋼板と接着剤層が交互積層された鉄心」は、本願発明の「電磁鋼板と接着性絶縁被膜とが交互に積層され」た「積層コア」に相当する。
してみれば、本願発明と先願発明とでは、以下の点で一致及び相違する。
[一致点]
「電磁鋼板と接着性絶縁被膜とが交互に積層された、
積層コア。」
[相違点]
本件特許発明1では、「前記接着性絶縁被膜の完全反応後において、25℃の条件下で測定した場合における積層方向の引張接着強度は、20MPa以上である」のに対し、先願発明では、「前記接着剤層がJIS K 7161:2014に準じて測定した25℃の降伏強度が88MPaである」点。
(4) 判断
前記相違点について検討する。
(ア)
本件特許発明1における、積層方向の引張接着強度とは、本件明細書【0013】で定義された独自に定める積層コアの強度の評価指標である。一方、先願発明における降伏強度とは、JIS K 7161:2014で定義されたプラスチックの引張特性に関する一般的なものであり、先願発明においては、あくまでも接着剤層の強度を意味し、積層コアの強度を示すパラメータではない。
よって、前記相違点は実質的相違点であり、本件特許発明1と先願発明とは同一ではない。
(イ)
なお、本件明細書【0060】に記載された実施例のNo.1、4、5、8、9、11-18は、その組成及び製造方法が先願明細書等の【0113】(【表1】)に記載された[表1]の実施例2とほぼ同一であり、両者は同一の特性を有することが推認される。すなわち、先願発明に含まれる物は本件特許発明1に含まれる蓋然性が高い。
しかしながら、先願明細書等に記載された発明の範囲に含まれる物が本件特許発明に含まれるとしても、そのことが本件特許発明と先願明細書等に記載された発明とが同一であることを必ずしも意味しない。
すなわち、特許法29条の2の主旨は、例えば、特許・実用新案審査基準によれば、
「明細書又は図面に記載されている発明は、特許請求の範囲以外に記載されていても、特許掲載公報の発行又は出願公開により一般にその内容は公表される。したがって、たとえ先願の特許掲載公報の発行又は出願公開前に出願された後願であっても、その発明が先願の明細書又は図面に記載された発明と同一である場合には、特許掲載公報の発行又は出願公開をしても新しい技術を何ら公開するものではない。このような発明に特許を付与することは、新しい発明の公表の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当ではないので、後願を拒絶すべきものとした。」
というものである。
よって、先願の公開時に当業者が把握できる先願明細書等に記載された発明を超えて、先願に後願発明を拒絶する効果を認めることは、制度主旨に反する。してみれば、先願明細書等に記載された発明の範囲に含まれる物が後願発明に含まれるとしても、先願明細書等に記載された(技術的思想の創作であるところの)発明と後願発明とは特許法第29条の2における同一の発明とはいえず、同条の規定は、後願発明が新しい技術を公開するものではないか、すなわち、先願の公開時に当業者が把握できる、先願明細書等に記載された発明と後願発明とが同一であるかで、判断されるものと解される。
ここで、本件特許発明1の相違点に係る発明特定事項である「前記接着性絶縁被膜の完全反応後において、25℃の条件下で測定した場合における積層方向の引張接着強度は、20MPa以上である」との事項(特に「積層方向の引張接着強度」との概念)は、先願明細書等には、記載も示唆もされておらず、先願公開時においては、当業者といえども、先願明細書等に前記発明特定事項が記載されていると把握することはできない。
よって、前記(ア)で検討したとおりであり、先願の実施例2が本件特許発明1に含まれる蓋然性が高いとしても、先願の明細書又は図面に記載された発明は、本件特許発明1と同一とはいえない。
(ウ)
以上より、本件特許発明1は、特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される同法第29条の2の規定による、国際出願日における国際出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるとはいえない。
(5) 異議申立人の主張について
申立人は異議申立書3(3)オ「本件特許発明1と先願発明との対比(実質的要件)」において、
「接着性絶縁被膜の完全反応後の25℃の条件下で測定した場合における積層方向の引張接着強度」について、本件特許発明1は「20MPa以上である」が、先願発明は特定されていない点」を一応の相違点として主張し、「本件特許発明1の実施例であるNo.1、4、5、8、9、11-18の例は、接着性絶縁被膜の原料である熱硬化性樹脂が、先願発明の電磁鋼板積層用接着剤組成物と組成が実質同一である。
しかも、両者は、電磁鋼板及び「電磁鋼板と接着性絶縁被膜とが交互に積層され、前記接着性絶縁被膜の完全反応後」の「積層コア」の製造方法も同じである。
したがって、先願発明の「試験片」は、「接着性絶縁被膜の完全反応後の25℃の条件下で測定した場合における積層方向の引張接着強度」は、「20MPa以上である」である蓋然性が高い。また、20MPa以上ではないと考える特段の事情はない。
したがって、上記の一応の相違点は実質的な相違点ではない。
と主張している。
しかしながら、仮に申立人の主張のとおり、先願発明の「試験片」は、「接着性絶縁被膜の完全反応後の25℃の条件下で測定した場合における積層方向の引張接着強度」は、「20MPa以上である」である蓋然性が高い」としても、前記(4)で検討したとおりであり、本件特許発明1は、先願公開時に当業者が先願に記載されているとは把握できない発明特定事項を含むものであって、本件特許出願の公開により新しい技術を公開するものといえるから、本件特許発明は、先願と同一ということはできない。
よって、申立人の意見は採用することができない。
(4) 小括
以上から、本件特許発明1は、その優先日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされたPCT/JP2022/019251(国際公開第2022/270154号)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一ではないから、特許法第29条の2の他の規定を検討するまでもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものには該当しない。
第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700268