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特許異議申立

2024-700792

表面処理鋼材

審判番号
2024-700792
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-562438
登録番号
7445185
請求日
2024年08月22日
審決日
2024年11月29日
公報発行日
2024年12月27日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】日本製鉄株式会社
  • 【権利者代理人】松沼 泰史
  • 【権利者代理人】大浪 一徳
  • 【権利者代理人】勝俣 智夫
  • 【権利者代理人】山口 洋
  • 【権利者代理人】堀田 耕一郎
  • 【権利者代理人】山口 健吾
  • 【権利者代理人】飯田 恭宏
  • 【権利者代理人】井口 翔太
  • 【異議申立人】小林 喜一
審判長/審判官
  • 審判長 井上 猛
  • 審判官 土屋 知久
  • 審判官 相澤 啓祐
分類
P1651.113-Y (C23C) / P1651.121-Y (C23C) / P1651.536-Y (C23C) / P1651.537-Y (C23C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7445185号発明「表面処理鋼材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7445185号の請求項1~2に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7445185号の請求項1~2に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2022年(令和4年)11月22日(優先権主張 令和3年11月22日 日本国)を国際出願日とする出願であって、令和6年2月28日にその特許権の設定登録がなされ、同年3月7日に特許掲載公報が発行された。 本件は、その後、同年8月22日に特許異議申立人小林喜一(以下、「申立人」という。)より請求項1~2(全請求項)に係る特許に対してなされた特許異議申立事件である。 第2 本件発明 本件特許の特許請求の範囲の請求項1~2に係る発明(以下、これらをそれぞれ「本件発明1」~「本件発明2」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~2に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 鋼材と、 前記鋼材の表面に形成されたZnまたはZn合金を含むめっき層と、 前記めっき層の表面に形成された化成処理被膜と、 を有し、 前記化成処理被膜が、シロキサン結合を有する有機ケイ素化合物と、P及びFと、を含み、 前記有機ケイ素化合物中の、アルキレン基と前記シロキサン結合との存在割合を、FT-IRで測定したとき、 前記シロキサン結合を示す1030~1200cm-1の吸光度のピーク値A2に対する、前記アルキレン基を示す2800~3000cm-1の吸光度のピーク値A1の比であるA1/A2が、0.10~0.75である、 ことを特徴とする表面処理鋼材。 【請求項2】 前記化成処理被膜中のリン酸基と前記有機ケイ素化合物中の前記シロキサン結合との存在割合を、FT-IRで測定したとき、 前記シロキサン結合を示す1030~1200cm-1の前記吸光度の前記ピーク値A2に対する、前記リン酸基の1200cm-1の吸光度A3の比であるA3/A2が、0.43~1.00である ことを特徴とする、請求項1に記載の表面処理鋼材。」 第3 特許異議申立理由 申立人は、証拠方法として次の甲第1~5号証を提出し、以下の特許異議申立理由により、請求項1~2に係る特許を取り消すべきである旨主張している。 (証拠方法) 甲第1号証:国際公開第2010/061964号 甲第2号証:特開2012-237065号公報 甲第3号証:特開2013-44025号公報 甲第4号証:国際公開第2010/070729号 甲第5号証:平松実他,「シランカップリング処理した亜鉛-シリカ複合めっきの高分子接着性」,金属表面技術,1986年,Vol.37,No.2,p87-89 なお、以下、甲第1~5号証をそれぞれ「甲1」~「甲5」という。 1 申立理由1(新規性) 本件発明1~2は、甲1~4に記載された発明であるため、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 申立理由2(進歩性) 本件発明1~2は、甲1~4に記載された発明及び甲5に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるため、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 3 申立理由3(サポート要件) (1)本件発明1の「化成処理被膜」は、シロキサン結合を有する有機ケイ素化合物と、P及びFとを含むものであれば、どのようなものを含んでもよく、その含有量についても特定がないため、本件発明1は、課題を解決し得ない発明を含んでいるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)本件発明2の「化成処理被膜」は、シロキサン結合を有する有機ケイ素化合物と、P及びFとを含むものであれば、どのようなものを含んでもよく、その含有量についても特定がないため、本件発明2は、課題を解決し得ない発明を含んでいるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 4 申立理由4(実施可能要件) (1)本件発明1の「化成処理被膜が、シロキサン結合を有する有機ケイ素化合物と、P及びFと、を含み、前記有機ケイ素化合物中の、アルキレン基と前記シロキサン結合との存在割合を、FT-IRで測定したとき、前記シロキサン結合を示す1030~1200cm-1の吸光度のピーク値A2に対する、前記アルキレン基を示す2800~3000cm-1の吸光度のピーク値A1の比であるA1/A2が、0.10~0.75である」との発明特定事項は、その実施に当たり、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要であるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)本件発明2の「化成処理被膜中のリン酸基と前記有機ケイ素化合物中の前記シロキサン結合との存在割合を、FT-IRで測定したとき、前記シロキサン結合を示す1030~1200cm-1の前記吸光度の前記ピーク値A2に対する、前記リン酸基の1200cm-1の吸光度A3の比であるA3/A2が、0.43~1.00である」との発明特定事項は、その実施に当たり、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要であるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 第4 特許異議申立理由の検討 当審は、以下に示すとおり、上記第3の特許異議申立理由はいずれも採用できないと判断する。 1 申立理由1、2(新規性・進歩性) 1-1 甲1を主たる引用例とした場合について (1)甲1の記載事項 甲1には次の記載がある。なお、甲号証に記載された発明の認定に関する箇所に、当審で下線で付した。以下、同じ。 「0001 本発明は、環境負荷性の高い6価クロムを含まず、比較的製造が容易で、撥水・撥油性、耐汚染性、耐溶剤性、耐アルカリ性、耐食性に極めて優れたクロメートフリー表面処理金属材に関する。加えて、撥水・撥油性と接着性を同時に満足し得るクロメートフリー表面処理金属材に関する。」 「発明の概要 発明が解決しようとする課題 0009 本発明は、前記現状に鑑み、環境負荷性の高い6価クロムを含まず、比較的製造が容易で、極めて優れた撥水・撥油性、耐汚染性、耐溶剤性、耐アルカリ性、耐食性を兼ね備える表面処理金属材を提供することを目的とするものである。加えて、撥水・撥油性と接着性を同時に満足し得るクロメートフリー表面処理金属材を提供することも目的とするものである。」 「0014 本発明のクロメートフリー表面処理金属材は、アルキレン基、シロキサン結合及び下記一般式〔X〕で表される架橋性官能基を含有する有機ケイ素化合物(A)と、パーフルオロアルキル基を含有する有機フッ素化合物(B)と、を含有する水性処理剤を金属材表面に塗布し、乾燥することにより形成された皮膜を有することを特徴とする。 -SiR1R2R3 〔X〕 0015 式〔X〕中、R1、R2及びR3は互いに独立に、アルコキシ基又はヒドロキシ基を表し、R1、R2及びR3のいずれか1つがメチル基で置換されていてもよい。」 「0019 すなわち、アルキレン基、シロキサン結合及び前記式-SiR1R2R3で表される架橋性官能基をともに含有する有機ケイ素化合物(A)をバインダー成分とし、それにパーフルオロアルキル基を含有する有機フッ素化合物(B)を複合することで、撥水・撥油性、耐汚染性、耐溶剤性、耐アルカリ性、耐食性(成形加工後も含む)の全てに極めて優れるクロメートフリー皮膜が形成される。」 「0022 これらの有機ケイ素化合物(A)としては、シランカップリング剤の加水分解縮合物等を例示することができる。具体的なシランカップリング剤の例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン等を挙げることができる。前記シランカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。 0023 有機ケイ素化合物(A)がアミノ基を含有するシランカップリング剤(A1)及びエポキシ基を含有するシランカップリング剤(A2)の反応により得られるものであることが特に好ましい。アミノ基とエポキシ基の反応、及び各々に含有するアルコキシシリル基もしくはその部分加水分解生成物同士の反応により、架橋密度の高い緻密な皮膜を形成することが可能で、耐汚染性、耐溶剤性、耐アルカリ性、耐食性を更に向上させることができる。アミノ基を含有するシランカップリング剤(A1)としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミンが、エポキシ基を含有するシランカップリング剤(A2)としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランが例示できる。」 「0081 以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 0082 〔有機ケイ素化合物(A)の製造(製造例1)〕 表1に示す有機ケイ素化合物、有機酸を水中に添加し、常温で攪拌し、固形分濃度10質量%の有機ケイ素化合物水性液を得た。 0083 〔有機フッ素化合物(B)の製造(製造例2)〕 表2に示す単量体、重合開始剤、有機溶剤を混合し、窒素置換した後、65℃で16時間攪拌しながら重合反応を行い、固形分濃度20質量%の重合体溶液を得た。得られた重合体溶液に水、酢酸を添加し、15分間攪拌し、乳化分散した。減圧条件下にて65℃で有機溶剤を留去した後、固形分濃度20質量%になるよう水を加え、有機フッ素化合物水分散液を得た。表2における略号は以下の意味を示す。 C4FMA:CH2=C(CH3)COOC2H4C4F9 C6FMA:CH2=C(CH3)COOC2H4C6F13 DEAEMA:N、N-ジエチルアミノエチルメタクリレート DMAEMA:N、N-ジメチルアミノエチルメタクリレート MAEO8:CH2=C(CH3)COO(C2H4O)nH(nの平均値は8) 2MAEO8:CH2=C(CH3)COO(C2H4O)nCOC(CH3)=CH2(nの平均値は8) HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート MAEO9:CH2=C(CH3)COO(C2H4O)nCH3(nの平均値は9) TMSiMA:3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン 2MAEO14:CH2=C(CH3)COO(C2H4O)nCOC(CH3)=CH2(nの平均値は14) 2AEE:CH2=CHCOOCH2CH(OH)CH2OCH2CH(OH)OCH2CH(OH)CH2OCOCH=CH2 IEO12M:CH2=C(CH3)COOC2H4NHCOO(C2H4O)nCH3(nの平均値は12) 2MAEO4:CH2=C(CH3)COO(C2H4O)nCOC(CH3)=CH2(nの平均値は4) 2MAEO3:CH2=C(CH3)COO(C2H4O)nCOC(CH3)=CH2(nの平均値は3) 135DP:2-イソシアネートエチルメタクリレートの3、5-ジメチルピラゾール付加体 AEO2:CH2=CHCOO(C2H4O)nH(nの平均値は2) MAEO4:CH2=C(CH3)COO(C2H4O)nH(nの平均値は4) AEO10:CH2=CHCOO(C2H4O)nH(nの平均値は10) MAEO14:CH2=C(CH3)COO(C2H4O)nCH3(nの平均値は14) MAEO23:CH2=C(CH3)COO(C2H4O)nCH3(nの平均値は23) MAEO30:CH2=C(CH3)COO(C2H4O)nCH3(nの平均値は30) MAPO9:CH2=C(CH3)COO(C3H6O)nH(nの平均値は9) MABO9:CH2=C(CH3)COO(C4H8O)nH(nの平均値は9) ・・・(略)・・・ 0085 〔水性処理剤の製造(製造例4)〕 製造例1で製造した有機ケイ素化合物水性液、製造例2もしくは3で製造した有機フッ素化合物水性液、表4に示す市販の有機フッ素化合物水性液、及びその他の成分を表5に示す配合にて水中に添加混合し、固形分濃度10%の水性処理剤を得た。表5における略号は以下の意味を示す。 V1:オキシ硫酸バナジウム V2:五酸化バナジウム V3:バナジウムオキシアセチルアセトネート V4:バナジウムアセチルアセトネート 0086 〔表面処理金属材の作製〕 0.8mm厚みの各種金属板表面に製造例4で製造した水性処理剤をバーコーターで塗布し乾燥することで皮膜を形成し、評価試験に用いる表面処理金属板(試験板)を得た。金属板種類、皮膜付着量、乾燥時の到達温度を表6に示す。表6における略号は以下の意味を示す。 EG:電気亜鉛めっき鋼板(めっき付着量20g/m2) GI:溶融亜鉛めっき鋼板(めっき付着量60g/m2) GA:合金化溶融亜鉛めっき鋼板(めっき付着量45g/m2) ZL:電気亜鉛-12%Ni合金めっき鋼板(めっき付着量20g/m2) SD:溶融亜鉛-11%Al-3%Mg-0.2%Siめっき鋼板(めっき付着量60g/m2) AL:溶融Al-9%Siめっき鋼板(めっき付着量40g/m2) SUS:フェライト系ステンレス鋼板(鋼成分:C;0.008質量%、Si;0.07質量%、Mn;0.15質量%、P;0.011質量%、S;0.009質量%、Al;0.067質量%、Cr;17.3質量%、Mo;1.51質量%、N;0.0051質量%、Ti;0.22質量%、残部Fe及び不可避的不純物)」 「0101 [図:0001417670000001.jpg] 0102 [図:0001417670000002.jpg] 」 「0105 [図:0001417670000003.jpg] 」 「0111 [図:0001417670000004.jpg] 」 (2)甲1に記載された発明 ア 上記(1)より、甲1の例137の表面処理金属板に注目すると、甲1(特に、0082、0083、0085、0086、表1、表2、表5-1、表6-3参照。)には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「3-アミノプロピルトリエトキシシラン(A1)、3-グリシドキシプロピルトリメトキシラン(A2)、酢酸を水中に添加し、常温で攪拌し、固形分濃度10質量%の有機ケイ素化合物(A)水性液を得て、 単量体としてCH2=C(CH3)COOC2H4C6F13(B1)、N、N-ジエチルアミノエチルメタクリレート(B2)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(B2、B4)、及び、CH2=C(CH3)COO(C2H4O)nCOC(CH3)=CH2(nの平均値は3)(B4)、重合開始剤としてDAIB、有機溶剤としてアセトンを混合し、窒素置換した後、65℃で16時間攪拌しながら重合反応を行い、固形分濃度20質量%の重合体溶液を得て、得られた重合体溶液から有機フッ素化合物水分散液を得て、 その後、上記有機ケイ素化合物(A)水性液、上記有機フッ素化合物水分散液、リン酸、フッ化Ti酸、オキシ硫酸バナジウムを水中に添加混合し、固形分濃度10%の水性処理剤を得て、 電気亜鉛めっき鋼板表面に、上記水性処理剤をバーコーターで塗布し170℃で乾燥することで皮膜を形成した、表面処理金属板。」 (3)甲5の記載事項 甲5には、次の記載がある。 「 [図:0001417670000005.jpg] [図:0001417670000006.jpg] 」(第87頁右欄第22行~第88頁左欄第4行) 「 [図:0001417670000007.jpg] 」(第88頁右欄) (4)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 ア 甲1発明の「水性処理剤」は、「有機ケイ素化合物(A)水性液、上記有機フッ素化合物水分散液、リン酸、フッ化Ti酸、オキシ硫酸バナジウムを水中に添加混合し」て得たものであり、技術常識に照らして、化成処理剤と解されるから、甲1発明の「電気亜鉛めっき鋼板表面に、上記水性処理剤をバーコーターで塗布し170℃で乾燥することで皮膜を形成した、表面処理金属板」は、本件発明1の「鋼材と、前記鋼材の表面に形成されたZnまたはZn合金を含むめっき層と、前記めっき層の表面に形成された化成処理被膜と、を有」する「表面処理鋼材」に相当する。 イ 甲1には、「本発明のクロメートフリー表面処理金属材は、アルキレン基、シロキサン結合及び下記一般式〔X〕で表される架橋性官能基を含有する有機ケイ素化合物(A)・・・(略)・・・を含有する水性処理剤を金属材表面に塗布し、乾燥することにより形成された皮膜を有することを特徴とする。 -SiR1R2R3 〔X〕」(0014) 「有機ケイ素化合物(A)がアミノ基を含有するシランカップリング剤(A1)及びエポキシ基を含有するシランカップリング剤(A2)の反応により得られるものであることが特に好ましい。・・・(略)・・・アミノ基を含有するシランカップリング剤(A1)としては、・・・(略)・・・3-アミノプロピルトリエトキシシラン・・・(略)・・・が、エポキシ基を含有するシランカップリング剤(A2)としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン・・・(略)・・・が例示できる」(0023)と記載されている。 そして、甲1発明は、上記0023においてカップリング剤として挙げられている、「3-アミノプロピルトリエトキシシラン(A1)、3-グリシドキシプロピルトリメトキシラン(A2)」を用いて「有機ケイ素化合物(A)水性液」を得たものであって、上記0014より該「有機ケイ素化合物(A)」は、「アルキレン基、シロキサン結合及び下記一般式〔X〕で表される架橋性官能基を含有する」から、本件発明1と甲1発明とは、「有機ケイ素化合物中」に「アルキレン基と前記シロキサン結合と」が存在する事項で共通する。 ウ また、甲1発明の「皮膜」は、「リン酸、フッ化Ti酸」を「添加混合」した「水性処理剤」を「塗布」「乾燥」することで形成したものであるから、本件発明1の「P及びFと、を含」むものである。 エ 上記イ、ウを踏まえると、甲1発明の「3-アミノプロピルトリエトキシシラン(A1)、3-グリシドキシプロピルトリメトキシラン(A2)、酢酸を水中に添加し、常温で攪拌し、固形分濃度10質量%の有機ケイ素化合物(A)水性液を得て、単量体としてCH2=C(CH3)COOC2H4C6F13(B1)、N、N-ジエチルアミノエチルメタクリレート(B2)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(B2、B4)、及び、CH2=C(CH3)COO(C2H4O)nCOC(CH3)=CH2(nの平均値は3)(B4)、重合開始剤としてDAIB、有機溶剤としてアセトンを混合し、窒素置換した後、65℃で16時間攪拌しながら重合反応を行い、固形分濃度20質量%の重合体溶液を得て、得られた重合体溶液から有機フッ素化合物水分散液を得て、その後、上記有機ケイ素化合物(A)水性液、上記有機フッ素化合物水分散液、リン酸、フッ化Ti酸、オキシ硫酸バナジウムを水中に添加混合し、固形分濃度10%の水性処理剤を得」る事項と、本件発明1の「化成処理被膜が、シロキサン結合を有する有機ケイ素化合物と、P及びFと、を含み、前記有機ケイ素化合物中の、アルキレン基と前記シロキサン結合との存在割合を、FT-IRで測定したとき、前記シロキサン結合を示す1030~1200cm-1の吸光度のピーク値A2に対する、前記アルキレン基を示す2800~3000cm-1の吸光度のピーク値A1の比であるA1/A2が、0.10~0.75である」事項とは、「化成処理被膜が、シロキサン結合を有する有機ケイ素化合物と、P及びFと、を含み」「前記有機ケイ素化合物中」に「アルキレン基と前記シロキサン結合と」が存在する事項で共通する。 オ 上記ア~エより、本件発明1と甲1発明とは、 「鋼材と、 前記鋼材の表面に形成されたZnまたはZn合金を含むめっき層と、 前記めっき層の表面に形成された化成処理被膜と、 を有し、 前記化成処理被膜が、シロキサン結合を有する有機ケイ素化合物と、P及びFと、を含み、 前記有機ケイ素化合物中に、アルキレン基と前記シロキサン結合とが存在する表面処理鋼材。」の点で一致し、次の相違点で相違する。 (相違点1) 「有機ケイ素化合物中の、アルキレン基とシロキサン結合との存在割合を、FT-IRで測定したとき、前記シロキサン結合を示す1030~1200cm-1の吸光度のピーク値A2に対する、前記アルキレン基を示す2800~3000cm-1の吸光度のピーク値A1の比であるA1/A2」が、本件発明1は、「0.10~0.75である」のに対し、甲1発明は、不明である点。 (5)相違点の検討 ア 上記相違点1について検討する。 イ 甲1には、「有機ケイ素化合物(A)」中の「A1/A2」について、「0.10~0.75」とすることは記載されていないし、当該A1/A2に注目したものでもない。 ウ また、甲1は、アミノ基を含有するシランカップリング剤(A1)及びエポキシ基を含有するシランカップリング剤(A2)を様々なモル比で混合し(表1の「A1/A2モル比」参照。)、電気亜鉛めっき鋼板表面に、上記水性処理剤をバーコーターで塗布した後の乾燥温度も様々な温度で行っている(表6-1~表6-4の「乾燥時到達温度」参照。)。 エ しかしながら、これらのパラメータがどの程度であれば、上記イの「有機ケイ素化合物(A)」中の「A1/A2」が「0.10~0.75」となるのかが不明である。 オ また、本件明細書の実施例の記載における、No.1(またはNo.2)とNo.23(またはNo.22)とを比較すると、パンチングメタルの使用・不使用によってもA1/A2が変化するところ、甲1は、パンチングメタルの使用・不使用が不明である(【表2A】、【表2B】参照。)。 カ さらに、甲5には、亜鉛メッキ表面にγ-APS3部、水3部、メタノール94部の溶液中に1時間浸漬し、このあと120℃で1時間乾燥した、亜鉛-シリカ複合めっき表面について、FT-IRスペクトルが記載されている(上記(3)参照。)。 キ しかしながら、上記(3)のFig.2は、縦スケールが不明であり、アルキレン基とシロキサン結合との存在割合が不明である。 ク 仮に、アルキレン基とシロキサン結合との存在割合が、「0.10~0.75」の範囲内であったとしても、甲5の表面処理剤は、γ-APS3部、水3部、メタノール94部の溶液であって、甲1発明の「水性処理剤」とは異なるものであるから、甲5の記載をもって、甲1発明の「有機ケイ素化合物(A)」中の「A1/A2」が「0.10~0.75」の範囲内であるとはいえない。 ケ 上記イ~クより、甲1発明は、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有しているとはいえないから、上記相違点1は実質的な相違点である。 コ 次に、上記相違点1の容易想到性について、甲1発明及び甲5に記載された事項から検討するに、甲5は「A1/A2」に注目した発明ではないから、甲1発明において、「有機ケイ素化合物(A)」中の「A1/A2」を「0.10~0.75」の範囲内とする動機はない。 サ よって、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 シ また、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、甲1発明とは少なくとも上記相違点1で相違し、上記相違点1についての検討は上記したとおりであるから、本件発明2も、甲1発明とはいえないし、甲1発明及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 1-2 甲2を主たる引用例とした場合について (1)甲2の記載事項 甲2には、次の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、金属板の少なくとも片面に、環境負荷性の高い6価クロムを含まない下地処理層(β)、上層塗膜(α)が順次形成された、耐食性、塗膜密着性等に極めて優れ、しかも従来のプレコート金属板よりも少ない製造工程で安価に製造できるクロメートフリープレコート金属板、及びかかる下地処理に用いるためのプレコート金属板用下地処理剤に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0012】 本発明の目的は、耐食性と塗膜密着性の両方に優れるとともに、実操業条件下で安定な下地処理剤を用いて高い生産性で製造できるクロメートフリープレコート金属板、及びかかる下地処理に用いるためのプレコート金属板用下地処理剤を提供することである。」 「【発明を実施するための形態】 【0016】 本発明のクロメートフリープレコート金属板は、金属板の少なくとも片面に、下地処理層(β)と上層塗膜(α)とが順次形成されている。本発明のクロメートフリープレコート金属板における特徴は、下地処理層(β)が、造膜成分(X)とインヒビター成分(Y)とを含有する点にある。 【0017】 前記造膜成分(X)は、構造中に環状シロキサン結合を有する有機ケイ素化合物(C)と、少なくとも1種のカチオン性有機樹脂(D)とを含む。 【0018】 造膜成分の一つである有機ケイ素化合物(C)は、分子中にアミノ基を含有するシランカップリング剤(A)と分子中にグリシジル基を含有するシランカップリング剤(B)とを配合し反応させて得られ、且つ構造中に環状シロキサン結合を有する。」 「【0022】 本発明における分子中にアミノ基を含有するシランカップリング剤(A)としては、特に限定するものではないが、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどを例示することができる。分子中にグリシジル基を含有するシランカップリング剤(B)としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどを例示することができる。」 「【実施例】 【0079】 次に、実施例により本発明を更に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 【0080】 (1)金属板 使用した金属板の種類を表1に示す。めっきを施した金属板の基材には、板厚0.5mmの軟鋼板を使用した。SUS板についてはフェライト系ステンレス鋼板(鋼成分:C;0.008質量%、Si;0.07質量%、Mn;0.15質量%、P;0.011質量%、S;0.009質量%、Al;0.067質量%、Cr;17.3質量%、Mo;1.51質量%、N;0.0051質量%、Ti;0.22質量%、残部Fe及び不可避的不純物)を使用した。金属板はシリケート系アルカリ脱脂剤のファインクリーナー4336(日本パーカライジング(株)製)を用いて、濃度20g/L、温度60℃の条件で2分間スプレー処理し、純水で30秒間水洗したのちに乾燥したものを使用した。 【0081】 【表1】 [図:0001417670000008.jpg] 【0082】 (2)下地処理層 下地処理層を形成するためのコーティング剤(以下、下地処理剤と呼称)は、表3~8に示す有機ケイ素化合物、有機樹脂、フルオロ金属錯化合物、リン酸化合物、バナジウム(IV)化合物を表9に示す配合量(質量%)で配合し、塗料用分散機を用いて攪拌することで調製した。上記(1)で準備した金属板の表面に該下地処理剤を表10~13に示す付着量になるようにロールコーターで塗装し、熱風乾燥炉を用いて表10~13に示す到達板温度の条件で乾燥させることで、下地処理層を形成させた。 【0083】 (2-1)有機ケイ素化合物 酢酸にてpH4に調整したイオン交換水に、表2に示すシランカップリング剤を、表3に示す組み合わせ、及び配合比率で順次添加し、所定の温度(製造時の開始温度と最高温度を表3に示す)に制御しながら撹拌し、固形分が20%の有機ケイ素化合物水溶液を得た。得られた有機ケイ素化合物の平均の分子量、及びFT-IR反射法による環状シロキサン結合を示す1090~1100cm-1の吸光度(C1)と鎖状シロキサン結合を示す1030~1040cm-1の吸光度(C2)の比〔C1/C2〕を表3に示す。なお、〔C1/C2〕はシランカップリング剤を反応させる時の反応温度により制御した。 【0084】 <分子量> 5質量%に水で希釈した有機ケイ素化合物の水溶液のゲル濾過クロマトグラフィー分析(カラム温度40℃)から求めた。ポリエチレングリコール(分子量:600~12000)換算値の分子量100未満に相当する部分を省いた数値を平均の分子量とした。 【0085】 <FT-IR> FT-IR装置に、赤外全反射吸収スペクトル装置を装備して使用した。測定は、波数範囲650~4000cm-1、分解能4cm-1、積算回数16回、25℃の温度で行った。得られた赤外吸収スペクトルから、ベースライン法(900cm-1、1200cm-1)により、環状シロキサン結合を示す1090~1100cm-1の吸光度(C1)と鎖状シロキサン結合を示す1030~1040cm-1の吸光度(C2)を求めた。 【0086】 【表2】 [図:0001417670000009.jpg] 【0087】 【表3】 [図:0001417670000010.jpg] 【0088】 (2-2)有機樹脂 使用した有機樹脂を表4に示す(有機樹脂D1~D6の製造例は下記製造例1~6の通り)。 【0089】 <製造例1:カチオン性ポリウレタン樹脂の製造例> ポリエーテルポリオール(合成成分:テトラメチレングリコールおよびエチレングリコール、分子量1500)150質量部、トリメチロールプロパン6質量部、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン24質量部、イソホロンジイソシアネート94質量部およびメチルエチルケトン135質量部を反応容器に入れ、70℃~75℃に保ちながら1時間反応させてウレタンプレポリマーを生成させた。ついで該反応容器にジメチル硫酸15質量部を入れ、50~60℃で30分~60分間反応させて、カチオン性ウレタンプレポリマーを生成させた。ついで該反応容器に水576質量部を入れ、混合物を均一に乳化させた後、メチルエチルケトンを回収してカチオン性ポリウレタン樹脂の水分散体(D1)を得た。」 「【0095】 【表4】 [図:0001417670000011.jpg] 【0096】 (2-3)金属化合物、リン酸化合物、フッ素化合物、バナジウム(IV)化合物 使用した金属化合物、リン酸化合物、フッ素化合物、バナジウム(IV)化合物を各々表5~8に示す。 【0097】 【表5】 [図:0001417670000012.jpg] 【0098】 【表6】 [図:0001417670000013.jpg] 」 「【0101】 [図:0001417670000014.jpg] 」 「【0108】 【表11】 [図:0001417670000015.jpg] 」 (2)甲2に記載された発明 ア 上記(1)より、甲2の実施例82の金属板に注目すると、甲2(特に、【0080】、【0082】、表1~6、表9、表11参照。)には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「下地処理剤は、酢酸にてpH4に調整したイオン交換水に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(A1)及び3-グリシドキシプロポリトリメトキシシラン(B1)を添加し、所定の温度に制御しながら撹拌し、固形分が20%の有機ケイ素化合物(C1)水溶液を得て、上記有機ケイ素化合物(C1)、有機樹脂としてカチオン性ポリウレタン樹脂(D1)、金属化合物としてジルコンフッ化水素酸(E2)、リン酸化合物としてリン酸(J1)を配合・攪拌したものであり、 電気亜鉛めっき鋼板(M1)の表面に上記下地処理剤を塗装し、熱風乾燥炉を用いて200℃で乾燥させることで、下地処理層を形成させた金属板。」 (3)対比 本件発明1と甲2発明とを対比する。 ア 甲2発明の「下地処理剤」は、「酢酸にてpH4に調整したイオン交換水に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(A1)及び3-グリシドキシプロポリトリメトキシシラン(B1)を添加し、所定の温度に制御しながら撹拌し、固形分が20%の有機ケイ素化合物(C1)水溶液を得て、上記有機ケイ素化合物(C1)、有機樹脂としてカチオン性ポリウレタン樹脂(D1)、金属化合物としてジルコンフッ化水素酸(E2)、リン酸化合物としてリン酸(J1)を配合・攪拌したものであ」り、技術常識に照らして、化成処理剤と解されるから、甲2発明の「電気亜鉛めっき鋼板(M1)の表面に上記下地処理剤を塗装し、熱風乾燥炉を用いて200℃で乾燥させることで、下地処理層を形成させた金属板」は、本件発明1の「鋼材と、前記鋼材の表面に形成されたZnまたはZn合金を含むめっき層と、前記めっき層の表面に形成された化成処理被膜と、を有」する「表面処理鋼材」に相当する。 イ 甲2には、「本発明に用いることができる有機ケイ素化合物(C)は、例えば、分子中にアミノ基を含有するシランカップリング剤(A)と分子中にグリシジル基を含有するシランカップリング剤(B)の加水分解縮合物等から得ることができる。環状シロキサン結合は、シランカップリング剤の加水分解反応とその後の縮合反応工程において形成される。この際、鎖状シロキサン結合も同時に形成される」(【0019】)と記載されており、また、「本発明における分子中にアミノ基を含有するシランカップリング剤(A)としては、・・・(略)・・・3-アミノプロピルトリメトキシシランなどを例示することができる。分子中にグリシジル基を含有するシランカップリング剤(B)としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン・・・(略)・・・などを例示することができる。」(【0022】)と記載されている。 そして、甲2発明は、上記【0022】で例示された「3-アミノプロピルトリメトキシシラン(A1)及び3-グリシドキシプロポリトリメトキシシラン(B1)」を用いて「有機ケイ素化合物(C1)水溶液」を得たものであるから、甲2発明の「有機ケイ素化合物(C1)」は、上記【0019】に記載された「環状シロキサン結合」及び「鎖状シロキサン結合」を有するものである。 ウ また、甲2発明の「下地処理層」は、「金属化合物としてジルコンフッ化水素酸(E2)、リン酸化合物としてリン酸(J1)を配合」した「下地処理剤」を「塗装」「乾燥」することで形成したものであるから、本件発明1の「P及びF」を含むものである。 エ 上記イ、ウより、甲2発明の「下地処理剤は、酢酸にてpH4に調整したイオン交換水に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(A1)及び3-グリシドキシプロポリトリメトキシシラン(B1)を添加し、所定の温度に制御しながら撹拌し、固形分が20%の有機ケイ素化合物(C1)水溶液を得て、上記有機ケイ素化合物(C1)、有機樹脂としてカチオン性ポリウレタン樹脂(D1)、金属化合物としてジルコンフッ化水素酸(E2)、リン酸化合物としてリン酸(J1)を配合・攪拌したものであ」る事項は、本件発明1の「化成処理被膜が、シロキサン結合を有する有機ケイ素化合物と、P及びFと、を含」む事項に相当する。 オ 上記ア~エより、本件発明1と甲2発明とは、 「鋼材と、 前記鋼材の表面に形成されたZnまたはZn合金を含むめっき層と、 前記めっき層の表面に形成された化成処理被膜と、 を有し、 前記化成処理被膜が、シロキサン結合を有する有機ケイ素化合物と、P及びFと、を含む表面処理鋼材。」の点で一致し、次の相違点で相違する。 (相違点2) 「有機ケイ素化合物中の、アルキレン基とシロキサン結合との存在割合を、FT-IRで測定したとき、前記シロキサン結合を示す1030~1200cm-1の吸光度のピーク値A2に対する、前記アルキレン基を示す2800~3000cm-1の吸光度のピーク値A1の比であるA1/A2」が、本件発明1は、「0.10~0.75である」のに対し、甲2発明は、不明である点。 (4)相違点の検討 ア 上記相違点2について検討する。 イ 甲2には、「有機ケイ素化合物(C1)」中の「A1/A2」について、「0.10~0.75」とすることは記載されていないし、当該A1/A2に注目したものでもない。 ウ また、甲2は、分子中にアミノ基を含有するシランカップリング剤(A)と分子中にグリシジル基を含有するシランカップリング剤(B)を様々な比率で混合し(表3の「比率(A)/(B)」参照。)、電気亜鉛めっき鋼板(M1)の表面に下地処理剤を塗装した後の乾燥温度も様々な温度で行っている(表10~13の「到達板温度」参照。)。 エ しかしながら、これらのパラメータがどの程度であれば、「有機ケイ素化合物(C1)」中の「A1/A2」が「0.10~0.75」となるのかが不明である。 オ また、本件明細書の実施例の記載における、No.1(またはNo.2)とNo.23(またはNo.22)とを比較すると、パンチングメタルの使用・不使用によってもA1/A2が変化するところ、甲2は、パンチングメタルの使用・不使用が不明である。 カ さらに、甲5には、亜鉛メッキ表面にγ-APS3部、水3部、メタノール94部の溶液中に1時間浸漬し、このあと120℃で1時間乾燥した、亜鉛-シリカ複合めっき表面について、FT-IRスペクトルが記載されている(上記1-1の(3)参照。)。 キ しかしながら、上記1-1の(3)のFig.2は、縦スケールが不明であり、アルキレン基とシロキサン結合との存在割合が不明である。 ク 仮に、アルキレン基とシロキサン結合との存在割合が、「0.10~0.75」の範囲内であったとしても、甲5の表面処理剤は、γ-APS3部、水3部、メタノール94部の溶液であって、甲2発明の「下地処理剤」とは異なるものであるから、甲5の記載をもって、甲2発明の「有機ケイ素化合物(C1)」中の「A1/A2」が「0.10~0.75」の範囲内であるとはいえない。 ケ 上記イ~クより、甲2発明は、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有しているとはいえないから、上記相違点2は実質的な相違点である。 コ 次に、上記相違点2の容易想到性について、甲2発明及び甲5に記載された事項から検討するに、甲5は「A1/A2」に注目した発明ではないから、甲2発明において、「有機ケイ素化合物(C1)」中の「A1/A2」を「0.10~0.75」の範囲内とする動機はない。 サ よって、本件発明1は、甲2発明ではないし、甲2発明及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 シ また、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、甲2発明とは少なくとも上記相違点2で相違し、上記相違点2についての検討は上記したとおりであるから、本件発明2も、甲2発明とはいえないし、甲2発明及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 1-3 甲3を主たる引用例とした場合について (1)甲3の記載事項 甲3には、次の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、表面処理溶融めっき鋼材に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本発明は上記事由に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加工部の耐白錆性、耐傷付き性、耐汚染性が良好であり、且つめっき層起因の外観不良もなく、良好な外観を有する表面処理溶融めっき鋼材を提供することにある。」 「【0050】 [塗膜(β)] めっき層(α)の上層に被覆されている塗膜(β)は、アルキレン基、シロキサン結合及び式-SiR1R2R3(式中、R1、R2及びR3は互いに独立に、アルコキシ基又はヒドロキシ基を表し、R1、R2及びR3のいずれか1つがメチル基で置換されていてもよい)で表される架橋性官能基を含有する有機ケイ素化合物(A)を必須の造膜成分とする。前記有機ケイ素化合物(A)を造膜成分とする塗膜(β)は、腐食因子(水や酸素等)のバリヤー性に優れる上に、前記めっき層の表層に形成されているMg系酸化皮膜やめっき層のZnやMgの犠牲防食作用によって生じるZnやMgの初期腐食生成物の保持性にも優れるため、塗膜(β)がない溶融めっき鋼材に比べて格段に耐食性、特に耐白錆性が優れ、赤錆発生を遅らせる効果も有している。また、前記有機ケイ素化合物(A)を造膜成分とする塗膜(β)は耐汚染性にも優れるという特長も有している。ここで耐汚染性とは指紋等の油性汚れが付着しても目立ちにくく、比較的簡単に汚れを除去することができる性能のことを指す。」 「【0054】 <有機ケイ素化合物(A)について> 塗膜(β)の造膜成分である有機ケイ素化合物(A)としては、アルキレン基、シロキサン結合及び下記一般式〔X〕で表される架橋性官能基を含有していれば、特に制限はないが、アルキレン基、シロキサン結合及び下記一般式〔X〕で表される架橋性官能基を含有し、且つ、水を主成分とする水性媒体中で安定に存在でき得るものであることが好ましい。更に、有機ケイ素化合物(A)としては、アミノ基、エポキシ基、及びヒドロキシ基(前記一般式〔X〕に含まれ得るものとは別個のもの)から選ばれる少なくとも1種の架橋性官能基を含有することが、より架橋密度の高い緻密な皮膜を形成し、表面処理溶融めっき鋼材の耐食性、耐傷付き性、耐汚染性を高める上で好ましい。加えて、これらの架橋性官能基は親水性を示すため、塗膜(β)を形成するための塗料組成物が水系塗料である場合、アミノ基、エポキシ基、及びヒドロキシ基から選ばれる少なくとも1種の架橋性官能基を含有することは、有機ケイ素化合物(A)の水系溶媒中での安定性を高める上でも有利である。なお、本明細書における水系溶媒中での安定性とは、経時により水系溶媒中で凝集物や沈降物を発生しにくいことや、増粘やゲル化の現象が起こりにくいことを示す。 -SiR1R2R3 〔X〕 (式中、R1、R2及びR3は互いに独立に、アルコキシ基又はヒドロキシ基を表し、R1、R2及びR3のいずれか1つがメチル基で置換されていてもよい。)」 「【0056】 また、有機ケイ素化合物(A)は、アミノ基を含有するシランカップリング剤(A1)と、エポキシ基を含有するシランカップリング剤(A2)との反応により得られるものであることが特に好ましい。アミノ基とエポキシ基との反応、及び、シランカップリング剤(A1)とシランカップリング剤(A2)の各々に含有されるアルコキシシリル基又はその部分加水分解生成物同士の反応により、架橋密度の高い緻密な皮膜を形成することが可能となり、これにより表面処理溶融めっき鋼材の耐食性、耐傷付き性、耐汚染性を更に向上させることができる。アミノ基を含有するシランカップリング剤(A1)としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミンが例示でき、エポキシ基を含有するシランカップリング剤(A2)としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランが例示できる。 【0057】 アミノ基を含有するシランカップリング剤(A1)とエポキシ基を含有するシランカップリング剤(A2)とのモル比〔(A1)/(A2)〕は、0.5以上2.5以下であることが好ましく、より好ましくは0.7以上1.6以下である。モル比〔(A1)/(A2)〕が0.5よりも小さいと、造膜性が低下し、耐食性が低下する場合があり、2.5よりも大きいと、耐水性が低下し、耐食性が低下する場合がある。」 「【0164】 塗料組成物から塗膜(β)を形成する際の加熱乾燥方法としては、特に制限されることなく、任意の方法で行うことができる。例えば、塗料組成物を塗布する前に予めめっき鋼材を加熱しておくか、塗布後にめっき鋼材を加熱するか、あるいはこれらを組み合わせて乾燥を行うことができる。加熱方法にも特に制限はなく、熱風、誘導加熱、近赤外線、直火等を単独又は組み合わせて使用して、塗料組成物を乾燥させて焼付けることができる。乾燥焼付温度は、到達板温で100℃~250℃であることが好ましく、120℃~230℃であることが更に好ましく、130℃~220℃であることが最も好ましい。到達板温が100℃未満であると、塗膜の造膜が不十分で、耐食性、耐傷付き性、耐汚染性が低下することがあり、250℃超であると、焼付硬化が過剰になり、耐食性が低下することがある。乾燥焼付時間(加熱時間)は1秒~60秒であることが好ましく、3秒~20秒であることが更に好ましい。乾燥焼付時間が1秒未満であると、塗膜の造膜が不十分で、耐食性、耐傷付き性、耐汚染性が低下することがあり、60秒超であると、生産性が低下する。」 「【実施例】 【0167】 溶融めっき鋼材として溶融めっき鋼板を使用した実施例により本発明を更に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 【0168】 (1)溶融めっき鋼板(溶融めっき鋼材) まず、溶融めっき鋼板の作製方法、及びそれにより得られた溶融めっき鋼板の評価試験方法、試験結果について説明する。 【0169】 [1.1.溶融めっき鋼板の作製方法] 鋼材1として厚み0.80mm、幅1000mmの長尺の鋼板1a(低炭素アルミニウムキルド鋼製)を用いた。この鋼板1aに対し、図1に示す溶融めっき処理装置を用いて、溶融めっき処理を施した。処理条件は表1に示すとおりである。表1に示される凝固開始温度は、Zn-Al二元系の浴の状態図の液相曲線から導き出した値であり、表1に示す各溶融めっき浴組成におけるAlの含有量に対応する値である。なお、水準M68、M69では、鋼鈑1aに溶融めっき処理を施す前に、Niプレめっきを施すことで、水準M68では付着量(片面)0.5g/m2、水準M69では付着量(片面)2.0g/m2のプレめっき層を形成した。水準M70では、Zn-10%Crプレめっき処理を施し、付着量(片面)1.0g/m2のプレめっき層を形成した。他の実施例及び比較例ではプレめっき処理を施さなかった。」 「【0173】 【表1】 [図:0001417670000016.jpg] 」 「【0200】 [2.1.表面処理溶融めっき鋼板の作製] (2.1.1.塗膜及び表面処理溶融めっき鋼板) 塗膜を形成するための塗料組成物は、表3に示す有機ケイ素化合物(A)と、表4に示す有機樹脂(B)と、表5に示す潤滑剤(C)と、表6に示すリン酸化合物(D)と、表7に示すバナジウム化合物(E)と、表8に示すフルオロ錯化合物(F)と、表9及び下記製造例1、2に示すパーフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートに基づく重合単位を含む重合体(G)とを、表10に示す配合量(固形分の質量%)で配合し、塗料用分散機を用いて攪拌することで調製した。前記[1.1]で作製した溶融めっき鋼板の表面に、上記塗料組成物を所定の付着量になるようにロールコーターで塗装し、所定の到達板温度になるように加熱乾燥し、塗膜を形成させることで表面処理溶融めっき鋼板を得た。該表面処理溶融めっき鋼板の塗膜構成及び塗膜の付着量、到達板温度も表10に示す。 【0201】 表3の有機ケイ素化合物(A)は、同表に示した原料シランカップリング剤1の加水分解縮合、又は原料シランカップリング剤1と2の加水分解縮合により調製した。」 「【0204】 【表7】 [図:0001417670000017.jpg] 」 「【0207】 【表10】 [図:0001417670000018.jpg] 【0208】 【表11】 [図:0001417670000019.jpg] 【0209】 【表12】 [図:0001417670000020.jpg] 」 「【0213】 【表16】 [図:0001417670000021.jpg] 」 (2)甲3に記載された発明 ア 上記(1)より、甲3の実施例78の表面処理溶融めっき鋼板に注目すると、甲3(特に、【0169】、【0200】、【0201】、【表1】、【表7】、【表10】~【表12】、【表16】参照。)には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。 「塗膜を形成するための塗料組成物は、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(a1)と3-グリシドキシプロピルトリメトキシラン(a2)との加水分解縮合により調製した有機ケイ素化合物(A)と、リン酸化合物(D)としてのリン酸と、バナジウム化合物(E)としてのバナジウム酸アンモニウムと、フルオロ錯化合物(F)としてのフッ化チタン酸とを配合し、塗料用分散機を用いて攪拌することで調製し、 鋼板に対し、質量%で、Al25.2%、Cr0.07%、Si1.3%、Mg1.8%、Fe0.18%、Sr33ppm、残部がZnを含む溶融めっき浴で溶融めっき処理を施し、 この溶融めっき鋼板の表面に、上記塗料組成物をロールコーターで塗装し、到達板温度130℃になるように加熱乾燥し、塗膜を形成させることで得た表面処理溶融めっき鋼板。」 (3)対比 本件発明1と甲3発明とを対比する。 ア 甲3発明の「鋼板」、「表面処理溶融めっき鋼板」は、それぞれ本件発明1の「鋼材」、「表面処理鋼材」に相当する。 イ 甲3発明は、「鋼板に対し、質量%で、Al25.2%、Cr0.07%、Si1.3%、Mg1.8%、Fe0.18%、Sr33ppm、残部がZnを含む溶融めっき浴で溶融めっき処理を施」すものであるから、本件発明1の「ZnまたはZn合金を含むめっき層」を有するものである。 そうすると、甲3発明の「鋼板に対し、質量%で、Al25.2%、Cr0.07%、Si1.3%、Mg1.8%、Fe0.18%、Sr33ppm、残部がZnを含む溶融めっき浴で溶融めっき処理を施」す事項は、本件発明1の「鋼材と、前記鋼材の表面に形成されたZnまたはZn合金を含むめっき層と、」「を有」する事項に相当する。 ウ 甲3には、「塗膜(β)の造膜成分である有機ケイ素化合物(A)としては、アルキレン基、シロキサン結合及び下記一般式〔X〕で表される架橋性官能基を含有していれば、特に制限はない」(【0054】)と記載されているから、甲3発明の「3-アミノプロピルトリエトキシシラン(a1)と3-グリシドキシプロピルトリメトキシラン(a2)との加水分解縮合により調製した有機ケイ素化合物(A)」は、本件発明1の「シロキサン結合を有する有機ケイ素化合物」に相当する。 また、甲3発明の「リン酸化合物(D)としてのリン酸」、「フルオロ錯化合物(F)としてのフッ化チタン酸」は、それぞれ本件発明1の「P」、「F」を含むものである。 そうすると、甲3発明の「塗膜を形成するための塗料組成物」は、技術常識に照らして、化成処理組成物と解されるから、甲3発明の「塗膜を形成するための塗料組成物は、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(a1)と3-グリシドキシプロピルトリメトキシラン(a2)との加水分解縮合により調製した有機ケイ素化合物(A)と、リン酸化合物(D)としてのリン酸と、バナジウム化合物(E)としてのバナジウム酸アンモニウムと、フルオロ錯化合物(F)としてのフッ化チタン酸とを配合し、塗料用分散機を用いて攪拌することで調製し、」「溶融めっき鋼板の表面に、上記塗料組成物をロールコーターで塗装し、到達板温度130℃になるように加熱乾燥し、塗膜を形成させる」事項は、本件発明1の「めっき層の表面に形成された化成処理被膜」「を有し、」「化成処理被膜が、シロキサン結合を有する有機ケイ素化合物と、P及びFと、を含」む事項に相当する。 エ 上記ア~ウより、本件発明1と甲3発明とは、 「鋼材と、 前記鋼材の表面に形成されたZnまたはZn合金を含むめっき層と、 前記めっき層の表面に形成された化成処理被膜と、 を有し、 前記化成処理被膜が、シロキサン結合を有する有機ケイ素化合物と、P及びFと、を含む表面処理鋼材。」の点で一致し、次の相違点で相違する。 (相違点3) 「有機ケイ素化合物中の、アルキレン基とシロキサン結合との存在割合を、FT-IRで測定したとき、前記シロキサン結合を示す1030~1200cm-1の吸光度のピーク値A2に対する、前記アルキレン基を示す2800~3000cm-1の吸光度のピーク値A1の比であるA1/A2」が、本件発明1は、「0.10~0.75である」のに対し、甲3発明は、不明である点。 (4)相違点の検討 ア 上記相違点3について検討する。 イ 甲3には、「有機ケイ素化合物(A)」中の「A1/A2」について、「0.10~0.75」とすることは記載されていないし、当該A1/A2に注目したものでもない。 ウ また、甲3は、原料シランカップリング剤1と2を様々な比率で混合(【表7】の「a1/a2モル比」参照。)している。 エ しかしながら、上記ウの比率がどの程度であれば、「有機ケイ素化合物(A)」中の「A1/A2」が「0.10~0.75」となるのかが不明である。 オ また、本件明細書には、「乾燥-冷却工程では、PMT(Peak Metal Temperature:鋼材の最高到達温度:以下、「PMT」という。)を155~200℃とする」(【0032】)と記載されているのに対し、甲3の実施例において、到達板温度は130℃である(【表14】~【表21】参照。)。 カ さらに、本件明細書の実施例の記載における、No.1(またはNo.2)とNo.23(またはNo.22)とを比較すると、パンチングメタルの使用・不使用によってもA1/A2が変化するところ、甲3は、パンチングメタルの使用・不使用が不明である。 キ また、甲5には、亜鉛メッキ表面にγ-APS3部、水3部、メタノール94部の溶液中に1時間浸漬し、このあと120℃で1時間乾燥した、亜鉛-シリカ複合めっき表面について、FT-IRスペクトルが記載されている(上記1-1の(3)参照。) ク しかしながら、上記1-1の(3)のFig.2は、縦スケールが不明であり、アルキレン基とシロキサン結合との存在割合が不明である。 ケ 仮に、アルキレン基とシロキサン結合との存在割合が、「0.10~0.75」の範囲内であったとしても、甲5の表面処理剤は、γ-APS3部、水3部、メタノール94部の溶液であって、甲3発明の「塗料組成物」とは異なるものであるから、甲5の記載をもって、甲3発明の「有機ケイ素化合物(A)」中の「A1/A2」が「0.10~0.75」の範囲内であるとはいえない。 コ 上記イ~ケより、甲3発明は、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を有しているとはいえないから、上記相違点3は実質的な相違点である。 サ 次に、上記相違点3の容易想到性について、甲3発明及び甲5に記載された事項から検討するに、甲5は「A1/A2」に注目した発明ではないから、甲3発明において、「有機ケイ素化合物(A)」中の「A1/A2」を「0.10~0.75」の範囲内とする動機はない。 シ よって、本件発明1は、甲3発明ではないし、甲3発明及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 ス また、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、甲3発明とは少なくとも上記相違点3で相違し、上記相違点3についての検討は上記したとおりであるから、本件発明2も、甲3発明とはいえないし、甲3発明及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 1-4 甲4を主たる引用例とした場合について (1)甲4の記載事項 甲4には、次の記載がある。 「[0001]本発明は、鋼、亜鉛系めっき鋼板、アルミニウム板、等の金属材料の表面に優れた耐食性(特に、折り曲げ部耐食性)および上塗り塗装密着性を付与でき、耐酸性や耐アルカリ性などの耐薬品性も併せ持つ皮膜を形成するための金属材料用表面処理剤、およびそれを用いた金属材料の表面処理方法に関するものである。」 「発明が解決しようとする課題 [0018]本発明は、従来技術の有する上記課題点を解決して、金属材料表面に優れた耐食性、および耐酸性は、もとより、無機系皮膜が通常有する耐熱性、および導電性に優れ、有機系皮膜が通常有する耐指紋性などを併せ持つこれまでにない新規皮膜を形成することができ、液安定性に優れた金属材料用表面処理剤、それを用いた表面処理方法、および表面処理された金属材料を提供することを目的とするものである。」 「[0032]化合物(A)の他の好ましい実施形態の一つとして、反応性官能基(c1)を有するシランカップリング剤と、その反応性官能基(c1)と反応しえる官能基(c2)を有する化合物との反応により得られる化合物(反応生成物)が挙げられる。」 「[0039] 塗料組成物から塗膜(β)を形成する際の加熱乾燥方法としては、特に制限されることなく、任意の方法で行うことができる。例えば、塗料組成物を塗布する前に予めめっき鋼材を加熱しておくか、塗布後にめっき鋼材を加熱するか、あるいはこれらを組み合わせて乾燥を行うことができる。加熱方法にも特に制限はなく、熱風、誘導加熱、近赤外線、直火等を単独又は組み合わせて使用して、塗料組成物を乾燥させて焼付けることができる。乾燥焼付温度は、到達板温で100℃~250℃であることが好ましく、120℃~230℃であることが更に好ましく、130℃~220℃であることが最も好ましい。到達板温が100℃未満であると、塗膜の造膜が不十分で、耐食性、耐傷付き性、耐汚染性が低下することがあり、250℃超であると、焼付硬化が過剰になり、耐食性が低下することがある。乾燥焼付時間(加熱時間)は1秒~60秒であることが好ましく、3秒~20秒であることが更に好ましい。乾燥焼付時間が1秒未満であると、塗膜の造膜が不十分で、耐食性、耐傷付き性、耐汚染性が低下することがあり、60秒超であると、生産性が低下する。」 「[0041]官能基(c2)を有する化合物としては、反応性官能基(c1)を有するシランカップリング剤が好ましく挙げられる。つまり、化合物(A)は、反応性官能基(c1)を有するシランカップリング剤同士の反応生成物であることが好ましい。」 「[0043]反応性官能基(c1)を有するシランカップリング剤と、官能基(c2)を有する化合物との反応比は、特に制限されないが、シランカップリング剤:化合物(モル比)=5:1~0.5:1が好ましく、3:1~1:1がより好ましい。」 「[0074]適用する金属材料は、特に限定されないが、亜鉛含有金属めっき鋼板、アルミニウム板、ステンレス鋼板が好ましい。これらの金属材料表面には事前にリン酸塩処理、クロメート処理等の前処理が施されていてもよい。」 「[0081]一方、本発明の金属材料用表面処理剤を用いた皮膜は、主にケイ素を主成分として形成される。その構造については、ケイ素-有機鎖の配列が規則的であり、また有機鎖が比較的短いことから、皮膜中の極めて微小な区域に、規則的かつ緻密にケイ素含有部と有機物部、すなわち無機物と有機物が配列していると考えられる。そのため、無機系皮膜が通常有する耐熱性、溶接性、連続加工性および導電性、有機系皮膜が通常有する耐指紋性や塗装性などを併せ持つ新規な皮膜の形成が可能になると推定される。 なお、皮膜中のケイ素含有部においては、ケイ素の約80%がシロキサン結合を形成していることが分析で確認されている。 実施例 [0082]以下に本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。試験板の調製、実施例および比較例、および金属材料用表面処理剤の塗布の方法について下記に説明する。 [0083]試験板の調製 (1)試験素材 下記に示した市販の素材を用いた。 ・電気亜鉛めっき鋼板(EG):板厚=0.8mm、目付量=20/20(g/m2) ・5%アルミニウム含有溶融亜鉛めっき鋼板(GF):板厚=0.8mm、目付量=90/90(g/m2) ・亜鉛ニッケル合金めっき鋼板(Zn/Ni):板厚=0.8mm、目付量=20/20(g/m2) ・溶融55%亜鉛合金めっき鋼板(GL):板厚=0.8mm、目付量=90/90(g/m2) ・合金化(Zn-Fe)溶融亜鉛めっき鋼板(GA):板厚=0.8mm、目付量=60/60(g/m2) ・溶融亜鉛めっき鋼板(GI):板厚=0.8mm、目付量=60/60(g/m2) ・A-1100系アルミニウム板(AL):板厚=0.8mm なお、目付量はそれぞれの鋼板の主面上への目付量を示している。例えば、電気亜鉛めっき鋼板の場合は、20/20(g/m2)であり、鋼板の両面のそれぞれに20g/m2のめっきを有することを意味する。 [0084](2)試験板の作製 上記試験素材を、シリケート系アルカリ脱脂剤のファインクリーナー4336(登録商標:日本パーカライジング(株)製)を用いて、濃度20g/L、温度60℃の条件で2分間スプレー処理し、純水で30秒間水洗したのちに乾燥したものを試験板とした。この試験板に後述する金属材料用表面処理剤をバーコーターにて塗布し、熱風乾燥炉を用い、到達温度を90℃となるように乾燥した。」 「[0094]〔化合物A9〕 3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン175.1質量部と3-アミノプロピルトリメトキシシラン58.5質量部を混合させたシランカップリング剤に、純水と混合し、固形分が10質量%になるように調整した。 得られた生成物の一分子中の官能基(a)数は1個で、官能基(a)1個当たりの分子量(平均分子量/官能基数)は約230であり、化合物(A)の範囲外であった。 [0095]<金属アルコキシド(B)> B1:チタンテトライソプロポキシド B2:テトラメトキシシラン B3:テトラエトキシシラン B4:テトラノルマルプロポキシシラン B5:ジルコニウムテトラプロポキシド [0096]<化合物(C)> C1:チタンフッ化水素酸 C2:ジルコンフッ化水素酸 C3:ケイフッ化水素酸 C4:ハフニウムフッ化水素酸 C5:チタンフッ化アンモニウム C6:ジルコンフッ化アンモニウム C7:フッ化アンモニウム C8:リン酸 C9:ピロリン酸 C10:りん酸水素二アンモニウム [0097]<有機化合物(D)> D1:酢酸 D2:酒石酸 D3:フタル酸 D4:エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸 D5:スルホン酸 [0098]<金属化合物(E)> E1:メタタングステン酸アンモニウム E2:炭酸ジルコニウムアンモニウム E3:バナジルアセチルアセトネート E4:チタンアセチルアセトネート E5:バナジン酸アンモニウム E6:重リン酸アルミニウム E7:重リン酸マグネシウム E8:りん酸二水素マンガン E9:硝酸ニッケル E10:硝酸アルミニウム [0099]上述した化合物(A)、金属アルコキド(B)、化合物(C)、有機化合物(D)、水、および金属化合物(E)を表1に示す所定量で水中にて配合し、金属材料用表面処理剤を調製した。表1中の成分(A)~(E)の配合量は、処理液1kg中に配合される量(g)を表す。また、各処理剤に含まれる成分(A)~(E)以外の成分は、主に水である。なお、表1中における化合物(A)の配合量は、化合物(A)中のSi量(ケイ素成分)をSiO2に換算したときの質量を意味する。また、表1中における金属アルコキシド(B)の配合量は、金属アルコキシド(B)中のSi量(ケイ素成分)、Ti量(チタン成分)、およびZr量(ジルコニウム成分)をMO2(Mは、Si、Ti、またはZrを表す)に換算したときの合計質量を意味する。また、表1中、2種の化合物を併用する場合の比率は、質量比(g)を意味する。 調製された処理剤を、表1に示す試験板の表面に、所定の皮膜量になるようにバーコート塗布し、到達板温が90℃になるように乾燥して皮膜を形成した。」 「[0101] [表2] [図:0001417670000022.jpg] 」 (2)甲4に記載された発明 ア 上記(1)より、甲4の比較例5の試験板に注目すると、甲4(特に、[0083]、[0094]~[0099]、[表2]参照。)には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。 「3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン175.1質量部と3-アミノプロピルトリメトキシシラン58.5質量部を混合させたシランカップリング剤に、純水と混合し、固形分が10質量%になるように調整した化合物(A)、金属アルコキシド(B)としてテトラエトキシシラン(B3)、化合物(C)としてチタンフッ化水素酸(C1)及びりん酸水素二アンモニウム(C10)、有機化合物(D)として酢酸(D1)、水、および金属化合物(E)としてバナジルアセチルアセトネート(E3)を配合し、金属材料用表面処理剤を調製し、 調製された金属材料用表面処理剤を、電気亜鉛めっき鋼板(EG)の試験板の表面に、バーコート塗布し、到達板温が90℃になるように乾燥して皮膜を形成した試験板。」 (3)対比 本件発明1と甲4発明とを対比する。 ア 甲4発明の「金属材料用表面処理剤」は、「3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン175.1質量部と3-アミノプロピルトリメトキシシラン58.5質量部を混合させたシランカップリング剤に、純水と混合し、固形分が10質量%になるように調整した化合物(A)、金属アルコキシド(B)としてテトラエトキシシラン(B3)、化合物(C)としてチタンフッ化水素酸(C1)及びりん酸水素二アンモニウム(C10)、有機化合物(D)として酢酸(D1)、水、および金属化合物(E)としてバナジルアセチルアセトネート(E3)を配合し、」「調製し」たものであり、技術常識に照らして、化成処理剤と解されるから、甲4発明の「調製された金属材料用表面処理剤を、電気亜鉛めっき鋼板(EG)の試験板の表面に、バーコート塗布し、到達板温が90℃になるように乾燥して皮膜を形成した試験板」は、本件発明1の「鋼材と、前記鋼材の表面に形成されたZnまたはZn合金を含むめっき層と、前記めっき層の表面に形成された化成処理被膜と、を有」する「表面処理鋼材」に相当する。 イ 甲4には、「皮膜中のケイ素含有部においては、ケイ素の約80%がシロキサン結合を形成していることが分析で確認されている」([0081))と記載されているから、甲4発明の「皮膜」に含まれる「化合物(A)」は、「シロキサン結合」を有するものといえる。 また、甲4発明の「金属材料用表面処理剤」は、「化合物(C)としてチタンフッ化水素酸(C1)及びりん酸水素二アンモニウム(C10)」「を配合」するものであるから、甲4発明の「皮膜」は、本件発明1の「P」、「F」を含むものであるといえる。 そうすると、甲4発明は、「3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン175.1質量部と3-アミノプロピルトリメトキシシラン58.5質量部を混合させたシランカップリング剤に、純水と混合し、固形分が10質量%になるように調整した化合物(A)、金属アルコキシド(B)としてテトラエトキシシラン(B3)、化合物(C)としてチタンフッ化水素酸(C1)及びりん酸水素二アンモニウム(C10)、有機化合物(D)として酢酸(D1)、水、および金属化合物(E)としてバナジルアセチルアセトネート(E3)を配合し、金属材料用表面処理剤を調製し、調製された金属材料用表面処理剤を、電気亜鉛めっき鋼板(EG)の試験板の表面に、バーコート塗布し、到達板温が90℃になるように乾燥して皮膜を形成」するものであるから、本件発明1の「化成処理被膜が、シロキサン結合を有する有機ケイ素化合物と、P及びFと、を含」む事項を有するものである。 ウ 上記ア、イより、本件発明1と甲4発明とは、 「鋼材と、 前記鋼材の表面に形成されたZnまたはZn合金を含むめっき層と、 前記めっき層の表面に形成された化成処理被膜と、 を有し、 前記化成処理被膜が、シロキサン結合を有する有機ケイ素化合物と、P及びFと、を含む表面処理鋼材。」の点で一致し、次の相違点で相違する。 (相違点4) 「有機ケイ素化合物中の、アルキレン基とシロキサン結合との存在割合を、FT-IRで測定したとき、前記シロキサン結合を示す1030~1200cm-1の吸光度のピーク値A2に対する、前記アルキレン基を示す2800~3000cm-1の吸光度のピーク値A1の比であるA1/A2」が、本件発明1は、「0.10~0.75である」のに対し、甲4発明は、不明である点。 (4)相違点の検討 ア 上記相違点4について検討する。 イ 甲4には、「化合物(A)」中の「A1/A2」について、「0.10~0.75」とすることは記載されていないし、当該A1/A2に注目したものでもない。 ウ また、甲4発明は、「3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン175.1質量部と3-アミノプロピルトリメトキシシラン58.5質量部を混合させたシランカップリング剤」を用いている。 エ しかしながら、上記ウのシランカップリング剤がどのような配合比率であれば、「化合物(A)」中の「A1/A2」が「0.10~0.75」となるのかが不明である。 オ また、本件明細書には、「乾燥-冷却工程では、PMTを155~200℃とする」(【0032】)と記載されているのに対し、甲4の全ての実施例(比較例を含む。)において、到達板温が90℃である([0099])。 カ さらに、本件明細書の実施例の記載における、No.1(またはNo.2)とNo.23(またはNo.22)とを比較すると、パンチングメタルの使用・不使用によってもA1/A2が変化するところ、甲4は、パンチングメタルの使用・不使用が不明である。 キ また、甲5には、亜鉛メッキ表面にγ-APS3部、水3部、メタノール94部の溶液中に1時間浸漬し、このあと120℃で1時間乾燥した、亜鉛-シリカ複合めっき表面について、FT-IRスペクトルが記載されている(上記1-1の(3)参照。) ク しかしながら、上記1-1の(3)のFig.2は、縦スケールが不明であり、アルキレン基とシロキサン結合との存在割合が不明である。 ケ 仮に、アルキレン基とシロキサン結合との存在割合が、「0.10~0.75」の範囲内であったとしても、甲5の表面処理剤は、γ-APS3部、水3部、メタノール94部の溶液であって、甲4発明の「金属材料用表面処理剤」とは異なるものであるから、甲5の記載をもって、甲4発明の「化合物(A)」中の「A1/A2」が「0.10~0.75」の範囲内であるとはいえない。 コ 上記イ~ケより、甲4発明は、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を有しているとはいえないから、上記相違点4は実質的な相違点である。 サ 次に、上記相違点4の容易想到性について、甲4発明及び甲5に記載された事項から検討するに、甲5は「A1/A2」に注目した発明ではないから、甲4発明において、「化合物(A)」中の「A1/A2」を「0.10~0.75」の範囲内とする動機はない。 シ よって、本件発明1は、甲4発明ではないし、甲4発明及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 ス また、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、甲4発明とは少なくとも上記相違点4で相違し、上記相違点4についての検討は上記したとおりであるから、本件発明2も、甲4発明とはいえないし、甲4発明及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 2 申立理由3(サポート要件) (1)請求項1の「化成処理被膜」について ア 本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、「鋼材の表面に亜鉛または亜鉛合金を含むめっき層を有する亜鉛系めっき鋼材の表面に化成処理被膜を有する表面処理鋼材を前提として、耐食性及び導電性に優れた表面処理鋼材を提供すること」(【0007】)であると認められる。 イ そして、本件明細書には次の記載がある。 「【0020】 ・・・(略)・・・化成処理被膜が、造膜成分としてシロキサン結合を有する有機ケイ素化合物を含み、インヒビター成分としてP(リン酸化合物)とF(フッ素化合物)とを含む場合、有機ケイ素化合物におけるアルキレン基とシロキサン結合との存在割合を制御することで、化成処理被膜のバリア性が向上し、耐食性が向上する。 具体的には、FT-IRで測定したときに、シロキサン結合を示す1030~1200cm-1の吸光度のピーク値A2に対する、アルキレン基を示す2800~3000cm-1の吸光度のピーク値A1の比であるA1/A2が、0.10~0.75であると、化成処理被膜のバリア性が向上し、耐食性が向上する。 A1/A2が0.75超である、すなわち有機ケイ素化合物におけるアルキレン基の割合が多い場合には、SiOx骨格中に有機物が残存することにより、有機物と通じて水分や塩化物イオンなどの腐食因子が透過しやすくなるため、耐食性が低下する。A1/A2は、好ましくは0.60以下、より好ましくは0.55以下、さらに好ましくは0.50以下である。 一方、A1/A2が0.10未満である、すなわちシロキサン結合の割合が多い場合には、化成処理被膜に割れが発生し、耐食性が低下する。A1/A2は、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.20以上である。」 ウ 上記イより、「化成処理被膜が、造膜成分としてシロキサン結合を有する有機ケイ素化合物を含み、インヒビター成分としてP(リン酸化合物)とF(フッ素化合物)とを含む場合」、「FT-IRで測定したときに、シロキサン結合を示す1030~1200cm-1の吸光度のピーク値A2に対する、アルキレン基を示す2800~3000cm-1の吸光度のピーク値A1の比であるA1/A2が、0.10~0.75であると、化成処理被膜のバリア性が向上し、耐食性が向上する」から、このような場合に、上記アの課題のうち、「耐食性」に「優れた表面処理鋼材を提供する」という課題を解決し得ることが理解できる。 エ また、本件明細書には、【発明が解決しようとする課題】の欄に、「特許文献3では、造膜成分として、有機樹脂を含む必要がある。そのため、耐食性と塗膜密着性とについては優れたとしても、導電性に劣るという課題がある」(【0006】)と記載され、また、「本実施形態に係る表面処理鋼材1が備える化成処理被膜13は、実質的に有機樹脂を含まない」(【0018】)と記載されているから、本件発明1の「化成処理被膜」は、実質的に有機樹脂を含まないものと解される。 オ そうすると、本件発明1は、化成処理被膜が有機樹脂を含む場合と比較して、導電性が優れると考えられるから、上記アの課題のうち、「導電性に優れた表面処理鋼材を提供する」という課題を解決し得ることが理解できる。 カ したがって、上記ウ、オより、本件発明1は、上記アの課題を解決し得るものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。 キ なお、申立人は、本件明細書には、アミノ基を有するシランカップリング剤とグリシジル基を有するシランカップリング剤とを特定比率で配合して得られる有機ケイ素化合物等の、特定の材料を特定の配合で用いた実施例が記載されているだけであるところ、本件発明1には、「化成処理被膜が、シロキサン結合を有する有機ケイ素化合物と、P及びFと、を含」めば、どのようなものを含んでもよく、その含有量についても特定がないから、本件発明の課題を解決するものではない旨主張している。 ク しかしながら、たとえ、実施例において、特定の材料を特定の配合で用いたものしか記載されていなくても、上記ア~カで検討したとおり、本件発明1は、その発明特定事項から上記アの課題を解決し得るものと理解できるから、申立人の主張は採用できない。 (2)請求項2の「化成処理被膜」について ア 本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(1)で検討した理由と同様の理由により、上記(1)のアの課題を解決し得るものであり、発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。 3 申立理由4(実施可能要件) (1)本件発明1について ア 本件発明1は、「有機ケイ素化合物中の、アルキレン基と前記シロキサン結合との存在割合を、FT-IRで測定したとき、前記シロキサン結合を示す1030~1200cm-1の吸光度のピーク値A2に対する、前記アルキレン基を示す2800~3000cm-1の吸光度のピーク値A1の比であるA1/A2が、0.10~0.75である」との発明特定事項を含むものである。 イ そして、本件明細書には次の記載がある。 「【0027】 [塗布工程] 塗布工程では、ZnまたはZn合金を含むめっき層を有する鋼材に、シランカップリング剤、リン酸化合物、フッ素化合物を含む化成処理液(表面処理金属剤)を塗布する。」 「【0028】 シランカップリング剤は、造膜成分として含まれる。シランカップリング剤としては、例えば分子中にアミノ基を一つ含有するシランカップリング剤(X)と、分子中にグリシジル基を一つ含有するシランカップリング剤(Y)とを固形分濃度比(X)/(Y)で0.5~1.7で配合して得られるSi化合物を用いてもよい。」 「【0032】 [乾燥-冷却工程] 乾燥-冷却工程では、化成処理液を塗布した鋼材を加熱して乾燥させ、焼き付ける。また、乾燥後は、空冷により室温(例えば20℃)まで冷却する。これにより、めっき層の表面に化成処理被膜が形成される。 本実施形態に係る表面処理鋼材を得る場合、乾燥-冷却工程では、PMT(Peak Metal Temperature:鋼材の最高到達温度)を155~200℃とする。 図2は、FT-IRのATR法での分析結果を示す図であり、図2のCH2はアルキレン基、SiOはシロキサン結合であることを示す。また、図3は、図2の波数1100~1250cm-1の範囲を拡大した図である。 図2、図3に示すように、PMTが高くなると、シロキサン結合を示す1030~1200cm-1の吸光度のピーク値A2は大きく変わらない一方で、アルキレン基を示す2800~3000cm-1の吸光度のピーク値A1の値が小さくなり、A1/A2が小さくなる。A1/A2を0.10~0.75の範囲とするため、PMTを155~200℃とする。」 「【0035】 めっき鋼板の基材は、JIS G 3141:2021を満足する冷延鋼板を用いた。 このめっき鋼板に対し、シランカップリング剤(X)とシランカップリング剤(Y)の配合比率(X/Y)を、固形分質量比として1.0で配合して得られるSi化合物、リン酸由来のPの固形分質量(P)とSi化合物由来のSiの固形分質量(Si)との比(P/S)を0.2で配合するリン酸、ふっ素水素酸由来のFの固形分質量(F)とSi化合物由来のSiの固形分質量との比(F/S)を0.075として配合するふっ素水素酸、オキシ硫酸バナジウム由来のVの固形分質量(V)とSi化合物由来のSiの固形分質量との比(V/Si)を0.075で配合するオキシ硫酸バナジウム、を含む化成処理液を塗布した。化成処理液の塗布は、ロールコーターを用いて行った。 化成処理液を塗布した後、熱風を、パンチングメタル(複数の貫通孔が存在する鋼板)を通して鋼板に吹き付けて、鋼板を表2Aの乾燥板温(PMT)まで昇温速度4~10℃/秒で加熱した後、パンチングメタルを通して空気を吹き付けることによる空冷、または水冷によって20℃まで冷却した。これによってNo.1~21の表面処理鋼材を得た。」 「【0036】 また、アミノ基を一つ含有するシランカップリング剤(A)として、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(A1)と、分子中にグリシジル基を一つ含有するシランカップリング剤(B)として、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン配合比率(A)/(B)が、固形分質量比として0.5であり、その他の組成は前記と同一の処理液にポリウレタン樹脂を含有させることで、No.2の被膜重量の0.25倍の重量のポリウレタン樹脂を含む被膜を有するNo.24の表面処理鋼材を得た。」 ウ 上記イの【0027】には、ZnまたはZn合金を含むめっき層を有する鋼材に、シランカップリング剤、リン酸化合物、フッ素化合物を含む化成処理液(表面処理金属剤)を塗布することが示されており、上記イの【0028】には、シランカップリング剤としては、例えば分子中にアミノ基を一つ含有するシランカップリング剤(X)と、分子中にグリシジル基を一つ含有するシランカップリング剤(Y)とを固形分濃度比(X)/(Y)で0.5~1.7で配合して得られるSi化合物を用いることが示されている。 エ また、上記イの【0032】には、A1/A2を0.10~0.75の範囲とするため、乾燥-冷却工程における鋼材の最高到達温度であるPMTを155~200℃とすることが示されている。 オ さらに、上記イの【0035】には、シランカップリング剤(X)とシランカップリング剤(Y)の具体的な材料名は記載されていないものの、具体的な化成処理液の成分比、乾燥工程の具体的な手順等が示されており、また、上記イの【0036】には、アミノ基を一つ含有するシランカップリング剤(A)として、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、分子中にグリシジル基を一つ含有するシランカップリング剤(B)として、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランが示されている。 カ そうすると、当業者であれば、まず、上記イの記載をもとに、上記ウ~オを参照して各種材料、パラメータ等を選択し、表面処理鋼材を製造しようとする。 キ 一方、本件発明1の「A1/A2」は、「有機ケイ素化合物中の、アルキレン基と前記シロキサン結合との存在割合」であるから、例えば、製造した表面処理鋼材の「A1/A2」が「0.10~0.75」の範囲よりも小さければ、シロキサン結合に比してアルキレン基が少ないということであるから、シランカップリング剤の選択においてアルキレン基がより多い材料を選択すればよいし、また、逆に、製造した表面処理鋼材の「A1/A2」が「0.10~0.75」の範囲よりも大きければ、シロキサン結合に比してアルキレン基が多いということであるから、シランカップリング剤の選択においてアルキレン基がより少ない材料を選択すればよいこととなる。 ク また、上記イの【0032】によれば、PMTが高くなると、シロキサン結合を示す1030~1200cm-1の吸光度のピーク値A2は大きく変わらない一方で、アルキレン基を示す2800~3000cm-1の吸光度のピーク値A1の値が小さくなり、A1/A2が小さくなるとのことである。 そうすると、製造した表面処理鋼材の「A1/A2」が「0.10~0.75」の範囲よりも大きければ、シロキサン結合に比してアルキレン基が多いということであるからPMTをより高くすればよく、また、逆に、製造した表面処理鋼材の「A1/A2」が「0.10~0.75」の範囲よりも小さければ、シロキサン結合に比してアルキレン基が少ないということであるからPMTをより低くすればよいこととなる。 ケ 以上の検討からすると、上記イの記載をもとに、上記ウ~オを参照して各種材料、パラメータ等を選択して、一旦表面処理鋼材を製造し、その表面処理鋼材の「A1/A2」が「0.10~0.75」の範囲内でない場合には、上記キ、クを参照して再度表面処理鋼材を製造し、必要に応じてこれを繰り返すことにより、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をすることなしに、本件発明1を実施できるといえる。 コ よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえる。 (2)本件発明2について ア 本件発明2は、「シロキサン結合を示す1030~1200cm-1の前記吸光度の前記ピーク値A2に対する、前記リン酸基の1200cm-1の吸光度A3の比であるA3/A2(以下、「A3/A2」という。)が、0.43~1.00である」との発明特定事項を含むものである。 イ そして、本件明細書には次の記載がある。 「【0027】 [塗布工程] 塗布工程では、ZnまたはZn合金を含むめっき層を有する鋼材に、シランカップリング剤、リン酸化合物、フッ素化合物を含む化成処理液(表面処理金属剤)を塗布する。」 「【0028】 シランカップリング剤は、造膜成分として含まれる。シランカップリング剤としては、例えば分子中にアミノ基を一つ含有するシランカップリング剤(X)と、分子中にグリシジル基を一つ含有するシランカップリング剤(Y)とを固形分濃度比(X)/(Y)で0.5~1.7で配合して得られるSi化合物を用いてもよい。」 「【0030】 化成処理液に含まれるリン酸化合物は、化成処理被膜においてインヒビター成分としてのPとして残存する。このインヒビター成分としてのPによって、化成処理被膜の耐食性が向上する。 本実施形態において、化成処理液が含むリン酸化合物は、特に限定されないが、リン酸、リン酸アンモニウム塩、リン酸カリウム塩、リン酸ナトリウム塩などを例示することができる。この中でも、リン酸であることがより好ましい。リン酸を用いる場合、より優れた耐食性を得ることができる。」 「【0032】 [乾燥-冷却工程] 乾燥-冷却工程では、化成処理液を塗布した鋼材を加熱して乾燥させ、焼き付ける。また、乾燥後は、空冷により室温(例えば20℃)まで冷却する。これにより、めっき層の表面に化成処理被膜が形成される。 本実施形態に係る表面処理鋼材を得る場合、乾燥-冷却工程では、PMT(Peak Metal Temperature:鋼材の最高到達温度)を155~200℃とする。 図2は、FT-IRのATR法での分析結果を示す図であり、図2のCH2はアルキレン基、SiOはシロキサン結合であることを示す。また、図3は、図2の波数1100~1250cm-1の範囲を拡大した図である。 図2、図3に示すように、PMTが高くなると、シロキサン結合を示す1030~1200cm-1の吸光度のピーク値A2は大きく変わらない一方で、アルキレン基を示す2800~3000cm-1の吸光度のピーク値A1の値が小さくなり、A1/A2が小さくなる。A1/A2を0.10~0.75の範囲とするため、PMTを155~200℃とする。」 「【0033】 また、化成処理被膜を乾燥させた後は、表面処理鋼材に空気を吹き付けて室温まで冷却する(空冷する)。乾燥後(PMT到達後)の冷却過程において、潜熱を持つ鋼材に空気を吹き付けることで、効率よくA1/A2を小さくすることができる。その際に吹き付ける空気も、乾燥工程での熱風と同様に、パンチングメタルを通して鋼材に吹き付けることがより好ましい。 乾燥後の冷却を水冷で行うと、SiOx骨格を形成させるための熱量が得られず、アルキレン化合物が被膜中に残存する。その結果、アルキレン基の存在割合が高くなり、目標の耐食性(耐初期白錆性)が得られない。 また、水冷を行うことで、インヒビター成分が水冷水に溶出する。そのため、A3/A2を制御する場合、リン酸化合物の含有量の制御、乾燥後の冷却を空冷としてインヒビター成分の溶出を抑制することが好ましい。また、A3/A2を制御する場合、PMTを160℃以上とした上で、乾燥後の冷却を空冷とすることが好ましい。」 「【0035】 めっき鋼板の基材は、JIS G 3141:2021を満足する冷延鋼板を用いた。 このめっき鋼板に対し、シランカップリング剤(X)とシランカップリング剤(Y)の配合比率(X/Y)を、固形分質量比として1.0で配合して得られるSi化合物、リン酸由来のPの固形分質量(P)とSi化合物由来のSiの固形分質量(Si)との比(P/S)を0.2で配合するリン酸、ふっ素水素酸由来のFの固形分質量(F)とSi化合物由来のSiの固形分質量との比(F/S)を0.075として配合するふっ素水素酸、オキシ硫酸バナジウム由来のVの固形分質量(V)とSi化合物由来のSiの固形分質量との比(V/Si)を0.075で配合するオキシ硫酸バナジウム、を含む化成処理液を塗布した。化成処理液の塗布は、ロールコーターを用いて行った。 化成処理液を塗布した後、熱風を、パンチングメタル(複数の貫通孔が存在する鋼板)を通して鋼板に吹き付けて、鋼板を表2Aの乾燥板温(PMT)まで昇温速度4~10℃/秒で加熱した後、パンチングメタルを通して空気を吹き付けることによる空冷、または水冷によって20℃まで冷却した。これによってNo.1~21の表面処理鋼材を得た。」 「【0036】 また、アミノ基を一つ含有するシランカップリング剤(A)として、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(A1)と、分子中にグリシジル基を一つ含有するシランカップリング剤(B)として、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン配合比率(A)/(B)が、固形分質量比として0.5であり、その他の組成は前記と同一の処理液にポリウレタン樹脂を含有させることで、No.2の被膜重量の0.25倍の重量のポリウレタン樹脂を含む被膜を有するNo.24の表面処理鋼材を得た。」 ウ 上記イの【0027】には、ZnまたはZn合金を含むめっき層を有する鋼材に、シランカップリング剤、リン酸化合物、フッ素化合物を含む化成処理液(表面処理金属剤)を塗布することが示されており、上記イの【0028】には、シランカップリング剤としては、例えば分子中にアミノ基を一つ含有するシランカップリング剤(X)と、分子中にグリシジル基を一つ含有するシランカップリング剤(Y)とを固形分濃度比(X)/(Y)で0.5~1.7で配合して得られるSi化合物を用いることが示されている。 エ また、上記イの【0030】には、リン酸化合物は、化成処理被膜においてインヒビター成分としてのPとして残存するものであること、及び、リン酸化合物の例が示されている。 オ さらに、上記イの【0035】には、シランカップリング剤(X)とシランカップリング剤(Y)の具体的な材料名は記載されていないものの、具体的なリン酸化合物としてリン酸を用いること、化成処理液の成分比、乾燥工程の具体的な手順等が示されており、また、上記イの【0036】には、アミノ基を一つ含有するシランカップリング剤(A)として、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、分子中にグリシジル基を一つ含有するシランカップリング剤(B)として、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランが示されている。 カ そうすると、当業者であれば、まず、上記イの記載をもとに、上記ウ~オを参照して各種材料、パラメータ等を選択し、表面処理鋼材を製造しようとする。 キ 一方、本件発明2の「A3/A2」は、「シロキサン結合を示す1030~1200cm-1の前記吸光度の前記ピーク値A2に対する、前記リン酸基の1200cm-1の吸光度A3の比」であるから、例えば、製造した表面処理鋼材の「A3/A2」が「0.43~1.00」の範囲よりも小さければ、シロキサン結合に比してリン酸基が少ないということであるから、化成処理液のリン酸化合物の量を増やせばよいし、また、逆に、製造した表面処理鋼材の「A3/A2」が「0.43~1.00」の範囲よりも大きければ、シロキサン結合に比してリン酸基が多いということであるから、化成処理液のリン酸化合物の量を減らせばよいこととなる。 ク また、上記イの【0033】によれば、水冷を行うことで、インヒビター成分が水冷水に溶出し、そのため、A3/A2を制御する場合、リン酸化合物の含有量の制御、乾燥後の冷却を空冷としてインヒビター成分の溶出を抑制するとのことである。 そうすると、製造した表面処理鋼材の「A3/A2」が「0.43~1.00」の範囲よりも小さければ、シロキサン結合に比してリン酸基が少ないということであるから、乾燥後の冷却を空冷とすればよいし、また、逆に、製造した表面処理鋼材の「A3/A2」が「0.43~1.00」の範囲よりも大きければ、シロキサン結合に比してリン酸基が多いということであるから、乾燥後の冷却を空冷としなければよいこととなる。 ケ 以上の検討からすると、上記イの記載をもとに、上記ウ~オを参照して各種材料、パラメータ等を選択して、一旦表面処理鋼材を製造し、その表面処理鋼材の「A3/A2」が「0.43~1.00」の範囲内でない場合には、上記キ、クを参照して再度表面処理鋼材を製造し、必要に応じてこれを繰り返すことにより、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をすることなしに、本件発明2を実施できるといえる。 コ よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明2を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえる。 第5 むすび 以上のとおり、本件の請求項1~2に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700792

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