特許異議申立
2024-700806
焼結ダイヤモンド電極素材
- 審判番号
- 2024-700806
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-191675
- 登録番号
- 7441441
- 請求日
- 2024年08月26日
- 審決日
- 2025年07月11日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】トーメイダイヤ株式会社
- 【権利者代理人】上村 陽一郎
- 【異議申立人】片岡 愛
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 佐藤 陽一
- 審判官 阿川 寛樹
- 分類
- P1652.113-YAA(C25B) / P1652.121-YAA(C25B) / P1652.537-YAA(C25B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7441441号発明「焼結ダイヤモンド電極素材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7441441号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを認める。
特許第7441441号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7441441号の請求項1~7に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2020-191675号。以下「本願」という。)は、令和 2年11月18日の出願であって、令和 6年 2月21日にその特許権の設定登録がされ、同年 3月 1日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、同年 8月26日に、特許異議申立人である片岡 愛(以下「申立人」という。)により本件特許の内、請求項1~4に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、以後の経緯は以下のとおりである。
令和 6年12月12日付け 取消理由通知書
令和 7年 2月14日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者)
令和 7年 3月 7日付け 手続補正指令書(方式)
令和 7年 4月 2日提出 手続補正書(方式)
令和 7年 5月26日提出 上申書(申立人)
なお、令和 7年 4月 2日提出の手続補正書(方式)により補正された令和 7年 2月14日提出の訂正請求書による訂正は、下記第2の2(1)に記載したとおり軽微なものであって、申立人に意見を聴くまでもないことが明らかであり、特許法第120条の5第5項ただし書に規定された「特別の事情」があると認められるから、申立人に意見書を提出する機会を与えないこととした。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨及び訂正の内容
令和 7年 4月 2日提出の手続補正書(方式)により補正された令和 7年 2月14日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求めるものであり、本件訂正請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
なお、訂正箇所には、当合議体が下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「多孔質ダイヤモンド集合体で構成されるダイヤモンド電極素材であって」と記載されているのを、「多孔質ダイヤモンド集合体で構成される焼結ダイヤモンド電極素材であって」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~7も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「発生ガス及び周囲の水が通過する空間を提供する電極素材。」と記載されているのを、「発生ガス及び周囲の水が通過する空間を提供する焼結ダイヤモンド電極素材。」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~7も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に「請求項1に記載のダイヤモンド電極素材。」と記載されているのを、「請求項1に記載の焼結ダイヤモンド電極素材。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1に記載のダイヤモンド電極素材。」と記載されているのを、「請求項1に記載の焼結ダイヤモンド電極素材。」に訂正する。
2 訂正の適否についての当合議体の判断
以下、訂正事項1~4についてまとめて判断する。
(1) 訂正の目的について
訂正事項1~4に係る訂正は、同一の対象について「ダイヤモンド電極素材」、「電極素材」、「焼結ダイヤモンド電極素材」と表現が異なっていたものを、概念的に最も下位である「焼結ダイヤモンド電極素材」に統一しようとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
(2)新規事項の追加の有無について
訂正事項1~4に係る訂正は、上記(1)のとおり表現の統一を目的としたものであるから、それぞれ願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(3)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
訂正事項1~4に係る訂正は、上記(1)のとおり「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同様第126条第6項の規定に適合する。
(4)独立特許要件について
ア 訂正後の請求項1~4について
本件は、本件訂正前の請求項1~4について特許異議の申立てがされているので、本件訂正前の請求項1~4に対応する、訂正事項1~4に係る訂正後の請求項1~4に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
イ 訂正後の請求項5~7について
訂正事項1~4はいずれも上記(1)のとおり「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当するから、本件訂正前の請求項5~7に対応する、訂正後における請求項5~7に記載されている事項により特定される発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~7について、訂正前の請求項2~7はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~7に対応する本件訂正後の請求項1~7は一群の請求項である。
4 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とし、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。また、特許異議の申立てがされていない請求項に対応する訂正後の請求項5~7について、特許法第120条の5第9号で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
したがって、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2の4のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の請求項1~7に係る発明は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~7に記載される次のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の訂正後の請求項1~7に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明7」といい、これらを総称して「本件特許発明」という。
「【請求項1】
導電性合成ダイヤモンド粒子を、粒子間に空隙を包含せしめてダイヤモンド-ダイヤモンド直接結合によって接合一体化させた、多孔質ダイヤモンド集合体で構成される焼結ダイヤモンド電極素材であって、該ダイヤモンド集合体は、該ダイヤモンド集合体全体に対する容積比において20%を超える空隙を有し、かつ分布した空隙が相互に導通して外表面に開口し、水電解操作において、発生ガス及び周囲の水が通過する空間を提供する焼結ダイヤモンド電極素材。
【請求項2】
前記導電性合成ダイヤモンドがボロンドープダイヤモンド(BDD)である、請求項1に記載の焼結ダイヤモンド電極素材。
【請求項3】
前記ダイヤモンド粒子同士がダイヤモンド-ダイヤモンド直接結合によって接合一体化され、さらに全体として遷移金属からなる補強材(基材)に化学結合によって接合されている、請求項1に記載の焼結ダイヤモンド電極素材。
【請求項4】
水処理電解槽で使用される、請求項1に記載の焼結ダイヤモンド電極素材。
【請求項5】
(1)導電性のバルクダイヤモンド粒子に密接して板状または粒子状の焼結助剤金属を配置し、
(2)全体を加圧下で加熱し、焼結助剤金属を融解してダイヤモンド粒子間に溶浸させ、溶解・析出による焼結機構によってダイヤモンド粒子同士がダイヤモンド-ダイヤモンド直接結合によって接合一体化された焼結層とし、
(3)該焼結層を陽極として電解操作に供し、ダイヤモンド粒子間に残留した焼結助剤金属を除去することによって、粒子間に、該ダイヤモンド粒子との合計体積に対する比率において20%を超える導通した空隙を形成する
ことを特徴とする、請求項1に記載の焼結ダイヤモンド電極素材の製造方法。
【請求項6】
(1)導電性のバルクダイヤモンド粒子と焼結助剤金属粉とを密に混合して混合粉とし、
(2)該混合粉を加圧加熱処理に供して焼結助剤金属を融解しダイヤモンド粒子間に浸透させ、溶解・析出による焼結機構によってダイヤモンド粒子同士がダイヤモンド-ダイヤモンド直接結合によって接合一体化された焼結層とし、
(3)該焼結層を陽極として電解操作に供し、ダイヤモンド粒子間に残留した焼結助剤金属を除去することによって、粒子間に、該ダイヤモンド粒子との合計体積に対する比率において20%を超える導通した空隙を形成する
ことを特徴とする、請求項1に記載の焼結ダイヤモンド電極素材の製造方法。
【請求項7】
前記電解操作に続けて、さらに焼結層を塩酸溶解処理に供して残留した焼結助剤金属を除去する、請求項5又は6に記載の方法。」
第4 申立理由、取消理由、及び上申書の概要
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、甲第1号証~甲第4号証(以下「甲1」等という。)を提出し(下記(3)参照。)、以下の理由により、本件特許の内、請求項1~4に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
(1)申立理由1(新規性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明、及び周知技術(甲4の記載事項)に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、本件訂正前の請求項3に係る発明は、甲1に記載された発明、及び甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件訂正前の請求項4に係る発明は、甲1に記載された発明、及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件訂正前の請求項1、3、4に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)証拠方法
甲1:Fang Gao et al., “Highly porous diamond foam as a thin-film micro-supercapacitor material”, CARBON, 80(2014), pp. 833-840
甲2:国際公開第2008/096402号
甲3:特開平11-269685号公報
甲4:松本山松(正しくは山冠に松)生、“球・楕円・楕円体での最密充填”、日本結晶学会誌、1997、第39巻、第3号、第254~257頁
2 取消理由の概要
当合議体は、職権により令和 6年12月12日付けで以下の取消理由1を通知した。
(1)取消理由1(明確性要件、職権により通知)
請求項1には「(ダイヤモンド)電極素材」と記載される一方、請求項3には「請求項1に記載の焼結ダイヤモンド電極素材。」と記載されており、両者の記載は「焼結」の有無において整合していない。したがって、請求項1に係る「(ダイヤモンド)電極素材」は、焼結されたものに限られると解すべきか不明であり、また請求項3に係る「請求項1に記載の焼結ダイヤモンド電極素材。」は請求項1の記載と整合しないものであるから、請求項1、3及び請求項1の記載を引用する請求項2、4の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 上申書(令和 7年 5月26日提出)における主張の概要
申立人は、証拠方法として、甲第5号証~甲第7号証(以下「甲5」等という。)を追加で提出し(下記(3)参照。)、以下の理由を主張している。
(1)理由1(明確性要件)
ア 「焼結」の意味について
請求項1の「導電性合成ダイヤモンド粒子を、粒子間に空隙を含包せしめてダイヤモンド-ダイヤモンド直接結合によって接合一体化させた、多孔性ダイヤモンド集合体で構成される焼結ダイヤモンド電極素材」について、どの段階でダイヤモンド粒子が焼結されたのかは一切不明であり、「焼結」の意味するところが不明である。
したがって、請求項1~4に係る発明は明確ではない。
イ プロダクトバイプロセスクレームについて
物の発明である請求項1を「導電性合成ダイヤモンド粒子を、粒子間に空隙を含包せしめてダイヤモンド-ダイヤモンド直接結合によって接合一体化させた」というプロセスで特定した、いわゆるプロダクトバイプロセスクレームである。
したがって、請求項1~4に係る発明は明確ではない。
(2)理由2(進歩性)
本件特許発明1~4は、甲1及び甲2~7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。また、本件特許発明1~4は、甲5及び甲6の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)証拠方法(追加)
甲5:特表2005-516881号公報
甲6:中国特許出願公開第110357074号明細書
甲7:特開昭64-21076号公報
第5 当合議体の判断
以下に述べるとおり、当合議体は、上記第4の取消理由通知書に記載した取消理由1、申立理由1、2、及び上申書の理由1、2のいずれによっても、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことができないと判断する。
1 取消理由1(明確性)について
(1)本件特許発明1~4について
上記第2の4のとおり、本件訂正請求による訂正は認められ、当該訂正により、「(ダイヤモンド)電極素材」との表現はすべて「焼結ダイヤモンド電極素材」に統一されている。したがって、訂正後の本件特許発明1~4に係る発明は明確である。
(2)取消理由1についてのむすび
上記(1)のとおり、訂正後の本件特許発明1~4に係る発明は明確であるから、取消理由1によって、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由1(新規性)、及び申立理由2(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲1には、「Highly porous diamond foam as a thin-film micro-supercapacitor material(当合議体訳:高度にポーラスな薄膜マイクロスーパーキャパシタ材料としてのダイヤモンドフォーム)」」(Title)に関して、以下の記載がある(なお、原文は省略し、当合議体における翻訳文のみを記載する。また、「・・・」は省略を示す。)。
ア 「ダイヤモンドフォームは次いで、SC(スーパーキャパシタ)電極としての適用可能性を調査するために、電気化学的に特徴付けられた。」(p. 834 left col. ll. 14-16)
イ 「2.2. SiO2テンプレート堆積
DF(ダイヤモンドフォーム)のためのSiO2テンプレートは、低速スピンコーティングにより準備された。直径0.5μmのシリカ球は、50mg/mL水分散液(Kisker Biotech GmbH & Co.、独)の形態で購入された。最初に3000rpmの遠心分離により分散液から粒子を分取し、50mg/mL濃度となるようイソプロパノールで再分散した。その後、0.5mLのSiO2分散液はダイヤモンドウェハ上に3000rpmでスピンコートされ、ウェハ表面全体にSiO2粒子の均一な分布が得られた。」(p. 834 2.2.)
ウ 「2.3. ダイヤモンドフォーム成長
ダイヤモンド成長用のテンプレートをシードするために、テンプレート付きダイヤモンドウェハは~1重量%のH末端ナノダイヤモンドコロイド溶液中に浸漬塗装され、ヒュームフード(=ドラフトチャンバ)内で自然乾燥された。その後、ウェハはMWCVDシステム(Diamond Materials、独)に導入された。成長パラメータはTable 1のとおり(当合議体注:Table 1には、ホウ素/炭素比12,000ppmと記載されており、ボロンドープダイヤモンドを堆積させていることが把握される。)。0.4時間の成長時間で、平坦な参照サンプル上に28nmのNCD(ナノ結晶ダイヤモンド)層を形成した。このテンプレートへのダイヤモンド成長プロセスはより厚いDF層を堆積させるために繰り返された。・・・」(p. 834 2.3.)
エ 「3. 結果と考察
スピンコーティングにより形成されたSiO2テンプレート層をFig. 1a及びbに示す。0.5μmの直径に対し、理論的な単層膜よりも20%高い4.7×102cm-2の密度を有する、高密度で均一な被覆が達成された。・・・正に帯電した表面を有するH末端ダイヤモンドは、SiO2球の負の表面双極子により誘引され、自己組織化したシード層を形成する(Fig. 1c)。我々の最適化したダイヤモンド成長パラメータにより、約0.4時間で平均粒径10nmの隙間のない(closed)ナノダイヤモンドフィルムが堆積された(Fig. 1d)。・・・このプロセスを1層ずつ5サイクル繰り返し、HF(フッ酸)によりSiO2テンプレートを除去することで、均一なダイヤモンドフォーム(DF)電極が得られた(Fig. 1e及びf)。・・・」(p. 835 3.)
オ 甲1のTitle及び上記ア~エの記載(特に上記下線部の記載)を総合勘案し、またFig. 1dのSiO2テンプレート表面の平均粒径10nmのナノダイヤモンドについて、上記ウのとおり「隙間のない(closed)」「フィルム」と記載されており、相互に接してフィルム化した粒子であるといえることから、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「高度にポーラスな薄膜マイクロスーパーキャパシタ電極材料としてのダイヤモンドフォームであって、
前記ダイヤモンドフォームは、直径0.5μmのSiO2球の分散液をダイヤモンドウェハ上にスピンコートしてその表面全体にSiO2球を均一に分布させてSiO2テンプレートを形成し、
このSiO2テンプレート表面にH末端ナノダイヤモンドコロイドによりシードを形成した後、MWCVDシステムによりボロンドープダイヤモンドを堆積させて平均粒径10nmの相互に接してフィルム化した粒子を堆積させ、
このプロセスを1層ずつ5回繰り返し、
次いでHFにより前記SiO2テンプレートを除去してなる、
ボロンドープダイヤモンド粒子の集合体で構成されるダイヤモンドフォーム。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「ボロンドープダイヤモンド粒子の集合体で構成されるダイヤモンドフォーム」は、電極材料であるから、導電性を有し、堆積途中のFig. 1dにおいて粒子が相互に接してフィルム化(一体化)したものであるから、本件特許発明1の「導電性合成ダイヤモンド粒子」を「接合一体化させた、ダイヤモンド集合体」に相当する。
(イ)甲1発明の「ボロンドープダイヤモンド粒子の集合体」は、「HFにより」「SiO2テンプレートを除去」することが可能であったことからSiO2テンプレートのHF溶解物が脱出可能な程度の空隙を有していたといえ、また上記(ア)のとおりこの集合体は粒子が相互に接してフィルム化したものであり、空隙が多数存在する蓋然性が高いから、本件特許発明1の「相互に導通して該表面に開口し」た「空隙」を有する「多孔質ダイヤモンド集合体」に相当する。また、製造方法からみてこの「ボロンドープダイヤモンド粒子」の粒径は略均一である蓋然性が高く、甲4に記載された技術常識(第254頁左欄の2~10行「同じ大きさの球を空間に最も密に詰めたものは最密充填といわれる.…充填密度の最高のものは,立方最密充填…と六法最密充填…2通りがあるといわれている.…両者ともどの球も12個の球と接し,密度ρ=π/√18=0.74048…である.」から、同じ大きさの球である場合、密度は約74%、すなわち空隙率は約26%となる。)も加味すると、「空隙」の「ボロンドープダイヤモンド粒子の集合体」全体に対する容積比は、「20%を超える」蓋然性が高いといえる。
(ウ)甲1発明の「薄膜マイクロスーパーキャパシタ電極材料」は、「電極材料」である限りにおいて、本件特許発明1の「電極素材」と共通する。
(エ)そうすると、本件特許発明1と、甲1発明とは、「導電性合成ダイヤモンド粒子を、接合一体化させた、多孔質ダイヤモンド集合体で構成される電極素材であって、該ダイヤモンド集合体は、該ダイヤモンド集合体全体に対する容積比において20%を超える空隙を有し、かつ分布した空隙が相互に導通して該表面に開口している、ダイヤモンド電極素材。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
(オ)本件特許発明1では、ダイヤモンド電極素材が、「ダイヤモンド-ダイヤモンド直接結合によって接合一体化させた焼結ダイヤモンド電極素材」である一方、甲1発明では、「MWCVDシステムにより堆積させた、相互に接してフィルム化した粒子からなるダイヤモンド電極素材」である点(相違点1)。
(カ)本件特許発明1では、ダイヤモンド電極素材が、「水電解操作において、発生ガス及び周囲の水が通過する空間を提供する」ものである一方、甲1発明では、「薄膜マイクロスーパーキャパシタ電極材料」として用いられるものである点(相違点2)。
イ 相違点についての検討
上記相違点1、2について検討する。
(ア)相違点1について
a 本件特許発明1のダイヤモンド電極素材が、「ダイヤモンド-ダイヤモンド直接結合により接合一体化させた焼結体」である点は、甲1発明のダイヤモンドフォームが、「MWCVDシステムにより堆積したフィルム化粒子」であり、「焼結体」ではない点で物として区別し得るから、相違点1は、実質的な相違点であるといえる。
b 次に上記相違点1の容易想到性について検討するに、甲1にはMWCVDによるダイヤモンド電極素材の形成方法以外は開示されておらず、焼結により同等形状の構造物を得ようとする動機付けがあるとはいえない。
c したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(イ)相違点2について
a 本件特許発明1のダイヤモンド電極素材が、水電解操作において、発生ガス及び周囲の水が通過する空間を提供するものである点は、甲1発明の薄膜マイクロスーパーキャパシタ電極材料とは用途として区別し得るから、相違点2は、実質的な相違点であるといえる。
b 次に上記相違点2の容易想到性について検討するに、甲1には薄膜マイクロスーパーキャパシタ用の電極材料が記載されるに留まり、キャパシタは蓄電装置であって水電解を行うものではないから、水電解用の電極とは明確に区別される用途である。また、スーパーキャパシタ用の電極材料において使用時に印加される電圧は一般的に水電解に必要な1.23Vを大きく下回るものであるから、これを水電解用途に転用しようとする動機付けも存在しない。この点は、甲1の第837頁左欄に、ダイヤモンド電極が水の電気分解などにおいて高い過電圧を要求し「不活性」とも表現される一方で、この特性がスーパーキャパシタ用途では利点となり得ることが記載されていることからも裏付けられる。
c ここで、申立人は異議申立書第13頁下から4行~第14頁第2行において、甲3にはダイアモンドに硼酸等の不純物を添加して得られるダイアモンドを含む電極を、水電解によりオゾン発生等を行う電解槽で使用することが開示されており、甲1発明に甲3記載事項を適用することは容易に想到できるものである旨、主張している。
d しかし、甲3に記載されているのは「導電性を有するダイアモンドの微粉末を弁金属塩を含む液中に懸濁した塗布液を、弁金属基体表面に塗布し熱分解により該基体表面に前記ダイアモンド微粉末と弁金属酸化物を電極物質層として被覆することを特徴とする不溶性金属電極」(請求項1)であって、甲1の電極とは材料も製造方法も大きく異なるものである。さらに、上記bにて認定したとおり甲1ではダイヤモンド電極は水の電気分解において「不活性」と記載されていることも併せ鑑みれば、甲1発明と甲3記載事項を組み合わせる動機付けがない。
e したがって、甲3記載事項を参酌しても、甲1発明において上記相違点2に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 小括
よって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
また、本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明、並びに甲3及び甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件特許発明2~4について
本件特許発明2~4は、本件特許発明1に係る特定事項をすべて備えたものであるから、上記(2)ウのとおり、本件特許発明1が甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明、並びに甲3及び甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明、並びに甲3及び甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本件特許発明2、4については、甲2(切削工具用刃先交換用チップ等に用いられる、ダイヤモンド粒子と結合材を超硬合金基材上で焼結して得られる超硬合金基材と焼結ダイヤモンド層とを有するダイヤモンド焼結体の発明(請求の範囲1、10)が記載されている。)、甲3の記載事項を考慮しても同様である。
(4)申立理由1、2についてのむすび
上記(1)~(3)のとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。また、本件特許発明1~4は、甲1~4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由1、2によって、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
3 上申書に記載された理由1及び2について
(1)理由1(明確性)について
ア 「焼結」の意味について
請求項1~4における「焼結ダイヤモンド電極素材」は、「導電性ダイヤモンド粒子」を「焼結」によって「接合一体化させた、多孔性ダイヤモンド集合体で構成される」ものであることは明らかであり、「導電性ダイヤモンド粒子」と「焼結ダイヤモンド電極素材」とがどのように関連するのかは明確である。
したがって、請求項1~4に係る発明は明確である。
イ プロダクトバイプロセスクレームについて
本理由は、訂正により追加された事項についての見解など訂正の請求の内容に付随して生じる理由ではなく、適切な取消理由を構成することが一見して明らかな理由であるともいえず、実質的に新たな理由及び証拠を追加するものであるから、特許異議の申立ての期間が特許掲載公報の発行の日から6月以内に制限されている趣旨を踏まえ、これを新たな取消理由としては採用しない。
(2)理由2(進歩性)について
本理由は、訂正により追加された事項についての見解など訂正の請求の内容に付随して生じる理由ではなく、適切な取消理由を構成することが一見して明らかな理由であるともいえず、実質的に新たな理由及び証拠を追加するものであるから、特許異議の申立ての期間が特許掲載公報の発行の日から6月以内に制限されている趣旨を踏まえ、これを新たな取消理由としては採用しない。
第6 むすび
以上のとおり、申立人による特許異議の申立ての理由、及び当審における取消理由のいずれによっても、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700806