特許異議申立
2024-701010
焼鈍分離剤の製造方法及び焼鈍分離剤並びに方向性電磁鋼板
- 審判番号
- 2024-701010
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-172996
- 登録番号
- 7470242
- 請求日
- 2024年10月15日
- 審決日
- 2025年09月05日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】セトラスホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】小野田 浩之
- 【権利者代理人】奥野 剛規
- 【権利者代理人】藤本 健治
- 【異議申立人】合同会社 SAS
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 佐藤 陽一
- 審判官 酒井 英夫
- 分類
- P1651.537-Y (C23C) / P1651.536-Y (C23C) / P1651.113-Y (C23C) / P1651.121-Y (C23C) / P1651.55 -Y (C23C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第3項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7470242号発明「焼鈍分離剤の製造方法及び焼鈍分離剤並びに方向性電磁鋼板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7470242号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7470242号の請求項1~9に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2023-172996号、以下「本願」という。)は、2021年(令和3年) 9月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2021年 6月18日 (CN)中国)を国際出願日とする特願2022-534836号の一部を令和 5年10月 4日に新たな特許出願としたものであって、令和 6年 4月 9日にその特許権の設定登録がなされ、同年 4月17日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、同年10月15日に特許異議申立人である合同会社SAS(以下、「申立人」という。)より請求項1~9(全請求項)に係る特許に対してなされた特許異議申立事件であって、令和 7年 2月14日付けで取消理由が通知され、これに対して、同年 4月15日に意見書(以下、「意見書」という。)が提出されたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~9に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本願の請求項1~9に係る発明を「本件特許発明1」~「本件特許発明9」といい、総称して、「本件特許発明」という。また、本願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。
「【請求項1】
下記式で定義される沈降係数Sが0.90以上であり、
S=(100-V)/100
(ここで、Vは、100mlの10wt%の焼鈍分離剤分散液を1時間静置した後の上澄みの体積(単位ml)を示す。)
平均粒径が0.5~5.0μmであり、
酸化マグネシウムの含有量が99.5wt%以上であり、
平均細孔径が45~100nmであり、
酸化マグネシウムの重量に基づいて、下記を更に含有する、
B:500~1300ppm;
Cl:100~350ppm;
CaO:0.2~0.6wt%;
焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項2】
CAA70%/CAA40%の比が1.8~4.0の範囲である、請求項1に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項3】
更にNaを含有し、前記Naの含有量が20~50ppmである、請求項1又は2に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項4】
更にSiO2の形態で存在するSiを含有し、前記Siの含有量が0.2~5.0wt%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項5】
鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項6】
更にAl2O3を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項7】
更にP2O3を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項8】
更にAl2O3及びP2O3の含有量が、0.1~3wt%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項9】
複数の球状粒子が連結した構造を有し、かつ複数の孔を表面に有した全体として六角板状である、請求項1~8のいずれか一項に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。」
第3 申立理由及び取消理由の概要
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として次の甲第1~14号証を提出し、以下の理由により、請求項1~9に係る特許は取り消されるべきものであることを主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:特開平10-46259号公報
甲第2号証:「ストークスの式」,[online],最終更新:2023年 3月26日,ウィキペディア,[2024年 8月19日検索],インターネット<https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%81%AE%E5%BC%8F>
甲第3号証:社団法人日本化学会編,「化学便覧基礎編II改訂4版」,丸善株式会社,平成 5年 9月30日,頁II-3及びII-37
甲第3号証の2:社団法人日本化学会編,「化学便覧基礎編II改訂4版」,丸善株式会社,平成 5年 9月30日,頁II-3及びその前後頁
甲第4号証:特開2005-2362号公報
甲第5号証:特開2001-303259号公報
甲第6号証:特開2003-27251号公報
甲第7号証:特開2016-145419号公報
甲第8号証:特開2005-171387号公報
甲第9号証:特開2012-1752号公報
甲第10号証:特開昭54-128928号公報
甲第11号証:特開2016-199460号公報
甲第12号証:国際公開第2013/051270号
甲第13号証:特表2023-531107号公報
甲第14号証:異議2024-700334号の令和 6年 8月26日付け取消理由通知書
なお、以下、上記甲第1~14号証を、それぞれ「甲1」~「甲14」という。
(1)申立理由1(新規事項)
令和 5年10月 4日に提出された手続補正により補正された、請求項9の「複数の粒子が一繋ぎに連結しながら任意の方向に屈曲してなる粒子状の構造を有し、全体として六角板状である」との記載、及び、令和 6年 3月 1日に提出された手続補正書により補正された、請求項9の「複数の球状粒子が連結した構造を有し、かつ複数の孔を表面に有した全体として六角板状である」との記載について、これらの補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由として不採用)。
(2)申立理由2(明確性要件)
次のア~ケの理由により、請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ア 請求項1の「酸化マグネシウムの含有量が99.5wt%以上であり、」「酸化マグネシウムの重量に基づいて、下記を更に含有する、B:500~1300ppm;Cl:100~350ppm;CaO:0.2~0.6wt%;」との記載は、明確でない(取消理由として不採用)。
イ 上記アの理由があるため、請求項1を引用する請求項3の「更にNaを含有し、前記Naの含有量が20~50ppmである」との記載は、明確でない(取消理由として不採用)。
ウ 上記アの理由があるため、請求項1を引用する請求項4の「更にSiO2の形態で存在するSiを含有し、前記Siの含有量が0.2~5.0wt%である」との記載は、明確でない(取消理由として不採用)。
エ 上記アの理由があるため、請求項1を引用する請求項6~8の「更にAl2O3を含有する」、「更にP2O3を含有する」、「更にAl2O3及びP2O3の含有量が、0.1~3wt%である」との記載は、明確でない(取消理由として不採用)。
オ 請求項1の「平均粒径が0.5~5.0μm」との記載は、明確でない(取消理由として採用)。
カ 請求項1の「平均細孔径が45~100nm」との記載は、明確でない(取消理由として不採用)。
キ 請求項1の「焼鈍分離剤分散液」との記載は、明確でない(取消理由として不採用)。
ク 請求項3の「Naの含有量が20~50ppmである」との記載は、明確でない(取消理由として不採用)。
ケ 請求項5の「鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上である」との記載は、明確でない(取消理由として採用)。
(3)申立理由3(サポート要件)
次のア~キの理由により、請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ア 請求項1~9に係る発明は、その発明特定事項と技術的効果との関係が不明である(取消理由として不採用)。
イ 請求項1~9に係る発明は、本件明細書にその実施例が記載されていない(取消理由として不採用)。
ウ 請求項1、2、4~9に係る発明は、Naを含有することが特定されていない(取消理由として不採用)。
エ 請求項1~3、5~9に係る発明は、SiO2を含有することが特定されていない(取消理由として不採用)。
オ 請求項1~4、6~9に係る発明は、密着強度が特定されていない(取消理由として不採用)。
カ 請求項1、3~9に係る発明は、CAA70%/CAA40%の比が特定されていない(取消理由として不採用)。
キ 請求項1~9に係る発明は、不活性マグネシウムを含有することが特定されていない(取消理由として不採用)。
(4)申立理由4(実施可能要件)
請求項1~9に係る発明における、「沈降係数Sが0.90以上」及び「鋼鈑表面に塗布後の密着強度が80%以上」である焼鈍分離剤を得るための具体的な手段が不明であるため、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要となり、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由として不採用)。
(5)申立理由5(甲1を主たる引用例とした場合の新規性)
請求項1、2、5に係る発明は、甲1に記載された発明であるため、特許法第29条第1項第3号に該当するから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由として不採用)。
(6)申立理由6(甲1を主たる引用例とした場合の進歩性)
下記の請求項に係る発明は、下記の刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるため、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由として不採用)。
・請求項1:甲1に記載された発明及び甲2~甲5に記載された事項
・請求項2:甲1に記載された発明及び甲2~甲6に記載された事項
・請求項3:甲1に記載された発明及び甲2~甲5、甲7、甲8に記載された事項
・請求項4:甲1に記載された発明及び甲2~甲5、甲9、甲10に記載された事項
・請求項5:甲1に記載された発明及び甲2~甲5、甲11に記載された事項
・請求項6~8:甲1に記載された発明及び甲2~甲5、甲9、甲12に記載された事項
(7)申立理由7(甲13を主たる引用例とした場合の新規性、進歩性)
本願は、分割要件を満たす出願ではないから、本願の出願日は、現実の出願日である令和 5年10月 4日である。
そうすると、請求項1~8に係る発明は、甲13に記載された発明であるため、特許法第29条第1項第3号に該当するか、また、甲13に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるため、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由として不採用)。
2 取消理由の概要
令和 7年 2月14日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(明確性要件)
請求項1の「平均粒径が0.5~5.0μm」なる記載につき、「平均粒径」の定義が不明であるから、本件の請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。(申立理由2のオ)。
(2)取消理由2(明確性要件)
請求項5の「鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上であ」るとの記載は、本件明細書に焼鈍分離剤の塗布量、及び、海砂の粒径が記載されていないため、「密着強度」を一義的に定めることができず、明確であるとはいえないから、本件の請求項5~9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(申立理由2のケ)。
3 特許権者が提出した証拠方法
特許権者は、令和 7年 2月14日付けで通知した取消理由に対して、令和 7年 4月15日付けで、意見書とともに、証拠方法として次の乙第1~7号証を提出した。
(証拠方法)
乙第1号証:特開2004-52084号公報
乙第2号証:特開2019-173172号公報
乙第3号証:特開2019-173173号公報
乙第4号証:実験成績証明書、セトラスホールディングス株式会社作成、令和 7年 2月 4日
乙第5号証:国際公開第2020/145319号
乙第6号証:国際公開第2015/040799号
乙第7号証:特開2016-199460号公報
以下、上記乙第1~7号証を、それぞれ「乙1」~「乙7」という。
第4 当合議体の判断
当合議体は、以下に示すとおり、上記第3の申立理由及び取消理由によっては、本件の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 「焼鈍分離剤」と「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」について
(1)まず、請求項1~9の「焼鈍分離剤」と「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」との関係について検討する。
(2)本件明細書には、次の記載がある(なお、下線は当合議体が付したものである。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。
ア 「【0032】
[焼鈍分離剤の製造方法]
・・・工程(3):上記各条件で熟成させた水酸化マグネシウムを混合して、焼成し、酸化マグネシウムを得て、焼鈍分離剤(以下「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」と称される場合がある)に用いられる。」
イ 「【0061】
本発明の焼鈍分離剤は、上記の本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムで構成されてもよく、又は本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを主に含むものでもよい。そのような場合、本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの含有量(純度)は、99.5wt%以上であってもよく、その他は、不可避的不純物(例えば、Na)である。」
(3)上記(2)アの記載から、「酸化マグネシウム」がほぼ「焼鈍分離剤」であることが理解できる。
また、上記(2)イからすると「焼鈍分離剤」は、「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」そのものの場合もあるし、また、「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」以外のものが含まれたものでもよく、さらに、これらの記載から、「焼鈍分離剤」と「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」とは別の概念のものであることも理解できる。
(4)一方、本件明細書には、次の記載もある。
ア 「【0063】
また、本発明の焼鈍分離剤は、下記式で定義される沈降係数Sが0.90以上である。
S=(100-V)/100
ここで、Vは、100mlの10wt%の焼鈍分離剤分散液を1時間静置した後の上澄みの体積(単位ml)を示す。」
イ 「【0069】
さらに、本発明の焼鈍分離剤粉末の平均細孔径は45~100nmであってもよい。」
ウ 「【0071】
さらに、該焼鈍分離剤の平均粒径は0.5~5.0μmである。」
エ 「【0072】
・・・本発明の焼鈍分離剤には、更に以下の一種又は複数種の微量含有物を含むことができる:カルシウム(Ca)、リン(P)、ホウ素(B)、硫黄(S)、フッ素(F)、塩素(Cl)、ケイ素(Si)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ストロンチウム(Sr)、アルミニウム(Al)。ここで、以下の具体的な説明における含有量は、本発明の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムの重量に基づくものである。
オ 「【0073】
Bの含有量は500~1300ppmであってもよい。・・・
【0074】
Clの含有量は100~350ppmであってもよい。・・・
【0075】
CaOに関して、Ca含有量は0.2~0.6wt%であってもよい。」
(5)ここで、上記(2)イ、上記(4)ア~ウによれば、請求項1の「下記式で定義される沈降係数Sが0.90以上であり、S=(100-V)/100(ここで、Vは、100mlの10wt%の焼鈍分離剤分散液を1時間静置した後の上澄みの体積(単位ml)を示す。)」なる事項、「平均粒径が0.5~5.0μmであ」る事項、「酸化マグネシウムの含有量が99.5wt%以上であ」る事項、「平均細孔径が45~100nmであ」る事項は、いずれも「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」を特定する事項ではなく、「焼鈍分離剤」を特定する事項といえる。
(6)また、上記(4)オに示した記載は、上記(4)エからみて、「焼鈍分離剤」についてのものであるから、請求項1の「酸化マグネシウムの重量に基づいて、下記を更に含有する、B:500~1300ppm;Cl:100~350ppm;CaO:0.2~0.6wt%」なる事項も、「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」を特定する事項ではなく、「焼鈍分離剤」を特定する事項である。
(7)上記(3)、(5)、(6)を総合すると、請求項1の「下記式で定義される沈降係数Sが0.90以上であり、S=(100-V)/100(ここで、Vは、100mlの10wt%の焼鈍分離剤分散液を1時間静置した後の上澄みの体積(単位ml)を示す。)平均粒径が0.5~5.0μmであり、酸化マグネシウムの含有量が99.5wt%以上であり、平均細孔径が45~100nmであり、酸化マグネシウムの重量に基づいて、下記を更に含有する、B:500~1300ppm;Cl:100~350ppm;CaO:0.2~0.6wt%;」との発明特定事項は、「焼鈍分離剤」を特定するためのものと認められる。
(8)したがって、請求項1の記載は、「下記式で定義される沈降係数Sが0.90以上であり、S=(100-V)/100(ここで、Vは、100mlの10wt%の焼鈍分離剤分散液を1時間静置した後の上澄みの体積(単位ml)を示す。)平均粒径が0.5~5.0μmであり、酸化マグネシウムの含有量が99.5wt%以上であり、平均細孔径が45~100nmであり、酸化マグネシウムの重量に基づいて、下記を更に含有する、B:500~1300ppm;Cl:100~350ppm;CaO:0.2~0.6wt%」「焼鈍分離剤」なるものに用いることが特定された「酸化マグネシウム」の発明、すなわち、かかる焼鈍分離剤に用途が特定された「酸化マグネシウム」の発明であると解するのが相当である。
本件特許発明2~9においても同様の解釈ができる。
(9)よって、本件特許についての申立理由、取消理由は、上記の解釈を前提として検討するものとする。
2 取消理由1、申立理由2のオ(明確性要件)について
(1)請求項1には、「焼鈍分離剤の粒子の平均粒径が0.5~5.0μmである」と記載されている。
(2)一方、本件明細書の実施例の欄には、次の記載がある。
「【0089】
1.平均粒径の測定
80mlのエタノールを100mlのビーカーに入れ、次に、0.8gの乾燥した下記実施例及び比較例で調製された焼鈍分離剤を入れ、超音波で4分間分散させた後、レーザー回折散乱粒度分布装置(商品名:MT3000、日機装社製)を用いて、焼鈍分離剤の平均粒径を測定した。」
(3)すなわち、上記(1)の「平均粒径」は、上記(2)の方法、すなわち、レーザー回折散乱粒度分布装置(商品名:MT3000、日機装社製)で測定した平均粒径であると解される。
(4)一方、意見書において、特許権者は次の主張をしている。
「取消理由通知書に記載された参考文献(「粒度分布における体積基準と個数基準について」、株式会社島津製作所、インターネット<https://www.an.shimadzu.co.jp/service-support/technical-support/analysis-basics/powder/lecture/practice/p01/lesson17/index.html>)に、「レーザ回折式粒度分布測定装置では、粒度分布を体積基準で測定しています。ただし、必要に応じて体積基準から計算によって個数基準の粒度分布として測定結果を出力することもできます。一般に粒度分布測定装置と呼ばれる装置の場合、体積基準で粒度分布を測定している装置が多いように思います。」と記載されているように、粒度分布は、一般的には体積基準で測定し、特殊な場合には体積基準から個数基準の粒度分布を算出することもあるというものです。本件特許発明の焼鈍分離剤の平均粒径は、本件明細書の【0089】において、個数基準について記載していないことからも明らかなとおり、このような特殊な場合に該当するものではないため、一般的な体積基準で測定するものとなります。」(第3頁第18~31行)
(5)そして、本件特許発明の焼鈍分離剤の平均粒径について、一般的な体積基準で測定するという上記(4)の釈明は、本件明細書の記載及び技術常識(乙1~乙3)からみて妥当なものである。
(6)よって、請求項1及び請求項1を引用する請求項2~9の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
3 取消理由2、申立理由2のケ(明確性要件)について
(1)請求項5には、「鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上であ」ることが記載されている。
(2)そして、本件明細書には、密着強度の算出方法について、次の記載がある。
ア 「【0067】
密着強度=[(研磨後の鋼板重量-塗布前の鋼板重量)/研磨前の鋼板重量-塗布前の鋼板重量]×100%
【0068】
上記密着強度を有することにより、本発明の焼鈍分離剤は、密着強度が高く、鋼板との結合性が高いので、鋼板から離脱しにくく、それにより方向性電磁鋼板の製造過程において良好な反応を促進するという効果を果たすことができる。・・・密着強度のより具体的な測定方法は、実施例部分を参照することができる。」
イ 「【0092】
3.密着強度の測定
厚さを0.5mmとしたこと以外は、下記の「5.フォルステライト被膜の評価」部分における評価用鋼板と同様にして鋼板を製造し、サイズが150mm×80mm×0.5mmの鋼板の重量を正確に秤量した。20gの乾燥した下記実施例及び比較例で調製された焼鈍分離剤を正確に称量して、20℃の150mlの水に入れ、IKA RW20 digital撹拌器(ドイツIKA社製)を用いて、2000rpmで1分間激しく撹拌分散し、塗布液を得た。該塗布液を、上記の既知の重量の鋼板にロール塗布機を用いて塗布した。次に、塗布後の鋼板を500℃のマッフル炉に入れて30秒間焼結し、冷却して秤量した後、鋼板を振動回転機(日本株式会社飯田製作所製の回転ハンマー型振動器)に置いた。さらに、鋼板に400gの海砂を置いた後、30秒振動回転処理(研磨)をした(回転数60Hz/290rpm)。処理後の鋼板重量を秤量し、下記式に従って密着強度を算出した。四枚の鋼板を測定し、その平均値を取得して密着強度とした。
密着強度=[(研磨後の鋼板重量-塗布前の鋼板重量)/研磨前の鋼板重量-塗布前の鋼板重量]×100%」
(当合議体注:【0067】及び【0092】の「[(研磨後の鋼板重量-塗布前の鋼板重量)/研磨前の鋼板重量-塗布前の鋼板重量]」は、「[(研磨後の鋼板重量-塗布前の鋼板重量)/(研磨前の鋼板重量-塗布前の鋼板重量)]」の明らかな誤記である。)
(3)上記(1)、(2)によれば、上記(1)の「密着強度」は、上記(2)の【0092】の方法で算出したものであると解される。
(4)ここで、上記(2)イの式において、分母である「(研磨前の鋼板重量-塗布前の鋼板重量)」は、「塗布された焼鈍分離剤の量」を意味し、分子である「(研磨後の鋼板重量-塗布前の鋼板重量)」は、「塗布された焼鈍分離剤のうち、研磨後に残った焼鈍分離剤の量」を意味することは明らかであるから、上記(2)の【0092】の式は、次のように書き換えることができる。
密着強度=(塗布された焼鈍分離剤のうち、研磨後に残った焼鈍分離剤の量)/(塗布された焼鈍分離剤の量)×100%
(5)また、上記(2)イの記載によれば、「密着強度」の測定にあたり、サイズが150mm×80mm×0.5mmの鋼板の重量を正確に秤量し、20gの乾燥した焼鈍分離剤を正確に称量して、20℃の150mlの水に入れ塗布液を得て、該塗布液を、既知の重量の鋼板にロール塗布機を用いて塗布し、次に、塗布後の鋼板を500℃のマッフル炉に入れて30秒間焼結、冷却して秤量した後、鋼板を振動回転機に置き、さらに、鋼板に400gの海砂を置き、30秒振動回転処理(研磨)をした(回転数60Hz/290rpm)とのことである。さらに、その後、鋼板重量を秤量し、上記(2)イの【0092】の式(上記(4)の式)に従って密着強度を算出し、四枚の鋼板を測定し、その平均値を取得して密着強度としたとのことである。
すなわち、上記(2)イの方法は、鋼板に塗布した焼鈍分離剤の塗布量が不明である(すなわち、鋼板に焼鈍分離剤をどの程度の厚さで塗布したかが不明である)が、鋼板に400gの海砂を置き、回転数60Hz/290rpmで30秒振動回転処理(研磨)をしたとのことである。
(6)上記(5)における研磨時に、焼鈍分離剤が表面側から順に研磨されるという前提に立てば、上記(2)イの方法において研磨される焼鈍分離剤の厚みは一定と解することができる。該前提に基づき、下記ア~ウの場合の「密着強度」について、以下で検討する。
ア 「80」の量の焼鈍分離剤を塗布し、「20」の量の焼鈍分離剤が研磨される場合
上記(4)の式は次の式のとおりとなるので、密着強度は75%である。
{(80-20)/80}×100=75%
イ 「100」の量の焼鈍分離剤を塗布し、「20」の量の焼鈍分離剤が研磨される場合
上記(4)の式は次の式のとおりとなるので、密着強度は80%である。
{(100-20)/100}×100=80%
ウ 「200」の量の焼鈍分離剤を塗布し、「20」の量の焼鈍分離剤が研磨される場合
上記(4)の式は次の式のとおりとなるので、密着強度は90%である。
{(200-20)/200}×100=90%
(7)上記(6)の検討によれば、上記(2)イのとおりに密着強度を算出したとしても、鋼板に塗布した焼鈍分離剤の塗布量が異なると(すなわち、鋼板に塗布した焼鈍分離剤の厚さが異なると)、密着強度が変化する。すなわち、同一の焼鈍分離剤であっても、塗布量により密着強度が異なることとなる。
(8)しかしながら、上記(6)、(7)の検討は、研磨される焼鈍分離剤の厚みが一定であることを前提とするものであって、焼鈍分離剤が界面等から剥がれ落ちることを考慮したものではない。
上記(2)ア【0068】や、意見書の第5頁第15~21行をみても、請求項5に記載された「密着強度」は、焼鈍分離剤と鋼板との界面の密着性に着目した、鋼板に塗布された焼鈍分離剤の剥がれ落ちにくさを示す指標であり、鋼板に塗布された焼鈍分離剤の厚み(塗布量)によって実質的な差異が生じるような指標ではない。
(9)また、乙4の実験成績証明書によれば、一般的に行われている焼鈍分離剤の塗布量(乙5によれば2~10g/m2([0058])、乙6によれば、4~12g/m2([請求項5]))レベルでは、塗布量が変化しても(変動係数0.276)密着強度にほとんど差異が生じない(変動係数0.034)といえる(乙4の「5.実験結果」参照。)。
(10)以上のとおり、請求項5に記載された「密着強度」は、焼鈍分離剤と鋼板との界面の密着性に着目した、鋼板に塗布された焼鈍分離剤の剥がれ落ちにくさを示す指標であって、一般的に行われている焼鈍分離剤の塗布量レベルでは、塗布量が変化してもほとんど差異が生じないものであり、第三者に不測の不利益を及ぼすものではない。
(11)また、本件明細書には、密着強度の算出方法について、上記(2)イの記載があり、当該記載によれば、上記(2)イのとおり、鋼板に400gの海砂を置き、回転数60Hz/290rpmで30秒振動回転処理(研磨)をしたとのことであるところ、海砂の粒径が異なると研磨されたり剥がれ落ちたりする焼鈍分離剤の量が異なると考えられるから、同一の焼鈍分離剤であっても密着強度が異なることとなるが、本件明細書には、上記(2)イの「海砂」の粒径は記載されていない。
(12)一方、意見書において、特許権者は次のア、イの釈明をしている(第5頁第32行~第6頁第16行)。
ア 請求項5に記載された「密着強度」は、本件明細書【0092】に記載の測定方法に従って測定することができること。
イ 乙7の記載を考慮すれば、本件明細書【0092】に記載された海砂は、425~850μmの粒度のものであることが理解できること。
(13)そして、上記(12)の釈明は、本件明細書の記載に整合し妥当なものであるから、本件明細書【0092】に記載された海砂は、425~850μmの粒度のものであると考えられる。
(14)そうすると、請求項5の「密着強度」は、一義的に定まらないとはいえないから、第三者に不測の不利益を及ぼすものではない。
(15)よって、請求項5及び請求項5を引用する請求項6~9の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
4 申立理由2のア(明確性要件)について
(1)請求項1には、「酸化マグネシウムの含有量が99.5wt%以上であり、」と記載され、さらに、「酸化マグネシウムの重量に基づいて、下記を更に含有する、B:500~1300ppm;Cl:100~350ppm;CaO:0.2~0.6wt%;」と記載されている。
(2)そして、本件明細書には、次の記載がある。
ア 「【0061】
本発明の焼鈍分離剤は、上記の本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムで構成されてもよく、又は本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを主に含むものでもよい。そのような場合、本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの含有量(純度)は、99.5wt%以上であってもよく、その他は、不可避的不純物(例えば、Na)である」
イ 「【0072】
また、上記のように、本発明の焼鈍分離剤の製造過程では、上記焼成の前に、必要に応じて様々な微量含有物を助剤又は添加剤として添加することができる。」
ウ 「【0153】
【表1】
[図:0001427965000001.jpg]
」
(3)上記(1)の請求項1の記載によれば、B、Cl、CaOといった助剤は、「酸化マグネシウムの重量に基づいて」所定量添加されるものであり、酸化マグネシウム100%に対して、さらに外掛けで所定量を添加することを意味すると解される。
(4)また、上記(2)によっても、「焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの含有量(純度)は、99.5wt%以上」であるのは、焼成前の時点のものであり、助剤または添加剤は、この焼成前の時点の「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」に添加したもの、すなわち、焼成前の時点の「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」100%にさらに外掛けで所定量を添加したものと解される。
(5)申立人は、異議申立書において、「CaOの含有量が0.44wt%を超える場合には、B、Cl、Ca、Oの合計含有量は、0.5wt%を超えることになるため、本件特許発明1の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム全体に含有される元素の合計含有量(酸化マグネシウムを含む)は100wt%を超え、技術的な誤りを含んでいる」(第14頁第17~20行)ことを主張している。
(6)しかしながら、請求項1の記載は、上記(3)、(4)に示したとおり、B、Cl、CaOといった助剤は、酸化マグネシウム100%に対して、さらに外掛けで所定量を添加することを意味するから、B、Cl、CaOの合計含有量が0.5wt%を超える場合であっても、申立人が主張するように、焼鈍分離剤用酸化マグネシウム全体に含有される元素の合計含有量が100wt%を超えるようなことはなく、請求項1の「焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの含有量(純度)は、99.5wt%以上」なる記載と、「酸化マグネシウムの重量に基づいて、下記を更に含有する、B:500~1300ppm;Cl:100~350ppm;CaO:0.2~0.6wt%;」なる記載は、矛盾するものとはいえない。
(7)よって、請求項1及び請求項1を引用する請求項2~9の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
5 申立理由2のイ(明確性要件)について
(1)請求項1を引用する請求項3には、「更にNaを含有し、前記Naの含有量が20~50ppmである」と記載されている。
(2)上記4(2)アに示した【0061】の記載をみるに、Naは、焼成前の時点の「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」に不可避不純物として含まれるものと解されるから、上記4(3)、(4)を踏まえると、B、Cl、CaO、Naの合計含有量が0.5wt%を超える場合であっても、申立人が主張するように、焼鈍分離剤用酸化マグネシウム全体に含有される元素の合計含有量が100wt%を超えるようなことはなく、請求項3に記載された「20~50ppm」というNa含有量は、請求項1の「焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの含有量(純度)は、99.5wt%以上」という記載とは矛盾しない。
(3)よって、請求項3及び請求項3を引用する請求項4~9の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
6 申立理由2のウ、エ(明確性要件)について
(1)請求項1を引用する請求項4には、「更にSiO2の形態で存在するSiを含有し、前記Siの含有量が0.2~5.0wt%である」と記載されている。また、請求項1を引用する請求項6には、「更にAl2O3を含有する」、請求項1を引用する請求項7には、「更にP2O3を含有する」、請求項1を引用する請求項8には、「更にAl2O3及びP2O3の含有量が、0.1~3wt%である」と記載されている。
(2)上記SiO2、Al2O3、P2O3は、焼鈍分離剤に助剤として含有されるものであり、該助剤は、上記4(3)、(4)に示したとおり、焼成前の時点の「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」100%にさらに外掛けで所定量を添加したものと解されるから、B、Cl、CaO、SiO2の合計含有量(さらにはAl2O3、P2O3も含めた合計含有量)が0.5wt%以上となるとしても、申立人が主張するように、焼鈍分離剤用酸化マグネシウム全体に含有される元素の合計含有量が100wt%を超えるようなことはなく、請求項4、6~8における上記(1)の記載は、請求項1の「焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの含有量(純度)は、99.5wt%以上」なる記載と、矛盾するものとはいえない。
(3)よって、請求項4、6~8及びこれらを引用する請求項5~9の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
7 申立理由2のカ(明確性要件)について
(1)請求項1には、「平均細孔径が45~100nm」と記載されている。
(2)そして、本件明細書及び図面には、次の記載がある。
ア 「【0101】
9.平均細孔径の測定
実施例及び比較例で得られた焼鈍分離剤について、比表面積・細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、モデル:BELSORP-max)を使用して、下記条件で平均細孔径を測定した。 使用ガス:N2 吸着条件:-196℃ 前処理条件:105℃で1時間加熱 解析プログラム:BJH」
イ 「【図2】
[図:0001427965000002.jpg]
」
(3)上記(2)によれば、請求項1の「平均細孔径」が、「使用ガス:N2 吸着条件:-196℃ 前処理条件:105℃で1時間加熱 解析プログラム:BJH」の条件で、脱着側にて測定されたものであることは明らかであり、本件明細書の記載及び図面を参酌すれば、請求項1の「平均細孔径」の意味は明確である。
(4)よって、請求項1及びこれらを引用する請求項2~9の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
8 申立理由2のキ(明確性要件)について
(1)請求項1には「焼鈍分離剤分散液」と記載されている。
(2)上記1に示したとおり、請求項1の記載において、「焼鈍分離剤」と「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」とは別の概念のものであり、請求項1の「下記式で定義される沈降係数Sが0.90以上であり、S=(100-V)/100(ここで、Vは、100mlの10wt%の焼鈍分離剤分散液を1時間静置した後の上澄みの体積(単位ml)を示す。)平均粒径が0.5~5.0μmであり、酸化マグネシウムの含有量が99.5wt%以上であり、平均細孔径が45~100nmであり、酸化マグネシウムの重量に基づいて、下記を更に含有する、B:500~1300ppm;Cl:100~350ppm;CaO:0.2~0.6wt%」「焼鈍分離剤」というものに用いることが特定された「酸化マグネシウム」の発明、すなわち、かかる焼鈍分離剤に用途が特定された「酸化マグネシウム」の発明であると解するのが相当である。
(3)したがって、上記(1)の「焼鈍分離剤分散液」とは、「酸化マグネシウム」の分散液ではなく、助剤等の他の成分を含み得る「焼鈍分離剤」の分散液であることが明らかである。
(4)よって、請求項1及びこれらを引用する請求項2~9の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
9 申立理由2のク(明確性要件)について
(1)請求項3には「Naの含有量が20~50ppmである」と記載されている。
(2)一方、本件明細書の実施例の欄には、次の記載がある。
「【0093】
4.元素の定量分析
関連する元素の定量分析を、日本のRIGAKU INDUSTRIAL社製のZSX PrimusII X線蛍光分光計を用いて行った。」
(3)そうすると、上記(1)の「Na含有量」は、上記(2)の「日本のRIGAKU INDUSTRIAL社製のZSX PrimusII X線蛍光分光計」を用いて測定した値であると解される。そして、本件明細書には、実際にNa含有量を測定したことが記載されている(【0109】等、表1)。
(4)したがって、上記(2)の記載からすると、X線蛍光分光計において測定されるNa含有量に、検出限界や誤差があったとしても、本件特許発明においては、上記(2)の「日本のRIGAKU INDUSTRIAL社製のZSX PrimusII X線蛍光分光計」を用いて「Na含有量」を測定した値が、上記(1)の「Na含有量」であるから、第三者に不測の不利益を及ぼすことはない。
(5)よって、請求項3及び請求項3を引用する請求項4~9の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
10 申立理由1(新規事項)について
(1)令和 5年10月 4日に提出された手続補正書により、「複数の粒子が一繋ぎに連結しながら任意の方向に屈曲してなる粒子状の構造を有し、全体として六角板状である」「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」という請求項9を追加する補正がなされている。
また、令和 6年 3月 1日に提出された手続補正書により、補正前の請求項9の「複数の粒子が一繋ぎに連結しながら任意の方向に屈曲してなる粒子状の構造を有し、全体として六角板状である」なる記載を、「複数の球状粒子が連結した構造を有し、かつ複数の孔を表面に有した全体として六角板状である」とする補正がなされている。
(2)一方、本件特許発明における焼鈍分離剤を電界放射走査型電子顕微鏡(FE-SEM、10万倍)により撮影した写真である、本願の願書に最初に添付された図1をみるに、図の中心からやや右下の箇所に複数の球状粒子が連結した構造を有し、かつ複数の孔を表面に有した全体として六角板状の構造を有していることが看取できる。
(3)よって、上記(1)の手続補正書による補正は、いずれも、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。
11 申立理由3(サポート要件)について
(1)本件明細書の記載をみるに、本件特許発明において解決すべき課題は、「純度が高く、分散性(懸濁性)及び密着強度に優れた焼鈍分離剤を得ること」(【0015】)と認められる。
(2)そして、本件明細書には、次の記載がある。
ア 「【0061】
本発明の焼鈍分離剤は、上記の本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムで構成されてもよく、又は本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを主に含むものでもよい。そのような場合、本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの含有量(純度)は、99.5wt%以上であってもよく、その他は、不可避的不純物(例えば、Na)である。
【0062】
以上のように、本発明の焼鈍分離剤は、純度が高い。具体的には、本発明の焼鈍分離剤は、不純物含有量が低く、特にナトリウム(Na)の含有量が低く、例えばナトリウム含有量が20~50ppmであってもよい。上記のように、低ナトリウム含有量は、本発明の特徴の一つである。適量のナトリウムが存在すると、酸化物の融点を低下させることができる。これにより、固相反応を促進することができるので、フォルステライト層の形成に有利となる。ナトリウム含有量が20ppmより低い場合は、反応促進効果が著しくなく、ナトリウム含有量が50ppmより高い場合は、反応速度が速くなりすぎ、緻密なフォルステライト絶縁層の形成に不利となる。ナトリウム含有量は、好ましくは25~50ppmであり、より好ましくは35~45ppmである。本発明の焼鈍分離剤中のナトリウムは、主に原料に含まれる不純物と反応過程で導入される不純物に由来する。低ナトリウム含有量は、本発明の焼鈍分離剤の純度の指標とすることもできる。
【0063】
また、本発明の焼鈍分離剤は、下記式で定義される沈降係数Sが0.90以上である。
S=(100-V)/100
ここで、Vは、100mlの10wt%の焼鈍分離剤分散液を1時間静置した後の上澄みの体積(単位ml)を示す。例えば上澄みの体積が15mlである場合、15となる。
【0064】
該沈降係数の具体的な測定方法は、例えば以下のとおりであってもよい。
10wt%の焼鈍分離剤分散液を配置して均一に分散した後、直ちに100mlの該分散液を取り出して、100mlのメスシリンダーに入れ、所定時間静置する。次に、上記式に従って沈降係数を求める。
【0065】
上記範囲内の沈降係数を有することにより、本発明の焼鈍分離剤は、良好で安定した分散性及び沈降性を有し、非常に安定した状態で存在し、凝集しにくい。本発明の焼鈍分離剤は、塗布液として塗布する際に、塗布に適した良好な分散状態を長時間保持することができ、得られる塗布層の塗布ムラを低減し、フォルステライト層の均一性を向上させることができる。」
イ 「【0074】
Clの含有量は100~350ppmであってもよい。Clは、混合酸化物の融点を適切に低下させることができ、それにより焼鈍分離剤の反応性を促進するという作用を果たす。しかし、Clの含有量が上記下限より低い場合は、効果が著しくなく、上記上限を超える場合は、基板の酸化反応を促進し、密着性の高いフォルステライトの形成が損なわれる。
【0075】
CaOに関して、Ca含有量は0.2~0.6wt%であってもよい。CaOの形態で適量に存在するCaは、基板と絶縁層との間に凹凸界面を形成し、それにより塗布層の密着性を向上させることができるが、含有量が高すぎると、品質問題をもたらす。
【0076】
SiO2に関して、Si含有量は0.2~5.0wt%であってもよい。SiO2の融点は低く、SiO2の形態で存在するSiは、固相反応を促進することができ、他の二価金属とSiO2層との反応を阻止することができる。」
(3)上記(2)アの【0061】、【0062】の記載から、「本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの含有量(純度)は、99.5wt%以上」であることで、「本発明の焼鈍分離剤は、純度が高い」ことが理解できる。
(4)また、上記(2)アの【0063】~【0065】の記載から、「沈降係数Sが0.90以上である」ことにより、「良好で安定した分散性及び沈降性を有し、非常に安定した状態で存在し、凝集しにく」く、「塗布液として塗布する際に、塗布に適した良好な分散状態を長時間保持することができ」ることが理解できる。
(5)さらに、上記(2)イの【0074】、【0075】の記載から、焼鈍分離剤において「Cl:100~350ppm; CaO:0.2~0.6wt%;」を含有させることで、密着性の高い被膜が得られることが理解できる。
(6)一方、本件特許発明1は上記第2で示したとおりのものである。
(7)そうすると、上記(3)に照らせば、本件特許発明1の「酸化マグネシウムの含有量が99.5wt%以上であ」る発明特定事項により、「純度が高」い焼鈍分離剤が得られることが理解できる。
また、上記(4)に照らせば、本件特許発明1の「沈降係数Sが0.90以上であ」る発明特定事項により、「良好で安定した分散性」を有する焼鈍分離剤が得られることが理解できる。
さらに、上記(5)に照らせば、本件特許発明1の「Cl:100~350ppm; CaO:0.2~0.6wt%;」なる発明特定事項により、「密着強度が高」い被膜を形成できる焼鈍分離剤が得られることが理解できる。
(8)したがって、本件特許発明1は上記(1)に示した課題を解決し得るものであって、その発明特定事項と技術的効果との関係が明確であるといえる(申立理由3のア)。
また、本件特許発明1は、Naの含有、SiO2の含有、密着強度、CAA70%/CAA40%の比、不活性マグネシウムの含有が特定されていなくとも、上記(1)に示した課題を解決するための手段が反映されたものといえる(申立理由3のウ~キ)。
(9)さらに、上記2に示したとおり、本件特許発明1の「酸化マグネシウムの含有量が99.5wt%以上であり、」「酸化マグネシウムの重量に基づいて、下記を更に含有する、 B:500~1300ppm; Cl:100~350ppm; CaO:0.2~0.6wt%;」なる発明特定事項は、「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」100%に、さらに外掛けでB、Cl、CaOを所定量添加することを意味しているから、本件明細書に記載された実施例1~6は、本件特許発明1の実施例に該当するものである(申立理由3のイ)。
(10)また、本件特許発明4の「更にSiO2の形態で存在するSiを含有し、前記Siの含有量が0.2~5.0wt%である」なる発明特定事項に関し、上記(2)イに示した【0075】や【0076】をみるに、本件明細書に記載された表1においてSiO2の含有量として示された値は、「SiO2の形態で存在するSi」の含有量を表すと解される。
そして、上記(9)と同様に、上記発明特定事項は、「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」100%に、さらに外掛けで「SiO2の形態で存在するSi」を所定量添加することを意味しているから、本件明細書に記載された実施例1~6は、本件特許発明4の実施例にも該当するものである(申立理由3のイ)。
12 申立理由4(実施可能要件)について
(1)具体的な製造条件について
ア 本件特許発明1は、「沈降係数Sが0.90以上」との発明特定事項を含む焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに関するものである。また、本件特許発明5は、「鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上である」との発明特定事項をさらに含む焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに関するものである。
イ 一方、本件明細書には、焼鈍分離剤の製造方法について、酸化マグネシウムとアンモニウム塩溶液とを混合・反応して、マグネシウム塩溶液とアンモニアとを調製し、次に、精製されたマグネシウム塩溶液とアンモニアとを反応させて水酸化マグネシウムを得て、得られた水酸化マグネシウムの一部を155~230℃で高温熟成させ、且つ得られた水酸化マグネシウムの他の一部を10~100℃で低温熟成させ、上記各条件で熟成させた水酸化マグネシウムを混合して、焼成し、酸化マグネシウムを得て、焼鈍分離剤に用いることが記載されており(【0032】)、さらに、上記の焼鈍分離剤の製造方法における各条件等についても具体的な説明がなされている(【0034】~【0058】)。
そして、本件明細書には、上記の焼鈍分離剤の製造方法により、純度が高く、分散性(懸濁性)及び密着強度に優れ、方向性電磁鋼板の表面に均一な緻密なフォルステライト層を形成することができる焼鈍分離剤を得ることができ、また、優れた絶縁性及び電磁特性を有する方向性電磁鋼板を製造できることが記載されている(【0033】)。
ウ また、本件明細書【0104】~【0155】には、合成例2~4、実施例1~3として、70℃、150分の条件下で低温熟成した水酸化マグネシウムを含むA液と、160℃、150分の条件下で高温熟成した水酸化マグネシウムを含むB液を所定の割合で混合し、さらに助剤を混合した分散液を焼成して得られた物を用いて製造された焼鈍分離剤が0.9~0.96程度の沈降係数S、88.0~89.5%程度の密着強度を示すことが記載されている。また、ほとんどが低温熟成のものである場合(合成例7、合成例10、比較例1、比較例4)や、ほとんどが高温熟成のものである場合(合成例9、比較例2)には、沈降係数S、密着強度の少なくとも一方が本件特許発明1、5の範囲を外れることも記載されている。
エ 上記イ、ウを勘案すれば、本件明細書には、10~100℃の条件下で低温熟成した水酸化マグネシウムを含むA液と、155~230℃で高温熟成した水酸化マグネシウムを含むB液を所定の割合で混合し、焼成して得られた物を用いて製造された焼鈍分離剤により、本件特許発明1にて特定された範囲の沈降係数S、本件特許発明5にて特定された範囲の密着強度を実現できることが可能であることが示されていることは明らかである。
オ したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1、5に係る発明について、当業者がその実施をする際に過度の試行錯誤を必要とするものとはいえない。
カ また、上記4にて説示したとおり、本件特許発明1の「酸化マグネシウムの含有量が99.5wt%以上であり、」「酸化マグネシウムの重量に基づいて、下記を更に含有する、 B:500~1300ppm; Cl:100~350ppm; CaO:0.2~0.6wt%;」なる発明特定事項は、「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」100%に、さらに外掛けでB、Cl、CaOを所定量添加することを意味しているから、本件明細書に記載された実施例は、本件特許発明1、5の実施例に該当するものである。
キ よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1、5に係る発明、請求項1、5を直接又は間接的に引用する請求項2~9に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(2)達成すべき結果によって物を特定しようとする記載について
ア 申立人は、本件特許発明1における「沈降係数Sが0.90以上」との発明特定事項、本件特許発明5における「鋼鈑表面に塗付後の密着強度が80%以上である」との発明特定事項は、本件特許発明の課題である「分散性(懸濁性)及び密着強度に優れる」を数値化しただけの表現であるため、本件特許発明1、5は、そのような望ましい特性を満たす焼鈍分離剤をすべて包含する非常に広範な権利範囲であるところ、本件明細書には、その広範な権利範囲のすべての部分においてその実施をすることができると理解し得る記載はないと主張する(異議申立書第39頁第6~14行)。
イ しかしながら、上記(1)で検討したとおり、本件明細書には、10~100℃の条件下で低温熟成した水酸化マグネシウムを含むA液と、155~230℃で高温熟成した水酸化マグネシウムを含むB液を所定の割合で混合し、焼成して得られた物を用いて製造された焼鈍分離剤により、本件特許発明1にて特定された範囲の沈降係数S、本件特許発明5にて特定された範囲の密着強度を実現できることが可能であることが示されている。
ウ よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1、5及び請求項1、5を直接又は間接的に引用する請求項2~9に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、申立人の上記アの主張は、当該判断を左右するものではなく、採用できない。
13 申立理由5、6(甲1を主たる引用例とした場合の新規性、進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 甲1に記載された発明
本願の優先日前に公知となった甲1に実施例1として示されたNo.2のMgOに注目すると、甲1(【請求項1】、【請求項2】、【0009】~【0012】、【0026】~【0028】参照。)には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、【0027】の表1に記載されたBの含有量の「%」は、「ppm」の明らかな誤記と認める。
「CaO:0.47%、Cl:0.02%、SO3:0.15%、B:981ppmを含み、1gLossが1.2%、水和水分量が1.22%、CAA40が75sec、CAA80が250sec、平均粒径が1.88μm、細孔部容積が0.082ml/gのMgOに、6%のTiO2と1%のSrSO4を添加した焼鈍分離剤に用いられるMgO。」
イ 対比
(ア)甲1発明の「焼鈍分離剤に用いられるMgO」は、「焼鈍分離剤」に添加されるものであるから、本件特許発明1の「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」に相当する。
(イ)甲1発明の「MgO」の「平均粒径」が「1.88μm」であることは、本件特許発明1の「平均粒径が0.5~5.0μm」であることに相当する。
(ウ)甲1発明の「MgO」や「焼鈍分離剤」に含有される各成分は、甲1の【0010】や技術常識からみて、重量比で記載されていると認められるから、甲1発明の「MgO」は、「CaO:0.47%、Cl:0.02%、SO3:0.15%、B:981ppmを」重量比で含むものであり、酸化マグネシウムの含有量は、約99.3wt%と計算される。
(エ)また、上記(ウ)に示した重量比をもとに、甲1発明におけるB、Cl、CaOの含有量を酸化マグネシウム100%に対する外掛けで換算すると、B:988ppm、Cl:0.02%(200ppm)、CaO:0.47%となるから、甲1発明は、本件特許発明1の「酸化マグネシウムの重量に基づいて、下記を更に含有する、 B:500~1300ppm; Cl:100~350ppm; CaO:0.2~0.6wt%;」に相当する成分を含むものである。
(オ)上記(ア)~(エ)より、本件特許発明1と甲1発明とは、
「平均粒径が0.5~5.0μmであり、」「酸化マグネシウムの重量に基づいて、下記を更に含有する、 B:500~1300ppm; Cl:100~350ppm; CaO:0.2~0.6wt%;」「焼鈍分離剤用酸化マグネシウム」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1は、「S=(100-V)/100(ここで、Vは、100mlの10wt%の焼鈍分離剤分散液を1時間静置した後の上澄みの体積(単位ml)を示す。)」で定義される「沈降係数Sが0.90以上」であるのに対し、甲1発明は、沈降係数Sが不明である点。
(相違点2)
本件特許発明1は、「酸化マグネシウムの含有量が99.5wt以上」であるのに対し、甲1発明は、酸化マグネシウムの含有量が約99.3wt%である点。
(相違点3)
本件特許発明1は、「平均細孔径が45~100nm」であるのに対し、甲1発明は、平均細孔径が不明である点。
ウ 相違点についての検討
事案に鑑み、上記相違点3について検討する。
(ア)相違点3が実質的な相違点であるかについて
a 甲1には、MgOの細孔に関し、細孔容積を0.03ml/g以上0.2ml/g以下とすること、該細孔容積が円相当径0.001μm以上0.1μm以下の範囲にある細孔の容積であることが記載されている(【0024】)。
しかし、甲1には、「平均細孔径が45~100nm」であることについて記載されていないし、本願出願時の技術常識を考慮しても、甲1発明の「MgO」が上記相違点3に係る本件特許発明1の特定事項を備えているとは認められない。
b 仮に、申立人が異議申立書において主張するように、甲1発明において、MgOの平均細孔径が0.001μm以上0.1μm以下(すなわち、1~100nm)であることが当然であるとしても、「45~100nm」である蓋然性が高いとはいえない。
c したがって、上記相違点3は、実質的な相違点である。
d 以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえない。
(イ)相違点3の容易想到性について
a 甲1には、MgOの平均細孔径について特段の記載はなく、甲1発明において、相違点3にかかる「平均細孔径」を「45~100nm」とするという特定事項を備えようとする動機付けは存在しない。
この判断は、甲2~甲5を参酌しても変わるものではない。
b 以上によれば、甲1発明において、「平均細孔径」を「45~100nm」とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(ウ)小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲2~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件特許発明2~9について
本件特許の請求項2~9は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明2~9は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて備えたものである。
したがって、上記(1)ウ(ア)のとおり、本件特許発明1が甲1発明であるとはいえない以上、同様に、本件特許発明2、5は、甲1発明であるとはいえない。
また、上記(1)ウ(イ)のとおり、本件特許発明1が甲1を主たる引用例として、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、本件特許発明2~9は、甲1を主たる引用例として、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
この判断は、甲2~甲12のいずれを参酌しても変わるものではない。
14 申立理由7(甲13を主たる引用例とした場合の新規性、進歩性)について
(1)本願の分割要件について
ア 形式的要件について
上記第1に示したとおり、本願は、特願2022-534836号(以下「原出願」という。)の一部を令和 5年10月 4日に新たな特許出願としたものであり、原出願の特許査定の謄本送達日である令和 5年 9月 5日から30日以内になされたものである。そして、本願の出願日である令和 5年10月 4日時点において、本願と原出願の出願人は一致する。
以上によれば、本願は分割出願の形式的要件を満たすものである。
イ 実体的要件について
原出願の分割直前の明細書等に記載された発明の全部が本願の請求項に係る発明とされたものでないことは明らかである。
また、本願の請求項9に記載された「複数の粒子が一繋ぎに連結しながら任意の方向に屈曲してなる粒子状の構造を有し、全体として六角板状である」なる記載、「複数の球状粒子が連結した構造を有し、かつ複数の孔を表面に有した全体として六角板状である」なる事項は、上記10に説示したとおり、原出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、図面の記載の範囲内のものである。
以上によれば、本願は分割出願の実体的要件を満たすものである。
ウ 小括
したがって、本願の出願日は、原出願の国際出願日である2021年(令和 3年) 9月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2021年 6月18日 (CN)中国)まで遡及する。
(2)そして、原出願の公表特許公報である甲13は、令和 5年7月21日に公表されたものであるから、本願の優先日前に公知となったものとはいえない。
(3)そうすると、甲13に記載された発明は、特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明とはいえない。
よって、本件特許発明1~8について、甲13に基づいて新規性、進歩性が欠如するとはいえない。
第5 むすび
以上のとおり、本件の請求項1~9に係る特許は、令和7年 2月14日付けで通知した取消理由、申立人が提出した特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701010