特許異議申立
2023-700139
容器詰めコーヒー飲料及び容器詰めコーヒー飲料の味質改善方法
- 審判番号
- 2023-700139
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-005926
- 登録番号
- 7117853
- 請求日
- 2023年02月09日
- 審決日
- 2023年05月25日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】アサヒ飲料株式会社
- 【権利者代理人】正林 真之
- 【異議申立人】服部 道俊
- 【異議申立人】渡辺 伸子
- 審判長/審判官
- 審判長 平塚 政宏
- 審判官 磯貝 香苗
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-Y (A23F) / P1651.121-Y (A23F) / P1651.536-Y (A23F) / P1651.537-Y (A23F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第4号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7117853号発明「容器詰めコーヒー飲料及び容器詰めコーヒー飲料の味質改善方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7117853号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7117853号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、
平成30年 1月17日に出願され、
令和 4年 8月 4日にその特許権の設定登録(請求項の数 6)がされ、
令和 4年 8月15日に特許掲載公報が発行され、
その後、当該特許に対し、
令和 5年 2月 9日に服部 道俊(以下、「特許異議申立人1」という。)が全ての請求項に係る特許に対して特許異議申立てを行い、
令和 5年 2月13日に渡辺 伸子(以下、「特許異議申立人2」という。)が請求項6に係る特許に対して特許異議申立てを行ったものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
乳酸菌の死菌を含む、容器詰めコーヒー飲料であって、
コーヒー飲料100mL中に含まれる前記乳酸菌の死菌の個数の合計をA(個)、コーヒー飲料100mL中に含まれる可溶性コーヒー固形分の含有量をB(g)としたとき、A/Bが1.0×107~3.3×109である、容器詰めコーヒー飲料。
【請求項2】
乳由来成分を含む、請求項1に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項3】
コーヒー飲料100mL中に含まれる不溶性コーヒー粉末の量が、1.5g以下である、請求項1又は2に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項4】
コーヒー飲料が透明容器又は半透明容器に充填された、請求項1~3のいずれか1項に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項5】
コーヒー飲料がホットパック充填法又はアセプティック充填法によって充填された、請求項1~4のいずれか1項に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項6】
乳酸菌の死菌を、コーヒー飲料100mL中に含まれる前記乳酸菌の死菌の個数の合計をA(個)、コーヒー飲料100mL中に含まれる可溶性コーヒー固形分の含有量をB(g)としたとき、A/Bが1×105~5×1011になるように配合する、容器詰めコーヒー飲料のコクを向上しつつ雑味を抑制する方法。
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由について
1 特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要
令和 5年 2月 9日に特許異議申立人1が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書1」という。)に記載した特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1-1(甲第1-1号証に基づく進歩性・請求項6)
本件特許の請求項6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1-1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由1-2(甲第1-1号証に基づく進歩性・請求項1ないし5)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1-1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由1-3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記のア、イの点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 乳酸菌について
本件特許発明1ないし6における死菌は、「乳酸菌」という極めて広範な範囲で特定されているところ、本件特許明細書の実施例ではラクトバチルス・ガセリ CP2305株(FERM BP-11331)という特定の種の特定の菌株のみが用いられているに過ぎない。
甲第1-13号証(第7頁左欄、及び、図3)にはLactbacillus pentosusという乳酸菌の同じ種で、かつ、分離源が同一であっても、菌株によって発酵物の香味が顕著に異なることが示されている。具体的には、L.pentosus FP14-1の発酵産物はいやみなく、すっきりした酸味があったのに対し、L.pentosus FP14-2の発酵産物はハキケ臭味があり、酸味も強烈であった旨が記載されている。
これらの事項を考慮すると、ラクトバチルス・ガセリ CP2305株以外の任意の種類及び任意の菌株の乳酸菌においても、ラクトバチルス・ガセリ CP2305株と同様に、容器詰めコーヒー飲料においてコクを向上しつつ雑味を抑制するという効果を発揮できると一般化し得るとは認められない。
よって、本件特許発明1ないし6はサポート要件を満たさない。
イ 雑味の抑制について
本件特許発明においては「雑味の抑制」の定義が必ずしも明確ではない。
本件特許発明における「雑味の抑制」の意味が、乳酸菌の死滅を含まない場合(対照)と比較して、雑味が抑制されることを意味する場合、実施例9(A/B=3.3×109)は比較例4と比べて雑味の強さは同じで低下しておらず(4.0→4.0)、実施例11(A/B=5.0×1010)は比較例5と比較して逆に雑味の強さが上昇している。
したがって、本件特許発明における「雑味の抑制」が前述のものである場合、本件特許発明1ないし6は、本件特許発明の効果を奏しない範囲を含んでいる。よって、本件特許発明1ないし6はサポート要件を満たさない。
(4)申立理由1-4(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記のア、イの点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 乳酸菌について
本件特許発明1ないし6における死菌は、「乳酸菌」という極めて広範な範囲で特定されているところ、本件特許明細書の実施例ではラクトバチルス・ガセリ CP2305株(FERM BP-11331)という特定の種の特定の菌株のみが用いられているに過ぎない。
甲第1-13号証(第7頁左欄、及び、図3)にはLactbacillus pentosusという乳酸菌の同じ種で、かつ、分離源が同一であっても、菌株によって発酵物の香味が顕著に異なることが示されている。具体的には、L.pentosus FP14-1の発酵産物はいやみなく、すっきりした酸味があったのに対し、L.pentosus FP14-2の発酵産物はハキケ臭味があり、酸味も強烈であった旨が記載されている。
これらの事項を考慮すると、ラクトバチルス・ガセリ CP2305株以外の任意の種類及び任意の菌株の乳酸菌においても、ラクトバチルス・ガセリ CP2305株と同様に、容器詰めコーヒー飲料においてコクを向上しつつ雑味を抑制するという効果を奏するとはいえない。
イ 雑味の抑制について
本件特許発明における「雑味の抑制」の意味が、乳酸菌の死滅を含まない場合(対照)と比較して、雑味が抑制されることを意味する場合、実施例9(A/B=3.3×109)は比較例4と比べて雑味の強さは同じで低下しておらず(4.0→4.0)、実施例11(A/B=5.0×1010)は比較例5と比較して逆に雑味の強さが上昇しており、本件特許発明の効果を奏さないものである。
以上ア、イのとおりであるから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1ないし6に係る発明を実施できる程度に、明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(5)証拠方法
甲第1-1号証:特開2005-137357号公報
甲第1-2号証:特開2010-273658号公報
甲第1-3号証:特開2007-68410号公報
甲第1-4号証:再表2013/022090号
甲第1-5号証:特開2017-112995号公報
甲第1-6号証:特開2017-79683号公報
甲第1-7号証:特開2015-164401号公報
甲第1-8号証:特開2003-284496号公報
甲第1-9号証:特開2001-120184号公報
甲第1-10号証:特開2017-79618号公報
甲第1-11号証:国際公開第2016/088520号
甲第1-12号証:特開2015-228816号公報
甲第1-13号証:日本乳酸菌学会誌、2018年、29巻1号、p.3-12
証拠の表記は特許異議申立書1の記載におおむね従った。以下、順に「甲1-1」等という。
2 特許異議申立人2が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要
令和 5年 2月13日に特許異議申立人2が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書2」という。)に記載した特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由2-1(甲第2-1号証に基づく進歩性・請求項6)
本件特許の請求項6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2-1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2-2(サポート要件)
本件特許の請求項6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・雑味の抑制について
本件特許明細書【0059】【表2】の結果を見ると、実施例11は比較例5と比較して雑味が増強されている。よって、実施例11は本件特許発明の効果を奏していない。したがって、実施例11におけるA/B(=5.0×1010)を包含する本件特許発明6は、発明の課題を解決しておらず、サポート要件を満たさない。
(3)申立理由2-3(実施可能要件)
本件特許の請求項6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・雑味の抑制について
本件特許明細書【0059】【表2】の結果を見ると、実施例11(A/B=5.0×1010)は比較例5と比較して雑味が増強されている。よって、実施例11は本件特許発明の効果を奏していない。したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項6に係る発明を実施できる程度に、明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(4)証拠方法
甲第2-1号証:特開2005-137357号公報
甲第2-2号証:特開2009-296999号公報
甲第2-3号証:化学と生物(Kagaku to Seibutsu)、54(2):102-108(2016)、https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=527
甲第2-4号証:微生物と発酵のチカラを学ぶ 研究情報誌 Kins、vol.25、2017.12、アサヒグループホールディングス 広報部門発行
甲第2-5号証:日本醸造協会誌 102(7)、520-526、2007,公益財団法人 日本醸造協会
甲第2-6号証:JFRLニュース Vol.5、No.15、Dec.2015
甲第2-7号証:特開2005-159号公報
甲第2-8号証:特開2005-278475号公報
甲第2-9号証:日本調理科学会誌 Vol.46、No.2、129-133(2013)
証拠の表記は特許異議申立書2の記載におおむね従った。以下、順に「甲2-1」等という。
第4 当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1-1・甲2-1に記載された事項等
ア 甲1-1・甲2-1に記載された事項
甲1-1と甲2-1は同一の文献である。甲1-1・甲2-1には「抗アレルギー用組成物」に関し、おおむね次の事項が記載されている。
(ア)
「【0051】
本発明における高抗アレルギー活性を有する乳酸菌を飲料へ配合する場合に、乳酸菌の配合量は適宜決定することができるが、通常、飲料として継続的に摂取することができる量で、乳酸菌のもつ抗アレルギー活性を充分に発揮するための配合量が採用される。本発明における有効成分の飲食品への有効量の投与量または摂取量を、乳酸菌の菌数で表示すると、1日当たりの摂取量が5×109個以上が好ましく、より好ましくは1日あたり1×1010個以上、更に好ましくは5×1010個以上を摂取することが好ましい。したがって、通常1日あたり摂取される飲料の量に合わせて、上記指標により、各々の飲料あたりに含有させる乳酸菌の菌数が決定される。例えば、1日あたり100gの飲料が摂取されるとすれば、飲料100gあたり109個以上の菌数を添加することが好ましい。一方、乳酸菌の添加で、飲料の香味や外観を損なわない範囲を考えると、1011個以下が好ましい。更に、5×1010個以下がより好ましい。したがって、抗アレルギー機能を有し、かつ、安定性があり、嗜好性、保存性が高い飲料の乳酸菌の濃度としては、飲料100g当たり、109~1011個の範囲のものが特に好ましい。なお、乳酸菌の菌体数と乾燥菌体重量の関係については、例えば、L.paracasei KW3110株では、菌体数1012個が乾燥菌体重量1gに相当する。」
(イ)
「【実施例11】
【0107】
(飲料添加原料となる乳酸菌菌体の調製方法)
調製例1.乳酸菌KW3110株菌体の調製
乳酸菌の培養には、培養用培地(グルコース 1%、酵母エキスS(武田キリン社)1%、MgSO4・7H2O 50ppm、MnSO4・5H2O 50ppm)を使用した。前培養は乳酸菌KW3110株を培養用培地10mlに接種し、37℃で20~24hr静置し、行った。本培養は、前培養液0.6mlを120mlの培養用培地に接種し、200ml容ファーメンター(モデルBMJ-25、エイブル社)を用いて、28℃にて培養した。通気量は0.12L/min、攪拌速度は500rpmとした。pHは25% NaOH溶液を用いてpH 4.5以下にならないように制御した。培養は48時間行った。
【0108】
培養終了後、8500Xg、10分間の遠心分離により、菌体を集菌した。30mlの滅菌蒸留水に懸濁し、8500Xg、10分間の遠心分離により、菌体を集菌した。この洗浄操作を3回繰り返し、培地由来成分を除去した。洗浄菌体を、10mlの滅菌水に懸濁し、オートクレーブにて100℃、30分間処理した後、凍結乾燥した。最終的に乳酸菌乾燥菌体50~70mgが得られた。得られた乳酸菌菌体の抗アレルギー活性を確認した。」
(ウ)
「【実施例17】
【0115】
(コーヒーの製造)
粉砕したコーヒー焙煎豆(コロンビア)を95℃の熱水で抽出してコーヒー抽出液を得た。これに脱イオン水を添加して可溶性固形分1.4%になるように希釈した。当該調合液100gに対して、乳酸菌KW3110株を菌数が2×1010個、4×1010個になるように添加した後、190g缶に充填し、常法通りレトルト殺菌をおこなった。
官能評価の結果、いずれのサンプルについても乳酸菌配合による違和感は全くなかった。ただし、コップ等に移した場合4×1010個添加したサンプルは外観上、乳酸菌がオリとして目立ちやすく、1.5×1010個の方がより好ましいと評価された。しかし、缶から直接飲用する場合には問題なかった。」
イ 甲1-1・甲2-1に記載された発明
上記ア(ウ)の甲1-1・甲2-1の【実施例17】【0115】を中心にまとめると、甲1-1・甲2-1には次の発明(以下、「甲1物発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1物発明>
「粉砕したコーヒー焙煎豆(コロンビア)を95℃の熱水で抽出してコーヒー抽出液を得、これに脱イオン水を添加して可溶性固形分1.4%となるように希釈し、当該調合液100gに対して、乳酸菌KW3110株を菌数が2×1010個、4×1010個になるように添加した後、190g缶に充填し、常法どおりレトルト殺菌を行ったコーヒー。」
2 申立理由1-1(甲1-1に基づく進歩性・請求項6)及び申立理由2-1(甲2-1に基づく進歩性・請求項6)について
(1)本件特許発明6についての対比・判断
上記1 (1)イのとおり、甲1-1・甲2-1の記載事項から、本件特許発明6の「コクを向上しつつ雑味を抑制する方法」に対応する発明は認定することができない。
したがって、本件特許発明6は甲1-1・甲2-1に基づいて進歩性を否定することはできない。
(2)申立理由1-1及び申立理由2-1についてのまとめ
本件特許発明6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項6に係る特許は特許法第113条第2項に該当せず、取り消すことはできない。
3 申立理由1-2(甲1-1に基づく進歩性・請求項1ないし5)について
(1)本件特許発明1についての対比・判断
本件特許発明1と甲1物発明とを対比する。
甲1物発明における「190g缶に充填し、常法どおりレトルト殺菌を行」った「コーヒー」は、本件特許発明1における「容器詰めコーヒー飲料」に相当する。
甲1物発明における「粉砕したコーヒー焙煎豆(コロンビア)を95℃の熱水で抽出して」得た「コーヒー抽出液」に脱イオン水を添加して可溶性固形分1.4%となるように希釈し」た「調合液100g」中には、可溶性コーヒー固形分が100g×1.4%=14g含有されている。
また、甲1物発明における「調合液100gに対して、乳酸菌KW3110株を菌数が2×1010個、4×1010個になるように添加した」調合液には、菌数が、2×1010個、4×1010個含まれている。
甲1物発明においては、「190g缶に充填し、常法どおりレトルト殺菌を行」っているから、添加された乳酸菌は全て死菌になっており、本件特許発明1における「乳酸菌の死菌を含む」との発明特定事項を満たす。
甲1物発明における調合液100g中の乳酸菌の死菌は2×1010個、4×1010個であり、可溶性コーヒー固形分は14gであるから、本件特許発明1における「コーヒー飲料100ml中に含まれる前記乳酸菌の死菌の菌数の個数の合計をA(個)、コーヒー飲料100ml中に含まれる可溶性コーヒー固形分の含有量をB(g)としたとき」の「A/B」は、2×1010個/1.4g=1.43×1010、4×1010個/1.4g=2.86×1010である。
そうすると、本件特許発明1と甲1物発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「乳酸菌の死菌を含む、容器詰めコーヒー飲料。」
<相違点>
本件特許発明1においては、コーヒー飲料100ml中に含まれる前記乳酸菌の個数の合計をA(個)、コーヒー飲料100ml中に含まれる可溶性コーヒー固形分の含有量をB(g)としたとき、A/Bが1.0×107~3.3×109であるとの特定を有するのに対して、甲1物発明においては、A/Bが1.43×1010、2.86×1010である点。
上記相違点について検討する。
甲1-1(甲2-1)【0051】には、「抗アレルギー機能を有し、かつ、安定性があり、嗜好性、保存性が高い飲料の乳酸菌の濃度としては、飲料100g当たり、109~1011個の範囲のものが特に好ましい。」と記載されているが、甲1物発明における、既に飲料として調整された後の容器詰めコーヒー飲料の組成において、乳酸菌の菌数を変更しようとする動機はない。
また、特許異議申立人1及び2の提出したいずれの証拠においても、A/Bを1.0×107~3.3×109の範囲に調整することについての開示はない。
したがって、甲1物発明において、相違点に係る発明特定事項とすることは当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、コーヒー飲料100ml中に含まれる乳酸菌の個数の合計をA(個)、コーヒー飲料100ml中に含まれる可溶性コーヒー固形分の含有量をB(g)としたとき、A/Bを1.0×107~3.3×109とすることにより、容器詰めコーヒー飲料のコクを向上しつつ雑味を抑制するという顕著な効果を有している。
よって、本件特許発明1は甲1物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし5についての対比・検討
本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
したがって、本件特許発明2ないし5は、甲1物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由1-2についてのまとめ
したがって、本件特許発明1ないし5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は特許法第113条第2項に該当せず、取り消すことはできない。
4 申立理由1-3(サポート要件)及び申立理由2-2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
(3)本件特許の発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明【0006】ないし【0013】には、本件特許発明1ないし6の各発明特定事項について記載されている。
本件特許の発明の詳細な説明【0016】ないし【0017】には容器詰めコーヒー飲料についての記載があり、同【0018】ないし【0019】、【0021】ないし【0023】には乳酸菌の死菌について記載がある。 そして、同【0024】ないし【0025】には乳酸菌の死菌の個数の合計とコーヒー飲料に含まれる可溶性コーヒー固形分の含有量との関係について記載されており、同【0026】ないし【0027】には可溶性コーヒー固形分及びその量について記載されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明【0029】には乳由来成分について記載され、同【0035】には不溶性コーヒー粉末とその量について、同【0037】には容器詰めコーヒー飲料の透明又は半透明容器について、同【0038】にはホットパック充填法及びアセプティック充填法について記載されている。
また、本件特許の発明の詳細な説明【0047】ないし【0060】には、具体的な容器詰めコーヒー飲料の作製と、コーヒー飲料100mLに含まれる乳酸菌の死菌の個数の合計をA(個)、コーヒー飲料100mL中に含まれる可溶性コーヒー固形分の含有量をB(g)としたときのA/Bと、各官能評価(雑味の強さ、コクの強さ、後味の良さ)を検証した実施例、比較例が記載されている。
(4)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0004】ないし【0005】によると、本件特許発明1ないし6の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「コクが向上しつつ雑味が抑制された容器詰めコーヒー飲料及び容器詰めコーヒー飲料の味質改善方法を提供すること」である。
本件特許の発明の詳細な説明【0006】ないし【0013】には、乳酸菌やビフィズス菌の死菌をコーヒー飲料に配合することで、上記発明の課題を解決できることが記載されており、同【0008】には、乳酸菌やビフィズス菌の死菌の量として、コーヒー飲料100mLに含まれる乳酸菌やビフィズス菌の死菌の個数の合計をA(個)、コーヒー飲料100mL中に含まれる可溶性コーヒー固形分の含有量をB(g)としたときのA/Bが1×105~5×1011であることが必要とされることが説明されている。
本件特許の発明の詳細な説明【0019】ないし【0020】にはこのように乳酸菌やビフィズス菌の死菌をコーヒー飲料に添加することにより、コク(飲みごたえ)を向上させることができ且つ雑味は抑制されたものとなることが記載されており、乳酸菌の死菌やビフィズス菌の死菌はコーヒー飲料に溶解しない不溶性固形分であるので飲用時にコクを感じる要因となって、コーヒー飲料にコクを付与することができたと考えられることが記載されている。また、当該箇所には、乳酸菌の死菌やビフィズス菌の死菌は、コーヒー飲料に浸出等して雑味を生じさせることもほとんどないため、乳酸菌の死菌やビフィズス菌の死菌を添加したコーヒー飲料は雑味が抑制されたものとなり、後味も良いことが記載されている。
本件特許の発明の詳細な説明【0021】には本件特許発明において使用する乳酸菌は、糖を分解して乳酸を生産することによってエネルギーをつくる細菌であれば特に限定されないことが記載されており、具体的な細菌種についても記載されている。同【0023】には乳酸菌の死菌とは、生きた状態の乳酸菌を、加熱処理や放射線照射処理等することにより得られる殺菌された乳酸菌であることが記載されており、同【0025】にはこれらの乳酸菌やビフィズス菌の死菌の個数は顕微鏡で測定することができることが記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明【0047】ないし【0060】において記載されている実施例、比較例から、容器詰めコーヒー飲料において、A/Bを1×105~5×1011の範囲とすることにより、コクが強く、雑味が抑制されることが示されている。
以上の本件特許の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、容器詰めコーヒー飲料において、乳酸菌の死菌を含有し、コーヒー飲料100mLに含まれる乳酸菌の死菌の個数の合計をA(個)、コーヒー飲料100mL中に含まれる可溶性コーヒー固形分の含有量をB(g)としたときのA/Bが1×105~5×1011とすることによって、発明の課題である、コクを向上しつつ雑味が抑制された容器詰めコーヒー飲料及び容器詰めコーヒー飲料の味質改善がなされると認識できる。
したがって、本件特許発明1ないし6は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、特許の発明の詳細な説明により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1ないし6に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(5)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の主張について以下に検討する。
・第3 1(3)ア 乳酸菌について
上記(4)において検討したとおり、本件発明の課題は、容器詰めコーヒー飲料において、乳酸菌の死菌を含有し、コーヒー飲料100mLに含まれる乳酸菌の死菌の個数の合計をA(個)、コーヒー飲料100mL中に含まれる可溶性コーヒー固形分の含有量をB(g)としたときのA/Bが1×105~5×1011とすることによって解決される。
特許異議申立人1は、本件特許の実施例、比較例では、CP2305株(FERM BP-11331)という特定の種の特定の菌株のみが用いられているに過ぎず、同じ乳酸菌の種で、かつ、分離源が同一であっても、菌株によって発酵物の香味が顕著に異なり、一例として甲1-13に示すように、L.pentosus FP14-1の発酵産物はいやみなく、すっきりした酸味であるが、L.pentosus FP14-2の発酵産物はハキケ臭味があって、酸味も強烈であるから、ラクトバチルス・ガセリ CP2305株以外の任意の種類及び任意の菌株の乳酸菌において、コクを向上しつつ雑味を抑制するという効果を発揮できると一般化し得ないと主張している。
しかしながら、特許異議申立人1の示した甲1-13は、乳酸菌の死菌を添加したときのコクの付与や雑味の低減について言及したものではなく、乳酸菌による発酵物の香味について記載されたものである。
そして、乳酸菌の種類や菌株が違うと、容器詰めコーヒー飲料に乳酸菌の死菌を所定量添加したときのコクの付与や雑味の低減においてその機能が顕著に異なるという技術常識はなく、また、特許異議申立人の提出したいずれの証拠においてもそのような事項は示されていない。
よって、特許異議申立人1の主張は採用し得ない。
・第3 1(3)イ 及び 第3 2(2)雑味の抑制について
特許異議申立人1及び特許異議申立人2は、本件特許の発明の詳細な説明【0059】【表2】の実施例9と比較例4との比較で乳酸菌の死菌の添加により雑味の強さが同じであって低下しておらず、実施例11と比較例5との比較では乳酸菌の添加により雑味の強さが上昇しているから、本件特許発明は、乳酸菌の死菌を添加しても雑味の改善がなされていない、すなわち、発明の課題が解決されていないものを含むと主張している。
しかしながら、上記(4)において検討したとおり、本件特許発明の課題は、「コクが向上しつつ雑味が抑制された容器詰めコーヒー飲料及び容器詰めコーヒー飲料の味質改善方法を提供すること」であって、乳酸菌の死菌の添加により、乳酸菌を添加しなかった飲料と比べて雑味を低下させること、ではない。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、容器詰めコーヒー飲料において、乳酸菌の死菌を含有し、コーヒー飲料100mLに含まれる乳酸菌の死菌の個数の合計をA(個)、コーヒー飲料100mL中に含まれる可溶性コーヒー固形分の含有量をB(g)としたときのA/Bが1×105~5×1011とすることによって、発明の課題である、コクを向上しつつ雑味が抑制されたコーヒー飲料及び容器詰めコーヒー飲料の味質改善がなされると認識できる。
よって、特許異議申立人1及び2の主張は採用し得ない。
(6)申立理由1-3及び申立理由2-2についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第113条第4号に該当せず、取り消すことはできない。
5 申立理由1-4(実施可能要件)及び申立理由2-3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件特許発明1ないし5は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
また、上記第3のとおり、本件特許発明6は、方法の発明であるところ、方法の発明において実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、上記4(3)のとおりであり、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし6の各発明特定事項について具体的に記載され、実施例においてもその製造方法を含め具体的に記載されている。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし5を生産し、使用することができる程度の記載があるといえ、また、本件特許発明6を使用することができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし6に関して、本件特許の発明の詳細な説明は実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人1は第3 1(4)ア.において、特定の乳酸菌についてのみ実施例があることを主張し、特許異議申立人1及び2は、第3 1(4)イ.と第3 2(3)において、実施例9は比較例4に対して雑味の強さが改善されておらず、実施例11は比較例5と比較して雑味が増強されていることを主張しているが、これらの主張はいずれも実施可能要件の判断には関係しない事項である。
よって、特許異議申立人1及び特許異議申立人2の主張はいずれも採用し得ない。
(4)申立理由1-4及び申立理由2-3についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第113条第4号に該当せず、取り消すことはできない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許異議申立書1及び2に記載した申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700139