特許異議申立
2021-700695
シリカ粒子、シリカ粒子含有組成物、オルガノゾル及びシリカ粒子の製造方法
- 審判番号
- 2021-700695
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-145812
- 登録番号
- 6815778
- 請求日
- 2021年07月19日
- 審決日
- 2022年10月04日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】扶桑化学工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 【異議申立人】本多 眞治
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 関根 崇
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.113-YAA(C01B) / P1651.121-YAA(C01B) / P1651.536-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B) / P1651.851-YAA(C01B) / P1651.852-YAA(C01B) / P1651.857-YAA(C01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6815778号発明「シリカ粒子、シリカ粒子含有組成物、オルガノゾル及びシリカ粒子の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6815778号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。
特許第6815778号の請求項2~11に係る特許を維持する。
特許第6815778号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6815778号の請求項1~11に係る特許についての出願は、平成28年7月25日を出願日とする出願であり、令和2年12月25日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月20日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次の通りである。
令和3年 7月19日 :特許異議申立人 本多眞治(以下、「申
立人」という。)による全請求項に係る
特許に対する特許異議の申立て
同年11月29日付け:取消理由通知
令和4年 1月28日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の
提出
同年 3月18日 :申立人による意見書の提出
同年 7月12日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年 9月 6日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の
提出
第2 訂正の適否
1 訂正事項
令和4年9月6日提出の訂正請求書における訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、次の訂正事項1~6からなる(下線部は訂正箇所を示す。以下、同様である。)。
なお、令和4年1月28日に提出された訂正請求書における訂正請求については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2について、
「前記シリカ粒子は、下記ヘイズ差測定方法により測定されるヘイズ差ΔHが、+3%以下である、請求項1に記載のシリカ粒子。
[ヘイズ差測定方法]
(1)粘性物質と、シリカ粒子とを無溶剤条件下にて1:1の質量比で混合して、基材フィルム上に、50μmの厚みで塗布し、積層体とする。
(2)積層体のヘイズと、基材フィルムのヘイズとの差ΔHを、下記式に基づいて算出する。
ΔH(%)=(積層体のヘイズ(%))-(基材フィルムのヘイズ(%))」とあるのを、
「29Si-固体NMRスペクトルが、M、T2及びT3のピークを有するシリカ粒子であって、
前記Mは、15~10ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークを示し、
前記T2は、-55~-60ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークを示し、
前記T3は、-65~-70ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークを示し、
前記シリカ粒子を粘性物質中に含有するシリカ粒子含有組成物の、下記粘度測定方法により測定される粘度が、前記粘性物質の粘度の30倍以下であり、
前記粘性物質は、液状樹脂であり、前記液状樹脂は、トリメチロールプロパントリアクリレート及びビスフェノールA型樹脂から選択される少なくとも1種の液状樹脂であり、
前記粘性物質は、E型粘度計を用いて25℃、回転数5rpmの条件で測定される粘度が50~5000mPa・sであり、
前記シリカ粒子は、下記ヘイズ差測定方法により測定されるヘイズ差ΔHが、+3%以下である、
ことを特徴とするシリカ粒子。
[粘度測定方法]
(1)粘性物質と、シリカ粒子とを無溶剤条件下にて1:1の質量比で混合して、シリカ粒子含有組成物を調製する。
(2)E型粘度計を用いて、25℃、回転数5rpmの条件で粘度を測定する。
[ヘイズ差測定方法]
(1)粘性物質と、シリカ粒子とを無溶剤条件下にて1:1の質量比で混合して、厚み125μm、ヘイズ=0.4のPETフィルムである基材フィルム上に、50μmの厚みで塗布し、積層体とする。
(2)積層体のヘイズと、基材フィルムのヘイズとの差ΔHを、下記式に基づいて算出する。
ΔH(%)=(積層体のヘイズ(%))-(基材フィルムのヘイズ(%))」に訂正する(請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項3~11も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3~6
特許請求の範囲の請求項3、5~7について、
「請求項1又は2に記載のシリカ粒子」とあるのを、「請求項2に記載のシリカ粒子」に訂正する(請求項3を直接的又は間接的に引用する請求項4~5、及び請求項7を直接的又は間接的に引用する請求項8~11も同様に訂正する。)。
ここで、訂正前の請求項2~11は訂正前の請求項1を引用しているため、請求項1~11は一群の請求項であって、訂正事項1~6の特許請求の範囲の訂正は、この一群の請求項〔1~11〕を訂正の単位として請求されたものである。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否)の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2において、独立形式に書き下して引用関係を解消した上で、願書に添付された明細書の段落【0085】の記載に基づいてヘイズ差測定方法に用いる基材フィルムを限定するとともに、「-65~70ppm」の範囲内に化学シフト中心値を有するとされていた「T3のピーク」について、技術常識に基づいて正しい数値範囲「-65~-70ppm」に訂正するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」、「誤記の訂正」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするもので、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲、並びに願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3~6について
訂正事項3~6は、訂正前の請求項3、5~7において、請求項1又は2を引用していたものを、請求項1を引用しないようにしたものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。
なお、特許異議の申立ては、全請求項についてされているので、訂正事項1~6に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。
第3 本件発明について
本件訂正請求が認められることは前記第2に記載のとおりであるから、訂正後の請求項2~11に係る発明(以下、「本件発明2」などといい、これらを纏めて「本件発明」という。)は、次のとおりのものである(下線部は訂正箇所を示す。)。
「【請求項2】
29Si-固体NMRスペクトルが、M、T2及びT3のピークを有するシリカ粒子であって、
前記Mは、15~10ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークを示し、
前記T2は、-55~-60ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークを示し、
前記T3は、-65~-70ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークを示し、
前記シリカ粒子を粘性物質中に含有するシリカ粒子含有組成物の、下記粘度測定方法により測定される粘度が、前記粘性物質の粘度の30倍以下であり、
前記粘性物質は、液状樹脂であり、前記液状樹脂は、トリメチロールプロパントリアクリレート及びビスフェノールA型樹脂から選択される少なくとも1種の液状樹脂であり、
前記粘性物質は、E型粘度計を用いて25℃、回転数5rpmの条件で測定される粘度が50~5000mPa・sであり、
前記シリカ粒子は、下記ヘイズ差測定方法により測定されるヘイズ差ΔHが、+3%以下である、
ことを特徴とするシリカ粒子。
[粘度測定方法]
(1)粘性物質と、シリカ粒子とを無溶剤条件下にて1:1の質量比で混合して、シリカ粒子含有組成物を調製する。
(2)E型粘度計を用いて、25℃、回転数5rpmの条件で粘度を測定する。
[ヘイズ差測定方法]
(1)粘性物質と、シリカ粒子とを無溶剤条件下にて1:1の質量比で混合して、厚み125μm、ヘイズ=0.4のPETフィルムである基材フィルム上に、50μmの厚みで塗布し、積層体とする。
(2)積層体のヘイズと、基材フィルムのヘイズとの差ΔHを、下記式に基づいて算出する。
ΔH(%)=(積層体のヘイズ(%))-(基材フィルムのヘイズ(%))
【請求項3】
請求項2に記載のシリカ粒子を、前記粘性物質中に含有することを特徴とする、シリカ粒子含有組成物。
【請求項4】
前記シリカ粒子と、前記粘性物質とを1:4~4:1の質量比で含有する、請求項3に記載のシリカ粒子含有組成物。
【請求項5】
ハードコート用材料、3Dプリンター用材料、又は封止用材料である、請求項2に記載のシリカ粒子、又は、請求項3若しくは4に記載のシリカ粒子含有組成物。
【請求項6】
請求項2に記載のシリカ粒子、及び、有機溶媒を含有することを特徴とする、オルガノゾル。
【請求項7】
請求項2に記載のシリカ粒子の製造方法であって、
(1)水系中性シリカスラリーに、アルコール及びトリアルコキシシランを加えて、45℃以上、前記アルコールの沸点以下の温度で加熱する工程1、
(2)工程1で得られた液にオルガノシラザンを添加し、45℃以上、前記アルコールの沸点以下の温度で加熱する工程2、
(3)工程2で得られた液に、水及び濾過促進剤を添加する工程3、並びに、
(4)工程3で得られた液を濾過し、乾燥させる工程4を含むことを特徴とする、シリカ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記アルコールは、炭素数3以下のアルコールである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記トリアルコキシシランは、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン及びトリフルオロプロピルトリメトキシシランからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記オルガノシラザンは、ヘキサメチルジシラザンであり、且つ、前記工程2の前記ヘキサメチルジシラザンの添加量が、前記工程1で用いる水系中性シリカスラリーを100質量部として、5~15質量部である、請求項7~9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記濾過促進剤は、塩酸、酢酸、又はγ-ブチロラクトンである、請求項7~10のいずれかに記載の製造方法。」
第4 甲号証について
申立人が提出した証拠方法は、以下の甲第1~7号証がある。
1 甲号証一覧
甲第1号証:特開2014-196226号公報
甲第2号証:特開2011-213514号公報
甲第3号証:MAREK CYPRYK, Application of Si-29 NMR spectroscopy in organosilicon polymers investigations, POLIMERY, 2007, Vol.52, No.10, p.730-735
甲第4号証:宮嶋達也 外2名, 29Si NMR法による含ケイ素材料の構造解析, 旭硝子研究報告, 2016, Vol.66, p.32-36
甲第5号証:本多眞治(申立人)が令和3年7月1日に作成した「実験成績証明書」
甲第6号証:特開2010-83744号公報
甲第7号証:本多眞治(申立人)が令和4年3月1日に作成した「実験成績証明書」
以下、各甲号証について、「甲1」などと略称する。
2 甲号証の記載内容
(1)甲1の記載内容
甲1には、下記の事項が記載されている(当審注:下線は当審による。また、「・・・」は当審による省略を意味する。以下、同様である。)。
ア「【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質シリコン粒子、表面改質シリコン粒子の製造方法、及び、フィラー含有組成物に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は・・・半導体デバイスの封止材などに好適に採用できるフィラー含有組成物及びその組成物のフィラーに適用することが好適な表面改質シリカ粒子及びその表面改質シリカ粒子を製造する方法を提供することを解決すべき課題とする。
・・・
【0070】
(フィラー含有組成物)
本実施形態のフィラー含有組成物は上述の表面改質シリカ粒子と樹脂材料(及び/又は樹脂材料前駆体、以下「樹脂材料等」と記載する)とを混合したものである。表面改質シリカ粒子と樹脂材料等との混合比は特に限定しないが、表面改質シリカ粒子の量が多い方が熱的安定性に優れたものになる。
・・・
【0073】
樹脂材料等としては重合により高分子材料を形成する単量体や、上述したような重合性官能基により修飾した高分子材料が好ましいものとして挙げられる。例えば、硬化前の、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などのプレポリマーが好適である。特に熱的安定性の高いものにする場合にはエポキシ樹脂を主体として組成物を構成することが望ましい。」
イ「【実施例】
【0074】
本発明の表面改質シリカ粒子について実施例に基づき説明を行う。
(表面改質シリカ粒子の製造)
・シリカ粒子の製造
試験例1:・・・
・・・
【0078】
(表面処理工程)
(1)準備工程
シリカ粒子が20質量部の濃度で水に分散したスラリー100質量部にイソプロパノール40質量部を加え、室温(約25℃)で混合することで、シリカ粒子が液状媒体に分散されてなる分散液を得た。
【0079】
(2)第1工程
この分散液に3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM503)0.26質量部とを加え・・・40℃で72時間混合した。この工程により、シリカ粒子の表面に存在する水酸基をシランカップリング剤で表面処理した。・・・
【0080】
(3)第2工程
次いで、この混合物にヘキサメチルジシラザン0.42質量部を加え、40℃で72時間放置した。この工程によって、シリカ粒子が表面処理され、シリカ粒子材料が得られた。表面処理の進行に伴い、疎水性になったシリカ粒子が水及びイソプロパノールの中に安定に存在できなくなり、凝集・沈殿した。なお、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとメキサメチルジシラザンとのモル比は2:5であった。
【0081】
(4)固形化工程
表面処理工程で得られた混合物に35%塩酸水溶液を2.3質量部加え、シリカ粒子材料を沈殿させた。沈殿物をろ紙(アドバンテック社製 5A)で濾過した。濾過残渣(固形分)を純水で洗浄した後に100℃で真空乾燥して、シリカ粒子材料の固形物を得た。
・・・
【0084】
試験例2:シリカ粒子としてコロイダルシリカの一種であるカタロイドSI-80P(日揮触媒化成株式会社製、水中に分散されており固形分濃度40%)を用いた。準備工程において、カタロイドSI-80P100質量部に水100質量部とイソプロパノール80質量部を加えた。第1工程においてシランカップリング剤として3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.58質量部と重合禁止剤0.03質量部を加えた。また、第2工程においてヘキサメチルジシラザン0.94質量部を加えた。固形化工程において35%塩酸水溶液を4.7質量部加えシリカ粒子材料の固形物を得た。」
ウ「【0090】
それぞれの試験試料をシクロヘキサノンに分散させたときの粘度を測定した。」
(2)甲2の記載内容
甲2には、下記の事項が記載されている。
ア「【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ粒子材料、シリカ粒子材料をフィラーとして含むフィラー含有樹脂組成物、および、シリカ粒子を表面処理してシリカ粒子材料を得るための表面処理方法に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
・・・
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、取り扱い性に優れるシリカ粒子材料、および、シリカ粒子を表面処理し取り扱い性に優れるシリカ粒子材料を得るための表面処理方法を提供することを目的とする。」
イ「【実施例】
【0052】
以下、本発明のシリカ粒子材料および本発明のシリカ粒子の表面処理方法を具体的に説明する。
【0053】
(実施例1)
(材料)
シリカ粒子として、コロイダルシリカの一種であるスノーテックスOS(日産化学工業株式会社製、平均粒径10nm、水中に分散されており固形分濃度20%)を準備した。
・・・
【0057】
(表面処理工程)
(1)準備工程
シリカ粒子が20質量%の濃度で水に分散したスラリー100質量部にイソプロパノール60質量部を加え、室温(約25℃)で混合することで、シリカ粒子が液状媒体に分散されてなる分散液を得た。
【0058】
(2)第1工程
この分散液にフェニルトリメトキシシラン1.8質量部を加え、40℃で72時間混合した。この工程により、シリカ粒子の表面に存在する水酸基をシランカップリング剤で表面処理した。なお、このときフェニルトリメトキシシランは、必要な量の水酸基(一部)が表面処理されず残存するように計算して加えた。
【0059】
(3)第2工程
次いで、この混合物に、ヘキサメチルジシラザン3.7質量部を加え、40℃で72時間放置した。この工程によって、シリカ粒子が表面処理され、シリカ粒子材料が得られた。表面処理の進行に伴い、疎水性になったシリカ粒子が水およびイソプロパノールの中で安定に存在できなくなり、凝集・沈殿した。なお、フェニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比は2:5であった。
【0060】
(固形化工程)
表面処理工程で得られた混合物全量に35%塩酸水溶液を5質量部を加え、シリカ粒子材料を沈殿させた。沈殿物をろ紙(アドバンテック社製 5A)で濾過した。濾過残渣(固形分)を純水で洗浄した後に100℃で真空乾燥して、シリカ粒子材料の固形物を得た。」
(3)甲第3号証の記載内容
甲第3号証には、下記の事項が記載されている。
「Fig.1
[図:0001393061000001.jpg]
」(説明文の仮訳:図1.有機ケイ素化合物の29SiNMRの化学シフトの範囲(M,D,T,QはスキームA参照))
(4)甲4の記載内容
甲4には、下記の事項が記載されている。
ア 「ケイ素原子周囲の原子レベルの構造情報を得るのに、核磁気共鳴法(NMR法)は有用な手法の一つである。NMR法は、核スピンの励起エネルギーを測定する手法であり、ケイ素の場合は、29Si核を観測することで、局所構造に関する情報が得られる。」(第33頁「1.緒言」左欄第4~9行)
イ 「29Si NMR法では基本構成単位、縮合度の情報が得られる。シリコーンの基本構成単位をFig.1に示す。官能基数に応じて、M単位(一官能性)、D単位(二官能性)、T単位(三官能性)、Q単位(四官能性)に大別され、これらMDTQの違い、および置換基の違い(R=H,CH3,CH=CH2,Phenylなど)によってケミカルシフトが異なる(1)。D単位とT単位から成るメチルシリコーンの29Si NMRスペクトルをFig.2に示す。それぞれの基本構成単位に応じてケミカルシフトが大きく異なり、さらにそれぞれの基本構成単位の中でも縮合度によってケミカルシフトが異なる。」(第33頁「2.溶液NMR法」左欄下から第19~8行)
ウ 「Fig.1
[図:0001393061000002.jpg]
」
エ 「Fig.2
[図:0001393061000003.jpg]
」
(5)甲5の記載内容
甲5には、下記の事項が記載されている。
ア「・シリカ粒子の調製
引例1の0084段落の記載に基づいてシリカ粒子を製造した(引例1のシリカ粒子)。引例1のシリカ粒子は、D50が102.1nmであり、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理した後、ヘキサメチルシラザンで更に表面処理したシリカからなる粒子である。」(当審注:「引例1」は「甲1」の意味であると解釈した。また、「ヘキサメチルシラザン」は「ヘキサメチルジシラザン」の誤記と認める。)。
イ 「・29Si-固体NMRの測定
以下の測定条件で29Si-固体NMRを測定した。
[図:0001393061000004.jpg]
」
ウ 「[分析結果]
試料の29Si CP/MAS NMRスペクトルは別紙の図1に示した通り12.637ppm、-56.930ppm、-67.029ppmにピークを持ち、15~10ppm、-55~-60ppm、-65~-70ppmの範囲内にピークが観測されることが確認された。」
エ 「・粘度測定
粘性物質としては、ビスフェノールA型樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂の1種であるjer828(三菱ケミカル株式会社製、エポキシ当量184~194)とトリメチロールプロパントリアクリレートとを質量比で88:12で混合した混合物を用いた。この混合物の粘度を本願請求項1に記載の方法(25℃、E型粘度計、回転数5rpm)で測定すると、4632mPa・sであり、本願発明1に規定される50~5000mPa・sの範囲内であった。
引例1のシリカ粒子と粘性物質とを1:1の質量比で混合して、シリカ含有組成物を調製した。このシリカ粒子含有組成物について、E型粘度計を用いて、25℃、回転数5rpmの条件で粘度を測定した結果、60603mPa・sであり、粘性物質の粘度の13.1倍であった。」
オ 「・ヘイズ値測定
粘度測定で使用したシリカ粒子含有組成物を用いて製造した積層体について本願請求項2に記載のヘイズ値測定方法にてヘイズを測定した。基材フィルムは、カバーガラスを用いた。
積層体のヘイズが3.0%、基材フィルムのヘイズ値が0.2%、であり、その差は2.8%となって3%以下であった。」
カ 「図1
[図:0001393061000005.jpg]
」
(6)甲7の記載内容
甲7には、下記の事項が記載されている。
ア 「・シリカ粒子の調製
甲第1号証の0084段落の記載に基づいてシリカ粒子を製造した(甲第1号証のシリカ粒子)。甲第1号証のシリカ粒子は、D50が102.1nmであり、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理した後、ヘキサメチルシラザンで更に表面処理したシリカからなる粒子である。」(当審注:「ヘキサメチルシラザン」は「ヘキサメチルジシラザン」の誤記と認める。)」
イ 「・粘度測定
粘性物質としては、トリメチロールプロパントリアクリレートを単独で用いた。この粘性物質の粘度を本願請求項1に記載の方法(25℃、E型粘度計、回転数5rpm)で測定すると、95mPa・sであり、訂正後の本願請求項1に規定される50~3000mPa・sの範囲内であった。
甲第1号証のシリカ粒子と粘性物質とを1:1の質量比で混合して、シリカ含有組成物を調製した。このシリカ粒子含有組成物について、E型粘度計を用いて、25℃、回転数5rpmの条件で粘度を測定した結果、1032mPa・sであった。
測定後の粘度である1032mPa・sを測定前の粘度である95mPa・sで割ると、約10.86倍であり、訂正後の本願請求項1に規程された30倍以下であった。」
第5 取消理由について
1 取消理由の概要
当審が特許権者に通知した、令和3年11月29日付けの取消理由、及び令和4年7月12日付けの取消理由(決定の予告)の内容は、概要、以下のとおりである。
(1)取消理由1(新規性欠如)
設定登録時の請求項1~2に係る発明は、甲5を参酌すると、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該請求項1~2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2(進歩性欠如)
設定登録時の請求項3~6に係る発明は、甲5を参酌すると、甲1に記載された発明、又は甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項ないし周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項3~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)取消理由3(明確性要件違反)
設定登録時の請求項2に記載の「ヘイズ差ΔH」は、基材となるフィルムの種類等に応じて変動するパラメータであるところ、当該請求項2において、積層体を構成する基材について具体的に特定されていないために、「ヘイズ差ΔH」の値を一義的に決定することができないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)取消理由4(新規性欠如)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲7を参酌すると、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(5)取消理由5(進歩性欠如)
本件訂正前の請求項3~6に係る発明は、甲7を参酌すると、甲1に記載された発明、又は、甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項ないし周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項3~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 当審の判断
(1)取消理由3(明確性要件違反)について
取消理由3から検討する。
本件訂正後の請求項2では、「基材フィルム」が、「厚み125μm、ヘイズ=0.4のPETフィルム」であることが特定されたから、特許異議申立書(第14頁下から11行~第15頁第5行)でも説示されるように、「ヘイズ値」が、基材フィルムの種類等に影響されるパラメータであるとしても、上述のとおり、本件訂正により基材の種類は具体的に特定されているのだから、当該請求項2に記載で規定される「ヘイズ差ΔH」が一義的に決定できないものである、とはいえない。
よって、取消理由3に理由はない。
(2)取消理由1~2、4~5(甲1を主たる証拠とした新規性及び進歩性欠如)について
取消理由1、2、4及び5を併せて検討する。
ア 甲1に記載された発明
上記第4の2(1)イの記載を「試験例2」の「表面改質シリカ粒子」に注目して整理すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「シリカ粒子(カタロイドSI-80P(日揮触媒化成株式会社製、水中に分散されており固形分濃度40%))100質量部に水100質量部とイソプロパノール80質量部を加えて混合し、シリカ粒子が液状媒体に分散されてなる分散液を得、
この分散液に3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.58質量部と重合禁止剤0.03質量部を加えて40℃で72時間混合し、
この混合物にヘキサメチルジシラザン0.94質量部を加え、40℃で72時間放置し、35%塩酸水溶液を4.7質量部加えてシリカ粒子材料を沈殿させ、沈殿物を濾過して純水で洗浄した後に100℃で真空乾燥した、表面改質シリカ粒子。」(以下、「甲1発明」という。)
イ 本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と甲1発明を対比すると、両者は「シリカ粒子」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明2は、「29Si-固体NMRスペクトルが、M、T2及びT3のピークを有するシリカ粒子であって、前記Mは、15~10ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークを示し、前記T2は、-55~-60ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークを示し、前記T3は、-65~-70ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークを示」すのに対し、
甲1発明は、これが特定されない点。
<相違点2>
本件発明2は、「前記シリカ粒子を粘性物質中に含有するシリカ粒子含有組成物の、下記粘度測定方法により測定される粘度が、前記粘性物質の粘度の30倍以下であり、前記粘性物質は、液状樹脂であり、前記液状樹脂は、トリメチロールプロパントリアクリレート及びビスフェノールA型樹脂から選択される少なくとも1種の液状樹脂であり、前記粘性物質は、E型粘度計を用いて25℃、回転数5rpmの条件で測定される粘度が50~5000mPa・s」であり、
前記粘度測定方法が、
「[粘度測定方法]
(1)粘性物質と、シリカ粒子とを無溶剤条件下にて1:1の質量比で混合して、シリカ粒子含有組成物を調製する。
(2)E型粘度計を用いて、25℃、回転数5rpmの条件で粘度を測定する。」であるのに対し、
甲1発明は、これが特定されない点。
<相違点3>
本件発明2は、「前記シリカ粒子は、下記ヘイズ差測定方法により測定されるヘイズ差ΔHが、+3%以下」であり、
前記ヘイズ差測定方法が、
「[ヘイズ差測定方法]
(1)粘性物質と、シリカ粒子とを無溶剤条件下にて1:1の質量比で混合して、厚み125μm、ヘイズ=0.4のPETフィルムである基材フィルム上に、50μmの厚みで塗布し、積層体とする。
(2)積層体のヘイズと、基材フィルムのヘイズとの差ΔHを、下記式に基づいて算出する。
ΔH(%)=(積層体のヘイズ(%))-(基材フィルムのヘイズ(%))」(以下、「本件ヘイズ差特性」という。)であるのに対し、
甲1発明は、これが特定されない点。
(イ)相違点の検討
事案にかんがみ、相違点3から検討する。
甲1にはヘイズに係る記載がないが、甲5を参照すると(上記第4の2(5))、甲1の明細書(【0084】)の記載に基づいてシリカ粒子を製造し、当該シリカ粒子を含有する組成物を用いて製造した積層体(以下、「甲1積層体」という。)のヘイズ値を測定すると、「ヘイズ差ΔH」が2.8%であったことが記載されている。しかしながら、甲1積層体の基材はカバーガラスであって、本件発明2の「ヘイズ差測定方法」の基材、すなわち、厚み125μm、ヘイズ=0.4のPETフィルムとは異なるものである。そして、上記(1)の検討によれば、「ヘイズ値」は、基材となるフィルムの種類等に影響されるパラメータであるから、本件発明2の「ヘイズ差測定方法」を用いたときの甲1発明のヘイズ差の値は、甲5を参酌しても不明である。そうすると、甲1発明について、「本件ヘイズ差特性」を満たすことは推認できないから、上記相違点3は実質的なものである。
また、上述のとおり、甲1にはヘイズに係る記載はないし、さらに他の証拠を参照しても、「本件ヘイズ差特性」について記載や示唆はない以上、甲1発明において、上記相違点3に係る本件発明2の構成とすることは、当業者にとって容易想到な事項とはいえない。
ウ 本件発明3~11について
本件発明3~11は、本件発明2の特定事項を全て含むものであるから、前記イ(イ)で検討した理由により、本件発明3~11は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明及び甲1に記載された事項ないし周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
エ 小括
したがって、取消理由1~2、4~5に理由はない。
第6 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由で採用しなかった特許異議の申立理由の概要
(1)申立理由1(甲1を主たる証拠とした進歩性欠如)
設定登録時の請求項7~11に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項7~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(甲2を主たる証拠とした新規性及び進歩性欠如)
ア 設定登録時の請求項1~2、5~6に係る発明は、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、請求項1~2、5~6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
イ 設定登録時の請求項1~2、5~11に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、設定登録時の請求項3~4に係る発明は、甲2に記載された発明及び甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(実施可能要件違反)
設定登録時の請求項1の「化学シフトの中心値」をどのように算出するのか明らかでなく、また、設定登録時の請求項2の「ヘイズ値」を算出する際に用いる基材フィルムがどのようなものか明らかでないため、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)申立理由4(明確性要件違反)
設定登録時の請求項1の「化学シフトの中心値」の技術的意味を理解できないから、特許請求の範囲の記載の不備のため、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
(1)申立理由1(甲1を主たる証拠とした進歩性欠如)について
本件発明7~11は、本件発明2の特定事項を全て含むもので、上記第5の2(2)イ(イ)での検討と事情は同じであるから、本件発明7~11は、甲1発明及び甲1に記載された事項ないし周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、申立理由1に理由はない。
(2)申立理由2(甲2を主たる証拠とした新規性及び進歩性欠如)について
ア 甲2に記載された発明
上記第4の2(2)イの【実施例】に注目して整理すれば、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。
「シリカ粒子(スノーテックスOS(日産化学工業株式会社製、平均粒径10nm、水中に分散されており固形分濃度20%))が20質量%の濃度で水に分散したスラリー100質量部にイソプロパノール60質量部を加えて混合してシリカ粒子が液状媒体に分散されてなる分散液を得、
この分散液にフェニルトリメトキシシラン1.8質量部を加え、40℃で72時間混合し、
この混合物に、ヘキサメチルジシラザン3.7質量部を加え、40℃で72時間放置し、
前記表面処理工程で得られた混合物全量に35%塩酸水溶液5質量部を加えて沈殿させ、沈殿物を濾過して純水で洗浄した後に100℃で真空乾燥した、表面改質シリカ粒子。」(以下、「甲2発明」という。)
イ 本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と甲2発明を対比すると、両者は「シリカ粒子」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点4>
本件発明2は、「29Si-固体NMRスペクトルが、M、T2及びT3のピークを有するシリカ粒子であって、前記Mは、15~10ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークを示し、前記T2は、-55~-60ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークを示し、前記T3は、-65~-70ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークを示」すのに対し、
甲2発明は、これが特定されない点。
<相違点5>
本件発明2は、「前記シリカ粒子を粘性物質中に含有するシリカ粒子含有組成物の、下記粘度測定方法により測定される粘度が、前記粘性物質の粘度の30倍以下であり、前記粘性物質は、液状樹脂であり、前記液状樹脂は、トリメチロールプロパントリアクリレート及びビスフェノールA型樹脂から選択される少なくとも1種の液状樹脂であり、前記粘性物質は、E型粘度計を用いて25℃、回転数5rpmの条件で測定される粘度が50~5000mPa・s」であり、
前記粘度測定方法が、
「[粘度測定方法]
(1)粘性物質と、シリカ粒子とを無溶剤条件下にて1:1の質量比で混合して、シリカ粒子含有組成物を調製する。
(2)E型粘度計を用いて、25℃、回転数5rpmの条件で粘度を測定する。」であるのに対し、
甲2発明は、これが特定されない点。
<相違点6>
本件発明2は、「前記シリカ粒子は、下記ヘイズ差測定方法により測定されるヘイズ差ΔHが、+3%以下」であり、
前記ヘイズ差測定方法が、
「[ヘイズ差測定方法]
(1)粘性物質と、シリカ粒子とを無溶剤条件下にて1:1の質量比で混合して、厚み125μm、ヘイズ=0.4のPETフィルムである基材フィルム上に、50μmの厚みで塗布し、積層体とする。
(2)積層体のヘイズと、基材フィルムのヘイズとの差ΔHを、下記式に基づいて算出する。
ΔH(%)=(積層体のヘイズ(%))-(基材フィルムのヘイズ(%))」(以下、「本件ヘイズ差特性」という。)であるのに対し、
甲2発明は、これが特定されない点。
(イ)相違点の検討
事案にかんがみ、相違点6から検討する。
甲2発明のシリカ粒子について、本件発明2の「ヘイズ差測定方法」により測定したヘイズ差の値は不明であるから、上記相違点6は実質的なものである。
そして、甲2の明細書等を子細にみても、本件発明2で規定される「本件ヘイズ差特性」に係る記載や示唆はないし、これを記載する他の証拠もない以上、甲2発明において、上記相違点6に係る本件発明2の構成とすることは、当業者にとって容易想到な事項とはいえない。
ウ 本件発明3~11について
本件発明3~11は、本件発明2の特定事項を全て含むものであるから、前記イ(イ)で検討した理由により、本件発明3~11は、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明に基いて、あるいは甲2発明及び甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
エ 小括
したがって、申立理由2に理由はない。
(3)申立理由3(実施可能要件違反)について
申立理由3は、要するに、設定登録時の請求項1の「化学シフトの中心値」、及び同請求項2の「ヘイズ差ΔH」が明らかでないことを論拠にするものといえるが、「ヘイズ差ΔH」が明確であることは上記第5の2(1)で検討したとおりであるし、「化学シフトの中心値」が明確であることも、後記(4)で検討するとおりである。そうすると、「化学シフトの中心値」及び「ヘイズ差ΔH」が不明確であることを論拠にした申立人の実施可能要件違反に係る主張は、その前提を欠くものであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明が、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない、とはいえない。
よって、申立理由3に理由はない。
(4)申立理由4(明確性要件違反)について
本件発明2に係る請求項2の「前記Mは、15~10ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークを示し、前記T2は、-55~-60ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークを示し、前記T3は、-65~-70ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークを示し」という記載に関し、本件特許明細書の発明の詳細な説明(【0017】)には、「29Si-固体NMRスペクトルが、上記M、T2及びT3のピークを有している。ここで、Mは、15~10ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークを示しており、オルガノシラザン由来の1官能のケイ素原子のピークである。また、T2は、-55~-60ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークを示しており、テトラメチルオルトシリケート由来の3官能の、2つの酸素原子と1つの水酸基が結合したケイ素原子のピークであり、すなわち、残存シラノール基が1つであるケイ素原子のピークである。また、T3は、-65~70ppmの範囲内に化学シフトの中心値を有するピークを示しており、テトラメチルオルトシリケート由来の3官能の、3つの酸素原子が結合したケイ素原子のピークであり、すなわち、残存シラノール基が0であるケイ素原子のピークである。」と記載されている。
そうすると、上記請求項2で規定されるM、T2及びT3のピークは、それぞれ、オルガノシラザン由来の1官能のケイ素原子のピーク、テトラメチルオルトシリケート由来の3官能の、2つの酸素原子と1つの水酸基が結合したケイ素原子のピーク、及びテトラメチルオルトシリケート由来の3官能の、3つの酸素原子が結合したケイ素原子のピーク、すなわち残存シラノール基が0であるケイ素原子のピークであることが理解できるし、また、当該M、T2及びT3のピークについて、それぞれ15~10ppm、-55~-60ppm及び-65~-70ppmの範囲内に位置する、という程度のことは理解できるから、請求項2の上記記載について、第三者に不測の不利益をもたらす程不明確である、とはいえない。
ここで、申立人は、特許異議申立書(第13頁下から4行~第14頁10行)において、「本願請求項1における発明特定事項B-Dには、「化学シフトの中心値」との記載があるが、この記載は明確でない。まず、「化学シフトの中心値」とあることから、化学シフトは複数存在する。複数存在する要素について中心値という場合、統計学においては、分布の中心を表す要約統計量、すなわち代表値を意味するものと考えられる。代表値としては、平均値、最頻値、中央値などが採用されることが一般的である、特に定義されていない本願においてはどのようにして中心値を算出するか明らかでない。」と、「化学シフトの中心値」についての定義がないために、本件発明2が不明確になることを主張する。しかしながら、請求項2の上記記載は、M、T2及びT3の各ピークが、それぞれ15~10ppm、-55~-60ppm及び-65~-70ppmの範囲内に位置する、という程度の意味では理解できるし、それにより第三者に不測の不利益をもたらす程不明確であるとはいえないことは、上述のとおりである。そして、「化学シフトの中心値」の定義の有無によって、当該判断が左右されるものではないから、申立人の上記主張は採用できない。
よって、申立理由4に理由はない。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知書及び取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由、並びに、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項2~11に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項2~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1は、本件訂正により削除されて、請求項1に対する特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700695