特許異議申立
2025-700411
多結晶シリコン原料
- 審判番号
- 2025-700411
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-512310
- 登録番号
- 7572352
- 請求日
- 2025年04月11日
- 審決日
- 2025年07月09日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社トクヤマ
- 【権利者代理人】前田・鈴木国際特許弁理士法人
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 河本 充雄
- 審判官 塩谷 領大
- 分類
- P1651.121-Y (C30B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7572352号発明「多結晶シリコン原料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7572352号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7572352号の請求項1~6に係る特許についての出願は、2020年(令和2年) 4月 2日(優先権主張 平成31年 4月 5日(以下、「本件特許出願の優先日」という。))を国際出願日とする出願であって、令和6年10月15日にその特許権の設定登録がされ、同年同月23日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和7年 4月11日に特許異議申立人 中川 賢治(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
特許第7572352号の請求項1~6の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1~6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
複数の多結晶シリコン塊を含む、p型単結晶シリコン製造用多結晶シリコン原料であって、
前記多結晶シリコン原料のバルク内に存在するドナー元素の合計濃度をCd1[ppta]とし、前記多結晶シリコン原料のバルク内に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa1[ppta]とし、前記多結晶シリコン原料の表面に存在するドナー元素の合計濃度をCd2[ppta]とし、前記多結晶シリコン原料の表面に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa2[ppta]としたときに、
前記Cd1、Ca1、Cd2およびCa2が、5[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦26[ppta]である関係を満足することを特徴とする多結晶シリコン原料。
【請求項2】
前記多結晶シリコン原料に含まれる多結晶シリコン塊の総重量を100%とすると、多結晶シリコン塊の最大辺長が10mm以上45mm以下である多結晶シリコン塊の重量が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコン原料。
【請求項3】
前記多結晶シリコン原料に含まれる多結晶シリコン塊の総重量を100%とすると、多結晶シリコン塊の最大辺長が20mm以上70mm以下である多結晶シリコン塊の重量が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコン原料。
【請求項4】
前記多結晶シリコン原料に含まれる多結晶シリコン塊の総重量を100%とすると、多結晶シリコン塊の最大辺長が60mm以上100mm以下である多結晶シリコン塊の重量が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコン原料。
【請求項5】
複数の多結晶シリコン塊を含む多結晶シリコン原料を溶融して、p型単結晶シリコンを製造する方法であって、
前記多結晶シリコン原料溶融時にドーパントを添加せずに、抵抗率が10000Ωcm以上であるp型単結晶シリコンを製造する工程を有し、
前記多結晶シリコン原料として、多結晶シリコン原料のバルク内に存在するドナー元素の合計濃度をCd1[ppta]とし、多結晶シリコン原料のバルク内に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa1[ppta]とし、多結晶シリコン原料の表面に存在するドナー元素の合計濃度をCd2[ppta]とし、多結晶シリコン原料の表面に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa2[ppta]としたときに、前記Cd1、Ca1、Cd2およびCa2が、5[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦26[ppta]である関係を満足する多結晶シリコン原料を用いるp型単結晶シリコンの製造方法。
【請求項6】
p型単結晶シリコンを製造する工程において、p型単結晶シリコンの抵抗率が50000Ωcm以下である請求項5に記載のp型単結晶シリコンの製造方法。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証~甲第5号証を提出し、以下の理由により、請求項1~6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由(進歩性)
本件発明1~6は、甲第1号証~甲第5号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
[証拠方法]
甲第1号証:特開2013-151413号公報
甲第2号証:特開2015-107916号公報
甲第3号証:内富直隆,「しくみ図解半導体が一番わかる」,初版,日本,株式会社技術評論社, 2014年6月5日,p.30-31
甲第4号証:特開2014-19600号公報
甲第5号証:特表2017-512159号公報
第4 申立理由(進歩性)について
1 甲号証の記載事項、甲号証に記載された発明等
(1) 甲第1号証(特開2013-151413号公報)
ア 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第1号証には、以下の記載がある。(下線は、当審が付与した。以下、同様である。)
「【請求項1】
表面におけるホウ素濃度が1~50ppta及びリン濃度が1~50pptaである、多結晶質シリコン塊。
【請求項2】
前記表面におけるホウ素濃度が1~30pptaである、請求項1に記載の多結晶質シリコン塊。
【請求項3】
前記表面におけるリン濃度が1~25pptaである、請求項2に記載の多結晶質シリコン塊。
【請求項4】
前記表面におけるヒ素濃度が0.01~10pptaである、請求項1~3のいずれか一項に記載の多結晶質シリコン塊。
【請求項5】
前記表面におけるアルミニウム濃度が0.01~10pptaである、請求項1~4のいずれか一項に記載の多結晶質シリコン塊。
【請求項6】
前記表面における金属濃度が10~200pptwである、請求項1~5のいずれか一項に記載の多結晶質シリコン塊。
【請求項7】
前記表面におけるFe濃度が1~40pptw、Cr濃度が0.1~5pptw、Cu濃度が0.1~5pptw、Na濃度が1~30pptw、Ni濃度が0.1~5pptw、Ca濃度が0.1~10pptw、Ti濃度が0.1~10pptw、W濃度が0.1~10pptw及びZn濃度が0.1~10pptwである、請求項1~6のいずれか一項に記載の多結晶質シリコン塊。
【請求項8】
前記表面における前記Fe濃度が1~20pptwである、請求項7に記載の多結晶質シリコン塊。
【請求項9】
ドーパントが、バルク中に下記の濃度、すなわちリン1~20ppta、ホウ素1~10ppta及びヒ素1~10pptaで存在する、請求項1~8のいずれか一項に記載の多結晶質シリコン塊。
【請求項10】
ドーパントが、バルク中に下記の濃度、すなわちリン1~10ppta、ホウ素1~5ppta及びヒ素1~5pptaで存在する、請求項9に記載の多結晶質シリコン塊。」
「【0012】
多結晶質シリコンは、るつぼ引き上げによる(チョクラルスキー又はCZ製法)、又はゾーンメルトによる(フロートゾーン(floatzone)又はFZ製法)単結晶質シリコンの製造における出発材料として使用される。」
「【0026】
先行技術では、単一処理工程の、ドーパントによるポリシリコンの表面汚染に対する影響を試験するための努力がなされている。
【0027】
しかし、ドーパントが材料の物理的特性に影響を及ぼすことが分かっていても、現在まで、ポリシリコン表面におけるドーパントを明らかに減少させることは不可能である。
【発明の概要】
【0028】
本発明の目的は、上記の問題を解決することである。
【0029】
本発明の目的は、表面におけるホウ素濃度1~50ppta及びリン濃度1~50pptaを有する多結晶質シリコン塊により達成される。
【0030】
表面におけるホウ素濃度は、好ましくは1~30ppta、より好ましくは1~20pptaである。
【0031】
表面におけるリン濃度は、好ましくは1~25ppta、より好ましくは1~20pptaである。
【0032】
表面におけるヒ素濃度は、好ましくは0.01~10ppta、より好ましくは0.01~5ppta、最も好ましくは0.01~2pptaである。
【0033】
表面におけるアルミニウム濃度は、好ましくは0.01~10ppta、より好ましくは0.01~5ppta、最も好ましくは0.01~2pptaである。」
「【0037】
ウェーハを、多結晶質シリコンロッドから又は多結晶質シリコン断片からFZにより得た単結晶質ロッドから分離し、HF/HNO3でエッチングし、18 MOHm水ですすぎ、乾燥させる。ホトルミネセンス測定は、このウェーハに対して行う。
【0038】
バルクにおけるドーパント濃度は、好ましくは
・リン1~20ppta、より好ましくは1~10ppta、
・ホウ素1~10ppta、より好ましくは1~5ppta、
・ヒ素1~10ppta、より好ましくは1~5pptaである。」
イ 甲第1号証に記載された発明
(ア)上記アにおける【請求項1】、【請求項4】、【請求項5】、【請求項9】の記載によれば、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されていると認められる。
〔甲1発明1〕
「表面におけるホウ素濃度が1~50ppta、リン濃度が1~50ppta、ヒ素濃度が0.01~10ppta及びアルミニウム濃度が0.01~10pptaであり、ドーパントが、バルク中にリン1~20ppta、ホウ素1~10ppta、ヒ素1~10pptaで存在する、多結晶質シリコン塊。」
(イ)上記アにおける【0012】の記載を踏まえると、上記(ア)における多結晶質シリコン塊は、るつぼ引き上げによる単結晶質シリコンの製造における出発材料に使用されるものといえるから、甲第1号証には、多結晶質シリコン塊をるつぼ引き上げによる出発材料として使用して、単結晶質シリコンを製造する方法が記載されているといえる。
よって、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。
〔甲1発明2〕
「表面におけるホウ素濃度が1~50ppta、リン濃度が1~50ppta、ヒ素濃度が0.01~10ppta及びアルミニウム濃度が0.01~10pptaであり、ドーパントが、バルク中にリン1~20ppta、ホウ素1~10ppta、ヒ素1~10pptaで存在する、多結晶質シリコン塊をるつぼ引き上げによる出発材料として使用して、単結晶質シリコンを製造する方法。」
(2)甲第2号証(特開2015-107916号公報)
本件特許出願の優先日前に頒布された甲第2号証には、以下の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーパント濃度が、
ホウ素1~10ppta、
リン1~20ppta、
ヒ素1~10ppta、および
アルミニウム0.01~1pptaであり、
電荷キャリア寿命が少なくとも2000最大4500μsである、多結晶シリコン。
【請求項2】
リン濃度が1~10pptaである、請求項1に記載の多結晶シリコン。
【請求項3】
ホウ素濃度が1~5pptaである、請求項1または2に記載の多結晶シリコン。
【請求項4】
ヒ素濃度が1~5pptaである、請求項1~3のいずれか一項に記載の多結晶シリコン。
【請求項5】
Fe、Cu、Ni、Cr、ZnおよびNaのバルク濃度が、合計で1400pptw未満、好ましくは35~850pptw、より好ましくは35~550pptwである、請求項1~4のいずれか一項に記載の多結晶シリコン。
【請求項6】
Feのバルク濃度が10~100pptwである、請求項1~5のいずれか一項に記載の多結晶シリコン。
【請求項7】
Cuのバルク濃度が10~250pptwである、請求項1~6のいずれか一項に記載の多結晶シリコン。
【請求項8】
Niのバルク濃度が1~20pptwである、請求項1~7のいずれか一項に記載の多結晶シリコン。
【請求項9】
Crのバルク濃度が0.1~10pptwである、請求項1~8のいずれか一項に記載の多結晶シリコン。
【請求項10】
Znのバルク濃度が1~20pptwである、請求項1~9のいずれか一項に記載の多結晶シリコン。
【請求項11】
Naのバルク濃度が10~1000pptwである、請求項1~10のいずれか一項に記載の多結晶シリコン。」
「【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の目的は、ドーパント濃度が、
ホウ素1~10ppta、
リン1~20ppta、
ヒ素1~10ppta、および
アルミニウム0.01~1pptaであり、
電荷キャリア寿命が少なくとも2000最大4500μsである、多結晶シリコンにより達成される。
【発明の効果】
【0029】
本発明の多結晶シリコンは、ドーパント濃度が著しく低く、特にアルミニウム濃度が低く、同時に電荷キャリア寿命が比較的長い。
【発明を実施するための形態】
【0030】
リン濃度は、好ましくは1~10pptaである。
【0031】
ホウ素濃度は、好ましくは1~5pptaである。
【0032】
ヒ素濃度は、好ましくは1~5pptaである。
【0033】
ドーパント濃度は、下記のようにして測定した。
【0034】
多結晶シリコンのコア試料からFZにより単結晶を成長させ、ロッド片を取り出し、HF/HNO3でエッチングし、フォトルミネセンスを行う。」
「【0066】
TCSは、最大20pptaのホウ素、最大90pptaのリン、20ppta未満のヒ素および1pptaのアルミニウムを含む。
【0067】
TCSは、好ましくは1~20pptaのホウ素を含む。
【0068】
TCSは、好ましくは1~90pptaのリンを含む。
【0069】
TCSは、好ましくは1~20pptaのヒ素を含む。
【0070】
TCSは、好ましくは0.01~1pptaのアルミニウムを含む。
【0071】
TCS中のドーパント濃度は、該TCSをシリコン成分として使用し、小型のシーメンス試験反応器中で試験堆積により間接的に測定する。堆積したポリシリコンはさらに処理し、多結晶シリコンからFZにより単結晶を成長させ、ロッド片を取り出す。HF/HNO3によるエッチング工程に続いて、フォトルミネセンスによるドーパント濃度の測定を行う。TCSが上記の条件に適合していることを確認するために、蒸留プロセスにより精製したTCSを、試験堆積による分析の際にタンクに導入することができ、タンクは、測定結果が得られた後にのみ、多結晶シリコンの堆積を認められる。」
(3)甲第3号証(内富直隆,「しくみ図解半導体が一番わかる」,初版,日本,株式会社技術評論社, 2014年6月5日,p.30-31)
本件特許出願の優先日前に頒布された甲第3号証には、以下の記載がある。
「 シリコン(4価)にリン(5価)を添加した場合のように、伝導電子が発生しやすい不純物半導体をn形半導体といいます。nはnegativeのnで、マイナスの電荷を持つ電子を生み出す不純物が添加されていることから、こう呼ばれます。
一方、シリコン(4価)にボロン(3価)を添加した場合のように、正孔が発生しやすい不純物半導体をp形半導体といいます。pはpositiveのpで、プラスの電荷を持つ正孔を生み出す不純物が添加されていることから、こう呼ばれます。
キャリア(伝導電子および正孔)の数に着目すれば、伝導電子が正孔に比べて多い半導体をn型半導体、正孔が伝導電子に比べて多い半導体をp型半導体、と定義することもできます。」(p.30の1行~11行)
「
[図:0001425808000001.jpg]
」(p.31)
「
[図:0001425808000002.jpg]
」(p.31)
(4)甲第4号証(特開2014-19600号公報)
本件特許出願の優先日前に頒布された甲第4号証には、以下の記載がある。
「【請求項1】
内壁が合成石英からなる石英ルツボ内に多結晶シリコン原料を投入し、該多結晶シリコン原料を溶融し、該融液からCZ法によりシリコン単結晶を育成する方法であって、
前記石英ルツボ内に、前記多結晶シリコン原料とともに、ドーパント元素を含むシリコン単結晶から切り出して作製したドープ原料を1g以上で、かつ、前記石英ルツボに投入される原料の総重量の10%未満で投入し、前記融液から、抵抗率500Ωcm以上で所望の導電型を有するシリコン単結晶を育成することを特徴とするシリコン単結晶育成方法。
【請求項2】
前記多結晶シリコン原料の導電型及びドーパント濃度を予め測定し、該測定結果に基づいて、前記石英ルツボに投入するドープ原料の重量及びドーパント濃度を決定することを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶育成方法。
【請求項3】
前記多結晶シリコン原料由来のドーパント量を、狙うべき、前記育成するシリコン単結晶のドーパント量の10分の1以下とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン単結晶育成方法。
【請求項4】
前記育成するシリコン単結晶の格子間酸素濃度を、6.5×1017atoms/cm3(ASTM’79)以下とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶育成方法。
【請求項5】
前記ドープ原料に含まれるドーパント元素を、P型の前記シリコン単結晶を育成する場合にはボロン又はアルミニウムを選択し、N型の前記シリコン単結晶を育成する場合にはリン、砒素、アンチモンのいずれか一つを選択することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のシリコン単結晶育成方法。」
「【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(CZ法)によって育成される、抵抗率が500Ωcm以上の高抵抗率デバイスに用いられるシリコン単結晶の育成方法に関する。」
「【図5】実験1のノンドープ結晶を育成した際のシリコンベンダーA~Cの多結晶シリコン原料の抵抗率のバラツキを表した図である。」
「【実施例】
【0054】
以下、実験、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実験1)
まず、多結晶シリコン原料中のドーパント不純物がどのレベルにあり、どの程度のバラツキを持っているのかについて、ベンダー毎の特性を把握した。各ベンダーの多結晶シリコン原料を石英ルツボに入れ、ドープ剤を投入することなく、MCZ法を用いてシリコン単結晶を育成した。
【0055】
次に、MCZ法を用いて育成されたシリコン単結晶サンプルから、ウェーハ状のサンプルを切り出し、導電型及び抵抗率を測定した。尚、抵抗率を測定する前にドナーキラー熱処理を施したが、ここでは特にその温度と時間を規定するものではなく、酸素ドナーを消去できる方法であれば良いので、650℃、20minの条件で熱処理を行った。
【0056】
その後、ドナーキラー熱処理を施したシリコン単結晶のPN判定を行った上で、その抵抗率を測定した。ここで、抵抗率は4探針法によって測定した。それらの抵抗率の分布を図5に示す。」
「【図5】
[図:0001425808000003.jpg]
」
(5)甲第5号証(特表2017-512159号公報)
本件特許出願の優先日前に頒布された甲第5号証には、以下の記載がある。
「【請求項1】
多結晶シリコンロッドの提供、多結晶シリコンチャンクへの多結晶シリコンロッドの粉砕、ならびに底部、壁および開口部を備える段ボール箱内に多結晶シリコンチャンクを導入することによる多結晶シリコンチャンクの梱包を含む多結晶シリコンを製造する方法であって、少なくとも多結晶シリコンチャンクと接触する底部および壁の内面がプラスチックで被覆された、多結晶シリコンを製造する方法。
【請求項2】
プラスチックが、100ppbw未満のホウ素、100ppbw未満のリンおよび10ppbw未満のヒ素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プラスチックが、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデンおよびポリシロキサンからなる群から選択される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
底部および壁の内面が、厚さ50μmから500μmのプラスチックで被覆されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
多結晶シリコンチャンクが、PEまたはPU製の、100ppbw未満のホウ素、100ppbw未満のリンおよび10ppbw未満のヒ素を含む手袋を装着することにより、段ボール箱内に手動で導入される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
多結晶シリコンチャンクを特定のサイズ等級に選別および分級することをさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。」
「【0002】
多結晶シリコン(ポリシリコン)は、多結晶シリコンロッド(その後、多結晶シリコンチャンクに粉砕される)を与えるシーメンス法によってトリクロロシランのようなハロシランから細いロッド上に主に堆積される。チャンクに粉砕した後、特定のサイズ等級にそれらを分級することが通例である。選別および分級した後、チャンクは特定の重量に量られ、プラスチック袋に梱包される。チャンクの選別、分級、計量および梱包のための対応する方法は、US2013309524A1号から知られている。」
「【0019】
多結晶シリコンは、好ましくは、反応ガスとしてのシリコン含有成分および水素を用いて、加熱された細いシリコンロッド上に堆積される(シーメンス法)。好ましくは、シリコン含有成分はクロロシランであり、より好ましくはトリクロロシランである。堆積は従来技術に従って行われ、例えば、WO2009/047107A2号が参照される。
【0020】
堆積後、多結晶シリコンロッドは粉砕される。好ましくは、まず、ポリシリコンロッドの予備粉砕がある。この目的のために、低摩耗材料、例えば、超硬合金製のハンマーが用いられる。予備粉砕は、好ましくは耐摩耗性プラスチックまたはシリコンからなる表面を有する作業台上で行われる。
【0021】
この後、チャンクサイズ0、1、2、3、4または5の所望の目標サイズへの予備粉砕されたポリシリコンの粉砕が続く。チャンクサイズは、シリコンチャンクの表面上の2点間の最長距離(=最大長)として以下のように定義される。
チャンクサイズ(CS)0[mm]0.1から5
チャンクサイズ1[mm]3から15
チャンクサイズ2[mm]10から40
チャンクサイズ3[mm]20から60
チャンクサイズ4[mm]45から120
チャンクサイズ5[mm]100から250
【0022】
この文脈では、それぞれの場合におけるチャンク画分の少なくとも90重量%が挙げられたサイズの範囲内である。
【0023】
粉砕は粉砕機、例えば、ジョークラッシャーによって行われる。このような粉砕機は、例えば、EP338682A2号に記載されている。
【0024】
その後、粉砕したシリコンは、場合により機械的なスクリーンにより上記チャンクサイズに分級される。その前に、それは好ましくは段ボール箱に梱包され、粉砕装置からそれを選別し、分類する装置へ搬送される。」
2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
ア 上記1(1)イ(イ)で検討したとおり、甲第1号証には、多結晶質シリコン塊をるつぼ引き上げによる出発材料として使用して、単結晶質シリコンを製造する方法が記載されているといえるから、甲1発明1の「多結晶質シリコン塊」は、単結晶質シリコン製造用多結晶シリコン原料であるといえ、その原料には複数の多結晶シリコン塊が含まれることは明らかである。
そして、上記単結晶質シリコンは、るつぼ引き上げにより製造されるものであるから、単結晶シリコンであるといえる。
そうすると、甲1発明1の「多結晶質シリコン塊」は、本件発明1の「複数の多結晶シリコン塊を含む」、「単結晶シリコン製造用多結晶シリコン原料」に相当する。
イ 多結晶シリコンにおいて、ホウ素、アルミニウムがアクセプター元素となり、リン、ヒ素がドナー元素となることは技術常識であるから、甲1発明1の「多結晶質シリコン塊」の「表面におけるホウ素」及び「アルミニウム」は、本件発明1の「前記多結晶シリコン原料の表面に存在するアクセプター元素」に相当し、甲1発明1の「多結晶質シリコン塊」の「表面における」「リン」及び「ヒ素」は、本件発明1の「前記多結晶シリコン原料の表面に存在するドナー元素」に相当し、甲1発明1の「多結晶質シリコン塊」の「バルク中の」「リン」及び「ヒ素」は、本件発明1の「前記多結晶シリコン原料のバルク内に存在するドナー元素」に相当し、甲1発明1の「多結晶質シリコン塊」の「バルク中の」「ホウ素」は、本件発明1の「前記多結晶シリコン原料のバルク内に存在するアクセプター元素」に相当する。
ウ 以上から、本件発明1と甲1発明1との一致点と相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「複数の多結晶シリコン塊を含む、単結晶シリコン製造用多結晶シリコン原料であって、
前記多結晶シリコン原料のバルク内に存在するドナー元素、前記多結晶シリコン原料のバルク内に存在するアクセプター元素、前記多結晶シリコン原料の表面に存在するドナー元素、前記多結晶シリコン原料の表面に存在するアクセプター元素を含む多結晶シリコン原料」。
<相違点>
相違点1:「多結晶シリコン原料」について、本件発明1は、「p型単結晶シリコン製造用」であるのに対し、甲1発明1は、「単結晶質シリコン」製造用である点。
相違点2:本件発明1は、「前記多結晶シリコン原料のバルク内に存在するドナー元素の合計濃度をCd1[ppta]とし、前記多結晶シリコン原料のバルク内に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa1[ppta]とし、前記多結晶シリコン原料の表面に存在するドナー元素の合計濃度をCd2[ppta]とし、前記多結晶シリコン原料の表面に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa2[ppta]としたときに、前記Cd1、Ca1、Cd2およびCa2が、5[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦26[ppta]である関係を満足する」であるのに対し、甲1発明1は、表面におけるホウ素濃度、リン濃度、ヒ素濃度、アルミニウム濃度、バルク中のリン濃度、ホウ素濃度、ヒ素濃度については特定されているものの、それぞれの合計濃度、及び合計濃度の関係式について特定されていない点。
(2)相違点についての判断
事案に鑑み相違点2から検討する。
ア 相違点2に係る本件発明1の構成について、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)には、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0021】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、ドーパントを添加することなく、導電型がp型であり、かつ狙いの高い抵抗率を精度よく示すことができる単結晶シリコンを製造するための多結晶シリコン原料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、多結晶シリコン原料において、抵抗率に影響を与える全てのアクセプターおよびドナーを考慮して、これらのバランスを所定の範囲内とすることにより、狙いの抵抗率が高くても、狙いの導電型を有し、狙いの抵抗率を精度よく示すことができる単結晶シリコンが得られることを見出した。
【0023】
上記目的を達成するため、本発明の態様は、
[1]複数の多結晶シリコン塊を含む、単結晶シリコン製造用多結晶シリコン原料であって、
多結晶シリコン原料のバルク内に存在するドナー元素の合計濃度をCd1[ppta]とし、多結晶シリコン原料のバルク内に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa1[ppta]とし、多結晶シリコン原料の表面に存在するドナー元素の合計濃度をCd2[ppta]とし、多結晶シリコン原料の表面に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa2[ppta]としたときに、
Cd1、Ca1、Cd2およびCa2が、5[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦26[ppta]である関係を満足することを特徴とする多結晶シリコン原料である。
・・・
【0039】
具体的には、多結晶シリコン原料のバルク内に存在するドナー元素の合計濃度をCd1[ppta]とし、多結晶シリコン原料のバルク内に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa1[ppta]とし、多結晶シリコン原料の表面に存在するドナー元素の合計濃度をCd2[ppta]とし、多結晶シリコン原料の表面に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa2[ppta]とした場合に、Cd1、Ca1、Cd2およびCa2は以下の関係を満足する。
5[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦26[ppta]
・・・
【0042】
上記の関係における上限値である26[ppta]は、抵抗率がほぼ10000[Ωcm]を示す単結晶シリコン内の理論上のアクセプター元素濃度に相当する。すなわち、上記の関係において、多結晶シリコン原料における実効アクセプター元素濃度の上限を26[ppta]とすることにより、導電型がp型であり、抵抗率が10000[Ωcm]近傍である単結晶シリコンを得ることができる。
【0043】
一方、上記の関係における下限値である5[ppta]は、抵抗率がほぼ50000[Ωcm]を示す単結晶シリコン内の理論上のアクセプター元素濃度に相当する。抵抗率が50000[Ωcm]を超える単結晶シリコンは、真性半導体に近いレベルのドーパント濃度を示すので、アクセプター元素濃度またはドナー元素濃度のごく僅かな変化により、アクセプター元素濃度とドナー元素濃度との大小関係が逆転してしまい、所望の導電型とは逆の導電型、すなわち、n型の単結晶シリコンが得られる場合がある。」
イ 上記アの【0021】の記載によれば、本件発明1が解決しようとする課題は、「ドーパントを添加することなく、導電型がp型であり、かつ狙いの高い抵抗率を精度よく示すことができる単結晶シリコンを製造するための多結晶シリコン原料を提供すること」である。
そして、上記アの【0023】、【0039】、【0042】、【0043】の記載によれば、「複数の多結晶シリコン塊を含む、単結晶シリコン製造用多結晶シリコン原料」は、「多結晶シリコン原料のバルク内に存在するドナー元素の合計濃度をCd1[ppta]とし、多結晶シリコン原料のバルク内に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa1[ppta]とし、多結晶シリコン原料の表面に存在するドナー元素の合計濃度をCd2[ppta]とし、多結晶シリコン原料の表面に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa2[ppta]としたときに、
Cd1、Ca1、Cd2およびCa2が、5[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦26[ppta]である関係を満足する」ものであり、「上記の関係において、多結晶シリコン原料における実効アクセプター元素濃度の上限を26[ppta]とすることにより、導電型がp型であり、抵抗率が10000[Ωcm]近傍である単結晶シリコンを得ることができる」ものであり、「一方、上記の関係における下限値である5[ppta]は、抵抗率がほぼ50000[Ωcm]を示す単結晶シリコン内の理論上のアクセプター元素濃度に相当する」ものである(当審注:上記の関係を、以下「5[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦26[ppta]である関係」という。)」。
そうすると、本件発明1は、「ドーパントを添加することなく、導電型がp型であり、かつ狙いの高い抵抗率を精度よく示すことができる単結晶シリコンを製造するための多結晶シリコン原料を提供すること」との課題を解決するために、「複数の多結晶シリコン塊を含む、p型単結晶シリコン製造用多結晶シリコン原料」において、「5[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦26[ppta]である関係」を満足するという構成を備えるものであるといえる。
ウ 甲第1号証~甲第5号証には、上記第4の1(1)~(5)で摘記した内容が記載されているが、いずれも「ドーパントを添加することなく、導電型がp型であり、かつ狙いの高い抵抗率を精度よく示すことができる単結晶シリコンを製造するための多結晶シリコン原料を提供すること」との課題を解決するために、「複数の多結晶シリコン塊を含む、p型単結晶シリコン製造用多結晶シリコン原料」において、「5[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦26[ppta]である関係」を満足するという構成を備えるという本件発明1の技術思想は記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明1において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1及び甲第2号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)申立人の主張について
ア 申立人は、相違点2について、特許異議申立書9ページ9行~25行、19ページ16行~20ページ7行において、以下の主張をしている。
(ア)「 甲第1号証に記載の多結晶シリコン原料のバルク内に存在するリン及びヒ素濃度が1~10pptaであり、ヒ素は1~5pptaである(【0038】)。そして、リン及びヒ素はドナー元素であるから、 2≦Cd1≦15となる。
甲第1号証に記載の多結晶シリコン原料のバルク内に存在するホウ素濃度は1~5pptaである(【0038】)。そして、ホウ素はアクセプター元素であるから、1≦Ca1≦5となる。
甲第1号証に記載の多結晶シリコン原料の表面に存在するリン及びヒ素濃度はリンが1~20pptaであり、ヒ素は0.01~5pptaである(【0031】、【0032】)。リン及びヒ素はドナー元素であるから、 1.01≦Cd2≦22となる。
甲第1号証に記載の多結晶シリコン原料の表面に存在するホウ素及びアルミニウム濃度はホウ素が1~20pptaであり、アルミニウムが0.01~2pptaである(【0030】、【0033】)。ホウ素及びアルミニウムはアクセプター元素であるから、1.01≦Ca2≦22となる。
以上の記載事項から(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)計算すると以下のようになる。
-34.99[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦23.99[ppta]」
(イ)「[相違点2について]
本件特許発明1は、5[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦26[ppta]であるが、これはアクセプター元素がドナー元素よりも多いことを示しており、これはp型不純物が多いということである。
一方、甲1発明では-34.99[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦23.99[ppta]であり、n型の場合とp型の場合の両方を含んでいるものである。
そして、本件特許発明1はp型単結晶シリコン製造するためのものであるから、アクセプター元素がドナー元素よりも多いことが必要であり、(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)が0を超えるものでなければならない。
そうすると、甲1発明においてp型単結晶シリコン製造する場合は、
0[ppta]<(Cd1+Cd2)-(Ca1+Ca2)≦23.99[ppta]ということになるから、Cd1、Ca1、Cd2およびCa2の関係に関し、5[ppta]≦(Cd1+Cd2)-(Ca1+Ca2)≦26[ppta]であることは実質的に甲1発明の数値範囲内に含まれるものであるから、同一の構成である。
また、下限を5とすることはp型とするためにはドナー元素量をある程度大きくする必要があるし、上限を26とすることも必要とされる抵抗量に応じて当業者が適宜定め得るものである。しかも、抵抗率が10000Ωcmから50000Ωcmである単結晶シリコン原料は甲第4号証の図5に記載されているように通常の抵抗率であるからその抵抗率に相当するようにドーパント元素量を調整することは当業者が容易になし得るものである。
なお、甲第1号証にはバルク内のアルミニウム濃度が記載されてはいないが、甲1発明中のアルミニウムは無視できるほど小さいものであると言えるし、仮に含有されているとしても甲第2号証(甲第1号証と同一出願人)の請求項1にはドーパント濃度が「アルミニウム0.01~1ppta」と記載されているように少量であるから上記の議論の結論に影響を与えるものではない。
よって、本件特許発明1は甲第1号証から第4号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」
イ 検討
上記ア(イ)の「甲1発明においてp型単結晶シリコン製造する場合は、0[ppta]<(Cd1+Cd2)-(Ca1+Ca2)≦23.99[ppta]ということになるから、Cd1、Ca1、Cd2およびCa2の関係に関し、5[ppta]≦(Cd1+Cd2)-(Ca1+Ca2)≦26[ppta]であることは実質的に甲1発明の数値範囲内に含まれるものであるから、同一の構成である。」との主張における「(Cd1+Cd2)-(Ca1+Ca2)」との記載は、その直前の記載からみて、「(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)」の誤記といえるので、上記主張は、「(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)」についてのものとして、以下検討する。
甲1発明1は、「表面におけるホウ素濃度が1~50ppta、リン濃度が1~50ppta、ヒ素濃度が0.01~10ppta及びアルミニウム濃度が0.01~10pptaであり、ドーパントが、バルク中にリン1~20ppta、ホウ素1~10ppta、ヒ素1~10pptaで存在する」から、多結晶質シリコン塊の表面のドナーであるリン及びヒ素の合計の濃度Cd2[ppta]、表面のアクセプターであるホウ素及びアルミニウムの合計の濃度Ca2[ppta]、バルク中のドナーであるリン及びヒ素の合計の濃度Cd1[ppta]、バルク中のアクセプターであるホウ素及びアルミニウムの合計の濃度Cd2[ppta]は、それぞれ、1.01≦Cd2≦22、1.01≦Ca2≦22、2≦Cd1≦15、1≦Ca1≦5と一応算出でき、さらに、(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)は、-34.99[ppta]以上、23.99[ppta]以下と一応算出できる。
一方、本件発明1においては、「5[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦26[ppta]」であるから、(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)は、5以上、26以下である。
そうすると、(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)について、甲1発明1の数値範囲は、本件発明1の数値範囲より広いため、両者が同一の構成であるといえない。
また、甲第1号証には、多結晶質シリコン塊の表面におけるホウ素濃度、リン濃度、ヒ素濃度、アルミニウム濃度、バルク中のリン濃度、ホウ素濃度、ヒ素濃度のそれぞれの数値範囲は記載されているものの、表面及びバルク中におけるドナー濃度及びアクセプター濃度の関係を所定の値の範囲にすることについては、何ら記載も示唆もされていない。
そして、上記(2)ウの検討のとおり、甲第1号証~第4号証には、いずれも「ドーパントを添加することなく、導電型がp型であり、かつ狙いの高い抵抗率を精度よく示すことができる単結晶シリコンを製造するための多結晶シリコン原料を提供すること」との課題を解決するために、「複数の多結晶シリコン塊を含む、p型単結晶シリコン製造用多結晶シリコン原料」において、「5[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦26[ppta]である関係」を満足するという構成を備えるという本件発明1の技術思想は記載も示唆もされていない。
したがって、相違点2に係る本件発明1の構成は、甲1発明1及び甲第2号証~甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、申立人の上記アの主張は採用できない。
(4)小括
以上から、本件発明1は、甲1発明1及び甲第2号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 本件発明2~4について
本件発明2~4は、いずれも本件発明1の全ての構成を有するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明1及び甲第2号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
4 本件発明5について
(1)対比
本件発明5と甲1発明2とを対比する。
ア 甲1発明2は、「多結晶質シリコン塊をるつぼ引き上げによる出発材料として使用して、単結晶質シリコンを製造する方法」であるから、甲1発明2の「多結晶質シリコン塊」は、単結晶質シリコン製造用多結晶シリコン原料であるといえ、その原料には複数の多結晶シリコン塊が含まれることは明らかであり、るつぼ引き上げ法により、多結晶シリコン塊が溶融していることは技術常識である。
そうすると、甲1発明2の、「単結晶質シリコン」は、本件発明5の「単結晶シリコン」に相当し、甲1発明2の「多結晶質シリコン塊をるつぼ引き上げによる出発材料として使用して、単結晶質シリコンを製造する方法」は、本件発明5の「複数の多結晶シリコン塊を含む多結晶シリコン原料を溶融して、」「単結晶シリコンを製造する方法」に相当する。
イ 多結晶シリコンにおいて、ホウ素、アルミニウムがアクセプター元素となり、リン、ヒ素がドナー元素となることは技術常識であるから、甲1発明2の「多結晶質シリコン塊」の「表面におけるホウ素」及び「アルミニウム」は、本件発明5の「多結晶シリコン原料の表面に存在するアクセプター元素」に相当し、甲1発明2の「多結晶質シリコン塊」の「表面における」「リン」及び「ヒ素」は、本件発明5の「多結晶シリコン原料の表面に存在するドナー元素」に相当し、甲1発明2の「多結晶質シリコン塊」の「バルク中の」「リン」及び「ヒ素」は、本件発明5の「多結晶シリコン原料のバルク内に存在するドナー元素」に相当し、甲1発明2の「多結晶質シリコン塊」の「バルク中の」「ホウ素」は、本件発明5の「多結晶シリコン原料のバルク内に存在するアクセプター元素」に相当する。
ウ 以上から、本件発明5と甲1発明2との一致点と相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「複数の多結晶シリコン塊を含む多結晶シリコン原料を溶融して、単結晶シリコンを製造する方法であって、
前記多結晶シリコン原料のバルク内に存在するドナー元素、前記多結晶シリコン原料のバルク内に存在するアクセプター元素、前記多結晶シリコン原料の表面に存在するドナー元素、前記多結晶シリコン原料の表面に存在するアクセプター元素を含む多結晶シリコン原料を用いる単結晶シリコンの製造方法。」
<相違点>
相違点3:本件発明5は、「p型単結晶シリコンを製造する方法」であるのに対し、甲1発明2は、「単結晶シリコンを製造する方法」である点。
相違点4:本件発明5は、「前記多結晶シリコン原料溶融時にドーパントを添加せずに、抵抗率が10000Ωcm以上であるp型単結晶シリコンを製造する工程を有し」ているのに対し、甲1発明2は、それを特定していない点。
相違点5:本件発明5は、「前記多結晶シリコン原料として、多結晶シリコン原料のバルク内に存在するドナー元素の合計濃度をCd1[ppta]とし、多結晶シリコン原料のバルク内に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa1[ppta]とし、多結晶シリコン原料の表面に存在するドナー元素の合計濃度をCd2[ppta]とし、多結晶シリコン原料の表面に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa2[ppta]としたときに、前記Cd1、Ca1、Cd2およびCa2が、5[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦26[ppta]である関係を満足する」のに対し、甲1発明2は、表面におけるホウ素濃度、リン濃度、ヒ素濃度、アルミニウム濃度、バルク中のリン濃度、ホウ素濃度、ヒ素濃度については特定されているものの、それぞれの合計濃度、及び合計濃度の関係式について特定されていない点。
(2)相違点についての判断
事案に鑑み相違点5から検討する。
相違点5に係る本件発明5の構成と相違点2に係る本件発明1の構成とは同じ内容であるから、上記2(2)で検討したのと同様の理由により、甲1発明2において、相違点5に係る本件発明5の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、相違点3、4について検討するまでもなく、本件発明5は、甲1発明2及び甲第2号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書22ページ1行~12行において、以下の主張をしている。
「請求項5に記載された発明で製造するp型単結晶シリコンは請求項1に記載された発明と同一であるから、請求項5に記載された発明のうち製造方法に係る部分について検討する」と、「本件特許発明5は、甲第1から4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」
イ 検討
申立人が主張する「請求項5に記載された発明で製造するp型単結晶シリコンは請求項1に記載された発明と同一である」は、「請求項5に記載された発明の多結晶シリコン原料は請求項1に記載された発明と同一である」の誤記であるといえるところ、上記2で検討したとおり、本件発明1は、甲1発明1及び甲第2号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、上記(2)で検討したとおり、相違点5に係る本件発明5の構成と、相違点2に係る本件発明1の構成とは同じ内容であるから、上記2(2)で検討したのと同様の理由により甲1発明2において、相違点5に係る本件発明5に係る構成とすることは、容易に想到し得たものとはいえず、本件発明5は、甲1発明2及び甲第2号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、申立人の上記アの主張は採用できない。
(4)小括
以上から、本件発明5は、甲1発明2及び甲第2号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5 本件発明6について
本件発明6は、本件発明5の全ての構成を有するものであるから、本件発明5と同様の理由により、甲1発明2及び甲第2号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
6 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
したがって、申立理由1は、理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700411