特許異議申立
2024-700248
圧力リング用異形線材
- 審判番号
- 2024-700248
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-532401
- 登録番号
- 7347423
- 請求日
- 2024年03月18日
- 審決日
- 2025年02月26日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社プロテリアル
- 【権利者代理人】宮園 博一
- 【権利者代理人】今岡 大明
- 【異議申立人】藤井 秀朗
- 審判長/審判官
- 審判長 山本 信平
- 審判官 北村 亮
- 審判官 八木 誠
- 分類
- P1652.121-YAA(F02F) / P1652.536-YAA(F02F) / P1652.537-YAA(F02F) / P1652.851-YAA(F02F) / P1652.853-YAA(F02F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7347423号発明「圧力リング用異形線材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7347423号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7347423号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7347423号の請求項1~5に係る特許についての出願は、2019年(令和1年)7月23日(優先権主張 2018年7月27日)を国際出願日とするものであって、令和5年9月11日に特許権が設定登録され、同年9月20日に特許掲載公報が発行された。
そして、請求項1~3に係る特許についての特許異議申立人藤井秀朗(以下「申立人」という。)による本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和6年 3月18日 特許異議の申立て
同年 5月29日付け 取消理由通知
同年 7月22日 特許権者より意見書・訂正請求書
なお、申立人からは意見書の提出はされなかった
第2 本件訂正
1 訂正の内容
令和6年7月22日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)~(3)のとおりである(なお、下線は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「横断面が中心から非対称形状の異形断面を有し、長手方向の1mの範囲で評価した、幅寸法の変動が5μm以下であり、且つ厚さ寸法の変動が5μm以下である圧力リング用異形線材」と記載されているのを、「横断面が中心から非対称形状の異形断面を有し、長手方向の1mの範囲で評価した、幅寸法の変動が5μm以下であり、且つ厚さ寸法の変動が5μm以下であり、長手方向の各面の光沢度が150以上である圧力リング用異形線材」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3、5も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の請求項5に「請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の圧力リング用異形線材」と記載されているのを、「請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の圧力リング用異形線材」に訂正する。
(4)一群の請求項
訂正前の請求項1~5は、請求項2~5が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1~5について請求されたものである。
2 本件訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前の請求項1に、「長手方向の各面の光沢度が150以上である」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
イ 新規事項の有無
訂正事項1は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の請求項4の記載に基づくのは明らかであるから、新規事項を追加するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項4を削除するのに伴って、訂正前の請求項5において、引用する請求項から請求項3を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
また、訂正後の請求項5に係る発明について、新たな取消理由を生じるものでもないことは明らかであるから、訂正事項3により訂正後の請求項5に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであると認められる。
3 小括
以上によれば、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項及び第7項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたから、本件訂正後の請求項1~3、5に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3、5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
横断面が中心から非対称形状の異形断面を有し、長手方向の1mの範囲で評価した、幅寸法の変動が5μm以下であり、且つ厚さ寸法の変動が5μm以下であり、長手方向の各面の光沢度が150以上である圧力リング用異形線材。
【請求項2】
長手方向の1mの範囲で評価した、幅方向の横曲がり量が10mm以下である請求項1に記載の圧力リング用異形線材。
【請求項3】
長手方向の20mmの範囲で評価した、幅方向の横曲がり量が1.0μm以下である請求項1または請求項2に記載の圧力リング用異形線材。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
マルテンサイト系ステンレス鋼からなる請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の圧力リング用異形線材。」
第4 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~3に係る特許に対して、当審において通知した、令和6年5月29日付けの取消理由の要旨は、次のとおりである。
[取消理由](進歩性)
本件特許の下記請求項に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、下記の頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、この出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、下記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
以下、申立人が提出した「甲第○号証」は、「甲○」という。
記
甲1:特開2012-101242号公報
甲3:特殊鋼、社団法人特殊鋼倶楽部、平成22年3月1日、第69巻、第2号、8ページ
甲4:特開平8-135498号公報
甲5:特開2010-201492号公報
・請求項 1
・引用文献 甲1、3、4
・請求項 2、3
・引用文献 甲1、3~5
第5 引用文献の記載事項等
1 甲1について
(1)記載事項
甲1には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審が付与。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエンジン用ピストンリング等に用いられる異形断面の線材の成形等に適した異形線材の成形装置に関するものである。」
「【0006】
本発明の目的は、素材表面の汚れ等による異物付着の問題を解決し、成形性や表面清浄に優れた高い寸法精度の異形線材を得ることができる成形装置を提供することである。」
「【実施例】
【0022】
図1に示すように、巻出機1の後段にアキュームダンサーロール7、洗浄装置2、その後段には非駆動の4方ロールスタンド3と動力駆動の4方ロールスタンド4をタンデムに配置した成形ユニットをタンデムに2ユニット配列し、その後段には非駆動の4方ロールスタンドからなる仕上げユニット5、ダブルキャプスタン9、巻取機6を配置した異形線材の成形装置を用いて圧延を行なった。素材には、直径が5.0mmの0.8%C-17%Cr鋼(質量%)を用い、図2に示す、厚さが3.07mm、幅が4.07mmの異形線材を成形した。このとき、洗浄装置2の通過速度は30m/minとした。」
「【図2】
[図:0001423476000001.jpg]
」
(2)甲1発明
上記(1)(特に【0001】)によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「エンジン用ピストンリングに用いられる異形断面の線材。」
2 甲3について
甲3には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「
[図:0001423476000002.jpg]
」
(8ページ左欄1~7行)
3 甲4について
甲4には、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 オイルリング成形体の1リング相当の長さ内での幅寸法の変動が8μm以内であることを特徴とする内燃機関のオイルリングのサイドレール用平鋼線材。」
「【0008】そこで、本願の製造方法は、実質的な最終段加工を、縁面側および表裏面側のいずれも開放しない状態で加工するか、表裏面側から支持または加圧して座屈や中厚等の発生を防止した状態で縁面側から圧下して加工するか、さらには縁面側からの圧下で座屈や中厚がほとんど発生しない圧下条件が存在することが判明したことから、その条件で縁面側から加圧して加工することにより、幅寸法変動を従来の製品のそれより大幅に低下させ得ることを具体的に見出したことによるものである。したがって、本発明においては、ロールにより縁面を圧下する場合、幅寸法の変動をほぼそのロールに起因するもののみに限定して、極小化することができる。そして、この変動は従来の変動値が約10μm以上であったのに対し、これより十分低い8μm以下、あるいは6μm以下、さらには4μm以下とすることもできる。この方法発明によって、初めて幅寸法の変動が8μm以下と、幅寸法変動の小さいサイドレール用平線材の製造が可能となり、これによりサイドレール加工時の外周面加工の簡易化が可能となった。」
「【0020】
【表1】
[図:0001423476000003.jpg]
【0021】表1より従来方法に相当するNは、上下面の平坦度は、ほぼ0μmと良好であるが、幅寸法変動が13μmと大きく、これに対し実質的な最終塑性加工法をタークスロールまたはエッジャーロールとしたもの(A~M)は、幅寸法変動が8μm以下であり、かつ平坦度も4μm以下と良好であることがわかる。しかし、表裏面方向から拘束しないで縁面方向からL/tが1.8を越えて強圧下したO,Pは、座屈の発生により上下面の平坦度が6μm、7μmと大きくなり、規準を満足せず、かつ幅寸法変動も7μmと比較的大きくなることがわかる。なお、L/tを1.8以下としたものでもL/tが比較的大きいものは、幅寸法変動も大きくなること、したがって総圧下量が大きい場合には、エッジャーロール段数を増加して一段当りの圧下量を減少すると幅寸法変動も小さくなることがわかる。化学成分No.3以外の他の材質についての結果もこれとほぼ同様であった。」
4 甲5について
甲5には、以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン用ピストンリング等に用いられる異形断面の線材の成形等に適する異形線材の成形装置に関するものである。」
「【0024】
成形実験の結果を表1に示す。表1に示すように、図1の異形線材の成形装置でローラーレベラー(上下方向)2、7とローラーレベラー(横方向)3、8を全く使用しないで異形線材を成形すると、横曲がり量は、1m当たり47mmであった。
一方、本発明の異形線材の成形装置のローラーレベラー(上下方向)7を使用して成形した異形線材の横曲がり量は、いずれも1m当たり10mm以下に矯正されており、本発明の有効性が確認できた。
【0025】
【表1】
[図:0001423476000004.jpg]
」
第6 取消理由についての判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、後者の「異形断面」は、その構造や機能からみて、前者の「横断面が中心から非対称形状の異形断面」に相当する。
後者の「異形断面の線材」は、前者の「横断面が中心から非対称形状の異形断面を有」する「異形線材」に相当する。
例えば、甲3(上記「第2 2」参照。)に示されるように、圧力リングはピストリングの一種であることを勘案すると、後者の「エンジン用ピストンリングに用いられる」ことは、前者の「圧力リング用」と、「ピストンリング用」という点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「横断面が中心から非対称形状の異形断面を有するピストンリング用異形線材。」
<相違点1>
本件発明1では、「長手方向の1mの範囲で評価した、幅寸法の変動が5μm以下であり、且つ厚さ寸法の変動が5μm以下である」のに対し、甲1発明では、そのような特定はない点。
<相違点2>
異形線材について、本件発明1では、「圧力リング用」であるのに対し、甲1発明では、エンジン用ピストンリングに用いられる点。
<相違点3>
本件発明1では、「長手方向の各面の光沢度が150以上である」のに対し、甲1発明では、そのような特定はない点。
(2)相違点についての判断
事案に鑑み、まず相違点3について検討する。
甲1だけでなく、申立人が提出した甲2~9(甲2、甲6~9は以下のとおり。)のいずれにも、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項について、記載も示唆も見いだせない。
よって、甲1発明において、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
甲2:特開2011-179573号公報
甲6:特開昭59-101203号公報
甲7:山本安儀、「引抜き加工における潤滑剤の動向」、塑性と加工、2011年、52巻、602号、p.351-354
甲8:中村寛、「引抜加工における摩擦と潤滑」、日本機械学会誌、1966年2月5日、69巻、565号、p.150-158
甲9:木原諄二、「金属塑性加工における摩擦と潤滑」、日本金属学会会報、1974年8月20日、13巻、p.605-612
(3)小括
以上によれば、本件発明1は、相違点1、2を検討するまでもなく、甲1発明及び甲2~9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
2 本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項を全てを含み、更なる限定を付加するものであるから、上記1(2)、(3)で説示したのと同様の理由により、甲1発明及び甲2~9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の内容
申立人は、特許異議申立書において、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正前発明1」~「本件訂正前発明3」という。)について、以下の(1)、(2)を主張する。
(1)特許異議申立理由1(サポート要件)
本件訂正前発明1~3は、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
(2)特許異議申立理由2(実施可能要件)
本件訂正前発明3について、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
2 特許異議申立理由についての判断
(1)特許異議申立理由1(サポート要件)について
ア 申立人の主張
申立人は、特許異議申立書(6~10ページ)において、以下の(ア)~(ウ)のとおり、本件訂正前発明1-3は、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない旨主張する。
(ア)本件明細書等に記載された、「長手方向の1mの範囲で評価した、幅寸法の変動が2μm、且つ厚さ寸法の変動も2μm」である本発明例1及び2から、本件訂正前発明1の「長手方向の1mの範囲で評価した、幅寸法の変動が5μm以下であり、且つ厚さ寸法の変動が5μm以下であ」るとの構成まで拡張ないし一般化はできないものであり、本件訂正前発明1は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(イ)本件明細書等に記載された、「長手方向の1mの範囲で評価した、幅方向の横曲がり量が6mmである」本発明例1と「長手方向の1mの範囲で評価した、幅方向の横曲がり量が5mmである」本発明例2から、本件訂正前発明2の「長手方向の1mの範囲で評価した、幅方向の横曲がり量が10mm以下である」との事項まで拡張ないし一般化はできないものであり、本件訂正前発明2は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(ウ)本件明細書等に記載された本発明例1、2の長手方向1mあたりの幅方向の横曲がり量は、それぞれ6mm、5mmであり、これらを20mmあたりの幅方向の横曲がり量に換算すると、それぞれ120μm、100μmとなるのに対し、本件明細書等に記載された本発明例1、2の長手方向20mmあたりの幅方向の横曲がり量は、それぞれ1.0μm、0.9μmであり、これらは整合しておらず、不適切であるから、「長手方向の20mmの範囲で評価した、幅方向の横曲がり量が1.0μm以下である」との構成を有する本件訂正前発明3は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
イ 申立人の主張の検討
(ア)本件発明の課題は、圧力リングのシール性向上に有用な異形線材を提供すること(本件明細書等の【0008】)であると認められるところ、本件明細書等の【0034】~【0037】には、長手方向の1mの範囲で評価した、幅寸法の変動が「2μm」、且つ厚さ寸法の変動も「2μm」である本発明例1及び2が、長手方向の1mの範囲で評価した、幅寸法の変動が「8μm」、且つ厚さ寸法の変動も「8μm」である従来例よりも、圧力リングのシール性向上に有用な異形線材であることが記載されていることから、本発明例1及び2と、従来例との中間値である、長手方向の1mの範囲で評価した、幅寸法の変動が「5μm」、且つ厚さ寸法の変動も「5μm」である異形線材が、従来例よりも圧力リングのシール性向上に有用であることは、当業者であれば、認識できると解するのが相当である。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されているものである。
以上より、申立人の上記ア(ア)の主張は当を得たものとはいえず、採用することはできない。
(イ)本件明細書等の【0034】~【0037】には、長手方向の1mの範囲で評価した、幅方向の横曲がり量が、それぞれ「6mm」、「5mm」である本発明例1、2が、長手方向の1mの範囲で評価した、幅方向の横曲がり量が「14mm」である従来例よりも、圧力リングのシール性向上に有用な異形線材であることが記載されていることから、本発明例1及び2と、従来例とのほぼ中間値である、長手方向の1mの範囲で評価した、幅方向の横曲がり量が「10mm」である異形線材が、従来例よりも圧力リングのシール性向上に有用であることは、当業者であれば、認識できると解するのが相当である。
したがって、本件発明2も、発明の詳細な説明に記載されているものである。
以上より、申立人の上記ア(イ)の主張も当を得たものとはいえず、採用することはできない。
(ウ)本件発明3である異形線材は長尺物であり、長さが短い部分での曲がり量と、長さが長い部分での曲がり量では、その長さに比例せず、長さが長い部分での曲がり量を長さが短い部分での曲がり量に換算したものが、長さが短い部分での曲がり量よりも大きくなることがあり得ることは、当業者であれば理解できると認められるから、本件発明2の「長手方向の1mの範囲で評価した、幅方向の横曲がり量が10mm以下である」との構成についての本件明細書等の記載は不適切であるとの、申立人の上記ア(ウ)の主張は、当を得たものとはいえず、採用することはできない。
そして、本件発明3の「長手方向の20mmの範囲で評価した、幅方向の横曲がり量が1.0μm以下である」との構成について、本件明細書等では、本発明例1、2として例示されていること等を勘案すると、本件発明3も、発明の詳細な説明に記載されているものである。
ウ 小括
以上によれば、特許異議申立理由1は成り立たない。
(2)特許異議申立理由2(実施可能要件)について
申立人は、特許異議申立書(10~11ページ)において、本件訂正前発明3の「長手方向の20mmの範囲で評価した、幅方向の横曲がり量」がどのように測定されるのか、本件明細書等には全く記載されていないから、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、本件訂正前の請求項3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反する旨主張する。
しかしながら、本件明細書等の【0034】には、「また、図3に示す模式図において、直定規11を基準として、得られた各異形線材6を巻出した際の長手方向の1mあたり、および20mmあたりで生じた幅方向の横曲がり量を測定した。・・・」と記載されており、図3も参照すれば、当業者であれば、本件発明3の「長手方向の20mmの範囲で評価した、幅方向の横曲がり量」がどのように測定されるのかは明らかであるから、申立人の上記主張は、前提において根拠を欠くものであり、採用することはできない。
したがって、特許異議申立理由2も成り立たない。
第8 むすび
以上のとおり、請求項1~3に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由並びに特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及びその証拠によって取り消すことはできない。
そして、他に請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700248