特許拒絶査定不服審判
2024-000789
ロータリ圧縮機
- 審判番号
- 2024-000789
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-097701
- 請求日
- 2024年01月17日
- 審決日
- 2025年07月18日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
- 【請求人代理人】松沼 泰史
- 【請求人代理人】伊藤 英輔
- 【請求人代理人】橋本 宏之
- 【請求人代理人】古都 智
- 【請求人代理人】鎌田 康一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 窪田 治彦
- 審判官 関口 哲生
- 審判官 北村 英隆
- 分類
- P18 .113-WZ (F04C) / P18 .121-WZ (F04C) / P18 .55 -WZ (F04C) / P18 .537-WZ (F04C) / P18 .56 -WZ (F04C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項特許法29条1項3号特許法29条2項特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第5項第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-97701「ロータリ圧縮機」拒絶査定不服審判事件〔令和2年12月3日出願公開、特開2020-193567〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、令和元年5月24日の出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである
令和4年11月11日付け 拒絶理由通知書
令和5年 1月16日 意見書、手続補正書の提出
令和5年 4月28日付け 拒絶理由通知書(最後の拒絶理由通知)
令和5年 7月 7日 意見書、手続補正書の提出
令和5年10月 6日付け 補正の却下の決定(令和5年7月7日提出の手続補正書でした手続補正の却下)
令和5年10月 6日付け 拒絶査定
令和6年 1月17日 審判請求書、手続補正書の提出
令和7年 2月10日付け 拒絶理由通知書(最後の拒絶理由通知)
令和7年 4月14日 意見書、手続補正書の提出
第2 令和7年4月14日にされた手続補正についての補正却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和7年4月14日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は補正箇所である。)
「【請求項1】
軸線回りに回転可能なクランクシャフトと、
該クランクシャフトの回転に伴って冷媒を圧縮する圧縮室が形成された圧縮部と、
を備え、
前記圧縮部は、
前記クランクシャフトに設けられ、前記軸線から偏心した位置で該軸線回りに旋回するピストンロータと、
該ピストンロータを外周側から覆う円環状のシリンダと、
該シリンダをそれぞれ前記軸線方向から覆うことで、前記シリンダとともに前記圧縮室を形成する上部軸受、及び下部軸受と、
前記圧縮室内に配置され、前記軸線に対する径方向に延びるとともに、先端が前記ピストンロータの外周面に当接した状態で径方向に移動可能とされ、前記圧縮室を低圧空間と高圧空間とに分離するブレードと、
を有し、
前記ブレードにおける前記上部軸受を臨む面であるブレード上面に、前記軸線方向に凹むとともに、前記径方向を長手方向として前記ブレードの延在方向の全域にかけて延びる1つのみのブレード凹溝が形成され、
前記ブレード凹溝における前記径方向の両端を閉塞する閉塞部をさらに有することで、前記ブレード凹溝は外部から隔離された空間を形成し、
前記ブレード凹溝に充填された潤滑油によって前記上部軸受と前記ブレードとの間がシールされており、
前記ピストンロータにおける前記上部軸受を臨む面であるロータ上面に、前記軸線方向に凹むとともに、前記ピストンロータの形状に沿って延びるロータ凹溝が形成されており、
前記ロータ凹溝は、前記ピストンロータの中心軸を中心とする環状をなしているとともに、前記ピストンロータの外周面と内周面とのうち、内周面側に偏って配置されているロータリ圧縮機。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和6年1月17日提出の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1~3の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
軸線回りに回転可能なクランクシャフトと、
該クランクシャフトの回転に伴って冷媒を圧縮する圧縮室が形成された圧縮部と、
を備え、
前記圧縮部は、
前記クランクシャフトに設けられ、前記軸線から偏心した位置で該軸線回りに旋回するピストンロータと、
該ピストンロータを外周側から覆う円環状のシリンダと、
該シリンダをそれぞれ前記軸線方向から覆うことで、前記シリンダとともに前記圧縮室を形成する上部軸受、及び下部軸受と、
前記圧縮室内に配置され、前記軸線に対する径方向に延びるとともに、先端が前記ピストンロータの外周面に当接した状態で径方向に移動可能とされ、前記圧縮室を低圧空間と高圧空間とに分離するブレードと、
を有し、
前記ブレードにおける前記上部軸受を臨む面であるブレード上面に、前記軸線方向に凹むとともに、前記径方向を長手方向として前記ブレードの延在方向の全域にかけて延びる1つのみのブレード凹溝が形成され、
前記ブレード凹溝における前記径方向の両端を閉塞する閉塞部をさらに有することで、前記ブレード凹溝は外部から隔離された空間を形成し、
前記ブレード凹溝に充填された潤滑油によって前記上部軸受と前記ブレードとの間がシールされることで、前記ブレード凹溝内の潤滑油が保持されている
ロータリ圧縮機。
【請求項2】
前記ピストンロータにおける前記上部軸受を臨む面であるロータ上面に、前記軸線方向に凹むとともに、前記ピストンロータの形状に沿って延びるロータ凹溝が形成されている請求項1に記載のロータリ圧縮機。
【請求項3】
前記ロータ凹溝は、前記ピストンロータの中心軸を中心とする環状をなしている請求項2に記載のロータリ圧縮機。」
(3)補正事項
上記(1)及び(2)によれば、本件補正は、
ア 本件補正前の請求項3で引用される請求項2で更に引用される請求項1の「前記ブレード凹溝内の潤滑油が保持されている」という事項を削除する補正(以下、「補正事項1」という。)、
イ 本件補正前の請求項3に記載された発明を特定するための必要な事項である「ロータ凹溝」について、本件出願の願書に最初に添付した図2等の記載に基づき「前記ピストンロータの外周面と内周面とのうち、内周面側に偏って配置されている」との事項を追加する補正(以下、「補正事項2」という。)、
を含むものである。
2 補正の適否
(1)補正事項1について
ア 補正事項1は、本件補正前の請求項1に記載の「前記ブレード凹溝に充填された潤滑油によって」との事項との関係において不明りょうであった「前記ブレード凹溝内の潤滑油が保持されている」という事項を削除し、明りょうとしたものであるから、補正事項1は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ また、補正事項1は、上記アのとおり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、不明りょうであった事項を削除したものであり、新規事項を追加するものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
(2)補正事項2について
ア 補正事項2は、本件補正前の請求項3に記載された発明を特定するために必要な事項である「ロータ凹溝」について、「前記ピストンロータの外周面と内周面とのうち、内周面側に偏って配置されている」との事項を追加して限定するものであって、本件補正前の請求項3に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、補正事項2は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ また、補正事項2は、願書に最初に添付した図2等の記載に基づいたもので、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
3 独立特許要件について
上記2(2)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)各引用文献の記載及び引用発明
ア 引用文献1の記載事項、引用発明
令和7年2月10日付け拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)で引用された特開2010-121448号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は理解の一助のために当審が付した。以下同様。)。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は冷凍サイクルを構成する、ロータリー式密閉型回転式圧縮機に関し、特にそのベーンの形状に関するものである。」
(イ)「【背景技術】
【0002】
一般的に、ロータリー式密閉型圧縮機の圧縮室はシリンダ、ベーン、上軸受け、下軸受け、ピストンで構成されているが、圧縮機の運転時にはこれらの部品が相互に接触し、摺動する。このとき発生する摺動損失は、圧縮機の効率を低下させる大きな要因のひとつであった。そのため、ベーン溝の加工方法等を工夫するなどして運転時の摺動損失を低減させる試みがなされていた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8-261185号公報」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の方法では、加工方法を変えるために多数の設備が必要であり、期間、コスト的にも大きな負担がかかるものであった。
【0004】
本発明は上記事情に基づきなされたものであり、その目的とするところは、ベーンの形状を変えることのみで、圧縮機の機能を損なうことなく上記不具合を解決し、より高効率で、信頼性の高い密閉型圧縮機を提供しようとするものである。」
(エ)「【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を満足するため、本発明の密閉型圧縮機には、側壁に窪みを設けたベーンを使用する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ベーン側壁部での摺動損失が低減できると共に、上記窪みに滞留した冷凍機油によって摺動面の潤滑性が向上するため、省エネ性及び信頼性に優れた圧縮機を提供することができる。」
(オ)「【0007】
(実施の形態1)
本発明における圧縮機の断面図を図1に示す。固定子1と回転子2から構成される電動機には回転軸3が取り付けられ、下部の圧縮機部4と接続されている。圧縮室はシリンダ5、上軸受け6、下軸受け7、ピストン8、ベーン9によって構成されており、上記回転軸3の偏心部10に挿入されたピストン8が回転して圧縮運動を行う。圧縮機構部の断面を図2に示す。ピストン8に正接するように設置されたベーン9は、シリンダに設けられたベーン溝11に挿入されており、回転軸3の回転運動に伴って偏心回転するピストンに追従して往復運動を行う。その作用により、吸入孔12より圧縮室に流入した冷媒ガスは圧縮され、吐出孔13より吐出される。
【0008】
本発明におけるベーンの形状を図3に示す。ベーンの側壁部に窪み14を設けてある。ベーン9はピストン8に追従して往復運動を行うため、上記側壁は上軸受け6および下軸受け7と接触する。上記ベーンにおいては、側壁の窪み14によって接触面積を低減しており、摺動による損失を低減することができる。このことにより、省エネ性に優れた圧縮機を構成できる。また、圧縮機の運転中には、上記窪み14には冷凍機油が滞留するため、軸受け端面との隙間には容易に油膜が形成できる。このことにより、ベーン9と上軸受け6および下軸受け7の端面間での異常磨耗や焼きつき等の不具合を解消でき、信頼性に優れた圧縮機を構成できる。
(実施の形態2)
また、近年オゾン層保護の観点から、塩素を含まないHFC冷媒を用いた圧縮機が開発されている。当機構を有した圧縮機をこのようなHFC冷媒に用いることも可能である。
(実施の形態3)
また、近年地球温暖化防止の観点から二酸化炭素、ヘリウム、アンモニア等の自然冷媒を用いた圧縮機が開発されている。そのような自然冷媒を用いた圧縮機に当発明を適用することも可能である。
(実施の形態4)
通常圧縮機には、使用する冷媒や圧縮機構部4 に用いられる材質によって様々な種類のオイルが使用されている。当発明は、圧縮機で主に用いられているナフテン油、パラフィン油、アルキルベンゼン油などの天然物あるいは天然物由来のオイル、およびポリエーテル系油、ポリオールエステル系油などの合成オイル、または上記天然物あるいは天然物由来のオイルと合成オイルの混合オイルなどにも適用することが可能である。」
(カ)「【産業上の利用可能性】
【0009】
以上のように本発明に係るロータリー式密閉型圧縮機は、ベーン側壁部での摺動損失が低減できると共に、上記窪みに滞留した冷凍機油によって摺動面の潤滑性が向上するため、省エネ性及び信頼性に優れた圧縮機を提供することができるので、空気調和装置や除湿機、乾燥機などのヒートポンプ応用機器に適用することができる。」
(キ)引用文献1には、以下の図面が示されている。
「【図1】
[図:0001427393000001.jpg]
【図2】 【図3】
[図:0001427393000002.jpg]
」
(ク)前記(オ)及び図1の記載から、回転軸3が軸線回りに回転可能であることは明らかである。
(ケ)前記(オ)及び図1~2の記載から、シリンダ5は、ピストン8を外周側から覆う円環状であるといえる。
(コ)前記(オ)及び図1~2の記載から、シリンダ5を、上軸受け6及び下軸受け7により軸線方向から覆うことで、圧縮室が形成されているといえる。
(サ)前記(オ)及び図2~3の記載から、ベーン9は、圧縮室内に配置され、軸線に対する径方向に延びるとともに、先端がピストン8の外周面に当接した状態で径方向に移動可能とされ、前記圧縮室を低圧空間と高圧空間とに分離するものであるといえる。
(シ)前記(オ)及び図1~3の記載から、ベーン9における上軸受け6を臨む面であるベーン9の側壁部に、窪み14が形成されていることは明らかであるところ、図2~3の記載から、その窪み14は、軸線方向に凹むとともに、径方向を長手方向としてベーン9の延在方向の全域にかけて延びて1つ形成されたものであることがわかる。
(ス)図3の記載から、窪み14における径方向の両端を閉塞する閉塞部をさらに有していることが看取され、また、前記(オ)及び図3の記載から、窪み14が設けられた側壁部は上軸受け6と接触するものであることも踏まえると、窪み14は外部から隔離された空間を形成しているといえる。
(セ)前記(オ)の記載から、窪み14には冷凍機油が滞留し、軸受け端面との隙間には油膜が形成されていることから、その隙間がシールされていることは明らかである。
(ソ)引用発明
前記(ア)~(セ)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「軸線回りに回転可能な回転軸3と、
該回転軸3の回転に伴って冷媒ガスを圧縮する圧縮室が形成された圧縮機部4と、
を備え、
前記圧縮機部4は、
前記回転軸3に設けられ、偏心回転するピストン8と、
該ピストン8を外周側から覆う円環状のシリンダ5と、
該シリンダ5をそれぞれ前記軸線方向から覆うことで、前記シリンダ5とともに前記圧縮室を形成する上軸受け6、及び下軸受け7と、
前記圧縮室内に配置され、前記軸線に対する径方向に延びるとともに、先端が前記ピストン8の外周面に当接した状態で径方向に移動可能とされ、前記圧縮室を低圧空間と高圧空間とに分離するベーン9と、
を有し、
前記ベーン9における前記上軸受け6を臨む面であるベーン9の側壁部に、前記軸線方向に凹むとともに、前記径方向を長手方向として前記ベーン9の延在方向の全域にかけて延びる1つの窪み14が形成され、
前記窪み14における前記径方向の両端を閉塞する閉塞部をさらに有することで、前記窪み14は外部から隔離された空間を形成し、
前記窪み14に滞留した冷凍機油によって前記上軸受け6と前記ベーン9との隙間がシールされている、
ロータリー式密閉型圧縮機。」
イ 引用文献2の記載事項
当審拒絶理由で引用された特開平8-210285号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は冷凍サイクルなどに使用する回転形圧縮機に関する。」
(イ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】従来の回転形圧縮機は以上のように構成されているので、ローリングピストンの内周から略円弧状の溝までは十分に給油されるが、略円弧状の溝から外周部までの間は部分的に油膜切れを起こし、主軸受と対向するローリングピストンの端面との間および副軸受と対向するローリングピストンの端面との間の潤滑が悪化するという課題があった。
【0006】また、このような構成ではハイドロフルオロカーボンを主成分とする冷媒を用いると、この冷媒には極圧剤の役目をする物質が含有されていないため、主軸受および副軸受と対向するローリングピストンの両端の面に油膜切れを起こすと、ローリングピストンの両端面の潤滑はさらに悪化するという課題があった。」
(ウ)「【0010】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.以下、発明1の実施の形態を図1、図2に基づいて説明する。なお、従来と同一部分は同一符号を付し詳細な説明を省略する。ローリングピストン3はシャフト2のクランク2aに回転自在に収納されている。主軸受5と対向するローリングピストン3の一方の端面には内周に沿って環状溝15が設けられ、この環状溝15とローリングピストン3の内周とを連通する複数の連通溝17が設けられている。副軸受6と対向するローリングピストン3の他方の端面にも内周に沿って環状溝16が設けられ、この環状溝16とローリングピストン3の内周とを連通する複数の連通溝18が設けられている。
【0011】図4、図5により圧縮工程を説明する。冷媒ガスは吸入管7より吸入室11aに吸入され、圧縮室11bにて圧縮された後、吐出孔6a、密閉容器1および吐出管8を介して冷却システムに吐出される。
【0012】また、密閉容器1内の高圧の潤滑油9は従来と同様にクランク2aを経て、ローリングピストン3の内周に供給され、ローリングピストン3の両端面を潤滑した後、吸入室11aおよび圧縮室11bを介して密閉容器1の下部に戻る。
【0013】この場合の圧縮工程において、ローリングピストン3は、クランク2aの回転に伴い公転運動をするとともに、ローリングピストン3はクランク2aに回転自在に収納されていることにより自転運動を行う。これに伴い潤滑油9はローリングピストン3の内周から両端面の連通溝17および18を通り、環状溝15および16に送り込まれるので、ローリングピストン3の両端面全体に満遍無く給油される。この結果、主軸受5および副軸受6とローリングピストン3の端面間の潤滑は良好となる。」
(エ)「【0017】
【発明の効果】この発明の回転形圧縮機では以上のように、主軸受および副軸受と対向するローリングピストンの両端面のそれぞれに、環状溝と、この環状溝とローリングピストンの内周側とを連通する複数の連通溝とを設けたものであるから、主軸受および副軸受とローリングピストンの両端面間は満遍無く給油されるので、潤滑は良好となり信頼性の高い圧縮機を提供できる。」
(オ)引用文献2には、以下の図面が記載されている。
「【図1】 【図2】
[図:0001427393000003.jpg]
【図4】 【図5】
[図:0001427393000004.jpg]
」
ウ 引用文献3の記載事項
当審拒絶理由で引用された実願昭46-33607号(実開昭47-30008号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(ア)「本考案は密閉容器内を低圧に保つもガスの漏洩が生じない密閉形回転圧縮機に関するものである。本考案の一実施例を例図に基ずき説明する。
1は密閉容器、2は円筒形のシリンダフレーム、3,4は上下カバー、5はシリンダフレーム2に内装されるローラで回転軸6に形成された偏心ピン7を遊嵌し、該回転軸6は上下カバーの軸受部3’および4’に支承され、ローラ5はシリンダ8内に偏心的に配設されている。上記ローラ5の上下面には複数個の比較的小断面積の環状溝9,9’が●(原文不明)設されている。10はベーンでシリンダフレーム2の一側に欠設されたベーン溝11に挿設され、ばね12を介し常時ローラ5に押圧され密接している。13は上カバー3を貫通しシリンダ8に開口する吸入孔、14はシリンダフレーム2を貫通した吐出孔で外端部に吐出弁15を装着している。」(1頁15行~2頁11行)
(イ)「しかして密閉容器室1’は低圧に保持されているためローラ5が回転してガスを圧縮する際、圧縮ガスが上下カバー3,4とローラ5との間隙から偏心ピン7更に軸受面を経て低圧部へ洩れようとするが、ローラ5の両端面(上下面)には、複数個の環状溝9,9’にてなる複数個の凹凸部を組合せたラビリンス形状が形成されているため、該凹凸部の圧力損失により上記のガス漏洩を防止している。
上記実施例では環状溝にてなる凹凸部をローラ5の両端面に設けたが、このラビリンス形状を上下カバーに形成しても全く同様の作用効果を奏する。また上記環状溝の数は2個以上任意であり、これはシリンダ径により適宜設定されるものである。更に偏心ピン7とローラ5は一体に形成してよい等、種々の変形が考えられる。
上述の如く本考案はローラ端面に複数個の凹凸部にてなるラビリンス形状を設けることにより圧縮ガスの漏洩を防止し、効率の低下のない密閉容器室低圧式の回転圧縮機を得ることが出来る。また上記ラビリンス形状により上下カバーとローラの接触面積も少なくなり摩擦損失が減少し、更に溝部には潤滑油が溜まるので、各摺動部の潤滑は良効に行なわれる。」(3頁12行~4頁15行)
(ウ)引用文献3には、以下の図面が記載されている。
「(第1図)
[図:0001427393000005.jpg]
(第2図) (第3図)
[図:0001427393000006.jpg]
」
エ 引用文献4の記載事項
当審拒絶理由で引用された特開2008-75637号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、吸入した流体を昇圧して吐出する流体機械に関するものであり、例えばランキンサイクルにおいてサイクル内に冷媒を循環させるポンプに用いて好適である。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記流体機械は複雑な構成であるため、偏心軸部に小径軸部を形成し、大径軸部に環状溝を設けてシール材を取り付けるなど、部品数や組付工数が増大するという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、吸入した流体を昇圧して吐出する流体機械において、簡単な構成で摺動部の潤滑を確実に確保することにある。」
(ウ)「【0047】
冷媒ポンプ330は、所謂ローリングピストン型のポンプであって、内部にシリンダ室80を形成する扁平円筒状のシリンダ8、シリンダ室80に配設される円筒ピストン5、円筒ピストン5を駆動する駆動軸部であるシャフト1を有して構成されている。
【0048】
シリンダ8の両端には、シリンダ8を挟み込むようにフロントハウジング3とリアハウジング4とが配設されて、シリンダ室80の両端壁30、40(本発明の端面部に対応)を形成している。また、リアハウジング4の反シリンダ8側端部にはリアプレート7が配設されて、これによって吐出室70が形成されている。
【0049】
シリンダ8には、その中心部に上記のシリンダ室80が穿設されている。円筒ピストン5は、扁平円筒状で、その外径がシリンダ8の内径より小さく設定されてシリンダ室80内に挿入されている。
【0050】
シャフト1は、フロントハウジング3とリアハウジング4にそれぞれ固定された軸受部31、41に回転可能に支持されており、上記電動機331に接続されて、これにより回転される。シャフト1は、このシャフト1に対して偏心した円形のクランク部11(本発明の偏心軸部に対応)を有し、このクランク部11の外周に円筒ピストン5が摺動可能に装着されている。これにより、シャフト1の回転に伴って、円筒ピストン5がシリンダ室80内を公転するようになっている。
【0051】
なお、シャフト1の周囲には、冷媒ポンプ330が作動する際の摺動部であるクランク部11と円筒ピストン5との間の摺接面および軸受部31、41を包含するようにして、フロントハウジング3からリアハウジング4にまで到る空間が形成されており、本実施形態においては、この空間を潤滑油で満たして、貯油室10としている。貯油室10およびそれに関連する構成の詳細については後述する。
【0052】
円筒ピストン5の外周部には、図3に示すように、円筒ピストン5の半径方向に摺動可能として、円筒ピストン5に当接するベーン14が設けられている。ベーン14はシリンダ8に形成された受入溝85に保持されており、受入溝85内にはベーン14を円筒ピストン5の中心側に向けて付勢するバネ15が配設されている。
【0053】
これにより、ベーン14は、円筒ピストン5の公転に伴って受入溝85内を摺動し、円筒ピストン5の外周面に常に当接するように維持されて、シリンダ室80を吸入側空間と吐出側空間とに区画する。このようにして、シリンダ室80内に、円筒ピストン5の外周面およびシリンダ8の内周面とベーン14とによってポンプ作動室が形成される。
【0054】
シリンダ8には、ベーン14に近接して、このベーン14を挟むように、シリンダ室80に連通する吸入通路81、および吐出通路82が形成されている。」
(エ)「【0060】
円筒ピストン5の軸方向両端面50(本発明の軸方向端面に対応)には、図2および図3に示すように、円形の溝51、53が形成されており、これらの溝51、53は貯油室10の外側となるように、その円形の半径が設定されている。なお、本実施形態における円筒ピストン5のフロントハウジング3側端面50の溝51は、本発明の微小空間、溝部、および第1空間に対応しており、リアハウジング4側端面50の溝53は、本発明の微小空間、溝部および第2空間に対応している。」
(オ)「【0094】
上記各実施形態においては、ローリングピストン型のポンプに本発明を適用したが、これに限らず、例えば、シリンダ室80を吸入側空間と吐出側空間とに区画する上記ベーン14に代えて揺動ピストンを備えるキニー型ポンプ、円筒ピストンと共に回転する翼板を備えるベーン型ポンプなど、各種ロータリーポンプに本発明を適用することができる。また、ポンプ以外に、ロータリー圧縮機に本発明を適用することもできる。」
(カ)引用文献4には、以下の図面が記載されている。
「【図2】 【図3】
[図:0001427393000007.jpg]
」
(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「回転軸3」は本件補正発明の「クランクシャフト」に相当し、以下同様に、「冷媒ガス」は「冷媒」に、「圧縮機部4」は「圧縮部」に、「偏心回転する」は「前記軸線から偏心した位置で該軸線回りに旋回する」に、「ピストン8」は「ピストンロータ」に、「シリンダ5」は「シリンダ」に、「上軸受け6」は「上部軸受」に、「下軸受け7」は「下部軸受」に、「ベーン9」は「ブレード」に、「ベーン9の側壁部」は「ブレード上面」に、「窪み14」は「ブレード凹溝」に、「滞留した」は「充填された」に、「冷凍機油」は「潤滑油」に、「隙間」は「間」に、「ロータリー式密閉型圧縮機」は「ロータリ圧縮機」に、それぞれ相当する。
イ 一致点及び相違点
以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点1は、次のとおりである。
(一致点)
「軸線回りに回転可能なクランクシャフトと、
該クランクシャフトの回転に伴って冷媒を圧縮する圧縮室が形成された圧縮部と、
を備え、
前記圧縮部は、
前記クランクシャフトに設けられ、前記軸線から偏心した位置で該軸線回りに旋回するピストンロータと、
該ピストンロータを外周側から覆う円環状のシリンダと、
該シリンダをそれぞれ前記軸線方向から覆うことで、前記シリンダとともに前記圧縮室を形成する上部軸受、及び下部軸受と、
前記圧縮室内に配置され、前記軸線に対する径方向に延びるとともに、先端が前記ピストンロータの外周面に当接した状態で径方向に移動可能とされ、前記圧縮室を低圧空間と高圧空間とに分離するブレードと、
を有し、
前記ブレードにおける前記上部軸受を臨む面であるブレード上面に、前記軸線方向に凹むとともに、前記径方向を長手方向として前記ブレードの延在方向の全域にかけて延びる1つのみのブレード凹溝が形成され、
前記ブレード凹溝における前記径方向の両端を閉塞する閉塞部をさらに有することで、前記ブレード凹溝は外部から隔離された空間を形成し、
前記ブレード凹溝に充填された潤滑油によって前記上部軸受と前記ブレードとの間がシールされているロータリ圧縮機。」
(相違点1)
本件補正発明は、「前記ピストンロータにおける前記上部軸受を臨む面であるロータ上面に、前記軸線方向に凹むとともに、前記ピストンロータの形状に沿って延びるロータ凹溝が形成されており、前記ロータ凹溝は、前記ピストンロータの中心軸を中心とする環状をなしているとともに、前記ピストンロータの外周面と内周面とのうち、内周面側に偏って配置されている」のに対し、
引用発明は、そのような構成を有するものか明らかでない点。
(4)判断
以下、相違点1について検討する。
ア ロータリ圧縮機において、ピストンロータにおける軸受を臨む面であるロータ面と軸受との潤滑を良好にして信頼性に優れた圧縮機を提供するために、ロータ面に、シャフトの回転軸の軸線方向に凹むとともに、前記ピストンロータの形状に沿って延びるロータ凹溝を形成し、前記ロータ凹溝は、前記ピストンロータの中心軸を中心とする環状をなすように構成することは、当業者にとって従来周知の技術(例えば、引用文献2の段落0010~0013、図1~2(前記(2)イ(ウ)、(オ)参照)を、また、引用文献3の1頁15行~2頁11行、3頁12行~4頁15行、第1~3図(前記(2)ウ(ア)~(ウ)参照)を、また、引用文献4の段落0007、0048~0050、0060、0094、図2~3(前記(2)エ(イ)~(カ)参照)を参照。)である。
そして、引用文献1の段落0004の「本発明は上記事情に基づきなされたものであり、その目的とするところは、ベーンの形状を変えることのみで、圧縮機の機能を損なうことなく上記不具合を解決し、より高効率で、信頼性の高い密閉型圧縮機を提供しようとするものである。」との記載や、段落0006の「本発明によれば、ベーン側壁部での摺動損失が低減できると共に、上記窪みに滞留した冷凍機油によって摺動面の潤滑性が向上するため、省エネ性及び信頼性に優れた圧縮機を提供することができる。」との記載を踏まえると、引用発明にも、ピストンロータにおける軸受を臨む面であるロータ面と軸受との潤滑を良好にして信頼性に優れた圧縮機を提供するといった課題もあることは、明らかである。
イ また、引用文献2や引用文献4には、更に、環状のロータ凹溝をピストンロータの外周面と内周面とのうち、内周面側に偏って配置される点も開示されている(例えば、引用文献2の図1の環状溝15を、また、引用文献4の図3の溝51を参照。)ところ、環状のロータ凹溝をピストンロータの外周面と内周面とのちょうど真ん中に位置させる必要はないこと、また、内周面側に偏って配置させることに阻害要因となるような技術的な問題はないこと、更に、遠心力を考慮するとピストンロータの外周面側に潤滑油が移動しやすいと考えられること、等を勘案すると、環状のロータ凹溝をピストンロータの外周面と内周面とのうち、内周面側に偏って配置されるように構成することに困難性はないといえる。
さらに、引用文献3には、環状のロータ凹溝をピストンロータの外周面と内周面との間に、内周面側と外周面側とにそれぞれ1つずつ、合計2つ、配置する点が開示されているところ、本件補正発明の特定事項によれば、ロータ凹溝の数は1つに特定されておらず、また、すべてのロータ凹溝が内周面側に偏って配置することを特定するものでもないから、本件補正発明のロータ凹溝は、引用文献3に開示されるような例も含み得るといえる。
加えて、引用発明において、ピストン8に溝を設けるに際して、その具体的な場所は、当業者が適宜に決定し得る事項であるといえる。
以上によれば、環状のロータ凹溝を配置するに際して、ピストンロータの外周面と内周面とのうち、内周面側に偏って配置されるように構成することは、当業者が適宜設定し得た設計事項にすぎない。
ウ そうすると、引用発明において、上記周知の技術を適用し、本件補正発明の上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(5)作用効果について
前記相違点1を勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知の技術が奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
(6)審判請求人の主張に対して
ア 審判請求人は令和7年4月14日提出の意見書(以下、「意見書」という。)で、「各引用文献には、本願発明(審決注:「本件補正発明」のこと。以下、同様。)の特徴的な構成である「前記ピストンロータにおける前記上部軸受を臨む面であるロータ上面に、前記軸線方向に凹むとともに、前記ピストンロータの形状に沿って延びるロータ凹溝が形成されており、前記ロータ凹溝は、前記ピストンロータの中心軸を中心とする環状をなしているとともに、前記ピストンロータの外周面と内周面とのうち、内周面側に偏って配置されている」との記載は開示されておりません。」(2頁31~35行)と主張する。
しかしながら、前記(4)で示したように、引用文献2~4には、ピストンロータにおける軸受を臨む面であるロータ面に、軸線方向に凹むとともに、ピストンロータの形状に沿って延びるロータ凹溝が形成されており、ロータ凹溝は、ピストンロータの中心軸を中心とする環状をなしているとともに、ピストンロータの外周面と内周面とのうち、内周面側に偏って配置されている点が、開示されていること、また、本件補正発明が、引用発明において、上記引用文献2~4に示される周知の技術を適用し、当業者が容易になし得たことであることに鑑みると、審判請求人の上記主張は採用できない。
イ また、審判請求人は意見書で、「仮にロータ凹溝が外周面側に形成されている場合、ブレード凹溝とロータ凹溝とが近接することで、これらの間に油が行き来し、又は漏れてしまう可能性が生じ得ます。一方で、本願発明では、ブレード凹溝とロータ凹溝とが離れていますので、そのような欠点はございません。そのため、ブレード凹溝及びロータ凹溝に偏りなく潤滑油を保持することができます。」(2頁36~40行)と主張する。
しかしながら、前記(4)で示したように、本件補正発明は、ロータ凹溝を1つに特定したものでなく、ロータ凹溝が内周面側に加え、外周面側にも形成されて、2つ形成されたものも含むから、審判請求人の上記主張は、特許請求の範囲の請求項に基づくものではない。また、審判請求人が主張する上記効果について、明細書に何ら記載も示唆もされておらず、明細書の記載に基づくものでもない。
また、仮に、本件補正発明が、ロータ凹溝は1つであり、また、該ロータ凹溝は内周面側に偏って配置した構成を特定しようとしたものであったとしても、そのような構成は、前記(4)で示したように、引用文献2又は4に開示されている。そして、その効果は、そもそも、請求項の記載に基づかない効果(特定の場合のみの効果)であるところ、その効果が特定の場合に奏するとしても、明細書に具体的な記載がない、説明がされていない程度の効果にすぎず、当業者であれば予測可能な程度の効果にすぎない。
以上によれば、審判請求人の上記主張は、採用できない。
(7)まとめ
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
4 本件補正についてのむすび
以上によれば、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、本件補正前の、令和6年1月17日提出の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 当審の拒絶の理由
本願発明に対して、当審拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
(1)理由1(明確性要件)について
この出願は、本件補正前の請求項1~3の記載が次の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
請求項1に「前記ブレード凹溝に充填された潤滑油によって前記上部軸受と前記ブレードとの間がシールされることで、前記ブレード凹溝内の潤滑油が保持されている」という事項が記載されているところ、「ブレード凹溝に充填された潤滑油によって」「ブレード凹溝内の潤滑油が保持されている」とは、どのようなことか日本語として意味が不明であり、発明が不明確である。
また、上記事項により、ブレード凹溝について、どのような構成を特定しようとしているのか不明であり、発明が不明確である。
よって、請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2~3に係る発明は明確でない。
(2)理由2(新規事項追加)について
令和6年1月17日にされた手続補正により、請求項1に係る発明は、「前記ブレード凹溝に充填された潤滑油によって前記上部軸受と前記ブレードとの間がシールされることで、前記ブレード凹溝内の潤滑油が保持されている」という事項(以下、「補正事項A」という。)が特定されているところ、当初明細書には、段落0035に「そこで、本実施形態では、上述のようにブレードBにブレード凹溝R1が形成され、第一ピストンロータ13Aにロータ凹溝R2が形成されている。上記構成によれば、ブレードBにブレード凹溝R1が形成されていることにより、当該ブレードBと上部軸受17Aとの接触面積を小さくすることができる。その結果、ブレードBと上部軸受17Aとの間で生じる摩擦損失を低減することができる。さらに、当該ブレード凹溝R1に対して外部から潤滑油を供給することによって、ブレードBと上部軸受17Aとの間が潤滑油によってシールされる。その結果、冷媒の漏れを抑制することができる。」と、また、段落0036に「さらに、上記構成によれば、ブレード凹溝R1の径方向の両端に、これら両端を閉塞する閉塞部Rcが設けられている。つまり、このブレード凹溝R1は、径方向において外部と隔離されている。したがって、例えばブレード凹溝R1内に潤滑油を供給する場合、当該潤滑油を外部に流出させることなく、ブレード凹溝R1内で保持することができる。その結果、ブレードBと上部軸受17Aとの間における冷媒のシール性能をさらに向上させることができる。」等といった記載があるのみで、上記補正事項Aについて何ら記載されておらず、また、上記補正事項Aが開示されていると理解することはできない。したがって、上記補正事項Aは、当初明細書等に記載されたものではなく、また当初明細書等の記載から自明の事項であるともいえない。
以上によれば、令和6年1月17日にされた手続補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術事項を導入しないものであるとはいえないから、当初明細書等に記載した事項の範囲においてするものとはいえず、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしていない。
(3)理由3(新規性)について
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(4)理由4(進歩性)について
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第4 当審拒絶理由に対する判断
前記第2のとおり、本件補正は却下されたところ、本願発明が拒絶の理由を解消したか否かについて検討する。
1 理由1(明確性要件)について
本件補正は、前記第2のとおり却下され、本件補正前の請求項1をあらためて検討しても、前記第3の2(1)の内容に誤りはないから、理由1(明確性要件)が解消していないことは明らかである。
なお、審判請求人は、意見書において、本件補正により理由1(明確性要件)が解消した旨主張している(1頁26~29行)。
しかしながら、本件補正は、前記第2のとおり却下されているため、審判請求人の主張を採用することはできない。
2 理由2(新規事項)について
本件補正は、前記第2のとおり却下され、本件補正前の請求項1をあらためて検討しても、前記第3の2(2)の内容に誤りはないから、理由2(新規事項)が解消していないことは明らかである。
なお、審判請求人は、意見書において、本件補正により理由2(新規事項)が解消した旨主張している(1頁26~29行)。
しかしながら、本件補正は、前記第2のとおり却下されているため、審判請求人の主張を採用することはできない。
3 理由3(新規性)、理由4(進歩性)について
(1)引用文献の記載及び引用発明
当審拒絶理由で引用された引用文献1~4及びその記載事項は、上記第2[理由]3(2)ア~エに記載したとおりである。
(2)本願発明と引用発明との対比、判断
ア 本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「回転軸3」は本願発明の「クランクシャフト」に相当し、以下同様に、「冷媒ガス」は「冷媒」に、「圧縮機部4」は「圧縮部」に、「偏心回転する」は「前記軸線から偏心した位置で該軸線回りに旋回する」に、「ピストン8」は「ピストンロータ」に、「シリンダ5」は「シリンダ」に、「上軸受け6」は「上部軸受」に、「下軸受け7」は「下部軸受」に、「ベーン9」は「ブレード」に、「ベーン9の側壁部」は「ブレード上面」に、「窪み14」は「ブレード凹溝」に、「滞留した」は「充填された」に、「冷凍機油」は「潤滑油」に、「隙間」は「間」に、「ロータリー式密閉型圧縮機」は「ロータリ圧縮機」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明の「前記窪み14に滞留した冷凍機油によって前記上軸受け6と前記ベーン9との隙間がシールされている」と本願発明の「前記ブレード凹溝に充填された潤滑油によって前記上部軸受と前記ブレードとの間がシールされることで、前記ブレード凹溝内の潤滑油が保持されている」とは、「前記ブレード凹溝に充填された潤滑油によって前記上部軸受と前記ブレードとの間がシールされている」点で共通する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、前記第2[理由]3(3)イで示した一致点で一致し、次の相違点2で一応相違する。
(相違点2)
本願発明は、「前記ブレード凹溝に充填された潤滑油によって前記上部軸受と前記ブレードとの間がシールされることで、前記ブレード凹溝内の潤滑油が保持されている」のに対し、
引用発明は、窪み14がそのような特定事項を有したものであるのか明らかでない点。
イ 判断
以下、相違点2について検討する。
前記第3の2(1)の「理由1(明確性要件)について」で示したように、本願発明の「前記ブレード凹溝に充填された潤滑油によって前記上部軸受と前記ブレードとの間がシールされることで、前記ブレード凹溝内の潤滑油が保持されている」という事項が、どのような構成を特定しようとしたものか必ずしも明確でないところ、本願明細書の段落0035~0036の記載(前記第3の2(2)の「理由2(新規事項)について」での摘記を参照)によれば、本願発明の「ブレード凹溝における径方向の両端を閉塞する閉塞部をさらに有することで、ブレード凹溝は外部から隔離された空間を形成」といった特定事項により得られる、単なる作用効果を示したものであるとも理解される。
そして、引用発明も、窪み14における径方向の両端を閉塞する閉塞部をさらに有することで、前記窪み14は外部から隔離された空間を形成するものであり、本願発明と同様の特定事項を有するものであるといえるから、同様の作用効果を得ることができるものである。
そうすると、相違点2は、実質的な相違点ではない。
また、仮に相違するところがあるとしても、引用発明に基いて、当業者であれば容易に想到し得たものである。
ウ 小括
以上によれば、本願発明は、引用発明であるか、引用発明に基いて、当業者が容易になし得たものである。
第5 むすび
以上のとおり、当審拒絶理由の理由1(明確性要件)は解消しておらず、この出願は、請求項1の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
また、当審拒絶理由の理由2(新規事項)は解消しておらず、令和6年1月17日にされた手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
さらに、当審拒絶理由の理由3(新規性)は解消しておらず、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、又は、当審拒絶理由の理由4(進歩性)は解消しておらず、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-000789