特許異議申立
2017-700701
密閉型回転圧縮機
- 審判番号
- 2017-700701
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-072657
- 登録番号
- 特許第6066801号(P6066801)
- 請求日
- 2017年07月20日
- 審決日
- 2017年12月18日
- 公報発行日
- 2018年03月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱電機株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人きさ特許商標事務所
- 【異議申立人】鈴木 孝司
- 審判長/審判官
- 審判長 久保 竜一
- 審判官 藤井 昇
- 審判官 中川 真一
- 分類
- P1652.113-YAA(F04C) / P1652.121-YAA(F04C) / P1652.537-YAA(F04C) / P1652.536-YAA(F04C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第120条の5第2項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6066801号発明「密閉型回転圧縮機」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6066801号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項3について訂正することを認める。
特許第6066801号の請求項[1,3]に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
特許第6066801号の請求項1~3に係る特許についての出願は,平成25年 3月29日の特許出願であって,平成29年 1月 6日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許の請求項1,3について,特許異議申立人 鈴木孝司により特許異議の申立てがなされ,平成29年 9月28日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である平成29年12月 4日に意見書の提出及び訂正の請求があったものである。
第2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
平成29年12月 4日付けの訂正請求(以下,「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下の訂正事項1のとおりである。
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3に「前記最下段のシリンダの下端面に前記中間仕切り板が密着していることを特徴とする」と記載されているのを,「前記最下段のシリンダの上端面に前記中間仕切り板が密着していることを特徴とする」に訂正する。
(2)訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・ 変更の存否
ア.訂正事項1
a.訂正の目的について
訂正前の請求項3には「前記最下段のシリンダの下端面に前記中間仕切り板が密着している」と記載されている。訂正前の明細書段落【0034】には,「最下段に配置されたシリンダ3の下端面および上端面には,下軸受け2および中間仕切り板がそれぞれ密着する。」と記載されている。
したがって,訂正前の請求項3の記載が誤りで訂正後の請求項3の記載が正しいことが,当該明細書の記載やその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者の技術常識から明らかである。
すなわち,訂正前の請求項3の「前記最下段のシリンダの下端面に前記中間仕切り板が密着している」という記載は,錯誤によるものであり,「前記最下段のシリンダの上端面に前記中間仕切り板が密着していることを特徴とする」の誤記である。
よって,この訂正事項1は,誤記の訂正を目的とするものである。
b.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は,明細書の段落【0034】に開示されている内容に基づいて誤記を訂正するものであるから,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
c.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記a.から明らかなように,訂正事項1は,単に請求項3に記載の誤記を訂正するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
そして,当該請求項3を直接又は間接的に引用する請求項は存在しないから,この訂正に関する一群の請求項はない。
(3)小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項第2号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第4項~第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項3について訂正を認める。
3.特許異議の申立てについて
(1)本件特許発明
特許第第6066801号の請求項1に係る発明(以下,「本件特許発明1」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものであり,本件訂正請求により訂正された訂正請求項3に係る発明(以下,「本件特許発明3」という。)は,その特許請求の範囲の請求項3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである
「【請求項1】
密閉容器に収容され,流体を吸入して吸入した流体を圧縮する圧縮機構と,該圧縮機構を駆動させる電動機構と,を有し,
前記圧縮機構は,
断面円形の内周面および互いに平行な端面を具備する筒状体であるシリンダと,
該シリンダ内に配置された偏心軸部を具備する駆動軸と,
該駆動軸を回転自在に支持する上軸受けおよび下軸受けと,を具備し,
前記上軸受けは,
前記駆動軸の前記偏心軸部よりも上方を回転自在に支持する上軸受け内周面と,
前記シリンダの上端面に密着する上軸受けシート面と,を具備し,
前記下軸受けは,
前記駆動軸の前記偏心軸部よりも下方を回転自在に支持する下軸受け内周面と,
前記シリンダの下端面に密着する下軸受けシート面と,を具備し,
前記上軸受けシート面に開口し,前記上軸受け内周面と平行に形成され,前記駆動軸に垂直な断面において円形の溝である上柔構造溝と,該上柔構造溝の内部圧力の増加を抑える上内圧逃がし手段と,を具備する上柔構造,および前記下軸受けシート面に開口し,前記下軸受け内周面と平行に形成され,前記駆動軸に垂直な断面において円形の溝である下柔構造溝と,該下柔構造溝の内部圧力の増加を抑える下内圧逃がし手段と,を具備する下柔構造の少なくとも一方を有し,
前記上内圧逃がし手段は,
前記上軸受けシート面よりも上方に位置する上柔構造円筒の端面と前記上軸受けシート面との間の段差である上柔構造段差,または前記上柔構造円筒の端部の一部に形成された溝である上柔構造連通溝であり,
前記下内圧逃がし手段は,前記下軸受けシート面よりも下方に位置する下柔構造円筒の端面と前記下軸受けシート面との間の段差である下柔構造段差,または前記下柔構造円筒の端部の一部に形成された下柔構造連通溝であり,
前記上柔構造を有す場合に,前記上軸受け内周面に,前記上軸受けの上端面に開口し,前記上柔構造段差または上柔構造連通溝を経由して前記上柔構造溝に連通する上軸受け内周溝が形成され,
前記下柔構造を有す場合に,前記下軸受け内周面に,前記下軸受けの下端面に開口し, 前記下柔構造段差または下柔構造連通溝を経由して前記下柔構造溝に連通する下軸受け内周溝が形成されていることを特徴とする密閉型回転圧縮機。」
「【請求項3]
前記シリンダが複数であって,該複数のシリンダが中間仕切り板を介して積層され,
前記複数のシリンダのうちの最上段のシリンダの上端面に前記上軸受けが密着し,前記最上段のシリンダの下端面に前記中間仕切り板が密着し,
前記複数のシリンダのうちの最下段のシリンダの下端面に前記下軸受けが密着し,前記最下段のシリンダの上端面に前記中間仕切り板が密着していることを特徴とする請求項1又は2に記載の密閉型回転圧縮機。」
(2)取消理由の概要
訂正前の請求項3に係る特許に対して平成29年 9月28日付けで特許権者に通知した取消理由は,要旨次のとおりである。
「本件特許に係る特許出願は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第4項第1号並びに第6項第1号及び第2項に規定する要件を満たしていない。
記
1.特許法第36条第4項第1号
異議申立書第23ページ第11行~第14行に記載された理由による。
2.特許法第36条第6項第1号
異議申立書第23ページ第19行~第21行に記載された理由による。
3.特許法第36条第6項第2号
異議申立書第第23ページ最下行~第24ページ第3行に記載された理由による。
よって,上記1.~3.に記載された理由により,請求項3に係る発明の特許は,特許法第36条第4項第1号並びに第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。」
(3)甲号証の記載
甲第1号証(特開2011-241804号公報)には,以下の発明が記載されていると認められる(特に,段落【0002】,【0003】,【0005】,【0013】~【0017】,図1~図3を参照のこと)。
「流体を吸入して吸入した流体を圧縮する圧縮機構を有し,
前記圧縮機構は,断面円形の内周面および互いに平行な端面を具備する筒状体であるシリンダ本体4と,該シリンダ本体4内に配置された偏心軸部を具備する回転軸1と,該回転軸1を回転自在に支持する上部軸受10Aおよび下部軸受10Bと,を具備し,
前記上部軸受10Aは,前記回転軸1の前記偏心軸部よりも上方を回転自在に支持する軸穴11と,前記シリンダ本体4の上端面に密着する端部14と,を具備し,
前記下部軸受10Bは,前記回転軸1の前記偏心軸部よりも下方の回転自在に支持する軸穴11と,前記シリンダ本体4の下端面に密着する端部14と,を具備し,
前記上部軸受10Aの端部14に開口し,前記上部軸受10Aの軸穴11と平行に形成され,前記回転軸1に垂直な断面において円形の溝である環状溝13Aを有し,
前記上部軸受10Aの端部14よりも上方に位置する環状薄肉部12Aの入口端部15と前記端部14との間の段差を有する,
ロータリ圧縮機。」,及び,
「前記シリンダ本体4が複数であって,該複数のシリンダ本体4が中間仕切り板5を介して積層され,
前記複数のシリンダ本体4のうちの最上段のシリンダ本体4の上端面に前記上部軸受10Aが密着し,前記最上段のシリンダ本体4の下端面に中間仕切り板5が密着し,
前記複数のシリンダ本体4のうちの最下段のシリンダ本体4の下端面に前記下部軸受10Bが密着し,前記最下段のシリンダ本体4の上端面に前記中間仕切り板が密着している,
ロータリ圧縮機。」
(4)判断
ア.取消理由通知に記載した取消理由について
(ア)特許法第36条第4項第1号について
本件訂正請求による訂正の結果,請求項3に係る発明は,「前記最下段のシリンダの上端面に前記中間仕切り板が密着している」ものとなった。
そして,明細書の発明の詳細な説明の段落【0034】には,「最下段に配置されたシリンダ3の下端面および上端面には,下軸受け2および中間仕切り板がそれぞれ密着する。」と記載されている。
したがって,発明の詳細な説明の段落【0034】は,訂正後の請求項3に係る発明を実施できるように明確かつ十分に記載されているから,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
(イ)特許法第36条第6項第1号について
本件訂正請求による訂正の結果,請求項3に係る発明は,「前記最下段のシリンダの上端面に前記中間仕切り板が密着している」ものとなった。
そして,明細書の発明の詳細な説明の段落【0034】には,「最下段に配置されたシリンダ3の下端面および上端面には,下軸受け2および中間仕切り板がそれぞれ密着する。」と記載されているから,訂正後の請求項3に係る発明は,本件特許の明細書における発明の詳細な説明に記載されており,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
(ウ)特許法第36条第6項第2号について
本件訂正請求による訂正の結果,請求項3に係る発明は,「前記最下段のシリンダの上端面に前記中間仕切り板が密着している」ものとなった。
そして,明細書の発明の詳細な説明の段落【0034】の「最下段に配置されたシリンダ3の下端面および上端面には,下軸受け2および中間仕切り板がそれぞれ密着する。」との記載や技術常識等から訂正後の請求項3に係る発明の技術的な意義を理解することができるから,訂正後の請求項3に係る発明は明確であり,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。
イ.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(ア)特許法第29条第1項第3号について
甲第1号証には,本件特許発明1の,少なくとも「前記上軸受け内周面に,前記上軸受けの上端面に開口し,前記上柔構造段差または上柔構造連通溝を経由して前記上柔構造溝に連通する上軸受け内周溝が形成され」ていること,及び,「前記下軸受け内周面に,前記下軸受けの下端面に開口し, 前記下柔構造段差または下柔構造連通溝を経由して前記下柔構造溝に連通する下軸受け内周溝が形成されていること」がいずれも開示されておらず,これらの点において,本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明は,実質的に相違する。
そうすると,本件特許発明1は,甲第1号証に記載された発明ではない。
また,本件特許発明1の発明特定事項のすべてを直接的又は間接的に引用する本件特許発明3は,甲第1号証に記載された発明ではない。
(イ)特許法第29条第2項について
異議申立人が提出した甲第1号証,甲第2号証(特開2009-167829号公報),甲第3号証(実願昭60-35535号(実開昭61-152785号)のマイクロフィルム),甲第4号証(公益社団法人日本冷凍空調学会,「冷媒圧縮機」,平成25年3月27日発行,P72-73)のいずれの証拠にも,「前記上軸受け内周面に,前記上軸受けの上端面に開口し,前記上柔構造段差または上柔構造連通溝を経由して前記上柔構造溝に連通する上軸受け内周溝が形成され」ていること,及び,「前記下軸受け内周面に,前記下軸受けの下端面に開口し,前記下柔構造段差または下柔構造連通溝を経由して前記下柔構造溝に連通する下軸受け内周溝が形成されていること」がいずれも開示されていない。
上記甲第2号証~甲第4号証により,上軸受けと駆動軸の潤滑のために「上軸受け内周面に,前記上軸受けの上端面に開口する上軸受け内周溝が形成され」,下軸受けと駆動軸の潤滑のために「下軸受け内周面に,前記下軸受けの下端面に開口する下軸受け内周溝が形成されている」ことが周知技術であって,当該周知技術を甲第1号証の上部軸受10Aや下部軸受10Bに適用することにより,「前記上軸受け内周面に,前記上軸受けの上端面に開口し,前記上柔構造段差または上柔構造連通溝を経由して前記上柔構造溝に連通する上軸受け内周溝が形成され」ていること,及び,「前記下軸受け内周面に,前記下軸受けの下端面に開口し,前記下柔構造段差または下柔構造連通溝を経由して前記下柔構造溝に連通する下軸受け内周溝が形成されていること」が構成できたとしても,上柔構造溝の内圧を上柔構造段差または上柔構造連通溝を経由して上軸受け内周溝に逃がす「上内圧逃がし手段」や下柔構造溝の内圧を下柔構造段差または下柔構造連通溝を経由して下軸受け内周溝に逃がす「下内圧逃がし手段」としての作用効果を奏するとは予測できない。
そうすると,本件特許発明1は,甲第1号証および周知技術(甲第2号証~甲第4号証)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また,本件特許発明1の発明特定事項のすべてを直接的又は間接的に引用する本件特許発明3は,甲第1号証および周知技術(甲第2号証~甲第4号証)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1及び3に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項1及び3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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