特許異議申立
2025-700579
R‐T‐B系永久磁石
- 審判番号
- 2025-700579
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-143354
- 登録番号
- 7593903
- 請求日
- 2025年06月02日
- 審決日
- 2025年09月04日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】TDK株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】青木 博昭
- 【権利者代理人】石坂 泰紀
- 【異議申立人】橋田 奈美子
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 多田 幸司
- 審判官 ▲吉▼澤 雅博
- 分類
- P1651.536-Y (H01F) / P1651.537-Y (H01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7593903号発明「R‐T‐B系永久磁石」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7593903号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7593903号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、令和3年9月2日(優先権主張 令和2年12月22日)に出願され、令和6年11月25日にその特許権の設定登録がなされ、同年12月3日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1ないし6に係る特許に対して、令和7年6月2日に特許異議申立人 橋田 奈美子により特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件発明
特許第7593903号の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
希土類元素R、遷移金属元素T及びBを含有するR‐T‐B系永久磁石であって、
前記R‐T‐B系永久磁石は、Rとして、少なくともNdを含有し、
前記R‐T‐B系永久磁石は、Tとして、少なくともFeを含有し、
前記R‐T‐B系永久磁石は、複数の主相粒子と、複数のRリッチ相と、を備え、
前記主相粒子は、少なくともR、T及びBを含有し、
前記Rリッチ相は、少なくともRを含有し、
前記R‐T‐B系永久磁石の断面において観察される前記主相粒子は、扁平であり、
前記断面は、前記R‐T‐B系永久磁石の磁化容易軸方向に略平行であり、
前記Rリッチ相は、複数の前記主相粒子の間に位置し、
前記磁化容易軸方向に略垂直な方向における前記Rリッチ相の間隔の平均値は、30μm以上1000μm以下であり、
前記断面において観察される前記主相粒子の短軸の長さの平均値は、20nm以上200nm以下である、
R‐T‐B系永久磁石。
【請求項2】
Rの含有量は、28質量%以上33質量%以下であり、
Bの含有量は、0.8質量%以上1.1質量%以下である、
請求項1に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【請求項3】
複数の扁平な前記主相粒子が、前記磁化容易軸方向に沿って積み重なっている、
請求項1又は2に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【請求項4】
熱間加工磁石である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【請求項5】
前記Rリッチ相におけるRの濃度は、前記断面におけるRの濃度の平均値よりも高く、
Rの濃度の単位は、原子%である、
請求項1~4のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【請求項6】
前記Rリッチ相におけるRの濃度は、前記主相粒子におけるRの濃度よりも高く、
Rの濃度の単位は、原子%である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。」
第3 申立理由の概要
1.申立理由1(実施可能要件)
本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1ないし6に係る発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(以下、参考文献)
甲第1号証:" Improvement of magnetic performance of hot-deformed Nd-Fe-B magnets by secondary deformation process after Nd-Cu eutectic diffusion" Tieqiao Zhang et al., Acta Materialia, Volume 118(2016), p.374-382
甲第2号証:"Anisotropic behavior of grain boundary diffusion in hot-deformed Nd-Fe-B magnet" Tieqiao Zhang et al., Scripta Materialia 129(2017), p.1-5
2.申立理由2(サポート要件)
請求項1ないし6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3.申立理由3(明確性)
請求項1ないし6に係る発明は、明確でないから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第4 当審の判断
1.申立理由1(実施可能要件)について
(1)明細書中のRリッチ相の間隔の評価方法について
ア.特許異議申立人の主張
本件発明1では、「前記磁化容易軸方向に略垂直な方向における前記Rリッチ相の間隔の平均値は、30μm以上1000μm以下」と規定されているが、この規定における「Rリッチ相の間隔の平均値」の評価方法について、本件特許明細書の段落【0030】に記載されるように、走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影される反射電子像の測定領域Aにおいて、任意の測定点Xの輝度から、その測定点Xを含む計11か所の測定点の輝度の移動平均IAVEを引いた値が、IAVEの何%に当たるかを算出した値は、J-PlatPatより取得した本件特許明細書の図3画像ファイルに示された測定領域A(b)を画像処理ソフトウェア「ImageJ」を用いて算出すると、測定点Xにおけるノイズ成分を抽出して提示するものとなるため、Rリッチ相に相当するピークを与えるものとはならず、当業者が、Rリッチ相の間隔を明確に評価することができないので、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、実施可能要件を満たさない。請求項1を引用する請求項2ないし6に係る発明についても同様である。
イ.判断
上記主張について検討する。
本件発明1で特定される、「前記磁化容易軸方向に略垂直な方向における前記Rリッチ相の間隔の平均値」の評価方法について、本件特許明細書の段落【0030】において、輝度が、IAVEの107%以上である測定点Xの位置をRリッチ相の位置として平均値を評価している。ここで「輝度とは、各測定点における反射電子線の強度(図2中のINTENSITY)である。輝度の単位は、任意単位(a.u.)である。」と記載されているところ、本件特許明細書の段落【0030】に記載の「前記磁化容易軸方向に略垂直な方向における前記Rリッチ相の間隔の平均値」の評価は、各測定点における反射電子線の強度から算出されるものであり、特許異議申立人が主張するようなJ-PlatPatより取得した本件特許明細書の図3画像ファイルに示された測定領域A(b)を画像処理ソフトウェア「ImageJ」を用いて算出したものとは、そもそも算出に用いられる元データが同質でないことは明らかであるから、特許異議申立人の上記主張は当を得ないものであって採用できない。
(2)測定領域の設定の妥当性
ア.特許異議申立人の主張
本件発明1では、「前記磁化容易軸方向に略垂直な方向における前記Rリッチ相の間隔の平均値は、30μm以上1000μm以下」と規定されているが、この規定における「Rリッチ相の間隔の平均値」の評価方法について、本件特許明細書の段落【0030】に記載されるように評価する際に、反射電子像内の測定領域内にAB方向に沿って高輝度領域が2つ以上出現しない場合、高輝度領域の間の間隔を計測することができない。そして、測定領域内に1つしかRリッチ相に対応づけることができる高輝度領域が含まれないとしても、AB方向に沿って測定領域の外側の領域にあたる反射電子像の視野外の位置には、測定領域内のRリッチ相に隣接する別のRリッチ相が存在するはずであり、本件特許明細書の段落【0030】にあるとおり、Rリッチ相の間隔の平均値(iAVE)を算出するに際し、1つの測定領域内で計測された複数の間隔値に対して平均値を算出したうえで、複数の測定領域の其々におけるRリッチ相の間隔の平均値を更に平均することで、平均値iAVEを得る手法を用いたとしても、測定領域内で間隔値を計測できる測定領域のみを選択するとすれば、隣接するRリッチ相との間隔が大きく離れている形態について考慮に取り込まれないこととなり、得られたRリッチ相の間隔の平均値は、そのR‐T‐B系永久磁石の構造の特徴を適切に反映するものとはならない。そして、本件特許明細書では、Rリッチ相の間隔を計測し、平均値を求める複数の測定領域を、どのような基準のもとで設定するのかについて、何も記載されていないことから、ある任意のR‐T‐B系永久磁石について、Rリッチ相の間隔の平均値の観点から、そのR‐T‐B系永久磁石が、本件発明1に記載されたRリッチ相の間隔の平均値を満たすか否かを、明確に判定することができず、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、実施可能要件を満たさない。請求項1を引用する請求項2~6に係る発明についても同様である。
イ.判断
上記主張について検討する。
まず、そもそもある任意のR‐T‐B系永久磁石について、Rリッチ相の間隔の平均値の観点から、そのR‐T‐B系永久磁石が、本件発明1に記載されたRリッチ相の間隔の平均値を満たすか否かを、明確に判定することができるか否かと、請求項1に係る発明を当業者が実施(製造)することができるか否かとは、直接関係のないことである。
また、本件特許明細書の段落【0030】には、「図2に示されるように、輝度が比較的高い複数の部分(6)がAB方向に沿って並んでいる任意の矩形の測定領域Aが反射電子像から選定される。」と記載されているように、測定領域はそもそも反射電子像内の測定領域内にAB方向に沿って高輝度領域が2つ以上出現する場所から選定されるものであるため、測定領域を選定する際に、反射電子像内の測定領域内にAB方向に沿って高輝度領域が2つ以上出現しない測定領域は選定されない。さらに、本件特許明細書の段落【0030】には、「例えば、AB方向における測定領域Aの幅は、400μmであってよく、磁化容易軸方向Cおける測定領域Aの幅は、15μmであってよい。」と記載されているように、上記されている測定領域の大きさは、例示されているものにすぎず、本件特許明細書の段落【0107】の表1において、比較例10のRリッチ相の間隔の平均値が1003.50μmであることからも、AB方向における測定領域の幅は400μmで固定されるものではなく、輝度が比較的高い複数の部分が測定領域内に収まるように調整されることは、当業者にとって自明である。してみれば、当業者であればある任意のR‐T‐B系永久磁石について、Rリッチ相の間隔の平均値の観点から、そのR‐T‐B系永久磁石が、本件発明1に記載されたRリッチ相の間隔の平均値を満たすか否かを明確に判定することはできるものといえ、特許異議申立人の主張は採用できない。
(3)Rリッチ相の間隔を平均値で評価することの是非
ア.特許異議申立人の主張
本件発明1では、「前記磁化容易軸方向に略垂直な方向における前記Rリッチ相の間隔の平均値は、30μm以上1000μm以下」と規定されているが、AB方向におけるRリッチ相の密度が比較的高く、Rリッチ相の間隔が小さくなった領域と、AB方向におけるRリッチ相の密度が低く、Rリッチ相の間隔が大きくなった領域とが混在する永久磁石について、Rリッチ相の間隔を、複数の測定領域における値の平均値として求める際に、AB方向に沿ってRリッチ相が比較的高密度に分布している領域ばかりを選んでRリッチ相の間隔を算出する方針をとるとすれば、得られた平均値は、AB方向に沿ってRリッチ相が低密度でしか分布しない領域の寄与を正しく反映するものとならず、Rリッチ相が低密度でしか分布しない領域の寄与を平均値に取り込むべく、隣接する高輝度領域が大きく離れた位置にも測定領域を設定する方針をとるとしても、測定領隣接するRリッチ相との位置関係を評価できないほどRリッチ相の間隔が大きく空いた箇所の寄与までは取り込めないという問題、およびRリッチ相の密度が高い領域を、どのような比率で平均値に取り込むべきかという問題が残るため、Rリッチ相の間隔の平均値は、試料全体におけるRリッチ相の空間分布、およびそれと相関を有する特性を適切に反映するものとはなりにくいので、ある任意のR‐T‐B系永久磁石について、Rリッチ相の間隔の平均値の観点から、そのR‐T‐B系永久磁石が、本件発明1に記載されたRリッチ相の間隔の平均値を満たすか否かを、明確に判定することができず、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、実施可能要件を満たさない。請求項1を引用する請求項2~6に係る発明についても同様である。
イ.判断
上記主張について検討する。
まず、そもそもある任意のR‐T‐B系永久磁石について、Rリッチ相の間隔の平均値の観点から、そのR‐T‐B系永久磁石が、本件発明1に記載されたRリッチ相の間隔の平均値を満たすか否かを、明確に判定することができるか否かと、請求項1に係る発明を当業者が実施(製造)することができるか否かとは、直接関係のないことである。
また、上記「(2)イ.」で述べたように、AB方向における測定領域の幅は400μmで固定されるものではなく、輝度が比較的高い複数の部分が測定領域内に収まるように調整されることは、当業者にとって自明であることから、異議申立人が主張する「Rリッチ相が低密度でしか分布しない領域の寄与」が平均値に取り込まれることは明らかである。
さらに、本件特許明細書の段落【0030】、【0099】には、Rリッチ相の間隔の平均値の具体的な測定方法として、5つの測定領域のそれぞれにおけるRリッチ相の間隔の平均値を更に平均するようにしており、Rリッチ相が低密度でしか分布しない領域と、Rリッチ相の密度が高い領域とが偏って反映されることを抑制していることから、Rリッチ相の間隔の平均値は、試料全体におけるRリッチ相の空間分布、およびそれと相関を有する特性を反映するものであり、当業者であればある任意のR‐T‐B系永久磁石について、Rリッチ相の間隔の平均値の観点から、そのR‐T‐B系永久磁石が、本件発明1に記載されたRリッチ相の間隔の平均値を満たすか否かを明確に判定することはできるものといえ、特許異議申立人の主張は採用できない。
(4)測定領域の大きさ
ア.特許異議申立人の主張
本件特許明細書では、実施例2および比較例8を除く各実施例および比較例について、解析の対象としている反射電子像が掲載されておらず、各反射電子像のサイズも、各反射電子像に設定する測定領域のサイズも明記されていないが、本件特許明細書の段落【0030】、【0099】に示されているように、AB方向における各測定領域の幅を400μ、磁化容易軸方向Cにおける測定領域の幅を15μmとしているならば、少なくともRリッチ相の間隔が上記実施例2の場合よりも大きくなっている各実施例・比較例においては、Rリッチ相の間隔の平均値が、実施例2にもまして、試料の組織の特徴を反映していないものと考えられ、実施例4、7~9など、Rリッチ相の間隔の平均値が400μmを超えている試料は、測定領域の幅よりもRリッチ相の間隔の方が大きいことになり、掲載されているRリッチ相の間隔の数値自体も、どのようにして測定されたものであるのか、明らかではないことから、ある任意のR‐T‐B系永久磁石について、Rリッチ相の間隔の平均値の観点から、そのR‐T‐B系永久磁石が、本件発明1に記載されたRリッチ相の間隔の平均値を満たすか否かを、明確に判定することができず、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、実施可能要件を満たさない。請求項1を引用する請求項2~6に係る発明についても同様である。
イ.判断
上記主張について検討する。
まず、そもそもある任意のR‐T‐B系永久磁石について、Rリッチ相の間隔の平均値の観点から、そのR‐T‐B系永久磁石が、本件発明1に記載されたRリッチ相の間隔の平均値を満たすか否かを、明確に判定することができるか否かと、請求項1に係る発明を当業者が実施(製造)することができるか否かとは、直接関係のないことである。
また、上記「(2)イ.」で述べたように、AB方向における測定領域の幅は400μmで固定されるものではなく、輝度が比較的高い複数の部分が測定領域内に収まるように調整されることは、当業者にとって自明であることから、当業者であればある任意のR‐T‐B系永久磁石について、Rリッチ相の間隔の平均値の観点から、そのR‐T‐B系永久磁石が、本件発明1に記載されたRリッチ相の間隔の平均値を満たすか否かを明確に判定することはできるものといえ、特許異議申立人の主張は採用できない。
(5)要件充足の判定の可否
ア.特許異議申立人の主張
甲第1号証および甲第2号証は、本件特許の実施例と同様に、R‐T‐B系合金粉末を原料とし、成形および熱間加工を行ったうえで、粒界拡散工程を実施する工程を含んで製造されたR‐T‐B系永久磁石について開示している。これらの永久磁石について、甲第1号証の図4および甲第2号証の図2の反射電子像に示されるとおり、Rリッチ相の輝度のムラが大きく、間隔のばらつきも大きい試料にあっては、反射電子像上に測定領域を設定して、高輝度領域の間隔からRリッチ相の間隔を計測し、その間隔の平均値をとるとすれば、反射電子像を取得する領域、およびその反射電子像上に測定領域を設定する位置に依存して、得られる平均値が大きく変化する可能性があるため、ある任意のR‐T‐B系永久磁石について、Rリッチ相の間隔の平均値に関して、本件特許発明に規定された範囲を満たすのか否か、一意に判定できなくなり、Rリッチ相の間隔の平均値が有する意味の観点から、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、実施可能要件を満たさない。請求項1を引用する請求項2~6に係る発明についても同様である。
イ.判断
まず、そもそもある任意のR‐T‐B系永久磁石について、Rリッチ相の間隔の平均値に関して、本件特許発明に規定された範囲を満たすのか否か、一意に判定できるか否かと、請求項1に係る発明を当業者が実施(製造)することができるか否かとは、直接関係のないことである。
また、上記「(3)イ.」で述べたように、本件特許明細書の段落【0030】、【0099】には、Rリッチ相の間隔の平均値の具体的な測定方法として、5つの測定領域のそれぞれにおけるRリッチ相の間隔の平均値を更に平均するようにしており、反射電子像を取得する領域、およびその反射電子像上に測定領域を設定する位置に依存して、得られる平均値が大きく変化する可能性を抑制していることから、当業者であればある任意のR‐T‐B系永久磁石について、Rリッチ相の間隔の平均値に関して、本件特許発明に規定された範囲を満たすのか否かを一意に判定できるものといえ、特許異議申立人の主張は採用できない。
(6)まとめ
以上のとおり、特許異議申立人の主張はいずれも採用することはできず、本件明細書は本件発明について当業者が実施できる程度に記載されているといえるから、本件請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。
2.申立理由2(サポート要件)について
(1)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、概略次のようなサポート要件に関する申立理由を主張している。
上記「1.(1)ア.」に記載のとおり、本件明細書に記載されている方法では、Rリッチ相の間隔の平均値として、物理的に意味のある値を得ることができないという点で、本件明細書は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、上記「1.(2)ア.」、上記「1.(3)ア.」、上記「1.(4)ア.」に記載のとおり、限られた領域の反射電子像において、任意に複数の測定領域を設定し、平均値を算出する方法では、得られた平均値が、材料全体の特徴を適切に評価できる量とならないという点でも、本件明細書は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないことから、本件発明1に記載されている「30μm以上1000μm以下」とのRリッチ相の間隔の平均値は、実施例で解析対象となっている反射電子像をはじめ、本件明細書で言及されている反射電子像から適切に取得されたものであるとは言えないので、本件請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。請求項1を引用する請求項2~6に係る発明についても同様である。
(2)判断
上記「1.(1)イ.」に記載のとおり、本件明細書に記載されている方法によって、Rリッチ相の間隔の平均値として、物理的に意味のある値を得ることができないわけではなく、また、上記「1.(2)イ.」、上記「1.(3)イ.」、上記「1.(4)イ.」に記載のとおり、限られた領域の反射電子像において、任意に複数の測定領域を設定し、平均値を算出する方法によって、得られた平均値が、材料全体の特徴を適切に評価できる量とならないわけでもないから、本件請求項1に記載されている「30μm以上1000μm以下」とのRリッチ相の間隔の平均値は、本件明細書で言及されている反射電子像から適切に取得されたものでないとまではいえない。
よって、本件請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(3)まとめ
よって、特許異議申立人のサポート要件に関する申立理由についての上記主張は採用することはできず、本件請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
3.申立理由3(明確性要件)について
(1)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、概略次のような明確性要件に関する申立理由を主張している。
本件発明1において、「Rリッチ相」を、「R‐T‐B系永久磁石の磁化容易軸方向に略平行」な「R‐T‐B系永久磁石の断面において観察される」複数の「主相粒子の間に位置する」領域として定義し、そのRリッチ相について、「前記磁化容易軸方向に略垂直な方向における前記Rリッチ相の間隔の平均値は、30μm以上1000μm以下であり」と、間隔を規定しているが、本件発明1で「前記磁化容易軸方向に略垂直な方向における前記Rリッチ相の間隔の平均値」を規定している「主相粒子の間に位置する」Rリッチ相が、一次粒子としての「主相粒子の間に位置する」方のRリッチ相なのか、二次粒子としての「主相粒子の間に位置する」方のRリッチ相なのか、明らかではないので、本件請求項1に係る発明は明確でない。請求項1を引用する請求項2~6に係る発明についても同様である。
(2)判断
本件明細の段落【0022】には、「主相粒子4は、一つの結晶粒(つまり一次粒子)と言い換えられえてよい」点が記載され、段落【0027】には、「図2に示されるように、断面2csにおいて観察される各主相粒子4は、扁平である。換言すれば、断面2csにおいて観察される各主相粒子4は、板状であってよい。複数の扁平な主相粒子4は、磁化容易軸方向Cに沿って積み重なっていてよい。永久磁石2は、互いに結合した複数の主相粒子4から構成される二次粒子4aを更に含んでよい。・・・少なくとも一部のRリッチ相6は、複数の二次粒子4aの間の粒界に位置してよい。」点が記載されているとおり、本件明細書では一貫して主相粒子4は一次粒子であり、二次粒子4aと使い分けているので、本件発明1で「前記磁化容易軸方向に略垂直な方向における前記Rリッチ相の間隔の平均値」を規定している「主相粒子の間に位置する」Rリッチ相は、一次粒子としての「主相粒子の間に位置する」方のRリッチ相であると理解することができる。
よって、本件請求項1に係る発明は明確であるといえる。
(3)まとめ
よって、特許異議申立人の明確性に関する申立理由についての上記主張は採用することはできず、本件請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし6に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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