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特許異議申立

2025-700081

R‐T‐B系永久磁石

審判番号
2025-700081
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-212696
登録番号
7518754
請求日
2025年01月17日
審決日
2025年04月24日
公報発行日
2025年05月30日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】TDK株式会社
  • 【権利者代理人】長谷川 芳樹
  • 【権利者代理人】黒木 義樹
  • 【権利者代理人】青木 博昭
  • 【権利者代理人】石坂 泰紀
  • 【異議申立人】橋田 奈美子
審判長/審判官
  • 審判長 篠原 功一
  • 審判官 井上 信一
  • 審判官 多田 幸司
分類
P1651.113-Y (H01F) / P1651.121-Y (H01F) / P1651.537-Y (H01F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7518754号発明「R‐T‐B系永久磁石」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7518754号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。

理由

理 由 1.手続の経緯 特許第7518754号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、令和2年12月22日に出願され、令和6年7月9日にその特許権の設定登録がなされ、同年7月18日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1ないし9に係る特許に対して、令和7年1月17日に特許異議申立人 橋田 奈美子により特許異議の申立てがなされたものである。 2.本件発明 特許第7518754号の請求項1ないし9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明9」という。)は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 希土類元素R、遷移金属元素T及びBを含有するR‐T‐B系永久磁石であって、 前記R‐T‐B系永久磁石は、Rとして、少なくともNdを含有し、 前記R‐T‐B系永久磁石は、Tとして、少なくともFeを含有し、 前記R‐T‐B系永久磁石は、複数の主相粒子と、複数のRリッチ相と、を備え、 前記主相粒子は、少なくともR、T及びBを含有し、 前記Rリッチ相は、少なくともRを含有し、 前記R‐T‐B系永久磁石の断面において観察される前記主相粒子は、扁平であり、 前記断面は、前記R‐T‐B系永久磁石の磁化容易軸方向に略平行であり、 前記Rリッチ相は、複数の前記主相粒子の間に位置し、 前記磁化容易軸方向における前記Rリッチ相の間隔の平均値は、5μm以上10μm以下である、 R‐T‐B系永久磁石。 【請求項2】 前記断面において観察される前記主相粒子の短軸の長さの平均値は、20nm以上200nm以下である、 請求項1に記載のR‐T‐B系永久磁石。 【請求項3】 Rの含有量は、28質量%以上33質量%以下であり、 Bの含有量は、0.8質量%以上1.1質量%以下である、 請求項1又は2に記載のR‐T‐B系永久磁石。 【請求項4】 少なくとも一部又は全ての前記Rリッチ相は、Rの酸化物を含有する、 請求項1~3のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。 【請求項5】 少なくとも一部又は全ての前記Rリッチ相は、前記Rの酸化物のみからなる、 請求項4に記載のR‐T‐B系永久磁石。 【請求項6】 複数の扁平な前記主相粒子が、前記磁化容易軸方向に沿って積み重なっている、 請求項1~5のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。 【請求項7】 熱間加工磁石である、 請求項1~6のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。 【請求項8】 前記Rリッチ相におけるRの濃度は、前記断面におけるRの濃度の平均値よりも高く、 Rの濃度の単位は、原子%である、 請求項1~7のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。 【請求項9】 前記Rリッチ相におけるRの濃度は、前記主相粒子におけるRの濃度よりも高く、 Rの濃度の単位は、原子%である、 請求項1~8のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。」 3.申立理由の概要 (1)申立理由1(新規性) 請求項1、3、6ないし9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1、3、6ないし9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (2)申立理由2(進歩性) 請求項1、3、6ないし9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、 請求項2、4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明、及び甲第3号証に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4、6ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 甲第1号証:特開2016-29679号公報 甲第3号証:特開2010-27852号公報 (以下、参考文献) 甲第2号証:"Comparison of coercivity and squareness in hot-deformed and sintered magnets produced from a Nd-Fe-B-Cu-Ga alloy" X.D. Xu et al., Scripta Materialia 160(2019)9-14 (3)申立理由3(サポート要件) 請求項5ないし9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項5ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (4)申立理由4(明確性要件) 請求項1ないし9に係る発明は、明確でないから、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 4.甲第1号証の記載事項 甲第1号証(特開2016-29679号公報)には、「希土類磁石の製造方法」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 (1)「【請求項1】 希土類磁石用の粉末を加圧成形して焼結体を製造する第1のステップ、 前記焼結体に異方性を与える熱間塑性加工を施して希土類磁石前駆体を製造する第2のステップ、 希土類磁石前駆体を10℃/秒以上の冷却速度で冷却して希土類磁石を製造する第3のステップからなる希土類磁石の製造方法。 ・・・・(中 略)・・・・ 【請求項4】 前記第1のステップでは、(Rl)x(Rh)yTzBsMt(RlはYを含む一種以上の軽希土類元素、RhはDy、Tbの少なくとも一種からなる重希土類元素、TはFe、Ni、Coの少なくとも一種以上を含む遷移金属、Bはホウ素、MはTi、Ga、Zn、Si、Al、Nb、Zr、Ni、Co、Mn、V、W、Ta、Ge、Cu、Cr、Hf、Mo、P、C、Mg、Hg、Ag、Auの少なくとも一種類以上で、12≦x≦20、0≦y≦4、z=100-x-y-s-t、5≦s≦20、0≦t≦3で、いずれも質量%)の組成式で表され、 主相は(RlRh)2T14Bから構成され、 粒界相中の(RlRh)1.1T4B4相の含有量が0より大きく50質量%以下の範囲である、組織からなる焼結体が製造される請求項1~3のいずれかに記載の希土類磁石の製造方法。」 (2)「【0012】 前記目的を達成すべく、本発明による希土類磁石の製造方法は、希土類磁石用の粉末を加圧成形して焼結体を製造する第1のステップ、前記焼結体に異方性を与える熱間塑性加工を施して希土類磁石前駆体を製造する第2のステップ、希土類磁石前駆体を10℃/秒以上の冷却速度で冷却して希土類磁石を製造する第3のステップからなるものである。」 (3)「【0018】 第1のステップでは、主相と粒界相からなる組織を有する磁粉を製作する。たとえば、液体急冷にて微細な結晶粒である急冷薄帯(急冷リボン)を製作し、これを粗粉砕等して希土類磁石用の磁粉を製作することができる。 【0019】 この磁粉をたとえばダイス内に充填してパンチで加圧しながら焼結してバルク化を図ることにより、等方性の焼結体が得られる。この焼結体の組織の実施の形態として、(Rl)x(Rh)yTzBsMt(RlはYを含む一種以上の軽希土類元素、RhはDy、Tbの少なくとも一種からなる重希土類元素、TはFe、Ni、Coの少なくとも一種以上を含む遷移金属、Bはホウ素、MはTi、Ga、Zn、Si、Al、Nb、Zr、Ni、Co、Mn、V、W、Ta、Ge、Cu、Cr、Hf、Mo、P、C、Mg、Hg、Ag、Auの少なくとも一種類以上で、12≦x≦20、 0≦y≦4、z=100-x-y-s-t、 5≦s≦20、0≦t≦3で、いずれも質量%)の組成式で表され、主相は(RlRh)2T14Bから構成され、粒界相中の(RlRh)1.1T4B4相の含有量が0より大きく50質量%以下の範囲である、組織からなる焼結体を挙げることができる。 【0020】 第2のステップにおける熱間塑性加工には、据え込み鍛造加工、押出し鍛造加工(前方押出し法、後方押出し法)などがあり、これらのうちの一種、もしくは二種以上を組み合わせて焼結体内部に加工歪みを導入し、たとえば加工率が60~80%程度の強加工を実施することにより、高い配向を有して磁化性能に優れた希土類磁石が製造される。」 (4)「【0032】 (希土類磁石の製造方法の実施の形態1) 図1a、図1bの順で本発明の希土類磁石の製造方法の第1のステップを説明した模式図であり、図1cは第2のステップを説明した模式図である。また、図4a~図4dはいずれも本発明の製造方法の第3のステップを説明した模式図である。また、図2aは図1bで示す焼結体のミクロ構造を説明した図であり、図2bは図1cの希土類磁石前駆体のミクロ構造を説明した図である。さらに、図6は製造された希土類磁石の結晶組織のミクロ構造を示した図である。 ・・・・(中 略)・・・・ 【0034】 粗粉砕された急冷薄帯Bを図1bで示すように超硬ダイスDとこの中空内を摺動する超硬パンチPで画成されたキャビティ内に充填し、超硬パンチPで加圧しながら(X方向)加圧方向に電流を流して通電加熱することにより、(Rl)x(Rh)yTzBsMt(RlはYを含む一種以上の軽希土類元素、RhはDy、Tbの少なくとも一種からなる重希土類元素、TはFe、Ni、Coの少なくとも一種以上を含む遷移金属、Bはホウ素、MはMはTi、Ga、Zn、Si、Al、Nb、Zr、Ni、Co、Mn、V、W、Ta、Ge、Cu、Cr、Hf、Mo、P、C、Mg、Hg、Ag、Auの少なくとも一種類以上で、12≦x≦20、 0≦y≦4、z=100-x-y-s-t、 5≦s≦20、0≦t≦3(いずれも質量%))の組成式で表され、主相と粒界相からなる組織を有し、主相が50nm~300nm程度の結晶粒径を有している焼結体Sを製造する(以上、第1のステップ)。 【0035】 粒界相にはNd等と、Ga、Al、Cu、Co等の少なくとも一種類以上が含まれており、Ndリッチな状態となっている。また、粒界相は、Nd相と、Nd1.1T4B4相から主として構成されており、Nd1.1T4B4相の含有量が0より大きく50質量%以下の範囲に調整されている。 【0036】 図2aで示すように、焼結体Sはナノ結晶粒MP(主相)間を粒界相BPが充満する等方性の結晶組織を呈している。そこで、この焼結体Sに磁気的異方性を与えるべく、図1cで示すように焼結体Sの長手方向(図1bでは水平方向が長手方向)の端面に超硬パンチPを当接させ、超硬パンチPで加圧しながら(X方向)熱間塑性加工を施すことにより、図2bで示すように異方性のナノ結晶粒MPを有する結晶組織の希土類磁石前駆体Cが製造される(以上、第2のステップ)。 【0037】 なお、熱間塑性加工による加工度(圧縮率)が大きい場合、たとえば圧縮率が10%程度以上の場合を、熱間強加工もしくは単に強加工と称することができ、60~80%程度の圧縮率で強加工するのがよい。 【0038】 図2bで示す希土類磁石前駆体Cの結晶組織において、ナノ結晶粒MPは扁平形状をなし、異方軸とほぼ平行な界面は湾曲したり屈曲しており、特定の面で構成されていない。 ・・・・(中 略)・・・・ 【0041】 そこで、第2のステップにおいて熱間塑性加工にて希土類磁石前駆体Cを製造した後、第3のステップにおいて希土類磁石前駆体Cを冷却するとともにその冷却速度を制御し、結晶間の粒界相BPに存在する液相を急速に固定(組織凍結)させる。 ・・・・(中 略)・・・・ 【0043】 以上、様々な方法で、たとえば800℃程度に昇温した状態の希土類磁石前駆体Cを冷却することにより、希土類磁石が製造される。そして、上記種々の形態の冷却方法においてはいずれも、10℃/秒以上の冷却速度で冷却するのが重要である。 【0044】 この冷却速度の規定は、後述する本発明者等による実験結果によるものであり、希土類磁石前駆体Cを10℃/秒以上の冷却速度で冷却することにより、図6で示すように保磁力性能に優れた希土類磁石RMを得ることができる。」 (5)「 [図:0001422483000001.jpg] 」 (6)「 [図:0001422483000002.jpg] 」 上記(1)ないし(6)から以下のことがいえる。 ・甲第1号証に記載の「希土類磁石の製造方法」は、上記(1)の【請求項1】、(2)、(3)の記載事項によれば、希土類磁石用の粉末を加圧成形して焼結体を製造する第1のステップ、前記焼結体に異方性を与える熱間塑性加工を施して希土類磁石前駆体を製造する第2のステップ、希土類磁石前駆体を10℃/秒以上の冷却速度で冷却して希土類磁石を製造する第3のステップからなるものである。 ・上記(1)の【請求項4】、(3)、(4)の記載によれば、第1のステップで製造される焼結体は、(Rl)x(Rh)yTzBsMt(RlはYを含む一種以上の軽希土類元素、RhはDy、Tbの少なくとも一種からなる重希土類元素、TはFe、Ni、Coの少なくとも一種以上を含む遷移金属、Bはホウ素、MはTi、Ga、Zn、Si、Al、Nb、Zr、Ni、Co、Mn、V、W、Ta、Ge、Cu、Cr、Hf、Mo、P、C、Mg、Hg、Ag、Auの少なくとも一種類以上で、12≦x≦20、0≦y≦4、z=100-x-y-s-t、5≦s≦20、0≦t≦3で、いずれも質量%)の組成式で表され、主相と粒界相からなる組織を有し、主相は(R1Rh)2T14Bから構成されてなるものである。また、上記(4)の段落【0035】の記載によれば、粒界相は、Nd相と、Nd1.1T4B4相から主として構成され、Ndリッチな状態である。 ・上記(3)の段落【0020】の記載によれば、第2のステップにおける焼結体に異方性を与える熱間塑性加工により、高い配向を有する希土類磁石が製造されるものである。特に(4)の段落【0038】の記載、及び(5)の図2(b)によれば、当該熱間塑性加工を施して製造される希土類磁石前駆体の結晶組織は、ナノ結晶粒(主相)が扁平形状をなし、上記(4)の段落【0032】の記載、(6)の図6によれば、第3のステップを経て製造された希土類磁石の結晶組織にあっても、ナノ結晶粒(主相)が扁平形状をなしていることを見て取れる。 ここで、上記(6)の図6に示される扁平形状のナノ結晶粒(主相)は、製造される希土類磁石の断面において観察されるものであり、図中、各ナノ結晶粒(主相)に表示された矢印の方向は、異方軸、すなわち磁化容易軸の方向を意味することは自明なことである。すなわち、図6に示される希土類磁石の断面は磁化容易軸の方向に略平行な面であることを見て取れる。 以上のことから、特に実施の形態1において製造される「希土類磁石」を発明として捉え、上記記載及び図面を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「(Rl)x(Rh)yTzBsMt(RlはYを含む一種以上の軽希土類元素、RhはDy、Tbの少なくとも一種からなる重希土類元素、TはFe、Ni、Coの少なくとも一種以上を含む遷移金属、Bはホウ素、MはTi、Ga、Zn、Si、Al、Nb、Zr、Ni、Co、Mn、V、W、Ta、Ge、Cu、Cr、Hf、Mo、P、C、Mg、Hg、Ag、Auの少なくとも一種類以上で、12≦x≦20、0≦y≦4、z=100-x-y-s-t、5≦s≦20、0≦t≦3で、いずれも質量%)の組成式で表され、主相と粒界相からなる組織を有し、主相は(R1Rh)2T14Bから構成されてなる焼結体に異方性を与える熱間塑性加工、10℃/秒以上の冷却速度での冷却を施して得られる希土類磁石であって、 前記粒界相は、Nd相と、Nd1.1T4B4相から主として構成され、Ndリッチな状態であり、 前記希土類磁石の磁化容易軸の方向に略平行な断面において観察される前記主相は扁平形状をなす、希土類磁石。」 5.当審の判断 (1)申立理由1(新規性)について ア.本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 a.甲1発明における「希土類磁石」は、(Rl)x(Rh)yTzBsMt(RlはYを含む一種以上の軽希土類元素、RhはDy、Tbの少なくとも一種からなる重希土類元素、TはFe、Ni、Coの少なくとも一種以上を含む遷移金属、Bはホウ素、MはTi、Ga、Zn、Si、Al、Nb、Zr、Ni、Co、Mn、V、W、Ta、Ge、Cu、Cr、Hf、Mo、P、C、Mg、Hg、Ag、Auの少なくとも一種類以上で、12≦x≦20、0≦y≦4、z=100-x-y-s-t、5≦s≦20、0≦t≦3で、いずれも質量%)の組成式で表される焼結体に対して熱間塑性加工や10℃/秒以上の冷却速度での冷却を施して得られるものであるところ、熱間塑性加工や10℃/秒以上の冷却速度での冷却を施してもその組成は実質的に変化しない。ここで、甲1発明における軽希土類元素「R1」、遷移金属「T」、「B」(ホウ素)は、それぞれ本件発明1でいう「希土類元素R」、「遷移金属元素T」、「B」に相当し、よって、甲1発明における「希土類磁石」は、これら元素を含むものであるから、本件発明1でいう「R-T-B系永久磁石」に相当するものである。 そして、甲1発明においては、粒界相は、Nd相と、Nd1.1T4B4相から主として構成され、Ndリッチな状態であることから、上記組成のうち軽希土類元素「R1」としてNdを含むことは自明なことである。また、上記組成のうち遷移金属「T」としては少なくともFeを含むようにするのがごく一般的である。 したがって、本件発明1と甲1発明とは、「希土類元素R、遷移金属元素T及びBを含有するR-T-B系永久磁石であって、前記R-T-B系永久磁石は、Rとして、少なくともNdを含有し、前記R-T-B系永久磁石は、Tとして、少なくともFeを含有」するものである点で一致する。 b.甲1発明における「希土類磁石」は、主相と粒界相からなる組織を有し、主相は(R1Rh)2T14Bから構成されてなる焼結体に対して熱間塑性加工や10℃/秒以上の冷却速度での冷却を施して得られ、粒界相は、Nd相と、Nd1.1T4B4相から主として構成され、Ndリッチな状態であるところ、熱間塑性加工や10℃/秒以上の冷却速度での冷却を施しても主相と粒界相からなる組織を有し(上記「4.(6)」(図6)も参照)、主相の組成は実質的に変化しない。よって、甲1発明における「主相」は、本件発明1でいう「主相粒子」に相当し、(R1Rh)2T14Bから構成されることから、少なくとも軽希土類元素R1、遷移金属T及びBを含むものである。また、甲1発明における「粒界相」は、Ndリッチな状態であることから、少なくとも軽希土類元素R1としてNdを含み、本件発明1でいう「Rリッチ相」に相当するといえる。そして、甲1発明における「希土類磁石」にあっても、それぞれ複数の主相、粒界相を有することは自明なことである。 したがって、本件発明1と甲1発明とは、「前記R-T-B系永久磁石は、複数の主相粒子と、複数のRリッチ相と」を備え、「前記主相粒子は、少なくともR、T及びBを含有し、前記Rリッチ相は、少なくともRを含有」するものである点で一致する。 c.甲1発明においても、希土類磁石の磁化容易軸の方向に略平行な断面において観察される主相は扁平形状をなすものである。そして、粒界相が複数の主相の間に位置することも自明なことである。 したがって、本件発明1と甲1発明とは、「前記R-T-B系永久磁石の断面において観察される前記主相粒子は、扁平であり、前記断面は、前記前記R-T-B系永久磁石の磁化容易軸方向に略平行であり、前記Rリッチ相は、複数の前記主相粒子の間に位置」するものである点で一致する。 そして、本件発明1では「前記磁化容易軸方向における前記Rリッチ相の間隔の平均値は、5μm以上10μm以下」であることを特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定を有していない点で相違する。 よって上記a.ないしc.によれば、本件発明1と甲1発明とは、 「希土類元素R、遷移金属元素T及びBを含有するR-T-B系永久磁石であって、 前記R-T-B系永久磁石は、Rとして、少なくともNdを含有し、 前記R-T-B系永久磁石は、Tとして、少なくともFeを含有し、 前記R-T-B系永久磁石は、複数の主相粒子と、複数のRリッチ相と、を備え、 前記主相粒子は、少なくともR、T及びBを含有し、 前記Rリッチ相は、少なくともRを含有し、 前記R-T-B系永久磁石の断面において観察される前記主相粒子は、扁平であり、 前記断面は、前記前記R-T-B系永久磁石の磁化容易軸方向に略平行であり、 前記Rリッチ相は、複数の前記主相粒子の間に位置する、R-T-B系永久磁石。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点] 本件発明1では「前記磁化容易軸方向における前記Rリッチ相の間隔の平均値は、5μm以上10μm以下」であることを特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定を有していない点。 (イ)判断 上記のとおり、相違するところがあるから、本件発明1は、甲1号証に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しない。 イ.本件発明3、6ないし9について 請求項3、6ないし9は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点に係る発明特定事項を備えるものであるから、本件発明1についての判断と同様に、本件発明3、6ないし9は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、特許第29条第1項第3号に該当しない。 ウ.まとめ 以上のとおり、本件請求項1、3、6ないし9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。 (2)申立理由2(進歩性)について ア.本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、上記「(1)ア.(ア)」に記載したとおり、以下の相違点において相違し、その余の点で一致する。 [相違点] 本件発明1では「前記磁化容易軸方向における前記Rリッチ相の間隔の平均値は、5μm以上10μm以下」であることを特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定を有していない点。 (イ)判断 そこで、上記相違点について検討する。 そもそも甲第1号証には、磁化容易軸方向におけるRリッチ相の間隔の平均値について着目した記載も示唆もない。 特許異議申立人は特許異議申立書において、甲第1号証の図7(b)に示されるSEM画像図について、本件特許明細書の実施例で採用されているのと同じサイズの測定領域を設定して、明るい筋状に観察されるRリッチ相の間隔を測定領域内で実測し、測定領域内及び5つの測定領域間での平均値をとって、明るい筋状に観察されるRリッチ相の間隔の平均値を求めると「8.1μm」となり、本件発明1で特定する「5μm以上10μm以下」の範囲に一致している(含まれる)旨主張している。 しかしながら、甲第1号証の図7(b)に示されるSEM画像図は、焼結体に異方性を与える熱間塑性加工を施して得られる希土類磁石前駆体におけるものである。そもそも甲第1号証に記載された発明は、希土類磁石前駆体に対して、さらに10℃/秒以上の冷却速度での冷却を施すことによって「希土類磁石」を製造することを特徴とする発明であり、当該希土類磁石前駆体は、「希土類磁石」の製造途中のものにすぎず、甲第1号証において、10℃/秒以上の冷却速度での冷却ステップを省いて「希土類磁石前駆体」を永久磁石に係る発明として捉えることは妥当でない。よって、たとえ図7(b)に示される希土類磁石前駆体のSEM画像図について算出した明るい筋状に観察されるRリッチ相の間隔の平均値が「8.1μm」であったとしても、甲1号証に、Rリッチ相の間隔の平均値が8.1μmである「希土類磁石」(永久磁石)の発明が記載されているとまでいうことはできず、甲第1号証から上記相違点に係る構成を導き出すことはできない。 なお、甲第2号証についても、熱間変形磁石のSEM画像において、Ndリッチ相はNd2Fe14B相と比較して明るく撮影されていることや、磁化容易軸(c軸)の方向がおおむね主相の厚み方向に対応していることが記載(10頁右欄5~11行、Fig.2b)されているにすぎず、上記相違点に係る構成については記載も示唆もない。 よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.本件発明3、6ないし9について 請求項3、6ないし9は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点に係る発明特定事項を備えるものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明3、6ないし9は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.本件発明2、4について 請求項3、6ないし9は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点に係る発明特定事項を備えるものであるところ、特許異議申立人が本件発明2、4に対して提示した甲第3号証には、磁石を構成するNd-Fe-B系急冷粉末内部が、厚さ0.03~0.1μmの多数のR2Fe14B結晶が厚さ方向に磁化容易軸を揃えた構成となっていること(段落【0037】)や、熱間塑性加工(後方押出し工程)を経て製造された希土類磁石の実施例について、酸素含有量が1280~1560ppmであること(段落【0039】~【0049】)が記載されているにすぎず、上記相違点に係る構成については記載も示唆もなく、よって、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2、4は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第3号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ.まとめ 以上のとおり、本件請求項1ないし4、6ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。 (3)申立理由3(サポート要件)について ア.特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、概略次のようなサポート要件に関する申立理由を主張している。 本件請求項5では、「少なくとも一部又は全ての前記Rリッチ相は、前記Rの酸化物のみからなる」との事項を規定している。これに対して、本件特許明細書の段落【0026】には「Rリッチ相6は、Rの酸化物のみからなっていてもよい。」と記載されているが、一部又は全てのRリッチ相がRの酸化物のみからなる形態は、実施例等によって明細書中に具体的に開示されたものではなく、実施例について、段落【0102】に「全ての実施例及び比較例の場合において、少なくとも一部のRリッチ相は、Ndの酸化物を含有していた。」と記載されているのみである。さらに、永久磁石の製造にかかる条件を具体的にどのようにすれば、少なくとも一部又は全てのRリッチ相が、「Rの酸化物のみからなる」という状態を実際に形成できるのか、本件特許明細書の記載からは明らかでない。したがって、本件発明5、及びそれを引用する本件発明6~9は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 イ.判断 上記主張について検討する。 たしかに本件特許明細書には本件請求項5に記載の事項について、段落【0026】に「Rリッチ相6は、Rの酸化物のみからなっていてもよい。」と一応記載されているのみであり、これに対応する実施例やこれを実現するための具体的な製造条件などは記載されていない。しかしながら、そもそも本件において、発明が解決しようとする課題は、従来のR-T-B系永久磁石(例えば熱間加工磁石)は微細な結晶粒子径に見合った高い保持力が得られないということであって、かかる課題を解決するための手段は、R-T-B系永久磁石の断面におけるRリッチ相の分布を制御、具体的には磁化容易軸方向におけるRリッチ相の間隔の平均値を5μm以上10μm以下とすることであり、本件請求項5に記載された「少なくとも一部又は全ての前記Rリッチ相は、前記Rの酸化物のみからなる」との事項は、発明が解決しようとする課題とは直接関係のないことである。よって、たとえ本件特許明細書には、一部又は全てのRリッチ相がRの酸化物のみからなる形態についての実施例や具体的な製造条件が開示されていないからといって、本件請求項5に係る発明が発明の詳細な説明に記載されたものでないとまではいえない。 ウ.まとめ よって、特許異議申立人のサポート要件に関する申立理由についての上記主張は採用することはできず、本件請求項5ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 (4)申立理由4(明確性要件)について ア.特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、概略次のような明確性要件に関する申立理由を主張している。 本件請求項1には、「前記磁化容易軸方向における前記Rリッチ相の間隔の平均値は、5μm以上10μm以下である」と記載されている。かかるRリッチ相の間隔の平均値は、実施例において、80μm×10μmの測定領域を設定して評価されているが、10μmのような狭い幅で測定領域を設定した場合、SEM画像内でそれらの測定領域を設定する具体的な位置によって測定されるRリッチ相の間隔が大きく変化し得るため、測定領域の設定による揺らぎを抑えて、Rリッチ相の間隔の平均値を明確に規定することはできない。したがって、本件発明1、及びそれを引用する本件発明2~9は明確でない。 イ.判断 上記主張について検討する。 本件請求項1の「前記磁化容易軸方向における前記Rリッチ相の間隔の平均値は、5μm以上10μm以下である」という記載自体に不明確なところない。そして、本件特許明細書の段落【0030】、【0104】には、Rリッチ相の間隔の平均値の具体的な測定方法も記載されているところであり、かかる測定方法によれば、異議申立人が主張する「測定領域の設定による揺らぎ」を考慮して5つの測定領域のそれぞれにおけるRリッチ相の間隔の平均値を更に平均するようにしているものと解され、本件請求項1に係る発明が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものであるとはいえない。 ウ.まとめ よって、特許異議申立人の明確性要件に関する申立理由についての上記主張は採用することはできず、本件請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 6.むすび 以上のとおりであるから、本件請求項1ないし9に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700081

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