特許異議申立
2025-700543
六方晶窒化ホウ素粉末
- 審判番号
- 2025-700543
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-032919
- 登録番号
- 7588527
- 請求日
- 2025年05月21日
- 審決日
- 2026年03月25日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社トクヤマ
- 【異議申立人】宮本 順一
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 河本 充雄
- 審判官 塩谷 領大
- 分類
- P1652.113-YAA(C01B) / P1652.121-YAA(C01B) / P1652.537-YAA(C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7588527号発明「六方晶窒化ホウ素粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7588527号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第7588527号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7588527号の請求項1~7に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、令和3年3月2日に出願され、令和6年11月14日にその特許権の設定登録がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許1~5に対して、令和7年5月21日に特許異議申立人宮本順一(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和7年8月26日付けで取消理由が通知され、同年10月16日に特許権者により意見書及び訂正請求書の提出がされ、同年同月31日に特許権者により訂正請求書に対する手続補正書(方式)の提出がされた。
なお、令和7年10月16日提出の訂正請求書に対して、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を設けたが、指定期間内に意見書は提出されなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和7年10月16日に提出され、同年同月31日提出の手続補正書(方式)により補正された訂正請求書における訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~7〕を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「不純物元素の含有量が500ppm以下であることを特徴とする」と記載されているのを、「不純物元素の含有量が500ppm以下であり、吸油量が50~95cc/100gであることを特徴とする」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~7も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の「、吸油量が50~190cc/100g」との記載を削除する(請求項2の記載を引用する請求項3~7も同様に訂正する。)。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件の適否について)の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、「六方晶窒化ホウ素粉末」に対し、「吸油量が50~95cc/100g」との限定を加え、「六方晶窒化ホウ素粉末」の範囲を狭めるものであるから、本件特許の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
次に、訂正事項1が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて検討する。
本件明細書等の【0035】には、「また、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、吸油量が50~190ml/100g、特に、55~170ml/100g、更には、60~150ml/100gであることが好ましい。」と記載され、【0082】には、「実施例4 酸化ホウ素の425μm篩上残分が0.1重量%且つ、300μm篩上残分が15.0重量%とした以外は実施例1と同様にした。各条件、測定値を表1、2に示した。」と記載され、【0090】には以下の表2が記載されている。
「
[図:0001436189000001.jpg]
」
そうすると、六方晶窒化ホウ素粉末について、本件明細書等には、【0035】に吸油量が「50~190ml/100g」と記載され、実施例4に、「95cc/100g」と記載されているといるから、吸油量が50~95cc/100gであることが記載されているといえる。
したがって、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項から導くことができるものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1によって請求項1に「吸油量が50~95cc/100gであること」と記載されたことに伴い、請求項2の重複記載を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、本件明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)独立特許要件の適否
訂正事項1は、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~7についても同様に訂正するものであるが、そのうちの請求項6、7については特許異議の申立てがされていない請求項であるから、特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて検討する。
下記の第8で述べるように、訂正後の請求項6、7が直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由は発見されず、また他に訂正後の請求項6、7に係る特許を取り消すべき理由も発見しないから、訂正後の請求項6、7に係る発明は、独立して特許を受けることができるものである。
5 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項~第7項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許の請求項1~7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子からなり、湿式レーザー回折粒度分布法により測定される粒度分布の累積体積頻度50%の粒径(D50)が5~150μm、水銀圧入法により測定される細孔の体積基準メディアン径が3.0μm以下、不純物元素の含有量が500ppm以下であり、吸油量が50~95cc/100gであることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】 BET比表面積が2~10m2/gである請求項1記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】 長径が5~10μm、長径/短径が1.0~1.3、円形度が0.3~0.8の範囲にある凝集粒子を5%以上含む、請求項1又は2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】 請求項1~3のいずれか一項に記載の窒化ホウ素粉末を含む樹脂組成物。
【請求項5】 請求項4記載の樹脂組成物からなる樹脂シート。
【請求項6】 絶縁耐力が80kV/mm以上である請求項5記載の樹脂シート。
【請求項7】 シート密度が理論密度に対して89~97%である請求項5又は6に記載の樹脂シート。」
第4 特許異議申立理由、取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下の(1)、(2)のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:国際公開第2016/092952号
甲第2号証:特表2007-501179号公報
(1)申立理由1、2(新規性欠如、進歩性欠如)
ア 設定登録時の請求項1~5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
イ 設定登録時の請求項1~5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由3(サポート要件違反)
本件特許は、設定登録時の請求項1~5の記載が不備であるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由の概要
令和7年3月11日付けで通知した取消理由は、概略、以下の(1)のとおりである。
(1)取消理由1(サポート要件違反)
本件特許は、設定登録時の請求項1~5の記載が不備であるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第5 各証拠について
1 甲第1号証(国際公開2016/092952号)について
甲第1号証には、以下の記載がある。(下線は、当審が付与した。以下、同様である。)
(1)「[0012] [六方晶窒化ホウ素粉末]
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末(hBN粉末)は、hBNの一次粒子の凝集体を含むhBN粉末であって、目開き45μm篩下の粉末含有率が80質量%以上であり、一次粒子径が5μm以下、BET比表面積が15~25m2/g、50%体積累積粒径D50が10~15μmである。
[0013]<一次粒子>
本発明のhBN粉末の一次粒子径は、一次粒子の凝集体の圧縮破壊強度の向上の観点から、平均で、5μm以下であり、好ましくは0.5~5μm、より好ましくは1~4.5μm、更に好ましくは1.4~4μm、より更に好ましくは1.8~3.5μm、より更に好ましくは2~3μmである。
なお、一次粒子径は、実施例に記載の方法により測定した、一次粒子の長径の数平均値である。
本発明のhBN粉末に含まれる一次粒子は、鱗片状であってもよい。ここで、「鱗片状」とは、一次粒子の厚みに対する一次粒子の長径の比(長径/厚み)が5~20である形状を意味する。このように一次粒子が鱗片状である場合であっても、凝集体にすることにより、樹脂組成物及び樹脂シート内におけるhBN粉末の充填率を上げても一次粒子が一定の方向に配向することが防止又は抑制される。
・・・
[0019] 本発明のhBN粉末の平均細孔直径は、凝集体の圧縮破壊強度の向上の観点から、好ましくは80~400nm、より好ましくは90~300nm、更に好ましくは100~200nm、より更に好ましくは110~150nmである。
平均細孔直径は、全ての細孔をひとつの円筒形細孔と仮定したときの当該円筒形細孔の直径(D)であり、下記式で表される当該円筒形細孔の体積(V)及び側面積(A)から算出したものである。
V=πD2H/4 〔1〕
A=πDH 〔2〕
(上記式〔1〕及び〔2〕において、Dは平均細孔直径、Hは上記円筒形細孔の高さを示す。)
[0020] 体積(V)及び側面積(A)は、実施例に記載の水銀圧入法により得られる全細孔容積及び全細孔表面積として測定され、上記式〔1〕及び〔2〕より、平均細孔直径(D=4V/A)を求める。
平均細孔直径は、hBN凝集体の内部構造の違いを示す指標となる。
平均細孔直径が小さい場合には、hBN凝集体内に小さな空隙が多数点在しており、微小なhBN一次粒子同士が相互干渉し、崩壊しにくい構造を形成し、平均細孔直径が大きい場合は、少数の大きな空隙が点在しており、hBN一次粒子同士の干渉が不十分であるために崩壊しやすい構造となっているものと考えられる。」
(2)「実施例
[0059] 以下、実施例及び比較例を挙げてさらに具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
[0060][実施例1]
(1)粗製hBN粉末の作製
ホウ酸4g、メラミン2g及び水1gを加えたものを撹拌混合し、金型内に入れて加圧し、密度0.7g/cm3の成形体を得た。この成形体を乾燥機中にて300℃で100分間乾燥させたものをNH3ガス雰囲気下1100℃で120分間仮焼きした。この得られた仮焼物(粗製hBN)を粉砕して粗製hBN粉末(酸化ホウ素の含有量35質量%)を得た。
[0061](2)hBN粉末の作製
上記粗製hBN粉末100質量部に対して、炭素源として昭和電工(株)製の人造黒鉛微粉「UF-G30」を炭素換算で12質量部及びPVA水溶液(濃度2.5質量%)を10質量部加えることにより、hBN粉末100質量部に対する炭素源の炭素換算含有量が12質量部である混合物を得、この混合物をミキサーで撹拌混合した後、金型内に入れて、加圧し、密度1.2g/cm3の成形体を得た。この成形体を乾燥機中にて300℃で6時間乾燥させて乾燥物を得た。この乾燥物を、高周波炉において、窒素ガス雰囲気下、1750℃~2200℃で合計6時間焼成することでhBN焼成物を得た。得られたhBN焼成物をジョークラッシャー及びピンミルを用いて粉砕後、乾式振動篩装置[晃栄産業(株)製、商品名「佐藤式振動ふるい機」]を用いて、篩分時間60分の条件にて目開き45μm篩を用いて分級した。当該分級後における篩下のhBN粉末を実施例1に係るhBN粉末とした。
なお、上記のように分級して得られた実施例1に係るhBN粉末を、さらに後述する減圧吸引型篩分け機(エアージェットシーブ[アルパイン社製、機種名「A200LS」])を用いて、目開き45μm篩上下に分級したところ、hBN粉末の目開き45μm篩上の粉末含有率は11質量%であり、目開き45μ篩下の粉末含有率は89質量%であった。
このhBN粉末をSEMで観察したところ、図2に示されるように一次粒子がランダムな方向を向いた緻密なhBN凝集体を含むことが確認された。なお、図1は、図2中に存在するhBN凝集体の模式図である。
[0062](3)樹脂組成物の調製
有機マトリックスとして、液状硬化性エポキシ樹脂[ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名「jER828」、ビスフェノールA型、エポキシ当量184-194g/eq]100質量部と、硬化剤としてのイミダゾール[四国化成工業(株)製、商品名「2E4MZ-CN」]5質量部との併用物を用いた。
まず、前記の有機マトリックス100質量部に対して、前記のhBN粉末を当該hBN粉末及び当該有機マトリックスの総量中における含有量が60体積%となるように加え、倉敷紡績(株)製、マゼルスターを用いて撹拌混合し樹脂組成物を調製した。
なお、前記hBN粉末の体積基準の含有量(体積%)は、hBN粉末の比重(2.27)及び有機マトリックスとして用いられる液状硬化性エポキシ樹脂の比重(1.17)から求めた。
[0063](4)樹脂シートの作製
横10.5cm、縦13cmに切り取った離型フィルム上に、硬化膜厚が500μm以下となるように金型を用いて成形したのち、金型ごと離型フィルムに挟み、離型フィルムを介して、120℃、18MPaの条件で10分間圧着することにより、樹脂組成物を硬化させ、樹脂シートを作製した。
・・・
[0067][比較例2]
実施例1の(1)及び(2)を省略したこと、並びに、実施例1の(3)において、(2)で得られたhBN粉末に代えて、球状顆粒を製造する方法として広く知られているスプレードライ法により鱗片状hBNを凝集させた後、2000℃で焼結させることにより製造した、表2に示すhBN粉末特性を有する球状hBN粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物及び樹脂シートを作製した。
・・・
[0069][評価]
得られた粗製hBN粉末、hBN粉末、樹脂組成物及び樹脂シートについて、次の評価を行った。
・・・
[0073](hBN粉末の50%体積累積粒径及び90%体積累積粒径(D50及びD90))
粒度分布計[日機装(株)製、機種名「マイクロトラックMT3300EXII」]を用いてhBN粉末の体積規準のレーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(50%体積累積粒径、D50)と累積90%粒子径(90%体積累積粒径、D90)を測定した。粒度分布測定は実施例及び比較例で得られたhBN粉末0.06gを純水50gに3分間超音波処理することで調製した分散液を用いて行った。超音波処理は出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で超音波処理装置[(株)日本精機製作所製、機種名「超音波ホモジナイザーUS-150V」]を用いて行った。
・・・
[0077](気孔率、平均細孔直径)
実施例1~3及び比較例1~3のhBN焼成物を粉砕後、目開き106μm及び目開き45μmの篩を2段重ねで用いて前記乾式振動篩装置(篩分時間60分)にて分級した45μm~106μmの粒径を有するhBN凝集体を用意し、水銀圧入法により全細孔容積及び全細孔表面積を測定することにより、気孔率並びに前記式〔1〕及び〔2〕から算出される平均細孔直径を求めた。全細孔容積及び全細孔表面積は、「オートポアIV 9500」(マイクロメリテックス社製)を用いて測定した。
気孔率及び平均細孔直径は、hBN凝集体の粒径に対しては変化しないものとみなし、上記の45~106μmの粒径を有するhBN凝集体の測定値を、実施例及び比較例に係るhBN粉末の気孔率及び平均細孔直径とした。また、気孔径0.5~4000nmに範囲を限定し算出した。
・・・
[0080](hBN粉末の純度)
上述のとおり測定したhBN粉末中におけるB2O3量、CaO含有量及び炭素含有量の総量を不純物量として、hBN粉末の純度を求めた。
・・・
[0082] 以上の実施例及び比較例のhBN粉末の作製条件を表1に、評価結果を表2に示した。
なお、表1中の炭素源及びCa化合物は、hBN粉末を作製する際、粗製hBN粉末及び炭素源(比較例1及び3においては、さらにCa化合物)を混合して得られる混合物中における粗製hBN粉末100質量部に対する含有量を示す。
[0083]
[図:0001436189000002.jpg]
[0084]
[図:0001436189000003.jpg]
[0085] 表2に示すとおり、実施例1~3のhBN粉末は、比較例で得られたhBN粉末と比べて、目開き45μm篩下の粉末を88~89質量%含有し、緻密な一次粒子からなり、圧縮破壊強度は高いことが分かる。
また、実施例1~3及び比較例1~3の気孔率は他の特性と関係なく、ほぼ一定の値を示した。一方、平均細孔直径が小さくなるにつれ、BET比表面積及び圧縮破壊強度は高い値となり、平均細孔直径はBET比表面積及び圧縮破壊強度と相関関係があることが分かる。これはhBN凝集体の内部構造の違いが寄与しているものと考えられる。
つまり、平均細孔直径が小さい場合には、hBN凝集体内に小さな空隙が多数点在しており、微小なhBN一次粒子同士が相互干渉し、崩壊しにくい構造を形成していると考えられる。一方で平均細孔直径が大きい場合は、少数の大きな空隙が点在しており、hBN一次粒子同士の干渉が不十分であるために崩壊しやすい構造となっているもの考えられる。
図3に示す断面SEM観察により、平均細孔直径の小さい実施例1の粒子は粒子間の細孔直径が小さく、微小なhBN一次粒子でhBN凝集体が構成されていることが確認できる。一方、図4に示す断面SEM観察により、平均細孔直径の大きい比較例1の粒子は粒子間の細孔直径が大きく、大きなhBN一次粒子でhBN凝集体を構成していることが確認できる。
また、実施例1~3の樹脂シートはいずれも熱伝導率が10W/m・K以上であり、比較例1~3の樹脂シートよりも熱伝導性が優れていることが分かる。これは撹拌混合時に凝集体が壊れず、図5に示す模式図のように顆粒形状を維持することができたためであると考えられる。
なお、このようにして得られたhBN粉末を用い、熱伝導率及び成形性に優れる膜厚100μmの樹脂シートが得られる。本発明のhBN粉末を用いて、得られる樹脂シートの膜厚を薄くすることにより、優れた熱伝導率を有する、電子部品の軽薄化に有用な熱伝導性シートを提供することができる。」
2 甲第2号証(特開2007-501179号公報)について
甲第2号証には、以下の記載がある。
「【0041】
本発明の非晶質シリカは一般に、50~800m2/g、好ましくは100~700m2/g、より好ましくは140~400m2/gの範囲のBET比表面積を有する。BET比表面積は、非晶質シリカ粒子の基本物性の一つであり、吸油量はもちろん粒子の透明性および非晶質シリカ粒子のハンドリングに影響する。BET比表面積が50m2/g未満であれば大きい細孔が少量あることになり、非晶質シリカ粒子への負荷により細孔が潰れやすくなり、剪断応力下での吸油能は低下する。また、非晶質シリカ粒子の透明性が低下するので、艶消し効果が低減する恐れがある。一方、BET比表面積が800m2/gよりも大きければ細孔径が非常に小さく、透明性は向上するが吸油能が低下する。」
第6 新規性・進歩性欠如(申立理由1、2)についての当審の判断
1 甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如について
(1)甲第1号証に記載された発明
ア 上記第5の1(2)によれば、甲第1号証の[0067]には、「[比較例2] 実施例1の(1)及び(2)を省略したこと、並びに、実施例1の(3)において、(2)で得られたhBN粉末に代えて、球状顆粒を製造する方法として広く知られているスプレードライ法により鱗片状hBNを凝集させた後、2000℃で焼結させることにより製造した、表2に示すhBN粉末特性を有する球状hBN粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物及び樹脂シートを作製した。」と記載されていることから、比較例2のhBN粉末は、鱗片状hBNを凝集させた球状hBN粉末であるといえる。
イ 上記第5の1(2)によれば、甲第1号証の[0073]には、「(hBN粉末の50%体積累積粒径及び90%体積累積粒径(D50及びD90))粒度分布計[日機装(株)製、機種名「マイクロトラックMT3300EXII」]を用いてhBN粉末の体積規準のレーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(50%体積累積粒径、D50)と累積90%粒子径(90%体積累積粒径、D90)を測定した。粒度分布測定は実施例及び比較例で得られたhBN粉末0.06gを純水50gに3分間超音波処理することで調製した分散液を用いて行った。」と記載されていることから、比較例2のhBN粉末の粒度分布の50%体積累積粒径(D50)は、湿式レーザ回折散乱式粒度分布測定により測定されているといえる。
そして、上記第5の1(2)の[0084]表2には、比較例2のD50が14.5μmであることが記載されている。
そうすると、比較例2のhBN粉末の粒度分布の50%体積累積粒径(D50)は、14.5μmであるといえる。
ウ 上記第5の1(2)によれば、甲第1号証の[0077]には、「(気孔率、平均細孔直径) 実施例1~3及び比較例1~3のhBN焼成物を粉砕後、目開き106μm及び目開き45μmの篩を2段重ねで用いて前記乾式振動篩装置(篩分時間60分)にて分級した45μm~106μmの粒径を有するhBN凝集体を用意し、水銀圧入法により全細孔容積及び全細孔表面積を測定することにより、気孔率並びに前記式〔1〕及び〔2〕から算出される平均細孔直径を求めた。全細孔容積及び全細孔表面積は、「オートポアIV 9500」(マイクロメリテックス社製)を用いて測定した。」と記載され、上記第5の1(1)によれば、[0019]には、「平均細孔直径は、全ての細孔をひとつの円筒形細孔と仮定したときの当該円筒形細孔の直径(D)であり、下記式で表される当該円筒形細孔の体積(V)及び側面積(A)から算出したものである。
V=πD2H/4 〔1〕
A=πDH 〔2〕
(上記式〔1〕及び〔2〕において、Dは平均細孔直径、Hは上記円筒形細孔の高さを示す。)」と記載されているから、比較例2のhBN粉末の全細孔容積及び全細孔表面積は、水銀圧入法により測定されているといえる。
そして、上記第5の1(2)の[0084]表2には、比較例2の平均細孔直径が560nmであることが記載されている。
そうすると、比較例2のhBN粉末の、水銀圧入法により全細孔容積及び全細孔表面積を測定することにより、式〔1〕及び〔2〕から算出される平均細孔直径は、560nmであるといえる。
エ 上記第5の1(2)によれば、甲第1号証の[0080]には、「(hBN粉末の純度) 上述のとおり測定したhBN粉末中におけるB2O3量、CaO含有量及び炭素含有量の総量を不純物量として、hBN粉末の純度を求めた。」と記載されていることから、比較例2のhBN粉末の不純物量は、B2O3量、CaO含有量及び炭素含有量の総量であるといえる。
そして、上記第5の1(2)の[0084]表2には、比較例2のhBN粉末中のB2O3量が0.05質量5、CaO含有量が0.01質量%、炭素含有量が0.01質量%であることが記載されている。
そうすると、比較例2のhBN粉末の不純物量であるB2O3量、CaO含有量及び炭素含有量の総量は、0.07質量%であるといえる。
オ これらの記載を比較例2の「球状hBN粉末」に着目して整理すると、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
〔甲1発明〕
「鱗片状hBNを凝集させた球状hBN粉末であって、
湿式レーザ回折散乱式粒度分布測定により測定される粒度分布の50%体積累積粒径(D50)は、14.5μmであり、
水銀圧入法により全細孔容積及び全細孔表面積を測定することにより、下記式〔1〕及び〔2〕から算出される平均細孔直径は、560nmであり、
不純物量であるB2O3量、CaO含有量及び炭素含有量の総量は、0.07質量%である、球状hBN粉末。
V=πD2H/4 〔1〕
A=πDH 〔2〕
(上記式〔1〕及び〔2〕において、Dは平均細孔直径、Hは上記円筒形細孔の高さを示す。)」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
(ア)上記第5の1(1)によれば、甲第1号証の[0012]には、「本発明の六方晶窒化ホウ素粉末(hBN粉末)は、hBNの一次粒子の凝集体を含むhBN粉末」と記載され、[0013]には「本発明のhBN粉末に含まれる一次粒子は、鱗片状であってもよい。」と記載されていることから、甲1発明の「鱗片状hBNを凝集させた球状hBN粉末」は、六方晶窒化ホウ素の一次粒子を凝集させた球状hBN粉末であるといえる。
そうすると、甲1発明の「鱗片状hBNを凝集させた球状hBN粉末」は、本件発明1の「六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子から」なる「六方晶窒化ホウ素粉末」に相当する。
(イ)甲1発明の「湿式レーザ回折散乱式粒度分布測定により測定される粒度分布の50%体積累積粒径(D50)が14.5μmであり」は、本件発明1の「湿式レーザー回折粒度分布法により測定される粒度分布の累積体積頻度50%の粒径(D50)が5~150μm」に相当する。
(ウ)したがって、本件発明1と甲1発明とは、「六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子からなり、湿式レーザー回折粒度分布法により測定される粒度分布の累積体積頻度50%の粒径(D50)が5~150μm」「であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・本件発明1は、「水銀圧入法により測定される細孔の体積基準メディアン径が3.0μm以下」であるのに対し、甲1発明は、「細孔の体積基準メディアン径」について特定されておらず、「水銀圧入法により全細孔容積及び全細孔表面積を測定することにより、下記式〔1〕及び〔2〕から算出される平均細孔直径は、560nm」、「V=πD2H/4 〔1〕 A=πDH 〔2〕(上記式〔1〕及び〔2〕において、Dは平均細孔直径、Hは上記円筒形細孔の高さを示す。)」と特定されている点(以下、「相違点1」という。)
・本件発明1は、「不純物元素の含有量が500ppm以下」であるのに対し、甲1発明は「不純物量であるB2O3量、CaO含有量及び炭素含有量の総量は、0.07質量%」である点(以下、「相違点2」という。)
・本件発明1は、「吸油量が50~95cc/100g」であるのに対し、甲1発明は、それを特定していない点(以下、「相違点3」という。)
イ 相違点についての判断
(ア)事案に鑑み、先ず相違点2について検討する。
a 新規性について
相違点2に係る本件発明1の「不純物元素の含有量が500ppm以下」との構成について、本件明細書等の[0027]には、「ここでいう不純物元素とは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウム、リチウム、ストロンチウム、鉄、硫黄、ニッケル、クロム、マンガン、ケイ素、リン、チタン、バリウム、コバルト元素のことである。前記不純物元素の含有量は、上記不純物元素の総含有量をいう。」と記載されている。
したがって、本件発明1の「不純物元素の含有量が500ppm以下」とは、「カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウム、リチウム、ストロンチウム、鉄、硫黄、ニッケル、クロム、マンガン、ケイ素、リン、チタン、バリウム、コバルト元素」の「総含有量が500ppm」であるといえる。
そうすると、甲1発明の「不純物量であるB2O3量、CaO含有量及び炭素含有量の総量は、0.07質量%」は、本件発明1の「不純物元素の含有量が500ppm以下」に相当するとはいえないから、相違点2は、実質的な相違点である。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。
b 進歩性について
上記aで検討したとおり、本件発明1の「不純物元素の含有量が500ppm以下」とは、「カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウム、リチウム、ストロンチウム、鉄、硫黄、ニッケル、クロム、マンガン、ケイ素、リン、チタン、バリウム、コバルト元素」の「総含有量が500ppm」であるところ、甲第1号証及び甲第2号証のいずれにも、「カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウム、リチウム、ストロンチウム、鉄、硫黄、ニッケル、クロム、マンガン、ケイ素、リン、チタン、バリウム、コバルト元素」の「総含有量」を「500ppm以下」とすることは、記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明において、「マグネシウム、ナトリウム、アルミニウム、リチウム、ストロンチウム、鉄、硫黄、ニッケル、クロム、マンガン、ケイ素、リン、チタン、バリウム、コバルト元素」の「総含有量」を「500ppm以下」とすること、すなわち、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(2)と事情は同じである。
したがって、本件発明2~5は、甲第1号証に記載された発明でなく、また、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証に記載された事項に基づき当業者が容易に想到し得た発明ではない。
3 新規性・進歩性欠如(申立理由1、2)についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1、2に理由はない。
第7 サポート要件違反(申立理由3、取消理由1)についての当審の判断
1 サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定するいわゆるサポート要件に適合するものであるか否かについては、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくても当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
そこで、上記観点に立って、以下検討する。
2 特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。
3 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
(1)「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子が凝集した凝集粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末において、凝集により熱伝導の異方性を解消して樹脂に充填時の高い熱伝導率を発現しつつ、樹脂に充填した際に極めて高い絶縁耐力を付与することが出来、更に、樹脂組成物の軽量化を図ることも可能な六方晶窒化ホウ素粉末を提供することにある。」
(2)「【発明を実施するための形態】
【0020】
(六方晶窒化ホウ粉末)
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子からなり、細孔の体積基準メディアン径が3μm以下、不純物元素の含有量が500ppm以下であることを特徴としている。
【0021】
尚、六方晶窒化ホウ素の同定は、試料粉末を、X線回折測定において、六方晶窒化ホウ素以外の帰属ピークが無いことを確認し、六方晶窒化ホウ素粉末として同定した。ここで、上記X線回折測定は、Rigaku社製、全自動水平型多目的X線回折装置SmartLab(商品名)を用いた。測定条件はスキャンスピード20度/分、ステップ幅0.02度、スキャン範囲10~90度とした。また、六方晶窒化ホウ素粉末の結晶性を表すGI値は、六方晶窒化ホウ素粉末のX線回折スペクトルの(100)、(101)及び(102)回折線の積分強度比(面積比)から、式、GI=[{(100)+(101)}/[(102)]によって算出した。本発明の六方晶窒化ホウ素粉末のGI値は2.5以下であり、実施例においてもそれを確認した。
【0022】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子の凝集体よりなるが、かかる凝集体は、従来の造粒方法や焼結方法のように、一度製造された鱗片状の六方晶窒化ホウ素単粒子を凝集させる製法ではなく、六方晶窒化ホウ素を合成する特定の反応条件を採用し、凝集粒子を生成せしめることによって得ることができるものである。
【0023】
それ故、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を構成する凝集粒子は、微細な六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子より構成されており、凝集粒子間の間隙が極めて小さく、細孔の体積基準メディアン径が3.0μm以下という特徴的な値を示す。かかる体積基準メディアン径は、好ましくは2.8μm、更に好ましくは2.5μm以下である。上記細孔体積基準メディアン径が3.0μmを超える場合、樹脂に充填した際に、絶縁抵抗に影響を及ぼす気泡が残存し易くなり、高い絶縁耐力を発揮することが困難となる。即ち、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を構成する凝集粒子の細孔の体積基準メディアン径が前記値を示すことにより、樹脂に充填した際、間隙に存在するボイドが絶縁耐力にほとんど影響せず、得られる樹脂組成物は極めて高い絶縁耐力を発揮することができる。また、凝集粒子内及び表面に細孔(間隙)が存在することにより、六方晶窒化ホウ素粉末を充填して得られる樹脂組成物の軽量化を図ることも可能である。上記細孔は図3のSEM写真によって確認する事が出来る。
【0024】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、凝集粒子の細孔の体積基準メディアン径に加え、細孔径が3μm以下の範囲の細孔の細孔容積が、0.2cm3/g以上、好ましくは、0.5~2.0cm3/gであることが、細孔の残存による樹脂組成物の軽量化の効果をより一層高めるために好ましい。
【0025】
前記細孔体積基準メディアン径、細孔容積は、Micromeritics社製、オートポアIV9520を使用した水銀圧入法により、0.0036μm~200μmの細孔を測定し、横軸に細孔径、縦軸に積算細孔容積をプロットした積算細孔分布から算出した。
【0026】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、後述する製造方法により焼結助剤を使用しない方法により得られるため、焼結助剤による純度低下が無く、高純度であり、例えば、絶縁シートを構成する樹脂組成物にフィラーとして使用した際、前記細孔の小さいことによる効果と共に働いて、耐電圧性の向上に寄与する。即ち、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、不純物元素の含有量が、500ppm以下、特に400ppm以下と、高純度であることを特徴とする。上記不純物元素の含有量が上記範囲を超えると、絶縁耐力に悪影響を及ぼし、本発明の目的を達成することができない。
【0027】
ここでいう不純物元素とは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウム、リチウム、ストロンチウム、鉄、硫黄、ニッケル、クロム、マンガン、ケイ素、リン、チタン、バリウム、コバルト元素のことである。前記不純物元素の含有量は、上記不純物元素の総含有量をいう。
【0028】
前記六方晶窒化ホウ素粉末の不純物元素含有割合は、蛍光X線分析法によって測定した値である。また、蛍光X線分析装置として、実施例においては、Rigaku社製ZSX Primus2(商品名)を使用した。
【0029】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、C%が0.04%以下、O%が0.4%以下であることが、前記不純物元素量の少ないことと相まって、熱伝導率、絶縁耐力の向上により効果的である。
【0030】
前記六方晶窒化ホウ素粉末のO%は、堀場製作所製:酸素/窒素分析装置EMGA-620を使用して測定した。六方晶窒化ホウ素粉末のC%は、堀場製作所製、EMIA-110を用いて測定した。
【0031】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の粒子径は、樹脂への充填性を勘案すれば、湿式レーザー回折粒度分布法における粒度分布の累積体積頻度50%の粒径(D50)が5~150μmであり、好ましくは、10~100μm、特に20~80μmの粒子径が推奨される。上記粒子径に調整するために、後述する製造方法によって得られた粗六方晶窒化ホウ素粉末より、粗大凝集粒子、具体的には、200μm超、特に、150μm超の凝集粒子を篩等の分級手段により分別して、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を構成することも可能である。また、粗大粒子を分取して適当な大きさに解砕後、六方晶窒化ホウ素粉末に戻すことにより六方晶窒化ホウ素粉末を構成することもできる。
【0032】
尚、実施例において、前記湿式レーザー回折粒度分布法による粒径の測定は、HORIBA社製:LA-950V2(商品名)を使用して行っている。
【0033】
また、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、比表面積が、1~15m2/gであることが好ましく、1.5~14.0m2/gであればより好ましく、2.0~13.0m2/gであれば更に好ましい。即ち、15.0m2/gを超える六方晶窒化ホウ素粉末は、微粒子を多く含ことを意味し、このような六方晶窒化ホウ素粉末は、結晶性の低い窒化ホウ素粉末の含量が多くなり、絶縁放熱シート内での熱抵抗の原因になるだけでなく、粉が舞いやすくなる等といったハンドリング性の観点からも好ましくない。一方、1m2/g未満の六方晶窒化ホウ素粉末は、粒成長した扁平な六方晶窒化ホウ素単粒子の割合が増加し、その熱伝導の異方性により樹脂に充填した場合の樹脂組成物の熱伝導率の低下を招くおそれがあるため好ましくない。
【0034】
上記六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積は、BET1点法によって測定した値であり、実施例においては、マウンテック社製:Macsorb HM model-1201(商品名)を使用して測定を行っている。
【0035】
また、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、吸油量が50~190ml/100g、特に、55~170ml/100g、更には、60~150ml/100gであることが好ましい。即ち、上記DBP吸収量は、六方晶窒化ホウ素粉末の特性のうち、凝集粒子内の開気孔量及び、粒子表面のストラクチャーの有無の状態、樹脂との濡れ性を示すものであり、開気孔が多く、ストラクチャーが発達したものであるほど高い。即ち、上記吸油量が低すぎるものは、開気孔が大きく、ストラクチャーの発達十分でなく、好ましくなく、高すぎると反対の傾向になり、樹脂組成物にした際に大きな気泡を噛みやすくなるため好ましくない。
上記六方晶窒化ホウ素粉末の吸油量は、JIS K5101-13-1:2004(「顔料試験方法」-第13部:吸油量-第1節:精製あまに油法)に示される手順に基づき測定される。
【0036】
更に、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、タップ嵩密度が0.40g/cm3以上であることが好ましい。即ち、上記タップ嵩密度は、六方晶窒化ホウ素粉末の特性のうち、粒子形状、粒度分布広さを示す指標であり、上記値が高いという事は、大きな開気孔が少なく、球状に近い凝集粒子が多く、また、最密充填に近い粒度分布を有している状態を示すものである。そして、上記本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、後述する特定の六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有量を増加させることにより、粉末内の隙間を埋めやすく、上記タップ嵩密度を高くすることが可能である。尚、実施例で作製された六方晶窒化ホウ素粉末のタップ嵩密度は全て0.40g/cm3以上であった。
【0037】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、長径が5~10μm、長径/短径が1.0~1.3、円形度が0.3~0.8の範囲にある凝集粒子(特定凝集粒子)を5%以上好ましくは、10%以上の割合で含むことが好ましい。
【0038】
尚、前記SEM観察長径範囲は、倍率10000倍のSEM観察像で確認した。SEM観察長径/短径は、倍率10000倍のSEM観察像から算出した。円形度は、倍率10000倍のSEM観察像を、画像解析ソフトを用いて4π×(面積)/(周囲長)2の式を用いて求めた。
【0039】
また、前記特定凝集粒子の含有割合%に関しては、以下の方法を用いて測定することができる。まず、KOWA株式会社の乾式振動篩KFC-500-1Dを用いて、目開き45μmのSUSメッシュを用いて、六方晶窒化ホウ素粉末を30分間、45μm篩上下に篩い分けし、45μm篩下重量割合X%を求めた。その後、回収した45μm篩下品の倍率1000倍SEM観察像より、該当六方晶窒化ホウ素凝集粒子と非該当粒子を選別し、45μm篩下の六方晶窒化ホウ素凝集粒子のSEM観察像面積割合Y%を求めた。最終的に、45μm篩下重量割合X%と45μm篩下の六方晶窒化ホウ素凝集粒子のSEM観察像面積割合Y%を掛け合わせた割合(X×Y×0.01)%を、本発明における前記特定凝集粒子の割合とした。例えば、六方晶窒化ホウ素粉末の45μm篩下重量割合Xが20wt%で、45μm篩下の前記特定凝集粒子のSEM観察像面積割合Yが60%であれば、前記特定凝集粒子の割合Zは、20×60×0.01=12%と算出する。
【0040】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末において、前記特定凝集粒子は、他の凝集粒子の隙間を埋めるのに適した適度な大きさを有し、また、略球状であるため、六方晶窒化ホウ素粉末中に前記割合で存在させることにより、六方晶窒化ホウ素粉末の樹脂への充填性を高め、比較的大きい気泡の残存を効果的に抑制することができ、樹脂組成物の絶縁耐力の向上に寄与するものと推定される。
【0041】
前記特定凝集粒子の六方晶窒化ホウ素粉末に占める割合は、前記した下限値より多い程上記作用を助長するために好ましく、後述の製造方法によって得られた六方晶窒化ホウ素粉末を前記篩等による分級により、比較的粒子径の大きい粒子を分別することによってその割合を増加させることが好ましい。
【0042】
また、前記特定凝集粒子は、後述する製造方法により六方晶窒化ホウ素粉末の一部として生成するものであるが、特定凝集粒子を構成する六方晶窒化ホウ素一次粒子の大きさが、他の凝集粒子に比して小さく揃っており、殆どの一次粒子の長径が4μm以下であるという特徴を有し、かかる特徴も前記した樹脂組成物における絶縁耐力の向上に寄与する。」
(3)「【0043】
(窒化ホウ素粉末の製造方法)
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、特に制限されるものではないが、代表的な製造方法を例示すれば、425μm篩上残分が3重量%以下の含酸素ホウ素化合物、カーボン源、含酸素カルシウム化合物を、含酸素ホウ素化合物に含まれるB源とカーボン源に含まれるC源の割合であるB/C(元素比)換算で0.63~0.73、含酸素ホウ素化合物とカーボン源との合計量(B2O3、C換算値)100質量部に対して含酸素カルシウム化合物をCaO換算で4~12質量部となる割合で混合し、窒素雰囲気下にて1910~2000℃の最高温度に加熱して、還元窒化した後、反応生成物中に存在する窒化ホウ素以外の副生成物を酸洗浄により除去することを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法が挙げられる。
【0044】
(原料)
上記本発明の製造方法の最大の特徴は、原料として、粒径の制御された含酸素ホウ素化合物、カーボン源、含酸素カルシウム化合物を、後述するように、所定の割合で混合し、1910℃以上の高温で還元窒化する点にある。各原料が示す役割については以下の通りである。
【0045】
(含酸素ホウ素化合物)
上記本発明の製造方法において、原料の含酸素ホウ素化合物としては、ホウ素原子を含有する化合物が制限なく使用される。例えば、ホウ酸、無水ホウ酸、メタホウ酸、過ホウ酸、次ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウムなどが使用できる。一般的には、入手が容易なホウ酸、酸化ホウ素が好適に用いられる。また、使用する含酸素ホウ素化合物の平均粒子径を、425μm篩上残分が3質量%以下、好ましくは、1.5質量%以下にすることが好ましい。特に、300μm篩上残分が50%以下であることがより好ましく、250μm篩上残分が70%以下であることが更に好ましい。即ち、含酸素ホウ素化合物の425μm篩上残分が3重量%以上であると、150μm以上の粗大窒化ホウ素凝集粒子が残存し易くなり、粗大凝集粒子内の残存空隙が増加して、得られる六方晶窒化ホウ素粉末において細孔のメディアン径が3μmを超え、絶縁耐力の低下を招く。」
(4)「【0077】
実施例1
425μm篩上残分が2.1重量%の酸化ホウ素195g、カーボンブラック99g、炭酸カルシウム55.2gをスパルタンミキサーを使用して混合した。該混合物の(B/C)元素比換算は0.68、含酸素ホウ素化合物、カーボン源の、B2O3、C換算質量合計量100質量部に対する上記含酸素カルシウム化合物のCaO換算質量含有割合は10.5質量部である。該混合物1500gを、黒鉛製タンマン炉を用い、窒素ガス雰囲気下、1500℃6時間、1940℃で4時間保持することで窒化処理した。
【0078】
次いで、副生成物含有窒化ホウ素を解砕して容器に投入し、該副生成物含有窒化ホウ素の5倍量の塩酸(7質量%HCl)を加え、スリーワンモーター回転数350rpmで24時間撹拌した。該酸洗浄の後、酸をろ過し、使用した酸と同量の純水に、ろ過して得られた窒化ホウ素を分散させ、再度ろ過した。この操作をろ過後の水溶液が中性になるまで繰り返した後、200℃で12時間真空乾燥させた。
【0079】
乾燥後に得られた粉末を目開き90μmの篩にかけて、白色の六方晶窒化ホウ素粉末を得た。得られた六方晶窒化ホウ素粉末中の各物性を上述した方法で測定し、表1、2に示した。
【0080】
実施例2
酸化ホウ素の425μm篩上残分が2.9重量%、(B/C)元素比換算を0.72、含酸素ホウ素化合物、カーボン源、の、B2O3、C換算質量合計量100質量部に対する上記含酸素カルシウム化合物のCaO換算質量含有割合を8質量部とした以外は実施例1と同様にした。各条件、測定値を表1、2に示した。
【0081】
実施例3
酸化ホウ素の425μm篩上残分が1.0重量%、(B/C)元素比換算を0.65、含酸素ホウ素化合物、カーボン源、の、B2O3、C換算質量合計量100質量部に対する上記含酸素カルシウム化合物のCaO換算質量含有割合を6質量部とした以外は実施例1と同様にした。各条件、測定値を表1、2に示した。
【0082】
実施例4
酸化ホウ素の425μm篩上残分が0.1重量%且つ、300μm篩上残分が15.0重量%とした以外は実施例1と同様にした。各条件、測定値を表1、2に示した。
【0083】
実施例5
酸化ホウ素の425μm篩上残分が0.5重量%、(B/C)元素比換算を0.70、含酸素ホウ素化合物、カーボン源の、B2O3、C換算質量合計量100質量部に対する上記含酸素カルシウム化合物のCaO換算質量含有割合を8質量部とした以外は実施例1と同様にした。また、得られた窒化ホウ素粉末を、上記45μm篩処理を行い、六方晶窒化ホウ素特定凝集粒子割合を18.2%まで高めた試料を作製した。測定値を表1、2に示した。
【0084】
比較例1~6
各条件、表1に示す部分を変更した以外は実施例1と同様にした。各条件、測定値を表1、2に示した。比較例2で作製した六方晶窒化ホウ素粉末には、本発明に該当する六方晶窒化ホウ素凝集粒子は含まれなかった。比較例6で作製した六方晶窒化ホウ素粉末は、白色粉末ではなく、一部カーボンが残存し、黒色部分が確認されており、粉体物性の分析を行っていない。
【0085】
[樹脂組成物]
前記実施例1~6で得られた窒化ホウ素粉末をエポキシ樹脂に充填し樹脂組成物を作製し、熱伝導率の評価を行った。エポキシ樹脂は、(三菱化学株式会社製JER828)100質量部と硬化剤(イミダゾール系硬化剤、四国化成株式会社製キュアゾール2E4MZ)5質量部と溶媒としてメチルエチルケトン210質量部の混合物を準備した。次に、基材樹脂35体積%と、前記特定窒化ホウ素粉末65体積%となるように上記ワニス状混合物と六方晶窒化ホウ素粉末を自転・公転ミキサー(倉敷紡績株式会社製MAZERUSTAR)にて混合して樹脂組成物を得た。
【0086】
上記樹脂組成物を,テスター産業社製自動塗工機PI-1210を用いて、PETフィルム上に厚み250~300μm程度に塗工・乾燥し、減圧下、温度:200℃、圧力:5MPa、保持時間:30分の条件で硬化させ、厚さ220μmのシートを作製した。該シートを温度波熱分析装置にて解析し、熱伝導率を算出した結果を表3に示した。実施例1~5で作製した六方晶窒化ホウ素粉末を充填したシートの熱伝導率は、8.5W/m・K以上であり、高熱伝導率を示した。また、耐電圧試験機(多摩電測株式会社製)にて絶縁耐力を測定した結果、80kV/mm以上と高絶縁耐力であり、樹脂組成物内の、絶縁耐力低下原因となる大きな空隙量が少ない事が示唆された。
【0087】
また、作製したシートの体積と重量から実密度を求め、樹脂と六方晶窒化ホウ素粒子の充填率から計算されるシート理論密度を100%とした際の、実密度/シート理論密度を求め、樹脂シート相対密度とした。本発明の六方晶窒化ホウ素粉末で作製した樹脂シートは、実密度/シート理論密度が89~97%であり、樹脂シート内に、熱伝導率、絶縁耐力を低下させない微小な空隙を有していることが分かる。よって、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を使用する事で、無機充填樹脂シートの軽量化を実現しながら、高い熱伝導率、絶縁耐力を維持する事が可能であった。
【0088】
また、比較例1~5で得られた窒化ホウ素粉末及を用いた以外は同様にして前記樹脂組成物を得、熱伝導率、絶縁耐力、樹脂シート相対密度を測定し、表3に示した。表より明らかなように、比較例1~5で得られた窒化ホウ素粉末を充填したシートはいずれも、熱伝導率8.5W/m・K、絶縁耐力80kV/mm以上、樹脂シート相対密度97.0%以下を同時に達成する事が出来なかった。
【0089】
【表1】
[図:0001436189000004.jpg]
【0090】
【表2】
[図:0001436189000005.jpg]
【0091】
【表3】
[図:0001436189000006.jpg]
」
4 サポート要件の充足性
(1)本件発明の課題について
上記3(1)の【0011】の記載によれば、本件発明の課題は、「六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子が凝集した凝集粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末において、凝集により熱伝導の異方性を解消して樹脂に充填時の高い熱伝導率を発現しつつ、樹脂に充填した際に極めて高い絶縁耐力を付与することが出来、更に、樹脂組成物の軽量化を図ることも可能な六方晶窒化ホウ素粉末を提供すること」であるといえる。
(2)本件発明1について
ア 上記3(2)によれば、発明の詳細な説明の【0020】には、「本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子からなり、細孔の体積基準メディアン径が3μm以下、不純物元素の含有量が500ppm以下であることを特徴としている。」と記載され、【0031】には、「本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の粒子径は、樹脂への充填性を勘案すれば、湿式レーザー回折粒度分布法における粒度分布の累積体積頻度50%の粒径(D50)が5~150μmであり」と記載され、【0023】には、「本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を構成する凝集粒子は、微細な六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子より構成されており、凝集粒子間の間隙が極めて小さく、細孔の体積基準メディアン径が3.0μm以下という特徴的な値を示す。」と記載され、【0025】には、「前記細孔体積基準メディアン径、細孔容積は、Micromeritics社製、オートポアIV9520を使用した水銀圧入法により、0.0036μm~200μmの細孔を測定し」と記載され、【0026】には、「本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、不純物元素の含有量が、500ppm以下・・・と、高純度であることを特徴とする。」と記載され、【0035】には、「本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、吸油量が50~190ml/100g・・・であることが好ましい。」と記載されている。
以上の記載によれば、発明の詳細な説明には、「六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子からなり、湿式レーザー回折粒度分布法により測定される粒度分布の累積体積頻度50%の粒径(D50)が5~150μm、水銀圧入法により測定される細孔の体積基準メディアン径が3.0μm以下、不純物元素の含有量が500ppm以下であり、吸油量が50~95cc/100gである六方晶窒化ホウ素粉末。」(以下、「本件明細書六方晶窒化ホウ素粉末」という。)が記載されているといえる。
イ(ア)本件明細書六方晶窒化ホウ素粉末は、「六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子からな」ること(以下、「構成A」という。)について、上記3(1)の【0011】には、「六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子が凝集した凝集粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末において、凝集により熱伝導の異方性を解消して樹脂に充填時の高い熱伝導率を発現しつつ」と記載されている。
(イ)本件明細書六方晶窒化ホウ素粉末の「吸油量が50~95cc/100gであること」(以下、「構成B」)について、上記3(2)の【0035】に「本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、吸油量が50~190ml/100g、特に、55~170ml/100g、更には、60~150ml/100gであることが好ましい。即ち、上記DBP吸収量は、六方晶窒化ホウ素粉末の特性のうち、凝集粒子内の開気孔量及び、粒子表面のストラクチャーの有無の状態、樹脂との濡れ性を示すものであり、開気孔が多く、ストラクチャーが発達したものであるほど高い。即ち、上記吸油量が低すぎるものは、開気孔が大きく、ストラクチャーの発達十分でなく、好ましくなく、高すぎると反対の傾向になり、樹脂組成物にした際に大きな気泡を噛みやすくなるため好ましくない。」と記載されているものの、本件発明の課題との関係性については記載されていない。
ここで、上記3(4)の【0077】~【0083】、【0085】、【0090】、【表2】、【0091】、【表3】には、実施例1~5として、D50が45、46、40、58、38μm、細孔体積メディアン径が1.3、2.3、2.1、1.4、1.7μm、不純物元素量が50、20、30、15、15ppm、吸油量が78、76、77、95、90cc/100gである六方晶窒化ホウ素粉末をエポキシ樹脂に充填した樹脂組成物は、熱伝導率が8.7、9.2、8.9、9.6、9.8W/m・K、絶縁耐力が95.0、94.1、85.0、89.0、85.2kV/mm、樹脂シート相対密度が93.2、94.2、96.2、92.2、91.1%であることが記載されている。
一方、上記3(4)の【0084】、【0088】、【0090】、【表2】、【0091】、【表3】には、比較例1としてD50が42μm、細孔体積メディアン径が2.2μm、不純物元素量が50ppm、吸油量が100cc/100gである六方晶窒化ホウ素粉末をエポキシ樹脂に充填した樹脂組成物は、熱伝導率が8.2W/m・K、絶縁耐力が84.0kV/mm、樹脂シート相対密度が93.2%であることが記載されている。
以上の記載によれば、実施例1~5のD50、細孔体積メディアン径、不純物元素量、吸油量は、いずれも本件明細書六方晶窒化ホウ素粉末に特定されている範囲内のものであるのに対し、比較例1のD50、細孔体積メディアン径、不純物元素量は、いずれも本件明細書六方晶窒化ホウ素粉末に特定されている範囲内のものであるものの、吸油量は、本件明細書六方晶窒化ホウ素粉末に特定されている範囲から外れており、また、比較例1の熱伝導率(8.2W/m・K)は、実施例1~5の熱伝導率(8.7~9.8W/m・K)よりも低くなっている。
そうすると、本件明細書六方晶窒化ホウ素粉末の吸油率は、六方晶窒化ホウ素粉末をエポキシ樹脂に充填した樹脂組成物の熱伝導率に寄与するパラメータであるといえ、吸油率が95cc/100g以下の場合には、樹脂組成物の熱伝導率の低下がないことを理解できる。
(ウ)上記(ア)及び(イ)によれば、本件明細書六方晶窒化ホウ素粉末は、構成A及び構成Bを有することにより、凝集により熱伝導の異方性を解消して樹脂に充填時の高い熱伝導率を発現できるといえる。
ウ 本件明細書六方晶窒化ホウ素粉末の「湿式レーザー回折粒度分布法により測定される粒度分布の累積体積頻度50%の粒径(D50)が5~150μm」であること(以下、「構成C」という。)について、上記3(2)の【0023】には、「本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を構成する凝集粒子は、微細な六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子より構成されており、凝集粒子間の間隙が極めて小さく、細孔の体積基準メディアン径が3.0μm以下という特徴的な値を示す。・・・本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を構成する凝集粒子の細孔の体積基準メディアン径が前記値を示すことにより、樹脂に充填した際、間隙に存在するボイドが絶縁耐力にほとんど影響せず、得られる樹脂組成物は極めて高い絶縁耐力を発揮することができる。また、凝集粒子内及び表面に細孔(間隙)が存在することにより、六方晶窒化ホウ素粉末を充填して得られる樹脂組成物の軽量化を図ることも可能である。」と記載されている。
また、本件明細書六方晶窒化ホウ素粉末の「不純物元素の含有量が500ppm以下」であること(以下、「構成D」という。)について、上記3(2)の【0026】には、「本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、不純物元素の含有量が、500ppm以下、特に400ppm以下と、高純度であることを特徴とする。上記不純物元素の含有量が上記範囲を超えると、絶縁耐力に悪影響を及ぼし、本発明の目的を達成することができない。」と記載されている。
以上によれば、本件明細書六方晶窒化ホウ素粉末は、構成C及び構成Dを有することにより、樹脂に充填した際に極めて高い絶縁耐力を付与することが出来、更に、樹脂組成物の軽量化を図ることも可能であるといえる。
エ 以上から、本件明細書六方晶窒化ホウ素粉末は、発明の詳細な説明の記載により当業者が、「六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子が凝集した凝集粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末において、凝集により熱伝導の異方性を解消して樹脂に充填時の高い熱伝導率を発現しつつ、樹脂に充填した際に極めて高い絶縁耐力を付与することが出来、更に、樹脂組成物の軽量化を図ることも可能な六方晶窒化ホウ素粉末を提供すること」との課題を解決できると認識できるといえ、このことは、上記3(4)の【0077】~【0083】、【0085】、【0090】、【表2】、【0091】、【表3】の実施例1~5において裏付けられている。
オ そして、本件発明1は、上記第3に示したとおりのものであるところ、本件明細書六方晶窒化ホウ素粉末の構成を全て備えるものであるから、上記エの検討を参酌すると、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が、「六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子が凝集した凝集粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末において、凝集により熱伝導の異方性を解消して樹脂に充填時の高い熱伝導率を発現しつつ、樹脂に充填した際に極めて高い絶縁耐力を付与することが出来、更に、樹脂組成物の軽量化を図ることも可能な六方晶窒化ホウ素粉末を提供すること」との課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものである。
(3)本件発明2~5について
請求項1の記載を引用する本件発明2~5も、上記(2)と事情は同じである。
したがって、本件発明2~5も、発明の詳細な説明に記載したものである。
(4)申立人の主張について
ア 申立人は、異議申立書の第25頁第4行~第26頁第9行において、以下のとおり主張する。
「 本件発明の課題は、上記したように、高い熱伝導率、高い絶縁耐力、及び軽量化を同時に達成することにあると認められる(段落【0011】、【0086】、【0088】)。
本件発明1は、「六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子からなり、D50が5~150μmであり、水銀圧入法により測定される細孔の体積基準メディアン径が3.0μm以下であり、不純物元素の含有量が500ppm以下である」(構成A~D)ことが規定されているだけである。そして、上記「比較例1」はこの範囲に含まれている。
これに対して、上記したように、本件特許明細書に接した当業者は、高い熱伝導率、高い絶縁耐力、及び軽量化を同時に達成するためには、本件発明1の構成A~Dの他にも、少なくとも「原料として、含酸素ホウ素化合物の425μm篩上残分が所定量以上であるものを用いること」(上記記載事項d)、「比表面積が所定の範囲であること」(上記記載事項e)、「長径が5~10μm、長径/短径が1.0~1.3、円形度が0.3~0.8の範囲にある凝集粒子が所定量含まれること」(上記記載事項f)、「一次粒子の長径が4μm以下であること」(上記記載事項g)を満たす必要があると理解するはずである。
・・・
したがって、「比較例1」を包含し、かつ「製造時に原料として使用する含酸素ホウ素化合物の425μm篩上残分」、「長径が5~10μm、長径/短径が1.0~1.3、円形度が0.3~0.8の範囲にある凝集粒子の含有量」、「BET比表面積」、及び、「一次粒子の長径」について特定されていない本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。」
イ 上記主張について検討する。
(ア)上記アにおける「比較例1」についての申立人の主張は、設定登録時の請求項1に係る発明は、本願明細書の「比較例1」を含むことから本件発明の課題を解決していない旨の主張である。
しかしながら、上記第2の1(1)の訂正事項1による訂正により、本件発明1は、「吸油量が50~95cc/100g」との構成を有するものとなったため、本件発明1は、吸油量が100cc/100gである比較例1を包含しなくなった。
したがって、申立人の上記主張は採用しない。
(イ)上記アの記載事項d~gについての申立人の主張は、本件特許明細書に接した当業者は、高い熱伝導率、高い絶縁耐力、及び軽量化を同時に達成するためには、本件発明1の構成の他にも、少なくとも「原料として、含酸素ホウ素化合物の425μm篩上残分が所定量以上であるものを用いること」(記載事項d)、「比表面積が所定の範囲であること」(記載事項e)、「長径が5~10μm、長径/短径が1.0~1.3、円形度が0.3~0.8の範囲にある凝集粒子が所定量含まれること」(記載事項f)、「一次粒子の長径が4μm以下であること」(記載事項g)を満たす必要がある旨の主張である。
a 「原料として、含酸素ホウ素化合物の425μm篩上残分が所定量以上であるものを用いること」(記載事項d)について
上記3(3)の【0045】には「含酸素ホウ素化合物の425μm篩上残分が3重量%以上であると、150μm以上の粗大窒化ホウ素凝集粒子が残存し易くなり、粗大凝集粒子内の残存空隙が増加して、得られる六方晶窒化ホウ素粉末において細孔のメディアン径が3μmを超え、絶縁耐力の低下を招く。」と記載されているものの、当該記載は、六方晶窒化ホウ素粉末に用いる原料である「含酸素ホウ素化合物」に関するものである。
そして、上記(2)で検討したとおり、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が、「六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子が凝集した凝集粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末において、凝集により熱伝導の異方性を解消して樹脂に充填時の高い熱伝導率を発現しつつ、樹脂に充填した際に極めて高い絶縁耐力を付与することが出来、更に、樹脂組成物の軽量化を図ることも可能な六方晶窒化ホウ素粉末を提供すること」との課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件発明1において、「原料として、含酸素ホウ素化合物の425μm篩上残分が所定量以上であるものを用いること」(記載事項d)を特定する必要はない。
b 「比表面積が所定の範囲であること」(記載事項e)、「長径が5~10μm、長径/短径が1.0~1.3、円形度が0.3~0.8の範囲にある凝集粒子が所定量含まれること」(記載事項f)、「一次粒子の長径が4μm以下であること」(記載事項g)について
上記3(2)の【0033】には、「比表面積が、1~15m2/gであることが好ましく、1.5~14.0m2/gであればより好ましく、2.0~13.0m2/gであれば更に好ましい。即ち、15.0m2/gを超える六方晶窒化ホウ素粉末は、微粒子を多く含ことを意味し、このような六方晶窒化ホウ素粉末は、結晶性の低い窒化ホウ素粉末の含量が多くなり、絶縁放熱シート内での熱抵抗の原因になるだけでなく、粉が舞いやすくなる等といったハンドリング性の観点からも好ましくない。一方、1m2/g未満の六方晶窒化ホウ素粉末は、粒成長した扁平な六方晶窒化ホウ素単粒子の割合が増加し、その熱伝導の異方性により樹脂に充填した場合の樹脂組成物の熱伝導率の低下を招くおそれがあるため好ましくない。」と記載され、【0037】には、「本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、長径が5~10μm、長径/短径が1.0~1.3、円形度が0.3~0.8の範囲にある凝集粒子(特定凝集粒子)を5%以上好ましくは、10%以上の割合で含むことが好ましい。」と記載され、【0040】には、「本発明の六方晶窒化ホウ素粉末において、前記特定凝集粒子は、他の凝集粒子の隙間を埋めるのに適した適度な大きさを有し、また、略球状であるため、六方晶窒化ホウ素粉末中に前記割合で存在させることにより、六方晶窒化ホウ素粉末の樹脂への充填性を高め、比較的大きい気泡の残存を効果的に抑制することができ、樹脂組成物の絶縁耐力の向上に寄与するものと推定される。」と記載され、【0042】には、「前記特定凝集粒子は、後述する製造方法により六方晶窒化ホウ素粉末の一部として生成するものであるが、特定凝集粒子を構成する六方晶窒化ホウ素一次粒子の大きさが、他の凝集粒子に比して小さく揃っており、殆どの一次粒子の長径が4μm以下であるという特徴を有し、かかる特徴も前記した樹脂組成物における絶縁耐力の向上に寄与する。」と記載されている。
しかしながら、上記(2)で検討したとおり、本件発明1は、発明の詳細な説明により当業者が、「六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子が凝集した凝集粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末において、凝集により熱伝導の異方性を解消して樹脂に充填時の高い熱伝導率を発現しつつ、樹脂に充填した際に極めて高い絶縁耐力を付与することが出来、更に、樹脂組成物の軽量化を図ることも可能な六方晶窒化ホウ素粉末を提供すること」との課題を解決できることを認識できる範囲のものである。
そうすると、「比表面積が所定の範囲であること」(記載事項e)、「長径が5~10μm、長径/短径が1.0~1.3、円形度が0.3~0.8の範囲にある凝集粒子が所定量含まれること」(記載事項f)、「一次粒子の長径が4μm以下であること」(記載事項g)との構成により、絶縁耐力等のさらなる向上について、それぞれさらに好ましい範囲を記載しているものにすぎず、本件発明1において、これらの構成を特定する必要はない。
c したがって、申立人の上記主張は採用しない。
5 サポート要件違反(申立理由3、取消理由1)についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由3、取消理由1に理由はない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、本件特許1~5は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由、及び、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許1~5を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700543