特許異議申立
2025-700786
糊様の異臭が低減された非アルコールビールテイスト飲料
- 審判番号
- 2025-700786
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-569124
- 登録番号
- 7625167
- 請求日
- 2025年07月31日
- 審決日
- 2026年03月25日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】キリンホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
- 【異議申立人】清水 将博
- 審判長/審判官
- 審判長 柴田 昌弘
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 松田 成正
- 分類
- P1651.121-Y (A23L) / P1651.537-Y (A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7625167号発明「糊様の異臭が低減された非アルコールビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7625167号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7625167号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2023年(令和5年)10月18日を国際出願日とする出願であって、令和7年 1月23日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年同月31日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年 7月31日に特許異議申立人 清水 将博(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立て(対象となる請求項:全請求項)がなされたものである。
「【請求項1】
フルフリルアセテートの含有量が0.03~3.5ppbであり、酢酸エチルの含有量が3.5~60ppmであり、コハク酸の含有量が48.5~150ppmであり、アルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満であり、かつ、脱アルコール麦汁発酵液を原料とする、非アルコールビールテイスト飲料。
【請求項2】
非アルコールビールテイスト飲料を製造する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるフルフリルアセテートの含有量を0.03~3.5ppbに調整する工程、前記非アルコールビールテイスト飲料における酢酸エチルの含有量を3.5~60ppmに調整する工程、および、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるコハク酸の含有量を48.5~150ppmに調整する工程を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満であり、かつ、前記非アルコールビールテイスト飲料が脱アルコール麦汁発酵液を原料とするものである、方法。
【請求項3】
非アルコールビールテイスト飲料における煮豆様の異臭を低減する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるフルフリルアセテートの含有量を0.03~3.5ppbに調整する工程、前記非アルコールビールテイスト飲料における酢酸エチルの含有量を3.5~60ppmに調整する工程、および、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるコハク酸の含有量を48.5~150ppmに調整する工程を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満であり、かつ、前記非アルコールビールテイスト飲料が脱アルコール麦汁発酵液を原料とするものである、方法。
【請求項4】
非アルコールビールテイスト飲料における味の持続性を増強する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるフルフリルアセテートの含有量を0.03~3.5ppbに調整する工程、前記非アルコールビールテイスト飲料における酢酸エチルの含有量を3.5~60ppmに調整する工程、および、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるコハク酸の含有量を48.5~150ppmに調整する工程を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満であり、かつ、前記非アルコールビールテイスト飲料が脱アルコール麦汁発酵液を原料とするものである、方法。
【請求項5】
非アルコールビールテイスト飲料におけるトップのふくらみを増強する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるフルフリルアセテートの含有量を0.03~3.5ppbに調整する工程、前記非アルコールビールテイスト飲料における酢酸エチルの含有量を3.5~60ppmに調整する工程、および、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるコハク酸の含有量を48.5~150ppmに調整する工程を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満であり、かつ、前記非アルコールビールテイスト飲料が脱アルコール麦汁発酵液を原料とするものである、方法。
【請求項6】
非アルコールビールテイスト飲料における糊様の異臭を低減する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるフルフリルアセテートの含有量を0.03~3.5ppbに調整する工程、前記非アルコールビールテイスト飲料における酢酸エチルの含有量を3.5~60ppmに調整する工程、および、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるコハク酸の含有量を48.5~150ppmに調整する工程を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満であり、かつ、前記非アルコールビールテイスト飲料が脱アルコール麦汁発酵液を原料とするものである、方法。
【請求項7】
非アルコールビールテイスト飲料における金属味を低減する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるフルフリルアセテートの含有量を0.03~3.5ppbに調整する工程、前記非アルコールビールテイスト飲料における酢酸エチルの含有量を3.5~60ppmに調整する工程、および、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるコハク酸の含有量を48.5~150ppmに調整する工程を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満であり、かつ、前記非アルコールビールテイスト飲料が脱アルコール麦汁発酵液を原料とするものである、方法。」
第3 特許異議申立理由の要旨
特許異議申立人が、証拠方法として下記7.に示す甲第1号証~甲第10号証(以下、「甲1」~「甲10」という。)を提出し、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において申し立てた請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
1.申立理由1-1(甲1を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明に基いて、その出願前に本件特許の発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2.申立理由1-2(甲2を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3.申立理由1-3(甲3を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲3に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4.申立理由1-4(甲4を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲4に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
5.申立理由2(サポート要件)
本件特許発明1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由2の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
本件特許明細書の記載によれば、少なくともフルフリルアセテートの含有量を適切に調整することが上記課題の解決に不可欠であると認められる。しかしながら、表2の試験1~4に示された全ての試験区は、フルフリルアセテートに加えて、酢酸エチル及びコハク酸の少なくとも1つを更に含んでいるため、フルフリルアセテートのみの効果は実証されていない。したがって、フルフリルアセテートの含有量を本件特許発明1~7で特定された数値範囲内に調整するだけで上記課題を解決できるとは認識できない。
本件特許発明1~7は、フルフリルアセテート、酢酸エチル、コハク酸の含有量を所定の範囲に調整しているが、実施例において発明を裏付ける具体例は、表2に示された試験4の試験区23のみである。香気成分の種類及び含有量が香味を大きく左右し、エステルや有機酸についても量的なバランスが大切であるという技術常識を考慮すると、試験区23の組成とは異なる組成の場合でも本件特許発明1~7が上記課題を解決できることを認識することは困難である。
ここでフルフリルアセテートの含有量に着目すると、フルフリルアセテートの含有量の増加は、常に、煮豆様の異臭の低減効果、味の持続性の増強効果、トップのふくらみの増強効果、糊様の異臭の低減効果、金属味の低減効果を高めるわけではない。フルフリルアセテートの含有量を本件特許発明1~7で特定される数値範囲の下限よりも多くした場合に、官能評価において最も優れた結果を示す試験区23と同程度の効果を得ることができるとは認識できない。
次に酢酸エチルの含有量に着目すると、本件特許発明1~7における酢酸エチルの含有量の下限は3.5ppmであるのに対して、表2に示された試験1~4において、酢酸エチルの含有量を3.5ppmに調整した具体例は存在しない。また、試験2の結果は、0~6ppmの範囲において酢酸エチルの含有量の増加が官能評価の優れた結果を常にもたらすわけではないことを示している。酢酸エチルの含有量を本件特許発明1~7で特定される数値範囲の下限付近に調整した場合に、官能評価において最も優れた結果を示す試験区23と同程度の効果を得ることができるとは認識できない。
最後にコハク酸の含有量に着目すると、本件特許発明1~7におけるコハク酸の含有量の下限は48.5ppmであるのに対して、表2に示された試験1~4において、コハク酸の含有量を48.5ppmに調整した具体例は存在しない。試験3の結果、特に試験区2、15、16の結果は、40~50ppmの範囲においてコハク酸の含有量の増加が官能評価の優れた結果を常にもたらすわけではないことを示している。コハク酸の含有量を本件特許発明1~7で特定される数値範囲の下限付近に調整した場合に、官能評価において最も優れた結果を示す試験区23と同程度の効果を得ることができるとは認識できない。
したがって、本件特許発明1~7の範囲の全体に渡って上記課題を解決できると認識することを当業者は認識できないから、本件特許発明1~7は発明の詳細な説明に記載したものではない。
6.申立理由3(明確性要件)
本件特許発明1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由3の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
本件特許発明1は、「非アルコールビールテイスト飲料」という物の発明であるが、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」という製造方法を記載している。物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である(最二小判平成27年6月5日平成24年(受)1204号、同2658号)。しかしながら、不可能・非実際的事情が存在することについて、明細書等に記載がなく、また、特許権者から主張・立証がされていないため、その存在を認める理由は見いだせない。したがって、本件特許発明1は明確でない。なお、「脱アルコール麦汁発酵液」に言及した本件特許明細書の記載を参照しても、本件特許発明1における「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」という記載が「非アルコールビールテイスト飲料」という物のどのような構造又は特性を表しているのかは一義的に明らかではない。
7.証拠方法
・甲第1号証:国際公開第2022/163522号
・甲第2号証:特開2015-27309号公報
・甲第3号証:“Versuche mit einer Gegen-stromdestillationsanlage mit Rektifikation zur Entalkoholisierung von Bier”, BRAUWELT, Hans Carl GmbH & Co KG, Nr.38 (1993), pp.1806-1820,1993
・甲第4号証:特許第6888001号公報
・甲第5号証:Fabian Webersinke et al.,“Control of Fermentation By-Products and Aroma Features of Beer Produced with Scottish Ale Yeast by Variation of Fermentation Temperature and Wort Aeration Rate”, Journal of the American Society of Brewing Chemist The Science of Beer、American Society of Brewing Chemist, Inc., VOL.76 (2018), NO.3, pp.147-155
・甲第6号証:「第VII章 エステル」、醸造物の成分、財団法人日本醸造協会、平成11年12月10日発行、第210頁-第213頁
・甲第7号証:「ビールの香味と香気成分について」、香料、日本香料協会、No.293、令和4年3月、第53頁-第66頁
・甲第8号証:「ビールフレーバー」、香料、日本香料協会、No.223、平成16年9月30日発行、第145頁、第152頁
・甲第9号証:特開2017-216892号公報
・甲第10号証:「第XI章 有機酸」、醸造物の成分、財団法人日本醸造協会、平成11年12月10日発行、第236頁-第241頁
証拠の表記については、おおむね申立書における記載に従った。
第4 当審の判断
当審は、以下に検討するとおり、申立理由1ないし3のいずれの理由によっても、本件特許発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできないものと判断する。
1 申立理由1-1(甲1を主たる証拠とする進歩性)について
(1)甲1の記載事項等
ア 甲1の記載事項
甲1には、「低アルコールビールテイスト飲料」に関し、次の記載がある。
「[0001] 本発明は低アルコールビールテイスト飲料に関する。「低アルコールビールテイスト飲料」とはアルコール含有量が1%(V/V)未満であるビールテイスト飲料をいう。「低アルコールビールテイスト飲料」の意味には、実質的にアルコールを含有しない、ノンアルコールビールテイスト飲料も含まれる。また、「アルコール」という文言はエタノールを意味する。
[0002] 「ビールテイスト飲料」とは、味及び香気がビールを想起させる程度に同様である飲料をいう。「ビール」とは麦芽、ホップ及び水などを原料として、これらを発酵させて得られる飲料をいう。
[0003] ビールテイスト飲料には香気成分が含まれている。香気成分とは香りを呈する成分である。香気成分は揮発性を有し、ビールテイスト飲料を飲用する時、まず第1に嗅覚に対して作用する。そのため、香気成分の種類及び含有量は、ビールテイスト飲料の香りを左右するだけでなく、味覚の感じ方にも大きく影響する。」
「発明が解決しようとする課題
[0008] 通常のビール(即ち、アルコールを含有するビールテイスト飲料)はアルコールを含み、静菌性を有している。一方、低アルコールビールテイスト飲料はアルコール濃度が低く、静菌性が低下している。そのため、市場に流通させるためには、腐敗防止の観点から、飲料の酸性を強めて、静菌性を向上させる必要がある。例えば、食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号、https://www.mhlw.go.jp/content/000420821.pdf)を参照。つまり、低アルコールビールテイスト飲料は、pHを十分に低下させて、静菌性を向上させる必要があり、酸味料等のpH調整剤が添加される。その結果、低アルコールビールテイスト飲料は、酸味感、渋味感が強調された香味になる。
[0009] また、通常のビールテイスト飲料では、渋味及び酸味は、アルコール刺激及び香気成分によりマスキングされている。ここでいうマスキングとは、不快に感じる香味に対し、別の香味を加えることで、不快な官能を抑制することをいう。また、不快に感じる香味に対し、別の香味を加えることで、嗜好性を付与することも、マスキングの意味に含まれる。
[0010] 一方、ビールテイスト飲料からアルコール分を除去して低アルコールビールを製造する場合、麦汁発酵液からアルコール及び揮発性が高い香気成分も、除去されてしまう。その結果、脱アルコールビールテイスト飲料は、渋味感及び酸味感が強調された香味になる。
[0011] このように、低アルコールビールテイスト飲料は、アルコールを含有するビールテイスト飲料と比較した場合に、酸味感、渋味感が強く、アルコール感、醸造由来の複雑味が弱くなる傾向がある。かかる不味の要因は、麦汁発酵液からアルコール分を蒸留除去して発酵低アルコールビールテイスト飲料を得た場合に、強く発現する。
[0012] 本発明の目的は、酸味及び渋味が抑制され、アルコール感及び醸造由来の複雑味が増強された低アルコールビールテイスト飲料を提供することにある。」
「課題を解決するための手段
[0013] 本発明は、0.49ppm以上の酢酸エチルと、
0.83ppm以上のイソブタノールと、
0.065ppm以上の酢酸イソアミルと、
4.35ppm以上のイソアミルアルコールとを含む香気組成物を含む、
低アルコールビールテイスト飲料を提供する。
[0014] ある一形態においては、前記香気組成物は、0.49~26ppmの酢酸エチルと、0.83~120ppmのイソブタノールと、0.065~1.4ppmの酢酸イソアミルと、4.35~90.3ppmのイソアミルアルコールとを含むものである。
[0015] ある一形態においては、前記低アルコールビールテイスト飲料は、酸味度として1,000ppm以上の量で酸味成分を含む。
[0016] ある一形態においては、前記低アルコールビールテイスト飲料は、酸味度として1,000~3,500ppmの量で酸味成分を含む。
[0017] ある一形態においては、前記香気組成物の香気成分は、麦汁発酵液に由来するものである。
[0018] ある一形態においては、前記麦汁発酵液は、麦汁下面発酵液である。
[0019] ある一形態においては、前記麦汁発酵液は、50%以上の麦芽使用比率を有する。
[0020] ある一形態においては、前記低アルコールビールテイスト飲料は、脱アルコール麦汁発酵液を含む。
[0021] また、本発明は、麦汁発酵液の炭酸ガス圧を0.05~0.25MPaに調整する工程;
麦汁発酵液を減圧下で噴霧することで麦汁発酵液から炭酸ガス及び香気成分を気化させる工程;
気化した香気成分を凝結させて香気組成物を得る工程;
得られた香気組成物を低アルコールビールテイスト飲料に添加する工程; を包含する、低アルコールビールテイスト飲料の製造方法を提供する。
[0022] また、本発明は、麦汁発酵液の炭酸ガス圧を0.05~0.25MPaに調整する工程;
麦汁発酵液を減圧下で噴霧することで麦汁発酵液から炭酸ガス及び香気成分を気化させる工程;
気化した香気成分を凝結させて香気組成物を得る工程;
得られた香気組成物を低アルコールビールテイスト飲料に添加する工程; を包含する、低アルコールビールテイスト飲料の酸味及び渋みを抑制し、アルコール感及び醸造由来の複雑味を増強する方法を提供する。
[0023] ある一形態においては、香気組成物が添加される前記低アルコールビールテイスト飲料が、麦汁発酵液を脱アルコール処理して得られたものである。
[0024] ある一形態においては、前記香気組成物が、0.49ppm以上の酢酸エチルと、0.83ppm以上のイソブタノールと、0.065ppm以上の酢酸イソアミルと、4.35ppm以上のイソアミルアルコールとを、含む前記方法である。
[0025] ある一形態においては、前記香気組成物が、0.49~26ppmの酢酸エチルと、0.83~120ppmのイソブタノールと、0.065~1.4ppmの酢酸イソアミルと、4.35~90.3ppmのイソアミルアルコールとを含む前記方法である。」
「発明の効果
[0026] 本発明によれば、特定の香気成分を含有することで、酸味及び渋味が抑制され、アルコール感及び醸造由来の複雑味が増強された低アルコールビールテイスト飲料が提供される。
[0027]<香気組成物>
本発明において、香気組成物とは、ビールの香気成分である、酢酸エチルと、イソブタノールと、酢酸イソアミルと、イソアミルアルコールとをそれぞれ特定量で含む組成物をいう。香気組成物に含まれる香気成分の量は、低アルコールビールテイスト飲料に含有された状態における濃度として表示する。
[0028] 香気組成物の各香気成分は、ある特定量以上の含有量で組み合わされることで、前記低アルコールビールテイスト飲料の渋味及び酸味が抑制又はマスキングされ、飲用者は、ビールらしい香味を感じることができる。従って、各香気成分の含有量は、前記渋味又は酸味が抑制又はマスキングされる効果が得られる範囲に調節すれば良く、発明の課題を解決するためにその上限を規定する必要はない。
[0029] 香気成分は、人工的に化学合成したものであっても、天然物に由来するもの、例えば酵母による発酵代謝物として得られるものであってもよい。各香気成分の含有量の比率を最適化する観点から、特に酵母による発酵代謝物として得られる麦汁発酵液に由来する香気成分であることが好ましい。
[0030] 酢酸エチルは、式CH3COOC2H5で示されるエステルであり、果実臭を有する香気成分である。本発明の低アルコールビールテイスト飲料において、酢酸エチルの濃度は、低アルコールビールテイスト飲料の酸味を抑制する観点から、0.49ppm以上、好ましくは0.98ppm以上、より好ましくは1.46ppm以上である。また、酢酸エチルの濃度の上限は、例えば26ppm以下、好ましくは19ppm以下、より好ましくは14.3ppm以下である。本明細書の数値範囲の上限、及び下限は当該数値を任意に選択して、組み合わせることが可能である。
[0031] ある一形態において、酢酸エチルの低アルコールビールテイスト飲料における濃度は、好ましくは0.49~26ppm、より好ましくは0.98~19ppm、更に好ましくは1.46~14.3ppmである。」
「[0039]<酸味成分>
酸味成分とは、低アルコールビールテイスト飲料に酸味を付与している成分である。酸味成分は、酸味が強くなり過ぎない観点から、酵母による発酵代謝物として得られるものであることが好ましい。酸味成分の具体例としては、リン酸、クエン酸、ピルビン酸、DL-リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、氷酢酸、ピログルタミン酸、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸ナトリウムなどが挙げられる。本発明の低アルコールビールテイスト飲料に含まれる酸味成分は、これらを組み合わせたものであっても良い。
[0040] 酸味物質の酸味の程度は、クエン酸の酸味を基準として数値化されているものがある。特開2017-000104号公報には、クエン酸を100とした場合の酸味物質の酸味度が、次の通り、記載されている。
[0041][表1]
[図:0001434179000001.jpg]
[0042] 本発明の低アルコールビールテイスト飲料では、酸味の程度を定量化するために、酸味成分の含有量を酸味度として表現する。1種類の酸味成分の酸味度は、その酸味成分の濃度とクエン酸を1とした場合の酸味度との積とする。全ての酸味成分の酸味度の総和が、低アルコールビールテイスト飲料の酸味度になる。
[0043] 本発明の低アルコールビールテイスト飲料において酸味度は、香気成分により酸味を抑制するという観点から、3500ppm以下、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは2500ppm以下である。また、本発明の低アルコールビールテイスト飲料において酸味度の下限に特に制限はない。しかしながら、酸味度が低いと、香気成分を用いて酸味を抑制する必要がなくなるため、酸味度は、例えば1000ppm以上、好ましくは1200ppm以上、より好ましくは1400ppm以上である。
[0044] ある一形態において、前記酸味度は、好ましくは1000~3500ppm、より好ましくは1200~3000ppm、更に好ましくは1400~2500ppmである。
[0045]<麦汁発酵液>
一般に、麦芽を含む原料を酵素処理して得た糖液を麦汁という。麦汁発酵液とは、通常のビールを製造する際に使用される麦汁を発酵させて得られる液をいう。麦汁発酵液は、麦汁上面発酵液であってよく、麦汁下面発酵液であってもよい。麦汁上面発酵液とは、麦汁に上面発酵酵母を接種し、通常の発酵条件、例えば15~25℃で数日間発酵させた麦汁発酵液をいう。麦汁下面発酵液とは、麦汁に下面発酵酵母を接種し、通常の発酵条件、例えば10℃前後でおよそ―週間発酵させた麦汁発酵液をいう。
[0046]<麦汁発酵液の製造>
麦汁発酵液の製造方法を以下に説明する。
[0047] まず、麦芽の破砕物、大麦等の副原料、及び温水を仕込槽に加えて混合してマイシェを調製する。マイシェの調製は、常法により行うことができ、例えば、はじめに35~60℃で20~90分間保持することにより原料に由来するタンパク質をアミノ酸などへ分解し、糖化工程へ移行する。その際、必要に応じて、主原料と副原料以外にも、後述する糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤や、スパイスやハーブ類等の香味成分等を添加してもよい。
[0048] その後、該マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素やマイシェに添加した酵素を利用して、澱粉質を糖化させる。糖化処理時の温度や時間は、用いる酵素の種類やマイシェの量、目的とする麦汁発酵液の品質等を考慮して、適宜決定することができ、例えば、60~72℃にて30~90分間保持することにより行うことができる。糖化処理後、76~78℃で10分間程度保持した後、マイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、透明な糖液を得る。また、糖化処理を行う際に、酵素剤を必要な範囲で適当量添加してもよい。
[0049] 糖化に供される穀類は麦芽を含む。糖化に供される穀類中の麦芽の含有量は、特に限定されないが、25重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは67重量%以上である。糖化に供される穀類は麦芽100%であつてもよい。尚、水を除く全原料に対する麦芽の害」合(重量%)を麦芽使用比率という。穀類中の麦芽の含有量が多いほど、得られる麦汁の麦芽由来の旨味、コク感及び飲みごたえが強くなる。
[0050] 副原料とは、麦芽とホップ以外の原料を意味する。該副原料として、例えば、大麦、小麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等の澱粉原料や、液糖や砂糖等の糖質原料がある。ここで、液糖とは、澱粉質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものであり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれている。その他、香味を付与又は改善することを目的として用いられるスパイス類、ハーブ類、及び果物等も、副原料に含まれる。
[0051] 糖化酵素とは、澱粉質を分解して糖を生成する酵素を意味する。該糖化酵素として、例えば、α一アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルナラーゼ等がある。
[0052] 麦汁煮沸の操作は、ビールを製造する際に通常行われる方法及び条件に従って行えばよい。例えば、pHを調整した糖液を煮沸釜に移し、煮沸する。糖液の煮沸開始時から、ワールプール静置の間に、ホップを添加する。ホップとして、ホップエキス又はホップから抽出した成分を使用してもよい。糖液は次いでワールプールと呼ばれる沈殿槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や凝固したタンパク質等を除去した後、プレートクーラーにより適切な温度まで冷却する。上記麦汁煮沸の操作により、麦汁が得られる。
[0053] 得られた麦汁は、発酵させる。麦汁の発酵は常法に従って行えばよい。例えば、冷却した麦汁にビール酵母を接種して、発酵タンクに移し、アルコール発酵を行う。接種する酵母は、上面発酵酵母を用いてもよく、下面発酵酵母を用いてもよいが、酸味、渋味等を抑制する観点から、下面発酵酵母を用いることが好ましい。
[0054] 麦汁発酵液の外観最終発酵度は80%以上が好ましい。麦汁発酵液の外観最終発酵度が80%未満であると、アミノ態窒素が十分に減少せず、麦汁発酵液のpHを十分に低下させるために多量の酸の添加が必要になることがある。本発明の麦汁発酵液の外観最終発酵度は、好ましくは、80~110%、より好ましくは、85~100%である。
[0055] 発酵度とは、発酵後のビールにおいて、どれだけ発酵が進んだか、発酵の進み方を示す重要な指標である。そして、さらに最終発酵度とは、原麦汁エキスに対して、ビール酵母が資化可能なエキスの割合を意味する。ここで、ビール酵母が資化可能なエキスとは、原麦汁エキスから、製品ビールに含まれるエキス(即ち、ビール酵母が利用可能なエキスをすべて発酵させた後に残存するエキス(最終エキスという))を差し引いたものである。外観最終発酵度とは、最終エキスの値に外観エキス、即ち、アルコールを含んだままのビールの比重から求めたエキス濃度(%)を使用して計算した最終発酵度をいう。
[0056] 尚、エキスとは不揮発性固形分をいう。エキスという文言は、文脈に応じて、不揮発性固形分そのもの、不揮発性固形分の量、又は不揮発性固形分の濃度を意味する。
[0057] 麦汁発酵液の外観最終発酵度Vendは、例えば下記式(1)により、求めることができる。
Vend(%)={(P-Eend)/P}×100 (1)
[式中、Pは原麦汁エキスであり、Eendは外観最終エキスである。]
[0058] 原麦汁エキスPは、製品ビールのアルコール濃度とエキスの値から、Ballingの式に従い、理論上アルコール発酵前の麦汁エキスの値を逆算するものである。具体的には、Analytica-EBC(9.4)(2007)に示される方法により、求めることができる。また、外観最終エキスEendはビールをフラスコに採取し、新鮮な圧搾酵母を多量に添加し、25℃で攪拌しながら、エキスの値がこれ以上低下しなくなるまで発酵させて(24時間)、残存ビール中の外観エキスの値を測定することにより、求めることができる。
[0059] 外観最終エキスEendは、最終エキスのアルコールを含んだ比重から計算されるため、マイナスの値を示すことがある。結果、外観最終発酵度は100%を超える場合がある。
[0060] 外観最終発酵度は、例えば、糖化条件、原料を糖化させる際の酵素の使用有無、及び原材料の種類や配合量などを調整することにより、制御することができる。例えば、糖化時間を長くすれば、酵母が使用する事ができる糖濃度を高めることができ、外観最終発酵度を高めることができる。
[0061] 発酵終了後、さらに、熟成工程として、得られた麦汁発酵液を貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させる。次いで濾過工程として、熟成後の麦汁発酵液を濾過することにより酵母及びタンパク質等を除去して、麦汁発酵液が得られる。
[0062] 得られる麦汁発酵液は、1.75~8.00重量%の真性エキスを有する。真性エキスの含有量が1.75重量%未満であると、得られるビールテイスト飲料のビールらしい風味が失われ水っぽさを感じることがある。一方、真正エキスの含有量が8.00重量%を超えると、得られるビールテイスト飲料のビールらしいキレが弱くなることがある。真性エキスの含有量は、好ましくは2.50~5.50重量%、より好ましくは3.00~5.00重量%である。
[0063] 麦汁発酵液の真正エキスの含有量は、例えばEBC法(ビール酒造組合編集:BCOJビール分析法、7.2(2004))により測定することができる。
[0064]<香気組成物の製造>
本発明で使用する香気組成物は、例えば、各香気成分を所定量配合することで製造することができる。また、好ましい一形態において、香気組成物は、前記麦汁発酵液から香気成分を気化させ、これを回収して、製造することができる。
[0065] 麦汁発酵液から香気成分を気化させる方法としては、例えば、麦汁発酵液の炭酸ガス圧を0.05~0.25MPaに調整し、この麦汁発酵液を減圧下で噴霧する方法が挙げられる。麦汁発酵液の噴霧前の炭酸ガス圧を前記範囲に調整することで、各香気成分の含有量の比率が最適化される。前記炭酸ガス圧は、好ましくは0.05~0.2MPaに、より好ましくは0.15~0.2Mpaに調整する。
[0066] 麦汁発酵液を噴霧する際の周囲圧力は、好ましくは50~200mbar、より好ましくは70~150mbar、さらに好ましくは80~100mbarである。前記周囲圧力を前記範囲に調整することで、香気成分の気化効率が向上する。麦汁発酵液の噴霧は、例えば、内部圧力を前記範囲に調整したタンク内等で行うことができる。
[0067] 噴霧する際の麦汁発酵液の温度は、40~70℃、好ましくは47~68℃、より好ましくは55~65℃である。噴霧する際の麦汁発酵液の温度を前記範囲に調整することで、各香気成分を効率良く気化させることができる。
[0068] 気化した香気成分を回収する方法としては、常法に従って冷却することで、香気成分のガスを凝結させる方法が挙げられる。凝結した液は前記特定の香気成分を特定の量で含有する香気組成物である。得られた香気組成物は、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、及び酢酸β-フェネチルなどの通常のビールに含まれる香気成分を含有してもよい。
[0069]<低アルコールビールテイスト飲料の製造>
本発明の低アルコールビールテイスト飲料は、前記香気組成物を低アルコールビールテイスト飲料に所定量配合することで、製造することができる。香気組成物が配合される低アルコールビールテイスト飲料は、発酵過程を経て製造された発酵低アルコールビールテイスト飲料であっても、発酵過程を経ないで製造された非発酵低アルコールビールテイスト飲料であってもよい。
[0070] 好ましい一形態において、アルコール感、醸造由来の複雑味を増強する観点から、香気組成物が配合される低アルコールビールテイスト飲料は、発酵低アルコールビールテイスト飲料である。中でも、麦汁発酵液からアルコール分を蒸留除去して得られた発酵低アルコールビールテイスト飲料が好ましい。
[0071] 香味バランスを最適化する観点から、更に好ましくは、香気組成物が配合される低アルコールビールテイスト飲料は、当該香気組成物を揮発させた麦汁発酵液を脱アルコール処理して得られた、低アルコールビールテイスト飲料、すなわち脱アルコール麦汁発酵液である。
[0072] 以下の実施例によって本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されない。」
「実施例
[0073]<実施例>
[麦汁発酵液の製造]
仕込釜に粉砕麦芽、水及びコーンスターチを投入し、70℃で糊化、100℃で液化を行った。次に仕込槽に粉砕麦芽、酵素及び温水を投入し、55℃付近でタンパク休止を行った後、仕込釜から仕込槽へ液を移送し、60℃から76℃の範囲の温度で糖化を行った。この糖化液を濾過槽であるロイターにて濾過し、その後煮沸釜に移して、ホップを添加し、60分間煮沸した。煮沸後、蒸発分の温水を追加し、ワールプール槽にて熱トルーブを除去した後、プレートクーラーを用いて10℃まで冷却し、冷麦汁を得た。この麦汁に下面発酵ビール酵母を加え、7日間10℃前後で発酵させた後、ビール酵母を除去した。タンクを移し替えて7日間熟成させた後、-1℃付近まで冷却し14日間安定化させた。その後、脱気水を加えて希釈後、珪藻土を用いて濾過し、麦汁発酵液を得た。
[0074] [香気成分の測定]
得られた麦汁発酵液の香気成分のうち、酢酸エチル、イソブタノール、酢酸イソアミル、イソアミルアルコール、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル及び酢酸β-フェネチルを測定した。測定には、ヘッドスペースGC法を用いた。ガスクロマトグラフはGC-2010(島津製作所製)、カラムはStabilwax 30m×0.32mmID(1μmFT)を使用した。分析結果を表2に示す。
[0075]
[表2]
[図:0001434179000002.jpg]
[0076] [酸味成分の測定]
得られた麦汁発酵液のリン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、酢酸及びピログルタミン酸は、島津有機酸分析システム(SCL-10A_VP)により、測定した。具体的には、カラムにShim-pack SCR-102H(8.0mmΦ×300mm)(2本直列接続)を用いたイオン排除クロマトグラフィーにより分離し、ポストカラムpH緩衝化電気伝導度法(CCD-10A_VP)により検出した。分析結果を表3に示す。
[0077][表3]
[図:0001434179000003.jpg]
[0078] [香気組成物含有低アルコールビールテイスト飲料の製造]
上記で得られた麦汁発酵液(液温0℃)のガス圧を0.20MPaに調整した後に、液温を熱交換器にて55~65℃に調整し、90mbar付近の減圧下で脱ガスタンク内にスプレーして、炭酸ガス及び香気成分を気化させた。気化した香気成分は、約20℃に冷却することで凝結させて、香気組成物を得た。
[0079]
香気成分を気化させた麦汁発酵液を、プレートクーラーを用いて50℃付近まで加熱した。その後、90mbar付近の減圧カラム内で50℃付近に加熱した水蒸気と接触させ、揮発成分を水蒸気に吸着させ、アルコール及び揮発成分を取り除いた。その後、前記香気組成物を、脱アルコールされた麦汁発酵液に戻して、香気組成物含有低アルコールビールテイスト飲料を製造した。得られた香気組成物含有低アルコールビールテイスト飲料を試料1とした。試料1のアルコール度数は1%未満であった。
[0080] 試料1の香気成分の分析結果を表4に、酸味成分の分析結果を表5に、それぞれ示した。表5における酸味度は、表1の値を用いて計算した。
[0081][表4]
[図:0001434179000004.jpg]
[0082]
[表5]
[図:0001434179000005.jpg]
」
「[0087]<比較例2>
[香気組成物非含有低アルコールビールテイスト飲料の製造]
脱ガスタンク内にスプレーを行う前の麦汁発酵液(液温0℃)のガス圧を0.04Mpaに調整すること、及び香気組成物を脱アルコールされた麦汁発酵液に戻さないこと以外は実施例と同様にして、香気組成物非含有低アルコールビールテイスト飲料を製造した。得られた香気組成物非含有低アルコールビールテイスト飲料を試料3とした。試料3のアルコール度数は1%未満であった。
[0088] 試料3の香気成分の分析結果を表8に、酸味成分の分析結果を表9に、それぞれ示した。表9における酸味度は、表1の値を用いて計算した。
[0089] [表8]
[図:0001434179000006.jpg]
[0090] [表9]
[図:0001434179000007.jpg]
[0091]<参考例>
[香気成分濃度及び種類の変更]
試料1及び試料3を、比率を変えて混合することで、香気成分の濃度が異なる低アルコールビールテイスト飲料を1L製造し、それぞれ試料4~9とした。試料4~9の酸味度は、すべて1564.4ppmであった。
[0092]<ノンアルコールビールテイスト飲料の官能評価>
前記のようにして製造したノンアルコールビールテイスト飲料を官能評価に供した。評価者は、訓練されたパネリスト6名とした。評価項目は、酸味感、渋味感、アルコール感、醸造由来の複雑味とした。
[0093] 評価方法は、試料を約4℃の液温に調温し、飲用し、その際に感じられた前記項目の官能の強さを5段階で採点した。評点は、試料1の評点を3として、やや強く感じられる場合は4、強く感じられる場合は5、やや弱く感じられる場合は2、弱く感じられる場合は1とし、最後に6名の評点の平均を算出した。ビールらしい香味の評価基準は次の通りとした。
[0094] 良「A」:酸味感、渋味感の評点の平均が2.0以下で、かつアルコール感、醸造由来の複雑味の評点の平均が4.0以上
可「B」:酸味感、渋味感の評点の平均が2.0超2.5以下で、かつアルコール感、醸造由来の複雑味の評点の平均が3.5以上4.0未満
不可「C」:酸味感、渋味感の評点の平均が2.5を超えている
[0095] 試料4~9の香気成分濃度及び評価結果を表10に示した。
[0096][表10]
[図:0001434179000008.jpg]
[0097] 表10の官能評価結果より、最低限、試料6の香気成分濃度(酢酸エチル濃度が0.49ppm、イソブタノール濃度が0.83ppm、酢酸イソアミル濃度が0.065ppm、イソアミルアルコール濃度が4.35ppm)において、低アルコールビールテイスト飲料の酸味が抑制されることが示された。また、試料6の香気成分濃度によって、渋味が抑制され、アルコール感が増強されることが示された。
[0098] また、それぞれの種類の香気成分が低アルコールビールテイスト飲料の香味に対しどのように影響するかを調べるため、試料7の香気成分のうちで一種類ずつ、濃度を変化させて、試料10~37を製造した。試料10~37の酸味度は、すべて1564.4ppmであった。試料10~37の官能評価結果を表11~15に示した。
[0099]
[表11]
[図:0001434179000009.jpg]
[0100][表12]
[図:0001434179000010.jpg]
[0101]
[表13]
[図:0001434179000011.jpg]
[0102][表14]
[図:0001434179000012.jpg]
[0103]
[表15]
[図:0001434179000013.jpg]
[0104] 試料10~25の官能評価結果より、酢酸エチル、イソブタノール、酢酸イソアミル及びイソアミルアルコールは、それらの有無と濃度の増大によって、低アルコールビールテイスト飲料の酸味及び渋みが抑制され、アルコール感及び醸造由来の複雑味が増大しており、香味改善効果が高い香気成分であることが示された。」
イ 甲1に記載された発明
上記アの記載、特に実施例の試料9について整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。
「香気成分を気化させた麦汁発酵液を水蒸気と接触させ、アルコール及び揮発成分を取り除いた後、気化した香気成分を凝結させて得た香気組成物を、アルコールを取り除いた麦汁発酵液に戻した低アルコールビールテイスト飲料であって、香気成分である酢酸エチルの濃度が1.95ppm、酸味成分であるコハク酸の濃度が59.6ppmであり、アルコール度数が1%未満である、低アルコールビールテイスト飲料。」(以下「甲1発明」という。)
「香気成分を気化させた麦汁発酵液を水蒸気と接触させ、アルコール及び揮発成分を取り除いた後、気化した香気成分を凝結させて得た香気組成物を、アルコールを取り除いた麦汁発酵液に戻して、香気成分である酢酸エチルの濃度が1.95ppm、酸味成分であるコハク酸の濃度が59.6ppmであり、アルコール度数が1%未満である、低アルコールビールテイスト飲料を製造する方法。」(以下、「甲1製法発明」という。)
「香気成分を気化させた麦汁発酵液を水蒸気と接触させ、アルコール及び揮発成分を取り除いた後、気化した香気成分を凝結させて得た香気組成物を、アルコールを取り除いた麦汁発酵液に戻して、香気成分である酢酸エチルの濃度が1.95ppm、酸味成分であるコハク酸の濃度が59.6ppmであり、アルコール度数が1%未満である、低アルコールビールテイスト飲料の渋味を抑制し、アルコール感を増強する、方法。」(以下、「甲1方法発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明は「59.6ppmのコハク酸」を含有するから、本件特許発明1の「コハク酸の含有量が48.5~150ppm」との特定事項を満たす。
また、甲1発明は「香気組成物を、アルコールを取り除いた麦汁発酵液に戻した低アルコールビールテイスト飲料」であることから、本件特許発明1の「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」との特定事項を満たす。
さらに、本件特許の明細書の【0012】には、「本発明において「非アルコールビールテイスト飲料」とは、アルコール(エタノール)濃度が1%(v/v)未満のビールテイスト飲料を意味する。」と記載されていることから、甲1発明の「アルコール度数が1%未満である、低アルコールビールテイスト飲料」は、本件特許発明1の「非アルコールビールテイスト飲料」に相当する。
すると、両者の一致点・相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「コハク酸の含有量が48.5~150ppmであり、脱アルコール麦汁発酵液を原料とする、非アルコールビールテイスト飲料。」
(相違点)
・相違点1-1
本件特許発明1は「フルフリルアセテートの含有量が0.03~3.5ppb」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
・相違点1-2
本件特許発明1は「酢酸エチルの含有量が3.5~60ppm」と特定するのに対し、甲1発明では「1.95ppmの酢酸エチル」を含有する点。
・相違点1-3
本件特許発明1は「アルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満であり、」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
(相違点についての判断)
上記相違点1-1について検討する。
甲1及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1発明がフルフリルアセテートを含有するという根拠を見出すことができないし、甲1発明において、ビールに含まれる数多くの香気成分の中から特にフルフリルアセテートに着目して、含有する動機もない。そして、仮に甲1発明において、フルフリルアセテートが含まれるものであるとしても、甲1発明において、フルフリルアセテートの含有量を本件特許発明1の範囲に調整しようとする動機付けはない。
よって、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(特許異議申立人の主張について)
特許異議申立人は、甲5を挙げ、通常のビールには酢酸エチルに対するフルフリルアセテートの比が0.01~0.02%程度であるから、甲1発明において同様の比率で計算すると、0.05ppb程度~0.4ppb程度含まれ、本件特許発明1で特定された数値範囲を満たす蓋然性が高い。そのため、上記相違点1-1は実質的な相違点ではなく、仮に実質的な相違点であったとしても、当業者であれば、低アルコールビールテイスト飲料の香味を改善するために、必要に応じて甲5、甲6、甲7及び甲8の記載を参考にして、ビール香気成分のフルフリルアセテートの含有量を調整し、上記相違点1-1に係る構成とすることは容易である旨主張し、さらに、フルフリルアセテートの有利な効果は認められない旨も主張する(申立書の第75~第76頁)。
しかしながら、上記蓋然性について検討すると、甲5のビールと甲1発明はその組成が異なるものであり、甲5の表4で示されているビールの酢酸エチルとフルフリルアセテートの比を、甲1発明の低アルコールビールテイスト飲料に直ちに適用することはできない。よって、甲1発明における酢酸エチルとフルフリルアセテートの比が甲5を用いて主張する0.05ppb程度~0.4ppb程度とする証拠がないから、甲1発明について、上記相違点1-1に係る本件発明1の特定事項を満たす蓋然性が高いとはいえない。
また、上記容易性について検討すると、上記「(相違点についての判断)」で検討したとおり、甲1発明において、フルフリルアセテートを0.03~3.5ppbの割合で含有させるものとする動機付けはない。
さらに、本件特許発明1の発明特定事項を満たすものにおいて、課題を解決できる旨の記載が本件特許の明細書に記載されており、具体的な実施例を通じた検証も行われている。そして、具体的に課題を解決できないとする証拠もないから、フルフリルアセテートの有利な効果は認められないとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用することはできない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1製法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がいえるから、両者は少なくとも次の点で相違することは明らかである。
(相違点)
・相違点1-4
本件特許発明2は「フルフリルアセテートの含有量を0.03~3.5ppbに調整する工程」と特定するのに対し、甲1製法発明にはそのような特定がない点。
(相違点についての判断)
上記相違点1-4について検討する。
相違点1-4は、上記相違点1-1と実質的に同様の内容であり、上記アと同様に判断される。
したがって、本件特許発明2は、甲1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明3ないし7について
本件特許発明3ないし7と甲1方法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がいえるから、本件特許発明3ないし7と甲1方法発明とはいずれも、少なくとも次の点で相違することは明らかである。
(相違点)
・相違点1-5
本件特許発明3ないし7はいずれも「フルフリルアセテートの含有量を0.03~3.5ppbに調整する工程」と特定するのに対し、甲1方法発明にはそのような特定がない点。
(相違点についての判断)
上記相違点1-5について検討する。
相違点1-5は、上記相違点1-4と同様の内容であり、上記イと同様に判断される。
したがって、本件特許発明3ないし7はいずれも、甲1方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由1-1についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、申立理由1-1では、本件特許発明1ないし7にかかる特許を取り消すことはできない。
2 申立理由1-2(甲2を主たる証拠とする進歩性)について
(1)甲2の記載事項等
ア 甲2の記載事項
甲2には、「ビール風味付与剤およびビール風味飲料」に関し、次の記載がある。
「【請求項1】
(A)天然香料類、(B)エステル類、(C)アルコール類、(D)アルデヒド類、(E)ケトン類、(F)フェノール類、(G)エーテル類、(H)ラクトン類、(I)炭化水素類、(J)含窒素及び/又は含硫化合物類、(K)酸類、(L)苦味料、(M)酸味料、(N)甘味料、及び(O)辛味料からなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とするビール風味付与剤。」
「【請求項3】
(B)エステル類が、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸アミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸2-メチルブチル、酢酸ヘキシル、酢酸ヘプチル、酢酸オクチル、酢酸リナリル、酢酸シトロネリル、酢酸ネリル、酢酸ゲラニル、酢酸フェニルエチル、酢酸フルフリル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸2-メチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸ゲラニル、酪酸エチル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、酪酸2-メチル、酪酸イソアミル、イソ酪酸プロピル、イソ酪酸イソブチル、2-メチル酪酸2-メチルブチル、イソ吉草酸イソプロピル、イソ吉草酸アリル、イソ吉草酸イソブチル、イソ吉草酸イソアミル、イソ吉草酸 シス-3-ヘキセニル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸イソブチル、ヘキサン酸イソアミル、2-ヘキセン酸エチル、3-ヒドロキシヘキサン酸メチル、ヘプタン酸エチル、ヘプタン酸プロピル、ヘプタン酸アリル、ヘプタン酸オクチル、オクタン酸メチル、オクタン酸エチル、オクタン酸プロピル、オクタン酸ブチル、オクタン酸2-フェニルエチル、ノナン酸メチル、ノナン酸エチル、ノナン酸エチルフェニル、デカン酸メチル、デカン酸エチル、デカン酸ブチル、デカン酸イソアミル、ウンデシレン酸メチル、ウンデシレン酸ブチル、ドデカン酸メチル、ドデカン酸エチル、ドデカン酸ブチル、ウンデシレン酸イソアミル、ミリスチン酸エチル、パルミチン酸エチル、ステアリン酸ブチル、安息香酸エチル、安息香酸イソアミル、安息香酸ベンジル、ケイ皮酸エチル、ケイ皮酸ベンジル、アンゲリカ酸メチル、アンゲリカ酸イソブチル、アンゲリカ酸イソアミル、レブリン酸エチル、レブリン酸ブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸イソアミル、ピルビン酸エチル、フランカルボン酸エチル、ヘプチンカルボン酸メチル、3-メチル-3-フェニルグリシド酸エチル、マロン酸ジエチル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、コハク酸モノメンチル、酒石酸ジエチル、及びサリチル酸メチルから選ばれる1種以上のエステル類を含有することを特徴とする請求項1記載のビール風味付与剤。」
「【請求項14】
(M)酸味料が、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸ナトリウム、リン酸、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、アスコルビン酸、フィチン酸、乳酸又はそれらの塩、アジピン酸、二酸化炭素、フマル酸、及びフマル酸一ナトリウムから選ばれる1種以上の酸味料を含有することを特徴とする請求項1記載のビール風味付与剤。」
「【請求項17】
請求項1~16のいずれかに記載のビール風味付与剤を含有することを特徴とするビール風味飲料。
【請求項18】
請求項1~16のいずれかに記載のビール風味付与剤を0.0000001~0.05重量%含有することを特徴とする請求項17記載のビール風味飲料。
【請求項19】
請求項1~16のいずれかに記載のビール風味付与剤を配合することを特徴とする、ビール風味飲料の製造方法。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料にビール様のアルコール感、香味、清涼感、爽快感などの風味を付与するビール風味付与剤、及び該ビール風味付与剤を含むビール風味飲料に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、(A)天然香料類、(B)エステル類、(C)アルコール類、(D)アルデヒド類、(E)ケトン類、(F)フェノール類、(G)エーテル類、(H)ラクトン類、(I)炭化水素類、(J)含窒素及び/又は含硫黄化合物類、(K)酸類、(L)苦味料、(M)酸味料、(N)甘味料、及び(O)辛味料からなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とするビール風味付与剤、及び該ビール風味付与剤を含むビール風味飲料に関する。」
「【背景技術】
【0003】
近年、健康に対する意識の高まりや、飲酒運転に対する規制の強化等により、日常生活における飲酒のスタイルが変化してきており、ビール風味飲料、ノンアルコールカクテル、ノンアルコール梅酒、ノンアルコールチューハイ、ノンアルコール清酒等のノンアルコール飲料の需要が拡大している。
【0004】
特に、ビール風味飲料は様々なバリエーションが展開されており、市場は激化の一途を辿っている。しかし、ビール風味飲料はアルコール(エタノール)を含んでいないか、含んでいたとしても微量であるため、どれも嗜好性の点で満足できるものではなかった。
【0005】
近年、こうした背景のもと、ビール様の嗜好性を有する飲料を製造するための技術が盛んに研究されている。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術を用いて調製されたビール風味飲料は、ビール風味、すなわちビール様のアルコール感、香味、コク感、清涼感、爽快感などの嗜好性の面で、必ずしも満足できるものではなかった。したがって、本発明の目的は、改善されたビール風味付与剤、並びに該ビール風味付与剤を含有するビール風味飲料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の如き課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の(A)天然香料類、(B)エステル類、(C)アルコール類、(D)アルデヒド類、(E)ケトン類、(F)フェノール類、(G)エーテル類、(H)ラクトン類、(I)炭化水素類、(J)含窒素及び/又は含硫黄化合物類、(K)酸類、(L)苦味料、(M)酸味料、(N)甘味料、及び(O)辛味料からなる群より選ばれる1種以上を含有するビール風味付与剤を、飲料に配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。」
「【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、本発明のビール風味付与剤を、飲料に配合することにより、ビール様のアルコール感、香味、コク感、清涼感、爽快感などの風味を付与することができ、ビール風味飲料の嗜好性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、(A)天然香料類、(B)エステル類、(C)アルコール類、(D)アルデヒド類、(E)ケトン類、(F)フェノール類、(G)エーテル類、(H)ラクトン類、(I)炭化水素類、(J)含窒素及び/又は含硫黄化合物類、(K)酸類、(L)苦味料、(M)酸味料、(N)甘味料、及び(O)辛味料からなる群から選ばれる1種以上を含むことを特徴とするビール風味付与剤である。また、本発明は、該ビール風味付与剤を含有するビール風味飲料である。」
「【0015】
本発明のビール風味付与剤に用いられる(B)エステル類としては、例えば、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸アミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸2-メチルブチル、酢酸ヘキシル、酢酸ヘプチル、酢酸オクチル、酢酸リナリル、酢酸シトロネリル、酢酸ネリル、酢酸ゲラニル、酢酸フェニルエチル、酢酸フルフリル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸2-メチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸ゲラニル、酪酸エチル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、酪酸2-メチル、酪酸イソアミル、イソ酪酸プロピル、イソ酪酸イソブチル、2-メチル酪酸2-メチルブチル、イソ吉草酸イソプロピル、イソ吉草酸アリル、イソ吉草酸イソブチル、イソ吉草酸イソアミル、イソ吉草酸 シス-3-ヘキセニル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸イソブチル、ヘキサン酸イソアミル、2-ヘキセン酸エチル、3-ヒドロキシヘキサン酸メチル、ヘプタン酸エチル、ヘプタン酸プロピル、ヘプタン酸アリル、ヘプタン酸オクチル、オクタン酸メチル、オクタン酸エチル、オクタン酸プロピル、オクタン酸ブチル、オクタン酸2-フェニルエチル、ノナン酸メチル、ノナン酸エチル、ノナン酸エチルフェニル、デカン酸メチル、デカン酸エチル、デカン酸ブチル、デカン酸イソアミル、ウンデシレン酸メチル、ウンデシレン酸ブチル、ドデカン酸メチル、ドデカン酸エチル、ドデカン酸ブチル、ウンデシレン酸イソアミル、ミリスチン酸エチル、パルミチン酸エチル、ステアリン酸ブチル、安息香酸エチル、安息香酸イソアミル、安息香酸ベンジル、ケイ皮酸エチル、ケイ皮酸ベンジル、アンゲリカ酸メチル、アンゲリカ酸イソブチル、アンゲリカ酸イソアミル、レブリン酸エチル、レブリン酸ブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸イソアミル、ピルビン酸エチル、フランカルボン酸エチル、ヘプチンカルボン酸メチル、3-メチル-3-フェニルグリシド酸エチル、マロン酸ジエチル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、コハク酸モノメンチル、酒石酸ジエチル、及びサリチル酸メチルから選ばれる1種以上を好ましく挙げることができる。」
「【0036】
本発明のビール風味付与剤に用いられる(M)酸味料としては、特に制限されないが、例えば、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸ナトリウム、リン酸、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、アスコルビン酸、フィチン酸、乳酸又はそれらの塩、アジピン酸、二酸化炭素、フマル酸、及びフマル酸一ナトリウムから選ばれる1種以上を好ましく挙げることができる。」
「【0048】
上記飲料への本発明のビール風味付与剤の配合量に関しては、使用するビール風味付与剤の種類や対象となる飲料、付与したい風味、嗜好により、ー概には規定することはできないが、通常、ビール風味飲料中に、0.0000001~0.05質量%となるような量が好ましく、より好ましくは0.0000005~0.01質量%、更に好ましくは0.000001~0.005質量%となる量である。
【0049】
また、飲食品への本発明のビール風味付与剤の配合方法については、従来公知の方法をとることができる。例えば、飲料の原料に本発明のビール風味付与剤を添加し混合した後に飲料を調製したり、調製された飲料に、本発明のビール風味付与剤を添加したりすることにより、ビール風味付与剤を含むビール風味飲料を調製することができる。また、発酵工程を経て得られる飲料に本発明のビール風味付与剤を配合する場合、発酵工程の前にビール風味付与剤を添加して、ビール風味飲料を調製することもできる。」
「【実施例】
【0050】
以下、本発明をより詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではなく、また本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1~14:ビール風味付与剤)
実施例1~7(表1)および実施例8~14(表2)に記載の組成に従い、ビール風味付与剤を調製した。なお、表中の水およびプロピレングリコールは分散媒あるいは溶媒として用いた。また、表中の「~1000」は、「プロピレングリコールで合計を1000に調製する」ことを示し、単位は質量部である。」
「【0052】
【表2】
[図:0001434179000014.jpg]
【0053】
(ビール風味飲料)
下記処方に従い、実施例1~14のビール風味付与剤をそれぞれ含むビール風味飲料を調製した。
処方
1.粉末水飴 2.5 kg
2.モルトエキス 0.5 kg
3.乳酸 0.02kg
4.リンゴ酸 0.02kg
5.クエン酸 0.01kg
6.コハク酸 0.01kg
7.カラメル色素 0.02kg
8.ビール風味付与剤(実施例1~14) 0.1 kg
9.水 1~8の成分を溶解して20.0Lとなる量
10.炭酸水 80.0 L
合計100.0 L
【0054】
上記で得られた、実施例1~14のビール風味付与剤をそれぞれ含むビール風味飲料は、全て、ビール特有のアルコール感及び香味に優れていた。」
イ 甲2に記載された発明
上記アの記載、特に表2における実施例8のビール風味付与剤を用いてビール風味飲料を調製する例について整理すると、甲2には次の発明が記載されていると認める。
「粉末水飴を2.5kg、モルトエキスを0.5kg、乳酸を0.02kg、リンゴ酸を0.02kg、クエン酸を0.01kg、コハク酸を0.01kg、カラメル色素を0.02kg、ビール風味付与剤を0.1kg、水を上記の成分(粉末水飴ないしビール風味付与剤の各成分)を溶解して20.0Lとなる量、炭酸水を80.0L加えて得られるビール風味飲料であって、前記ビール風味付与剤における酢酸フルフリルの含有割合が0.00005/1000である、ビール風味飲料。」(以下、「甲2発明」という。)
「粉末水飴を2.5kg、モルトエキスを0.5kg、乳酸を0.02kg、リンゴ酸を0.02kg、クエン酸を0.01kg、コハク酸を0.01kg、カラメル色素を0.02kg、ビール風味付与剤を0.1kg、水を上記の成分(粉末水飴ないしビール風味付与剤の各成分)を溶解して20.0Lとなる量、炭酸水を80.0L加えて混合する工程を含んでなる、ビール風味飲料の製造方法であって、前記ビール風味付与剤における酢酸フルフリルの含有割合が0.00005/1000である、ビール風味飲料の製造方法。」(以下、「甲2製法発明」という。)
「粉末水飴を2.5kg、モルトエキスを0.5kg、乳酸を0.02kg、リンゴ酸を0.02kg、クエン酸を0.01kg、コハク酸を0.01kg、カラメル色素を0.02kg、ビール風味付与剤を0.1kg、水を上記の成分(粉末水飴ないしビール風味付与剤の各成分)を溶解して20.0Lとなる量、炭酸水を80.0L加えて混合する工程を含んでなる、ビール風味飲料にビール様のアルコール感、香味、清涼感、爽快感などの風味を付与する方法であって、前記ビール風味付与剤における酢酸フルフリルの含有割合が0.00005/1000である、方法。」(以下、「甲2方法発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「ビール風味飲料」は、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当し、両者は少なくとも次の点で相違することは明らかである。
(相違点)
・相違点2-1
本件特許発明1はビールテイスト飲料について「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」と特定するのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。
(相違点についての判断)
上記相違点2-1について検討する。
甲2発明は、「粉末水飴を2.5kg、モルトエキスを0.5kg、乳酸を0.02kg、リンゴ酸を0.02kg、クエン酸を0.01kg、コハク酸を0.01kg、カラメル色素を0.02kg、ビール風味付与剤を0.1kg、水を上記の成分(粉末水飴ないしビール風味付与剤の各成分)を溶解して20.0Lとなる量、炭酸水を80.0L加えて得られる」ビール風味飲料であるから、甲2及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲2発明において、脱アルコール麦汁発酵液を原料とする動機付けがない。
よって、甲2発明において、相違点2-1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(特許異議申立人の主張について)
特許異議申立人は、甲2の【0049】の記載を挙げつつ、甲2発明において脱アルコール麦汁発酵液を用いることは排除されているわけではない旨と、香味改善は自明の課題であることを甲1、甲7、甲8で示しつつ、脱アルコール麦汁発酵液を原料として使用し、所望のビール風味を付与するために相違点2-1に係る構成に容易に想到し得る旨主張する(申立書の第92頁)。
しかしながら、甲2発明において脱アルコール麦汁発酵液を用いることは、香気成分等の点からすると、ビール風味付与剤に加え脱アルコール麦汁発酵液由来の香気成分も加わることとなり、酢酸フルフリル等の香気成分の含有量についても変化が生じるものであるから、結果として、これら香気成分の含有量がどの程度かも不明になり、本件特許発明1の発明特定事項を満たすとはいえない。
さらに、甲2発明において脱アルコール麦汁発酵液を用いた際に、酢酸フルフリルの含有割合を調整し、上記相違点2-1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとする動機付けもない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用することはできない。
したがって、本件特許発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲2製法発明とを対比すると、上記アと同様に、両者は少なくとも次の点で相違することは明らかである。
(相違点)
・相違点2-2
本件特許発明2はビールテイスト飲料について「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」と特定するのに対し、甲2製法発明にはそのような特定がない点。
(相違点についての判断)
上記相違点2-2について検討する。
相違点2-2は上記相違点2-1と同様の内容であり、上記アと同様に判断される。
したがって、本件特許発明2は、甲2製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明3ないし7について
本件特許発明3ないし7と甲2方法発明とを対比すると、上記イと同様に判断される。
したがって、本件特許発明3ないし7はいずれも、甲2方法発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由1-2についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、申立理由1-2では、本件特許発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由1-3(甲3を主たる証拠とする進歩性)について
(1)甲3の記載事項等
ア 甲3の記載事項
甲3には、次の記載がある。なお、甲3は外国語文献であるため、抄訳のみ(表については、原文及び抄訳)摘記する。
「「脱アルコール化」というテーマは、脱アルコール化技術とビール製造技術から生じる様々な側面を有する。本稿では、こうした可能性の一つについて解説する。上面発酵ビールと下面発酵ビールを、精留機能付き向流蒸留システムを用いた大規模実験により脱アルコール化した。蒸留前に分離された二酸化炭素を洗浄することで、アロマ循環を効果的に行うことで、より豊かなまろやかなビールの風味を実現した。また、脱アルコール化後にクロイゼンを添加することや、アロマ循環とクロイゼンを組み合わせることも効果的であった。」(第1806頁)
「蒸発による脱アルコールでは、高級脂肪族アルコールとエステルが大幅に失われるが、2-フェニルエタノール、中鎖脂肪酸、それらのエチルエステルなどの高沸点成分はビール中に大部分が残る。膜の特性とプロセスにもよるが、膜システムは前述の芳香成分をある程度保持することができるが、通常、高級脂肪族アルコールの90%以上、通常は95%が失われる。これは全ての脱アルコール方法に共通する欠点である。「高貴」な芳香成分は大部分が失われる一方で、「高貴」でない脂肪酸などはビールに残る。その結果、香りが著しく変化し、脂肪酸と脂肪酸エステルを特徴とする独特の風味が生る。・・・蒸発器システムを使用する場合、アルコール度数を0.5%volよりも下げることが望ましい。」(第1806頁)
「ビールの脱アルコール化のための向流蒸留/精留 この技術は蒸留所で生まれたもので、高濃度アルコールの製造とアルコールの生成に用いられる。このシステムは、ストリッピングセクションと濃縮セクションを備えた精留塔で構成される。上記の一部は凝縮された状態で戻され、留出液の濃度を高める。同じ残留アルコール濃度を得るには、蒸発量が少なくて済む。連続精留プロセスでは、アルコールを含む生成物が精留塔に供給され、ストリッピングカラムで脱アルコールされる。」(第1809頁)
「脱アルコールされたビールは熱交換器を介して0℃まで冷却される。・・・芳香化合物(高級アルコールおよびエステル)を豊富に含む液体を、脱アルコール処理したビールに加える。・・・実験設定 バイエルン州立醸造所ワイフェンシュテファンの2種類のビールを脱アルコール処理に使用した。下面発酵の「オリジナル」(初期比重約11.8%、EBC苦味単位25)と、上面発酵の「クリスタルヴァイツェン」(初期比重12.6%、EBC苦味単位約12)である。」(第1811頁)
「
[図:0001434179000015.jpg]
」(第1812頁 表4a)
「
[図:0001434179000016.jpg]
」
「
[図:0001434179000017.jpg]
」(第1813頁 表4b)
「
[図:0001434179000018.jpg]
」
「
[図:0001434179000019.jpg]
」(第1813頁 表4c)
「
[図:0001434179000020.jpg]
」
「「クリスタルヴァイツェン」(1、2、3、10、12)、下面発酵のオリジナルビール(4、5、6、7、8、9、11)を使用する試験に分けた。アロマを戻して、アルコール度数を0.5%(V1)、0.1%(V2)に調整した小麦ビールを製造した。・・・小麦ビールを用いた実験結果を表4a~cに示す。ビール分析データが示すように、脱アルコール処理によりビールの色は著しく増加したが、熱ストレスに関する情報を提供するTBZは増加しなかった。ガスクロマトグラフィー分析によると、アロマ循環によってクラウゼンとほぼ同量の発酵副産物が生成した。「熟成成分」が明確に示しているように、ここでは有害な熱ストレスの証拠はなかった。脱アルコール処理ビールの試飲試験では、以下の順序が明らかになった。:V3=クラウゼン添加、ほぼ同じ、V1=0.5%vol.(アロマ回復)→V2=0.1%(アロマ回復)。」(第1814頁)
「概要 ・・・蒸留前に分離された二酸化炭素を洗浄し、香りを取り戻すことで、以下のことが可能になった。:脱アルコールビールに、元々含まれていた高級脂肪族アルコールの約8%とエステルの約10%を再導入すること;これにより、より豊かでまろやかなビールの風味が得られ;また、少なくとも小麦ビールについては、アルコール度数0.1%まで脱アルコールすることで、許容できる製品を製造できた。」(第1820頁)
イ 甲3に記載された発明
上記アの記載、特に表4a~cの試料番号1(WB1 0.5%Vol.+Aroma)の例に着目して整理すると、甲3には次の発明が記載されていると認める。
「アルコールが0.51%Vol.であり、酢酸エチルの濃度が13.0ppmであり、フルフリルアセテートの濃度が1.1ppbである、脱アルコール処理されたビールにアロマ循環によってアロマを戻した、脱アルコールビール。」(以下、「甲3発明」という。)
「アルコールを0.51%Vol.に、酢酸エチルの濃度を13.0ppmに、フルフリルアセテートの濃度を1.1ppbになるように、脱アルコール処理されたビールにアロマ循環によってアロマを戻す、脱アルコールビールの製造方法。」(以下、「甲3製法発明」という。)
「アルコールを0.51%Vol.に、酢酸エチルの濃度を13.0ppmに、フルフリルアセテートの濃度を1.1ppbになるように、脱アルコール処理されたビールにアロマ循環によってアロマを戻す、脱アルコールビールにおける、より豊かでまろやかなビールの風味を実現する方法。」(以下、「甲3方法発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
本件特許の明細書の【0012】には、「本発明において「非アルコールビールテイスト飲料」とは、アルコール(エタノール)濃度が1%(v/v)未満のビールテイスト飲料を意味する。」と記載されているところ、甲3発明の「脱アルコール処理ビール」はアルコール濃度が0.51%volであるから、甲3発明の「脱アルコール処理ビール」は、本件特許発明1の「非アルコールビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲3発明は「フルフリルアセテートの含有量が1.1ppb」であり、「酢酸エチルの含有量が13.0ppm」であるから、本件特許発明1の「フルフリルアセテートの含有量が0.03~3.5ppb」であり、「酢酸エチルの含有量が3.5~60ppm」との特定事項をいずれも満たす。
そして、甲3発明は、甲3の記載によると、バイエルン州立醸造所ワイフェンシュテファンのビールである、上面発酵の「クリスタルヴァイツェン」(初期比重12.6%、EBC苦味単位約12)を脱アルコール処理して得られたものを用いているから、本件特許発明1の「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」との特定事項を満たすことも明らかである。
よって、両者の一致点・相違点は次のとおりである。
(一致点)
「フルフリルアセテートの含有量が0.03~3.5ppbであり、酢酸エチルの含有量が3.5~60ppmであり、脱アルコール麦汁発酵液を原料とする、非アルコールビールテイスト飲料。」
(相違点)
・相違点3-1
本件特許発明1は「コハク酸の含有量が48.5~150ppm」と特定するのに対し、甲3発明にはそのような特定がない点。
・相違点3-2
本件特許発明1は「アルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満」と特定するのに対し、甲3発明は「アルコールが0.51%Vol.」である点。
(相違点についての判断)
事案に鑑み、上記相違点3-2について検討する。
甲3及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲3発明において、さらに脱アルコールして、アルコール濃度を0.01v/v%未満にする動機付けがない。
よって、甲3発明において、相違点3-2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(特許異議申立人の主張について)
特許異議申立人は甲3の「少なくとも小麦ビールについては、アルコール度数0.1%まで脱アルコールすることで、許容できる製品を製造できた」(第1820頁)を示しつつ、アルコール度数が0.00%である商品も多く知られていること(甲7)などから、甲3発明においてアルコール度数を下げ、相違点3-2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすことは、当業者であれば容易になし得る旨主張する(申立書の第105頁)。
しかしながら、甲3では上記記載のとおり、小麦ビールにおいてアルコール度数を0.1%まで脱アルコールするものは許容できる製品を製造できたことを示すにとどまる。このことは、甲3発明においてアルコール度数を0.1%よりも小さくすることは、むしろ「脱アルコールビール」の製品として許容できる程度にはないことを示唆するものであるから、甲3発明において、アルコール度数をさらに下げ、相違点3-2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすことが、当業者において容易になし得ることであるとする、特許異議申立人の主張は採用することはできない。
さらに、アルコール濃度をより少なくなるように脱アルコール処理を行えば、当然、揮発性の香気成分であるフルフリルアセテート、酢酸エチルの含有量についても変化が生じるものであるから、結果として、これら香気成分の含有量がどの程度かも不明になるものといえる。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲3製法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がいえるから、両者は少なくとも次の点で相違することは明らかである。
(相違点)
・相違点3-3
本件特許発明2は非アルコールビールテイスト飲料について「アルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満」と特定するのに対し、甲3製法発明は「0.51%vol.」である点。
(相違点についての判断)
上記相違点3-3について検討する。
相違点3-3は上記相違点3-2と同様の内容であり、上記アと同様に判断される。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲3製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明3ないし7について
本件特許発明3ないし7と甲3方法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がいえるから、本件特許発明3ないし7と甲3方法発明とはいずれも、少なくとも次の点で相違することは明らかである。
(相違点)
・相違点3-4
本件特許発明3ないし7はいずれも非アルコールビールテイスト飲料について「アルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満であり、」と特定するのに対し、甲3方法発明は「0.51%vol.」である点。
(相違点についての判断)
上記相違点3-4について検討する。
相違点3-4は上記相違点3-3と同様の内容であり、上記イと同様に判断される。
したがって、本件特許発明3ないし7はいずれも、甲3方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由1-3についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、申立理由1-3では、本件特許発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由1-4(甲4を主たる証拠とする進歩性)について
(1)甲4の記載事項等
ア 甲4の記載事項
甲4には、「吸着システム及び吸着システムの運転方法」に関し、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール含有食品及び/又は嗜好品、ビール麦汁、ホップ、ホップエキス、麦芽水、麦芽ビール、麦芽汁、及びビール醸造固有原料及び製品の群からの食品であり、及び/又は、脱アルコール装置を用いてビール含有食品及び/又は嗜好品の群からのエタノール含有食品から得られる香気成分含有流体からの香気成分を富化するための吸着システムに関する。本発明は、さらに、かかる吸着システムの運転方法と、吸着システムを用いて、及び/又は、かかる方法によって香気成分含有流体から得ることが可能な、及び/又は、得られる香気成分濃縮物及び脱香気透過物と、さらには、かかる香気成分濃縮物を有する少なくとも部分脱アルコールビール及び/又は発酵停止ビールとを混合することによって得ることが可能な、または、得られるビールにも関する。
【背景技術】
【0002】
ビール醸造事業においては、ビール及び低アルコール濃度のビール含有食品及び嗜好品の様々な製造方法が知られている。一般的には、ビールという概念は、何らかの蒸留法を使用する必要なしで、糖化澱粉の部分または完全発酵によって製造される食品または嗜好品であると理解されている。より狭い意味では、ビールとは、麦芽及び/又は澱粉含有穀物、すなわち、麦芽代用品から得られ、蒸留されることのない食品及び嗜好品であると理解されている。従って、「ビール含有食品及び嗜好品」という概念は、非ブレンドビール、並びに、その他の食品及び/又は嗜好品、例えば、フルーツジュース(ビール混合飲料)、スパイス等とブレンド又は混合されたビールを含む。「低アルコール」及び「ノンアルコール」という概念は国によって定義が様々であるので、以下で「低アルコール」と言うのは、ビール含有食品及び嗜好品が最大1容量%、好ましくは、0.7容量%のアルコールを含む場合である。以下で「ノンアルコール」と言うのは、ビール含有食品及び嗜好品が最大0.5容量%のアルコールを含む場合である。本公開公報の範囲内で、一般的には、別段の指摘がない限りは、「アルコール」という概念はエタノールであると理解される。
【0003】
通常、ビール(生ビール及びフォルビール)はアルコール含有率が約4~約6容量%であり、アルコール含有率がもっと低いライトビール及びシンプルビールや、アルコール含有率が一部では明らかにもっと高いボックビール、ダブルボックビール及びトリプルボックビールのようなストロングビールも知られている。分類は通常は製造時に使用される基本麦汁エキス含有率によって行われる。
【0004】
現在、ビールの脱アルコールには2つの方法が使用されており、両方法の組合せも知られている。1つの方法では、発酵を定刻前に停止させることによって、すなわち、アルコール発生を阻止または減少させることによって、アルコール含有率を低下させる。多くの炭水化物がまだその元の形で存在しているので、それによって、飲料は通常は甘い味となる。それに対して、発酵時に初めて発生する香気は一部または完全に不足している。もう1つの方法では、発酵工程の終了後に、下流の物理工程において、例えば、蒸留、精留、透析または逆浸透によって、アルコールを除去し、その際、アルコールと共に香気成分も常に除去され、工程によって一部が変化させられ得る。さらに、例えば、ビールと水との混合、ノンアルコールビールとアルコール含有ビールとのブレンド等のような、その他のアルコール含有率を下げる方法も存在するが、さらに明白な味の変化が生じることが多く、従って、ほとんど普及していない。
【0005】
現在の全ての方法において不利となるのが、比較的大きな味の変化であり、その結果、現在入手可能なノンアルコール及び低アルコールビールは、本来のビール又はフォルビールの香気プロファイルとの違いが比較的大きい香気プロファイルを有する。
【0006】
従って、香気プロファイルを改善するために、ビール含有食品及び嗜好品に香気成分を再び添加して、脱アルコール中の相当する損失を補償することが知られている。最も簡単な方法は、人工または自然由来の香気成分の添加である。もちろん、一方では申告義務があり、他方では本来の複雑な香気を正確に再現することは事実上不可能であることから、かかる添加は望ましいものではない。従って、かかるビール含有食品及び嗜好品の香気プロファイルは通常は消費者には人工的である、又はビール風味ほぼゼロであると感じられる。
【0007】
もう1つの可能性は、ビール醸造固有原料または製品から香気成分を獲得または回収し、ビール独特の香気プロファイルを生成又は再現することを目的として脱アルコールビールにそれらの香気成分を添加することにある。獲得または回収に適しているのは、ビールに加えて、ビール麦汁、ホップ、ホップエキス、麦芽水、麦芽ビール及び麦芽汁であり、このリストはこれで終わりと考えるべきではなく、その他のビール醸造固有原料及び製品も含まれる。
【0008】
これには、かかる獲得香気成分の添加には通常は申告義務がなく、個々の香気成分の添加と比べると、個々の香気成分の添加の場合よりも人工的な印象が少なく、よりビールに近い香気プロファイルを達成できるという利点がある。その原因は、特に、脱アルコール方法の範囲内で発生する流体からの、または、ビール醸造固有原料または製品からの回収を困難にしているビールに含まれる香気成分の数の多さ及び複雑な組成にある。
【0009】
香気成分濃縮物の獲得方法が例えばEP2075321A1から知られている。この吸着方法では、流体として、1つまたは複数の香気成分を含む水性香気が提供される。香気成分含有流体はその後に、ソーベントまたは吸着材とも呼ぶことができる仕事室内に配置される収着剤によって案内することができる。その際、流体中に含まれる1つまたは複数の香気成分の少なくとも一部が収着剤に吸着する。吸着された香気成分は続いて適当な脱着剤によって収着剤から脱着させられ、富化によって濃度が開始濃度よりも高くなった香気成分を含む香気成分濃縮物として捕集される。
【0010】
もちろん、この吸着方法又は吸着システムを用いても、ビール独特の香気成分の可能な限り均等な回収及び富化は不可能である。特に、極性香気成分については比較的わずかな濃縮しか可能ではなく、その結果、非極性香気成分の方が極性香気成分よりも比較的強く富化される。これによって、真正な香気成分濃縮物を、すなわち、極性香気成分も非極性香気成分も可能な限り均等に、かつ可能な限り大きな濃縮係数で存在する香気成分濃縮物を得ることは初めから不可能である。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、真正な香気プロファイルを可能な限り広範に維持しつつ香気成分の特に高度な富化を可能にする吸着システムを作り出することにある。本発明のその他の目的は,ビール独特の香気成分の高度かつ可能な限り均等な濃縮を可能にし、ビール独特の香気プロファイル及び可能な限り大きな濃縮係数を有する香気成分濃縮物を作り出し、ビール独特の香気プロファイルのない可能な限り広範に脱香気された透過物を提供し、アルコール濃度が可能な限り低く、ビール風の香気プロファイルを有するビールを作り出す吸着システムの運転方法を提示することにある。」
「【0057】
本発明の有利な形態においては、流体として、少なくとも一部に、脱アルコールビールの香気成分含有蒸留物及び/又は香気成分含有膜透過物を使用することを想定している。これによって、異なる脱アルコール法によって獲得された流体を香気成分回収及び富化に有利に使用することができる。代替的または付加的に、エタノール含有率が0容量%~50容量%の間の流体を使用することを想定している。エタノール含有率0容量%~50容量%とは、特に、エタノール含有率が、0容量%、1容量%、2容量%、3容量%、4容量%、5容量%、6容量%、7容量%、8容量%、9容量%、10容量%、11容量%、12容量%、13容量%、14容量%、15容量%、16容量%、17容量%、18容量%、19容量%、20容量%、21容量%、22容量%、23容量%、24容量%、25容量%、26容量%、27容量%、28容量%、29容量%、30容量%、31容量%、32容量%、33容量%、34容量%、35容量%、36容量%、37容量%、38容量%、39容量%、40容量%、41容量%、42容量%、43容量%、44容量%、45容量%、46容量%、47容量%、48容量%、49容量%または50容量%並びに相応する中間値であると理解されるものとする。これによって、ビール醸造工場内に存在するか、またはそこで製造される様々な流体を、本発明による方法の範囲内で処理し、香気成分濃縮物の製造に使用することができる。」
「【0070】
本発明のその他の有利な形態においては、流体として、少なくとも部分脱アルコールビールの香気成分含有蒸留物及び/又は香気成分含有膜透過物を使用し、第1の香気成分濃縮物のメタノール量を使用流体(蒸留物、膜透過物)のメタノール量の最大1/10とすることを想定している。これによって、脱アルコールビールのエタノール含有率の関連上昇につながることなく脱アルコールビールの香気プロファイルを改善するために問題なくノンアルコールビールに使用することができるエタノール相応減損香気成分濃縮物の製造が可能になる。それと共に、残留エタノール含有率が0.1容量%未満、特に最大0.045容量%で、それにもかかわらず、ビールに人工または天然または天然同一香気を添加しなくても、例えば、フォルビールに匹敵する真正な香気プロファイルを、特に、ビールからは獲得されなかったような香気を有するビールを製造することもできる。対照的に、ビールに添加されたビール醸造固有原料及び製品由来の全ての香気成分濃縮物は回収することができる。エタノール量最大1/10とは、特に、使用される出発流体の容量中のエタノール量に関するエタノール量1/10、1/20、1/30、1/40、1/50、1/60、1/70、1/80、1/90、1/100、1/110、1/120、1/130、1/140、1/150、1/160、1/170、1/180、1/190、1/200、1/300、1/400、1/500、1/600、1/700、1/800、1/900、1/1000、1/1100、1/1200、1/1300、1/1400、1/1500、1/1600、1/1700、1/1800、1/1900、1/2000、1/2100、1/2200、1/2300、1/2400、1/2500、1/2600、1/2700、1/2800、1/2900、1/3000、1/3100、1/3200、1/3300、1/3400、1/3500、1/3600、1/3700、1/3800、1/3900、1/4000、1/4100、1/4200、1/4300、1/4400、1/4500、1/4600、1/4700、1/4800、1/4900、1/5000またはそれ以下であると理解されたい。」
「【0079】
第1の香気成分濃縮物、第2の香気成分濃縮物、香気成分含有流体、脱香気透過物並びにビール含有食品及び/又は嗜好品からなる群からの少なくとも2つを混合した場合に、さらなる利点が生じる。すなわち、第1の香気成分濃縮物、第2の香気成分濃縮物(高濃縮段階)、香気成分含有流体(香気成分濃縮物製造用の出発材料)、脱香気透過物並びにビール含有食品及び/又は嗜好品の群からの2つ、3つ、4つまたは5つを相互に混合して、望ましい最終製品を製造する。混合は例えばバッチ処理を経ての手作業により、または、連続インライン処理において自動的に行うことができる。原則的には、第1の香気成分濃縮物及び/又は第2の香気成分濃縮物及び/又は香気成分含有流体及び/又は脱香気透過物及び/又はビール含有食品及び/又は嗜好品の総容量または1つまたは複数の画分を混合することを想定することができる。これによって、望ましい香気成分プロファイルの調整並びに望ましい食品及び嗜好品の製造の特に柔軟性のある可能性が得られる。混合の目標は、例えば、実際の香気プロファイルと目標の香気プロファイルとの間の、例えば、0.0%ビールの香気プロファイルと0.5%ビールまたはフォルビールの香気プロファイルとの間の「香気ギャップ」を満たすこと、又は補償することにある。代替的に、混合の目標は、特定の香気成分に特定のバランスを作り出して、望ましい香気プロファイルを得ることとすることができる。ビールの場合、例えば、実際の香気プロファイルに基づいて、特定の香気成分が0.5%ビールまたはフォルビールに類似するようにバランスがとられるように、混合によって0.0%ビールの香気プロファイルを調整することができ、しかも、混合されたビール中の当該の香気成分の総濃度は必ずしもフォルビール中の総濃度に合致している必要はない。」
「【0081】
本発明の第4の態様は、第1の態様による吸着システムを用いて、及び/又は、第2の態様による方法によって香気成分含有流体から得ることができる、及び/又は、得られる香気成分濃縮物であって、香気成分含有流体は、ビール含有食品及び/又は嗜好品、ビール麦汁、ホップ、ホップエキス、麦芽水、麦芽ビール、麦芽汁、及びビール醸造固有原料及び製品の群からの食品であり、及び/又は、脱アルコール装置を用いてビール含有食品及び/又は嗜好品の群からのエタノール含有食品から得られる、香気成分濃縮物に関する。これと共に、元々流体中に含まれる香気成分は少なくとも広範に均質に富化されていることから、香気成分濃縮物は、選択的に流体の真正な複製品であるか、または、特定の香気成分がその他の香気成分に対して減損されている流体の調整複製品である。これによって、食品及び嗜好品の、特に、ノンアルコールビールまたはビール混合飲料の、又はビール風味の飲料の特に柔軟な香気付けが可能になり、しかも、香気成分濃縮物は原則的には単独で、又は室内用芳香剤、香水等の製造にも使用することができる。例えば、香気成分濃縮物は以下の食品及び嗜好品の香気付けに使用することができる。」
「【0085】
本発明の第6の態様は、少なくとも部分脱アルコール及び/又は発酵停止ビール含有食品及び/又は嗜好品を、第1の態様による吸着システムを用いて、及び/又は、第2の態様による方法によって得ることが可能な、及び/又は得られる香気成分濃縮物と混合することによって製造されるビールであって、エタノール含有率が最大0.5容量%で、食品及び嗜好品中の3-メチルブタン-1-オールの濃度が少なくとも0.01ppmであるビールに関する。比較的強力な極性化合物である香気成分3-メチルブタン-1-オールは一方ではビール独特の香気プロファイルにとっては重要であるが、他方、3-メチルブタン-1-オール(イソアミルアルコール)は、α-ケト-イソカプロン酸の中間段階を経ての酵母による発酵中にアミノ酸ロイシンの分解によって、すなわち、発酵中にはじめて形成されることから、脱アルコールによるものであれ、及び/又は、発酵停止によるものであれ、ノンアルコールビールの製造時には、大きく減損させられるか、又は、はじめから全くまたはほんのわずかな範囲でしか形成されない。それと共に、3-メチルブタン-1-オール(イソアミルアルコール)は一方では重要な香気成分であり、他方では、極性及び非極性香気成分双方の可能な限り均質は回収によってしか達成又は再現が不可能な、可能な限り真正なビール香気の存在にとっての重要な指示薬である。その他のビール独特の極性香気成分の不足が原因で、結果的に人工的な嗅覚印象を与える純粋な3-メチルブタン-1-オールの人工的添加の場合とは違って、第1の態様による吸着システムを用いて、及び/又は、第2の態様による方法によって、真正な香気成分濃縮物をビール醸造工場固有の原料及び製品から獲得し、混合することによって、フォルビールに類似の香気プロファイル、又は、元の非脱アルコール又は完全発酵ビールに相当するような香気プロファイルを有するノンアルコールビールの製造に使用することができる。本発明による吸着システム又は方法によって達成可能な濃縮係数が大きいことから、ビール独特の香気プロファイルを達成するのに必要な香気成分濃縮物の量がそれに応じて減少し、その結果、脱アルコールビールのエタノール含有率に全くまたは少なくとも実質的に影響を与えることはない。代替的に、本発明による吸着システム又は方法によって、水性香気成分濃縮物を場合により比較的小さな濃縮係数で製造することが可能であるが、しかし、これらの水性香気成分濃縮物はエタノール無含有または少なくとも基本的にメタノール無含有であり、その結果、ビール独特の香気を確保するのに十分な量で脱アルコール及び/又は発酵停止ビールに添加したとしても、完成したビールのエタノール含有率の関連(<0.1容量%特に<0.01容量%、好ましくは<0.005容量%)上昇を伴うことはないか、または少なくともない。脱アルコール及び/又は発酵停止ビールは、例えば、上面または底面発酵ビール、または上面または底面発酵ビールの混合物とすることができる。上面発酵ビールの種類としては、例えば、エール、アルトビール、ベルリーナ・ヴァイセ、ディンケルビール、エンマービール、ゴーゼ、ハーファービール、ケルシュ、ヴィース、ポーター、ロッゲンビール、スタウト及びヴァイツェンビールがあり、一方、底面発酵ビールの種類としては、例えば、エクスポートビール、ヘレス、ラガービール、メルツェン、ミュンヒナードゥンケル、ポーター、ピルスナー、黒ビール、赤ビールまたはツォイグルがあるが、なお、このリストは限定的なものではない。それに応じて、ビールと混合される香気成分濃縮物も、同様に、個別または任意の組合せの上記の種類のビールから、又は、ビール醸造工場において上記の種類のビールの1つまたは複数の製造と関連している流体から得ることができる。ppm(100万分の1)という表現は数字10-6を示しており、本公開公報の範囲内では、質量に関して100万分の1に対して使用する。質量分率少なくともppmとは、特に、0.01ppm、0.02ppm、0.03ppm、0.04ppm、0.05ppm、0.06ppm、0.07ppm、0.08ppm、0.09ppm、0.10ppm、0.11ppm、0.12ppm、0.13ppm、0.14ppm、0.15ppm、0.16ppm、0.17ppm、0.18ppm、0.19ppm、0.20ppm、0.21ppm、0.22ppm、0.23ppm、0.24ppm、0.25ppm、0.26ppm、0.27ppm、0.28ppm、0.29ppm、0.30ppm、0.31ppm、0.32ppm、0.33ppm、0.34ppm、0.35ppm、0.36ppm、0.37ppm、0.38ppm、0.39ppm、0.40ppm、0.41ppm、0.42ppm、0.43ppm、0.44ppm、0.45ppm、0.46ppm、0.47ppm、0.48ppm、0.49ppm、0.50ppm、0.51ppm、0.52ppm、0.53ppm、0.54ppm、0.55ppm、0.56ppm、0.57ppm、0.58ppm、0.59ppm、0.60ppm、0.61ppm、0.62ppm、0.63ppm、0.64ppm、0.65ppm、0.66ppm、0.67ppm、0.68ppm、0.69ppm、0.70ppm、0.71ppm、0.72ppm、0.73ppm、0.74ppm、0.75ppm、0.76ppm、0.77ppm、0.78ppm、0.79ppm、0.80ppm、0.81ppm、0.82ppm、0.83ppm、0.84ppm、0.85ppm、0.86ppm、0.87ppm、0.88ppm、0.89ppm、0.90ppm、0.91ppm、0.92ppm、0.93ppm、0.94ppm、0.95ppm、0.96ppm、0.97ppm、0.98ppm、0.99ppm、1ppm、2ppm、3ppm、4ppm、5ppm、6ppm、7ppm、8ppm、9ppm、10ppm、11ppm、12ppm、13ppm、14ppm、15ppm、16ppm、17ppm、18ppm、19ppm、20ppm、21ppm、22ppm、23ppm、24ppm、25ppm、26ppm、27ppm、28ppm、29ppm、30ppm、31ppm、32ppm、33ppm、34ppm、35ppm、36ppm、37ppm、38ppm、39ppm、40ppm、41ppm、42ppm、43ppm、44ppm、45ppm、46ppm、47ppm、48ppm、49ppm、50ppm、51ppm、52ppm、53ppm、54ppm、55ppm、56ppm、57ppm、58ppm、59ppm、60ppm、61ppm、62ppm、63ppm、64ppm、65ppm、66ppm、67ppm、68ppm、69ppm、70ppm、71ppm、72ppm、73ppm、74ppm、75ppm、76ppm、77ppm、78ppm、79ppm、80ppm、81ppm、82ppm、83ppm、84ppm、85ppm、86ppm、87ppm、88ppm、89ppm、90ppm、91ppm、92ppm、93ppm、94ppm、95ppm、96ppm、97ppm、98ppm、99ppm、100ppm、101ppm、102ppm、103ppm、104ppm、105ppm、106ppm、107ppm、108ppm、109ppm、110ppm、111ppm、112ppm、113ppm、114ppm、115ppm、116ppm、117ppm、118ppm、119ppm、120ppmまたはそれ以上であると理解するものとし、さらに、例えば、35.01ppm、35.02ppm、35.03ppm、35.04ppm、35.05ppm、35.06ppm、35.07ppm、35.08ppm、35.09ppm、35.10ppm、35.11ppm、35.12ppm、35.13ppm、35.14ppm、35.15ppm、35.16ppm、35.17ppm、35.18ppm、35.19ppm、35.20ppm、35.21ppm、35.22ppm、35.23ppm、35.24ppm、35.25ppm、35.26ppm、35.27ppm、35.28ppm、35.29ppm、35.30ppm、35.31ppm、35.32ppm、35.33ppm、35.34ppm、35.35ppm、35.36ppm、35.37ppm、35.38ppm、35.39ppm、35.40ppm、35.41ppm、35.42ppm、35.43ppm、35.44ppm、35.45ppm、35.46ppm、35.47ppm、35.48ppm、35.49ppm、35.50ppm、35.51ppm、35.52ppm、35.53ppm、35.54ppm、35.55ppm、35.56ppm、35.57ppm、35.58ppm、35.59ppm、35.60ppm、35.61ppm、35.62ppm、35.63ppm、35.64ppm、35.65ppm、35.66ppm、35.67ppm、35.68ppm、35.69ppm、35.70ppm、35.71ppm、35.72ppm、35.73ppm、35.74ppm、35.75ppm、35.76ppm、35.77ppm、35.78ppm、35.79ppm、35.80ppm、35.81ppm、35.82ppm、35.83ppm、35.84ppm、35.85ppm、35.86ppm、35.87ppm、35.88ppm、35.89ppm、35.90ppm、35.91ppm、35.92ppm、35.93ppm、35.94ppm、35.95ppm、35.96ppm、35.97ppm、35.98ppm、35.99ppm、36.00ppm等は同時に開示されていると見なされる。エタノール含有率最大0.5容量%とは、それに応じて、エタノール含有率が0.50容量%、0.49容量%、0.48容量%、0.47容量%、0.46容量%、0.45容量%、0.44容量%、0.43容量%、0.42容量%、0.41容量%、0.40容量%、0.39容量%、0.38容量%、0.37容量%、0.36容量%、0.35容量%、0.34容量%、0.33容量%、0.32容量%、0.31容量%、0.30容量%、0.29容量%、0.28容量%、0.27容量%、0.26容量%、0.25容量%、0.24容量%、0.23容量%、0.22容量%、0.21容量%、0.20容量%、0.19容量%、0.18容量%、0.17容量%、0.16容量%、0.15容量%、0.14容量%、0.13容量%、0.12容量%、0.11容量%、0.10容量%またはそれ以下であると理解されたい。
【0086】
ビールのエタノール含有率が最大0.1容量%、特に最大0.045容量%であることによって、さらなる利点が生じる。すなわち、ビール含有食品及び嗜好品は、エタノール含有率0.100容量%、0.099容量%、0.098容量%、0.097容量%、0.096容量%、0.095容量%、0.094容量%、0.093容量%、0.092容量%、0.091容量%、0.090容量%、0.089容量%、0.088容量%、0.087容量%、0.086容量%、0.085容量%、0.084容量%、0.083容量%、0.082容量%、0.081容量%、0.080容量%、0.079容量%、0.078容量%、0.077容量%、0.076容量%、0.075容量%、0.074容量%、0.073容量%、0.072容量%、0.071容量%、0.070容量%、0.069容量%、0.068容量%、0.067容量%、0.066容量%、0.065容量%、0.064容量%、0.063容量%、0.062容量%、0.061容量%、0.060容量%、0.059容量%、0.058容量%、0.057容量%、0.056容量%、0.055容量%、0.054容量%、0.053容量%、0.052容量%、0.051容量%、0.050容量%、0.049容量%、0.048容量%、0.047容量%、0.046容量%、0.045容量%、0.044容量%、0.043容量%、0.042容量%、0.041容量%、0.040容量%、0.039容量%、0.038容量%、0.037容量%、0.036容量%、0.035容量%、0.034容量%、0.033容量%、0.032容量%、0.031容量%、0.030容量%、0.029容量%、0.028容量%、0.027容量%、0.026容量%、0.025容量%、0.024容量%、0.023容量%、0.022容量%、0.021容量%、0.020容量%、0.019容量%、0.018容量%、0.017容量%、0.016容量%、0.015容量%、0.014容量%、0.013容量%、0.012容量%、0.011容量%、0.010容量%、0.009容量%、0.008容量%、0.007容量%、0.006容量%、0.005容量%、0.004容量%、0.003容量%、0.002容量%、0.001容量%またはそれ以下とすることができるか、または完全にエタノール無含有とすることができる。エタノール含有率0.099%のビールは「0.0%ビール」と呼ぶこともできる。これと共に、この種の食品及び/又は嗜好品は、例えば生ビール、ラガービールまたはフォルビールに類似または同一のビール独特の香気プロファイルを有するにもかかわらず、エタノールのあらゆる摂取が禁止されている諸国においても製造または取引することができる。」
「【0089】
本発明のその他の有利な形態においては、ビールのエタノール含有率を0.3容量%未満、特に最大0.045容量%とし、濃度は、
- 酢酸エチルエステルが少なくとも0.1ppm;及び/又は
- 酪酸エチルエステルが少なくとも0.01ppm;及び/又は
- イソブタノールが少なくとも0.01ppm;及び/又は
- 酢酸イソアミルが少なくとも0.01ppm;及び/又は
- 2-メチルブタン-1-オールが少なくとも0.01ppm;及び/又は
- 3-メチルブタン-1-オールが少なくとも0.08ppm;及び/又は
- ヘキサン酸エチルが少なくとも0.01ppm;及び/又は
- 2-酢酸フェニルエチルが少なくとも0.01ppm;及び/又は
- 2-フェニルエタノールが少なくとも0.1ppm
とすることを想定している。上記のように、「0.0%ビール」又は<0.3%の極低アルコールビールの場合は、「0.0%ビール」の特に極性発酵性香気成分含有率がフォルビールだけではなく、「ノンアルコール」ビール(エタノール0.3~0.5容量%)よりも明らかに低いことから、ビール独特の香気成分を増量して戻すことが必要である。それに応じて、「0.0%ビール」を、香気成分濃縮物の容量増大及び/又は香気成分濃縮物(例えば、高富化装置を用いて高富化された第2の香気成分濃縮物)の濃度上昇又は第1の香気成分濃縮物と第2の香気成分濃縮物の固有の混合によって再香気付けしなければならない。好ましくは、「0.0%ビール」は本発明による香気成分濃縮物と混合し、その量を、混合されたビール中の個々の香気成分の最終濃度が以下の範囲に、すなわち、
- 酢酸エチルエステルが1ppm~50ppm;及び/又は
- 酪酸エチルエステルが0.01ppm~0.2ppm;及び/又は
- イソブタノールが2.0ppm~50ppm;及び/又は
- 酢酸イソアミルが0.2ppm~5ppm;及び/又は
- 2-メチルブタン-1-オールが3ppm~25ppm;及び/又は
- 3-メチルブタン-1-オールが10ppm~100ppm;及び/又は
- ヘキサン酸エチルが0.1ppm~0.35ppm;及び/又は
- 2-酢酸フェニルエチルが0.1ppm~1.5ppm;及び/又は
- 2-フェニルエタノールが少なくとも5ppm~45ppm
の範囲になるような量とし、特にヴァイツェン、エクスポート、ヘレスまたはラガービール風のフォルビールタイプの香気プロファイルを確保する。」
「【0185】
収着剤によって結合させられる香気成分には結合度の違いがある。その上、収着剤の能力は香気成分ごとに特徴的で、違いがある。香気成分含有流体と共に収着剤を装入している間は、香気成分はその量及び特性に応じてソーベント床内への侵入深さが異なるか、又は、異なる強度でソーベント床に収着される。この理由から、特に、発酵によって得られる食品及び嗜好品(ビール及びワイン)の特性にとって重要である香気成分がソーベント床中に深く侵入する。香気成分の完全な回収を保証し、装入相中の香気成分の化学変化を避けるために、本発明によれば、しかるべき長さを有するが、同時に比較的薄いか、又は狭いソーベント床が利用可能となる。ソーベント床の正確な長さは、標準的なテストによって、重要な香気成分の種類及び量に関するその都度の要求事項に適合させることができる。ビールの場合は、特に、2-メチルブタン-1-オール、3-メチルブタン-1-オール、2-メチルプロパノール及び酢酸エチルが、真正なビール独特の香気プロファイルを達成するために味覚上の理由から回収しなければならない重要な香気成分である。」
「【0197】
GC/MSによるビールまたはビール含有飲料の香気プロファイルの分析の方法が以下の表2に示してある。測定結果を使用して、望ましい、特に、フォルビールに類似した香気プロファイルを生成又は再現するために、脱アルコール又は発酵停止ビールに添加しなければならない香気成分濃縮物の容量を決定することができる。」
「【0199】
以下の表3には、いわゆる“0.0%”ビールの、つまり、発酵停止または脱アルコールによってエタノール含有率を最大0.045容量%以下にしたビールのビール独特の香気成分の出発値、ノンアルコール“0.5%”ビール(エタノール0.3~0.5容量%)のビール独特の香気成分の出発値、並びに、各0.0%または0.5%ビールと本発明による香気成分濃縮物との混合によって達成される相応する香気成分の目標範囲が例示してある。
【表3】
[図:0001434179000021.jpg]
【0200】
この場合、各「最小ppm」及び「最大ppm」表示の中間値は同時に開示されていると見なす。例えば、表示最小5ppm及び最大50ppmは、数値5ppm、6ppm、7ppm、8ppm、9ppm、10ppm、11ppm、12ppm、13ppm、14ppm、15ppm、16ppm、17ppm、18ppm、19ppm、20ppm、21ppm、22ppm、23ppm、24ppm、25ppm、26ppm、27ppm、28ppm、29ppm、30ppm、31ppm、32ppm、33ppm、34ppm、35ppm、36ppm、37ppm、38ppm、39ppm、40ppm、41ppm、42ppm、43ppm、44ppm、45ppm、46ppm、47ppm、48ppm、49ppm、50ppm、並びに、相応する中間値5.00ppm、5.01ppm、5.02ppm、5.03ppm、5.04ppm、5.05ppm、5.06ppm、5.07ppm、5.08ppm、5.09ppm、5.10ppm、5.11ppm、5.12ppm、5.13ppm、5.14ppm、5.15ppm、5.16ppm、5.17ppm、5.18ppm、5.19ppm、5.20ppm、5.21ppm、5.22ppm、5.23ppm、5.24ppm、5.25ppm、5.26ppm、5.27ppm、5.28ppm、5.29ppm、5.30ppm、5.31ppm、5.32ppm、5.33ppm、5.34ppm、5.35ppm、5.36ppm、5.37ppm、5.38ppm、5.39ppm、5.40ppm、5.41ppm、5.42ppm、5.43ppm、5.44ppm、5.45ppm、5.46ppm、5.47ppm、5.48ppm、5.49ppm、5.50ppm、5.51ppm、5.52ppm、5.53ppm、5.54ppm、5.55ppm、5.56ppm、5.57ppm、5.58ppm、5.59ppm、5.60ppm、5.61ppm、5.62ppm、5.63ppm、5.64ppm、5.65ppm、5.66ppm、5.67ppm、5.68ppm、5.69ppm、5.70ppm、5.71ppm、5.72ppm、5.73ppm、5.74ppm、5.75ppm、5.76ppm、5.77ppm、5.78ppm、5.79ppm、5.80ppm、5.81ppm、5.82ppm、5.83ppm、5.84ppm、5.85ppm、5.86ppm、5.87ppm、5.88ppm、5.89ppm、5.90ppm、5.91ppm、5.92ppm、5.93ppm、5.94ppm、5.95ppm、5.96ppm、5.97ppm、5.98ppm、5.99ppm、6.00ppm等であると理解される。これは、全てのその他のppm範囲についても適用する。原則的には、タイプの異なるビールの独特の香気プロファイルを作り出すために、混合については異なる目標範囲を想定できること、0.0%ビール及び0.5%ビール中の出発濃度はビールのタイプ及び使用する脱アルコール技術に応じて違ってもよいことは明白である。」
イ 甲4に記載された発明
上記アの記載、特に【0089】の「その他の有利な形態」について整理すると、甲4には次の発明が記載されていると認める。
「ビールのエタノール含有率が0.3容量%未満であり、酢酸エチルエステルが少なくとも0.1ppmである、ノンアルコールビール。」(以下、「甲4発明」という。)
「ビールのエタノール含有率が0.3容量%未満であり、酢酸エチルエステルが少なくとも0.1ppmである、ノンアルコールビールの製造方法。」(以下、「甲4製法発明」という。)
「ビールのエタノール含有率が0.3容量%未満であり、酢酸エチルエステルが少なくとも0.1ppmである、ノンアルコールビールにビール風の香気プロファイルを作り出す方法。」(以下、「甲4方法発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲4発明とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違することは明らかである。
(相違点)
・相違点4-1
本件特許発明1は「フルフリルアセテートの含有量が0.03~3.5ppb」と特定するのに対し、甲4発明にはそのような特定がない点。
(相違点についての判断)
上記相違点4-1について検討する。
甲4及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲4発明におけるフルフリルアセテートを含有するという根拠を見出すことができないし、甲4発明において、ビールに含まれる数多くの香気成分の中から、特にフルフリルアセテートに着目して、含有する動機もない。そして、仮に甲4発明において、フルフリルアセテートが含まれるものであるとしても、甲4発明において、フルフリルアセテートの含有量を本件特許発明1の範囲に調整する動機付けはない。
よって、甲1発明において、相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(特許異議申立人の主張について)
特許異議申立人は、甲5を挙げ、ビールには、フルフリルアセテートが0.004±<0.001mg/L~0.006±<0.001mg/L程度の量で含まれる成分であることをあげ、甲4発明においても、本件特許発明1で特定された数値範囲内で含まれている蓋然性が高い旨主張する(申立書の第117頁)。
しかしながら、甲4に記載されているように、甲4発明は、脱アルコール化したノンアルコールビールに対して香気濃縮成分を添加し、その香気成分を調整するものであり、通常のビールとはその組成が異なるから、甲4発明において、フルフリルアセテートとコハク酸が本件特許発明1で特定された数値範囲内で含まれている蓋然性が高いとはいえない。そして、香気成分の調整を行うものである甲4において、フルフリルアセテートとコハク酸についての言及がないことから見ても、甲4発明において、多くの香気成分の中からフルフリルアセテートとコハク酸に着目して添加し、さらに、その含有量を調整する動機付けがあるともいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用することはできない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲4製法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がいえるから、両者は少なくとも次の点で相違することは明らかである。
(相違点)
・相違点4-2
本件特許発明2は「フルフリルアセテートの含有量が0.03~3.5ppbに調整する工程」と特定するのに対し、甲4製法発明にはそのような特定がない点。
(相違点についての判断)
上記相違点4-2について検討する。
相違点4-2は上記相違点4-1と実質的に同様の内容であり、上記アと同様に判断される。
したがって、本件特許発明4は、甲4製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明3ないし7について
本件特許発明3ないし7と甲4方法発明とを対比すると、上記イと同様の相当関係がいえるから、本件特許発明3ないし7と甲4方法発明とはいずれも、少なくとも次の点で相違することは明らかである。
(相違点)
・相違点4-3
本件特許発明3ないし7はいずれも「フルフリルアセテートの含有量を0.03~3.5ppbに調整する工程」と特定するのに対し、甲4方法発明にはそのような特定がない点。
(相違点についての判断)
上記相違点4-3について検討する。
相違点4-3は、上記相違点4-2と同様の内容であり、上記イと同様に判断される。
したがって、本件特許発明3ないし7はいずれも、甲4方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由1-4についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、申立理由1-4では、本件特許発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)特許請求の範囲の記載
上記第2のとおりである。
(3)サポート要件についての判断
本件特許の明細書の【0005】及び【0006】の記載からみて、本件特許発明1ないし7の発明の課題は「糊様の異臭が低減された非アルコールビールテイスト飲料およびその製造方法を提供する」(【0007】)ことであり、本件特許発明4ないし7の発明の課題はそれぞれ、非アルコールビールテイスト飲料において、「煮豆様の異臭の低減効果」、「味の持続性の増強効果」、「トップのふくらみの増強効果」、「金属味の低減効果」を奏する方法を提供することである(【0010】)(以下、各々の上記課題を総称し、「発明の課題」という。)。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明者らは、上記の問題について検討したところ、フルフリルアセテートの濃度を調整することにより、非アルコールビールテイスト飲料における煮豆様の異臭を低減できることを見出した」(【0006】)、「本発明によれば、上述の通り、非アルコールビールテイスト飲料における糊様の異臭を低減することが可能となり、また、煮豆様の異臭の低減効果、味の持続性の増強効果、トップのふくらみの増強効果、金属味の低減効果、および味のバランスの改善効果を得ることも可能である。本発明は、麦汁の発酵工程を経て得られたアルコール度数0.00v/v%の非アルコールビールテイスト飲料においてもこれらの効果を得ることを可能とする点で特に有利である」(【0010】)との記載、「本発明の非アルコールビールテイスト飲料におけるフルフリルアセテート含有量の下限値は0.03ppbとされ・・・上限値は特に限定されるものではないが、例えば、3.5ppb、・・・とされる」(【0018】)との記載があり、具体的な実施例を通じた検証もなされている。
よって、これらの記載に接した当業者であれば、非アルコールビールテイスト飲料において、「フルフリルアセテートを0.03ppb以上3.5ppb以下」含有させるとの特定事項を満たすことにより、発明の課題を解決できると認識できる。
したがって、本件特許発明1ないし7はいずれも、上記の発明の課題を解決できると認識できる特定事項の全てを有し、さらに限定するものであるから、当然発明の課題を解決できると認識できる。
(4)特許異議申立人の主張について
上記第3 5.の記載のように、特許異議申立人は、本件特許発明1ないし7の特定事項を満たす実施例は試験区23の1例のみであることを挙げ、試験区23の条件と異なる酢酸エチルやコハク酸の条件を含むものである本件特許発明1ないし7の範囲にわたって発明の課題を解決できると認識することはできない旨主張する(申立書第127頁~第130頁)。
しかしながら、本件特許の明細書に記載の試験1の結果から、フルフリルアセテートの含有割合が0.03ppb~3.5ppbの範囲の場合は、フルフリルアセテートの含有割合が0.02ppbのものに比して効果がある傾向が認められ、さらに、試験2ないし4の結果を見ても、異なる酢酸エチルやコハク酸の条件を含むものであるにもかかわらず、試験区1よりも効果が奏されることは明らかである。
これらの結果及び本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載からは、当業者は、他の条件が同じであれば、フルフリルアセテートの含有割合が0.03ppb~3.5ppbの範囲となるように添加されることにより、発明の課題を解決できると認識できる。さらに、本件特許発明1ないし7の発明特定事項を満たすものにおいて、具体的に課題を解決できないとする証拠もない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用することはできない。
(5)申立理由2についてのまとめ
上記(3)及び(4)のとおりであるから、申立理由2では、本件特許発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由3(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)特許請求の範囲の記載
上記第2のとおりである。
(3)明確性要件についての判断
本件特許発明1ないし7に係る請求項1ないし7の記載は、いずれも明確であって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明における記載とも整合するものである。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、申立書において、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」との特定事項に関し、本件特許の明細書の発明の詳細な説明において、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」との用語の定義がなされていないこと、さらには、「脱アルコール」する「麦汁発酵液」であるから、いわゆるプロダクト・バイ・プロセスクレームとなっており、不可能・非実際的事情の説明がないから、明確性要件を満たしていない旨主張する(申立書第130頁)。
しかしながら、「脱アルコール麦汁発酵液」とは、「脱アルコール」された「麦汁発酵液」を指すものであることは、当業者であれば当然に理解できる。そして、「脱アルコール麦汁発酵液」との表現では、「脱アルコール」するための具体的な製造工程・条件を何ら示すものではないし、そもそも、「麦汁発酵液」が「脱アルコール」されたもの、すなわち、アルコールを含まない「麦汁発酵液」であるといえるから、「麦汁発酵液」の状態・性質を意味するものであるともいえる。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用することはできない。
(5)申立理由3についてのまとめ
上記(3)及び(4)のとおりであるから、申立理由3では、本件特許発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700786