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特許異議申立

2025-700448

MFI型ゼオライト及びその製造方法

審判番号
2025-700448
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2024-060729
登録番号
7571329
請求日
2025年04月21日
審決日
2025年12月23日
公報発行日
2026年03月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】東ソー株式会社
  • 【権利者代理人】水野 勝文
  • 【権利者代理人】井出 真
  • 【権利者代理人】須澤 洋
  • 【権利者代理人】網盛 俊
  • 【異議申立人】株式会社 レゾナックユニバーサル
  • 【異議申立人代理人】弁理士法人大谷特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 原 賢一
  • 審判官 三崎 仁
  • 審判官 田口 裕健
分類
P1652.112-YAA(C01B) / P1652.121-YAA(C01B) / P1652.537-YAA(C01B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項、特許法第29条第1項第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7571329号発明「MFI型ゼオライト及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7571329号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。 特許第7571329号の請求項1、2、4、5に係る特許を維持する。 特許第7571329号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7571329号の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和6年4月4日(優先権主張 令和5年4月7日、同年11月22日)の出願であり、令和6年10月11日にその特許権の設定登録がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行され、その後、令和7年4月21日に、その請求項1~5に係る特許を対象として特許異議申立人 株式会社レゾナックユニバーサル(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。その後の主な経緯は以下のとおりである。 令和7年 6月24日付け 取消理由通知 同年 8月20日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年 9月29日 申立人による意見書の提出 (以下、「申立人意見書」という。) 同年10月20日付け 申立人に対する審尋 同年11月 7日 申立人による回答書の提出 (以下、「申立人回答書」という。) 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和7年8月20日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「アルミナに対するシリカのモル比が50以上3000以下である、MFI型ゼオライト。」 と記載されているのを、 「アルミナに対するシリカのモル比が50以上3000以下であり、体積粒度分布におけるD90とD10の差分を2で割って求めた値である標準偏差が10μm以下である、MFI型ゼオライト。」 に訂正する。請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、4及び5についても同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に 「平均結晶径が0.1μm以上5.0μm以下である」 と記載されているのを、 「一次粒子100±10個の最長径の平均値である平均結晶径が0.1μm以上5.0μm以下である」 に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項6に 「シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、ノルマルブチルアミン及び水を含む組成物を」 と記載されているのを、 「積算体積粒度分布におけるD50が0.5μm以上5.0μm以下であり、なおかつ、粉末X線回折パターンにおける、(101)面のピーク高さに対する(020)面のピーク高さが65%以上95%以下であり、アルミナに対するシリカのモル比が50以上3000以下である、MFI型ゼオライトの製造方法であって、 シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、ノルマルブチルアミン及び水を含む組成物を」 に訂正するとともに、同請求項6に 「水熱処理する工程を含む、請求項1又は2のいずれかに記載のMFI型ゼオライトの製造方法。」 と記載されているのを、 「水熱処理する工程を含む、MFI型ゼオライトの製造方法。」 に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、本件明細書【0032】の「本実施形態のMFI型ゼオライトは、その体積粒度分布における標準偏差・・・が、10μm以下である」との記載及び同【0033】の「本実施形態における「標準偏差」とは、積算体積粒度分布における、D90とD10の差分を2で割って求めた値であ」る旨の記載に基づき、本件訂正前の請求項1の「MFI型ゼオライト」を、上記「標準偏差」が「10μm以下である」ものに限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、本件訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、本件明細書【0022】の「「平均結晶径」とは、一次粒子の粒子径の平均値であ」るとの記載及び同【0023】の「平均結晶径は、・・・一次粒子100個±10個を抽出し、抽出した各一次粒子の最長径を測定し、その平均値を求め、これを平均結晶径とす」る旨の記載に基づき、本件訂正前の請求項4の「平均結晶径」の定義が、上記明細書に記載されたとおりのものであることを特定する訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえ、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、訂正前の請求項6について、訂正前の請求項1、2との引用関係を解消するとともに、当該請求項6の製造方法により製造されるMFI型ゼオライトが、訂正前に引用していた請求項1、2のうち、請求項1の「積算体積粒度分布におけるD50が0.5μm以上5.0μm以下であり、なおかつ、粉末X線回折パターンにおける、(101)面のピーク高さに対する(020)面のピーク高さが65%以上95%以下であり、アルミナに対するシリカのモル比が50以上3000以下である」ものに限定する訂正といえる。そのため、訂正事項4は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることと、特許請求の範囲の減縮とを目的とするものといえ、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 一群の請求項 訂正前の請求項2~6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項1~6は、一群の請求項である。 4 独立特許要件の適否 (1)訂正事項1~3について 訂正事項1~3により訂正される請求項1~5は、特許異議の申立てがされている請求項であるから、訂正事項1~3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (2)訂正事項4について 訂正事項4は、特許異議の申立てがされていない請求項を対象としており、また、上記2(4)のとおり、その訂正の目的に特許請求の範囲の減縮を含むものといえるから、独立特許要件の適否を検討する必要がある。 本件訂正後の請求項6に係る発明は、「シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、ノルマルブチルアミン及び水を含む組成物を、100℃以上150℃以下、0.15MPa以上で水熱処理した後に、0.10MPa/時間以上の減圧速度で減圧しながら100℃以上150℃以下で水熱処理する工程」を含む方法の発明である。 一方、本件特許異議申立てにより提出されたいずれの証拠においても、上記請求項6に規定される2段階の「水熱処理」を行うことは記載も示唆もされていないから、本件訂正後の請求項6に係る発明は、新規性及び進歩性を有しており、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反するとの理由により特許を受けることができないものではない。また他に、当該発明が特許を受けることができないとする理由もない。 したがって、本件訂正後の請求項6に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。 5 小括 本件訂正は、上述のとおり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第4項の規定に従い、一群の請求項について訂正するものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項~第7項の規定に適合するものである。 よって、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件の請求項1~5に係る発明は、次のとおり特定されるものである。 「【請求項1】 積算体積粒度分布におけるD50が0.5μm以上5.0μm以下であり、なおかつ、粉末X線回折パターンにおける、(101)面のピーク高さに対する(020)面のピーク高さが65%以上95%以下であり、アルミナに対するシリカのモル比が50以上3000以下であり、体積粒度分布におけるD90とD10の差分を2で割って求めた値である標準偏差が10μm以下である、MFI型ゼオライト。 【請求項2】 頻度体積粒度分布曲線がモノモーダル型である、請求項1に記載のMFI型ゼオライト。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 一次粒子100±10個の最長径の平均値である平均結晶径が0.1μm以上5.0μm以下である、請求項1又は2のいずれかに記載のMFI型ゼオライト。 【請求項5】 BET比表面積が300m2/g以上である、請求項1又は2のいずれかに記載のMFI型ゼオライト。」 以下、この請求項1~5に係る発明及び特許を、請求項番号に沿って「本件発明1」、「本件特許1」などといい、まとめて「本件発明」、「本件特許」ということがある。 第4 申立人による特許異議の申立理由の概要 1 甲第1号証等に基づく新規性欠如 設定登録時の請求項1、5に係る発明は、下記3の甲第1号証及び甲第2号証等から把握される、本件特許の優先日前に公然実施をされた発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当するから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由1」という。)。 2 甲第3号証等に基づく新規性欠如 設定登録時の請求項1~5に係る発明は、下記3の甲第3号証~甲第9号証等から把握される、本件特許の優先日前に公然実施をされた発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当するから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由2」という。)。 3 証拠方法 (1)特許異議申立書とともに提出された証拠 甲第1号証:Ting Xiao, et al., “Organic Structure-Directing Agent-Free Synthesis of Mordenite-Type Zeolites Driven by Al-Rich Amorphous Aluminosilicates”,ACS Omega,Vol.6,PP.5176-5182,2020年10月16日投稿受理,2021年2月16日公開 甲第2号証:東ソー株式会社ウェブページ内ゼオライト製品一覧表,URL: https://www.tosoh.co.jp/product/assets/synthetic_zeolite_zeolite_grade.pdf,2024年12月23日閲覧 甲第3号証:特開2021-49518号公報(優先日:2019年9月18日,出願日:2020年9月16日) 甲第4号証:申立人,「V-8201製造日報」,2022年12月2日作成 甲第5号証:株式会社住化分析センター,「分析・試験報告書 MFIゼオライトの分析[1]粒度分布 HiSiv3000」,2025年3月19日作成 甲第6号証:株式会社住化分析センター,「分析・試験報告書 MFIゼオライトの分析[2]粉末XRD HiSiv3000」,2025年3月19日作成 甲第7号証:株式会社住化分析センター,「分析・試験報告書 MFIゼオライトの分析[3]ICP-AES HiSiv3000」,2025年3月19日作成 甲第8号証:株式会社住化分析センター,「分析・試験報告書 MFIゼオライトの分析[4]比表面積 HiSiv3000」,2025年3月19日作成 甲第9号証:株式会社住化分析センター,「分析・試験報告書 MFIゼオライトの分析[5]SEM HiSiv3000」,2025年3月19日作成 (2)申立人意見書とともに提出された証拠 甲第10号証:申立人,「製造指示書」,2022年12月2日作成 甲第11号証:申立人,「キルン投入~製品抜出依頼書」,2023年1月13日作成 甲第12号証:申立人,「製品入庫伝票」,2023年1月24日更新 甲第13号証:申立人,「(株)レゾナックユニバーサル会津工場フロー図」,2025年6月24日作成 (3)申立人回答書とともに提出された証拠 甲第14号証:申立人,申立人のウェブページ「沿革・年表」,URL: https://www.resu.co.jp/company/history/,2025年11月6日閲覧 甲第15号証:申立人,ユニオン昭和株式会社(申立人旧社名)のウェブページ「ハイシリカゼオライト生産設備の新設について」のアーカイブ,2013年7月23日公開,2025年11月6日取得 甲第16号証:申立人,ユニオン昭和株式会社(申立人旧社名)のウェブページ「製品紹介」のアーカイブ,2017年9月10日公開,2025年11月6日取得 甲第17号証:申立人従業員,実験成績証明書,2025年11月7日作成 以下、甲第1号証を「甲1」などという。 なお、当審では、以下の文献も追加の証拠として提示する。 引用文献A:特開2020-196863号公報(優先日:2019年5月28日、出願日:2020年3月12日) 引用文献B:特開2022-136674号公報(出願日:2021年3月8日) 乙第1号証:特開2012-41232号公報(特許権者が令和7年8月20日に提出した意見書に添付して提出したもの。以下、「乙1」という。) 第5 令和7年6月24日付けで通知した取消理由の概要 1 甲1等に基づく新規性・進歩性欠如 設定登録時の請求項1~5に係る発明は、甲1及び甲2等から把握される、本件特許の優先日前に公然実施をされた発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当するから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(以下、「取消理由1」という。)。 また、設定登録時の請求項1~5に係る発明は、甲1及び甲2等から把握される、本件特許の優先日前に公然実施をされた発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「取消理由2」という。)。 2 甲3等に基づく新規性・進歩性欠如 設定登録時の請求項1~5に係る発明は、甲3~甲9等から把握される、本件特許の優先日前に公然実施をされた発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当するから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(以下、「取消理由3」という。)。 また、設定登録時の請求項1~5に係る発明は、甲3~甲9等から把握される、本件特許の優先日前に公然実施をされた発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「取消理由4」という。)。 3 明確性要件違反 本件特許は、設定登録時の特許請求の範囲の記載が次の点で不備であるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由5」という。)。 設定登録時の特許請求の範囲の請求項3に記載された「標準偏差」は、分散の平方根(すなわち、データ数n、個々のデータの数値xi、平均値μとしたとき、√[(1/n)Σi(xi-μ)2]により計算される数値)を意味する技術用語であるため、単に「標準偏差」といった場合は、この意味として理解するのが妥当である。 一方、本件明細書【0033】、【0034】には、「標準偏差」が、「積算体積粒度分布における、D90とD10の差分を2で割って求めた値」すなわち「(D90[μm]-D10[μm])/2)」で求めることができる旨記載されており、上述の意味に整合しない定義が説明されている。 そうすると、上記「標準偏差」は、請求項中の記載から理解される内容と、明細書中の説明内容とが整合していないため、その意味するところが不明確となっている。 第6 当審の判断 当審は、以下に述べるとおり、上記第4の申立理由1、2及び上記第5の取消理由1~5のいずれの理由によっても、本件特許を取り消すことはできないと判断する。 申立人は、申立人意見書及び申立人回答書において、申立理由2、取消理由3及び4に関する主張のみを行っていることに鑑み、これらの理由について先に検討し、その後、残りの理由について検討する。 1 申立理由2及び取消理由3、4(甲3等に基づく新規性・進歩性欠如)について (1)各証拠の記載事項 ア 甲3の記載事項 甲3には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。他の証拠の摘記についても同様である。 「【0034】 フィラー6は、例えば、ゼオライトなどの無機材料を含む。フィラー6に含まれるゼオライトは、アルミナに対するシリカの比率が高いハイシリカゼオライトであることが好ましい。ハイシリカゼオライトは、耐加水分解性に優れているため、第2溶剤が水である場合に、浸透気化膜11の用途に適している。ハイシリカゼオライトとしては、東ソー社製のHSZ(登録商標)、ユニオン昭和社製のHiSiv(登録商標)、ユニオン昭和社製のUSKY及び中村超硬社製のZeoal(登録商標)を用いることができる。 ・・・ 【0095】 (測定例1) まず、次の方法によって浸透気化膜を作製した。シリコーン樹脂(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製のYSR3022)2.810kg(固形分濃度30wt%)、トルエン4.778kg、ハイシリカゼオライト(ユニオン昭和社製のHiSiv3000)0.843kg、分散剤(日油社製のマリアリムAWS-0851)0.004kg、シリコーン硬化触媒(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製のYC6831)0.028kg及び硬化遅延剤としてのアセチルアセトン0.084kgを混合して塗布液を調製した。次に、塗布液を厚さ150μmの多孔性支持体(日東電工社製のRS-50)の上に塗布することによって塗布膜(厚さ500μm)を得た。塗布膜を90℃で4分間加熱し、乾燥させることによって、厚さ67μmの分離機能層を作製した。分離機能層において、シリコーン樹脂とハイシリカゼオライトとの重量比は、50:50であった。」 イ 甲4の記載事項 甲4の「V-8201製造日報」と題される文書には、以下の記載がある。なお、「日報」は通常、製造日に作成されるものであることから、当該文書の作成日は、下記「製造年月日」の2022年12月2日と推定される。 「 [図:0001433098000001.jpg] 」 ウ 甲5~9の記載事項 甲5~9の「MFIゼオライト」の「分析・試験報告書」には、試料「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」について、下記(ア)~(オ)の分析・試験結果が記載されている。 (ア)粒度分布 「 [図:0001433098000002.jpg] 」(甲5の第1/3ページ) 「 [図:0001433098000003.jpg] 」(甲5の第2/3ページ) 「 [図:0001433098000004.jpg] 」(甲5の第3/3ページの粒度分布図) (イ)粉末XRD 「 [図:0001433098000005.jpg] 」(甲6の第1/1ページ) 「 [図:0001433098000006.jpg] [図:0001433098000007.jpg] (中略) [図:0001433098000008.jpg] 」(甲6の「添付資料」第3、4ページ) (ウ)モル比(SiO2/Al2O3) 「 [図:0001433098000009.jpg] [図:0001433098000010.jpg] [図:0001433098000011.jpg] 」(甲7の第1/1ページ) (エ)比表面積 「 [図:0001433098000012.jpg] [図:0001433098000013.jpg] 」(甲8の第1/1ページ) (オ)SEM(走査電子顕微鏡) 「 [図:0001433098000014.jpg] 」(甲9の「添付資料」第1ページ) エ 甲10~13の記載事項 甲10の「製造指示書」と題される文書には、以下の記載がある。 「 [図:0001433098000015.jpg] 」 甲11の「キルン投入~製品抜出依頼書」と題される文書には、以下の記載がある。 「 [図:0001433098000016.jpg] 」 甲12の「製品入庫伝票」と題される文書には、以下の記載がある。 「 [図:0001433098000017.jpg] 」 甲13には、以下の「(株)レゾナックユニバーサル会津工場フロー図」が記載されている。 「 [図:0001433098000018.jpg] 」 オ 甲14~16の記載事項 甲14は、申立人の沿革・年表を示すウェブページであり、当該年表中に、 「2023年 株式会社レゾナックユニバーサルに社名変更 ・・・ 2014年 UOP社より、ハイシリカゼオライトの製造ライセンス取得し、福島県に会津工場新設 ・・・ 1989年 ハイシリカゼオライト系吸着剤の販売開始 ・・・ 1980年 ・・・ユニオン昭和(株)の社名復活」 との記載がある。 甲15は、ユニオン昭和株式会社及び昭和電工株式会社による2013年7月23日のプレスリリースであり、当該プレスリリース中に、 「ユニオン昭和は従来、UOPモービル工場(米国アラバマ州)からハイシリカゼオライトを輸入し国内向けに販売を行ってまいりましたが、・・・今回、UOPグループとして2拠点目となるハイシリカゼオライトの製造拠点を日本に新設することになりました。すでにプラントの設計や一部機器の発注を終えており、新設備での商業運転開始は2014年3月を予定しています。」 との記載がある。 甲16は、2017年9月10日時点でインターネット上に公開されていた、ユニオン昭和株式会社によるハイシリカゼオライトの製品紹介ウェブページであり、製品の一つとして「HiSivTM3000」が記載されている。 カ 甲17の記載事項 甲17は、申立人従業員が作成した実験成績証明書であり、当該証明書には、同一材料に対して一点法と多点法によってBET比表面積を測定した結果が記載されている。 (2)甲3~17から把握できる公然実施発明 ア 「HiSiv3000」の製造販売状況 まず、本件発明の新規性を否定するために申立人が提示した、ハイシリカゼオライト製品「HiSiv3000」の製造販売状況等を確認する。 甲14の「1980年 ・・・ユニオン昭和(株)の社名復活」及び「2023年 株式会社レゾナックユニバーサルに社名変更」との記載から明らかなとおり、各証拠に記載された「ユニオン昭和」は、申立人の旧社名である。 そして、上記(1)アの甲3【0095】における「ハイシリカゼオライト(ユニオン昭和社製のHiSiv3000)」との記載や、上記(1)オの甲14~16の記載によれば、申立人は、2014年以降、「HiSiv3000」という商品名のハイシリカゼオライト製品を自社で製造し販売していたことが把握できる。 イ 「HiSiv3000」の物性 上記アのとおり申立人が製造するハイシリカゼオライト製品の「HiSiv3000」の物性を確認する。 当該製品について、申立人回答書第5~7ページの5.(3)ア.には、次のとおり記載されている。 「表1に、甲第16号証の商品案内がなされた当時から優先日までに製造されたHiSiv3000について、各ロット毎に、製造管理データ(D50、SiO2/Al2O3、比表面積)を示す。 なお、以下の分析値は、以下の分析方法により求めているものである。 1.粒度分布(D50) D50粒子径の分析方法はレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックMT3300EXII、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用い、以下の条件で測定している。 測定範囲 :0.122~704μm 粒子屈折率:1.54 粒子透過性:透過 粒子形状 :非球形 溶媒 :水 溶媒屈折率:1.33 分散処理 :超音波分散 2.組成分析 SiO2/Al2O3は蛍光X線分析装置(XRF-1700またはXRF-1800、株式会社島津製作所製)を用い、定性定量分析または定量分析によりSiO2とAl2O3量を定量し、測定試料のSiO2/Al2O3を算出する。 3.BET比表面積 BET比表面積は比表面積自動測定装置(BELSORP-MAX またはBELSORP MINI X、マイクロトラック・ベル株式会社製)および吸着ガスとして窒素を用いて測定した。 ミクロ細孔物質(I型の吸着等温線)のためJIS Z 8830:2013の附属書Cに準じ、多点法によりBET比表面積を算出した。また、前処理として、測定試料を真空雰囲気にて430℃で1時間保持してから、測定を行っている。 [図:0001433098000019.jpg] 」 ここで、上記「表1」において、「出荷日」が本件特許の優先日より前であるロット製品(「出荷日」が当該優先日より後である最終行「39502212001」の製品については、下記ウ及びエで確認する。)の各物性の最小値と最大値からすると、当該優先日前に製造され出荷されていた「HiSiv3000」は、上記申立人回答書中の「分析方法」によるD50については、2.19μm~2.72μm程度の範囲、同SiO2/Al2O3については、925~1392程度の範囲、同比表面積については、400m2/g~438m2/g程度の範囲で、製造ロット毎に物性のばらつきが生じていたものといえる。 ここで、上記申立人回答書中の「分析方法」は、上記(2)ウ(ア)甲5(D50)、同(ウ)甲7(SiO2/Al2O3)、同(エ)甲8(比表面積)の分析方法と比べて、分析手段や一部の分析条件が異なっており、さらに、上記「表1」最終行の「39502212001」の各物性値と、当該ロットに対する甲5、甲7、甲8の分析結果(下記エ(ア)、(エ)、(オ))とが異なっていることからすれば、本件特許の優先日前に製造され出荷されていた「HiSiv3000」において、甲5、甲7、甲8の条件で分析した場合の上記3種の物性値が、(上記「表1」の数値範囲から極端に変わらないとは想定され得るものの)どのような数値であるかを正確に把握することはできないし、これらの物性値の製造ロット毎のばらつき量が、具体的にどのような数値範囲となるかも正確に把握することはできない。 さらに、上記3種の物性がばらついているのであれば、それら以外の物性についても、製造ロット毎のばらつきが生じていると解されるが、上記「表1」及び他の証拠のいずれをみても、本件特許の優先日前に製造され出荷されていた「HiSiv3000」における、上記3種以外の物性値が、どのような数値であるかを把握することはできないし、これらの物性値の製造ロット毎のばらつき量が、具体的にどのような数値範囲となるかも把握することはできない。 ウ 「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」の製造状況について 次に、本件発明に係る各種物性が具体的に測定された「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」の製造状況を確認する。 上記(1)イの甲4「V-8201製造日報」や、同エの甲10「製造指示書」によれば、2022年12月2日に、ロット番号(「LOT-NO」、「Lot No.」)が「69502212001」である「HiSiv3000」を製造したことが把握できる。 また、同エの甲11「キルン投入~製品抜出依頼書」によれば、「Lot No.39502212001」の「キルン投入~製品抜出」が、2023年1月13日近辺に実施され、同エの甲12「製品入庫伝票」によれば、「ロット番号」「39502212001」の製品が、当該伝票の「更新日時」である2023年1月24日までに「入庫」されたことが把握できる。 ここで、本件特許異議申立書の第13ページ第4段落~第14ページ第1段落において、 「HiSiv3000のLot No.について、製造日報では、「69502212001」となっているが、これは製造中、すなわち製品に至らないケーキ状の中間体等に付されるロット番号であり、乾燥等の処理により製品になったときは、先頭の数字が6から3に変更され、製品のLot No.である「39502212001」となる。」 と説明されているところ、上記甲12のとおり「入庫」された製品は、甲4や甲10で「69502212001」のロット番号が付されていた中間体等に対して、乾燥等の処理を行うことにより得られ、最終製品としてのロット番号が付された「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」であると理解できる。 また、甲12の「製品入庫伝票」は、「在庫管理システム」と表記されたアプリケーションの画面であり、申立人の社内における管理伝票であると考えられるところ、当該「入庫」先は、申立人自身の倉庫等であると解するのが自然である。 そして、上記イで触れた申立人回答書「表1」において、最終行「39502212001」の「出荷日」が本件特許の優先日より後であることが記載されており、さらに、申立人回答書第2~3ページ5.(1)イ.において、 「当該ロットのHiSiv3000は、本件特許の優先日前に、入庫され、顧客の求めに応じて出荷できるようになっておりましたが、実際に、顧客からの発注に基いて、出荷されたのは、優先日の後であり、当該HiSiv3000(Lot No.39502212001)が、本件優先日前に出荷された事実はありません。」 と説明されているところ、「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」は、本件特許の優先日前に製造され、申立人自身の倉庫等に入庫・保管されていたものの、同優先日時点で、第三者には出荷されていなかったことが理解できる。 エ 「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」の物性について さらに、上記ウのとおり製造された「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」について、上記(1)ウの甲5~9に示される各種物性の分析・試験結果を確認する。なお、甲5~9の分析条件は、本件明細書【0098】~【0103】に記載された本件発明の分析条件と一致する(つまり、甲5~9の分析結果の数値は、本件発明の数値と直接対比できるものである)一方、上記イでも述べたとおり、申立人回答書中の「分析方法」の条件とは少なくとも一部が異なるものである。 (ア)上記(1)ウ(ア)の甲5「表-1」によれば、上記「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」の「粒度分布測定(レーザー回折法:湿式)」結果において、「D50」が4.01μmであることが把握できる。 また、同(ア)の甲5の粒度分布図によれば、その粒度分布曲線がモノモーダル型であることが把握でき、上記「表-1」によれば、(「D90」-「D10」)/2=(7.04-2.61)/2=2.22μmであることが把握できる。 (イ)上記(1)ウ(イ)の甲6「表1」によれば、上記「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」のCuKα線を用いた粉末XRD分析結果において、2θ=7.9°(deg)付近のピーク高さが1278655cpsであり、2θ=8.8°付近のピーク高さが839405であることが把握できる。そして、これらの高さから、2θ=7.9°付近のピーク高さに対する2θ=8.8°付近のピーク高さの比率が約65.6%であると算出できる。 (ウ)本件特許異議申立書の第15、16ページにも示されるように、上記(1)ウ(イ)の甲6「HiSiv3000_39502212001-ピーク評価・相同定レポート」のピーク一覧表から、次の表のとおり、上記「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」のXRDパターンにおける各格子面間隔に該当するピークの積分強度(cps°)と、格子面間隔3.87±0.03のピークに対する、各格子面間隔に該当するピークの相対強度を算出することができる。 [図:0001433098000020.jpg] (エ)上記(1)ウ(ウ)の甲7「表2」によれば、上記「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」のモル比(SiO2/Al2O3)が1300であることが把握できる。 (オ)上記(1)ウ(エ)の甲8「表-1」によれば、上記「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」のBET多点法による比表面積が339m2/gであり、BET一点法による比表面積が340m2/gであることが把握できる。 (カ)上記(1)ウ(オ)の甲9「表-1」によれば、上記「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」のSEM観察で得られた粒子の測長の平均値が2.66μmであることが把握できる。 (キ)以上より、「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」は、 「粒度分布測定(レーザー回折法:湿式)結果において、D50が4.01μmであり、その粒度分布曲線がモノモーダル型であり、(D90-D10)/2=2.22μmであり、 CuKα線を用いた粉末XRD分析結果において、2θ=7.9°付近のピーク高さに対する2θ=8.8°付近のピーク高さの比率が約65.6%であり、XRDパターンにおける各格子面間隔に該当するピークの積分強度(cps°)と、格子面間隔3.87±0.03のピークに対する、各格子面間隔に該当するピークの相対強度が次の表のとおりであり、 [図:0001433098000021.jpg] モル比(SiO2/Al2O3)が1300であり、 BET多点法による比表面積が339m2/gであり、BET一点法による比表面積が340m2/gであり、 SEM観察で得られた粒子の測長の平均値が2.66μmである」 との物性を有するゼオライトであることが把握できる。 オ 上記ア~エから把握できる公然実施発明 上記ウのとおり、「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」は、本件特許の優先日前に製造され、申立人自身の倉庫等に入庫・保管されていたものの、当該優先日時点で、第三者には出荷されていなかったことが理解できる。そして、上記エの各種物性値は、ゼオライト製品の外見等から把握されるようなものではなく、適切な手法による分析を実際に行わなければ認識できないものであるところ、上述のように第三者に出荷されていない状況では、第三者がその物性を分析し、具体的な物性値を認識することができないから、上記ロットの製品自体を根拠に、上記エ(キ)の物性を有するゼオライトが当該優先日前に公然実施されていた発明であるということはできない。 (なお、令和7年6月24付け取消理由通知(第3の1(5)ケ)では、その時点で提出されていた証拠をもとに、上記ロットの製品が、製造後に販売されていたとするのが合理的であるとして、上記物性を有するゼオライトが公然実施されていたと判断しているが、上記ロットの製品の物性値を上記優先日時点で認識できなかったという事情も踏まえれば、前段落のとおり判断するのが妥当といえる。) 他方、上記ロットより前に製造され、本件特許の優先日時点で第三者に出荷済みの「HiSiv3000」製品であれば、当該優先日前に当該製品の物性値を分析して認識することができるため、当該出荷済み製品と同じ物性を有するゼオライトは、公然実施されていた発明であるということができる。 そこで、当該出荷済み製品の物性がどのようなものか検討すると、まず、当該出荷済み製品について、上記イのとおりの物性を有することは把握できるものの、甲5~9の分析条件(本件発明の分析条件と同じ条件であって、申立人回答書の「分析方法」の条件とは異なる条件)により分析した結果は何ら示されておらず、甲5~9の分析による物性値を直接把握することはできない。 ただし、当該出荷済み製品のゼオライト骨格構造について検討すると、当該特性は各種特性を発現する上で前提となるものであるところ、製造時期の相違に関わらず、同じ商品であれば同じ骨格構造を有していると考えるのが合理的である。そして、上記エ(キ)の表に示される、「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」の格子面間隔3.87±0.03のピークに対する、各格子面間隔に該当するピークの相対強度は、本件明細書【0039】の下記【表1】に示されるMFI構造のXRDパターンにほぼ合致しており、上記エの表中の数値が多少前後しても、下記【表1】に示されるMFI構造のXRDパターンに合致する範囲内にとどまるため、当該ロット製品の骨格構造は、MFI型であるといえ、上記出荷済み製品の骨格構造も、当該ロット製品と同じくMFI型であるといえる。 「【表1】 [図:0001433098000022.jpg] 」 そのため、提出された各証拠から、本件特許の優先日前に公然実施されていたことが把握できるのは、上記エ(キ)の物性を有するゼオライト(令和7年6月24付け取消理由通知における「公然実施発明2」)ではなく、以下の発明であるといえる。 「以下の<分析方法>によるD50が2.19μm~2.72μm程度の範囲、同SiO2/Al2O3が925~1392程度の範囲、同BET比表面積が400m2/g~438m2/g程度の範囲にある、MFI型ゼオライト。 <分析方法> 1.粒度分布(D50) レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックMT3300EXII、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用い、以下の条件で測定する。 測定範囲 :0.122~704μm 粒子屈折率:1.54 粒子透過性:透過 粒子形状 :非球形 溶媒 :水 溶媒屈折率:1.33 分散処理 :超音波分散 2.組成分析(SiO2/Al2O3) 蛍光X線分析装置(XRF-1700またはXRF-1800、株式会社島津製作所製)を用い、定性定量分析または定量分析によりSiO2とAl2O3量を定量し、SiO2/Al2O3を算出する。 3.BET比表面積 比表面積自動測定装置(BELSORP-MAX またはBELSORP MINI X、マイクロトラック・ベル株式会社製)および吸着ガスとして窒素を用いて測定する。 なお、ミクロ細孔物質(I型の吸着等温線)のためJIS Z 8830:2013の附属書Cに準じ、多点法によりBET比表面積を算出する。また、前処理として、測定試料を真空雰囲気にて430℃で1時間保持してから、測定を行う。」 (以下、「公然実施発明2’」という。) (3)本件発明1について ア 対比 本件発明1と公然実施発明2’を対比する。 (ア)公然実施発明2’のゼオライトは、MFI型の骨格を有しており、本件発明1の骨格と一致している。 (イ)次に、積算体積粒度分布におけるD50やアルミナに対するシリカのモル比(SiO2/Al2O3)について対比すると、上記(2)イでも述べたとおり、公然実施発明2’におけるこれらの物性値の<分析方法>は、本件発明の分析条件と相違しており、両発明の数値を単純に比較して当否を判断することはできないため、これらの物性値については、一応の相違点とするのが妥当である。 なお、上記(1)カの甲17の実験成績証明書に記載される、同一材料に対して一点法と多点法によりBET比表面積を測定した結果が異なっていることは、この判断を支持するものといえる。 (ウ)さらに、粉末X線回折(XRD)パターンや体積粒度分布におけるD90及びD10について対比すると、公然実施発明2’の物性値を直接的に把握できるのは、上記(2)イで述べた3種のみであり、公然実施発明2’のXRDパターンやD90及びD10は明らかにされていない。 (エ)そうすると、本件発明1と公然実施発明2’は、「MFI型ゼオライト」である点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点2’-1> 積算体積粒度分布におけるD50について、本件発明1では、本件発明の分析条件によるD50が「0.5μm以上5.0μm以下」であるのに対し、公然実施発明2’では、上記<分析方法>によるD50が2.19μm~2.72μm程度であるものの、本件発明の分析条件によるD50が明らかではない点。 <相違点2’-2> 粉末X線回折(XRD)パターンにおける、(101)面のピーク高さに対する(020)面のピーク高さについて、本件発明1では、当該ピーク高さ比率が「65%以上95%以下」であるのに対し、公然実施発明2’では、粉末X線回折パターン自体が明らかではない点。 <相違点2’-3> アルミナに対するシリカのモル比について、本件発明1では、本件発明の分析条件による当該モル比が「50以上3000以下」であるのに対し、公然実施発明2’では、上記<分析方法>による当該モル比が925~1392程度であるものの、本件発明の分析条件による当該モル比が明らかではない点。 <相違点2’-4> 体積粒度分布におけるD90とD10の差分を2で割って求めた値(つまり、(D90-D10)/2)である標準偏差について、本件発明1では、当該標準偏差が「10μm以下」であるのに対し、公然実施発明2’では、D90及びD10自体が明らかではない点。 イ 相違点に対する判断 (ア)事案に鑑み、まず、相違点2’-2について検討する。 上記(2)イで検討したとおり、本件特許の優先日前に公然実施されていた「HiSiv3000」、すなわち公然実施発明2’における、D50、SiO2/Al2O3、BET比表面積以外の物性値は何ら示されていないから、公然実施発明2’における当該ピーク高さ比率がどのような数値範囲となるかを直接的に把握することはできない。 そこで、上記(2)エ(イ)及び(キ)で確認した「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」のXRDパターンを参照する。 ここで、当該ロット製品は、MFI型の骨格を有するところ、本件明細書【0036】のとおり、MFI型ゼオライトのXRDパターンにおいて、「(101)面のピーク」は、「格子面間隔dが11.10±0.50Åに相当するXRDピーク」を示し、「(020)面のピーク」は、「格子面間隔dが9.97±0.10Åに相当するXRDピーク」を示す。そして、X線回折におけるブラッグの条件2d・sinθ=λ(dは格子面間隔、θは入射角、λはX線波長)を踏まえると、CuKα特性X線(λ=約1.54Å)を用いたXRDでは、「格子面間隔dが11.10±0.50Åに相当するXRDピーク」は、2θ=約7.9°のピークであり、「格子面間隔dが9.97±0.10Åに相当するXRDピーク」は、2θ=約8.8°のピークである。 そのため、上記(2)エ(イ)及び(キ)の「2θ=7.9°付近のピーク」は「(101)面のピーク」に相当し、「2θ=8.8°付近のピーク」は「(020)面のピーク」に相当するから、上記ロット製品の「2θ=7.9°付近のピーク高さに対する2θ=8.8°付近のピーク高さの比率」は、本件発明1の「粉末X線回折パターンにおける、(101)面のピーク高さに対する(020)面のピーク高さ(の比率)」に相当し、その数値は約65.6%である。 そして、上記ロット製品と同じ商品である公然実施発明2’の上記ピーク高さ比率は、上記ロット製品の数値と近縁といえる可能性はある。 しかしながら、上記(2)イで検討したとおり、D50、SiO2/Al2O3、BET比表面積以外の物性値の製造ロット毎のばらつき量が、具体的にどのような数値範囲となるかを把握することはできないし、しかも、「約65.6%」からわずかに減少するだけで、本件発明1の下限値「65%」未満となることを踏まえれば、公然実施発明2’の当該ピーク高さ比率が、本件発明1の規定する数値範囲内であると判断することはできない。 加えて、本件明細書【0062】~【0096】、【0106】~【0158】(実施例1~5)によれば、所定の原料組成物に対し、本件請求項6(上記第2の4(2)参照)に記載された2段階の「水熱処理」を含む、所定条件の複数工程の処理を施すことで、本件発明1の規定に合致する物性を得られることが理解されるところ、公然実施発明2’が上述と同一の製造工程により得られたものであれば、本件発明1と同一の物性を有するといえる可能性があるが、公然実施発明2’の具体的な製造条件を把握できる証拠はないため、製造条件を根拠に、上記ピーク高さ比率の具体的な数値を推定することもできない。 したがって、相違点2’-2は、実質的な相違点である。 (イ)相違点2’-2に係る構成につき、本件明細書【0034】等に示されるように、本件発明1は、ゼオライトの有機化合物に対する吸着性能を高くするという技術的意義のもと、上記ピーク高さ比率を65%以上95%以下としている。 一方、提出された各甲号証や引用文献A、Bのいずれにも、当該技術的意義のもとに上記ピーク高さ比率を所定範囲内とする技術思想は全く開示されておらず、公然実施発明2’において、当該ピーク高さ比率を本件発明1の数値範囲内に調整しようとする動機は生じ得ない。 したがって、相違点2’-2に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。 ウ 小括 以上のとおり、相違点2’-2に係る構成は、実質的な相違点であるし、当業者が容易に想到し得たものでないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、公然実施発明2’ではないし、公然実施発明2’に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)本件発明2、4、5について 本件発明2、4、5は、本件発明1の特定事項を全て備えるものであるから、公然実施発明2’ではないし、公然実施発明2に基づいて当業者が容易に想到できたものでもない。 (5)申立人の主張について ア 申立人の主張の概要 (ア)申立人意見書第14ページにおいて、申立人は次のとおり主張している。 「HiSiv3000というゼオライトについては、本件特許の優先日前から市場に供されており、顧客の求めに応じて出荷されていることから、分析を行ったHiSiv3000(Lot No.39502212001)についても、他のHiSiv3000と同様入庫した段階で、既に顧客の求めに応じて出荷できる状態、すなわち不特定の者が知り得る状況になっているといえる」 (イ)申立人回答書第4ページにおいて、申立人は次のとおり主張している。 「2014年以降に国内で製造し、販売されたものは、後述の表1でわかりますように、一定の品質を維持するように製造され、管理されているものであります。・・・ そうすると、製造販売されているHiSiv3000は、分析されたHiSiv3000(Lot No.39502212001)と同様な物性を有するものであることがわかります。 そして、このようなHiSiv3000は、甲第16号証にも示されているように、優先日以前に、製品の案内がなされ(譲渡のための申出ともいえる)、現実に製造販売されていたものであります。そうであれば、製造販売されていたHiSiv3000は、分析したHiSiv3000(Lot No.39502212001)と同様な物性値を有するものでありますから、このような物性を有するHiSiv3000が、優先日以前から製造販売されていたこと、すなわち公然実施されていたことがわかります。 要するに、2014年以降に製造され、販売されているHiSiv3000には、ロット間のバラツキはありますものの、一定の範囲の物性値を示すものでありますが、分析したHiSiv3000(Lot No.39502212001)と同様の物性値を有しているものであるということができます。」 イ 申立人の主張に対する判断 (ア)上記ア(ア)の主張について 上記(2)オでも述べたとおり、本件発明が規定する各種物性は、ゼオライト製品の外見等から把握されるようなものではなく、適切な手法による分析を実際に行わなければ認識できないものであるところ、申立人自身の倉庫等に入庫・保管され、第三者に出荷されていない状況では、第三者がその物性を分析し、具体的な物性値を認識することができないため、そのような状況にあった「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」の物性値が、本件特許の優先日以前に、不特定の者に知られ得る状況になっていたとはいえない。 (イ)上記ア(イ)の主張について 上記ア(イ)の主張は、要するに、「2014年以降に製造され、販売されているHiSiv3000」は、「ロット間のバラツキ」があるものの「一定の品質を維持するように製造され、管理されて」いるものであるところ、「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」と「同様の物性値」を有している「HiSiv3000」は、本件特許の優先日以前に公然実施されていたことを主張するものといえる。 確かに、上記(2)イに示した申立人回答書第7ページ表1も参照すれば、「HiSiv3000」が、「一定の品質を維持」しており、上記ロットの製品と「同様の物性値」を有しているということは推定できるといえる。しかし、上記(2)イでも検討したとおり、「2014年以降に製造され、販売されているHiSiv3000」については、D50、SiO2/Al2O3、BET比表面積以外の物性値は何ら示されていないから、XRDパターンにおける所定位置のピーク高さ比率の具体的な物性値を特定することはできないし、当該ピーク高さ比率の製造ロット毎のばらつき量が、具体的にどのような数値範囲となるかを把握することもできない。 したがって、上記(3)イで検討したとおり、「2014年以降に製造され、販売されているHiSiv3000」の当該ピーク高さ比率が、「HiSiv3000(Lot No.39502212001)」の数値である「約65.9%」と変わらないほどに「一定の品質に維持」されているものとすることはできない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、申立人の主張を踏まえても、甲3等から把握される公然実施発明2’によって、本件発明1~5の新規性・進歩性が否定されることにはならない。 2 申立理由1及び取消理由1、2(甲1等に基づく新規性・進歩性欠如)について (1)各証拠の記載事項 ア 甲1の記載事項 甲1には、以下の記載がある。 (ア)「 [図:0001433098000023.jpg] (甲1の部分翻訳文:図4.MFIシードと、異なるSi/Al比を有する合成ゲルとを用いて、水熱合成的に合成された固体生成物のXRDパターン。)」 (第5180ページ左欄) (イ)「 [図:0001433098000024.jpg] (甲1の部分翻訳文:AP2からのMFI型ゼオライトのOSDA-なしの合成。 MFI型ゼオライトを合成するにあたり、AP2、シリカ、NaOH水溶液、および脱イオン水をテフロン張りの高圧反応容器に、モル比Si/Al/NaOH/H2O=1/0.02~0.05/0.2/30で充填した。混合物を室温で48時間攪拌した。水熱処理前に、市販されているMFIゼオライト(HSZ-891HOA、東ソー、Si/Al=750、総SiO2に対して5wt%)、 このもののXRDパターンは図4に示している、をシードとして反応容器に加えた。それぞれの合成ゲルの実際のSi/Al比は、MFIシードを添加することによって、20および50から21および52にそれぞれ変化していることに注意すべきである。水熱反応は、160℃に予熱されている電気炉中で、回転速度10rpmで120時間行った。水熱工程の後、固体の生成物を分離し、脱イオン水を用いて遠心分離により洗浄し、60℃で一昼夜乾燥し、550℃で12時間焼成して、MFI-型ゼオライトを得た。)」 (第5180ページ右欄) (ウ)「 [図:0001433098000025.jpg] (当審訳:特性。準備試料の結晶相は粉末XRD(Ultima IV、リガク、半導体検出器装着、CuKα放射線(40kV、40mA)、走査速度:2.0°min-1)及びSmartLab Studio II version 4.3.282.0ソフトウェア(リガク)により分析された。)」 (第5181ページ左欄) イ 甲2の記載事項 東ソー株式会社ウェブページ内で公開された甲2のゼオライト製品一覧表には、以下の記載がある。 「 [図:0001433098000026.jpg] 」 ウ 引用文献Aの記載事項 引用文献Aには、以下の記載がある。 「【0084】 [実施例2~9] 組成物(A-1)の代わりに組成物(A-2)~(A-9)を用いた以外は、実施例1と同様の操作により、実施例2~9のサンプルを作成し、その光触媒活性を測定した。測定結果を下記表3に示す。なお、組成物(A-3)の製造で無機粒子として使用したゼオライトは、東ソー株式会社製「HSZ(登録商標)891HOA」、D50:4.0μmであった。」 エ 引用文献Bの記載事項 引用文献Bには、以下の記載がある。 「【0024】 無機多孔質微粒子は、物理的にガスを吸着する微粒子であってもよい。この無機多孔質微粒子としては、例えば、アセトアルデヒド等のアルデヒド系の悪臭を物理的に吸着するのに有効な物質であるゼオライトが挙げられ、特に、ゼオライト中の酸化珪素の比率を高めたハイシリカゼオライトが好ましい。ハイシリカゼオライトは疎水性であり、水のような極性物質に対する親和性を失い、臭い成分等の非極性物質をより強く吸着することができる。物理的にガスを吸着する無機多孔質微粒子としては、例えば、HSZ-690HOA(東ソー株式会社製、モルデナイト型、シリカ/アルミナ比:240、平均粒径13μm、カチオンタイプ:H、比表面積(BET):450m2/g)、HSZ-890HOA(東ソー株式会社製、ZSM-5型、シリカ/アルミナ比:1500、平均粒径10μm、カチオンタイプ:H、比表面積(BET):310m2/g)、HSZ-891HOA(東ソー株式会社製、ZSM-5型、シリカ/アルミナ比:1500、平均粒径4μm、カチオンタイプ:H、比表面積(BET):310m2/g)、HiSiv(TM)-3000(ユニオン昭和株式会社製、平均粒径:3μm、カチオンタイプ:Na、細孔径:6Å以下、比表面積(BET):400m2/g)、シルトンMT100(水澤化学工業製 シリカ/アルミナ比:100、平均粒径3~4.5μm 比表面積(BET):360m2/g)、シルトンMT-8000(水澤化学工業製 シリカ/アルミナ比:8000、平均粒径0.8μm 比表面積(BET):390m2/g)等が挙げられる。」 (2)甲1、2、引用文献A、Bから認定できる公然実施発明 ア 上記(1)ア(イ)のとおり、甲1に「市販されているMFIゼオライト(HSZ-891HOA、東ソー・・・)」と記載されていること、上記イのとおり、東ソーより公開されていた製品一覧表中に「HSZ-800」シリーズの「891HOA」タイプというゼオライトが記載されていること、上記ウ、エの公報中に当該ゼオライトの使用例が記載されていること(なお、上記(1)イ及びエ中の「ZSM-5」は「MFI型ゼオライト」のことを指す。)からすると、少なくとも、これらの証拠が作成又は公開された期間である2019~2024年において、東ソー株式会社製の「HSZ-891HOA」というMFI型ゼオライトが市販されていたことが把握できる。 イ 上記(1)ア(ア)の甲1図4には、「HSZ-891HOA」のXRDパターンが示されており、当該XRDパターンによれば、2θ=約7.9°のピーク(左から1番目)と2θ=約8.8°のピーク(左から2番目)が存在しており、2θ=約7.9°のピークの高さに対する2θ=約8.8°のピークの高さの比率が、70~80%の範囲内にあることが読み取れる。ここで、当該XRDパターンは、上記(1)ア(ウ)からすれば、「粉末XRD(Ultima IV、リガク、半導体検出器装着、CuKα放射線(40kV、40mA)、走査速度:2.0°min-1)及びSmartLab Studio II version 4.3.282.0ソフトウェア(リガク)により分析された」ものである。 ウ 上記(1)イによれば、「HSZ-891HOA」の「SiO2/Al2O3比(mol/mol)」は1,500であり、これは、上記(1)エの「シリカ/アルミナ比:1500」という記載とも一致しており、上記(1)ア(イ)の「Si/Al=750」という原子比とも整合している。 エ 上記(1)イによれば、「HSZ-891HOA」の「比表面積(m2/g、BET法)」は310m2/gであり、これは、上記(1)エの「比表面積(BET):310m2/g」との記載とも一致している。 オ 上記(1)イによれば、「HSZ-891HOA」は、「結晶の大きさ(μm)」が「2(μm)×5(μm)」であることが把握できる。 カ 上記(1)ウによれば、「HSZ-891HOA」は、「D50」が4.0μmであることが把握でき、「D50」は、通常、積算体積粒度分布におけるD50(メディアン径)を意味する。 (なお、上記(1)イの甲2には、「粒子の大きさ(μm)」が4μmであることが記載されている。ここで、甲2の「粒子の大きさ」は、「結晶(すなわち一次粒子)の大きさ」と区別されているため、ニ次粒子の大きさを指すと解され、ニ次粒子の大きさは一般にD50を用いて表すから、甲2の記載も、「HSZ-891HOA」のD50が4.0μmであることを裏付けるものといえる。) キ 加えて、上述のとおり、「HSZ-891HOA」のSiO2/Al2O3比や比表面積等が上述の複数の証拠で一致していることから、「HSZ-891HOA」は、少なくとも2019年~2024年の期間において、一定の構造及び特性を有するものであったといえる。 ク 以上より、本件特許の優先日(2023年4月7日)前において、次の発明が公然実施されていたと認められる。 「粉末XRD(Ultima IV、リガク、半導体検出器装着、CuKα放射線(40kV、40mA)、走査速度:2.0°min-1)及びSmartLab Studio II version 4.3.282.0ソフトウェア(リガク)により分析されたXRDパターンにおいて、2θ=約7.9°のピークと2θ=約8.8°のピークが存在しており、2θ=約7.9°のピークの高さに対する2θ=約8.8°のピークの高さの比率が、70~80%の範囲内であり、 SiO2/Al2O3比(mol/mol)が1,500であり、 比表面積(BET法)が310m2/gであり、 結晶の大きさが2μm×5μmであり、 積算体積粒度分布におけるD50が4.0μmである、 MFI型ゼオライト。」 (以下、「公然実施発明1」という。) ただし、XRDパターンの特定ピーク高さ以外の各物性値については、それらの具体的な分析条件が不明である。 (3)本件発明1について ア 対比 本件発明1と公然実施発明1を対比する。なお、上記1(2)イで検討したとおり、申立人回答書中の「分析方法」と甲5、甲7、甲8の分析条件の違いによって分析結果が異なっていることを踏まえると、本件発明の物性値についての対比を行うにあたっては、その分析条件も考慮に入れる必要があるといえる。 (ア)公然実施発明1のゼオライトは、MFI型の骨格を有しており、本件発明1の骨格と一致している。 (イ)「積算体積粒度分布におけるD50が4.0μm」である公然実施発明1は、本件発明1の「積算体積粒度分布におけるD50が0.5μm以上5.0μm以下」であるとの規定を満足しているものの、公然実施発明1の「D50」の分析条件は不明であり、両発明の数値を単純に比較して当否を判断することはできないため、この物性値については、一応の相違点とするのが妥当である。 (ウ)XRDパターンについて対比する。 上記1(3)イ(ア)での検討と同様に、公然実施発明1における2θ=約7.9°のピークは「(101)面のピーク」に相当し、2θ=約8.8°のピークは「(020)面のピーク」に相当するから、公然実施発明1は、「(101)面のピークに対する(020)面のピーク高さ」が70~80%の範囲内である。 さらに、公然実施発明1のXRD分析は、その分析装置、線源、加速電流・電圧が本件明細書【0016】に記載の条件と一致しているところ、上記ピーク高さ比率の数値は、本件発明1の数値と直接対比しても差し支えないといえる。 そうすると、公然実施発明1は、本件発明1の「(101)面のピーク高さに対する(020)面のピーク高さが65%以上95%以下」であるとの規定を満足するものといえる。 (エ)「SiO2/Al2O3比(mol/mol)が1,500」である公然実施発明1は、本件発明1の「アルミナに対するシリカのモル比が50以上3000以下である」との規定を満足しているものの、公然実施発明1の当該モル比の分析条件は不明であり、両発明の数値を単純に比較して当否を判断することはできないため、この物性値についても、一応の相違点とするのが妥当である。 (オ)公然実施発明1について、その体積粒度分布におけるD90及びD10や、その差分を2で割った値は、何ら明らかにされていない。 (カ)そうすると、本件発明1と公然実施発明1は、 「粉末X線回折パターンにおける、(101)面のピーク高さに対する(020)面のピーク高さが65%以上95%以下である、MFI型ゼオライト」 である点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点1-1> 積算体積粒度分布におけるD50について、本件発明1では、本件発明の分析条件によるD50が「0.5μm以上5.0μm以下」であるのに対し、公然実施発明1では、D50が4.0μmとされているものの、本件発明の分析条件による数値が明らかではない点。 <相違点1-2> アルミナに対するシリカのモル比について、本件発明1では、本件発明の分析条件による当該モル比が「50以上3000以下」であるのに対し、公然実施発明1では、当該モル比が1,500とされているものの、本件発明の分析条件による数値が明らかではない点。 <相違点1-3> 本件発明1は、「体積粒度分布におけるD90とD10の差分を2で割って求めた値である標準偏差が10μm以下である」のに対し、公然実施発明1は、当該「標準偏差」の数値が不明である点。 イ 相違点に対する判断 (ア)事案に鑑み、まず、相違点1-3について検討する。 甲1、2、引用文献A、Bのいずれにも、公然実施発明1のD90、D10、或いは両者の差分を直接把握できるような記載は存在しない。 また、公然実施発明1の「結晶の大きさが2μm×5μm」であること、当該「結晶の大きさ」は一次粒子の大きさに対応すること、公然実施発明1の「D50」は二次粒子の大きさに対応することからすると、公然実施発明1における一次粒子と二次粒子の大きさは概ね等しく、本件発明と同様に、一次粒子があまり凝集していない可能性があるとはいえる。しかしながら、例えば、乙1【0040】及び【図3】において、一次粒子径が14nm、体積換算平均粒径D50(つまり、二次粒子径)が12nmであるとともに、バイモーダル型の二次粒子分布を有する粒子が開示されているように、一次粒子と二次粒子の大きさの差が小さく、一次粒子があまり凝集していない場合においても、バイモーダル型等の分布幅(つまり、D90とD10の差分)が広い二次粒子径分布となり得るため、公然実施発明1の「結晶の大きさ」や「D50」を根拠に、D90とD10の差分の具体的な数値を推定することはできない。 加えて、上記1(3)イ(ア)での検討と同様に、公然実施発明1が上述と同一の製造工程により得られたものであれば、本件発明1と同一の物性を有するといえる可能性があるが、公然実施発明1の具体的な製造条件を把握できる証拠はないため、製造条件を根拠に、D90とD10の差分の具体的な数値を推定することもできない。 そのため、公然実施発明1の上記「標準偏差」が「10μm以下」であるといえる根拠はなく、相違点1-3は、実質的な相違点である。 (イ)相違点1-3に係る構成につき、本件明細書【0032】等に示されるように、本件発明1は、スラリー化した際の粘度を低くするという技術的意義のもと、上記「標準偏差」を10μm以下としている。 一方、提出された各甲号証や引用文献A、Bのいずれにも、当該技術的意義のもとに上記「標準偏差」を所定範囲内とする技術思想は全く開示されておらず、公然実施発明1において、当該「標準偏差」を本件発明1の範囲内に調整しようとする動機は生じ得ない。 したがって、相違点1-3に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。 なお、申立人は、公然実施発明1における相違点1-3について、特段の主張を行っていない。 ウ 小括 以上のとおり、相違点1-3に係る構成は、実質的な相違点であるし、当業者が容易に想到し得たものでないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、公然実施発明1ではないし、公然実施発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)本件発明2、4、5について 本件発明2、4、5は、本件発明1の特定事項を全て備えるものであるから、公然実施発明1ではないし、公然実施発明1に基づいて当業者が容易に想到できたものでもない。 3 取消理由5(明確性)について 第5の3のとおり、設定登録時の特許請求の範囲に記載された「標準偏差」は、単に「標準偏差」といった場合に理解される内容と、本件明細書【0033】、【0034】の説明内容とが整合していないため、その意味するところが不明確となっていた。 しかし、本件訂正後の請求項1には、「体積粒度分布におけるD90とD10の差分を2で割って求めた値である標準偏差」と記載されており、この定義は、上記明細書の説明内容と整合している。 したがって、本件発明1及びそれを引用する本件発明2、4、5は、「標準偏差」の意味が明確となっているため、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。 第7 むすび 上記第5で検討したとおり、本件特許1、2、4、5は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、申立理由1、2及び取消理由1~5では、本件特許1、2、4、5を取り消すことはできない。 また、他に本件特許1、2、4、5を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件特許3に対する特許異議の申立ては、本件訂正により、当該特許に係る請求項3が削除され、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700448

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