特許異議申立
2017-700746
多孔質炭素材料およびその製造方法、並びにそれを用いた電気二重層キャパシタ
- 審判番号
- 2017-700746
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-136422
- 登録番号
- 特許第6071261号(P6071261)
- 請求日
- 2017年07月31日
- 審決日
- 2018年01月31日
- 公報発行日
- 2018年05月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東洋炭素株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
- 【権利者代理人】飯田 敏三
- 【権利者代理人】赤羽 修一
- 【権利者代理人】篠田 育男
- 【異議申立人】田上 浩
- 【異議申立人】野田 澄子
- 審判長/審判官
- 審判長 豊永 茂弘
- 審判官 瀧口 博史
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.112-YAA(C01B) / P1651.113-YAA(C01B) / P1651.121-YAA(C01B) / P1651.536-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第29条第1項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6071261号発明「多孔質炭素材料およびその製造方法、並びにそれを用いた電気二重層キャパシタ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6071261号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕、〔8-13〕について訂正することを認める。
特許第6071261号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
特許第6071261号の請求項1~13に係る特許についての出願(特願2012-136422号)は、平成24年6月15日に出願したものであって、平成29年1月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人田上浩より請求項1~13に係る特許に対して異議の申立てがされ、また、特許異議申立人野田澄子より請求項1~3に係る特許に対して異議の申立てがされたものである。
その後、平成29年9月26日付けで取消理由が通知され、平成29年12月1日付けで意見書の提出及び訂正請求がされ、平成30年1月9日付けで特許異議申立人田上浩から意見書が提出されたものである。なお、特許異議申立人野田澄子から意見書は提出されなかった。
2 訂正の適否
(1) 訂正の内容
平成29年12月1日に提出された訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は、以下訂正事項1~3のとおりである。
訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積が1ml/g以上で、かつ該全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が50%以上80%以下であることを特徴とする多孔質炭素材料。」と記載されているのを、「ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積が2.0ml/g以上で、Dubinin-Radushkevich法で求めたミクロ孔容積が0.56~0.70ml/gであり、かつ該全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が65%以上80%以下であることを特徴とする多孔質炭素材料。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~7も同様に訂正する)。
訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記全細孔容積が、1.5ml/g以上3.0ml/g以下であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質炭素材料。」とあるのを、独立形式に改め、さらに、全細孔容積の数値範囲を減縮し、「ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積が2.15ml/g以上3.0ml/g以下であり、かつ該全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が50%以上80%以下であることを特徴とする多孔質炭素材料。」に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~7も同様に訂正する)。
訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~3のいずれか1項に記載の多孔質炭素材料の製造方法であって、クエン酸マグネシウムを不活性雰囲気下で500℃以上に加熱する加熱工程、冷却して酸洗浄する工程を有することを特徴とする多孔質炭素材料の製造方法。」とあるうち、請求項1を引用するものについて独立形式に改め、「多孔質炭素材料の製造方法であって、前記多孔質炭素材料が、ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積が1ml/g以上で、かつ該全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が50%以上80%以下であり、前記製造方法が、クエン酸マグネシウムを不活性雰囲気下で500℃以上に加熱する加熱工程、冷却して酸洗浄する工程を有することを特徴とする多孔質炭素材料の製造方法。」に訂正する(請求項8を直接的又は間接的に引用する請求項9~13も同様に訂正する)。
(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び、一群の請求項
ア 訂正の目的について
(ア) 訂正事項1
訂正事項1は、「ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積」について、数値範囲を限定し、また、「ミクロ孔容積」について、「Dubinin-Radushkevich法で求めた」ものであること、及び、「0.56~0.70ml/g」であることを特定し、さらに、「全細孔容積に対するメソ孔容積の割合」について、数値範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
(イ) 訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項2が、訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったのを、請求項1の記載を引用しない独立形式へと改め、さらに、「全細孔容積に対するメソ孔容積の割合」について数値範囲を限定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
(ウ) 訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項8が、訂正前の請求項1、2又は3の記載を引用する記載であったのを、請求項1の記載を引用しない独立形式へと改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 新規事項の有無について(引用部分の下線は、当審による。)
(ア) 訂正事項1
本件特許明細書の【0016】に記載された「本発明の多孔質炭素材料の全細孔容積は、1.5ml/g以上が好ましく、2.0ml/g以上がさらに好ましい。」との事項、【0017】に記載された「また、本発明の多孔質炭素材料のDR法(Dubinin-Radushkevich法)で求めたミクロ孔容積は、0.40~0.70ml/gが好ましく、HK法(Horvath-Kawazoe法)により求めたミクロ孔容積は、0.42~0.70ml/gが好ましい。一方、メソ孔容積は0.50~2.00ml/gが好ましい。」との事項、【0028】の【表1】の実施例1の行、ミクロ項容積(DR法)ml/gの列に記載された「0.56」との事項、及び、「全細孔容積に対するメソ孔容積の割合」が取り得る下限は、「ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積」の下限、及び、「Dubinin-Radushkevich法で求めたミクロ孔容積」の上限からみて65%(=100×(〔2.0ml/g〕-〔0.70ml/g〕)/〔2.0ml/g〕)であり、新たな技術的事項を導入するものではないから、訂正事項1は、新規事項の追加に該当しない。
(イ) 訂正事項2
本件特許明細書の【0016】に記載された「本発明の多孔質炭素材料の全細孔容積は、1.5ml/g以上が好ましく、2.0ml/g以上がさらに好ましい。なお、全細孔容積の上限は特に限定されるものではないが、現実的には3.0ml/g以下である。」との事項、【0028】の【表1】の実施例1、2の行、全細孔容積ml/gの列にそれぞれ記載された「2.15」との事項、及び、請求項1の記載を引用する請求項の記載を請求項1の記載を引用しないものとしたものであることから、訂正事項2は、新規事項の追加に該当しない。
(ウ) 訂正事項3
訂正事項3は、選択的引用請求項の一部削除、及び、請求項1の記載を引用する請求項の記載を請求項1の記載を引用しないものとしたものであることから、新規事項の追加に該当しない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1~3は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 一群の請求項について
訂正前の請求項1を請求項2~13が直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1~13は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
ただし、訂正後の請求項8~13は、請求項1~7とは別途訂正することを求めるものであり、訂正事項3は、上記のとおり認められるものであるから、訂正後の請求項〔8~13〕について、訂正後の請求項〔1~7〕とは別途訂正することを認める。
(3) 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号、及び、第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~7〕、〔8~13〕について訂正を認める。
3 特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~13に係る発明(以下、「本件特許発明1」~「本件特許発明13」という。)は、平成29年12月1日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~13に記載される以下の事項により特定されるとおりのものであると認める。
【請求項1】
ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積が2.0ml/g以上で、Dubinin-Radushkevich法で求めたミクロ孔容積が0.56~0.70ml/gであり、かつ該全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が65%以上80%以下であることを特徴とする多孔質炭素材料。
【請求項2】
ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積が2.15ml/g以上3.0ml/g以下であり、かつ該全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が50%以上80%以下であることを特徴とする多孔質炭素材料。
【請求項3】
前記多孔質炭素材料の比表面積が、1400~2000m2/gであることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質炭素材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の多孔質炭素材料をバインダ樹脂により結合してなることを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極材料。
【請求項5】
請求項4に記載の電気二重層キャパシタ用電極材料を電極に用いてなることを特徴とする電気二重層キャパシタ。
【請求項6】
20℃における電力量に対して、-40℃以下における電力量保持率が90%以上であることを特徴とする請求項5に記載の電気二重層キャパシタ。
【請求項7】
20℃における電力量に対して、-60℃以下における電力量保持率が70%以上であることを特徴とする請求項5または6に記載の電気二重層キャパシタ。
【請求項8】
多孔質炭素材料の製造方法であって、前記多孔質炭素材料が、ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積が1ml/g以上で、かつ該全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が50%以上80%以下であり、前記製造方法が、クエン酸マグネシウムを不活性雰囲気下で500℃以上に加熱する加熱工程、冷却して酸洗浄する工程を有することを特徴とする多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項9】
前記加熱工程が、500℃以上の保持温度までの昇温速度が1~100℃/分であることを特徴とする請求項8に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項10】
前記加熱工程が、500℃に到達後の500℃以上での保持時間が1~5000分であることを特徴とする請求項8または9に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項11】
前記加熱工程が、500℃に到達後の500℃以上での保持時間が60~5000分であることを特徴とする請求項8~10のいずれか1項に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項12】
前記冷却して酸洗浄する工程の後、表面酸素官能基を取り除く処理を行なうことを特徴とする請求項8~11のいずれか1項に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項13】
前記表面酸素官能基を取り除く処理が、不活性雰囲気下で、500℃以上で加熱することを特徴とする請求項12に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
(2)証拠
特許異議申立人田上浩、及び、特許異議申立人野田澄子から提出された証拠は以下のものである。
なお、特許異議申立人田上浩提出の参考資料1~3は、平成30年1月9日付け意見書に添付されたものである。
ア 特許異議申立人田上浩提出の甲第1~5号証、参考資料1~3
甲第1号証
中国特許出願公開第101604580号明細書
甲第2号証
特開2001-89119号公報
甲第3号証
Kaisheng Xia, Qiuming Gao, Jinhua Jiang, Juan Hu,「Hierarchical porous carbons with controlled micropores and mesopores for supercapacitor electrode materials」,Carbon 46 (2008), 1718-1726
甲第4号証
特開2008-13394号公報
甲第5号証
化学便覧 基礎編 改定5版, 社団法人日本化学会, 平成16年2月20日発行, II-5頁
参考資料1
特開2006-156918号公報
参考資料2
特開2006-335596号公報
参考資料3
Seung Jae Yang,「MOF-Derived Hierarchically Porous Cabon with Exceptional Porosity and Hydrogen Storage Capacity」, CHEMISTRY OF MATERIALS, 2012, 24, pp.464-470
イ 特許異議申立人野田澄子提出の甲第1~4号証
甲第1号証
特開2011-162369号公報
甲第2号証
Adsorption News vol.18,No.2(2004)通巻No.69, 日本吸着学会, 2004年6月18日発行
甲第3号証
「活性炭の応用技術」,株式会社テクノシステム,85-90頁,2000年7月25日発行
甲第4号証
特開2008-13394号公報
(3)取消理由の概要
訂正前の請求項1~7に係る特許に対して、平成29年9月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 請求項1~7に係る発明は、特許異議申立人田上浩提出の甲第1号証、及び、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1~7に係る特許は、取り消されるべきものである。
イ 請求項1、3~7に係る発明は、特許異議申立人田上浩提出の甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1、3~7に係る特許は、取り消されるべきものである。
ウ 請求項1に係る発明は、特許異議申立人野田澄子提出の甲第1号証、甲第2号証、及び、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。
エ 請求項1に係る発明は、特許異議申立人野田澄子提出の甲第2号証、甲第3号証に記載のとおり、公然実施された発明であるから、特許法第29条第1項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。
(4)判断
ア 取消理由通知に記載した取消理由について
(ア) 各引用発明に係る多孔質炭素材料の、ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積(以下、「全細孔容積」という。)、ミクロ孔容積、及び、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合(以下、「メソ孔容積の割合」という。)について
特許異議申立人田上浩提出の甲第1号証に該申立人が理由の根拠とする実施例1として記載された発明は、全細孔容積が1.70cm3/gであり、ミクロ孔容積が0.54cm3/gであり、メソ孔容積の割合が68.2%であり、
特許異議申立人田上浩提出の甲第1号証に該申立人が理由の根拠とする実施例2として記載された発明は、全細孔容積が1.93cm3/gであり、ミクロ孔容積が0.63cm3/gであり、メソ孔容積の割合が67.4%であり、
特許異議申立人田上浩提出の甲第1号証に該申立人が理由の根拠とする実施例3として記載された発明は、全細孔容積が2.03cm3/gであり、ミクロ孔容積が0.42cm3/gであり、メソ孔容積の割合が79.3%であり、
特許異議申立人田上浩提出の甲第2号証に該申立人が理由の根拠とする実施例8として記載された発明は、全細孔容積が1.21~1.25cm3/gのいずれかであり、メソ孔容積の割合が61~64%のいずれかであり、
特許異議申立人田上浩提出の甲第3号証に該申立人が理由の根拠とするCMK-3として記載された発明は、全細孔容積が1.05cm3/gであり、ミクロ孔容積が0.37cm3/gであり、メソ孔容積の割合が65%であり、
特許異議申立人田上浩提出の甲第3号証に該申立人が理由の根拠とするCS15A2として記載された発明は、全細孔容積が1.72cm3/gであり、ミクロ孔容積が0.69cm3/gであり、メソ孔容積の割合が60%であり、
特許異議申立人田上浩提出の甲第3号証に該申立人が理由の根拠とするCS15A4として記載された発明は、全細孔容積が1.82cm3/gであり、ミクロ孔容積が0.79cm3/gであり、メソ孔容積の割合が57%であり、
特許異議申立人田上浩提出の甲第3号証に該申立人が理由の根拠とするCS15A6として記載された発明は、全細孔容積が2.00cm3/gであり、ミクロ孔容積が0.96cm3/gであり、メソ孔容積の割合が52%であり、
また、特許異議申立人野田澄子提出の甲第1号証に該申立人が理由の根拠とするカニ殻を原料とする活性炭として記載された発明は、全細孔容積が3.46cm3/gであり、ミクロ孔容積が1.53cm3/gであり、メソ孔容積の割合が55.7%であり、
特許異議申立人野田澄子提出の甲第2号証に該申立人が理由の根拠とするACFのW-15として記載された発明は、全細孔容積が1.0cm3/gであり、ミクロ孔容積が0.49cm3/gであり、メソ孔容積の割合が51%であり、
特許異議申立人野田澄子提出の甲第3号証に該申立人が理由の根拠とするACFのW-15として記載された発明は、全細孔容積が1.0cm3/gであり、ミクロ孔容積が0.50cm3/gであり、メソ孔容積の割合が50%である。
(イ) 対比・判断
a 本件特許発明1について
本件特許発明1は、「ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積が2.0ml/g以上で、Dubinin-Radushkevich法で求めたミクロ孔容積が0.56~0.70ml/gであり、かつ該全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が65%以上80%以下であ」るのに対し、特許異議申立人田上浩提出の甲第1~3号証、特許異議申立人野田澄子提出の甲第1~3号証の何れにも、そのような細孔分布を有する多孔質炭素材料は記載されていない。
したがって、本件特許発明1は、特許異議申立人田上浩提出の甲第1~3号証、特許異議申立人野田澄子提出の甲第1~3号証に記載された発明ではない。
また、公然実施された発明でもない。
b 本件特許発明2について
本件特許発明2は、「ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積が2.15ml/g以上3.0ml/g以下であり、かつ該全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が50%以上80%以下であ」るのに対し、特許異議申立人田上浩提出の甲第1、3号証の何れにも、そのような細孔分布を有する多孔質炭素材料は記載されていない。
したがって、本件特許発明2は、特許異議申立人田上浩提出の甲第1、3号証に記載された発明ではない。
c 本件特許発明3~7について
本件特許発明3~7は、本件特許発明1の発明特定事項または本件特許発明2の発明特定事項を全て含むものであるところ、上記a、bに記載のとおりであるから、本件特許発明3~7は、特許異議申立人田上浩提出の甲第1~3号証に記載された発明ではない。
イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(ア)進歩性欠如について
a 本件特許発明1~7について
本件訂正請求により、本件特許発明1は、「ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積が2.0ml/g以上で、Dubinin-Radushkevich法で求めたミクロ孔容積が0.56~0.70ml/gであり、かつ該全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が65%以上80%以下であ」ることが発明特定事項となり、また、本件特許発明2は、「ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積が2.15ml/g以上3.0ml/g以下であり、かつ該全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が50%以上80%以下であ」ることが発明特定事項となった。
そして、上記の発明特定事項については、何れの証拠にも、記載も示唆もされていないし、また、何れの証拠を検討しても、一致するパラメータを固定したまま、相違するパラメータだけ変更して相違点を解消することについて、動機付けがない。
また、本件特許発明3~7は、本件特許発明1の発明特定事項または本件特許発明2の発明特定事項を全て含むものである。
してみると、本件特許発明1~7は、各証拠に記載された発明、公然実施された発明、及び、各証拠に記載された技術的事項を組み合わせたとしても、当業者が容易になし得るものではない。
b 本件特許発明8~13について
特許異議申立人田上浩は、甲第1号証に記載された発明のMOF-5のかわりに甲第4号証に記載されたクエン酸マグネシウムを原料として用いることは、当業者が容易に想到し得るとして、請求項8~13に係る発明は、当業者が容易に発明し得たものであると主張する。
ここで、特許異議申立人田上浩提出の甲第4号証において、クエン酸マグネシウムを原料とした製造方法では、「ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積が1ml/g以上で、かつ該全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が50%以上80%以下であ」る範囲から外れる多孔質炭素材料が製造されている。
してみると、本件特許発明8~13に想到するためには、甲第1号証に記載された発明の原料を単に変更するだけでは足りず、原料変更と同時に、製造される多孔質炭素材料が「ミクロ孔容積とメソ孔容積の総和である全細孔容積が1ml/g以上で、かつ該全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が50%以上80%以下であ」ることを維持する動機付けを要するといえる。
しかしながら、そのような動機付けは存在しないから、本件特許発明8~13は、特許異議申立人田上浩提出の甲第1、4号証に記載された発明、ないし、技術的事項を組み合わせて、当業者が容易に発明することができたものではない。
(イ)実施可能要件違反、サポート要件違反について
特許異議申立人野田澄子は、請求項1~3に係る発明は、明細書に記載されたクエン酸マグネシウムの熱処理によって製造することができないものを含んでおり、特に、メソ孔割合が50%のものや、全細孔容積が1ml/gのものは、発明の詳細な説明の開示内容から技術常識を勘案したとしても、作製することはできないので、サポート要件及び実施可能要件を備えていないと主張する。
しかしながら、本件特許発明1~3は、物の発明であり、その製造方法に特徴を有する発明ではなく、その多孔質炭素材料の細孔分布に特徴を有するものであるといえるところ、細孔分布が特定されたものである。
また、特許異議申立人野田澄子提出の甲第3号証には、メソ孔割合が50%であり、全細孔容積が1cm3/gである多孔質炭素材料が記載されていることからして、技術常識を勘案して作製することができない多孔質炭素材料といえない。
ウ 本件訂正請求を受けて、平成30年1月9日付けで特許異議申立人田上浩から提出された意見書に記載された主張について
(ア)主張の概要について
a 請求項1に特定される全細孔容積は、甲第1号証の実施例3に記載されており、また、請求項1に特定されるミクロ孔容積は、甲第1号証の実施例2に記載されており、さらに、Dubinin-Radushkevich法は、参考資料1、2に記載されているように、周知技術であるから、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明である。
b 本件特許発明1は、甲第1号証の実施例2、3に記載された発明を組み合わせて、当業者が容易に発明することができたものである。
c 本件特許発明1は、甲第2、3号証に記載された発明を組み合わせて、当業者が容易に発明することができたものである。
d 本件特許発明2は、参考資料3に記載された発明であり、また、参考資料3に記載された発明から、当業者が容易に発明することができたものである。
e 本件特許発明2は、参考資料3に記載された全細孔容積と、甲第1~3号証の何れかに記載されたメソ孔容積の割合とを組み合わせて、当業者が容易に発明することができたものである。
f 請求項3~7に記載された事項は、甲第1~3号証に記載された事項であり、本件特許発明3~7は、上記abceと同様に、当業者が容易に発明することができたものである。
g 本件特許発明8~13は、特許異議申立書に記載したとおり、甲第1、4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。(なお、意見書3〔4〕4-2、4-3中の「甲2」は、「甲4」の誤記と認める。また、意見書3〔4〕4-3中の「28頁1行」は、「29頁1行」の誤記と認める。)
h 本件特許発明1と2とは、範囲が大きく異なる発明をそれぞれ特定しているから、特許請求の範囲の記載は、請求項1~7についてサポート要件を満たさないものである。
i 本件特許発明1と2とは、範囲が大きく異なる発明をそれぞれ特定しているから、特許請求の範囲の記載は、請求項1~7について明確性要件を満たさないものである。
(イ)検討
a 上記ウ(ア)のaの主張について
甲第1号証の実施例2と実施例3とは、細孔分布が異なった別体の多孔質炭素材料であるから、それぞれの一部のパラメータを切り出して併合したものが、発明(技術的思想)として、甲第1号証に記載されているとは認められない。
b 上記ウ(ア)のb、cの主張について
上記イ(ア)aに記載したとおりであるから、本件特許発明1は、当業者が容易に発明することができたものでない。
c 上記ウ(ア)dの主張について
特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由に対して実質的に新たな内容を含むものであり、特許権者による訂正の請求に付随して生じた事項に該当しないと認められるから、採用しないこととする。
なお仮に、参考資料3について検討しても、相対圧力が0.95のときのN2吸着量が、1900cm3/gであることは、図4(a)から直ちに読み取れるものではなく、そして、相対圧力が0.95のときのN2吸着量が、2000cm3/gであるとすると、全細孔容積が、3.0ml/gを超えることになる。してみると、当該1900cm3/gを論拠とする主張に合理性は認められず、本件特許発明2は、参考資料3に記載された発明ではないし、また、参考資料3に記載された発明から、当業者が容易に発明することができたものでもない。
d 上記ウ(ア)eの主張について
上記cに記載のとおり、参考資料3に、2.15~3.0ml/gの全細孔容積が記載ないし開示されているといえないから、甲第1~3号証の何れかに記載されたメソ孔容積の割合と組み合わせても、2.15~3.0ml/gの全細孔容積を導くことができない。また、そもそも、参考資料3に記載された全細孔容積と、甲第1~3号証の何れかに記載されたメソ孔容積の割合とを組み合わせる動機付けがない。
e 上記ウ(ア)fの主張について
本件特許発明1、2についての新規性・進歩性の判断は、上記a、b、dに記載のとおりであるから、本件特許発明3~7は、当業者が容易に発明することができたものであるといえない。
f 上記ウ(ア)gの主張について
上記イ(ア)bに記載したとおりであるから、本件特許発明8~13は、甲第1、4号証に記載された発明、ないし、技術的事項を組み合わせて、当業者が容易に発明することができたものではない。
g 上記ウ(ア)hの主張について
サポート要件に関し、発明の課題を解決できると認識できる範囲内で、権利範囲をどのように設定する(狭くする)かは、特許権者(出願人)が選択可能であり、本件特許発明1と2とが、大きく異なる発明をそれぞれ特定しているとしても、サポート要件を満たさない理由とはならない。そして、本件特許発明1~7は、訂正前の請求項1~7に係る発明を拡張するものではないところ、訂正前の請求項1~7に係る発明と同様に、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
h 上記ウ(ア)iの主張について
請求項1、2の記載は、平成30年1月9日付けで特許異議申立人田上浩から提出された意見書の参考図1に示されるように、その数値限定の範囲内外を明確に区分するものであるといえる。
してみると、特許請求の範囲の記載は、明確である。
4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700746