特許異議申立
2025-700445
スチレン系樹脂組成物及び成形品
- 審判番号
- 2025-700445
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-058003
- 登録番号
- 7573472
- 請求日
- 2025年04月21日
- 審決日
- 2025年07月29日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】PSジャパン株式会社
- 【権利者代理人】杉村 憲司
- 【権利者代理人】杉村 光嗣
- 【権利者代理人】神 紘一郎
- 【権利者代理人】貴志 浩充
- 【異議申立人】西郷 新
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 加藤 幹
- 審判官 松本 直子
- 分類
- P1652.121-Y (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7573472号発明「スチレン系樹脂組成物及び成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7573472号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7573472号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、令和3年3月30日(優先権主張 令和2年4月1日)の出願であって、令和6年10月17日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和7年4月21日に、本件特許の請求項1~3に係る特許に対して、特許異議申立人 西郷 新(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~3に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
【請求項1】
屈折率が1.545~1.600であり、かつMFRが3以上のスチレン系樹脂(a)と、
短軸の平均長さd1及び前記d1以上である長軸の平均長さd2を有し、d1又はd2のいずれかが0.03~50μmであるセルロース系多糖体(b)と、を含有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン系樹脂(a)は、マトリクス中にゴム状重合体(A)の粒子が分散されたゴム変性スチレン系樹脂、又は、スチレン系単量体単位及び不飽和カルボン酸系単量体単位を有するスチレン系共重合樹脂であり、
前記ゴム状重合体(A)の含有量は、前記ゴム変性スチレン系樹脂100質量%に対して、2~10質量%であり、
前記セルロース系多糖体(b)の結晶化度は、50~100%であり、
前記スチレン系樹脂(a)及び前記セルロース系多糖体(b)の合計量(100質量部)に対して、前記スチレン系樹脂(a)の含有量が45.0~99.5質量部であり、前記セルロース系多糖体(b)の含有量が0.5~55.0質量部であることを特徴とする、スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記セルロース系多糖体(b)100質量%中のリグニンの含有量が10質量%以下である、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記スチレン系樹脂(a)としてゴム変性スチレン系樹脂を含有し、かつ前記ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(A)の平均粒子径は0.5~2.5μmである、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
第3 特許異議申立書に記載された申立理由の概要及び証拠方法
1 特許異議申立書に記載された申立理由の概要
本件発明1~3は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第9号証に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 証拠方法
(1)特許異議申立書に添付して提出された証拠方法
甲第1号証:特開2007-56202号公報
甲第2号証:J. Brandrupほか編,POLYMER HANDBOOK,John Wiley & Sons Inc.,4th ed.,1999年,p. VI/576-VI/577
甲第3号証:日本産業規格(JIS K6236:2001)
甲第4号証:特開2011-137094号公報
甲第5号証:特開2014-79985号公報
甲第6号証:特開2005-126470号公報
甲第7号証:特開2016-216630号公報
甲第8号証:特開2015-63615号公報
甲第9号証:特性が評価しやすいセルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル,ナノセルロース・ドットコム,HOME > 記事 > 製造企業>性状から探す>特性が評価しやすいセルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル,https://nanocellulose.biz/sample-easy-to-evaluate/,2024年11月6日検索
「甲第1号証」等を以下「甲1」等という。
(2)当審合議体が職権で採用した証拠方法
刊行物2:特開2017-2262号公報(本件特許に係る出願についての審査において令和6年6月13日の刊行物等提出書に添付して提出された刊行物2)
「刊行物2」を以下「刊2」という。
第4 当審の判断
1 各証拠方法の記載
(1)甲1の記載
甲1には以下のとおりの記載がある。
「【0007】
<(A)成分>
(A)成分の熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂(好ましくはポリプロピレン)、スチレン系樹脂(ホモポリマー、AS樹脂、HIPS等)、ゴム含有スチレン系樹脂(ABS樹脂、AES樹脂、ABSM樹脂、AAS樹脂等)、ポリアミド樹脂(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610等)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、非結晶(透明)ナイロン、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂等を挙げることができ、これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。」
「【0023】
熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、有機顔料、染料、分散剤、安定剤、可塑剤、改質剤、紫外線吸収剤又は光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、潤滑剤、離型剤、結晶促進剤、結晶核剤等を配合することができる。なお、本発明の課題を解決する観点から、無機繊維、金属繊維、無機顔料は配合しないことが好ましいが、熱可塑性樹脂組成物の用途に応じて、少量を配合してもよい。」
「【0026】
(方法1)
(A)成分の熱可塑性樹脂、(B)成分のセルロース繊維、(C)成分の有機繊維を上記比率範囲で使用し(望ましくは予め予備混合する)、これらをヘンシェルミキサー(例えば、三井鉱山社製、ヒーター付き)に投入し、攪拌しながら加温する。このときの条件は次のとおりである。
【0027】
混合槽容量20Lのミキサー内に、A)成分の熱可塑性樹脂、(B)成分のセルロース繊維、(C)成分の有機繊維の合計1000~3000gを投入し、使用した樹脂の溶融温度近傍にて、周速10~50m/secで、10~30分間混練する。」
「【0032】
実施例1~5、比較例1~4
表1に示す各成分を用い、上記の方法1により、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0033】
(表1の成分)
(A)成分
PP1:ポリプロピレン,サンアロマー(株)製のPMB60A
PP2:ポリプロピレン,三井化学(株)製のJ139
(B)成分
セルロース繊維:日本製紙(株)製のパルプNDP-T,平均繊維径約30μm、平均繊維長さ約2mm,アスペクト比約70,αセルロース含有量90%
(C)成分
ポリエステル繊維1:中部パイル工業所製のテトロンカットファイバー,平均繊維径約14μm,平均繊維長さ約5mm,アスペクト比約360
ポリエステル繊維2:International Fiber Corporation製のポリエステルフロック125WPF,平均繊維径約20μm,平均繊維長さ約2.5mm,アスペクト比約125
…」
「【0038】
【表1】
[図:0001425815000001.jpg]
」
(2)甲2の記載
甲2には以下のとおりの記載がある。
「REFRACTIVE INDICES OF POLYMERS
TABLE 2. cont’d
Polymer n…
…
Poly(1,3-butadiene)(35% cis: 56% trans: 7% 1,2-content) 1.5180
…
Poly(1,3-butadiene)(high cis-type) 1.52
…」(VI/576頁)
(当審合議体訳)「ポリマーの屈折率
表2.続き
ポリマー n…
…
ポリ(1,3-ブタジエン)(35%シス: 56%トランス: 7%1,2-構造) 1.5180
…
ポリ(1,3-ブタジエン)(高シス型) 1.52
…」
「Average Refractive Indices of Polymers(Increasing n)
TABLE 2. cont’d
Polymer n…
…
Poly(styrene) 1.59-1.592
…」(VI/577頁)
(当審合議体訳)「ポリマーの平均屈折率(nの昇順)
表2.続き
ポリマー n…
…
ポリ(スチレン) 1.59-1.592
…」
(3)甲3の記載
甲3には以下のとおりの記載がある。
「原料ゴム-乳化重合SBRの
結合スチレン量の求め方(定量)-屈折率法」(1頁)
「
[図:0001425815000002.jpg]
」(5頁)
「
[図:0001425815000003.jpg]
」(6頁)
(4)甲4の記載
甲4には以下のとおりの記載がある。
「【0012】
本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂及び/又はスチレン系樹脂(これらをまとめて、本発明における熱可塑性樹脂ともいう)とセルロースを含有するものであるが、該セルロースが結晶化度が50%未満のものであることに大きな特徴を有する。一般的に、樹脂組成物の剛性を向上させるための手段として、セルロース等の天然由来の有機充填剤を補強材として配合することが知られている。このような樹脂組成物においては、通常、結晶化度が80%程度であるセルロースの結晶化度をさらに高めることにより強度の高い樹脂組成物が得られる。しかし、樹脂としてポリオレフィン樹脂やスチレン系樹脂を用いる場合に結晶化度の高いセルロースを用いると、得られる樹脂組成物の可撓性が低下して、セルロースの有する強度増強効果を十分発揮させることができない。…」
「【0015】
[スチレン系樹脂]
本発明に用いられるスチレン系樹脂として、単独重合ポリスチレン(GP-PS)、ハイインパクトポリスチレン(HI-PS)、アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)等が挙げられる。
【0016】
なお、スチレン系樹脂は、公知の方法により合成することができるが、市販の製品としては、例えば、PSジャパン社製ポリスチレンGPPS HF77に代表されるGPPSシリーズや、HIPS AG102、VS165に代表されるHIPSシリーズ、日本エイアンドエル社製AS樹脂 ライタックA 100PCFに代表されるライタックAシリーズ、テクノポリマー社製ABS樹脂TECHNO ABS 110、300に代表されるABSシリーズ等が挙げられる。
【0017】
本発明で用いられるポリオレフィン樹脂及びスチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、樹脂組成物の成形性、耐衝撃性の観点から、0.2~60g/10minが好ましく、0.5~55g/10minがより好ましく、1.0~50g/10minがさらに好ましい。なお、本明細書において、メルトフローレート(MFR)は、後述の実施例に記載の方法により測定される。」
「【0155】
〔樹脂のメルトフローレート(MFR)〕
メルトフローレート(MFR、g/10min)は、JIS K7210に記載の方法に従って測定する。なお、ポリオレフィン樹脂は190℃、98.07N荷重の条件下で、スチレン系樹脂は200℃、49.03N荷重の条件下で測定する。」
(5)甲5の記載
甲5には以下のとおりの記載がある。
「【0025】
前記ゴム変性ポリスチレン樹脂のメルトフローレイト(MFR)は1~15g/10分が好ましく、より好ましくは2~10g/10分である。メルトフローレイトが上記範囲内であれば、押出ラミネートにより、樹脂層を十分な接着強度で発泡シート上に容易に形成することができる。
【0026】
前記ゴム変性ポリスチレン系樹脂のメルトフローレイトは、JIS K7210(1999)に基づいて、表1の条件H(試験温度200℃、公称荷重5.00kg)により測定される値である。」
「【0068】
【表3】
[図:0001425815000004.jpg]
」
(6)甲6の記載
甲6には以下のとおりの記載がある。
「【0071】
ポリスチレン樹脂[旭化成(株)製 スタイロン492]100部…」
(7)甲7の記載
甲7には以下のとおりの記載がある。
「【0027】
上記ゴム質重合体の平均粒子径は、光透過性の観点から、2.0μm以下であり、1.5μm以下であることが好ましく、1.3μm以下であることがより好ましい。
なお、ここでいう平均粒子径とは、DMF(ジメチルフォルムアミド)溶剤中、23℃で測定されるコールターカウンター法による平均粒子径をいう。」
「【0064】
…
-(b)ゴム変性ポリスチレン系樹脂-
(b-1)旭化成工業製「スタイロン492」(ゴム質重合体の使用量:ゴム変性ポリスチレン系樹脂を重合する際に用いたスチレン系化合物およびスチレン系化合物と共重合可能な化合物の合計100質量%に対して、10質量%)
…」
(8)甲8の記載
甲8には以下のとおりの記載がある。
「【0017】
…セルロースの繊維幅は2~200nm、長さは0.5~50μmが好ましい。セルロースの繊維幅と長さがこの範囲であれば、均一で透明なセルロースの水分散体を調製することができる。…」
「【0018】
セルロースは、結晶性セルロースであることがより好ましい。セルロースの結晶性が高いと、バリア層13の弾性率の高さが維持され、また薬品耐性および耐熱性が向上する。高結晶性のセルロースの水分散体を得る方法としては、触媒として2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペジニルオキシ・ラジカル(TEMPO)を使用してセルロースを化学処理したTEMPO酸化セルロースを用いる方法が挙げられる。TEMPO酸化セルロースの水分散体は、顔料を添加したときの顔料分散性が良好であるという特長を有している。さらに、TEMPO酸化セルロースの水分散体は、分散体の透明性が高いことから、優れた意匠性が得られる。また、TEMPO酸化セルロースの水分散体は、塗工性にも優れる。」
(9)甲9の記載
甲9には以下のとおりの記載がある。
「TEMPO酸化セルロースナノファイバー
…
商品名:セレンピアTM
製造者名:日本製紙株式会社
…
形状・性状 …結晶化度70~90%…
…
商品名:BGB UltraTMCNC
製造者名:Blue Goose Biorefineries Inc.
…
形状・性状 …結晶化度80%…
…」
(10)刊2の記載
刊2には以下のとおりの記載がある。
「【0073】
[ハイインパクトポリスチレン(C)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物はハイインパクトポリスチレン(C)を含有する。ハイインパクトポリスチレン(HIPS)はゴム強化スチレン系樹脂であり、ゴム成分が含まれるポリスチレン系樹脂であれば良く、スチレン系単量体の単独重合体中にゴム成分が含まれているもの、スチレン系単量体と共重合可能な他のビニル単量体との共重合体中にゴム成分が含まれているもの等、いずれも好適に用いることができる。ゴム成分は、これらスチレン系単独重合体又は共重合体中にゴム成分が粒子状になって分散していても、あるいは、スチレン系単独重合体又は共重合体にゴム成分をグラフト重合しているもの、あるいは、これらにさらにスチレン系単独重合体又は共重合体を配合したもの等の、いずれであってもよい。ハイインパクトポリスチレン(C)中のスチレン系単量体の割合は、ハイインパクトポリスチレン(C)の全体100質量%中、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、特に好ましくは50質量%以上である。
【0074】
スチレン系単量体は、前記したのと同様であり、特にスチレンが好ましい。
スチレン系単量体と共重合可能な他のビニル単量体としては、シアン化ビニル化合物および(メタ)アクリル酸エステル化合物を好ましく挙げることができる。シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられ、特にアクリロニトリルが好ましい。
【0075】
(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、具体的にはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。特に好適な(メタ)アクリル酸エステル化合物としてはメチルメタクリレートを挙げることができる。
【0076】
シアン化ビニル化合物および(メタ)アクリル酸エステル化合物以外のスチレン系単量体と共重合可能な他のビニル単量体としては、グリシジルメタクリレートなどのエポキシ基含有メタクリル酸エステル、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸などのα,β-不飽和カルボン酸およびその無水物があげられる。
【0077】
ゴム成分としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ジエン系共重合体(例えば、スチレン・ブタジエンのランダム共重合体およびブロック共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、並びに(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびブタジエンの共重合体など)、エチレンとα-オレフィンとの共重合体(例えば、エチレン・プロピレンランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレン・ブテンのランダム共重合体およびブロック共重合体など)、エチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体(例えばエチレン・メタクリレート共重合体、およびエチレン・ブチルアクリレート共重合体など)、エチレンとプロピレンと非共役ジエンターポリマー(例えば、エチレン・プロピレン・ヘキサジエン共重合体など)、アクリル系ゴム(例えば、ポリブチルアクリレート、ポリ(2-エチルヘキシルアクリレート)、およびブチルアクリレートと2-エチルヘキシルアクリレートとの共重合体など)等が含まれていることが好ましい。中でもより好適であるのは、ポリブタジエン、ポリイソプレン、またはジエン系共重合体であり、特にポリブタジエンがゴム成分として含まれていることが好ましい。」
「【0079】
ハイインパクトポリスチレン(C)の屈折率(nC)は、スチレン系樹脂(B2)の屈折率(nB2)より小さいことが好ましく、nB2-nCが0.01~0.1の範囲にあることがより好ましい。また、ハイインパクトポリスチレン(C)の屈折率(nC)は、ポリカーボネート樹脂(A)の屈折率(nA)より小さいことが好ましく、nA-nCが0.01~0.1の範囲にあることがより好ましい。
ハイインパクトポリスチレンの屈折率を調整するには、公知の各種の方法で可能であり、例えば、スチレン系単量体とこれに共重合する単量体の種類と共重合割合を調整する方法が挙げられる。また、市販品の中から所望の屈折率を有する樹脂を選択して使用することもできる。」
2 引用発明の認定
甲1(段落0026、0027、0032、0033及び0038)の実施例1に係る熱可塑性樹脂組成物に着目すると、甲1には、
「PP1(ポリプロピレン、サンアロマー(株)製のPMB60A)100質量部、セルロース繊維(日本製紙(株)製のパルプNDP-T,平均繊維径約30μm、平均繊維長さ約2mm,アスペクト比約70,αセルロース含有量90%)22質量部、ポリエステル繊維1(中部パイル工業所製のテトロンカットファイバー,平均繊維径約14μm,平均繊維長さ約5mm,アスペクト比約360)22質量部を、混合槽容量20Lのヘンシェルミキサーに合計1000~3000g投入し、PP1の溶融温度近傍にて、周速10~50m/secで、10~30分間混練して得た、熱可塑性樹脂組成物。」
の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
3 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者の構成の対応は以下のとおりとなる。
(a)甲1発明における「PP1(ポリプロピレン、サンアロマー(株)製のPMB60A)」は、本件発明1における「屈折率が1.545~1.600であり、かつMFRが3以上」の、「マトリクス中にゴム状重合体(A)の粒子が分散されたゴム変性スチレン系樹脂、又は、スチレン系単量体単位及び不飽和カルボン酸系単量体単位を有するスチレン系共重合樹脂」であり、「前記ゴム状重合体(A)の含有量は、前記ゴム変性スチレン系樹脂100質量%に対して、2~10質量%」である、「スチレン系樹脂(a)」と、「樹脂」という限りで一致する。
(b)甲1発明における「セルロース繊維(日本製紙(株)製のパルプNDP-T,平均繊維径約30μm、平均繊維長さ約2mm,アスペクト比約70,αセルロース含有量90%)」は、その「平均繊維径」及び「平均繊維長さ」が本件発明1における「短軸の平均長さd1」及び「長軸の平均長さd2」に相当するといえることから、本件発明1における「短軸の平均長さd1及び前記d1以上である長軸の平均長さd2を有し、d1又はd2のいずれかが0.03~50μm」であり、「結晶化度は、50~100%」である、「セルロース系多糖体(b)」と、「短軸の平均長さd1及び前記d1以上である長軸の平均長さd2を有し、d1又はd2のいずれかが0.03~50μm」である、「セルロース系多糖体(b)」という限りで一致する。
(c)甲1発明における「熱可塑性樹脂組成物」は、何らのスチレン系樹脂を含有しないことから、本件発明1における「前記スチレン系樹脂(a)及び前記セルロース系多糖体(b)の合計量(100質量部)に対して、前記スチレン系樹脂(a)の含有量が45.0~99.5質量部であり、前記セルロース系多糖体(b)の含有量が0.5~55.0質量部であることを特徴とする、スチレン系樹脂組成物」と、「樹脂組成物」という限りで一致する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「樹脂と、短軸の平均長さd1及び前記d1以上である長軸の平均長さd2を有し、d1又はd2のいずれかが0.03~50μmであるセルロース系多糖体(b)と、を含有する樹脂組成物。」
という点で一致し、
(相違点1)樹脂が、本件発明1では「屈折率が1.545~1.600であり、かつMFRが3以上」の、「マトリクス中にゴム状重合体(A)の粒子が分散されたゴム変性スチレン系樹脂、又は、スチレン系単量体単位及び不飽和カルボン酸系単量体単位を有するスチレン系共重合樹脂」であり、「前記ゴム状重合体(A)の含有量は、前記ゴム変性スチレン系樹脂100質量%に対して、2~10質量%」である、「スチレン系樹脂(a)」であるのに対し、甲1発明では「PP1(ポリプロピレン、サンアロマー(株)製のPMB60A)」である点
(相違点2)短軸の平均長さd1及び前記d1以上である長軸の平均長さd2を有し、d1又はd2のいずれかが0.03~50μmであるセルロース系多糖体(b)の結晶化度が、本件発明1は「50~100%」であるのに対し、甲1発明は不明である点
(相違点3)樹脂組成物が、本件発明1は「前記スチレン系樹脂(a)及び前記セルロース系多糖体(b)の合計量(100質量部)に対して、前記スチレン系樹脂(a)の含有量が45.0~99.5質量部であり、前記セルロース系多糖体(b)の含有量が0.5~55.0質量部である」、「スチレン系樹脂組成物」であるのに対し、甲1発明は「熱可塑性樹脂組成物」である点
で相違する。
(2)相違点1について
甲1(段落0033及び0038)の記載に照らし、甲1発明における「PP1(ポリプロピレン、サンアロマー(株)製のPMB60A)」が甲1における(A)成分の一種であることは当業者に明らかである。また、本件特許の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の記載(段落0016~0018)に照らし、HIPSは本件発明1における「マトリクス中にゴム状重合体(A)の粒子が分散されたゴム変性スチレン系樹脂」に相当するといえるところ、甲1(段落0007)には、(A)成分としてHIPS等のスチレン系樹脂を用いることができることが記載されている。
しかし、甲1には、どのような屈折率及びMFRのスチレン系樹脂を用いるかについては記載も示唆もされていない。
一方、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった時が明らかではない甲9も含め、甲2~甲9には屈折率が1.545~1.600の範囲内にあるHIPSは記載されていない。また、甲2、甲3及び甲6~甲9には、MFRが3以上のHIPSも記載されていない。甲4(段落0015~0017及び0155)には、スチレン系樹脂としてHIPSが記載され、樹脂組成物の成形性、耐衝撃性の観点からスチレン系樹脂のMFRが1.0~50であることがさらに好ましい旨も記載されているといえるが、この1.0~50という範囲のうち3以上の値又は範囲が好ましい旨は記載されていない。甲5(段落0025、0026及び0068)には、MFRが3、4又は7である具体的なHIPSが記載され、押出ラミネートにより樹脂層を十分な接着強度で発泡シート上に容易に形成するという観点からHIPSのMFRは2~10であることがより好ましい旨も記載されているといえるが、この2~10という範囲のうち3以上の値又は範囲が好ましい旨は記載されていない。
さらに、HIPSであれば、当然にその屈折率が1.545~1.600の範囲内にありそのMFRが3以上であるという本件特許に係る出願当時の技術常識があるともいえない。
そうすると、当業者が甲1~甲9の記載により、甲1発明におけるPP1に代えて又はこれに加えて屈折率が1.545~1.600の範囲内にありMFRが3以上であるHIPSを配合することを動機付けられるということはできない。
また、甲1~甲9にはスチレン系単量体単位及び不飽和カルボン酸系単量体単位を有するスチレン系共重合樹脂(以下単に「スチレン系共重合樹脂」という。)であって屈折率が1.545~1.600の範囲内にあるものやMFRが3以上であるものは記載されていないから、当業者が甲1~甲9の記載により、甲1発明におけるPP1に代えて又はこれに加えて屈折率が1.545~1.600の範囲内にありMFRが3以上であるスチレン系共重合樹脂を配合することを動機付けられるということもできない。
したがって、甲1発明において、甲1~甲9に記載された事項に基づいて当業者が相違点1に係る構成を容易に想到することができたということはできない。
(3)効果について
本件明細書には、「本発明者は…屈折率1.545~1.600であり、かつMFR3以上のスチレン系樹脂(a)と、特定の大きさのセルロース系多糖体(b)とを特定の比率で混合した樹脂組成物を用いることにより、上記の課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った」(段落0006)、「本発明によれば、光透過性、耐熱性、外観に優れたスチレン系樹脂組成物、及び当該スチレン系樹脂組成物を用いた成形品を提供することができる」(段落0008)と、本件発明1により光透過性、耐熱性及び外観に優れた成形品を得ることができることが記載されている。
また、本件明細書には、「本発明におけるスチレン系樹脂(a)の屈折率は1.545~1.600…である。屈折率が1.545より低かったり、或いは1.600より大きかったりすると、スチレン系樹脂組成物全体の光透過性、或いは外観が低下する。…また、本発明におけるスチレン系樹脂(a)のMFR(200℃、5kg)が3以上であることが必要である。…セルロース(b)の着色、ヤケを防止するため、240℃以下の溶融混合が必要となるが、MFRが3より低いとセルロース系多糖体(b)がスチレン系樹脂(a)に分散し難く、セルロース系多糖体(b)とスチレン系樹脂(a)との界面で乱反射を起こすため、光透過性、外観が低下する。…一方、スチレン系樹脂(a)のMFRが3以上であると、セルロース系多糖体(b)の凝集体内に含侵しやすくセルロース系多糖体(b)が分散しやすくなるほか、界面の凸凹部にも含侵するため、光透過性、外観が向上するというメリットを奏する」(段落0013)と、スチレン系樹脂(a)の屈折率が1.545~1.600であることやMFRが3以上であることが成形品の光透過性及び外観の向上に寄与することが記載されている。
さらに、本件明細書(段落0080、0084、0085及び0088)には、屈折率が1.578のスチレン系共重合樹脂である共重合-1を配合した実施例3は試験片の全光線透過率が82.0%、加熱収縮率が5.2%、表面外観の評価が○であるのに対し、共重合-1に代えて屈折率が1.542のスチレン系共重合樹脂である共重合-2を配合した比較例3は試験片の全光線透過率が56.0%、加熱収縮率が7.3%、表面外観の評価が×であること、MFRが3.0のHIPSであるHIPS-1を配合した実施例2は試験片の全光線透過率が75.0%、加熱収縮率が0.8%、表面外観の評価が○であるのに対し、HIPS-1に代えてMFRが2.0のHIPSであるHIPS-2を配合した比較例2は試験片の全光線透過率が48.0%、加熱収縮率が1.8%、表面外観の評価が×であること、が記載されている。
そうすると、本件明細書の前記記載から、本件発明1の効果は光透過性(全光線透過率)、耐熱性(加熱収縮率)及び外観に優れた成形品を得ることができることであり、本件発明1の相違点1に係る構成の一部であるスチレン系樹脂(a)の屈折率が1.545~1.600でありMFRが3以上であることが成形品の光透過性(全光線透過率)及び外観の向上に寄与しているといえる。
一方、甲1~甲9にはスチレン系樹脂の屈折率が1.545~1.600でありMFRが3以上であることにより光透過性(全光線透過率)及び外観に優れた成形品を得ることができることは記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明1の光透過性(全光線透過率)及び外観に優れた成形品を得ることができるという効果は本件発明1の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものであるといえる。
(4)本件発明1についてのまとめ
前記(2)及び(3)から、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明及び甲1~甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明1と甲1の実施例4等に係る熱可塑性樹脂組成物との間にも相違点1と同様の相違点が存在するから、甲1の実施例4等に係る熱可塑性樹脂組成物を引用発明とした場合も同様である。
以上から、本件発明1は甲1に記載された発明及び甲1~甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
4 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を引用し、本件発明1の相違点1に係る構成を備えるものである。したがって、前記3と同様に、本件発明2及び3は甲1に記載された発明及び甲1~甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
5 申立人の主張について
(1)甲1に記載された発明について
申立人は、甲1に記載された発明について、本件発明1を
「構成a 屈折率が1.545~1.600であり、かつMFRが3以上のスチレン系樹脂(a)と、
構成b 短軸の平均長さd1及び前記d1以上である長軸の平均長さd2を有し、d1又はd2のいずれかが0.03~50μmであるセルロース系多糖体(b)と、を含有するスチレン系樹脂組成物であって、
構成c 前記スチレン系樹脂(a)は、マトリクス中にゴム状重合体(A)の粒子が分散されたゴム変性スチレン系樹脂、又は、スチレン系単量体単位及び不飽和カルボン酸系単量体単位を有するスチレン系共重合樹脂であり、
構成d 前記ゴム状重合体(A)の含有量は、前記ゴム変性スチレン系樹脂100質量%に対して、2~10質量%であり、
構成e 前記セルロース系多糖体(b)の結晶化度は、50~100%であり、
構成f 前記スチレン系樹脂(a)及び前記セルロース系多糖体(b)の合計量(100質量部)に対して、前記スチレン系樹脂(a)の含有量が45.0~99.5質量部であり、
構成g 前記セルロース系多糖体(b)の含有量が0.5~55.0質量部である
ことを特徴とする、スチレン系樹脂組成物。」
と分節した上で(特許異議申立書4~5頁)、「甲1号証は、セルロース繊維(即ち、セルロース系多糖体)を含む熱可塑性樹脂を開示している。甲第1号証の発明は、「機械的性質が良い成形体が得られる熱可塑性樹脂組成物の提供」を目的とするものであり、熱可塑性樹脂の成分として、「スチレン系樹脂(ホモポリマー、AS樹脂、HIPS等)」が挙げられているスチレン系樹脂組成物を許容している」(同5頁5~8行)として、「本件特許発明1と甲第1号証に開示された発明は、構成b、c、f及びgにおいて一致又は充足する蓋然性が高い」(同17頁9~10行)と主張する。
しかし、甲1(段落0007)における「スチレン系樹脂(ホモポリマー、AS樹脂、HIPS等)」という記載が、(A)成分についての説明の中で多数例示されている熱可塑性樹脂の一部にとどまるものであって、甲1(段落0033及び0038)の実施例1~4における「セルロース繊維(日本製紙(株)製のパルプNDP-T,平均繊維径約30μm、平均繊維長さ約2mm,アスペクト比約70,αセルロース含有量90%)」と一体のものであるわけではないことは、甲1の記載に接した当業者に明らかである。そのため、甲1における「HIPS」と「セルロース繊維(日本製紙(株)製のパルプNDP-T,平均繊維径約30μm、平均繊維長さ約2mm,アスペクト比約70,αセルロース含有量90%)」とがひとまとまりの技術的思想を構成するということはできない。
そうすると、甲1に構成b、c、f及びgにおいて一致又は充足する蓋然性が高い発明が記載されているということはできない。
したがって、申立人の主張は前記2における引用発明の認定を左右するものではない。
(2)HIPSの屈折率について
申立人は、HIPSの屈折率について「本件の実施例で使用している2種類のHIPS(HIPS-1及びHIPS-2)の屈折率がいずれも1.545~1.600の範囲内である(段落0080)。また、本件には屈折率が1.545~1.600の範囲外にあるHIPSは示されておらず、その範囲内の効果については不明である。また、ポリスチレンの屈折率は1.59~1.592であり、HIPSで一般的に用いられるポリ1,3-ブタジエンの屈折率は1.518~1.520であることから(甲第2号証及び甲第3号証)、ポリブタジエンをポリスチレン中に添加・分散させることで得られる樹脂、すなわちHIPSの屈折率は、両者の最小値と最大値の間(1.518~1.592)よりもその中間値(1.555)付近となることが予想され、すなわち1.545~1.600の範囲内の屈折率となる蓋然性が極めて高い。更に、甲第3号証が開示するとおり、乳化重合スチレン-ブタジエンゴムにおけるスチレン結合量と屈折率の関係において、スチレン結合量が35.27%から36.25%の場合に屈折率は1.545となり、スチレン結合量が54.74%から55.60%の場合に屈折率が1.564となるため、スチレン結合量が20ポイント増えても屈折率は0.019しか増えず、スチレン結合量によっては屈折率に大きな変動は生じない。したがって、甲第1号証が開示するHIPSの屈折率は、1.545~1.600の範囲内にある蓋然性が高い」(特許異議申立書7頁3行~8頁11行)として、「構成aが規定するスチレン系樹脂の屈折率は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証によれば、HIPSであれば規定の屈折率を満たす蓋然性が高」い(同17頁11~12行)と主張する。
しかし、申立人の主張は、甲1のHIPSがポリスチレンとポリ1,3ブタジエンとから構成されることを前提として、甲2及び甲3の記載に基づいて甲1のHIPSの屈折率を推論するものであるところ、そもそも甲1にはHIPSの具体的な組成は記載されていないから、申立人の推論はその前提を欠くものであるといわざるを得ず、申立人の主張により甲1のHIPSの屈折率が1.545~1.600の範囲内にあることが証明されているとはいえない。
また、刊2(段落0073~0077)の記載に照らし、ブタジエンホモポリマーをスチレンホモポリマー中に添加・分散させることで得られる樹脂だけでなく、ブタジエン系コポリマー等をスチレン系コポリマー中に添加・分散させることで得られる樹脂もHIPSに該当するといえる。そして、刊2(段落0079)の「ハイインパクトポリスチレンの屈折率を調整するには、公知の各種の方法で可能であり、例えば、スチレン系単量体とこれに共重合する単量体の種類と共重合割合を調整する方法が挙げられる」という記載に照らし、ブタジエン系コポリマー等をスチレン系コポリマー中に添加・分散させることで得られるHIPSの屈折率はブタジエンホモポリマーをスチレンホモポリマー中に添加・分散させることで得られるHIPSの屈折率と異なり得るといえる。
そうすると、仮にブタジエンホモポリマーをスチレンホモポリマー中に添加・分散させることで得られるHIPSにおけるポリスチレン配合量と屈折率との関係が甲3号証に記載された乳化重合スチレン-ブタジエンゴムにおけるスチレン結合量と屈折率との関係と一致するとしても、そのことと本件明細書に記載されている2種類のHIPSの屈折率がいずれも1.545~1.600の範囲内であるということのみをもって、HIPSであれば当然にその屈折率が1.545~1.600の範囲内にあるということはできない。
したがって、HIPSであればその屈折率は1.545~1.600の範囲内である蓋然性が高いとする申立人の主張を採用することはできない。
(3)HIPSのMFRについて
申立人は、HIPSのMFRについて「甲第4号証は、スチレン系樹脂のMFRが3未満の場合の成形性の低下については開示していないものの、製造する樹脂組成物に要求される成形品の外観に応じてMFRを適宜変更し成形性を最適化することは、当業者であれば日常的になし得ることであり、また、甲5号証によれば、HIPSのMFRが高い(3以上)のHIPSは広く存在する一般的なHIPSであることから、MFRが3以上のHIPSを選択し入手することは容易である」(特許異議申立書8頁14~18行)として、「構成aが規定するスチレン系樹脂のMFRは、甲第4号証及び甲第5号証の教示に基づけば適宜設定する事項である」(同17頁12~42行)と主張する。
しかし、本件明細書(段落0013、0074、0076及び0084)の記載に照らし、本件発明1は、光透過性(全光線透過率)及び外観(射出成形品の表面における開口が0.1mm以上の寸法の凹みの少なさ)という観点から、スチレン系樹脂がセルロース系多糖体の凝集体内やスチレン系樹脂との界面に含浸するように、MFRが3以上のスチレン系樹脂を採用するものであるといえる。
この点、全光線透過率や前記の意味での外観に応じてMFRを適宜変更し最適化することは当業者であれば日常的になし得ることであるとする根拠は提示されていない。
また、甲4(段落0017)における「成形性、耐衝撃性」というMFRに関連する観点や甲5(段落0025)における「押出ラミネートにより、樹脂層を十分な接着強度で発泡シート上に容易に形成する」というMFRに関連する観点は、全光線透過率や前記の意味での外観とは異なる観点であって、甲4にも甲5にもこれらの観点からMFRを最適化することは記載されていない。その上、前記3(2)で述べたとおり、甲4(段落0015~0017及び0155)には、スチレン系樹脂としてHIPSが記載され、スチレン系樹脂のMFRが1.0~50であることがさらに好ましい旨も記載されているといえるし、甲5(段落0025、0026及び0068)には、MFRが3、4又は7である具体的なHIPSが記載され、HIPSのMFRは2~10であることがより好ましい旨も記載されているといえるが、甲4にも甲5にもこれらの範囲のうち3以上の値又は範囲が好ましい旨は記載されていない。
さらに、前記3(3)で述べたとおり、スチレン系樹脂(a)の屈折率が1.545~1.600でありMFRが3以上であることにより光透過性(全光線透過率)及び外観に優れた成形品を得ることができるという本件発明1の効果は本件発明1の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものであるといえる。
したがって、3以上というスチレン系樹脂のMFRは当業者が適宜設定する事項であるとする申立人の主張を採用することはできない。
(4)その余の主張について
申立人のその余の主張は、前記2及び前記3(1)~(3)における認定、判断に関するものではなく、したがってこれらを前提とするものである前記3(4)及び4における判断を左右するものではない。
6 申立理由についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~3は甲1に記載された発明及び甲1~甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
第5 むすび
前記第4のとおり、本件発明1~3に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700445