特許異議申立
2026-700143
電気化学セルスタック
- 審判番号
- 2026-700143
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-219063
- 登録番号
- 7727382
- 請求日
- 2026年02月17日
- 審決日
- 2026年06月10日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】京セラ株式会社
- 【権利者代理人】杉村 憲司
- 【権利者代理人】坪内 伸
- 【異議申立人】林 尚子
- 審判長/審判官
- 審判長 木村 貴俊
- 審判官 久々宇 篤志
- 審判官 ▲吉▼澤 雅博
- 分類
- P1651.121-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条、特許法第36条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7727382号発明「電気化学セルスタック」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7727382号の請求項1~2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7727382号(以下「本件特許」という。)の請求項1~2に係る特許についての出願(特願2020-219063号)は、2020年(令和2年)12月28日に出願され、令和7年8月13日にその特許権の設定登録がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行されたものである。
そして、本件特許について、令和8年2月17日に特許異議申立人 林 尚子(以下「申立人」という。)から請求項1~2に対して特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~2に係る発明(以下、請求項に付す番号を使って、それぞれ、「本件特許発明1」などといい、これらを総称して本件特許発明という。)は、特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
燃料ガス及び酸化剤ガスの電気化学反応により発電する板状の電気化学セルを積層させ、第1のエンドプレートと第2のエンドプレートで挟持してなる電気化学セルスタックであって、
前記電気化学セルの積層方向における一方の前記第1のエンドプレートに燃料ガスの入口及び燃料ガスの出口が位置し、前記第1のエンドプレートの裏側の前記第2のエンドプレートに酸化剤ガスの入口及び酸化剤ガスの出口が位置するとともに、
前記燃料ガスの入口及び前記燃料ガスの出口は、前記積層方向に垂直な第1の方向における前記電気化学セルスタックの両端における2辺の近傍に位置し、
前記酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口は、前記積層方向に垂直且つ前記第1の方向とのなす角度が45°未満である第2の角度における前記電気化学セルスタックの両端における2辺の近傍に位置し、
且つ前記燃料ガスの入口及び前記燃料ガスの出口を結ぶ線分と、前記酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口を結ぶ線分とが、前記積層方向から見て交差してなり、
且つ前記燃料ガスの入口及び前記燃料ガスの出口、前記酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口の内、少なくとも1つは、前記電気化学セルスタックの両端における2辺の両端を夫々結ぶ2辺から離れて位置し、
前記燃料ガスの入口から前記燃料ガスの出口までを経由する燃料ガスの流路は、
前記燃料ガスが前記燃料ガスの入口から前記電気化学セルスタックの積層方向の一方向に向かって流れる燃料ガス供給孔と、
前記燃料ガスが前記電気化学セル内を積層方向に垂直な方向に流れる流路と、
前記燃料ガスが積層方向の逆方向に向かって折返して流れて、前記燃料ガスの出口から排出される燃料ガス排出孔と、を含み、
前記酸化剤ガスの入口から前記酸化剤ガスの出口までを経由する酸化剤ガスの流路は、
前記酸化剤ガスが前記酸化剤ガスの入口から積層方向の逆方向に向かって流れる酸化剤ガス供給孔と、
前記酸化剤ガスが前記電気化学セル内を積層方向に垂直な方向に流れる流路と、
前記酸化剤ガスが積層方向の一方向に向かって折返して流れて、前記酸化剤ガスの出口から排出される酸化剤排出孔と、を含む
電気化学セルスタック。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学セルスタックにおいて、
前記酸化剤ガスの入口は、前記積層方向から見て、前記燃料ガスの入口及び前記燃料ガスの出口を結ぶ線分の中心よりも該燃料ガスの入口側に位置する
電気化学セルスタック。」
第3 申立人が提出した証拠方法及び申立理由
1 申立人が提出した証拠方法
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)とともに証拠として、以下に示す甲第1号証~甲第6号証を提出した。
甲第1号証:特開2012-48834号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開2011-119061号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特表2010-503143号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特開2005-190714号公報(以下「甲4」という。)
甲第5号証:特開2012-64483号公報(以下「甲5」という。)
甲第6号証:特開2012-190746号公報(以下「甲6」という。)
2 申立理由の概要
申立人は、概略、下記(1)~(3)の特許異議申立理由を主張している。申立理由の番号は当合議体が付与したものである。
(1)申立理由1(進歩性欠如)
本件特許発明1は、甲1発明に甲2発明を適用して、または、甲1発明に周知技術を適用して、容易に発明をすることができたものである。また、本件特許発明1は、甲3発明に甲4発明を適用して、または、甲3発明に周知技術を適用して、容易に発明をすることができたものである。本件特許発明2は、甲1発明に甲2記載のセパレータを適用して容易に発明をすることができたものである。また、本件特許発明2は、甲3発明に甲4記載のセパレータを適用して容易に発明をすることができたものである(申立書13~51ページ)。
(2)申立理由2(サポート要件違反)
本件特許発明1~2は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許が請求されているため、請求項に係る発明の記載はサポート要件を満たしていない(申立書51ページ)。
(3)申立理由3(明確性要件違反)
本件特許発明1~2は明確ではない(申立書51~54ページ)。
第4 当合議体の判断
1 申立理由1(進歩性欠如)について
(1)各甲号証について
ア 甲1の記載事項及び甲1発明
甲1には、図面とともに、以下の記載がある(下線は、合議体が付与した。以下、同様。)。
「【0001】
本発明は、燃料電池システムおよび燃料電池システムの制御方法に関する。」
「【0003】
この燃料電池システムにおいて、例えば、燃料電池の内部が氷点下となっている場合には、発電時であっても、一時的に燃料電池への冷却媒体の供給を停止させるなど、燃料電池システムの状態に応じて冷却媒体循環系を制御することで燃料電池の温度を調節する技術が知られている(特許文献1)。冷却媒体循環系を制御して燃料電池の温度を調節することで、燃料電池の温度に起因する発電効率の低下や破損などの不具合の発生を抑制することができる。」
「【0005】
しかし、燃料電池の温度に起因する不具合の発生を抑制するために冷却媒体循環系を制御する技術については、なお改善の余地があり、従来の技術では、必ずしも十分に不具合の発生が抑制されない虞があった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、冷却媒体循環系の制御により燃料電池の温度に起因する不具合の発生を抑制する技術の向上を図ることを目的とする。」
「【0019】
A.第1実施例:
A-1.燃料電池システムの概略構成:
図1は、本発明の第1実施例における燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。燃料電池システム10は、燃料電池100と、燃料電池100に水素ガスを供給する水素ガス供給排出系50と、燃料電池100に酸素を含む空気を供給する酸化ガス供給排出系60と、冷却媒体を循環させて燃料電池100を冷却する冷却媒体循環系70と、燃料電池システム10全体の制御をおこなう制御部80を含んでいる。
【0020】
燃料電池100は、水素と酸素との電気化学反応によって発電をおこなう。燃料電池100としては種々の種類の燃料電池を用いることが可能であるが、本実施例では、燃料電池100として固体高分子型燃料電池を用いている。燃料電池100は、複数のセル140がセパレータを介して積層されたスタック構造を有している。セル140は燃料電池100における発電を行う単位モジュールであり、各セル140は、電解質膜の各面にアノードおよびカソードの電極が形成された膜電極接合体(MEAとも呼ばれる)を含んでいる。各セル140は、さらに、MEAを挟むように配置され、反応ガスとしての水素ガスおよび空気を拡散させつつMEAに供給するガス拡散層を含んでいる。燃料電池100の各セル140は、水素ガスと空気に含まれる酸素との電気化学反応により発電を行う。なお、本実施例において、各セル140の構成や仕様は互いに同一である。」
「【0022】
水素ガス供給排出系50は、水素タンク51と、減圧弁52と、水素ガス供給路53と、圧力調整弁54と、アノード排ガス路55と、水素ポンプ56と、排ガス排出路57と、開閉弁58とを含んでいる。水素ガス供給排出系50は、水素タンク51に貯蔵された燃料ガスとしての水素を減圧弁52によって減圧した後に水素ガス供給路53に放出する。また、水素ガス供給排出系50は、水素ガス供給路53に放出された水素を水素ガス供給路53に設けられた圧力調整弁54によって所定の圧力に調整して、燃料電池100のアノードに供給する。一方、水素ガス供給排出系50は、アノード排ガス路55に排出されるアノード排ガスを水素ポンプ56によって再び水素ガス供給路53に供給する。また、水素ガス供給排出系50は、アノード排ガス路55から分岐した排ガス排出路57に設けられた開閉弁58を開状態とすることで、アノード排ガスの一部を外部に排出することができる。
【0023】
酸化ガス供給排出系60は、エアコンプレッサ61と、酸化ガス供給路62と、カソード排ガス路63とを含んでいる。酸化ガス供給排出系60は、外部から取り込んだ酸化ガスとしての空気をエアコンプレッサ61により加圧し、酸化ガス供給路62を介して燃料電池100のカソードに供給する。また、酸化ガス供給排出系60は、カソード排ガス路63に排出されるカソード排ガスをカソード排ガス路63から燃料電池100の外部に排出する。」
「【0061】
従来から、氷点下起動時に冷却媒体の循環を停止させて燃料電池の昇温を早める技術が知られている。しかし、従来の技術は、MEAの熱劣化を防止する観点から、燃料電池の内部温度に上限値を設定する技術であり、本発明のように、セルの面内に生じる温度差に起因する不具合については着目されていなかった。本発明は、セルの面内に生じる温度差を示す面内温度差TDiが、面内許容温度差TA以上となったときに、実行する制御を停止制御から循環制御に切り替えることにより、セルの温度分布に起因する不具合の発生を抑制することができる。セルの温度分布に起因する不具合とは、例えば、燃料電池を構成する構成部材の熱膨張率の差と、セルの面内の温度分布により、セル積層方向の荷重分布が変化することによる変形などの不具合が生じることをいう。」
「【図1】
[図:0001437423000001.jpg]
」
上記記載より、以下のことがいえる。
・段落【0020】より、燃料電池100は、複数のセル140がセパレータを介して積層されたスタック構造を有している。
・段落【0020】、【0022】~【0023】より、各セル140は、水素ガスと酸化ガスとしての空気に含まれる酸素との電気化学反応により発電を行うものである。また、各セル140は、電解質膜の各面にアノードおよびカソードの電極が形成された膜電極接合体(MEA)と、MEAを挟むように配置され、反応ガスとしての水素ガスおよび空気を拡散させつつMEAに供給するガス拡散層を備えている。
・図1より、積層された複数のセル140が一対の部材で挟持されており、一方の部材には水素ガス供給路53及びアノード排ガス路55が接続されており、他方の部材には酸化ガス供給路62及びカソード排ガス路63が接続されていることが見て取れる。
・段落【0022】~【0023】及び図1より、水素ガスは、水素タンク51から水素ガス供給路53とガス拡散層を介して燃料電池100のセル140のアノードに供給された後、アノード排ガス路55に排出され、酸化ガスは、エアコンプレッサ61から酸化ガス供給路62とガス拡散層を介して燃料電池100のセル140のカソードに供給された後、カソード排ガス路63に排出されるものである。
・図1において、各セル140に水素ガスと酸素ガスが供給されることからみて、セル140の積層方向に垂直な方向に水素ガスと酸化ガスが移動するための流路が存在することは明らかである。
・図1より、水素ガス供給路53からセル140に水素ガスが供給される方向は、セル140の積層方向において一方向であり、セル140からアノード排ガス路55に水素ガスが排出される方向は、セル140の積層方向において前記一方向の逆方向であり、酸化ガス供給路62からセル140に酸化ガスが供給される方向は、セル140の積層方向において前記一方向の逆方向であり、セル140からカソード排ガス路63に酸化ガスが排出される方向は、セル140の積層方向において前記一方向であることが見て取れる。
そして、上記記載及び図1を総合勘案すると、甲1には、次の「燃料電池」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「セパレータを介して積層されたスタック構造を有し、水素ガスと酸化ガスとしての空気に含まれる酸素との電気化学反応により発電を行う複数のセル140を備えた燃料電池であって、
各セル140は、電解質膜の各面にアノード及びカソードの電極が形成された膜電極接合体(MEA)と、MEAを挟むように配置され、反応ガスとしての水素ガス及び空気を拡散させつつMEAに供給するガス拡散層を備え、
積層された複数のセル140は一対の部材で挟持されており、一方の部材には水素ガス供給路53及びアノード排ガス路55が接続されており、他方の部材には酸化ガス供給路62及びカソード排ガス路63が接続されており、
各セル140において、セル140の積層方向に垂直な方向に水素ガスと酸化ガスの流路を有し、
水素ガスは、水素タンク51から水素ガス供給路53とガス拡散層を介して燃料電池100のセル140のアノードに供給された後、アノード排ガス路55に排出され、酸化ガスは、エアコンプレッサ61から酸化ガス供給路62とガス拡散層を介して燃料電池100のセル140のカソードに供給された後、カソード排ガス路63に排出され、
水素ガス供給路53からセル140に水素ガスが供給される方向は、セル140の積層方向において一方向であり、セル140からアノード排ガス路55に水素ガスが排出される方向は、セル140の積層方向において前記一方向の逆方向であり、酸化ガス供給路62からセル140に酸化ガスが供給される方向は、セル140の積層方向において前記一方向の逆方向であり、セル140からカソード排ガス路63に酸化ガスが排出される方向は、セル140の積層方向において前記一方向である、
燃料電池。」
イ 甲2の記載事項及び甲2発明
甲2には、図面とともに、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、電解質の両側に一対の電極が設けられる電解質・電極構造体と金属セパレータとが積層されるとともに、互いに隣接する前記金属セパレータ間には、電極面方向に沿って冷却媒体を流通させる冷却媒体流路が形成される燃料電池に関する。」
「【0011】
ところで、燃料電池では、冷却水の流れ方向が、燃料ガスの流れ方向及び酸化剤ガスの流れ方向と略同一方向に設定される場合がある。例えば、単位セル1において、長手方向上端の冷却水排出口7bを冷却水供給口7aとし、前記単位セル1の上部側に左右一対の冷却水供給口7a、7aを設ける一方、該単位セル1の長手方向下端には、左右一対の冷却水排出口7b、7bを設ける構成が考えられる。各溝形状8b、9bは、波形状に蛇行するため、これらの間には、水平方向及び鉛直方向に沿って冷却水を流通可能な流路が形成されるからである。
【0012】
これにより、左右一対の冷却水供給口7a、7aから互いに対向して短手方向内方に冷却水が導入される。この冷却水は、鉛直下方向に沿って移動し、さらに短手方向外方に向かって移動することにより、一対の冷却水排出口7b、7bから排出される、所謂、Hフローを構成することができる。
【0013】
しかしながら、冷却水流路において、幅方向(水平方向)中央部に冷却水が供給され難く、冷却水供給量の不足が発生し易い。これにより、冷却水流路には、高温部位が発生してしまい、発電面内の温度分布にばらつきが生じるという問題がある。
【0014】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、簡単な構成で、発電面内全域にわたって温度分布を均一化することができ、発電性能の向上を図ることが可能な燃料電池を提供することを目的とする。」
「【0022】
本発明によれば、冷却媒体流路の入口バッファ形状部側に向かって供給される冷却媒体の流量が、他の部位に向かって供給される前記冷却媒体の流量よりも増量されている。このため、冷却媒体は、入口バッファ形状部を流通して冷却媒体流路の幅方向中央部に確実に供給され、冷却水供給量が不足することを阻止することができる。
【0023】
これにより、簡単な構成で、発電面内全域にわたって温度分布及び湿度分布を均一化することができ、発電性能の向上を容易に図ることが可能になる。」
「【0025】
図1及び図2に示すように、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池10は、矢印A方向に複数積層されて燃料電池スタック11を構成する。燃料電池10は、電解質膜・電極構造体12と、前記電解質膜・電極構造体12を挟持する第1金属セパレータ14及び第2金属セパレータ16とを備える。」
「【0027】
図1に示すように、第1金属セパレータ14及び第2金属セパレータ16は、縦長形状を有するとともに、長辺が重力方向(矢印C方向)に向かい且つ短辺が水平方向(矢印B方向)に向かう(水平方向の積層)ように構成される。なお、長辺が水平方向に向かい且つ短辺が重力方向に向かうように構成してもよく、また、セパレータ面が水平方向に向かう(鉛直方向の積層)ように構成してもよい。
【0028】
燃料電池10の長辺方向(矢印C方向)の上端両角部近傍には、矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガスを供給するための酸化剤ガス供給連通孔18aと、燃料ガス、例えば、水素含有ガスを供給するための燃料ガス供給連通孔20aとが設けられる。
【0029】
燃料電池10の長辺方向の下端両角部近傍には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを排出するための燃料ガス排出連通孔20bと、酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス排出連通孔18bとが設けられる。」
「【0033】
第1金属セパレータ14の電解質膜・電極構造体12に向かう面14aには、酸化剤ガス供給連通孔18aと酸化剤ガス排出連通孔18bとを連通する酸化剤ガス流路30が形成される。酸化剤ガス流路30は、矢印C方向に延在する複数本の波状凸部30a間に形成されるとともに、前記酸化剤ガス流路30の入口近傍及び出口近傍には、それぞれ複数のエンボスを有する入口バッファ部32a及び出口バッファ部32bが設けられる。
【0034】
図3に示すように、第2金属セパレータ16の電解質膜・電極構造体12に向かう面16aには、燃料ガス供給連通孔20aと燃料ガス排出連通孔20bとを連通する燃料ガス流路34が形成される。燃料ガス流路34は、矢印C方向に延在する複数本の波状凸部34a間に形成されるとともに、前記燃料ガス流路34の入口近傍及び出口近傍には、それぞれ複数のエンボスを有する入口バッファ部36a及び出口バッファ部36bが設けられる。」
「【図1】
[図:0001437423000002.jpg]
」
「【図3】
[図:0001437423000003.jpg]
」
上記記載より、以下のことがいえる。
・段落【0025】より、燃料電池スタック11は、複数積層された燃料電池により構成され、各燃料電池10は、電解質膜・電極構造体12と、前記電解質膜・電極構造体12を挟持する第1金属セパレータ14及び第2金属セパレータ16とを備えている。
・段落【0028】~【0029】より、燃料電池10には、酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給連通孔18aと、燃料ガスを供給するための燃料ガス供給連通孔20aと、燃料ガスを排出するための燃料ガス排出連通孔20bと、酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス排出連通孔18bとが設けられている。
・段落【0028】及び図1より、燃料電池10に、燃料ガス供給連通孔20aから燃料ガスが供給される方向と、酸化剤ガス供給連通孔18aから酸化剤ガスが供給される方向とは、燃料電池の積層方向において同方向であり、また、燃料電池10から、燃料ガス排出連通孔20bに燃料ガスが排出される方向と、酸化剤ガス排出連通孔18bに酸化剤ガスが排出される方向とは、燃料電池の積層方向において同方向であることが見て取れる。
・図1、3より、燃料ガス供給連通孔20aと酸化剤ガス供給連通孔18aは、縦長形状の第2金属セパレータ16の短辺近傍に位置し、燃料ガス排出連通孔20bと酸化剤ガス排出連通孔18bは、第2金属セパレータ16の他方の短辺近傍に位置し、また、各連通孔18a、18b、20a、20bから第2金属セパレータ16の長辺までの距離は短辺までの距離と比べて大きいといえる。さらに、燃料ガス供給連通孔20aと燃料ガス排出連通孔20bを結ぶ線分と、酸化剤ガス供給連通孔18aと、酸化剤ガス排出連通孔18bを結ぶ線分は交差することが、見て取れる。
そして、上記記載及び図1、3を総合勘案すると、甲2には、次の「燃料電池スタック11」の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「電解質膜・電極構造体12と、前記電解質膜・電極構造体12を挟持する第1金属セパレータ14及び第2金属セパレータ16を備える燃料電池10を複数積層して構成される燃料電池スタック11であって、
燃料電池10には、酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給連通孔18aと、燃料ガスを供給するための燃料ガス供給連通孔20aと、燃料ガスを排出するための燃料ガス排出連通孔20bと、酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス排出連通孔18bとが設けられており、
燃料電池10に、燃料ガス供給連通孔20aから燃料ガスが供給される方向と、酸化剤ガス供給連通孔18aから酸化剤ガスが供給される方向とは、燃料電池10の積層方向において同方向であり、また、燃料電池10から、燃料ガス排出連通孔20bに燃料ガスが排出される方向と、酸化剤ガス排出連通孔18bに酸化剤ガスが排出される方向とは、燃料電池10の積層方向において同方向であり、
燃料ガス供給連通孔20aと酸化剤ガス供給連通孔18aは、縦長形状の第2金属セパレータ16の短辺近傍に位置し、燃料ガス排出連通孔20bと酸化剤ガス排出連通孔18bは、第2金属セパレータ16の他方の短辺近傍に位置しており、各連通孔18a、18b、20a、20bから第2金属セパレータ16の長辺までの距離は短辺までの距離と比べて大きく、また、燃料ガス供給連通孔20aと燃料ガス排出連通孔20bを結ぶ線分と、酸化剤ガス供給連通孔18aと、酸化剤ガス排出連通孔18bを結ぶ線分は交差する、
燃料電池スタック11」
ウ 甲3の記載事項及び甲3発明
甲3には、図面とともに、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、燃料電池、この燃料電池を備える燃料電池システム、および、この燃料電池システムの制御方法に関するものである。」
「【0005】
そして、いずれのタイプの燃料電池においても、発電中に、燃料ガスに含まれる発電に寄与しない不純物ガスがアノード側に貯留される。また、酸化剤ガスとして空気を用いる場合には、カソードに供給された空気中に含まれる発電に寄与しない窒素等の不純物ガスが電解質膜を透過してアノード側に貯留される。そして、このような不純物ガスがアノード側に貯留されると、相対的に燃料ガスの濃度が低下して、燃料電池の発電性能が低下し、さらには、膜電極接合体の劣化を招く。この膜電極接合体の劣化は、主として、カソードに含まれるカーボンの酸化による。このような不具合は、発電時に、アノード側に燃料ガスを滞留させるアノードデッドエンド型燃料電池において、特に顕著である。このため、上述した燃料電池では、通常、アノードに滞留した不純物ガスを含むアノードオフガスを、間欠的に燃料電池の外部に排出する処理が行われる(例えば、特開2005-166498号公報,特開2004-327360号公報,及び特開2005-243477号公報参照)。」
「【0008】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、アノードデッドエンド型燃料電池において、燃料ガスを有効利用するとともに、燃料電池が備える膜電極接合体のカーボン酸化による劣化を抑制することを目的とする。」
「【0029】
A.燃料電池システムの構成:
図1は、本発明の一実施例としての燃料電池スタック100を備える燃料電池システム1000の概略構成を示す説明図である。この燃料電池システム1000において、燃料電池スタック100を除いた基本的な構成は、後述する各実施例において同じである。
【0030】
燃料電池スタック100は、水素と酸素との電気化学反応によって発電するセル40を、複数積層させたスタック構造を有している。各セル40は、プロトン伝導性を有する電解質膜の両面に、それぞれアノード、および、カソードを接合した膜電極接合体をセパレータによって挟持した構成となっている。アノード、および、カソードは、それぞれ、電解質膜の各表面に接合された触媒層と、この触媒層の表面に接合されたガス拡散層とを備えている。本実施例では、電解質膜として、ナフィオン(登録商標)等の固体高分子膜を用いるものとした。電解質膜として、固体酸化物等、他の電解質膜を用いるものとしてもよい。各セパレータには、アノードに供給すべき燃料ガスとしての水素の流路や、カソードに供給すべき酸化剤ガスとしての空気の流路や、冷却水の流路が形成されている。なお、セル40の積層数は、燃料電池スタック100に要求される出力に応じて任意に設定可能である。
【0031】
燃料電池スタック100は、一端から、エンドプレート10a、絶縁板20a、集電板30a、複数のセル40、集電板30b、絶縁板20b、エンドプレート10bの順に積層することによって構成されている。これらには、燃料電池スタック100内に、水素や、空気や、冷却水を流すための供給口や、排出口が設けられている。また、燃料電池スタック100内部には、水素や、空気や、冷却水を、それぞれ各セル40に分配して供給するための供給マニホールド(水素供給マニホールド、空気供給マニホールド、冷却水供給マニホールド)や、各セル40のアノードおよびカソードからそれぞれ排出されるアノードオフガスおよびカソードオフガスや、冷却水を集合させて燃料電池スタック100の外部に排出するための排出マニホールド(アノードオフガス排出マニホールド、カソードオフガス排出マニホールド、冷却水排出マニホールド)が形成されている。
【0032】
本実施例の燃料電池スタック100は、複数のセル40として、複数の第1のセル40Aと、1枚の第2のセル40Bとを備えている。そして、第2のセル40Bは、発電中の水素濃度のモニタ用に用いられ、後述するように、第1のセル40Aとは、内部構造が異なっている。図示した例では、第2のセル40Bは、集電板30aに隣接する位置に配置されているものとしたが、他の位置に配置するものとしてもよい。」
「【0035】
燃料電池スタック100のアノードには、配管53を介して、高圧水素を貯蔵した水素タンク50から、燃料ガスとしての水素が供給される。水素タンク50の代わりに、アルコール、炭化水素、アルデヒドなどを原料とする改質反応によって水素リッチなガスを生成し、アノードに供給するものとしてもよい。
【0036】
水素タンク50に貯蔵された高圧水素は、水素タンク50の出口に設けられたシャットバルブ51、レギュレータ52によって圧力、および、供給量が調整されて、水素供給マニホールドを介して、各セル40のアノードに供給される。各セル40から排出されるアノードオフガスは、アノードオフガス排出マニホールドに接続された排出配管54を介して、燃料電池スタック100の外部に排出することができる。アノードオフガスを燃料電池スタック100の外部に排出するか否かは、排出配管54に配設された排出弁55の開閉状態を切り換えることによって行われる。なお、アノードオフガスを燃料電池スタック100の外部に排出する際には、アノードオフガスに含まれる水素は、図示しない希釈器や、燃焼器によって処理される。
【0037】
燃料電池スタック100のカソードには、配管61を介して、コンプレッサ60によって圧縮された圧縮空気が、酸素を含有した酸化剤ガスとして供給される。そして、この圧縮空気は、配管61に接続された空気供給マニホールドを介して、各セル40のカソードに供給される。各セル40のカソードから排出されるカソードオフガスは、カソードオフガス排出マニホールドに接続された排出配管62を介して、燃料電池スタック100の外部に排出される。排出配管62からは、カソードオフガスとともに、燃料電池スタック100のカソードで、水素と酸素との電気化学反応によって生成された生成水も排出される。」
「【0041】
図2は、第1のセル40Aの概略構成を示す説明図である。第1のセル40Aの分解斜視図を示した。図示するように、第1のセル40Aは、矩形形状を有しており、膜電極接合体410の周囲にシール構造(図示省略)を有するフレーム部材を配置したユニット(以下、「シールガスケット一体型MEA(MEA:Membrane Electrode Assembly)」と呼ぶ)の両面を、カソード側セパレータ42A、および、アノード側セパレータ43Aによって挟持することによって構成されている。本実施例では、フレーム部材として、シリコーンゴムを用いるものとした。
【0042】
図示するように、シールガスケット一体型MEA41A、カソード側セパレータ42A、および、アノード側セパレータ43Aの一方の短辺部には、それぞれ水素供給マニホールドを形成する貫通孔41ai,42ai,43ai、および、アノードオフガス排出マニホールドを形成する貫通孔41ao,42ao,43aoが形成されている。また、これらと対向する側の短辺部には、空気供給マニホールドを形成する貫通孔41ci,42ci,43ci、および、カソードオフガス排出マニホールドを形成する貫通孔41co,42co,43coが形成されている。シールガスケット一体型MEA41Aに形成された貫通孔41ai,41ao,41ci,41coと、カソード側セパレータ42Aに形成された貫通孔42ai,42ao,42ci,42coと、アノード側セパレータ43Aに形成された貫通孔43ai,43ao,43ci,43coとは、シールガスケット一体型MEA41Aと、カソード側セパレータ42Aと、アノード側セパレータ43Aとを積層したときに、それぞれ同じ位置に重なるように配置されている。
【0043】
そして、膜電極接合体410のアノードと対向するアノード側セパレータ43Aの表面には、図示するように、貫通孔43aiから貫通孔43aoに、膜電極接合体410のアノード表面全体に沿って水素が蛇行して流れるように、溝部43dが形成されている。図中に破線で示した矢印は、水素、および、アノードオフガスの流れを示している。これは、後に図示する各セルにおいても同じである。第1のセル40Aが備えるアノード側セパレータ43Aにおける溝部43dは、本発明における第1の燃料ガス流路に相当する。
【0044】
また、図示は省略しているが、膜電極接合体410のカソードと対向するカソード側セパレータ42Aの表面にも、アノード側セパレータ43Aと同様に、貫通孔42ciから貫通孔42coに、膜電極接合体410のカソード表面全体に沿って空気が蛇行して流れるように、溝部が形成されている。図中に一点鎖線で示した矢印は、空気、および、カソードオフガスの流れを示している。これは、後に図示する各セルにおいても同じである。」
「【0046】
次に、第2のセル40Bの構成について説明する。
図3は、第1実施例における第2のセル40Bの概略構成を示す説明図である。第2のセル40Bの分解斜視図を示した。図示するように、第2のセル40Bも、第1のセル40Aと同様に、矩形形状を有しており、膜電極接合体410の周囲にシール構造を有するフレーム部材を配置したシールガスケット一体型MEA41Bの両面を、カソード側セパレータ42B、および、アノード側セパレータ43Bによって挟持することによって構成されている。
【0047】
第2のセル40Bを構成するシールガスケット一体型MEA41B、カソード側セパレータ42B、アノード側セパレータ43Bにおける各貫通孔の形状や配置は、第1のセル40Aを構成するシールガスケット一体型MEA41A、カソード側セパレータ42A、アノード側セパレータ43Aと同じである。また、第2のセル40Bを構成するシールガスケット一体型MEA41B、および、カソード側セパレータ42Bは、第1のセル40Aを構成するシールガスケット一体型MEA41A、および、カソード側セパレータ42Aと同じである。
【0048】
アノード側セパレータ43Bの表面には、アノード側セパレータ43Aと同様に、貫通孔43aiから貫通孔43aoに、膜電極接合体410のアノード表面全体に沿って水素が蛇行して流れるように、溝部43Bdが形成されている。ただし、図示するように、この溝部43Bdの下流側の貫通孔43ao近傍の一部の領域には、流路断面積を狭窄するための狭窄部43eが形成されている。この狭窄部43eは、アノード側セパレータ43Bに一体的に形成するようにしてもよいし、溝部43Bdに別部材を接合することによって形成するようにしてもよい。そして、狭窄部43eの下流側の、狭窄部43eと貫通孔43aoとの間の溝部43Bdには、水素濃度を検出するための水素濃度センサ43sが設置されている。アノード側セパレータ43Bにおける溝部43Bdは、本発明における第2の燃料ガス流路に相当する。また、溝部43Bdにおける狭窄部43e以外の領域は、本発明における非狭窄部に相当する。以下、狭窄部43eと貫通孔43aoとの間の溝部43Bdを、「狭窄部43eの下流側の非狭窄部」と呼ぶ。
【0049】
第1のセル40A、および、第2のセル40Bを、上述したように構成することによって、図1に示した排出弁55を閉弁した状態で発電を行ったときに、第2のセル40Bのアノード側セパレータ43Bの狭窄部43eの下流側の非狭窄部における圧力は、他の部位よりも低くなるので、狭窄部43eの下流側の非狭窄部には、第2のセル40Bで生じた不純物ガスが滞留する以外に、第1のセル40Aで生じた不純物ガスもアノードオフガス排出マニホールドを通じて流れ込んで滞留する。つまり、第2のセル40Bのアノード側セパレータ43Bにおける狭窄部43eの下流側の非狭窄部は、他のいずれの第1のセル40Aのアノード側セパレータ43Aにおける溝部43dよりも、不純物ガスの濃度の上昇によって相対的な水素濃度が低下しやすくなる。したがって、第2のセル40Bのアノード側セパレータ43Bにおける狭窄部43eの下流側の非狭窄部に水素濃度センサ43sを設置することによって、燃料電池スタック100における水素濃度の低下、すなわち、不純物ガスの濃度の上昇を、効果的に検出することができる。」
「【0066】
D.第3実施例:
D1.セル、および、集電板の構成:
図7は、第3実施例における第2のセル40Dの概略構成を示す説明図である。第2のセル40Dの分解斜視図を示した。図示するように、第3実施例における第2のセル40Dも、第1のセル40Aと同様に、矩形形状を有しており、膜電極接合体410Dの周囲にシール構造を有するフレーム部材を配置したシールガスケット一体型MEA41Dの両面を、カソード側セパレータ42D、および、アノード側セパレータ43Dによって挟持することによって構成されている。」
「【0068】
なお、この第2のセル40Dは、燃料電池スタック100の端部、すなわち、図1に示した集電板30aに隣接する位置に配置されている。本実施例では、この集電板の構造が集電板30aと異なるため、集電板30Daと呼ぶ。
【0069】
図8は、第3実施例における集電板30Daを示す説明図である。図8(a)に、第2のセル40D側から見た集電板30Daの平面図を示し、図8(b)には、図8(a)におけるA-A断面図を示した。なお、図8(a)において、電流取り出し用の端子の図示は省略されている。
【0070】
図8(a)に示したように、集電板30Daは、第2のセル40Dと同様に、矩形形状を有しており、第2のセル40Dにおける水素供給マニホールド、空気供給マニホールド、アノードオフガス排出マニホールド、カソードオフガス排出マニホールドを形成する貫通孔と対応する同じ位置に、貫通孔30ai,30ci,30ao,30coが形成されている。そして、アノード側セパレータ43Dにおける狭窄部43eの下流側の非狭窄部に対応する位置であって、アノード側セパレータ43Dと当接する集電板30Da上の位置に、その領域の膜電極接合体410で発電されて、局所的に流れる局所電流を検出する局所電流検出部300が設けられている。」
「【図1】
[図:0001437423000004.jpg]
」
「【図3】
[図:0001437423000005.jpg]
」
「【図8】
[図:0001437423000006.jpg]
」
上記記載より、以下のことがいえる。
・段落【0030】~【0031】より、燃料電池スタック100は、水素と酸素との電気化学反応によって発電するセル40を、複数積層させたスタック構造を有しており、各セル40は膜電極接合体をセパレータによって挟持した構成となっている。また、セル40のスタック構造の両端は、一対のエンドプレート10a及び10bで挟持されている。
・図1より、一方のエンドプレート10aには配管61及び排出配管62が接続されており、他方のエンドプレート10bには配管53及び排出配管54が接続されていることが見て取れる。
・段落【0035】~【0037】より、燃料電池スタック100のアノードには、配管53を介して、燃料ガスとしての水素が供給され、各セル40から排出されるアノードオフガスは、排出配管54を介して、燃料電池スタック100の外部に排出される。また、燃料電池スタック100のカソードには、配管61を介して、酸化剤ガスとしての酸素が供給され、各セル40から排出されるカソードオフガスは、排出配管62を介して、燃料電池スタック100の外部に排出される。
・図1、3より、配管53から各セル40に燃料ガスが供給される方向は、燃料電池スタック100の積層方向において一方向であり、各セル40から排出配管54にアノードオフガスが排出される方向は、燃料電池スタック100の積層方向において前記一方向の逆方向であり、配管61から各セル40に酸化剤ガスが供給される方向は、燃料電池スタック100の積層方向において前記一方向の逆方向であり、各セル40から排出配管62にカソードオフガスが排出される方向は、燃料電池スタック100の積層方向において前記一方向であることが見て取れる。
・段落【0043】~【0044】及び図3より、各セル40が有するセパレータの表面には溝部が形成されており、溝部に沿って燃料ガスや酸化剤ガスがセル40の積層方向と垂直方向に流れる。
・段落【0042】、【0046】、及び図3より、複数のセル40のうちの第2のセル40Bは、アノード側セパレータ43Bを有しており、アノード側セパレータ43Bの一方の短辺部には、それぞれ水素供給マニホールドを形成する貫通孔43ai、及びアノードオフガス排出マニホールドを形成する貫通孔43aoが形成されている。また、これらと対向する側の短辺部には、空気供給マニホールドを形成する貫通孔43ci、及びカソードオフガス排出マニホールドを形成する貫通孔43coが形成されている。
・図3より、貫通孔43aiと貫通孔43aoは、縦長形状のアノード側セパレータ43Bの一方の短辺近傍に、貫通孔43ciと貫通孔43coは、アノード側セパレータ43Bの他方の短辺近傍に位置し、また、各貫通孔からアノード側セパレータ43Bの長辺までの距離は、短辺までの距離と比べて大きく、さらに、貫通孔43aiと貫通孔43aoを結ぶ線分と、貫通孔43ciと貫通孔43coを結ぶ線分は略平行であることが、見て取れる。
・段落【0048】~【0049】より、アノード側セパレータ43Bの表面に、貫通孔43aiから貫通孔43aoに、膜電極接合体410のアノード表面全体に沿って水素が蛇行して流れるように、溝部43Bdが形成されている。また、溝部43Bdの下流側の貫通孔43ao近傍の一部の領域に、流路断面積を狭窄するための狭窄部43eを形成し、狭窄部43eの下流側の、狭窄部43eと貫通孔43aoとの間の相対的に圧力が低い溝部43Bdに、水素濃度を検出するための水素濃度センサ43sを設置することによって、燃料電池スタック100における不純物ガスの濃度の上昇を効果的に検出することができる。
そして、上記記載及び図1、図3を総合勘案すると、甲3には、次の「燃料電池スタック100」の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「水素と酸素との電気化学反応によって発電し、膜電極接合体をセパレータによって挟持した構成のセル40を、複数積層させたスタック構造を有し、セル40のスタック構造の両端を挟持する一対のエンドプレート10a及び10bを備えた燃料電池スタック100であって、
一方のエンドプレート10aには配管61及び排出配管62が接続され、他方のエンドプレート10bには配管53及び排出配管54が接続されており、
燃料電池スタック100のアノードには、配管53を介して、燃料ガスとしての水素が供給され、各セル40から排出されるアノードオフガスは、排出配管54を介して、燃料電池スタック100の外部に排出され、また、燃料電池スタック100のカソードには、配管61を介して、酸化剤ガスとしての酸素が供給され、各セル40から排出されるカソードオフガスは、排出配管62を介して、燃料電池スタック100の外部に排出され、
配管53から各セル40に燃料ガスが供給される方向は、燃料電池スタック100の積層方向において一方向であり、各セル40から排出配管54にアノードオフガスが排出される方向は、燃料電池スタック100の積層方向において前記一方向の逆方向であり、配管61から各セル40に酸化剤ガスが供給される方向は、燃料電池スタック100の積層方向において前記一方向の逆方向であり、各セル40から排出配管62にカソードオフガスが排出される方向は、燃料電池スタック100の積層方向において前記一方向であり、
各セル40が有するセパレータの表面には溝部が形成されており、溝部に沿って燃料ガスや酸化剤ガスがセル40の積層方向と垂直方向に流れ、
複数のセル40のうちの第2のセル40Bは、アノード側セパレータ43Bを有しており、アノード側セパレータ43Bの一方の短辺部には、それぞれ水素供給マニホールドを形成する貫通孔43ai、及びアノードオフガス排出マニホールドを形成する貫通孔43aoが形成されており、また、これらと対向する側の短辺部には、空気供給マニホールドを形成する貫通孔43ci、及びカソードオフガス排出マニホールドを形成する貫通孔43coが形成されており、
貫通孔43aiと貫通孔43aoは、縦長形状のアノード側セパレータ43Bの一方の短辺近傍に、貫通孔43ciと貫通孔43coは、アノード側セパレータ43Bの他方の短辺近傍に位置し、また、各貫通孔からアノード側セパレータ43Bの長辺までの距離は、短辺までの距離と比べて大きく、かつ、貫通孔43aiと貫通孔43aoを結ぶ線分と、貫通孔43ciと貫通孔43coを結ぶ線分は略平行であり、
アノード側セパレータ43Bの表面に形成されている溝部43Bdに、流路断面積を狭窄するための狭窄部43eを形成し、狭窄部43eの下流側の相対的に圧力が低い溝部43Bdの領域に、水素濃度を検出するための水素濃度センサ43sを設置することによって、燃料電池スタック100における不純物ガスの濃度の上昇を効果的に検出することを可能とする、
燃料電池スタック100」
エ 甲4の記載事項及び甲4発明
甲4には、図面とともに、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、主に燃料電池用流体流動フィールド板の流体流路の形状に関する。」
「【0017】
現在実用化が進められている燃料電池のMEAは、適度な水分を必要とするため、燃料や酸化剤を加湿するなどして、MEAへの水分の補給が行われている。流体流路の下流側では、生成水の影響により、燃料や酸化剤に含まれる水分量が多くなる。一方、流体流路の上流側では、燃料や酸化剤に含まれる水分量が相対的に少なくなり、MEAの保湿状態にバラツキが生じる。このようなバラツキもまた、燃料電池の寿命特性を劣化させる原因になると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、燃料電池用流体流動フィールド板であって、フィールド板は、その主表面に流体流路を有するとともに、流体入口および流体出口を有し、流体流路は、それぞれ1つ以上の溝からなる上流側直線状部a1と下流側直線状部a2およびこれらの間の連結部a3からなる蛇行パターンAを有し、上流側直線状部a1は複数の溝からなり、連結部a3は複数の溝が合流する合流部を有し、下流側直線状部a2の溝数が、上流側直線状部a1の溝数よりも小さくなっているフィールド板に関する。」
「【0023】
本発明によれば、下流側へ行くほど、一本当たりの溝を流れる流体の流量を大きくし、あるいは一本当たりの溝における圧力損失を大きくすることができる。その結果、流体流路から外部への生成水の排出が促進され、水滴による溝の目詰まりが低減する。また、従来に比べて、MEAの保湿状態の均一性を高めることができる。よって、本発明によれば、燃料電池システム全体の小型化もしくは高効率化を達成することができる。また、本発明によれば、出力特性と出力安定性に優れ、寿命特性にも優れた燃料電池システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1に、燃料電池の単電池10の断面概略図を示す。
MEA(膜電極接合体)5においては、水素イオン伝導性高分子電解質膜1が一対の電極により挟持されている。一対の電極は、アノードとカソードからなる。アノードは、電解質膜1と接触するアノード触媒層2Aと、アノード拡散層3Aからなり、カソードは、電解質膜1と接触するカソード触媒層2Bと、カソード拡散層3Bからなる。アノード拡散層3Aおよびカソード拡散層3Bの周囲には、流体が外部に漏れることを防止するアノード側ガスケット4Aおよびカソード側ガスケット4Bが配され、電解質膜1の周縁部はガスケット4Aと4Bにより挟持されている。MEA5は、アノード側流体流動フィールド板6Aおよびカソード側流体流動フィールド板6Bで挟持されており、フィールド板6A、6BのMEAとの対向面には、流体流路を構成する溝7A、7Bが形成されている。溝を移動する流体は、拡散層中を拡散して触媒層に侵入し、そこで電極反応に供される。」
「【0041】
以下に、本発明の流体流動フィールド板をいくつか例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
《実施形態1》
図4に、本実施形態の流体流動フィールド板(フィールド板30)の上面図を示す。フィールド板30は、蛇行した(サーペンタイン状の)流体流路と、流体流路に流体を供給する流体入口31aと、流体流路から排出されるガスが導入される流体出口31bとを有する。一般的な燃料電池には、酸化剤、燃料および冷却水の3種の流体を流通させるため、流体流動フィールド板には、さらに流体入口32a、33aと流体出口32b、33bが設けられている。フィールド板30の裏面に流体流路が形成されている場合、これら2対の出入口の一方は、裏面の流体流路と連通している。」
「【0049】
まず、ポンプなどの装置により、燃料、酸化剤、冷却水などの流体が、流体入口31に供給される。流体は、流体入口31aから、一本の溝からなる導入路を通過して、バッファ34に供給される。バッファ34で流体の速度が均一化されるため、バッファと連通する4本の溝には、ほぼ同じ量の流体が供給される。バッファ付近では、比較的水分量の少ない流体が、4本の溝を比較的遅い速さで移動する。
【0050】
続いて、流体は、第1のパターンAの流体流路を通過し、その際に、流体流路の溝数は4本から2本に減少する。流体は、2本の溝をはじめよりも速く移動し、移動中にMEAで生成する水分を蓄積していく。
【0051】
続いて、流体は、第2のパターンAの流体流路を通過し、その際に、流体流路の溝数は2本から1本に減少する。流体は、1本の溝をさらに速く移動し、移動中にMEAで生成する水分を蓄積し、もしくは自身が含んでいる水分をMEAに供給する。ただし、流体の移動速度が速いため、過剰の水分がMEAに移動することは防止される。また、流体の移動速度が速く、溝一本当たりの圧力損失も高くなっているため、水滴が詰まりやすい下流側においても、水滴による流路の目詰まりを防止することができる。」
「【0059】
《実施形態3》
図6に、本実施形態の流体流動フィールド板(フィールド板110)の上面図を示す。フィールド板110は、流体入口111aからバッファ114までの距離が比較的離れている。このような構成は、設計上の制限などにより、流体入口付近から溝数を複数にできない場合に有効である。
【0060】
その他の構成は、フィールド板30と類似する。すなわち、フィールド板110は、蛇行した流体流路と、流体流路に流体を供給する流体入口111aと、流体流路から排出されるガスが導入される流体出口111bとを有する。また、フィールド板110には、他の2種の流体入口112a、113aと流体出口112b、113bが設けられている。流体流路は複数の溝119からなり、隣接する溝と溝との間はリブ1101で区切られている。」
「【0064】
《実施形態5》
図8に、本実施形態の流体流動フィールド板(フィールド板130)の上面図を示す。フィールド板130の第1および第2の合流部においては、上流側の溝の全てが合流することがなく、合流部が複数の小さな合流部の組に分かれている。このような構成によれば、下流側の溝が複数ある場合に、下流側の溝に流入する流体流量が均一化されやすいという利点がある。
【0065】
フィールド板130の流体流路は蛇行パターンAを3つ含み、第1の連結部137においては、互いに隣接する2本の溝が合流することにより、8本の溝が4本に減少し、第2の連結部137’においては、互いに隣接する2本の溝が再び合流することにより、4本の溝が2本に減少している。各連結部の溝139xは比較的幅が広くなるが、リブ1301の延長部が各連結部にも存在するため、島状リブを設ける必要はない。第3の連結部137”においては、2本の溝が1本に減少する。」
「【0067】
《実施形態6》
図9に、本実施形態の流体流動フィールド板(フィールド板80)の上面図を示す。流体流路における燃料や空気などの濃度は、下流側に向かって次第に減少していくが、図9のような入り組んだ流路にすることにより、反応面内の濃度分布に変化を持たせ、反応面内における濃度のばらつきを抑制することることができる。このような制御により、電池特性のさらなる向上を見込むことができる。
【0068】
図9において、フィールド板80は、様々な方向を向くとともに蛇行した流体流路と、流体流路に流体を供給する流体入口81aと、流体流路から排出されるガスが導入される流体出口81bとを有する。また、フィールド板80には、他の2種の流体入口82a、83aと流体出口82b、83bが設けられている。流体流路は複数の溝89からなり、隣接する溝と溝との間はリブ801で区切られている。」
「【図4】
[図:0001437423000007.jpg]
」
「【図6】
[図:0001437423000008.jpg]
」
「【図8】
[図:0001437423000009.jpg]
」
「【図9】
[図:0001437423000010.jpg]
」
上記記載より、以下のことがいえる。
・段落【0024】より、燃料電池は、アノード側流体流動フィールド板およびカソード側流体流動フィールド板で挟持されたMEA(膜電極接合体)を有している。
・段落【0041】より、フィールド板30は、蛇行した流体流路と、酸化剤、燃料および冷却水の3種の流体を流通させるため、流体流路に流体を供給する流体入口31a、32a、33aと、流体流路から排出されるガスが導入される流体出口31b、32b、33bとを有している。
・段落【0017】~【0018】、【0049】~【0051】より、流体経路の下流側の溝数を減少させることで、流体の移動速度を速く、かつ、溝一本当たりの圧力損失を高くし、水滴が詰まりやすい下流側における水滴による流路の目詰まりを防止する。
・図4より、流体入口31aと流体入口33aは、フィールド板30の一端の辺(フィールド板30の図面における上部の辺)の近傍に位置し、流体出口31bと流体出口33bは、一端の辺と対向する辺(フィールド板30の図面における下部の辺)の近傍に位置し、流体入口33aは、他端の辺(フィールド板30の図面における左部又は右部の辺)からは、離れており、また、流体入口31a及び流体出口31bを結ぶ線分と、流体入口33a及び流体出口33bを結ぶ線分は交差していることが見て取れる。
・図6より、流体入口111aと流体入口113aは、フィールド板110の一端の辺(フィールド板110の図面における右部の辺)の近傍に位置し、流体出口111bと流体出口113bは、一端の辺と対向する辺(フィールド板110の図面における左部の辺)の近傍に位置し、流体入口113aは、他端の辺(フィールド板110の図面における上部又は下部の辺)からは、離れており、また、流体入口111a及び流体出口111bを結ぶ線分と、流体入口113a及び流体出口113bを結ぶ線分は交差していることが見て取れる。
・図8より、流体入口131aと流体入口133aは、フィールド板130の一端の辺(フィールド板130の図面における上部の辺)の近傍に位置し、流体出口131bと流体出口133bは、一端の辺と対向する辺(フィールド板130の図面における下部の辺)の近傍に位置し、流体入口133aは、他端の辺(フィールド板130の図面における左部又は右部の辺)からは、離れており、また、流体入口131a及び流体出口131bを結ぶ線分と、流体入口133a及び流体出口133bを結ぶ線分は交差していることが見て取れる。
・図9より、流体入口81aと流体入口83aは、フィールド板80の一端の辺(フィールド板80の図面における右部の辺)の近傍に位置し、流体出口81bと流体出口83bは、一端の辺と対向する辺(フィールド板80の図面における左部の辺)の近傍に位置し、流体入口83aは、他端の辺(フィールド板80の図面における上部又は下部の辺)からは、離れており、また、流体入口81a及び流体出口81bを結ぶ線分と、流体入口83a及び流体出口83bを結ぶ線分は交差していることが見て取れる。
そして、上記記載及び図4、図6、図8、図9を総合勘案すると、甲4には、次の「燃料電池」の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「アノード側流体流動フィールド板及びカソード側流体流動フィールド板で挟持されたMEA(膜電極接合体)を有する燃料電池であって、
フィールド板は、蛇行した流体流路と、酸化剤、燃料及び冷却水の3種の流体を流通させるため、流体流路に流体を供給する3つの流体入口(それぞれ、流体入口A、B、Cとする。)と、流体流路から排出されるガスが導入される3つの流体出口(それぞれ、流体出口A、B、Cとする。)とを有し、
流体入口Aと流体入口Cは、フィールド板の一端の辺の近傍に位置し、流体出口Aと流体出口Cは前記一端の辺と対向する辺の近傍に位置し、また、流体入口Cは、他端の辺から離れ、流体入口A及び流体出口Aを結ぶ線分と、流体入口C及び流体出口Cを結ぶ線分は交差しており、
流体経路の下流側の溝数を減少させることで、流体の移動速度を速く、かつ、溝一本当たりの圧力損失を高くし、水滴が詰まりやすい下流側における水滴による流路の目詰まりを防止する、
燃料電池」
オ 甲5の記載事項及び甲5発明
甲5には、図面とともに、以下の記載がある。
「【0001】
この発明は、ガスの供給側と排出側のガス流路がリブ(隔壁)により分離され、供給側の下流端および排出側の上流端が閉塞された構造の溝状のガス流路(以下、「閉塞流路」とも呼ぶ)を有する固体高分子型燃料電池の排水性、特に、ガス流路内およびガス拡散層内に滞留した液水の排水性に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料ガスとしての水素(H2)と酸化ガスとしての酸素(O2)との電気化学反応によって電気エネルギーを取り出す発電装置である。なお、以下では、燃料ガスや酸化ガスを、特に区別することなく単に「反応ガス」あるいは「ガス」と呼ぶ場合もある。この燃料電池は、膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly,「発電体」とも呼ぶ)を、セパレータにより挟持した燃料電池セル(単に「セル」とも呼ぶ)により構成される。膜電極接合体は、プロトン(H+)伝導性を有する固体高分子型電解質膜(以下、単に「電解質膜」とも呼ぶ)の両面に、それぞれ、触媒電極層およびガス拡散層が順に形成された構造を有している。セパレータは、ガス拡散層に接する面に反応ガスの流路としての溝が形成された構造を有している。なお、このセパレータは発電した電気の集電体としても機能する。」
「【0020】
A.第1実施例:
A1.燃料電池の構成概要:
図1は、本発明を適用した燃料電池を構成する燃料電池セルの概略構成を表わす断面模式図である。この燃料電池セル100は、膜電極接合体10と、膜電極接合体10を両面から挟持するアノード側のセパレータ20およびカソード側のセパレータ30と、を備えている。膜電極接合体10は、電解質層11と、電解質層11のそれぞれの面上に形成されるアノード側の触媒電極層13およびカソード側の触媒電極層15と、上記各触媒電極層に隣接して設けられたアノード側のガス拡散層17およびカソード側のガス拡散層19と、で構成されている。なお、触媒電極層およびガス拡散層を纏めてガス拡散電極あるいはガス拡散電極層とも呼ぶ。」
「【0025】
図2は、カソード側のセパレータ30に形成されている酸化ガス流路32を示す説明図である。なお、図2は、膜電極接合体側から見た図である。
【0026】
図2に示すように、カソード側のセパレータ30の外周部の左上部には、冷媒供給マニホールド用の孔(以下、「冷媒供給マニホールド孔」あるいは冷媒供給口)と呼ぶ)30wiが設けられ、右下部には、冷媒排出マニホールド用の孔(以下、「冷媒排出マニホールド孔」あるいは「冷媒排出口」と呼ぶ)30woが設けられている。また、外周部の左中央部には、酸化ガス供給マニホールド用の孔(以下、「酸化ガス供給マニホールド孔」あるいは「酸化ガス供給口」と呼ぶ)30oiが設けられ、右中央部には、酸化ガス排出マニホールド用の孔(以下、「酸化ガス排出マニホールド孔」あるいは「酸化ガス排出口」と呼ぶ)30ooが設けられている。さらにまた、外周部の左下部には、燃料ガス供給マニホールド用の孔(以下、「燃料ガス供給マニホールド孔」あるいは「燃料ガス供給口」と呼ぶ)30hiが設けられ、右上部には、燃料ガス排出マニホールド用の孔(以下、「燃料ガス排出マニホールド孔」あるいは「燃料ガス供給口」と呼ぶ)30hoが設けられている。」
「【0029】
アノード側のセパレータ20に形成されている燃料ガス流路22も、図示は省略するが、カソード側のセパレータ30に形成されている酸化ガス流路と同様の構成を有している。なお、図1には、燃料ガス供給側流路の燃料ガス供給側枝流路22biと、燃料ガス排出側流路の燃料ガス排出側枝流路22boとが示されている。また、図1に示すように、燃料ガス流路22が形成されている面とは反対側の面には、冷媒としての水(H2O、以下、「冷却水」とも呼ぶ)が流れる冷媒流路24が形成されている。通常燃料電池は、燃料電池セル100を複数積層したスタック構造を有しており、冷媒流路24は、アノード側のセパレータ20に接する他の燃料電池セル100のカソード側のセパレータ30の酸化ガス流路が形成されている面とは反対側の面に接するように配置される。なお、本例では、アノード側のセパレータ20に冷媒流路24が形成されている場合を示しているが、カソード側のセパレータ30に冷媒流路が形成されていてもよいし、アノード側のセパレータ20とカソード側のセパレータ30との両方に冷媒流路が形成されていてもよい。」
「【図2】
[図:0001437423000011.jpg]
」
上記記載より、以下のことがいえる。
・段落【0001】より、膜電極接合体(MEA)をセパレータにより挟持した燃料電池セルにより構成される燃料電池であって、燃料電池は、ガスの供給側と排出側のガス流路がリブ(隔壁)により分離され、供給側の下流端および排出側の上流端が閉塞された構造の溝状のガス流路を有している。
・段落【0026】より、カソード側のセパレータ30の外周部の左中央部には、酸化ガス供給マニホールド孔30oiが設けられ、右中央部には、酸化ガス排出マニホールド孔30ooが設けられている。さらにまた、外周部の左下部には、燃料ガス供給マニホールド孔30hiが設けられ、右上部には、燃料ガス排出マニホールド孔30hoが設けられている。
・図2より、酸化ガス供給マニホールド孔30oi及び燃料ガス供給マニホールド孔30hiは、セパレータ30の短辺の近傍に位置し、酸化ガス排出マニホールド孔30oo及び燃料ガス排出マニホールド孔30hoは、セパレータ30の他方の短辺の近傍に位置し、酸化ガス供給マニホールド孔30oi、酸化ガス排出マニホールド孔30ooは、他端の辺(セパレータ30の図2における左部又は右部の辺)からは、離れており、また、酸化ガス供給マニホールド孔30oi及び酸化ガス排出マニホールド孔30ooを結ぶ線分と、燃料ガス供給マニホールド孔30hi及び燃料ガス排出マニホールド孔30hoを結ぶ線分は交差することが見て取れる。
そして、上記記載及び図2を総合勘案すると、甲5には、次の「燃料電池」の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
「膜電極接合体(MEA)をセパレータにより挟持した燃料電池セルにより構成される燃料電池であって、
ガスの供給側と排出側のガス流路がリブ(隔壁)により分離され、供給側の下流端及び排出側の上流端が閉塞された構造の溝状のガス流路を有しており、
カソード側のセパレータ30の外周部の左中央部、右中央部、左下部及び右上部には、それぞれ、酸化ガス供給マニホールド孔30oi、酸化ガス排出マニホールド孔30oo、燃料ガス供給マニホールド孔30hi及び燃料ガス排出マニホールド孔30hoが設けられており、
酸化ガス供給マニホールド孔30oi及び燃料ガス供給マニホールド孔30hiは、セパレータ30の短辺の近傍に位置し、酸化ガス排出マニホールド孔30oo及び燃料ガス排出マニホールド孔30hoは、セパレータ30の他方の短辺の近傍に位置し、また、酸化ガス供給マニホールド孔30oi及び酸化ガス排出マニホールド孔30ooは、他端の辺からは離れており、酸化ガス供給マニホールド孔30oi及び酸化ガス排出マニホールド孔30ooを結ぶ線分と、燃料ガス供給マニホールド孔30hi及び燃料ガス排出マニホールド孔30hoを結ぶ線分は交差する、
燃料電池」
カ 甲6の記載事項及び甲6発明
甲6には、図面とともに、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、電解質として固体電解質を利用した燃料電池スタックおよび燃料電池に関する。」
「【0041】
(実施例1)
本発明の実施例に係る燃料電池スタック、燃料電池について、図1~図4を用いて説明する。
本例の燃料電池スタック1は、平板型のスタックであり、図1に示すように、4つの単セル2が、セパレータ3を介して積層されている。単セル2は、図2に抜き出して示すように、固体電解質層21と、固体電解質層21の一方面に設けられた燃料極層22と、固体電解質層21の他方面に設けられた空気極層23とを備えている。なお、固体電解質層21には、イットリア安定化ジルコニア(厚み10μm)を用いた。燃料極層22には、酸化ニッケルとイットリア安定化ジルコニアとのサーメット(厚み500μm)を用いた。空気極層23には、La0.8Sr0.2MnO3(厚み30μm)を用いた。」
「【0043】
ここで、本例の燃料電池スタック1は、図1、図2に示すように、単セル2とセパレータ3との間に集電体4a、4cを有し、集電体4a、4cは、セパレータ3に接する第1層41と、第1層41および単セル2に接する第2層42とを備えている。なお、本例は、集電体4a、4cの全てが第1層41および第2層42を有している場合の例であるが、これに限定されるものではない。単セル2の燃料極層22とセパレータ3との間に配置される集電体4aには、多孔質Niを用いた。一方、単セル2の空気極層23とセパレータ3との間に配置される集電体4cには、多孔質フェライトCr系金属を用いた。」
「【0045】
集電体4a、4cにおいて、第1層41は、単セル2に導入するためのガスを単セル2の面方向に沿って流す第1ガス流路411を有している。なお、単セル2に導入するためのガスとは、単セル2の燃料極層22とセパレータ3との間に配置される集電体4aの場合には燃料ガス(水素ガス等)であり、単セル2の空気極層23とセパレータ3との間に配置される集電体4cの場合には酸化剤ガス(空気、酸素ガス等)である。」
「【0050】
図4に示すように、本例において、集電体4a、4cは、第1層41および第2層42の外部のガス導入側の縁部に接するガス導入流路43を有している。ガス導入流路43は、第1層41が有する第1ガス流路411と連通しており、後述するガス供給マニフォルド16から供給されたガスを第1ガス流路411へ導くための流路である。ガス導入流路43における第1層41および第2層42の一方の縁部には、ガス供給マニフォルド16と連通する供給口431が形成されている。ガス導入流路43は、第1層41および第2層42の一方の縁部から他方の縁部に向かって流路幅が漸次狭くなるように形成されている。
【0051】
また、集電体4a、4cは、第1層41および第2層42の外部のガス排気側の縁部に接するガス排気流路44を有している。ガス排気流路44は、第1層41が有する第1ガス流路411と連通しており、第1ガス流路411から排気されたガスをまとめて、後述するガス排気マニフォルド17へ排気するための流路である。ガス排気流路44における第1層41および第2層42の他方の縁部には、ガス供給マニフォルド16と連通する排気口441が形成されている。ガス排気流路44は、第1層41および第2層42の一方の縁部から他方の縁部に向かって流路幅が漸次広くなるように形成されている。なお、空気極層23側に配置される集電体4cと、燃料極層22側に配置される集電体4aとは、積層方向から見たときに、第1層41を流れるガスの流れの中央部を中心に対称となるように、ガス導入流路43とガス排気流路44とが構成されている。」
「【0064】
また、本例の場合、図4に示すように、各集電体4a、4cは、単セルの積層方向から見て、水素ガスと空気とが同方向に平行に流れるように各集電体4a、4cが配置されている(コフロー配置)。そのため、ガス流れ方向と垂直な方向におけるセル面内の発電を制御しやすく、同方向におけるセル面内の発電分布を均一化することができる。それ故、スタック1に生じる熱応力を緩和しやすく、スタック1の信頼性向上に寄与することができる。」
「【0077】
(実施例6)
本例は、図9に示すように、実施例1の燃料電池スタック1において、各集電体4a、4cにおける第1層41および第2層42の外部のガス導入側の縁部に接するガス導入流路43の形状、ガス排気側の縁部に接するガス排気流路44の形状を変更した例である。
【0078】
すなわち、本例において、ガス導入流路43は、図9に示すように、ガス導入流路43における第1層41および第2層42の縁部の中央部に、ガス供給マニフォルド16と連通する供給口431を有している。そして、上記中央部から両縁部に向かって流路幅が漸次狭くなるように形成されている。一方、ガス排気流路44は、ガス排気流路44における第1層41および第2層42の両縁部に、ガス供給マニフォルド16と連通する排気口441を一つずつ有している。そして、上記中央部から両縁部に向かって流路幅が漸次広くなるように形成されている。なお、単セル2の燃料極層22側に配置する集電体4aの流路パターンと、空気極層23側に配置する集電体4cの流路パターンは、図面の左右が反対であるだけで、基本的なパターンは同じである。各集電体4a、4cは、単セル2の積層方向から見て、水素ガスと空気とが反対方向に平行に流れるように各集電体4a、4cが配置されている(カウンターフロー配置)。」
「【図4】
[図:0001437423000012.jpg]
」
「【図9】
[図:0001437423000013.jpg]
」
上記記載より、以下のことがいえる。
・段落【0041】及び【0043】より、燃料電池スタック1は、単セル2がセパレータ3を介して積層されており、単セル2とセパレータ3との間に集電体4a、4cを有している。
・段落【0045】より、集電体4aより単セル2に燃料ガスが導入され、集電体4cより単セル2に酸化剤ガスが導入される。
・段落【0050】~【0051】より、集電体4a、4cは、ガス導入流路43及びガス排気流路44を有しており、ガス導入流路43には供給口431が形成されており、ガス排気流路44には排気口441が形成されている。
・図4及び図9より、集電体4a、4cの供給口431はそれぞれ集電体4a、4cの短辺の近傍に位置し、排気口441もそれぞれ他方の短辺の近傍に位置し、供給口431、排気口441のいずれも、集電体4a、4cの長辺からは離れて位置しており、また、集電体4aの供給口431及び排気口441を結ぶ線分と、集電体4cの供給口431及び排気口441を結ぶ線分は、燃料電池スタック1の積層方向から見て交差することが見て取れる。
そして、上記記載及び図4、図9を総合勘案すると、甲6には、次の「燃料電池スタック1」の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。
「単セル2がセパレータ3を介して積層され、単セル2とセパレータ3との間に集電体4a、4cを有し、集電体4aより単セル2に燃料ガスが導入され、集電体4cより単セル2に酸化剤ガスが導入される燃料電池スタック1であって、
集電体4a、4cは、ガス導入流路43及びガス排気流路44を有しており、ガス導入流路43には供給口431が形成され、ガス排気流路44には排気口441が形成されており、
集電体4a、4cの供給口431はそれぞれ集電体4a、4cの短辺の近傍に位置し、排気口441もそれぞれ他方の短辺の近傍に位置し、供給口431、排気口441のいずれも、集電体4a、4cの長辺からは離れて位置しており、また、集電体4aの供給口431及び排気口441を結ぶ線分と、集電体4cの供給口431及び排気口441を結ぶ線分は、燃料電池スタック1の積層方向から見て交差する、
燃料電池スタック1」
(2)本件特許発明1について
ア 甲1発明との対比、判断
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
a 甲1発明の「セル140」、「水素ガス」及び「酸化ガス」は、それぞれ、本件特許発明1の「電気化学セル」、「燃料ガス」及び「酸化剤ガス」に相当する。
また、甲1発明の「一対の部材」は、複数のセル140を挟持し、また、一方の部材には水素ガス供給路53及びアノード排ガス路55が接続され、他方の部材には酸化ガス供給路62及びカソード排ガス路63が接続されているから、本件特許発明1の「第1のエンドプレート」及び「第2のエンドプレート」に相当する。
b 甲1発明において、「水素ガス」、「酸化ガス」は、水素ガス供給路53及び酸化ガス供給路62から各セル140に水素ガス及び酸化ガスが供給され、また、アノード排ガス路55及びカソード排ガス路63に各セル140から水素ガス及び酸化ガスが排出されることから、その流路において、本件特許発明1の「燃料ガス供給孔」、「燃料ガス排出孔」、「酸化剤ガス供給孔」及び「酸化剤排出孔」を備えているといえる。
各ガスの流れる方向について、甲1発明では、水素ガス供給路53からセル140に水素ガスが供給される方向は、セル140の積層方向において一方向であり、セル140からアノード排ガス路55に水素ガスが排出される方向は、セル140の積層方向において前記一方向の逆方向である。また、酸化ガス供給路62からセル140に酸化ガスが供給される方向は、セル140の積層方向において前記一方向の逆方向であり、セル140からカソード排ガス路63に酸化ガスが排出される方向は、セル140の積層方向において前記一方向である。してみると、甲1発明は、本件特許発明1の「前記燃料ガスの入口から前記燃料ガスの出口までを経由する燃料ガスの流路は、前記燃料ガスが前記燃料ガスの入口から前記電気化学セルスタックの積層方向の一方向に向かって流れ」、「前記燃料ガスが積層方向の逆方向に向かって折返して流れ」、「前記酸化剤ガスの入口から前記酸化剤ガスの出口までを経由する酸化剤ガスの流路は、前記酸化剤ガスが前記酸化剤ガスの入口から積層方向の逆方向に向かって流れ」、「前記酸化剤ガスが積層方向の一方向に向かって折返して流れ」るとの構成を備えているといえる。
さらに、甲1発明において、各セル140において、セル140の積層方向に垂直な方向に水素ガスと酸化ガスの流路を有しているから、甲1発明は、本件特許発明1の「燃料ガスの入口から前記燃料ガスの出口までを経由する燃料ガスの流路」は、「前記燃料ガスが前記電気化学セル内を積層方向に垂直な方向に流れる流路」を含み、酸化剤ガスの入口から前記酸化剤ガスの出口までを経由する酸化剤ガスの流路は、「酸化剤ガスが前記電気化学セル内を積層方向に垂直な方向に流れる流路」を含むとの構成を備えているといえる。
c 甲1発明において、セル140に対する水素ガス及び酸化ガスの入口及び出口の位置関係について何ら特定されていないため、本件特許発明1は、「前記燃料ガスの入口及び前記燃料ガスの出口は、前記積層方向に垂直な第1の方向における前記電気化学セルスタックの両端における2辺の近傍に位置し、前記酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口は、前記積層方向に垂直且つ前記第1の方向とのなす角度が45°未満である第2の角度における前記電気化学セルスタックの両端における2辺の近傍に位置し、且つ前記燃料ガスの入口及び前記燃料ガスの出口を結ぶ線分と、前記酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口を結ぶ線分とが、前記積層方向から見て交差してなり、且つ前記燃料ガスの入口及び前記燃料ガスの出口、前記酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口の内、少なくとも1つは、前記電気化学セルスタックの両端における2辺の両端を夫々結ぶ2辺から離れて位置」するのに対し、甲1発明は、水素ガスの入口及び出口が、前記積層方向に垂直な第1の方向におけるセル140の両端における2辺の近傍に位置する構成、酸化ガスの入口及び出口が、前記積層方向に垂直且つ前記第1の方向とのなす角度が45°未満である第2の角度におけるセル140の両端における2辺の近傍に位置する構成、水素ガスの入口及び出口を結ぶ線分と、酸化ガスの入口及び出口を結ぶ線分とが積層方向から見て交差する構成、水素ガスの入口及び出口、酸化ガスの入口及び出口の内、少なくとも1つは、セル140の両端における2辺の両端を夫々結ぶ2辺から離れて位置する構成のいずれの構成も備えていない点で相違する。
してみると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「燃料ガス及び酸化剤ガスの電気化学反応により発電する板状の電気化学セルを積層させ、第1のエンドプレートと第2のエンドプレートで挟持してなる電気化学セルスタックであって、
前記電気化学セルの積層方向における一方の前記第1のエンドプレートに燃料ガスの入口及び燃料ガスの出口が位置し、前記第1のエンドプレートの裏側の前記第2のエンドプレートに酸化剤ガスの入口及び酸化剤ガスの出口が位置するとともに、
前記燃料ガスの入口から前記燃料ガスの出口までを経由する燃料ガスの流路は、
前記燃料ガスが前記燃料ガスの入口から前記電気化学セルスタックの積層方向の一方向に向かって流れる燃料ガス供給孔と、
前記燃料ガスが前記電気化学セル内を積層方向に垂直な方向に流れる流路と、
前記燃料ガスが積層方向の逆方向に向かって折返して流れて、前記燃料ガスの出口から排出される燃料ガス排出孔と、を含み、
前記酸化剤ガスの入口から前記酸化剤ガスの出口までを経由する酸化剤ガスの流路は、
前記酸化剤ガスが前記酸化剤ガスの入口から積層方向の逆方向に向かって流れる酸化剤ガス供給孔と、
前記酸化剤ガスが前記電気化学セル内を積層方向に垂直な方向に流れる流路と、
前記酸化剤ガスが積層方向の一方向に向かって折返して流れて、前記酸化剤ガスの出口から排出される酸化剤排出孔と、を含む
電気化学セルスタック。」である点で一致し、以下の点で、相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は、「前記燃料ガスの入口及び前記燃料ガスの出口は、前記積層方向に垂直な第1の方向における前記電気化学セルスタックの両端における2辺の近傍に位置し、前記酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口は、前記積層方向に垂直且つ前記第1の方向とのなす角度が45°未満である第2の角度における前記電気化学セルスタックの両端における2辺の近傍に位置し、且つ前記燃料ガスの入口及び前記燃料ガスの出口を結ぶ線分と、前記酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口を結ぶ線分とが、前記積層方向から見て交差してなり、且つ前記燃料ガスの入口及び前記燃料ガスの出口、前記酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口の内、少なくとも1つは、前記電気化学セルスタックの両端における2辺の両端を夫々結ぶ2辺から離れて位置」するのに対し、甲1発明は、水素ガスの入口及び出口が、前記積層方向に垂直な第1の方向におけるセル140の両端における2辺の近傍に位置する構成、酸化ガスの入口及び出口が、前記積層方向に垂直且つ前記第1の方向とのなす角度が45°未満である第2の角度におけるセル140の両端における2辺の近傍に位置する構成、水素ガスの入口及び出口を結ぶ線分と、酸化ガスの入口及び出口を結ぶ線分とが積層方向から見て交差する構成、水素ガスの入口及び出口、酸化ガスの入口及び出口の内、少なくとも1つは、セル140の両端における2辺の両端を夫々結ぶ2辺から離れて位置する構成のいずれの構成も備えていない点。
(イ)判断
a 検討
上記相違点1について検討する。
まず、甲2発明、甲4発明~甲6発明のいずれにも、セルの積層方向から見て、燃料ガスの入口及び出口を結ぶ線分と、酸化剤ガスの入口及び出口を結ぶ線分とがなす角度が45°未満で交差することが開示されていないから、本件特許発明1が備える「酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口は、前記積層方向に垂直且つ前記第1の方向とのなす角度が45°未満である第2の角度における前記電気化学セルスタックの両端における2辺の近傍に位置」する構成が記載されているとは認められない。
してみると、仮に甲1発明に、甲2発明、甲4発明~甲6発明のいずれを適用できたとしても、本件特許発明1が有する相違点1に係る構成のうち、少なくとも「酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口は、前記積層方向に垂直且つ前記第1の方向とのなす角度が45°未満である第2の角度における前記電気化学セルスタックの両端における2辺の近傍に位置」するとの構成を設けることはできず、また、当該構成は技術常識であるともいえないから、上記相違点1に係る構成は、当業者が容易になし得たものではない。
そして、上記相違点1に係る構成を有する本件特許発明1は、本件特許の明細書の段落【0028】及び【0029】に記載のように、「電気化学セルスタック10は、燃料ガスの入口13及び燃料ガスの出口14、並びに酸化剤ガスの入口15及び酸化剤ガスの出口16に別々に接続する配管の干渉を回避させるための設計における自由度を向上させる。」という効果を奏するものである。
b 申立人の主張について
申立人は、甲2発明について申立書の第18ページにて、甲4発明について同第28~31ページにて、甲5発明について同第33ページ、及び甲6発明について同第38ページにおいて、各甲号証に示される図面のみをもって上記の「なす角度が45°未満」である構成が開示されていることを主張している。
しかしながら、各甲号証には、そもそも積層方向において燃料ガスや酸化ガスの入口及び出口を結ぶ線分のなす角度を小さくするという技術的思想は存在しないことに加え、各甲号証に示される図面は模式図であって、正確な寸法で開示されているものともいえないから、上記「なす角度が45°未満」である構成が開示されているとの主張は採用できない。
よって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2発明から、甲1発明及び甲4発明から、甲1発明及び甲5発明から、又は、甲1発明及び甲6発明から、当業者が容易になし得たものとはいえない。
イ 甲3発明との対比、判断
(ア)対比
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
a 甲3発明の「セル40」、「燃料ガス/水素」、「酸化剤ガス/酸素」、「エンドプレート10b」及び「エンドプレート10a」は、それぞれ本件特許発明1の「電気化学セル」、「燃料ガス」、「酸化剤ガス」、「第1のエンドプレート」及び「第2のエンドプレート」に相当する。
b 甲3発明の「エンドプレート10b」は、配管53及び排出配管54が接続されており、燃料電池スタック100のアノードには、配管53を介して燃料ガスとしての水素が供給され、各セル40から排出されるアノードオフガスは、排出配管54を介して、燃料電池スタック100の外部に排出されるから、本件特許発明1の「電気化学セルの積層方向における一方の前記第1のエンドプレートに燃料ガスの入口及び燃料ガスの出口が位置」しているといえる。同様に、甲3発明の「エンドプレート10a」は、配管61及び排出配管62が接続されており、燃料電池スタック100のカソードには、配管61を介して酸化剤ガスとしての酸素が供給され、各セル40から排出されるカソードオフガスは、排出配管62を介して燃料電池スタック100の外部に排出されるから、本件特許発明1の「第1のエンドプレートの裏側の前記第2のエンドプレートに酸化剤ガスの入口及び酸化剤ガスの出口が位置」しているといえる。
c 甲3発明において、複数のセル40のうちの第2のセル40Bは、アノード側セパレータ43Bを有しており、アノード側セパレータ43Bの一方の短辺部には、それぞれ水素供給マニホールドを形成する貫通孔43ai、及びアノードオフガス排出マニホールドを形成する貫通孔43aoが形成されており、また、これらと対向する側の短辺部には、空気供給マニホールドを形成する貫通孔43ci、及びカソードオフガス排出マニホールドを形成する貫通孔43coが形成されているから、甲3発明においても、「燃料ガス」、「酸化剤ガス」の流路において、本件特許発明1の「燃料ガス供給孔」、「燃料ガス排出孔」、「酸化剤ガス供給孔」及び「酸化剤排出孔」を備えているといえる。
各ガスの流れる方向について、甲3発明では、配管53から各セル40に燃料ガスが供給される方向は、燃料電池スタック100の積層方向において一方向であり、各セル40から排出配管54にアノードオフガスが排出される方向は、燃料電池スタック100の積層方向において前記一方向の逆方向である。また、配管61から各セル40に酸化剤ガスが供給される方向は、燃料電池スタック100の積層方向において前記一方向の逆方向であり、各セル40から排出配管62にカソードオフガスが排出される方向は、燃料電池スタック100の積層方向において前記一方向である。してみると、甲3発明は、本件特許発明1の「前記燃料ガスの入口から前記燃料ガスの出口までを経由する燃料ガスの流路は、前記燃料ガスが前記燃料ガスの入口から前記電気化学セルスタックの積層方向の一方向に向かって流れ」、「前記燃料ガスが積層方向の逆方向に向かって折返して流れ」、「前記酸化剤ガスの入口から前記酸化剤ガスの出口までを経由する酸化剤ガスの流路は、前記酸化剤ガスが前記酸化剤ガスの入口から積層方向の逆方向に向かって流れ」、「前記酸化剤ガスが積層方向の一方向に向かって折返して流れ」るとの構成を備えているといえる。
さらに、甲3発明において、各セル40が有するセパレータの表面には溝部が形成されており、溝部に沿って燃料ガスや酸化剤ガスがセル40の積層方向と垂直方向に流れるから、甲3発明は、本件特許発明1の前記燃料ガスの入口から前記燃料ガスの出口までを経由する燃料ガスの流路は、「前記燃料ガスが前記電気化学セル内を積層方向に垂直な方向に流れる流路」を含み、酸化剤ガスの入口から前記酸化剤ガスの出口までを経由する酸化剤ガスの流路は、「前記酸化剤ガスが前記電気化学セル内を積層方向に垂直な方向に流れる流路」を含む、との構成を備えているといえる。
d 甲3発明において、貫通孔43aiと貫通孔43aoは、縦長形状のアノード側セパレータ43Bの一方の短辺近傍に、貫通孔43ciと貫通孔43coは、アノード側セパレータ43Bの他方の短辺近傍に位置しているから、甲3発明は、本件特許発明1の「前記燃料ガスの入口及び前記燃料ガスの出口は、前記積層方向に垂直な第1の方向における前記電気化学セルスタックの両端における2辺の近傍に位置」するとの構成、及び「前記酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口は」、「前記電気化学セルスタックの両端における2辺の近傍に位置」するとの構成を備えているといえる。
e 本件特許発明1は、「前記酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口は、前記積層方向に垂直且つ前記第1の方向とのなす角度が45°未満である第2の角度における前記電気化学セルスタックの両端における2辺の近傍に位置し、且つ前記燃料ガスの入口及び前記燃料ガスの出口を結ぶ線分と、前記酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口を結ぶ線分とが、前記積層方向から見て交差してな」るのに対し、甲3発明は、貫通孔43ciと貫通孔43coが、前記積層方向に垂直且つ前記第1の方向とのなす角度が45°未満である第2の角度における前記電気化学セルスタックの両端における2辺の近傍に位置し、且つ貫通孔43aiと貫通孔43aoを結ぶ線分と、貫通孔43ciと貫通孔43coを結ぶ線分が、前記積層方向から見て交差する構成を備えていない点で相違する。
f さらに、甲3発明において、アノード側セパレータ43Bが有する各貫通孔からアノード側セパレータ43Bの長辺までの距離は、短辺までの距離と比べて大きいから、甲3発明は、本件特許発明1の「前記燃料ガスの入口及び前記燃料ガスの出口、前記酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口の内、少なくとも1つは、前記電気化学セルスタックの両端における2辺の両端を夫々結ぶ2辺から離れて位置」するとの構成を備えているといえる。
してみると、本件特許発明1と甲3発明とは、
「燃料ガス及び酸化剤ガスの電気化学反応により発電する板状の電気化学セルを積層させ、第1のエンドプレートと第2のエンドプレートで挟持してなる電気化学セルスタックであって、
前記電気化学セルの積層方向における一方の前記第1のエンドプレートに燃料ガスの入口及び燃料ガスの出口が位置し、前記第1のエンドプレートの裏側の前記第2のエンドプレートに酸化剤ガスの入口及び酸化剤ガスの出口が位置するとともに、
前記燃料ガスの入口及び前記燃料ガスの出口は、前記積層方向に垂直な第1の方向における前記電気化学セルスタックの両端における2辺の近傍に位置し、
前記燃料ガスの入口及び前記燃料ガスの出口、前記酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口の内、少なくとも1つは、前記電気化学セルスタックの両端における2辺の両端を夫々結ぶ2辺から離れて位置し、
前記燃料ガスの入口から前記燃料ガスの出口までを経由する燃料ガスの流路は、
前記燃料ガスが前記燃料ガスの入口から前記電気化学セルスタックの積層方向の一方向に向かって流れる燃料ガス供給孔と、
前記燃料ガスが前記電気化学セル内を積層方向に垂直な方向に流れる流路と、
前記燃料ガスが積層方向の逆方向に向かって折返して流れて、前記燃料ガスの出口から排出される燃料ガス排出孔と、を含み、
前記酸化剤ガスの入口から前記酸化剤ガスの出口までを経由する酸化剤ガスの流路は、
前記酸化剤ガスが前記酸化剤ガスの入口から積層方向の逆方向に向かって流れる酸化剤ガス供給孔と、
前記酸化剤ガスが前記電気化学セル内を積層方向に垂直な方向に流れる流路と、
前記酸化剤ガスが積層方向の一方向に向かって折返して流れて、前記酸化剤ガスの出口から排出される酸化剤排出孔と、を含む
電気化学セルスタック。」である点で一致し、以下の点で、相違する。
<相違点2>
本件特許発明1は、「前記酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口は、前記積層方向に垂直且つ前記第1の方向とのなす角度が45°未満である第2の角度における前記電気化学セルスタックの両端における2辺の近傍に位置し、且つ前記燃料ガスの入口及び前記燃料ガスの出口を結ぶ線分と、前記酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口を結ぶ線分とが、前記積層方向から見て交差してな」るのに対し、甲3発明は、貫通孔43ciと貫通孔43coが、前記積層方向に垂直且つ前記第1の方向とのなす角度が45°未満である第2の角度における前記電気化学セルスタックの両端における2辺の近傍に位置し、且つ貫通孔43aiと貫通孔43aoを結ぶ線分と、貫通孔43ciと貫通孔43coを結ぶ線分が、前記積層方向から見て交差する構成を備えていない点。
(イ)判断
a 検討
相違点2について検討する。
前述のとおり、甲2発明、甲4発明~甲6発明のいずれにも、セルの積層方向から見て、燃料ガスの入口及び出口を結ぶ線分と、酸化剤ガスの入口及び出口を結ぶ線分とがなす角度が45°未満で交差することが開示されていないから、上記相違点1に係る「(イ)判断」「a 検討」の判断と同様に、仮に甲3発明に、甲2発明、甲4発明~甲6発明のいずれを適用できたとしても、上記相違点2に係る構成は、当業者が容易になし得たものではない。
そして、上記相違点2に係る構成を有する本件特許発明1は、本件特許の明細書の段落【0028】及び【0029】に記載のように、「電気化学セルスタック10は、燃料ガスの入口13及び燃料ガスの出口14、並びに酸化剤ガスの入口15及び酸化剤ガスの出口16に別々に接続する配管の干渉を回避させるための設計における自由度を向上させる。」という効果を奏するものである。
b 申立人の主張について
申立人は、申立書の第48、49ページにおいて、「甲3発明は燃料電池に関するものであり(段落0001)、その課題はカーボンの酸化による膜電極接合体の劣化を抑制することである(段落0005、0006)。甲4発明の課題は、MEAの保湿状態にバラツキによる燃料電池の寿命特性の劣化を抑制することである(段落0017、0023)。甲4発明は甲3発明と膜電極接合体(MEA)の劣化を抑制するという点で課題が共通しているので、甲3発明に甲4発明を適用する動機付けがある。甲3発明に甲4発明を適用することや、甲3発明に甲5、6に開示された周知技術を適用することを阻害する特段の事情はない。また相違点5は、相違点3と同様であり、発明の詳細な説明にその発明としての意義が説明されていない。さらに相違点5に係る技術的事項は甲4、5、6に開示されているため当業者が適宜なし得る程度のこと」、また、申立書の第49ページにおいて、「すなわち本件特許発明1は、甲3発明に甲4発明を適用して、または、甲3発明に周知技術を適用して、容易に発明をすることができたものである。」と主張している。
しかしながら、上述のとおり、仮に甲3発明に、甲2発明、甲4発明~甲6発明のいずれを適用できたとしても、本件特許発明1が有する相違点2に係る構成を設けることはできず、また、当該構成は技術常識であるともいえないから、「本件特許発明1は、甲3発明に甲4発明を適用して、または、甲3発明に周知技術を適用して、容易に発明をすることができたものである。」との主張も採用できない。
よって、本件特許発明1は、甲3発明及び甲2発明から、甲3発明及び甲4発明から、甲3発明及び甲5発明から、又は、甲3発明及び甲6発明から、当業者が容易になし得たものとはいえない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものである。そうすると、上記のとおり、本件特許発明1が、甲1発明及び甲2発明、甲1発明及び甲4発明、甲1発明及び甲5発明、甲1発明及び甲6発明、甲3発明及び甲2発明、甲3発明及び甲4発明、甲3発明及び甲5発明、並びに甲3発明及び甲6発明のいずれからも、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない以上、本件特許発明2も、甲1発明及び甲2発明、甲1発明及び甲4発明、甲1発明及び甲5発明、甲1発明及び甲6発明、甲3発明及び甲2発明、甲3発明及び甲4発明、甲3発明及び甲5発明、並びに甲3発明及び甲6発明のいずれからも、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)申立理由1についてのまとめ
上記のとおり、本件特許発明1~2に係る特許は、特許法29条の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、本件特許の請求項1~2に係る特許は、特許法113条2号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~2に係る特許は、申立理由1によって取り消すことはできない。
2 申立理由2(サポート要件違反)について
(1)理由の概要
請求項1、2は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許が請求されているため、請求項に係る発明の記載はサポート要件を満たしていない。
(2)判断
まず、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
ここで、発明の詳細な説明の記載からみて、本件特許発明が解決しようとする課題は、燃料電池の発電効率を向上させるため、「複数の電気化学セル間の温度差を低減する電気化学セルスタックを提供すること」であると認められる(段落【0001】~【0005】)。
また、発明の詳細な説明の段落【0028】には、「・・・一方で、上述の構成を有する電気化学セルスタック10では、燃料ガスは積層方向における一方向に流れ、酸化剤ガスは積層方向における当該一方向の逆方向に流れる。したがって、電気化学セルスタック10は、積層方向に沿った燃料ガスによる各電気化学セル11の温度変化の向きと、酸化剤ガスによる各電気化学セル11の温度変化の向きは逆向きとなる。それゆえ、電気化学セルスタック100は、燃料ガスによる温度変化と酸化剤ガスによる温度変化との合計により全体としての積層方向に沿った各電気化学セル11の温度変化は相殺される。その結果、電気化学セルスタック100は、積層された複数の電気化学セル11の間の温度差を低減する。」と記載されていることから、当業者であれば、当該課題は、電気化学セルスタックにおいて、燃料ガスを積層方向における一方向に流し、酸化剤ガスを積層方向における当該一方向の逆方向に流すことで解決できることが認識できるといえる。
そして、本件特許発明1は、燃料ガス及び酸化剤ガスの電気化学反応により発電する板状の電気化学セルを積層させた電気化学セルスタックにおいて、燃料ガスが前記燃料ガスの入口から前記電気化学セルスタックの積層方向の「一方向」に向かって流れる燃料ガス供給孔と、・・・前記燃料ガスが積層方向の「逆方向」に向かって折返して流れて、前記燃料ガスの出口から排出される燃料ガス排出孔と、・・・酸化剤ガスが前記酸化剤ガスの入口から積層方向の「逆方向」に向かって流れる酸化剤ガス供給孔と・・・前記酸化剤ガスが積層方向の「一方向」に向かって折返して流れて、前記酸化剤ガスの出口から排出される酸化剤排出孔の構成、すなわち、電気化学セルスタックにおいて、燃料ガスを積層方向における一方向に流し、酸化剤ガスを積層方向における当該一方向の逆方向に流す構成を備えている。
してみると、当業者は、本件特許発明1が、発明の課題を解決できるものと認識できるというべきである。
したがって、本件特許発明1の特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
本件特許発明1の構成を全て備えた本件特許発明2についても同様に、本件特許発明2の特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(3)申立人の主張について
申立人は、申立書の第51ページにて、「請求項1、2には「電気化学セルスタック」の発明が記載されているのに対し、発明の詳細な説明には「燃料電池」の発明のみが記載されている。また、発明の詳細な説明の【0030】には、電気化学セルスタックの発電効率を向上させ得ることが記載されている。さらに特許権者は、令和6年6月3日付け意見書や令和7年4月3日付け意見書において、「本願発明は発電効率を向上させることが可能となる(段落【0030】)という作用効果を奏する」と説明している。
「電気化学セルスタック」は電気化学反応が起こるセルを集合した装置の総称であるため、発電をする「燃料電池」以外に、発電しない「電解セルスタック」を包含する。しかし、発明の詳細な説明には「電解セルスタック」の発明については記載も示唆もされていない。さらに「電解セルスタック」は発電しないため、発明の詳細な説明に開示され意見書に記載された「発電効率を向上させる」という課題を解決できない。請求項1、2は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものと、が実質的に対応していない。請求項1、2は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許が請求されているため、請求項に係る発明の記載はサポート要件を満たしていない。」と主張している。
しかしながら、上記(2)のとおり、本件特許発明1は、本件発明の課題を解決するための構成を備えていることが特定されているから、申立人のこれらの主張は、サポート要件とは無関係の主張である。そして、本件特許発明1には、「燃料ガス及び酸化剤ガスの電気化学反応により発電する板状の電気化学セルを積層させ、第1のエンドプレートと第2のエンドプレートで挟持してなる電気化学セルスタック」と記載されており、本件特許発明1の「電気化学セルスタック」が、発電をするものであることが明示されているところ、本件特許発明1には、当然、発電しない「電解セルスタック」は包含されないから、申立人の主張は採用できない。
(4)申立理由2についてのまとめ
上記のとおり、本件特許の請求項1~2に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法113条4号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~2に係る特許は、申立理由2によって取り消すことはできない。
3 申立理由3(明確性要件違反)について
(1)「近傍に位置し」について
ア 理由の概要
本件特許発明1~2が備える「近傍に位置し」の範囲が曖昧であり、本件特許発明1~2は不明確である。
イ 判断
まず、明確性要件の判断基準について、特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
ここで、本件特許発明1には、「近傍に位置し」という記載に関して、「前記燃料ガスの入口及び前記燃料ガスの出口は、前記積層方向に垂直な第1の方向における前記電気化学セルスタックの両端における2辺の近傍に位置し」及び「前記酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口は、前記積層方向に垂直且つ前記第1の方向とのなす角度が45°未満である第2の角度における前記電気化学セルスタックの両端における2辺の近傍に位置し」という記載がある。
そして、本件特許の明細書の段落【0013】には、「図2に示すように、燃料ガスの入口13及び燃料ガスの出口14は、積層方向に垂直な第1の方向d1における電気化学セルスタック10の両端に位置してよい。」との記載があり、段落【0014】には、「燃料ガスの入口13及び燃料ガスの出口14は、第1の外面S1の外縁が互いに平行な2辺を含む構成においては、それぞれ当該2辺の近傍に位置してよい。」との記載があることから、図1、2の記載も考慮すると、燃料ガスの入口13及び出口14が電気化学セルスタック10の両端のエンドプレート12部分の第1の外面S1の外縁における2辺(図2の上側の辺と下側の辺)の近傍に位置していることは理解でき、他の辺(例えば、図2の右側の辺あるいは左側の辺)との距離と比べて充分に小さい位置関係にあるといえ、当業者であれば、当該「近傍に位置し」の意味を理解することができるといえる。
また、酸化剤ガスの入口及び出口に関しても同様に記載されており、当該記載が不明確であるとはいえない。
してみれば、本件特許発明1における「近傍に位置し」という技術的意味は、明細書の記載及び図面、並びに当業者の出願時における技術常識を基礎として、直ちに第三者に不測の不利益を与えるほど不明確であるとは認められない。
本件特許発明1の構成を全て備えた本件特許発明2についても同様である。
ウ 申立人の主張について
申立人は、申立書の第51~53ページにて、「「近傍」の意味を確認すると、広辞苑第6版には「【近傍】(1)近所。近辺。(2)[数]距離空間で、1点Pからの距離が或る値より小さいすべての点から成る部分集合を、Pの近傍という。一般の位相空間でも、この概念を拡張して、集合に属する各要素に対して近傍を設定する。」とある。さらに「【近所】(1)近い所。近辺。」とあり、「【近辺】近いあたり。近く。近所。近傍。」とある。そのため「近傍」は、(1)の語義では範囲が曖昧であり、(2)の語義では「或る値」の設定によって範囲が変わり得る。」と主張している。
(合議体注:「(1)」、「(2)」は、それぞれ丸数字の1、2を表す。)
しかしながら、上述のとおり、本件特許の明細書の段落【0013】、【0014】及び図2からも、当業者であれば「近傍に位置し」との意味を理解することができるといえ、範囲が曖昧であって直ちに第三者に不測の不利益を与えるほど不明確であるとは認められないから、上記主張は採用できない。
(2)「離れて位置し」について
ア 理由の概要
本件特許発明1~2が備える「離れて位置し」の範囲が曖昧であり、本件特許発明1~2は不明確である。
イ 判断
本件特許発明1には、「前記燃料ガスの入口及び前記燃料ガスの出口、前記酸化剤ガスの入口及び前記酸化剤ガスの出口の内、少なくとも1つは、前記電気化学セルスタックの両端における2辺の両端を夫々結ぶ2辺から離れて位置し」という記載がある。
当該記載に関して、例えば、本件特許の明細書の段落【0013】、【0015】、【0016】及び図2には、電気化学セルスタックの上面図において、燃料ガスの入口、燃料ガスの出口、酸化剤ガスの入口、又は酸化剤ガスの出口と、電気化学セルスタックの上面図における左側、右側の2辺との距離が、上側、下側の2辺との距離と比べて十分大きい位置関係にあることが示されており、当業者であれば「離れて位置し」との意味を理解することができるといえる。
してみれば、本件特許発明1における「離れて位置し」という技術的意味は、明細書の記載及び図面、並びに当業者の出願時における技術常識を基礎として、直ちに第三者に不測の不利益を与えるほど不明確であるとは認められない。
本件特許発明1の構成を全て備えた本件特許発明2についても同様である。
ウ 申立人の主張について
申立人は、申立書の第52、53ページにて、特許権者が作成し令和7年4月3日付け意見書に掲載した参考図1を転載した上で、「「離れる」の意味を確認すると、広辞苑第6版には「【離れる】(2)遠ざかった位置にある。へだたった所にいる。」とある。上記の図から看取できるように、燃料ガスの入口(13)は、両端における2辺(破線)から離れた位置にあり、両端を夫々結ぶ2辺(一点鎖線)からも離れた位置にある。燃料ガスの出口(14)、酸化剤ガスの入口(15)及び酸化剤ガスの出口(16)も同様に、両端における2辺(破線)から離れた位置にあり、両端を夫々結ぶ2辺(一点鎖線)からも離れた位置にある。」ところ、「請求項1の記載は、燃料ガスの入口、燃料ガスの出口、酸化剤ガスの入口および酸化剤ガスの出口の位置の特定が不十分であるため、請求項1に係る発明、及び、請求項1を引用する請求項2に係る発明は不明確である。」と主張している。
(合議体注:「(2)」は、丸数字の2を表す。)
しかしながら、上述のとおり、本件特許の明細書の段落【0013】、【0015】、【0016】及び図2からも、当業者であれば「離れて位置し」との意味を理解することができるといえ、直ちに第三者に不測の不利益を与えるほど不明確であるとは認められないから、上記主張は採用できない。
(3)「具体的な物が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できない」ことについて
ア 理由の概要
単なる穴が現れている具体的な物が、請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できないため、本件特許発明1~2は不明確である。
イ 判断
本件特許発明1には、燃料ガスの入口、燃料ガスの出口、酸化剤ガスの入口および酸化剤ガスの出口の位置などが特定された「電気化学セルスタック」の発明が記載されている。
また、本件特許発明1には、さらに「燃料ガスが前記燃料ガスの入口から前記電気化学セルスタックの積層方向の一方向に向かって流れる燃料ガス供給孔と、前記燃料ガスが前記電気化学セル内を積層方向に垂直な方向に流れる流路と、前記燃料ガスが積層方向の逆方向に向かって折返して流れて、前記燃料ガスの出口から排出される燃料ガス排出孔」を備えることが記載されている。
してみれば、本件特許発明1においては、各ガスの入口及び出口自体に加えて、各ガスの供給孔及び排出孔を含む、各ガスの入口から出口に至る具体的な流路の構造が特定されており、当業者であれば、少なくともこれらの構造を「単なる穴が現れている具体的な物」とは異なる構造として理解できることは明らかであり、「単なる穴」以外に特定される構造から請求項に係る発明の範囲に入るか理解できるといえる。
よって、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、直ちに第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとは認められない。
本件特許発明1の構成を全て備えた本件特許発明2についても同様である。
ウ 申立人の主張について
申立人は、申立書の第53、54ページにて、「電気化学セルスタックは発電の最小単位となる電気化学セルを積層させたものであるため(【0002】)、電気化学セルスタックの具体的な物(電気化学セルの積層体)に現れる燃料ガスの入口、燃料ガスの出口、酸化剤ガスの入口および酸化剤ガスの出口は、どれも単なる穴である。
そうすると当業者は、単なる穴が現れている具体的な物が、請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できないため、請求項に係る発明は不明確である。」と主張している。
しかしながら、上述のとおり、本件特許発明1~2は、ガスの入口及び出口自体に加えて、ガスの供給孔及び排出孔を含む、ガスの入口から出口に至る具体的な流路の構造が特定されており、申立人が主張する「電気化学セルスタックの具体的な物(電気化学セルの積層体)に現れる燃料ガスの入口、燃料ガスの出口、酸化剤ガスの入口および酸化剤ガスの出口は、どれも単なる穴」とは異なる構造から、請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できるといえ、特許請求の範囲の記載が、直ちに第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとは認められないから、申立人の上記主張は採用できない。
(4)申立理由3についてのまとめ
上記のとおり、本件特許の請求項1~2に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法113条4号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~2に係る特許は、申立理由3によって取り消すことはできない。
第5 むすび
本件特許の請求項1~2に係る特許は、いずれも、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2026-700143