特許異議申立
2019-700856
ウェビング巻取装置
- 審判番号
- 2019-700856
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-237944
- 登録番号
- 特許第6509100号(P6509100)
- 請求日
- 2019年10月29日
- 審決日
- 2020年07月07日
- 公報発行日
- 2020年10月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社東海理化電機製作所
- 【権利者代理人】中島 淳
- 【権利者代理人】加藤 和詳
- 【権利者代理人】福田 浩志
- 【異議申立人】佐藤 義光
- 審判長/審判官
- 審判長 氏原 康宏
- 審判官 藤井 昇
- 審判官 出口 昌哉
- 分類
- P1651.113-YAA(B60R) / P1651.121-YAA(B60R) / P1651.537-YAA(B60R) / P1651.832-YAA(B60R) / P1651.841-YAA(B60R) / P1651.851-YAA(B60R) / P1651.853-YAA(B60R) / P1651.854-YAA(B60R) / P1651.855-YAA(B60R)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6509100号発明「ウェビング巻取装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6509100号の明細書,特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書,訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
特許第6509100号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
特許第6509100号の請求項1~8に係る特許についての出願は,平成27年12月4日の特許出願であって,平成31年4月12日にその特許権の設定登録がされ,令和1年5月8日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許の請求項1~8について,同年10月29日付けで特許異議申立人 佐藤 義光により特許異議の申立てがされ,令和2年1月22日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である同年3月30日付けで特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ,同年4月21日付けで訂正請求があった旨が通知され(特許法第120条の5第5項),同年5月25日付けで特許異議申立人により意見書の提出があったものである。
第2.訂正の適否
1.訂正の内容
令和2年3月30日付けの訂正請求(以下,「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下の訂正事項1~4のとおりである(下線部は,訂正箇所を示し,当審で付与した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における
「前記筒状部材の内側に配置され,中心軸直交方向の前記回転部材側の部分よりも前記回転部材とは反対側の部分が中心軸方向先端側へ延びた係合部が中心軸方向先端部に設けられ,前記筒状部材に供給される前記流体の圧力で移動されることによって前記係合部が前記回転部材に係合され,前記回転部材を回転方向一側へ回転させる移動部材と,」
の記載を,
「前記筒状部材の内側に配置され,前記筒状部材に供給される前記流体の圧力で移動される移動部材と,
前記移動部材の中心軸方向先端部に形成され,前記移動部材の中心軸からみて前記回転部材の回転中心へ向けて直交する方向である中心軸直交方向の側の部分よりも前記中心軸直交方向とは反対側の部分が前記移動部材の中心軸方向先端側へ延び,前記移動部材の中心軸方向先端側への移動により前記移動部材において前記回転部材へ最初に係合されて前記回転部材を押圧し,前記回転部材を回転方向一側へ回転させる係合部と,」
に訂正する。また,請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2から請求項8の各請求項についても同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6における
「前記回転部材における前記係合面との係合部分は,前記回転部材の回転中心周りに所定角度毎に複数形成され,前記回転部材側を中心とする当該中心周りの前記係合面の設定範囲は,前記所定角度よりも大きい」
の記載を,
「前記回転部材における前記係合面との係合部分は,前記回転部材の回転中心周りに所定角度毎に複数形成され,前記係合面の設定範囲の回転部材の回転中心周りの角度は,前記所定角度よりも大きい」
に訂正する。また,請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7,請求項8についても同様に訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の段落【0006】における
「前記筒状部材の内側に配置され,中心軸直交方向の前記回転部材側の部分よりも前記回転部材とは反対側の部分が中心軸方向先端側へ延びた係合部が中心軸方向先端部に設けられ,前記筒状部材に供給される前記流体の圧力で移動されることによって前記係合部が前記回転部材に係合され,前記回転部材を回転方向一側へ回転させる移動部材と,を備えている。」
の記載を
「前記筒状部材の内側に配置され,前記筒状部材に供給される前記流体の圧力で移動されることによって前記回転部材に係合され,前記回転部材を回転方向一側へ回転させる移動部材と,前記移動部材の中心軸方向先端部に形成され,前記移動部材の中心軸からみて前記回転部材の回転中心へ向けて直交する方向である中心軸直交方向の側の部分よりも前記中心軸直交方向とは反対側の部分が前記移動部材の中心軸方向先端側へ延び,前記移動部材の中心軸方向先端側への移動により前記移動部材において前記回転部材へ最初に係合されて前記回転部材を押圧し,前記回転部材を前記巻取方向へ回転させる係合部と,を備えている。」
に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の段落【0016】における
「前記回転部材における前記係合面との係合部分は,前記回転部材の回転中心周りに所定角度毎に複数形成され,前記回転部材側を中心とする当該中心周りの前記係合面の設定範囲は,前記所定角度よりも大きい」
の記載を,
「前記回転部材における前記係合面との係合部分は,前記回転部材の回転中心周りに所定角度毎に複数形成され,前記係合面の設定範囲の回転部材の回転中心周りの角度は,前記所定角度よりも大きい」
に訂正する。
(5)一群の請求項について
訂正前の請求項2から請求項8の各請求項は,請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであるから,訂正前の請求項1から請求項8の各請求項に対応する訂正後の請求項1から請求項8の各請求項は,特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって,本件訂正請求は,一群の請求項[1~8]に対して請求されたものである。また,明細書に係る訂正は,一群の請求項[1~8]について請求されたものである。
2.訂正要件についての判断
(1)訂正事項1
ア.訂正の目的について
訂正前の請求項1の記載における「中心軸直交方向」,「中心軸方向先端側」,「中心軸方向先端部」の「中心軸」が「移動部材」の中心軸なのか,「筒状部材」の中心軸なのか,それとも,それ以外か不明確であった。
また,「中心軸」が仮に「移動部材」の中心軸であるとしても,訂正前の請求項1の記載における「中心軸直交方向の前記回転部材側の部分」の「前記回転部材側の部分」が回転部材のどこを示しているのか不明瞭であった。同様に,「前記回転部材とは反対側の部分」の記載についても不明瞭であった。
これに対し,訂正後の請求項1は,
「前記筒状部材の内側に配置され,前記筒状部材に供給される前記流体の圧力で移動されることによって前記回転部材に係合され,前記回転部材を回転方向一側へ回転させる移動部材と,
前記移動部材の中心軸方向先端部に形成され,前記移動部材の中心軸からみて前記回転部材の回転中心へ向けて直交する方向である中心軸直交方向の側の部分よりも前記中心軸直交方向とは反対側の部分が前記移動部材の中心軸方向先端側へ延び,前記移動部材の中心軸方向先端側への移動により前記移動部材において前記回転部材へ最初に係合されて前記回転部材を押圧し,前記回転部材を前記巻取方向へ回転させる係合部と,」
という記載により,上記の不明確,不明瞭な記載を明確,明瞭にするものである。
すなわち,訂正後の請求項1に係る訂正事項1は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
また,訂正前の請求項1では,移動部材の係合部と回転部材との関係において移動部材の係合部が回転部材へ係合されるタイミングについて明示されていなかった。これに対して,訂正後の請求項1は,
「前記移動部材の中心軸方向先端側への移動により前記移動部材において前記回転部材へ最初に係合されて前記回転部材を押圧し,前記回転部材を前記巻取方向へ回転させる係合部と,」
という記載により,係合部が回転部材へ係合されるタイミングについて限定するものであるから,訂正後の請求項1に係る訂正事項1は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものでもある。
イ.願書に添付した明細書(以下,単に「明細書」ということもある。),特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
(ア)明細書の段落【0044】には,以下の記載がある。
「先端側移動部材70の先端側移動部材第2直線部88の中心軸方向先端部は,係合部90とされており,係合部90は係合面92を備えている。」
このように,「中心軸方向」が「移動部材の中心軸方向」であることは,明細書の記載から明らかである。
(イ)また,明細書には,以下の記載がある。
「先端側移動部材70の先端側移動部材第2直線部88の中心軸方向は,直線的とされ,車両上下方向に沿っており,」(段落【0044】)
「スプール18の中心軸線方向は,脚板14と脚板16との対向方向(すなわち,略車両前後方向)に沿っており,」(段落【0026】)
「また,回転部材62は,スプール18の中心軸線周りのロック機構24のロックベース26に対する相対回転が阻止された状態で,ロックペース26に取付けられている。回転部材62は,複数の係合歯64を備えている。これらの係合歯64は,回転部材62の回転中心周りに一定角度θ1毎に放射状に形成されている。」(段落【0040】)
このことから,「前記移動部材の中心軸からみて前記回転部材の回転中心へ向けて直交する方向である中心軸直交方向」が,明細書の【発明の実施の形態】に記載された態様では,車幅方向外側(図2等の矢印OUT方向側)であることが理解できる。
したがって,「前記移動部材の中心軸からみて前記回転部材の回転中心へ向けて直交する方向である中心軸直交方向」,「前記中心軸直交方向とは反対側」は,明細書の記載から明らかである。
(ウ)また,明細書には以下の記載がある。
「このため,初期状態では,回転部材62が回転されても,回転部材62の係合歯64が先端側移動部材70に係合されず,先端側移動部材70の先端側移動部材第2直線部88が車両下側(図2の矢印C方向)へ移動されると,先端側移動部材70の係合部90の係合面92が回転部材62の係合歯64の先端の回転軌跡内に入り,先端側移動部材70の係合部90の係合面92が回転部材62の係合歯64へ係合される。」(段落【0047】)
「これによって,先端側移動部材70の係合部90の係合面92が,回転部材62の係合歯64を車両下側へ押圧すると,回転部材62が巻取方向(図2等の矢印A方向)へ回転される。」(段落【0055】)
さらに,図面の図3では,係合部90の係合面92が先端側移動部材70において最初に回転部材62の係合歯64へ係合されて回転部材62の係合歯64を押圧し,回転部材62を巻取方向へ回転させた状態が示されている。
このように,「係合部が移動部材の中心軸方向先端側への移動により移動部材において回転部材へ最初に係合されて回転部材を押圧し,回転部材を巻取方向へ回転させる」ことは,明細書の記載及び図面からみて明らかである。
(エ)したがって,訂正事項1による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記ア.で説明したように,訂正事項1は,訂正前の特許請求の範囲の請求項1における「中心軸方向」を訂正後の特許請求の範囲の請求項1で「移動部材の中心軸方向」と明確にするとともに,係合部が回転部材へ係合されるタイミングについて限定するものものであって,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,訂正事項1による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア.訂正の目的について
訂正前の請求項6の記載における「前記回転部材側を中心とする当該中心」の「当該中心」は,請求項5の「前記回転部材側を曲率中心として凹状に湾曲されている」とされた「回転部材側」の「曲率中心」のことか,「回転部材の回転中心」のことか,それともそれ以外のものか明確でなかった。
また,訂正前の請求項6の記載では,「前記係合面の設定範囲」と「前記所定角度」とを比較しており,どの様に比較するのか明確でなかった。
これに対し,訂正後の請求項6は,
「前記回転部材における前記係合面との係合部分は,前記回転部材の回転中心周りに所定角度毎に複数形成され,前記係合面の設定範囲の前記回転部材の回転中心周りの角度は,前記所定角度よりも大きい」
と訂正することにより,上記の不明確な記載を明確にするものである。
すなわち,訂正後の請求項6に係る訂正事項2は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
明細書には,以下の記載がある。
「また,先端側移動部材70の係合部90の係合面92の曲率半径は,回転部材62の回転中心から回転部材62の係合歯64の先端までの径寸法よりも大きく,また,先端側移動部材70の係合部90の係合面92の曲率中心は,先端側移動部材70がシリンダ40の所定位置に配置された状態で回転部材62の回転中心に略一致する。」(段落【0046】)。
「また,先端側移動部材70の係合部90の係合面92の曲率中心を中心とする係合面92の形成範囲θ2は,回転部材62の回転中心周りの係合歯64の間隔である角度θ1よりも大きくされている。このため,回転部材62が,その回転中心周りの如何なる位置にあっても,回転部材62の複数の係合歯64のうち,少なくとも1つの係合歯64の先端が,先端側移動部材70の係合部90の係合面92と対向される。」(段落【0048】)
そうすると,「前記回転部材における前記係合面との係合部分は,前記回転部材の回転中心周りに所定角度毎に複数形成され,前記係合面の設定範囲の前記回転部材の回転中心周りの角度は,前記所定角度よりも大きい」ことは,明細書の記載からみて明らかである。
したがって,訂正事項2による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲乂は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記ア.で説明したように,訂正事項2は,訂正前の特許請求の範囲の請求項6における
「前記係合面の設定範囲」と「前記所定角度」との関係を「前記係合面の設定範囲の前記回転部材の回転中心周りの角度は,」と明確にするものである。
以上の訂正は,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3
ア.訂正の目的について
訂正後の明細書の段落【0006】の記載に係る訂正事項3は,特許請求の範囲の請求項1の訂正である訂正事項1に対応して,明細書の内容を請求項1の記載に整合させるためにした訂正であり,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は,特許請求の範囲の請求項1の訂正である訂正事項1に対応して,明細書の内容を請求項1の記載に整合させる訂正であり,上記(1)イ.の理由と同様の理由により,訂正事項3による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は,特許請求の範囲の請求項1の訂正である訂正事項1に対応して,明細書の内容を請求項1の記載に整合させる訂正であり,上記(1)ウ.の理由と同様の理由により,訂正事項3による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項4
ア.訂正の目的について
訂正後の明細書の段落【0016】の記載に係る訂正事項4は,特許請求の範囲の請求項6の訂正である訂正事項2に対応して,明細書の内容を請求項6の記載に整合させるためにした訂正であり,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は,特許請求の範囲の請求項6の訂正である訂正事項2に対応して,明細書の内容を請求項6の記載に整合させる訂正であり,上記(2)イ.の理由と同様の理由により,訂正事項4による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は,特許請求の範囲の請求項6の訂正である訂正事項2に対応して,明細書の内容を請求項6の記載に整合させる訂正であり,上記(2)ウ.の理由と同様の理由により,訂正事項4による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(5)まとめ
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって,明細書,特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書,訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項[1~8]について訂正することを認める。
第3.訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~8に係る発明(以下,「本件発明1」~「本件発明8」といい,それらを総称して「本件発明」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
巻取方向へ回転されることによってシートベルト装置のウェビングが巻取られるスプールと,
車両緊急時に中心軸線方向基端部から内側へ流体が供給される筒状部材と,
前記筒状部材の中心軸線方向先端側で回転可能に設けられ,回転方向一側へ回転されて前記スプールを巻取方向へ回転させる回転部材と,
前記筒状部材の内側に配置され,前記筒状部材に供給される前記流体の圧力で移動される移動部材と,
前記移動部材の中心軸方向先端部に形成され,前記移動部材の中心軸からみて前記回転部材の回転中心へ向けて直交する方向である中心軸直交方向の側の部分よりも前記中心軸直交方向とは反対側の部分が前記移動部材の中心軸方向先端側へ延び,前記移動部材の中心軸方向先端側への移動により前記移動部材において前記回転部材へ最初に係合されて前記回転部材を押圧し,前記回転部材を回転方向一側へ回転させる係合部と,
を備えるウェビング巻取装置。
【請求項2】
前記係合部は,前記回転部材における前記係合部との係合部分の回転軌跡の外側に配置される請求項1に記載のウェビング巻取装置。
【請求項3】
前記回転部材における前記係合部との係合部分は,前記回転部材の回転中心周りに所定角度毎に複数形成され,少なくとも1つの前記係合部分は,前記回転部材の回転位置に関わらず前記移動部材の中心軸方向に前記係合部と対向される請求項1又は請求項2に記載のウェビング巻取装置。
【請求項4】
前記係合部は,前記流体の圧力による前記移動部材の移動方向に対して前記回転部材側へ傾いた方向へ向いた係合面を備える請求項1から請求項3の何れか1項に記載のウェビング巻取装置。
【請求項5】
前記係合面は,前記回転部材側を曲率中心として凹状に湾曲されている請求項4に記載のウェビング巻取装置。
【請求項6】
前記回転部材における前記係合面との係合部分は,前記回転部材の回転中心周りに所定角度毎に複数形成され,前記係合面の設定範囲の前記回転部材の回転中心周りの角度は,前記所定角度よりも大きい請求項4又は請求項5に記載のウェビング巻取装置。
【請求項7】
前記移動部材は,前記鉤状部材の中心軸線周りの回動が制限されている請求項1から請求項6の何れか1項に記載のウェビング巻取装置。
【請求項8】
前記筒状部材は,筒状部材曲部において中心軸線方向が曲げられ,前記移動部材は,前記筒状部材の前記筒状部材曲部を挟んで前記筒状部材の中心軸線方向基端側から前記筒状部材の中心軸線方向先端側へ連続して配置されると共に,荷重が付与されない無負荷状態で前記筒状部材内での配置位置に倣って曲がった請求項7に記載のウェビング巻取装置。」
第4.取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
訂正前の請求項1~8に係る特許に対して,当審が令和2年1月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。
(1)本件特許に係る特許出願は,特許請求の範囲の記載が不備のため,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(2)本件特許の請求項1~4,7,8に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その発明に係る特許は取り消すべきものである。
記
<<引用文献>>
引用例1:中国特許出願公開第103832398号明細書(特許異議申立人が提出した甲第1号証)
引用例2:特開2015-54651号公報(本件特許明細書の段落【0004】に記載された先行技術文献)
2.当審の判断
(1)特許法第36条第6項第2号について
[第2.2」のとおり,明確化する訂正がなされた。
ア.本件発明1
本件発明1は,「前記移動部材の中心軸方向先端部に形成され,前記移動部材の中心軸からみて前記回転部材の回転中心へ向けて直交する方向である中心軸直交方向の側の部分よりも前記中心軸直交方向とは反対側の部分が前記移動部材の中心軸方向先端側へ延び」る「係合部」を含むものである。
(ア)「中心軸直交方向」,「中心軸方向先端側」の「中心軸」が「移動部材」の中心軸であることは明確である。
(イ)「中心軸直交方向の側の部分」が「前記移動部材の中心軸からみて前記回転部材の回転中心へ向けて直交する方向である中心軸直交方向の側の部分」であることは明確である。
(ウ)「前記中心軸直交方向とは反対側の部分」が「前記移動部材の中心軸からみて前記回転部材の回転中心へ向けて直交する方向である中心軸直交方向の側の部分よりも前記中心軸直交方向とは反対側の部分」であることは明確である。
(エ)「前記中心軸直交方向とは反対側の部分が」「前記移動部材の中心軸からみて前記回転部材の回転中心へ向けて直交する方向である中心軸直交方向の側の部分よりも」「前記移動部材の中心軸方向先端側へ延び」るという限りにおいて技術思想は明確である。
イ.本件発明6
本件発明6は,「前記回転部材における前記係合面との係合部分は,前記回転部材の回転中心周りに所定角度毎に複数形成され,前記係合面の設定範囲の前記回転部材の回転中心周りの角度は,前記所定角度よりも大きい請求項4又は請求項5に記載のウェビング巻取装置。」である。
(ア)「前記回転部材の回転中心」であること明確である。
(イ)「前記係合面の設定範囲の前記回転部材の回転中心周りの角度」と「前記所定角度」を比較していることは明確である。
(ウ)請求項4,請求項5のそれぞれの「係合面」においても,「前記係合面の設定範囲の前記回転部材の回転中心周りの角度」という記載は,整合しており明確である。
ウ.小括
本件発明は,明確であり,特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第2号の要件を満たす。
(2)特許法第29条第2項について
ア.引用文献の記載
(ア)引用例1(甲第1号証)
引用例1には,図面とともに以下の記載がある(異議申立人の提出した翻訳文を示す。下線部は,当審で付与した)。
・「技術分野
【0001】
本出願はプリテンショナ式安全装置に関するものであり,具体的には,プリテンショナ式安全装置における駆動チェーンに関するものである。本出願はまたプリテンショナ式安全装置における駆動チェーンのユニットアセンブリ,及びプリテンショナに関するものである。
背景技術
【0002】
プリテンショナ式シートベルトは現在よく用いられているシートベルト装置であり,衝突時の急の加速度により引き起こされるシートベルト装着者の移動を拘束することによって,乗客の安全を高めるものである。このようなシートベルトは通常シートペルドリトラクターを一つ有する。
【0003】
プリテンショナ式シートペルドリトラクターはプリテンショナパイプと呼ばれる部材を有し,シートベルト装置が拘束動作を行う必要がある場合,力の作用により,シートベルトを巻き取り,シートベルトを引き締めることによって,乗員に対する拘束力を高める。」
・「【0049】
図7を参照すると,図7は駆動ユニットの内凹構造とリングギアの歯が互いに噛合する構造模式図である。本実施例において,前記リングギア6はスプールの軸方向に垂直な面に沿って第一の部分と第二の部分の二つの部分に分けられ,両部分は軸方向において所定の距離で分けられている。これと対応して,駆動ユニットは両側にいずれも前記内凹構造が設けられており,かつ前記駆動ユニットの内凹構造11は前記駆動ユニット14本体の二つの相対する側壁の中心に対して対称となるように設けられ,二つの内凹構造の間の部分の厚さは上記両部分が軸方向で分けられる所定の距離より大きくなく,駆動ユニットがプリテンショナパイプから射出されてリングギアと噛合した後,駆動ユニットの二つの内凹構造11の間の部分が前記リングギアの第一の部分と第二の部分との隙間に挿入されると同時に,リングギアの一つの歯が前記内凹構造11中に嵌入し,前記内凹構造11の後側壁とリングギアの歯の一辺とが互いに密着され,駆動ユニットの運動エネルギーの駆動下において,リングギア及びスプールを押動させて回転させることによって,ウェビングをリングギアに巻き込ませ,これにより締め付け過程を実現する。」
・「【0051】
図5を参照すると,図5は本出願の実施例の前方ユニット5の構造模式図であり,前記前方ユニット5において,凹溝部5-3と相対する一端には作動部5-1が設けられている。本実施例において,該作動部5-1はくさび形または単辺くさび形を呈しており,このような形状を採用することで,前方ユニット5がリングギア歯4と衝突する際,リングギア歯4がくさび形面形状に従って摺動できるようにし,ギアの外歯位置が不確定な場合に,歯と歯の間の隙間に有効に切り込むのを保証し,ギアと噛合することを保証する。当然ながら,作動部は他の通常の形状であってもよい。」
・「【0055】
図4を参照すると,図4は本実施例の駆動チェーンの後方ユニット9の構造模式図であり,前記後方ユニット9にはその突出部9-2の一端に対してプリテンショナパイプ2と互いに密封される密封構造9-1が設けられている。本実施例において,前記該密封構造9-1は前記後方ユニット9の前記両端の中心接続線方向に垂直な凹空洞であり,前記凹空洞の開口は前記後方ユニットから離間する端面に向いており,前記凹空洞は傾斜した内壁を有し,かつ開口サイズは内部のサイズより大きい。当然ながら,前記密封構造は他の形状であってもよい。本実施例の該後方ユニット9はプラスチック材料で作製されてもよく,他の可変特性を有する材料で作製されてもよい。前記後方ユニットは前述の中間ユニット及び前方ユニットとともに駆動チェーンを構成するものであり,図3に示すようなプリテンショナパイプ2内に設置されており,ガス発生器3が爆発してガスを発生させた際,前記後方ユニットを押動させ,さらに駆動チェーン全体を押動させてプリテンショナパイプ内でパイプ口に向かって移動させる。前記後方ユニットの密封構造は爆発によって発生したガスを全て後方ユニット上に作用させて,ガスが後方ユニットとプリテンショナパイプの内壁の間から漏れないように保証するためのものである。前記密封構造は傾斜した側壁を有する凹空洞形状となるように設けられ,爆発ガスが後方ユニットを押動させる際,凹空洞内部に入って,前記凹空洞の側壁を外側に拡張することで,凹空洞の外壁とプリテンショナパイプを互いに密着させることができ,密封効果を高めることができる。
【0056】
同時に図1及び図3を参照すると,図1はプリテンショナ式安全装置の部分構成図であり,図2はプリテンショナパイプがプリテンショナ式安全装置のフレームに固定されている構成図である。本実施例において,プリテンショナ式安全装置は,周方向にかつ少なくとも一端にリングギア6が設けられたスプール,プリテンショナパイプ2,係合固定装置1及びガス発生器3を含む。
【0057】
前記駆動チェーン10はプリテンショナパイプ2内において係合固定装置1に係止されている;係合固定装置1はプリテンショナパイプ2の排出口付近に位置する穴を通って,前方ユニット5の係合溝5-4内に係止することによって,駆動チェーン10を外力による押動がない状態で係合固定装置1によって係止させ,プリテンショナパイプ2の排出口2-1から排出させないようにする。ガス発生器3はプリテンショナパイプ2の排出口2-1から遠い側の一端に接続固定されており,ガス発生器が爆発してガスを発生させると,ガスが前記駆動チェーン10の後方ユニット9に作用する。駆動チェーン10を押動させてプリテンショナパイプ排出口2-1に向かって移動させ,駆動チェーン10の前方ユニット5がまずプリテンショナパイプ2内から排出され,前方ユニット5の内凹構造11が排出時にリングギア歯4とちょうど噛合する際,すなわちリングギア歯4が前方ユニット5の内凹構造11に入る際,かつ凹壁12の嵌合面がリングギア歯4の歯面とちょうど互いに嵌合する際,前方ユニット5はリングギア6を押動させて静止から回転を開始させ,リングギアが一定角度回転した後に,リングギア歯から脱離し,前方ユニットと互いに当接する後続の中間ユニット及び後続の中間ユニットが同様にして前記ジングギア歯と噛合し,リングギアを押動させて回転を維持し,締め付け過程が終了するまで続けられる。
本出願の実施例においては,リングギアのそれぞれの歯の間の距離の位置関係は各々のユニットの内凹構造11間の距離に対応するべきであり,よって,それぞれの駆動ユニットもガスによる押動に従ってリングギア歯4と互いに噛合する。リングギア歯4が駆動ユニット14の内凹構造11に入る際,凹壁12の嵌合面がリングギア歯4の歯面とちょうど互いに嵌合するとともに,一定時間の間,リングギア6に持続する推力を与えることができ,噛合関係が終了するまで続けられる。」
図1,図2,図5,図7には,以下の内容が示されている。
・段落【0049】の「駆動ユニットがプリテンショナパイプから射出されてリングギアと噛合した後,・・・,駆動ユニットの運動エネルギーの駆動下において,リングギア及びスプールを押動させて回転させることによって,ウェビングをリングギアに巻き込ませ,・・・」なる記載,段落【0056】の「周方向にかつ少なくとも一端にリングギア6が設けられたスプール」なる記載と,図1,図2,図7の図示内容を踏まえると,
「プリテンショナパイプ2の中心軸方向先端側で回転可能に設けられ,回転方向一側に回転されて前記スプールを巻取方向へ回転させるリングギア6」が理解できる。
・段落【0057】の「駆動チェーンの10の前方ユニット」の「凹壁12」に関する記載と図5の図示内容を踏まえると,
「駆動チェーン10の前方チェーン5に設けられ,駆駆動チェーン10の前方ユニット5の中心軸直交方向のリングギア6側の凹壁12よりも前記リングギア6とは反対側の凹壁12の少なくとも一部分が駆動チェ-ン10の中心軸方向先端側へ延び」ることが理解できる。
そうすると,引用例1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「リングギア及びスプールを回転させることによってシーベルト装置のウェビングを巻き取らせるリングギア6が設けられたスプールと(段落【0003】,【0049】,【0056】参照),
衝突時にシートベルト装置が拘束動作を行う必要がある場合,ガスが後方ユニットとプリテンショナパイプ2の内壁の間から漏れないように保証するプリテンショナパイプ2と(段落【0002】,【0003】,【0055】参照),
前記プリテンショナパイプ2の中心軸方向先端側で回転可能に設けられ,回転方向一側に回転されて前記スプールを巻取方向へ回転させるリングギア6と(段落【0049】,【0056】,図1,図2,図7を参照),
前記プリテンショナパイプ2内に設置され,ガス発生器3が爆発してガスを発生させた際,前記後方ユニットを押動させ,さらに駆動チェーン10全体を押動させてプリテンショナパイプ2内でパイプ口に向かって移動させる駆動チェーン10と(段落【0055】参照),
駆動チェーン10の前方ユニット5に設けられ,駆動チェーン10の前方ユニット5の中心軸直交方向のリングギア6側の凹壁12よりも前記リングギア6とは反対側の凹壁12の少なくとも一部分が駆動チェ-ン10の中心軸方向先端側へ延び(段落【0057】,図5を参照),前記前方ユニット5において,凹溝部5-3と相対する一端には作動部5-1が設けられ,該作動部5-1はくさび形または単辺くさび形を呈しており,前方ユニット5がリングギア歯4と衝突する際,リングギア歯4がくさび形面形状に従って摺動できるようにし,ギアの外歯位置が不確定な場合に,歯と歯の間の隙間に有効に切り込むのを保証し,ギアと噛合するのを保証し(段落【0051】参照),リングギア歯4が前方ユニット5の内凹構造11に入る際,かつ凹壁12の嵌合面がリングギア歯4の歯面とちょうど互いに嵌合する際,前方ユニット5はリングギア6を押動させて静止から回転を開始させる,凹壁12の嵌合面と(段落【0057】参照),
を備えるシートベルト装置のウェビングを巻き取る装置(段落【0003】,【0049】,【0056】参照)。」
(イ)引用例2
引用例2には,以下の記載がある(下線部は,当審で付与した。)。
・「【0008】
発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり,ロック機構及びプリテンショナを備えつつ小型化可能なシートベルトリトラクタ及びシートベルト装置を提供することを目的とする。」
・「【0026】
マイクロガスジェネレータ52cは,例えば,ビークルセンサ7や車体に搭載された加速度センサからの検出信号に反応してプリテンショナパイプ52bにガスを噴出するように構成されている。ピストン52dは,ロッド52aとプリテンショナパイプ52bの周面との隙間をシールするとともに受圧面を形成する部品である。
【0027】
図2(A)に示したように,通常時は,ロッド52aの剛性により,プリテンショナパイプ52b内にロッド52aが収容された状態が維持される。そして,マイクロガスジェネレータ52cからガスが発生されると,ピストン52dに圧力が加えられ,ピストン52dはロッド52aを押し出しながらプリテンショナパイプ52b内を移動する。
【0028】
図3(A)に示したように,ロッド52aは,ピストン52dの押出力により塑性変形しながらプリテンショナパイプ52b内を移動し,先端から放出される。このとき,ロッド52aは,回転体51の係合歯51aと塑性変形しながら係合し,係合歯51aを図中の矢印方向に回転させる。」
・図1~図3には,以下の内容が示されている。
図1
図2
図3
図1からみて,マイクロガスジェネレータ52cによりプリテンショナパイプ52bの中心軸線方向基端部からプリテンショナパイプ52bの内側へガスが供給されることは明らかである。
図3(A)からみて,ロッド52aの移動方向の側面が回転体51の係合歯51aと塑性変形しながら係合していることが明らかである。
そうすると,引用例2には,以下の事項(以下,「引用例2に記載された事項」という。)が記載されているといえる。
「ビークルセンサ7や車体に搭載された加速度センサからの検出信号に反応してマイクロガスジェネレータ52cによりプリテンショナパイプ52bの中心軸線方向基端部からプリテンショナパイプ52bの内側へガスが供給される,プリテンショナを備えたシートベルトリトラクタであって,
マイクロガスジェネレータ52cからガスが発生されると,ピストン52dに圧力が加えられ,ピストン52dはロッド52aを押し出しながらプリテンショナパイプ52b内を移動し,ロッド52aは,ピストン52dの押出力により塑性変形しながらプリテンショナパイプ52b内を移動し,先端から放出され,ロッド52aは,ロッド52aの移動方向の側面が回転体51の係合歯51aと塑性変形しながら係合し,係合歯51aを回転させる,プリテンショナを備えたシートベルトリトラクタ。」
イ.本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比すると,後者の「スプール」は前者の「スプール」に相当し,以下同様に,「衝突時にシートベルト装置が拘束動作を行う必要がある場合」は「車両緊急時」に,「ガス」は「流体」に,「プリテンショナパイプ2」は「筒状部材」に,「リングギア6」は「回転部材」に,「プリテンショナパイプ2内」は「筒状部材の内側」に,「凹壁12」及び「凹壁12の嵌合面」は「係合部」に,「嵌合」は「係合」に,「駆動チェーン10」は「移動部材」に,「シートベルト装置のウェビングを巻き取る装置」は「ウェビング巻取装置」に,それぞれ相当する。
後者の「リングギア及びスプールを回転させることによってシーベルト装置のウェビングを巻き取らせるリングギア6が設けられたスプール」はウェビングを巻き取らせるためには,スプールが巻取方向へ回転されることは明らかであるから,前者の「巻取方向へ回転されることによってシートベルト装置のウェビングが巻取られるスプール」に相当する。
後者の「衝突時にシートベルト装置が拘束動作を行う必要がある場合,ガスが後方ユニットとプリテンショナパイプ2の内壁の間から漏れないようにするプリテンショナパイプ2」と前者の「車両緊急時に中心軸線方向基端部から内側へ流体が供給される筒状部材」とは,「車両緊急時に内側へ流体が供給される筒状部材」において共通する。
後者の「前記プリテンショナパイプ2の中心軸方向先端側で回転可能に設けられ,回転方向一側に回転されて前記スプールを巻取方向へ回転させるリングギア6」は前者の「前記筒状部材の中心軸線方向先端側で回転可能に設けられ,回転方向一側へ回転されて前記スプールを巻取方向へ回転させる回転部材」に相当する。
後者の「プリテンショナパイプ2」は「ガスが後方ユニットとプリテンショナパイプ2の内壁の間から漏れないようにする」ものであるから,後者の「前記プリテンショナパイプ2内に配置され,ガス発生器3が爆発してガスを発生させた際,前記後方ユニットを押動させ,さらに駆動チェーン10全体を押動させてプリテンショナパイプ2内でパイプ口に向かって移動させる駆動チェーン10」は前者の「前記筒状部材の内側に配置され,前記筒状部材に供給される前記流体の圧力で移動される移動部材」に相当する。
駆動チェーン10の中心軸方向先端側への移動により,「前方ユニット5がリングギア歯4と衝突する」ことは明らかであるから,後者の「駆動チェーン10の前方ユニット5に設けられ,駆動チェーン10の前方ユニット5の中心軸直交方向のリングギア6側の凹壁12よりも前記リングギア6とは反対側の凹壁12の少なくとも一部分が駆動チェ-ン10の中心軸方向先端側へ延び,前記前方ユニット5において,凹溝部5-3と相対する一端には作動部5-1が設けられ,該作動部5-1はくさび形または単辺くさび形を呈しており,前方ユニット5がリングギア歯4と衝突する際,リングギア歯4がくさび形面形状に従って摺動できるようにし,ギアの外歯位置が不確定な場合に,歯と歯の間の隙間に有効に切り込むのを保証し,ギアと噛合するのを保証し,リングギア歯4が前方ユニット5の内凹構造11に入る際,かつ凹壁12の嵌合面がリングギア歯4の歯面とちょうど互いに嵌合する際,前方ユニット5はリングギア6を押動させて静止から回転を開始させる,凹壁12の嵌合面」と,前者の「前記移動部材の中心軸方向先端部に形成され,前記移動部材の中心軸からみて前記回転部材の回転中心へ向けて直交する方向である中心軸直交方向の側の部分よりも前記中心軸直交方向とは反対側の部分が前記移動部材の中心軸方向先端側へ延び,前記移動部材の中心軸方向先端側への移動により前記移動部材において前記回転部材へ最初に係合されて前記回転部材を押圧し,前記回転部材を回転方向一側へ回転させる係合部」とは,「前記移動部材に形成され,前記移動部材の中心軸からみて前記回転部材の回転中心へ向けて直交する方向である中心軸直交方向の側の部分よりも前記中心軸直交方向とは反対側の部分が前記移動部材の中心軸方向先端側へ延び,前記移動部材の中心軸方向先端側への移動により前記移動部材において前記回転部材へ係合されて前記回転部材を押圧し,前記回転部材を回転方向一側へ回転させる係合部」において共通する。
そうすると,両者は,
「巻取方向へ回転されることによってシートベルト装置のウェビングが巻取られるスプールと,
車両緊急時に内側へ流体が供給される筒状部材と,
前記筒状部材の中心軸線方向先端側で回転可能に設けられ,回転方向一側へ回転されて前記スプールを巻取方向へ回転させる回転部材と,
前記筒状部材の内側に配置され,前記筒状部材に供給される前記流体の圧力で移動される移動部材と,
前記移動部材に形成され,前記移動部材の中心軸からみて前記回転部材の回転中心へ向けて直交する方向である中心軸直交方向の側の部分よりも前記中心軸直交方向とは反対側の部分が前記移動部材の中心軸方向先端側へ延び,前記移動部材の中心軸方向先端側への移動により前記移動部材において前記回転部材へ係合されて前記回転部材を押圧し,前記回転部材を回転方向一側へ回転させる係合部と,
を備えるウェビング巻取装置。」の点で一致し,以下の点で相違する。
<相違点1>
車両緊急時に内側へ流体が供給される筒状部材に関して,本件発明1では,「中心軸線方向基端部から」内側へ流体が供給されるのに対して,引用発明では,そのような特定はなされていない点。
<相違点2>
前記移動部材に形成され,前記移動部材の中心軸からみて前記回転部材の回転中心へ向けて直交する方向である中心軸直交方向の側の部分よりも前記中心軸直交方向とは反対側の部分が前記移動部材の中心軸方向先端側へ延び,前記移動部材の中心軸方向先端側への移動により前記移動部材において前記回転部材へ係合されて前記回転部材を押圧し,前記回転部材を回転方向一側へ回転させる係合部に関して,本件発明1では,係合部が,前記移動部材「の中心軸先端部」に形成され,前記移動部材の中心軸方向先端側への移動により前記移動部材において前記回転部材へ「最初に」係合されているのに対して,引用発明では,「凹壁12の嵌合面」は駆動チェーン10(移動部材)の前方ユニット5に設けられているものの,それ以上の特定はなされていない点。
<相違点についての判断>
事案に鑑み,相違点2について先に検討する。
引用発明は,「前記前方ユニット5において,凹溝部5-3と相対する一端には作動部5-1が設けられ,該作動部5-1はくさび形または単辺くさび形を呈しており,前方ユニット5がリングギア歯4と衝突する際,リングギア歯4がくさび形面形状に従って摺動できるようにし,ギアの外歯位置が不確定な場合に,歯と歯の間の隙間に有効に切り込むのを保証し,ギアと噛合するのを保証し」ており,前方ユニット5がリングギア歯4に衝突する際に作動部5-1のくさび形面形状に従って摺動できるようにしているから,図5の図示内容を踏まえると,駆動チェーン10(移動部材)の前方ユニットの中心軸先端部に形成された作動部5-1がリングギア6(回転部剤)のリングギア歯4に最初に摺動するものの,摺動の動作は,リングギア6(回転部材)を押圧し,回転させるものではなく,また,「凹壁12の嵌合面」は駆動チェーン10(移動部材)の前方ユニット5に設けられているものの,中心軸方向先端部に設けられてはおらず,リングギア6(回転部材)に嵌合(係合)するものの,最初に係合するものではない。
本件発明1と引用例2に記載された事項とを対比すると,後者の「ビークルセンサ7や車体に搭載された加速度センサからの検出信号に反応」する時期は,前者の「車両緊急時」に相当し,以下同様に,「プリテンショナパイプ52b」は「筒状部材」に,「ガス」は「流体」に,「シートベルトリトラクタ」は「ウェビング巻取装置」に,「回転体51」は「回転部材」に,「ロッド52a」は「移動部材」に,「移動方向の側面」の部材は「係合部」に,それぞれ相当する。
これらの相当関係を踏まえ,本件発明1の用語に倣うと,引用例2には,以下の事項が開示されている。
「車両緊急時に中心軸線方向基端部から内側へ流体が供給される筒状部材を備えた,プリテンショナを備えたウェビング巻き取り装置において,
マイクロガスジェネレータ52cから流体が発生されると,ピストン52dに圧力が加えられ,ピストン52dは移動部材を押し出しながら筒状部材内を移動し,移動部材は,ピストン52dの押出力により塑性変形しながら筒状部材内を移動し,先端から放出され,移動部材は,移動部材の移動方向の側面が回転部材の係合歯51aと塑性変形しながら係合し,回転部材を回転させる,プリテンショナを備えたウェビング巻取装置。」
そして,引用例2に開示された事項は,相違点2に係る本件発明1の発明特定事項の前提となる「前記移動部材の中心軸方向先端部に形成され,前記移動部材の中心軸からみて前記回転部材の回転中心へ向けて直交する方向である中心軸直交方向の側の部分よりも前記中心軸直交方向とは反対側の部分が前記移動部材の中心軸方向先端側へ延び」る「係合部」ではない上に,「先端から放出され,移動部材は,移動部材の移動方向の側面が回転部材の係合歯51aと塑性変形しながら係合し,回転部材を回転させる」「係合部」は,「塑性変形しながら係合」するから「最初に係合する」とは直ちには言えないが,仮に「前記移動部材の中心軸方向先端側への移動により前記移動部材において前記回転部材へ最初に係合されて前記回転部材を押圧し,前記回転部材を回転方向一側へ回転させる係合部」であるとしても,「移動部材の移動方向の側面」の「回転部材」との「係合部」は,移動部材「の中心軸方向先端部」に形成された「係合部」ではないから,引用発明に引用文献2に記載された事項を適用しても,上記相違点2に係る本件発明1の「係合部」を特定する発明特定事項に至るものではない。
そして,本件発明1は,願書に添付された明細書の段落【0022】の「本発明に係るウェビング巻取装置では,移動部材の係合部からの回転部材における移動部材の係合部との係合部分までの距離が大きくなることを抑制できる。」という格別の作用効果を奏するものである。
そうすると,引用発明及び引用例2に開示された事項に基いて,上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得るものではない。
したがって,相違点1について検討するまでもなく,本件発明1は,引用発明及び引用例2に開示された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.本件発明2~8について
本件発明2~8は,本件発明1の発明特定事項をすべて含み,さらに限定して発明を特定するものであるから,本件発明1と同じ理由により,引用発明及び引用例2に開示された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)特許異議申立人の意見について
ア.令和2年5月25日付け意見書において,特許異議申立人は,「訂正請求項1の『前記移動部材の中心軸からみて前記回転部材の回転中心へ向けて直交する方向である中心軸直交方向の側の部分』の記載で特定される構成」及び「訂正請求項1の『中心軸直交方向の側の部分よりも前記中心軸直交方向とは反対側の部分が前記移動部材の中心軸方向先端側へ延び』の記載で特定される構成が明確でない。」旨主張(2ページ3~5行,2ページ13~15行)し,「すなわち,『反対側部分』が『中心軸直交方向の側の部分』に対して,どの位置においても『中心軸直交方向の側の部分』よりも中心軸方向先端側へ延びているのか,それとも,『反対側の部分』の少なくとも一部が『中心軸直交方向の側の部分』よりも中心軸直交方向先端側に延びているのか,外延が明確でない」旨主張する(2ページ24~28行)。
しかしながら,上記2.(1)ア.(エ)において上述したように,「前記中心軸直交方向とは反対側の部分が」「前記移動部材の中心軸からみて前記回転部材の回転中心へ向けて直交する方向である中心軸直交方向の側の部分よりも」「前記移動部材の中心軸方向先端側へ延び」るという限りにおいて技術思想は明確である。
したがって,特許異議申立人の上記主張は,採用することができない。
イ.同意見書において特許異議申立人は,引用例1の「前方ユニット5は全体として,回転部材に最初に係合されて回転部分を押圧し,回転部分を回転させるもの,すなわち『係合部』と認められる。」(4ページ9~11行),「引用例1には,『係合面』である『作動部5-1のくさび係面形状及び凹壁12の嵌合面のすべてを含む面』が回転部材に最初に係合される構成が開示されていることとなる。」(4ページ下から4行~下から2行)旨主張する。
しかしながら,上記2.(2)イ<相違点についての判断>で上述したように,「図5の図示内容を踏まえると,駆動チェーン10(移動部材)の前方ユニットの中心軸先端部に形成された作動部5-1がリングギア6(回転部材)のリングギア歯4に最初に摺動するものの,リングギア6(回転部材)を押圧し,回転させるものではなく,また,「凹壁12の嵌合面」は駆動チェーン10(移動部材)の前方ユニット5に設けられているものの,中心軸方向先端部に設けられてはおらず,リングギア6(回転部材)に嵌合(係合)するものの,最初に係合するものではない」から,特許異議申立人の主張する「作動部5-1のくさび係面形状及び凹壁12の嵌合面」を合わせて一つの係合部として移動部材の中心軸先端部に設けられているとすることは採用できない。
ウ.同意見書において特許異議申立人は,構成要件1E「前記移動部材の中心軸方向先端側への移動により前記移動部材において前記回転部材へ最初に係合されて前記回転部材を押圧し,前記回転部材を回転方向一側へ回転させる係合部」の記載は,「流体の圧力」以外の手段により移動手段が移動する場合を含むものだから,実質的に訂正前の特許請求の範囲を拡張又は変更するものであり,訂正要件違反である旨主張する(6ページ2~19行)
。
しかしながら,本件発明1は前提として「前記筒状部材の内側に配置され,前記筒状部材に供給される前記流体の圧力で移動される移動部材」と特定していることから,流体の圧力以外で移動することは想定されないから,特許異議申立人の上記主張は採用することはできない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は,請求項1乃至4,7,8に係る発明についての理由1(特許法第29条第1項第3号)と,請求項5,6に係る発明について理由2(特許法第29条第2項)である。
ここで,理由1,理由2においても,引用例としては,基本的に甲第1号証のみであり,すでに検討済みであって,訂正後の本件発明1については,上述したように甲第1号証とは,相違点1,2で実質的に相違するから,本件発明1乃至4,7,8について新規性がある。
本件発明5,6についても,上述したように,引用発明及び引用例2に開示された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
さらに,特許異議申立人の提出した甲第2号証乃至甲第6号証を検討しても,上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は,記載されていない。
そうすると,本件発明1~8は,引用発明及び甲第2号証乃至甲第6号証の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また,特許異議申立人は,訂正前の請求項1に関して,仮に,甲第1号証との相違点があるとしても,甲第2号証乃至甲第6号証に示されるように「移動部材の先端を様々な形状に設計することは周知技術である。特に甲2の図2には,移動部材24の先端が,移動部材24の中心軸直交方向の回転部材側22の側の部分よりも回転部材22とは最も反対側の端部が中心軸方向先端側に延びた係合部を規定していることが看取できる。したがって,甲1においてこれらの周知技術を適用することにより当業者であれば本件発明1に容易に想到できたものである。」旨主張する(特許異議申立書23ページ19行~下から4行参照。)。
しかしながら,上述のとおり,本件発明1~8は,引用発明及び甲第2号証乃至甲第6号証の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,特許異議申立人のかかる主張は,採用することができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件発明1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件発明1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2019-700856